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    アンバードール第8話・ハツホ

    1.
    『ハツホ、大ヒット!』
    『クローンドールで初! 本年度アンバードール・アワード受賞!!』
    『発売元ショップ、ハツホのシリーズ化を発表』
    『ハツホの推定市場価格、一体2億円突破か?!』
    『美少女ハツホの謎に迫る!!』

    PCのディスプレイに写る記事は、ハツホで埋まっていた。
    謎の美少女ハツホ? 私はここにいるわよ。
    私は微笑みながら「クローズ、サスペンド」とマイクに向って告げた。
    パソコンの音声認識機能が私のコマンドを理解し、ディスプレイが暗くなって消えた。

    ハツホは『乙女椿』というアンバードールショップから発売されているクローン・アンバードールだ。
    すべて17才に統一されていて、この2年の間に24体が販売された。
    同じ女性のDNAを使って製作した商業用のクローンドールとしては最大級という。

    クローンドールは元になるDNA細胞核さえあれば何体でも作れるから、誰かが粗製乱造すると暴落を招きアンバードール全体の信用を損なう。
    だから業界の自主規制で、同じDNAのクローンドールは年間12体しか売らないと決まっている。
    もっともクローンにこれほどの人気が出ることは珍しいから、ハツホはその上限に達した数少ないクローンドールといえる。

    2.
    クローンドールはアンバードールとは認められない、という人がいる。
    実際、アンバードールが究極の美術品と呼ばれるのは、そのリアルな美しさだけが理由ではない。
    それは実際に人間として生きた少女の身体を縮小して作られたものだからだ。
    私たちはアンバードールを見るとき、そこに使われた少女の人生に想いをやる。
    人の子として生まれ、祝福を受けて美しく育ち、十数年の時間を生きた少女たち。
    その重みは、同じ人間の肉体とはいえタンクの中でわずか2年ほどで促成培養されたクローンが敵うものではない。

    でも私は、クローンだって捨てたものじゃないと思っている。
    同じ女の子をいろいろな姿のドールにできるのはクローンだけだ。
    衣装だって、表情だって、様々に楽しむことができる。
    そう考えるのは私がハツホのDNAドナー、つまりオリジナルの女性だからかもしれない。

    世の中に24体作られたハツホたち。
    どの子も、愛され、大事にされている。
    持ち主はそれぞれ自分のハツホに自由なストーリーを当てはめて夢を見ているのだ。

    私には分かる。
    最初の年に作られたハツホの一人。その子は某アニメの高校の制服姿でフルートを手にしている。
    彼女を買ったのは、若い頃、吹奏楽をやっていた中年の未亡人だ。
    毎晩ハツホを眺めては、自分の高校時代を思い出している。
    吹奏楽部の思い出。亡くなったご主人は同じクラブの同級生だった。
    透明なクリスタルの中に浮かぶハツホに、自分の過去を写している。

    私には分かる。
    最初の年に作られた別のハツホ。その子は浴衣を着て手に団扇を持っている。
    買ったのは、某大企業の社長だ。
    奥様の若い頃の姿に似ているという。
    書斎に飾ったハツホをあまりに溺愛するので、最初は怒っていた奥様も本物の女の子に浮気されるよりはと許し、今ではリビングに置いて二人で楽しんでいる。

    他のハツホたちについても、少し想いをやるだけで、私には見ることができた。
    彼女たちの姿、置かれている場所、持ち主の姿や生活。ハツホに見えるものすべてを知ることができた。
    それだけではない。
    主人から愛される喜び、見つめられる気恥ずかしさ。ハツホ自身の気持ちを感じることもできるのだ。
    どうしてドールに感情があるのか?
    私が勝手に妄想しているだけなのか。
    それとも彼女たちのオリジナルである私に特別な力が働いているのか。
    理由は分からないけれど、ハツホは確かに人間の女の子と同じ感情を持っていて、私にはそれが分かるのだった。

    3.
    椿瑠衣子(つばきるいこ)さんがやってきた。
    この人はドールショップ『乙女椿』の社長で、私を見出しクローンドールを売り出した人だ。

    「こんにちは。そろそろいらっしゃると思ってましたわ」私は笑って椿さんを迎えた。
    「お元気そうですね。初穂さん」
    「元気よ。元気すぎて病気知らずだわ」

    私は短い右腕を振って見せた。
    私、榎本初穂の両手は肘から先がない。腰から下には両足もない。
    幼い頃の事故で失ったのだ。いわゆるダルマという状態。
    ベッドの上か車椅子の上だけが私の居場所だ。

    「ご用件は、3年目の販売分の契約ね?」
    「はい。もう再来年分まで予約が入っていますわ」
    「儲かってるのね」
    「初穂さんのおかげです」

    私は、椿さんが持っていた許諾書類にパソコンで電子署名をする。

    「どうせ細胞核の冷凍ストックはたくさんあるんでしょ? 律儀に毎年来なくても自動更新の契約にしてもらって構いませんのよ」
    「それはそうですけど、年に一度くらいは初穂さんにお会いしたいですから」
    「光栄だわ」
    私は笑って応えた。

    椿さんと初めて会ったのは、もう4年も昔のことだった。
    ある日突然やってきて、私をアンバードールに使わせて欲しいと頼んだのだ。
    ・・アンバードール?!
    思いもしない依頼だった。

    「私、人生に未練なんてないけれど、こんな身体よ? それにもう若くありませんわ」
    アンバードールに献体できるのは14才から19才の女性。
    厳密に法律で決まっていることだ。

    「はい。榎本さんご自身はドールにはなれません。でも、貴女のクローンドールは作れるんです」
    椿さんは真面目な顔でそう答えたのだった。

    4.
    椿さんは、どこで見つけたのか、私の昔の写真を見て私に惚れこんだと言った。
    それは何と私が幼稚園のときの写真だった。
    「こんなに目鼻立ちのくっきりした女の子なら、大人になったらきっと美人のはずだと思いまして」
    「でも、私は」
    「そのお身体は先天性の障害ではありませんでしょ?」

    確かに、私が手足を失くしたのは小学1年のときだった。

    「榎本さんのDNAには、五体満足な身体が組み込まれているんですよ」

    椿さんは、いろいろなアンバードールの写真を見せてくれた。
    どれもキュートでセクシーだった。
    ずっとダルマ女だった私が、こんなに綺麗なドールになれるの?
    私の中で忘れかけていた "女" が蘇ってきた。

    「販売にあたって、ドナーである榎本さんの個人情報はいっさい公開されません」
    「・・」
    「もちろん、報酬の方も所定の肖像権料と売り上げに応じたパーセント分をお支払いしますわ」
    「・・」
    「費用はすべて弊社で負担しますから、まず1体製作してみませんか?」

    私は椿さんを信用することにした。
    報酬の話も魅力的だった。
    今は世話してくれる身内がいるけれど、いずれ一人きりになったときに蓄えは必要だ。

    5.
    体細胞の採取から2年かけて、1体目のクローンドールができあがった。
    椿さんが箱から出したドールを見て私は歓声を上げた。

    高さ30センチほどの透明なクリスタルのキューブの中に17才の少女が浮かんでいた。
    白いドレス。長く伸ばした髪。その顔は、まごうことなき私自身だった。
    絶対に着れないと思っていた肩出しドレスから出た細い腕。
    そして超ミニのスカートからすっと伸びた足。
    ああ、 私の手足。こんなに長かったのか。

    ・・はじめまして!

    少女が挨拶してくれたような気がした。
    私自身と同じ声だった。
    とても明るくて元気で、五体満足でいる喜びに溢れた声だった。

    私は涙を流していた。
    自分と同じなのに、自分と違うハツホがとても愛しく思えた。
    椿さんが彼女を私の前に差し出してくれた。
    私は丸太のような短い腕でハツホを抱きしめた。

    「このドールは、私どもから榎本さんへのプレゼントです。受け取って下さい」
    「あ、ありがとう」
    「きっと売れますわ。確信しています」

    椿さんの予想通り、クローンドール『ハツホ』はヒットした。
    最初に作った6体はすぐに売れた。、
    培養タンクに入っていた残りの身体で販売枠いっぱいまで製造し、それも売り切れた。
    翌年分の生産が決まった頃、目ざといマニアが騒ぎ出し、やがてハツホは世間の注目を集めるようになった。
    発売元にはハツホのオリジナルの女性について問い合わせが殺到したけれど、椿さんは約束通りすべて秘密で押し通した。
    週刊誌の表紙に『ハツホって誰?』という文字が踊った。
    オリジナルの正体を隠すクローンドールが業界の流行になり、『ハツミ』や『初子』といった似た名前のドールが他社から発売された。
    ネットにはハツホの二次創作の映像やフィギュアが溢れ、まるでハツホという美少女キャラクターが存在しているかのようだった。

    いつの間にか私は、誰もが知っているけれど、実際は誰も知らない有名人になっていた。

    6.
    4年目の契約更新時、椿さんは新しい企画の提案をした。

    「ヌードかセミヌードをやりませんか?」
    「まあ、セクシードール?!」
    「はい。お気に障られたら申し訳ありません」
    「とんでもない。私、自分のヌードを見たいわ」
    「初穂さんなら、そうおっしゃると思ってました」
    「うふふふ。ヘアヌードでもOKよ」

    ハツホは毎回売り切れ御礼とはいえ、いつまでも同じようなスタイルだといずれ飽きられるだろう。
    テレビや映画の女優じゃないけど、そろそろ脱いで見せるのは必然ね。

    この年、発表されたハツホのうち4体は、小さなショーツ一枚だけ着けてトップレスの胸を両手で隠したポーズになった。
    私は発表前の商品をわざわざ運んでもらって見ることができた。
    初穂は艶々の肌をしていて、匂い立つような色香に満ちていた。
    これが私なのか。
    とてもセクシーで素敵で、これは女性でも欲しがると思った。

    ・・あ、あんまり見つめないで。

    そのときハツホの声が聞こえた。少し震えているような声だった。
    私にはハツホが顔を赤らめているように見えた。
    分かるわ。恥ずかしいのね。
    きっと私だって同じ気持ちになる。

    ・・がんばんなさい。貴女、きっと今までのハツホ以上に愛してもらえるわ。

    私は心の中で彼女に話しかけた。
    彼女が頷いてくれたような気がした。

    7.
    こうして発表されたセクシーポーズのハツホには引き合いが殺到して、初めてオークションが開催された。
    4体ともクローンドールとしては記録的な価格で落札された。
    ハツホは再び世間の話題を集めた。

    ハツホを買い当てたお客の一人は、ITベンチャー企業の設立者でマスコミにもよく登場する30代の男性だった。
    彼はしばしば商談やパーティでハツホを披露し、その度に彼女は好色の目に晒された。
    ハツホが感じる羞恥は私にも伝わって、私も部屋で一人恥ずかしがった。
    それは初めて味わう心地よい恥ずかしさだった。

    別のお客は中年のご夫婦で、ハツホは寝室に飾られた。
    私にはセックスの経験はなかったから、ハツホの目を通して初めて男女の営みを知った。
    二人ともハツホの姿に刺激されていた。特に奥様の方が強く感じてご主人を喜ばせた。
    女の喜びとはこういうものかと思った。

    あるお客は、お金持ちが集まるアブノーマルなセックスパーティにハツホを持ち込んだ。
    縄で縛って吊るされた女の子。女装の男性。男同士や女同士のセックス。飲尿、食糞。不思議な世界をたくさん見た。
    ハツホはクリスタルの上から精液をかけられ、私は悲鳴を上げた。
    不思議と嫌悪感は感じなかった。

    8.
    「初穂さん、ハツホに似てきましたね」
    ある年の契約で椿さんに言われた。

    「当然でしょ。ハツホは私自身なんだから」
    「その逆ですよ。初穂さんの方がドールのハツホに近づいているみたい」
    「え」
    「初めてお会いしたときから綺麗でしたけど、今はずっと若々しくて色っぽくなられました」
    「あ、ありがとう」
    「もし初穂さんが17才だったら、本気でアンバードールに献体しませんかってお誘いしますよ」
    「うふふ。嬉しいわ」

    世に出たハツホの数はもう100体近くになり、クローンドールの定番ともいえる地位を築いていた。
    キュートで可愛いハツホ。セクシーで大人の雰囲気のハツホ。
    毎年の新製品は堅調に売れているし、まれに手放されて市場に出るハツホがあってもすぐに買い手がつく状況だった。

    私は変わらず全部のハツホと繋がっていた。
    彼女たちのいる世界をすべて自分のことのように経験するのだから、ハツホに似てくるのは当然のことかもしれない。
    今では普通の女性が経験するよりはるかに多くのことを知っている。
    私はハツホと共にいるのが楽しくてしかたなかった。
    これからも、もっと色々な世界を知りたいと思った。

    もしハツホを作らず寝たきりのダルマ女のままだったら、今ころはどうなっていたかしら。
    きっとよぼよぼの生きた屍のようになっていただろう。

    9.
    あるとき、有名女優の家に空き巣が入り、飾られていたヘアヌードのハツホが盗まれてニュースになった。
    清純派女優がヘアヌードのドールを持っていたことに世間の注目が集まった。
    幸い犯人はすぐに捕まって、ハツホは元に帰ることができた。

    さらにあるときは、海外のオークション会場から水着姿のハツホが持ち出される事件が起こった。
    犯人はハツホに恋焦がれた十代の少年で、捕まるまで10日間ハツホを持って逃げ回った。
    短い逃避行の間、私は少年に情が移ってこのまま逃げおおせて欲しいと思ったほどだった。

    ハツホたちの回りでは、いつもどこかで何かが起こっていた。
    もし私に文才があったら、小説にでもしたら売れたかもしれない。
    可愛らしくて色っぽいハツホ。私でない、私。

    私はいつもハツホと同化していて、現実の女性である榎本初穂であることの方が少なくなっていた。

    10.
    最初のハツホが作られて15年が過ぎた。
    ハツホは同じ女性から最も多く作られたクローンとしてギネスブックに載っていた。
    彼女は17才のままだったけど、私も椿さんも15年分の年齢を重ねた。

    椿さんがハツホ製造終了の申し入れとと社長退任の挨拶に来た。
    ベッドに寝ていた私はしばらく椿さんに気がつかなかった。

    「・・初穂さん、初穂さん?」
    「あら、椿さん?」
    「幸せそうですね」
    「ええ、私、いつもハツホたちと一緒よ」

    私はそう答えて笑った。
    椿さんも微笑んだままで、しばらく何も言わなかった。

    「あ」
    突然、私は小さな声を上げた。
    「どうしましたか?」
    「うふふ。何でもないですわ」

    ハツホの前で、一人の女の子が自慰をしていたのだ。
    まだ処女で彼氏もいない17才の高校生。
    クリスタルの中に浮かぶ同い年のハツホを見て何を感じているのかしら。
    とても可愛いわ、あなたのオナニー。
    見守ってあげるわね。あなたが幸せになるまで。

    11.
    椿さんと最後に会った次の年、私は天国に召された。
    死因は老衰。92才だった。
    ハツホのDNAドナー女性死亡の短い記事が新聞に載り、世間はあの大ヒット・クローンドールのオリジナルがお婆さんだったことに驚いたようだった。

    オリジナルの榎本初穂は世を去ったけれど、私は今も多くのハツホたちと共にいた。
    大事に扱えば千年以上も美しさを維持できるアンバードール。
    これからも神様が許して下さるかぎり、私はハツホと触れ合う人々を見守ろうと思う。
    深い感謝と愛情を込めて。



    ~登場人物紹介~
    榎本初穂: クローンドール・『ハツホ』のDNAドナーになった女性。幼い頃の事故で手足を切断している。
    椿瑠衣子:アンバードール専門店『乙女椿』の社長。ハツホを世に出した。

    シリーズ最高齢、いえ、私の作品で最高齢の主人公になりましたww。
    ドールショップの女社長さんは第2話に引き続いての登場です。
    大きなヤマなく淡々とした進行になりましたが、かえってこのシリーズの雰囲気に合っているとも思います。。

    さて、アンバードールシリーズはこれで最終回とします。
    第1話の掲載が2014年4月でしたから、1年と少しの連載でした。
    緊縛シーンが登場しない異色のシリーズとして、作者の萌えだけで走りきりました。
    読者の皆様には評判も薄かったようですが、作者と波長が同じで楽しんでいただけた方もきっと3人はいらっしゃると信じております。

    ありがとうございました。




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    No title

    このシリーズは評判薄かたんですかね?私は楽しめました。物事の由来や、過程などの話が好きなので、第5話が楽しめましたね。何はともあれ、アンバードールシリーズ完結お疲れ様です。また、新しいシリーズを始めるんですか?そろそろ管理人のイリュージョン物も読みたいですね。

    Re: No title

    ◎とうめいさん
    いつもコメントありがとうございます。
    設定に懲りまくったシリーズでした。
    一話一話の背景はかなり考えましたので、その辺り楽しんでいただけて嬉しく思います。
    イリュージョン物も確かにそろそろやりたいかも。
    その前に、新作アップの頻度をもう少し上げなければ。

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