スポンサーサイト

    上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
    新しい記事を書く事で広告が消せます。

    アネモネ女学院高校文化祭訪問記(1/3)

    1.
    10月の最初の土曜日。
    電車を降りて15分ほど歩くと、閑静な住宅街の中に目指すアネモネ女学院高等学校があった。
    ツタで覆われたレンガ造りの校舎はとても重厚で、県下一番の進学率を誇るお嬢様校の威厳を保っている。

    だが今日は雰囲気が違った。
    あちこちの窓に貼られたクラブや展示のポスター。漏れ聞こえてくる、華やいだ音楽。
    正門まで来ると大きなアーチが立てられていた。
    『アネモネ祭』
    そう。今日はこの女学院の文化祭。
    閉ざされた乙女の学園に我々外部のオトコが立ち入ることを許される、年に一度のイベントなのだ。

    受付で入場券を渡した。
    一部ではプラチナチケットとも呼ばれる入場券である。
    持ち物をチェックされ、スマホ、ケータイ、デジカメや録音装置の類はすべて預かられてしまった。
    校内で見るモノ聞くモノは一切記録するな、ということだ。
    さすがに厳しい。

    受付を過ぎると、そこは校内。
    俺たちのような外来客と迎えの女生徒たちで混雑していた。
    アネモネ女学院の制服は明るめのグレーに白線が入ったセーラー服である。
    スカートの丈はきっちり膝下で、短くしている生徒など一人もいない。
    しかし、このスカートにはサイドに深めのスリットが入っているのだ。
    椅子に座り足を組むなどすれば、かもし出される爽やかな色気。
    うむ。すばらしい。

    「おおっ?」
    隣にいた村田が嬉しそうな声を上げた。
    「ふむ!」
    熊井も眼鏡の縁を押さえて頷いた。

    大きなプラカードを掲げた女生徒が二人、並んで立っていた。
    ベレー帽にロングブーツ。金モール入り紺色のミニスカユニフォーム。
    プラカードには『吹奏楽部コンサート 午後2時開演 ~講堂にて~』と書かれていた。
    二人とも大きな瞳をしていて、髪をサイドテールにくくっている。
    揃って美少女である。

    「おお~おぉっ!」
    村田が再び歓声を上げた。
    「ふむふむ!」
    熊井も力強く頷く。

    今度は、赤いレオタードを着けた女の子だ。
    「体操部の喫茶店です。来て下さいね~!」と呼びかけながらメニューらしきチラシを配っている。
    この子も可愛かった。
    何よりボディラインがくっきり分かるレオタード。
    下品すぎない程度にハイレグの生足。そのハイレグの前に小さな白いエプロンをつけている。
    これは、行かねばなるまい。
    我々三人は互いにうなずきあって、わざわざ一人ずつメニューを受け取りに行ったのだった。

    それにしても見回せば見回すほどそこかしこに美少女がいる。
    どの子も可憐で実に可愛らしい。
    我が凡高の女子どもと、どうしてこんなに違うのだ?
    一流のお嬢様学校と、二流の公立校の違いなのか。

    「いた。あそこだ」
    熊井が前方の木立を指差した。
    その下で水色の着物を着た女の子が手を振っていた。
    熊井の妹で、この女学院1年生の美咲ちゃんである。
    考えてみれば、美咲ちゃんが高校に上がってから会うのは俺も村田も初めてだった。

    2.
    我々は高校3年生の三人連れである。
    先ほどから目尻を下げっぱなしの村田。
    落ち着きなく眼鏡の縁ばかり押さえている熊井。
    そして俺、山東。
    小学校のときから腐れ縁のトリオだ。

    俺たちはよく互いの家に行って遊んだ。
    熊井の二つ違いの妹の美咲ちゃんとも、よく遊んであげたものだった。
    元気で明るい美咲ちゃんは、小学校から中学へ上がるに従ってどんどん綺麗になった。
    俺も村田も、熊井の家に行くときは美咲ちゃんを意識するようになった。
    ただ熊井から「美咲に手を出したら許さんぞ」と言われていたので、勝手なことはしないでいた。
    俺たちが揃って同じ高校に上がると、外で遊ぶことが多くなって互いの家を訪ねることは減った。
    それでもたまに熊井の家に行けば、俺と村田は美咲ちゃんがいないかきょろきょろ見回し「お前ら俺はどうでもいいんか」と熊井に呆れられる始末だった。

    美咲ちゃんは中学を卒業して俺たちと同じ高校に来るのかと思えば、何と私立のお嬢様進学高校に入学したので驚いた。
    俺たちの知らない世界に行ってしまったようで、ちょっと寂しい思いをしたのも本当だ。

    そんな美咲ちゃんが、俺たちをアネモネ女学院の文化祭に招待してくれた。
    生徒あたり5枚しか配られないという入場券を我々にプレゼントしてくれたのだ。
    「山東と村田を呼ぶなど、もったいなさ過ぎると俺は言ったんだけどな。本人はお前らに来て欲しいらしい」
    熊井の言葉に俺と村田は狂喜した。
    これは、もしかして俺たち二人のどちらかに気があるのか?

    3.
    「やあ、美咲ちゃん」
    「おはようございます!」
    「会うのは春休み以来だね」
    久しぶりに見る美咲ちゃんは相変わらず綺麗だった。
    中学のときには短めだった髪が肩の下くらいまで長くなっていた。

    「ホント久しぶりっ。村田くんも山東くんも、受験勉強がんばってる?」
    ゴ、ゴホゴホ。
    美咲ちゃんからの思いもよらない攻撃に俺と村田は咳払いをした。
    「あはは。まぁ、勉強ダメでも行ける大学、たくさんあるものね」
    ゲ、ゲホゲホ。
    俺と村田はもういちど咳をした。

    そうだった。
    美咲ちゃんは、あまり遠慮しないというか、思ったことを素直に口にするというか、そういうタイプの子だった。
    俺たちが成績は大したことないくせに進学志望であることは、兄貴から聞いて知っているのだろう。

    「ま、こいつらでも、どこか入れる大学はあるだろう」
    その兄の熊井が眼鏡の縁に指を当てて、さらりと言った。
    三人の中で熊井だけはそこそこ勉強ができるのだ。

    「村田など、それ以前に卒業できるかどうかが問題だがな」
    「え~、村田くん、卒業できないの!?」
    美咲ちゃんは俺たちのことを『くん』付けで呼ぶ。二歳年上の権威は認められないらしい。
    この最後の攻撃で村田は撃沈である。

    「そんなことより、美咲。今日はずっとその着物でいるのか?」熊井が聞いた。
    「そうそう、気になってたんだけど、どうして和服なの?」俺も横から聞いた。
    「あたし、茶道部なんだよ」
    「へぇ~、茶道部」
    「誰も言ってくれないから自分で聞くけど、結構可愛いと思わない? この格好のあたしも」
    美咲ちゃんは着物の袖を内側から握ってパタパタ振ってみせた。

    「おおっ、可愛い可愛い!」「似合ってる!」
    「ありがとーっ」
    美咲ちゃんはにっこり笑って、それから言った。
    「それでは皆さんを茶道部のお茶席にご招待します!」

    4.
    お茶席と聞いて俺たちはしり込みしたが、美咲ちゃんの言うことには逆らえなかった。
    どうやら校外の客を茶席に連れて来るノルマがあるらしい。
    「もしかして、俺らに入場券くれたの、ノルマのせい?」
    「えへへ。もしかしたら、そうかな?」
    「・・ガーン」
    「ごめんなさいっ。でもお茶席だって楽しいよっ」
    「本当?」
    「うんっ。サービスするもの。・・きっと男の人は喜ぶよ」
    「?」

    茶道部の茶室は校舎の奥のひっそりした場所にあって、美咲ちゃんと同じように着物姿の茶道部員が何人かいて迎えてくれた。
    入口で靴を脱いで上がると、衝立(ついたて)の反対側に畳敷きの四角い部屋があって、そこが茶室だった。
    中央に炉、その向こうに先客らしい制服姿の女生徒が二人並んで座っている。
    俺たちもその隣に少し離れて座らされた。

    やがて眼鏡をかけた茶道部員が炉の脇に正座して挨拶した。この子がお点前してくれるのか。
    「部長のハタです。お茶席といっても緊張なさらず、ゆったりくつろいで下さい」
    俺たちはどうにか頷いた。緊張するなという方が無理だ。

    「ふた組おいでです。お盆を運んで下さい」
    「はい」
    衝立の陰から女の子が現れた。
    髪をきちんとアップにしていて足袋まで履いているが、緑色の水着を着けていた。
    背中が大きく開いた競泳水着だった。
    「きゃ~♥」先客の女生徒が両手を合わせて歓声を上げた。
    続いてもう一人女の子が登場する。こっちも同じ格好だ。
    いったい何が始まるというのか。
    水着の女の子たちは揃ってぺこりとお辞儀をすると、女生徒と俺たちの前にそれぞれうつ伏せに寝転んだ。
    左右の足を爪先まで揃えて伸ばし、重ねた手の甲に顎を乗せる。

    ごくり。無意識に唾を飲み込んだ。
    女の子の首筋の後れ毛。すべすべした背中、ぷりんとした尻えくぼと柔らかそうな太もも。
    それらすべてが、ほんの少し手を伸ばせば触れるところにあった。
    こ、これは拷問か。
    女子高の文化祭に遊びに来たら、いきなり正座させられて、間近にこんなモノを見せつけられるとは。

    続いて別の茶道部員が漆(うるし)盆を3枚運んできた。
    裏面の剥離紙をはがし、寝転んだ女の子の背中とお尻、膝裏の上に乗せて押さえ、ズレないことを確認する。
    両面テープで貼ったのか!?

    「心ばかりのおもてなしとしまして女体盆をご用意しました。お茶と一緒にお楽しみ下さい」
    にょ、にょたいボン~!?
    当惑してきょろきょろしていると、部屋の隅に座った美咲ちゃんと目が合った。
    面白くてたまらないという顔で笑っていた。

    お点前が始まった。
    一椀ずつ点てた抹茶が女体盆に置かれた。
    それを両手に持って飲んだ。
    お茶菓子が女体盆に並べられた。
    それを口に運んで食べた。

    違和感がありまくりだった。
    お茶の味もお菓子の味も分からなかった。
    女の子の上にこぼしてしまわないか、そればかり気になった。

    「け、結構なお点前でした」「ケッコーでしたっ」
    俺たちは、口の中でもごもご言って頭を下げた。
    部長さんはにっこり笑って応えてくれた。

    立ち上がろうとしたら、三人とも正座していた足が痺れてしばらく動けなかった。
    お茶の間は、痺れなんて、気にもしなかったのに。

    5.
    美咲ちゃんに連れられて茶室の外に出る。
    「面白かった! 皆あんなに神妙な顔して」
    当たり前だろ。あの場でへらへら笑えるか。
    「山東くんなんて、もっとデレ~ってすると思ってたんだけどなぁ」
    美咲ちゃん、俺のこと、そんな風に思ってたの?

    「それで、さっきのはいったい何だよ」
    熊井が聞いた。兄貴でも知らなかったらしい。
    「お茶席ってあまり男の人は来てくれないでしょ? だから男性のお客様が来たら、ああやってサービス♥」
    「女の客もいたじゃないか」
    「うん。男性限定のつもりだったけど、女の子にもウケちゃって。あはは」

    「あの水着の子も茶道部員なの?」
    「もちろんっ」
    「じゃあ美咲ちゃんも女体盛するの」村田が質問した。
    「やだあ、女体盛じゃないよ女体盆っ。あんなエッチなものじゃないもん」
    そうか? そうなのか?
    「それで、美咲ちゃんはするの? その女体盆」
    「あたしはできないんだ。じゃんけんに負けちゃったから」
    「勝ったら、やったのか」熊井がぼそっと言った。

    「次はウチのクラスに案内するわ! 他愛無いゲームだけどね~」
    着物のままでぐんぐん先に歩いて、俺たちを連れていってくれたのだった。

    6.
    美咲ちゃんのクラスの教室の前には
    『1-7 Balloon Girl Catchcer』
    という看板が立っていた。
    長い行列ができていて、茶道部の静けさとは大違いだった。

    カランコローン。
    「はーいっ! 2番さん景品ゲットでーす!」
    鐘の音と女の子の声が聞こえ、やがてアベックの男女が教室から出てきた。
    女は、大きな白い布を風呂上りのバスタオルみたいに体に巻きつけていた。満面の笑みで男の手を掴んでいる。
    男は、俺たちと同じくらいの高校生か大学生に見えた。こっちは緊張してガチガチである。

    「あの子は『景品』。可愛いでしょ?」美咲ちゃんが言った。
    「景品って?」
    「こっちの廊下の窓から見たら分かるよ」

    そちらにも野次馬がたくさん集っていたが、何とか窓から中をのぞくことができた。
    教室にはクレーンゲームの機械が4台も並んでいた。
    ゲームセンターでぬいぐるみなんかを吊り上げるアレだ。

    「はいっ、先ほどゲットが出ましたよーっ。皆さんもがんばって下さいね!!」
    ゲーム機のそばにはバニーガールがいて、マイクを持って喋っていた。
    ショートの頭に大きなウサ耳、スレンダーなボディに網タイツも決まっている。
    「お? おぉお~?」
    「村田くん! そっちじゃなくて、ゲームの機械を見るの!!」
    鼻の下を伸ばしかけた村田が美咲ちゃんに叱られた。

    ゲーム機は、上半分のガラスケースの部分、つまり本来はぬいぐるみなどを入れる場所に女の子が入っていた。
    正確には女の子の肩から上が入っていた。
    あれが『景品』か?
    機械の下半分に入って、ガラスケースの底から頭を出しているんだな。

    女の子の頭の上にゴム風船が乗っていた。
    クレーンのアームで風船を掴むのか? 違う、このゲーム機のクレーンにはアームがなかった。
    その代わりに長い針が下向きについていた。
    ふむ、あの針で風船を割るのか。
    針のついたクレーンを風船に向かって降下させ、うまく割れれば女の子が悲鳴を上げる。
    ある意味、単純だな。

    「なんだ簡単じゃねえか」村田が言った。
    「あんな大きな風船、すぐ割れるだろう?」
    「そう簡単じゃないの。見てたら分かるよ」

    確かに、4人もプレイしているのに、誰も割れないようだった。
    風船の真上までクレーンを移動させても、下に降ろすとクレーンが傾いて停まってしまうのだ。

    「どうなってるの?」
    「ここからじゃ見えにくいけど、障害物があるんだよ」
    「障害物って?」
    「風船の上に透明な板が渡してあってね、それに小さな穴が開いてるの。そこに針を通さないと割れないよ」
    「なるほど。そりゃ難しい」
    「でも風船が割れたら、女の子をデート権付でゲットできるよ。・・どう?」

    クレーンゲーム ← 改造ゲーム機はこんな感じ

    クレーンゲームで風船を割るアイディアは、古いゲーム機の廃棄品がたくさんあると聞いたことから始まった。
    4台無料でもらってきて、それをお父さんたちのグループが改造してくれた。
    プレイは100円で3回。
    クラスの女の子が回り持ちで景品になり、もし風船を割ることができたら、その女の子と30分間校内デートできる。
    景品の衣装は裁縫が得意な女生徒が集まって手作り。さっき教室の外で見た白い布の衣装だ。
    企画は大成功だった。
    教室の前には順番待ちの大行列ができた。

    「ウチのクラスは可愛い子が多いからね! それにね、千円払ったら誰でも指名OKなんだよ」
    「千円払ってまで指名する奴いるの?」
    「いないけど、景気づけのネタだよ」「ははは」

    「・・女の客も多いな」
    熊井が眼鏡の縁を押さえて言った。
    「うん、半分は女の子。他のクラスの子や上級生もたくさん来てるよ」
    「景品ゲットしたら女同士でもデートするのか?」
    「お兄ちゃん、ここは女子高だよ? んなこと当たり前じゃない」
    「そ、そうなのか」
    「女だって可愛い女の子が好きなんだよ。共学の子は男の目があるから我慢してるだけだよ」
    「・・知らなかった」

    景品の女の子 ←景品の衣装はこんな感じ

    7.
    景品とデートできると聞けば挑戦しない訳にはいかない。俺たちも行列に並んだ。
    20分ほど並び、受付で100円払うとメダルを3枚くれた。
    それを握って、ゲーム機が空くのを待つ。

    ぱん!
    「きゃっ」
    風船が割れる音と女の子の悲鳴が同時に聞こえた。
    奥のゲーム機の前で男がガッツポーズをしている。

    カランコローン。
    「おめでとうございまーす!!」
    バニーガールがその男のところへ小走りでやってきた。
    「よろしければお名前をっ」「あ、コマツです」
    「コマツさん! 成功の秘訣はっ」「そうですね。絶対に捕るぞという執念ですかね」

    インタビューの間にゲーム機の中から景品の女の子が出てきた。
    小柄で色白の女の子だった。
    胸から下に白い布を巻いている。
    顔を赤くしてしきりにお腹を両手で隠しているので、よく見たら胸に巻いた布と腰に巻いた布が分かれているのだった。
    肩も足もどーんと露出しているのに、ちらちら見えるお腹の方が恥ずかしいのね。
    初々しいではないか!

    「はい! おめでとうございました~。素敵なデートを楽しんできて下さいね」
    皆の羨望のまなざしを受けながら、その男は女の子を連れて出て行った。

    「次の方、4番へどーぞ」
    俺の番だ。
    「よおし、見てなさい」
    俺は残って順番を待っている村田と熊井に親指を立てて見せてから、一番奥のゲーム機へと進んだ。

    さっきの子はゲットされてしまったから、ガラスケースの中は空っぽだった。
    前に立って覗き込むと、底に細長い穴が開いていた。
    ごそごそ音がして、その穴から女の子が頭を出した。
    次の『景品』の子だ。俺と目が合うとにっこり笑いかけてくれた。
    二重まぶたで眉が濃い女の子だった。
    おほほっ、俺好み!

    介助の女生徒が後ろにしゃがみ込んで、何かをくるくる回した。
    たぶん回転式の丸椅子だ。高さを調整しているんだろう。
    何回も回してその度に穴の縁に当たる部分が痛くないか、中の子に聞いている。
    見ていて面倒くさいが、女の子をセットするシーンが見れるのはラッキーだと思って我慢した。

    やがて調整が済み、女の子の肩まわりが楕円の穴にぴったりはめ込まれた。
    鎖骨くっきりだ。
    肩ヒモがない衣装だから、こうすると裸で入っているようで少しドキドキした。

    それから女の子の頭に風船のついたカチューシャをかぶらせ、さらに風船の上に透明なプラスチック板が固定された。
    プラスチック板には赤い三角形が描かれていて、三角の頂点に小さな穴が3個開いていた。
    ふむ、これが的(まと)の穴だな。直径4~5ミリというところか。
    この穴のどれかに針を通せば勝ちという訳だ。

    ゲーム機の周囲の扉がばたばたと閉まり、鍵が掛けられた。
    「お待たせしましたーっ。ゲットの秘訣は執念だそうですよぉっ。がんばって下さーい!」
    バニーガールに肩を叩かれ、俺は1枚目のメダルを投入した。

    ぎゅぎゅぎゅ~ん。エフェクト音が鳴り、イルミネーションが景品の女の子を照らした。
    1番のボタンを押す。
    タイミングを見計らって手を離し、次に2番のボタン。
    あ~、駄目だこりゃ。
    離れまくった位置になってしまった。クレーンはプラスチック板にかすりもしなかった。

    村田と熊井が腹を抱えて笑っている。
    くそ、次だ!
    2枚目のメダルを入れて、ボタンを押した。

    今度はだいぶ近くなったが、クレーンの針が板に当たってしまった。
    穴からだいぶ離れた場所だった。
    これはいけない。もっと落ち着かなくては駄目だ。

    俺は深呼吸を2回した。
    集中だ。執念だ。
    精神統一、一球入魂、唯我独尊、怨霊退散!
    よぉーし。俺は静かに最後のメダルを投入する。

    女の子がガラスケースの中から俺を見上げ、声に出さずに口だけで応援してくれた。
    ・・ガンバッテ!
    おおっ、がんばるぞ!

    最初のボタン。よおし、左右はぴったりだ!
    2番目のボタン。よし、よし、よし・・。
    割れると思ったのか、女の子が覚悟の表情で両目をぎゅっと閉じた。

    その瞬間、わずかに首を振った女の子の胸元が目に入った。
    楕円形の穴にはまったその部分に、くっきりと谷間が刻まれていた。
    この子、こんなに巨乳だったのか。

    かたん。
    降下したクレーンの針がプラスチック板に突き当たる音がした。

    「あらぁ4番さん、残念でした~」
    バニーガールが全然残念でなさそうに言った。

    8.
    結局、俺も村田も熊井も、風船を割ることはできなかった。
    悔しいのは、俺たちの後で次々と風船が割られたことだった。
    あの巨乳の女の子も、俺の次にプレイした女生徒にゲットされてしまったのである。
    ああ、あのとき邪念にとらわれさえしなければ。

    「まあ、初めてで取れる人はいないから」
    教室の外で待っていた美咲ちゃんが慰めてくれた。
    「今は混んでるし、リベンジするんだったらも少し後がいいかもねっ。・・じゃ、そろそろあたし茶道部に」

    「あ、いたいた! 熊井ちゃ~ん!」
    教室から女生徒が一人顔を出して、美咲ちゃんを呼んだ。
    「ゲットが続き過ぎで景品が足りないよーっ。熊井ちゃんもシフトに入って」
    「え~、あたし午前中はクラブが・・。分かったっ。部長にお願いしてくる!」
    「ありがとー!!」

    美咲ちゃんは俺たちに向いて言った。
    「そんな訳だから、また後で」
    「美咲、」熊井が聞いた。
    「お前も景品になるのか?」「うんっ、なるよ」
    「あの格好をするのか? お前にもあの衣装があるのか?」
    「衣装はちゃんとあるよ。クラス全員分作ってるし。・・それにね、ほら」

    美咲ちゃんは笑いながらその場でくるりと回った。
    細身の体に纏った着物の袖がふわりと広がって、思わず見とれてしまった。
    「あたしだって人並み以上には可愛いでしょ? こんな美少女を景品にもらえるなら、行列してくれてるお客様も喜んでくれると思わない?」
    「おー、大した自信だ」
    俺と村田は笑った。熊井は渋い顔をしたままだ。

    「あたしが景品してるときに風船割ったら、デートしてあげるよーっ。・・そうだ」
    美咲ちゃんは、何かいたずらを思いついたみたいな表情をした。

    「山東くんか村田くんがあたしをゲットしてくれたなら、本当に恋人になってあげてもいいかなー」
    「え」「え」
    俺と村田はその場で固まり、熊井だけが「おい美咲」と言った。

    「言っとくけどお兄ちゃんは駄目だよ」
    「え」
    「兄弟で恋人にはなれないじゃない。お兄ちゃんがシスコンでも、あたしはブラコンじゃないからね」
    「シ、シスコ・・」
    熊井の眼鏡がズレて傾いた。
    これは漫画などでよくあるショックを受けたときの表現だな。
    日頃難しいことを言う奴だが、こうときは分かり易い。

    「あはは、じゃあね!」
    「み、み、美咲ぃ~」
    美咲ちゃんは元気に走り去り、後には床に膝をついた熊井が残された。

    俺と村田には、妹にフラれた熊井を喜ぶ気持ちこそあれ、慰めてやろうという言葉はないのであった。
    結局、熊井がダメージから回復するまで約1時間、俺たちは生徒食堂でラーメンを食いながら過ごした。

    続き




    スポンサーサイト
    [PR]

    [PR]

    アネモネ女学院高校文化祭訪問記(2/3)

    9.
    午後は三人で他の展示や発表を見て回った。
    真面目にお堅い内容も多かったが、ちょっとセクシーなものや、中には女の子がここまでやってよいのかと思うものまであった。

    美術部は『興味本位ご遠慮下さい』と断りながらも、セミヌードのデッサン会をやっていた。
    さすがに俺たちは入らなかったけれど、胸を手で隠した女性モデルを絵に描くのだという。

    物理科学部では、アルキメデスの定理を検証すると謳って、真水と塩水の水槽にビキニの女の子を浮かべていた。
    溢れた水の重量と体積を量って何かを計算するのだそうだ。
    理系の熊井は面白がっていたが、俺と村田にはさっぱり理解できず、ずっと女の子のビキニを見ていたのだった。

    校庭では生徒会執行部が『会長受難! 大声を出してうっぷんをはらそう』というイベントをやっていた。
    何人でもいいからスタンドマイクに向かって大声で叫び、その音量が100ホンを越えたら、朝礼台の椅子にくくりつけた生徒会長の頭に水が落ちるのだ。
    当然人数が多い方が有利だから、女生徒たちが何十人も集まって「勉強イヤだー!!」とか「リア充消えろー!!」とか一斉に叫ぶ様子は壮観だった。
    生徒会長は目がくりっと大きくて愛嬌たっぷりに笑う女の子だった。
    制服のまま何度も水をかぶらされて気の毒だけど、皆のために体を張ってくれた心意気にはちょっと萌えてしまった。

    体育館では書道部が流行のライブ書道をやっていた。音楽に合わせ、床に広げた紙に巨大な文字や絵を描くパフォーマンスだ。
    見ていると、途中で女の子の一人を『人間筆』にするシーンがあって驚いた。
    直立不動のポーズをとった女の子を他の女の子たちが逆さに抱え上げ、その頭を墨汁のバケツにどぶんと浸けた。
    何度か上げ下げして髪の毛に墨を十分含ませた後、「せーのっ」と持ち上げ、そのまま一気に『無慈悲』と漢字三文字を書いた。
    あまりのインパクトに、熊井は自分の眼鏡を取り落とし、俺と村田は飲食禁止なのに隠れて食っていたポテチを袋ごとこぼして叱られてしまったのだった。

    10.
    頭をかきながら講堂の前に来ると、吹奏楽部の女の子たちが「コンサートが始まりまーす!」と呼び込みをやっていた。
    朝に見た紺色のユニフォームの女の子だった。
    「見てくか」「おう、ブラスバンドは結構好きだ」
    「そうだな、ブラバンなら落ち着いて楽しめるだろう」

    講堂に入ると、そこは舞台と客席のあるホールだった。
    俺たちの高校にこんな施設はないから、やはり私立の一流女子高は大したものだと思った。
    適当に空いた席に座ると、すぐにコンサートが始まった。

    明るいステージに紺色ミニスカのユニフォームがずらりと揃って壮観だった。
    最初の曲はブラバン好きなら定番といえる、アルヴァマー序曲。
    なかなか上手だった。
    俺は聞くのが好きなだけで、技術も何も分からないが、皆が楽しんでやっているのがよく分かった。

    2曲目が始まると、バトンを持った女の子が5人ほど出てきて、音楽に合わせて踊りながら、バトンを回したり高く投げては受け止めたりを始めた。
    バトントワリング部だという。
    この子たちのコスチュームは丈の短いトップスとショートパンツの組み合わせだ。
    おヘソをくっきり見せているが、俺たちがそれで興奮させられることはなかった。
    ここの文化祭にはさんざん驚かされてきたから、もはや女子高生のヘソ出し程度で心を乱される俺たちではないのだ。

    コンサートは、ジャズ曲やアニメソングなども取り混ぜて、7曲ほど続いた。
    バトントワリングの女の子たちも、ほとんど休まずに踊り続っていて、すごい体力だと感心させられた。

    最後の曲は "Stars and Stripes Forever"。有名な『星条旗よ永遠なれ』だった。
    この曲の途中で、ついに驚かされることが起こった。
    バンッ!
    爆竹の音がすると、ステージ中央に高く吊られていた銀色のボールが割れ、中から金や銀のテープが垂れ下がった。
    まるでくす玉だ。
    出てきたのはテープだけではなかった。
    ボールの中で身を小さくしていた女の子が、手足を伸ばして弾けるように飛び出したのである。
    女の子は下で踊っている子たちと同じバトントワラーのコスチュームを着けていた。
    開いたボールの下に浮かび、バトンをくるくる回しながらポーズをとっている。
    ピアノ線か何かで吊られているのだろうか。
    「きゃあ♥」「ステキー!!」「待ってましたー!」という女生徒たちの歓声が客席から響いた。

    ブラスバンドの演奏は続き、さらに数分後。
    もう一回爆竹が鳴って、今度はステージの左右両側にぶら下っていたボールから女の子が飛び出した。
    全部で3個のくす玉である。
    女生徒たとの声援はピークに達した。
    俺たちはぽかんと口を開けたまま、空中に浮かんだバトントワラーを見ていた。

    あの銀色のボールは最初からあそこにあったし、ミラーボールみたいなもんだと思っていた。
    よく考えれば3個あるのは変だし、ミラーボールにしては大き過ぎる。
    それでも人が入るには小さすぎるサイズだ。
    よくそんなところに長時間入っていられたものだ。

    客席の女生徒たちはまだ歓声を上げている。
    皆、くす玉のことを知ってたみたいだな。
    驚かされたのは俺たちだけか。

    俺たちは互いに顔を見合わせて、溜息をつき合った。
    茶道部といい、美咲ちゃんクラスといい、このコンサートといい、この学院の女の子たちはいったい。

    11.
    講堂を出たところで、村田がそろそろクレーンゲームに行こうと言った。
    確かに午後も遅くなってきたから混雑も小さくなっているだろう。

    1年7組の教室に戻ってきたら、行列は短くなるどころか更に長くなっていた。
    美咲ちゃんはどうしているだろう?
    廊下の窓からのぞいたけれど、人が多くてゲーム機の中までは見通せなかった。

    「時間もないから並ぼう。リベンジだ」俺が言った。
    「おう、リベンジだな」村田も言った。
    「俺は止めておく。もし景品が美咲だったら、俺にはゲットする資格がない」熊井が言った。
    行列には俺と村田だけが並び、熊井は一人で他所を回ることになった。

    カランコローン。
    ときおり鳴り響く鐘の音を聞きながら1時間近く並んだ。

    「なあ山東。あれ、冗談だろうか」村田が言った。
    すぐに分かった。「あれ」とはもちろん美咲ちゃんが最後に言ったアレだ。
    「お前も気になっていたか」
    「当たり前だろう」
    「冗談だと思う。美咲ちゃん、ノリがいいから勢いで言っちゃったんじゃないか」
    「そうかもしれないな。でも、もしマジだったら?」
    「そのときは、俺もマジになる」
    「ふふふ。俺もだ」「ふふふ」
    「美咲ちゃんがいなかったら、いっそ千円払って指名するか。ほら、そんなこと言ってただろう」
    「それはいいな」「お前、千円あるのか」
    「失礼だな。もちろんあるさ。お前が帰りの電車代を貸してくれたら」

    受付でお金を払うとき、そこにいた制服の女生徒があら?という顔で俺を見た。
    午前に来たときは、景品としてゲーム機に入っていた、あの眉が濃ゆくて巨乳の子だった。
    俺のことを覚えていてくれたのが、ちょっと嬉しかった。

    「そちら、熊井美咲さんのお友達ですよね。三人いるんじゃなかったっけ?」
    「一人は別行動中です」
    「そうですか」
    その子は分かったというように微笑んだ。

    「・・熊井さんから伝言を預かっています」
    「美咲ちゃ、いえ熊井さんは?」
    「あの子、今は控えで休憩してますよ。呼びますか?」
    「いえ結構です。伝言を教えて下さい」
    「はい、言いますね。『さっきの約束、本気だぞ』・・あれ、どうかしましたか?」

    俺は黙っていた。
    村田に黙っていた。
    それから俺たちは揃って財布から千円札を出し直した。

    「申し込みを訂正します。熊井美咲さんを指名で」「俺も同じでお願いします」
    「ご指名ですか!?」
    「はいっ、ご指名です」
    「え、ええぇえっ~!!!」

    女の子が立ち上がって叫んだ。
    ぞろぞろと人が集まって来た。

    12.
    教室の中は野次馬でいっぱいになっていた。
    行列に並んでいた連中、景品の衣装を着けたままの女の子たち、話を聞きつけて駆けつけた女生徒たち、他モロモロの人たち。

    バニーガールがマイクを持って喋っている。
    「さあ、初めてご指名の挑戦者が現れました!! しかも二人が同じ景品をご指名ですっ。これは争奪戦になるか!?」
    おおーっ。
    「お待たせしましたっ。景品の登場です! 1年7組、熊井美咲ちゃ~ん!!」
    きゃあー!! ぱちぱちぱち!

    美咲ちゃんが入ってきた。あの景品の衣装を着けていた。
    スレンダーな体の上下に白い布が巻き付いていて、お腹が少し見えている。
    「お・・、色っ」
    声を出しかけた村田を俺は肘で突いて止めた。余計なことを言うな!

    「ねえ、二人とも、」
    美咲ちゃんは俺たちに向って聞いた。
    「これ、ふざけてるんじゃないよね。本気であたしを指名してくれたと思っていいよね?」
    「本気だよ」「俺も本気」
    「・・」
    美咲ちゃんはしばらく怒ったみたいな顔をしていたが、やがてにっこり笑った。
    「嬉しい。じゃあ、あたしも約束守る。・・お二人のご指名、喜んでお受けします!」

    うわ~! ぱちぱち!!

    拍手の中、美咲ちゃんがゲーム機に入った。
    俺たちはすぐ近くでその様子を見ていた。
    美咲ちゃんはガラスケースの底の穴から頭を出し、肩の部分まではめ込んだ。
    髪を上げているから、むき出しの肩と首筋が綺麗だ。
    さらに続いて、風船とプラスチック板がセットされた。

    「絶対にゲットしてね!」
    最後に美咲ちゃんがウインクして言った。
    「あたしの運命、山東くんと村田くんに預ける」

    ゲーム機の周囲の扉が閉められ、全部の鍵が掛けられた。

    「順番を決めよう」「よし」
    俺と村田はじゃんけんをした。村田が先攻、俺が後攻になった。

    13.
    「それでは、最初の挑戦者っ、1回目のトライです!!」
    バニーが紹介すると、村田がにやっと笑ってメダルを投入した。
    ぎゅぎゅぎゅぎゅ~ん。エフェクト音とともに装置が始動する。

    「いくぞ」
    クレーンが右に動き、そして止まった。
    こやつ、手前の穴狙いか。絶妙なポジションだった。
    「ふん!」
    クレーンが奥に進んで、止まった。
    「どうだ!」
    クレーンが降下を始めた。

    皆がクレーンの下に突き出した針を見つめている。
    美咲ちゃんも見上げていた。

    かつん。
    直径5ミリの穴の、ほんの1ミリ手前に針が突き当たった。
    ・・あ~。
    ギャラリーの溜息。

    「惜し~い!! ・・それでは、もう一人の挑戦者、お願いしますっ」

    よし。
    俺は自分のメダルをゲーム機に入れた。

    最初のボタンを押して、クレーンを動かした。
    俺の目標は右奥の穴だ。
    指を離してクレーンを止める。

    「む」後ろで村田が唸るのが分かった。
    どうだ。ぴたりの位置だろう?

    2番目のボタンを押す。
    クレーンが奥へ動き、そして止まった。

    クレーンが下り始めた。さあ、行け!
    こつん。
    いいところまで下りたが、わずかに外れていた。
    「くっそーっ!!!」
    「よぉし!!」
    残念がる俺と喜ぶ村田。

    「あああ~!! またまた惜しいーっ。これはすごい戦いです!!」
    バニーが叫んだ。

    14.
    2回目のトライでも二人は失敗した。
    村田も俺も1回目と同じ穴を狙い、やはり数ミリ外してしまった。

    膝に手をついてしばらく深呼吸する。
    顔を上げると、心配そうにこっちを見ている美咲ちゃんと目が合った。
    俺を待ってくれている。そう思った。

    「もう少しだけ待っててくれよ、美咲ちゃん。俺が出してあげるから」
    「おい、美咲ちゃんは俺を待ってくれてるんだぜ」隣で村田が言った。
    「俺だよ」「いや俺だ」
    俺たちは笑って右腕をぶつけ合う。

    いよいよ、3回目のトライだ。
    もうお金は持ってない。
    泣いても笑ってもこれが最後だ。

    鳴り響くエフェクト音。きらめきわたるイルミネーション。

    15.
    村田は最初の2回とは違う穴を狙うようだ。
    クレーンは左の穴の前で止まった。すぐに奥へ進む。

    「いかん」村田がつぶやいた。
    クレーンがゆらゆら左右に揺れていた。
    奥移動用のボタンを押すタイミングが早すぎたのだ。
    「おさまれ、おさまれ、おさまれーっ」
    村田は叫びながらボタンの指を離した。

    クレーンの下に突き出した針が揺れながら降下する。
    ああっ、割れるぅ。美咲ちゃんが顔をしかめて怖がっている。

    ゆらゆら、ゆらゆら。
    かつん。

    「あ~~っ」
    村田は装置のパネルを叩いて悔しがった。
    もしクレーンが揺れていなかったら、絶対に風船は割れただろう。

    「あ~!!、ざんねぇーーんっ! またしても失敗~!!」
    バニーが絶叫している。この子も元気だ。
    「さあ勝負は、残る挑戦者の指先にかかることになりました~っ!!」

    俺は最後のメダルを握り締めた。
    美咲ちゃんを見る。
    美咲ちゃんの目が「絶対大丈夫!」と言ってくれた。

    よし。
    メダルを入れた。
    俺は目標を変えたりしない。狙いは正面中央の穴のみだ。
    クレーンを横に移動させる。ここだ!
    「む」ほんの少し行き過ぎたか。
    すかさず奥へ移動させる。
    クレーンは大きく左右に揺れていた。村田のときと同じだ。

    あ~・・。ギャラリーが失望の声を上げた。

    ゆらゆら、ゆらゆら。
    クレーンが止まり、そして降下した。
    目標の穴の真上ではなかった。わずかに右にズレている!

    ゆらゆら、ゆらゆら。
    クレーンが左に振れ、右に振れ、そして左に振れたとき、針の先端が穴に通った。

    ・・ぱん!!
    「きゃぁん!」
    風船が割れて、美咲ちゃんが悲鳴を上げた。
    こういうときの女の子の悲鳴って、どうしてこんなに可愛いんだろうね。

    「きゃああっ!! 割れたぁ~!!」
    ほとんど同時にバニーも叫んだ。
    「おめでとうございまぁ~す!!」
    俺の両手を握ってぴょんぴょん跳ねた。

    わ~!! ぱちぱちぱち!

    拍手の中で俺は美咲ちゃんをゲーム機から出してあげた。
    美咲ちゃんは俺に抱きついて、ほっぺたにキスしてくれた。
    それから村田の頬にもキスをした。

    ねえ、どうして村田にまでサービスするの!?

    続き




    アネモネ女学院高校文化祭訪問記(3/3)

    16.
    体操部の喫茶店は、専門棟と呼ぶ校舎の第3理科室で営業していた。
    テーブルの間を縫うように平均台が並んでいて、その上を赤いレオタードにエプロンをつけた体操部員のウェイトレスが行き来している。。
    レオタードの生足ハイレグを目の高さで楽しめる素晴らしい環境だ。
    テーブルのメニューには『絶対に落ちません! こぼしません! 粗相したら無料!!』と書かれている。

    ところどころお客の通路として平均台の間が広く開いているけれど、ウェイトレスたちはケーキや飲み物のお盆を高くかかげたまま、それを優雅にジャンプして超えて行くのだった。
    俺と美咲ちゃんが待っていたテーブルにも、コーラとジュースが運ばれてきた。
    ウェイトレスは片方の足をぴんと垂直に立ててバランスを取りながら、平均台より低いテーブルにグラスを並べてくれた。
    「すごーい!」「美咲ちゃん、できる?」
    「無理だよー。でも床の上だったら180度開脚できるよ」
    「えーっ、今度やって見せてよ」「えへへ、えっちな目で見ないならね!」

    美咲ちゃんはとても明るかった。
    お腹がチラ見えする衣装も気にせず、きゃいきゃい笑いながらバカや冗談を言ってくれた。
    俺は村田たちと行った他の展示の話をしていた。

    「そういえばさ、吹奏楽部のコンサートに行ったらバトンを一緒にやってて」
    「人間くす玉でしょ?」「知ってるの?」
    「うん。友達がいるから練習見せてもらった」「そっか」
    「レンタルしてくれるところがあるんだって! 女の子を小さくして詰めるくす玉」
    「本当? すごいな」「でしょ?」
    「すごいよね。ここの学園祭」

    俺は思っていたことを口にした。
    「この学校ってさ、ものすごく堅そうなのに、女体盆とか人間くす玉とか、そういうの平気でやってるんだもん」

    「ぜんぜん平気じゃないよ」美咲ちゃんが首を振った。
    「普段は息が詰まるくらいに厳しいんだから。こんな格好、絶対にダメ」
    そう言いながら、お腹の前に垂れた衣装をひょいと持ち上げてみせた。
    おおっ、おヘソ!!
    男の条件反射だ。俺の目線は美咲ちゃんのおヘソに引き寄せられ、そのまま逃れられなくなる。
    しばらくして美咲ちゃんが聞いた。
    「もういい?」目が笑っている。
    「あ、ゴメンっ」
    「いいよ。こんなので喜んでくれるなら」そう言いながら、持ち上げた布を元に戻した。
    怒らないの?
    しまった、それならもちょっと見せてもらえばよかった。

    「でもね伝統があってね、文化祭のときだけは何やっても大目にみてもらえるの。よほどのことがない限り」
    「へぇ」
    「皆、文化祭ではアレしてやろうコレしてやろうって、いっぱい考えてる。女の子の心の中の願望って、結構カゲキだからね」
    「そうか、だから写真や録音は絶対禁止になってるのか」
    「うん」

    なら、女の子をゲームの景品にする、いや、景品になるのも願望なのか?
    気になったけれど聞けなかった。
    もし「そうだよ!」って返されたら、どう反応したらよいか困るからだ。

    17.
    「おい山東、」
    声がしたので振り返ると、熊井がいた。
    眼鏡の縁に指をかけて何やら怒った顔をしている。

    「美咲と一緒にいるということは、まさかお前が美咲をゲットしたのか?」
    「お兄ちゃん!」
    「美咲も、そのはしたない格好は何だ。山東を喜ばせるだけだろう」
    「あのねぇ、」
    美咲ちゃんが呆れたように言った。
    「お兄ちゃんこそ、その人は誰よ!」

    熊井の腕に女の子がしがみついていた。
    面積の小さいビキニの水着にサンダルだけの格好で、目立つこと極まりない。
    「この人は2年生の杉本さんだ。物理科学部の展示に行って話してたら、親しくなってだな」
    「ああ、メルセデスの法則」俺が口を挟んだ。
    「アルキメデスの法則だっ」

    「自分はビキニの女の子連れて、それでよくあたしに「はしたない」なんて言うわね。お兄ちゃんのえっち!」
    「いや、俺はそんなつもりは。えっと、彼女はその、クラブでも、水着でいたから」
    美咲ちゃんの勢いに、熊井は劣勢になる。
    「だからって、そのまま連れ出すのはどーいうつもりよっ。女性の気持ちを考えて、せめて上に何か着せてあげるとか、気遣ってあげなさい!」
    「わ、悪い」
    「だいたい、お兄ちゃんはそういうことに無神経なのよっ。あたしにはタンクトップだって着るなってうるさく言うくせに!」
    「だ、だから、オレ、俺は」
    しどろもどろである。

    「あ、ワタシでしたら大丈夫です。別に気にしてないっていうか、むしろ喜んでますから」
    ビキニの女の子が言った。
    「でも、クマイさんって妹さんには弱いのね。もしかして、シスコン?」
    「ぐ」熊井がうめいた。
    「シ、シ、シスコ・・」
    再び眼鏡がズレて傾いた。
    熊井はそのまま床に膝をついて動かなくなった。

    18.
    「お前ら、ここにいたのか」
    また声がしたので振り返ると、村田がいた。

    「東条さん!?」美咲ちゃんが叫んだ。
    村田はバニーガールを連れていたのだ。
    美咲ちゃんのクラスでMCをしていたあのバニーだった。

    「それでどうして村田くんが一緒にいるの?」
    「いやさぁ、たまたま彼女が近くにいて休憩だっていうし、じゃあお茶しませんかって言ったら来てくれて」村田が説明した。
    「あきれた。村田くんってそんなに軽かったっけ?」
    「だって美咲ちゃんは山東にゲットされちゃっただろ? 俺だって寂しいじゃないか」
    「もう」
    「熊井さん、この方を責めないで下さい。私が勝手にご一緒しただけですから」
    バニーガールが美咲ちゃんに向って言った。ずいぶん丁寧な喋り方だった。
    教室でマイクを持って絶叫していたときとは、えらく雰囲気が違う。

    バニーガールは、皆に向って深々とお辞儀した。
    「皆さん、改めてご挨拶させていただきます。私、1年7組の東条空(そら)です。先ほどは本当にお疲れ様でした」
    「彼女、とっても真面目でいい子なんだよ。アナウンサー目指してて、勉強になるからってバニーガールになってMCを引き受けてくれたの」
    美咲ちゃんが説明してくれた。
    「こういった格好をするのは初めてなものですから、本当はとても恥ずかしいのですが」
    「えーっ、恥ずかしがることないよ。東条さん、すごくセクシーで似合ってるのに」
    「ありがとう、熊井さん。でもセクシーだなんて。・・あぁ、そんなに見ないで」

    村田が俺の耳元でささやいた。
    「・・ふふふ。どうだ山東。美咲ちゃんにこの恥じらいが期待できるかな?」
    「むっ」
    悔しいが村田の言う通りだった。
    ゲームの時はバニーガールになって目一杯に弾けてくれた東条さん。本当はセクシーな格好が恥ずかしい東条さん。
    大きなウサ耳を揺らせながら慎ましやかに恥じらう彼女は、男でも胸がきゅんきゅんするほど可愛かった。
    俺は村田にゲームで勝って、勝負に負けたのか。

    「きゃん、可愛い♥、 胸がきゅんきゅんしちゃう!」ビキニの杉本さんが喜んだ。
    「大好き、こんな子!!」
    東条さんに後ろから抱きついた。この人は女の子が好きなのか?

    「あ、ちょ、ちょっと」
    「見られるのが恥ずかしいのね。心配しないで。きっと自信を持てるわ」
    「私でも大丈夫ですか?」
    「少しずつ慣れればいいのよ。胸元とか足とか、いつも肌を見せるように心がけて。特に男の子のいる場所ではね」
    「分かりました。男性に肌を見せるんですね」
    「それだけじゃ駄目よ。男の子の眼が平気になったら、次は裸になって女子に見てもらうのよ」
    「じょ、女性にですか!?」
    「そうよ。あなたの可愛いおっぱいとあそこを見てもらうの。触ってもらってもいいわよ。・・どう? 女同士なら安心でしょ?」
    「ああ、そっちの方が恥ずかしいです」
    「うふふ、想像して。お部屋にいるのは女ばかり。あなた一人だけ脱がされてるの。縄で縛られてもいいかしら」
    「あ、・・駄目。そんなの」

    東条さんは本当に想像しているらしい。目がとろんとしている。
    杉本さん、すごいテクニック。
    後ろから東条さんの胸にそっと両手を当てた。
    「・・あっ」

    固まっていた熊井がむくりと体を起こして「おお・・」と言った。
    「すごい・・っ」美咲ちゃんがつぶやいた。
    「駄目だ。負けた・・」村田がつぶやいた。

    19.
    「パフォーマンスタイムでーすっ。正面のテーブルの回りに集まって下さい!」
    音楽が変わり、皆がぞろぞろと前に集まった。
    テーブルの上に直径30センチ、高さ50センチほどの筒が2個立てて置かれた。
    筒と筒の間隔は約1.5メートル。

    ウェイトレスが左右開脚した両足首をそれぞれの筒に乗せた。
    体が宙に浮いて、ぐいっと沈み込んだ。
    膝がぴんと伸びて、開脚の角度は200度よりもさらに大きい。
    そのままの状態で、別のウェイトレスが二人、筒の上に手をついて逆立ちをした。
    逆立ちで片足を真上へ、もう一方の足を真後ろへ。
    真後ろに反らせた足を、中央で開脚しているウェイトレスが左右の手で受けて支えた。

    ぱちぱちぱち。テーブルを囲んで皆が拍手した。
    俺も美咲ちゃんと揃って拍手した。
    ん?
    美咲ちゃんが拍手しながら俺の右側に密着していた。
    そっちを見ると、俺を見上げて言った。
    「あたし景品なんだし、肩くらい抱いたっていいんだよ」
    「とうに30分過ぎたよ」
    「だったら、彼女として抱いて欲しい・・かな?」
    俺は右手で美咲ちゃんの肩を抱いた。つるつるして柔らかい肩だった。

    気がつけば、斜め前に立つ熊井もビキニの杉本さんの肩を抱いていた。
    同じく村田もバニーガールの東条さんの肩を抱いていた。
    と、杉本さんが肩を抱かれたまま熊井の後ろから手を伸ばして、東条さんの背中に触った。
    東条さんがびくんと震えた。
    杉本さんの指は東条さんの腋に進入して、まだ何かを撫でている。
    東条さんはものすごく色っぽい表情でふるふる震えていた。
    バニー服っていろいろ無防備だなぁ。

    ・・どうかしたの?
    村田がようやく東条さんの顔を見て驚き、肩を抱く手に力を入れ直した。
    杉本さんの仕業には気付いていないようだ。

    「あのバカ、何か誤解してるぞ」俺は小声でつぶやいた。
    「東条さん、もう杉本さんのモノかもね」美咲ちゃんも小声で言った。
    「いいの? クラスメートだろ?」
    「本人が拒んでないんだから止められないよ。それに前に言ったでしょ、ここは女子高だよ」
    「そうか。・・ねえ」「何?」
    「美咲ちゃんは他の女の子に走ったりしないよね」「そんなの、わかんないよ」「ええ~っ?」
    「えへへ、ウソ!」

    俺は美咲ちゃんの正面に向き合って、両手を美咲ちゃんの肩に乗せた。
    「じゃあ、あと一つだけ」
    「はい」
    「本当に、俺でいいの? 村田でなく、たまたま風船が割れただけの俺で」
    「・・」
    「?」
    美咲ちゃんは真面目な顔で俺を見ていた。
    それから爪先立ちになると、やおら顔を近づけて俺にキスをした。

    「美咲ちゃん!!」
    「これで分かった? さっきみたいにほっぺじゃないぞ。ファーストキスだぞ!!」
    「そ、そんなファーストキスを簡単に、」
    実は俺にとってもファーストキスだった。
    でもまあ、もうそんなことはどうでもいいと思った。

    「約束してね。あたしのこと大事にするって」
    「約束する」
    「今度は山東くんからキスしてほしいな!」
    「はい」
    喫茶店の中で皆が俺たちを見ていた。俺は美咲ちゃんに2回目のキスをした。

    20.
    そんな訳でアネモネ女学院の文化祭の報告はこれで終わりだ。

    俺は兄貴の熊井からも美咲ちゃんを大事にすると約束させられた。
    熊井は杉本さんにあっさりフラれたが、村田は東条さんと続いているらしい。
    いつも東条さんと会うときは、実に地味でガードの高い服を着てくると言って嘆いていた。
    美咲ちゃんからは、学校で杉本さんと東条さんが手を繋いでいたと聞いたが、今のところそれを村田に伝えるつもりはない。

    俺は美咲ちゃんと順調だ。
    デートではいつも主導権をとられるけれど、求められるのは、手を繋いだり、おでこにキスしたり、ぎゅっと抱きしめたり、そんな程度だ。
    それ以上の段階に進むには、まだまだ時間がかかりそうな気がする。
    文化祭で過激な願望を実現と言っても、中身はみんな歳相応の女の子たちなんだろうと思う。

    美咲ちゃんによると、学校ではもう来年の文化祭のプランを語り合ってるらしい。
    次は、ボディペイントをやりたいとか、学校全体を使ってウサギ狩り(もちろんウサギは女の子)とか、願望にはきりがないようだ。
    そのときも入場券をくれるかと聞いたら「山東くんと村田くんがちゃんと大学に合格してたらあげる」と言われてしまった。
    しかたないので今はデートも控えめにして勉強をがんばっている。

    来年またアネモネ女学院の文化祭に行けたら報告するので楽しみに待っていて欲しい。



    ~登場人物紹介~
    俺(山東): 凡々高校3年生。
    熊井美咲ちゃん: アネモネ女学院高校1年生。元気な女の子。
    村田: 凡々高校3年生。
    熊井: 凡々高校3年生。美咲ちゃんの兄。
    杉本さん: アネモネ女学院高校2年生。露出好きで女の子好き。
    東条さん: アネモネ女学院高校1年生。バニーガールに立候補したが実はバニー姿が恥ずかしい。

    秋の恒例、学園祭/文化祭シリーズ、今年は私立の進学女子高です。
    妄想を目いっぱい広げて楽しみました。

    作者である私自身は共学の公立高校出身なので女子高の文化祭の雰囲気を知りません。
    ただ、高2だったか高3だったかのときに、知り合いの女性の関係で、某私立女子高の文化祭に1度だけ行ったことがあります。
    その知り合い女性のクラスでは、男女ペアで出場するパーティゲーム大会を開催していました。
    そこで私は初対面の女の子とペアで出場させられ、運よく優勝してしまったのです。
    ペアを組んだ女の子は、私のような男性シングル客のために準備されていた子で、なぜか手作りの衣装(キャミソール風だった記憶)を着ていました。
    優勝景品は校内喫茶店の飲み物券で、当然、私はその女の子と一緒に行きました。
    お茶を飲みながら、この役をして優勝したのは初めて、男の子とお茶も初めて、と彼女は笑いながら話してくれました。
    ・・本話のプロットを考えるときに、蘇った思い出です。

    お話を考えるにあたり、今回は直接的な緊縛/拘束はできるだけ控え、その代わりに、女体盆や、ビキニの女の子で浮力の実験、水をかぶる生徒会長とか、床に降りれない平均台ウェイトレスとか、いろいろな萌えネタを出しました。
    久しぶりに人間くす玉も使いました。

    さて、ここのところきっちり4週間周期のアップですね。
    ぎりぎりです。更新履歴を見て自分で笑ってしまいました。
    今回は余裕を持って執筆したつもりで、シルバーウィークにのんびり挿絵を描いていたら時間切れになって大焦りです。
    クレーンゲームの絵は女の子の周囲が何もなくて殺風景ですが、ここにぬいぐるみを並べれば楽しくなると思います。
    脳内で補完して下さいね。

    それではまた。
    ありがとうございました。




    リゾートホテル(1/2)

    1.
    [美沙のブログ]
    わたくしは、主様(ぬしさま)の所有物です。
    主様のためにお尽くしし、どんな惨めな扱いも喜んでお受けする覚悟でございます。
    わたくしの乳房、ヴァギナ、アナル、その他肉体のすべては主様のためにあります。
    主様がお命じになることには、すべて躊躇なく従います。
    もし、ナイフを与えられ、それで自分の喉を切り裂いて死ねと命じられれば、わたくしは即座にそうするでしょう。

    主様と出会ったのは7年前。高校の入学式でございました。
    そのとき、わたくしは主様に恋をし、主様もわたくしを愛してくださったのです。
    高校を卒業した次の日、わたくしは主様に一生涯を捧げて従うことを誓いました。
    昨日までの同級生が、主人と奴隷の関係に変わったのでございます。

    このブログは、主様の足元にゴミ虫のように這いつくばるわたくしの日記です。
    普通の人間の女として生きることを自ら放棄した雌マゾの日常をどうぞご覧くださいませ。

    2月△日
    主様が3泊4日の沖縄旅行を計画してくださいました。
    お仕事がとてもお忙しいのに、休暇を取ってお連れくださるなんて、わたくしは何と恵まれた奴隷なのでございましょう。
    旅行中に日記をアップすることもお許しいただきましたから、ホテルでの出来事などをご報告したいと思います。
    どうぞお楽しみにお待ちくださいませ。


    2.
    1501号室。
    広い部屋に大きなベッドが二つ。
    その向こう側に、天井から床までとどくガラスの窓。
    「うわぁっ、すごい~!」

    あたしは走り寄ってレースのカーテンを開け、ガラスにおでこをつけた。
    眼下に白い砂浜のビーチと、その先にはエメラルトグリーンの海が見えた。

    「誰も泳いでへんねー」 あたしは振り返ってヒデに言う。
    「そらそうや。海に入れるのは4月頃やろ」
    「やっぱりビキニ持って来たらよかったな。ね、売店で水着売ってると思う?」
    「売ってたら、買(こ)うて泳ぐ気か?」
    「うんっ。こんな綺麗な海、泳がへんかったらもったいないやん」
    「俺はイヤやぞ」
    「あたしだけ泳ぐ。寒いの平気やもん」

    彼が後ろからあたしの肩を抱き、耳元でささやいた。
    「なら、今晩、ミサを全裸で縛り上げて海に放り込もか?」
    「え♥」
    ちょっとワクワクして答えた途端、耳の後ろにキスをされた。
    「ひゃん!」
    耳はあたしの弱点だ。
    耳たぶを軽く噛まれて、その後、耳穴まで舐められたら、たちまち力が抜けて・・・。

    あ~ん、その通りになってしもた!
    分かっているのに、いつも無防備なあたしが悪いんだけど。

    力が抜けて、カーペットに膝をついた。
    首筋を彼の舌が這う。ぞくぞくぞく。
    スカートをたくし上げられ、太ももの内側を彼の指が這う。
    ストッキングなんて穿いてない。
    ダイレクトに刺激されるあたし。
    「はぁ・・っ」
    下着の中まで侵入された。

    彼の指があたしの中をまさぐる。
    「や、やぁんっ!」
    あたしはもちろん抵抗しない。抵抗するなんて、考えられない。
    「いきなり濡れてるやないか」
    「そやかて」
    「やっぱりお前は淫乱やな」
    「あぁ・・」

    抱き上げられて、ベッドに放り投げられた。
    「きゃん!」

    ショーツを荒々しく下げられる。
    そこに彼が口をつけた。
    「あっ、そんなとこ。・・シャワーも使おてへんのに」
    「構へん。ええ匂いがする」
    「いやぁ、そんな」
    「お前が欲情したときに分泌する匂いやな」
    「そ、そんな言い方・・」

    ベッドに仰向けに転がり、片方の膝を立てて開脚したあたし。
    その股間に顔をつけてクンニされた。
    ・・くちゅ、くちゅ。
    わざと音をたてているのだろうか。
    彼の舌の当たる箇所が次第に熱くなり、あたしは我慢できなくなる。

    「あ、もう。お願いやから」
    「何?」
    「い、入れて。・・ヒデの」
    「やっぱり欲情した?」
    「欲情、した。・・欲情しましたよぉっ」
    「んー、俺はこれだけで十分なんやけどな」
    「あぁんっ、そんなぁ」
    「れろ、れろ」
    「ああ~ぁぁあん!」

    ぶるぶる震えながらあたしが声を上げたその時、彼がすっと離れた。
    「終わり」
    「えーーーー!?」
    こ、この、いけずぅ!!
    「あかんか?」
    あたしは仰向けに寝たまま、首をこくこく振って訴える。
    自分で涙目になっているのが分かった。
    「しゃあないなぁ。・・ほなら」
    彼はあたしの上にまたがると、あたしのシャツとブラをめくり上げた。
    左右のおっぱいを同時にわし掴みにされ、あっと思った瞬間、固くなった乳首を同時にぎゅっと摘まれた。

    きゅん!
    ・・きゅん!
    ・・・・きゅん!
    ・・・・・・きゅん!

    その刺激はあたしの全身に広がり、何度もエコーして響き渡った。
    あたしは彼に挿入されることなく絶頂に達した。

    3.
    「おぉい、晩メシ行くぞー」
    「もちょっと、待って」
    あたしは自分の胸を両手で揉みしだいていた。
    彼の舌と指だけでイッてしまったけれど、それはもうどうでもいい。
    今はこの幸福感を逃がしたくなかった。
    左右の乳房を同時に押し上げる。ゆっくり、優しく。
    「あ、・・・はぁ、ん♥」
    「ミサ、お前なぁ」
    「ヒデ大好き♥」
    彼の溜息が聞こえた。
    あたしは、顔を背けてにやりと笑った。
    ・・そろそろ、起きてあげよかな?

    「言うとくけどな。ここのバイキングはマンゴー食べ放題やぞ。早よ行かんとなくなるぞ」
    「行く」
    あたしは飛び起きた。

    大急ぎでスーツケースを開けて着替えを出す。
    夕食のとき着るためにわざわざ選んできたワンピなのだ。
    「ヒデも着替えて」
    「えー、俺もか?」
    「決まってるやんっ。ほぉら、青いジャケット入れたでしょー?」

    面倒くさがる彼に服を着させた。
    それから自分もいそいそとワンピースを素肌の上に着る。
    「写真撮って♥」
    「ええけど、それ、ちょっと露出が大きないか?」
    「沖縄に来たんよ? これくらい当たり前」
    「そうなんか?」
    あたしは窓際でポーズを取り、彼に写真を撮ってもらった。

    4.
    二人並んでエレベーターを最上階で降りた。

    彼は、ネイビーのジャケットとグレーパンツ。胸ポケットに白いチーフも挿してキメている。
    そしてあたしは、ホルターネックの真赤なミニワンピ。素足に12センチ高のミュール。
    肩出し、腕出し、背中も全開。スカートは膝上25センチ。
    さっきは沖縄ではこれくらい当たり前と言ったけど、さすがに2月に着る服じゃない。

    でもあたしは、きちんとした服装をした彼の隣で、大胆に肌を出したかったのだ。
    この格差。女にとってたまらないドキドキ感。
    本当はスカートの中に下着も着けないで来ようとしたけど、さすがに彼に止められたのだった。

    レストランに入って、案内されたテーブルの席に座った。
    周囲のテーブルから一斉に視線を感じる。
    「目立ち過ぎやろ、俺ら」
    「うふふ、ええやない」
    あたしは恥ずかしそうにしている彼に笑って応える。
    見られるのも、悪くないでしょ?

    お皿を持ってバイキングのお料理を取りに行くと、そこは天国だった。
    愛しのマンゴーさんが本当に食べ放題だったのだ。
    見られる喜びなんてどうでもよくなった。

    小さくカットされたマンゴーをお皿に山盛りに載せて戻り、それを食べて、また取りに行く。
    フルーツコーナーの脇に立つ係のお姉さんがくすりと笑った。
    「あの、こんなに取ったらいけませんか?」
    「いえいえ、どうぞ。お好きなだけお取りください」
    お姉さんが女神に見えた。
    あたしはほとんどマンゴーばかり食べてお腹いっぱいになった。

    ・・

    レストランからの帰り、ヒデに聞かれた。
    「どやった、マンゴーは?」
    「うん、幸せ♥」
    「お◯こ舐められるよりも、幸せか?」
    「あほっ。・・あ、おみやげ屋っ。見てく!」
    「そんなん最後の日でええやろ?」
    「あかんのっ。面倒くさいんやったら、ヒデだけ先に戻っていいから」

    あたしは彼を部屋に行かせ、一人でゆっくりお店を巡った。
    みやげ物屋さんはホテルの中に何軒もあって、見て回るだけで楽しかった。
    とりあえず候補を選んで、最終日までに買い揃えよう。
    どうせ彼には、たくさん買い過ぎと文句を言われるのは決まっているんだし。

    5.
    部屋に戻ると、ヒデはガウンを着ていて、缶ビールを飲みながらテレビを見ていた。
    「遅いなー。もう風呂入ったで。それで何を買うたんや?」
    「ううん。今日は見るだけ」
    「見るだけ? 見るだけで2時間か!?」

    彼は両手を広げて、やれやれと首を振った。
    あたしは笑いながらお風呂に入る準備をする。
    「あたしもお風呂使う」
    「おお。ごゆっくり」
    「・・覗いたらシバク」
    「と言うことは、覗いてほしいんか? それとも一緒に入ってほしいとか」
    「あのね。一緒に入るんやったらええけど?」
    「やめとくわ。テレビ見て待ってる」
    「じゃあね」

    あたしはバスルームに入った。
    ドアの鍵をどうするか迷ったけど、彼が何か企んでいそうな気がしたので念のためロックした。

    バスタブにバスミルクを垂らして、上から蛇口のお湯を注ぐ。
    よしよし。泡いっぱい♥。
    あらこのお風呂、サウンドシステムがあるやない。
    チャンネルボタンを何度か押したら、大好きな Perfume が流れた。
    音楽に合わせて鼻歌を歌いながら、お湯につかる。
    大きなバスタブは、仰向けになって足を伸ばしても余裕だった。
    しばらく泡を両手ですくって遊んだ。
    んー、いい気持ち!
    やっぱり、無理して有給とって来てよかったよー。

    片方の足を爪先まで伸ばして差し上げた。
    あたしは自分の身体が嫌いではない。
    中でもばーんと張った太ももは彼も好きだと言ってくれている。
    すっかりリラックスした気分になって、自慢の太ももを両手でゆっくりこすった。

    と、左側から光が射した。
    雨戸でも開けるように壁がスライドして透明になり、その向こうに部屋の中が見えた。
    え?
    ほんの1メートル離れた場所にベッドがあった。
    その上にヒデが寝転がっていて、にたにた笑っている。

    このバスルームと寝室の間は透明なガラスの壁になっていたのだ。
    カーテンのようにスライドする目隠し板がついているけれど、それは寝室の側しか開閉できない。
    やられた!
    あたしは急いで泡の中に身体を沈め、ほっぺたを膨らませて彼をにらむ。
    はいはい、そのまま続けて。
    ガラスの壁は防音になっていたけれど、彼がそう言っているのはよく分かった。
    最初からこれを狙っていたのだろう。
    もう、しょうもないことを。

    仕方ないなー。
    入浴シーンをサービスしてあげることにする。
    あたしは彼に見られながら泡の中で身体を洗った。
    ときどき胸を両腕で挟んで持ち上げたり、片足を泡の上に差し上げたりすると、ガラスの向こうで彼が喜んでいる。
    単純やね。子供みたい。
    うふふふふ。

    全身をこすり終えたら、立ち上がってバスタブのお湯を流した。
    シャワーで泡を洗い流す。
    まず前を流して、それから背中。
    バスルームにシャワーの湯気がこもる。

    気がつくとヒデがスマホを構えていた。
    「こらあ、変な写真は撮るなぁ~!」
    大声で叫ぶが、撮るのを止めない。
    あたしは両手で胸を隠した。
    するとヒデは、屈んであたしの股間を撮ろうとする。
    このヤロ!
    向こうを向くと、今度はお尻を撮っているようだ。

    あたしはバスタブから飛び出しバスタオルを身体に巻くと、ドアから顔を出して叫んだ。
    「もう、ええ加減に、」
    少し開けたドアが強い力で押し開けられた。
    ヒデがバスルームに入ってきた。
    その手に縄束が握られているのが分かった。

    6.
    「縛ろか」
    「え、ここで?」
    「嫌か? 縛られるのは」
    「あ・・」
    「ミサは、男に好き放題無にされるのが好きやもんなぁ」
    「あぁ・・」
    「手を後ろに回し」

    ヒデはあたしの手首を握ると、ぐいと捻り上げた。
    あたしはたちまち彼のなすがままになった。
    胸に巻いたバスタオルが剥ぎ取られる。
    代わりに胸の上下に麻縄が巻きつけられた。

    肌に縄が食い込む。
    きつかった。
    「あぁ、あ・・、や、優しく、して・・。お願い」
    「お前は優しくされるより、嬲りたおされる方が好きやなかったか?」
    「く・・っ」

    そうだ。
    あたしは、乱暴に扱われることに興奮する。
    男の腕力で押さえつけられて、まるで犬か猫でも扱うように、荒々しく弄ばれるのがいい。
    彼の縄があたしをギチギチと締め上げる。息が止まりそうだった。
    みじめに堕ちる感覚。
    あそこに蜜がじょわっと溢れる。

    「ミサはマゾやなぁ。こんなことされて喜ぶやて、恥ずかしないんか?」
    「やぁ」
    「どうして欲しい?」
    「そんな・・、言わさんといて・・」
    「言わんと、縛るの止めるで」
    「あ、・・も、」

    このやり取りは、いつも彼があたしを責めるときのお約束みたいなものだ。
    あたしはこれで確実に高まるし、彼も興奮することができる。
    「もっと、みじめにさせて。・・あたしが言うことをきかなかったら、ぶって。容赦なく。・・あたしが泣いても、許さないで。いっぱいいっぱい苦しめて」
    「人にモノを頼むときは、どうぞお願いします、やろ?」
    「ああ! どうぞ、お願いしますっ。・・ヒデ、さまの思いのままに、あたしを、ミサを責めてくださいっ」

    我ながらどうしようもない願望だ。
    初めてお願いしたときは確実に引かれたと思う。
    でも今、彼はあたしの願いを聞き届けてくれる。

    「ホンマに変態やなぁ」
    「ああぁ」
    「どこか具合の悪いとこがあったら、すぐに言うんやで」
    「うん」

    7.
    彼はあたしを後ろ手に縛り、バスタブの中に立たせた。
    背中からの縄をシャワー掛けに繋いで屈めないようにし、さらに右の膝を肩の高さまで吊り上げた。
    あたしは左の爪先だけで立つ不安定な体勢になってしまう。
    彼はあたしの正面に立つと、ぱっくり開いたあたしの中に人差し指と中指、薬指を同時に差し込んだ。
    「はぁっ! やぁん!!」
    そのまま激しく揉み込まれた。
    「あぁっ、はぁん!、やぁあん!!」
    「グズグズになっとるなぁ、こん中は」
    「はぁっ、はぁっ、あぁああ!!」
    「よぉし」

    彼がハンドシャワーのノズルを手に持った。
    シャーッ。
    熱いお湯が乳房から下腹部に当たる。
    「はぁ・・、はぁ・・、あぁん!」
    小陰唇を指で開かれて、膣の中を狙うようにお湯が注がれた。
    とお湯の温度が急に上昇した。
    身体の中心を焼かれる感覚。
    「ああぁぁ!!」
    熱湯はすぐに冷水になり、全身に浴びせられた。
    「きゃあん!!」

    あたしはその場で跳ね上がり、かろうじて体重を支えていた左足を滑らせた。
    身体が沈み込む。胸と膝の縄に一気に体重がかかった。
    「が!」
    一瞬、息ができなくなった。
    「やばいっ」
    ヒデはお湯を止めてシャワー掛けを調べた。
    「よかった、壊れてないわ。何かあったら説明に困るからな」
    「そ、そんなのより・・、あ、あたしを心配してよぉ」
    あたしは胸と膝で吊り下がったままだった。
    「おー、悪い悪い」

    彼は追加の縄を持ってきて、周囲の手すりやタオル掛けからもあたしを支えるようにしてくれた。
    それから、浮いた左足を膝で折らせて、足首を太ももとまとめて縛った。
    これであたしはカンペキに宙吊りだ。
    「どや? 安定したやろ?」
    「うん。・・きゃんっ!!」
    再びシャワーを当てられた。
    お湯を熱くしたり冷たくしたりして適当に遊ばれる。

    8.
    「くたびれたな。休憩しよか」
    「はぁ、はぁ、・・解くの?」
    「お前はそのままの方向で」
    「えっ、放置!?」
    「好きやろ? 放置」
    「~~~!!」
    もちろん、放置されるのは大好きだ。
    モノになる時間。無力感でいっぱいになる時間。
    いつまで放置されるのか、彼の思いのままなのがイイ。

    「そや。これ、欲しいか?」
    「欲しい」
    彼は電動のディルドーを出して見せ、あたしは即答した。
    それはあたしの中に挿入されて、抜けないように縄で固定された。

    バスルーム緊縛放置

    そのまま放置された。
    暴れるディルド。撓る縄。
    あたしは延々と声を上げ続け、脂汗と涎と愛液をぽたぽた滴らせながらもがいた。
    途方もない被虐のエネルギー。
    頭の中が真っ白になった。

    ・・

    ヒデが戻ってきて縛めから解放してくれた。
    あたしは1時間ほど置かれていたらしい。
    彼の腕の中でたっぶり泣いた。
    この上もなく幸せだった。

    それからベッドの上で3回セックスをした。

    9.
    翌朝。
    あたしは早起きした。

    窓際に立ってカーテンを開けると、朝日に照らされてきらきら光る海が見えた。
    うーん、今日もいいお天気!
    とても気分がよかった。
    いいセックスをした次の日は、いつも調子がいいのだ。
    反対に彼は、セックスに励んだ次の朝はいつも寝坊する。
    あたしが彼の精気を吸い取っている?
    うん。否定はせえへんよ。

    まだ目を覚ましそうにない彼を横目に、あたしは彼のスマホを手に取った。
    昨夜のあたしの写真を見る。
    ガラス越しの入浴シーン。
    そして緊縛されて吊られた姿。

    顔が分からない写真を何枚か選んで自分のスマホに転送した。
    ディルドーまで写ってるけど、まあいいか。
    記事を書いて、ブログにアップする。
    うふふ。
    美沙のブログ、沖縄リゾートホテルの調教編。

    すぐに読者からコメントが入り始める。
    こんな朝からブログを読んでくれる人がいて嬉しい。
    『素敵な主様のいる美沙さんが羨ましいです』
    『縄をかけられた美沙さん、はっとするほど美しいですね!』
    『美沙さんが搾ったマンゴージュース、僕も飲みたいです』

    スマホの画面を見ていると、ようやくヒデが起きて声をかけてきた。
    「早いな」
    「うん。ブログの記事を書いてた」
    「俺も見てええか?」
    「うん、どうぞ」

    続き




    リゾートホテル(2/2)

    9.
    [美沙のブログ]
    ホテルのお部屋はオーシャンビューの15階でした。
    でも、わたくしにはゆっくり景色を眺めることは許されていません。
    主様が窓際で外をご覧になっている間に、準備をいたします。
    スーツケースから主様がお使いになる縄束や責め具を出してベッドに並べ、着ていた服を下着まですべて脱ぎます。
    そうして主様の後ろに三つ指をついて正座し、主様がこちらを向いてくださるのを待つのです。
    このお部屋にいる間、わたくしはずっと全裸で主様にお尽くしするのです。

    やがて主様が腕組みをしたままこちらを向かれ、わたくしはカーペットに顔をこすり付けて土下座をいたします。
    背中に靴を履いた足がのり、ぐりぐりと押さえつけられました。
    その痛み。
    主様の体重を背中に感じるだけで、わたくしの中は幸福感でいっぱいになるのでございます。

    ・・

    夕食は最上階のレストランでいただきます。
    わたくしは、素肌の上に赤い超ミニのワンピースとミュールだけ着用させていただけました。
    肩と腕、そして背中をばっくり見せるドレスです。スカート丈は膝上25センチ。
    スカートの下に下着はお許しをいただけません。
    ほんの少し下から覗くだけで、わたくしの恥ずかしい部分はまる見えです。

    レストランに来ると、一斉に視線を受けるのを感じました。
    いくら沖縄でもこの季節にこれほど肌を出す女はいません。
    ・・露出狂。
    ・・変態女。
    人々の眼がそう語っているようです。
    わたくしの顔は羞恥で真赤になりました。
    思わずその場にしゃがみ込んでしまいたくなります。
    でもそんなことをしたら、今度はスカートの中がノーパンだと知られてしまうでしょう。
    何とかお食事を済ませましたが、人々の視線と下着をつけていないことばかりが気になってほとんど味も分からなかったのでございます。

    ・・

    客室に戻り、いよいよ本格的な責めが始まりました。
    わたくしはバスルームで主様の縄をいただきました。
    後ろ手に縛られて、シャワーの熱湯と冷水を交互に受けるのでございます。
    とろとろになった秘所を指で攻め立てられ、自分で立つこともできなくされました。

    わたくしの腰が立たなくなると、今度は吊り上げられました。
    自分で脚を閉じることもできず、すべてを主様の前にさらけ出した状態です。
    どこでご用意されたのでしょうか、主様は小さくサイコロ状にカットしたマンゴーをお皿いっぱいに持ってこられました。
    そしてニヤリとお笑いになると、それを一つ取って、わたくしの下の口の中に押し込まれたのです!
    いったい、何をなさるおつもりなのでしょうか?

    わたくしの中によく冷えたマンゴーがひとかけらずつ入っていきます。
    膣口から溢れるまで詰められると、さらにスプーンで潰しながら押し込まれました。
    大変な圧迫感です。
    用意したマンゴーを全部入れてしまうと、栓をするように電動のディルドーを挿され、抜け落ちないように縄で固定されました。
    「美沙はジューザーだ」
    え、まさか?

    主様がリモコンのスイッチを入れると、音をたててディルドーが動きました。
    「あああぁぁ!!」
    わたくしの下半身はがくがくと揺れ、かき混ぜられました。
    マンゴーが潰れ、黄色い果汁がどくどくと流れて滴ります。
    主様はそれを器用にグラスでお受けになるのでした。

    滴りの量が減ると、ディルドーを強く押し込まれました。
    再び果汁が勢いよく溢れます。
    わたくしは搾汁器となってジュースを絞っているのです。
    「は、はぁ、ああああぁ~っ!!」
    果汁の滴りが完全に尽きるまで何度も何度も搾らされました。
    わたくしは息も絶え絶えになり、やがて嵐のような快感と恥辱の中で意識を失くしたのでございます。

    ・・

    朝になって目覚めると、わたくしは綺麗に洗われてベッドに寝ていました。
    身体中に縄の痕が刻まれています。
    それをそっと撫でては幸せな気持ちになる、メス奴隷の美沙なのでした。

    主様がよく冷えたマンゴージュースを出してくださいました。
    わたくしの肉体を使って搾った果汁を、冷蔵庫で冷やしてくださっていたのです。
    それは濃厚な甘みの中にほんの少し女の匂いが感じられました。
    そう、これはアップルマンゴー果汁にわたくしの愛液をブレンドした100%ミックスジュースなのです。

    「今夜はパイナップルでも搾るか。ディルドーの替りにゴーヤーを使うのはどうかな?」
    主様の言葉に、それが冗談と分かっていても、つい想像して顔を赤らめてしまうわたくしでございました。


    10.
    記事を読んだヒデが言った。
    「ぜんぜん違うやないか」
    「そう? 多少は脚色してるけどね」
    「どこが『多少』や。だいたいマンゴージュースって何やねん。お◯こでマンゴーが搾れるんか」
    「ええやないの。マゾ女のちょっとした夢よ、ユメ」
    「ホンマにして欲しいんか?」
    「してくれるの!?」
    「そやな。ミサがマンゴー買うてくれたら」
    「嫌やぁ、あんな高いもん」
    「ホンマに勝手なことばかり言うんやから・・」

    彼はしばらく怒ったような顔をしていたが、やがて笑ってくれた。
    「よし。ならマンゴー買うたる。それでお前のあそこでジュース作ったる」
    「本当?」
    「ただし、今日一日、俺のこと『主様』って呼んでくれたらな」
    「えええ~!、それはできへん、絶対ムリ」
    「お前なー」



    ~登場人物紹介~
    ミサ: 22才。パートナーとの主従生活をブログで公開している。ネット上の名前は美沙。マンゴー大好き。
    ヒデ: 22才。ミサのパートナー。高校時代は同級生。


    寒さが続きますね。皆様お元気でおいででしょうか。

    ネットには濃密な主従関係を公開するM女性のサイトがいくつもあって、私もいつも興奮させられています。
    今回はそんなサイトを運営する女性とそのパートナー男性が南の島のリゾートホテルで過ごす夜の出来事です。
    『SはサービスのS、Mは身勝手のM』 とは今までもネタにしてきましたが、今回の彼女もなかなかに身勝手なM女となりました^^。

    マンゴーを女性の性器で搾る設定は、かつて同様に葡萄のジュースを作るSM小説を読んだことから応用しました。
    現実にはそう簡単にジュースが搾れる筈もないでしょうが、ファンタジーとしては楽しいですよね。
    こんなふうに搾汁器として使われたい女性がいてくださったらいいなと思います。

    ありがとうございました。




    俺とヒメノの生徒会事件簿(1/4)

    1.[事件]
    クラブの練習が延びて、いつもより遅くなってしまった。
    帰宅を急ぐ自転車のスピードも早めである。
    女子パスケットボール部の主将をするだけあって、身長177センチの体躯から伸びる手足は長くてしなやかだった。
    気温は3度。
    真冬の冷気の中でも、防寒具といえばブレザーの制服の首に巻いたマフラーと薄い手袋だけ。
    半ば立ち漕ぎでぐいぐい走るから、制服のミニスカートが翻って生足が夜目に眩しい。
    公園に面したひと気のない道路にさしかかったときだった。
    薄暗がりの中に人影がうずくまっているのが見えた。地面に手をついて苦しそうに咳き込んでいる。
    「大丈夫ですか!」
    自転車から降りて、人影の脇に駆け寄った。
    その人物は、紺のコートを着て、毛糸の帽子をかぶっていた。
    「具合、悪いんですか!?」
    その人物がぬうっと立ち上がってこちらを向いた。
    目にはサングラス、口に白いマスク。
    あれ?
    黒い手袋をした手がこちらに伸びてきた。その手に白いガーゼ。
    ふ、と意識が遠のいた。


    2.
    ここは五十日(ごとび)高校、生徒会室。
    「美樹本さん、いる?」
    英語科で生徒会顧問の大谷先生が入ってきた。
    「生徒会長はまだです」
    俺は読んでいた本から顔を上げて答える。生徒会室には副会長の俺しかいなかった。
    「そのようね。・・じゃ、これ、今度の卒業式の次第。送辞の原稿で相談したいからって、伝えといてね」
    「分かりました」

    大谷先生が出て行った後、俺は足元のスポーツバッグを軽く蹴った。
    長さ80センチ、幅と高さが30センチほどの、ごく普通のバッグ。
    「聞こえただろ。そろそろ出てこいよ」
    「・・もうちょっとだけ、こうしてた~い」
    バッグの中から声がした。
    「でも、恵那原さん達、もうすぐ来るぜ」
    「・・分かった。開けて」
    俺はポケットからキーを出すと、それでスポーツバックのジッパーに付いた南京錠を開けて外した。
    ジッパーをほんの少しだけ動かしてあげる。
    「後は、自分でやって」「うん」
    ジッパーが動いて開いたほんの1センチほどの隙間から、人差し指が出てきた。
    その指がジッパーを押して、さらに何センチか隙間を広げる。
    続いて親指も出てきてジッパーのつまみを摘んだ。
    そのまま、じーっと中からジッパーを開いた。

    開いた口から、小さく折り畳まれていた二本の足がにょっきりと生えてきた。
    白いソックスを履いた女子高生の足。
    それが真上にぴんと揃えて伸びたかと思うと、左右180度に開脚する。
    制服のスカートがめくれ上がってパンツからおへそまで丸出しになっているが、それを気にする風もなく、両方の足の甲を床に密着させて静止した。
    「もういいよ、ヒメノ」
    俺が言うと、その足は再び真上に閉脚し、軽く反動をつけて手前に回転した。
    バッグから女子高生の上半身が現れる。
    ショートボブの髪が少し乱れていた。
    「気分はどうだい」
    「うふ」
    そいつは俺の質問には答えずに、とろんとした顔で言った。
    「めがねー」
    俺が預かっていた眼鏡を手渡すと、そいつはそれを顔にかけた。
    立ち上がって、バッグから上履きを出して履いた。
    身長が140センチほどしかないから、直立しても椅子に座った俺とそれほど変わらない高さだ。
    俺に向うと、俺の肩に両手を乗せて顔を近づけてきた。
    「ん」
    短いキス。
    「何分入ってた?」「15分くらいかな」
    「次は2時間は詰めて欲しいなぁ」
    「生徒会室では無理だって」
    「じゃ、ジュンジの部屋で」「おいおい」

    こいつは、バッグから出てきた後はいつも変になる。
    本人によると『スイッチ』がなかなか切れてくれないのだという。
    以前はスイッチが入った自分が恥ずかしくて嫌悪感まで感じていたそうだけど、俺が「ヒメノはヒメノらしくすればいい」って言ったら、自分を隠さなくなった。
    「・・さっき、ジュンジのためにスプリットやったげたんだよ。ショーツ濡れてるの、見えた?」
    スプリットとは両足を180度以上に開いて見せるコントーション(柔軟芸)の技だ。
    「見てないよ」
    「そうなの? なら触って確かめる?」
    「アホ」
    まったく、普段の真面目くさったこいつしか知らない連中に、この顔を見せてやりたいものだ。

    がらがら。
    「遅くなってすみませ~ん!」
    生徒会室のドアが開いて、会計で2年生の根本理花さんと書記で1年生の恵那原いぶきさんが駆け込んできた。
    「いいのよ。私も今、来たばかりだから」
    そいつ、生徒会長の美樹本姫乃(みきもとひめの)は何事もなかったように涼しく微笑みながら応えた。

    3.
    会計と書記の名前で分かったと思うが、我が生徒会役員は俺以外は女子が3人という、どこかのライトノベルに出てきそうな構成である。
    俺にとってはハーレム状態といえなくもないが、だからといって根本さんや恵那原さんとは何も起こることはないから、決して期待しないで欲しい。
    まずは、俺とヒメノのなれそめから話を始めよう。
    俺は佐田淳司(さだじゅんじ)。五十日(ごとび)高校2年生で、生徒会副会長。
    そしてヒメノは同じクラスで生徒会長、そして俺の彼女だ。

    ヒメノはまるで小学3~4年生くらいにしか見えない貧相な体をしているが、柔らかさは抜群だ。
    小学生までは体操教室に通っていた。
    けれど、飛んだり跳ねたりする体操が性に合わず止めてしまったらしい。
    本人は言わないけれど、まわりの子の身長がどんどん伸びる中、自分だけチビなまま一緒に体操をするのが嫌だったのかなと俺は思っている。
    中学2年で転校してきたときは、地味な黒縁の眼鏡をかけて、無口で目立たない女子だった。
    ただ、入ってきたクラブが俺と同じ文芸部。そして当時の中学の文芸部部員は俺一人だったのだ。
    俺とヒメノは妙に趣味が合った。
    SF小説が好きで、A・C・クラークを愛読していること。
    毎週必ず探◯ナイト◯クープを見ていること。
    ドレッシングよりマヨネーズ派で、さらにカレーライスは全部混ぜてから食べること。
    そんな訳で二人はクラブ以外でも一緒に遊ぶようになった。
    中学生のことだから、せいぜい映画を見たりスケートに行ったりする程度のもんだったけれどもね。

    あれはシンプソン・サーカスが日本に来たときのことだった。
    中学3年になっていた俺達は、ヒメノの誘いでサーカスを見に行った。
    そこで俺は初めてコントーションというものを知ったのである。
    一番安い切符を買ったから、ステージまでは少し遠い席だった。
    それでも、薄いレオタードを着けて艶かしく踊る出演者がよく見えた。
    その女性は、信じられないような柔らかさで、開脚したり、体を逆海老に反らして自分の足を肩にかけたり、さらに反って膝で自分の頭を挟んだりした。
    そして最後に、小さなガラス箱の中にぴったり収まってにっこり笑ったとき、俺は明らかに興奮した。
    ほんの少しだけど、そのときその人が箱に閉じ込められているような気がした。
    ヒメノはコントーションに詳しかった。
    目をきらきらさせて、いちいちあれはスプリットだのバックベンドだの技の名前を教えてくれた。
    どうやらこのサーカスにコントーションがあることを知って俺を誘ったみたいだった。

    サーカスからの帰り。
    ヒメノはまだコントーションの話をしていた。
    「コントーションってね、中国の雑技団にもあるんだよ。私達と変わらない女の子が出るの」
    「へぇ」
    「小さいうちから、すごく訓練して体を柔らかくするらしいわ。無理やり柔軟のポーズをとらせて鍛えるの」
    「どんなふうに?」
    「何かね、ベンチみたいな長い台に仰向けに寝かせて、片方の膝を台に縛り付けるの。それで反対の足をほっぺたにつくまで開かせて、そっちの足首も台に縛る。・・泣いても叫んでもそのまま何時間も放置されるんだって」
    「うわ、地獄の特訓だ」
    「すごいよねぇ。もし私がそんな風にされたら、どうなるかしら」
    「・・」
    「・・あっと、もしかして私、一人で喋りすぎたかしら」
    「構わないよ。俺、美樹本さんがそんなによく話すとは思わなかった」
    「佐田くんと一緒だと話し易いからかな」
    「コントーションが好きなんだね」
    「まあね。佐田くんはコントーション、面白かった?」
    「うん、よかったよ」
    「そう? どんなとこが?」
    「んー、女の人が小さな箱に入ったときとか、まるで閉じ込めたみたいで面白かった」
    「!」
    ヒメノは急に顔を赤くした。もじもじしながら下を向いている。
    いけね。閉じ込めるのが面白いなんて、女の子に言うことじゃないか。
    俺は話題を変える。
    「ねぇ、美樹本さん。昔、体操やってたんだよね。だったら、」
    「あ、私無理だよ、あんなすごいこと」
    「そうなの? ちょっと残念だな、なんて」
    「ごめん」
    「いいよ」
    「・・見たいの?」
    「見たい」
    「・・前後開脚くらいならやれると思うけど」
    「ホント? すごい!」
    「全然すごくないよ。ちょっと体操する子なら誰でもできるから」
    ヒメノはそう言うなり、両足を前後に開いてお尻を地面につけてみせた。
    ジーンズを穿いた足がすっと伸びる。
    「ほら。それで、このまま上体をつける・・」
    上半身が前に倒れて、本当にぺちゃんこになった。
    おお~っ。
    ぱちぱちぱち。一斉に拍手が起こった。
    驚いて顔を上げた俺達の回りを通行人が囲んでいた。
    ヒメノは、地下鉄のコンコースで180度開脚を披露したのだった。

    4.
    ヒメノはあっさり白状した。
    彼女は自宅で柔軟のトレーニングをしている。
    体操クラブに戻るつもりはないけれど、体の柔らかさを維持するため一人で練習しているという。
    俺は初めてヒメノの家に行って見せてもらうことになった。

    ヒメノの部屋は、赤いカーテンとベッドにかかったピンクのシーツが女の子らしい雰囲気だった。
    部屋の隅に置いてある黒いクーラーボックスがちょっと不似合いだったけれど。
    「じゃーんっ」
    待っていた俺の前に、レオタードに着替えたヒメノが登場した。
    長袖で胸ぐりもあまり開いていない練習用のレオタードだけど、下は割とハイレグでそこから素足を出していた。
    「ごめんね、ガキの体で」
    「いいさ、けっこう可愛いよ」
    「ホント? お世辞でも嬉しい」
    確かに子供っぽい体だった。
    身長が低いだけでなく、胸はぺたんこ、腰もお尻もずんどう、足も小学生の男児みたいに細くて、ぜんぜん色気がなかった。
    レオタードも小学生のときのものをずっと着ているという。
    まあ、中学3年になって小学3年生のレオタードがそのまま着れるというのがスゴイ訳だが。

    ヒメノは眼鏡を外して置くと、まっすぐ立って深呼吸をした。
    足がすっと左右に開き、左右180度開脚で腰が床についた。
    そのまま床に手をつき、両足を後ろに回す。
    うつ伏せに寝ると、膝を折り、左右の手でそれぞれ足首を掴んだ。
    その手首と足首がすっと持ち上がって、逆海老のポーズになる。
    ヒメノは床にお腹だけをつけてバランスをとっていた。
    細い腰が90度以上に折れ曲がっているのが見えた。
    「うわぁ、すごいよー」
    俺は感心して拍手した。

    ヒメノはいろいろなポーズを見せてくれた。
    俺は胸がどきどきするのを感じた。
    遠く離れたステージを見るのと違って、すぐ目の前で同い年の女の子がするコントーションは生々しかった。
    いくら子供っぽい体とはいえ、息遣いや毛穴の一本一本まではっきり分かるのだ。
    と、俺に向かって両足ががばっと開いた。
    手を伸ばせば触れてしまうところに、開脚した太ももの内側、そしてその間にレオタードの細い布地に覆われた股間があった。
    そこはほんの少し盛り上がっていた。
    俺ははっきり性的な興奮を感じた。

    「ま、こんなとこ」
    ヒメノは床に座り込んで笑った。
    「男の子に見てもらうなんて、初めてなんだからー」
    「ありがとう。・・美樹本さんは、その、コントーショニスト、になりたいの?」
    「そういうつもりはないんだけどね」
    「美樹本さんだったら、なれるんじゃないかって思ったよ」
    「そんなに簡単じゃないんだから」
    「ふーん」
    話していると、ふと部屋の隅のクーラーボックスが目に入った。
    俺の家にも似たのがあったから分かる。40リットルか50リットルくらいの大型ボックスだ。
    あのサーカスで箱に入った女の人の姿を思い出した。
    「ね、美樹本さん、あの中に入れるんじゃない」
    「え」
    今まで笑っていたヒメノは俺が指差すクーラーボックスを見るなり、急に落ち着きをなくした。
    「あ、その、・・どうして」
    「理由なんてないけど、ほら、サーカスのとき小さな箱に入ってでしょ。美樹本さんだったら簡単に、」
    「わ、私を、閉じ込めたいの?」
    「え」

    ヒメノはふらふらと立ち上がると、クーラーボックスを持ってきた。
    蓋を開けると、なぜか折り畳んだバスタオルが入っていた。
    バスタオルを広げてクーラーボックスの中に敷き直す。
    「こうしないと、痛いから」
    何だか様子がおかしい。顔を赤くしている。
    ・・そうだ。サーカスの帰りに、箱詰めの話をちょっと出したときにした、あの顔だ。
    「美樹本さん・・?」
    「じゃ、入るね」
    ヒメノはクーラーボックスの中にするりと入り込んだ。
    右の肩とお尻を入れてボックスの中で横向きになると、右の膝を頬に引き寄せて丸くなり、顎を引いて後頭部もボックスの中に入れた。
    左足だけが外に出て、全体の具合を確かめるように、膝を曲げたり伸ばしたりしている。
    やがてその左足も爪先から隙間に押し込むように収納して、体全体がクーラーボックスの中に収まった。
    まるで毎日やっているみたいに、とてもスムーズな入り方だった。

    俺は何も言えずに見ていた。
    心臓がどきどき鳴っていた。

    「・・入ったよ」ヒメノが言った。
    「もしかしていつも入ってるの?」
    「・・うん」
    「驚いたよ」
    「佐田くん」
    「はい」
    「お願いがあるんだけど」
    「何?」
    「・・蓋、してくれる」
    !!
    「蓋して、中から開けれらないようにして」
    「いいの?」
    「今まで、私一人じゃ、絶対にできなかったことだから」
    「・・」
    「佐田くんがいてくれるから、頼めるの。・・お願い、私を閉じ込めて」
    「い、いつまで」
    「好きなだけ。佐田くんがもういいと思うまで」

    俺は黙ってクーラーボックスの蓋を取り上げた。
    それを上からはめ込んだ。ばちばちと周囲の止め具を固定した。
    俺はヒメノを閉じ込めた。
    ヒメノを閉じ込めて、黙ってクーラーボックスを見下ろした。
    この中でヒメノが何を感じているのか、想像した。
    我慢しきれずに自分の股間を押さえた。そこは痛いくらいに勃起していた。

    5.
    それからは、ヒメノの部屋に行く度にヒメノを閉じ込めるのが習慣になった。
    使うのはクーラーボックスだけではなかった。
    スーツケースやダンボール箱など、ヒメノが「今日はこれ」と言って準備したものを何でも使った。
    ダンボールは鍵がないから、ヒメノの希望で、蓋にガムテープを貼って固定した。
    最初は1分にも足りなかった閉じ込め時間も、だんだん長くなって1時間近く放置するようになった。
    ヒメノは自分からは絶対に出してくれと言わなかった。

    俺達は互いを苗字ではなく、名前で呼び合うようになった。
    ファーストキス、そしてセックスは中学3年の夏休みのことだった。
    まぁ、中学生のうちは、俺達付き合ってますなんて人に言うのは気恥ずかしくて、ずっと秘密にしてたけどね。
    ヒメノは、箱を開けると必ずとろんとした顔をして出てくる。
    俺は彼女の『スイッチ』が切れて落ち着くまで、ヒメノを抱いたりキスしてあげたりする。
    本人は否定するけれど、俺と出会うまでヒメノは箱の中でオナニーもしてたんじゃないかと思う。

    ヒメノは幼い頃から狭い場所が好きだった。
    押入れの隅、衣装ケース、布袋。
    自分でも我慢できない衝動にかられると、目についたあらゆる狭い空間に入り込んでいたという。
    コントーションの箱入り(enterology)を知ってからは、はっきりと自分の嗜好を理解した。
    限界まで体を小さく折り畳んで、極小の空間に閉じ込められる。
    簡単に出入りできるだけでは満足できない。閉じ込められて、脱出できない実感が欲しいのだ。
    一人で極小の空間に収まっていると、自分がモノみたいになった気がする。
    このままいつまでも動けなくされていたい。小さく小さく、小さくなっていたい。

    小学生の頃は自分がチビで大きくならないことが不満で悔しかった。
    けれど、今は人並み外れて小さいことに感謝していると、ヒメノは言った。
    それは、普通の人では入れない空間に入れるから。
    だから体操を止めた今も柔軟訓練を頑張って、体を柔らかくしている。
    ヒメノのコントーションの目的は、可能な限り小さな空間に閉じ込められることなのだ。

    こうして恋人同士になった俺とヒメノは、中学を卒業して、同じ高校に上がった。
    二人は同じクラスになり、最初から付き合っていることを宣言して公認のカップルになった。
    ヒメノは見違えるように明るく活発になっていた。
    眼鏡も大きな丸眼鏡に替わっていた。
    自分の体が小さいことも恥ずかしがらないで、クラスの自己紹介では「ミニモトって呼んで下さい~♥」なんて言っていた。
    声だけは大きくて誰とでも仲良くしたから、すぐにクラスのまとめ役みたいな立場になり、校内でも身長140センチのミニモトちゃんとして知らない者はいなくなっていた。
    そして秋の生徒会役員選挙に立候補。1年生で副会長になってしまった。
    高2の今は改選されて会長になり、俺まで生徒会に引き込まれているのである。

    続き




    俺とヒメノの生徒会事件簿(2/4)

    6.[事件]
    駅前から商店街を抜けて国道に出た。
    肩にかけたチューバのケースが重い。
    いつもは学校に置いているのだが、ブラスバンドの発表会が近いので週末に公園で練習するつもりで持って帰ってきたのだ。
    すっかり日が暮れていた。
    行き交う車のヘッドライトに照らされながら歩道を歩く。
    神社の前に来ると、鳥居をくぐって境内に入った。
    車道を歩いて行くより、こちらの方が5分ほど近道になるのだ。
    真っ暗な境内は少し怖いけれど、楽器が重くて早く帰りたかったから、我慢して早足で歩く。
    境内を抜けて裏手の駐車場に出た。
    明るい照明灯の下でほっとする。
    数台駐車している自動車の脇を通り過ぎようとしたとき、目の前に黒い人影が現れた。
    サングラスとマスクで覆われた顔。
    !!
    悲鳴を上げる暇もなく、口元にガーゼを押し付けられた。
    目の前が真っ暗になった。


    7.
    「・・はぁ」
    ヒメノが小さく喘いだ。
    前屈して首を膝の間に入れた状態で、足首と脛を紐で縛られている。
    これでは足が開かないから、ヒメノは膝に挟んだ頭を抜くことができない。
    手首は後ろで合わせて縛った。
    仰向けに転がして、腰の下に枕を押し込んだ。
    これで背中の手首を痛めることはないだろう。

    ここはヒメノの部屋で、ヒメノはベッドの上。
    制服を着ているけれど、二つに折り畳まれているから腰から下はパンツが丸出しだ。
    俺はその隣にどしんと腰を下ろし、ヒメノの股間に右手を乗せた。
    ヒメノの体がびくんと震えた。
    「どう?」
    「ん、・・いい」
    「人気の生徒会長が、実は縄で縛られて喜ぶマゾでしたなんて、知れたらどうなるかなぁ」
    「あぁん、・・いじわる」

    俺はヒメノを縛る練習をしていた。
    ヒメノも元々マゾの気は十分だから、喜んで縄を受けている。
    緊縛は気分転換にするだけで、一番はやっぱりヒメノを閉じ込めることだったけれどもね。

    「それで、大谷先生から詳しく聞いたんだろ?」
    「その話をこの状態でする?」
    「いいじゃないか。ヒメノはもう俺の思いのままなんだぜ。それが嬉しいんだろう?」
    「・・はい」
    「なら、このまま、だよ」
    「あぁ・・」
    ヒメノは少しの間、まるで何かを我慢するかのようにぎゅっと目を閉じた。
    俺の右手の下で、体中の筋肉にもぎゅっと力が入るのが分かった。
    ヒメノの気持ちが伝わる。
    ものすごく愛しくなって抱きしめてあげたくなったけれど、ここはぐっと我慢する。
    やがてヒメノは少し落ち着いて話を始めた。
    「被害にあったのは、2年生でバスケ部の外川清良(とがわきよら)さん、もう一人は2年生吹奏楽部の奈良井千鶴(ならいちづる)さん」
    「我が校の誇る美女二人か」
    「うん。二人とも、下校の途中で一人だけのときにさらわれたみたい」
    「そうか。だから先週からできるだけ一人だけで帰るなって言われてるんだな」
    「でも、みんな家が違うんだから最後は一人になるのよ」
    「そうだね。場所は学校の近くじゃないの?」
    「違うわ。どっちかと言うとそれぞれ二人の自宅の近く」
    「じゃあ、」
    思わず右手に力が入った。
    これは偶然であって断じて意図したことではないが、俺はパンツの上からクリトリスの辺りを中指でくいっと押さえてしまった。
    「はんっ!!」
    「おっと、ごめんごめん」
    「び、び、敏感になってるんだからねっ。注意してよ!」
    「はいはい」
    「はぁ~」
    ヒメノは深呼吸、といってもこの姿勢でどれだけ空気を吸えるのか疑問だけど、ともかく深く息をついて話を続けた。

    「どっちも同じ犯人だとしたら、最初から通学のルートを調べて待ち伏せされてたって可能性が高いわね」
    「そうだね。・・それで二人はどうやって発見されたの?」
    「二人とも次の日に見つかってるわ。外川さんは公園の公衆トイレ、奈良井さんは神社の本殿の中で、風邪引かないようにだと思うけど、毛布に包まれて眠ってたんだって」
    「盗まれた物はあったの? それとも乱暴されたとか?」
    「何もないの。念のために婦人科でも調べてもらったんだけど、乱暴の痕跡も一切なかったって。・・ただし」
    「ただし?」
    「二人とも、体に縄で縛られた痕が残っていたの」
    「それは、さらうときに縛ったんだろ?」
    「そうじゃないの。腕と足だけじゃなくて、全身に縄の模様がくっきり残っていたの。お腹とかおっぱいの回りにまで。警察の人が言うには亀甲縛りって言ってマニアックな緊縛だって」
    「本人達はどう言ってるの?」
    「二人とも何も覚えてないのよ。縛られている間はずっと眠っていたんだろうって」
    「何、それ」

    俺だって亀甲縛りがどんなものかくらいは知っている。
    いわゆる緊縛マニアってやつの仕業だろうか。
    いったいどういうつもりでそんなことをするんだろう。
    俺と同じように緊縛の練習?
    そんなことをしなくても、亀甲縛りができる腕なら、縛られせてくれる人くらい困ってないんじゃないか。
    眠っているうちに縛って、すぐに解放したのは何故だろう?
    緊縛の画像か動画を撮って、それを売るのか?
    あまり意味がないよな。ネットには自称JKの緊縛画像なんていっぱい溢れてる。
    まして目を閉じて寝てる女の子の緊縛写真なんて、俺なら欲しいと思わないな。
    でも誰かに恨みがあって、その見せしめにいつでも誘拐して緊縛できるぞって脅すためなら、効果はあるな。

    「・・ぁ、・・ぁ」
    俺は考え続ける。
    そうか、脅迫か。
    どこかに脅迫されている人がいるんじゃないか。
    「・・あぁ、・・はぁ」
    一つはっきり言えることは、まだ誰か女子生徒が狙われるってことだ。
    見せしめだから、前の二人と同じくらい校内で名前が知れた女子。
    「・・あぁっ、・・あぁっ」
    「ね、きっと誰かがまた誘拐されるはずだね。・・ヒメノ、どうしたの?」

    ヒメノは一定の間隔でびくびく震えながら声を出していた。
    「・・あぁんっ、・・はぁあんっ」
    その周期は、俺の中指の動きとシンクロしているのに気がついた。
    これまた決してわざとではないのだが、俺は、無意識に先ほどと同じ場所を中指でとんとん叩いていたのだった。
    「や、これは、ごめんごめん」
    ヒメノの股間はパンツの上からでも分かるくらいに、とろーりと濡れていた。
    「ばかぁっ」

    その後、俺は3回、ヒメノにベッドで奉仕させられた。
    ヒメノは小さいくせにそっちのパワーはものすごかった。
    3回目が終わって、俺はようやくヒメノに許してもらうことができた。

    8.
    「先生、例の事件について相談したいことが」
    次の日、ヒメノは生徒会顧問の大谷先生に俺達の意見を報告した。
    先生はすぐに理解してくれたけど、勝手なことはするなと釘をさされた。
    この事件のことは、誘拐された生徒の名前を含めて一切公表されていない。
    「また誰か誘拐される可能性があるなんて公表したら、生徒も保護者も大騒ぎになるわ」
    その通りだった。

    「なぁ、俺達、何もできないのかな。また誰かが誘拐されるって分かってても」
    「難しいわね。生徒会でどうにかできることじゃないし」
    俺とヒメノは駅からの道を並んで歩いていた。
    出身中学が同じだから、通学で乗り降りする駅も同じだ。
    いつも学校の帰りは二人で一緒に帰って来て、駅からの途中で分かれることになる。
    そのとき俺は気がついた。
    少し後ろから、夜道をねずみ色の軽自動車がゆっくりついて来ることに。
    その車はヘッドライトは消して、スモールライトだけ点けて走行していた。

    「なぁ、よく考えたら、ヒメノって学校じゃ超有名人だよな」
    「そうかなぁ。生徒会長だから?」
    「それもあるけど、超小さいミニモトさんだからだよ」
    「そう? えへへ」
    「何喜んでるの。・・ちょっと確かめよう」

    俺達は近くにあったコンビニに入った。
    店内で10分ほど過ごして出てくると、駐車場にあの軽自動車が停まっていた。
    暗くてはっきり見えなかったが、運転席に誰かが座っている。
    「あの車?」「直接見ちゃダメだ」
    俺達は軽自動車の前を通り過ぎて道路に出る。
    軽自動車が再び動き出してついて来るのが分かった。
    「ジュンジぃ、どうしよう~」
    「心配しないで。俺がついてるから」
    俺達は小声で相談しながら歩いた。

    やがて俺とヒメノがいつも別れる交差点にやってきた。
    「じゃ」
    「うん、バイバイっ」
    ヒメノは手を振って歩いて行く。
    俺は20メートルほど歩いてから振り返った。
    軽自動車はヒメノの後について行く。やっぱり!
    俺は引き返して、ヒメノと軽自動車の後を目立たないように追跡する。
    後ろから見ると軽自動車の黄色いナンバープレートが照明に照らされてはっきり見えた。
    この犯人、アホだ。
    俺はスマホのカメラでナンバーを撮影する。盗難車だったらどうしようもないんだけどね。

    襲われるならきっと、あそこだ。
    俺とヒメノが予想した場所、それは人や車の往来がほとんどなくて、照明もない、両側を塀に挟まれた細い道だった。
    犯人が俺達の通学路を調べているなら、きっとそこで犯行に及ぶはずだ。
    ヒメノが道を折れて、その細い道に入っていった。

    俺はすぐにダッシュする。
    軽自動車もヒメノについて入って行くのが見えた。
    大きなエンジンの音。振り返ったヒメノの姿がヘッドライトに照らされる。
    軽自動車はヒメノを追い越すと、進路を塞ぐようにして止まった。
    ドアが開いて飛び出してきた人物が両手を広げてヒメノに襲いかかった。
    そのとき、ヒメノの姿が犯人の前から消えた。
    慌ててきょろきょろ見回す犯人。
    ヒメノは普通の人間ならありえないような角度で腰を後ろに曲げ、両手を地面についてブリッジしていた。
    「待て~!」
    俺が大声で叫びながら走って行くと、そいつは「わ」と叫んで自動車に乗り込み、ライトを全部消して走り去った。

    「ヒメノ! どうもないか?」
    「大丈夫。・・でも起きれなぁい」
    ヒメノは不思議な姿勢で潰れていた。
    膝から下と肩を地面にぴたりとつけて、腰の部分だけが浮き上がって鋭角に折れ曲がっている。
    肩の上にあるはずの首が見えない。
    「ヒメノ、頭はなくなっちゃったの?」
    「あ、あるよぉ~」
    背中を支えて分かった。
    ヒメノの首は背中の方に折れていた。
    ヒメノはバックベンド(逆海老)の姿勢で、首を自分の足首の間に挟んでいたのだった。

    助け起してあげると、ヒメノの目に涙が浮んでいた。
    「よく避けたね。偉い偉い」
    「怖かったぁ」
    「怖くない怖くない」
    俺はヒメノを抱きしめてあげる。
    「き、きすも」
    「よしよし」
    うす暗がりの道路で、俺達は顔を近づけてキスをした。

    9.
    俺が撮った車のナンバーから、あっさり犯人が判明した。
    指名手配されて即日逮捕されたのは、失業中の梅田という男だった。
    梅田は名の知れたアマチュアの縄師だった。
    外川さんと奈良井さんを誘拐し、全裸にして緊縛したのも梅田の犯行だった。
    警察が押収したデジカメには、二人の緊縛写真が何百枚も記録されていた。

    事情聴取によると、梅田は電車の中で五十日高校の女生徒に痴漢と間違われて逮捕されたことがあった。
    裁判の結果は無罪だったけど、それで勤務先を解雇され、五十日高校の生徒に恨みを抱いていた。
    もう4年も前の事件で、当時の生徒は卒業していなくなっていたから、現役の生徒を狙ったという。
    ヒメノの全裸緊縛写真を撮ったら、先の二人の分を含めて、ネットに公開するつもりでいたそうだ。
    犯人逮捕に功績があったとして、俺とヒメノは警察から表彰状をもらった。
    ただし外川さんと奈良井さんのことも考えて、これらのことは一切発表されず、生徒の間で知っているのは生徒会役員メンバーだけに留まった。

    続き




    俺とヒメノの生徒会事件簿(3/4)

    10.
    俺とヒメノは3年生になった。
    進級したといっても生徒会役員の任期は11月から翌年の10月までだから、俺達は生徒会長と副会長のままだ。
    4月の入学式では、歓迎の挨拶をする生徒会長の姿が演壇の陰でほとんど見えないことに、新入生と保護者達が驚いたりした。

    生徒会役員の定例会が早めに終わり、皆が帰った後。
    いつものようにヒメノが閉じ込めをねだってきた。
    俺はロッカーからビジネスバッグを出してくる。
    生徒会の備品として購入したものだ。
    公務外出のためという名目だけど、本当の目的はもちろんヒメノを詰めるためである。
    A3サイズ。長さ45センチ、幅30センチ、高さ35センチ。
    「入れるかしら?」
    「せっかく買ったんだから入ってくれないと困るよ」

    バッグの蓋を開けて、ヒメノが中に尻をついて入った。
    右の膝を入れて慎重に位置を決め、その後で肩と頭を入れた。
    「お、いけるじゃん」
    「ん」
    左足を爪先から刺し込み、膝を押し込む。
    最後に右足の爪先だけがはみ出していたのを、左手でねじ曲げて収納した。
    「どう?」
    「だいじょーぶ。・・閉めて」
    「おし」
    俺はバッグのジッパーを閉める。
    どこもつっかからずにスムーズに締まった。
    まったく大したものだ。ヒメノはどんどん柔らかくなっているんじゃないか。
    俺は中のヒメノによく聞こえるように、かちゃりとジッパーのロックを掛け、ダイヤルキーを回して施錠した。

    俺はビジネスバッグのショルダーストラップをよいしょっと肩にかけて立った。
    ヒメノは体重30キロそこそこしかないけれど、肩にかけるとずっしりと重量を感じた。その重さが愛おしい。
    生徒会室を出て廊下を進んだ。
    「あれ? 愛妻のミニモト会長は?」
    「知らないよ。もう帰ったんじゃないか?」
    すれ違ったクラスメートに冷やかされるのもすっかり慣れっこになっている。

    俺がやってきたのは、体育館の半地下にある体育倉庫だ。
    どうして体育倉庫かというと、滅多に人の出入りがなくて見つかりにくいのが一つの理由。
    そして「えっ、倉庫っ? 私、本当に荷物なんだぁ~」と言ってヒメノが目を輝かせたのがもう一つの理由である。
    ぎぃ。
    重い鉄の扉を開けて倉庫に入る。
    中は埃っぽい匂いがした。
    一番奥の棚にバッグを乗せ、『仮置き中、触るな・生徒会』と書いた札をつけた。
    ふう。一息ついて目の前のバッグを見る。
    こんな中に人間が収納されてるなんて、誰も信じないだろう。
    「じゃ、ね」
    軽くバッグを叩いて、俺は倉庫を出た。
    ヒメノに聞こえるようにがちゃんと音をたてて鉄扉を閉め、閂(かんぬき)をかけた。
    下校時間まで2時間ほど。ヒメノはどんな気持ちで過ごすだろうか。

    11.[体育倉庫の出来事]
    ぎぃ。
    扉が開いて人影が入ってきた。一人、二人。
    「ここなら誰にも聞かれません」
    「ふむ」
    「例の、男のことですか?」
    「使い物にならない男だったな。せっかく撮った写真まで押収されてしまったとは」
    「仕方ありません。たまたまボーイフレンドが一緒にいたようで」
    「そういう事態も含めて、うまくやって欲しいものだ」
    「私はただの教育者ですよ。そんなコントロールができるはずないでしょう。・・で、これからどうされるのですか?」
    「しばらく鳴りを潜める。あまり目立つと警察も本気になるしな。あの娘は3年生に上がったところだから、まだチャンスはある」
    「そのときは、もうこんな役割は勘弁して下さい」
    「ふむ。やはり『餅は餅屋』だな。しかるべき専門家を探そう」
    「それを言うなら『蛇の道は蛇』でしょう。凄みが違います」
    「確かに。・・言うのぉ、越後屋」
    「いえ、私はそんな立場では。御奉行様」
    やがて二人は体育倉庫を出て行った。
    鉄の扉が締まり、閂の掛かる音。
    倉庫の棚には『仮置き中、触るな・生徒会』と書いたビジネスバッグが置かれたままになっていた。


    12.
    バッグから出したヒメノが口をぱくぱくさせている。
    「越後屋なのっ、お奉行様なの!」
    何を言っとるのだ、こいつは。
    「よく分からないが、もし物足りなかったのなら謝る」
    「あ~んっ、違うよぉ」
    「とりあえず、今日のところはこれで勘弁してくれ」
    「きゃ」
    俺はヒメノを後ろから羽交い絞めにした。
    平らな胸を両手で押さえる。よぉし。レディ、ゴー!
    「あぁっ! あああ・・」
    こいつは賓乳でもそこそこ感度はあるから、よく揉み込めば喜ばせてやることができるのだ。
    「はぁ、はぁぁあん」
    ヒメノの膝から力が抜けた。
    そのまま崩れ落ちそうになるのを支えて、椅子に座らせる。
    よっしゃ。一丁上がり。
    「満足してくれたかな?」
    「うん、よかったぁ・・って、だから違うんだってばぁっ!!」
    へ?

    ヒメノの説明を聞いて、俺はようやく事態を理解した。
    体育倉庫で会話していた二人。
    偉そうにしていたおっさんは誰か分からないが、もう一人は絶対に校長の声だとヒメノは主張した。
    「梅田さんって人はただの実行犯なんだよ。別に黒幕がいるの!」
    「そうか」
    「捕まえなきゃ!」
    「どうやって?」
    「えっと、・・校長先生に聞いて」
    ぷっ。
    「ああっ、笑ったなぁ。人のことそんな風に笑う人は、自分も笑われんだぞぉ」
    「ごめん」
    ぷりぷり怒り出したヒメノの頭を押さえてとりあえず謝った。
    小学生みたいなこいつが小学生みたいに怒ると、本当に小学生にしか見えない。
    もっとイジってやりたいところだけど、今は遊んでいる場合ではなかった。
    「あのさ、そのおっさんっは、しばらく鳴りを潜めるっていったんだろ」
    「うん」
    「だったら、こっちも慌てないで、よく考えよう」
    「・・うん」

    13.
    突然訪れた俺達に、吉岡久美子さんは機嫌よく会ってくれた。
    「初めまして。五十日高生徒会長の美樹本です。彼は、副会長の佐田くん」
    「まぁ、ちっちゃくて可愛い生徒会長さんねぇ」
    「はい。ミニモトなんて呼ばれてます」
    「あはは。・・それであたしに聞きたいことって?」
    「実は、梅田三郎さんのことで伺いたいんですが」
    俺が切り出すと、吉岡さんの顔が曇った。

    吉岡さんは五十日高校の卒業生で、今は看護師をしている。
    4年前の梅田の痴漢冤罪の当事者だった人である。
    俺達は学校の記録と卒業生名簿を調べて吉岡さんに会いにきたのだった。
    本当は梅田と直接話したいところだったけれど、梅田は拘置所にいて面会も簡単ではなかったのだ。

    「・・あの人には悪いことをしました。あたし、カッとなってこの人チカンです、なんて叫んだのよね」
    吉岡さんは梅田が失職したことも知っていた。
    「梅田さんって、どんな人かご存知ですか?」
    「ええ。本当は優しい人よ。ちょっと変わった趣味があるけれど」
    「緊縛ですよね」
    「知ってるの?」
    「まぁ、いろいろありまして」
    俺達は女生徒誘拐のことを簡単に説明した。
    報道されてない事件だから、吉岡さんは当然何も知らなかった。
    「ええ!! あの人がそんなことを!? ここしばらく連絡が取れないと思ってたら」
    「え」
    今度は俺達が驚いた。
    「連絡が取れないって?」
    「実はあたし、梅田さんとお付き合いしてるの」

    痴漢事件の後、梅田が無罪釈放されてから、吉岡さんは個人的に梅田と会うようになった。
    最初は謝罪の気持ちだったけれど、やがて梅田の人柄に惹かれたという。
    付き合うといっても毎日会う程ではなく、月に1回デートする程度の関係。
    「最後に会ったときは元の勤め先に戻れそうだって言ってたから、喜んでたのに」
    「そうですか。じゃ、梅田さんがウチの高校の女生徒に恨みを感じてた、というのは」
    「そんなこと、絶対にありません!」
    吉岡さんははっきり言った。
    俺はヒメノと目配せをする。・・やっぱり梅田は真犯人じゃない。

    「梅田さんとお付き合いされていること、他に誰か知っている人はいますか?」
    「いないと思うわ」
    「今のお話ですが、もしお願いしたら、警察で証言してもらってもいいですか?」
    「もちろん!」
    「ありがとうございました」
    俺がお礼を言った後、ヒメノが吉岡さんに聞いた。
    「・・あの、ちょっと聞きにくいことですけど」
    「はい?」
    「お付き合いしていて、梅田さんは、あなたを縛ってくれましたか?」
    こら、ヒメノ。何てこと聞くの。
    俺は吉岡さんが怒り出すんじゃないかと思ったが、吉岡さんは微笑みながら答えてくれた。
    「ええ」
    「そうですか。・・よかったですね、本当に」
    ヒメノも微笑んで言った。
    「もしかして生徒会長さんも、あたしと同じかな? お相手はお隣の彼?」
    「えっと、それはご想像にお任せします」
    「そっか。うふふ」「あはは」

    この二人は何を通じ合っているんだろう。
    気持ち悪かったが、どうやらうまく話ができたみたいでよかったと思った。

    14.
    「んっ」
    手首と足首を背中でまとめて縛って、一本の縄で吊るす。
    ヒメノの体がしなって、ふわりと浮き上がった。
    駿河問いという吊るし方だ。
    ヒメノの駿河問いはネットの画像で見る駿河問いよりずっと厳しく見えた。
    膝の曲がりが小さくて、その分逆海老に折れ曲がった腰の角度がずっと大きいのだ。
    たぶん120度かそれ以上。
    そんな体勢なのに、ヒメノはさほど辛そうでもなくけろっとした顔をしている。
    「キツイか?」
    「ん、平気」
    さすが、ヒメノだ。

    今日は俺の親が留守なので、ヒメノを俺の部屋で縛ることにした。
    制服を脱がせてブラとパンツの下着だけにして、ぶら下がり健康器に吊るしたところである。
    俺は椅子を持ってきてぶら下り健康器の下に置いた。
    ふむ。
    椅子に座ると、俺の膝の上30センチの空間に逆海老になったヒメノが浮かんでいる。
    俺はゆったり座ったままでヒメノのどこにでも悪戯できるのだ。
    まずは一本縄で吊られたヒメノをくるくる回しながら、体のあちこちを撫でまわしてやろう。
    「やだ、くすぐったい・・」
    元々無駄な肉と脂肪がほとんどない上に、逆海老に吊られて緊張しているから、こいつの体はどこを触ってもよく締まっていた。
    ぷにぷにした女が好きな奴には物足りないかもしれないが、俺にとっては頃合の触り心地である。
    「はぁ・・ん」
    撫でまわすうちに感じてきたようだ。
    人差し指と中指を顎に当てて、ぐいっと持ち上げてやる。
    「んっ」
    顎が上がって、体全体がいっそう反り返った。
    「どんな気分?」
    「弄ばれてる。ジュンジの思いのまま。・・たまらないよ」
    「そうか。よしよし」
    俺はほくそ笑んだ。
    「ところで、梅田のことだけどさ」
    「・・え? またそんな話をここで?」
    「だからいいんだよ。ヒメノはもう俺の思いのままなんだから、逆らわずに言う通りにする。いい?」
    「・・はい。従います」
    「よし。・・それで、誰かが梅田をそそのかしたってことはもう確実だよな」
    「・・うん」
    「それが誰ってことだけど」
    「やっぱり校長先生に直談判するしかないんじゃ」
    「だから、そんなことしちゃヒメノが危険だって言ってるだろ」
    俺はヒメノのへそのあたりに指を当てて突き上げた。
    「ひゃん!」
    ヒメノの体がバネで弾かれたみたいに跳ねた。
    お?
    もう一度、今度はへその中にしっかり指を入れて、ぐりぐりしてみた。
    「あ、あ、あ・・、止め、止めてっ、お願い」
    逆海老の体がぐねぐねと動いた。
    「お前、へそが弱かったっけ?」
    「知らないっ」
    しからば今度は、机にあったボールペンの後ろを差してみた。
    それっ、それ。それっ、それ。それそれそれ。
    「やや、や。やや、や。やややややや」
    なるほどなるほど。
    面白かったから、いろんなモノで試して遊んでしまった。

    15分後。俺達は二人はぐったりして、はぁはぁと息をしていた。
    「ヒメノ。大丈夫か?」
    「ん。・・大丈夫だけど、手首がちょっと痛い」
    よく見ると手首と足首から先が薄く紫色になっていた。
    俺はヒメノを床に降ろして、縄を解いてやった。

    「はぁ・・ん」
    ヒメノはとろんとした顔で笑いながら、俺に抱きついてきた。
    平気そうだな。よしよし。
    俺はヒメノをひょいと抱き上げると、ベッドに放り投げた。
    「きゃん」
    小さくて軽いから、こういうことが簡単にできて便利だ。
    ほっぺたを膨らませているヒメノのブラとパンツを脱がせる。
    おお、ぺたんこの胸でも一人前に乳首を立てているではないか。
    可愛いのぉ。

    ・・あれ? えっと、何か大事な話をしてたような。
    まあ、いいか。
    俺はヒメノに覆いかぶさってキスをした。

    15.
    体育倉庫で校長先生と一緒にいた謎のおっさん。
    その正体を知る機会は案外早くやってきた。

    各高校の生徒会役員が集まる地区生徒会連合会議。
    市役所の会議室で、俺とヒメノは並んで座っていた。
    俺の足元にはあの公務外出用のA3ビジネスバッグがあって、もちろん中身は女の子ではなく資料が入っている。
    次にこのバッグにヒメノを詰めるときは学校の外に放置したら楽しいかななんて、ぼうっと考えてたら、突然ヒメノに肘をつつかれた。

    「あの声。絶対にあの人っ。間違いないよ!!」
    ヒメノが指差す方では、県教委のお偉いさんが挨拶のスピーチをしていた。
    低い声でゆっくり喋る、ちょっといかり肩のおっさん。
    俺達はようやく本当の黒幕を見つけた。
    そいつは、十河巌(そごういわお)という名前だった。

    16.
    相手の立場が分かったら俺達の行動は早かった。
    会いたい日時を指定して、匿名で十河教育長に手紙を送った。
    別の手紙を校長先生にも出した。
    「勝手に時間まで決めて、向こうのスケジュールは合うのかしら」
    「事件のことを匂わせておけば無理にでも来てくれるさ」

    問題は、俺達には吉岡さんの証言を含めて状況証拠しかないことだった。
    そもそも、ヒメノが鞄に入って十河と校長の会話を聞きました、なんて言って信用してもらえるはずがない。
    中途半端な探偵気取りをするより、大谷先生に助けてもらった方がいいんじゃないか。
    そんな相談もしたけど、大谷先生に職を賭けて一緒に戦ってもらうことはできないから、結局は出たとこ勝負で行くことにした。
    ただ、協力者は必要だ・・。

    「誘拐事件の犯人が別にいるんですか!」
    生徒会室で俺達の説明を聞いて、会計の根本さんと書記の恵那原さんが驚いている。
    彼女達は、俺達と被害者の外川さんと奈良井さんを除けば、誘拐事件のことを知るただ二人の生徒だ。
    「それで、もし私が犯人を捕まえようって言ったら、協力してくれるかしら?」
    ヒメノが二人に聞いた。
    「あなた達に迷惑がかからないとは言えないから、無理にとは言わないわ」
    ごくり。
    俺は固唾を呑んで見守る。
    「もちろん、喜んでお手伝いします!」恵那原さんが答えた。
    「あたしも」根本さんも答えた。
    「ありがとう!」
    俺はみんなに作戦を説明した。

    続き




    俺とヒメノの生徒会事件簿(4/4)

    17.
    指定したその日。
    俺達は大量の資料を準備した。
    資料といってもただのA3コピー用紙。何も書いてある必要はない。
    B3でもいいんだが、小さい方が運び易いし、相手へのインパクトも大きいのだ。
    それをダンボール箱に詰める。
    どの箱もガムテープでしっかり蓋をして『保存・生徒会資料』と印刷したラベルを貼った。
    箱の数は全部で30。これを3台の台車に分けて載せた。
    これだけあれば大丈夫だろう。

    そして、ただ一個だけ空のダンボール箱。
    ヒメノがするりと体を滑り込ませた。
    片方の足だけが上に突き出してしばらく揺れていたけれど、それも爪先から器用に収納した。

    ヒメノ・ダンボール

    ヒメノ・ダンボール


    根本さんと恵那原さんが口をあんぐり開けて見ている。
    A3用紙がぴたりと収まるサイズだから、同じA3でもこの間のビジネスバッグより更に小さかった。
    この中に収まったヒメノの体はもはや人間に見えない。

    ヒメノ・ダンボール

    「こんなの、見たことない」根本さんがつぶやいた。
    「私テレビで見たことあります。軟体美女っていってた」恵那原さんが言った。
    「そうなんだ。実は生徒会長はものすごく体が柔らかいんだ」
    俺は説明しかける。
    「コントーションっていうんだけど・・」

    「そこで何をしてるの!?」
    がらがらとドアが開いて大谷先生が入ってきた。
    「わ」「きゃ」「え」
    俺はとっさにヒメノのダンボール箱の蓋を閉じる。
    ガムテープも何も貼ってないから、覗き込まれたらバレバレだ。
    「その、資料を整理してまして・・」
    「美樹本さんは?」
    「今、ちょっと不在ですけど」
    「ねぇあなた達、今日、教育長が来られるって知ってる?」
    どき。
    「い、いいえ」
    「朝から校長先生が慌ててらっしゃるわ。何か事情があるみたい」
    「そうですか」
    「誘拐事件のことだと思うの。わざわざ呼ばれて、被害生徒の名前を確認されたから」
    「・・」
    「あなた達、まさか何か知ってるんじゃないでしょうね。今日のこと」
    「あ、いえ、僕らは何も・・」

    そのときだった。
    「先生」
    ヒメノの声がした。はっきり通る声だった。
    あんな体勢で縮こまってて、よくこんな声を出せるもんだと思った。
    「え? 美樹本さん?」
    「はい。美樹本です」
    「どこにいるの?」
    「ジュンジ、見せてあげて」
    しかたない。俺はダンボール箱の蓋を開けて見せた。
    「!!」
    大谷先生が口に手をあてて驚いた。
    そりゃそうだろう。いきなり人間の詰め込みパックを見せられたら。
    「・・よく生きてられるわねぇ」
    なんちゅう感想だ。ヒメノはもちろん生きている。

    「先生。十河教育長は、私と副会長がお呼びしたんです」
    「ええ?」
    ヒメノは箱に収まったまま、事情を説明した。
    俺が口をはさむ余地もなく簡潔で分かり易い説明だった。
    いつもなら箱詰めにされたら必ずとろんとなるヒメノが、ハキハキ話すのはむしろ気色悪いぞ。
    「じゃ、美樹本さんは、これで校長室に乗り込むつもりなの?」
    「はい。黙って見逃してもらえますか、先生」
    「あのねぇ、見逃したら私は叱られるだけで済まないって判ってる?」
    「すみません」
    「・・先生! 今のままだったら、また誰か被害が出るんです」恵那原さんが言った。
    「陰でこそこそ悪いことするなんて許せません。女の敵なんです!」
    ちょっと感心した。すごい正義感だ。
    彼女は来期の会長候補だな。応援しなきゃ。
    「・・失敗したら許さないからね」
    「はい!」
    「これを使いなさい」
    大谷先生はポケットから小さな装置を出してヒメノに握らせた。
    「英会話の練習に使うICレコーダーよ。小さな声でも録音できるわ」
    これは助かる。スマホの録音機能だと小さな音は拾えないし、箱の中で操作するのは難しいのだ。
    ICレコーダーならずっと手の中に握っていられる。

    そろそろだな。
    「行くぞ、ヒメノ」
    「うん!」
    俺はヒメノの入ったダンボールに蓋をしてガムテープをしっかり貼り、台車に載せた。
    がらがらと皆で台車を押して行く。
    女子が押す台車は、通りがかった知り合いの男子に替って押してもらった。
    校長室の前まで来ると、大谷先生が一緒に入ってあげると言ってくれた。

    「失礼します!」
    「どうぞ」
    校長室に入ると、校長先生が一人で執務机に座っていた。
    「何ですか?」
    「生徒会の資料を整理してるんですが、他の場所の整理ができるまで一時的に校長室に置かせてもらえませんか」
    「何ですか。倉庫には置けないんですか」
    「それが、倉庫は別の作業で人が出入りしてまして、万一紛失するようなことになったら大変ですから」
    大谷先生が助けてくれた。
    「校長室なら、絶対に安全ですし」
    「それは、そうですが」
    「明日には取りに来させますから、生徒達の言うとおりにしてあげてもらえませんか」
    「分かりました。なら、そこの壁際に積んで下さい」
    「はい」
    「もうすぐ来客がありますから、急いで」
    「はい!」

    俺達は台車を校長室に乗り入れると、ダンボール箱を降ろして言われた場所に積み上げた。
    大谷先生も手伝ってくれる。
    ヒメノの箱は一番上に積み直すつもりで俺が端に置いたら、その上に先生が他の箱を乗せてしまった。
    あ、先生っ、それはヒメノの入った箱だってば。
    あ~あ。一番下になっちゃったね。ヒメノ、大丈夫かな。

    「失礼しました」
    俺は先生と一緒に校長室を出た。
    「大谷先生」「はい」
    校長が大谷先生を呼び止めた。
    「今朝もお話ししたように、まもなく教育長がお見えになります。お帰りになるまで誰も来ないようにして下さい」
    「はい、職員に伝えます」
    先生と一緒に廊下に出た。
    この後はヒメノの出番だ。
    空になった台車を押しながら、頑張れよと思った。

    18.
    30分後。
    県の公用車がやってきて、中からいかり肩のおっさんが降りてくるのが見えた。
    俺はそっと校長室の前で様子を伺うことにした。

    19.[校長室]
    「いったい何で私を呼び出したのかな?」十河教育長が言った。
    「それは私にもさっぱり」校長先生が答える。
    「了解してくれていると思うが、私はこの高校の出来事には何も関わりがない」
    「はい」
    「・・」
    「・・」
    沈黙。

    「・・」
    「・・」
    沈黙。

    「いつまで待たせるのだ」
    「分かりません」
    「・・」
    「・・」
    沈黙。

    「このまま何もないなら、もう帰る」
    「あの」
    「何だ」
    「教育長への手紙には何と」
    「・・」
    「・・」
    「誘拐事件の黒幕について話がしたい、だ」
    「そうですか」
    「そちらへはどう書いてあったのだ?」
    「教育長の悪事を知っている」
    「悪事だと!?」
    「いえっ、私の意見ではなく、手紙に書いてあったことで」
    「分かっておる」
    「・・元々、私は言われた通りにしただけですから」
    「分かっておる!」
    「教育長のご事情がどのようなものかは、存じませんし」
    「余計な詮索はせんでいい!」
    「・・」
    「何で知られたのだ?」
    「はい?」
    「どうして、黒幕だの悪事だの、私の名前が知られているのだ!」
    「はぁ。・・それはやっぱり、神様は見ている、としか」
    「何だと!?」
    「たいだい、教育長が昔のことを言ってこられなければ、こんなことには」
    「人に言えないことをするからだろう」
    「しかし、人の弱みに付けこんで、犯罪までさせるのは」
    「今さら何を言うか」
    「あの男だって、事情がなければ誘拐なんて引き受けかったでしょう」
    「私は知らん! お前とあの男の間で勝手に決めたことだ!」
    「いったい教育長は何を目的で、当校生徒の緊縛写真を欲しがったのですか!?」
    「お前は知らんでいい!」

    「はぁ~いっ。みなさん、そこまでですー」
    どこからともなく声がした。
    多少くもぐっていたけれども、大きなよく通る女の声だった。
    「何!?」「どこだ!」
    二人は立ち上がってきょろきょろするが誰もいない。

    「・・あの、すみませんけど、出して下さ~い」
    「?」


    20.
    中の様子が変だった。
    なにかを運ぶような気配がする。
    よし!
    俺は校長室のドアを開けようとしたが、鍵が掛かっていて開かなかった。
    どんどんどん!!
    ドアを叩く。
    「もしもーしっ。何かありましたか!」

    ドアが中から開いて、校長先生が顔を出した。
    「おお、君、手伝ってくれますかっ」
    中に入ると、十河教育長が床に座り込んでいた。
    「どうしましたか?」
    「ちょっ、ぎっくり腰が・・」
    校長先生と二人で教育長の肩を支えてソファに座らせた。
    教育長は顔をゆがませて腰をさすっている。

    校長室の床には、大量のダンボール箱が転がっていた。
    どの箱も蓋が開いて、中身のコピー用紙が散乱していた。
    壁際にはまだ10個以上のダンボール箱が積まれている。
    「いったい何があったんですか?」
    「いや、その、声が」
    「声?」
    「ダンボールの蓋を開けなさいと。秘密を知られたくなければ・・」
    そこまで言って校長は、しまった、という顔をした。
    「それで二人で、箱を下ろしてたんですか?」
    「・・あ、ジュンジぃ? 開けてぇ!」
    ヒメノの声がする。
    「お前、ヒメノなぁ。お二人とも若くないのに、こんな重いものを運ばせて」
    「だってぇ、私が出ないと解決しないでしょ」
    「そりゃそうだけど」

    「この声、美樹本さんか?」
    校長はようやく声の主が分かったようだった。
    「はぁい。正解ですっ」ヒメノが返事する。
    「美樹本?」教育長が苦しそうに聞いた。
    「例の生徒会長です」
    「あぁ、あの3人目の」
    思わず肯いて、教育長も、しまった!という顔をした。

    「何だか聞き捨てならないことを口走ってますよー」
    ヒメノが応える。こいつ、声だけは大きいのだ。
    「美樹本さんはどこにいるんですか?」
    校長が不思議そうな顔で聞く。
    「ちょっとお待ち下さい」

    へろへろになった校長と教育長にこれ以上肉体労働させる訳にはいかないから、俺は自分でダンボールを下ろした。
    右端の列のダンボールを下ろして、一番下にあった箱を二人の前に置いた。
    ガムテープをびりびりと剥がして蓋を開けた。
    「はぁーい。呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん」
    ヒメノが身を起して、両手を広げる。
    妙にハイだ。
    こいつ、またとろんとした顔をしてるぞ。

    校長先生と教育長は何も言わずに固まっていた。
    校長先生は、心底驚いた顔で口をぽかんと開けていた。
    教育長は、驚愕と憎悪の入り混じった顔でヒメノを見ていた。
    まぁ、この人達らしい反応だな。

    21.
    校長室に生徒会役員が集まっていた。
    大谷先生も呼んだけれど、びびってしまったのか来てくれなかった。
    「僕達は、ここで見たこと、聞いたことは口外しません。ちゃんと録音もしてますから、忘れもしませんけどね」
    俺は校長先生と教育長に言った。
    「・・後は、ご自身でどうするか、決めて下さい」

    そのとき、ばたばたと廊下を走ってくる足音がした。
    「イワオちゃん!」
    校長室に駆け込んできたのは、奈良井千鶴さんだった。
    あの誘拐事件の二番目の被害者である。
    「イワオちゃん、何やってるのよ!!」
    奈良井さんは、教育長の真ん前に仁王立ちになると、両手を腰にあてて叱りつけた。
    「ち、ちづぴー・・」
    十河教育長が情けない声を出す。
    「学校まで追いかけてくるなんて。この、ストーカー!!」
    奈良井さんは自分の上履きで教育長の頭をぱかーんと叩いた。

    ・・イワオちゃん? ちづぴー? ストーカー?
    校長先生を含め全員の頭の上に『?』マークがマンガのように揺れていた。

    22.
    翌日、十河教育長と校長先生は警察に自首した。

    教育長は、非合法の高校生バーで接客していた当時高1の奈良井さんと知り合い、好意を抱いた。
    援助交際には至らなかったけれど、かなりお金や贈り物を渡したようだった。
    やがて奈良井さんがアルバイトを止めて普通の高校生に戻った後も、しばらくの間はストーカーまがいにつけ回わした。
    警察に届けると言われてストーカー行為は止めたけれど、今度は奈良井さんを恨むようになったらしい。
    そして、いずれ奈良井さんの口から自分の名前が漏れて、社会的立場をなくすことを恐れるようになった。

    教育長が考えたのは、奈良井さんの恥ずかしい写真を撮って脅すこと。
    そのために、ニュースで知った痴漢冤罪の梅田三郎に誘拐と緊縛をさせることにした。
    教育長は梅田に復職を世話すると近づき、その代わり、特定の女生徒の全裸緊縛写真を撮るよう依頼したのである。
    多額の謝礼を渡して、もし失敗して捕まったら依頼されたことは内緒にすることも約束させた。
    教育長が狡猾だったのは、それを自分ではなく校長先生を通じて行わせたこと。
    そして、奈良井さんだけでなく、他の女子生徒も狙わせたこと。
    外川さんとヒメノは、奈良井さんのカモフラージュとして襲われたのである。

    校長先生は、別の学校で教頭時代に学校経費を私費流用していた。
    金額はわずかで、それもこっそり返却したようだけど、当時の校長だった教育長に知られて、脅迫のネタにされてしまったのである。
    考えてみれば本当に悪人だったのは十河理事長だけで、校長先生と梅田には気の毒ともいえる状況である。

    校長先生は、過去の使い込みは懲戒の対象となったが、刑事的には時効であり本人も反省していること、梅田への誘拐指示も脅迫されて行ったことから、失職することは免れた。
    そして梅田は、ヒメノを含む被害女性3人と痴漢冤罪事件の吉岡さんから提出された嘆願書が功を奏して、執行猶予付の判決となったのであった。

    23.
    ヒメノが両方の手のひらを床にぺたりとつけた。
    膝と肘はぴんと伸びて、腰を180度に折った状態。
    「柔らかーいっ」「さすがです、会長!」
    根本さんと恵那原さんが歓声を上げた。
    俺はヒメノの手首と脛をまとめて縛るように赤いリボンを巻き、手前で大きな蝶々結びを作った。
    「よぉし。被せるよ」
    その上から筒を被せる。
    技術工作室の廃材置き場から拾ってきた、長さ1.5メートル、直径40センチの塩化ビニール製透明パイプだ。
    二つ折りになったヒメノがパイプの中にぴたりと収まった。
    「きゃあ~!」「これじゃぁ動けないよぉ」
    外川さんと奈良井さんも一緒になって感心している。

    ここは生徒会室。
    今日は根本さんと恵那原さんだけでなく、外川さんと奈良井さんも来ていた。
    二人は初めて見るヒメノのコントーションに驚きまくりである。
    「平気なの? 美樹本さん」
    「ぜんぜん平気よ」
    ヒメノが答える。
    「じゃあ、外側にもリボンを飾ろうか」
    「はぁいっ」
    根本さん、恵那原さんに外川さんと奈良井さんも参加してパイプの上端にリボンを巻き始めた。
    「わぁい、会長のパンツ可愛い!」
    「ホントだー。ハートマークいっぱい♥」
    ヒメノの尻を指差してきゃいきゃい喜んでいる。
    これだけ前屈してると、後ろでわざわざ屈んで見上げたりしなくても下着が丸見えになるのだ。
    ヒメノ、お前色気ないくせにスカート短過ぎ。

    とはいえ、真後ろから見たヒメノはそう捨てたものでもなかった。
    突き上げた尻からぴんと伸びた太ももと膝裏のライン。
    うん、なかなかに女らしく魅力的な曲線ではないか。
    ・・子供っぽいとか色気がないとか、バカにしてもばかりいられないな。
    「副会長っ。そんなに鼻の下伸ばして会長さんのお尻ばかり見てたらセクハラですよ!」
    感心していたら、恵那原さんに叱られてしまった。
    いや、急にセクハラって言われても、こいつ嫌がってないというか、喜んでるし。
    「い、いや。別に鼻の下なんて伸ばしては。・・それに君らかてパンツ見て可愛いとか言ってんじゃ」
    「私達は女の子だからいいんですっ」
    そ、そうなの?
    「恵那原さん。佐田くんは美樹本さんの旦那様なんだから、大目に見てあげなよ」
    ありがとう。外川さん! 旦那様って訳じゃないんだが。
    ヒメノ。お前も何とか言え!
    「・・でへへぇ。あたしの旦那様ぁ♥」
    あかん。こいつ、もうとろんとなってる。

    ぷるぷるぷるぷる。
    ポケットの中でスマホが鳴った。
    「佐田です。・・あぁ、吉岡さんですか?」
    俺は電話を取ってしばらく話した後、みんなに言った。
    「今、駅前だって。あと15分くらいで来るかな」
    「きゃーっ」「待ってました」「うふふ」「楽しみぃ♥」
    梅田と吉岡さんが・・、あぁ、もう呼び捨ては失礼だね。梅田さんと吉岡さんがもうすぐやって来るのだ。
    二人は嘆願書のお礼に来るんだけど、そのとき、梅田さんが希望者全員の体験緊縛を約束してくれているのである。
    これを知った我が生徒会役員の女子達は大騒ぎ。
    外川さんと奈良井さんまで、前は眠っててよく分からなかった、今度はちゃんと緊縛されたいなんて言い出す始末。
    という訳で、本日、ここ生徒会室でまことにムフフなイベントが約束されているのだ。
    え? 高校の、しかも生徒会室でそんなことをしてもいいのかって?
    もちろん、まったく構わないのだ。
    制服のままの着衣緊縛ということで、顧問の先生の許可をちゃんと得ているのである。

    「いいかい? 梅田さんが来ても、いきなり縛って欲しいなんて、モノ欲しそうにしたらダメだよ」
    「はーい♥」
    全員がものすごくモノ欲しそうな顔をしている。
    「じゃあ、順番決めよっか」一人が言った。
    「そうね、じゃんけん」
    「あ~ん、わたし私ワタシもぉ~」ヒメノもパイプの中でわめいている。

    残念だね、ヒメノ。お前はそのままだ。
    梅田さんと吉岡さんに喜んでもらうためだからね。
    そんなに緊縛して欲しいのなら、また俺が縛ってあげるよ。

    「そこで何をしてるの!?」
    がらがらとドアが開いて大谷先生が入ってきた。
    「わ」「きゃ」「え」
    「急に開けないで下さいっ、先生。びっくりするからぁ」
    「あ、ごめんなさい。・・それでもう来られた?」
    「いえ、もうすぐ着くって電話が」
    「そう? 私も順番に入れてね」
    「え~。大人はダメです!」「そうそう」
    「どうしてよぉ。こう見えてもまだ28なのよ。まだまだ若いんだから、先生もお願い~」

    ふむ。
    にぎやかに騒ぐ女子生徒達とアラサー女教師を見ながら俺は考えた。
    ハーレム状態の生徒会だからといって大したことはないと思っていたが、もしかしたらこれは大変にラッキーなことかもしれない。
    思わず、にたぁっと笑いそうになる。
    と、パイプの中に閉じ込めたヒメノと目が合った。
    ヒメノはほっぺたをぷぅっと膨らませて怒っていた。
    そしてすぐに、にっこりと笑ってくれたのだった。



    ~登場人物紹介~
    美樹本姫乃(みきもとひめの): 17才、五十日高校生徒会会長。身長140センチの超小柄。軟体趣味。
    佐田淳司:17才、生徒会副会長。姫乃の恋人。「俺」
    根本理花:17才、生徒会会計。
    恵那原いぶき: 16才、生徒会書記。
    外川清良(とがわきよら): 17才、バスケ部主将。
    奈良井千鶴: 17才、吹奏楽部。
    大谷美津子: 28才、生徒会顧問。英語教諭
    千葉好通: 五十日高校校長
    十河巌: 県教員委員会の教育長
    梅田三郎: アマチュア縄師
    吉岡久美子: 五十日高校卒業生


    このお話は、「超小柄なコントーショニストが小さな荷物に入って事件を解決する」というシチュエーションで小説を書けないかという、カイさんからの要望を受けて書いたものです。
    リクエストにお応えすることはめったにありませんが、箱詰め・エンケースメントの嗜好にぴたりとはまったため、馴れない事件モノに挑戦してみました。
    事件の背景や犯行の動機などの不自然さは突っ込みどころ満載ですが、これもヒメノちゃんを箱詰めにするため。
    身長140センチ・体重30キロの女子高生がもうファンタジーですから、あくまで閉じ込めフェチ小説としてお楽しみ下さいね。

    イラストは enterology の写真や動画を参考にしましたが、まだまだきちきちに詰まった感じには描けません。
    もっとコンパクトな箱に詰めてあげられそうな気がします。
    まぁ、私の画力ではこんなものでしょう。
    箱に入る状景をGIFアニメなどで描ければ最高なんですけれど、どなたか描ける方はおられないでしょうかねー。

    ありがとうございました!




    人工人魚物語 ~楓~ (1/3)

    [プロローグ]
    青い光で照らされた空間。
    ガラスの壁の向こうから、ごーという音が伝わってくる。
    この空間を正常に維持するために、24時間常に稼動している機械の音。
    すっかり慣れてしまって普段は気にもならないのに、一度意識するとなかなか耳から消えてくれないのは、夏の日の蝉の声と同じだ。
    ・・でも、蝉の声なんて、最後に聞いたのはいつのことでしょう。
    彼女はぼんやり考えた。
    ・・蝉、セミ。アブラゼミ、ニイニイゼミ、ツクツクボウシ。
    意味のない言葉とイメージが頭の中を流れる。
    幼い日、弟と一緒に出かけた蝉とり。そっと近づける捕虫網と飛び去る蝉。おしっこ、かけられた。
    ・・えっと、こういうの、何ていいましたっけ。そう、思い出。懐かしい、思い出。
    この頃、言葉がなかなか出てこない。言葉を使う必要がなくなって久しいのだ。
    あの人からは、できるだけ言葉でモノを考えるように、と言われている。
    「知性は美しさを維持するからね」
    でも言葉を使うのは面倒くさい。
    ・・嬉しい、悲しい。気持ちいい、痛い。それだけで十分。あの人には、それで何もかも伝わってしまうもの。
    ゆっくり頭を回した。
    ふわり。水中に長い髪が広がった。
    ・・ね、綺麗でしょう? 言葉なんか使わなくても。



    1.
    「契約成立やな」
    「きゃはは。いいよ!」
    しわくちゃのお札を手にあたしは笑った。
    乱れたベッドの上でおじさんもお腹を揺らして笑った。
    ぷくんと突き出して、たるんだお腹。
    「でも本当に人魚のコスプレするだけでいいの?」
    「うん、ええで」
    「で、いつ?」
    「それは、また楓(かえで)ちゃんの携帯に連絡するわ」
    「OK」
    あたしは内心ほくそえんでいた。
    ちょっと遊んであげただけで本当の携帯番号なんて教える訳ない。
    メモに書いて渡したのはマンションの郵便受けに投げ込まれるピンクチラシに載ってた番号だ。
    ほんと、おやじってバカだ。番号聞いただけで確かめもせずに有頂天になるんだから。
    それにしてもおじさん相手のエンコーはいい儲けだ。
    リクエストされた通りに手錠を掛けられてセックスしたら、感激してお小遣いをくれた。
    そのうえ、コスプレしてあげるなんて口約束だけで別に10万円ももらえた。
    「楓ちゃんの家の近くまで送ろか?」
    ホテルの前でタクシーを止めながらおじさんは言った。
    「やめてよ。そんなとこ近所の人に見られたらどーすんのよ」
    「それもそやな。・・ほなら、また」
    おじさんは一人でタクシーに乗って行ってしまった。
    それを見送ってから、あたしはマフラーをよっと首に巻き、駅の方にぶらぶら歩き出す。
    街はクリスマスの飾りであふれている。
    最終電車に間に合う時間だけど、家に帰るつもりなんてなかった。
    あたしはスマホを手にとった。
    キミコ、ヒマしてるかな?
    豪遊するぞお。

    2.
    珍しく自分の部屋にいた夜、スマホに着信があった。
    『非通知』
    画面を見て不審に思ったけど、電話に出た。
    「近藤楓ちゃん?」
    「あ、はい。そうですけど?」
    「わし、山田です」
    ???
    「誰ですか?」
    「覚えとらんか? 先週、西浜口の駅前で会(お)うた」
    あ!
    「おじさん・・?」
    「そやそや」
    「え? なんで・・」
    このおやじ、どうやってあたしの苗字と携帯番号を。
    「捜すのに苦労したで。教えてくれた番号が違うてたんでなぁ」
    「あ、それは」
    「いやいや、かまへんのや。それより、あの約束やけど」
    約束? ・・あ!
    「コスプレ?」
    「そや。明日、来てくれるか」
    「あ、あの、明日って、あたし学校あるんですけど」
    「何ゆうてるんや。週の半分もフケとるくせに」
    「え? 何で知って・・」
    「ひゃひゃひゃ、楓ちゃん。いろいろ分かってるで。君の家も学校の出席番号も」
    背中に冷たいモノが走った。
    「あ、」
    「心配せんでええ。楓ちゃんのパパや先生にツゲグチするなんて、ぜんぜん思てへんから」
    「・・はい」
    「それより、約束の方は大丈夫か? どうしてもイヤやったらしょうないけど」
    「あの、イヤって言えるんですか?」
    「仕方ないわ。金返してくれたら、他所当たるわ」
    お金は・・、もうなかった。
    「いえ、あの、あたし、どうしたらいいですか?」
    「明日の朝11時、この前会うた場所に来てくれるか」
    「はい」
    「家の人にいらんことは言わん方がええやろな。どうせ二日や三日の無断外泊はしじゅうなんやろ?」
    このおやじ、どこまであたしのこと。
    「そやな。普通に学校に行くみたいに出てきてくれたらええやろ」
    「わかりました」
    「心配せんでもええで。別に楓ちゃんをとって食うつもりやないさかい」
    おじさんは電話の向こうで声をあげて笑い、そして電話は切れた。
    逃げられない、と思った。
    友達に電話して相談しようとしたけど、きっと迷惑かけると思ってやめた。
    ・・一人で何とかするしかない。
    あたしは覚悟した。

    3.
    商店街は静かだった。
    時折通り過ぎる人が皆あたしを見ていく。
    平日のこんな時間に制服の女子高生がぽつんと立っているんだから、目立つよね。
    おじさんはまだ来ない。
    冷たい風が吹き抜けて首に巻いたマフラーがなびく。
    親バレや学校バレは絶対にイヤだった。
    あのおじさん、何者なんだろ。
    パパには言わないっていってたから、何かよくないことをさせられるんだろうか。
    ユスられる? ヤクザに売られる?
    「よお、待たせたかなぁ。楓ちゃん」
    「きゃっ」
    後ろから声を掛けられて思わず悲鳴を上げてしまった。
    「何や、びっくりさせたか? わし」
    「い、いいえ、こんにちは」
    「大丈夫か? ちょっと震えてるみたいやで」
    「あの、おじさん・・」
    「何や?」
    「あたし、ウソの番号教えたこと謝ります。・・だから、怒らないで下さい」
    「別に怒ってへんけど?」
    「あの、あたし・・、これからいったい何をすればいいんですか?」
    「それは、前に頼んだ通り、人魚や」
    「それだけ?」
    「そやな。ちょっとおっぱいくらい出してもらうかもしれへんけどな。ひひひ」
    「ホントに、それだけでいいんですか?」
    「楓ちゃん、いったい何をさせられる思ってたんや?」
    「いえ、それは・・、怖い人に売られてフーゾクさせられるとか」
    おじさんは急に笑い出した。
    「何を言うんかと思ぉたら。・・そりゃ漫画かドラマの見過ぎやで」
    お腹を押さえて笑っている。
    あんまり長く笑っているので腹が立ってきた。
    「もう、そんなに笑わないでよっ。あたし怖かったんだから!」
    「すまん、すまん。・・でもそんなひどいことはせえへん」
    何だ。心配して損したかな。
    「コスプレくらい、いくらでもやってあげるよ。・・ふわぁ、はっくしょん!」
    ほっとしたら、大きなくしゃみが出た。
    「大丈夫か?」
    「え、えへ。おじさん待ってるうちに冷えたかな」
    「あのな、楓ちゃん、もう冬なんやから、もちょっと温(ぬく)い格好せなあかんで」
    おじさんはその場にしゃがんで、あたしの制服のミニスカートの生足を指でつついた。
    「そこは大丈夫なのっ!」
    「そうなんか? ・・そぉや、鯛焼き買うてきたんや。温いうちに食べ」
    おじさんは手に持った紙袋の中を見せてくれた。
    「わあっ、いただきます!」
    「なら食べながら行こか」
    あたし達は並んで歩きだした。
    「うまいか?」
    「うんっ」
    「たこ焼きもあるで」
    「何かソースの匂いもするなって思ってたら・・、でもそんなに食べられないよ」
    「そうか? でも、できるだけ食べといた方がええ。昼飯は抜きやからな」
    「ええ? ご馳走してくれないの?」
    「したげたいのは山々やけどな。いろいろ事情があって」
    「おじさん、もしかして結構ビンボーなの?」
    「分かるか」
    「分かるよ。どうせ家に帰ったら奥さんにお小遣い100円単位で管理されてるんでしょ」
    おじさんは声を上げて笑った。
    「うん、やっぱりしおらしゅうしてるより、タメ口きいてる方が楓ちゃんらしいわ」
    「何よ、その言い方」
    商店街から通りに出て、あたしとおじさんは歩いて行く。
    「そやけど昼ひなたからこうやって並んで歩いたら、援助交際っていうんか、丸出しやな」
    「おじさんがあたしを呼び出したんでしょ」
    やがて大きなビルに入り、エレベータで地下に降りる。
    鉄の扉を開けると、地下駐車場だった。
    「ここから車で行くから・・。そや、そこにトイレあるし行っとき」
    「大丈夫だけど?」
    「あかん。時間かかるから、出えへんでもキバって出しといで」
    その言い方が面白くてあたしは笑ってトイレに入った。
    「はい。キバって出してきたよっ」
    二人で笑いながら駐車場に入る。
    やがておじさんは大きな黒いセダンの横に立った。
    「すごい~、やくざ屋さんの車みたい」
    「そやな。楓ちゃんはこれで誘拐される美少女、ちゅう訳やな」
    「きゃはは」
    おじさんはにこにこしながら車のトランクを開け、大きなスーツケースを出した。
    「ここが楓ちゃんの場所や」

    4.
    不思議と恐怖感や窮屈感はなかった。
    もう何時間たったのかな。
    確かなのは、あたしは猫のように丸くなってスーツケースに入っていること。
    おじさんが出してくれるまで、このままじっと待つしかなかった。
    ・・
    「ちょっと都合があってなあぁ。楓ちゃんを車の中には乗せられへんのや」
    おじさんはすまなそうな顔で言った。
    「それに、あの晩、手錠されてまんざらでもない顔してたやろ?」
    まあ、確かにその気がないこともない、というか結構マゾっ気あるな、あたし。
    「そやから、こん中で誘拐されたお嬢様の気分でもゆっくり味わっといてんか」
    強引な理屈だったけど、あたしは我慢することにした。
    囚われのお嬢様にちょっぴり憧れたのも本当だ。
    「仕方ないなぁ、もうっ。・・早く出してよね」
    あたしは靴を脱いでスーツケースの中に入り、膝を抱えて小さくなった。
    「鞄は一緒に無理やなぁ。預かっといたげるわ」
    「やだっ」と言ったが、抱きかかえていた鞄を抜き取られた。
    「じっとしときや」
    おじさんはあたしの周囲に小さなクッションを押し込んでくれた。
    「うひゃ、パンテー丸見え」
    詰めながら、あたしのパンツを覗き込んで喜んでいる。
    「おじさんっ、しょーもないことしてないで、さっさと蓋してよ!」
    「ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ。ほな、な」
    スーツケースの蓋が閉ざされた。
    がちゃり、という音がして、あたしは闇の中に閉じ込められた。
    ・・
    エンジンの音と振動が止んだ。
    着いた!?
    ばたん。トランクが開く音。
    ゆらりと揺れたかと思うと、世界が回転した。重力の方向が90度変わり、首の後ろと後頭部にぐっと体重がかかる。
    ひゃっ、ぐ。
    周りに詰めたクッションのおかげで大して痛くはなかったけれど、あたしはスーツケースの中で上下逆の体勢になってもがいた。
    息が苦しい。
    ごろごろとスーツケースのキャスターが転がる音。
    あたし、運ばれてる。
    ごつごつした振動がモロに後頭部にかかって痛かった。
    もう、やだぁ。涙がにじんできた。
    ぼこん。
    元の横向きの姿勢に戻った。
    がりがり。ごそごそ。何かをしている音。

    きゅるきゅる。再びエンジンの音がして動き出した。
    別の車に積み替えられた?
    その音と振動はさっきまでと違う。ちょっと大きな音で、振動も荒っぽくなったような。
    これ、トラックだ。
    との音と振動はいつまで経っても終わりそうになかった。
    おじさん、まだ着かないのぉ?
    ・・
    ごとごと、ばりばり。
    振動、そして何かを破くような音。
    とろとろと眠っていたあたしは自分がどこにいるのか思い出せなかった。
    あれ、何? ここどこ?
    かちゃ。
    次の瞬間、あたしはまぶしい光に包まれた。

    5.
    両手を目にあてて、ゆっくり体を起こす。
    やがて明かりに目が慣れると、そこは広い部屋の中だった。
    つやつやした木のフローリング。
    黒い柱、大きな洋風の窓、レースのカーテン。
    天井には黄色い光のシャンデリア。
    窓ガラスの外は真っ闇で、今は夜なんだと分かった。
    あたしが入ったスーツケースはビニールのシートを広げた上に乗っている。
    指でつまんでみると大きなプチプチシートだった。
    「それでスーツケースを2重に包んでたんですよ」
    声の方を向くと、男の人が二人いた。
    一人は足を組んでソファに座った和服のお兄さん。そしてその横に茶色いスーツのおじいさん。
    お兄さんは片手を顎に当てて微笑んでいた。
    30才くらいかな。かなりのイケ面。背も高そう。
    おじいさんの方は、首に黒い蝶ネクタイ。白い手袋の手を指先までぴんと伸ばして立っていた。
    ドラマに出てくる執事さんみたい。
    「ようこそ、お嬢さん。無粋な招待の仕方をして申し訳ありませんでした」
    お兄さんが言った。静かで落ち着いた声だった。
    「あ、どおも。・・そぉだ、おじさんは?」
    「山田でしたら、もう帰りましたよ」
    え?
    「あなたをここへ届けるように、私が頼んだんですよ。・・長い時間、狭いところに入ってましたけど、大丈夫ですか?」
    お兄さんの目があたしをまっすぐ見つめていた。切れ長で涼しげな目。
    「あ、いえ、そんな・・大丈夫です」
    あたしはしどろもどろになって答える。
    「当家の主(あるじ)で神沼紫紺(かみぬましこん)と申します。こちらは執事の桑原さん」
    おじいさんが黙って会釈をした。
    「えっと、かみぬまさんと、くわはらさん」
    「私のことは、紫紺と呼んで下さい」
    「は、はい。紫紺さん。・・あたしは」
    「近藤楓さんですね。あなたのことはすっかり知っていますよ」
    「はい?」
    「県立矢部高校2年生。お父さんは44才で商社勤め、中学生の弟さんが一人」
    「・・何でそこまであたしのこと、知ってるんですか」
    「それはね、あなたが選ばれたからです」
    選ばれた? あたしが?
    「そう、選んだんです。明るく、元気で、可愛い楓ちゃんを」
    可愛い? あたしのこと?
    「だから、どうぞ何も心配しないで協力して下さい」
    紫紺さんの声、よく響いてまるでテノールで歌っているみたい。
    こんなに素敵なお兄さんと話しているなんて。
    「・・ぼっちゃま、その先は食堂でどうぞ。お客様はお腹も空いてらっしゃるでしょうから」
    桑原さんが言った。この人も素敵なバリトンだー。
    「これは失礼しました。今夜は楓ちゃんの歓迎会ですよ」
    紫紺さんは立ち上がると、あたしの側へ来て膝をついて王子様みたいに右手を差し出した。
    「どうぞ」
    「あ、はい」
    あたしは手を取られて立ち上がろうとする。
    あたたたた!
    その途端、あたしの腰に激痛が走った。
    「腰をお痛めになったのではありませんか? やはり、無理な姿勢で縮こまっておられたようですから」桑原さんが言った。
    「それはいけませんね」
    紫紺さんはあたしを抱きかかえて持ち上げた。
    うわ~っ!! お姫様だっこ!
    腰の痛みも忘れて、あたしは再びぽわんとなってしまった。

    6.
    温泉みたいなお風呂にあたしは一人で入っている。
    大きな浴槽からお湯が途切れることなく溢れて流れていた。
    はあ~。
    映画の女優さんみたいに、お湯から片足を上げて爪先までぴんと伸ばしてみる。
    と、お尻が浮いて鼻までお湯に沈み込んだ。
    ぶくぶく。ぶはぁっ。
    腰の痛みはすっかり引いたみたいだった。
    脱衣場の時計は7時を指していた。
    どうやらスーツケースの中に6時間以上入っていたみたい。
    「楓ちゃん」
    お風呂の戸が開いて、紫紺さんの顔が覗いた。
    「あ、ふぁい!」
    慌てて両手で胸を隠し、顎までお湯に沈む。
    なんで紫紺さんがここに来るのよー!
    「籠の中に着替えを入れておきますから着て下さい」
    「はいっ」
    「お風呂から出たら、夕食にしましょう」
    「わかりました」
    顔が熱い。
    あたし、エンコー女子高生のくせに、何でこんなに恥ずかしがってんだろう。
    そうだ、それよりカラダ、綺麗にしなくっちゃ!
    あたしはお湯から上がり、そこにあったスポンジとボディシャンプーを手にとった。

    続き




    人工人魚物語 ~楓~ (2/3)

    7.
    暖かい部屋に暖炉の火がぱちぱち燃えていた。
    一度に20人は並んで食事ができそうなテーブルに、火のついたローソクが並んでいる。
    あたしはその端っこの席に座って、素足をぶらぶらさせていた。
    お風呂から上がると着ていた学校の制服と下着は消えていて、代わりに白いキャミソールドレスが籠に入っていた。
    いっしょに置いてあったピンクのブラとショーツまであたしにぴったりのサイズだった。
    「似合いますよ」
    向かい側に座った紫紺さんがあたしを見て笑っている。
    あたしはどぎまぎしながら笑い返すのが精一杯。
    「あ、あの、・・すごく立派なお家ですね。お風呂も廊下もとっても広いし」
    「広いだけです。客間だけで18ほどありますが、無駄に多すぎて持て余しています」
    「18も? すごーいっ」
    「楓ちゃんには、神沼がよく見える部屋に泊まってもらいましょう」
    カミヌマ?
    それって、紫紺さんの苗字じゃ。
    「お待たせいたしました」
    桑原さんがワゴンに載せたお料理を運んできた。
    「彼は元々調理人なんですよ。年を取って小言は多いが料理は旨い」
    「ぼっちゃま。小言が多いは余計です」
    紫紺さんはにやっと笑ってあたしにウインクした。
    くすり。
    あたしも笑ってウインクをした。
    ・・
    「98年の白です。国産ですが」桑原さんがワインの瓶を捧げ持った。
    「飲めますよね? 楓ちゃん」神沼さんがそう言って微笑む。
    「あ、はいっ」
    目の前のグラスに琥珀色のワインが注がれた。
    「どうぞ」
    グラスを持って飲もうとすると、紫紺さんに止められた。
    「そうじゃありません。テイスティングするんですよ」
    「ていすてぃんぐ?」
    「こんな感じ」
    紫紺さんは自分のグラスを持って香りを確かめる仕草をして、それから少しだけ飲む振りをした。
    あ、テレビで見たことがある。
    あたしは紫紺さんのまねをしてワインをティスティングした。
    少し甘く、酸っぱくて、ふわっとした感じに包まれた。
    ・・
    お料理は、暖かいキノコのシチュー。鹿肉のソテー。山芋のオムレツ。くるみと栗を混ぜて焼いたパン。りんごが入ったサラダ。
    どれも美味しかった。
    鹿のお肉なんて初めて食べたけれど、柔らかくて臭みもなくて、とても食べ易かった。
    「すべてここの土地で採れたものですよ」
    「へぇ。いいところなんですね」
    そうは言っても、あたしはスーツケースで運ばれてきたから、景色なんて見ていない。
    それどころか、ここがどこかも知らないんだ。何のためにここへ来たのかも。
    ふと目を向けた遠くの壁に、大きな絵が掛けてあるのに気付いた。
    こちらへ背中を向け、岩の上に腰掛けた、裸の女の人の絵。
    その人の下半身は細長くなって銀色に光っていた。あれは、人魚。
    ・・思い出したっ。人魚のコスプレ!
    チャリン。
    その瞬間あたしの手からナイフとフォークが抜けて床に落ちた。
    「きゃ、ごめんなさいっ」
    椅子から降りて床に手を伸ばそうとすると、桑原さんがさっと拾ってくれた。
    「すみません・・、ひゃ!」
    あたしは後ろから抱き上げられた。
    「お客様はそういうことはしなくていいんですよ」
    紫紺さんが耳元でささやきながら、あたしを椅子に戻してくれた。

    8.
    「あたし、人魚のコスプレするんですよね?」
    食事が済んでから聞いた。
    「ええ、正しくはモデルです。私の絵の」
    絵のモデルですか?
    「紫紺さん、もしかして、絵を描く人だったんですか」
    「そうですよ。描くのは人魚だけですけどね」
    「じゃ、食堂に掛けてあった絵も」
    「お気づきでしたか。あれも私の作品です」
    「・・」
    「何ですか? その目は」
    「あ、いや、すごいなーって。あたし、自分じゃ絵なんて全然描けないし」
    「見ますか? 私の絵」
    「はい!」
    ・・
    紫紺さんに続いて、黒光りする木の階段を上がった。
    このお屋敷は何でも黒光りしている。
    築70年って言ってたけど、ずっと誰かが磨き続けないと、こんなに光らないんじゃないかな。
    「ようこそ、私のギャラリーへ」
    「うわぁ!」
    大きなドアを開けて入って、あたしは歓声を上げた。
    ・・
    スポットライトに照らされて、壁という壁に油絵や水彩画が描けてあった。
    全部人魚の絵だった。
    「綺麗~!」
    あたしは一枚一枚見て回った。
    水の中をゆっくり泳ぐ人魚。座ったり横たわったりしてポーズをとる人魚。
    どの人魚も滑らかな曲線で描かれていて、柔らかそうだった。
    ほとんどが裸で胸を見せていたけれど、その胸がまた綺麗だった。
    全体的に笑った顔の人魚は少なくて、たいてい物憂げな表情。
    「これ、ぜんぶモデルさんを使って描いたんですか」
    「そうですね。写真を撮って起こした絵もありますから、目の前のモデルを見て描いたとは限りませんが」
    「へぇ~」
    壁を回り込んだら、こんどはペン画になった。
    髪の毛一本一本まで書き込まれたような精緻なスケッチ。
    紫紺さんはモデルさんのすぐ近くで舐めるように観察して描いたんだろうか。
    人魚の美しさ、いやモデルさんの美しさが、際立つような気がした。
    溜息が出そうだった。
    あたしもこんな絵を描いてもらうのだろうか。
    急に不安になった。
    「あ、あの、紫紺さん。あたし、こんなに綺麗じゃないです。・・あたしなんかがモデルで大丈夫ですか?」
    「心配しないで。楓ちゃんは選ばれたのだから」
    「選ばれたってどうしてですか? どうしてあたしなんですか?」
    「それは最初にも言ったように、あなたが明るくて元気だから」
    「そんなことが理由なんですか?」
    「それ以外の理由も聞きたいですか?」
    「はい、聞きたいです」
    紫紺さんは、ふっ、と笑ったみたいだった。
    「・・それはね、あなたの、柔らかくて痣(あざ)一つないきめ細かい肌が、人魚として申し分ないから」
    「へ?」
    「突然いなくなってもすぐには心配されないし、どうやら被虐性も高いから」
    いったい何を言ってるんだろう?
    確かに、あたしは肌が綺麗なのが自慢で、友達に羨ましがられるけど。
    ヒギャクセーって何?
    「いいですか、楓ちゃん。とても大事なことだからよく聞いて下さい」
    紫紺さんは真面目な顔で言った。
    「・・はい」
    あたしは硬直したように動けなくなった。
    「ここでは私と桑原さんの指示に絶対に従って下さい」
    「はい」
    「どんなことがあっても、ね」
    あたしはただ首をこっくり振って頷いた。
    「じゃあ、今夜はもう遅いですから、ゆっくり休んで下さい」
    「はい」
    あたしは夢を見ているように、もう一度首をこっくり振った。

    9.
    寝室のダブルベッドはどしんと座るとふわふわ揺れた。
    今まで泊まったどんなホテルのベッドよりも柔らかだった。
    どんなホテル、っていっても、男の子かエンコーおやじと入ったホテルくらいしか知らないんだけどね。
    窓のレースのカーテンをめくって外を見た。
    外は、家一軒の明かりすら見えない暗闇だった。
    窓を開けようとしたけれど、木製の窓枠は固くて動かせなかった。
    部屋の中を見回す。
    テレビはなかった。あーあ、Bスタジオ見たかったのにな。
    ハンガーにあたしの着てきた制服が掛かっていた。そしてその下に鞄があった。
    そうだ、スマホ!
    鞄を開けるとちゃんとスマホが入っていた。
    あれ、圏外? 窓際に行っても通じない。SNSが開けないよ。
    仕方ない。
    あたしはオフラインで友達にメールを入力した。電波が通じたときに送信されるだろう。
    『やっほー。
    今ものすごい美青年のお兄さんと一緒なのだ~。
    スーツケースに入れられてラチされたのだよ!
    学校しばらく出ないけど心配しないで』


    [インターミッション]
    灯りが点いた。
    暗かったガラスの向こうが緋色の世界に変わった。
    紫紺さま! 彼女は水中で微笑んで歓迎の意を表する。
    前に会ってから1週間以上も過ぎていたけれど、そんなことはどうでもよかった。
    ここでは時間の経過は分からないし、彼女には永遠の時間が保証されている。
    「寂しかったかい? まゆ」
    その人は脚立に上がり、水槽の蓋を開錠して水面を覗き込んだ。
    まゆは水中から手を伸ばしてその肩にすがりつく。
    互いに抱き合い、唇を合わせた。
    ああっ。紫紺さま。
    キスしていただくだけでこんなにエクスタシーを感じるなんて。
    乳房の先端がたちまち固くなって、尖った。
    人間だった頃はこんなに大きな胸でなかったし、乳首も敏感ではなかった。
    今は自分の性感がすぐに紫紺さまに分かってしまう。
    「気持ちいいかい?」「・・はい」
    紫紺は彼女を後ろから抱くと、巨大な乳房を両手でゆっくり揉みしだいた。
    「あぁっ、・・あんっ」
    「いい声で鳴くねぇ」
    「はあぁぁ・・ん!!」
    「縛ってあげようか」
    「あぁ、・・紫紺さま。・・ど、どうぞ、まゆを存分に苦しめてくださいませ」
    ・・
    水槽の中で後ろ手に縛られた人魚がもがいている。
    その息遣いや喘ぎ声は外には聞こえてこないから、まるで音声をミュートした動画でも見ているようだ。
    捻り上げられた手首は、背中の高い位置で固定されてほとんど動かすこともできない。
    ぽこ、ぽこぽこ。
    身を捩じらせて頭を振るたびに、口元から泡がこぼれて浮き上がる。
    小柄な体のどこにそんな空気を蓄えているのだろうか。
    水槽の前では、グラスを手にした紫紺が安楽椅子にゆったりとくつろいでいた。
    「ふ・・。苦しめてくれ、などとよく言う」
    彼女は、呼吸困難で苦しんでいるのではなかった。そもそも人魚に空気を呼吸する必要はない。
    縄の痛みに苦しんでいるのでもなかった。紫紺の縄は女体の自由を奪うだけで、痛みはほとんど与えない。
    彼女は被虐の興奮にもだえているのだ。
    自分でもどうしようもない切なさが、彼女自身を制御不能にしているのだ。
    自分はいつからこんな女になったのか。それとも紫紺さまが自分の精神まで作り変えてしまったのか。
    せめて、本当の痛みを与えて下さったら。この腕の一本でも切断して下さったら。
    それなら、心の痛みに体の痛みが勝るだろう。ただ泣き叫ぶだけで済むだろうに。
    でも、紫紺さまはそんな痛みは決して与えて下さらない。
    官能の嵐に吹き飛ばされそうになる自分を眺めて、ただ楽しまれるだけなのだ。
    ・・
    まゆは、紫紺の手によって人にあらざる姿に変えられた、元・屋敷の使用人だった。
    人工人魚の製作。
    まず、女性の下半身を切断し、代わりに巨大な魚体を接合する。これが加工の工程。
    最初は拒絶し抵抗するが、ほどなく主人の世話を受け入れ、愛情を求めるようになる。これが調教の工程。
    こうして育てた人工人魚は通常、世界中の好事家に向けて出荷される。
    しかし紫紺はまゆを売ることなく、保有する数体の人魚のひとつとして手元に置いている。
    小さな水槽の中に、紫紺自身を楽しませるため飼い続けている。
    ・・
    「そうそう、今夜新しい『素材』が届いたよ」
    紫紺がのんびりと言った。
    「なかなか面白い子だから少し遊んでみようと思う。・・君の仲間になるのは、もう何日か先、だ」
    あ、あああっ。
    まゆが水中で叫び、その声がガラス越しに初めて聞こえてきたようだった。



    10.
    朝、ベッドから起きて外を見て、あたしは驚いた。
    窓の外は一面の湖だった。
    ただ、霧がかかっていて100メートル先も見通せなかった。
    紫紺さんの言ってた神沼って、これのこと?
    コンコン。
    呆然と景色を見ているとドアをノックする音がした。
    わ。
    慌てて身を隠すバスタオルか何かを探す。あたしはブラとパンツだけの下着姿だった。
    また紫紺さんに見られたら!
    ドアが開いて、知らない女の人が入ってきた。
    水色の地味なメイド服を着て、眼鏡をかけている。
    「お早うございます。お客様。朝食の用意ができておりますので、食堂へどうぞ」
    「・・あ、はい」
    その女の人はそれ以上は何も喋らず、黙ってつかつかと窓際のゴミ箱に歩み寄り中身を手に持ったポリ袋に移すと、すぐに出て行ってしまった。
    誰よ、あの人。
    あたしは、しばらくぽかんとして、それから慌てて昨夜のキャミソールを着た。
    ・・
    「ここは山の中ですから携帯は通じません。・・神沼の霧はお昼までには晴れますよ」
    食堂で紫紺さんが教えてくれた。
    そうか、スマホはつかえないのか。
    「それから、その女性は竹井美佐江さんといって、昼間だけ来て家の世話をしてくれてます。私や桑原さんに頼みにくいことがあれば、美佐江さんに言って下さい」
    「わかりました」
    「食事が済んだら、まず撮影をします。絵のモデルはその後。いいですね」
    「はいっ」
    人魚のモデルは約束だから、頑張らないとね!
    あたしは急いで朝食の残りを口に運んだ。
    その食事は、ゆるいオートミールのようで美味しいけどちょっと物足りなかった。

    11.
    客間のひとつを改装したスタジオで、あたしの撮影が始まった。
    あたしは人魚のコスチュームをつけて、カーペットの上に横たわっている。
    胸にはストラップレスのブラ。
    下半身は弾力のあるゴムのような素材で、あたしの両足をしっかりホールドしていた。
    特に膝と足首がぎゅっと締まって、動かせないのが心地いい。
    紫紺さんは三脚に乗せたカメラを覗き込んでいる。
    ピ、カシャ、カシャ。・・シャッター音が続く。
    後ろにはブルーの幕が掛かっていて、撮影した写真にいろんな背景を合成して絵を描く資料にするそうだ。
    何十枚か撮っては、カメラとライトの位置を替えて、また撮影。
    全部、紫紺さんが一人でするから大変だ。
    ピ、カシャ、カシャ。
    「・・次はこの台に座りましょう」
    「はい」
    あたしが自分で這って行こうとすると、紫紺さんがさっとあたしを抱いて運んでくれた。
    「すみません」「気にしないで」
    台に乗って、またポーズ。
    「楓ちゃん。その、よろしければですが、ブラを取ってもらえますか」
    「・・はいっ」
    紫紺さんのギャラリーで見てから覚悟してた。
    人魚なんだから、ブラなんかない方が自然だ。
    あたしは自分でブラを外して紫紺さんに渡した。
    「はい、さっきのポーズで、笑って・・」
    ピ、カシャ。
    紫紺さん。あたしのおっぱい、綺麗に撮って下さいね。
    カシャ、カシャ、カシャ。
    上は裸。下はお魚、自分じゃ動けない。
    ・・突然、保育園の『にんぎょひめ』の記憶が蘇った。
    皆で読んだ絵本。
    上半身は身を隠すものもほとんどなく、下半身は正反対に魚の体に覆われた、お姫様。
    両足を拘束された、裸のお姫様。
    ものすごく恥ずかしくって、あたしだけ黙り込んでしまった。
    それから小学生になって、こっそりノートに人魚の絵を描くようになった。
    その人魚は、必ず両手を縛られて恥ずかしいことをされていたっけ。
    あたしはその頃からマゾだった。自分の願望を人魚の絵に描くマゾだった。
    いつの間にか頬が熱くなっていた。
    「恥ずかしがらなくても、素敵な表情ですよ」紫紺さんに声を掛けられた。
    さすがだな、紫紺さん。
    でもね、あたし胸を見られて顔を赤くしたんじゃないんだよ。
    ・・
    「お疲れ様でした。休憩しましょう」
    あたしは、紫紺さんに人魚のコスチュームを脱がせてもらう。いちいち大変なのに、ごめんなさい。
    ふうー!!
    両手を上に伸ばして力を入れた。あぁ、気持ちいいっ。
    まるで素敵なセックスをした後みたいな気分だった。
    「いい顔をしていますね」「はい!」
    「絵のモデルは時間がかかりますし、その前に村を案内しましょうか」
    「いいんですか?」
    あたしは喜んで立ち上がった。
    「一応、服は着てくださいね」
    あれ?
    あたしはパンツ一枚穿いただけ、トップレスではしゃいでいるんだった。

    12.
    カーキ色の四輪駆動自動車が神沼沿いの小道を走っている。
    運転席は桑原さん。後席に紫紺さんとあたし。
    霧はまだ晴れていなくて、湖の向こう側まで見通すことはできなかった。
    「・・神沼は一周5キロほど。この辺りは林業で栄えたらしいですが、今はご覧の通り過疎の村です」
    「当家も昔、製材工場を経営しておりましてな、それはそれはたくさんの人が出入りしとったものです」
    「へぇ~」
    紫紺さんと桑原さんが交互に説明してくれる。
    「それで、もう少し行くと神社がありますが、そこの宮司が私なんです」
    紫紺さんが神主?
    「名目だけのことです。ウチは代々神沼神社の宮司でもありましてね。昔は季節の神事もきちんとこなしていたらしいですが・・」
    「へぇ。じゃあ、結婚式なんかも、やれるんですかー?」
    「え、結婚式」
    今度は紫紺さんが驚いたみたいだった。
    「ほっ、ほっ、ほっ」桑原さんが運転しながら大声で笑った。
    「・・その通りですな、ぼっちゃま。そろそろ宮のこともきちんとなさって、このお嬢様の結婚式を挙げて差し上げてはどうですかな」
    「あはは。あたし、まだそんな歳じゃないですよー」
    「何をおっしゃいます。17才といえば、立派に子を産める歳ですぞ」
    まあ、そうだけど。
    あたしは隣の紫紺さんの顔を見た。
    紫紺さんの子供だったら、産んでみたいかな、なんて。
    ・・
    集落を抜けて、湖を回り込むと日陰に溜まった白いものが目につき始めた。
    「あ、雪!」
    「もう冬ですからね。これからもっと積もりますよ」
    車は小さな峠をいくつか越えて、再び湖面に近づいた。
    やがて湖畔に小さな神社が見えてきた。
    駐車場に乗り入れて止まった。
    「ここが神沼神社です」
    ・・
    キャミソールドレスの上にコートを着せてもらって車の外に出た。
    神殿の脇を抜けて湖の波打ち際に来ると、太陽の光が差してきた。
    湖面の霧が魔法みたいに消えて行く。
    白い世界が透明に変わり、湖の反対側に雪を頂いた山々が姿を現した。
    それは神々しいまでの変化だった。
    「うわぁ~っ。すごい!」
    空気が一気に清々しくなったような気がした。
    青い空をバックに、ひときわ高い山が輝いている。
    「あれは神沼岳です。標高1980メートル」
    「ほっ、ほっ、ほっ。近藤様は運がいい。滅多に姿を見せん山ですからな」
    「へ~」
    「それを背景に立つ楓ちゃんも素敵ですよ」
    「あら、 本当ですか?」
    「はい。あなたを撮影してもいいですか?」
    「いいですけど?」
    紫紺さんは、ポケットからハンディのビデオカメラを出すとあたしを撮り始めた。
    もう、準備がいいんだから。
    少し戸惑ったけれど、あたしは紫紺さんのためにポーズをとった。
    ・・そうだ、コートは要らないよね。
    あたしは羽織っていたコートを脱いで、桑原さんに渡した。
    キャミソール1枚になると、両手を広げその場でくるくる回ってみせた。
    むき出しの腕と肩を撫でる風がひんやりと気持ちいい。
    心がうきうきしてきた。靴を脱いで裸足になった。
    爪先を水につける。
    「きゃっ、冷た!」
    キャミソールの裾を手に持ちながら、水から出たり入ったりする。
    えへ、アイドルみたい!
    紫紺さんを見ると、あたしを撮りながら笑っていた。
    ・・よぉーし、うふふ。
    あたしはキャミソールをたくしあげて、まるでTシャツを脱ぐみたいに裸になった。
    ブラは着けていなかったから、これでショーツ一枚だけのセミヌード。
    両手を頭の後ろに回し、カメラに向ってポーズをとる。
    「ねっ、あたし綺麗ですか?」
    「ええ、とっても」
    やった、紫紺さんに褒めてもらえた!
    「もう少し水に入ってください。ここは遠浅ですから」
    お、リクエストだね!
    紫紺さんの言うことなら何でもやっちゃう。
    あたしは水の中に足を踏み入れた。そのまま膝の深さまで歩いて行く。
    当たり前だけど、神沼の水はきりきりと冷たかった。
    その冷たさが、かえって心を熱くしてくれる。
    ぞくぞくするのは、寒いからじゃなくて、紫紺さんに見られているから。
    「楓ちゃん、その辺で」
    「大丈夫。もうちょっとだけ」
    「無理しないで!」
    紫紺さんの声が後ろから聞こえた。
    やるなと言われたら、やりたくなっちゃうでしょ?
    あたしは振り向いてアッカンベーをした。
    はぁ~。紫紺さんが呆れたように両手を広げている。
    あたしはおへその上が浸かるまで進んだ。もう岸から30メートルほど離れていた。
    えへへっ。パンツ、びしょ濡れ~。
    そう思った瞬間。何かが足首を掴んで引っ張った。
    ざぶんっ。
    あたしはその場で転倒し、頭まで水に沈んだ。
    ひゃあっ!!
    訳がわからなくなった。
    あたしは浮いたり沈んだりを繰り返しながら水の中でもがいた。
    「楓ちゃん!」
    紫紺さんがあたしを抱きかかえて、岸まで引き上げてくれた。
    「大丈夫ですか!? 楓ちゃん!」
    景色がぐるぐる回っていた。
    あたし、紫紺さんの胸の中に抱かれてるの?
    ごめんなさいっ。紫紺さんまでずぶ濡れにしちゃった。
    遠くの水面に人の頭が見えた。長い髪に顔が半分隠れた女の子がこっちを見ていた。
    え? 女の子!?
    ばしゃん。
    次の瞬間、女の子は消えて、大きな魚の尾ひれが跳ねるのが見えた。
    え~!!?
    そのまま意識が遠のいた。

    続き




    人工人魚物語 ~楓~ (3/3)

    13.
    目を開けるとあたしはベッドで寝ていた。
    ・・ここ、あたしが泊まってる部屋。
    「お目覚めになりましたか」
    低いバリトンの声。桑原さんが枕元に座っていた。
    「ご、ごめんなさい! 迷惑をおかけして」
    あたしはベッドの上で身を起そうとする。
    「あぁっ。まだそのまま、お休みでいた方が」
    「もう平気ですから」
    桑原さんが片手で自分の目を隠しながら、顔を反らした。
    あたしは全裸で何も着ていなかった。
    「きゃんっ」
    慌てて毛布で胸を隠す。
    「あの、もうお隠しになりましたか?」
    桑原さんが顔を背けたままで言った。クソをつけたいくらいに真面目な言い方だった。
    「その、近藤様の下着は、ただいま乾燥中でございまして」
    ふふふ。・・いい人なんだ。
    私は首まで毛布に包まって笑った。
    「はいっ。もう大丈夫です!」
    ・・
    紫紺さんは、別室で絵の製作の準備をしているという。
    「近藤様がお目覚めになったとお知らせすれば、すぐにおいでになられますが、その前に、」
    「はい?」
    桑原さんは少し言いよどんだ。
    何だろう?
    「・・その前に、私めからお話ししたいことがございます。ぼっちゃまには、ご内密に願いたいのですが」
    内密にって、紫紺さんには話すなって意味よね。
    「何ですか」
    「近藤様。どうか今すぐお帰り下さいませ」
    「へ?」
    「理由はお話しできませんが、ぼっちゃまの言われる通りにして、よいことはごさいません」
    そんな、説明できないけど帰れって言われても。
    あたしは絵のモデルを約束してる。
    それに、紫紺さんにまであんな迷惑かけて、黙って帰るなんてできない。
    「あたし、帰りません」
    「・・」
    「どんな理由でそう言うのか知らないけれど、あたし、紫紺さんのモデルをします」
    その瞬間、桑原さんの目がとても冷たくなったような気がした。
    「そうですか。では無理は申しますまい。・・ぼっちゃまをお呼びして参ります」
    桑原さんはぷいと部屋を出て行ってしまった。
    ・・
    「楓ちゃんっ。何ともありませんか?」
    替わりにやってきた紫紺さんは、今までと変わらずに優しかった。
    「ごめんなさい! もう大丈夫です」
    「あのとき、どうして急に転んだんですか?」
    「信じてもらえないかもしれませんけど・・」「信じますよ」
    「足を掴まれたんです。誰かに」
    「誰かに?」「はい」
    「それは人の手でしたか?」「はい」
    紫紺さんはしばらく黙って何かを考えてから言った。
    「この神沼には、昔から人魚の伝説があります」
    「人魚?」
    頭の中にあの光景が蘇った。
    水面に浮かんだ女の子の顔。大きな魚の尻尾!
    「あ、あ、・・あたし、見ました! あれ絶対、人魚!!」
    「本当に?」
    「すごいですかっ。すごいですか?」
    「はい。すごいことです」
    きゃ~い!!
    あたし、人魚に会ったんだ!!
    「・・人魚にはいろんな噂があります。昔、神沼で工事をするとき人柱にされた娘の変わり果てた姿だとか、」
    「え」
    「五穀豊穣を願う生贄として投げ込まれた娘を食べて育ったソウギョだとか」
    「・・」
    「全然ロマンチックじゃないでしょう」
    「はい。何だか可哀想」
    「そうですね。神沼の人魚はどれも可哀想なんです。どれも人間の娘が望まずに変わった姿なんです」
    じゃあ、あの女の子も?
    あの女の子も、人間から変えられてしまった人魚なの?
    あたしは、あの女の子が人間だった姿をちょっと想像した。そして人魚になって下半身が魚になった姿も。
    胸がどきどきした。

    14.
    人魚のコスチュームをつけるとき、思い切って言った。
    「紫紺さんの絵が描けるまで、このままの格好でいます」
    「気遣いは嬉しいですけれども、長くかかりますよ? ひょっとしたら明日まで」
    「構いません」
    「楓ちゃん、さっきの話で興奮しましたか?」
    「いえ、興奮したなんて、そんなことは」
    「人間から人魚に変えられて、元に戻れない思いをしたいですか?」
    ぼ。
    あたしの顔が真っ赤になるのが分かった。
    耳まで赤くなってる。自分でそう思った。
    「図星ですか。・・そういうことでしたら、私の方こそ願ったり適ったりです」
    「あ、その。・・すみません」
    「本当に理想の素材だ」
    「?」
    ・・
    紫紺さんに指示されてトイレを済ませ、お風呂で全身を洗いなおした。
    特に両足の間を綺麗にと言われた。
    これって、あたしの全部を紫紺さんに晒すってこと?
    どき、どき。
    あたしは指で中まで綺麗に洗う。
    「綺麗になりましたね。何も着ないで仰向けに寝て下さい」
    ああ、やっぱり・・。
    言われた通りに寝転ぶと、紫紺さんはあたしをじっと見た。
    どき、どき。
    あそこの上を黙って手で撫でた。
    そして言われた。
    「少し剃ります」
    ・・
    あたしはシェービングクリームを塗られてアンダーヘアを剃られた。
    自分で処理したことはあるけれど、男の人に剃ってもらうなんて初めてだ。
    しかも紫紺さんが使っているのはシェーバーじゃなくて安全カミソリ。
    よく動かないでじっとしていられたと思う。
    ぞり、ぞりって剃られるたびに、乳首がつん、つんって立っていく気がした。
    ・・
    あたしの興奮はもちろんこれだけでは終わらなかった。
    紫紺さんはあたしをもう一度仰向けに寝かせると、膝と足首をゴムバンドで縛った。
    「これは、足が開かないようにするための仮ドメです」
    そして白い瓶に入った液体を、両足の間の密着した部分にハケで染み込ませるように塗った。
    爪先から足首、脛、膝、そして太ももの内側。それらの部分にこわばるような感覚が広がった。
    紫紺さんは腕時計で時間を計っている。
    「うん、OK」
    黙って膝と足首のゴムバンドを外した。
    「どうですか?」
    どうって・・、あ。
    右足と左足が密着したまま離れない。
    「今使ったものは人肌用の瞬間接着剤です。楓ちゃんに2本の足はもう必要ありませんから」
    きゅん。
    胸が痛いほどに鳴った。両足を接着してしまうなんて。
    「膝はちゃんと曲げられるはずです」
    そんな。そんな。
    ・・
    紫紺さんは、それから人魚の下半身を被せてくれた。
    この下半身はカメラ撮影のときとは違って極端なローライズだった。
    ものすごく刺激的なデザイン。正面なんて、恥骨のすぐ上までしかない。
    これで剃られた理由が分かった。これじゃ割れ目を隠すだけで精一杯だから。
    でもこんなに短いと、すぐに脱げて落ちてしまわないですか。
    「肌に接着してつけます」
    「!」
    あたしの素肌とコスチュームの合わせ目に瞬間接着剤が流し込まれる。
    あ、あ、あああ。
    そんなことされたら、あたし、もう元に戻れない・・!!
    「この接着剤はリムーバーという薬で剥がせます」
    そうか。元には戻れるんだ。
    「でも用意してません。絵が完成したら取り寄せましょう」
    な、何てこと!!
    「どうですか? 少しでも絶望的な気持ちを感じれますか?」
    「・・ものすごく絶望的です」
    「それはよかった」
    紫紺さんは楽しそうに笑った。
    あたしはうつむいて自分の胸を押さえた。
    その胸はまだ、きゅんきゅんと鳴り続けていた。

    15.
    絵を描くアトリエは、あのギャラリーだった。
    あたしは、絨毯の上に横たわってポーズをとっている。
    「疲れたら言って下さい」「・・はい」
    イーゼルの前で、紫紺さんは筆を走らせていた。
    「動かないで」「・・あ、はいっ」
    いったい、紫紺さんはどういうつもりであたしをこんな風にしたんだろう。
    接着した足を剥がす薬がないなんて、わざわざ教えて。
    あたしはじっとモデルを続けられる状態じゃなかった。
    息は、はぁはぁ、ひぃひぃ。
    心臓は、ばくばく、どっきん、どっきん。
    それでいて、あたしは絵を描く紫紺さんの視線をちくちくと肌に感じていた。
    顔、手、お腹、そしておっぱい。
    紫紺さんに見られてる。
    はぁ、はぁ、はぁ。
    どきん、どきん、どきん。
    あたしは下半身を拘束された人魚。人間に戻れない人魚。
    あ、ああぁ!
    ・・
    「休憩です」
    紫紺さんが筆を置いて、あたしを助け起してくれた。
    「おやおや。大丈夫ですか? 楓ちゃん」
    あたしは、全身の肌をピンク色にして、細かく震えていた。
    「やはり高まりを抑え切れないんでしょう?」
    「あぁ、もう、・・全部分かっているくせに」
    「何がですか?」
    「・・いじわる」
    紫紺さんは少し笑って、それからあたしを抱き上げた。
    「行きましょう」
    あ、またまた、お姫様抱っこ!
    「あの、どこへ・・?」
    「ベランダです」
    2階のベランダの前には桑原さんが待っていて、あたし達が行くと黙ってドアを開けてくれた。
    ベランダに出ると、ちょうど湖の向こう側の神沼岳に赤い夕陽が沈むところだった。
    「これを見せたかったんです。雄大でしょう?」
    「・・はい」
    あたしは紫紺さんに抱かれたままで夕陽を見つめた。
    頭を回して紫紺さんの顔を見上げると、紫紺さんも黙って同じ夕陽を見ていた。
    あたしは上半身裸だったけれど、興奮のせいか全然寒いと思わなかった。
    そのまま時間が過ぎる。
    「あ、、あたし、重いですよね?」
    「そんなことはありませんよ」
    紫紺さんの目があたしを見下ろして微笑んだ。
    くっきりした切れ長の目。
    あぁ、あたし・・。
    「あ、・・紫紺さん、」
    「はい」
    「その、」
    あーん、もうっ。
    「あの、その、・・あたし、紫紺さんのこと、」
    どうしてたったこれだけのことが言えないんだろう。
    「ふ」
    突然、紫紺さんが笑った。
    「一回だけしかしませんから、よく感じて下さいね」
    そうして、あたしの唇に自分の唇を寄せた。
    あ・・・。
    長いキスだった。
    下半身を拘束された人魚のあたしは、紫紺さんのキスを受け続けた。
    今まで味わったこともない感覚。
    心臓が破裂しそうになり、これ以上縮めそうにないくらいに子宮が収縮した。
    「ああ!!」
    ようやく唇が離れると、あたしは両手を紫紺さんの首に回して抱きついた。
    いっぱいいっぱい力を込めて抱きついた。
    ・・
    そのまま5分以上も抱きついて、あたしはようやく紫紺さんから離れた。
    紫紺さんの顔を見上げる。
    うるうるした顔をしてるのが自分で分かった。
    あたしは欲情しまくっていた。
    接着剤で封印された人魚コスチュームの内側がぐちょぐちょに濡れていた。
    紫紺さんに侵入して欲しかった。
    今すぐにも、ゴム製のコスチュームを引き裂いて、無茶苦茶に犯して欲しかった。
    でも、あたしが何も言葉に出して言わないうちに、紫紺さんは優しく言った。
    「・・駄目です、楓ちゃん。あなたは人ではないのだから、人にしか許されない行為はできません」
    駄目ですか? あたしが人でないから、駄目ですか?
    「あ、」
    涙が溢れた。
    「ああぁ、」
    ぼろぼろ溢れた。
    「ああああ~ぁん!」
    大声で泣いた。

    16.
    ようやく泣き止んだあたしは、人魚のコスチュームにガウンを羽織っただけの格好で、食堂でたった一人早めの夕食をもらった。
    通い女中の美佐江さんが、呆れた様子で給仕してくれた。
    メニューはまたもゆるいオートミールだった。
    この格好で固形物は食べない方がいい。
    紫紺さんも桑原さんも、最初からそのつもりだったんだ。
    人間でない人魚のあたし。
    その扱いがとても哀しくて、心がずきずきした。
    ・・
    製作の続きにまたアトリエに運ばれた。
    そこで紫紺さんにはっきり言われた。
    あたしは人魚だから人間の扱いはできないと。
    どうしてもエッチな気持ちになって苦しいのなら、その様子を見せて欲しい。
    もう人間に戻れない運命を十分に感じて、喘いで欲しい。
    そんなあたしの姿を絵に描きたい、と。
    ・・
    あたしは夜明け近くまでモデルをさせられた。
    どれだけ懇願しても、紫紺さんはあたしに指一本触れてくれなかった。
    あたしはアトリエの床を這いまわりながら、繰り返す波のように襲ってくる官能と闘った。
    なすすべもなく突き落とされる感覚が、マゾの感情を刺激してまた自分を高めた。
    分厚いコスチュームの上から絶対に開かない股間をぎゅっと押さえて、物足りなさに身もだえした。
    我慢できずに自分で胸を揉んで慰めた。乳首に爪をたてて傷つけた。
    何度かおしっこが溢れそうになり、そのまま垂れ流した。
    けれども接着剤で封印された下半身からは一滴もこぼれなかった。
    ・・
    「完成しました」
    紫紺さんが言った。
    その足元であたしは息も絶え絶えになっている。
    いったいあたしは何時間、喘ぎ続けたんだろうか。
    桑原さんが車椅子を持ってきてあたしを乗せてくれた。
    髪がぼろぼろに乱れているのが分かった。
    髪だけじゃない、顔も汗と涙でぐちょぐちょ。体中に自分で爪をたてた傷痕がついていた。
    「絵を見ますか?」
    紫紺さんがイーゼルを動かして、完成した絵をこちらに向けてくれた。
    そこには、一体の人魚が水辺に腰を下ろして笑っている姿が描かれていた。
    それは、あたしだった。とても明るく無邪気に笑っていた。
    紫紺さんは、苦しみ続けるあたしを見ながら、こんな絵を描いてた・・。
    見ているうちに、両方の目から涙がこぼれた。
    あたしはその涙を拭うこともせずに、黙って紫紺さんの絵を見つめ続けた。

    17.
    「楓ちゃん、本当によく協力してくれましたね」紫紺さんが言った。
    隣で桑原さんが何も言わずに立っている。
    「でも、これで終わりじゃないんですよ。これからが始まりなんです」
    「・・」
    あたしは呆然としていて、ちゃんと応える気力もなかった。
    だいぶ小さくなったけれど、あたしの中ではまだ性感の炎がちろちろと燃えている。
    「あなたのような『素材』にめぐり合えたことは僥倖でした。今までにない趣向で人魚の加工を楽しめそうです」
    ・・ギョーコーなんて、難しい言い方されても分からない。
    それに加工って?
    あたし、もう人魚になってるんだけど。
    「では、行きましょうか」紫紺さんが車椅子の後ろに立って言った。
    「あ、あの、これはどうなるんですか」
    あたしは自分の膝を指差して聞いた。
    そこは人魚の下半身が接着剤で固定されていて、もう自分で立って歩くこともできない。
    「大丈夫です。コスチュームをつけたまま加工するのは初めてですけど、できるだけ腰部が露出するように着せていますから。それにね、下半身の切断といっても骨を切る訳じゃなくて、大腿骨の関節を骨盤から外すだけなんです。両足は開かないようにしっかり固めてありますし、コスチュームごと綺麗に切り離せるはずですよ。・・新しい下半身には青色の魚体を用意しています。あなたの肌によく映えると思いますから、楽しみにして下さい」
    紫紺さんは長々と説明してくれた。
    何を言ってるのかさっぱり理解できないけれど、とても楽しそうだった。
    まるで人体実験の材料でも見るような目であたしを見ていた。
    「作業の前に、紹介しておきたい子がいるんです。・・人魚なんですが」
    「え!」
    「楓ちゃんとも、きっと仲良くなってくれると思いますよ」
    紫紺さんはにっこり笑って車椅子を押し始めた。
    後ろで桑原さんが深々とお辞儀をしている。
    アトリエの奥の壁に向って、紫紺さんは何かの操作をした。
    カチャ。鍵が開くような音がした。
    そのまま壁を押すと、それはゆっくり後ろに開いた。
    隠し扉!?
    紫紺さんとあたしは、その扉をくぐった。

    18.
    あたしが調教を終えて『市場』でオークションにかけられたのは、それから3ヶ月後だった。
    紫紺さまが手がけた人工人魚の中でも、とりわけ素直で従順だと喜んでもらえた。
    あたしが『市場』に出たとき、あたしの人間の姿のときの動画が一緒に公開されて評判になったそうだ。
    それは、紫紺さまが撮影した、あの神沼の畔ではしゃぐあたしの姿だった。裸で水に入ってこけるところまで映っているという。
    もしかして紫紺さまは、最初から狙ってあれを撮ったのかなと思う。
    何かに足をとられて転倒するハプニングまでは期待してなかっただろうけどね。
    ・・
    あたしの新しい飼い主、つまりご主人さまは、女医さんだった。
    まだ若いのに個人で大きな外科病院を経営している人。
    ご主人さまが男性の場合、人魚が『お相手』をして差し上げるのは、当前の作法だ。
    人工人魚の下半身には、その用に使う器官がちゃんと作られているのだ。
    あたしも楽しみにしてたんだけど、購入者が女性って知ってちょっと残念だった。
    でも、この方と過ごす時間は素敵だ。
    あたしは、ご主人さまのプライベートな部屋で熱帯魚みたいにディスプレイされている。
    水槽には定期的にバラの香水をさしてもらえるし、出かけた先で見つけた髪飾りなんかをよくプレゼントしてくれる。
    男の人の持ち物だったら、あり得ない楽しみだと思う。
    でもご主人さまは優しいばかりじゃなくて、あたしは大きな剣山の針に全身を貫かれて、そのまま何日も放置されることだってある。
    まあ、人間だったときからマゾのあたしにとっては、それもうれしいご褒美の一つなんだけどね。
    この間、うっかり昔みたいに「きゃはは」って笑ったら、ずいぶん喜ばれてしまった。
    それからはご主人さまのご機嫌のいいときには、盛大にきゃははと笑うようにしてる。
    だって、人工人魚はご主人さまの愛情で生きるものだからね。
    あたしも愛情を返してあげるべきだって思うもの。

    人工人魚 楓ちゃん イラスト:鴉子さん


    [エピローグ]
    灯りが点いた。
    水槽の正面に車椅子を押した男性がやってきた。
    車椅子の少女が、水槽を指差して叫んでいる。
    ・・なんて騒がしい方なんでしょう。
    水槽の人魚はその少女を見て眉をひそめる。
    昨日、紫紺さまに言われて、神沼でちょっと驚かしてあげた子ですね。
    もう人魚の格好までして、気の早い子。
    少女は自分で車椅子から転げ落ちると、自由の利かない下半身を引きずるようにして床を這おうとした。
    男性は苦笑して少女を床から拾い上げ、車椅子に乗せ直す。
    ガムテープを出し、車椅子ごとぐるぐる巻きつけて動けないようにしてしまった。
    くすくす。
    水槽の中で人魚が口に手をあてて笑っている。
    ねぇ、あなた。
    心配しなくても、紫紺さまにお任せすれば立派な人魚に生まれ替われますよ。
    そうしたら、また調教のときにでもお目にかかりましょう。
    ばしゃ。
    人魚は尻尾をあげて水面を軽く叩いた。
    男性は人魚に向かってウインクをすると、車椅子を押して出て行った。




    ~人工人魚の世界と登場人物~
    人工人魚は人の手で作られる人魚です。
    作るのは、山深い湖の畔に住む没落名士の若き跡取り。
    材料は、人間の女性と、養殖して育てた巨大な魚体。
    女性は下半身を切断されて命を失いますが、魚体を接合され、人魚として新たに命を得ます。
    そして調教を施された後、密かに高値で取引されるのです。
    人間と魚。異なる肉体を合成し生き永らえさせるのは、湖の湖底から抽出される反魂香という成分。
    反魂香を含有する水槽の中では、人工人魚の体は半永久的に朽ちることなく、養分(餌)も必要としません。
    (水槽から出してあげることも可能ですが、せいぜい2~3日のうちには戻してあげないと朽ち果てます)
    反魂香はまた、肉体(魚体)の損傷を回復させる効果があるので、様々な拷問的行為を楽しむことも可能です。
    様々な主人に売られ、その元で飼われることになる人魚達。
    彼女達には人間だったときの記憶や感情が残っています。
    それぞれが、満たされない思いや夢を抱き、鑑賞用/愛玩用あるいは嗜虐の玩具として、水槽の中で生きています。

    近藤楓(かえで): 17才。本話主人公。明るくノリのいい高校2年生。
        援助交際で知り合ったおじさんと人魚コスプレの約束をして・・。。
    神沼紫紺(かみぬましこん): 30才。3年間に死亡した父親の跡を継いで神沼家当主となった。
        当主となる前は東京で人魚絵専門の売れない画家をしていた。
        人魚への思いに取り付かれ、人工人魚を作り続ける。
    桑原正造: 75才。先代当主の時代から仕える執事。人工人魚の秘密を知っている。
        紫紺の行為を手伝っているが、内心では改心させたいと思っている。
    竹井美佐江: 21才。通いの女中。
    山田: 50才くらい。『素材』を収集するために紫紺が使っているエージェント。
    まゆ: 紫紺に飼われている人工人魚。元は屋敷の使用人。


    人工人魚は、ネット絵師で創作家でもある鴉子さんが考案されたファンタジーです。
    pixiv で鴉子さんのイラストとその設定に興奮し、サイドストーリーを書かせていただきました。
    舞台環境や、紫紺さんとまゆさん以外の登場人物は私が考案したものなので、もし設定に齟齬や矛盾があれば、それは鴉子さんではなく、私 82475 の責任です。
    また本来でしたら17章の後で、楓ちゃんは凄惨に下半身を切断されて人魚に加工され、さらに情け容赦のない調教を受けます。お好きな方にはたまらないシーンかと思いますが、それらはあっさりと省略し、皆様のご想像にお任せすることにしました。(作者の筆力の理由!もあります)
    18章は、彼女が自分の運命を受け入れ、前向きに生きる決意をしたということをお伝えするために書きました。

    掲載した挿絵は、鴉子さんが描いて下さったものです。
    とても可愛らしくて美乳の楓ちゃんに大変喜んでおります。
    ありがとうございました!
    pixiv のアカウントをお持ちの方は、どうぞ鴉子さんの素敵な人魚さんをご覧になって下さい。
    本話では狂言回しのように少しだけ登場してもらった人魚のまゆさんにも素晴らしい背景設定がありますよ。

    http://www.pixiv.net/member_illust.php?id=420150
    (R18権限でないと、美味しいイラストは見えません)




    はだかリボン大作戦(1/2)

    1.
    6月土曜日のお昼前。
    梅雨になってうっとおしい天気が続いていたが、この日は爽やかな晴れ間が広まっていた。
    ここは新興住宅街に並ぶ建売住宅の一軒。
    その二階の勉強部屋に、大きなダンボール箱が置かれていた。
    箱はハート模様の包装紙でラッピングされ、さらに赤いリボンで大きな蝶々結びの飾りがついている。
    箱の正面には『ここから開けてね♥』と書いた札が貼り付けてあった。
    家の中には誰もいなかったけれど、二階のその部屋だけは窓が開け放されていて、吹き抜ける風が部屋の温度上昇を防いでいた。

    2.
    その10日前。
    朝から降り続く雨は止みそうになかった。
    高校2年生の高野小町は、教室の窓から外を見ていた。
    放課後の教室には他に誰もいない。たった一人で雨音を聞いているとメランコリックな気分が否応なしに高まる。
    はぁ~。深い溜息。
    校庭のフェンスの外側に沿った小道を小学生が4~5人歩いているのが見えた。
    原色の赤や黄色の傘が踊るように揺れている。その向こうに見える水色の斑点は、もしかして紫陽花?
    掛けていた眼鏡を外して見るが、遠くの風景はモノトーンにぼやけてしまった。
    小町は極端な近視で眼鏡なしでは何も見えないのである。
    はぁ~。どうしよう。
    もう一度溜息をつきながら、広げたままの手帳のページの上に眼鏡を置いた。
    そのまま両手を前に伸びをする。
    ことん。眼鏡が机の反対側に落ちた。
    あ!
    小町は慌てて立ち上がって見るが、薄暗がりの足元はぼやけて何も見えなかった。
    手探りで眼鏡を探す。・・見つからない。
    隣の机に腰が当たったけれど、そのままお尻で押して床の周辺をまさぐる。
    がっちゃ~ん!
    大きな音をたてて机が転倒し、小町は一緒に尻餅をついた。
    あ~んっ。
    床に両手をついて、眼鏡を探し続ける。

    「いたいたっ、小町ぃ~。どこ行ったかと思たやんかっ」
    ばたばたと上履きの音が響いて、一人の女生徒が駆け込んできた。
    「あんた、何してるん?」
    「眼鏡落とした~っ。探してぇ、リコ~っ」
    「メガネってこれか?」
    女生徒はそう言うと、四つんばいになった小町の股の間から眼鏡を拾い上げた。
    「あ、・・ありがと」

    3.
    机の上にあぐらで座った女生徒が大声でギャハハと笑っている。
    彼女はクラスメートの大坪理子(りこ)である。
    「もう、そんなに笑わんといてよぉ」小町が困ったように言う。
    「悪い悪い。んでも、小町の失敗はいちいち可愛いねん」
    「ぶぅっ!」
    「それで、何してたん? また乙女の物想いか?」
    「そうやって、すぐに茶化すんやからぁ」
    「別に茶化してへんよ。今日はずっと浮かん顔しとったから相談に乗ったろ思て来ただけや」
    「そんな、いいのに」
    「まあまあ、ここは親友の言(ゆ)うことを聞きいな。・・そやな。悩みはずばり、守口のことやろ?」
    いきなり言われて心臓が飛び出そうになった。
    守口健(たけし)は、小町が付き合っている同じ2年生の男子である。
    「ぎっくう! 何で分かるん!?」
    「分からいでか。一日中、手帳のおんなじページ開いて、はぁ、とか、ふぅ、とか言うてたら。その日付の赤い丸、彼の誕生日やんか」
    「な、何で理子が健くんの誕生日知っるの? もしかして理子、健くんのこと」
    「あほか。それは去年のことやろ。二人で告り合(お)うた結果、小町が勝ってウチが負けたんやないの」
    「別に勝ったとか、負けたとか、そんなんは」
    「はいはい。あんたら、もしかしてキスもまだか」
    ぽん。
    小町の顔が音をたてて真っ赤になった。
    「分かり易い子やなぁ。守口も何でこんなんがええんやろ?」
    「こ、こんな、分かり易い子で、悪かったわねっ」
    「まあまあ、怒らんと。そういう素直で初心(うぶ)なんが小町のええとこやねん」
    「・・うう」
    理子は1年から同じクラスで「小町みたいにぼおっとした子には、ウチみたいなしっかりした親友が要るやろ?」と言って勝手に親友宣言されたのだ。
    確かに理子はとても面倒見がよくて、困ったときには必ず助けてくれた。
    ただ、何にでも自分の好みの方向に小町を引っ張って行くので、かえって翻弄されることも多かったのだが。
    「悩みはこんなとこか。とりあえず、順調に付き合(お)うとる。デートも毎週や。そやけど次の進展があらへん。アタシのファーストキッスはいつになるんか、焦りまくりの日々や」
    ううっ。見抜かれてる。
    「気がつけばもうすぐアイツの誕生日。しかもラッキーなことに土曜日や。・・ここは勝負や。ロマンチックに過ごして、せめてキスはせしめたい。ついでにあわよくば押し倒して欲しい」
    「そ、そんなはっきりと」
    「違う?」
    「いえ、その通り、で・・す」
    小町がうつむいて答える。
    「まあ、確かになぁ。アイツ、明るいし面白いこと言えるし、男らしいとこもあるけど、肝心なときにはヘタレっぽいからなぁ」
    「ねぇ、理子は木村センパイとうまくいってるん?」
    「ウチか? えへへ。まあ、哲雄とは行くとこまで行ったからなぁ」
    小町は驚愕の表情になった。
    眼鏡の奥の両目を大きく見開き、両方の手を口の前に当てている。
    「って、どないしたんっ? 小町?」
    「り、理子。何で言うてくれへんかったの?」
    「へ?」
    「行くとこまで行ったって、それ、妊娠。・・もしかして、堕ろした?」
    ぽかん。
    理子は上履きを片方脱ぐと、それで小町の頭を叩いた。
    「痛ったぁ~いっ」
    「素直で初心って言ったん、取り消す! なんでウチが中絶せなあかんねん」
    「違うの?」
    「違うわいっ。ウチらは普通にえっちしてるだけや!! 危険日は避けてるし、そーでないときもちゃんとゴムさせとる!」
    「えー、そうなの?」
    木村哲雄は3年生で、理子が付き合っている相手である。
    健に振られた後、理子はさっさと木村にくら替えしたのだった。
    「はぁ、はぁ。・・小町と話してるといつも調子狂うわ」
    「ごめん」
    「まぁええわ。守口の話やったな。・・ここは、親友のために『目指せ!守口とキッス・あんど・えっち』計画でも始めよか」
    「あの、後ろの半分はなくてもええんやけど」
    「あかん、キスだけで十分や思てたら何も成功せえへん。持てる女の武器を全部使(つこ)うて、コトは初めて成るんやっ」
    理子は両手で机をばんと叩いた。
    「そ、そうなの?」
    「そおや。小町、あんたも覚悟して取り組むんやで。・・目標は守口の誕生日、6月15日やっ」
    ごくり。
    小町はつばを飲み込む。いったい何をすればいいのか。覚悟って、どんな。
    それと理子の様子が気になった。
    理子、なんでそんなに嬉しそうなんよ。

    4.
    「はだかりぼん?」
    翌週、理子が持ってきた紙には『こまち♥はだかリボン大作戦』と大書きされていた。
    「裸リボンって、何?」
    「これ見て」
    理子は別の紙を見せる。
    そこにはネットのイラストサイトから取ってきた古今東西の裸リボン少女が大量にプリントアウトされていた。
    小町もようやく理解する。
    「こ、これ、プレゼントはわたし、ってやつ?」
    「そや。小町がプレゼントになるんやで」
    「ひ、ひぇ~」
    「べたべたやけど、守口にはこれくらいせえへんと効かへん」
    理子の計画は以下の通りだった。

    Step1: 小町の家に守口健がやってくる。
    Step2: 部屋に入るとそこには大きな箱が。
    Step3: 箱を開けると裸リボンの小町が入っていて、プレゼントはわ・た・し。

    「あ、あの、これだけ?」
    「これだけや」
    「家には、母さん、いるんやけど」
    「部屋に入ってけえへんように頼んだらええ」
    「そんなん無理。彼が来たら、母さん、喜んでお茶菓子持って見に来る」
    「しゃあないなぁ。ほならウチが小町の母ちゃんにちゃんと頼んだるから」
    「はぁ?」理子はいったい何を言ってるんだろう?
    「それに、健くんがすぐにあたしに飛びついてくるみたいな計画やけど」
    「そや。据え膳食わへんのは男やない」
    「そんな、彼かて節度あるはずやし、あたしにも、受け入れる心の準備が」
    「あほか!」
    理子の一喝に小町は首をすくめる。
    「あのな、これは小町を女にするだけやなくて、守口を男にしてあげるための計画でもあるんやで」
    「はい・・」
    「覚悟を決める、って宣言したやろ? そやから小町はきっとうまく行くと信じてくれたら、それでええんや」
    そんな覚悟の約束はした覚えが。
    小町は思ったが、それを口に出せないうちに理子は勝手に話を進める。
    「準備はウチらがちゃんと進めるから、心配せんでええ」
    ウチら?
    他にも誰か手伝ってくれるの?

    5.
    学校からの帰り道。
    小町と守口健は小川の堤防の小道を並んで歩いていた。
    雨は上がっていて、ほのかな夕風が吹いている。
    「・・本当にいいの? 高野さんの部屋で誕生祝いやなんて」健か聞いた。
    「うん、遠慮しないで来てね。ちゃんとケーキとお昼ごはん用意して、待ってるから」
    「ありがとう!」
    「それからね・・」
    「?」
    小町は少し言いよどむ。でも、理子から言われた通りにちゃんと伝えないといけない。
    「実はちょっとお昼前に用事があって、健くんが来てもまだ留守かもしれへんの」
    「留守?」
    「そやから、これ」
    小町が渡したのは小町の家の玄関の鍵だった。
    「これで家に入って、あたしの部屋で待っててくれる」
    「え」
    健が驚いた顔をする。
    「それは、ちょっと、マズイんと」
    「いいの。あたしら、もうお付き合いしてる仲でしょ?」
    「それはそうやけど」
    「健くんやったら、部屋に入ってもらっていいから」
    「・・」
    「あたしの部屋に、いつでも来て欲しいから」
    「高野さんっ」
    健が立ち止まって小町に向いた。
    小町も立ち止まって健を見上げる。
    「本当に、ありがとうっ」
    健の目は真剣だった。
    「ボクも」
    どきんっ。・・健くん!?
    ひと気のない堤防。向かいあった二人を夕陽が照らしていた。
    絶好の雰囲気である。
    ああっ、もしかしてっ、もしかして、ここで?
    小町は彼が抱きやすいように両手を左右に揃えた。健くんが肩に手を置いてくれたら、目を閉じて、踵を上げて、それから。
    「・・ボクもちゃんとお土産持ってゆくからね」
    え?
    健はそう言うと「さ、帰ろ」と言って歩き出した。
    「あ、うん」
    小町も慌てて健の後をついて行く。
    何もせえへんの? してくれへんの!?
    ああんっ、もう。

    6.
    土曜日、小町は朝から母親に手伝ってもらってお誕生会の料理の準備をしている。
    そこへ理子がやってきた。ダンボール箱を持った木村哲雄も一緒である。
    「おはようございまっす!」
    「いらっしゃいっ。いつも小町に良くしてもらってすみませんね」小町の母親が二人を迎えた。
    「いえいえ、ウチら親友ですもん」
    「なら、こまちゃん。守口くんによろしくね」
    「あれ、母さん出かけるの?」
    「理子ちゃんと守口くんに見せる漫才のネタ合わせするんでしょ? 見られたら恥ずかしいからって、ゆうべ理子ちゃんが電話してきてくれたわ」
    え?
    理子を見ると理子は大きく頷きながらウインクした。
    「ちょうど、イクヨおばちゃん家に用事あるしね。晩ご飯の用意には間に合うように帰るわ」
    「そ、そう。・・いってらっしゃい」
    「母さんがいないからって、守口くんと羽目外し過ぎたらアカンよ? 理子ちゃん達も一緒やから心配ないと思うけど」
    「はいっ。安心して下さい。ウチがしっかり見てますから」
    理子が安請け合いをする。
    「それにしても、こまちゃんが漫才やなんて思ってもなかったわ。・・うふふ。今度母さんにも見せてね!」
    理子が吹き出しそうになった口を押さえている。
    母親が出ていってから、小町は理子に飛びかかってゲンコツで頭をぐりぐりした。
    「何であたしが漫才するん!」
    「きゃははは。まあええやんっ」

    7.
    二階の小町の部屋にダンボール箱が据え付けられた。
    ダンボールは案外大きくて、中で小町が膝を抱えて座っても余裕がある感じだった。
    「哲雄、あんたはもう帰り」
    ここで理子は木村を部屋の外に追い出してしまった。
    「いいの? せっかく手伝ってくれてるのに」
    「小町ねぇ、何のためにこんなことしてるんか 忘れたんか?」
    「?」
    「裸リボンやろっ、ハ・ダ・カ!」
    そうやったっ。小町の顔がみるみる赤くなる。
    「ほらっ、さっさと全部脱ぎいっ!」
    理子はいきなり小町のブラウスとスカートを脱がせにかかった。
    「きゃぁっ」
    「きゃぁやあらへんっ。小町、あんた何でブラしてんねんっ」
    「え?」
    「肌に跡がつくやろ? 大事なときに下着なんかつけてたらあかんやん」
    「あ」
    「まさかぴちぴちのパンツ穿いてるんやないやろなっ」
    「ああぁ~っ!!」

    小町の胸と腰の回りには下着の跡がくっきりとついていた。
    「これは、消えへんなぁ」
    「あ~んっ、どぉしよぉ~!!」
    「まぁ、先に言うとかへんかったウチも悪いし。・・しゃあない。リボン巻くときにちゃんと隠したる」
    「できる?」
    「大丈夫や。リボン巻きは、哲雄と一緒にちゃんと練習してきたさかいな」
    「理子も裸リボンになったの?」
    「違う。ウチはリボンを巻く方の担当や」
    理子はそう言ってギャハハと笑った。
    なら、木村センパイを裸リボンに? 小町は少しだけ想像してすぐ止めた。

    「そや、小町、おしっこ出るやろ。この先、当分行かれへんから今のうち行っとき」
    あぁ、そっか。
    同い年の女二人だと気兼ねがない。
    小町は全裸のままでトイレに走って行く。

    8.
    理子が用意してきたのは、真っ赤な太いリボンである。
    「昔から裸リボンは、赤と決まってるんやな」
    ごくり。小町が唾を飲み込む。
    「バンザイして」
    小町は恐るおそる両手を上げた。

    くすぐったい!
    リボンの縁が肌を刺激する。
    「じっとせいっ」
    理子が真面目な顔で胸の回りにリボンを巻いて行く。
    「ほい、両手下ろして」
    肩と上腕にもリボンを巻いた。
    「こんなもんやな」
    「まだ、乳首、見えてるけど」
    「これでええんや」
    確かに理子が巻いたリボンは胸の上下に掛かっているが、胸の先までは覆っていなかった。
    「これは小町を綺麗に見せるためのデコレーションやからな。チラリズムがええねん」
    理子は得意そうに説明する。
    「手首を前で合わせて締めてみ。・・ほら、だいたい隠れるやろ?」
    言われる通りにすると、確かに腕が乳房全体を隠したように見えた。

    「よっしゃ。なら箱の中に立とか」
    「うん」
    小町はダンボール箱に入って立った。
    「両手を合わせて」
    理子は小町の腕と手首にリボンを巻いて縛った。
    「ええやんか。・・寄せて上げる効果で谷間もくっきり、上々の出来や」
    「あ、あの」
    「どうした?」
    「縛られるの?」
    「当たり前やん。あんたは守口のモンになるんやで。それを解くんは守口の仕事や。・・リボンの形が崩れるから、無理に動かんようにしぃや」
    「・・は、はい」
    「次は下や」
    腰の回りにもリボンを巻いた。
    さらに、膝からふくらはぎにリボンを巻きつけて足首まで縛られた。
    「そのまま座って」
    小町は箱の中に尻をついて座った。
    「うん、ええやろ。・・仕上げの飾りや」
    理子は大きなリボンのデコレーションを小町の髪にヘアピンで留めた。

    「よっしゃ。守口が来るんは1時間後や。どや、小町。いけるか?」
    「うん。・・多分」
    「そや、記念写真撮っとこ」
    かしゃ。かしゃ。
    理子はスマートホンを構えると小町の写真を撮った。
    「あ~っ、理子ぉ、そんなぁ~!」
    「小町の晴れ姿やで。誰にも見せへんから心配せんとき」
    それから右手で遠くに離して構えて、左手でピースサインをしながら自分も一緒に入って写した。
    「あ~ん、なら、」
    「ん?」
    「あたしのスマホでも撮って」
    理子は大げさにずっこける振りをしてから、笑って小町のスマホで写真を撮ってくれた。
    「見たい?」「見たい」
    画像を見せてもらう。
    「どや? 可愛いやろ」「・・うん」

    9.
    ダンボール箱の蓋が閉まり、がさがさとラッピングする物音が伝わった。
    「完成やっ。小町ぃ、頑張るんやで」
    「うんっ」
    小町は回りを見回す。
    箱の中は暗くて、蓋の隙間越しにほんの少しだけ光が射していた。
    リボンで縛られた自分の身体がうっすらと見える。
    「ねぇ、理子」
    返事はなかった。
    「・・リコ~?」
    小町は自分が部屋に一人残されたことを知った。
    自分はこれから1時間近く、ここで彼が開けてくれるのを待つのだ。

    さっき見せてもらった写真を思い出した。
    素肌に赤いリボンを飾った眼鏡の少女が、箱の中から恥ずかしそうな表情で見上げている。
    これから男の子に自分を捧げる女の子。
    どき、どき。
    「・・あんたは守口のモンになるんやで」理子の言葉が流れる。
    そう、それは自分のことなのだ。
    にわかに動悸が激しくなるのを感じた。
    どき、どき、どき。

    続き




    はだかリボン大作戦(2/2)

    10.
    胸がいっぱいになって、息が苦しかった。
    落ち着け、小町っ。パニクったら、あかんっ。
    そや、この後のこと考えようっ。失敗は許されへん。
    頭の中でシミュレーションする。
    彼が箱を空けてくれたら、にっこり笑ってハッピーバースデイって言う。
    それから立ち上がってリボンを解いてもらって、・・ううん、それより縛られたままお姫様抱っこでベッドに運んでもらう方がいいかも。
    どき、どき、どき。
    もし彼がいきなり抱きついてきたら、慌てないで、まずあたしをベッドに運んで、それからね♥、って、あぁ~っ、言われへんよぉそんな恥ずかしいこと。
    やっぱり恥じらいを見せながら、どうぞあなたの好きにしてくださいって、お願いするのが可愛いかな。
    そしたら、彼はボクの好きにしてええんやなって言って、あたしは縛られたまま無抵抗で・・。
    ああ~っ、もう、何考えてるんよぉっ。
    落ち着いてっ。落ち着けっ、あたし!
    どきん、どきん、どきん。

    はだかリボン大作戦

    もう駄目だった。一度乱れた思考は元に戻らなかった。
    ・・縛られてる。・・何もかも見られて。・・彼の思いのまま。
    小町の頭の中を被虐的なイメージがとめどなく駆け巡る。
    あぁっ、あたし、あたしっ。
    胸の鼓動は痛いほどに高まっていた。身体中が熱くなり、もどかしさがつのった。
    健くんっ。・・早く、早く、あたしを出して。
    もどかしさを誤魔化すように、箱の中に座った状態で全身の筋肉にぎゅっと力を込めた。
    両手をグーの形に握って、首を前後左右にぐりんぐりんと動かした。
    眼鏡が何かに当たり、ずるりと外れて落ちた。
    あ!
    視界がぼやけて何も見えなくなった。

    11.
    爽やかな風が吹くお昼前。
    誰もいない部屋に大きなダンボール箱が置かれている。
    ハート模様の包装紙でラッピングされたダンボール箱。
    ときおり窓のレースのカーテンが揺れる以外、部屋の中は静かで何も動くものはなかった。
    しかし、よく耳をすませば誰でも気がつくはずだった。
    その気配に。
    箱の中からかすかに伝わる物音と少女の息づかいに。

    12.
    呼び鈴が何度か繰り返して鳴った。
    やがて玄関の鍵が開き、守口健が入ってきた。
    靴を脱いで上がる。
    正面の床に1枚の便箋が置いてあった。
    『階段を上がって私の部屋にどうぞ こまち』
    それは、理子が書いて残したものだった。
    二階に上がるとドアの一つに『こまちの部屋』と書いた便箋が貼ってあった。
    そのドアをノックする。返事はなかった。
    健はドアを開けて部屋に入った。

    部屋の中に、ハート模様の包装紙と赤いリボンで飾られたダンボール箱があった。
    『ここから開けてね♥』と書いた札が読めた。
    何やこれは?
    いぶかしながら箱を見る。
    次の瞬間、その気配に気がついた。高野さん!?
    健は箱に走り寄って耳を近づけた。
    ごとごとという物音に混じって小町の声が聞こえた。
    「・・ぁぁ、・・んっ、」
    「高野さんっ」
    急いでリボンを解き、包装紙をびりびりと破いた。
    蓋を開けると、赤いリボンで縛られた裸の少女が入っていた。
    「高野さん!」
    健を見上げる小町の目が潤んでいた。
    「・・たけし、くん、・・来てくれた」
    消えそうな声で言った。

    13.
    健は小町を縛るリボンを苦労して解いた。
    小町は自分で立てなかったので、肩を支えて箱から出してあげた。
    小町の裸を直接見ないように注意して羽織らせるものを探し、ベッドに敷いてあったタオルケットを小町の身体に巻いた。
    箱の中に落ちていた眼鏡をかけさせると並んで座り、乱れた頭を撫でてあげた。
    「大丈夫?」
    「・・あ、あたし、あたし」
    「何も喋らんでいいから」
    ゆっくり背中をさすった。
    「えっ、・・え、ええぇ~ん!」
    小町はぼろぼろ涙を流して泣き出した。
    健は黙って小町の背中をさすり続けた。

    ようやく落ち着いた小町は健の肩に頭を持たせかけた。
    「ごめん」
    「いいよ」
    「あたし、健くんに・・」
    「わかってる。ボクのためにしてくれたんやろ?」
    「うん」
    「嬉しいけど、こんなことまでせんでもええのに」
    「でも、」
    「高野さんはボクの一番大事な人やから」
    「ほんま?」
    「ほんまや」
    「・・なら、ぎゅっと抱いてくれる」
    「ぎゅっと?」
    「うん、力いっぱい」
    健は小町の背中と腰に手を回して抱いた。
    「あぁっ。・・もっと、強く、お願い」
    両方の腕に込める力を強めた。小町の腰が折れそうに思えた。
    「はぁっ・・ん!」
    まるで電流が走ったかのように、小町の身体がびくんと動いた。
    タオルケットが外れて床に落ちた。
    「あ、あぁっ・・、健くん」
    小町は自分から健に抱きついてきた。
    健は子猫のように膝に乗ってきた全裸の小町を抱きしめた。
    その身体はすべすべしていて、とても柔らかかった。

    14.
    月曜日。
    学校で理子が小町に聞いた。
    「ええ!? 何もせんと終わった? えっちどころかキスもせえへんかったんか」
    「うん。それはもういいの」
    「あれだけ念入りに準備したのに。まっぱの女子を前にして、どれだけヘタレやねんっ、あの男は」
    「健くんはヘタレなんかやないよ。優しくて、紳士やもん」
    「まあ、小町がそう思て満足やったら、かまへんけど」
    「あたしが泣いたときは抱きしめてくれたし、お料理出すときかて、身体にかかったら火傷するって自分で運んでくれたし」
    「へ?」
    「一緒にいる間、何回もあたしのこと綺麗って言ってくれたもん」
    「なぁ小町。もしかして、あんた、守口の前でずっと裸でいたんか?」
    「うんっ。彼が帰るとき玄関でバイバイってするの、誰かに見らへんかハラハラしたけど。・・普通そうするもんやないの?」
    「普通は、一発えっちしたら、その後は服着るんとちゃうかなぁ」
    「え~っ! でも男の子って、その方が嬉しいんでしょぉ?」
    「まぁ、嬉しいちゅうたら嬉しいやろけど、守口にはそれも拷問やったかもしれんなぁ」
    「やぁ~っ。あたし、はしたないって思われた? ね、理子ぉ~!」
    小町は頭を押さえながら、その辺りをばたばたと駆け回った。
    「やってしもたもんは仕方ないやん。それに守口はそおいうことを含めて、小町を好きになってくれたんやろ?」
    「そう、そうやもん!」
    小町はたちまち復活して元気になる。
    「実はもう約束してるの」
    「何の約束?」
    「こんどね、理子と木村センパイとダブルデートしよぉって」
    「なんでウチらが出てくんねん」
    「そやかて、あんな裸リボン一人では無理やし、誰が手伝ってくれたんって彼に聞かれて」
    「ウチの名前出したんか?」
    「あかんかった?」
    「あ゛~っ」
    今度は理子が頭を押さえる。
    「それでねっ、ほら見てっ」
    「え」
    小町が差し出した紙には『りこ&こまち♥はだかサービス大作戦』と大書きされていた。
    「何これ」
    「あたしか理子の家に皆で集まってね、女の子は裸になって男の子にサービスしてあげるの。・・あ、裸でサービスって、何もえっちなことはせえへんからね。お菓子食べたり、一緒にゲームしたりして遊ぶだけ」
    「はぁ?」
    「ほら、理子もセンパイで裸リボン練習したって言うてたやん。そやけど裸になるんやったら、女の子の方が絶対に可愛いでしょ? それで男の子も喜んでくれるし。あたしね、健くんがあたし以外の子の裸を見るの、理子やったらOKやもん。それにね、・・うふふっ」
    小町は嬉しくてしかたないという風に、両手を口の前に当てて笑った。
    「男の人がきちんと服着てて、女の子だけ裸になるって、何かドキドキせえへん?」
    「CMNFかぁっ」
    「英語で言われても分からへんよ。ねぇ、健くんも賛成してくれてるし、木村センパイに提案してみてよ」
    「イヤや、そんな恥ずかしこと。ウチはそおいう趣味は・・」
    「こら、理子」
    小町は両手を腰にあてて怒るふりをした。
    「だいたい、あたしに裸リボンさせたんは理子やんか」
    「ひ」
    「全裸が恥ずかしいんやったら、裸エプロンも可愛いよね」
    「は、はだかえぷろん・・」
    「そうか、男物のだぶだぶのワイシャツ1枚だけ着てあげるのも男のロマンなんやて、健くんが」
    「そんなマニアックな世界、ウチは無理やぁ」
    理子は立ち上がって逃げ出した。
    「ちょっと、理子っ。・・男の子に見せる前に二人でリハーサルしてもええから、ねぇ~!」
    小町も立ち上がって追いかけて行く。
    「理子ぉ~!!」
    「勘弁してくれぇ~」



    ~登場人物紹介~

    高野小町(こまち): 16才 高校2年生。彼との進展しない関係に悩む眼鏡少女。
    守口健 (たけし): 16才 高校2年生。小町の彼氏。
    大坪理子(りこ): 16才 高校2年生。小町の親友。面倒見がいい。
    母さん: 小町の母親。調子がいい。
    木村哲雄: 17才 高校3年生。理子の彼氏。

    ベタベタの『プレゼントは、わ・た・し』のお話ですww。
    元々超短SSのつもりで書き始めましたが、収まりがつかずに中編になってしまいました。
    エピソードを絞りきれないのは、我ながら最近のよくない癖です。

    作者が裸リボンで拘るのは、リボンで手足を拘束することです。
    世に裸リボンのイラストやシチュエーションは数ありますが、私は、女性が裸の身体にリボンを巻きつけて笑っているだけの構図には何も感じることができません。
    身動きが自由な裸リボンは、ただのファッションあるいは露出趣味だと思います。
    プレゼントになるということは、相手に従属することです。
    リボンで自らを拘束することで女性は従属する意志を示すのです。
    もちろん縄や拘束具ではありませんから、もがいて暴れば脱出も可能です。
    でも彼女は決して暴れたりしないのです。それどころか、拘束された姿勢を努めて保ちリボンの形が崩れないようにして頑張るのです。
    こういうシチュエーションであれば、ごく簡単な前手縛りしか施していなくても、私には最高の萌えになります。
    そういえば最近、女性の緊縛がメジャーになってそれ自体は嬉しいですけれど、亀甲縛りなどと称して胴体に菱縄モドキの縄飾りをしただけで、肝心の両手が自由なままの絵面を見かけます。これに萌える人っていったいどんな人なんだろうと思います。
    (すみません、最後は蛇足でした)

    さて、小町ちゃんは裸リボンからCMNFの方面に何かが目覚めてしまったようです。
    いつ書けるかわかりませんが、次は「はだかサービス大作戦」に無理矢理付き合わされて恥ずかしがる理子ちゃんの姿を描いてみたいですね。

    ありがとうございました。




    囚われ島のナイフ投げ(1/3)

    ~冒頭ご注意~
    この小説は、当サイトの作品の中で最も残虐です。
    女性の人権が著しく軽んじられ、拷問・処刑されるシーンがあり、またハッピーエンドでもありません。
    つまり救いようのないお話です。
    女性の方、グロ表現の苦手な方には、お読みになることをお勧めしません。
    また、作者はこのお話をあくまでファンタジーとして描いており、決して現実の世界で女性を虐げる意図はありません。
    それを理解できない方がこの小説を読んで何らか犯罪的行為に走られても、作者は責任を負うことができませんので、どうぞご了解下さい。


    1.
    真っ暗な空間。
    スポットライトの丸い光の中でタキシードの男が一人、軽く頭を下げた。
    男は細いナイフを出して構えると、右側の暗闇に向かって投げた。
    ダン!
    ステージが明るくなった。
    男がナイフを投げた方向には大きな白い板が立ててあり、そこには少女が両手を広げて拘束されていた。
    16~7歳くらいに見える少女はブレザーの制服姿で、全身がんじがらめに縛りつけられていて微動だにできない状態だった。
    厳重な猿轡を施されて声も出せなくされていたが、大きく開かれた二つの瞳ははっきりと恐怖を訴えていた。
    彼女の頭の上には男性の投げたナイフが突き刺さっていた。
    男性は無言でさらに2本のナイフを出して構える。
    少女の目がぎゅっと閉じられる。その目に涙が光った。
    ダン!
    ダン!
    連続して投げられたナイフが的に刺さる。
    少女のまぶたが恐る恐る開き、眼球が左右に動いた。
    そして2本のナイフが自分の額の両側3センチと離れていない場所に刺さっているのを見ると、そのまま動かなくなった。
    太ももの内側に透明な液体が流れる。
    少女が意識を保っているのかどうか、客席からは分からなかった。
    仮に意識をなくしたとしても完全に固定された彼女の身体は崩れ落ちることはなく、少女はそのままナイフ投げの的であり続けるのだ。
    男は無造作に第4、第5のナイフを構える。
    彼はこのホール専属のナイフ投げだった。
    観客は彼が何本のナイフを「正しく」投げることができるかを賭けている。
    現在のオッズは次の通り:
    ・・ 30:2.3 31:1.7 32:1.6 33:2.1 34:2.9 35:4.4 36:8.2
    37:12.0 38:28.1 39:42.9 40:82.7 41:132.1 42:275.0 ・・
    つまり彼が40本以上投げ続けることができると思っている客はほとんどいないのだ。
    ふん。馬鹿にするな。
    男は両手にナイフを一本ずつ持って同時に投げる。
    バン!!
    少女の胸のすぐ脇にナイフが刺き立った。

    2.
    涼音は固いベッドの上で目を覚ました。
    起き上がろうとして左足に激痛が走る。
    痛い!
    左足を見ると太ももに包帯が巻かれていた。
    他にも身体のあちこちに小さな傷があって痛んだ。
    あたし、一体・・?
    思い出した。
    飛んでくるナイフ。
    ナイフを投げる男性の冷たい目。
    飛んできたナイフが自分をかすめて背中の板に当る衝撃音。
    「いやぁ~!!」
    寝転んだまま両手を顔にあてて叫んでしまった。
    「気がついたか」
    しわがれた声がした。
    「怪我が治るまで1ヶ月の診断だ。それまでよく休んで傷を癒せ」
    見上げるとあの男性だった。
    「あ、あ・・」
    「話もできないか。まあいい」
    男は黙って部屋を出て行った。

    3.
    そこは6畳くらいの病室だった。
    ドアが二つ。ひとつはトイレ。もうひとつは廊下に出られるようだが鍵がかかっていて開かない。
    窓はないけれど、曇りガラスの天窓があって昼夜の区別はついた。
    日に何度か医者と看護婦がやってきて涼音の怪我の手当てをする。
    食事も1日3回きちんと出た。
    「あの、ここはどこでしょうか」
    涼音が尋ねても看護婦は何も答えてくれなかった。
    「規則で何も教えられません。マスタに聞くことね」
    「マスタ?」
    「もうすぐ来るでしょう」
    その言葉の通り、あの男性がやってきた。
    「具合はどうだ」
    「・・」
    「まだ話せないか」
    「あなたが、マスタ、ですか?」
    「まあ、そういうことだ」
    「・・」
    「また来る」
    ・・
    男性は毎日決まった頃にやってきた。
    医者や看護婦は何も教えてくれないので、涼音は仕方なく男性に尋ねる。
    「ここはどこなんですか?」
    「隔離された施設だ。俺も、お前もここから出られない」
    「あたしは、どうしてここにいるんですか?」
    「お前は選ばれてここに来たんだよ。それを俺が引き取った。なぜお前なのかは俺も知らない」
    涼音はその瞬間を思い浮かべる。
    学校の帰り道、友達と分かれた直後、濡れたガーゼを口元に押しつけられて。
    気がつけば狭い箱の中。長い時間かけて運ばれてここに着いたんだ。
    「あたしは、帰してもらえるんですか?」
    「それは、お前次第だ」
    「?」
    「ここにはお前のような女がたくさんいる。ここから出て行った女もいる。お前も出て行けるかもしれない」
    どこに出て行くのかは知らないがな。男は心の中でつぶやいた。
    「ここでは俺がお前のマスタ、つまり主人ということになっている。俺の命令は絶対だから従え」
    「・・」
    「お前の名前はユキだ」
    「あたし、そんな名前じゃありません。あたしの名前は」
    「ここではユキと決まったんだ。以前の名前はどうでもいい」男がユキの言葉をさえぎった。
    ユキはベッドの上でぎゅっと膝を押さえた。その手に涙が落ちる。
    「まずは怪我を治すことだ」
    「・・」
    「もう分かっていると思うが俺はナイフ投げだ。怪我をさせたのは悪かった。次は大丈夫だ」
    「次?」
    「そう、次だ。お前が元気になれば、また的になってもらう」
    「そんな」
    「病室を出ても俺がいいと判断するまでステージには上げない。心配せずにゆっくり過ごせ」
    それまでに逃げられるだろうか? ユキは考えた。
    足が治るまでは無理。でも、その後ならチャンスはあるかも。
    「・・はい」
    「わかればよい」
    「あの、」
    「何だ」
    「お前って呼ぶのはやめて下さい。あたし、ユキでいいですから、名前で呼んで下さい」
    「わかった。ユキ」
    「それから、あなたは何て呼んだらいいですか?」
    「俺は田村だ」

    4.
    田村はユキを毎日見舞った。
    左足の怪我は完治したと診断され、ユキは田村に連れられて病室を出た。
    長い廊下を進んでエレベータに乗る。
    エレベータには行き先の階数ボタンも現在階の表示もなかった。
    ユキは首を回して自分の後ろを見る。
    背中に回された両手に手錠がかかり、そこから伸びた紐が田村の腰のベルトに繋がっている。
    これじゃ、逃げるなんてできない。
    「部屋の外に出すときは拘束するのが決まりだ。我慢しろ」
    エレベータを出た。
    「うわぁっ」
    その廊下には窓があって外が見えた。
    眼下に広がるのは真っ青な海だった。はるかに広がる水平線と白い雲。
    「ここは孤島だ。泳いで逃げようなんて思わないでくれよ」
    ふう。いったいここはどこなのよぉ。
    ・・
    連れられた部屋は広かった。
    大きなダブルベッド。ソファ。毛足の長いカーペット。
    床から天井まで一杯のガラス窓の向こうには青い海。
    ホテルの部屋みたい。
    ユキは後ろ手錠のまま勢いよくベッドに腰を下ろした。ベッドは柔らかくふわふわと揺れた。
    「お帰りなさいませ」
    声がして続きの間から少女が入ってきた。
    紺色のメイド服を着ている。
    「この人ですか」
    「ユキだ。ユキ、こっちはハル。仲良くしてくれ。・・俺は、打ち合わせがあるから行ってくる」
    田村はポケットから鍵を出してハルに渡すと、黙って部屋を出て行ってしまった。
    え・・っと?
    ユキは黙ってハルを見た。
    ハルは優しく微笑みながらユキの手錠を解いてくれた。
    この子、誰?

    5.
    ハルはユキと同じく誘拐されてきた少女だった。
    ひとつ年上の17歳、高校2年生。
    田村について4ヶ月になるという。
    「ナイフ投げの的は5回やったわ。幸い、大きな怪我は一回だけ」
    ここは不法なカジノを中心としたリゾート島だという。客は政治家、医者、資産家など。
    ここで田村は賭けナイフ投げをやっている。
    ナイフ投げの的になるのは、合法・非合法にかかわらず集められた女性。
    「何回投げられるかを賭けるの。『的』が死ぬか、怪我をするまでナイフが投げられるわ」
    ハルは別のナイフ投げの男が投げたナイフが的の少女の胸の真ん中に当るのを見たことがあるという。
    「わざと当てたんじゃないかと思うわ。『大穴』の回数だったから」
    「その子は死んだの?」
    「すぐ運ばれていったから分からないわ。でもあれで生きていたら奇跡だと思う」
    「あたし、怪我が治ったらまた的にされるって聞いた・・」
    「それは私も同じよ」
    ナイフ投げは何人かの『的』を所有することが許されている。
    ハルが来る前、田村には2名の『的』がいたらしい。
    「他の人の話で聞いたんだけど、田村さんは何か特別なアクロバットをやって二人に重傷を負わせたみたい」
    「・・」
    「今は私だけを使って、ナイフを投げているわ」
    「逃げられないの?」
    「それは、無理。・・この部屋も調べてみたらいいと思うわ」
    ユキは部屋を調べた。
    田村が出て行ったドアは、ノブも鍵穴もなかった。
    天井まで達する大きなガラスの窓は羽目殺しで開けることができない。
    「床にも天井にも開くところはないわ。・・田村さんが戻ってきてドアを開けてくれないと、私たちは廊下へ出ることもできないの」
    「ハルさんは、ここでは、この部屋では何をしているの?」
    「何も。自由にしていいわ。着るものや食べるものは何でも希望すれば届けてもらえるわ」
    「あの人は、田村さんはよくここにくるの?」
    ハルは笑った。
    「田村さんもこの部屋に住んでいるのよ」
    「え」
    「あの人、女性に対して不能っていうのかな。まあそういうことはされないから安心して」
    「そうなの」
    「でも疑い深いわ。何か隠し事をしているようなそぶりを少しでも見せたら駄目よ。ここで私達、何も隠しようがないのにね。あなたも気をつけて」
    ・・
    田村は深夜になって部屋に戻ってきた。
    ハルとユキをダブルベッドに寝かせ、自分はソファで寝てしまった。

    6.
    ユキがこの部屋に来て1週間が過ぎた。
    ハルはユキの衣服や身の回りのものを頼んで揃えてくれた。
    ユキの普段着はハルと同じメイド風の衣装になった。
    田村は毎日どこかに出かけ、大抵夜遅くに酒の匂いをさせて帰ってくる。
    ハルと二人だけの生活にもだんだん慣れてきていた。
    ・・
    「ユキちゃんもやる?」
    隣室からハルが声を掛けた。
    丈の短いTシャツとショーツだけの姿だった。
    続きの部屋は小さなキッチンなどがあったが、ハルはそこにべダルマシーンを置いてトレーニングルームにしていた。
    「どうしても運動不足になるしね。それにいざというときに体力は必要だし」
    ハルも逃げることを諦めたわけではないらしい。
    ユキはハルに貸してもらったTシャツを着て自転車を漕いだ。
    ハルはその横でダンベルを振っていた。
    汗をかいていると自分の境遇を少しは忘れることができる。
    「はぁ、はぁ、・・こんなにいいお天気なのに、あの海で泳ぎたいな」
    二人が軟禁されている建物は高い崖の上にあるらしい。
    青い海と白い砂浜が眼下に見えた。
    海岸のそばに小さな建物があって、煙突から白い煙がたなびいている。
    「そうね。でもあそこで人が泳いでいるのは見たことがないわ。・・一緒にシャワー使おう!」
    ハルの誘いに応じて二人で浴室に入る。
    二人で抱き合うようにしながらシャワーを浴びた。
    ハルはユキよりも色白で少し背が低く、胸は逆に大きかった。
    笑いながらお互いの身体をこすり合う。
    ユキはハルの脇腹に大きな傷跡があるのに気付いた。
    「ハルちゃん、これ」
    「あ、ナイフに切られた跡」
    「すごい大きな傷。可哀想・・」
    「ユキちゃんも、左足に刺さったんでしょ?」
    「うん」
    ユキの左に太ももにも傷があった。
    「ハルちゃん、あたし達、これからも傷が増えていくのかな」
    「・・」
    「ハルちゃん?」
    ハルはシャワーの湯を止めた。
    「傷が増えるだけだったらいいのよ。死なないようにしなきゃ」
    「うん、そうね」
    「それにね」
    「?」
    「身体にあんまり傷がつくと、商品としての価値が小さくなるから間引きの対象になるらしいわ」
    「間引きって?」
    「傷だらけで汚くなった女の子は処分されるってこと」
    「殺されるの?」
    「それは、分からないわ」
    「どうしたらいいの?」
    「・・・」
    ハルは裸のユキをぎゅっと抱きしめた。
    「田村さんに大事にしてもらうことよ。あの人が少しでも上手にナイフを投げられるように。あたし達に当らないように」
    「ハルちゃん」
    「ユキちゃん、一緒に生き延びようね。それで二人とも家に帰ろ」
    「うん、そうね」
    浴室の扉ががちゃりと開いた。
    「仕事だ。二人とも服を着るんだ」
    裸の二人を前に田村が無感動な声で言った。

    7.
    カジノの楽屋でハルとユキが着替えていた。
    銀色のハイレグのレオタードのようなコスチュームだった。
    足元には銀色のショートブーツ。
    二人は髪をアップにして化粧を施された。
    「行くぞ」
    田村が来てステージの脇につれていかれた。
    「今夜はハルが的だ。ユキはハルに万一のときの補欠だ」
    ハルの顔がこわばった。
    「わかりました」固い声で答える。
    がんばって、といいかけてユキは止めた。身動きひとつできず縛りつけられるだけなのに、いったい何をがんばるというのか。
    ただ黙ってハルを抱きしめて、背中を撫でた。
    ステージでは前のショーが続いていた。
    サーカスの調教師のような格好をした男性が全裸の女性に鞭を振るっていた。
    女性は頭上で縛られた手首を吊られ、そして床から1メートルほど離れた両足は両端に足枷のついた金属パイプで大きく開脚させられていた。さらにパイプの中央には鉄の錘がぶらさがっている。
    彼女は手首の縄だけで自分の体重と金属パイプ、鉄の錘を支えているのだった。
    ピシリ。
    ピシリ。
    鞭が女性の肌を撫でる度、その跡に赤い筋が刻まれていく。
    女性は目をぎゅっと閉じて耐えている。
    ピシリ。
    女性の胸に鞭があたる。
    遠めにも彼女の乳首がはっきり勃起しているのが分かった。
    「あぁっ」
    我慢しきれずに女性が声を上げた。苦痛と官能の声。
    どぉっと拍手と歓声が起った。
    「ありゃ駄目だ。あんなに早く声を上げたらカジノは大損だね」田村が人ごとのようにつぶやく。
    ステージの男が別の鞭に持ち替えた。
    その鞭の先は細い針でぎっしりと覆われていた。
    吊られたままの女性に鞭が打たれた。
    バチッ。「ンギァアアア!!」
    女性が悲鳴を上げた。先ほどとは全然違う叫び声だった。
    バチッ。
    無数の針が肌に食い込み、そして肉をそいだ。
    女性の身体が空中でくるくる回る。
    男は女性の全身をまんべんなく打ちすえると、今度は乳房と性器だけを集中的に打った。
    ステージの床に赤い液体と肉片が飛び散る。
    ハルがユキの手をぎゅっと握った。
    ユキがハルを見ると、ハルはステージに顔を向けたままだった。
    その顔は驚くほど無表情だった。
    ・・
    鞭打ちが終わり、男が血まみれの女性を引きずって戻ってきた。
    「行くぞ。ハル」
    交代に田村がハルを連れてステージに出て行く。
    ユキの近くに女性が放り出された。身体中の皮膚がむごたらしく裂けている。
    生々しい、血の匂い。
    「ぁぁ・・」
    かすかなうめき声。
    ユキは正視することができずに横を向いてしまう。
    「ほい、そっち持って」
    男性の声、続いてごそごとという物音。
    「運ぶぞ」
    振り返ると、作業服の男性が大きな麻袋を担いで出て行くところだった。
    まだ生きているのに!
    でも、たぶんあの人は生き延びられない、と思った。
    ここでは女の命は紙切れみたいに軽いんだ。
    あたし達も田村さんに逆らったら、あんな風にされるんだ。

    8.
    ステージではハルの準備が整えられている。
    大きな円板にハルが両手を広げて固定された。
    手首、肘、腹、膝、足首、そして首。
    たくさんのベルトがハルの身体にかかる。
    耳から口にかけても猿轡を兼ねた皮のベルトが掛けられ、彼女の頭部を固定する。
    ハルが自分の意志でできることは、呼吸と瞬きを除けば指先を動かすくらいになった。
    円板をくるりと回してハルを1回転させる。
    後方の電光掲示板にオッズが表示されて行く。
    田村が的から離れ、ナイフを一本構えて投げた。
    ダン。
    ナイフはハルの両足の間、股間から約5センチの位置に突き立った。
    デモンストレーションを兼ねたリハーサル。
    それを受けて電光掲示板の数字が変化し、投票が締め切られた。
    ・・ 24:2.8 25:1.6 26:1.3 27:1.9 28:2.2 29:3.0 30:3.6
    31:8.1 32:14.5 33:32.4 34:86.3 35:129.9 36:342.5 ・・
    何だ、失礼な。
    的が回転するという分を割り引いても低すぎる。
    ユキのときに失敗したからか?
    くそ。
    田村は憮然とした表情でハルの的に歩みよると、的の縁を両手で持った。
    ハルが田村を見る。
    「行くぞ」
    ハルが目で頷いた。
    ぐい。力を込めて引き下ろした。
    円板が回り始める。
    田村は元の立ち位置に戻るとナイフを構えた。
    5メートル先で大の字になったハルがくるくる回転している。およそ、1秒に1回転。
    ふう。見ていろよ。
    ダン、ダン、ダン、ダン。
    ナイフが連続して宙を飛び、ハルの身体の輪郭を縫いつけていく。

    9.
    「ハルちゃん、大丈夫?」
    部屋に戻ったハルはベッドに横たわり、胸を押さえて動かない。
    ハルの右腕に包帯が巻かれている。
    43回目に投げたナイフがハルの右手を流血させて、田村のナイフ投げは終わった。
    ハルとユキを連れて部屋に戻った田村はハルの怪我が軽傷なのを確認するとすぐに出ていってしまった。
    田村は回転板へのナイフ投げで新記録を打ち立てて、カジノを大儲けさせたのだった。
    多分、今夜も深酒して帰ってくるのだろう。
    「ハルちゃん?」
    ユキがハルの背中を撫でる。その背中は細かく揺れていた。
    「あぁっ」
    やおらこちらを向くとハルはユキをベッドに引き倒して抱きついた。
    「私、死ななかったよぉ。また生きられた・・」
    ユキの頭を抱きしめる。
    ハルの心臓の鼓動がユキにも分かった。
    「よかったね。本当に」
    「私、私、・・」
    ハルの背中が再び震え、続いて嗚咽が流れた。
    ユキは黙ってハルのするままにさせた。
    やがて、ユキの頬をハルの両手が押さえた。
    「?」
    「ごめんなさい」
    そのままハルの顔が近づき、二人の唇が触れ合った。
    「お願い、私を裸にして、抱いて」
    「ハルちゃん・・」
    「自分でも変だと思う。でも、我慢できない・・」
    「うん、いいよ」
    ハルのシャツを脱がせる。
    ブラをずらすと、ぷるりとおっぱいが現れる。
    固く尖った先端をそっと口に含む。
    「はあぁっ」
    ハルが声を上げる。
    ユキはそのままハルの首筋を撫でた。
    ハルの身体がぶるぶると震える。
    ・・
    明け方になってユキは目を覚ました。
    目の前にハルの寝顔があった。
    ハルは何も身につけていない。
    いけない、あたしも裸だ。
    ユキはベッドのシーツを引き寄せて二人の身体にかけた。
    田村の姿はまだ部屋になかった。
    彼がナイフを次々と投げる姿を思い出す。
    その向こうで的になって回転しているハル。
    あのとき、ハルちゃん、どんな顔をしていたっけ?
    かなりの速さで回ってたし、猿轡もされていた彼女の顔ははっきりと見えなかった。
    でも、その表情は恐怖だけではなかったように思う。
    そうだ、ハルちゃん、可哀想だけど綺麗だった。
    あたしも的になりたいの?
    もっとひどい結果になるかもしれないのに。
    ナイフが刺さって血を出して・・。
    生々しい血の匂いがよみがえる。
    あのステージでナイフ投げの前に鞭で打たれていた女の人。
    凄惨だった。
    あれは、イヤ。絶対にイヤ。
    残酷で、怖くて、おっぱいとあそこを打たれて、・・どきどきした。
    あ~っ、あたし。何を考えてるの。駄目だよ。
    あんな酷いことに憧れちゃ。

    続き




    囚われ島のナイフ投げ(2/3)

    10.
    帰ってきた田村は機嫌がよかった。
    ハルとユキを連れて施設の中を案内してくれた。
    ホールやレストラン、カジノ。
    楽しそうに歩く田村とその後に手錠で繋がれて歩くメイド服の少女達。
    「あら田村。可愛い女の子二人も連れて、売りにでも出すの?」
    白いセーラー服にルーズソックスを履いた女が声をかけてきた。
    セーラー服を着ているといっても、髪を金色に染めて化粧も派手な大人の女性だった。
    超ミニのスカートから出た太ももは色黒でざらざらしてて、あまり綺麗ではなかった。
    「そんなことするかよ。こいつらは俺を儲けさせてくれる幸福の女神なんだ。ここを見学させてるところさ」
    「ふ~ん。そうなんだぁ。売るならあたいが買ってあげよと思ったのに」
    女はユキに近づくと、右手の中指でユキの顎を持ち上げた。
    「この子いくつ?」
    「16だ」
    「モノホンの女子高生? いいわねぇ。・・うふふ、こんなところに連れてこられて悲しい?」
    女の左手がスカートの下に入り、太ももの内側を無遠慮に撫で上げる。
    ああっ。嫌っ。
    女の目に見据えられて、ユキは硬直したように動くことができない。
    「そこまでにしてくれ。これは俺の持ち物だ」
    田村が止めてくれた。
    「ひゃはは。・・いつかあたいと遊ぼうね、お嬢ちゃん」
    女はユキから離れると、手を振って去っていった。
    「あいつはマリーといって女のくせに女を相手にする拷問人だ。・・大丈夫か?」田村がユキを見て聞いた。
    ユキはがたがた震えていた。その目に涙が光っている。
    「心配するな。俺がお前達をあんな女に引き渡すかよ」
    ハルがユキの肩にそっと頬を寄せてくれた。
    ・・
    その部屋は冷たくて無機質な雰囲気だった。
    コンクリートむき出しの床に、いろいろな木箱や工具類。
    医療手術に使うようなベッドと照明。
    何に使うのか分からない様々な金属の器具。
    あそこに無造作に立てかけてあるのは、もしかして十字架?
    「ここはいろいろな『実験』を公開する部屋だ。そういうことに興味を持つ客もいてな」
    「実験、ですか?」
    「そうだ。女を材料にした人体実験だ」
    「多分、女の人を面白半分になぶって殺すのよ」ハルが小さな声で教えてくれた。
    何ということを。
    ユキは胸が気持ち悪くなった。
    あそこの、セメントの台・・。あの黒いしみは血?。
    「怖いか」ユキの顔色を見て田村が言った。
    「そうだろうな。俺も初めてここで見せられたときは驚いたよ。・・でも人間、どんな環境にも慣れるもんだ」
    田村は二人を連れて部屋を出た。
    エレベータで下りて長い廊下を歩く。鉄の扉を開けると強風が吹き抜けた。
    扉の外は洞窟で、さらに歩くと海岸に出た。海は荒れていた。
    見上げると崖の上に大きなホテルのような建物が見えた。
    ハルとユキはすぐに理解した。ここ、あたし達の部屋から見える海岸だ。
    小さな建物があった。屋根には不釣り合いに大きな煙突。
    建物の入り口に鉄の扉あって大きな南京錠がかかっていた。
    「ここは処分した女の焼却場だ」
    二人の少女は息をのんだ。
    この煙突から煙がたなびくのを何度も見ていた。あれは・・。
    「どんな女も最後はここに来る。ほんの一部、島の外に買われて行く幸運な女を除いてな」
    田村は二人に向かい合った。
    「ここでは権力を持った人間以外の命は、金で買える。お前らの命は俺が握っている。そして俺の命もまた上の人間に握られているのさ」
    風がごおっと吹いてユキの頬に冷たい水滴がかかった。
    寒い、と思った。
    「お前らは大事な商売道具だ。殺したり傷つけたりはしないから安心しろ。俺がナイフを投げるときだけ命を預けてくれればいい」
    田村は頭をかいた。
    「それだけだ。戻るぞ」
    そう言って洞窟の方に歩き出した。
    「田村さん、マスター」
    ハルが呼びかけた。田村が振り向く。
    「あの、もしあたし達の身体が傷だらけになって、醜くなっても、ずっと生かしてくださるんですか?」
    「・・そういうことは、考えるな」
    田村はそれ以上何も言わなかった。

    11.
    ユキのステージは4日後にやってきた。
    「あの、衣装を希望してもいいですか?」
    「それは俺が決められないことだ。決められないが、頼んでやることはできる。何だ」
    「ありがとうございます。その、できるだけ露出が大きいのを。裸、は恥ずかしいから、ビ、ビキニとか」
    「わかった」
    横でハルが驚いているのが分かった。
    できるだけ肌を覆う衣装の方が怪我をしにくいし、生き残れる確率も高い。
    それは分かりきっていることだ。なのに、ユキちゃんは何故?
    「ごめんハルちゃん。でもあたし、試してみたいの」
    飛んでくるナイフを自分で避けることはできない。
    それならいっそ、堂々と身体を晒して神様に運命をゆだねた方がいい。
    それに・・。
    ユキの脳裏に、全裸で吊られて鞭打たれていた女性の姿がよみがえる。
    その姿は毎晩夢に現れていた。夢の中で鞭打たれて血まみれになるのはユキだった。
    あたし、もう自分を理解している。
    どうせ貶められるなら、精一杯、惨めな思いをしたい。
    ・・
    ユキが回転板に縛りつけらた。
    身につけているのは乳首と局部をわずかに覆うだけのマイクロビキニ。
    幕の向こうに、自分と同じ格好で心配そうに立っているハルが見える。
    ごめんね。ハルちゃんまで同じ格好させて。
    頭を正面に向けられて固定された。
    もうあたしは、田村さんのナイフの前に無力だ。
    客席は満員だった。
    前回、記録を更新した田村のナイフ投げは評判を呼んでいるのだ。
    ユキは身体の隅々まで気をやった。
    こんなたくさんの人があたしを見ている。あたしの身体を見ている。
    あたしのおっぱいやお腹にナイフが刺さるのを期待している。
    目の前に田村が立った。
    構えた手にナイフが光った。
    来る!
    心臓が止まりそうだった。
    ダン!!!
    脇の下、左の胸のすぐ脇にナイフが突き立った。
    ああああっっ!
    身体じゅうがぶるぶる震えてしまいそうだった。
    胸の先が尖る感覚。
    あぁ、あたしの乳首、絶対に立ってる。
    こんな小っちゃなブラだと分かっちゃうよ。
    ユキは頭を固定されているので自分の身体を見ることもできず、ただ前を見ているしかなかった。
    ・・
    ユキちゃん、感じてるんだ。
    ハルはユキをじっと見ていた。
    前を隠していた両手をおろして自分の身体を見おろす。
    私もこの格好でナイフを投げられたら、ああなっちゃうのかな。
    死んじゃうかもしれないのに。
    ・・
    リハーサルの一投で投票が締め切られ、電光掲示板に最終のオッズが表示された。
    驚きの声がさざ波のように客席に広がる。
    田村はあえて掲示板を見ないようにしていた。
    ふん。
    田村は回転板に歩み寄る。
    その驚きを本物にしてやるぜ。

    12.
    「行くぞ」気がつくと田村が回転板の縁に手をかけて自分を見ていた。
    はい、お願いします。
    ユキは目で答えた。
    ぐるんと世界が回った。
    自分を照らすスポットライトが視界の中でぐるぐる回っている。
    頭に血が上る感覚。
    視界の中に田村が現れた。
    大きく振りかぶって構えている。
    まだかまだかと思っていると、ようやくナイフが放たれた。
    ナイフが空中に浮かんで見えた。
    すべてがゆっくりと動く、不思議な感覚だった。
    飛翔するナイフの軌道が光る直線としてはっきり見えた。
    その直線を延長して的と交差する位置。
    そこは円板の円周上を移動する自分の頭の予定位置と同じ場所だった。
    ユキの頭がその場所に達したとき、ナイフの先端はユキの顔面からほんの20センチの空間にあった。
    ナイフの先端がぴたりと自分を指しているのが見えた。次の瞬間。
    ダン!
    ナイフがこめかみの横に突き立つ衝撃が伝わった。
    ダン! ダン!
    衝撃が連続する。
    ああぁぁああぁっっ!!!
    すべての衝撃がエクスタシーだった。
    次々飛んでくる凶悪な衝撃の前で無防備なあたし。
    どうぞ、・・あぁ、どうぞ、あたしを貫いて。
    ダン! ダン! ダン!
    ぐるぐる回る景色がぼやけてきた。

    的

    ・・
    気がつくと、強烈な騒音の中にいた。
    頭がズキズキした。
    何?
    ゆっくりと視界がクリアになった。
    上下逆になった田村が目の前でガッツポーズをしていた。
    騒音は歓声と拍手の嵐だと気付いた。
    田村がやってきて、頭が上になるように回わし、そして猿轡のベルトを外してくれた。
    ユキは急いで自分の周囲を確かめる。
    ひゃっ。
    回転板にはぎっしりと無数のナイフが突き立っていた。
    身体のどこかが傷ついた様子はどこにもなかった。
    「やっぱりお前は俺の天使だよ!」
    田村がユキの頬を両手で押さえてキスをした。
    そして「ヒャッホゥ~!」と叫びながら回転板を力いっぱい回転させた。
    「きゃぁっ」悲鳴をあげてぐるぐる回るユキ。
    その前で田村は客席に向かって再びガッツポーズを繰り返していた。
    ・・
    回転板から開放されたユキはまっすぐ立つことができず、ハルが支えてくれた。
    ハルは涙ぐんでいた。
    「本当によかった。ユキちゃん生きててくれた」
    「えへへ」ユキは力なく笑ってみせる。
    「まだ世界がぐるぐる回ってるよぉ」
    舞台の袖で足がもつれた。ハルは支えきれずに二人で倒れた。
    「ねぇ・・」
    ゆきはハルの膝に頭をのせたまま聞いた。
    「あたし、無傷だよ。どうして終わったの?」
    ハルは身を起こしてユキの頭を撫でた。
    「分からなかった? 最後のナイフはユキちゃんの頭に当ったのよ」
    「え」
    「でもね、ぎりぎり髪の毛を切っただけで済んだの。回転が止まってもユキちゃん動かないし、私もう絶対に死んじゃったと」
    ユキは慌てて自分の頭を触った。
    ツインテールにくくっていた右半分の髪がざっくりとなくなっていた。
    「・・!!」
    声を出さずに叫ぶユキの背中をハルはいつまでも撫でていた。

    13.
    その夜ハルとユキはベッドで裸で抱き合った。
    お互いの身体を求めあい慰めあって、明け方になって泥のように眠った。
    目が覚めると暗かった。
    一日中寝てたんだ。
    ユキはベッドをそっと抜け出し、浴室で熱いシャワーを浴びた。
    湯気で曇った鏡を指で拭く。
    その中でこちらを見るユキの髪は超ショートになっていた。
    ハルがぎこちない手で切り揃えてくれたのだった。
    まるで男の子。
    涙が一筋こぼれる。
    でも、髪の毛があたしの命を守ってくれたんだもの、感謝しなきゃ。
    涙を洗い流すように顔面をシャワーに向ける。
    突然後ろから抱かれた。
    「ひゃ」
    「ショートカットのユキちゃんも可愛いよ」
    ハルだった。彼女も裸だった。
    「ハルちゃんっ。・・あ、また」
    ハルの手がユキの胸を揉む。
    「次は私もビキニにする。その方がきっと死なないと思うもの」
    「あん」
    のけぞりながら返事のできないユキ。
    「それに、あの格好で回るユキちゃん、綺麗でセクシーだった」
    ハルの手の力が弱まるのを待っていたように、ユキがハルの後ろに回った。
    「ありがと。きっとハルちゃんも綺麗だよ。おっぱいだってあたしより大きいし」
    そしてハルの胸を揉みしだく。
    「ん・・」ハルが声を押し殺す。
    ユキの右手が下に降りてハルの太ももの間に入る。
    「あ、やだ。ユキちゃん。・・ん、あぁ」
    ユキの指が動くとハルの腰がゆっくりと沈んだ。
    ・・
    バスタブに張ったお湯の中で二人は抱き合っていた。
    仰向けに入ったハルの上にユキが覆いかぶさるように入っている。
    キスをする。乳首をつまみあう。そして互いの性器を刺激しあう。
    「大好き」「あたしも」
    いつまで二人でいられるのだろう。
    いつまでこんな生活が続くのだろう。
    「ねえ、私達、本当の名前を知らないよね」
    「そういえば、そうだよね」
    「私、宮城慶子」ハルが言った。
    「あたしは、高山涼音」ユキも言った。
    「すずねちゃん」
    「けいこちゃん」
    ユキはくすっと笑った。
    「どうしたの?」
    「だって、ハルちゃんってあんなにエッチなのに、慶子なんて、すごい優等生みたいな名前」
    「何よぉ。涼音だってどこかのお嬢様みたいな名前じゃないの。本当はおっぱい揉まれるのが大好きなくせに」
    「もぉっ、言ったなぁ」
    ユキがハルに抱きついてお湯の中に頭から沈めた。
    「んぱっ!!」
    もがきながら今度はハルがユキをお湯に引き込んだ。

    14.
    その翌々日の夕方になって田村がようやく現れた。
    足元がおぼつかない。3日の間ずっと飲み続けていたようだった。
    「65本だぜ。誰にも抜かれないレコードだ」
    シャンパンの瓶と大きなケーキの箱を持っている。
    「俺の腕を認めさせたんだ」
    ケーキの箱をどんと置く。
    「お前達も食ってくれ」
    ケーキなんて頼めばいくらでも届けてくれるのに。
    ユキとハルは苦笑しながら、それでもケーキを切り分けてお皿に並べた。
    「ハルも、ユキも、飲めるだろう?」
    紅茶を入れようとカップを並べていると、田村がシャンパンを開けてカップに入れてしまった。
    仕方ない。
    「カンパイ。チアーズ!」
    田村の声に二人はカップのシャンパンを飲んだ。
    ユキとハルがケーキを食べている間にも田村はシャンパンをあおり続け、やがてテーブルに頬をついて眠りこけてしまった。
    仕方ないね。
    二人がかりで田村をベッドに運ぶ。
    酒の臭いがぷんぷんした。
    「ふう」
    眠る田村を前に二人で顔をあわせて笑った。
    「可愛い人」
    「田村さん、面白い」
    と言ったユキの目が光った。
    田村のズボンのポケットからキーホルダーが覗いている。
    「これ」
    そっと手を伸ばして抜き取る。
    「駄目よ」ハルが止める。
    「でも」
    テーブルに置いたキーホルダーを二人の少女が見つめた。

    続き




    囚われ島のナイフ投げ(3/3)

    15.
    深夜。
    二人を軟禁していた部屋の扉が開いた。
    田村のキーホルダーには小さなボタンがついていて、それが無線で鍵を開けてくれるのだった。
    少女たちが廊下に忍び出る。
    ジーパンなどは用意していなかったので、二人ともメイド服の長いスカートを短く切って動きやすくしていた。
    ハルが覚えていた。あの海岸にボートがあったわ。あれに乗って漕ぎ出せば。
    ユキも覚えていた。エレベータの横に非常階段があったよ。きっとそれで下まで降りれる。
    ベッドで眠りこけた田村は朝まで、もしかしたらお昼まで起きないだろう。
    猫のように廊下を進み、非常階段の前に出た。
    鉄の扉の前にキーホルダーを差し出す。
    カチャ。
    鍵が開いて二人は鉄の扉を開けた。
    ごおっ。
    風圧で扉が重い。二人で力を合わせて扉を押して隙間を通り抜けた。
    外は雨まじりの強風だった。
    崖の下まで続く壁に張り付いた鉄の階段を下りて行く。
    下まで何十メートルあるのだろうか。
    たちまち二人はずぶぬれになり、風で短いスカートがめくれ上がる。
    何度も滑って尻餅をつきながら、手すりを伝ってゆっくり下りて行く。
    風の音。下からは打ち寄せる波の音。
    こんな嵐の中をボートで漕ぎ出せるのだろうか?
    二人とも同じ不安を抱きながら、階段を下りて行く。
    もう、戻れないのだ。
    ・・
    途中に階段の踊り場が広くなっている場所があった。
    屋根のさしかけが深くなっていて、雨風をしのげそうだった。
    「ちょっと休も」「うん」
    二人で転がるように座り込む。
    ハルが腰に巻いた布からタオルを出してユキを拭いた。
    ユキもハルを拭く。
    そしてそのタオルを二人のお尻の下に敷いた。
    「お尻が冷たいね」
    「えへへ、そうだね」
    短く切ったスカートの下は小さなショーツだけだ。
    二人は並んで座り、互いの腰に手を回して密着するようにして休憩する。
    ユキが顔を寄せるとハルがキスをした。
    そのまま時間が経つ。
    嵐がいっそう激しくなっているようだった。
    「行こう」「うん、行こう」
    二人は立ち上がり、そして残りの階段を下りていった。
    ・・
    海岸に続く傾斜地に降り立った。
    もうすぐよ。うん、もうすぐ。
    二人手を繋いで海岸へ下りて行く。
    左手にあの建物が見えた。
    死体の焼却場が嵐の中に建っていた。
    あまりそちらを見ないようにして回りこむ。
    エレベータに通じる洞窟の脇を抜けたところで、ハルが前方を指差した。
    あった!
    小さな白いボートが逆さに伏せて置かれていた。
    二人は小走りでボートの方に向かう。
    突然、足元の砂が崩れて二人は穴の中に落ち込んだ。
    ざあっ。
    砂の中で転倒したユキの両足にゴムのようなものが巻きついていた。
    そのまま引き上げられて空中に舞い上がった。
    ああっ。何?
    嵐の中でユキは逆さ吊りになった。
    ハルちゃんは?
    「ハルちゃん!」
    呼びかけたが返事はなかった。
    ごお。
    強風が吹いて、ユキの身体は空中でくるくる回った。
    「ハルちゃんっ。ハルちゃぁん!」
    ユキの声がむなしく響いた。

    16.
    眩しさに目を開けた。
    水平線から朝日が昇ろうとしていた。
    昨夜の嵐がうそのような小さな波が静かに打ち寄せていた。
    足、痛い!
    そう思った瞬間、ユキは自分の高さに驚いた。
    彼女は頭上に張り出した木のやぐらから、4~5メートルほどの高さに逆さ吊りになっていたのである。
    罠?
    何かの仕掛けに掛かったのは確かのようだった。
    ああ、ハルちゃんは?
    周囲を見回して気付いた。
    ユキのほんの1メートルほど下で、ハルは片足首を吊られてぶら下がっていた。
    あまりの近さに昨夜は気付かなかったのだった。
    「ハルちゃん、慶子ちゃん!」
    ハルは両手をだらりと下げたまま身動きしなかった
    ・・
    何時間過ぎただろうか。
    いくらもがいても足首のゴムは解くことができなかった。
    日はすっかり昇り、逆さ吊りになったユキの体力ををじりじりと奪ってゆく。
    血が頭に上って正常な思考が困難になる。
    あたし、ここで死ぬのかな。
    ・・
    自分の身体がゆっくりと下がっているようだった。
    下に誰かいるようだ。
    誰かな。
    田村さんかな。

    17.
    冷たい水を浴びせられた。
    遠くの方で誰かが呼んでいる。
    何よぉ?
    もう一度冷水をかけられた。
    目を開けた。
    「起きなさい」
    男性の声だった。
    ・・
    その場で下着まで脱がされた。
    冷水をかけられてガタガタ震えながら、ユキは全裸で男性の後について歩かされていた。
    「これからも黙って従って下さいよ。力づくは簡単ですが、人を増やすと経費がかかるんですよ」
    気がつくとハルがいなかった。
    自分と男性の二人だけで歩いていた。
    一緒に水をかけられたような気もするし、ずっと一人きりだったような気もした。
    連れて行かれたのは、かつて田村と3人で住んだ建物とは別の棟だった。
    どこか薄汚れて、すえたような匂いがした。
    小さなドアを開けると、そこに大型犬を入れられるくらいの金属の檻があった。
    「ケージに入りなさい」
    ・・
    その部屋は打ちっぱなしのコンクリートで囲まれていた。
    空調が効いているのか寒さや暑さは感じなかった。
    ハルは口の中に円筒形の器具を装着され、それはベルトと南京錠で外せないようにされた。
    自殺防止だと言われた。
    筒の中に舌を押し込んだ状態で、満足に会話もできず「あー」とか「ほー」としか発音できなくなった。
    檻の中では身をかがめて横たわっているしかなかった。
    定期的に薄いスープのようなものを無理やり口の中に流し込まれた。
    さらに、たまに檻の外から水をホースでかけられて長い柄のブラシで洗われた。
    ユキは悲鳴をあげて狭い檻の中を逃げまどった。
    いつまでこんな扱いをされるんだろう。
    肌は荒れて、体中青あざだらけだよ。
    ハルちゃんはどうなったんだろう。
    死んじゃったりしてないよね。

    18.
    何日過ぎたのか分からなかった。
    檻から出されて、口の器具を外された。
    あの男性に黙ってついて行くと、ハルと田村がいた。
    ハルはユキと同じく全裸で床に座り込んでいた。
    その前に椅子に座った老人が一人。
    ユキはハルに駆け寄った。
    「ハルしゃん!」
    あれ、あたし変な喋り方だよ。舌がしびれてうまく話せないんだ。
    「ユキちゃんっ」
    ハルもユキをぎゅっと抱きしめてくれた。
    「あ~ん、ハルしゃんっ、ハルしゃんっ・・」
    ユキはただハルの名前を呼び続けた。
    無事な姿を見れただけで涙がこぼれた。
    「黙りなさい」
    老人の横に立った男性が、いつまでも泣き止まないユキに向かって言った。
    ぴしり。
    「きゃあ!」
    背中に激痛が走った。男性の右手に小さな鞭が握られていた。
    「ユキちゃん・・」
    ハルが小さな声でささやきながら、ユキの背中をゆっくりとさすった。
    「・・あ、・・・」
    あふれそうな嗚咽をこらえてユキはようやく黙った。
    「それで俺達はどうしたらいいんだ」田村がゆっくり聞いた。
    「お前のあの腕を葬るのは惜しい。今でもリクエストが殺到しとるんだ」老人が答えた。
    「美少女の心臓を貫いて欲しい、とかそういうリクエストばかりじゃがな」
    ひ。
    ユキは老人が自分に向かって笑ったような気がして、ぞくりとした。
    「じゃあ、また目隠しして投げればいいのか」
    「それは認められん」老人が答えた。
    「その程度では客は満足せん。それにもうこれ以上、お前の腕を試すようなギャンブルはできんのだ」
    「あなたが失敗する方に賭けるお客様は、もういないんですよ」男性が横から言った。
    「そうか。この子らが絶対に助からないショーをやれ、ということか」
    「お察しがいい」
    ハルがユキの手をぎゅっと握った。
    ユキはごくりとつばを飲み込む。
    「しかし、こいつらは幸運の女神なんだ。こいつら相手なら、どんな奇跡でも起こせるんだ」
    「あなたがしっかりとこの子らを管理していたなら、その言い分も多少は通りましたがね」男性が冷たく言った。
    「そもそも、何でこういうことになったのか、よく考えた方がいい」老人が続けた。
    「俺の命もどうなるか、わからんということか」
    男性と老人は何も答えなかった。
    田村はしばらく考えて、答えた。
    「わかった。何でもやるさ。・・また金を貯めて別の女を買うことにするよ」
    それからハルとユキを見た。
    「すまん。守ってやれなかった。覚悟してくれ」
    今度はハルがユキの胸に顔をうずめた。
    声を出さないで泣くハルの背中をユキはさすった。

    19.
    そこはかつて田村がハルとユキを案内して見せた『実験』のための部屋だった。
    あの無機質な部屋は、壁にサテンのカーテンを張り、床に毛足の長い絨毯が敷かれ、ほの暗い照明で照らされて、高級クラブのような雰囲気に変わっていた。
    特別に招かれた客が10人ほど座っている。
    男性だけでなく、半分は女性だった。
    どの客もフォーマルなスーツやドレスを着用しアイマスクで顔を隠していた。
    やがて生贄の少女が二人引き出されて、正面の台の上にひざまずかされた。
    二人とも全裸で、首輪と手枷を施されている。
    ユキは隣のハルを見た。ハルは無表情で、その目に生気はなかった。
    あたしもきっと同じ顔をしてる。これからなぶり殺されるのだから。
    「ようこそ、今回の素材は女子高生が2体です」
    司会の男性が前に立って挨拶する。
    「この娘らはナイフ投げの的に使われてきましたが、粗相をしたので処分されることとなりました」
    びく。ハルの背中が動いたようだ。
    「今宵、皆様には、趣向をこらした解体ショーとナイフ投げのパフォーマンスをご覧になっていただきます」
    客席から拍手が鳴った。
    「やあああぁぁっ!!」
    ハルが大声で悲鳴を上げた。
    男性が振り返ってハルの頬を張った。ハルは横とびに倒れて黙った。
    「少女の悲鳴は悪いものではありませんが、まず皆様に品定めしていただかねばなりませんので」
    ・・
    ハルとユキは手枷を鎖で吊り上げられて、背中合わせで爪先立ちにされた。
    「どうぞ、ご自由にお確かめ下さいませ」
    客達が寄ってきて二人を弄ぶ。
    乳首をつままれる。乳房を揉みしだかれる。
    片足を持ち上げられて、性器を広げられる。
    前と後ろに指が入ってくる。小さな芽を指でねじられる。
    「あぁっ! や!」
    身をよじって逃れようとしても、かなわない。
    ハルとユキは顔を背けて耐え続けた。
    ・・
    一通り嬲り物にされた後、二人は縄で高手小手に縛られた。
    そして背中合わせに連結された状態で三角木馬に乗せられた。
    「!!」
    声にならない悲鳴が上がる。
    木馬は断面が正三角形。
    表面を平滑に仕上げられた金属製で、足がかりや手すりなどは一切なかった。
    二人の体重は完全に股間の1点に集中する。
    少しでも楽になろうと太股や膝に力を入れて踏ん張ろうとするが、つるつるの表面に滑って、かえって痛みが増加した。
    死んじゃう!
    ユキはパニックになってもがいた。
    少しでも楽になろうと上体を前屈する。
    「ひ・・ぁあっ」
    後ろでハルの声が聞こえた。
    あぁ、ハルちゃん!
    自分が前屈すると、ハルは身体が伸びて木馬の先端が後方に食い込むのだ。
    ごめんねっ、ごめんね!!
    あわてて体を起こす。
    あたし達、どうしてこんな目にあってるんだろう。
    誰か助けて。お願いだから。
    間断なく激痛が突き上げる。
    やがて太ももの内側にひと筋、ふた筋と赤い液体が流れるが、二人はそれにも気付かず苦しみ続けた。
    観客たちは、カクテルグラスを傾けながらその姿を楽しむ。
    ・・
    どれくらい放置されたのだろう。
    気がつくとユキは両手両足を広げて固定されていた。
    何これ。頭がぼうっとしてうまく考えられなかった。
    ゆっくりと世界が回転していた。
    回転板?
    どうやら自分はナイフ投げの円板に固定されて回っているらしい。
    明るいライトが自分に向かって照らされていた。回りは暗くてはっきり見えない。
    それにしても、あたしのあそこ、どうなっちゃったんだろ。
    あれだけ続いた痛みは消えていた。
    それどころか、股間からじんじんと快感が広がっていた。
    あ・・、キモチイイ。
    いったい、どうして?

    20.
    ユキのいるスペースと反対側にスポットライトが点き、そこに白いベッドが見えた。
    ベッドには仰向けに横たわったハルが手足を大の字にして固定されていた。
    ハルちゃん!
    叫ぼうとしたが声が出なかった。
    あれ?
    猿轡をされている訳でもないのに、声が出せなかった。
    バチ!!
    突然頬が殴られた。殴られたと思ったけど、痛くなかった。痛みの代わりに、例えようもない快感が走った。
    「ああぁんっ」
    ユキの口から大きな声が出た。それは甘い喘ぎ声だった。
    「感淫剤が効いたようね」
    目の前にセーラー服の女が立って言った。
    あの金髪の女拷問人だった。
    「痛がってくれないのは、あたいにとっては残念だけどね。・・ま、見てな」
    女はベッドの方に向かい、寝かされたハルの腹を拳骨で殴った。
    ぐぼ。
    変な音がして、ハルが口から半透明の液体を吹いた。
    「ひゃん、はぁ・・」
    ハルも顔を左右に振りながら、快感に捕われた声を出した。
    「ひゃははははっ!」
    女は狂ったように笑いながらハルを殴り続ける。
    「おぉい、司会者さんよ。次はあたいの担当だよ。始めていいかい?」
    「あ、はい。・・で、ではお待たせしました。まず皆様の投票で選ばれた娘が解体されます。処刑人はマリー・ルーズ!」
    ・・
    マリーはナイフを出すと、笑いながら自分の舌を出して刃に押し当てた。
    ナイフに流れる自分の血をセーラー服にこすりつけて拭う。
    そしてナイフの先をハルの右の乳房に当てると、そのまま無造作に引いた。
    「ん、は、はぁ~んっ!」
    ユキはハルの声を聞きながら、不思議に思った。
    あれ、今、ハルちゃんのおっぱい、切り取られた?
    ・・
    ベッドの白いシーツと女の白いセーラー服が赤く染まっていた。
    マリーは小型の電動鋸でハルの手足を切断した。
    胴体の方は切断面に血止めを施すが、切り離した手足はそのまま自分の頭上にかざし、したたり落ちる血を顔面に受けるのだった。
    「あぁ、ひ、・・」
    ハルの声は弱々しくなっていたが、まだまだ快感に満ちていた。
    マリーはハルの口に自分の唇を押し当てる。
    「ひゃはは。いい娘だねぇ。まだバージンかい?」
    両足のなくなったハルの股間にナイフを何度も突きたてた。
    「ひゃあ・・、あん、あん、あぁ~!!!」
    血の海の中でハルがぶるぶると震えて、最後の叫び声が響き渡る。
    マリーは電動鋸を取り上げるとハルの首にあてた。
    ハルの目から大粒の涙がこぼれた。
    ・・
    ハルちゃん! 慶子ちゃん・・っ。
    ユキも涙を流していた。
    だめだよぉ。死なないで。
    一緒に生き延びよぉって、二人で帰ろって、約束したじゃないっ。
    ・・
    テーブルに銀の盆が置かれ、その上にハルの首が載せられた。
    マリーはスカートの中に手を入れて下着を脱ぐと、テーブルに上がり、ハルの首の上で両足を広げて膝をついた。
    「はぁ~、あっ、あんっ」
    血まみれのセーラー服とルーズソックスを着た女が腰を振って自慰をする。
    やがてその股間から透明な液体がほとばしり、ハルの首にふりそそいだ。
    ・・
    「あ、ありがとうございました」
    司会の男性が出てきて、マリーの毒気に当てられたように言った。
    「・・この後は、ナイフ投げをお楽しみいただきます」

    21.
    短い休憩の後、ユキの前に田村が立った。
    その横には大量のナイフが入った籠。
    田村は無表情で、ユキに対して何の思いもないように見えた。
    あぁ、とうとう。
    あたしも殺されるんだ。ハルちゃんみたいになぶり殺されるんだ。
    ・・
    ユキを固定した円板が猛速度で回り始めた。
    カジノのステージで田村が使った円板は人力で回したが、これは電動モーターでその回転速度は比べ物にならない速さだった。
    強烈な遠心力に視界が赤く染まるような気がした。
    ダン!
    ダン!
    ダン!
    ほんの数センチ横にナイフが突き立つ。
    その数がみるみる増えて行く。
    ぱらぱらと拍手が起こる。田村の実力は皆が知っているから、この程度で大きな拍手は起こらないのだ。
    観客が待っているのは、違う投げ方である。
    「では、次は的の狙い方を変えます。・・当たらないようにではなく、当てるように」
    ユキの中で特に激しい感情は起こらなかった。
    ただ、股間にわずかに刺激が走った。
    アタシ、トウトウ、コロサレル。田村サンニコロサレル。
    前に立つ田村の姿がはっきり見えないのは、自分の回転速度が速すぎるせいだろうか、それとも涙のせいだろうか。
    その田村がナイフを手に見たことのないポーズで振りかぶると、上に向かってナイフを投げた。
    そのスピードは目にとめることができず、まるで何本かの光線が周囲に向かって一斉に放たれたように見えた。
    ぱりばりばりっ。
    ガラスが割れるような音がして照明が消えた。
    部屋は暗闇になった。
    「どうした?」「停電か?!」
    「お客様、落ち着いて!!」
    円板の回転が急に止まった。
    全身の拘束が解かれた。ユキは回転板から落ちて床に倒れた。
    エ? ドウシタノ?
    何も考えることができなかった。
    そのユキを男性の腕が抱え上げた。
    田村の腕だった。
    ・・
    扉を開けると部屋の外は照明が点いていた。
    「あそこだ!」
    明かりが差し込むと、中から複数の男性の声が聞こえた。
    「田村ぁ、てめぇっ!!」
    マリーが叫びながらナイフをかざしてとびかかってきた。
    田村は渾身の力で自分の大型ナイフを投げる。
    それはくるくる回転しながら飛んでゆき、マリーの右の膝を砕いて切断した。
    マリーはもんどりうってその場に倒れ、ルーズソックスを履いた片足だけが転がってきた。
    田村はその足を部屋の中に蹴り込むと、扉を閉めて外から鍵を掛けた。
    ・・
    再びユキを抱えて廊下を走る。
    通路を曲がり、いくつかの扉を抜け、真っ暗な倉庫に飛び込んだ。
    「大丈夫か」
    「・・マスター、・・田村さん」
    「俺はもうマスタじゃない」
    田村はそう言いながらユキを床に寝かせた。
    「ここの監視カメラは回線を切ってあるからしばらく時間稼ぎができる。いずれ見つかるのは時間の問題だがな」
    「ど、どうして」
    「俺にもわからん。・・本当は二人とも助けるつもりだったが、あんな段取りでハルが先に殺されるとは思わなかった」
    ユキの頭の中に、生きたまま切り刻まれたハルの姿が蘇った。
    「あぁっ、ハルちゃん、・・えっ、えっ、」
    「泣くな!」
    「えっ、・・ひ、」
    田村がユキの頬を叩き、ユキは嗚咽をこらえた。
    「・・お前だけでも島を出してやる」
    「え、・・どうやって」
    「心配するな」

    22.
    30分後。
    田村はユキに自分のジャケットを羽織らせると、その手を引いて通路を抜けた。
    鉄扉を開けて外に出ると、そこは海に面した狭い道だった。
    海は静かで、空には満天の星が輝いていた。
    近くに小さな桟橋があった。照明灯の下に警備の人影が見える。
    「従業員用の船着場だ」
    二人は桟橋の反対側に広がる岩場の影に隠れた。
    「100メートルほど、泳げるか」「はい」
    手を繋いで、海に入った。
    ゆっくりと海から桟橋に近づく。
    係留されていたモーターボートに桟橋の反対側から上がった。
    「・・キーを挿したままだ。燃料が入っているかどうかは神のみぞ知る、だな」
    ユキを座席の下に伏せさせると、田村は暗闇の中で動いて前後のもやい綱を解いた、
    モーターボートが桟橋から離れ、静かに流されて行く。
    そのまま4~50メートル離れたところで、男性の叫び声が聞こえた。
    桟橋を走る足音。
    田村がキーをひねってエンジンをかけた。
    スクリューが回り、モーターボートは急加速した。
    突堤を回って海に出るころ、2隻のモーターボートが桟橋を離れて後を追ってきた。
    ・・
    モーターボートは激しく上下しながら突進していた。
    後を追う2隻のサーチライトがこちらを照らしている。
    たん、たん。
    時折拳銃の音がして、両側に水煙が上がる。
    田村はボートを旋回させると立ち上がった。
    「田村さん!」
    たんっ、たんっ、たんっ。
    拳銃の音が迫る。
    田村は両手にナイフを持ち、そして投げた。
    追っ手の船から転落する人影が見えて、そして2隻は互いに衝突して動かなくなった。
    「やったぜ!」
    田村は叫び、再びボートの舳先を沖に向けた。
    ・・
    それからモーターボートは2時間ほど全速力で進み、燃料がなくなって止まった。
    「田村さん! 明かりが!!」
    前方に島があった。
    黒い山影と点滅する灯台の光、そして家々の明かりが見えた。
    「・・あそこに着けば、だ、大丈夫」
    田村が小さな声で言った。椅子にぐったり座ったまま動かない。
    「田村さん?」
    ユキが田村に抱きつく。田村の腹にはねっとりと血が流れていた。
    「田村さん!!」
    「・・いいか。俺が死んだら、そこのロープとイカリを縛りつけて、海に捨てろ」
    「田村さん!!」
    「お前の本当の名前は、何だったかな」
    「涼音です。高山涼音」
    「そうか、涼音ちゃん。・・すまなかったな。いろいろ可哀想なことをした」
    「田村さんっ。田村さん!!」

    23.
    海は静かだった。
    涼音は言われた通りに田村の死体を海に沈めた。
    田村のジャケットを素肌に羽織り、ボートの椅子の間にじっと座り込んだ。
    両手に田村の血がついていた。その手を顔に近づけて匂いをかぐ。
    忌まわしい記憶がまざまざと蘇った。
    血まみれになって鞭打たれていた女性。
    仕掛け罠にかかって逆さ吊りになった自分。
    感淫剤を打たれて生きたまま解体されたハル。
    ・・
    突然、激しい欲情にかられた。
    陵辱されたいと思った。
    人間の尊厳も何もかも打ち捨てて、いたぶられて嬲りものにされたかった。
    股間に指を入れて、強く押さえた。
    もの足りずに硬いモノを求め、ボートの後部にもう一個残っていたイカリに跨った。
    モーターボートが大きく揺れる。
    やがて夜が明け、通りがかった漁船に救助されるまで、涼音は血まみれになった局部にイカリの先端を押しつけて自慰を続けていた。



    ~登場人物紹介~
    ユキ: 16才。誘拐された女子高生。本当の名前は高山涼音。ハルと共に田村の所有物。
    ハル: 17才。ユキより先に誘拐された女子高生。本当の名前は宮城慶子。
    田村: 組織に所属するナイフ投げ。酒好き。
    マリー: 20台後半。セーラー服・ルーズソックスの女拷問人。マリーは芸名で生粋の日本人。

    最後までお読みいただいた皆様、ありがとうございました。
    キョートサプライズに引き続くナイフ投げネタですが、まったく違う超ダークなストーリーです。
    女性に対して無理矢理な行為を強要しないのが当サイトのお約束(『H氏~』も『アクナス』も女性が受け入れた被虐です)でしたが、今回その禁を破りました。
    こんな小説をよりによってクリスマスイブの夜に掲載するとは、私は地獄に落ちるかもしれません^^。

    少女が凄惨に拷問されて、生きたまま解体される。
    自分で決めた展開とはいえ、殺されてしまうハルちゃんが可哀想で何回もゴメンナサイと謝りながら執筆しました。
    いわゆるリョナ的な表現としては他所様の小説、イラストにもっと過激なものがありますが、82475的にはこの辺りが限界です。
    女性を無理矢理虐げるお話は、もう当分書かないでしょう。

    お話の舞台設定(悪の治外法権的なカジノとか、組織の手で拉致されてきた美少女とか)は、それほど珍しくもないと思います。
    この島を舞台にしたら、嫌がる女の子を相手に R-18G なお話がいろいろ書けそうですね。
    (だから書かないですよ~ww)

    さて、2012年の更新はこれで終わりです。
    本年も1年間お付き合いいただき、ありがとうございました。
    来年は、もう少し心温まるお話から始めたいと思います。
    ここ数日、急に冷え込んできました。
    皆様、風邪など引かないように暖かくしてよいお年をお迎え下さいませ。




    オタクたちの学園祭緊縛(1/3)

    1.
    「え~っ、キンバクぅ?」
    安居越美の素っ頓狂な声に、喫茶店の客や店員がこちらを見た。
    「こら、そんな単語を大きな声で叫ぶな」
    長尾英一があわてて止める。
    「あ」
    越美は周囲を見回して赤くなった。
    「で、何であたしが緊縛されにゃぁならないのよ」顔を寄せ合って小さな声で話す。
    「越美だけじゃない。あと何人か女の子を集めて」
    「意味分かんないよ」
    「だからぁ、映像研で緊縛映像を作って発表するんだよ。上映だけじゃ物足りないから、ここはバーンと実物を」
    「あほか」
    越美は呆れて言った。
    「大学の学園祭でそんなことやったら常識を疑われるわよ」
    「大丈夫だよ。プロの縄師に来てもらって着衣の緊縛だよ。うちの学祭まじめに発表すればエロにならないんだしさぁ」
    「あのねぇ、だいたい映像研って学内でも有名なオタクの集団じゃない。いくら真面目にって言われても下品なものはいやよ」
    「あぁ~っ。下品って言ったなぁ。オタクを馬鹿にするなよぉ。すごく綺麗な映像なんだからな」
    「ええい、うるさいっ。ともかくあたしはお断りだからね」
    そう言って立ち上がりかける。
    「ワタシは知っている」英一が独り言のように言った。
    「え?」
    「他の誰も知らないが、ワタシはあの写真集を知っている」
    どき。
    「大森の山玉書房」
    「ちょ、ちょっと、英一・・」
    「あれは、たしかゴスロリ美少女キンバ」
    「ストップ! ちょっと待ってっ」
    「驚いたか」
    「まさか・・、見たの?」
    「ふふん、たまたま越美が買うところを見たのだよ」
    越美の顔がさっき以上に赤くなった。
    「だ、だだ、だってぇ、たまたま目についた本の表紙が綺麗で、それで、あんな中身だとは知らないで」
    「うそはいけないな。何度もページを開いて見とれていたではないか」
    「ひえ」
    「俺が先に店にいたところ、越美が入ってきて成人図書に見入っていたので観察していたのだ」
    「お願い、内緒にして」
    「ふふん」
    「えいいち、さま!」頭を下げて英一を拝んだ。
    「それは越美次第だな」
    「まさか」
    「ふっ、ふっ、ふっ。わしは山吹色の大福が好物でな」
    「お前もワルよのぉ、越後屋。って違うでしょっ。あたしを脅迫するの?」
    「コトを世間に広められたくなければ、黙って従うのじゃ」
    「えーん、どうしても駄目?」
    「駄目」
    「もう、分かったわよぉ。緊縛でも何でもするわよ」
    「ふむ、それだけではないぞ」
    「まだあるの」
    「そうじゃ。お主以外に2名、いや3名の女子を連れてまいるのじゃ」
    「へ」
    「できればお主と同じ、緊縛に興味のある女子がよい」
    「あのねえ」
    「3名集めてくることができれば、お主は刑を免れるであろう」
    「その変な喋り方、やめなさい」
    「集めることができねば、お主は学祭の間じゅう、緊縛の刑じゃ!」
    「そんな趣味の女の子が3人も集まる訳ないでしょ」
    「意外といるもんだぜ。現にお前がそうだろ」
    「いやだからそれは」
    「まあ、まあ。誰彼なしに声掛けろとは言わないからさ。仲のいい友達にでも聞いてみてよ」
    「・・裸じゃないよね?」
    「ないない。服を着たまま、軽~いソフトSM!」
    「期待しないでよ」
    「うんうん」
    英一はにこにこして答えた。
    へへへ。やったぞ。
    越美が写真集を何度も手にとって見てたってのはブラフだけど当りだったな。
    「それにしても、英一。そのとき写真集の中身まで見えてたの?」
    「ああ、あれはお前が来る前に俺が見たから、っていけね」
    「・・」
    「あ、たまたま手に取ったら表紙がきれいだなぁ~っ」
    「こら」
    越美はゲンコツで英一の頭をぐりぐりした。
    「まあ、いいわ。でも本当に内緒だよ。お願いね」
    「大丈夫だよ。・・そうだ、今度その本見せてよ。あんまりよく見てないし」
    「うん、いいよ」
    「越美がその気なら、本当に縛ってやるぜ」
    「あほ」

    2.
    帰宅して越美は引き出しから写真集を出した。
    あ~、よりによってこれを英一に見られるなんて。
    付き合って5ヶ月、ノーマルな女の子で頑張ってきたのにぃ。
    写真集のページを開くと、お城のような部屋でメイド服やロリータ服の少女が写っていた。
    窓際にたたずんだり、椅子に座ったり、ベッドに横たわったりしている美少女たちは、皆、縄で縛られていた。
    これ見て我慢できなかったのが敗因だなぁ。
    確かにあたしはMだよっ。
    でも本当に縛られたこともないし、これ買うのだって死ぬほど恥ずかしかったんだから。
    それにしてもモデル集めなんて、どうしよう?
    希(のぞみ)に相談するしかないかなぁ。
    そんな簡単に引き受けてくれる子なんて、いないよぉ。
    そうだ。
    一人の少女の顔が浮かんだ。
    あの子はどうかな。

    3.
    次の土曜日、越美のバイト日。
    そのファミリーレストランはチェックのスカートの制服が可愛いくて決めたバイト先だった。
    越美はお皿を運びながら、ウェイトレス仲間の一人をちらりと見る。
    その女の子は髪をいつもツインテールに括っていて、派手目の化粧をしていた。
    仕事の後に着替える私服も、キャミにショートパンツやぎりぎりのミニなど、いつも露出の大きいものばかりだった。

    「中野原(なかのばる)さん」
    「はい?」
    バイトが引けて、一緒に店を出たところで声をかけた。
    中野原くずはが越美に向かって振り向いた。
    今日はおへその出たミニTシャツにぼろぼろの穴あきジーンズを穿いている。
    ジーンズには太ももから腰にかけて特に大きな裂け目が開いていて、そこからのぞく素肌に目が引きつけられた。
    すごいなぁ。下に何も穿いてないみたい。
    「あの、ご用ですか?」
    いけない。つい見とれちゃった。
    「えっと、中野原さん、コスプレが趣味って言ってたよね」
    「あら、言っちゃってましたっけ」
    「うん、前に休憩時間に」
    「えへへ。結構好きですよ。イベントの常連ですもん」
    「今からちょっと、時間いい?」
    「いいですよ。今日はヒマだから。安居さんもコスプレするんですか?」
    「あはは。それはちょっと。・・でも似たようなことをしたいかな、って」
    「?」

    二人で喫茶店に入った。
    「ねぇ、そのジーンズの下だけど」
    「はい?」
    「もしかして、下着つけてない?」
    「ああ、これですか? さすがにつけてますよぉ。Tフロントの紐パン」
    「てぃ、Tフロント」
    「イベントだったらノーパンだってしちゃいますけどね。事故がないように両面テープで防御して。・・あの、お話って、パンツの話ですか?」
    「いえっ、違うのっ。・・これなんだけど」
    越美はあの写真集を出して見せた。
    「お、お、おおっ。これは川森茂子さんの幻の写真集!!」
    くずははぺらぺらとページを繰る。
    「きゃあ、綺麗っ。これ色っぽ~い。素敵~っ」
    しばらく写真集を見た後、立ち上がってテーブルに両手をつき、真剣な表情で聞いた。
    「これ、ネットでも品切れで見つからないんです。どこで買いましたか?」
    「お、大森の本屋さんで」
    「大森かぁ~。盲点だったなぁ~。都心ばっかり探したもんなぁ」
    どしんと椅子に座って額に手をやる。
    「あの、もし、興味あったら貸しましょうか」
    「嬉しい! 大事に見ますから! 変なモノつけて汚したりしませんから!!」
    勢い込んで話すくずはのペースについていけない。
    「いやぁ、安居さんもこういうの好きだったんですかぁ。お友達になりましょうねっ♥」
    「いや、その中野原さん」
    「くずはちゃんって呼んで下さい!!」
    「じゃあ、くずはちゃん。こういうことしてみたくない?」
    「ゴスロリだったらよくやってますよ。8月のハイフェスではベビードールみたいにスケスケのを作って着たんですよぉ」
    手のひらを合わせて、頬の横にやる。
    「そ、そうなの」
    「スカートがふわっと広がってセクシーなんですよぉ。でもあんまりきわどい格好するとカメコが寄って来るんで」
    「カメコ?」
    「カメラ小僧ですよ。こっちは好きでやってるだけなのに、膝をついて尻を向けろだのスカートをたくし上げろだの、まあ多少はサービスもするけど、本当にウザイですよ~」
    腕組をして困った顔をする。
    「大変なのね」
    「でもレイヤーの友達にはそんなカメコの人と付き合ったりする子もいるから、分からないものですよね」
    「あの、それで、実はね」
    「あたしも、きちんと礼儀正しい人だったら露出OKなんですよ。この間は個撮で」
    「あのっ、くずはちゃんっ」
    「ほぇ?」
    「実はうちの大学の学園祭でね、ちょっとモデルを探してて」
    「コスプレのモデルですか? やりますよ~♥」
    「いや、やりたいのは、その、キンバクのほうなんだけど」
    「緊縛ですか?」
    「ええ。友達がサークルの発表をするんだけど、ええと、縄師っていうのかな、女の子を縛って実演するんだって」
    「ほぇ~!!」
    「あっ、いやだったらごめんね! 無理にお願いしたいことじゃないから。ゴメンナサイ!」
    顔の前で手を合わせかけた越美にくずはが身を乗り出した。
    「プロの縄師さんなんですか? あたし手錠は経験ありますけど、縄で縛ってもらえるんですか? すごい~!!」
    「やって、くれるの?」
    「やりますよぉ。いいえ、やらせて下さい! 緊縛されるなんて女の子の夢じゃないですかぁ!! きゃぁ、どきどきするぅ!」
    くずはは小躍りするかのように椅子の上で跳ねた。
    「そうかぁ、それでこの写真集見せたんですね~。もっとはっきり言ってくれたらよかったのにぃ」
    越美は体中の力が抜けた。
    引き受けてくれたぁ~。
    「あ、ありがとう。くずはちゃん」

    別れ際、二人は携帯のアドレスを交換した。
    「じゃあ、詳しいことが決まったら、また連絡するわね」
    「はいっ。よろしくお願いします」
    くずははぺこりとお辞儀をする。
    「もう、そんな敬語は使わなくてもいいわよ。くずはちゃん、礼儀正しいのねぇ」
    「だって、安居さん年上ですから」
    「くずはちゃんは、いくつなの」
    「17ですっ」
    「え?! じゃ、高校、3年生・・?」
    「はぁい、ジェイ・ケイ♥ですよぉ。3年じゃなくて2年ですけどね。・・あ、バイト先には内緒にして下さいね!」
    くずははそう言ってペロリと舌を出した。
    え、え、えええ?
    「じゃあ、さよならっ。連絡待ってます!」
    あっちゃ~。いくら何でも高校生はマズイんじゃないかなぁ。

    4.
    月曜日。
    午前の講義が終わり、越美は学食で西田希と少し早目の昼食を取っていた。
    「長尾センパイとは最近どうなの?」希が聞く。
    「まあまあかなぁ。このごろ学祭の準備で忙しいみたいで、あんまり会えてない」
    「そうかぁ。じゃあ、えっちゃんも手伝いなよ」
    「ええ? やだよぉ、あんなむさ苦しい同好会」英一に頼まれていたことを思い出した。
    「なら、サークルのボックスに行って掃除のひとつでもしてあげれば? 健気に働けば株が上がるよ」
    「今はあそこにあんまり近づきたくないのよ」
    「喧嘩でもしたの?」
    「そうじゃないんだけどさぁ。・・ねえ希、唐突だけどSMって興味ある?」
    「え、えすえむって、あの縄で縛ってローソクたらたらってやつ? いやだぁ」
    「だよねぇ」
    「どうしたの?」
    「いや実はね、英一の同好会、緊縛映像の展示をやるんだって」
    「まあ」
    「いろんな映画やビデオからそういう映像や写真を集めて発表するって、ろくでもないでしょ?」
    「あはは。本気なの?」
    「うん、顧問してくれてるゼミの教授もOKなんだって」
    「そういうことを真面目にやるなんて、長尾センパイらしいね」希は笑って言った。
    「学祭で見に行こうっと」
    「こら、さっきいやだって言ったじゃない」
    「そうだけど、まあ、ちょっと興味もあるじゃない」
    「のぞみぃ~っ」越美は自分が緊縛モデルをしているところに希が来たところを想像した。もうヤダよぉ。
    「そうだ、やっぱり準備手伝いに行こうよ」
    「えぇ~?」
    「女の子二人で行ったら歓迎してくれるって。それにえっちゃんが行ったら長尾センパイも喜ぶし」
    「だめだってば」
    「ちょっと待って」
    希は携帯電話を取り出した。
    「あ、私、文学部2年の西田です。あ、覚えててくれました? はい、安居さんの友達の」
    「誰にかけてるのよ」
    「実は今、安居さんから学園祭のこと聞きまして。ええ、5講目の後くらいに見に行ってもいいですか? ああ、ありがとうございます!」
    「まさか英一?」
    「あ、はい。いえ、そんなお邪魔はしませんから。はい。じゃあ」
    希は電話を切った。
    「大歓迎だって」
    「こら、何であんたが英一のケータイ番号知ってるのよ」
    「ええ? だって長尾センパイ合コンのときに番号書いて配ってたじゃない。それでえっちゃん、あの人と付き合い出したんでしょ?」
    そ、そうだった。
    「だいたい、もう半年も付き合ってキスもまだなんて、どういうことよ?」
    いや、実はキスは済ませてるんだけど。
    「ともかくもう連絡しちゃったからね、一緒に行こう」
    「う」
    英一、絶対に希が緊縛モデルを了解したって誤解してるよ。
    「映像研って格好いい男の子いるかな」
    やっぱりそれかい。
    「オタクの変な奴ばっかりだよ」
    「あはは、それはそれで面白いじゃない」
    「行って後悔するよ、絶対」

    5.
    映像研究会のボックス(部室)は、越美が以前来たときに増して荒れていた。
    6畳ほどの窓のない部屋は、すえた匂いがした。
    壁の一面には42インチのプラズマディスプレイが置かれている。
    天井まで積み上げられたダンボール箱は表面が飴色に光り、その横には古いテレビやビデオ機などが埃をかぶって山積みになっている。
    テーブルには食べ散らかしたカップ麺やコンビニ弁当の殻などで溢れていて、頭上に張り巡らされたヒモには雑巾のようなタオルやシャツなどで満艦飾だった。
    「う」希がおののいた。
    「後悔してるでしょ」越美が小声で聞く。希は黙って首をこくこくした。
    「やあ、ようこそようこそ!」
    英一がにこにこしながら椅子を勧めた。
    越美と希は並んで座る。テーブルの下に何かの汁がこぼれているのに気付いて越美は一度伸ばした足をひっこめた。
    「さっそく連れてきてくれたの?」揉み手をしながら英一が越美に聞いた。
    「違う違う。この子は映像研の発表がどんなのか興味があるだけ!」
    「部長の川田です」小太りの眼鏡の男性が会釈した。
    こういう男性、コミケだっけ、そういうところでリュック背負って群がってる感じだな。
    「いやあ、どうも、この度はモデルを引き受けてもらっ」
    「いやあ!! まあそれはっ」越美は川田の話を強引に遮った。
    「今日は映像研の作品を見せてもらおっかな、なんて」
    「それはそれは! ちょうど編集が上がったところなんですよ。見て行ってもらえますか!」
    「そうだね。ガンさん以外の人に見てもらうのは初めてだし、後で感想聞かせてくれる」英一も言った。
    「そう。・・思えば製作開始から4ヶ月。何度ガンさんにダメ出しされたことか」川田が天を仰ぎ感涙にむせびながらつぶやく。
    「部長~っ、よく頑張りましたよね~っ」その川田に英一がすがりついた。
    ガンさんって誰よ? まあ、とりあえず、モデルの話はごまかせたみたい。越美は思った。
    どうせ英一たちの自己満足の映像だろうし、さっさと見て帰ろう。
    「じゃあ、始めるよ~」
    部屋が暗くなり、プラズマディスプレイが青く光った。

    6.
    静かなピアノの音。
    やがて、画面に広々とした草原が映し出された。
    秋の高原の風景。
    紅葉で赤く染まった山々。金色に光るセイタカアワダチソウが風に揺れている。
    一組のカップルが手を繋いで小道を歩いてきた。
    揃いの真っ白なシャツにズボン、ロングスカート。
    二人とも金髪の青い目でまだローティーンに見えた。かなりの美少年と美少女だ。
    楽しそうに語り合う二人。
    ベンチに並んで座る二人。
    一本のボトルからミネラルウォーターを交互に飲む二人。
    そして次のシーンでは森の中にたたずんだ少年が、少女をお姫様抱っこしていた。
    少年は少女をそっと地面に下ろし、膝をついて彼女にキスをする。
    え? 越美は少し驚いた。
    少女は縄で後ろ手に縛られていたのだ。
    画面が湖畔の風景に切り替わる。
    岸辺に小さなボート。その中にはあの縛られた少女が横たわっていた。
    もやい綱が解けてボートが静かに湖に流される。
    遠く沖に離れたボートを少年が岸から無表情に眺めていた。
    ・・
    群集が写った。日本人だ。
    渋谷かどこかの雑踏。
    女子高生のグループが笑いながら歩いている。
    彼女たちのぎりぎりに短いスカートと足が大写しになる。
    画面が替わり、うす暗い畳の部屋になる。
    先ほどの女子高生の一人だろうか、制服の少女が横たわっていた。
    全身を縄でがんじがらめに縛られ、ガムテープの猿轡を貼られて転がされている。
    カメラが近づき、少女の爪先から頭の上までをゆっくり順に写した。
    気を失っているのだろうか、少女は目を閉じたまま微動だにしない。
    ・・
    明るい洋室。リゾートホテルの客室のようだ。
    陽光ふりそそぐ大きな窓際の藤の椅子に、若い女性が座っている。
    白いキャミソールドレス。
    画面には映らないが誰かと会話しているようだ。
    幸福そうな笑顔。
    やがて女性は緊張した面持ちで両手を背中に回す。
    縄束を持つ男性の手が写った。
    後ろ手に縛られていく女性。
    男性から何か話しかけられて恥ずかしそうにうなずいている。
    作業が終わったようだ。
    大きな鏡の前に行って縛られた自分を見る女性。
    後ろから男性に抱かれて、恍惚とした表情をする。
    自分から望んで受けた緊縛。
    ・・
    先ほどの畳の部屋。
    全身を縛られた女子高生が畳の上でもがいていた。
    両膝を立てて起き上がろうとする。
    回転してうつ伏せになり、しゃくとり虫のように前に進もうとする。
    短いスカートがめくれ上がり、下着が丸見えになった。
    畳に顔をこすり付けて口を覆うガムテープを剥がそうとするが剥がれない。
    報われない努力。
    やがて少女はぐったりとして動かなくなり、苦しそうに鼻だけで深呼吸をする。
    その目尻に涙が光って流れる。
    ・・
    刑場に木で組んだ十字架が立てられていた。
    十字架にはねずみ色の着物の少女が磔になっている。
    全身を厳重に固定されていて、ぴくりとも動けないようだった。
    その周りを取り囲んでいる奉行所の役人たち。
    長い槍を持った処刑役もいるが、彼らもじっと立ったままだった。
    刑の執行の時刻を待っているのだろうか。
    少女は首をすこし傾げてじっと目を閉じている。
    まるで時間が凍りついたように何も動かない。
    少女の後れ髪だけが刑場に吹く風にそよいでいた。
    ・・
    どこかの劇場の舞台。
    真っ赤なノースリーブのチャイナドレスの美女が縛られて行く。
    縛っているのは、真っ青なノースリーブのチャイナドレスの美女だった。
    二人は双子のように似ていた。
    青いドレスの美女は妖艶な微笑み。
    相手の胸や腰を揉み上げながら、巧みに縄を操る。
    赤いドレスの美女は半ば目を閉じて、陶然とした表情。
    後ろで拝むように合わせた手のひらは、ほとんど首の後ろで縛られている。何と柔らかい身体。
    ・・
    倉庫のような場所。
    薄暗い中にブラウスとタイトスカートのOL風の女性が椅子に縛り付けられている。
    幾重にも巻かれた猿轡と目隠しが彼女の表情を隠していた。
    そこには他に人影はなく、彼女はずっとそこに放置されているようだった。
    必死でもがいているが、どうやら彼女に縛めから逃れる術はなさそうだった。
    ・・
    高い木の梢(こずえ)から縄一本で逆さ吊りにされた少女。白いTシャツとショーツ。
    意識を失っているのか、目を閉じたまま身動きしない。
    彼女を吊るす縄が捩れて、ゆっくりと回転している。
    右回り、やがて回転が止まると、今度は左回り。
    ・・
    床にどしんと置かれたスーツケース。
    その蓋が開き、縄で縛られた下着姿の女性がこぼれ落ちた。
    ・・
    再び畳の部屋でもがき続ける女子高生。
    ・・
    ・・
    映像は15分ほど続いた。
    情景の説明や登場人物の会話などは一切なく、ただバックに音楽が流れるだけのイメージ的な映像だった。
    各シーンは次第に短くなり、最後は緊縛された女性の映像が数秒ずつフラッシュするように映し出され、そして真っ黒な画面に映像研のエンドロールが流れて終わった。

    続き




    オタクたちの学園祭緊縛(2/3)

    7.
    「はぁ~」
    希がため息をついた。
    映像研のボックスを出てから何回目のため息だろうか。
    あっちゃ~。まさか、のんちゃん、ツボにはまっちゃったんじゃないよね。
    あの映像の後、お茶を出されたのを断って、越美は希を連れてすぐに出てきたのだった。
    「びっくりしたねぇ~」
    ため息ばかりつく希にとりあえず声をかけた。
    「うん、驚いた」
    「ごめんね、変なモノ見せられるはめになって」
    「・・」
    「でも、あたしも知らなかったんだよ。あんな映像用意してるなんて」
    「・・」
    「ね、仏蘭西館でケーキ食べようか。こないだ行った、西口の駅前の」
    「決めたっ」
    とつぜん希が立ち止まって越美の方を向いた。
    「あたし、モデル、やる」
    「え」
    「部長さんが言ってたじゃない。実演モデルを募集してるって」
    「いや、だから、そのモデルってのは」
    「縛られるんでしょ?」
    「・・分かった?」
    「当たり前じゃない」
    「だったら、のんちゃん、無理に引き受けなくっても」
    「無理じゃないよ。あたしだってああいうのをきちんと見たのは初めてだけどさ、あんなに綺麗なもんだとは思わなかったもん」
    そう言って希はにやっと笑った。
    「だから長尾センパイに伝えておいてよ。映像研の緊縛モデル、越美と一緒にお手伝いしますって」
    「え、あたしと一緒に?」
    「越美もやるんでしょ? 長尾センパイに頼まれて」
    「う、・・まあそうだけど、あたしはイヤイヤなんだよ」
    「何言ってるの、越美。あんた、あれ見てるとき、両手で口覆ってたじゃない。絶対にずきゅーんって感じてたね、あれは」
    「のんちゃぁ~ん」
    「顔赤いよ」
    「え」
    越美は思わず両手で自分の頬を挟む。
    希はぷっと笑った。
    「まあ、ほんの少しばかり恥ずかしいけどね、人前で緊縛モデルなんて」
    ほんの少しばかりじゃなくて、とっても恥ずかしいの!
    「じゃ、今日は帰る」
    「あ、ケーキ行かないの?」
    「しばらく甘いもの止めてダイエットする。越美もお腹ぽっこりのモデルは恥ずかしいわよ」
    「ああん、もう」
    「えっちゃん、今夜はあの映像を思い出しながら、自分を慰めるんだよっ」
    「な」
    「きゃははっ、じゃね!」
    のんちゃん、すっかりやる気になってる。
    一人になってから越美はもう一度自分の顔を両手で挟んだ。
    ほっぺたはまだ熱かった。

    8.
    「中野原くずはさんっていったっけ、モデルの件、高校生でもOKだって」
    「え~? 本当にいいの?」
    「うん、一応気になったんで、顧問の岸和田さんに一筆書いてもらった」
    英一が手にしたA4のレポート用紙には『高校生でもおっけー! ただし保護者承諾のこと。岸和田』と書かれていた。
    「汚い字ね~。ホントに教授に書いてもらったの?」越美が聞く。
    「何をいうか。この悪筆が何よりも岸和田教授の直筆であることを示しているのに」
    「そんなもんなの」
    「そうなのだ。・・それより! これで西田さんと中野原さんの二人。モデル集めもやればできるではないか」
    「苦労してるんだから」
    「そうかな。どっちも向こうからやりたいって言ってきたように思うけど」
    「え、そう? ・・ともかく頑張ってる、ってことは認めてよね」
    「ふ、ふ、ふ。甘い、甘いぞ、越美。そなたの務めは3名の女子を集めることである」
    「またその変な喋り方」
    「あと1名、あと1名集めてこられねば、そなたは3日3晩緊縛放置ぢゃ!」
    「お主こそ、甘いぞよ、越後屋」
    「え、オレ越後屋」
    「実は中野原さんから、もう一人友達が参加してもいいかって連絡もらってるの。岸和田先生が高校生でもいいって言うなら大丈夫よね」
    「何と」
    「神田亮子さんっていうんだって。女子高生モデルが二人よ? これで御の字でしょ」
    越美は英一の頬を人差し指でつついた。

    9.
    午後3時過ぎとあって、学生食堂は空いていた。
    越美と希、そして英一がテーブルについて他の映像研メンバーを待っていた。
    この日はいよいよ翌週に迫った学祭に向けての打ち合わせである。
    「越美~、何でうちのボックスでやんないんだよぉ」
    英一が文句を言う。
    「あんな入るだけで病気になりそうな部屋には、二度と行きません!」
    「大丈夫だって。昨日、ちゃんとバルサン焚いたから」
    「バルサン? ・・ね、もしかして昨日の消防車」
    「お、知ってるか?」
    「昨日何があったの?」希が二人に聞いた。
    「いや、ボックスを消毒するようガンさんから指示されて、それでよく効くように3個焚いたんだけど」
    「3個?」「あほか」
    「まあ、それで思ったより煙が多くて、廊下にあふれて」
    「通報されたのね」
    「わはは」
    「わははじゃないわよ」越美が文句を言う。
    「学内大騒ぎだったじゃないのよ。まさか映像研が犯人だったとは」
    「まあ、済んだことだ」
    「ぜんぜん反省してないでしょ」
    「それにしてもすごかったぜ。まるで沈没を予知して船から逃げ出すネズミの群れのように、大量のゴキブリが列をなして」
    「きゃぁ、もう止めて!」越美と希が耳を押さえた。

    映像研のメンバーがやってきた。
    部長の川田とそのほかに男性と女性が1人ずつである。
    「部長の川田です。って僕のことはもうご存知ですね」川田が挨拶した。
    「こちら副部長の・・」「岸友紀子です」銀縁の眼鏡をかけた女性が会釈する。
    「それからこっちは牧本」もう一人の男性を紹介した。
    「あの」越美が質問した。
    「ガンさんという方は・・?」
    「ああ、それは副部長」英一が言った。
    「え、この人がガンさん」越美と希が驚く。
    「いくら私の苗字が岸だからって、ガンさんはひどいと思いません?」
    友紀子が眼鏡の縁をきらりと光らせて言った。
    「そもそも、私がこんなオタクばかりの映像研で副部長の役を任じておりますのは、この国の映像表現がコマーシャリズムに侵されて正しい道から外れているためであって、本来あるべきヌーヴェルヴァーグの表現をこの大学から発信したいと考えたからですわ」
    長いセリフを息もつがずに喋る。
    「今回の発表に私が力を入れておりますのも、不自然な編集を排除した現場の臨場感に溢れた映像表現を多くの人に知ってもらいたいと考えたからで、モデルの皆さんの緊縛実演もかのトリュフォーの作品のように」
    あかん。越美は口に出さずにつぶやいた。この人もオタクじゃ。
    「・・ですから、必ず私がすばらしい作品に仕上げる所存です」どうやら友紀子が喋り終えたようだった。
    「はい。ありがとうございました。じゃあ、当日の段取りなんですけど」
    川田がようやく説明を始めた。
    3日間の学園祭のうち、最終日にプロの縄師を招いて緊縛実演を行う。
    学生だからと安い金額で引き受けてもらえたという。
    実演は2回。それぞれ2名のモデルの連縛になる。
    モデルの衣装は、中野原くずはと神田亮子は持ち込みのメイド服。西田希と安居越美は女子高生である。
    「な、なんであたしが女子高生・・」越美がうめくように言う。
    「だって、くずはちゃんと亮子ちゃんは衣装持ち込みが条件だぜ。後は希ちゃんと越美で女子高生を受け持ってもらわなきゃ」
    英一が説明した。
    「二人とも高校んときの制服があったら、それ着てくれたらいいぜ」
    「で、でも。この歳で女子高生・・」越美はまだ口の中で文句を言う。
    「この歳って、ほんの2年前じゃないか」
    「だってもうハタチなのに女子高生」
    「高校の制服ですね? 家に置いてますよっ。・・えっちゃん、一緒に頑張ろうね!」希が嬉しそうに言った。
    「ぐ」越美の文句がようやく止まった。

    9.
    いよいよ明日から学園祭という夜。
    越美はファミレスのバイトが済んでから、喫茶店でくずはと話していた。
    「じゃあ、あたしと亮ちゃんが午後1時で、安居さんは3時ですね? ・・きゃぁ♥、わくわくしますぅ!」
    「そ、そう?」
    しばらく椅子の上で跳ねて歓喜の気持ちを表現してから、くずはが聞いた。
    「それで、安居さんのコスは何ですか?」
    「あたしの衣装は、別にいいじゃない」
    「教えて下さいよぉ。何を着るんですか?」
    「ふう、・・それが高校の制服なのよ」
    「ほぇ~。安居さん、女子高生になるんですかぁ」
    「あたし、もうハタチなのに、困ったものよね」
    「そんなこと気にしちゃいけませんっ。イベントに行ったら、30超えてセーラー服の人なんていっぱいいますから!」
    くずはは手を胸に当てて目を閉じた。
    「縛られた女子高生の安居さん、きっと可愛いくて素敵ですよ~」
    越美の手を両手で握った。
    「あたし、写真いっぱい撮りますからね!!」
    「あわ。写真なんてやめてよー」
    「メモメモ。15時、安居さん、JK緊縛、ハートマーク♥、と」手帳を開いて書き込んだ。
    「ところで、縄師さんは誰ですか?」
    「えーっと、変わった名前だったな。確か、コーインなんとか」
    「高院遥さんですか?」
    「そうそう。くずはちゃん、よく知ってるわねぇ」
    「高院さんって『M女によるもう一度縛られたい縄師ランキング』の今年上期新人賞の人じゃないですかぁ」
    「そんなのあるの」
    「ありますよぉー。メジャーな舞台には出て来ない人だから、あたしもどんな人か知らないんですね。きっと美人ですよぉ」
    「び、美人って、女の人?」
    「はい!! もう安居さん、ぜんぜん知らないんだからぁ~」
    んなマニアックなこと知らないわよぉ。
    越美が思っていると、くずはが立ち上がってテーブル越しに越美にがばりと抱きついた。
    「あたしたち、縛られて、このメス豚♥、とか言われるんですよね!!」
    「そ、それはないと思うけど」
    「あんあんあんっ。胸の震えが止まりませ~ん」
    「や、や、やめっ。コーヒーこぼれるでしょ~」

    10.
    帰宅すると英一から携帯電話で呼ばれた。
    「今から大学、来れるかな」
    「あのね、夜の11時だよ。何考えてるのよ」
    「悪い。でも頼めるの、越美しかいないんだ」
    「もう」
    「それでさ、緊縛んときの衣装で来てくれるかな」
    「あほかっ。何でそんな格好してかにゃならんじゃ!」

    越美は、スクーターで大学にやって来た。
    学園祭前日の大学は深夜でも学生がたくさんいてにぎやかだった。
    「おー、来た来た」
    映像研の展示室では、部長の川田、副部長の友紀子をはじめ、部員たちが設営作業をしていた。
    そこは定員250人の階段式の大講義室で、正面にスクリーン、そしてその手前にステージが設けられていた。
    ステージの上には金属のパイプで梁のような構造物が組まれていた。
    あぁ、ここで。・・自分はここで縛られるのか。
    「ライトのテストするのに、モデルが必要でさ。さっそくだけど、衣装に着替えてきてくれるか」
    「この制服、卒業してから一度も着てないし、サイズが合わなくなってても知らないからね!」
    越美はトイレで持参した衣装に着替えた。高校時代のセーラー夏服である。
    洗面所の鏡で自分の姿を見る。恥ずかしい~。
    両手を真横に広げるだけでお腹が出るセーラー服。少し屈めばパンチラする超ミニのスカート。
    つい2年前までこんな格好で街を歩いていたなんて。
    制服のサイズは今でも越美にぴったりだった。
    英一には卒業してから着ていないと言ったが、それは嘘だった。
    衣装は制服と言われたその日の夜に、すぐに出して試着していた。
    ほつれかかった箇所を自分でかがって修理して、きちんとアイロンをかけていた。
    ソックスと髪を括るシュシュ、ブラとショーツも決めて合わせていた。
    そして最後に全部を身につけると、ベッドに横たわって縛られる自分を想像しながら自慰をしていた。

    展示室に戻る。
    「お」
    「変な声出したら、コロス」越美を見て歓声を上げかけた英一を脅した。
    「じゃあ、安居さん。こちらへ座って下さい」
    川田に言われて、靴を脱いで展示台に上がり、その場に腰を下した。
    膝を曲げて女の子座り。両手をその上に乗せて下着が見えないように気を遣う。
    「両手を後ろに回して。縛られてるつもりで」
    え。
    英一の指示にどきりとする。
    「少しだけ下を見て、うなだれてくれるかな。・・うん、そうそう」
    突然、まぶしいライトに照らされた。思わず顔を背けてしまう。
    「正面を向いて」
    こ、こう・・?
    「よし。どうっすか? ガンさん」
    「ふむ。陰影がつきすぎて不自然ね。もっと明るく、正面から。隅々まで明るく見えるように」
    あぁ、まぶしい!
    「駄目駄目、安居さん。リアリティが足りないわっ。あなた、縄で縛られた女子高生なのよ」
    あぁっ。あたし・・。
    「そうそう。自然よ。・・ほぉら、縛られて見られてる。恥ずかしくて、心細くて、悔しいでしょ?」
    ううっ。背中で組んだ両手をぎゅっと握った。
    「・・赤を少し強めに。うん。OK! それでいいわ」
    ライトが消えた。
    越美は両手を前に回して床についた。
    ああ、今のは何なんだったんだろう。あたし・・。
    「・・すげー」「演技に見えなかったよ」男性陣が小声で話している。
    「安居さん」友紀子がこつこつと歩み寄ってきて、手を取った。
    「あなた、ジャン=ピエールよりもいい演技だったわ!」
    「はぁ?」
    「おぉ! 越美、よかったぞ!」英一も叫んだ。
    「はいっ。セッティング完了。ごくろうさん!」川田が宣言した。
    越美は自分の胸を抱えるように両手で押さえた。
    どき、どき、どき。
    心臓が激しく鳴っていた。
    ブラの下で胸の先が尖っているのが分かった。

    11.
    学園祭の初日から映像研の展示は評判になった。
    エロくて、美しい。
    評判が評判を呼び、大講義室は満員になって、臨時の上映を行わねばならない程だった。
    『最終日、プロ緊縛師・高院遥氏来る! 乞御期待!!』
    そこかしこにポスターが貼られて、緊縛実演への期待をあおっていた。

    12.
    学園祭最終日の朝。
    緊縛実演の顔合わせがあった。
    中野原くずはは、越美以外は初対面。そして神田亮子は皆が初対面だった。
    亮子は腰の近くまで伸ばしたストレートの髪がつやつやと美しく、誰よりも色白で華奢な美少女だった。
    顔、小さい! ウェスト、細い! 足、長い! 越美は亮子を見て感心する。
    こんな子もコスプレをするのか。こんな綺麗な子のコスプレだったら、自分も見てみたいな。
    くずはは、いつもの通りの不思議少女で、映像研のメンバーを面白がらせた。
    亮子は紹介されて軽く頭を下げた後は、静かに微笑むだけでほとんど喋らなかった。

    川本が高院遥を案内してきた。遥は眼鏡をかけた小柄な女性だった。
    「おはようございます。本日はよろしくお願いします」
    映像研のメンバーと緊縛モデルの一人ひとりに頭を下げて挨拶した。
    この人がプロの縄師なの? 越美は少し驚いた。
    想像していた縄師のイメージとは全然違う、優しい雰囲気の人だった。
    遥はモデル4人の顔を見渡して聞いた。
    「えっと、皆さん。縄を受けるのは初めてですか?」
    モデルの全員がうなずく。
    「実は私、昨夜は、不安で、どきどきして眠れませんでした」
    遥が自分の胸を押さえて言った。
    あれ? それはこっちのセリフだよ。越美は思った。他の3人も同じような顔をしている。
    「・・でも皆さんを見て安心しました」
    遥はにっこり笑って言った。
    「皆さん、とっても可愛らしくて綺麗で、それに、私以上にどきどきされているのが分かって、もう私、絶対に皆さんを綺麗に縛ってあげられるって、確信しました!」
    何? この人、同じクラスの友達みたい。
    思わず微笑んでしまった。希も、くずはも笑っている。
    「・・だから、安心して、私に、身を任せてください。皆さんそれぞれの気持ちは、実際に縛りながら汲んでさしあげます」
    「はい」
    皆が返事をした。
    ・・
    それから、遥はモデル一人ずつの手や身体を触って確認した。
    亮子の手を握ったときに一瞬、あれ? という顔をしたが、すぐに元の顔に戻って肩や腰に軽く触れた。
    「はい、OKです! 皆さんに合った縄をそろえますね。・・では、本番よろしくお願いしますっ」

    続き




    オタクたちの学園祭緊縛(3/3)

    13.
    緊縛実演の第1部。
    講堂は満席になり、椅子席の後ろには立ち見の客がぎっしりと並んでいた。
    ステージの脇には衣装を着たモデルのくずはと亮子が座って待っている。
    やがて縄師の高院遥がジーンズとトレーナーのラフな格好で登場して頭を下げた。
    最初にステージに上げられたのは、くずはだった。
    くずはは、フリルのたくさんついた黒色ゴスロリ風のメイド服である。
    遥はくずはを尻をついた女の子座りにさせると、縄束をしゅるりと引き出た。
    そして、後ろで組ませたくずはの腕を縛り始める。
    うわ、早い! 皆が驚いた。
    腕から胸の上。そして胸の下。みるみる縄が絡みつく。
    くずはの上半身を縛り終えるまで、ほんの1~2分くらいだろうか。
    遥はくずはをうつ伏せに寝かせる。
    左右の足を膝で折らせて、それぞれ足首と太ももをまとめて縛った。
    そして口に縄を噛ませて首の後ろで括ると、そこから2本の縄を左右の足首にそれぞれ渡して繋いだ。
    くずはは目を閉じて恍惚とした表情だった。
    縄で猿轡をされた口が動いて何かつぶやいているようだったが、何を言っているのかはわからなかった。

    遥はくずはの状態を確認すると、次に亮子をステージに上げた。
    亮子は紺のミニスカートのメイド服だった。
    遥は亮子を立たせたままで、その腕を高手小手に縛る。
    さらに別の縄を背中に繋ぐと、その縄の反対側をステージの上に渡された金属パイプの梁に投げて掛けた。
    パイプの向こう側に垂れた縄を両手で掴み、体重をかけて引くと、遥よりも背の高い亮子の身体が伸び上がって爪先立ちになった。
    遥はそのまま縄を亮子の腰に縛り付けて、浮き上がったかかとが下ろせないようにしてしまった。

    遥は亮子の縄をチェックして、それから亮子の耳元で何かを聞いた。
    亮子が首を縦に振った。
    次に床に転がったままのくずはの脇にしゃがむと、くずはにも何かを質問した。
    くずはが縄で猿轡をされたまま、はっきり「あぃ」と返事するのが聞こえた。
    遥は新しい縄を亮子の片方の足首に縛りつけた。
    その縄を頭上のパイプに掛けて引いた。
    「あ」
    亮子の口から小さな声が漏れて、片足が腰のあたりまで上がった。
    さらに遥はその縄を下して、くずはの首と足首を連結する2本の縄の中央にまとめて括りつけたのだった。
    「ん、ん!!」
    くずはの首と足が浮き上がって反り返った。

    亮子は片足だけで爪先立ちになっていた。
    背中はしっかり吊られているから、転倒する危険はない。
    それでも彼女は開脚した足に力を入れて、精一杯バランスをとっていた。
    吊り上げられた亮子の足は、くずはを逆海老に反らせる縄に繋がって、互いに引き合っているのである。
    遥はその縄をわざと上下させて、二人を苛めた。
    亮子の足が下がると、くずはの首と足が持ち上がって逆海老が厳しくなった。
    くずはの首と足が下がると、それだけ亮子の足が高く吊り上がった。
    自分が楽になると、相手が苦しくなる構造。
    もし、突然どちらかが脱力するようなことがあったら、相手に与える苦しみはどれほどのものだろうか。

    くずははうつろな目で、縄を噛んだ口の中から「はぁっ、あぁん」という声を漏らし続けていた。
    亮子はじっと目を閉じている。ときおり下半身をぶるぶる揺らしながらも、最後まで静かに耐え続けた。

    14.
    大学近くの喫茶店。
    第1部が終わり、モデル4人と縄師の遥が喫茶店で休憩していた。
    「すごかったです~!!」
    くずはが遥の腕にじゃれつきながら叫んだ。
    「二人とも、よく頑張ったね」
    「えへへ~っ」
    くずはが笑う。隣で亮子も微笑んだ。
    可愛いな。越美はくずはと亮子を見て思った。
    越美と希は二人の緊縛を近くで見ていた。
    亮子の足が吊り上がり、くずはが逆海老に反り返ったとき、越美と希はそろって息を呑んだ。自分が縛られているかと思った。
    遥の緊縛はとても手際がよくてスマートだった。そして縛られた二人もとても綺麗だった。
    「ね、初めての緊縛の感想は」希がくずはに質問した。
    「人生最高の気分でしたぁ~。もう、このままお姉さまの奴隷になりたいですぅ♥!」
    くずははそう言って遥にべたりと抱きつく。
    「あ! まさかお姉さま、女の子はイヤですかぁ?」
    「いえ、そんなことはありませんけど」遥が苦笑する。
    「亮子ちゃん、あのポーズ、きつくなかった?」越美も質問した。
    少し。亮子が微笑みながらうなずいた。
    片足立ちで苦しんだ亮子は可哀想だったけれど、高く伸びた足は、とても細くて、しなやかだった。
    あれこそ脚線美だな。それにくらべて、あたしの足なんて。
    越美は自分の太い足が情けなくなくなる。
    「亮子ちゃん、本当にあの体勢でよく頑張りましたよね」
    遥も亮子に向かって言う。
    「さすがに男性だわ」
    え。
    「・・あの、男性って?」
    越美と希が聞いた。
    「はい? 彼女ですけど?」遥が亮子を目で見て答える。
    「あれ、言ってませんでしたっけ。亮ちゃん、男の娘(こ)なんですよぉ」
    くずはがのんびりと言った。
    「ええええ~っ?!!!」
    越美と希が同時に大声を上げた。
    「うふふ」亮子が笑った。
    その声はとても可愛らしくて、まったく男性の声には聞こえなかった。

    亮子は、本当は亮という名前の男子高校生である。
    もともと細身で色白である上に小さい頃からの女装の趣味が高じて、コスプレ界では女の子より可愛い男の娘レイヤーとして有名になった。
    越美は目の前の亮子を見る。
    女でも抱きしめたくなる、サラサラヘアでお人形のような美少女。その美少女が、男とは。

    「次の実演モデルはあなたたちね。よろしくお願いしますね」
    遥が言った。
    「あ、こちらこそ、よろしくお願いしますっ」
    越美と希はあわてて頭を下げる。
    そうだった。次は自分なんだ。
    越美は思い出した。
    次は、自分たちが縛られる番なんだ。
    何かのスイッチが入ったように、心臓の鼓動がにわかに激しくなった。

    15.
    第2部の始まる15分前。
    越美と希は衣装に着替えて会場に入った。
    越美は白い半袖のセーラー服。希はブラウスにネクタイの制服である。
    どちらも二人が高校時代に着ていた制服だった。

    講堂に入るなり観客の数に驚いた。
    会場は通路までぎっしりと人が座っていて、第1部の熱気がさらに増しているように思えた。
    「ちょっといいですか?」
    いつの間にか縄束を持った遥がいて、二人に笑いかけた。
    「準備させて下さいね」
    「?」
    そう言うと、遥はあっという間に越美と希の手首を後ろで縛ってしまった。
    え、え、えええ~?!
    助けを求めるように英一の顔を見ると、英一は親指をぐいっと立てて笑った。
    何がグッ!じゃぁ。
    「じゃあ行こうぜ、越美」
    「え?」
    英一は越美の肩を後ろから抱いた。
    そのまま越美をステージに上がらせると、そこに置いたパイプ椅子に座らせた。
    続いて希も川田に連れられて、並んで座らされた。
    「わりい。高院さんから頼まれたんだ。時間までそこで座っててくれるか」
    英一たちはそう言って、ステージから降りてしまった。

    「おお~っ!!」
    越美と希の登場に観客が沸いている。
    何よ、これ。
    ま、まだ10分以上あるんだよ?
    もしかして、あたしたち、このまま放置?
    顔面がかぁっと熱くなるのが分かった。
    それは、合わせた手首に縄を巻いて軽く縛っただけの拘束だった。
    しかし越美にとっては、生まれて初めての緊縛だった。
    たったそれだけで、あらゆる自由を奪われたのと同じ緊縛だった。
    横を見ると、並んで座った希も真っ赤な顔でもじもじしていた。

    会場のざわめきが静まらない。
    皆から見られている。
    越美は、一瞬、立ち上がって逃げ出そうかと思った。
    でも絶対に立てないと思った。今の自分が立って歩けるとは思えなかった。
    見られてる。
    縛られたあたし、見られてる。
    くずはちゃんたち、こんな視線を浴びて、あんなに堂々と縛られたんだ。
    それに比べて自分は椅子に座って固まって、動けない。
    顔を伏せて自分の膝を見たまま動けない。
    短いスカートから足が出ていた。生足の太ももが出ていた。
    見られてる。
    両足に力を入れてぎゅっと閉じる。
    見られてる。
    あぁ、助けて。

    16.
    遥がステージに上がって一礼した。
    越美と希の手首の縄を解いて立たせる。
    二人とも、うまく立つことができずにステージに座り込んでしまった。
    くす。
    遥は小さく笑うと、麻縄の束を解き、両手でしごいた。

    越美の後ろに遥が立った。
    両手が取られて背中に折り畳まれた。
    手首に縄が巻きつく。上腕からセーラー服のバストの上、そして下。
    越美の身体を縄が締め上げて行く。
    「立てますか?」
    「は、はい」
    小さく返事をして立ち上がった。
    少しよろめいたけれど、支えてもらって倒れずにすんだ。
    「すぐに縄でサポートしますからね」
    遥はそう言って、越美の背中で何かの作業をしている。
    何してるんだろ?
    よく分からなかった。
    ただ、遥が何かを締めるたびに自分の身体が揺れることは分かった。
    「縄に体重を預けて」
    遥が離れた。
    !!
    身体がゆらゆら揺れた。
    どうやら背中を吊られているらしい。
    足は床についているけれど、体重の半分以上が背中の縄にかかっているのだ。
    縛られた両手はまったく動かせなかった。絶対に逃げられないと思った。
    縄の感触を味わいながら、ただ、ぼうっと前を見た。

    続いて遥は隣で希を縛った。
    後ろ手に縛った希を立たせ、背中を縄で吊っている。
    希はうつろな目でじっと前を見ている。
    あたしと同じだ。越美は思った。
    のんちゃんも何も考えられないんだ。
    あたしと同じ、縄の虜になっているんだ。

    はっと気がつくと、遥が自分の足元に膝をついて何かしていた。
    左の足首に縄が縛り付けられている。
    遥が立ち上がって縄をぐいと引くと、左足が持ち上がって後方に吊り上げられた。
    「ああっ」
    片足を吊られるのは亮子の緊縛と似ていた。
    亮子と違うのは、持ち上がった足首の位置が自分の頭よりも高いこと。
    そして、床についた右足までもが浮き上がって、越美は完全に縄だけで吊られてしまったことだった。

    世界が回転した。
    背中を吊るす縄を支点に、越美はくるりと回って頭が下になった。
    全身が反り返り、空中で逆海老の体勢になった。
    上半身の縄の締め付けがぐっと増した。
    遥はすばやく左の膝にも縄を追加して、体重を分散させてくれる。
    下に垂れた右足は、膝で折って太ももと脛をまとめて縛られた。
    「あぁ・・!!」
    越美はもう一度うめいた。
    それは、はっきりと快感だった。
    目眩のしそうな浮揚感。
    不自然なポーズでしなる身体中の筋肉と関節。
    自分では何もできないのに、心と身体がじんじんしびれて高まっている。

    拍手と歓声が耳に入ってきた。
    あ、あたし、見られてるんだった。
    恥ずかしいよ。・・でも、ちょっと、どうでもよくなった、かな。

    学園祭・緊縛ショー

    二人の女子高生がステージに浮んでいた。
    同じ体勢で吊られて、揺れていた。
    いったい、もうどれだけこうして過ごしているんだろう。
    遥が越美の頬を両手で挟んで、話しかけた。
    「辛い?」
    「あ、大丈夫です。・・いえ、辛い、かな。少し」
    「もう解いて欲しい?」
    「え?」
    「すぐに縄を解いて欲しい?」
    「あ、まだ、・・まだ、許さないで。このままで、いたい、です」
    遥は満足気に微笑むと、そのまま越美の顔面を横に押して離れていった。
    越美の身体がゆっくりと回転する。
    遥は続いて希にも確認して、同じく解放を拒否されると、そのままステージを下りていった。

    17.
    緊縛実演が終了し、越美と希はそれぞれ英一と川田に抱かれてステージを降りた。
    会場は拍手と口笛、歓声が溢れてしばらく収まらなかった。
    やがてその拍手はアンコールの求めに替わる。
    遥がステージに立ち、両手を広げて会場を静めた。
    「ありがとうございます。アンコールにお応えしたいのですが、モデルさんも私の体力も限界です。・・ただ」
    息をついて、笑った。
    「少し休憩させてもらって、その後、ご希望の女性10人だけ、緊縛を体験してもらいましょう」
    きゃあ~!!
    ほとんどの女性が歓声を上げ、一部の男性がブーイングをした。

    目を開けると、くずはが越美の顔を見下ろしていた。
    「安居さ~ん!」
    「くずはちゃん・・?」
    「素敵でしたぁっ♥、もう、ものすごく綺麗で、涙が出ました~っ!!」
    くずははそう叫ぶと越美にがばっと抱きついた。
    うわっ。
    「あたし、いっぱい写真撮りましたからねっ。全部、送りますから、夜中に部屋でこっそり見て下さいね!!」
    いや、別にこっそり見なくても。
    「越美ぃ~」隣で希が起き上がって声をかけてきた。
    「のんちゃ~んっ」
    「あたしら、ちゃんと生きてるよねぇ~」「何言ってるの~。死んでないよぉ~」
    「あのまま死んじゃうかなって思ったよぉ」「実はあたしも~っ」
    くずはが、けらけらと笑った。
    「もう、お二人とも大げさですよぉー」
    「あはは。そうかな」
    「あたしなんか、もう天国に行ったと思いましたもん」
    「は?」
    「あれ? 面白くなかったですかぁ」

    会場では遥による緊縛体験会が開催されていた。
    じゃんけんで競争率20倍を突破した希望者が、ステージで遥から高手小手縛りを施された。
    どの女性も縄の感触にうっとりとし、その中には映像研のガンさんこと岸友紀子も含まれていた。

    18.
    その夜、映像研の打ち上げは、遥と緊縛モデルの4人も加わって遅くまで続いた。
    遥がまだ22才の若さだと聞いて、モデルたちが驚いた。
    亮子が男であるという事実があらためて告知されて、映像研のメンバーが驚いた。
    そして最後に映像研の作品を見た遥が自分もこんな風に縛られたいと言い出して、全員が驚いた。

    明け方の公園。
    ブランコに英一と越美が並んで腰掛けていた。
    「らっ、たっ、たぁ~」越美がブランコを揺らす。
    「大丈夫か、越美」
    「平気だよぉ」
    「お前、調子に乗って飲みすぎ」
    「ん、大丈夫だって。・・ほら、1回ゲロしたじゃん」
    「お前な、女がそういうこと平気で口にして」
    「何よぉ。それより英一、あたしが寝てるとき、希に迫ってたでしょー」
    「してねーよ。あれは西田さんの方から」
    「ええっ。のんちゃんが英一をユーワクしたの?」
    「最後まで聞け!! 高院さんのプライベートライブのことを教えてたの」
    「遥さん、ライブやってるの? それってもしかして緊縛のショー?」
    「おお、その通りっ」
    「見たい!! 行きたい!! 連れてって!!」
    越美は立ち上がって英一の正面から抱きついた。
    「うわ、こら!」
    「えへへ~っ」
    越美は英一の膝に乗ると、そのまま英一にしがみついた。
    少しの間、静かな時間が流れた。
    東の空が白み始めている。
    「・・なぁ、越美」
    「なぁに」
    「高院さんだけど」
    「うん」
    「カップル向けで、緊縛教室をやってるんだって。・・俺たちも教わらないか?」
    「緊縛教室~?!」
    「越美。そういうの、いやか?」英一が聞いた。
    「・・お前もワルよの、越後屋」
    「お」
    「常日頃から贅沢不埒のし放題。その上、今度は若い娘をかどかわして、緊縛えっちを楽しもうという魂胆かい」
    「お前、その言い方、ちょっと変。それに、かどかわす、じゃなくて、かどわかす」
    「うるさい! 細かいこと言ってると女の子に嫌われるんだぞ」
    「はいはい」
    「それでぇ、お前は何かい。目の前にいる、この可憐な町娘を縄で縛りたいというのかい」
    「ほっ、ほっ、ほっ」
    「お、返してきたな」
    「ご奉行様。いくら何でも、こんな小便くさい娘に手をつけるほど、この越後屋、落ちぶれてはおりませぬ」
    「小便くさいとは何よぉ」
    「ただ、手前は、猫が大好きでございまして」
    「は、猫?」
    「手元に雌猫が一匹おりまして、それが、もう、よくなつきまして、身を摺り寄せてくるのが、可愛くて堪らないでござる。あれ?」
    「な、何を言ってるのよー!」
    「いーじゃねえかっ。・・それで、何だ、その猫が喜ぶことなら、俺は、もう何でもしてやりたいんだっ」
    「え」
    きゅん。
    なぜか突然ぐっと感じてしまった。
    「え、英一。・・その猫は、英一に縛られたら、喜ぶの?」
    「おお、喜ぶぞ。おまけにそいつは、縄で縛ったらとっても綺麗で可愛いんだ」
    「・・」
    「越美?」
    「・・に、にゃあ」
    「え」
    「にゃん、ごろごろ!」
    「お前、・・あはは」「うふ、きゃはは」
    しばらく笑い続けて、やがて静かになった。
    互いに見つめ合い、そして顔を近づけてキスをした。
    英一の手が越美の背中を強く抱いた。
    「俺も勉強して、越美を縛れるようになる。いつか高院さんみたいに綺麗に縛ってやる」
    「うんっ」
    「うん、じゃねーだろ?」
    「あ、えーっと・・にゃん!」
    「よしよし」
    英一はまるで猫を撫でるみたいに、越美の頭をぽんぽんと撫でた。
    越美は頬をぷうっとさせると、少しだけ英一をにらんで、それから笑って英一の肩に顔を押し付けた。



    ~ 登場人物紹介 ~
    安居越美: 20才、大学2年。本話主人公。
    長尾英一: 21才、大学3年。映像研究会所属。越美の彼氏。
    西田希(のぞみ): 19才。大学2年。越美の友人。  
    川田: 23才、大学4年。映像研究会部長。
    牧本: 20才、大学2年。映像研究会所属。
    岸友紀子: 21才、大学3年。映像研究副部長。通称ガンさん。
    中野原(なかのばる)くずは: 17才。高校2年。コスプレイヤー。
    神田亮: 18才、高校3年。男の娘コスプレイヤー。女装時は亮子と名乗る。
    高院遥: 22才。若手女性縄師。

    今年の学園祭ネタは、大講義室で緊縛ショーです。
    最初はもっとオタクっぽい(どんなだ?ww)ショーにしたいと狙っていましたが、案外普通の緊縛になってしまったようです。
    登場人物のキャラクターを楽しんでいただけたら、と思います。

    今回は高校生の緊縛モデルに流行りの男の娘を登場させました。
    作者は男性の緊縛には決して萌えませんが、女性にしか見えない美しい女装緊縛や、内臓の性別が無関係な美少女着ぐるみの緊縛などにはフェチを感じます。
    今後ネタを集めることができたら、そういう題材のお話も書いてみたいと思っています。

    さて、学園祭ネタもすっかり恒例になりました。
    来年も書くとしたら、大学ではなく高校か中学の文化祭をやりたいですね。
    ただし高校の文化祭では、今や金字塔ともいえる、◯ち◯す氏の『被虐の文◯祭』を意識してしまって難しいところです。(ご存知ない方は検索してみて下さい)
    まあ1年かけていろいろ考えてみましょう。

    ありがとうございました。




    お姉ちゃんとあたし(1/2)

    1.
    お姉ちゃんの背中を左の膝で押さえながら、両手で縄を引き絞った。
    みし。縄の音がした。
    「わあっ、軋(きし)んだ! 聞こえた?」
    「ん、あぁ・・」
    「ねぇ、ねぇ、お姉ちゃん、カナデお姉ちゃん!」
    「わ、わかんないよぉ」
    「もうっ。じゃ、も一回」
    「え?」
    もう一度、今度は手首を束ねた縄を頭の方に引き上げる。
    きしきし。
    「ひあっ」
    「ほらほら!」
    調子に乗って縄を強く引いた。
    「はぁ・・ん!!」
    お姉ちゃんが首を振っている。
    縄の音を聞く余裕なんてなさそうね。
    あたしはうつぶせに寝たお姉ちゃんにまたがって、お姉ちゃんを縄で縛っている。
    あたしもお姉ちゃんも、キャミソールにショーツの下着姿。
    お姉ちゃんの白い肌に赤い縄が食い込んで綺麗だった。
    背中で組んだ腕が首の下までねじれている。
    こんなに高い位置で手首を縛ったのは初めてかしら。お姉ちゃん、柔らかいんだ。
    「ねぇ、痛くない?」
    「なぁに?」
    「腕、痛くない!?」
    「あぁ、だいじょぶ。・・ふぅんっ」
    お姉ちゃん、もう、感じてる。ちょっと羨ましいな。
    あたしはお姉ちゃんの足を膝で折らせて、片足ずつ、太ももと脛を合わせて縄で縛る。
    「あ、・・あんっ」
    「気持ちいい?」
    「うん。いい」
    いつもは食器を綺麗に片付けろとか、掃除当番をサボるなとか、口うるさいお姉ちゃんだけど、あたしに縛られるときは素直で可愛い。
    お姉ちゃんの太ももの内側を指で辿る。
    ショーツの隙間からその奥の空間へ。人差し指と中指が深く侵入した。
    「はぁう!!」
    そこはよく濡れていて、暖かかった。
    ゆっくり、ていねいにかき混ぜてあげる。
    「ひぃ、ひゃぁん、やぁん、あんっ、はんっ・・」
    あたしの指の動きにぴったり同期してお姉ちゃんが声を出した。
    折り畳まれた足と身体を逆海老にのけぞらせて、どんどん昇り詰めて行く。
    お姉ちゃん、あたしもドキドキして心臓が止まってしまいそうだよ。
    「はぁっ、はぁっ、・・あああぁ!!」
    そり返った身体ががくがく揺れて、差し出した手のひらに熱い液体がふりかかった。
    ぐったりしたお姉ちゃんの隣にあたしも倒れ込む。
    しばらく荒い呼吸をしてから、あたしはお姉ちゃんを自分の方に向かせて抱き締めた。
    「・・・ん」
    そっと唇を合わせる。
    縄で縛られたまま、うっすら目を閉じたお姉ちゃん。たまらなくセクシー。
    濡れた右手をお姉ちゃんの頬に当てた。
    「きゃ、冷たいよ」
    「舐めて」
    「ん・・」
    お姉ちゃんは舌を出して、あたしの手のひらを舐める。ちろちろ、ぺろぺろ。
    「どんな味?」
    「しょっぱい。・・それにこの匂い、なぁに?」
    「お姉ちゃんの潮だよ」
    「しお?」
    「イッたときに吹いたんだよ、あたしの手の中に。・・覚えてないの?」
    「・・えええっ!?」
    とろんとしていたお姉ちゃんの瞳がみるみる見開かれた。
    「女の子の潮吹きって、エロビデオの中だけの話と思ってたけど、本当にあるんだね」
    「もうっ、ウタ!! 何舐めさせるのよぉっ」
    「ねぇ、潮っておしっこなの? お姉ちゃん」
    「ばかっ、知らない!」

    2.
    朝、起きてダイニングに行くとお姉ちゃんは朝食の支度をしていた。
    「ほれ、水やり。今週はあんたの当番でしょ」
    「ちょっと待ってぇ」
    「もたもたしないっ。私、8時には出かけちゃうよ」
    うー。
    あたしはリビングのガラス戸を開けてショートパンツの素足のままテラスに出る。
    小さな一戸建ての狭い庭とテラスには母さんの植えた花がいっぱい咲いていた。
    南側には鉢植えのベゴニアとベニチュア。その奥にはガザニア、ゼラニウム。
    どれも母さんの好きだった花。
    母さんは少しでも時間が空いたら、いつも庭に出て花を触っていた。
    その母さんが亡くなって、もうすぐ1年。今はあたしとお姉ちゃんが花を守っている。
    ジョウロで水をやると、朝の日差しに小さな虹が輝いた。
    ・・
    朝食を済ませると、お姉ちゃんは鞄を肩に掛けた。
    「土曜の晩まで帰らないから。父さんもまだしばらく留守だし、戸締りちゃんとするのよ」
    「わかった。ねぇ、」
    「何?」
    「いくら大学の実験室だからってさ、もう少し可愛い格好で行きなよ」
    お姉ちゃんは自分のシャツとジーンズを見下ろして両手でぽんぽんと叩いた。
    それ、一昨日と同じでしょ。
    髪の毛だって後ろでざっと括っただけだし、顔なんかほとんど素っぴんに色気のない眼鏡。
    「別にいいの。どうせ、むさい男しかいないだから」
    お姉ちゃんは、以前はお洒落な服も着ていたし、それで男の人とデートしたりもしてた。
    でも今はすっかり地味になって、大学の研究室で卒研に没頭している。
    いったいどんな研究をしてるのかって聞いたら、プラスチックの糸を何万回も何十万回も引っ張ったり緩めたりして観察してる、って。
    毎日そんなことをして何が面白いのか分からないけれど、お姉ちゃんはその研究で大学院まで行くつもりらしい。
    「・・夜はあんなに可愛いのに」
    「何か言った?」
    「ううん、何も。行ってらっしゃい!」
    お姉ちゃんは手を振って出て行った。

    3.
    「そういや俺、お前の母さんの葬式以来、カナデさんに会ってないなぁ」
    カケルが言った。
    「そうだっけ? じゃあ、今のお姉ちゃん見たらきっとびっくりするよ」
    あたしが応える。
    「あの、いつもイケてて派手だったカナデさんがねぇ」
    「カケル、お姉ちゃんに叱られたことがあったよね」
    「お前、やなこと思いださせるねー」
    あたしとカケルは同学年の幼馴染だ。
    カケルは昔からあたしに気があったらしいけれど、中学生になってもコクりもしないでウジウジしてるから、見かねたお姉ちゃんから「ヘタレてないで、男らしくしなさい!」ってどやしつけられたんだ。
    でもおかげで高校3年になった今では、あたし達は学校中で知らない人はいない公認のカップル。
    今日も二人一緒に学校から帰ってきて、あたしの部屋で制服のままで喋っている。
    「お姉ちゃん、今日は実験室に泊まるんだって。父さんも出張中だから今夜はあたしだけなんだ。カケル、晩御飯食べてってね」
    「おお、よばれるわ。・・そうか、お前一人か。俺、守ってやるからな」
    「何を偉そうなこと言ってんの。ヘタレのくせに」
    「ああっ。気にしていることを~っ」
    「へへん。じゃあ、どうしてくれるの?」
    カケルはあたしの顎を人差し指で突き上げた。
    「・・こうしてやるさ」
    カケルの口があたしの口を塞いだ。
    「ん。んんん~っ!!」
    あたしは精一杯呻きながら顔を振るけれど、それ以上抵抗することはできなかった。
    頭の上に引き上げられた手首がベッドの手すりに縛りつけられていた。
    さらに左右の足首はベッドの裏側を抜ける縄で連結され、大きく開脚したまま固定されていた。
    つまりあたしは、ベッドに仰向けに大の字の形で、ううん、両手を上に伸ばしてるから「人」の字かしら、ともかく動けなくされていて、その上にカケルがのしかかっているのだった。
    この部屋に入るなりカケルがあたしを縛ったのだ。
    「んー、はぁっ!!」
    ようやくカケルが口を離した。
    「お前のここ、すっかり濡れてるんじゃねーか?」
    「知らない!」
    スカートがめくり上げられた。
    「こらあ! ・・あ、あぁ、やだあっ」
    ショーツの上から撫でられる。
    「すげーな。ぐっしょりじゃん」
    「やあぁ!」
    「しかし、お前は口は乱暴だしすぐに突っかかるし男を平気でひっぱたくし、まるでSだけど、こうして縛ったらすんげぇMなんだよな」
    カケルの左手がセーラー服の下から入ってきて、ブラを上にずらした。
    ゆっくり胸を揉みしだかれる。
    「はぁんっ・・」
    「カナデさんは知ってるの? 妹のウタがマゾだってこと」
    お姉ちゃんは多分知らないよ。あたしはお姉ちゃんにはSだもん。
    あたしは縛るのも縛られるのも好きなんだ。
    縛られた女の子はとっても可愛いしそんな子は苛めてあげたくなるけれど、男の人にだったらやっぱり自分が綺麗に縛られて苛められたい。
    「きゃんっ!!」
    今度は乳首を摘まれた。
    あたしは、カケルに縛られて弄ばれている。あたしは、カケルの思いのまま。
    「・・カケルぅ」
    「ん?」
    「お願い。・・もう、我慢できない」
    「何を我慢できないんだ?」
    「分かってる、くせに」
    「俺、何も分からないよ」
    「あぁんっ。もう、意地悪しないで、早く入れてよぉ!」
    「はいはい」
    カケルは笑いながらあたしの足首の縄を解いて、それからショーツを脱がせてくれた。
    あたしが膝を立てて開くと、その膝をカケルが両手で押さえた。
    「んっ、・・あああああ!!!」
    あたしは押し潰されたカエルみたいなポーズで、カケルを深く受け入れた。

    4.
    日曜日のお昼過ぎになって、お姉ちゃんがあくびをしながら食堂に降りてきた。
    「ふわぁ~。おはよぉ」
    「いつ帰ったの?」
    「夜中。1時頃かなぁ」
    「何か食べる?」
    「んー、今はいらない」
    「汗臭いよ、お姉ちゃん」
    お姉ちゃんは、汚いTシャツに短パン姿。
    ぼざぼさ頭にほこりだらけの眼鏡をかけて、身体のあちこちをぼりぼり掻いている。
    これは、ますますひどいな~。
    よぉし。
    「お姉ちゃん、お風呂入ろうっ」
    「はぁ?」
    「すぐにお湯入れるから一緒に入ろう!!」
    「あんたと?」
    「うんっ。逃げちゃ駄目だよ!」
    あたしはバスタブにお湯を張って、有無を言わさずお姉ちゃんの服を脱がせた。
    自分も裸になって、お姉ちゃんの背中を押してバスルームに入った。
    後ろからくっついて、熱いシャワーを頭にかけた。
    「きゃ!」
    「今日はお姉ちゃんを徹底的に綺麗にするんだから!」
    シャワーのお湯を出したまま、シャンプーを手にとって暴れるお姉ちゃんの頭をごしごしこすった。
    途中で面倒くさくなって、自分の髪もまとめて洗った。
    二人ともシャンプーだらけになって、それでもあたしはお姉ちゃんを離さなかった。
    「あぁっ、ウタ! 分かった。分かったから、ね。自分で洗わせて・・」
    あたしは黙って手を下ろした。
    代わりにお姉ちゃんが自分の手で髪をこする。
    「もう、ウタったら・・。きゃ!」
    お姉ちゃんがまた悲鳴を上げた。
    あたしが後ろからお姉ちゃんの胸に手を回したのだ。
    「こ、・・こら、・・だ、駄目」
    お姉ちゃんの声がだんだん弱々しくなる。
    「はぁ、・・・ん、・・ぁ」
    あたしはお姉ちゃんの背中に密着して、シャンプーまみれの頭をお姉ちゃんの首筋にぴたりとつけた。
    お姉ちゃんの胸は柔らかくて、揉み心地がよかった。
    バスルームにはシャワーの音だけが響いている。二人とも何も喋らなかった。
    お姉ちゃんの身体が少しふらふらしてきたみたいだった。
    それでもあたしはお姉ちゃんの胸を揉み続け、お姉ちゃんも自分の髪をこすり続けた。
    そのまま何分くらい過ぎたんだろう?
    とうとうお姉ちゃんの膝から力が抜けた。
    崩れ落ちそうになるのを支えてあげた。
    「・・ウタの、ばか」
    お姉ちゃんは小さな声で叱りながら、振り返ってあたしを抱きしめた。
    二人はそのままキスをした。
    シャンプーの泡が口に入って苦かった。
    ・・
    あたし達はバスルームで3時間過ごした。
    互いの身体を触り合いながら、髪の毛の一本一本から爪の先まで、お尻の穴からあそこの中まで綺麗に洗った、
    お風呂から出ると、リビングのソファに折り重なるように倒れこんだ。
    二人ともショーツ1枚だけだった。
    「カナデお姉ちゃん、いい匂い」
    「ウタも」
    「うふふ」
    「ふふふ」
    そっと唇を合わせる。
    「ね、縛っていい?」
    「・・うん」
    あたしはお姉ちゃんの手をとって自分の部屋に行った。
    机の引き出しから縄束を出した。

    5.
    ケータイが鳴った。カケルからだった。
    「はい。どしたの?」
    「おおっ、今近くに来てるんだ。ヒマか?」
    「え? ヒマじゃないよぉ」
    「何してるんだよ」
    あたしはケータイを耳から離してベッドを見た。
    そこにはお姉ちゃんが手足を縛られて転がっている。
    縄で絞られて盛り上がったおっぱいが可愛いかった。
    「何って、別に何もしてないけど」
    「ならいいだろ。すぐ行くから」
    「ええ!?」
    電話が切れた。
    「どしたの?」お姉ちゃんが聞く。
    「カケルが来るのっ」
    「え!」
    急いでお姉ちゃんの縄を解こうとしたけれど、慌ててるせいかうまく解けない。
    あーっ。解き代が抜けて固結びになっちゃったっ!
    ピンポーン。
    玄関のチャイムがなった。
    「あー!! もう来ちゃったぁっ」
    「ウタ、私はもういいから、早く服着なさいっ」
    タンスからシャツとミニスカートを出して着た。
    「ごめん! すぐに帰らせるからっ」
    そう叫んで部屋を飛び出した。
    ・・
    玄関の鍵を開けると、カケルがにこにこしながら立っていた。
    「どしたの?」
    「へへへ。ウタ、きっと喜ぶぜ」
    カケルは勝手に靴を脱いで上がる。
    「カナデさん。まだ帰ってないの?」
    「うん」
    「・・なら、都合いいや。うっへっへ」
    「だからどうしたのよ。あーっ、上がらないで!」
    階段を上がって二階のあたしの部屋へ行こうとするカケルを引き止める。
    「リビングで話そうよ、ね?」
    「おう」
    リビングでカケルは鞄から箱を出した。
    中には、ボールギャグと首輪、そしてピンクローターが入っていた。
    「なな、何よ。これは!」
    「興味あるだろ。お前にやる」
    「どこで買ったの?」
    「買うなんて、できるかよ。・・これは、懸賞で当たったんだ」
    「どこで?」
    「雑誌。えっと、これ以上は秘密」
    どんな雑誌でこんな三点セットがあたるのよ! どうせロクでもない雑誌なんでしょ。
    まぁ、いいわ。こういう道具にちょっと興味があったのは確かだから。
    「さっそく使ってみようぜ」
    「えーっ、今から!?」
    「当たり前じゃねーか。さっき届いて、お前に見せたくて飛んできたんだから」
    「そ、それはどうも・・」
    「もう電池も入ってるんだ」
    カケルはローターをあたしに持たせた。
    「ほら、持ってて。・・行くぜ」
    カケルが電池のスイッチを入れると、それは小さな音をたてて振動を始めた。
    じー。
    「わぁっ」
    「どうだい?」
    カケルは手を添えてローターをあたしの首筋に当ててくれた。
    じー。あ、気持ちいい。
    「これをお前のあそこに当てるんだぜ?」
    じー。この振動があたしのあそこに。
    あたしは想像した。
    やりたい。これで責められたい。
    「ちょっと、・・使ってみたい、かも」
    「だろぉ? じゃ、行こうぜ、お前の部屋に」
    「う、うん」
    あたしはカケルに肩を抱かれてふらふらと立ち上がった。
    そのまま階段を上がる。
    自分の部屋の扉が開いたままになっているのが見えた。
    ああっ、いけない!!
    「カケルぅ!! 今、お部屋、すごく汚いのっ。す、すぐ片付けるから、ちょっと待って!!」
    「はぁ?」
    あたしはカケルを階段の途中に立たせたまま、先に走って部屋に飛び込み、扉をばたんと閉めた。
    「カケルくん、帰ったの?」
    ベッドで縛られたまま待っていたお姉ちゃんが聞いた。

    続き




    お姉ちゃんとあたし(2/2)

    6.
    「・・ごめん! お待たせ」
    あたしが扉を開けてカケルを迎え入れたのは、きっかり1分後だった。
    「なんだよ。別に汚くねぇじゃん」
    「えへへへへー」
    大丈夫。部屋の中にお姉ちゃんの痕跡、残ってない。
    クローゼットもちゃんと鍵かけた。うん、大丈夫。
    あたしは、ちらりとクローゼットに目をやる。ごめん、お姉ちゃん。しばらく我慢して。
    「んじゃ、さっそく」
    「え、もう?」
    あたしはベッドに押し倒された。上からカケルがのしかかって唇を塞がれる。
    「いい匂いだなぁ。シャンプーしたの?」
    「あ、朝風呂に入ったから」
    「そっか、嬉しいぜ。ウタが俺のために身体を綺麗にしてくれて」
    別にカケルのためじゃないんだけれど。
    カケルは自分の鞄から縄を出した。
    あたし用とか言ってホームセンターで買ってきた綿ロープだ。
    「ほいっ」
    腕を背中に捻り上げられた。
    「ちょ、カケルっ。も少し、優しく・・」
    「駄目。今日はきつくする」
    「もうっ」
    おっぱいの上下に縄が巻きつく。
    中学生のときからお姉ちゃんを縛ってきたあたしから見れば、カケルの緊縛の腕は「まだまだ」だ。
    あたしの方がずっと上手に縛れる。
    でもカケルはいつもあたしのために一生懸命縛ってくれる。
    あたしが望むように、あたしの身体を締め上げてくれる。
    「あれ?」
    背中の手首が高い位置に吊り上げられた。これ、高手小手。
    「分かる? イメージトレーニングしてきたんだ」
    腕がびくとも動かなくなった。
    「カケル、上手、」
    「気持ちいいか?」
    「うん」
    「へっへっへ」
    カケルはあたしをうつぶせに寝かせると、両足を膝で折って片方ずつ縛った。
    この間あたしがお姉ちゃんを縛ったのと同じだ。
    ねえ。いったい、いつの間にこんなに縛れるようになったの?
    「まだまだ終わらないぜ」
    カケルは首輪をあたしの首に巻くと、あたしに跨って腰の上に座った。
    「はぁ・・ん」
    ベッドに腰が沈む。身体にかかるカケルの体重が心地よかった。
    さらに首輪のリード(紐)が引かれて、あたしはいっそう逆海老にのけぞった。
    「ぐっ」
    「大丈夫か? どっかきつくないか?」
    あたしは首を左右にぶんぶん振る。
    心の中がどんどん被虐の色に染まっていく。とろとろになりそうだった。
    ああ、カケル・・。あたしをカケルの好きにして。
    「よぉし」
    口にボールギャグが噛まされた。
    「んんっ」
    「さあ、ローター入れるぞ」
    カケルの手がデニムのミニスカートをまくりあげた。
    その手がさらにショーツの中に入ってきて、そこに小さな丸い固まりを押し込む。
    「覚悟はいいか?」
    「ふぁい」
    じー。きた!
    「い!!」小さな振動が起こった。
    「んっ、んっ、んっ・・」その振動はあたしを刺激して、熱くした。
    「ひゃん、ふぁあっ、ふぁああああ!!!」腰に力が入らなかった。代わりに手と足の筋肉にぎゅっと力を入れて耐える。
    「ふぅん、ひぃん、ふぁはぁあん!」自分の身体がどんどん反って行くのが分かった。
    「ふわぁ、・・ふわぁ、・・ふぁあっ」下半身ががくがく揺れる。あ、もうすぐ、あたし、・・!!
    「ウタ、可愛いよ」
    カケルが我慢できなくなったように、あたしを抱きしめた。
    「ふぁっ、・・ふぁっ、・・ふわぁ!!」
    あたしはカケルに抱かれて、どんどん高みに登って行く。
    縄が肌に食い込んで少し痛かったけれど、それだって悪くなかった。
    「・・・・!!!」
    あたしはカケルの腕の中でイッた。
    今まで感じたことのない快感だった。
    ピンクローターが外れて外に落ちて、股間に熱いモノが噴出した。
    何が何だかわからなくなった。
    あたしは涙を流しながら、エクスタシーの中に浸っていた。
    ・・
    カケルは縄を解いて、ボールギャグも外して、ぎゅっと抱いてくれた。
    「あぁ・・ん!!」
    そうされるだけで気持ちがよくって、あたしはカケルが離れるのを許さなかった。
    長いことそうして過ごしてから、カケルはあたしのスカートとショーツを脱がし、そしてあたしの中に入ってきた。
    緊縛されて一度イッた後のセックスは、優しくて、安心できて、穏やかだった。

    7.
    カケルが帰ってから、あたしはベッドのシーツを替えた。
    シーツを洗濯機にかけながら、窓から空を見上げる。
    夕焼けが綺麗だった。日曜日も終わりだな。
    明日からまた学校。お姉ちゃんは大学。
    え? お姉ちゃん?
    あああぁぁぁ!!!
    「お姉ちゃん、ごめん!!!」
    あたしは叫びながら階段を駆け上がり、部屋に飛び込んだ。
    クローゼットの鍵を開けて中を見ると、そこにはショーツ1枚穿いただけで手足を縛られたお姉ちゃんがぺたんと座り込んでいた。
    「ウタぁ、ひどいよぉ・・」
    蚊の鳴くような声だった。
    せっかく綺麗にした髪はばらばらに乱れていて、顔面は涙と涎でぐちょぐちょだった。
    身体も汗をかいてぐっしょり、そしてショーツも濡れてぐっしょりだった。
    ・・
    あのとき、お姉ちゃんはカケルがあたしを縛るのを知って驚いたけれど、気づかれないようにじっとしていた。
    姉妹でいるときは自分を縛る妹が、男の子に縛られている。・・きっと衝撃的だったはず。
    やがて、あたしが縄を受けて感じ始めると、お姉ちゃんもだんだん熱くなってきたんだ。
    狭くて暗い中に閉じ込められて縛られているだけでも刺激的なのに、その上、あたしの喘ぎ声まで聞かされるんだから、無理もないよね。
    もし両手が自由だったらお姉ちゃんはきっと自分で自分を慰めたと思う。
    でも、それはできない。イキたいのに、イケない、もどかしさ。
    そして、あたしが絶頂に達したとき、お姉ちゃんは下半身の力が抜けて座り込んでしまった。
    狭いクローゼットの中に膝を立てた状態でお尻がはまり込んでしまうと、もう自分では動くこともできない。
    声を出してカケルに気づかれるのは絶対に嫌だから、お姉ちゃんはそのままずっと我慢していた。
    あたしがカケルの腕の中で泣いている間も、それからあたし達がセックスしている間も、お姉ちゃんはずっと切なさともどかしさにさいなまれて、狂いそうになりながら、放置されたんだ。
    ・・
    翌朝、お姉ちゃんは部屋から出てこなくて、そのまま大学を休んだ。

    8.
    あたし達が初めてキスしたのは、あたしが小学4年、お姉ちゃんが中学2年のときだった。
    互いの身体を求め合ったのは、それから3年後。
    そしてお姉ちゃんを縛ったのは、さらにその次の年だった。
    もちろん、あたし達はレズ専って訳じゃない。
    二人とも男性とちゃんとお付き合いできるし、今のあたしにはカケルがいる。
    ・・でも、あたしにとって一番大切なのは、やっぱりお姉ちゃんなんだ。
    かけがえのない家族で、姉妹で、恋人で、そして縄奴隷のカナデお姉ちゃん。
    お姉ちゃんの顔が浮かんだ。
    クローゼットの中で泣きそうになっていたお姉ちゃん。
    あたしのせいだ。お姉ちゃんをあんな目にあわせたのは、あたしだ。
    学校で授業中も、クラスメートとお昼を食べている間も、あたしはそのことばかり考えていた。
    早くお姉ちゃんに会いたい。お姉ちゃんに謝りたい。
    終業のベルが鳴るとカケルが何か話しかけてきたけれど、あたしは「ごめん、今日は駄目!」って叫んで教室を飛び出した。

    9.
    「あら、ウタ。お帰りなさい」
    「お姉ちゃん。もう大丈夫なの?」
    「当たり前でしょー」
    家に帰ると、お姉ちゃんは珍しくお化粧をして、昔の服を着ていた。
    肩まで大きく露出したノースリーブに膝上20センチのタイトミニ。
    今でこそ大学の研究に熱中してお洒落に無頓着になったけれど、以前のお姉ちゃんはこんな服を着こなして、何人もの男性とデートしていたりしたんだ。
    「その服・・」
    「まだ太ってなかったみたい。・・どう? 久しぶりに着たけど似合ってる?」
    お姉ちゃんは片手を頭の後ろに当ててセクシーポーズをとった。
    「うん、素敵。・・でもどうしたの? 急に」
    「ウタのせいなんだよ。こんな格好したくなったのは」
    「え?」
    「大事な妹が虫に食べられてるのよ? 姉としては黙って見ている訳にはいかないでしょ」
    「お姉ちゃん、カケルは虫なんかじゃ、・・あ」
    お姉ちゃんが両手であたしの顔を挟んだ。
    「分かってるわよ、そんなこと。・・カケル君、格好よくなったわね。ウタも女の子なんだから、若いうちに男の子に縛ってもらう経験は大切よ」
    お姉ちゃんの手があたしの頬を撫でる。あ~ん、そんなに撫で回したら、ほっぺがぷよんぷよんになっちゃうよ~っ。
    「いい女はね、いい男に縛られて、いっそういい女になるの。私みたいにね」
    「え? お姉ちゃん、・・もしかしてキクチさんに?」
    「うふふ。昔のことよ」
    お姉ちゃんは笑った。キクチさんは、去年までお姉ちゃんが付き合っていた人だ。
    あんなバカ男、こっちから捨てた、なんて言ってたのに。
    「だから、お姉ちゃん、あんたがカケル君に縛られるの、大賛成!」
    「お姉ちゃん・・」
    「でもね。私だって、生殺しにされるのはヤだからね」
    「!」
    お姉ちゃんの顔が近づいた。あたしは身動きできない。
    「だからね、お姉ちゃん、ウタを誘惑することにしたの。ウタがカケル君だけじゃなくて、私のことも忘れないように」
    お姉ちゃんの唇があたしの唇に触れた。
    「んっ・・」
    あたし達はキスをしながら抱き合った。
    お姉ちゃんはカケルなんかより、ずっと柔らかくって、抱き心地がよかった。
    やがて、お姉ちゃんはあたしに向かって正座した。
    「ウタ。ううん、ウタ様。カナデのことも大事にして。・・お願い。私を満足させて」
    「あ、・・お姉ちゃん」
    あたしもお姉ちゃんに向かって正座した。
    「ごめんなさいっ。お姉ちゃん!! もう、あんな風に放り出したりしないから・・」
    「もう、どうしてあんたが泣くのよ。・・バカね」
    お姉ちゃんは、自分の膝に泣き崩れたあたしの頭を撫でながら言った。

    10.
    お姉ちゃんは玄関で靴を履き、あたしの手を引いて外に出た。
    あたしはまだ学校の制服のままだった。
    カーポートに駐めたパパのエスティマの脇を抜けて、段差を上がると、そこはママの花で囲まれたテラスだった。
    そこには物置から出してきた古いパイプ椅子と縄束が置いてあった。
    「じゃ、お願い」
    「え?」
    「ここで、カナデを縛って下さい」
    「ここで!?」
    「そうよ。刺激的でしょ」
    「表から見られちゃうよぉ」
    「大丈夫よ。車の陰だもん」
    確かに、パパの車の横まで入り込んで覗かない限り、道路から見られることはなさそうだった。
    「でも・・」
    「ごちゃごちゃ言わないで、早くしなさいっ」
    「う、うん」
    「『うん』じゃないでしょ?」
    「あ、・・はい」
    「違うわよ」
    「?」
    「ここであんたのセリフはね、『さあ覚悟しなさい、このマゾ女』よ」
    「・・」
    「・・変かな?」
    「うん、変」
    「・・」
    「あは」
    「うふ」
    「あははは」
    あたし達は揃って笑った。
    それからお姉ちゃんが向こうを向いて腕を背中で組み、あたしはその腕を縛り始めた。
    ・・
    セクシーな服を着たお姉ちゃんは縄で縛られるといっそうセクシーになった。
    むき出しの二の腕に縄が巻きついて食い込んでいる。
    「お姉ちゃん、色っぽい」
    「ありがと」
    お姉ちゃんはにっこり笑ってくれた。
    ・・そうだ。突然思いついた。
    「ちょっと待って」
    「どうしたの?」
    あたしは後ろ手に縛ったお姉ちゃんを置いて、家の中に入った。
    自分の部屋から道具を取って戻ると、不安そうな顔で待っていたお姉ちゃんに見せた。
    「ちょ、それ、もしかして」
    「そうだよ。カケルがあたしに使ったんだから、次はあたしがお姉ちゃんに使う番」
    あたしが手にしているのは、カケルがくれた三点セットだった。
    「うふふ。さあ、覚悟しなさい。この、マゾ女っ」
    「あ、・・」
    お姉ちゃんは急に口ごもった。
    「カ、カナデは・・」
    全身が細かく震えている。
    「ウタの、奴隷・・だから、どんなことにも従います」
    そう言ってあたしを見上げる顔は真っ赤になっていて、瞳が潤んでいた。
    ・・お姉ちゃん、スイッチが入ったんだ。
    あたしはお姉ちゃんの頭を自分の胸に抱えて、首輪とボールギャグをつけてあげた。
    「んんっ」
    「・・次は、これね」
    ローターをお姉ちゃんに見せて、お姉ちゃんを膝立ちにさせた。
    下着の中にローターを入れ、位置を決める。
    ローターの上から指で押さえるとお姉ちゃんの下半身がびくっと震えた。
    「怖い?」
    お姉ちゃんは首をこっくり振ってうなずいた。
    「でも、責めて欲しいんでしょ?」
    今度はお姉ちゃんはうなずかなかった。でも、その目が責めて欲しいと訴えていた。
    「じゃ、行くよ」
    あたしはお姉ちゃんの目の前にスイッチボックスを構えた。
    お姉ちゃんが身を固くして、両方の目をぎゅっと閉じた。
    ・・どき、どき、どき。
    お姉ちゃんの心臓とあたしの心臓が一緒に鳴り続けた。
    そのまま何十秒かが過ぎる。お姉ちゃんが目を開けて「?」という表情でこっちを見た。
    あたしはそれを狙ってスイッチを入れた。
    緊張の途切れたお姉ちゃんが雷に打たれたみたいにびくってした。
    「ひぁんっ!!」
    首をのけぞらせる。
    「ふぁっ、あぁ、あぁ!」
    あっという間にお姉ちゃんはテラスの床に崩れ落ちた。
    あたしはローターのスイッチを切る。
    「大きな声を出したら、表に聞こえちゃうでしょ?」
    「!!」
    お姉ちゃんが喘ぎ声を押し留めた。慌てたような表情が可愛いかった。
    「ここで縛ってって言ったのはお姉ちゃんだよね?」
    あたしはそう言うと、再びスイッチを入れる。
    「あぁっ、あぁっ、あぁっ・・」
    お姉ちゃんがテラスに転がったままぶるぶる震えた。
    10秒ほどして、またスイッチを切った。
    「どう? お姉ちゃん。惨めじゃない?」
    お姉ちゃんは首をもたげてあたしを見た。
    その目から涙が流れている。恨めしそうな、そして何かを訴えるような目だった。
    あぁ・・! あたしも涙が出そうだった。お姉ちゃんがすごく愛おしかった。
    「イカせてあげる。最後はイカせてあげるから、安心して。・・でも、それまではあたしのおもちゃだからね。何回も寸止めして気が狂うような思いをさせてあげる。・・いい? あたしの奴隷さん」
    お姉ちゃんが目を閉じた。そして首を縦に小さく振った。
    ・・

    お姉ちゃんとあたし イラスト:ぱるさん

    それからあたしは椅子に座り、ローターを小刻みに入れたり切ったりして楽しんだ。
    途中でケータイにメールが着信した。カケルからだった。
    『今日はどうしたの? そっち行っていいか?』
    あたしは『絶対ダメ!!」とだけ返事を返した。
    足元ではお姉ちゃんが喘いでいる。
    顔を真っ赤にして、股間のローターに翻弄されているお姉ちゃん。
    ・・ねぇ、お姉ちゃん、もう一回キクチさんと付き合わない? 嫌だったら別にキクチさんでなくてもいいから、お姉ちゃんを縛ってくれる彼氏を作りなよ。
    そしたらきっと大学にだって可愛い服で行くだろうし、彼に縛ってもらって、もっといい女になれるんだから。
    お姉ちゃんの彼氏と、カケルと、二組揃ってプレイしたりして。きゃあ♥
    「・・ふぇぇん、」
    お姉ちゃんが息も絶え絶えな感じでうめいた。お姉ちゃん、もう、可愛い過ぎるよぉ。
    ・・そろそろイカしてあげようかしら。それとも、もちょっと地獄を味わってもらおうかな。
    あたしの中で天使と悪魔が相談した。
    「じゃあ、これで最後にしてあげる。もう止めないから、綺麗にイッて、あたしを楽しませて」
    そう言って、再びローターのスイッチを入れた。
    お姉ちゃんはあたしを見て少しだけうなずいて、それから被虐の嵐の中に堕ちていった。



    ~登場人物紹介~
    カナデ: 21才。大学4年生。ウタのお姉ちゃん。ウタに縛られている。
    ウタ: 17才。高校3年生。本話主人公。カケルに縛られている。
    カケル: 18才。ウタと同じクラスのボーイフレンド。
    キクチ: 名前だけ登場。カナデが以前付き合っていた彼氏。

    前回のKS第2部がちょっと重いストーリーになったので、今回は軽めの明るいお話を目指しました。
    できあがってみると長さの割にお話といえるお話はほとんどなくて、緊縛プレイシーンばかりになりましたww。

    最後の挿絵でお分かりのように、このお話は、去年の 「サヨの朗読」 と同じく、ぱるさんの 素敵なイラスト にストーリーをつけさせていただいたものです。
    女同士、その上実の姉妹で、妹が姉を縛る関係。
    そんなイラストを描いたら、正にぱるさんの独壇場ですね。
    私は、さらに妹のウタちゃんもボーイフレンドの縄を受けている設定にしました。
    だって、いくらSっぽく振舞っていてもこれだけ可愛い女の子(イラストでは顔は見えませんが・・)がMでないはずはないでしょう!?
    (私の小説ではおなじみのキャラ設定ですね^^。洋子さん然り、舞華さん然り、遥さんも・・)
    これからもウタちゃんは、お姉ちゃんを縛る一方で男の子に縛られて、いっそう魅力的な女性になっていくことでしょう。
    本当に楽しくお話を書かせていただきました。
    ありがとうございました。

    ぱるさんの着衣緊縛イラストサイトへはこちらからどうぞ!
     → ぱるのばくいら http://parunayo.exblog.jp/

    登場人物の名前が少女向け某アニメと同じなのは作者のお遊びです。
    カナデさんとウタちゃんは二人姉妹です。二人にコトという名の妹はいません。
    もちろん、赤い頭巾を被った性格の悪いマイペースなウサギがこの家に居候している、なんていることもありません(笑)。
    このお話はフィクションであり、実在のアニメやキャラクターとは無関係なので、お間違いなきよう、お願いしますネ。





    マジ・ワールドの冒険!(1/2)

    1.
    バーチャル・クエストに行った。
    ここのところ、大評判のアトラクションゲーム。
    キャラクタになりきってプレイするRPGはたくさんあるけれど、これはちょっと違う。
    最先端の仮想体感装置を使った完全体験型のRPG。
    プレイヤーは、コントロールヘルメットをかぶって体感装置の椅子に座る。
    すると一種の催眠状態になって、仮想現実の世界マジ・ワールドに移動するの。
    マジ・ワールドは、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の人間の基本の五感はもちろん、その他あらゆる感覚が現実世界と同じ。
    プレイヤー自身がゲームのキャラクターになって、宝物を探したり魔物と戦ったりして与えられた使命を果たすわけ。
    あたし達は、高校の同じクラスの男の子2人と女の子2人でパーティを組んで、バーチャル・クエストに申し込むことにした。
    みんな、よく一緒に遊ぶ仲良しグループだけど、それ以上に深い関係って訳じゃない。
    まあ、このクエストでもう少し深い関係になれたらいいな、って思う男の子がいないこともないんだけどね。

    「では皆さん、それぞれ職業を選んで下さい」受付のお姉さんが案内した。
    バーチャル・クエストではゲームの前に自分の職業を決めないといけない。
    あたし達はタッチパネルに表示された職業のメニューを見てあれこれ考える。
    『女戦士』って格好いい! でも浩二くんが『戦士』をしたいって言ってたからカブるよね。
    『魔法使い』。素敵だけど、魔法を覚えるのが大変そうだなぁ。
    『僧侶』。女の子も僧侶になれるんだ。知的なイメージだし、いいかも。
    あたしは僧侶を選んだ。
    「・・皆さん、決まりましたか? では衣装を合わせて下さい」お姉さんが言う。
    え? ゲームの外で衣装?
    「はい。マジ・ワールドに旅立つ前に、職業別の衣装を着て気分を盛り上げてもらいます」
    へぇ、面白いなぁ。
    男女別・職業別に別れた更衣室であたし達は着替えた。
    『僧侶』の女性用コスチュームは、サイズはいろいろあったけど、デザインは1種類だけだった。
    下着まで一式セットになった衣装を着て、あたしは鏡の前で真っ赤になった。
    ・・な、何よっ。これが『僧侶』?

    2.
    ここはマジ・ワールド。
    ハッスルタウンの南に広がる『ぶくぶくの森』。
    C級モンスターのリムツタカが触手を伸ばして攻撃してきた。
    こいつは本体はゆっくりとしか動けないくせに、触手を使った攻撃はとても素早い。
    あたしはジャンプして触手を避ける。空中で『赤銅(あかがね)のワンド』を振って『熱風の呪文』を唱えた。
    リムツタカのぬるぬるした体がたちまち乾燥して動かなくなった。
    よし!
    あたしは着地すると、ナイフでリムツタカの背中の殻を切り離した。
    リムツタカの殻は街に持っていけば300ギョギョで売れる。
    「加奈っ、後ろ!」浩二くんの叫ぶ声が聞こえた。
    え?
    突然、左の足首に何かが絡みついた。
    振り向くと、リムツタカが触手を伸ばしてあたしを捕らえようとしていた。
    しまったっ。もう一匹いたんだ!!!
    逃げようとしたけど間に合わなかった。あたしは左足を触手に掴まれて、そのまま逆さに吊り上げられた。
    『僧侶』の長いスカートがめくれて、下半身がパンツまで丸見えになる。
    不意をつかれたので、あたしのたった一つの武器のワンドは地面に置いたままだった。
    何があっても武器は身から離すな、って浩二くんに言われてたのに。
    こうなったら、自分ではどうしようもない。
    あきらめてリムツタカに殺られてゲームから退場するか、それとももう一つの手を選ぶか。
    少しだけ迷ってから、あたしは叫んだ。
    「誰か、助けて!!」
    浩二くんと昭文(あきふみ)くんが飛び出してきた。浩二くんは『戦士』、昭文くんは『吟遊詩人』だ。
    浩二くんがサーベルを高く掲げると、サーベルの先端から『アルマの雷(いかずち)』がほとばしってリムツタカの触手を切断した。
    昭文くんがマンドリンを鳴らすと、『漆黒の風』が吹いてリムツタカの本体を吹き飛ばした。
    あたしは落下して地面に転がる。
    「あいたたた・・」
    本当にすごい世界だよ、ここは。仮想現実なのに、こんなに痛いんだから。
    「大丈夫か?」浩二くんがあたしの足から触手を引き剥がしてくれた。
    「無事でよかったです」昭文くんが安心したように言う。
    「加奈ちゃん!!」すみれちゃんが駆けてきた。
    すみれちゃんは『踊り子』だ。
    クエストで戦闘はできないけれど、街の広場で踊ればパーティ一番の稼ぎ頭なんだ。
    戦闘がこんなに大変だと知ってたら、あたしも『踊り子』を選んだらよかったかなぁ。

    BOOOM!
    きた! あたしの衣装が振動を始めた。
    あ、あああ・・。胸を覆うブラが透明になって消えた。
    あたしは自分の胸を両手で隠してうずくまる。
    「やぁだぁっ、帽子がまだ残ってるのにぃ」
    「僧侶の帽子は職業の印だから、最後まで消えないんですよ」昭文くんが説明してくれる。
    ううっ。ぐす。
    トップレスになっちゃたぁ。

    3.
    マジ・ワールドでは、戦闘でピンチになったとき、仲間に助けを求めることができる。
    近くに仲間がいるときに「助けて!」と叫べば、そのときだけ仲間は無敵になれるのだ。
    ただし、助けられたプレイヤーはペナルティとして身に着けているモノが一つ消えてしまう。
    何が消えるかはその時にならないと分からない。
    でも、昭文くんが言ったように、職業の印のアイテムは最後まで残るらしい。
    もしその最後のアイテムが消えると、プレイヤーはマジ・ワールドにいられなくなって、ゲーム・オーバーになる。
    あたしは、今までの戦闘で僧侶のケープを失っていた。
    今度はブラがなくなって、女の子なのに上半身裸だよ。

    だいたい、あたしは最初から着ているものが少なかった。
    女僧侶の衣装は、下着まで含めたって、帽子、ケープ、スカート、サンダルにブラとパンツだけ。
    その上『僧侶』って職業のイメージからは想像できない、ものすごい露出度。
    ケープの下は小さなチューブトップのブラだけで、お腹や背中は丸出しのデザイン。
    スカートは足首まで届くロング。でもそれは前と後ろでエプロンみたいに垂れているだけで、左右はどーんと全開。
    パンツは当然のごとく紐で結ぶTバック。
    女キャラだから多少の露出は可愛いけれど、これはサービスしすぎじゃないかなぁ。

    女僧侶 やぁだぁっ

    「まあ、加奈。ここは仮想世界だから気にすんな。現実に裸になったんじゃない」
    そう言ってなぐさめてくれる浩二くんは、膝丈ズボンにチュニックとベルト。その上から鎧を着用して、戦闘帽と腕当て、膝当てとブーツの重装備だった。
    「そうです。お金を貯めたら、防具だって買えますから」
    そう言う昭文くんだって、ズボンとシャツの上にチョッキ、鳥の羽根のついたハンチング帽、靴下に皮の靴、その上長いマントまで羽織っている。
    二人とも、今までいくつかアイテムが消えていたけど、まだまだ裸になりそうにない。
    何か、ものすごい不公平感を感じるんだけど。

    「加奈ちゃん。それはお約束なんだから、文句言っちゃ駄目」
    すみれちゃんがそう言いながら、片手を頭の後ろに当ててポーズをとった。
    ビキニのおっぱいがぷるんって揺れる。
    「男の子は重装備。女の子は超薄着。これ、RPGの世界のルールでしょ」
    「そうかもしれないけど、着てるモノが少ないと、すぐに裸になって終わっちゃうじゃない」
    「あのね、女の子はそのほうがいいのよ」
    「えー、どうして?」
    「ピンチになる前に男の子が守ってくれるでしょ? か弱い女の子が裸だとね、男の子は守ってあげようって思ってくれるものなの」
    「そうなの?」
    「女の裸は武器なんだからね。加奈ちゃんも、もっと裸を見せて守ってもらわなきゃ」
    すみれちゃん、したたか。
    でも、やっぱり自分だけ裸は恥ずかしいよぉ。
    「駄目だよ。女の子が体を見せるのを恥ずかしがっちゃ」
    う、ううう・・。
    『踊り子』のすみれちゃんは、銀色ビキニのブラとパンツ、そしてハイヒールしか着けていない。
    すみれちゃんも戦闘に巻き込まれて頭のベールと腰に巻くパレオをなくしていたけど、それを気にしている様子はなかった。
    そういえば、すみれちゃん、学校でも制服のスカートはぎりぎりの超ミニだし、私服だって肌出し系が多かったなぁ。

    「すみれちゃん。『踊り子』の職業の印って何?」
    「あぁ、それはバタフライだよ」
    「バタフライって?」
    「このパンツのこと。だからあたしが最後まで残るのはパンツね」
    「じゃ、あたしだったらこの帽子?」
    「そう。帽子だけ残って、あとは全裸になるよ。楽しみだね♥」
    楽しみだね♥って人のことだと思って。

    4.
    あたし達4人はハッスルタウンにやってきた。
    あたしのブラを代償にゲットしたリムツタカの殻は二つ合わせて700ギョギョで売れた。
    これで今夜の宿代には十分だ。
    あたしは、森で採った大きな草の葉を胸に当てて、それを両手で押さえて歩いている。
    は、恥ずかしい。
    街には、露出の大きなコスチュームを着た女の人がたくさんいた。
    あたしと同じ、衣装が消えたらしい半裸の人もいたけど、みんな平気で胸やお尻を出していた。
    ・・今すれちがった、綺麗なお姉さん、小っちゃなビキニパンツだけ。
    大きなおっぱいが目の前を通り過ぎて、つい、どきんってしてしまった。

    「加奈ちゃん。そんな格好してたら、かえって恥ずかしいよ」
    「そ、そうかな」
    「もう隠すの、やめなよ」
    すみれちゃんに言われて、恐る恐る胸の葉っぱを外した。
    「はい、両手も下ろして。もっと胸を張って歩くの」
    「う、うん」
    「加奈ちゃん、可愛いよ。・・じゃ、さっそく武器を使いましょ♥」
    「きゃ」
    あたしはすみれちゃんに背中を押されて、先頭を歩く浩二くんの隣に並ばされた。
    どき、どき。
    胸が苦しくって息ができないかと思った。仮想現実なのに、この苦しさは何?
    浩二くんが黙ってあたしを見て、それから胸に目をやって、あたしの視線に気づくと慌てて前を見た。
    ああぁ!
    逃げたくなったけど、すみれちゃんに言われたことを思い出して我慢した。

    ねぇ、浩二くん。女の子の胸をそんな哀れむような目で見ないでよぉ。
    いっそ、堂々と見て、冷やかしてくれたほうがすっきりするんだから、ね。
    小さなおっぱいが、浩二くんに見られて、さらに小さくなった気がした。
    あーあ。どうせ仮想なんから、もっと、ぼいんって大きくしてほしかったな。
    しげしげと自分の胸を見ていると、左の乳首の下にほくろがあるのに気づいた。
    これは現実と同じだっけ?
    思い出そうとしたけど、わからなかった。

    5.
    その夜。あたし達は酒場にくり出した。
    皆で歌って興が乗ってくると、すみれちゃんがテーブルの上に立ち上がった。
    昭文くんがマンドリンを弾き始め、すみれちゃんはそれに合わせて踊った。
    よぉ~っ。いいぞぉ~!! 男の人達が喜んではやしたてた。
    ちゃりん。テーブルのお皿にお金が投げ込まれる。
    すみれちゃんはそのお金をちらりと見て、それから背中に手を回して自分でブラを外した。
    ちょ、すみれちゃん!?
    さらに腰に手をやって、するするとパンツを下げる。
    おおおっ!! ひゅーひゅー!!
    すみれちゃんの足元で、あたしはまるで自分が全裸にされたみたいに顔を赤らめていた。
    すみれちゃん、平気なの!?
    全裸で踊るすみれちゃん。何もかもさらけ出して踊るすみれちゃん。
    その姿は、女のあたしから見ても綺麗だった。
    ちゃりんちゃりん。投げ込まれるお金がどんどん増えた。

    みんな盛り上がってお祭りみたいな騒ぎになっている。
    男も女も歌ったり踊ったり喧嘩したりしてにぎやかだった。
    女の人はみんな露出たっぷりだった。全裸の人やほとんど全裸の人もたくさんいた。みんな、綺麗で素敵だった。
    男の人は、みんなきちんと服を着ていて裸の人はいなかった。みんな、りりしくって格好よかった。
    ここでは、女だけ裸。
    もうあたしはそれを不自然と思わなかった。
    マジ・ワールドはそれが当たり前の世界なんだ。

    ふと気がつくと、離れたところから浩二くんがあたしを見ていて、あたしが笑いかけると視線をそらせた。
    あたしは勇気を出して走っていって、「ね、歌おっ」って誘った。
    もう自分の胸を隠したりしなかった。
    浩二くんも笑って「おうっ」って言ってくれた。あたしも、浩二くんも、少し顔が赤かった。
    その後、あたしは浩二くんと歌って踊った。

    続き




    マジ・ワールドの冒険!(2/2)

    6.
    クエストの最終ステージ。
    あたし達はダークビル城の地下のダンジョンの、そのまた最深部にいる。
    立ちはだかる巨大なグランド・ドラゴンが口から炎を吐いた。
    「皆で行くぞ!」
    浩二くんが叫び、『ひかりのソード』を振り上げて正面から攻撃した。
    昭文くんが『大精霊の笛』を吹いてドラゴンの苦手な氷の雨を降らせる。
    非戦闘員のすみれちゃんだって、ドラゴンのパワーの源である『魂の井戸』に『聖なる木の板』で蓋をして一生懸命押さえてくれている。
    そしてあたしは、一番重要な役目。
    『天使の羽』で飛びながら、ドラゴンの心臓に『真綿の針』を打ち込むのだ。
    ドラゴンを倒したら、クエストの最終使命『マジョーリの泉』を復活させて、マジ・ワールドに平和を取り戻すことができる。

    あたしは慎重に飛行してドラゴンに近づいた。
    大丈夫、気づかれてない。・・と、突然ドラゴンがこちらを向いた。
    いけない!!
    摂氏千度もあるドラゴンの息を浴びて『天使の羽』が消えてしまった。
    あーん、10万ギョギョもしたのにぃ~。
    あたしはドラゴンの口に向かって落下する。
    「助けて!!」
    あたしの叫び声に、浩二くんがすかさず『勇者のナイフ』を投げ、それは見事にドラゴンの目に刺さった。
    ドラゴンが顔をそむける間に、あたしは着地してその場を逃れた。

    BOOOM!
    あたしの衣装が振動して、Tバックのパンツが消えた。
    あらら。
    あたしはもう両足のサンダルをなくしていて、『僧侶』の帽子以外はパンツとスカートだけだった。
    次に消えるのはスカートだと思ってたんだけど。

    「きゃぁっ、助けて!」
    すみれちゃんの悲鳴が聞こえて、昭文くんがドラゴンの尻尾の下じきになったすみれちゃんを助けた。
    BOOOM!
    『踊り子』の銀色のブラが消えて、すみれちゃんはバタフライのパンツだけになった。

    あたしは浩二くんの横に駆け寄る。
    「さっきはありがとうっ」
    「加奈っ、大丈夫か?」
    「平気!!」
    そこへドラゴンの吐く炎が横なぎに襲いかかった。
    浩二くんは地面に伏せて、あたしは高くジャンプしてそれを避けた。
    「旋風大開脚!!」
    空中で華麗に回転するあたしのスカートが花のように広がった。
    「うじぇっ」
    下から見上げる浩二くんが、おかしな声を出した。
    何か変なモノでも見たような声だった。

    動きの鈍った浩二くんにドラゴンが壊した壁の破片が降りそそいだ。
    「ぐ・・、済まない。助けてくれるか」動けなくなった浩二くんに頼まれた。
    あたしは『プラチナ・ワンド』を振って、『大地の呪文』を唱えた。
    浩二くんの上に積もった破片が全部ふわりと浮かび上がって、ドラゴンの顔に石つぶてのように飛んでいった。
    ドラゴンがひるんだ隙に浩二くんを下がらせる。
    BOOOM!
    浩二くんの鎧の肩パーツが消えた。
    もうっ。これだけ?
    あたしなんて、もうノーパンなんだぞぉ!

    それにしても、さすがにラスボスのドラゴンは難攻不落ね。
    どうやったら攻撃がヒットするんだろう。
    助けるときは百発百中なのに。
    ・・助けるとき?
    あ、そうか。

    7.
    「これは、手ごわいな」浩二くんが言った。
    「攻めあぐねますね」昭文くんも同意する。
    「あたし、もう次はないよぉ」すみれちゃんが言った。
    すみれちゃんは小さなバタフライを穿いているだけだった。
    もう一回ピンチになって助けられたら、バタフライが消えてすみれちゃんはゲームオーバーだ。
    「・・作戦があるの」あたしは言った。
    「あたしが囮(おとり)になる」
    「え」あたし以外の3人が同時に驚いた。
    「何かあったらどうするんだっ。加奈だって、もうあと1回しか助けられないんだぞ」浩二くんが怒鳴るように言う。
    「その1回を生かすの」
    「そうか。なるほど、考えましたね」昭文くんは気がついたみたいだった。
    「どういうことだ?」浩二くんが聞く。
    「いや、もし最初から気づいていたら、もっと楽にここまで来れたかもしれません」

    浩二くんは作戦を理解すると、自分が囮になると主張した。
    「ダメよ」あたしは反対する。
    「どうして? 危ない目に会うのは俺のほうが」
    「浩二くんと昭文くんのほうがパワーがあるわ。・・それに」
    「それに?」
    「助けてもらったら、このスカートが消えて、あたしは着るものがなくなるでしょ」
    「うん、そうだけど」
    「女の子は裸! それがマジ・ワールドなのよ!!」
    「ああっ」「おお!」「まぁ!」
    後で昭文くんが教えてくれた。そのとき、あたしの背中に後光が射したと。

    8.
    あたし達はドラゴンへのアタックを再開した。
    さっきと違うのは、先頭に出るのがあたしで、浩二くんと昭文くんは後方からの攻撃だってこと。
    ドラゴンはあたしが女だからといって容赦はしない。
    あたしはドラゴンの炎を必死にくぐり抜けて、ドラゴンの間近まで進んだ。
    ドラゴンの前足がさっと動いてあたしの体を掴んだ。
    あぁっ!!!
    もう逃げられない。ドラゴンはあたしを握って高く持ち上げ、勝ち誇ったように吼えた。
    これって、絵に描いたようなヒロインのピンチよね?
    あたしは大きく息を吸うと、渾身の力で叫んだ。
    「きゃぁ~っ。助けてぇ~!!!」
    真正面に浩二くんと昭文くんが並んで構えているのが見えた。
    浩二くんのサーベル! 昭文くんのマンドリン!
    あぁ、男の子って、こんなに頼もしく見えるんだ。
    目もくらむような光と烈風が襲い掛かり、それはドラゴンの心臓を貫いた!!

    ドラゴンが倒れて、あたしは地面に投げ出された。
    「やったぜ!!」「倒しましたよ!!」「加奈ちゃーん!!」
    浩二くんと昭文くん、そしてすみれちゃんが走ってきた。
    「加奈!」
    浩二くんがあたしを抱き抱えた。
    BOOOM!
    絶妙のタイミングであたしのスカートが振動して、そして消えた。
    あたしは浩二くんの腕の中で全裸になった。

    9.
    ドラゴンを倒して『マジョーリの泉』を復活させたあたし達は、マジ・ワールドの伝説の勇者になった。
    4人は王宮に招かれて、王様とお后様から祝福を受けた。
    お城のバルコニーに並んで立ち、何万人もの人々の喝采を受けた。
    浩二くんは『戦士』の鎧をつけた姿で、昭文くんは『吟遊詩人』のマントを羽織った姿。
    すみれちゃんは『踊り子』のバタフライを穿いて、あとは裸。
    そしてあたしは『僧侶』の帽子をかぶっただけの、全裸だった。

    すみれちゃんが自分のバタフライのパンツを見て、それからちょっと羨ましそうにあたしを見た。
    公式の場では職業の印を外すことは許されないから、すみれちゃんはこれ以上脱げないのだ。
    うふふ。あたしは初めてすみれちゃんに勝ったと思った。

    さあ、いよいよフィナーレ。
    皆の前で、浩二くんがあたしの肩を抱いた。
    服を着た浩二くんと、全裸のあたし。二人はそのままキスをした。
    隣では、昭文くんもすみれちゃんを抱いてキスをしている。
    嵐のような拍手と歓声があたし達を包んだ。

    あれ?
    あたし、なんだか下半身がうずうずしてる。
    胸がきゅぅんとなって、すごくえっちな気分だよ。
    仮想現実なのに、こんな感覚まで再現してくれるの?
    マジ・ワールドって、いったい・・。

    10.
    気がつくとそこは狭い部屋で、あたし達は仮想体感装置の椅子に座っていた。
    「お帰りなさい~」受付のお姉さんがヘルメットを外してくれた。
    久しぶりの現実の世界。
    「あの、・・俺たち、どれくらいここにいたんですか?」浩二くんが聞いた。
    「はい。規定の通り、プレイ時間はちょうど60分でしたよ」
    「60分!?」全員が驚いた。
    あたし達、マジ・ワールドで3ヶ月は過ごしたよね?

    あたしは起き上がって、自分がゲームの衣装を着ているのに気づいた。
    『僧侶』の帽子にケープとスカート、それにブラとパンツ。
    ゲームの前は恥ずかしくてたまらなかった衣装。
    でも、マジ・ワールドでは全裸が当たり前だったから、こんな衣装でも着ているほうが不思議な感覚だった。
    何も着ない世界。ほんと、仮想現実じゃないとできない体験だったな。
    えへへ。あたしの本当の裸、浩二くんに見せるのはいつのことかしら。

    隣の浩二くんと目が合った。
    「浩二くん、お疲れ様!」
    「お、おう。お疲れ、加奈」
    あたしを見る浩二くんの顔が赤い。
    「どうしたの?」
    「あ、その。・・こんなこと聞いて、怒らないでほしいんだけど」
    「うん。いいよ?」
    「お前、左の胸にほくろ、あるか?」
    「ほくろ?」
    ???
    あ~っ。思い出したっ。あたし、マジ・ワールドで、乳首の下にほくろ。
    「ちょっと待って!」
    あたしは慌てて浩二くんに背中を向けて、『僧侶』のブラをずらして自分で確かめた。
    確かにほくろがあった。場所も形も大きさも、全部同じだった。
    「あああぁぁっ。あるぅ!!」
    「やっぱり」
    「こ、浩二くん、見たのね? 見たのね? あ、あたしの胸・・」
    「あ・・、でも、あれは仮想だったんだから」
    「仮想でも、本物とそっくり同じじゃないのっ」見られちゃった。あたしのおっぱい!
    「あっ!!・・・そうだぁ」あたしは、もうひとつの重大な事実に思い当たった。
    「胸だけじゃないっ、・・し、下も? ・・浩二くん?」
    「うん。・・お前、俺の前でジャンプとかしてたし、それに、ドラゴン倒した後はずっと何も着ないで過ごしてただろ」
    「ひぇ~!!!」
    乙女の一番大切な場所! みんなに見られたよぉ!!

    「加奈ちゃん、気にすること、ないよ」すみれちゃんが慰めてくれた。
    「とっても可愛かったんだから」
    「そうです。綺麗でしたよ」昭文くんも一緒に言ってくれた。
    うぅ。ほめてくれるのは嬉しいけどさ・・。

    「加奈」
    「えーんっ、何よ」
    あたしは突然、浩二くんに抱きしめられた。
    「そんなに恥ずかしいんだったら、あのときと同じにしたら恥ずかしくないだろ?」
    え?
    浩二くんの顔が近づいて、あたしにキスをした。
    あたしはびっくりして、浩二くんにされるままになった。
    なんだか、下半身がうずうずしてるみたいだった。
    胸がきゅぅんとなって、すごくえっちな気分だった。
    もうマジ・ワールドじゃないよね? ここ、現実世界だよね?

    すみれちゃんと昭文くんは、あたし達をあきれた様子で見ていたけど、そのうち二人で顔を見合わせて笑い、そしてあたし達に負けずに抱き合って、キスをした。

    「・・よろしいですか? そろそろお着替えを」
    部屋に戻ってきたお姉さんが、あたし達を見て固まった。
    二組のカップルが抱き合ってキスをしていた。バーチャル・クエストの衣装を着た男の子と女の子。
    女の子の衣装は、露出たっぷり、サービス満点。
    でもね、本当は何も着なくてもよかったんだ。
    だってお約束でしょ? こういうとき、女の子は裸にされるものだって。



    今回のテーマはCMNFです。緊縛もイリュージョンもありません(笑)。
    (CMNFって何?という方には、とりあえず、こちらの解説 をどうぞ)
    作者は昔からCMNFに興味があり、小説/SSの中でもそれっぽいシチュエーションはやってきましたが、これは初めて正面からCMNFを取り上げたものです。

    舞台はどこかで見たようなRPGの世界。
    そんな格好でどうやって戦闘するの?、というお約束の高露出コスチュームを着ることになった女の子が主人公です。
    RPGの設定や小道具などは、ただ彼女を裸に剥くためのネタですから^^、細かい突っ込みはしないで下さいね。

    作者はこのお話を楽しみながら書きましたが、もしCMNF好きの方がこれをお読みになれば、甘すぎる、女の子の恥辱感が足りない、もっとエロく、など思われるかもしれません。
    今後の参考にしたいので、ご意見ご感想を聞かせていただければ幸いです。
    なお『いつか感じたキモチ』のメインテーマは、女性の拘束であることはこれからも変わりません。
    CMNFなどのテーマもたまにはやります、という程度に捉えていただければ幸いです。

    最後に、最近しばしば訪問させていただくブログサイト、なす茶ブログ さんを紹介させていただきます。
    CMNF系ゲーム製作を中心に活動されていますが、ときどき書かれるSSと、ブログ主宰のあなすたしあさんの想いが素直に綴られた『CMNF羞恥』なネタも素敵です。
    82475 的には「全裸身体測定」のSSと「男女ヌードポーズ集」の記事がお勧め!
    (ブログ内の記事に直リンクはしませんので、興味のある方はブログを遡って探してみてください)

    ありがとうございました。




    サヨの朗読(1/2)

    1.
    初めてナリタに降り立ったとき、なんて蒸し暑い国なのかと思った。
    わたしにとって、もともと日本は特に思い入れのある国ではなかった。
    通っていた大学の交流協定先で、たまたま短期留学可能な一番遠い国が日本というだけだった。
    わたしは、ともかく遠くへ行きたかった。
    見渡す限りトウモロコシ畑の広がるイリノイとは違う、遠くへ行きたかった。
    共和党の熱心な支持者で、キリスト教原理主義で、男の子とのセックスどころかキスにも眉をひそめるパパとママから少しでも離れたい、という思いが大きかったからかもしれない。

    日本で過ごした1年間はわたしに大きな影響を与えた。
    わたしは日本語と日本のサブカルチャーと貧乏生活の方法を学んで帰国した。
    両親の薦める地元の高校の教師になるという気持ちはまったくなくなっていた。
    わたしは大学を卒業するとバックパックを背負って世界中を1年半放浪し、そして日本のALT(Assistant Language Teacher = 外国語指導助手)制度に応募して再び日本にやってきた。
    S県の地方都市の中学校に赴任してきたとき、わたしは24才の誕生日を過ぎたところだった。

    2.
    「アメリカから来ました、皆さんと一緒に勉強する、キャロリン・カーペンターです。カーペンターだけど、大工じゃありません」
    あれ、誰も笑わないなぁ。
    こほん。英語教諭のミズ・マザキ・レイコが咳払いして「では、授業を始めます」と言った。
    日本の英語の授業は、Q&Aもディスカッションもなくて、退屈だった。
    ALTのわたしはテープレコーダーみたいに英語のセンテンスを喋ってあげるだけだ。
    こんな授業で生徒に実用的な英語のスキルがつくとは思えなかった。
    不満を感じたけど正教諭の授業の進め方にALTは口をはさめない。

    せめて生徒とは積極的に交流したいと思って、わたしはクラブ活動への参加を申し出た。
    レイコに話をすると、彼女はこの中学校の女子ソフトボール部の顧問だという。
    「わぉ、ソフトボール!」わたしは叫んだ。
    わたしは高校まで地元のソフトボールチームの4番でピッチャーだった。
    カウンティ・リーグでは毎年優勝していたし、スプリングフィールドまで行って州のベスト8まで勝ち進んだこともある。
    「ぜひ、練習に参加させてくださいっ。ミズ・マザキ!」
    こほん。レイコは咳払いして言った。
    「私はマザキじゃなくて、正木。いいこと? でもクラブの参加はOKよ」

    わたしは毎週火曜と金曜、ソフトボール部の練習に出るようになった。
    チームの女の子たちとはすぐに仲良くなった。みんな明るく元気でよく笑う子たちだった。
    いつの間にかわたしはコーチになって、彼女たちの指導をするようになっていた。
    それはALTの仕事よりもずっと楽しかった。

    3.
    ノックしたボールが1個、フィールドから逸れて転がっていった。
    わたしが走って取りに行くと、通りがかった女子生徒が拾って渡してくれた。
    度の強い眼鏡をかけた子だった。
    「Thank You ! ありがとうっ」
    「いえ」
    わたしがお礼を言うと、その子は短く返事をして、それからくるりと向きを変えて歩いていった。
    あの子は、確か、わたしの担当するクラスにいる子ね。
    でも、そのときには名前を思い出せなかった。
    それがサヨとわたしが最初に言葉を交わした瞬間だった。

    4.
    ある日、わたしはレイコからソフトボールの練習も度を過ぎないように注意された。
    わたしは自分の時間を持ち出して週末の練習にまで参加するようになっていたのだ。
    「それと、練習中のあなたの服装なんだけど・・」
    わたしはいつも短いジョギングパンツとおへそが見えるタンクトップかチューブトップを着てフィールドに出ていた。
    近所の住民の目もあることだし、そもそも思春期の生徒の前で挑発的なスタイルをすべきでないと言われた。
    「駄目ですか? 動き易いし、裸じゃないですけど」
    「それはそうなんだけど、気にする人がいるのよ」
    どうもレイコ自身が問題と思っているのではなくて、誰かから間接的に注意されたらしい。
    「わかりました。練習は、やりすぎないよう注意します。それから、コスチュームも気をつけます」
    わたしは、いつまでに何をどうするのか具体的に約束しなかったけど、レイコはそれで許してくれた。
    アメリカだったら答になっていないと怒られるところだ。
    でも、レイコはわたしに注意をして、わたしも改善すると答えたのだから、これでレイコの顔は立つのだ。
    とても日本的なアルゴリズム。・・オーケー、わたしは日本で十分やっていけるわ。

    実際、わたしはコスチュームを変えるつもりはぜんぜんなかった。
    こんなに湿度が高くて暑い国では、少しでも涼しくしないと耐えられない。
    シューズとキャップはちゃんとつけているんだから、問題ないはずよ。
    それに、告白すると、このときわたしはパパとママのお小言を思い出していた。
    わたしは家にいた頃、薄着ですごしていてよく注意されたのだ。・・女の子がそんなに慎みのない格好をするものじゃありません!
    何よ、レイコまで。この程度は普通だわ。
    女の子はこれくらい露出した方がキュートでしょ。それで人に見られるのも、悪い気分じゃないんだし。

    5.
    そのとき、いったい何の目的で図書室にいたのか、よく思い出せない。
    ただ、わたしは学校の図書室で何かの本を探していたのだ。
    日本語はヒラガナとカタカナは問題ないけど、漢字は簡単な文字しか読めない。
    だからわたしにとって、この図書室にある書籍はほとんどが謎だった。
    それでも、縦書きで印刷された本そのものが面白くて、適当に書架から抜き出してはぱらぱらと眺めていた。

    その本の表紙は日本語といっしょにフランス語でもタイトルが書かれていた。
    『 Histoire d'O 』 ・・O嬢の物語。
    驚いた。日本ではジュニア・ハイスクールのライブラリに『O嬢』を置いているの?
    『O嬢』は大学のドミトリにいた頃に読んでいた。
    家ではもちろんこんな本は絶対に許してくれない。
    だからわたしは、大学に進んでから、セックス・暴力・同性愛、あらゆる背徳的な本をむさぼるように読んだ。
    そしてルームメイトが不在の夜を狙って、鞭打たれるO嬢の気分になってオナニーにふけったのだった。
    あの頃の感情がよみがえってきた。
    理不尽なまでの責め苦を受ける女性の気持ち。そう、わたしは自由を奪われて責められることに憧れていたのだ。

    その本を開くと、挿絵もないし、漢字の多い日本語はぜんぜん分からなかった。
    これを読むのは無理ね。
    はぁ~。ため息をする。
    「・・それは、ポーリーヌ・レアージュの『O嬢の物語』です」
    いきなり後ろから声をかけられて振り向くと、眼鏡をかけた女子生徒がいた。
    あのときボールを拾ってくれた子だ。
    「あ、ありがとう。あなたは・・?」
    「あたし、図書委員で、福本沙代といいます」
    思い出した。2年生の生徒だった。
    授業中に自分から手を上げたり発言することはほとんどなくって、いつも黙って前を見ているだけの子だった。
    成績は、わりと優秀だったかしら。
    「この本を知っていますか?」サヨが聞いた。
    「これは、女性を torture、えーっと、日本語は・・」
    「拷問」
    「そう、ゴーモンするシーンがある小説ですか?」
    「そうです」
    ああ、やっぱり。
    「この本、わたしが勝手に置いたんです」彼女は秘密を明かすように話してくれた。
    「ええ?」
    「『O嬢』なんて学校の図書室に置いてくれるはずないでしょ? だから自分で持ってきて、誰が最初に手に取ってくれるかなって、ずっと注意してました」
    「福本サン・・」
    「沙代でいいです」
    「じゃぁ、サヨ。あなたは、こんな小説に興味があるの?」
    サヨは黙ってわたしを見て、微笑んで、逆に聞いた。
    「先生は?」
    どう答えよう? わたしも好きって、返事していいのかな?
    目をむいて驚くパパとママの顔が浮かんだ。
    「YES。アメリカにいたときに英語で読んだわ」
    うふふ。サヨが声に出して笑った。
    「なら、先生とあたし、仲間です。・・あの、この本、借りますか?」
    胸がどきどきした。
    「ありがとう。でも残念だけど、この本は漢字が難しいから読めないわ」
    「そうですか・・・、じゃあ」
    サヨは少し考えて言った。
    「あたし、朗読しましょうか。『O嬢の物語』を」

    6.
    『O嬢』を朗読するなんて、いったいどうしてサヨはそんなことを言い出したんだろう。
    そして、わたしはどうしてその申し出を受け入れたんだろう。
    二人とも普通の気分でなかったのかもしれないと思う。
    どちらにしても、わたしはこの稀代のポルノ・ノベルの日本語訳を、14才の女子中学生に朗読してもらうことになったのだ。
    サヨとわたしは誰もいない図書室のテーブルに並んで座った。
    「割と長い小説だったと思うわ」
    「ええ、300ページくらいあるから全部はとても無理。だから、最初の部分だけ読みます」

    [朗読あらすじ]
    女性写真家のOは恋人のルネに行き先を知らされずに連れ出される。
    ロワッシーの館に着くと、Oは一切の運命を屋敷の人々に託すように命じられる。
    首輪をつけられ、後ろ手に縛られ、一切言葉を発することを禁止されたOは、入浴して体を磨かれて、美しく化粧を施される。
    そして、男たちにあらゆる陵辱と鞭打ちを受けるのだった。
    すべてがルネの依頼のもとになされたと知って、Oはルネに支配されていることを喜んだ。


    気がつくと、すっかり夕方になっていて、校内には帰宅を促す音楽が流れていた。
    サヨの朗読はとても上手で、わたしは自分の胸に手をやって、湧き上がる感情を抑えていた。
    『O嬢』は、日本語でも十分にエロチックで刺激的だった。
    「どうでしたか?」サヨがまじめな顔で聞いた。
    「よ、よく分かりました。大学時代に読んだときの気持ちを思い出したわ」
    わたしの顔、きっと赤くなっているわ。
    サヨが突然手を伸ばして、わたしの手を握った。
    「じゃあ、これから毎週、読みましょうか?」
    「いいの?」
    サヨの顔も赤く見えたのは窓から差し込む夕日のせいだろうか。

    7.
    次の週、図書室に来るとサヨが一人だけで待っていた。
    「・・あの、喜んでもらえるかな、と思って」胸に紙袋を抱いている。
    「何?」
    「キャロリン先生、トイレは行かなくてもいい?」
    「大丈夫ですよ?」
    「そう、じゃ、こっちへ」
    前と同じテーブルの前に座らされた。
    サヨはわたしの背に立つと、わたしの手を取って背中にまわさせた。
    その手首に固いものが巻きついた。
    かちゃり。小さな金属音がした。
    え?
    「ごめんなさい、手錠をつけたわ」
    「テジョウ?」
    「ハンドカフ」
    !!
    わたしの手は、椅子の背もたれの後ろに固定されていた。
    サヨは図書室の入口の扉に『CLOSED』のパネルをかけて中から鍵をかけた。
    「何もしないから安心して、キャロリン。ただ、それで朗読を聴いてもらうだけ」
    その言葉を聞くだけでわたしの心臓の鼓動が跳ね上がった。
    「先週朗読したとき、もしかしてキャロリンって、こういうことをされて喜ぶ人かなって思ったから」
    「サ、サヨ!」
    「ビンゴだった?」
    「あぁっ」
    「ねぇ、こういうときって、オーマイガっとか言わないの?」
    わたしは、自分が知っている日本語の罵倒表現を初めて使った。
    「ばか」

    [朗読あらすじ]
    ロワッシーの館から戻ったOは、ルネとステファン卿から共有される身となった。
    Oは、ステファン卿に天井から鎖で吊るされ、キスをされ、そして激しく鞭打たれる。
    次第にルネよりもステファン卿を愛し、服従を誓うO。


    朗読の後、サヨは手錠を外してくれたけど、わたしはしばらく立てなかった。
    わたしは、鞭打たれて血を流していて、ステファン卿にぎゅっと抱きしめてもらっていた。
    「キャロリン先生、・・マゾ」
    サヨがぽつりと言って笑う。
    「もう、Oh My God ・・・」
    「やった、キャロリン、オーマイガって言った」
    「こらぁ!」
    わたしは、ようやく立ち上がって笑いながら握り締めた手をサヨに振り上げた。
    サヨはその手を押さえて、逆にわたしに近づいてきた。
    二人の唇が合わさった。
    年下の女子中学生からされるキスは、男の子と初めてしたキスよりも甘い味がした。
    「あたしね、いつもソフトボールの練習に来てるキャロリンをこの窓から見てたの」
    サヨが言った。
    「来週は、そのときの服装で来てくれますか」
    「タンクトップとショートパンツで?」
    「ええ。キャロリンの体、手足がすらっと長くて、すごく綺麗だから」
    「そう? ありがとう」
    「それで、下着はつけないで、来てね」
    Oh, My God.
    わたしは心の中で唱えた。
    これは、サヨの命令だ。自分で理解していた。わたしは、サヨに逆らえない。
    Oh, My God.
    もう一度、唱えた。

    8.
    サヨの朗読は毎週の習慣になった。
    わたしは、タンクトップとショートパンツの姿で、トイレで下着を脱いでから、図書室に行く。
    サヨはいつもわたしを椅子に座らせて後ろ手に拘束すると、後ろからわたしを抱きしめた。
    最初はおずおずと、やがて大胆にタンクトップの中に手を入れてわたしの乳房を揉むようになった。
    「あぅっ」
    わたしが体を震わせると、サヨはわたしの両足の間からショートパンツの中に指を差し入れ、そこが濡れていることを確認した。
    わたしは、朗読の前に必ずスイッチを入れられるのだった。
    サヨの朗読と拘束に興奮する、マゾのスイッチを。

    9.
    「キャロリン、この頃キレイ!」
    ソフトボール部で言われたのは、期末テスト前の最後の練習の後だった。
    「え、わたし? どうして?」
    「よくわからないけど、肌がつやつやしてて、すごく色っぽい!」
    回りで他の女の子たちもうんうんとうなずいた。
    「キャロリンって、ALTとソフトボール以外のときは何やってるの?」
    「毎朝、ジョギングしてるよ。あとは読書してる」
    「えー、それだけ?」
    「それだけだよ」
    「キャロリン、彼氏いないのー?」
    「いないよー」
    「あたしたち、キャロリンに彼氏できて、絶対いいことしてるんだ、って思ってたぁ」
    「えー?、いいことって何ですか」
    きゃはは。女の子たちが一斉に笑い出した。
    「もう、分からないから教えて」
    「わからないのー? AとBとCだよぉ」
    きゃはは。
    「何ですか、それは・・。あ、そうか」
    「キャロリン、知ってるの?」
    「はい。ABCって、ボーイフレンドとガールフレンドの関係でしょ?」
    きゃあっ。
    「そーです、そーですっ。Aは?」
    「ええっと、握手」
    きゃはは。違うよー。
    「違うの? じゃあBはベントーをいっしょに食べる、じゃないの?」
    女の子たちは笑いこけてしまって、もう普通に受け答えしてくれなかった。

    後でサヨにABCの意味を聞いて、わたしは一人で恥ずかしがった。
    わたしはサヨと、もうAとBは済ませているのだった。

    続き




    サヨの朗読(2/2)

    10.
    夏休みになって、わたしはサヨの家に招かれた。
    彼女の家は日本の住宅としては、とても広くて立派だった。
    屋根に煙突がなくて、リビングにダミーの暖炉があるのは奇異だったけど。
    「家族は出かけてて誰もいないわ」
    サヨはたった一人で出迎えてくれた。
    彼女は夏休み中なのに制服を着ていた。
    「キャロリンと会うときは、制服を着ることにしたの」
    「どうして?」
    「あたしが制服を着ているときは、キャロリンはあたしの『O』になるのよ」
    「!」
    わたしはたちまち、どきどきして息が苦しくなる。
    「キャロリン、反応が素直で、とっても可愛い」
    「もう、サヨ」
    「両手を後ろにまわして」
    「あぁ・・」

    [朗読あらすじ]
    Oはステファン卿の所有物であることを示す印をつけることを承認し、アンヌ・マリーという女性に預けられた。
    女の体をよく知るアンヌはOの太ももの内側を愛撫して「ここは女の体の中で一番柔らかいところよ」と言いながら、Oに激しく鞭を打つのだった。
    やがてOの女性器には穴が開けられて、ステファン卿の名前を刻印したリングが吊るされる。


    朗読の後、わたしは服をすべて脱いで裸にされた。
    サヨはわたしの体を隅々まで採寸した。
    彼女に触ってもらうだけで、私は再びエクスタシーを感じて溶けそうになる。
    「できあがったらキャロリンにプレゼントするわ」
    「何をプレゼントしてくれるの?」
    「Oと同じ、奴隷のリング」
    「ええ!?」
    「うそよ。いくらなんでも、あたしはキャロリンにピアスできないわ」
    「もう、・・本当かと思った」
    わたしは自分のラビアに金属のリングが通されるところを想像した。
    その重さをイメージする。
    ああ、駄目だ、もう。わたし一人では我慢できない。
    「サヨ、あなたの服も脱がせていい?」
    「・・うん」
    わたしは、サヨの制服と下着を脱がせた。サヨも脱ぐのを手伝ってくれた。
    生まれたままの姿になったサヨがわたしを見て恥ずかしそうに微笑んだ。
    何て可愛いんだろう。
    そのまま、わたしたちは抱き合ってキスをした。
    互いの体を触り合い、求め合った。

    11.
    次の週、サヨはわたしをロープで後ろ手に縛った。
    「初めて縛るから、もし動けても動けないふりをするのよ」
    ああ、これは日本のキンバクだ。
    「本当に動けないよ。いつ、こんなテクニックを練習したの?」
    「キャロリンを綺麗に縛りたかったから、自分を縛って練習したの」
    「サヨ・・」
    サヨはわたしを縛るロープの隙間から指を入れて、わたしを刺激する。
    「あぁん」
    「ねえ、どんな気分?」
    「恥ずかしい。・・でも気持ち、いい」
    「キャロリン、やっぱり変態だー」
    「もうっ、真面目に答えたのにっ」

    [朗読あらすじ]
    股間にリングを下げたOは、それだけは許されず、永久に残る印をつけられることになる。
    Oは柱を抱くようにきつく縛り付けられ、そして尻に真っ赤になった鉄コテが押し付けられた。
    肉が焼けて、ステファン卿のイニシャルが深く刻み込まれた。


    ひいっ。
    わたしは自分のお尻に押し付けられた焼印を意識して、縛られたままぶるぶる悶えた。
    本当に焼けるような痛みを感じたと思った。
    朗読の後、サヨはわたしの体を使っていろいろな縛り方の練習をした。
    わたしはサヨに縛られることが大好きになった。

    12.
    レイコがソフトボール部の夏休みの練習を見に来た。
    わたしはますます薄着になっていて、お尻が半分見えるカットジーンズとビキニのブラをつけただけでバットを振っていた。
    レイコはそれを見て苦笑したけど、露出が大き過ぎると注意はしなかった。
    わたしも生徒たちも、真っ黒になってフィールドを走り回っていた。
    「みんなうまくなったわね。秋季戦はいいところまでいくと思うわ」
    そう言ってほめてもらえた。

    13.
    サヨのパパとママは二人とも仕事で忙しくて週末でも留守のことが多いという。
    それに比べて自分の家では日曜日の朝は必ず教会に行き、その後家族でいっしょに過ごすのが当たり前だった。
    わたしは少しだけ自分の両親に感謝した。

    「プレゼントが届いたわ。着せてあげるから、脱いで」
    レザーのボンデージスーツだった。
    同じレザーのTバックショーツ、ロンググローブ、ガーターベルトで繋がったロングブーツ、首輪もちゃんとついている。
    「キャロリンの体にぴったり合わせたスーツだからね」
    「サヨ、これ、高いんじゃない」
    「キャロリンが大好きだから受け取って。・・それにあたし、お金だってきっとキャロリンよりたくさん持ってるわよ」
    「・・」
    複雑な気分だったけど、わたしは10才年下の女子中学生から、このセクシーなプレゼントを受け取ることにした。
    サヨがボンデージを着せてくれた。
    「さすがにナイスバディね。よく似合ってるわ、キャロリン」
    「サヨ、あまり見ないでほしい・・」
    ソフトボールのときはいつも目いっぱい露出して平気なのに、今はサヨ一人だけに見られることが恥ずかしかった。
    「さあ、縛ってあげる。朗読は今日で最後だからね。ぎちぎちになって聴いてもらうわ」
    「あぁん・・」
    わたしは、もうそれだけでとろとろになっていた。
    後ろにまわした手首と胸の上下にロープが巻きつく。
    バストの間やお腹や腰にもロープが絡みつき、わたしの体を締め上げた。
    サヨは短い間に本当に上手に縛れるようになっていた。
    はうっ。
    両足の間にロープが通って、きゅっと絞られた。
    「きっと、この中、びしょびしょになってるんでしょうね」
    「あ、言わないで。サヨ・・」

    ボンデージ! イラスト:ぱるさん

    [朗読あらすじ]
    Oは両足の間で揺れる金属の輪と、焼印を入れられた尻がよく見えるようにしていた。
    頭にはふくろうの仮面をかぶっている。これから奴隷の姿をパーティで披露されるのだ。
    ステファン卿が股間のリングに繋いだ鎖を引いた。
    Oは晴れがましい気持ちで、卿について歩み出ていった。


    サヨは『O嬢の物語』の本を閉じた。
    全身を縛られたわたしは、ソファにぐったりと身をまかせて喘いでいた。
    わたしはサヨの奴隷だった。サヨの思いのままにされる奴隷だった。
    サヨが手にしたロープをくいと引くと、ロープが股間を刺激してわたしは身を仰け反らせる。
    「あおっ!!」
    「ねえ、キャロリン。提案があるんだけど」
    サヨが言った。
    「朗読は終わったけど、これからもあたしの奴隷を続けない?」
    「はぁ、はぁ・・」
    「あたし、もっと縛り方練習するから。キャロリンをもっと綺麗に縛るから」
    「・・」
    「キャロリン?」
    「・・サヨ、ずるい。わたし、絶対にNOって言えないようにして、こんなこと」
    「いや?」
    わたしは首を横にぶんぶん振った。
    サヨを見つめる目から涙がぼろぼろこぼれているのが自分でもわかった。
    「もう、あたしよりずっと大人のくせに、こんなに泣いて。このアメリカ人!」
    「アメリカ人だって、泣くの!」
    サヨはわたしの目の下をハンカチでやさしく拭いてくれた。
    「あ、サヨ・・」
    「はい」
    「ドレイにして。わたしをサヨのドレイにして。・・お願いします」
    ああ、わたしはサヨのモノだ。これからもずっとサヨのモノだ。
    「よーし」
    サヨはにっこり笑った。
    「じゃ、ここにうつぶせに寝て」
    「はい」
    わたしは縄で縛られた体を床に横たえた。Tバックのお尻をサヨが撫でた。
    「?」
    「今からキャロリンのお尻に奴隷の印を刻んであげる」
    ま、まさか。
    わたしは恐怖に身を固くした。
    「動かないで」
    おお!! わたしは目をぎゅっと閉じて、きたるべき痛みに備える。
    お尻に冷たいモノを感じた。キュ、キュ。
    「できた。起きて見ていいよ」
    わたしは体を起こし、身を捩じらせて自分のお尻を見る。
    そこには、赤いマジックで『SAYO』とサインされていた。
    「サヨっ。これがドレイのマークだっていうの!?」
    わたしは縛られたままサヨに襲いかかる。
    二人はその場で床に転がりながら笑い続けた。

    14.
    2学期になって、ソフトボール部は地区の秋季トーナメント戦で優勝した。
    わたしは部員たちと抱き合って喜んだ。
    大会中でもわたしはやはりタンクトップとショートパンツを着ていた。
    この大会でわたしの存在はすっかり有名になったようだった。

    「サヨ! 校長先生から正式にソフトボール部のコーチの辞令をもらったよ!」
    わたしは図書室に飛び込むとサヨに報告した。
    「よかったねっ、キャロリン」
    図書室でサヨは相変わらず一人きりだった。
    「ご褒美が欲しい?」
    「えへへ、お願いします」
    「じゃ、こっちへ」
    わたしは書架の通路で、その端の部分を抱え込むような姿勢をとらされた。
    かちゃり。
    手錠が掛かり、棚の中に差し入れた両手が反対側で連結された。
    これでわたしは、もう逃れることができない。
    サヨは図書室の入口の扉に『CLOSED』のパネルを掛けて中から鍵をかけた。
    戻ってきて、わたしのショートパンツを下に降ろす。
    わたしは下着をつけていなかった。
    お尻に赤いマジックで書いた『SAYO』の文字が現れる。
    サヨが書いた奴隷の印だ。少しでも薄くなってくると、サヨはその上からなぞって書き直すのだった。
    「ものさしがいい? 手がいい?」
    「サヨの手でお願い」
    「わかったわ」
    サヨは右手を伸ばして振りかぶると、わたしのお尻を手のひらで叩いた。
    ぺしり。ぺしり。
    それは奴隷のわたしを打ち据える儀式なのだ。
    あまり痛くなかったけど、わたしが奴隷であることをわたしに思い知らせるための行為なのだ。
    あぁ、ああん!
    わたしはサヨに叩かれる喜びを感じながら、小さな悲鳴を上げ続けた。

    15.
    サヨとわたしの関係は、サヨが3年生になって中学校を卒業するまで続いた。
    彼女はわたしを縛り、ときには二人とも裸になってベッドで過ごした。
    サヨのロープワークはすっかり上達して、わたしをぎちぎちに緊縛して天井の梁から吊るせるほどになっていた。

    卒業式はわたしにとって忘れ得ぬイベントになった。
    その日は生徒たちだけでなく、わたしも卒業する日だった。
    ALTの契約はこの日で終了し、わたしはイリノイへ帰ることになっていた。
    ソフトボール部の女の子たちが泣きながら抱きついてきて、私もいっしょに泣いてしまった。
    そして英語教諭のレイコまでわたしを抱きしめて感謝の言葉を言ってくれて、わたしは再び泣いてしまった。
    もしかしたら、わたしは人前で涙を見せることを恥ずかしいと思わなくなってしまったのかもしれない。

    そしてサヨとの別れもやってきた。
    「泣いちゃ駄目だよ。そういうのは嫌だから」サヨは泣きそうになるわたしに先手を打って言った。
    「う、うん」
    「あたし、いっぱい勉強するから。・・キャロリンが世界中どこにても会いに行けるようになる」
    「そう、がんばるのね」
    「キャロリンはどうするの?」
    「わたしも勉強する。サヨに負けないくらい」
    わたしたちはいつの日か再会することを約束して、そして別れた。
    こうしてわたしの日本での生活は終わった。
    10才も年下の女の子の恋人で奴隷なんて、もう二度と経験することはないだろうと思った。

    16.
    9年が過ぎた。
    わたしは1年間故郷で両親と暮らし、地域活動のボランティアに打ち込んだ。
    それからワシントンのビジネススクールで勉強漬けの毎日を送り、2年かけてMBAを取得した。
    そして、いくつかの企業に勤めてステップアップしながらビジネスパーソンのキャリアを積んだ。
    今はシンガポールにあるHAL社の現地法人にいて、マーケティング部門のマネージャーをしている。
    『今』をがんばることに夢中だったから、日本でALTだった時代のことは懐かしい思い出の一つとしてたまに思い出す程度になっていた。

    え? サヨはどうしたかって?
    もちろん、彼女もがんばっている。
    わたしたちはメールや電話で連絡をとり合い、それぞれの『今』を応援し合ってきた。
    遠く遠く離れていたけれど、二人は心の友だった。

    シェントン・ウェイのオフィスの朝は、ブリーフミーティングとスケジュールの確認で始まる。
    "来週は水曜から金曜までナゴヤで、サプライヤーの工場視察と製品レビューです。ミズ・カーペンター"
    "あら、日本は久しぶりね。あなたも来る?"
    "駄目よ。経費の無駄使いは"
    "もう、厳しいんだから"
    わたしは目の前のセクレタリに文句を言う。
    彼女はわたしが連れてきた人材だ。
    大学を出てまだ2年だけど、英仏中日の4ヶ国語を話せて、よく気が回る優秀なセクレタリなのでわたしは満足している。
    "・・じゃあ、今夜はわたしの家に来て一緒に過ごさない?" わたしは彼女に言った。
    "いいわ。本当のボスが誰なのか思い知らせてあげる、キャロリン" 彼女は眼鏡のふちに手をやり、すました顔で答える。
    これで今夜、わたしは彼女に縛られることが決まったのだ。
    「どうぞ、いっぱい罰を与えてください、ご主人さま」
    わたしは久しぶりに日本語で彼女にねだった。サヨはにっこり笑ってうなずいてくれた。



    ~登場人物紹介~
    キャロリン・カーペンター Carolyn Carpenter: 24才 アメリカ人女性
          ALT(Assistant Language Teacher)として日本の中学校に赴任してきた。
    福本沙代: 14才 中学2年生、図書委員
    正木礼子: 英語教諭


    まず最初に、今回の中編は私だけのオリジナルではありません。
    このお話は着衣緊縛イラストサイト『ぱるのばくいら』主宰のぱるさんが発表されたイラストに、私がお願いしてストーリーをつけさせてもらったものです。
    挿絵に掲載したイラストがそれです。
    ボンデージを着せられて陶然とした表情のキャロリンさんと制服姿で縄をかける沙代ちゃん。何と魅力的なイラストでしょう。
    1枚のイラストからイマジネーション(妄想ともいいます)が広がり、この物語になりました。
    SS化とイラストの挿絵掲載を快く承諾して下さったぱるさんに深く感謝申し上げます。
    ぱるさんによるイラストの元説明ではキャロリンさんは英語教師でしたが、こちらではALTとさせていただきました。
    はたしてキャロリンさんは、ぱるさんのお好みのM女になっているでしょうか?

    ぱるさんのサイトへはこちらからどうぞ。
     ぱるのばくいら http://parunayo.exblog.jp/
     上記イラストのページ http://parunayo.exblog.jp/16713419/

    沙代ちゃんが朗読した『O嬢の物語』は、もう説明の必要のないSM文学の古典名作ですね。
    この物語の作者は女性だったというニュースはつい最近のことのように思っていましたが、Wikipedia によるとそれももう17年も前なのでした。
    フランス人女性が書いたSM官能小説を日本の女子中学生がアメリカ人のM女性に朗読する。・・自分でいうのは何ですが、よくできたシチュエーションだと思いませんか^^。
    なお本文中の[朗読あらすじ]は私が自分の好みでまとめたものです。必ずしも小説の内容を正確にトレースしていませんので、ご了解下さい。

    もうひとつ余談を記しますと、実は最初は、キャロリンさんが書架から取り出した本はマルキ・ド・サドの『悪徳の栄え』にしようと考えていました。(だって、沙代ちゃん、読んでそうでしょ?)
    しかし、いざ沙代ちゃんに朗読してもらおうとすると、あまりにアナーキーで凄惨なシーンと退屈な哲学的論議(私の感想です)が延々と続くので、キャロリンさんが感じてしまう前に作者の私が投げ出してしまったのでした。これでも若い頃は興奮したんですけどねぇ^^。

    [お断り]
    一部コメント回答でも触れた通り、ここのところ仕事で帰宅が深夜になる毎日です。
    創作に割く時間と心の余裕が不足ぎみです。
    いつも通りの更新頻度(約2週間に1回)をキープするように頑張りますが、場合によっては遅れるかもしれませんので、予めお詫びとお断りを申しておきます。
    次回更新は Sisters 第10話です!

    ありがとうございました。




    翔太とえっちゃんの罰ゲーム(1/3)

    1.
    そのお姉ちゃんは本当は悦子って名前だけど、翔太は「えっちゃん」って呼んでる。
    翔太は小学5年生。えっちゃんは六つ年上の高校2年生だ。
    えっちゃんのママと翔太のママは二人が生まれるずっと前から仲よしで、家が近所なこともあって、翔太は赤ん坊のころからえっちゃんにかわいがってもらってきた。
    学校の友だちには内緒だけど、ときどき一緒にお風呂に入ったりだってしてるんだ。
    翔太のママが4月からカルチャーセンターに行くようになったので、翔太は毎週木曜の夜はえっちゃん家で晩ごはんを食べさせてもらうことになった。
    いつも、えっちゃんは翔太の好きなハンバーグやオムライスを作ってくれる。
    えっちゃん家はパパがいなくて、ママがパパの代わりに働いているから、えっちゃんがママの代わりに家の用事をしている。
    だからえっちゃんは翔太のママよりもお料理が上手なくらいなのだ。

    ごはんがすむと、ママが迎えにきてくれるまでの間、ゲーム機で遊ばせてもらう。
    えっちゃん家のテレビの部屋には翔太の家にはないZBOXがあって、翔太はこれでえっちゃんと対戦するのが楽しみだった。
    本当を言うと、翔太はえっちゃんとスケボーやサッカーをして遊びたい。
    えっちゃんは、前は男の子みたいに元気で、いつも翔太と外で遊んでくれた。
    でも今は何だかオシトヤカになって、スカートなんかはいたりして、ちょっと遊んでもらいにくくなっちゃったのだ。
    えっちゃんがキレイになるのは、翔太にとって嫌じゃないんだけど。

    その日、えっちゃん家のテレビの部屋には白い大きなスーツケースがあった。
    「ジャマでごめんね。修学旅行の準備なの」
    えっちゃんは日曜から水曜までオキナワに行くらしい。
    「翔くんにもおみやげ買ってくるからね」
    「うん、ありがとう。それよりも、早く酔狼伝やろうよ」
    えっちゃんは笑ってゲーム機のスイッチを入れてくれる。
    音楽が鳴り、二人はコントローラーを両手に持ってゲームにかかる。
    えっちゃんはなかなかの強敵だった。
    翔太のクラスにもゲームが得意な仲間が何人かいるけれど、えっちゃんはそいつらと戦ってもいい勝負をすると思う。
    えっちゃんの操るシェリーが白葡萄拳で翔太のラオチュウを画面の端までぶっとばした。
    「がっぴょ~んっ、負けた!」「あはは。惜しかったね」
    「もう一回やろうっ」
    「ごめん、今日は忙しいんだ。悪いけど後は一人で遊んでてよ」
    「え~? ・・がっぴょ~んっ」
    「ふふふ」

    えっちゃんがカーペットの上にスーツケースを開いた。
    「うわぁ、おっきい」
    「でしょ? 親戚のおじさんから借りてきたんだけどね」
    翔太はスーツケースを興味シンシンの目で眺める。
    こんな大きなカバンだと、スケボーだって持っていけるよ。
    ・・人間だって入れそうだな。
    「ねっ、中に入っていい?」
    「え、この中に?」
    「うん。きっと入れるから。いいでしょ?」
    「いいけど・・?」
    翔太はスーツケースの中に座り、横になってみせる。
    小学生の翔太が入っても大きなスーツケースはまだまだ余裕たっぷりだった。
    「ぜんぜん、広いや」
    「本当だ」
    「蓋、閉めてみて」
    「はいはい。わかりました」
    えっちゃんは、スーツケースの反対側を持ち上げて翔太の上から蓋をしてくれた。
    「うわぁ、真っ暗だぁ。閉じ込められたぁ!」
    翔太はおもしろがってスーツケースの中でばたばたともがく。
    「こら、暴れちゃダメっ。借り物なんだから、壊れたら困るよっ」
    「はーい」
    スーツケースの中で静かにすると、真っ黒な中に一人でいることが、ちょっと不安になった。
    そのままじっと我慢する。
    「開けるよ?」
    「うん」
    ガチャリ。スーツケースが開いて、翔太はほっとして起き上がった。
    「あぁ、おもしろかった。んーっ!」
    両手を上にのばして、深呼吸をする。
    「もういいよ、えっちゃん。用事してて」
    翔太は椅子に戻ると、一人でゲームを再開した。
    でも、翔太はそのとき思ったんだ。次はえっちゃんをスーツケースの中に入れたいって。

    翔太は一人で30分くらいゲームをした。
    えっちゃんは旅行に持っていく服なんかを持ってきて、スーツケースの中に並べている。
    「えっちゃん、まだ忙しいの?」
    「んー、今日はずっと忙しいよ。ゲームは次にいっぱい遊んであげるから」
    「あと1回だけ。ね、1回だけ対戦しよ?」
    「じゃあ、1回だけだよ?」
    「うん。それでね・・」
    「それで?」
    「負けた方は罰ゲーム」
    「罰ゲームぅ? いったい何をするの?」
    「えっとね、負けた方はスーツケースに入る」
    「なぁに、それ」
    えっちゃんは笑った。面白がってくれたみたいだ。
    「ね、やろ!?」
    「よぉーしっ。覚悟しなさい!」
    このとき、えっちゃんは絶対に負けるわけないと思ってたはずだ。
    でも、えっちゃんは知らないんだ。
    こういう場面では、神様は絶対に奇跡を起こしてくれるってことを。

    2.
    「うそっ。負けちゃった」えっちゃんがびっくりしている。
    「翔太くん、すごーい!」
    「えへへ」
    「・・罰ゲーム、しなきゃダメ?」
    「うん!」
    えっちゃんはスーツケースの中に入れた物を外に出した。
    「う~ん」
    空になったスーツケースを腕を組んでながめている。
    「入れそう?」
    「どうかなぁ。やってみないと分からないねぇ」
    えっちゃんは、スーツケースの中にジーンズのお尻を入れて座った。
    そのまま横向きに倒れてみたけど、頭の後ろがひっかかってしまう。
    「もっと、小さくならないとダメだよ」
    「じゃ・・」
    お尻の場所を少し変えて、入り直す。
    頭がうまく入るようになると、今度は足の先がなかなか収まらなかった。
    「うぅーっ。もう少しで入れそうなんだけど」
    「無理だったら、いいよ」
    「ダメ。こうなりゃ入ってみせないと。・・ん、もうちょっと」
    えっちゃんは、罰ゲームだってことを忘れたみたいに一生懸命になっている。
    何回か入り直していると、体全体がスーツケースにすっぽりと入った。
    「入れたよっ、えっちゃん」
    「翔くんっ、髪の毛、外にかかってるから、入れてっ」
    えっちゃんの髪の毛がスーツケースの外にはみ出ているのを入れてあげた。
    「んじゃ、蓋して」
    「閉めるの?」
    「当たり前でしょ~」
    翔太はスーツケースの蓋をかぶせた。けど、えっちゃんの体につっかかって、きっちり閉まらない。
    「押さえてっ、もっと強く」
    「よぉし、・・ぎゅっ」
    スーツケースの上から両手で体重をかけた。
    かちゃり。蓋が閉まった。
    「入れたよぉ」
    スーツケースの中からえっちゃんの嬉しそうな声がした。
    翔太はスーツケースの横にしゃがみこんで聞く。
    「ねぇ、どんな感じ?」
    「んー、ぴったりはまって全然動けないよー」えっちゃんの返事は何だか遠くから聞こえた。
    「怖くない?」
    「平気だよぉ」
    そして、静かになった。
    えっちゃんはこの中で黙ってじっとしてるんだ。
    翔太は突然おちんちんが硬くなっているのに気がついた。あれ?
    「トイレ行ってくるー!」
    「どうぞぉっ、行っといで~」
    翔太はばたばたと部屋を出てトイレに駆け込んだ。
    ああ、やっぱり出ないな。おしっこ。
    えっちゃんのことを考えた。
    えっちゃんは、あの暗くて狭いところに一人で入ってるんだ。
    自分じゃ出れないんだ。僕が開けてあげないと、出れないんだ。
    どき、どき・・。胸が鳴っている。
    えっちゃんは、ずっと待ってるんだ。
    もし、僕がいつまでも、えっちゃんを出してあげなかったら、えっちゃん、泣いちゃうかな?
    おちんちんがますます硬くなったような気がした。
    勃起したおちんちんをぎゅっと押さえると、ちょっと気持ちよかった。

    翔太はえっちゃんに気づかれないように、そっと静かに戻ってきた。
    もしスーツケースがなくなってたらどうしようって不安だったけど、白いスーツケースはカーペットの上にちゃんとあった。
    膝をついてスーツケースに手を触れた。
    えっちゃんはこの中だ。この中に丸くなって入ってるんだ。
    どき、どき、どき。
    しばらく、そのままじっと過ごした。
    スーツケースの中からは何の物音もしなかった。
    あれ?
    スーツケースに耳を当てる。やっぱり何も聞こえない。
    「えっちゃんっ、大丈夫?」慌てて声をかけた。
    「翔くん、戻ったの?」
    あ、よかった。えっちゃんは無事だ!
    「蓋、開けるね」
    「うん、お願い」
    がちゃ、がちゃ。
    「開かないよ!」
    「えー!? ちゃんとレバー引いてる?」
    「レバーって、両側の板みたいなのでしょ? 動かないよぉ」
    翔太は焦ってレバーをかちゃかちゃっと引きまくる。
    「あれ、どうしてかな。・・ね、蓋の真ん中に数字のダイヤルが3つあるでしょ?」
    「うん」
    「何番になってるか、左から読んでくれる?」
    「えっと、5と1と7」
    「あぁ、それだわ。5・1・5にして、もう一回開けてみて」
    かちゃり。
    言われた通りにすると、ロックが解けて、蓋を開けることができた。
    そこには、蓋をしたときと同じ格好でえっちゃんが丸くなって入っていた。
    「えっちゃん!」
    「はぁ、よかったぁ」
    えっちゃんは、スーツケースから起き上がって笑ってくれた。
    「・・でも、おもしろかったね! どきどきしちゃった」
    そう言うえっちゃんの顔は、ちょっと赤くなっているようだった。
    翔太の心臓は、相変わらずどきどきと鳴っていた。
    でもあれだけ硬かったおちんちんは、すっかり小さくなって、すくみあがっているようだった。
    「ねぇ」
    「なあに?」
    「もし、蓋が開けられなくって、ずっと出れなくても、許してくれた?」
    「え~っ、何言ってるのよ、もう」
    えっちゃんはそう言って茶化そうとした。
    けど、翔太が真面目な顔でえっちゃんを見ているのに気づくと、翔太の頭に手を乗せて言ってくれた。
    「・・翔くんが守ってくれるんだったら、ずっと閉じ込められてても、いいよ」

    3.
    次の週、修学旅行から帰ってきたえっちゃんは少し黒くなっていた。
    「すっごく海が綺麗なの!」
    「海で泳いだの?」
    「うんっ。シュノーケルつけて海の中見ながら泳いでたら、焼けちゃった」
    えっちゃんは、タンクトップの肩の部分をずらせて水着のあとを見せてくれた。
    「はいっ、これ翔くんにおみやげ!」
    「狛犬?」
    「シーサーっていうの」えっちゃんは笑って教えてくれる。
    「あと、これも食べる? サーターアンダギーだよ。美味しいんだから」
    丸いドーナッツのようなお菓子を出してくれた。
    それを食べていると、部屋のすみにスーツケースが立ててあるのに気づいた。
    「ねぇ、あれ、返しちゃうの?」
    「え? あれって?」
    えっちゃんは、翔太の指さす方を見てスーツケースのことだと判ると、驚いたような顔をした。
    「あのスーツケースのこと?」
    「うん」
    「また、遊びたいの?」
    「うん」
    「・・えっと、別に、急いで返さなくても、いいんだけど」
    えっちゃんの顔が赤くなって、急にとろんとしたみたいな感じになった。
    「ならさ、・・えっと、また、あれ。・・やらない?」
    あれ、どうしてだろう。僕の顔も熱いみたいだ。
    「うん。いいよ。・・やっても」

    えっちゃんは黙ってゲーム機のスイッチを入れた。
    「えっと、一回勝負で、負けた方が、罰ゲームなんだよね」
    「うん」
    対戦が始まった。
    えっちゃんはすごく弱かった。
    他のことを考えているのか、ぼうっとしていて、ぜんぜんゲームに集中していなかった。
    翔太だって、いつもなら真面目にやってよと怒るところだけど、今日はそんな気にならなかった。
    もしかしてわざと負けてくれてるのかな、なんて思ったりした。
    いつもは15分以上かかる戦いが3分で終わってしまった。

    えっちゃんがスーツケースの中で丸くなった。
    今度は1回ですっぽりと入ることができた。
    今日のえっちゃんはタンクトップとショートパンツの姿だから、前より小さくなり易いのかもしれない。
    「2回目なのに、1回目よりも変な気分」
    そう言って翔太に笑いかけたえっちゃんを見ると、翔太のおちんちんがまた硬くなった。
    「・・蓋、するよ」
    スーツケースの蓋がえっちゃんの上にかぶさって、えっちゃんを隠した。
    かちゃり。
    「大丈夫?」
    「うん」
    「少しだけしたら、開けるからね」
    「すぐに開けなくても、大丈夫。・・このまま、翔くんの好きなだけ置いても、いいよ」
    「・・わかった。何かあったら呼んでね」
    「うん」
    翔太は立ち上がってスーツケースを見下ろした。
    もうスーツケースの中からえっちゃんの声はしなかった。
    どき、どき、どき。
    そのまましばらく時間が過ぎる。
    そうだ。
    翔太はスーツケースの取手を持って持ち上げた。
    それは思ったよりも重かったけど、何とか持ち上げて、スーツケースを立てて置くことができた。
    「あ」
    小さな声がスーツケースの中から聞こえたような気がしたけど、それ以上は何の物音もしなかった。
    ふう。
    翔太はひと仕事終えたように、額を腕でこすった。
    ・・じゃ、じゃあ、ゲームでもしようかな。
    ゲーム機のコントローラーを持ってきて、それから振り返ってスーツケースを見た。
    えっちゃんを閉じ込めたスーツケースは、変わらずそこに立てて置いたままだった。
    どき、どき、どき。
    ダメだよ。ゲームなんて、する気になれないよ。
    翔太は自分のズボンの前を両手で押さえて、じっとスーツケースを見続けていた。

    翔太はそのまま10分くらい過ごしてから、スーツケースを倒して蓋を開けた。
    えっちゃんはスーツケースから出て身を起こすと、ちょっと恥かしそうな顔で笑ってくれた。

    続き



    翔太とえっちゃんの罰ゲーム(2/3)

    4.
    それから二人は毎週罰ゲームをするようになった。
    もちろん、翔太の両親とえっちゃんのママには内緒だった。
    えっちゃんに「言っちゃダメよ」って言われたけど、翔太にだって秘密にしなきゃいけないことは分かってた。

    ゲームで対戦して負けた方がスーツケースに入るのが罰ゲームのルールだった。でもいつも負けるのはえっちゃんの方だった。
    一度だけ、翔太がミスをしてえっちゃんが勝ってしまったことがあるけど「いいよ。負けたことにしたげる」と言って、やっぱりえっちゃんがスーツケースに入った。
    えっちゃんは、翔太にスーツケースのキーを貸してくれた。
    これで、スーツケースに鍵をかけることができる。
    それだけじゃない、えっちゃんはダイヤル錠の番号のセットの方法まで教えてくれた。
    「番号、変えちゃっていいの?」
    「いいよ。・・あたしも知らない、翔くんだけの番号で」
    翔太はダイヤル錠の設定を、4年生のときの出席番号に変えた。

    二人の遊びはエスカレートする。
    ゲーム機の対戦はいつの間にか、なくなった。
    二人の間では相変わらず罰ゲームと呼んでいたけれど、それはもうフェアなゲームじゃなかった。
    勝ち負けが最初から決まっていて、無条件に執行される罰ゲーム。
    必ず勝って罰を与えるのは、翔太。そして罰を受けるのは、えっちゃん。
    それが六つ離れた小学生と高校生の間で自然に決まったルールだった。

    「ね、この車輪で転がせるように立てられる?」
    「多分、できるよ」
    翔太は重いスーツケースを引き起こして、キャスターのついた側を下にして立てるコツをマスターした。
    これで、翔太はえっちゃんを運んで廊下や台所に行けるようになった。
    トイレの中までは連れていけなかったけど、トイレの前にスーツケースを置いておしっこした。
    えっちゃんの入ったスーツケースをごろごろと勢いよく押すのは、すごく刺激的だった。
    翔太はわざと部屋の段差を越えたりしてスーツケースを揺らした。
    でも、どんなにガタガタと転がしても、えっちゃんは悲鳴を上げたりしなかった。
    ときどき、スーツケースを横に置いて、その上に座ってテレビを見たりゲームをしたりした。
    スーツケースの平たい面は翔太が座ると少しへこむくらいに柔らかいので、中のえっちゃんにも翔太の体重がかかっていると思う。
    でも、えっちゃんはやっぱり何も言わないで、スーツケースの中にじっと閉じ込められているのだった。

    えっちゃんがスーツケースの中で過ごす時間も長くなっていた。
    最初は5分くらいだったのに、今ではえっちゃんはスーツケースに1時間以上は入っているようになっていた。
    一度、迎えにきた翔太のママと仕事の帰りのえっちゃんのママが揃って玄関から入ってきて、慌てたことがあった。
    そのとき、えっちゃんはまだ部屋でスーツケースの中にいて、翔太は大急ぎでえっちゃんを出してあげたのだった。

    「・・どうなっちゃうんだろう、あたしたち」
    スーツケースから出たえっちゃんが翔太に聞いたことがある。
    「翔くんは、お家や学校でスーツケースのこと、考えたりしない?」
    「しないよ」翔太はえっちゃんに言ってのけた。
    「家や学校じゃ他のことで忙しいもん。罰ゲームのことを考えるのは、えっちゃんと一緒のときだけだよ」
    「翔くんは偉いんだね。あたしなんか、学校とかで思い出して変になっちゃいそうなときがあるわ」
    「変って?」
    「それは、胸がきゅんってなって、えっちな気持ちになって、って、、・・あぁ、まだ翔くんには早いよね」
    「?」
    「ごめんなさいっ。変なこと言って」
    突然、えっちゃんは翔太をぎゅっと抱きしめた。
    翔太は少しびっくりしたけど、黙ってえっちゃんに抱きつかれるままにしていた。
    「翔くんとあたし、もう少し年が近かったらよかったのにね。そしたら・・・」
    えっちゃんは最後まで言わないで、翔太のおでこにキスをしてくれた。
    間近で感じるえっちゃんは、少し甘酸っぱい香りがして、気持ちよかった。
    本当は翔太だって、学校にいるときスーツケースに入ったえっちゃんを想像して、ドキドキしてしまうことがある。
    でも、それをえっちゃんに告白するのは恥かしい気がして言わなかった。
    それに、僕は男だから、えっちゃんの前で軟弱なことを言っちゃダメなんだ。
    男は黙って行動するだけなんだ。
    そう、えっちゃんに喜んでもらえるように、行動で示すんだ。

    5.
    ある雨の日、翔太はえっちゃんにプレゼントを渡した。
    それは銀色のおもちゃの手錠で、小さな鍵もちゃんとついていた。
    この手錠は、クラスの誰かが学校に持ってきて遊んでいたのが先生に見つかって取り上げられたものだった。
    6時間目が終わって翔太が帰宅するとき、校門でその先生が傘をさして他の大人と立ち話をしていた。
    門の陰の雨のかからない屋根の下に大きな紙袋が置いてあって、のぞき込むと、あの手錠が入っていた。
    翔太は自分の傘で隠しながら手錠を取ると、シャツの下に隠した。
    先生も、他の誰も、翔太のしたことには気がつかなかった。

    えっちゃんは、手錠を見たとたんに赤い顔になった。
    「どうしたの? これ」
    「内緒だよ。でも、えっちゃんにあげる」
    「ありがと・・」
    えっちゃんは、両手で手錠を持ってじっと見ている。
    「あ、あの、翔くん。・・着替えてきても、いいかな」

    えっちゃんは自分の部屋で着替えて戻ってきた。
    半そでの白いブラウスとミニスカートに紺のソックス。これは、えっちゃんの高校の制服だ。
    「えへへ。今日はこれで、罰ゲーム♥」
    スカートのすそを持っておどけてみせる。
    「じゃ、手錠お願い、翔くん」
    翔太はえっちゃんが差し出した両手に手錠をかけてあげる。
    えっちゃんは少しの間それを見つめ、それからスーツケースに入って丸くなった。
    「ほら、誘拐された女子高生だよ!」
    そう言って翔太に笑ってから、自分の胸をぎゅっと押さえた。
    「はぁ~、心臓が爆発しちゃうよ・・」
    今日のえっちゃん、手錠と制服だけでどうしてこんなにコーフンしてるんだろう。
    翔太は不思議に思う。
    えっちゃんは、太ももの間に手錠の両手を合わせるようにして、スーツケースの中に収まっている。
    制服の短いスカートの下に白いパンツが見えていた。
    いつものスーツケース詰めと比べて、ちょっとえっちな感じがした。
    「えっちゃん、パンチラしてるよ」
    「え? あ、やだぁっ」
    えっちゃんはパンツを隠そうとスーツケースの中でもごもごしてたけど、すぐに諦めた。
    「隠すのは無理ね。・・いいわ。翔太くんにだけサービスしたげる」
    「僕は平気だよ」
    「そう?」
    あのね、僕はえっちゃんのパンチラくらいで喜んだりはしないぞ。
    だいたい、こんな短いスカートで丸くなっているんだから、パンチラしないでいることの方が無理なんだ。
    「そろそろ蓋する?」
    「うん、はあ~っ。じゃあ、お願い」
    えっちゃんはスーツケースの中で丸くなったまま深呼吸すると、そう言って眼を閉じた。
    翔太はスーツケースの蓋をした。
    キーを回して鍵をかける。ダイヤル錠を適当にくるくる回す。
    そして、スーケースの取っ手を持って引き起こし、そのまま立てて部屋の隅に置いた。

    スーツケース詰め・前

    翔太はテレビとマンガを見て過ごした。
    ZBOXのゲームはだいたい極めてしまったから、あまり興味がなくなっていた。
    んん~っっ!!
    両手を頭に上に上げて、大きく伸びをする。
    そろそろ、スーツケースをごろごろ転がしてあげようかなぁ。
    スーツケースに目をやる。いつもの通り、白いスーツケースはそこにそのままあった。
    えっちゃんは、この中に動けないままじっと丸くなって入っているんだ。
    いつもみたいに、黙って、じっと・・。
    あれ? 何かが違っていた。
    翔太は立ち上がってスーツケースに近づく。
    ん、、ん、、あぁ、、。
    小さな声が聞こえていた。
    悲鳴のような、泣き声のような声。
    「えっちゃん!!」
    翔太は大きな声で叫ぶと、急いでスーツケースを部屋の中央に引き寄せた。
    横に倒して、鍵を開ける。
    慌てているせいか、ダイヤル錠の番号がなかなか合わない。
    えっちゃん!!
    かちゃり。ようやく解錠できた。
    大急ぎでスーツケースの蓋を開ける。
    そこにはえっちゃんが、詰めたときと同じ姿勢のまま、丸くなって入っていた。
    「・・翔くん」
    えっちゃんは、小さな声で答えて微笑んでくれた。
    その目は潤んでいた。ほっぺたに光っているのは、もしかして涙?
    「えっちゃん?」
    「あ・・、ん・・。しょ、翔くぅん」
    翔太はえっちゃんの背中を支えて、抱き起こしてあげた。
    えっちゃんの体は暖かくって、しっとりしているみたいだった。
    「あぁ~っ!!」
    えっちゃんは手錠をつけたまま両手を翔太の背中に回して抱きついた。
    そのまま翔太にしがみついて動かない。
    「だ、大丈夫?」
    えっちゃんの肩は細かく震えているみたいだった。
    「ご、ごめんね。・・・あ、あたし、もう」
    翔太は両手でえっちゃんの背中を撫でてあげる。
    えっちゃんはびくって震えて、それからまた強く翔太に抱きついた。
    えっちゃん、心配しなくていいよ。僕がついてるから。
    だから、ね、安心して。
    「ごめんね、ごめんね・・」
    えっちゃんは泣きながら翔太からいつまでも離れなかった。
    時計を見ると、えっちゃんがスーツケースの中に入っていたのは2時間くらいだった。

    スーツケース詰め・後

    6.
    雨の季節が過ぎて夏休みになった。
    えっちゃんとの罰ゲームは、まだ続いていた。
    ただ、手錠をつけてスーツケースに入るのは止めていた。
    えっちゃんはもう大丈夫って言ったんだけど、翔太がダメと言って許さなかったのだ。
    翔太は漠然と不安だった。
    あの日、えっちゃんがエッチな気持ちになりすぎて壊れちゃったことは分かっている。
    泣きながら翔太に抱きついてきたえっちゃんは、とっても色っぽくて、可愛いかった。
    今でも思い出すだけで、翔太は胸がどきどきして、おちんちんが硬くなってしまうくらいだ。
    でも、もし、またえっちゃんが変になったら、今度はどうなっちゃうんだろう。
    小学生の翔太にだって、これ以上はいけないという限界点は想像できるのだ。

    スーツケースで無理できない理由がもう一つあった。
    それは、夏になってスーツケースの中がとても暑いことだ。
    スーツケースから出てきたえっちゃんは、うっすらと汗をかいていて、それはそれで悪くなかったけど、やっぱり危ないと思った。
    学校ではネッチューショーに気をつけなさいって、いつも言われてる。
    人間はあんまり暑いところで過ごすと、ダッスイショージョーを起こして死んでしまうんだ。
    えっちゃんは自分より大人なくせに、罰ゲームになると、すぐにとろんってなって無茶しちゃう。
    だから、僕がしっかりして、えっちゃんを守ってあげないとダメなんだ。

    7.
    えっちゃんがちょっと恥ずかしそうに笑いながらシャツとジーパンを脱いだ。
    その下は青いビキニの水着だった。
    大人の女の人がつけるビキニで、ブラジャーとパンツの両方を合わせても、翔太の海パンより小っちゃそうな感じがした。
    「えへへ、マイクロビキニ♥、買っちゃった。どう? 翔くん」
    「う、うん」
    翔太は、ほめてあげなきゃって思ったけど、えっちゃんのビキニが何だかまぶしくって、あいまいな返事しかできなかった。
    「じゃ、じゃあ、今日はそれで罰ゲームやるんだね」
    「うん。・・それでね」
    えっちゃんは、まだ何かやろうとしているみたいだった。
    「うちの母さん、今夜は留守なの。・・明日の夕方まで帰ってこないわ。・・だからね、」
    えっちゃんはごくりとつばを飲み込む。翔太もつられてつばを飲み込んだ。
    「だから、翔くん。今夜はスーツケースの鍵を持って、そのままお家に帰っていいわ」
    え?
    「明日、また来てくれる?」
    「ねぇ。もしかして、ずっと、スーツケースの中に入るの?」
    えっちゃんは黙ったまま、ほんの少し首を縦にふった。
    「ダメだよ。やめようよ」
    「・・ごめん。もう、止められないの」
    「僕も一緒にいる」
    「翔くんのママが心配するわ。だから翔くんは帰って。それにほら、」
    ストローの生えたスポーツドリンクのボトルを見せてくれた。
    「水分補給だってできるんだから、大丈夫」

    えっちゃんはスーツケースの中にバスタオルを敷いて、体が痛くないようにした。
    そして手錠を僕に渡して、グーに握った両手を揃えて差し出した。
    「お願い」
    翔太はその手に手錠をかけてあげる。
    どこか普通じゃない感じだった。えっちゃんの目があやしく光っているような気がした。
    えっちゃんがまた壊れるんじゃないかと、心配になった。
    でも、翔太にはえっちゃんを止められないと分かっていた。もう、後戻りはできないんだ。
    「スーツケース、あそこに置いてくれる」
    えっちゃんは、押入れを目で見て示した。押入れの下の段にはちょうどスーツケースが収納できるだけの隙間が開けてあった。
    そしてスポーツドリンクのボトルを持って、スーツケースの中に丸くなった。
    翔太は黙ってスーツケースの蓋をした。えっちゃんの姿がスーツケースの中に消えた。
    鍵をかけて、ダイヤル錠のつまみをくるくる回した。
    それからスーツケースを引き起こして、押入れの中に収めた。
    「朝になったら迎えに来るから」
    そう言って押入れの戸を閉めた。

    その後、翔太は一人でテレビを見て過ごした。
    迎えにきたママにはえっちゃんは用事で出かけたと説明し、電気を消して、玄関の鍵を閉めて帰った。

    続き




    翔太とえっちゃんの罰ゲーム(3/3)

    8.
    その夜、翔太は自宅のベッドで寝つけなかった。
    机の上にはえっちゃんの家の玄関の鍵と、スーツケースの鍵と、手錠の鍵がある。
    えっちゃんを助けてあげるためには、ここにある全部の鍵と、翔太だけしか知らないダイヤル錠の番号が必要だ。
    あの押入れの部屋はエアコンを入れたままにしてきたから、それほど暑くなっていないと思う。
    ・・でも。
    翔太はスーツケースに詰められているえっちゃんを想像する。
    電気を消したえっちゃん家。そのまた暗い押入れの中。
    スーツケースの中は、もう何も見えない真っくろけのけだ。
    今、えっちゃんは、その中にぴったりはまって、じっとしてるんだ。
    あぁ、またおちんちんが硬くなってきちゃった。
    いけないよ。えっちゃんがかわいそうな目にあってるのに、それを考えたら気持ちよくなるなんて。
    翔太は、自分の股間をじっと押さえる。
    はぁ、はぁ。
    えっちゃん。・・ねぇ、えっちゃん。
    えっちゃんは、どうしてそんな目にあうのがいいの。
    そんなところで、たった一人で。怖くないの? 寂しくないの?
    もし、僕が行かなかったら、えっちゃんはどうなっちゃうのかな。
    ボトルのポカリを全部飲んだら、その後はダッスイショージョーだ。
    干からびてミイラみたいになってしまうんだ。
    スーツケースの中でビキニのえっちゃんがミイラになってしまう様子を想像したけど、よく分からなくなって考えるのを止めた。
    えっちゃん、待っててね。絶対に助けに行くからね。

    9.
    翌朝、翔太は朝ごはんを食べると、すぐに家を飛び出した。
    ママには、えっちゃんに鍵を返しに行くとだけ言った。
    えっちゃんの家に行くと、えっちゃんのママが迎えてくれた。
    あれ? 夕方まで戻ってこないはずじゃあ。
    「あら翔くん。悦子、どこに行ったか知らないかな?」
    えっちゃんのママは、予定より早く帰ってきたら、えっちゃんがいないので心配しているのだった。
    もしかして翔太の家に行ったのかと思って電話したら翔太のママが出て、えっちゃんは夕べ用事で出かけたはずだと答えたのだ。
    「あれ。えっちゃん、帰ってないんですか?」
    翔太はえっちゃんのママに言う。
    「どこに行ったのかは、知りません・・」
    これは、マズイぞ!
    えっちゃんは、もちろん出かけてなんかいない。ちゃんと家の中にいる。
    そう、今も、この家の押入れの中でスーツケースに詰められてるんだ。
    早く出してあげないと。

    えっちゃん家のテレビの部屋。
    そこに、えっちゃんのママと、翔太のパパとママと、翔太がいた。
    大人たちは深刻な表情で相談している。
    「やっぱり、捜索願いを」
    「いや、その前に悦子ちゃんの友人に聞いてみてはどうですか」
    「えっちゃんの友達、分かる?」
    「あんまり知らないわ。悦子の学校に聞いてみましょうか」
    「そうですね、学校には知らせた方が」
    えっちゃんのママがえっちゃんの高校に電話をしてる。
    夏休みだから、すぐに先生がつかまらないようだ。

    翔太はその横で一人青くなって座っていた。
    押入れに目をやる。えっちゃんは、あそこなんだけど。
    えっちゃんの入ったスーツケースは、あの中にあるんだけど。
    どうしよう!?
    えっちゃんはここですっ、とは言えないよ。
    それでえっちゃんが出てきたら、僕だけじゃない、えっちゃんまでひどく叱られる。
    それに、どうしてスーツケースに入ってたかって聞かれても答えられない。
    ちょっとふざけて入ってました、なんて言ったら余計にマズイ。
    えっちゃんはビキニの水着で手錠までしてるのに、ちょっとふざけた、なんて通用しない。
    ああ、どうしたらいいんだろう?

    電話が鳴った。
    「あ、ご心配をおかけしてまして。実は悦子が・・」
    これはきっと、えっちゃんの学校の先生だ。
    どんどん話が大きくなってる。
    本当に、これは何とかしないと、ヤバイぞ!

    翔太は考える。
    もう、脳みそのサイボーが全部焼き切れそうなくらいに、考える。
    どこかで、えっちゃんをスーツケースから出してあげるんだ。
    その後「ただいま」って言って玄関から入ってくるんだ。
    でも、どうやって出してあげよう。
    そうだ。スーツケースをえっちゃんの部屋に持っていって、そこでえっちゃんを出してあげるんだ。
    これだったら、スーツケースに入ってたことは分からないし、カンペキだ。
    スーツケースはごろごろ転がして動かせるし。
    あ、えっちゃんの部屋は2階だよ。階段を上げるのは無理だ。
    パパだったら、えっちゃんの入ったスーツケースを運べるな。パパにスーツケースを運んでって頼んで・・。
    ううん、ダメダメ。この中身は何だって、聞かれちゃう。

    「あの、夕べ、えっちゃん・・」翔太はおずおずと話し始めた。
    大人たちが翔太を見た。
    「悦子がどうしたの!?」えっちゃんのママが大声で聞いた。
    ひっ。翔太は首をすくめてしまう。
    「あ、ごめんね。翔くんを怖がらせたりしないから、ゆっくりお話してくれる」
    はぁ~。
    翔太は深呼吸をする。
    ここが一番のヤマなんだ。間違っちゃいけない、フンバリどころなんだ。
    あわてないで、よく考えて、話さないと。
    「僕、今、思い出したんですけど、えっちゃんは公園で落し物をしたから、探しに行くって言ってました」
    「落し物?」「どこで?」
    「どこの公園か、聞いてるのか、翔太!」
    大人たちが一斉に翔太に質問を浴びせた。うん、よし。
    「えっと・・・。確か、北公園か鶴田公園か、・・仲町の駅前の公園」どこも翔太が知ってる、できるだけ遠くの公園だ。
    「行きましょう!」翔太のパパが立ち上がった。
    「私も行きます!」えっちゃんのママも立ち上がった。
    「え、じゃあ、私も・・」翔太のママも腰を浮かせる。
    「全員出かけたら駄目だ。誰か残って電話番をしないと」あー、駄目だよパパ。こんなところで冷静な意見を言っちゃ。
    「・・あの、電話番だったら僕ができます」翔太はおずおすと提案する。
    「そうか。翔太、大丈夫だな!?」「うん」
    「頼んだわよ。ママたち、えっちゃんを探しに行ってくるから」「はい」
    大人たちが、ばたばたと出かけて行った。
    後には、翔太一人が残った。
    よぉっし!!
    翔太は一人でガッツポーズをした。

    9.
    もうお昼に近い時間になっていた。
    押入れの戸を開けると、白いスーツケースが狭い隙間の中に収納されていた。
    「えっちゃん!」
    大急ぎでスーツケースを引き出して、横に倒して置いた。
    「えっちゃんっ、えっちゃん!!」
    呼びかけても返事はなかった。
    ああ、えっちゃんっ。ごめんね、遅くなって。
    ダイヤル番号を合わせて、キーを挿して、スーツケースを開ける。
    一瞬、えっちゃんの甘酸っぱい香りがして、中から青いビキニのえっちゃんが現れた。

    えっちゃんは、小さく丸くなって、目を閉じたまま動かなかった。
    手にしたスポーツドリンクのボトルは空だった。
    えっちゃんの脇の下を持って何とか外に引き出した。
    カーペットに寝かせ、それから手錠を外した。
    「えっちゃん、えっちゃん!」
    えっちゃんは返事をしない。
    あぁっ、えっちゃん!! もし、えっちゃんに何かあったら!!
    翔太は台所に走って、布巾を濡らして絞った。
    布巾でえっちゃんの顔を拭く。顔だけでは足りない気がして、えっちゃんの首から下も拭いた。
    背中も腕もおなかも足も、一生懸命拭いた。
    「ん、うーん・・」
    えっちゃんがうめき声を上げて、首を振った。
    「えっちゃんっ!」
    「・・翔くん?」
    「えっちゃんっ、えっちゃん!!」
    いつか翔太はぼろぼろ涙を流していた。
    「あーん、・・えっちゃん、・・えっちゃん」
    翔太は布巾を放り出して、横たわったえっちゃんの上から抱きついて泣き出した。
    えっちゃんは黙って微笑んで、翔太を抱きしめてくれた。
    えっちゃんの胸元に顔を押し付けると、えっちゃんの匂いがした。
    ちょっと汗くさかったけど、とっても懐かしい、気持ちのいい匂いだった。
    えっちゃんは泣き続ける翔太の背中を優しく撫で続けてくれた。

    「・・あたし、行方不明になってるの?」
    「うん、今、えっちゃんのママと、うちのパパとママが公園に探しにいってる」
    「じゃあ、どうしたら」
    「いったん出かけて、また帰ってくるしかないよ」
    翔太はそう言ってえっちゃんの手を引く。
    「さあ、早く行こうっ。もうすぐ皆が戻ってきちゃうよ!」
    「ちょ、待って。あたし、水着だよ?」
    「だったら、早く服着て」
    玄関の外で大人の声がした。
    ああ、帰ってきちゃった!
    「隠れなきゃっ」
    「あーっ、そんなこと言われても」
    翔太とえっちゃんは、部屋の中をばたばたと走り回る。
    あっ、スーツケース!
    翔太はスーツケースの蓋を閉じて、押入れに収納する。
    がちゃり。玄関のドアが開く音。
    あーっ、皆が来ちゃうよ!!
    とっさに翔太はえっちゃんの背中を押して押入れに入らせる。
    「きゃっ」
    「ここにいて!」
    それから押入れの戸を閉めた。
    大人たちが戻ってきたのは、その10秒後だった。

    翔太のパパもママも、えっちゃんのママも公園では何も見つけられなかった。
    大人たちの会議が行き詰まって、いよいよ警察に連絡するしかないと決まりかけたとき、翔太が押入れの戸を開けて素っ頓狂な声を上げた。
    「あれ、えっちゃん。こんなところにいたの?」
    押入れの上の段にはビキニ姿のえっちゃんがいて、膝を抱えて座っていた。
    「まあ!」「悦子ちゃん」「悦子ぉ!!」
    えっちゃんのママがえっちゃんに飛びついて、肩を震わせて泣いた。

    「本当に、お騒がせして、申し訳ありません・・」
    えっちゃんのママが電話で学校の先生に謝っている。
    電話を切ると、振り返ってえっちゃんをにらみつけた。
    「そ・れ・でぇ~!?」
    ひぇ~、ごめんなさぁい。
    ビキニのまま床に正座したえっちゃんがドゲザする。
    「暑いから水着で過ごしてたら、眠たくなって、押入れの中で寝ちゃったってワケ?」
    「はい・・」
    「それで、目が覚めたら、大騒ぎになってて、出てこれなかった、っと」
    「はい・・」
    「あきれた!」
    翔太のパパとママが笑っている。
    えっちゃんのママはしばらく怖い顔をしていたけれど、やがて笑ってくれた。
    「でも、よかった。・・どんなに能天気な娘でも、無事でいてくれるのが何よりだわ」
    「あ~んっ、母さん。能天気はひどいよぉ~」
    皆が笑った。
    翔太も、えっちゃんも笑っていた。

    11.
    次の木曜日。
    翔太がえっちゃん家にくると、あの白いスーツケースはなくなっていた。
    「そろそろ返さないといけなかったし。・・それに、あんなこともあったからね」
    スーツケースは親戚のおじさんに返したとえっちゃんは説明してくれた。
    「そうか。じゃあ、もう罰ゲームは終わりだね」
    「うん。そうね」
    翔太はしかたないなと思った。
    スーツケースの罰ゲームは、あのまま続けていたらもっと危ないことになりそうな不安があった。
    だから、ちょっと残念だけど、罰ゲームは、これでおしまいだ。
    「・・だからね。えっと、その」
    えっちゃんは、ちょっと言いにくそうだった。
    「何?」
    「翔くんに、お願いがあるの・・」
    えっちゃんは手錠を出した。翔太がプレゼントしたおもちゃの手錠だ。
    「スーツケースはなくなっちゃったから、もうこれしかなくって」
    えっちゃんは少し顔を赤らめている。
    「えっと、・・あたしのこと、あきれないで欲しいんだけど」
    「うん」
    「一緒にいるときだけ、翔くんと二人きりのときだけ・・、あたしの自由、奪って、くれる・・、かな?」
    えっちゃんの声はだんだん小さくなって、消えてしまいそうだった。
    でも翔太にはえっちゃんのして欲しいコトがちゃんとわかった。
    「うん。いいよ」翔太が言った。
    「えっちゃんが嬉しいんだったら、僕、するよ」
    「翔くん!」
    「でも、えっちゃんのママが心配することは、もうダメだよ」
    「うん!」
    翔太は鼻の下をこすって笑った。

    えっちゃんは、わざわざ着替えて、ブラジャーとパンツだけの下着姿になってきた。
    「それじゃ、寒いよ。えっちゃん」
    「いいの」
    翔太に背を向けてソファに座ると、自分でブラジャーを外した。
    「えっちゃん?」
    「これがあたしのキモチだもん」
    えっちゃんは裸の胸を手で押さえて、首だけ翔太に向いて笑った。
    ぎゅぎゅうん。翔太のおちんちんが硬くなった。
    うわぁ。ダメだよ。
    僕はえっちゃんの裸なんて見慣れてるんだぞっ。・・あれ? 最後に一緒にお風呂に入ったの、いつだっけ?
    えっちゃんは両手を背中に回した。
    「翔くん、お願い」
    翔太はえっちゃんの手首に何とか手錠をかけてあげた。
    「こ、これでいい?」
    「うん。・・ね、隣に座ってくれる」
    翔太がソファにえっちゃんと並んで座ると、えっちゃんは翔太にぴったりくっついて座り直した。
    えっちゃんのおっぱいがぷるるんと揺れた。
    そのままえっちゃんは自分の頭を翔太の肩に乗せた。
    どっきん。
    あぁ~っ、どうして、えっちゃんのすることに、いちいちドキドキするんだろう。
    おちんちんはもう最高潮にボッキの状態だ。
    何とかしなくっちゃ。何とかしなくちゃ。・・そうだっ。こういうとき、男は女を抱きしめてあげるんだ。
    翔太は、左手をえっちゃんの肩にかけ、右手を前からまわして、ぎゅっと抱きしめた。
    えっちゃんの体は、すべすべして柔らかかった。
    小学生の翔太はまだ体が大きくないから、まるで翔太の方からえっちゃんにしがみついているみたいなのが、ちょっと悔しい。
    早く大きくなって、えっちゃんを抱き抱えてあげられるようになりたいと思った。
    明日から牛乳、残さないで全部飲もう。
    「・・嬉しい」えっちゃんがつぶやいた。
    「あたし、今、翔くんのモノなんだよね」
    翔太は自分のおちんちんが気になってしかなかった。
    これじゃ、ズボンの上からだってばれちゃうよ。
    えっちゃんを抱いてるから、おちんちんを押さえて隠すこともできなくて、翔太は腰を引きかけてもじもじする。
    えっちゃんはそれが分かっているのかいないのか、目を閉じてうっとりした表情でいた。
    「・・そういえば、まだお礼言ってなかったね」
    「お礼?」
    「この間、あんな騒ぎになったのに、助けてくれたでしょ」
    「まあ、ね」
    「本当にありがとう。やっぱり、あたしを守ってくれるのは翔くんだけだよ」
    「僕は男で、えっちゃんを守るって、決めたんだから」
    「うん。男だったね。・・翔くん、格好よかった」
    えっちゃんは、顔を上げて翔太を見た。その顔が近づいた。
    「大好き♥」
    そのまま唇を合わせる。
    翔太はえっちゃんのキスの間、まるでカナシバリにあったみたいに動けなかった。
    えっちゃんの顔が離れて、目の前10センチの距離でにっこり笑ってくれたとき、翔太の心臓がドキドキからバクバクになって死ぬんじゃないかと思った。
    うっひゃぁ。
    えっちゃんが僕を見てる。何か格好いいこと、言わなきゃ。
    頭が混乱して、もう何がなんだかわからない。
    しかたないので、とりあえず叫んだ。
    「が、がっぴょーん」
    後ろ手錠のままで笑いこけているえっちゃんの隣で、翔太は格好いい男になるって大変なんだなって思った。



    ~登場人物紹介~
    翔太: 10才。スケボーとゲームが好きな小学5年生。
    えっちゃん(悦子):16才。高校2年生。翔太を可愛がってくれている近所のお姉ちゃん。

    皆様はスーツケース詰めはお好きでしょうか?
    いわゆる Encasement(閉所拘束)の中でも、スーツケース詰めは身近な機材でやれるだけに、ネット上の小説/SSなどで比較的よく見かけるような気がします。
    今回、他所で見れる小説/SSと似た内容にならないように、小学生の男の子が高校生のお姉ちゃんをスーツケースに詰めるシチュエーションとしてみました。
    最初の構想では小学生の翔太がスーツケース詰めに夢中になる筈でしたが、書きあがってみると暴走したのは高校生のえっちゃんでした。まあ、これも私の小説らしいかなと自分で納得しております^^。

    「おちんちん」という言葉をこんなに繰り返したのも初めてです(笑)。
    作者は決してショタの趣味はありませんので、どうぞ誤解のないようにお願いします(爆)。
    イラストにも初めての試みとして、小説の文章の一部を入れてみました。
    結果は、微妙^^ですね。もうしないかも。

    最後に小説のカテゴリについて。
    超短SSと呼ぶには長くなってしまったので、『中編』カテゴリを設けることにしました。
    中編の目安は、シリーズものでない単品小説で、このブログの二つ以上のページにまたがるものとします。
    これで当分の間はこのカテゴリ構成でやっていけるでしょう。
    カテゴリとは別に、目次ページ自体もそろそろ見直したいのですが、こっちはなかなか良い案がありません。
    一覧性を損なわないように全部の作品を1ページに納めて、なおかつ見易い目次。どこかにいいサンプルはないですかねぇ。




    プロフィール

    82475

    Author:82475
    女性の拘束に関わる小説/SSと
    落書きを書いてます。

    更新案内と目次


    自己紹介
    メール送信/コメント投稿について

    カテゴリ
    最新記事
    最新コメント
    ブログ内記事検索
    (コメントの検索はできないみたいです)
    リンク

    ◎pixiv

    pixiv 82475のpixivページ
    R-18/R-18G 閲覧設定していないと見れません。

    ◎検索サイト

    駄文同盟.com
    駄文同盟.com


    ◎このブログへのリンクについて

    リンク、ブックマークは
     http://82475.blog15.fc2.com/
    へお願いします。
    「いつか感じたキモチ」 バナー
    メールフォーム

    名前:
    メールアドレス:
    タイトル:
    本文:

    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。