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    人工人魚物語 ~楓~ (2/3)

    7.
    暖かい部屋に暖炉の火がぱちぱち燃えていた。
    一度に20人は並んで食事ができそうなテーブルに、火のついたローソクが並んでいる。
    あたしはその端っこの席に座って、素足をぶらぶらさせていた。
    お風呂から上がると着ていた学校の制服と下着は消えていて、代わりに白いキャミソールドレスが籠に入っていた。
    いっしょに置いてあったピンクのブラとショーツまであたしにぴったりのサイズだった。
    「似合いますよ」
    向かい側に座った紫紺さんがあたしを見て笑っている。
    あたしはどぎまぎしながら笑い返すのが精一杯。
    「あ、あの、・・すごく立派なお家ですね。お風呂も廊下もとっても広いし」
    「広いだけです。客間だけで18ほどありますが、無駄に多すぎて持て余しています」
    「18も? すごーいっ」
    「楓ちゃんには、神沼がよく見える部屋に泊まってもらいましょう」
    カミヌマ?
    それって、紫紺さんの苗字じゃ。
    「お待たせいたしました」
    桑原さんがワゴンに載せたお料理を運んできた。
    「彼は元々調理人なんですよ。年を取って小言は多いが料理は旨い」
    「ぼっちゃま。小言が多いは余計です」
    紫紺さんはにやっと笑ってあたしにウインクした。
    くすり。
    あたしも笑ってウインクをした。
    ・・
    「98年の白です。国産ですが」桑原さんがワインの瓶を捧げ持った。
    「飲めますよね? 楓ちゃん」神沼さんがそう言って微笑む。
    「あ、はいっ」
    目の前のグラスに琥珀色のワインが注がれた。
    「どうぞ」
    グラスを持って飲もうとすると、紫紺さんに止められた。
    「そうじゃありません。テイスティングするんですよ」
    「ていすてぃんぐ?」
    「こんな感じ」
    紫紺さんは自分のグラスを持って香りを確かめる仕草をして、それから少しだけ飲む振りをした。
    あ、テレビで見たことがある。
    あたしは紫紺さんのまねをしてワインをティスティングした。
    少し甘く、酸っぱくて、ふわっとした感じに包まれた。
    ・・
    お料理は、暖かいキノコのシチュー。鹿肉のソテー。山芋のオムレツ。くるみと栗を混ぜて焼いたパン。りんごが入ったサラダ。
    どれも美味しかった。
    鹿のお肉なんて初めて食べたけれど、柔らかくて臭みもなくて、とても食べ易かった。
    「すべてここの土地で採れたものですよ」
    「へぇ。いいところなんですね」
    そうは言っても、あたしはスーツケースで運ばれてきたから、景色なんて見ていない。
    それどころか、ここがどこかも知らないんだ。何のためにここへ来たのかも。
    ふと目を向けた遠くの壁に、大きな絵が掛けてあるのに気付いた。
    こちらへ背中を向け、岩の上に腰掛けた、裸の女の人の絵。
    その人の下半身は細長くなって銀色に光っていた。あれは、人魚。
    ・・思い出したっ。人魚のコスプレ!
    チャリン。
    その瞬間あたしの手からナイフとフォークが抜けて床に落ちた。
    「きゃ、ごめんなさいっ」
    椅子から降りて床に手を伸ばそうとすると、桑原さんがさっと拾ってくれた。
    「すみません・・、ひゃ!」
    あたしは後ろから抱き上げられた。
    「お客様はそういうことはしなくていいんですよ」
    紫紺さんが耳元でささやきながら、あたしを椅子に戻してくれた。

    8.
    「あたし、人魚のコスプレするんですよね?」
    食事が済んでから聞いた。
    「ええ、正しくはモデルです。私の絵の」
    絵のモデルですか?
    「紫紺さん、もしかして、絵を描く人だったんですか」
    「そうですよ。描くのは人魚だけですけどね」
    「じゃ、食堂に掛けてあった絵も」
    「お気づきでしたか。あれも私の作品です」
    「・・」
    「何ですか? その目は」
    「あ、いや、すごいなーって。あたし、自分じゃ絵なんて全然描けないし」
    「見ますか? 私の絵」
    「はい!」
    ・・
    紫紺さんに続いて、黒光りする木の階段を上がった。
    このお屋敷は何でも黒光りしている。
    築70年って言ってたけど、ずっと誰かが磨き続けないと、こんなに光らないんじゃないかな。
    「ようこそ、私のギャラリーへ」
    「うわぁ!」
    大きなドアを開けて入って、あたしは歓声を上げた。
    ・・
    スポットライトに照らされて、壁という壁に油絵や水彩画が描けてあった。
    全部人魚の絵だった。
    「綺麗~!」
    あたしは一枚一枚見て回った。
    水の中をゆっくり泳ぐ人魚。座ったり横たわったりしてポーズをとる人魚。
    どの人魚も滑らかな曲線で描かれていて、柔らかそうだった。
    ほとんどが裸で胸を見せていたけれど、その胸がまた綺麗だった。
    全体的に笑った顔の人魚は少なくて、たいてい物憂げな表情。
    「これ、ぜんぶモデルさんを使って描いたんですか」
    「そうですね。写真を撮って起こした絵もありますから、目の前のモデルを見て描いたとは限りませんが」
    「へぇ~」
    壁を回り込んだら、こんどはペン画になった。
    髪の毛一本一本まで書き込まれたような精緻なスケッチ。
    紫紺さんはモデルさんのすぐ近くで舐めるように観察して描いたんだろうか。
    人魚の美しさ、いやモデルさんの美しさが、際立つような気がした。
    溜息が出そうだった。
    あたしもこんな絵を描いてもらうのだろうか。
    急に不安になった。
    「あ、あの、紫紺さん。あたし、こんなに綺麗じゃないです。・・あたしなんかがモデルで大丈夫ですか?」
    「心配しないで。楓ちゃんは選ばれたのだから」
    「選ばれたってどうしてですか? どうしてあたしなんですか?」
    「それは最初にも言ったように、あなたが明るくて元気だから」
    「そんなことが理由なんですか?」
    「それ以外の理由も聞きたいですか?」
    「はい、聞きたいです」
    紫紺さんは、ふっ、と笑ったみたいだった。
    「・・それはね、あなたの、柔らかくて痣(あざ)一つないきめ細かい肌が、人魚として申し分ないから」
    「へ?」
    「突然いなくなってもすぐには心配されないし、どうやら被虐性も高いから」
    いったい何を言ってるんだろう?
    確かに、あたしは肌が綺麗なのが自慢で、友達に羨ましがられるけど。
    ヒギャクセーって何?
    「いいですか、楓ちゃん。とても大事なことだからよく聞いて下さい」
    紫紺さんは真面目な顔で言った。
    「・・はい」
    あたしは硬直したように動けなくなった。
    「ここでは私と桑原さんの指示に絶対に従って下さい」
    「はい」
    「どんなことがあっても、ね」
    あたしはただ首をこっくり振って頷いた。
    「じゃあ、今夜はもう遅いですから、ゆっくり休んで下さい」
    「はい」
    あたしは夢を見ているように、もう一度首をこっくり振った。

    9.
    寝室のダブルベッドはどしんと座るとふわふわ揺れた。
    今まで泊まったどんなホテルのベッドよりも柔らかだった。
    どんなホテル、っていっても、男の子かエンコーおやじと入ったホテルくらいしか知らないんだけどね。
    窓のレースのカーテンをめくって外を見た。
    外は、家一軒の明かりすら見えない暗闇だった。
    窓を開けようとしたけれど、木製の窓枠は固くて動かせなかった。
    部屋の中を見回す。
    テレビはなかった。あーあ、Bスタジオ見たかったのにな。
    ハンガーにあたしの着てきた制服が掛かっていた。そしてその下に鞄があった。
    そうだ、スマホ!
    鞄を開けるとちゃんとスマホが入っていた。
    あれ、圏外? 窓際に行っても通じない。SNSが開けないよ。
    仕方ない。
    あたしはオフラインで友達にメールを入力した。電波が通じたときに送信されるだろう。
    『やっほー。
    今ものすごい美青年のお兄さんと一緒なのだ~。
    スーツケースに入れられてラチされたのだよ!
    学校しばらく出ないけど心配しないで』


    [インターミッション]
    灯りが点いた。
    暗かったガラスの向こうが緋色の世界に変わった。
    紫紺さま! 彼女は水中で微笑んで歓迎の意を表する。
    前に会ってから1週間以上も過ぎていたけれど、そんなことはどうでもよかった。
    ここでは時間の経過は分からないし、彼女には永遠の時間が保証されている。
    「寂しかったかい? まゆ」
    その人は脚立に上がり、水槽の蓋を開錠して水面を覗き込んだ。
    まゆは水中から手を伸ばしてその肩にすがりつく。
    互いに抱き合い、唇を合わせた。
    ああっ。紫紺さま。
    キスしていただくだけでこんなにエクスタシーを感じるなんて。
    乳房の先端がたちまち固くなって、尖った。
    人間だった頃はこんなに大きな胸でなかったし、乳首も敏感ではなかった。
    今は自分の性感がすぐに紫紺さまに分かってしまう。
    「気持ちいいかい?」「・・はい」
    紫紺は彼女を後ろから抱くと、巨大な乳房を両手でゆっくり揉みしだいた。
    「あぁっ、・・あんっ」
    「いい声で鳴くねぇ」
    「はあぁぁ・・ん!!」
    「縛ってあげようか」
    「あぁ、・・紫紺さま。・・ど、どうぞ、まゆを存分に苦しめてくださいませ」
    ・・
    水槽の中で後ろ手に縛られた人魚がもがいている。
    その息遣いや喘ぎ声は外には聞こえてこないから、まるで音声をミュートした動画でも見ているようだ。
    捻り上げられた手首は、背中の高い位置で固定されてほとんど動かすこともできない。
    ぽこ、ぽこぽこ。
    身を捩じらせて頭を振るたびに、口元から泡がこぼれて浮き上がる。
    小柄な体のどこにそんな空気を蓄えているのだろうか。
    水槽の前では、グラスを手にした紫紺が安楽椅子にゆったりとくつろいでいた。
    「ふ・・。苦しめてくれ、などとよく言う」
    彼女は、呼吸困難で苦しんでいるのではなかった。そもそも人魚に空気を呼吸する必要はない。
    縄の痛みに苦しんでいるのでもなかった。紫紺の縄は女体の自由を奪うだけで、痛みはほとんど与えない。
    彼女は被虐の興奮にもだえているのだ。
    自分でもどうしようもない切なさが、彼女自身を制御不能にしているのだ。
    自分はいつからこんな女になったのか。それとも紫紺さまが自分の精神まで作り変えてしまったのか。
    せめて、本当の痛みを与えて下さったら。この腕の一本でも切断して下さったら。
    それなら、心の痛みに体の痛みが勝るだろう。ただ泣き叫ぶだけで済むだろうに。
    でも、紫紺さまはそんな痛みは決して与えて下さらない。
    官能の嵐に吹き飛ばされそうになる自分を眺めて、ただ楽しまれるだけなのだ。
    ・・
    まゆは、紫紺の手によって人にあらざる姿に変えられた、元・屋敷の使用人だった。
    人工人魚の製作。
    まず、女性の下半身を切断し、代わりに巨大な魚体を接合する。これが加工の工程。
    最初は拒絶し抵抗するが、ほどなく主人の世話を受け入れ、愛情を求めるようになる。これが調教の工程。
    こうして育てた人工人魚は通常、世界中の好事家に向けて出荷される。
    しかし紫紺はまゆを売ることなく、保有する数体の人魚のひとつとして手元に置いている。
    小さな水槽の中に、紫紺自身を楽しませるため飼い続けている。
    ・・
    「そうそう、今夜新しい『素材』が届いたよ」
    紫紺がのんびりと言った。
    「なかなか面白い子だから少し遊んでみようと思う。・・君の仲間になるのは、もう何日か先、だ」
    あ、あああっ。
    まゆが水中で叫び、その声がガラス越しに初めて聞こえてきたようだった。



    10.
    朝、ベッドから起きて外を見て、あたしは驚いた。
    窓の外は一面の湖だった。
    ただ、霧がかかっていて100メートル先も見通せなかった。
    紫紺さんの言ってた神沼って、これのこと?
    コンコン。
    呆然と景色を見ているとドアをノックする音がした。
    わ。
    慌てて身を隠すバスタオルか何かを探す。あたしはブラとパンツだけの下着姿だった。
    また紫紺さんに見られたら!
    ドアが開いて、知らない女の人が入ってきた。
    水色の地味なメイド服を着て、眼鏡をかけている。
    「お早うございます。お客様。朝食の用意ができておりますので、食堂へどうぞ」
    「・・あ、はい」
    その女の人はそれ以上は何も喋らず、黙ってつかつかと窓際のゴミ箱に歩み寄り中身を手に持ったポリ袋に移すと、すぐに出て行ってしまった。
    誰よ、あの人。
    あたしは、しばらくぽかんとして、それから慌てて昨夜のキャミソールを着た。
    ・・
    「ここは山の中ですから携帯は通じません。・・神沼の霧はお昼までには晴れますよ」
    食堂で紫紺さんが教えてくれた。
    そうか、スマホはつかえないのか。
    「それから、その女性は竹井美佐江さんといって、昼間だけ来て家の世話をしてくれてます。私や桑原さんに頼みにくいことがあれば、美佐江さんに言って下さい」
    「わかりました」
    「食事が済んだら、まず撮影をします。絵のモデルはその後。いいですね」
    「はいっ」
    人魚のモデルは約束だから、頑張らないとね!
    あたしは急いで朝食の残りを口に運んだ。
    その食事は、ゆるいオートミールのようで美味しいけどちょっと物足りなかった。

    11.
    客間のひとつを改装したスタジオで、あたしの撮影が始まった。
    あたしは人魚のコスチュームをつけて、カーペットの上に横たわっている。
    胸にはストラップレスのブラ。
    下半身は弾力のあるゴムのような素材で、あたしの両足をしっかりホールドしていた。
    特に膝と足首がぎゅっと締まって、動かせないのが心地いい。
    紫紺さんは三脚に乗せたカメラを覗き込んでいる。
    ピ、カシャ、カシャ。・・シャッター音が続く。
    後ろにはブルーの幕が掛かっていて、撮影した写真にいろんな背景を合成して絵を描く資料にするそうだ。
    何十枚か撮っては、カメラとライトの位置を替えて、また撮影。
    全部、紫紺さんが一人でするから大変だ。
    ピ、カシャ、カシャ。
    「・・次はこの台に座りましょう」
    「はい」
    あたしが自分で這って行こうとすると、紫紺さんがさっとあたしを抱いて運んでくれた。
    「すみません」「気にしないで」
    台に乗って、またポーズ。
    「楓ちゃん。その、よろしければですが、ブラを取ってもらえますか」
    「・・はいっ」
    紫紺さんのギャラリーで見てから覚悟してた。
    人魚なんだから、ブラなんかない方が自然だ。
    あたしは自分でブラを外して紫紺さんに渡した。
    「はい、さっきのポーズで、笑って・・」
    ピ、カシャ。
    紫紺さん。あたしのおっぱい、綺麗に撮って下さいね。
    カシャ、カシャ、カシャ。
    上は裸。下はお魚、自分じゃ動けない。
    ・・突然、保育園の『にんぎょひめ』の記憶が蘇った。
    皆で読んだ絵本。
    上半身は身を隠すものもほとんどなく、下半身は正反対に魚の体に覆われた、お姫様。
    両足を拘束された、裸のお姫様。
    ものすごく恥ずかしくって、あたしだけ黙り込んでしまった。
    それから小学生になって、こっそりノートに人魚の絵を描くようになった。
    その人魚は、必ず両手を縛られて恥ずかしいことをされていたっけ。
    あたしはその頃からマゾだった。自分の願望を人魚の絵に描くマゾだった。
    いつの間にか頬が熱くなっていた。
    「恥ずかしがらなくても、素敵な表情ですよ」紫紺さんに声を掛けられた。
    さすがだな、紫紺さん。
    でもね、あたし胸を見られて顔を赤くしたんじゃないんだよ。
    ・・
    「お疲れ様でした。休憩しましょう」
    あたしは、紫紺さんに人魚のコスチュームを脱がせてもらう。いちいち大変なのに、ごめんなさい。
    ふうー!!
    両手を上に伸ばして力を入れた。あぁ、気持ちいいっ。
    まるで素敵なセックスをした後みたいな気分だった。
    「いい顔をしていますね」「はい!」
    「絵のモデルは時間がかかりますし、その前に村を案内しましょうか」
    「いいんですか?」
    あたしは喜んで立ち上がった。
    「一応、服は着てくださいね」
    あれ?
    あたしはパンツ一枚穿いただけ、トップレスではしゃいでいるんだった。

    12.
    カーキ色の四輪駆動自動車が神沼沿いの小道を走っている。
    運転席は桑原さん。後席に紫紺さんとあたし。
    霧はまだ晴れていなくて、湖の向こう側まで見通すことはできなかった。
    「・・神沼は一周5キロほど。この辺りは林業で栄えたらしいですが、今はご覧の通り過疎の村です」
    「当家も昔、製材工場を経営しておりましてな、それはそれはたくさんの人が出入りしとったものです」
    「へぇ~」
    紫紺さんと桑原さんが交互に説明してくれる。
    「それで、もう少し行くと神社がありますが、そこの宮司が私なんです」
    紫紺さんが神主?
    「名目だけのことです。ウチは代々神沼神社の宮司でもありましてね。昔は季節の神事もきちんとこなしていたらしいですが・・」
    「へぇ。じゃあ、結婚式なんかも、やれるんですかー?」
    「え、結婚式」
    今度は紫紺さんが驚いたみたいだった。
    「ほっ、ほっ、ほっ」桑原さんが運転しながら大声で笑った。
    「・・その通りですな、ぼっちゃま。そろそろ宮のこともきちんとなさって、このお嬢様の結婚式を挙げて差し上げてはどうですかな」
    「あはは。あたし、まだそんな歳じゃないですよー」
    「何をおっしゃいます。17才といえば、立派に子を産める歳ですぞ」
    まあ、そうだけど。
    あたしは隣の紫紺さんの顔を見た。
    紫紺さんの子供だったら、産んでみたいかな、なんて。
    ・・
    集落を抜けて、湖を回り込むと日陰に溜まった白いものが目につき始めた。
    「あ、雪!」
    「もう冬ですからね。これからもっと積もりますよ」
    車は小さな峠をいくつか越えて、再び湖面に近づいた。
    やがて湖畔に小さな神社が見えてきた。
    駐車場に乗り入れて止まった。
    「ここが神沼神社です」
    ・・
    キャミソールドレスの上にコートを着せてもらって車の外に出た。
    神殿の脇を抜けて湖の波打ち際に来ると、太陽の光が差してきた。
    湖面の霧が魔法みたいに消えて行く。
    白い世界が透明に変わり、湖の反対側に雪を頂いた山々が姿を現した。
    それは神々しいまでの変化だった。
    「うわぁ~っ。すごい!」
    空気が一気に清々しくなったような気がした。
    青い空をバックに、ひときわ高い山が輝いている。
    「あれは神沼岳です。標高1980メートル」
    「ほっ、ほっ、ほっ。近藤様は運がいい。滅多に姿を見せん山ですからな」
    「へ~」
    「それを背景に立つ楓ちゃんも素敵ですよ」
    「あら、 本当ですか?」
    「はい。あなたを撮影してもいいですか?」
    「いいですけど?」
    紫紺さんは、ポケットからハンディのビデオカメラを出すとあたしを撮り始めた。
    もう、準備がいいんだから。
    少し戸惑ったけれど、あたしは紫紺さんのためにポーズをとった。
    ・・そうだ、コートは要らないよね。
    あたしは羽織っていたコートを脱いで、桑原さんに渡した。
    キャミソール1枚になると、両手を広げその場でくるくる回ってみせた。
    むき出しの腕と肩を撫でる風がひんやりと気持ちいい。
    心がうきうきしてきた。靴を脱いで裸足になった。
    爪先を水につける。
    「きゃっ、冷た!」
    キャミソールの裾を手に持ちながら、水から出たり入ったりする。
    えへ、アイドルみたい!
    紫紺さんを見ると、あたしを撮りながら笑っていた。
    ・・よぉーし、うふふ。
    あたしはキャミソールをたくしあげて、まるでTシャツを脱ぐみたいに裸になった。
    ブラは着けていなかったから、これでショーツ一枚だけのセミヌード。
    両手を頭の後ろに回し、カメラに向ってポーズをとる。
    「ねっ、あたし綺麗ですか?」
    「ええ、とっても」
    やった、紫紺さんに褒めてもらえた!
    「もう少し水に入ってください。ここは遠浅ですから」
    お、リクエストだね!
    紫紺さんの言うことなら何でもやっちゃう。
    あたしは水の中に足を踏み入れた。そのまま膝の深さまで歩いて行く。
    当たり前だけど、神沼の水はきりきりと冷たかった。
    その冷たさが、かえって心を熱くしてくれる。
    ぞくぞくするのは、寒いからじゃなくて、紫紺さんに見られているから。
    「楓ちゃん、その辺で」
    「大丈夫。もうちょっとだけ」
    「無理しないで!」
    紫紺さんの声が後ろから聞こえた。
    やるなと言われたら、やりたくなっちゃうでしょ?
    あたしは振り向いてアッカンベーをした。
    はぁ~。紫紺さんが呆れたように両手を広げている。
    あたしはおへその上が浸かるまで進んだ。もう岸から30メートルほど離れていた。
    えへへっ。パンツ、びしょ濡れ~。
    そう思った瞬間。何かが足首を掴んで引っ張った。
    ざぶんっ。
    あたしはその場で転倒し、頭まで水に沈んだ。
    ひゃあっ!!
    訳がわからなくなった。
    あたしは浮いたり沈んだりを繰り返しながら水の中でもがいた。
    「楓ちゃん!」
    紫紺さんがあたしを抱きかかえて、岸まで引き上げてくれた。
    「大丈夫ですか!? 楓ちゃん!」
    景色がぐるぐる回っていた。
    あたし、紫紺さんの胸の中に抱かれてるの?
    ごめんなさいっ。紫紺さんまでずぶ濡れにしちゃった。
    遠くの水面に人の頭が見えた。長い髪に顔が半分隠れた女の子がこっちを見ていた。
    え? 女の子!?
    ばしゃん。
    次の瞬間、女の子は消えて、大きな魚の尾ひれが跳ねるのが見えた。
    え~!!?
    そのまま意識が遠のいた。

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