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    アクナス第3部(1/3)・リリナギ

    リリナギ

    1.
    惑星アクナス最大の都市トミヤバール。
    港から行政庁のある中心部まで、歩いてほんの15分ほどの道のりである。
    先を歩くユーリの斜め後ろから少し離れてリッカがついている。
    『トミヤバールって面倒くさいところね』
    リッカが憮然とした様子で伝えてきた。
    「しかたないだろう。ビオリアが無頓着すぎるんだよ」
    ユーリが答える。
    二人は宿屋を並んで出ようとして、宿の女中に言われたのだった。
    「お客さん達、南部から来られたのかい? この街では離れて歩いた方がいいですよ」
    アクナスでは、若い男女が連れ立って歩くのは基本的に家族の場合だけと教えられている。
    そうでない者どうしが並んで歩くととても目立つ上に、おせっかいな人に注意されたりするのだ。
    南半球のビオリア地方ではこの慣習は大分ゆるくなっていて、男女が並んで歩く程度では何とも思われない。
    しかし、トミヤバールではさすがにそのような訳にはいかなかった。
    そういえば、あれだけ仲のよかったマッカとスキミも北部では別れて歩いていたっけ。
    ユーリは帆船ニコチコヤ号の船長だったマッカと海路の巫女のスキミを思い出す。
    今は自分がニコチコヤ号の船長であり、リッカが海路の巫女である。
    スキミが死に、マッカと別れてからまだ20日も過ぎていないが、ユーリにはずいぶん昔のことのように思えるのだった。
    ・・
    『ねぇ、もし私が妊娠していたらユーリはどうする?』リッカが歩きながら聞いてきた。
    「何を言うんだい、突然」
    『どうするのか教えて欲しいの』
    「それは、本当のことなのかい?」
    『私は未来を読む巫女なのよ。分からないことはないわ』
    ユーリは立ち止まって振り向いた。
    そしてリッカのもとまでつかつかと歩み寄った。
    「巫女は結婚できるのかい?」
    「できないわ。でも、巫女でなくなれば、結婚できるわ」
    「そうか。・・じゃあ、君には巫女を辞めてもらうしかないじゃないか」
    「?」
    「ここでの用事が済んで、ビオリアへ帰ったら結婚しよう。僕は船乗りだから何週間に一度しか帰れないけれど、そのときは君をたっぷり愛するよ」
    ユーリは真面目な顔で言った。
    「ユーリ、あなた少しも迷わずに言ってくれるのね」
    「おかしいかな?」
    「ああ、ユーリ!」
    リッカはユーリの背中に両手を回し、自分の顔をその胸に押しつけた。
    街頭で男性に抱きつくビキニ姿の巫女を行き交う人々が白い目で見る。
    「あなたには星渡りの巫女がいるというのに。・・ごめんなさい、さっきのは冗談よ」
    「冗談?」
    「いくら未来を読む巫女でも、昨日の今日ですぐに妊娠したかどうかは分からないわ」
    「・・そうか、それは残念だな」
    「冗談を言うのが下手でごめんなさい」
    「ああ、本当に下手だよ。・・でも、今は無理でも、いずれ分かるんだろう?」
    「ええ、いずれは」
    「なら、そのときが楽しみだね」
    「・・」
    「そうだ。今日のこの後のことは見えるかい?」
    「これから行政庁でのこと?」
    「そうだよ」
    「それも見えないわ。本当に」
    「駄目なのかい?」
    「ええ、行政神官との対面が成功するのか、失敗するのか、全然見えないの。まるで霧の中で景色を見るみたいな感じ。・・こんなことは初めてだわ」
    「いいさ。・・君は疲れているんだよ。長い航海を務めたんだから」
    「・・」
    「きっとうまくいくさ。君がいるんだから」
    「ありがとう、ユーリ」
    ユーリはにっこり笑って先に歩き出した。
    リッカはその後ろ姿をしばらく見て、自分の下腹部をそっと撫でた。
    そしてユーリから離れすぎないように慌てて追いかけていった。

    2.
    行政庁に出向いた二人をザカリヤ・リリタス行政神官が迎えた。
    久しぶりに合うザカリヤは以前よりも老けたように見えた。
    「そなた、逞しくなったな」
    ザカリヤはユーリをまぶしそうに見て言った。
    「実は、シャルテからそなたに来て欲しいと要請されておる」
    「やはり、そうですか」
    「ん? 知っていたのか?」
    「はい。ここにいるリッカの巫女縛りの占いで知りました」
    「巫女縛り? 南部地方の風習であるな。・・お前がそうか、女よ」
    ザカリヤはユーリの後ろでひざまずくリッカに聞いた。
    『コーミンの巫女、リッカと申します。シャルテからの召喚に応えてはなりません』
    『ん? それは何故か』
    『ユーリをシャルテに行かせることは、この惑星の未来に災いと不幸をもたらします』
    ユーリには、リッカがザカリヤに無言で向き合っているように見えた。
    『それはどのような災いであるか』
    『ご覧下さい』
    リッカはザカリヤに占いで得たイメージを見せる。
    「これはひどい・・」
    シャルテの宇宙船が惑星を焼き尽くすところまで見て、ザカリヤは感想を口にした。
    『どうぞ、今回の星渡りはご再考下さるよう・・』
    『巫女よ。お前の意見は理解した。しかし、それはうさん臭い占いの一つにすぎぬ』
    『巫女縛りの占いはそのようなものではありません! それに、これはビオリアの行政神官様の命でもあるのです』
    あの女か。
    ザカリヤはビオリアの行政神官の顔を苦々しく思い浮かべた。
    巫女の身でありながら、アクナス最年少の行政神官になったアイリ・キリギス。
    「女よ。わしはこの惑星全体に責任があるのだ。済まぬが、その申告だけでシャルテとの外交を損なうことはできん」
    そしてザカリヤはユーリに向かって質問した。
    「ユーリ。事情はこの巫女から聞いた。そなたの意見は如何か」
    「僕は・・」ユーリは話しかけて、リッカをちらりと見た。リッカはじっとユーリを見ている。
    「ユーリよ。わしはそなたの意見を尊重する。よく考えて決めなさい。・・その前に」
    ザカリヤは小さな丸い黒石を取り出した。
    「これをそなたに預ける。これはトローヤ大神官が先の帰星の際に残されたものだ」
    それはトローヤとアズナの星渡りの後、リリナギの祭壇に落ちていたものだった。
    シャルテからの星間通信で、トローヤはこの黒石をユーリに持たせるよう特に強く指示していた。
    ユーリは黒石を受け取って目の前にかざした。
    それは黒光りしてガラスのように輝いて見えた。
    『・・よく来た。ユーリ・タイガよ』
    え?
    『見るのだ』その声はユーリの頭の中に響いた。それはかつて、ユーリを聴聞したトローヤ大神官の声だった。
    「いけない! ユーリ!!」リッカが叫んだ。
    大都市の光景が目の前に広がった。
    空を飛ぶ白い航空機。高架道路には色とりどりの自動車が行き交う。
    たくさんの人々が笑顔で歩いている。
    近代的で清潔で美しい都市。
    『この街をお前が造るのだ』
    矢のような形状の宇宙船が星の海を進んでいる。
    その先端にあるコックピット。船長席に座るのはユーリ自身だった。
    宇宙船はこれから深宇宙の探検の旅に出発するのだ。
    ああ、これは僕の夢。
    『お前は夢を実現するのだ』
    ユーリの横に美少女が寄り添っていた。
    緑色の長い髪。わずかばかりの布片をまとっただけの白い肌。
    どこかで見た少女だった。誰だろう?
    少女は妖しく笑うと、ユーリの手を取って自分の胸にあてた。
    ユーリの手のひらが柔らかい乳房を押し包んだ。
    『この娘はお前のものだ』
    ユーリは黒石を目から離して胸元にしまった。
    「僕は・・」小さな声で言いかけた。
    「僕は、シャルテに行かなくてはなりません」強く、はっきりと言った。
    『ユーリ!?』
    リッカはユーリに語りかけたが、反応はなかった。
    ユーリの心を覗くと、そこは黒い泥水の中のようで何も見えなかった。
    「ユーリ・・」
    ユーリはリッカに振り向いて笑った。
    「今まで世話になったね。感謝するよ。これからは僕一人で大丈夫だから」
    「そなた、もう、意志を決めたのか?」ザカリヤが聞いた。
    「はい。僕はシャルテに渡ります。どうぞ、準備をお願いします」
    「そうか。では、そのように計らおう」
    「神官様、ユーリが変です。・・どうぞ、先ほどの黒い石をお見せ下さい!」
    「女よ、下がりなさい。これはもう決定されたことなのだ」ザカリヤはリッカの訴えを却下する。
    「この巫女をビオリアに帰して下さいますか。どうぞ大事に扱ってあげて下さい」
    ユーリが言うと、ザカリヤは「うむ」と応じた。

    3.
    ザナリヤの執務室。
    星渡りの巫女の第3公期で16歳のナミカがザカリヤの前でひざまずいていた。
    「身に余りある光栄、喜んでお受けいたします。行政神官様」
    「巫女の務めを立派に果たされるよう、願っておるぞ」
    「はい」
    ザカリヤは椅子から立ち上がり、頭を床につけたままのナミカを残して出ていった。
    ナミカは頭を上げ、窓の外を見た。
    ・・姉様、とうとうあたしの番が来たわ。
    遠くに巫女の浜が見える。
    星渡りの巫女は、もうすぐ次の第1公期の娘が決まる時期になっていた。
    今年はどんな子が選ばれるのかしら。
    どうやら自分は、新人さんには会えそうにはないけれど。
    本来、星渡りは最終年度である第4公期の巫女が務めるのが慣例である。
    しかし1公転の間に星渡りが2回続いたために第4公期の巫女がいなくなってしまった。
    さらに今回の星渡りが決まったので第3公期の自分が送ることになったのだ。
    自分が送るトオマは、あのユーリ・タイガだという。
    姉のアズナがユーリを愛していたことは知っていた。
    あの頃ナミカは異星人のユーリを恐れていた。
    しかし、今はユーリが優しい男性だったということを理解している。
    でなきゃ、姉様が好きになるはずがない。
    姉様、本当はユーリを送りたかったかもしれないな。
    今度はあたしがユーリを愛するのだ。姉様以上に愛するのだ。
    公式にユーリがトオマと決まった以上、ユーリが自分のすべてであり、自分の身体と命を捧げる相手なのだ。
    そう、あたしの身体と命はユーリのものになるのだ。
    ナミカは心の中に覚悟を決めて部屋を出た。
    廊下の角の反対側に父がいた。
    「行政神官様!」
    「公式の場では言えないことを言う」
    「?」
    「この1公転、異例ずくめだった。第3公期のお前にまで星渡りの務めをさせるのは心痛である」
    「・・」
    「実のところ、第3公期ではスベルカがお前に負けず優秀である。わしはスベルカを指名しようかと考えた」
    ザカリヤは言いにくいことを一気に話そうとしているようだった。
    「しかしこの状況で、スベルカを指名したら何と言われるだろうか。行政神官は実の娘を避けてスベルカを指名したと」
    「!」
    「わしは決めた。大神官の来星は来期もあるのだ。そのときは最終公期になったスベルカに務めてもらう。そして今回は、愛するお前を遣わすと」
    「ああ、父様・・」
    父の苦悩を理解してナミカはザカリヤの胸に抱きついた。
    しかしナミカはすぐに身を離して言った。
    「大丈夫。あたしきっとうまくできる。父様の娘として恥ずかしくないように務めるわ」
    「うむ。頼むぞ、ナミカ」
    ナミカは身を翻すと、決意の表情でザカリヤの前から走り去った。

    4.
    3日後。
    トミヤバールから遠く離れた無人島でナミカはユーリを迎えた。
    星渡りの儀式は、リリナギと呼ばれるこの島で行われるのだ。
    二人は島の高台に登って海を望む。
    「いいところだね」
    ユーリは振り返ってナミカに言った。
    「今日はとてもいいお天気で海も穏やかなようです」
    「絶好の星渡り日和かい?」
    「はい。星渡りに天候はあまり関係ありませんが、それでもトオマが気持ちよく渡っていただけることは無上の喜びです。・・この身をもってトオマの星渡りに仕えます」
    青く染めた布を頭に被ったナミカが地面に膝をついて頭を下げた。
    「僕にそんなお辞儀はいらないよ」
    ユーリはナミカの手をとって立たせる。
    「可愛いね」
    ユーリはにっこり笑ってナミカの顎を右手の人差し指で持ち上げた。
    ナミカの首に金属の首輪が溶接されているのが見えた。
    ナミカは頬を赤らめながら思う。ユーリってこんな人だったかしら?
    「今日はよろしく頼むよ、ナミカ」
    「あ、はい。・・トオマのお望みのままに」
    ユーリが両手を伸ばしてナミカの青布を外した。
    ナミカの裸身が現れる。
    自分を見つめるユーリの視線に我慢できなくなったように、ナミカは視線をそらせた。
    ユーリがナミカの頬を両手に挟んで、自分の方を向かせる。
    「君は怖くないのかい? これから星渡りの務めをすることに」
    「あ、いえ。・・トオマに尽くすことが、よ、喜びですから・・あっ」
    ユーリはナミカの頬を両手で押さえたまま、顔を近づけ、そのまま唇を押し付けた。
    ナミカは逃れようとすこしの間もがいたが、すぐに抵抗を止めた。
    そのまま何十秒かの時間が過ぎる。
    ついにナミカの膝から力が抜けた。崩れ落ちそうになるのをユーリが支えて立たせる。
    「君が尽くしてくれて嬉しいよ」
    「は・・、はい・・」
    ユーリはナミカをそっと座らせると、足元に置かれた木箱の蓋を開けた。
    ナミカは地面に手をついて肩で息をする。
    あ、あたし、どうなっちゃったんだろう。大事な務めなのに・・。
    「お、お食事と、お湯のご用意が、できて、おりますので、ど、どうぞ・・」
    「ねえ、前に会ったとき、君は僕を怖がっていたんじゃなかったかい?」
    ユーリが聞いた。
    「い、いえ。そんなことは、ございません」
    「いいんだよ。僕はシャルテに渡ることさえできたら、それで十分なんだ。ただ・・」
    「?」
    ユーリは木箱から縄束を取り出して言った。
    「ただ、君がちゃんと仕えてくれるかどうか、僕はそれだけが心配なんだ」

    5.
    ナミカは後ろ手に縛られ、さらに左右の膝に掛けた縄を両脇に引かれてM字の形に開脚させられた。
    ユーリは近くの手頃な岩の上に腰掛けると、地面にそのまま転がしたナミカを眺めた。
    ナミカの股間がユーリに向かってさらけ出されている。
    「くぅっ・・」ナミカが苦しげに喘ぐ。
    「どうだい、上手に縛るだろう?」ユーリが言った。
    「以前は僕は女性を縛るなんて、考えたこともなかった。アズナに裏切られてから、勉強したのさ」
    「う、裏切るなんて、姉様はそんなこと」
    姉様は、巫女の務めをみごとに果たして・・。
    「アズナは大神官に縛られて、星渡りの務めも忘れて快感に打ち震えたんだよ」
    「姉様が・・?」
    「君もしばらくそのまま置いておくから、見られて悦ぶ姿を僕に見せてくれるかな?」
    「そ、そんな」
    「不満かい? 僕は君の何だっけ?」
    「あぁ。ト、トオマの望むままに・・。くっ」
    ナミカは気丈に耐えていた。
    あたしはすべてをトオマに捧げるんだ。
    この身体はトオマのもの。どんなことでもトオマに尽くして・・。
    ユーリに受けた緊縛は決して厳しいものではなかった。
    この程度だったら、あたしは耐えられる。
    しかし今、自分はトオマに向かって両足を開いているのだ。
    巫女としてトオマを迎えるために守ってきた場所。
    その場所を開いて、奥までトオマに見ていただいている。
    もはや自分では隠すこともできない。
    ああ。
    「ほほう、君も一人前に濡れるんだね。安心したよ」
    ユーリが顔を近づけて見ている。
    「お・・、お願い、ですから、・・くっ、そんなに近くでご覧にならないで・・」
    「匂うねぇ」
    「あぁ!」
    ユーリの言葉がスイッチになっているかのように、溢れる粘液の量がぐんと増した。
    「すごいや」
    あたし、見られるだけで、こんなに感じるなんて。
    「僕のものが欲しいかい?」
    「あ、あ・・」
    「僕はトオマだよ。素直に答えなさい」
    「ほ、欲しいです、この中に。・・い、入れて欲しい」
    ぴしり。
    ユーリがナミカの尻を鞭で打った。
    「きゃ!!」
    「渡りの本番まで僕のものは使えないよ。それくらい星渡りの巫女なら知っているだろうに」
    「も、申し訳ありません!!」
    ユーリはナミカの両足の縄を解いて、身体を起こさせた。
    「はぁ、はぁ・・」
    ようやく両足を閉じることができたナミカは、土にまみれた身体を丸くして喘ぐ。
    「君はもっと惨めな姿を僕に見られた方がいいようだね。どうだい?」
    「は、はい。お望みのままに・・」
    「どこか、君を逆さに吊るすのにいい場所を教えてくれるかい?」

    6.
    リリナギには旅立ち前のトオマをもてなすための施設が作られている。
    そのひとつ、食堂は一度に100人はテーブルにつけるだけの広さがある豪華な部屋だった。
    食堂に隣接する厨房。
    その厨房のグリルの上に縄を掛けて、ナミカは左の足だけで吊られた。
    両腕は後ろ手に縛られたままである。
    「んんっ・・」ナミカはじっと耐えていた。
    この部屋まで移動してくる間に、少しだけ落ち着いたような気がする。
    自分の身体を見上げると、陰毛が濡れて光っているのがわかった。
    トオマがご覧になっている。縄に締め上げられて自由を奪われたあたしを。
    縛られて見られるだけでこれほど濡れるとは、自分でも思ってもいなかった。
    ユーリは、あたしのトオマは、巫女を縛って眺めて楽しむタイプの人なのだろうか。
    ああ、こんなだったら、もっと姉様に被縛ポーズの訓練を受けておくんだったわ。
    ・・
    星渡りの巫女は、トオマの様々な嗜好に応えられるように自らを鍛錬している。
    前戯を受け入れるためのポーズと表情。口や手足などで行ってさしあげる各種の行為。
    トオマが緊縛術に堪能な場合は、いかなる縛りにも耐えられる柔軟さと忍耐強さ。
    その逆に縛りに不慣れなトオマの場合は、巫女の方から導いてあげられるだけの緊縛の知識と自縛の技。
    縛った巫女を鑑賞して楽しむトオマのためには美しい被縛ポーズ。あるいは効果的なもがき方と喘ぎ方。
    巫女に苦痛を与えて楽しむトオマのためには、あらゆる責めを自ら受ける被虐性と、トオマを満足させられるだけの苦しみ方。
    あらゆる行為を通して重要な、恥じらいと奥ゆかしさ、そして大胆さ。
    これらはすべて、トオマとともに巫女も高まって、星渡りを成功させるために重要なことなのだ。
    ・・
    「この姿もいいね、なかなか」ユーリが嬉しそうに言った。
    子供のようにナミカの逆さ吊りの身体を撫でまわして喜んでいる。
    「ぎ!!」
    突然、吊られた左の足首に激痛が走った。
    ユーリが自分に抱きついたまま、ぶら下がったのだ。
    「おっと、痛いかいな? やっぱり」
    ユーリは一旦床に下りてナミカの身体をくるくる回すと、再びナミカに抱きついてぶら下がった。
    「きぃーゃああああーーー!!!!」
    二人分の体重が足首を締め付けて、ナミカはユーリとともに回転しながら悲鳴を上げ続けた。
    足首から先の感覚が完全に消えてなくなった。
    まるでそのまま縄で切断されたのかと思った。
    回転が完全に止まると、ユーリはようやくナミカから離れて、グリルの上に座った。
    実に楽しそうな顔をしていた。
    ・・あぁ、喜んでいただいている。
    あたしでも、苦しむ姿、喜んでもらえるんだ。
    自分の身体を見上げると、縛られた左の足首から先は濃い紫色に染まっていた。
    これは直るまでしばらくかかりそう。2~3日は普通に歩けないかも。
    あ、っと、先のことまで心配しなくてよかったんだ。明日の朝にはアルとジルの元に行くんだから。
    「そこはね、アズナが自分の腿肉をステーキにした場所だよ」ユーリが言った。
    え? 姉様が何をしたって?
    「あのとき、君も巫女の浜で祈ってたんだろ?」
    ユーリはポケットから黒い石を取り出し、耳に当てながら言う。
    「アズナはね、右足をつけ根から切り落として、太ももの肉を料理して大神官に食べさせたんだよ」
    ええ!?
    もしかして、あのとき感じた衝撃は姉様が足を切り落とした瞬間だったの?
    「アズナはそれで感じたんだよ。あそこからとろとろと粘液を垂れ流して」
    「姉様が、そんなこと・・!?」
    「そうさ。アズナは自分の身体を大神官に食べさせることに興奮したんだ」
    「ああ、そんな・・」
    「君にもアズナと同じ血が流れているんだよ。どうだい、僕にその腿肉を食べさせてみたいかい?」
    「ト、トオマがお望みなら・・」
    ユーリはそばにあった桶を持つと、中の水をナミカの顔面に浴びせた。
    「きゃっ」
    「僕の望みじゃない。君が望んでいるか、だよ」
    ナミカの右の太ももをぴちゃぴちゃと叩く。
    左足は天井から吊られてぴんと伸びているが、右足は斜め前に垂れていた。
    「今、余分なのはこの右足だけだね」
    ああ。
    くすぶっていた被虐の炎が、再び燃え上がるような気がした。
    姉様は、姉様は、自分の足の肉を焼いてトオマに召し上がっていただいたんだ。
    あたしはどうなるのだろうか。あたしも自分の足をトオマに差し出すの?
    「アズナが自分で右足を切り落としたのは、この機械だよ」
    目の前に肉切機があった。大きな刃がバネ仕掛けで落ちる機械だった。
    「アズナは右足をまっすぐ伸ばしてここに載せたんだ。そして自分でレバーを引いたんだよ」
    ユーリは肉切機のレバーを握った。
    「想像してごらん。自分の足にこの刃を押し当てて、レバーを引く気持ちを。・・アズナはそのとき、じんじんに感じたんだよ」
    レバーを引く。ごん、という音とともに、巨大な刃が何もない台の上に落ちた。
    「あぁ・・!!」
    ナミカは無意識に声を上げた。
    自分の足が切断されることを想像した。まるで食肉用の獣のように処理される足。
    ナミカの心の中で何かの感情が崩れたような気がした。
    ・・股間がじゅくりとした。
    「そ、粗末なものですが、よろしければこの腿の肉を召し上がっていただきたく、存じます」
    ユーリはにやりと笑った。
    「そうかい? なら、せっかくだから、君の足のソテーをご馳走になろうか」

    続き





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    アクナス第3部(2/3)・リリナギ

    7.
    縛めを解かれたナミカは、ふらふらと料理の準備を始めた。
    縛られていた足首が痛くて体重を乗せることができない。転倒しないように気をつけなくちゃ。
    とりあえずマクワの実の粉を足首の傷に塗ると、痛みがじーんとした痺れに収まった
    ユーリがにこにこしながら、横で見ている。
    「今、お飲み物を出しますから、どうぞ隣室でお待ちになって・・」
    「いいや、ここで見物させてもらってもいいよね?」
    「はい。どうぞ」
    火を起こす。調味料とソースを用意して、横に置く。
    お肉に合う果実酒は。
    ・・あ、そうだ。
    「お肉の火加減は、いかがいたしますか」
    「うん、あまり焼きすぎないで軽く、君の身体の香りを楽しめるように」
    どきん!
    ああ、姉様。姉様もこんなに感じたの?
    「・・では、腿肉を切ります」
    「うんうん」
    ナミカは肉切機の台に右足を乗せた。
    できるだけ、胴体に近い位置で切断するように、精一杯に足を伸ばす。
    ごくり。
    目を閉じて、自分の胸を押さえる。
    あたし、大丈夫かな?
    うん、大丈夫。きっとうまくやれるわ。
    ナミカはレバーを両手で握る。
    深呼吸。
    『駄目よっ、ユーリ!!』
    ジンのメッセージが響いた。
    ユーリが振り返ると厨房の入口にビキニ姿の巫女がいた。
    「おや、リッカじゃないか」
    『止めなさい。そんなことをしても、星渡りには何も関係ない』リッカが伝えてくる。
    「ねえ、この島には誰も立ち入れないんだよね?」ユーリはナミカに聞く。
    「え、・・そ、そうです」ナミカには事情が分からない。
    いったい何? この子も、巫女なの?
    「リッカ、立ち入り禁止の場に入った罪は重いんじゃないのかい?」
    ユーリはポケットに手を入れてリッカに近づいた。
    「君だって、ビオリアじゃ女の子を切り刻むショーを見せてたじゃないか」
    『その黒い石を離して!』
    リッカはそう言うと、目を閉じて両手を胸の前で合わせた。
    「?」
    ユーリの頭の中に鮮烈なイメージが流れた。
    ・・ニコチコヤ号で嵐と戦った夜、コーミンのパレード、巫女縛りの占い。そして占いで見た未来のイメージ。
    未来、未来。
    黒い石に見せられた成功と栄光のイメージ。
    そして占いで見た侵略と破滅のイメージ。
    相反する二つの未来が交互に現れ、重なり合い、溶けて混じりあった。
    ユーリはまっすぐ立っていられないような気がして頭を押さえる。
    『ユーリ、目を覚まして!!!』
    さらに時間が遡った。
    ・・リッカとの出会い、船員としての日々、アズナとの別れ、アズナと過ごした日々、アズナの笑顔。
    アズナ、アズナ。
    色白の少女の大きな瞳が自分を見つめている。
    ・・アズナ!?
    ユーリの手から黒石が床に落ちた。
    ・・『いかんっ』その言葉は明らかに黒石から発せられた。
    ふらつきながら黒石を拾おうとするユーリ。
    その前にリッカが立ちはだかった。腰を屈めてリッカを見上げるユーリ。
    次の瞬間、リッカの口から黒い霧のようなものが吹き出した。
    ユーリの顔面にかかったそれは、ざわざわとうごめく小さな虫の群れだった。
    虫はユーリの口や鼻、耳などから侵入しようとする。
    「うわぁ!!!」
    ユーリは床に転がって両手で顔面をかきむしる。
    その間にリッカは黒石を拾い上げた。
    『あ、あなたは・・?』ナミカがリッカに聞いた。
    『私は、コーミンの巫女リッカ』
    リッカは黒石を自分の顔の前に掲げて見た。
    『この下等な女が・・!』
    黒石から憎しみと蔑みの感情が撒き散らかされる。
    リッカは再び霧を吹いた。黒石は虫の群れに覆いつくされる。
    『やめろ。・・おぞましい』
    衝撃を受けたように黒石の思念が揺らいだ。
    『や、やめ・・』
    それは次第に弱くなり、やがて小さくなって消えた。
    「ああ・・」
    リッカはようやく身体の力を抜く。
    石の色が青く変わっていた。
    『これは、星渡りの巫女の玉光石ね』
    それはナミカの額の丸石と同色だった。

    8.
    リッカは気絶したユーリと玉光石から海虫の群れを呼び戻した。
    それは雲のようにリッカの全身を覆い、やがて彼女の中に吸収されていった。
    「はぁ、・・くぅ!」
    その瞬間、リッカは性的な感覚に震えたようにナミカには見えた。
    『私はこの子達を海に返してくるわ。あなたは、ユーリを見ていて下さい』
    ・・
    まもなくユーリは意識を戻した。
    ユーリは自分が黒石に操られていた間の事は憶えていたが、シャルテに行きたいという気持ちはすっかり消えていた。
    そしてリッカとナミカから事情を聞き、すべてを理解した。
    「ナミカ、僕は、君にいくら謝っても済まないことをしてしまったようだ」
    「あたしはトオマのものなのです。どうぞお気になさらずに」
    「それに、僕はお姉さんのことを君に言ってしまった。その、自分の足を切り落として・・」
    「大丈夫です。・・姉様は、そのとき自分にできることを精一杯しただけですから」
    「しかし」
    「ユーリ、あなたはシャルテの大神官が玉光石に込めた思念に操られていただけよ。あなたが罪の負い目を感じることはないわ」
    リッカが玉光石を手にして言う。
    「それは姉様がつけていた石だわ」ナミカが石を見て言った。
    「ええ。本当に大神官は巧妙に仕込んだのよ。ユーリにだけ作用するように玉光石に力を流し込んだのだから」
    「リッカ。君は、どうやってここに来たんだい? このリリナギの島に」ユーリが聞いた。
    「ニコチコヤ号よ。あの帆船の人達が、私をこの島まで乗せてくれたわ」
    「そうか、さっき君が口から吹いた霧は、もしかして海虫か」
    「ええ、そうよ。さすがのシャルテの大神官もあれは知らなかったようね」
    「えーっと、じゃあ、まあ、その、君も海の精霊と付き合いがあったんだね」
    リッカの顔が少しだけ赤くなったように見えた。
    「ユーリ」
    「何だい?」
    『もう二度と言わないつもりだったけど、もう一度だけ言うわよ。・・ばか』
    ユーリは笑ってリッカを抱きしめた。
    リッカも抵抗せずに、ユーリに抱きついた。
    ナミカは不思議そうな表情でユーリとリッカを見ていたが、突然自分だけが何も着ていないことに気付き、頬を赤らめて裸の胸を両手で隠した。

    9.
    ユーリ、リッカ、ナミカの3人は、リリナギの祭壇のある広場にやってきた。
    ユーリは自分で歩けないナミカを背負っている。
    「ユーリ、大事な話よ。・・これからのこと」リッカが言った。
    「うん、トミヤバールかビオリアへ戻るんだろう?」
    「そ、それは駄目です!」ナミカが叫んだ。
    「あたし、もう皆のもとへ帰ることはできない・・!」
    「え、どうして?」ユーリがナミカを見た。
    「ユーリ、リリナギの場から星渡りの巫女が生きて帰ることはあり得ないのよ」リッカが説明する。
    「それは、たとえ星渡りが中止になってもなのかい?」
    「ええ。それだけの覚悟と準備の上でなされるのよ。星渡りが中止になることはないわ。・・彼女の首輪をご覧なさい」
    ナミカの首には金属の首輪が溶接されている。それはトオマであるユーリの妻の印なのだ。
    「ナミカはこの世に生きている限りあなたの妻なのよ。たとえそれが星渡りの間までの短い時間だとしても」
    「・・」
    「もし、このままトミヤバールに戻ったら、彼女は星渡りとトオマを見捨てた巫女として人間扱いされないでしょうね」
    「そんな、彼女のせいじゃないのに。それは不合理だ」
    「あなたはそう思うかもしれないけど、この星ではそう思われない」
    「・・」
    「だから、ユーリ」リッカはユーリの目を見ながら言った。
    「あなたは、ここで、星渡りをしなくちゃいけない」
    「僕は、シャルテには行きたくないよ!」
    「分かってるわ。あなたはシャルテに渡るべきではない。・・あなたが渡るべきは、あなたの生まれた星」
    何だって?
    「そんなことが、できるのかい? 地球はシャルテとは比べ物にならないくらい遠いんだよ」
    「ああ、・・それは、不可能ではありません」ナミカが言った。
    「星渡りは距離とは無関係です。目的の星を正しく捉えてさえいれば、どんな遠くにでも、"道" は開けます」
    「そう。重要なことは、あなたの星を正しく認識すること。とても遠くて簡単ではないけど、それができれば渡ることができる。・・そして、それこそが今ここで為すべき唯一のことだわ」

    10.
    トミヤバールの巫女の浜。
    巫女達が輪になって座り、ナミカとトオマの星渡りが成就することを祈っている。
    「静かね」
    ナミカと同期のスベルカがつぶやいた。
    雲ひとつない西の空は先ほど沈んだ太陽の赤い光が残っている。
    第一月のマナと第二月のヨナが三日月になって並んでいるのが見えた。
    チコヤの木が並ぶ浜には静かなさざ波が寄せるだけで、天候が荒れる気配はまったくなかった。
    今までの星渡りでは、夜になるに従って雲が集まってきたものだけど。
    「ナミカ、どうしてるの?」
    スベルカは親友のナミカの顔を思い浮かべながら再び祈り始めた。

    11.
    リリナギの祭壇の脇で、ユーリが目を閉じて横たわっていた。
    リッカがユーリの頭に両手を当てて、何かを読み出そうとしている。
    ナミカも手を添えて力を送り込んでいる。
    やがてリッカは手を離してため息をついた。
    「・・駄目だわ。あなたの船がこの星系に入ってからのことは見えるけど、それ以前のことは分からない」
    「そうか」
    すっかり暗くなっていた。
    「夜になったね」
    西の空に二つの月が並んでいる。
    そう、あのときも二つの三日月の下だった。コーミンの草原で巫女縛りの占いを・・。
    !!
    巫女縛りの占いだ。
    『それよ。巫女縛りの占いなら、遥かに長い時間を越えて見通すことができるわ』
    「そうだよ。アサジンの縄はないと思うけど」
    『心配しないで。今、ここには優秀な巫女が二人もいるのよ』
    『あたし、何でもお手伝いするわ!』ナミカが言った。
    ・・
    ユーリは食堂からランプを持ってきて灯を点けた。
    リッカがビキニを脱いでナミカと向き合う。
    二人の少女が全裸で抱き合って、地面に膝をついた。
    『ナミカ、ユーリの縄を素直に感じるのよ。これから彼がすることはすべて受け入れて・・』
    『ええ、わかったわ・・』
    「始めるよ」
    ユーリはナミカとリッカの両手を頭上で合わせて縛った。
    二人の身体をそのまま縄で縛り合わせて行く。
    手首から膝の下まで縛ると二人を押し倒し、今度はその腰のあたりに自分の膝を差し入れて二人の下半身をぐいと捻り上げた。
    「んっ」「あぁっ」
    リッカとナミカが同時に声を漏らしたが、ユーリは構わず縄を引いてさらに締め上げる。
    やがて二人の少女は逆海老の姿勢のまま密着してひとつになり、そのまま縄の中に埋もれていった。

    12.
    アクナスの二つの月の姿がキャビンの窓に見えていた。
    その姿がどんどん遠ざかって行く。
    やがてアクナスの太陽が小さな点になり、星の海の中に埋もれた。
    ユーリの乗った宇宙船はエレミナス星系を離れようとしている。
    いや、違う。ユーリの理性が事実に気付いた。
    離れているんじゃない。これは近づく様子を逆回転で見ているんだ。
    しばらくの間、目の前の景色に変化がなくなった。
    次の瞬間、星座の形が変化して遠ざかった。
    リープ航法の小ジャンプだ。
    小ジャンプが数回繰り返され、その度に景色が切り替わって星系が遠ざかって行く。
    次のジャンプは、少し長かった。
    思い出したぞ。これは大ジャンプだ。
    僕達は銀河系から大ジャンプしてきたんだ。

    13.
    『思い出したのね』
    「ああ、ちょっと待って。控えるから」
    控えると言っても、ここには紙もペンもない。
    ユーリは鞭の柄を逆に持って、地面に数式を書いてゆく。
    ユーリの頭の中でデータがどんどん明確になっていった。
    そう。そうだ。銀河系は。ユーリは天空を見上げる。
    いつの間にか三日月は地平線の彼方に沈んで、空は星の海だった。
    「ねぇ、リッカ。地球は銀河系というところにあって、その座標は・・・」
    そこまで喋って気がついた。
    二人の巫女は縄でできた繭の中に封じ込められていた。
    「ごめん。すぐに解くよ」
    『気にしないで、別に平気だから』『あたしも大丈夫です』
    二人の元気なメッセージが伝わってくる。
    ユーリは縄を解く。解いても解いてもその下から次の結び目が現れる。
    我ながら、よくここまで縄を重ねて縛ったものだな。
    不思議と楽しい気分になって、縄を解いて行った。
    やがて、縄の下から二人の少女が現れた。
    彼女達の柔らかい肌にはユーリが縛った縄の痕がくっきりと刻まれていた。
    二人の手をとって身体を起こしてあげる。
    「わかったよ。地球は、僕の生まれた星のイメージは・・」
    『私達にもわかるわ。・・あそこね!』
    二人が揃って同じ方向を指差した。
    それはユーリにも見えた。
    はるかな天空の一点に、銀河系が、その中に太陽系が、そして地球が。
    二度と分からないと思っていた故郷の星。
    ユーリは二人の少女を抱きしめた。
    「見えた。・・見えたよ」

    14.
    ザカリヤは執務室の窓から外を見た。
    まだ、何も始まらぬのか?
    ナミカは、いや、あの若者は何をしておるのだ。
    ・・
    巫女の浜でも、巫女達が心配している。
    もう深夜である。
    ナミカが失敗するとは考えたくはなかった。
    皆でリリナギの場に想いを寄せてみるが、そこには何も見えなかった。
    「祈るしかないわ」
    スベルカは他の巫女にそう言って、再び手を合わせた。

    15.
    ユーリはリッカに指示されて、リリナギの祭壇の下に穴を掘っていた。
    小柄な少女を一人、埋めるのに適したサイズの穴。
    「分かっていると思うけど、星渡りはトオマと巫女の性交によって為されるの」
    リッカが説明する。
    ユーリはごくりと唾を飲み込む。そう、僕は巫女のセックスのエネルギーで飛ばされるんだ。
    「その相手は、私じゃないわ。ナミカよ」
    今度はナミカがごくりと唾を飲み込んだ。そう、あたしは自分の命を燃やして星渡りの "道" を作る。
    「行き先がシャルテだったら、ナミカひとりでもあなたを導けるわ。だけど・・」
    リッカは星空を見上げて地球の方角を指す。
    「ユーリの星はとても遠くて、その位置を間違いなく捉え続けているのは簡単ではないわ。・・だから私も手伝うのよ」
    「いったい、どうやって?」
    「あなた達のいる祭壇の下に、私を縛って埋めるの」
    「?」
    「あなた達の行為の間、私はユーリの星を確実に認識しておくわ。・・そして最後の瞬間、ナミカが道を作るときに、一緒に方向を示してあげる」
    「リッカ、どうやって方向を示すの? あなたの力がいくら優れていても、最後の瞬間に普通のジンの力では伝わらないわ」
    「これを使うわ」
    リッカは丸い石を取り出した。それはかつてアズナがつけていて、シャルテのトローヤ大神官が悪用しようとした玉光石だった。
    「これなら明確に星を示すことができる。玉光石を使うのは初めてだけど、多分うまくできるわ。ナミカ、いいでしょ?」
    「そうね。あなたならきっと使えるわ」ナミカが同意した。
    「リッカ。星渡りの瞬間に、君まで消し飛んでしまうなんてことは、ないよね?」
    ユーリが聞くとリッカは少し笑った。
    「それは大丈夫よ。穴に埋めてもらうのは、その瞬間に安全に隠れているためだから」
    「じゃ、君は無事なんだね?」
    「ええ。安心して。・・だからお願い。心をこめて私を縛り上げてちょうだい。あなたが私を厳しく縛れば縛るほど、私は安全なの」
    「わかったよ」
    『リッカ、それは、ちょっと違う』ナミカがリッカに伝えた。
    『お願い。ユーリには言わないで』すかさずリッカが答える。
    ナミカはリッカの目を少しの間見つめ、そして答えた。
    「わかった。・・それできっとうまく行くわ」

    続き




    アクナス第3部(3/3)・リリナギ

    16.
    明け方が近くなっていた。
    ユーリはリッカの両手を背中に回させて縛った。
    リッカに教わった緊縛術を駆使して、彼女の全身に縄を掛ける。
    さらにリッカの指示で目隠しと猿轡まで施した。
    猿轡をする直前、ユーリはリッカに短いキスをした。
    「世話になったね。・・本当にありがとう」
    『私こそ。あなたと出会えて、幸せだったわ』
    ユーリはリッカを穴の中に横たえた。
    ナミカが玉光石をリッカの額に押し当てる。玉光石はまるで初めからそこにあったようにぴたりと貼り付いた。
    「僕が旅立ったら、君はどうするんだい?」
    『そうね。ビオリアで巫女に戻るでしょうね。たまには故郷に帰って、大婆様にも会うわ』
    「そうか。リッカが幸せになるように、地球で祈るよ」
    『そうなればいいわね。・・さあ、土をかけてちょうだい』
    ユーリは立ち上がってリッカの上から土をかけた。
    リッカを埋めると、その上を平らに均した。
    『それでいいわ。・・さあ、あなたの番よ、ナミカ』
    「わかったわ。見守っていてね」
    『あなた達の成功を心から祈っているわ!』
    ユーリはナミカを抱き上げて、ゆっくりと祭壇に上がった。
    二人で向き合った。
    「僕のために命を捧げてくれて、本当にありがとう」
    「いいえ。それが星渡りの巫女です。あなたはトオマ。巫女が尽くすただ一人の方なのです」
    その言葉がユーリの心に染みた。
    ナミカの顔には強い決意が現れていた。彼女の決意を大事にしてあげたいと思った。
    二人はゆっくりと顔を近づけてキスをした。

    17.
    ざぁっ!!
    トミヤバールの巫女の浜に打ち寄せる波が急に高くなった。
    巫女達ははっとして空を見上げる。
    東の空が白みかけていたと思ったが、急に大きくなった雲が空を覆って周囲は再び暗くなった。
    始まった!
    巫女達は慌しく姿勢を正した。
    ああ、ナミカを感じるわ!
    スベルカは引き締まった空気の中にナミカの気持ちを感じた。
    それは強い意志に満ちた精神だった。
    ・・
    がたがたと窓が揺れた。
    ザカリヤは執務室で机に向かっていた。
    「アルとジルよ。ナミカの星渡りが成就されんことを」
    立ち上がって小声で祈り、それから再び机に向かって座り、目を閉じた。
    ・・
    ビオリアの街を強風が吹き抜けた。
    ビオリアの行政神官で巫女であるアイリ・キリギスが神殿の庭で祈っていた。
    「あなたを信じていますよ。リッカ」
    アイリは神官のガウンではなく、巫女のビキニ姿だった。
    ばらばらと雨が降り出してアイリの肌を打ったが、アイリはそのまま祈り続けた。
    ・・
    荒野はまっすぐ立って歩けないほどの嵐になった。
    粗末な木造の小屋の扉がばたばたと揺れた。
    何かの木の枝が折れて吹き飛ばされている。
    小屋の中から占い師の老婆タシナンが出てきてドアを閉めなおした。
    「いよいよじゃな。リッカ」
    タシナンは遠い島にいるひ孫の姿を思い浮かべていた。
    「お前なら、きっとこの星を救えるぞい!」
    ・・
    惑星中で急激に低気圧が発達していた。
    その変化はあまりに急であったため、航海中の多くの船が嵐に対する備えができていなかった。
    どの船も慌てて帆を降ろしながら、理解した。
    これは、星渡りだ。
    今までとは何かが違う、星渡りだ。

    18.
    ユーリはナミカの身体に触れていた。
    腰から脇まで撫で上げるとナミカは過敏に反応した。
    乳首がはっきりと隆起している。
    ユーリはナミカの乳房を揉み、それから乳首を口に含んで噛んだ。
    彼女の身体が反り返り、爪先までのけぞった。
    「お願い、縛って・・」
    ナミカの声にユーリは足元の縄束を取った。

    19.
    祭壇の下の土の中でリッカが祈っている。
    今、彼女の心の目にはユーリの故郷の星がはっきりと見えていた。
    祭壇の上にはユーリとナミカがいる。ナミカの高まりが感じられる。
    自分はナミカと一緒に高まっていく必要がある。
    星渡りの瞬間、ナミカの胎内から発せられるエネルギーは、異空間に "道" を開く。
    そのとき自分も同期して "道" を正しくユーリの故郷の星に渡すのだ。
    おそらく、その次の瞬間には、ナミカと同じく自分の身体も崩壊して消えるだろう。
    リッカは不思議と落ちついていた。
    自分が消えてしまうと分かっていても、それでユーリが故郷に帰れると思うと嬉しかった。
    ナミカも理解してくれた。
    今はユーリとナミカがうまく愛を交わしてくれることを祈るだけだ。
    ナミカの性感がいっそう高まっているようだ。
    そう。きっとうまく行く。
    リッカがユーリに頼んで縛られたのは、リッカ自身も感じるためだ。
    ユーリの愛を受けるナミカに負けないように、自分も感じて高まるために、リッカはユーリに縛られることにしたのだ。
    本当は自分もユーリに抱かれたいが、それは決して叶わない望みだった。
    そのために自分はユーリが施してくれた緊縛で感じるのだ。
    地面に埋められて、みじめさと切なさを糧に感じるのだ。
    そしてユーリの星渡りを導いて、最期の瞬間にひっそりと消えるのだ。
    子宮がきゅんとなる感覚がした。
    ごめんね。あなたを生んであげられなくて。
    「んん・・っ!!」
    猿轡の下で、無意識に声が出た。
    リッカの額についた玉光石の色がわずかに黒く変わっていた。
    その黒味はどんどん増しつつあったが、リッカはまだそれに気付いていなかった。

    20.
    ナミカの全身の肌に縄が絡みついている。
    ユーリの緊縛は効果的で、ナミカの身体と心を心地よく締め上げていた。
    股間から大量の粘液が溢れている。
    「あぁ・・っ!!」
    大きな声が出た。
    ユーリの前で恥ずかしいと思ったが、ユーリが与えてくれた高みの中で自分が乱れるのは嬉しかった。
    ああ、あたしのトオマ。あたしは、今、トオマにこの身と命を捧げるんだ。
    額の玉光石が鈍い光を放っていた。

    21.
    リッカは念じている。
    シャルテの方向は・・。
    あれ?
    はっと気付いた。いつの間にか、地球を忘れてシャルテの方向を意識している。
    どうして?
    リッカは自分の額の石が黒く変貌していることを理解した。
    あなた、まだ消えてなかったの?
    『諦めぬ。余は諦めぬ。・・あの異星人を我が星へ渡らせるのだ』
    どす黒い感情が黒石から伝わってきた。
    駄目、それは駄目!
    ナミカの性感がさらに高まるのを感じた。もうトロトロになっている。
    彼女が頂点を迎える瞬間が近い。
    この石は、この黒石の思念はそれを待っていたのだ。
    何と狡猾なのだろう。
    ああ、この黒石に乗っ取られないように、ことを進めるにはどうしたらいい?
    リッカは土の中で頭を激しく振って、黒石を振り落とそうとした。
    しかし黒石はまるで彼女の額に根を生やしているかのように固着したまま外れなかった。
    ああああっ、ユーリー!!!
    リッカは土の中で叫んだ。
    突然、リッカの近くに別の光があった。
    その光が触れると、リッカの額から邪悪な黒石がぽろりと外れて落ちた。

    22.
    リリナギの上空で雲が渦を巻いていた。
    ユーリはナミカの状態を見て、自分のものを出した。
    ナミカは無意識にそれに手を伸ばしかけたが、全身を縛られているのでできなかった。
    ああ、お願いっ。それを・・。
    ナミカの気持ちが伝わる。
    ユーリはナミカの両足を開いて腰を上げさせ、そこへ体重をかけて自分の腰を強く押し込んだ。
    「!!!」
    ナミカが言葉にならない声を上げた。それは彼女のエクスタシーの叫びだった。
    ユーリから精が放たれ、ナミカの胎内に打ち込まれた。
    ナミカの膣からまぶしい光が溢れ、ナミカとユーリの全身を包み込んだ。
    その光の中から、輝く青い光の線が天空に向かって伸びた。
    しばらくの間、その光の線は方向が安定せず、異なる二つの方向を交互に指していた。
    そのひとつは、遥か銀河系の方向。
    そしてもうひとつは、エレミナス星系の中心にあるシャルテの方向。
    やがてその方向は1点に定まって静止した。
    光の中でナミカは安心したような表情になった。
    やがて光は祭壇全体を覆い、ユーリとナミカの姿が見えなくなった。
    ・・
    アクナスじゅうで発生した低気圧は、リリナギの島が夜明けを迎えると同時に急速に衰えた。
    朝日に照らされたリリナギの祭壇に人影はなかった。
    リリナギの島の海岸にはいつもの通り、静かに波が打ち寄せていた。

    23.
    その日の午後、トミヤバールの行政庁ではちょっとした騒ぎが起っていた。
    シャルテからユーリが渡ってこないと伝えてきたのだ。
    その代わりに、小さな黒い石が到着したという。
    星渡りが失敗することは、ごくまれにだが起こり得ることだった。
    巫女が目的の星を正しく示すことが出来なければ、トオマが辿る道はどこに繋がるか分からないのである。
    今回もそうなのだろうか。
    ザカリヤ行政神官は首をかしげる。
    我が娘のナミカがシャルテを正しく示せなかったとは、にわかには信じがたいことだった。
    ユーリの代わりに到着したという、黒石については理解の範囲を超えていた。
    ザカリヤがユーリに渡したあの黒石かもしれない。
    しかし、そもそも人間以外の物体が単独で異星に渡ったことなど、星渡りの長い歴史の中でただの一度もないのだ。
    ・・
    翌日、リリナギの場の状況が判明した。
    祭壇にはうっすらと黒く焼けた跡が残っていた。これは確かに星渡りがなされた証拠である。
    そしてその近くの地面がわずかに陥没していることがわかった。
    よく調べると、地面の中に小柄な人間くらいの大きさの空洞があり、その上の土が崩れたものと考えられた。
    あたかも、そこに人間が埋められていて、その人間がそのまま消滅してしまったかのような状況だった。
    午後になってビオリアの行政神官アイリ・キリギスからザカリア宛の親展通信が届いた。
    そこには、星渡りの巫女とコーミンの巫女が協力して異星人ユーリ・タイガの星渡りを成就させたこと、そしてこの惑星の未来が守られたことを祝する旨のメッセージが記されていた。
    ・・
    ザカリヤは星渡りの失敗をシャルテに報告するように指示した。
    誠に遺憾ながらユーリ・タイガの所在は不明である、黒石については当惑星では知りようもないことなのでシャルテにて適宜調査願いたし、と。
    さらに追伸として、短期間に多くの星渡りが続いているので未熟な巫女を投入せざるを得ない、貴神官のアクナスへの渡りは当分の間控えられたい、とも伝えさせた。
    「ナミカは成し遂げたのだ」サカリヤは理解した。
    ナミカはトオマの望む通りに星渡りを果たしたのだ。ただ目的の星がシャルテではなかったのだ。
    ユーリの行き先については心当たりがない訳ではなかったが、それは今となっては確認しようもないことだった。
    これでトローヤ大神官の態度も変わるだろう。
    いかに優れた能力の大神官といえども、シャルテへの帰星には星渡りの巫女に頼るしかないのだ。
    どこへ飛ばされるか分からないと不安になれば、安易にアクナスに渡ってくることもなかろう。
    ユーリ・タイガよ。
    そなたは、最後の瞬間までナミカを愛してくれたのだな?

    24.
    そこはアクナスの地上でも、宇宙でもなかった。
    ただ、暖かいオレンジ色の光に包まれた細長い廊下のよう空間だった。
    ユーリはその中を進んでいた。
    自分の力で歩いているのではない、何かの力に運ばれているような進み方だった。
    どこに向かっているのか分からないが、自分が進むべき "道" だけは見えていた。
    まるで海路の巫女が船の進路を示してくれているように。
    『そう、そのまま進むのよ』・・リッカ!!
    『大丈夫。"道" は開けていますから』・・ナミカ!!
    いつの間にか、左右に二人の少女が寄り添っていた。
    彼女達がたまらなく愛おしかった。
    両手を二人の腰に添えようとすると、ユーリの手はその中を通り過ぎてしまった。
    ああ、そうか。ユーリは理解した。
    『そう、私達に実体はないわ。その代わり、私達はどの空間にもあまねく存在するわ』
    リッカ、君はビオリアに帰らなかったんだね。
    『ごめんなさい。私はあなたにすべてを捧げるのが役目だったの。私の存在、すべてを』
    本当にありがとう。ここまで来て、もう僕は君にお礼を言うしかないよ。
    『あのね、ユーリ。あなたが旅立てたのは、私達二人だけの力じゃないのよ』
    それはどういうことだい?
    『実は、あの玉光石にはまだ大神官の思念が残っていて、最後の瞬間にユーリをシャルテに飛ばそうとしたの』
    え? じゃあ、戦ってくれたのかい。
    『ええ。でも、私の力では敵わなかった。あの人の助けがなければ』
    あの人?
    『ユーリ、その人はここにいるわよ』ナミカが言った。
    前方に女性の姿があった。
    その女性はユーリを見るとにっこり笑って両手を広げた。
    ・・アズナ!!!
    アズナはユーリの周囲を舞うように飛び、それからユーリの胸に飛び込んだ。
    アズナ!、アズナ!!
    ユーリの姿とアズナの姿が同時に同じ位置を占めるように重なり合った。
    ・・
    『ユーリにお願いがあるの』アズナが言った。
    『あなたが最初に乗ってきた金属の船で、今度はトミヤバールに下りて来て欲しいの』リッカが言った。
    『そして、アクナスとあなたの星を結びつけて欲しいの』ナミカが言った。
    『そしてエレミナス星系全部の惑星とも』3人が揃って言った。
    約束するよ。ユーリは答えた。
    何年かかるかわからないけど、きっとアクナスに戻ってくる。
    そしたら誰でも星への旅行ができるようになるよ。そう、星渡りの巫女だって異星へ行けるんだ。
    3人の少女達はきらきらと輝くように光っていた。
    あれ?
    3人の少女以外に、まだ、誰かがいる。
    それは小さな輝く光の点のようだった。
    『この子はあなたの子供よ』リッカが言った。
    え!?
    『生まれるはずだったあなたの子供』
    もしかして、君は本当に子供ができていたのか。
    何てことだ。生まれるはずの命を、僕は。
    『心配しないで。この子は生まれるわ』リッカが言った。
    『あなたの星で、あなたの子として』ナミカが言った。
    『あなたの星で初めてジンの力を持つ子として』アズナが言う。
    『ちょっと変わった子に育つわよ。楽しみにしていてね』
    『うふふ』
    3人の少女と小さな光の点は楽しそうにユーリのまわりを回った。
    ・・
    "道" はどこまでも続いていた。
    まるで無限に続いているようだ。でも、必ず地球に繋がっている。
    ユーリは3人に聞いた。
    ねぇ、僕は、君達にまた会えるかい?
    『私達があなたに会えるのは "道" の中だけなの。だからお話しできるのはこれで最後』3人の誰かが言った。
    『でも、あたし達はあなたのことをずっと見ているわ』別の誰かが続ける。
    『そしてあなたが幸せになることを心から祈っているわ』
    『あなたが、いつ、どんな星にいても』
    『あなたを想う影が3人もいても、迷惑に思わないでね!』
    3人の笑い声が鈴のように響いた。
    もちろんだとも。
    ユーリは3人を抱きしめた。
    少女達の身体に実体が生じたように感じた。
    幻かもしれない。
    でも、僕はここにいる。確かにいる。
    ユーリは地球への "道" を一直線に進んでいった。

    25.
    惑星アクナスの首都トミヤバールに巫女の浜と呼ばれる浜がある。
    遠浅の海岸に広がるチコヤの林。
    静かに寄せるさざ波とときおり魚が跳ねる音がするだけの浜。
    そこは星渡りの巫女と関係者だけが立ち入ることができる、巫女の修行と祈りの場である。
    星渡りの巫女に選ばれた少女達はここで修行して自分を高め、仲間の巫女が星渡りの務めに入るときはここに集まって祈るのだ。
    星渡りはトオマと呼ばれる男性が異星に渡る儀式である。
    通常、星渡りは、エレミナス星系の本星シャルテから視察に訪れる大神官の帰星のために行われる。
    大神官の訪問は年に一度なので、星渡りの巫女も年に一人ずつその肉体と命を捧げていた。
    実は30公転ほど昔、大神官の訪問が数年間途絶えたことがあった。
    真偽のほどは定かではないが、当時の大神官がシャルテの覇権主義を唱えて惑星との関係が険悪になったためと伝えられる。
    しかしそれも過去の話である。
    200公転以上続いた慣習はそう簡単に変わるものではないのだ。
    変わったといえば、毎年の星渡りの巫女の選び方が変化していた。
    従来は首都トミヤバールの神官が決めていたが、近年は各地域の行政庁で候補者を選出するようになっていた。
    これで、巫女の選び方に公平性が欠けるという不満がかなり解消されていた。
    ・・
    よく晴れた穏やかな日だった。
    最初にその気配を捉えたのは、巫女の浜で自縛の練習をしていた星渡りの巫女達であった。
    まもなく、トミヤバールの行政庁は大混乱の事態に陥った。
    地上1万パーセクの宇宙空間に何者かが出現したのだ。
    まさにアクナス2千公転の歴史で初めての事態であった。
    それはしばらくの間アクナスの衛星軌道を周回していたが、やがて高度を下げ始めた。
    すべての行政庁に緊急通信が飛んで、惑星中の巫女・神官がジンの聞き耳をたてた。
    降下してくるものの正体は不明である。
    ただ、そこに悪意・敵意はまったく感じられないとすべての巫女・神官が報告していた。
    やがてその物体は、トミヤバールの上空に姿を現わした。
    巨大な銀色の帆船が空に上がったような形をしていた。
    物体は鈍い金属音とともにゆっくり降下してくると、巫女の浜の正面の海に着水した。
    多数の市民が浜に押しかけた。
    海上にも数百隻の帆船・小型船が集まって、天から下りてきた船を取り囲んだ。
    『アクナスの皆さん・・』
    その場にいたすべての人々と惑星中の巫女と神官にジンのメッセージが聞こえた。
    それはアクナスの言葉で語りかける女性の声だった。
    『アクナスの皆さん。私は地球と呼ぶ惑星から来ました、宇宙船ニコチコヤ号の船長アリーナ・タイガです』
    今、アクナスに新しい歴史と未来が生まれようとしていた。
    そしてそれは、エレミナス星系のすべての星々を変える未来だった。

    [アクナス・完]



    ~登場人物紹介~
    ユーリ・タイガ: 27歳。惑星アクナスに不時着した地球人。
    リッカ: 14歳。ユーリが南半球のビオリアで出会ったコーミンの巫女。
    ナミカ: 16歳。星渡りの巫女。かつてはユーリを恐れていた。
    アズナ: 17歳。シャルテの大神官の先の帰星時に命を捧げた星渡りの巫女。ナミカの姉。
    ザカリヤ・リリタス: アクナス最高神官兼トミヤバール行政神官。アズナとナミカの父親。
    アリーナ・タイガ: この人が何者か、分かりますよね?!

    アクナスの完結編をお届けします。
    何だか壮大なエンディングになりましたね。
    ここだけ読んだら、成人向けの女の子緊縛小説には見えないかもしれません:P。

    アクナスのお話は2004~5年頃に第2部の後半まで書いて放置していたものをベースに、全体を手直しして完成させたものです。
    今までの短編/SSとは雰囲気も違っていて読みにくかったと思いますが、最後までお読みいただいた方々にお礼申し上げます。
    ありがとうございました。

    女性の緊縛が当たり前の世界。
    緊縛といっても女性は自分の意思に反して虐待されるのではない、むしろ美しく緊縛されることが女性自身にとっても憧れの世界。
    このような世界は作者にとってひとつの理想です。
    これに近いことを今までのKSや中学生縄師でもやっている訳ですが、アクナスではこれを限定したコミュニティの中ではなく惑星全体の文化にしてしまいました。
    おかげで普通ならあり得ない妄想や"萌え"を目一杯盛り込むことができ、楽しむことができました。
    ただし、欲張りすぎて妄想が空回りしてしまった箇所も多いです。
    第2部でやったコーミンのパレードなどは、もう少しねっちり書き込めばよかったと思います。
    大観衆の前で、もっと色々な緊縛少女をパレードさせるチャンスだったのに、ああ、もったいない^^。

    最後に、第1部の冒頭とエンディングに登場したトミヤバールの巫女の浜について記します。
    実はこの浜のイメージには元ネタがあります。
    私が尊敬するSF作家アーサー・C・クラークの作品に『遥かなる地球の歌』という小説があります。
    遠い過去に地球から渡ってきた恒星間移民船の子孫が住む惑星に、今は交流が途絶えた地球から一隻の宇宙船がやってくるというお話です。
    女性がやたら縛られたり、ご都合主義の超能力が出てくるようなことは、当然ながらまったくない^^、とても真面目で美しいお話です。
    その最初のシーンは、ヤシの木陰から水平線を望む美しい海岸から始まります。
    アクナスの設定を考え始めた当初、この海岸のイメージが私の頭の中に浮かんで消えず、私の小説もヤシの木の海岸から始めることにしました。
    クラークさんはイギリス人ですが、90歳でお亡くなりになるまでインド洋に面したスリランカを愛し続けた人で、『遥かなる地球の歌』の海もスリランカの海をイメージしていると言われています。
    私も、いつかスリランカを訪ねて美しい海をこの目で見たいものだと願っています。




    アクナス第2部(1/3)・奇祭コーミン

    奇祭コーミン

    1.
    2/3公転が過ぎた。
    ユーリはアクナスで貨物を運ぶ帆船に乗っていた。
    かつてアズナに語った通り船員となったのである。
    ユーリに仕事を世話してくれたのは元巫女のジュミである。
    ジュミはユーリに何かの縁を感じたらしく、その後もユーリが何週間かに一度トミヤバールに戻ると食事や細々とした世話をしてくれた。
    何回かの航海で、ユーリの身体は日に焼けて黒く逞しくなっていた。
    船の仕事は楽ではないが楽しかった。
    元宇宙船乗りである自分にとって、やはり居場所は船しかないのかな、と思っていた。
    ・・
    ニコチコヤ号は地球で言えば300トンくらいの2本マスト船だった。
    幾航海もしないうちにユーリは一人前の甲板員として帆を操るようになっていた。
    雲を観察して、風を読む。嵐の前触れを予測する。
    そんな作業には宇宙船乗りとして身につけた気象学の知識が役に立った。
    年老いた船長のマッカはユーリに興味を示して言った。
    「お前は不思議な男だな。スキミが仕事がなくなると文句を言っておるぞ」
    『文句なんて言ってないよ。経験ある船乗りなら誰でもできることさ』
    ユーリとマッカの脳裏に女性の声が聞こえた。海路の巫女スキミである。
    羅針盤のないアクナスでは、方位と船の針路を示すために海路の巫女が船に乗っていた。
    海路の巫女は船首の部分に地球の船のフィギュアヘッド(船首像)のように取り付けられて、航海中は常に船を導いている。
    舵輪を握る船長とは常にジンの力で交信しているが、他の船員と交信することももちろん可能である。
    『ただ、驚いただけさ。ほんの6週間前に初めて船に乗った男には見えないからね』
    「僕は・・」
    「事情は聞かないさ、ユーリ。ジュミからわけありの男、と聞いておる」マッカが言った。
    『ま、お前が普通のアクナス人でないことは、あたしにだってわかるよ。ひゃははは』
    彼女はいったいどうして船の上のことが分かるのだろう。
    そういえば、航海中は食べ物や飲み物はどうしているんだろう。
    ユーリはスキミのことを意識した。
    スキミはマッカと長年コンビを組んでいるらしいベテランの巫女だった。
    陸(おか)で会ったスキミは、視線の鋭い痩せた女性だった。
    航行中はスキミに近づくことはできない。
    ・・船首甲板から身を乗り出して覗き込めば姿を見ることはできるけど。
    『あたしのことが気になるのかい? ユーリ。たった一人で舳先にぶら下げられている巫女のことが』
    「いいえ。詮索するようなことを考えてすみません」
    『構わないさ。海路の巫女なんて、いて当たり前だから、誰も気に掛けてくれやしない』
    スキミの言葉は、のんびりと、まるで独り言のようにユーリの脳裏に流れる。
    『あたしはね、いつも海と風を感じて、アルとジルに守られているよ。だから海の上では何も食べたり飲んだりしなくて大丈夫なのさ』
    「寂しくはないですか」
    『ひゃははは、そうだね。・・時には切なくなるときもあるけど、そんなときは巫女だけが知っている秘密の方法で自分を慰めるのさ』
    「秘密の方法、ですか?」
    『ひゃははは・・』
    スキミは笑ってそれ上は教えてくれなかった。

    2.
    その航海は、ユーリにとって初めてのアクナスの南半球への旅だった。
    ビオリアは北半球のトミヤバールに並ぶ大きな港町で、この地方一帯で収穫される穀物の一大集積地である。
    ニコチコヤ号が港内に入ると、正面の岸壁に巨大な看板が立っているのが見えた。
    ~ ようこそ、コーミンへ ~
    看板の手前には大きな門形の柱が立っていて、そこから巫女の人形が吊られていた。
    船が近づくと、それは人形ではなく生きた人間で、巫女のビキニをつけた美少女が後ろ手に縛られて吊られているのだった。
    少女は空中に吊られて揺れながら、人々に笑いかけて愛嬌を振りまいていた。
    「あれは、コーミンの宣伝じゃよ」
    マッカが教えてくれた。
    コーミンはこの地方の1公転に1度の祭りである。
    本来は上級の巫女を選ぶ神聖な儀式だが、次第に大衆化して今では多くの観光客を集めているという。
    船の錨を下ろすと、マッカは全員を集めて言った。
    「さて、積荷を下ろしたらお楽しみの休暇じゃ。皆、羽目を外しすぎんようにな」
    コーミンはこれから10日間続くのだ。
    その間にもしニコチコヤ号が出航しようとしても、トミヤバールへ運ぶ穀物はなかった。
    農民も荷馬車の御者も、仲買の商人も、皆が仕事を休んで祭りを楽しむのだ。
    吊られた巫女はコーミンのシンボルマークのようなもので、その後もユーリはあちこちで看板や壁画、実際に少女を縛って吊るしたモニュメントなどを見ることになった。

    3.
    ビオリアの繁華街には、宝石店・香木屋・衣類や装身具の店・飲食店・見世物小屋・遊技場・酒場・賭場などが並んでいた。
    路上にも様々な露店が立ち並び、たくさんの物売りや大道芸人、そしてその間を縫って歩く人々でいっぱいだった。
    女達もたくさん出歩いていた。
    ほとんどの女性は露出の大きい派手な衣装を着ていて、その半分以上は巫女のビキニ姿だった。
    「巫女がたくさんいますね」ユーリは一緒に歩く船の仲間に聞いた。
    「ありゃ観光客さ。土産物屋で巫女服を売ってるんだよ。・・それより迷子になるなよ、ユーリ!」
    確かに、街は大変な混雑で、前を行く仲間にはぐれないようについて行くだけでも大変だった。
    「・・さあさあ、寄っといて。巫女選びの始まりだよ!!」
    声のする方に人だかりがしていた。
    そちらを見ると、中年の女が何かの札を手に持って叫びながら人寄せしている。
    後ろには木を組んで作ったステージがあって、そこに高さ3メートルくらいの柱が5本並んでそびえていた。
    それぞれの柱の前に少女が立っていて、柱のてっぺんから垂らしたロープに繋がれているようだった。
    どの少女も12~3歳くらいで、巫女のビキニをつけて後ろ手に縛られている。
    荒っぽく縛られた縄が肌に食い込んで痛々しく見えた。
    「さあ、アルとジルに選ばれるのはどの娘か、1枚5キュラトで運試しだよ!」
    女は集まった人々に番号を書いた札を売りつけていた。客達は思い思いの少女を選んで札を買う。
    「もういないかね? 儀式が始まるよ!」
    男が出てきて、右端の柱についたハンドルを回した。
    その柱のロープがぎしぎしと巻き取られて、前に立つ少女の足が床から離れた。
    男は大汗をかきながら一つづつハンドルを回して少女を順に吊り上げ、ハンドルにフックを掛けてロープが緩まないようにした。
    5人の少女がすらりと並んで吊られた。
    「さあ、選ばれるのは一人だけだ。・・娘達の運命が決まるまで、時間がかかるよ。その間、よく冷えたココ酒はどうだい? 一杯2キュラトだよ」
    ユーリは少女達を見上げる。どの娘も特に苦しそうな様子もなく無表情で吊られていた。
    彼女達が身につけている巫女の衣装は、ユーリがトミヤバールで見たものと比べるとずいぶんと粗末だった。
    やがて中年女が歌い始めた。
    その歌詞はユーリには理解できなかったが、同じようなフレーズが何度も繰り返されるだけで、そもそも何かの意味があるのかないのかも分からなかった。
    長々と続いた女の歌が突然終わると、儀式の終わりも突然やってきた。
    5人の少女のうちの一人を残して、他の者のロープが切れたのだ。
    ロープが切れた少女達は落下し、どうした仕組みなのかそのままステージの床に吸い込まれるように消えてしまった。
    人々が固唾を飲んでステージを見ていると、やがてことりと音がして人間の頭蓋骨が4つ転がり出てきた。
    「アルとジルは2番の娘を選んだよ!」
    うわーっ。2番の札を持つ客がどよめき、それ以外の客は持っていた札を破って投げ捨てる。
    残った少女が下ろされて縄を解かれ、頭にティアラのような飾りが乗せられた。
    選ばれた巫女の印ということだろう。
    「配当は札1枚につき12キュラトだよ・・」
    換金に群がる客達を横に、ユーりはステージに近寄った。
    転がっている骸骨は明らかに木を彫って作った偽物だった。
    ステージに立つ少女と目が合った。
    ユーリは思い切って聞いてみた。
    「儲かるかい?」
    少女はにやっと笑って答えた。
    「まあまあ、だわ」

    4.
    仲間達とすっかりはぐれてしまったユーリは一人で街を見物し、暗くなってから宿に戻った。
    宿ではマッカとスキミが酒を飲んでいた。
    ユーリは昼間見た巫女選びの賭け事の話をした。
    「そういう出し物は街のあちこちでやっとるぞい」
    「まあ、倍率の一番低い娘が残るようになってるね、それは」
    そうだろうな。ユーリも思った。
    「それにしても、巫女を選ぶ、とはどういうことですか?」
    「そうか。お前はコーミンを知らないんだね」
    スキミが説明してくれた。
    惑星アクナスでも、ここビオリア地方はジンの力の強い人間が多く生まれる。
    特に女性に多く、星渡りの巫女を含めて、能力の高い巫女はビオリアの出身が多いという。
    「コーミンはね、巫女の正職に就く前の娘で、特に優れた能力のある者をアルとジルに捧げる祭りなのさ」
    毎年5名から10名の少女が選ばれ、聖なるコーミンの場で毎晩一人ずつ緊縛して吊るすのだった。
    「アルとジルのお気に召されれば、その娘はコーミンの巫女と呼ばれて玉光石だって光らせることができる能力が与えられる。逆に嫌われたら、死んでしまうのさ」
    「選ばれる者と選ばれない者にはどういう違いがあるんですか?」
    「それはアルとジルにしか分からないよ。ただ、選ばれなかった娘は、朝になれば髑髏(しゃれこうべ)になって転がってるんだ」
    少女の全員が選ばれる年もあれば、全員が生き残れない年もあるという。
    「その儀式は見ることができますか」
    「とんでもない。コーミンの場がどこにあるのかも分からないさ」
    「儀式の間に無関係な人間、特に男が近寄ったら、その者もたちまち髑髏になると言われとるぞ」
    「そうですか。・・もう一つ教えて下さい」
    「何だい」
    「コーミンで選ばれたら、星渡りの巫女になるんですか?」
    マッカとスキミは顔を見合わせて、それから笑い出した。
    「お前さん、それは無関係じゃよ」
    「確かに、星渡りの巫女は並の能力じゃなれないさ。だけどね、この星には星渡りの巫女でなくても、それ以上に能力のある巫女はたくさんいるんだよ」
    スキミは笑いながらユーリに言った。
    「ユーリ。この辺りで星渡りの巫女が一番だなんて言ったら殴られるよ。そんなことはトミヤバールの連中が勝手に宣伝してるだけだと思われてるからね」
    「そうじゃスキミ、お前もビオリアの生まれじゃったな。どうじゃ、星渡りの巫女になるか」
    「あたしかい? この歳になってもトオマ様がお相手をして下さるならね、ひゃははは」

    5.
    ユーリは石畳の坂道の途中で背後を振り返った。
    抜けような青い空と青い海、白壁の建物が連なっているのが見えた。
    地球にもこんな風景があったな。地中海だっけ。
    ・・
    ニコチコヤ号の船員達は、連日、祭りで賑わう街に繰り出していた。
    ユーリも初めのうちは付き合っていたが、さすがにそれが何日も続くと疲れてしまった。
    この日、ユーリは一人でビオリアの郊外に息抜きにやって来たのだった。
    石畳の坂道を登りきると、その先は広い草原になっていた。
    草原を誰にも出会わず一人で歩き、手頃な場所で腰を下ろして仰向けに寝転んだ。
    見渡す限りの草原を風が吹き抜け、頭の上を白い雲が流れている。
    アズナの顔が浮かんだ。
    この惑星に不時着した自分を世話し、言葉を教えてくれたアズナ。
    心が通じ合ったと思ったが、彼女の星渡りの務めのために永遠の別れになってしまった。
    最後に抱きしめたアズナの柔らかい身体の感触を思い出した。

    6.
    気がつくと、彼方の丘に陽が沈むところだった。
    しまった。寝てしまった。
    ユーリは慌てて起き上がって、来た道を戻る。
    夕闇が濃くなった。
    石畳の坂道からそんなに遠くないはずだったが、どこまで進んでも町が見えない。
    どうやら道を間違ってしまったようだった。
    やがて周囲は闇に包まれる。今夜は二つの月のどちらも出ていないようだ。
    空腹と喉の渇きが辛くなった。あせりの気持ちが強まる。
    さまよい歩いているうちに、遠くにちらちらとまたたく薄暗い明かりが見えた。
    助かった。
    ここがどこか分からないけど、休ませてもらって、町への道を教えてもらおう。
    ユーリは歩みを速めた。
    暗闇の中で地面に敷かれた白い布を踏み越えたが、ユーリはそれに気がつかなかった。
    ゆるやかな丘を登って進み、小さな集落に入った。
    そこは中央に大きな樹がそびえ、周囲を数軒の粗末な小屋が囲んでいるだけの集落だった。
    人影はなく、小屋に明かりは点いていなかった。
    中央の大樹は背の低い柵で囲まれていて、そのまわりは小さな広場になっていた。
    広場は数本の松明で照らされている。遠くから見えた明かりはこの松明であった。
    ユーリが入ってきたのと反対側には、寺院の門のようなものが見えた。
    ここは何かの祭場だろうか。
    大樹を見上げるが、暗闇の中ではその高さすら見通すのは難しかった。
    ん? 樹の根本に丸いものが転がっている。
    よく見ると、それは人間の頭骸骨だった。
    うわっ。骸骨には長い髪が残っていて、おそらく若い女性のものと思われた。
    もしかして、ここはコーミンの場?
    ・・無関係な人間、特に男が近寄ったら、その者もたちまち髑髏になると言われとるぞ。
    マッカの言葉を思い出す。
    不思議と恐怖や不安は感じなかった。
    もし自分も骸骨にされるのなら、それも運命だと思っていた。
    『誰か』
    突然、頭の中に質問が流れた。
    はっとして周囲を見回すが、暗闇の中に何も見えない。
    『ここは他所者は入れない場所。あなたは誰か』
    さっきより強く響いた。思わず両手で頭を押さえる。
    『すぐに出て行きなさい。コーミンの支障である』
    「あ・・、道に迷いました。町へ、ビオリアの町への道を教えてもらえませんか」
    「本当に道に迷ったの?」
    ジンのメッセージではなく、少女の声が言った。それは上の方から聞こえた。
    ユーリは声のする方を見上げる。頭上で何かが揺れていた。
    それは白い衣装をまとった少女で、後ろ手に縛られて樹の枝からロープで吊られているのだった。
    「ここはコーミンの場です。本来なら、あなたはここで生きていられないはずですが」
    少女はそう言ってユーリを見下ろした。その黒い大きな瞳が印象的だった。
    「あなたはアクナス人ではないようね。それどころか、この星系の人間でもない」
    「君は・・?」
    「ここでは毎夜、娘が一人ずつ吊るされて試されます。今宵は私が吊られる番。ただそれだけ・・」
    少女は言葉を止めた。
    『さあ、もう行きなさい。ここでのことは誰にも言わないように』
    ユーリの頭に特定の方角が強く意識された。
    『町はそちらだ。門から出て行ってはならない。麓の番人に見つかればあなたは殺される』

    7.
    明け方近くなって、ユーリは町に戻ることができた。
    コーミンは6日目になっていた。
    最終日には選ばれた少女が人々に披露されて、街を練り歩くという。
    それまでの間は、いったい何人が選ばれているのか正式に発表されることはない。
    あの子は選ばれたんだろうか?
    ユーリは大樹から吊られていた少女のことを考える。
    人々は、5人の娘が吊るされて残ったのはまだ2人だけだと噂していた。
    ビオリアの繁華街は相変わらず人間が溢れて喧騒に満ちていた。
    実際のところ、大多数の人々には何人の娘が選ばれるかなど、どうでもよかった。
    決して楽でない労働の毎日を送っているのだ。
    彼らにとっては、年に一度のお祭りで羽をのばせることが大切なのだ。

    8.
    その夜ユーリは仲間に連れられ、繁華街から少し離れた街の薄暗い一角に来ていた。
    「黙って見てろよ。やっとここのことを聞き出せたんだから」
    狭い入り口で安くない入場料を払わされた。
    導かれて階段を降りると、そこは劇場のような場所だった。
    100席程の狭いホールと正面にステージ。
    薄い煙を出す香が炊かれていて、きつい匂いがした。
    ステージでは少女が踊っていた。17~8歳くらいだろうか。
    彼女が身に纏う布片はわずかだったが、やがてそれも脱ぎ捨てて踊り続ける。
    客席は男達で埋まっていて、それぞれ酒を飲んで騒ぎながら、舞台の少女に猥雑な言葉をかけたりしている。
    少女は客席の方を向いたまま爪先で立ち、片方の足を頭上にぴんと伸ばした。
    少女の身体の中心が客席に向かって晒け出される。
    男達はやんやと喝采した。
    ・・こういうところは好きじゃないな。
    ユーリはそう思いながらも、仲間達と一緒に席についた。
    舞台の少女が踊り終えて袖に引っ込むと、すぐに別の少女が出てきて踊り始めた。
    こうして10人ほどの踊り娘がストリップを終えると、ステージの幕が下りた。
    ユーリはこれで終わりかと思ったが、回りの男達がじっとしているので、自分も黙って前を見ていた。
    やがて長い杖を手にした老婆が幕の前に現れた。
    「ふぉふぉふぉっ。今宵も儀式の始まりじゃ」
    そう言って客席を見回した。
    「この中に初めての客はおるかい?」
    何人かの男が手を上げた。
    ユーリも手を上げようとしたら仲間に止められた。
    「やめとけ。お前には無理だ」
    手を上げた男は5人。
    老婆は目を細めてそれを見る。
    「ふん、本当に初めてのようじゃの。手を上げなかった用心者もおるようじゃが。・・ふぉっふぉっ」
    そう言って、杖を前に伸ばした。
    「では、お主ら5人、前に上がりなさい」
    5人の男が席を立ってステージに出てきた。
    嬉々とした表情の男もいたが、何人かは驚いた表情をしていた。彼らは自分の意思とは無関係にステージに上がっていたのだ。
    「今宵はお主ら5人が、アルとジルの代理人じゃ」
    どこかで太鼓が鳴り始めた。ドンド、ドンドッド、ドンド、ドンドット・・。
    続いて降りていた幕がさっと上がった。
    そこには先ほど踊っていた少女達が、全裸のまま様々に拘束されていた。
    逆さ吊りにされてゆらゆら揺れている少女。
    両手両足を広げて磔柱に縛り付けられた少女。
    膝ほどの高さしかない小さな立方体の檻の中に、無理に手足を折り曲げて押し込まれた少女。
    大きなルーレットのような回転盤の上に大の字に貼り付けられた少女。
    拷問台のようなベッドに手足を伸ばして固定された少女。
    さほど広くないステージにところ狭しと置かれた拘束器具。
    客先の男達が興奮してこぶしを振り上げて叫んだ。狭いホールにウォーッという歓声がこだまする。
    「この娘らは、夫に所有される前に、禁を犯して別の男に向かって足を開いた。アルとジルはお怒りじゃ」
    老婆はそう言って杖を5人の男に向けた。
    「お主らが罰を与えよ」
    5人はふらふらと歩き出して、ステージの脇の壁に近づいた。
    そこには、皮のムチ、先に栗の毬(いが)のような針山がついた棒、先が3つに分かれた槍、地球の青竜刀のような刀、そのほか様々な道具が置かれていた。
    明らかにそれらは拷問のための器具だった。
    男達は思い思いの拷問具を手にする。
    「娘は10人じゃから、お主らは一人で二人の娘を扱うのじゃ」
    ドンド、ドンドッド、ドンド、ドンドッド・・。
    太鼓の音は途切れずに続いている。その音が大きくなったような気がした。
    最初の男が逆さ吊りの少女にムチをふるい始めた。
    ムチのひとふりひとふりに合わせて少女の身体に鮮やかな赤い筋が刻み込まれて行く。
    少女は顔をゆがませて悲鳴を上げ、びくびくと全身で跳ねるようにもがいた。
    別の男が磔の少女の前に、針山の棒を持って立った。
    大きく開いた両足の間に棒をあてがい、そのまま力を入れて押し込んだ。
    長い悲鳴が響く。
    男は棒を押したり引いたりしながら、少女の膣の中で針山を回転させた。
    その股間から真っ赤な液体がみるみる溢れて落ちた。
    その隣では、回転盤に固定された少女の腹に、真っ赤な焼鏝(やきごて)が押し付けられた。
    じゅという音と少女の叫び声。肉の焼ける匂いが客席まで漂ってきた。
    ユーリは目の前で繰り広げられる拷問を正視していることができなかった。
    いったい何なんだ、このショーは。
    ユーリは隣の男が持っていた酒瓶をもぎとってぐびりと飲んだ。
    度の強い酒が喉を通り、ユーリはむせかえった。
    ステージでは青竜刀を振るう男が拷問台に固定された少女の手足を切断し始めていた。
    ドンド、ドンドッド、ドンド、ドンドッド・・。
    ユーリの頭の中で太鼓の音と男達の歓声が交じり合い互いに干渉するように響きあった。

    続き




    アクナス第2部(2/3)・奇祭コーミン

    9.
    気がつくと、ユーリはホールの椅子に座ったままで眠っていたようだった。
    真上に天窓が開いていて、朝日が射し込んでいた。
    左右の席では船の仲間達が酔い潰れて眠っていた。
    周囲を見回すと、満席だった客席にはまだ半分くらいの男が残っていて、眠り込んだりもぞもぞ動いたりしていた。
    惨劇が繰り広げられたステージはがらんとして何もなかった。
    あの少女達はみんな殺されてしまって、死体はすっかり片付けてしまったのだろうか。
    ステージの床は綺麗で、血の一滴も落ちた跡はなかった。
    喉がからからだった。
    ユーリは席を立ちホールから出た。
    足元がおぼつかない。壁に手をついて、狭い廊下を歩いた。
    廊下を曲がると、そこに昨夜の長い杖を持った老婆がいた。
    「出口は反対だよ。目が覚めたんなら、さっさと帰っておくれ」
    老婆はユーリを見て言う。
    「あの、水を飲める場所はないですか」
    「そんなところはないね。水が欲しけりゃ街で買いな」
    「そうですか、すみません・・」
    ユーリが出て行こうとすると、老婆は突然叫んだ。
    「ちょっと待ちな!」
    振り返ったユーリに老婆はしばらく杖を向けて目を細めた。
    「お前さん、アクナス人ではないね?」
    あれ、同じ言葉をどこかで言われたような。
    そう考えたユーリの頭にジンのメッセージが流れた。
    『そうかい、リッカが会ったという異星人はお前じゃな』
    老婆はにやっと笑った。
    ・・
    ユーリは有無を言わさずに外に連れ出され、別の建物の前でしばらく待たさた。
    「いいぞい。入って来なさい」
    やがて導かれたのは、広い倉庫のような部屋だった。
    床は土のままで、いろいろな大きさの木箱が並んでいた。
    「ここだけの話だが、お前さん、コーミンの場に忍び込んだじゃろう」
    まずい。この婆さん、何でそれを。
    「え、いや、それは」
    「わしも、ほんの90公転ほど昔にコーミンで選ばれた巫女じゃ。それくらい分かるわ」
    「そうですか」
    「いやいや、コーミンなぞどうでもよい。この星の未来はお前に深く関わっておるのじゃ」
    「は? 僕の運命ですか?」
    「お前の運命ではない。この惑星の運命じゃ」
    「大げさな」
    「世辞ではないぞ。稼ぎのためなら、たまに世辞も言うがな。ともかくこれは本当のことじゃ」
    ユーリは目の前の老婆を見る。
    この人は僕にとって、大事な人だろうか。そうでない人だろうか。
    『わしはただの案内の婆じゃよ。大事でも何でもない』
    あ、そうかこの人もジンの力が。
    「失礼しました。・・僕はユーリ・タイガです」
    「わしはタシナンじゃ」
    タシナンと名乗った老婆は、古びたカードの束を取り出した。
    そこには複雑な紋様が描かれたカードだった。
    「これは、巫女縛りの占いをするときに、縛られる巫女を選ぶ方法じゃ。・・1枚選びなさい」
    「カードを選ぶんですか?」
    「そうじゃ。お前が選ぶカードでわしの予感が当たっているかどうかわかる」
    ユーリはカードをじっと見た。
    一番上のカードに手を当て、それから何枚か下のカードを抜き取った。
    「これを」
    タシナンはにやりと笑った。
    「やはりの。これを同じ絵を貼った箱があるから、開けて中身を出してあげなさい」
    そう言って足元に並んだ木箱を指差した。
    木箱は様々な大きさで10箱あった。
    それぞれ蓋がついていて、その蓋は留め金で固定されている。
    それぞれの箱には異なる絵柄の紙片が貼ってあった。
    一番奥の小さな箱の絵が、ユーリが手にしたカードの紋様と同じだった。
    蓋の留め金を外して開けると、中から小柄な少女が立ち上がった。
    小柄で、大きな黒い瞳が印象的だった。
    あのとき、コーミンの場で木の枝から吊られていた少女だった。
    「あなたとはまた会うと思っていたわ」
    少女はそう言って両手を揃えてユーリに差し出した。
    その手首が縄で縛られていた。
    ユーリは黙って縄を解いてやる。
    「この子はリッカ。わしのひ孫で、コーミンの5夜目に選ばれた娘じゃ」
    リッカは昨夜のショーで出演していた踊り娘の一人だった。
    青竜刀で全身を切り刻まれたのが彼女だという。
    ユーリはその様子を思い出そうとしたが、その娘の顔は霧がかかったようではっきりと思い出せなかった。
    「あれはマクワの香とバオバオの太鼓の効果じゃよ」
    マクワの実の粉末は鎮痛と血止めの効果があるので、アクナスでは怪我の薬として珍重されている。
    しかし同時に姦淫作用があって、人に強い性的な興奮を与える。
    姦淫作用は特に女性に対して強く働くという。
    また、マクワの実の粉末を焚くとその匂いは人に幻覚を見せる。
    幻覚作用は特に男性に対して強く働くという。
    あのホールではマクワの実を香にして焚き、太鼓の音を繰り返し聞かせて観客を催眠状態にしていたのだ。
    観客の男達は、あたかも目の前で少女達が殺戮の犠牲になったように見せられていたのである。
    10人の踊り娘は裸で拘束されてはいたものの、実際に拷問を受けていたのではなかったのだ。
    「この子を切り刻んだのは、これさ」
    タシナンが笑って見せてくれたのは、巨大な青竜刀ではなく白い布切れだった。
    これを持たされた男は、青竜刀だと思って白布を振り回していたのである。
    「どうじゃい、なかなかの見世物だったろう?」
    タシナンは普段はビオリアから離れた内陸の故郷で占い師をしている。
    1公転に1度のコーミンの期間だけ、ビオリアに出稼ぎに来てこのようなショーをしているという。
    ステージで踊った後に拷問を受けた少女達は皆タシナンのひ孫だった。
    「ひ孫やひひ孫はたくさんおるがの。ここには10歳から20歳までの娘を連れて来るようにしておる。・・あまり年増じゃと客が喜ばんでの。ふぉふぉふぉ」
    タシナンはそう言って、手前の木箱の蓋の留め金を解いた。
    17~8歳くらいの少女が中から自分で蓋を開けて立ち上がった。
    彼女の手首も縄で縛られていた。
    「リョック、皆を出しておあげ」
    「はい。大婆様」その少女は箱から出て、すぐ隣の箱の蓋を開く。
    そこからも少女が出てきて、また別の箱の蓋を解いた。
    そして二人どうしで互いの手首の縄を解いた。
    こうして全部で9人の少女が出現した。
    めいめいが明るい声でぺちゃくちゃ喋るので、部屋はたちまち賑やかになった。
    ぱんぱん。タシナンが手を叩いた。
    「お前達、ご苦労だった。ここはもういいから、夕方まで自由にしなさい」
    「はぁーい」
    少女達は賑やかに部屋を出て行き、後にはタシナンとリッカだけが残った。

    10.
    リッカはタシナンの29番目のひ孫で、今年14歳である。
    一族の中で最もジンの力が強く、その力はタシナンを上回る。
    特に人の過去と未来の運命を見る力が優れているという。
    「この娘は巫女ではないがの、まぁ今度コーミンの巫女になるんじゃが、それはともかく、わしに言わせればこの娘と同じ力を持つ巫女はこの星には何人もおらんわ」
    リッカは、ユーリのこれまでのおよその状況は見るだけで分かると言った。
    帆船乗りとしてのユーリ、トミヤバールで星渡りの巫女と過ごしたユーリ、そしてその前に "金属の船" に乗っていたユーリ。
    「僕の過去が見えるのかい」
    「ええ。あなたに伝えることがあるわ。・・多分、あなたの心が満たされるであろうことを」
    「?」
    「星渡りの巫女は今でもあなたを愛しているわ」
    「え!? アズナは生きているのか?」
    「それは分からない。務めを果たした星渡りの巫女がどうなるのか、知る人はいないわ」
    リッカは大きな目でユーリを見つめて言う。
    「・・ただ、その巫女の精神は強く感じるの。彼女はこの星の地上には生きていないかもしれないけど、あなたへの想いは強く存在するわ」
    そうか。
    ユーリの中にアズナの気持ちが入ってきたような気がした。
    ・・ユーリ。アルとジルがあなたを愛する以上に、あなたを愛しています。
    ユーリは少しの間、目を閉じてアズナの気持ちを感じた。
    「ありがとう。それで十分だ」
    「どうじゃい。リッカの力は?」
    「文句のつけようなどないよ。何の力もない僕には」
    「ユーリ」
    リッカが言った。
    「あなた自身には実感できないかもしれない。でも、あなたには、とても大きな力があるわ」
    「?」
    「あなたは、この星の運命を、歴史を変えるかもしれない」
    「さっきもこの婆さんに言われたけど、どういうことか分からないよ。僕にいったい何ができると言うんだ?」
    「それを見極めることが必要なんじゃ・・」
    タクナンはそう言って、棚の箱をごそごそとまさぐり古びた縄束を取り出した。
    「先祖代々使ってきたアサジンの縄じゃ。これでリッカを縛れば、この星とお前の未来が見えるじゃろう」
    巫女縛りの占いは、男性が巫女を縄で縛ることによって、その男性の過去や未来を見通す占いであった。
    ・・
    ユーリはアクナスの成人男性なら誰でもできる緊縛術を知らなかった。
    「僕は女性を縛ったことは一度もありません」
    「変わった男だねぇ」
    「ユーリ。あなたが望んで私を縛らないと、運命は見えないわ」
    リッカはタクナンと相談してユーリに言った。
    「あなたは女を縛る技術を学ばねばなりません。今夜から始めましょう」
    ユーリがビオリアに滞在するのは、コーミンが終わって船に積荷を積み込むまでの間だ。
    コーミンの期間は残り4日。
    そしてリッカはコーミン最終日に選ばれし巫女の披露があるので、ここにはいられない。
    あと3日しかなかった。
    「明後日までに、緊縛術の基本40手を覚えるのじゃ。わしとリッカが教える」
    ユーリは毎夜、タクナンの占い所に来てリッカの縛り方を学ぶことになった。

    11.
    かつてアズナがアクナス語の優秀な教師であったのと同じように、リッカは緊縛術の優秀な教師だった。
    縄の扱い方のイメージをユーリの頭に直接伝えて、それから実際に縄を使って縛らせた。
    「女を縛るのは経験が重要なの。本当はあなた自身のイメージで女を縛れるようになって、一人前だと言えるわ」
    リッカはユーリに説明する。
    「・・でも、ここは最低限の知識と練習で臨むしかないから、できるだけ私のイメージの通りに素直に受け入れて」
    ユーリはリッカが伝えてくる緊縛のイメージをできるだけ素直に受け入れて、練習した。
    明け方まで練習を続けてリッカは言った。
    「あなたは優秀だわ」
    リッカは手首と足首を後ろでまとめて縛られて、さらにその部分に縄を掛けて吊られていた。
    彼女の腰は逆海老にほぼ直角に折れている。
    「大丈夫かい?」
    「私のことは気にしないで、あなたはイメージの通りに進むよう、意識して」
    「あの、一つ聞いてもいいかい?」ユーリがリッカに聞いた。
    「どうぞ」
    「君が伝えてくれたイメージは、君自身が縛られて感じたイメージかい?・・その、つまり、君が女として嬉しい縛られ方かい?」
    「ええ。・・最も効果的にあなたに理解してもらうために、私が感じる縛り方を伝えているわ」
    「そうか。よかったよ」
    「よかったとは、どういうことなの?」
    「僕の中をのぞいていいよ」
    リッカはユーリの心の中を見る。
    ユーリはリッカが気持ちよく縛られることを望んでいた。
    星の運命を予測することは必要と理解している。しかし義務で縛られるのではなく、リッカが女性として心地よく縛られて欲しいと考えていた。
    『ユーリ、私の気持ちなど重要ではないのに』
    「そんなことないよ。この星では、普通の女は男に大事に縛られて愛情を感じるんだろう?」
    『・・』
    「だったら、君も誰かに縛ってもらうときには、その間はその誰かから愛情を感じたらいいと思うよ」
    『あなたは変わった人ね』
    「そうかな? ・・僕も最後に君を縛るときには、本当に縛りたいと思えるようになっていたいしね」
    『・・そうね。巫女縛りの占いでは、男性が心から望んで縛らないと、未来は見えないわ』
    「なら、決まりだな。君は、君が僕に対して一番望むスタイルの緊縛のイメージを伝えるんだ。僕はそれを精一杯実現するから」
    『わかったわ』
    リッカの無表情な顔が少し笑ったようだった。

    12.
    ユーリはリッカに質問する。
    コーミンで選ばれなかった娘が、骸骨になってしまうのは何故なのか。
    本当にアルとジルがそういうことをしているのか。
    リッカは笑って答えた。あなたにだけ教えるわ。
    娘が選ばれるかどうか、それはその娘のジンの能力だけで決まることではない。
    ただ、心が平静でいられるかどうか、それによる。
    コーミンの大樹の幹の穴には夜行性のウスバカゲムシが群生している。
    ウスバカゲムシにもジンの力がある。
    一匹一匹はわずかな力でも何十万匹も集まると大きな力になって、近づく動物の精神を犯して殺してしまう。
    あの大樹に吊るされた娘は、一晩中、ウスバカゲムシの精神攻撃にさらされる。
    ウスバカゲムシは、恐怖・不安・寂しさや心の痛みといった感情を増幅させる。
    娘にほんの少しでもそのような気持ちが生じたら、その感情はあっという間に極大に達して娘は死んでしまう。
    娘の心臓が止まると、ウスバカゲムシがたちまち娘の身体に殺到して食べ尽くして骨だけにしてしまう。
    そうか。
    じゃあ、僕もあのとき恐怖の感情を抱けば、死んでしまってたんだな。
    だから君は、本来なら僕は生きていられないはずと言ったんだね。
    ええ。あのとき、あなたの感情は穏やかだった、そして柵の中に入って虫を刺激しなかった。
    それがあなたが生き残った理由なのよ。
    ・・
    ユーリは再びリッカに質問する。
    今教えてくれたことは、コーミンの巫女だけが知る秘密じゃないのかい。
    それをどうして僕に?
    リッカは答えた。
    分からない。ただ、あなたには知っておいて欲しいと感じたの。

    13.
    北半球の首都、トミヤバール。
    エレナミス星系の中心にあるシャルテの大神官からジンの星間通信が入っていた。
    ザカリヤ行政神官は、その内容を見て驚いた。
    『元地球人でアクナス市民のユーリ・タイガをシャルテに召還する』
    ユーリは今は一般市民だ。その居場所は掌握していない。
    しかし、神官でもない一般市民の召還とは、極めて異例のことだ。
    しかたない。
    ザカリヤは部下の神官達にユーリの探索を指示した。

    14.
    明日はコーミンの最終日、選ばれた巫女のパレードがあるという前の晩。
    ユーリとリッカ、それにタシナンはビオリア郊外の草原を歩いていた。
    ここは何日か前にユーリがさまよい歩いた、コーミンの場に程近い草原である。
    3人は巫女縛りの占いを誰にも邪魔されずに行うためにやってきたのだった。
    西の空に第一月のマナと第二月のヨナが三日月になって並んでいる。
    「あ・・」リッカが小さな声を上げた。
    「ふん、意気地のない娘じゃ」タシナンが吐き捨てるように言った。
    「どうしたの?」
    「今、コーミンで最後の夜の娘が死んだわ」
    ユーリの問いにリッカが答えた。
    「・・そうか、可哀相に」
    今、まさに大樹から吊られた少女が虫に食い尽くされて骨だけにされているのだ。
    恐怖に耐えられなかった少女の、誰にも見守られない、一人だけの死。
    「もう、そのことは考えるでない。これから大事な占いを行うでの」
    「はい。すみません」
    3人は黙って歩いた。
    やがてタシナンは立ち止まり「ここでよかろう」と言った。
    そこは周囲の草原から少し低い、窪地になった場所だった。
    タシナンが手に持っていたランプを地面に置いた。
    「巫女縛りの占いを行う。見通すのはこの男、ユーリの未来。・・さあ、始めなさい。わしはただの見届け人じゃ」
    「はい、大婆様」
    リッカはそう言ってユーリをじっと見た。
    「え、っと。どうすればいいのかな」ユーリは急にどぎまぎして答えた。
    「このアサジンの縄を使って、あなたの思うように私を縛ってくれればいいの。縄の量は多ければ多いほどいいわ」
    「どんなやり方でもいいのかい?」
    「ええ、構わないわ」
    ユーリは縄束を受け取り、じっとリッカを見た。
    小柄だけど、大きな黒い目。
    アズナほどではないが、十分に白い肌。
    アズナ?!
    アズナと一緒に歩いたトミヤバールでの出来事・・。
    あれは、結婚式。そうだ、アズナが自らの身体を花婿に縛らせたとき。
    あのときの興奮を思い出した。
    『それでいいわ』
    リッカの言葉が静かに流れた。
    『それは、あなたが愛した星渡りの巫女の姿ね』
    リッカが微笑んでくれたようだ。
    リッカは黙って着ていた白い衣装を脱ぎ、全裸になってユーリの前に立った。
    まだ成熟しきっていない、14歳の少女の身体。
    『巫女服はまだ持っていないけど、この方があなたのイメージに近いから』
    「ありがとう」
    ユーリはリッカを膝で立たせ、その両手を後ろに回した。
    手首を縛り、どちらかといえば小さな乳房の上下に縄を回す。
    まるで誰かに導かれているように、縄を持つ手がスムーズに動いた。
    両腕を拘束すると、そのまま彼女をうつ伏せに寝かせ、左右の足の膝を曲げて一本ずつ縛った。
    「ん」リッカが小さな声を出した。
    リッカの五感がユーリの五感と重なった。
    ユーリはユーリが縛る、リッカの身体を意識した。
    リッカをうつ伏せに寝かせ、その腰に自分の膝を乗せる。
    そのまま力を込めて背中と足の縄を引き上げた。
    リッカの腰が90度以上に折れ曲がって、逆海老に反り返る。
    「んあ、・・んっ」リッカが再び声を出した。
    全身を締め上げる縄の感覚。
    ユーリはリッカが感じるのと同じ感覚を感じた。
    身体の中に快感の波動が生まれ、それが次第に大きくなる。
    それは寄せては返す心地よい波のように全身に響いた。
    肉体の感覚の同期。
    まだまだよ。リッカが言った。
    まだまだだな。ユーリが言った。
    ユーリは更に縄を取り、リッカの拘束を追加して行く。

    続き




    アクナス第2部(3/3)・奇祭コーミン

    15.
    巨大な都市だった。
    トミヤバールやビオリアとは違う、高層化された建物。
    その中でもひときわ大きな宮殿のような建物の中で、ユーリは出迎えを受けている。
    『余の召還に応え、よく渡ってきた』
    目の前には上下一体の黒い服装の男性がいた。アズナ以上に肌の白い男性だった。
    『貴公をシャルテ王立軍事機関の知識顧問として迎える』
    ユーリは男性の前に歩み寄り、膝をついた。
    自分の意志でそうしているのかどうか、ユーリにも分からなかった。
    ・・
    ユーリは椅子に座っていた。
    神官達はユーリの『中』に入ってきて、その記憶や知識の断片を持ち出した。
    ユーリは自分では何もしなかった。
    眠るでもなく覚醒するでもなく、ただじっと椅子に座っているだけだった。
    ときどき美しい巫女達が現れて、ユーリの世話をしてくれた。
    ユーリが性欲を覚えると、巫女達は服を脱いでその処理をしてくれた。
    ・・
    銀色の機械が空を飛んでいた。
    ユーリの知っていた航空工学と機械工学に基づいて作られた飛行機だった。
    ユーリの中にある体系化された知識はもちろん、あらゆる記憶・イメージが持ち出されて神官によって分析整理され、具現化されていった。
    最初の宇宙船が大気圏を離脱したのは、ユーリがシャルテに来てわずか2公転の後。
    そしてリープ航法を可能にする反動エンジンが実用化されたのは、さらに5公転の後だった。
    ・・
    巨大な宇宙船団がエレミナス星系の惑星を巡っていた。
    彼らは高圧的な外交を展開し、シャルテとの差別的な条約締結および資源の提供と高率の租税を求めた。
    それが拒まれると、宇宙船は直ちに武力で攻撃した。
    炎が惑星の表面を覆い、街と人間とその他のあらゆる生命が燃えた。
    2つの惑星が壊滅し、それがジンの星間通信で広まるとその他の惑星は無条件に降伏した。

    16.
    「気がついたかい」目を開けると、タシナンがこちらを見下ろしていた。
    僕は寝ていたのか?
    「あ、・・リッカは?」
    「リッカはそこじゃ」
    タシナンが縄でぐるぐる巻きになった糸巻き棒のような固まりを指差した。
    「!」
    リッカは頭から爪先まで隙間なく縄で覆われていた。
    「縄を解いてやってくれるか。・・巫女縛りはわしでは解けんのじゃ」タシナンが頼んだ。
    ユーリは慌ててリッカの縄を解く。リッカは半ば意識を失った状態だった。
    「リッカ!」
    ようやく目を開けたリッカをユーリが抱きしめた。
    「ユーリ!」リッカもユーリの首にしがみついた。
    「あんな未来があるなんて・・。ああ、私、どうしたら」
    リッカは珍しく感情のこもった言い方だった。
    「わしも見たぞい。ユーリ、どうやらお前は本当にこの惑星の運命を握っているようじゃな」
    「僕がこの星に降りたために招いた未来ですね」
    ユーリは自嘲的に言った。「こんなことになるなんて」
    「お前が自分でやったことではないさ」
    「でも、リッカをこんなに怯えさせてしまった。それだけでも僕は罪深いな」
    ユーリは黙って自分に抱きついたままのリッカの背中を撫でた。
    リッカの全身にユーリが縛った縄の痕が刻まれていた。
    「リッカ、怖かったんだね」
    リッカがはっと気がついたようにユーリから身を離した。
    「あ、ユーリ。その、ごめんなさい」ばつの悪そうな顔で謝った。
    「いいんだよ」
    「ユーリよ。今見たものは占いにすぎん。運命は変えられるものじゃ」タシナンが言った。
    「そう。あなたはシャルテに行ってはならないわ」リッカがいつもの冷静な声で言った。

    17.
    コーミンの最終日の朝になった。
    繁華街の近くにある目抜き通りには、何万人もの人々が集まっていた。
    ほとんどの人は正装しており、昨日までのどこか猥雑で乱れた雰囲気はなかった。
    女性は男性と一緒にいて、その多くは後ろ手に縛られていた。
    妻は夫に首輪に繋いだ縄や鎖を引かれ、兄弟のいる娘達は縛られた縄尻を兄や弟に持ってもらっていた。
    まもなくパレードが始まるのだ。
    コーミン最後の大イベントを皆がわくわくしながら待っていた。
    ユーリは船の仲間達と一緒にいた。
    ・・僕はトミヤバールに戻っていいんだろうか。
    一人浮かない顔で考える。
    タシナンとリッカとは明け方に別れた。
    リッカはパレードに参加し、その後でビオリアの神殿で巫女として務めることになっている。
    タシナンはパレードが住んだら孫達と故郷に戻るという。
    「何かあったら、知らせるのじゃ。できるだけ助けるから」
    コーミンが済めば、ユーリはニコチコヤ号でトミヤバールに戻ることになる。
    もし、この先、シャルテから召還を受けたときに僕がトミヤバールにいたら。
    ・・船を降りた方がいいだろうか。
    「沈んだ顔をしとるの、ユーリ」
    船長のマッカが声を掛けてきた。
    「いや、まあ」
    「お前、毎晩どこかへ出かけていただろう。スキミが言っておったぞ。ここのところユーリに大きな力を感じると」
    「どれは、どんな力ですか?」
    「分からん。それが良き力なのか、悪しき避けるべき力なのかも、な。ただ、お前はビオリアに来て何かが変わったようだと」
    「・・そういえば、スキミはどうしたんです?」
    「ん、宿で寝ておるわい。あれは飲みすぎじゃな。昔はわしと一緒に10日やそこら飲み続けても平然としとったものじゃが」
    遠くから太鼓の音が迫ってきた。
    「来たよ!」子供が叫ぶ。
    鼓笛隊を先頭にパレードがやって来た。
    長い槍を掲げた儀兵。
    歌いながら歩く子供達。
    大きな半透明の布を振って踊る半裸の娘達。
    象のような獣の行列。
    歌か呪文か分からないものを唸っている女。ぶーぶーと鳴るパイプを吹き続ける男。
    火のついた松明をジャグリングしながら歩く男。
    そして小さなボールのように丸くなってポーズをとる軟体少女が三人と、少女達を空中に放り上げて軽々とジャグリングしながら歩く巨漢の男。
    後ろ手に縛られて首輪をつけた女性。その首輪の紐を引く男性の集団。
    聖なるコーミンの場を模したフロート。(フロートには木が生えていて、その枝に縛られた少女が吊られていた。木の根元にはご丁寧に骸骨が並べられている)
    続いて10歳から16歳までの少女7人をそれぞれ柱に縛って飾ったフロート。(コーミンで選ばれる巫女の年齢を表しているという)
    さらに、さまざまな衣装に緊縛を施されて歩く女性達。
    (自力で歩けない者は、台車や車椅子に乗せられたり、男性2名が駕籠かきのように担ぐ棒から吊られたりしている)
    パレードは何百メートルにわたって続いた。
    そして観客の歓声がひときわ高くなる。
    神官と巫女のフロートが来たのだ。
    最初のフロートには煌びやかなガウンをまとった神官達。
    2~3台目のフロートには、数十人の巫女が乗っていた。(歌うもの、踊っているもの、縄で縛られていもの、様々な姿の巫女がいた)
    そしてその後にひときわ豪華なフロートが4台。
    「今年は4人だけなの?」人々が驚いている。
    これらのフロートにはコーミンで選ばれた巫女が乗っているのだ。
    それぞれのフロートには、華やかな装飾がなされた椅子があってそこに縛られた巫女が座っていた。
    リッカは?
    ユーリは最後のフロートにリッカを見つけた。
    リッカは巫女のビキニを着けた身体を後ろ手に縛られていた。
    「リッカ!」
    ユーリの呼びかけには気付かなかったのか、リッカはじっと正面を見たまま進んでいった。

    18.
    ニコチコヤ号の船員達が宿に戻ると、異変が待っていた。
    海路の巫女のスキミが深刻な状態に陥っていたのである。
    「スキミ、目が見えんのか」
    「ちょっと飲みすぎたかねぇ」
    「酒をいくら飲んでも見えなくなることはないわ。・・お前、海の精霊に生気を与え過ぎたんじゃないか」
    「ひゃははは。あたしゃ、あいつらとは23公転の付き合いだよ。そんなへまはしないよ」
    「しかし・・」
    船の仲間達は今までの陽気な雰囲気から一転して暗くなった。
    ニコチコヤ号は積荷を積んで明日には出航の予定である。
    事情は分からないが、スキミがこの状態では船を出せないことはユーリにも分かった。
    マッカはスキミの枕元に座り、腕組みをして考え込んでいる。
    「ニコチコヤ号のユーリさん、いますか?」宿の娘がやってきて聞いた。
    「神殿からお迎えが来ています」
    「え?」
    皆がユーリを見た。

    19.
    ビオリアの神殿はこの地方の行政庁を兼ねているが、同じ行政庁でもトミヤバールのそれよりずっと荘厳な雰囲気に満ちていた。
    ユーリが招かれた部屋には、神官のガウンをまとった美女が座っていた。
    ビオリアの行政神官アイリ・キリギスは女性だった。
    「コーミンがようやく済んだところなのに手間のかかる話です」
    アイリはユーリを前に困った様子で話した。
    「貨物船ニコチコヤ号船員ユーリ・タイガ。あなたにトミヤバールから召喚状が出ました」
    召喚状!
    ユーリはリッカの占いを思い出した。まさか、もう。
    「こちらでは詳しいことはわかりません。あなたは可及的速やかにトミヤバールの行政庁に出頭するように」
    「あの、僕は・・」
    「何ですか」
    「トミヤバールには行きたくありません」
    アイリの表情が厳しくなった。
    「私は行政神官としてあなたに命令するだけです。強制的に送還することもできるのですよ。・・ただ」
    アイリは間を置いた。その表情が心なしか優しくなったようだった。
    「私はコーミンの巫女でもあるの」
    そう言って、ちらりと横を見た。ユーリもそちらを見ると、そこには小柄な巫女がいた。
    「リッカ!」
    「巫女縛りの占いのことはリッカから聞きました。私にもあなたに備わる運命の力は分かるわ」
    「ユーリ、あなたが思っている以上に緊急の事態なのよ」リッカが言った。
    「トミヤバールの行政庁は多分理解していないでしょう。彼らは何も分かっていないわ。この星の未来の運命を」
    アイリは再び厳しい表情に戻った。
    「私の権限で、リッカをあなたと共にトミヤバールに派遣します。彼女はここ10公転のコーミンで最高に優秀な巫女よ。・・ユーリ」
    「はい」
    「あなたはリッカのすべてを自由に使っていいわ。念のために言っておきますが、すべて、とは彼女の能力だけでなく、その肉体と命までを含みます」
    ユーリはリッカとアイリを交互に見た。
    『私はあなたにすべてを捧げて従います』リッカが伝えてきた。

    20.
    神殿からの帰りはリッカと一緒だった。
    リッカは巫女のビキニではなく、一般のアクナスの女性の服装である。
    「トミヤバールへは、あなたの乗ってきた帆船で帰るのね」
    「うん。でも貨物船だから、君を便乗させてくれるかな」
    「大丈夫よ。私を小さな箱に詰めて、そのまま貨物として載せてくれればいいわ」
    「おいおい。トミヤバールまで、6つの港に寄って20日間の航路だよ」
    「そうね。私が箱の中で耐えられるのはせいぜい5日くらいだから、5日に一度、食事と排泄物の世話をしてくれればいいわ」
    「君の事だから、本気で言ってるんだろうけど・・」
    『今のは冗談よ』
    え。
    リッカの冗談を初めて聞いた。
    「面白くなかった?」リッカが真面目な顔で聞いた。
    「・・面白かったよ。君を船に乗せることは何とか船長に話すよ」
    あ、そうだ。リッカなら知っているかも。
    「ねえ、海の精霊に生気を吸われる、ってどういうことかな」
    リッカはユーリが思い浮かべたスキミのイメージを読み取ってすぐに答えた。
    「ああ、それは海路の巫女の自慰のこと」
    「自慰?」
    「ええ。航海の間、たった一人で過ごす海路の巫女には自慰をする自由がある」
    「そ、それはどうするの?」
    たしか海路の巫女は手足を固定されていて、自分を慰めるなんてことは・・。
    「海面を漂う海虫を吸い上げるの。海虫は巫女の身体のあらゆる穴から胎内に侵入して刺激を与えるわ」
    「あまり想像したくない光景だね」
    「そう。でも、普通の人間の自慰だって別に美しいものじゃないわ」
    「それは命に関わるのかい」
    「そうね。やりすぎると、海虫の毒が蓄積して、目や耳、脳などが損なわれて死ぬこともあるわ」
    そうか。
    「そのスキミという巫女は多分それね」

    21.
    宿に着くと、スキミの状態はいよいよ悪化していた。
    昏睡状態になったスキミは、翌朝、マッカに見守られて亡くなった。
    ・・
    「あれがまだ娘っ子の頃から20公転の付き合いじゃった。わしはスキミとここに残るよ」マッカが言った。
    「わしには家族もおらんし、いまさら何の望みもない。・・船は、そう、お前が率いるんだ」マッカが指差したのはユーリだった。
    「え、それは無理です」
    「お前は、もう誰よりも優れた船乗りじゃ」
    ユーリは船の仲間達の顔を伺う。誰も反対している者はいないようだった。
    「でも、海路の巫女がいません」
    「それは、・・ここはビオリアじゃ。すぐに見つかるさ」
    「巫女なら、いるわ」少女の声がした。
    いつの間に用意したのか、巫女のビキニをつけたリッカが入ってきてユーリの横に立った。
    「リッカ!」
    『ユーリの友人で巫女のリッカです。アクナスじゅう、どこの海でも導くわ』
    その場にいた全員の頭に中に明確なジンのメッセージが流れた。
    「これで決まりじゃな。・・皆、文句はないな?」マッカが言った。

    22.
    ビオリアの港。
    ニコチコヤ号は積荷の搭載を終え、最後の作業を残すのみとなっていた。
    最後の作業とは海路の巫女の取り付けである。
    アクナスでは外洋航路のすべての船には海路の巫女を乗せることが義務付けられている。
    海路の巫女を船に固定する作業は、船の出港前に必ず行われる儀式のようなものだった。
    船首の部分、前方に突き出した帆柱から下げた縄梯子をユーリはそろそろと降りた。
    そこは水面から3~4階くらいの高さしかないが、それでも船首が大きくオーバーハングしているので腰がすくむような高所感である。
    やがてリッカが帆布のベルトで吊られて降下してきた。
    ユーリは手を伸ばして、彼女の胴と手足を正しい位置に調整した。
    『いいわよ』リッカが位置を確認して合図する。
    ユーリは船首に設置された腰枷をがちゃりと回して、リッカの胴を固定した。
    続いて下半身の足首と膝も足枷で固定し、さらに両腕も胴の左右に沿わせるようにして手枷で固定した。
    すべての枷の鍵をひとつづつ掛けて、確認する。
    ユーリが手を振ると、港湾局の役人が縄梯子を降りてきて巫女の拘束状態をチェックした。
    そして腰枷の合わせ目に封印の札板を貼り付けた。
    この封印は、次に入港してその港の役人の立会の下でのみ、取り外すことが許されるのだ。
    こうして船首にフィギュアヘッドのごとく固定されたリッカは、次の港に着くまでの間、船の一部として過ごすことになるのだ。
    それぞれの枷の鍵は、船長が金庫に入れて管理する決まりである。
    これでニコチコヤ号の出航の準備はすべて整った。
    「じゃあ出発しようか、リッカ」
    『そうね。・・出航、よーそろ』
    「何だって?」
    『あなたの星では、そう言うんでしょ?』
    リッカが楽しそうに伝えてきた。

    22.
    ビオリアを出航して3日が過ぎた。
    ユーリはニコチコヤ号の舵輪を握りながら周囲を見回す。大陸の影はどこにも見えなかった。
    『まだ心配してるの?』リッカが聞いてきた。
    「ああ、心配だよ。7日も無寄港だなんて」
    『船には十分な水と食料を積んでるわよ』
    「君は水も食料もとらないじゃないか」
    航海中、海路の巫女は水や食物をほとんど摂取しない。
    その明確な理由はリッカ自身でも説明できなかったが、どうやら特殊な環境が巫女の身体をそのような体質にしているらしかった。
    「僕は君のことを心配してるんだ。いくらコーミンの巫女だからって」
    ユーリの心の中にリッカの笑い声がこぼれた。鈴が鳴るような笑いだった。
    『確かに、コーミンの巫女の身で船を導いたのは、私が最初かもしれないわね』
    リッカはビオリアの神殿以来、少し変わったような気がする。
    以前と違って、よく笑うし、ときには冗談も言う。
    『大丈夫よ。トミヤバールまでの航路の最短記録を作ってあげるわ!』
    リッカが船を導いてから、ニコチコヤ号は今まで経験したことのない航路を進んでいた。
    普通であれば、2~3日おきにどこかの港に寄港する。
    航海中、昼も夜も休みのない巫女の休息のためにはどうしても必要な寄港である。
    ところが、リッカは7日間連続で航行できると主張した。
    そして有無を言わさずにニコチコヤ号を陸から遠く離れたコースに導いてしまったのである。
    陸が見えなくなれば、羅針盤のないアクナスでは、航海は海路の巫女に頼るしかない
    もはや、ユーリもリッカのすることに逆らえないのである。
    「海の上で過ごす気分はどんなもんだい? リッカ」
    『とっても新鮮よ。海の風をこの身で切り開いて進む気分は最高だわ』
    「そんなところに一人で拘束されても?」
    『ええ。私、船と一体になっているのよ。今は私自身の肉体の自由なんて要らないわ』
    「寂しくはないかい?」
    『あなたがいてくれるじゃない。・・あ、もしかしてユーリ』
    「何?」
    『もしかしてあなた、私が自慰するんじゃないかって心配しているの?』
    「そんなことはないよ」
    『大丈夫よ。私、初めて海に出るのよ。それはしたこともないし、できないわ』
    再び鈴が鳴り響くような笑い声。ユーリは頭をかいた。
    「・・一つ聞いてもいいかい?」
    『いいわよ』
    「君は僕にすべてを捧げてくれるのは、この星の運命がかかっているから? それとも別の理由?」
    『それは難しい質問ね』
    「そうかな」
    『以前の私だったらこの星を守るためって答えたわ。・・でも、今なら後者の理由もあるって答えるわ』
    「ねぇ、それはもしかして」
    『ばか。教えないわ。あなたには心の中に星渡りの巫女がいるでしょう?』
    ばか、か。リッカが「ばか」って言ったのも初めてだな。何か可愛いね。
    『ユーリ、もう一回言うから心して聞きなさい。・・ばか』

    23.
    ニコチコヤ号は真夜中の嵐の中を進んでいた。
    甲板の上を船員達が走り回っている。
    『舵を右に! 波がくるわ』リッカが指示を伝える。
    「面舵!」
    ユーリは舵輪をぐるぐると回す。船がゆっくりと右を向く。
    壁のような波が正面から迫り、船はそれを切り裂いて進んだ。
    『!!!』
    ユーリの脳内に衝撃が伝わる。
    船の先端に張り付けられたリッカは正面から波にぶつかって海水の中を潜ったはずだ。
    「大丈夫か、リッカ!」
    『私のことより船を心配して! ・・次は左から突風よ』
    「ジブ全閉!!」
    前方に張られた縦帆が畳まれた次の瞬間、突風にあおられて船は45度以上傾いた。
    ニコチコヤ号は明け方近くまで戦い続けた。
    「リッカ、生きてるかい!?」
    『まぁまぁ生きてるわ』
    「次に陸に上がったら、君にシュノーケルをプレゼントするよ」
    『それは何?』
    「地球で使ってた、水の中でも息のできる管さ」
    『まあ、じゃあ、この船のマストよりも長い管が必要ね』
    「ははは、そうだね」
    『ユーリ、後ろ!』
    数百メートルの後方で、海面が盛り上がって巨大なうねりになった。
    うねりはみるみる成長してニコチコヤ号を追いかけてくる。
    船は後ろ向きに波に乗り上げて行き、やがてその頂上に達しようとするとき、リッカが叫んだ。
    『横転する!』
    「どっち向きに倒れるんだ、リッカ!!」
    『み、右っ』
    まるでスローモーションの動画のように、うねりの頂点から船の後ろ半分が空中に突き出す。
    次の瞬間、船は明らかに船尾を左に振った。
    くそ!
    ユーリはすかさず舵輪を全力で右に回した。
    水の抵抗がなくなったためか、舵輪が極端に軽い。
    『ユーリ! それじゃ倒れる方向よ!!』
    「いいんだ!、これで・・」
    波に追い越された船は、今度は船尾を下にして波の谷底に向かって滑り落ちる。
    舵が再び水中に没すると同時に、ユーリは今度は舵輪を逆に端から端まで回した。
    船はゆっくりとコントロールを取り戻し、再び帆走状態に戻った。
    「だ、大丈夫かい」
    『今度ばかりは私の予想が裏切られて嬉しいわ』
    「うまく波舵(なみかじ)をあてることができたんだ」
    『その調子で、未来を変えるのよ、ユーリ』
    リッカは明るい声で伝えてきた。
    『嵐はもうすぐ終わるわ!』
    リッカの予測の通り、やがて嵐は遠ざかってニコチコヤ号の船員達は落ち着いた夜明けを迎えることができた。
    昼過ぎになってようやく波が静かになると、ユーリは船を停めさせた。
    縄梯子を掛けてリッカの脇に下りると、そこには、塩の結晶に覆われ、まさに動かないフィギュアになったリッカの姿があった。
    水をかけて濡らした布でごしごし拭くと、その下からリッカの顔が現れてにやっと笑った。
    海面から10メートルの高さで、ユーリは顔を近づけリッカと唇を合わせた。
    ・・
    その5日後、ニコチコヤ号はトミヤバールに入港した。
    ビオリア~トミヤバール約6000パーセクの航路は通常20日以上かかるところ、わずか15日での到着である。
    途中の寄港は1回のみ。あとはほぼ直線コースで大洋を横切った。
    そのスピードはもちろん新記録であり、しばらくの間、港の人々の話題となった。

    24.
    その夜、港の近くの宿屋でユーリはリッカを抱いた。
    知識豊富で聡明、優秀な巫女で、時にはユーリをうならせるほど大人びたリッカだったが、この夜はごく普通の14歳の少女だった。
    リッカはユーリの前で、処女の恥じらいと破瓜の涙を見せた。
    貪欲なまでにユーリを求め、そしてユーリの愛を何度も注がれて全身を震わせた。
    すべてが終わって腕の中で眠るリッカの頭を、ユーリはそっと撫でた。

    [第2部完]



    ~登場人物紹介~
    ユーリ・タイガ: 27歳。惑星アクナスにひとり不時着した地球人。
    リッカ: 14歳。コーミンの儀式で選ばれた巫女。人の過去と未来を見通す力に優れている。
    タシナン: 102歳。リッカの曾祖母。占い師。コーミンの期間だけ一族の娘を連れて怪しいショーをしている。
    マッカ: 66歳。貨物帆船ニコチコヤ号の船長。
    スキミ: 37歳。海路の巫女。マッカと長年コンビを組んでいる。
    アイリ・キリギス: ビオリア行政神官を兼務するコーミンの巫女。

    第2部はアクナス南部の都市ビオリアで開催されるコーミンというお祭を中心とした物語です。
    設定集をアップデートしましたので、例によって興味のある方だけこちらをご覧下さい

    巫女リッカについて、某有名ライトノベルの長★有希さんに雰囲気が似ていると思った方がおられたら、それは気のせいです。喋り方とか違うし:P
    (実際のところ、本話を書いたとき作者はこのラノベを知りませんでした、と一応言い訳・・)

    さて、作者の妄想のひとつに、街の中で女性がごく普通に緊縛されて飾られている光景があります。
    今回はそれを大々的と行うことにして、街のそこかしこに縛って吊るされた巫女姿の少女と、緊縛された美女が何百人も並ぶパレードを登場させました。
    登場する女性達はすべて嫌々ではなく自ら望んで楽しく拘束されています。
    好みが別れるところかもしれませんが、私はこういうときの緊縛は "明るく元気に楽しく" が好きです。

    そしてもう一つ、作者の萌えは、フィギュアヘッド(船首像)のごとく船の舳先に固定された海路の巫女です。
    こちらも、食事や排泄はどうするんだとか突っ込みどころは多々ありますが、萌え優先で登場させました。
    ファンタジーの世界で超能力のある巫女だからこそ、この状態で何日間も過ごすことができるのです。
    普通の世界の小説であればM女性をクルーザーなどに短時間取り付けて楽しむ程度が精々でしょうね。

    次回第3部はいよいよ完結編です。
    どうぞお楽しみに。

    ありがとうございました。




    アクナス第1部(1/3)・星渡りの巫女

    星渡りの巫女

    1.
    木の蔓を編んで作った台に一糸まとわない少女が横たわっている。
    14~5歳くらいに見える少女は、仰向けになって、両手に握った金色の棒を両足の間に挟んでいた。
    「ん・・」
    彼女は目をつぶり、眉にしわをよせて、何かの力を金色の棒に注いでいる。
    背の高い女性が横に立ち、さらに7人の少女がその回りを囲んで地面に座っていた。
    横に立つ女性がうんざりした声で言った。
    「ハオミ、もういいよ。それじゃ痛いだけで終わっちまう」
    台上の少女は目を開けて上体を起こし、不満気に答える。
    「ごめんなさい、ジュミ。・・でも何も感じないんだもの」
    少女の胸元にうっすらと汗が光っていた。
    「肉体の感覚に頼っちゃだめだよ。あんた、それを何だと思ってるんだい?」
    ジュミはハオミの手に握られた棒を指差す。
    「こ、これはトオマのものです」
    「違うさ。トオマのものなんかじゃない。トオマそのものなんだよ。」
    ジュミは小さくため息をついた。
    「・・まあ12分の1公転やそこらの見習いなら、こんなもんかねぇ。アズナ、手伝ってくれるかい?」
    「はい」
    少女達の中から一人が立ち上がった。
    ここは星渡りの巫女と関係者だけが立ち入ることを許された浜辺である。
    水平線に沈みかけた夕陽が少女達の肌を赤く染めている。
    左右にはチコヤの林が海岸に沿って広がっている。
    夕凪の海は静かでほとんど波もなく、ときおり魚が跳ねる音が聞こえるだけだった。
    南の空には半月になった第一月のマナが見えている。
    まもなく第二月のヨナも上がってくるだろう。
    「もう一回横になって目を閉じて」
    中央に進み出たアズナはハオミを仰向けに寝かせ、その金色の棒を両足の間に持っていかせる。
    そして棒を握るハオミの手から包み込むように自分の手を当てた。
    「ハオミ、あなたの目の前にトオマがいらっしゃるわ。わかる?」
    「・・はい」
    「あなたとトオマはひとつになるの。トオマはあなた、あなたはトオマ・・」
    アズナの額についた丸い石が青く光り始めたようだった。
    それに呼応するように、ハオミの股間に押し当てられたルミコンの棒も鈍く光り出した。
    「あぁ」
    台に横たわったハオミが声を出す。それは先ほどとは明らかに違う声だった。
    ハオミの額の丸石も輝いている。
    「あ、ああ!・・」
    夕暮れの広場はアズナとハオミの額の石から放たれる光で照らされる。
    やがてアズナは自分の手をハオミから離した。
    アズナの額の輝きがゆっくり消えていく。
    「・・よかったね、ハオミ」
    アズナは高揚した表情でハオミを見つめる。
    「アズナ、さすがだよ」
    ジュミがアズナの肩に手をやった。
    アズナはびくんと体を揺らしてジュミを見、それからにっこり笑った。

    2.
    ハオミはしばらく喘ぎ続けて、やがて落ち着いた。
    彼女の手から棒が地面に落ちる。
    それはまだ燃え残りの炭のように赤く光っていた。
    「どうだい?」
    横に屈んだジュミが聞いた。
    「あ、あたし、トオマと一緒にいました!」
    「それはよかった」
    「あぁっ、こんなの初めてです」
    ハオミの目から涙がこぼれていた。
    「アズナ! ありがとう・・」
    「私じゃないわ。ハオミ、あなたの力なのよ。私はほんの少し助けてあげただけ」
    アズナはハオミににっこり微笑んだ。
    ハオミも微笑み返す。
    「笑ってる場合じゃないよ、ハオミ」
    ジュミの声が冷たく響いた。全員が肩をすくめる。
    「一人でいつでもその力を使えるように鍛錬しなさい」
    「・・はい」
    「そこらの娘っ子のように夢見てるだけじゃ、一人前の巫女になんて絶対なれっこないよ」
    そう言ってじろりを回りを見回す。
    「あたしは週に1回しか来られないから、先輩によく教わっておきな」
    ジュミは立ち上がった。彼女の首に銀色の首輪が巻きついている。
    「今日はこれで終わり。あんた達にアルとジルの御恵みがあるように」
    教育係のジュミが去ると、残された少女達に緊張が解けて笑みがこぼれた。
    ハオミが巫女の衣装を身につけながらぼやいた。
    「はあ、いくら元巫女だといっても、もうちょっと優しくして欲しいな・・」
    「ハオミ、ジュミは厳しいけど本当は優しい人よ。私達が務めを果たせるように心から願ってくれているわ」
    アズナが言った。
    「それは分かってますけど・・」
    ハオミはまだ不満そうだった。
    「あたし達、本当に巫女としてやってけるんでしょうか」
    ハオミと同じ巫女見習いのチカヨも言った。彼女もまだルミコンの棒を光らせることができない。
    「巫女見習いになったばかりで、そうそう一人前にはなれないよ」
    そう言って笑うのはスベルカだった。
    「あんた達、巫女に選ばれてこの石を授かったとき、誓いを立てたんだろ?」
    そう言いながら自分の額をつつく。
    そこには星渡りの巫女の印である青い玉光石がついていた。
    玉光石が光るとき、それは巫女の力の発動を示す。
    「はい! 巫女としてトオマにすべてを捧げます!」ハオミとチカヨが声を揃えて唱えた。
    星渡りの巫女はアクナス中の少女の憧れだ。選ばれただけで最高の栄誉なのだ。
    「才能があるから選ばれたのよ。だから頑張らなきゃ」ナミカがそう言って励ます。
    「はい!」
    「じゃあ、解散しましょうか」7人の中で最年長のアズナが言った。
    「あの・・」チカヨが手を上げる。「アズナさんの自縛を見せてもらえないでしょうか?」
    「あ、あたしも久しぶりに見たい!」ミーナンとヤンナも手を叩く。
    アズナは一瞬困ったような顔をしたがすぐににっこり笑った。
    「いいわ。新人さんの勉強のためだものね」

    3.
    浜辺の広場に海に向かってリリナギに似せた模擬祭壇が作ってあった。
    アズナが祭壇の前に立ち、他の巫女達が回りを囲んで座る。
    アズナは17歳。星渡りの巫女の最終公期を迎えていた。
    他には16歳のスベルカとナミカ、15歳のミーナンとヤンナ、そして14歳で巫女見習いのハオミとチカヨがいる。
    アズナとナミカは血の繋がった姉妹だった。
    「巫女がトオマを迎えるにあたって、緊縛はとても重要な儀式のひとつです」
    アズナが説明を始める。
    「トオマがご希望になれば、巫女は全身を緊縛された状態でもトオマを導く必要があります」
    アズナは話しながら足元の袋から縄束を取り出した。
    「いろんな事情でトオマといえども必ずしも縄の扱いに長けてらっしゃるとは限りません」
    縄の端を手に持って伸ばしてみせる。
    「そんなときは巫女がトオマを助けて差し上げなくてはなりません。そのひとつが自縛・・」
    アズナは祭壇に上がって直立した。
    長く伸ばした緑髪の左右には貝殻の飾り、胸と腰まわりだけをわずかに覆う衣装をつけ、海獣の毛皮で作ったブーツを履いている。
    アクナスの女性には珍しくアズナは色白で、褐色の肌をした他の巫女達の中では異端といえた。
    同い年だったミミンが務めをまっとうしてから、アズナは名実ともに巫女達のリーダーとして尊敬を受けていた。
    「よく見ていてね」
    アズナは自分で目隠しをし、更に皮の猿轡を口にはめる。
    続いて腰を屈めて縄を自分の足首に掛け始める。
    その縄は見る見るうちに膝から太もも、腰へと回り、身体の前で何度も斜めに交わりながら、アズナの素肌に食い込んでいく。
    「さすがに早いなあ」スベルカが感心してつぶやく。
    自分の首まで縄を掛けると、アズナは腕を後ろに回して胸の前から縄を取り回し、自分の上腕と手首を固定した。
    『これが直立での自縛。リリナギの場は一晩中続くから、巫女は最低5種類の自縛ができないと駄目よ』
    巫女達の頭にアズナの言葉が直接流れる。ジンだ。
    アクナスの住民は多かれ少なかれジンの力を持つが、星渡りの巫女はとりわけその力が強い。
    ジンの力が十分にあれば、たとえ猿轡をされていても会話ができる。
    見習いのハオミとチカヨは初めて見るアズナの技に言葉も出なかった。
    「どう?」スベルカに背中を叩かれて二人は我に返ってびくりとする。
    「す、すごいです」
    「あ、あたし、もう感動しましたぁ~」
    『もっとそばで見てもいいわよ』アズナが呼びかける。
    全員が模擬祭壇に上がってアズナの縄を近くで観察する。
    「手首はどうなってますか?」
    ハオミが後方で後ろに組んだアズナの手を見る。
    直角に交差した二つの手首に縄が掛かっていた。
    『私の手をねじり上げてごらん』
    そう言われてハオミはアズナの右手を持ち上げようとするが、びくともしなかった。
    「・・これ、もちろん自分では解けないですよね?」
    『ええ、そうね』
    「素敵~っ」ハオミとチカヨが胸の前で手を合わせて喜んだ。
    「これですべてをトオマに捧げるんですよねっ。きゃあ~!!」ぴょんぴょん飛び跳ねる。
    「こらこら、あんた達もう本当に巫女になるんだからね。子供みたいにはしゃいでないでちゃんと勉強しなさい」ナミカがいさめた。
    「でも、もう本当に一級の自縛っ。あたしだって、喜んじゃいますよ」
    ヤンナがそう言って、アズナの脇腹を指でつついた。
    『あ。こらあ。そんなところ撫でたらくすぐったいでしょぉっ』
    アズナが首を振って身をよじる。
    「あはは。こそばっちゃえっ」
    『あ、きゃ! ちょっとちょっとぉっ』「きゃはは」「んん~!!」
    少女達が身動きできないアズナを攻撃する。
    『!』
    突然アズナが動きを止めて目隠しの顔を海に向けた。
    一瞬遅れて他の6人も振り返り、水平線の彼方を見つめる。
    何かが、やってきた。
    アクナスの生き物とは違う、何かが。
    巫女達は互いに顔を見合わせ、アズナの拘束を解き、それから神官に報告すべく相談した。

    4.
    人口30万人を越えるトミヤバールは、惑星アクナスで一番大きな都市だった。
    アクナス最高神官でトミヤバールの行政神官を兼ねるザカリヤ・リリタスが自宅の書斎で考え込んでいた。
    先週やってきた招かざる客。
    アクナス2千公転の歴史でも初めての事態にザカリヤは対処しかねていた。
    どうせ本星の大神官は殺せというだろう。
    争いを好まず有史以来戦争のないアクナス人にそんなことはできるはずがないのに。
    「お呼びですか、父様」
    アズナとナミカがやってきた。
    「うむ。協力して欲しい」
    ザカリヤは二人の娘を椅子につかせる。
    「先日キリキ山に天から落ちたものを知っているな」
    「はい」アズナは答える。
    「異星の生物ですよね」とナミカ。
    「そうだ。しかも我々人間の男性と何ら変わるところのない生物だ」
    「そうなんですか」
    「それがまもなくトミヤバールにやってくる」
    二人は驚いた。
    落下から数日間、意志をもった何かが生きていたことはジンの力で感じていた。
    しかしその気配が急に消えたので、てっきりそのまま息絶えたものと思っていた。
    「わしが派遣した神官が、精神隠蔽して連れ帰ってくるのだ」
    それは大変! アズナは思った。
    異質な思考をする生物を、惑星中にいる誰にも気付かれずに輸送することなど、はたして可能なのだろうか。
    父様のもとにいる上級神官が5人、いや10人で常にジンの隠蔽バリアを張りながら、4000パーセクもの大移動。
    「それをやったのだ」
    ザカリヤに言われて、思考を読まれたことを知った。
    いけない。つい漏らしてしまった。
    父も優秀な神官なのだ。
    「あたし達に何かできることがあるんですか?」ナミカが聞いた。
    「大ありだ。彼と意思疎通して彼が会話できるように教育して欲しい」
    「私達が?」
    「私の神官でも彼の喜怒哀楽や生理的な欲求は分かる。しかし思考となると論理構造がまったく違うので読み取れないのだ」
    そう言ってザカリヤは二人の顔を交互に見た。
    「お前達ならそれが理解できるはずだ」

    5.
    ザカリヤの部屋を出て廊下を歩く。
    えらいことを頼まれたなぁ。
    『姉様。ときどき、不注意だよ』ナミカがジンで語りかけてくる。
    「わかってるわよ」先ほど父に思考を読まれたことだ。
    星渡りの巫女は強烈なジンの力を持つ故に、外に流れ出る思考も強く大きい。
    不用意に漏らして回りの者を惑わさないよう、常に注意しなければならない。
    「それにしても、異星の生物なんて怖いよね」
    「・・うん」
    それは会ってみないとわからないな。
    ちょっと楽しみ、なんて。
    ナミカに読まれないように気をつけながら、アズナは期待の思いを抱いた。
    「母様だったら、どう言うかなぁ」
    廊下の突き当たりでナミカが立ち止まって壁の肖像画を見上げる。
    そこには家族4人の正装した姿が描かれていた。
    神官のガウンをまとった父、その横に今は亡き母が白いドレスで椅子に座っている。
    10歳のアズナと9歳のナミカが手前に並んで立っている。
    「母様綺麗だよね」
    「うん」
    絵の中で微笑む母は、金色の首輪をつけ、白い縄で後ろ手に縛られていた。
    その前で笑うアズナとナミカが後ろに回した両手もそれぞれ大きな赤いリボンで縛られていた。

    6.
    ユーリ・タイガは背中に力を入れてのびをしながら周囲を見渡した。
    自分を拉致した原住民の男達がユーリと同じように膝を抱えて座っている。
    周囲は360度の水平線。もはや陸地の影はない。
    暑い。ずいぶん南に移動したな。
    ユーリは脱出ポッド装備のフィールドスーツ姿だったが、男達は半裸に近い格好をしている。
    頭上には粗末な布が張られて、この星の太陽の光を何とか遮っていた。
    こんな小さな木製のボートに10人以上乗り込んで、沈まないのが奇跡だよな。
    彼らはユーリが空腹を感じると気配で分かるのか、何かの穀物で作ったらしいパンのようなものを与えてくれた。
    異星の食物を検査もせずに口にするのは自殺行為だが、救出の望みのなくなった今ではどうでもよかった。
    それよりそろそろ違う食べ物が欲しいね。毎日同じパンだもんな。
    ユーリの乗った宇宙船が故障し、脱出ポッドでこの惑星に不時着してから10日。
    宿営地を突然襲われて6日。
    軌道上から簡易測定したこの惑星は地球とよく似ていた。
    自転周期は23時間40分、1公転は370.2自転。
    赤道重力は地球の97%。若干酸素が多い他は地球の空気と変わらない大気成分。
    中緯度地方には明らかに四季があり、赤道での推定年間平均気温は摂氏29.5度。
    原住民はホモサピエンス型。その他の動植物も地球とそっくり。
    惑星全体の推定人口は1億~5億人程度。
    ただ、宇宙から見る限りこの惑星はまったく未開だった。
    都市や道路、耕作地などが観察されたが、機械文明の証拠はゼロだった。
    道路には4足獣の引く馬車、海に浮かぶ船はすべて帆船か手漕ぎの小船。
    化石燃料はもちろん、電気や蒸気機関の存在も認められなかった。
    もちろん、電波による通信や放送など気配もない。
    原住民にまったく気付かれずに高緯度地方の高山に降りたのは間違いないはずだ。
    なのに何で知られたんだ?
    ユーリを突然襲った男達に敵意がないことは分かった。
    むしろ彼を何かから守るように回りを囲みながら、まる1日かけて慎重に海岸まで移動した。
    そして小船に乗せられてもう4日になる。
    それにしてもこのボートはどうやって進んでいるんだろう。
    舳先に立った男が金色の棒を頭上にかざすと、一瞬棒が光ったように見えた。
    次の瞬間、皆を乗せた小船は波を立てて進み始めたのだ。
    魔法?
    まさかね。

    7.
    夜も昼も休まずに進む船に揺られて12日目の朝、ようやく町並みが水平線の向こうに見えてきた。
    大きな港が見えたが、そこには近づかず、町から外れた人気のない海岸に上陸した。
    地球のヤシの木とそっくりな植物。青い空。白い砂浜に打ち寄せる波。
    「ふあ~~っ」
    背伸びをしようとするところ、また男達に囲まれて手を引かれた。
    まただ。こいつら僕をどうするつもりだろう?
    やがて木に囲まれた大きな石造りの建物の中に入る。
    斜面を下って複雑な通路を何度も折れて進み、大きな部屋に入った。
    そこは数本の松明があるだけのがらんとした広間だった。
    部屋の隅で焚かれているのは香か? この匂いは。
    気がつくと自分を連れてきた男達の姿がない。
    ユーリは広間の中央にただ一人立っていた。
    『あなたを歓迎します』
    後方から呼ばれたような気がした。
    あれ? 慌てて振り返る。
    いつの間にか広間の入口に男女が立っていた。
    初老の男性はひげ面でステッキを持ち、長いガウンのような衣装を着ている。
    ガウンには細かく光る模様が織り込まれていて男性の身分の高さを感じさせた。
    女性は、色白で、少女といってもよい年頃のようだった。
    極端に露出の大きい衣装を身につけている。
    わお、ビキニだぜ。
    男性は仏頂面でユーリを見ていたが、少女は微笑んでいた。
    その少女の額についた小さな飾りが青く光っているように見えた。
    「あんたは?」
    『ごめんなさい。あなたの言葉は喋れないの』
    ユーリの頭の中に強くて明確なメッセージが流れた。
    え? 何だこれは?
    『この建物は精神隠蔽されているから大丈夫』
    流れる声が頭の中で割れるように響く。
    少女の額の光がまぶしくて直視できない。
    酔っているのか?
    『あなたにジンの力はないの?』
    壊れかけた反動エンジンを耳元で試運転されているようだ。
    ふらふらする。
    『いけない。少し休んで下さい』
    男達が現れてユーリを抱え上げ、そのまま通路を通って別の部屋に移動した。
    床に敷かれた絨毯と毛布の上に寝かされた。
    ユーリは身体を起こそうとしたが、意識がもうろうとしてそのまま眠り込んでしまった。

    8.
    気がつくと目の前に先程の少女がいた。
    少女はユーリの額を冷たく濡らした布で拭いてくれていた。
    ユーリが目覚めたのに気付き、にっこり笑った。
    『よかった、目覚めてくれて。さっきは力が強すぎたようです』
    「あんたは誰なの?」
    『私はアズナ。星渡りの巫女です』
    あずな?
    『そう。アズナ。あなたは?』
    僕は、ぼくは、・・そう。ユーリ・タイガだ。
    突然、ユーリの脳裏に記憶が溢れた。
    両親の顔。煤煙にまみれた故郷の町。
    宇宙船パイロットの訓練。操縦室の仲間達。初めての深宇宙航路。
    結婚を約束した恋人。
    船内に鳴り響く警報アラーム。有無を言わさず射出される脱出ポッド。
    『あ~ぁ。そんなにいっぱいにしたら分からない。もう少しゆっくり伝えて下さい』
    こいつは、この可愛い子ちゃんは、僕の思考が読めるのか?
    『ええ。ジンの力でね。・・あなたにも私の想いは伝わっているでしょう?』
    そ、そりゃそうだが。
    もしかして、ここの原住民はみんな超能力があるのか?
    『超能力? その言葉は初めてですね・・。ええ、多分それがジンのことです』
    そうか。じゃあ、僕をここまで船で連れてきた連中も。
    『はい。あの人達は優秀な神官ですから』
    僕が不時着したことはどうやって分かったんだ?
    『あなたが天から落ちたのは、ここトミヤバールにいる巫女達が気付きました。それで神官の派遣が決定されたのです』
    そうか。最初からばれてたんだな。
    ユーリは頭をかいた。
    で、僕はどうなるんだ?
    『それは行政神官があなたを調べてから決めます。まずあなたは行政神官の調べに答えられるよう、アクナスの言葉を覚えなければなりません』
    言葉を覚えるのか?
    少女はユーリの手を取って自分の額の青い丸い石に当てた。
    それはわずかに暖かいように感じた。
    「ワ・タ・シ、ガ、オ・シ・エ・ル」
    少女がユーリの言葉をたどたどしく発声してにっこり笑った。

    9.
    アズナはアクナス語の優秀な教師だった。
    彼女は毎日ユーリの部屋を訪ねて言葉を教え、数週間も過ぎるとユーリはアクナス語を少しずつ話せるようになっていた。
    行政神官によるヒアリングが始まる。
    ここに着いたときに会ったひげ面の男性がユーリに面談した。
    ザカリヤというこの神官はアズナの実の父親だという。
    「そなたはアルとジルの名に誓って、うそ偽りなく真実を述べられるか」
    アルとジル?
    『アクナスとすべての星々を治める海と太陽の神です。誓います、と答えて』
    横に立つアズナの言葉がユーリの頭の中に伝わる。
    「誓います」
    ザカリヤはアズナをじろりと見てから質問を始めた。
    「そなたはどこから来たのか?」
    「地球、と呼ぶ星です」
    「それはどこにある星か?」
    ユーリはザカリヤの質問にアクナス語で答え、意味が分からないときはアズナが助けてくれた。
    「・・その星を渡る金属の船にはそなたを含めて何人乗り込んでいたのか?」
    「5人です」
    「そのうちアクナスに下りたのは?」
    「脱出できたのは僕だけでした」
    「他の異星人が絶対に下りていないといえるのか?」
    「・・・」
    「父様、ユーリは嘘をついていません」アズナが横から口をはさんだ。
    「黙りなさい。女よ」
    アズナは二歩下がり両膝を床について深く頭を下げた。
    「異星人といえどもこの者は男性なのだ。男性どうしの会話に女が口を挟んではならぬ」
    ザカリヤは少し天井を見上げて小声で付け足す。
    「それにこれは公式の聴聞であるから、わしのことは行政神官と呼ぶように」
    このおっさん、家ではやさしい親父じゃないかな。
    ユーリがそう考えると、ザカリヤのしかめ面がいっそう厳しくなった。
    頭を下げたままのアズナがくすりと笑ったような気がした。

    続き




    アクナス第1部(2/3)・星渡りの巫女

    10.
    「ユーリ、外に出る許可が出たわ」
    「やった」
    うす暗い石の建物からようやく出られるのだ。
    アズナに連れられて海岸に出る。
    軟禁生活の後に見る外の世界は美しかった。明るい太陽、打ち寄せる波。
    もう我慢できない。
    フィールドスーツの上半身を脱いで海に飛び込んだ。
    「ひゃっほぅ!」
    思う存分に泳ぐ。
    仰向けに浮かんで空を見る。抜けるように青い空と白い入道雲。
    ここが地球じゃないなんて冗談のようだ。
    地球は・・、何十万光年離れた地球は、あの空のどこにあるんだろう。
    しばらく波に漂ってから岸に上がった。
    アズナが身体を拭いてくれる。
    「ここは地球にそっくりだよ。あれもまるでヤシの木だ」
    アズナは周囲の木々を見回して言う。
    「あれはチコヤの木というの。この地方ではありふれた木よ」
    「もしかして甘いジュースのたっぷり入った実ができるかい?」
    「そうよ。それも同じなのね」
    「ところで、精神隠蔽されていないところに僕を出しても大丈夫なのか?」
    「父様が許可したのよ。あなたは危険じゃないって。それにここは神官と巫女しか立ち入れない浜だから安心して」
    「そうか。あのおっさん、わかってるじゃないか」
    アズナが振り返って叫んだ。「いいわよ。いらっしゃい!」
    チコヤの木の陰に隠れていた少女達が現れた。
    皆アズナと同じようなビキニを着ているが、どの娘も褐色の肌をしているのがアズナとは少し違っていた。
    「巫女の仲間よ」
    アズナはユーリに一人ずつ紹介する。
    「・・これはナミカ。巫女の第3公期で私の妹」
    他の巫女達に隠れるようにしていたナミカが少しだけ膝を曲げて挨拶する。
    「ナミカ、お姉さんは優しいかい?」
    「優しいわ。星渡りの巫女としてはもう少し厳しくてもいいんじゃないかと思う」
    「こらナミカ。何を言うの」アズナが笑いながら聞く。
    「・・だって、この人は異星人よ。まるで普通の男の人相手みたいに振舞って。おかしい!」
    ナミカは後ろに下がりながらそう言って、振り返って走り去っていった。
    「ナミカ!」
    他の巫女達はばつが悪そうな顔をしていたが、やがてスベルカと紹介された少女が言った。
    「行政神官が認めたんだから、あなたはアクナスの男性と同じです。心配なさらないで下さいね」
    スベルカはユーリの足元に両膝をつき頭を下げる挨拶をしてから立ち上がった。
    「アズナは星渡りの巫女です。巫女はどんな男性にも、もちろん女性にも優しく尽くすものなのです」
    そう言ってスベルカは離れていった。
    他の巫女達も一人ずつユーリに挨拶して去っていった。
    ユーリと二人きりになってもアズナは黙っていた。
    「アズナ、僕は何も気にしていないから・・」
    ユーリが言葉をかけると、アズナはようやく言った。
    「あの子は、ナミカは、本当は私と一緒にあなたのお世話をするはずでした」
    深いため息をつく。
    「それが、あなたを怖がってしまって・・、申し訳ありません」
    「いいよ。それより今度はナミカも一緒に会いにきてほしいな」
    「分かりました。ユーリとナミカの間にアルとジルのとりなしがあるように」
    「何だいそれは?」
    『二人が心から仲良くなるように、ってことよ!』
    そう伝えてようやくアズナは笑った。

    11.
    夜、ユーリとアズナは海岸の砂浜に並んで座っていた。
    「こんな時間まで僕と一緒にいても構わないのかい?」
    「ええ、あなたが十分言葉を話せるようになるまでお世話するのが私の仕事だから」
    「そう・・」
    横を見ると、夜風にそよく髪をおさえながらアズナが微笑んでいた。
    髪飾りの貝殻が揺れている。
    可愛いな。ユーリは思った。
    こんな美少女と一緒にいるのを見られたら、ニッキに何って言われるかな。
    ふと婚約者の顔が浮かんだ。
    ユーリは頭上を見上げる。そこには満天の星が輝いていた。
    地球は、あの空のどこにあるんだろうか。
    「あなたの星に帰りたい?」
    「できればね。でももうそれは無理だから、アクナスで一生過ごすしかなさそうだな」
    そのときにアズナと一緒にいられたらいいかな。
    「ああ、それはできないわ。星渡りの巫女は普通の男性とは一緒にいられないから・・」
    心を読まれたな。まあ、構わないか。
    ユーリがそう考えたとたん、アズナがいけないという風に口を押さえた。
    「ごめんなさい! 必要もないのにあなたの中を読んで」
    「構わないよ。アズナに秘密にすることなんかないさ。僕が君を可愛いと思ってるのは本当だしね」
    「ありがとう。でもアクナスではそういう言葉は結婚が決まった女にだけ言うものよ」
    「あ、そうなのか。じゃ、結婚するかい?」
    ユーリとアズナは声を出して笑った。
    「あはは。巫女は結婚できないんだったね。でもまあ、僕にもいい奥さんができるよう祈ってくれよ」
    「ええ、そうするわ・・」
    アズナはそう言ってすぐにユーリの哀しみに気付く。
    遠い異星で一人置かれた地球人の気持ち。
    二度と会えない故郷の家族、婚約者への思い。
    ユーリはそれを押し殺さずにアズナが読み取るままにしていた。
    「ユーリ・・。あなたって、何も包み隠さないのね」
    「だって僕の心を何でも読めてしまう君の前では隠したってしかたないだろう?」
    「アクナスのどんな男性だって私の前では心を隠そうとするわ」
    「アクナス人にとってジンの力は普通のものじゃなかったのかい?」
    「大抵の人はジンの力などわずかなものよ。誰もが神官や巫女の前では心を閉ざすわ。特に男性は」
    「そんなものかな」
    「巫女だってむやみに人の心を覗いたりはしないわ。覗いてもそれほど楽しいものでもないし」
    「うん、そうだろうね」
    その人の心の中が欲望と野心にまみれたものだったら、それはいやだろうな。
    「でも、あなたは違うわ。むしろ私に自分の心の中の想いを伝えようとしているみたい」
    「まあ、頼れるのはアズナだけだし・・」
    突然アズナがユーリの肩に自分の頭をもたれかけた。
    どきん!
    ユーリの心臓が爆発しそうになった。
    「あ、ごめんなさい!」
    あわててアズナは立ち上がった。
    「今のは巫女がしてはいけないことでした・・。じゃぁ帰るわ。お休みなさい!」
    ユーリは砂浜に座ったまま走り去るアズナを見送った。
    心臓の高鳴りはまだ収まりそうになかった。

    12.
    アクナスからエレナミス星系の中心まで光の速度でアクナスの3.5公転の距離。
    星系第一の星シャルテからジン交信の担当神官を通じてアクナスに連絡が入ったのはユーリが来て1/4公転が過ぎた時だった。
    「トローヤ大神官が来られる?」アズナは驚いた。
    「こんな辺境まで1公転の間に2度も渡ってこられるのだ。心しておくように」ザカリヤが言った。
    「やはりユーリのことですか?」
    「他に思い浮かばん」
    「・・」
    「何だ?」
    「・・私、あの方はあまり好きではありません」
    「アズナ。それは巫女が言ってはならぬことだ。分かっているだろうに」
    「はい」
    「実を言うと、わしも大神官は虫が好かん。しかしだからといって政を曲げることは許されん。・・それに」
    ザカリヤはアズナの顔を正面から見た。
    「あの方が帰星されるときに送るのは、恐らくそなただ」
    ザカリヤは女性への呼びかけで通常使う「お前」ではなく「そなた」と言った。
    それは相手への敬意を意味する。
    アズナの表情が一瞬こわばったようだった。
    しかし彼女はすぐにザカリヤに答えた。
    「身にあまりある光栄でございます。行政神官様」

    13.
    ユーリとアズナはトミヤバールの街を歩いていた。
    初めて外出を許されたユーリは特別に準備してもらった神官のガウンをまとって物珍しそうにきょろきょろしている。
    アクナスで年頃の男女が連れ立って歩くことは少ないが、巫女と神官となればさすがに誰もとがめる者はいなかった。
    「首輪をつけた女性が多いね」
    「あれは結婚した人よ。首輪は夫に所有される証なの」
    「所有ってまるでモノみたいだな」
    「法的にはそうね。アクナスの女は、幼きときには父親の、結婚してからは夫の持ち物よ」
    男尊女卑だな。地球ではほとんどなくなった概念だ。
    「じゃ、アズナは行政神官の持ち物なのかい?」
    「星渡りの巫女は特別よ。・・トオマが決まるまでの間、強いていえば私はアルとジルの直接の持ち物だわ」
    「トオマって?」
    「星渡りの男性よ。トオマだけが人間の身で巫女を所有できるの」
    「アズナのトオマは誰か決まっているの?」
    「いいえ。それは直前にならないと分からないわ」
    アズナの顔が一瞬曇ったような気がした。気のせいか?
    「でも巫女はそのときトオマにすべてを捧げて尽くすの。そのために巫女は修行して自分を高めているのよ」
    ユーリにはよく理解できなかった。
    ただ、星渡りの巫女が単なる女性の神職でないらしいことは分かった。
    「巫女様だっ」
    すれ違った少女がアズナに向かって声を上げた。
    母親らしい少女に手を引かれた少女はアズナをまぶしそうに見上げる。
    アズナは少女の目線までしゃがみ、その手を持って前で交わるようにさせた。
    「あなたにもアルとジルの御恵みがありますように」
    そう言って少女に笑いかける。少女も嬉しそうに笑った。
    「ありがとうございました、巫女様」母親が地面に膝をついて深くおじぎする。
    少し離れてからアズナはユーリに言った。
    「星渡りの巫女に3回祈ってもらったら、自分も巫女になれるっていう言い伝えがあるの」
    「へえ、星渡りの巫女っていうのは人気のある仕事なんだね」
    「アクナスじゅうに何千万人かの女性がいてそのうち星渡りの巫女は7人よ」
    「そりゃすごい」
    「自分で言うのは何だけど、相当な才能のある者だけが選ばれるの。普通の女の子が望んでなれるものじゃないわ」

    14.
    アクナスで一番の都市であるトミヤバールにはいくつかの港があった。
    今、ユーリとアズナはそのひとつで、貿易船が集まって農産物などが集積される港に来ていた。
    桟橋に泊まった帆船とその回りに集まったたくさんの馬車。
    荷物を運ぶ人夫。商人。物売り。走り回る子供達と大声で喋る女達。港は活気にあふれていた。
    「嬉しそうね、ユーリ」アズナが言う。
    「うん。地球でも海の船乗りになろうって思ってたことがあるんだ。アクナスの船は中世期の帆船にそっくりだよ」
    「そう」
    「この星で仕事をするとしたらこんな帆船に乗るのがいいかもなぁ」
    「それはいいわね。今度、船員の募集がないか聞いてみましょう」
    「ああ、お願いするよ。・・おっと、失礼」
    ユーリは二人の横を通り過ぎようとした女性に当たりそうになって、慌てて横に避けた。
    その女性は微笑みながら通りすぎる。
    「ねえ、あの人も巫女かい?」
    通り過ぎた女性は、アズナと同じようなビキニをつけていた。
    ただしその女性の肌の色は、アクナスの一般の女性よりもさらに濃い褐色だった。
    「あの人は海路の巫女よ」
    「海路?」
    「ええ。陸の見えない海の上で真っ暗な夜や嵐の中でも、ジンの力で航海の方向を示して船を安全に導く巫女」
    「そうか。・・ね、アズナ、この星には羅針盤ってものはないのかな?」
    「それはどういうもの?」
    アズナはユーリの頭からイメージを読み取って考える。
    「うーん。磁石というの? そういう便利な道具はアクナスにはないわ」
    「そうか。巫女の力で方位を知るのか」
    アズナは回りを見回して、一隻の帆船を指差した。
    「ほらユーリ。あの船」
    その帆船では出航の準備が整ったらしく、桟橋に渡した板を引き上げているところだった。
    船首の部分にロープでぶら下がった船員がいて何かの作業をしている。
    あれはフィギュアヘッド?
    フィギュアヘッド(船首像)は地球の船で船首に飾られていた女神などの像である。
    アクナスでもフィギュアヘッドがあるんだな。地球と同じ・・、そう思って気がついた。
    「あれ?」
    よく見ると、それは像ではなく生身の人間だった。
    アズナよりも幼く見える少女が、まさにフィギュアヘッドのポーズで舳先に固定されていた。
    「あれが海路の巫女よ」
    「あの巫女は、ずっとあそこにくっついているのかい?」
    「ええ、そうよ。航海中はあそこで船を導くの。船と乗員の安全を守る名誉ある仕事だわ」
    「彼女自身の安全も守られるのかい?」
    「もちろん船が守られる限り巫女も安全よ。ただ不幸にして船が難破するような場合には、海路の巫女は船と運命を共にすることが多いわ」
    「そうか・・。海路の巫女も、女の子の憧れの職業なんだね」
    「もちろんよ。星渡りの巫女は特別として、海路の巫女も優秀なジンの力のある女性でないとなれないわ」
    やがて帆船は桟橋を離れて出航して行く。
    「あの子、これが初めての仕事ね」
    「分かるのかい」
    「ええ、期待と不安でぴりぴりしているのが感じられるもの」
    確かに、フィギュアヘッドの少女は緊張した表情で前方を注視していた。
    「あの巫女が無事に航海を導くことを祈りましょう」
    そういってアズナは目を閉じて、両手を合わせた。

    15.
    「ユーリ、結婚式よ!」アズナが突然言った。
    その先の広場に何百人もの人々が集まっている。
    「少し離れて見物しましょう」
    二人は広場から離れて少し高くなっている木立の間から眺めることにした。
    広場の中央には高さ1メートルほどの木の台があり、その上に二人の人物が立っていた。
    一人は大きな青い布を頭から被り身体に巻きつけて顔だけを見せている若い女性、もう一人はその父親たらしい初老の男性だった。
    「あの青い布はアイシュンの花で染めた花嫁衣装よ。綺麗だわ」
    台の回りは群衆で取り囲まれている。
    最前列の女性達が歌とも呪文ともつかない声を張り上げている。
    やがて若い男性が台に上がった。薄い水色と黄色の模様がついた長いケープのようなものを着ている。
    花婿はまず花嫁の父に向かい合い、大きな木の箱を受け取る。
    続いて花嫁に向き合い、青い布を両手で持ち上げて下にはらりと落とす。
    ユーリは目を向いた。
    花嫁の褐色の素肌があらわになった。彼女は青い布の下に何も身につけていなかった。
    花婿は木箱を開け、その中から銀色に輝く金属の輪を取り出す。
    花嫁の父と一緒にそれを花嫁の首に巻いた。
    そして箱から丸い筒のようなものを取り出して花嫁の首に宛てる。
    女達の歌声が止み、広場は静かになった。
    花嫁がぎゅっと目を閉じる。次の瞬間、閃光が輝いた。
    花嫁はその場に崩れ落ちそうになるがそれを二人の男が支えた。
    群集から歓声があがった。
    「首輪の接合部を溶かしてつけたの。これであの首輪は一生外れることはないわ」アズナが説明してくれる。
    花婿は首輪が確かに花嫁に固定されたことを群集に示しお辞儀した。
    台を取り巻く男達が踊りだした。女達は後方に下がって再び歌い始める。
    花嫁の父が台から下りる。
    「彼女は正式にあの人の妻になったわ」
    台の上で誇らしげに立つ花婿。その横に寄り添う全裸の花嫁。
    「可愛いお嫁さんよね」アズナは感情を込めて言う。
    巫女にとっても花嫁になることは憧れなんだろうか?
    半裸の男達が台にあがり、何か作業を始めた。
    2メートルほどの長さの木の柱が運び上げられて台に据えつけられる。
    続いて色とりどりの花が台の上に撒かれた。
    作業が終わり男達が降りると、花嫁が柱を背にして台に立つ。
    花婿は白い縄束を手にした。
    「今度は何をするんだ?」ユーリは思わず地球の言葉でつぶやいた。
    「緊縛の披露よ。夫が妻をちゃんと縛れることを人々に示すの」
    「・・それは大事なことなのかい?」
    「ええ。自分の所有する女をちゃんと縛れない男性に夫になる資格はないわ」
    花婿は妻の両手を背中に回させて縄を巻きつけ始めた。
    「あの人、一生懸命だけど経験十分とはいえないわね。多分花婿教室で縛り方を勉強したんだろうけど」
    アズナが言った。
    「ああ、そうじゃないわ」もどかしそうにつぶやく。
    花婿は妻の腹の上に六角形の幾何学的な模様を縄で作ろうとしているようだった。
    六角形の各頂点に背中から張った縄を繋いで形を作るが、なかなか美しい正六角形にならない。
    花婿は手の甲を額にあてて汗を拭う。
    その顔は真剣だった。花嫁も心配そうに夫の様子をうかがう。
    次の瞬間、花婿は驚いたような表情をして手を止めた。それから妻の緊縛を再開した。
    今度は安定した手さばきになっていた。
    縄が美しい模様を描いて花嫁の肌に食い込み、やがて全身を覆った。
    花嫁はうっとりしたような表情をしている。
    よく分からないけど、うまくいったようだな。
    ユーリがそう思って横を見ると、アズナが両手を胸の前で合わせて半目になっていた。
    やがて花婿は群集の方を向き、これを見よとばかりに完成した緊縛を示した。
    大きな喝采が上がる。
    アズナは合わせていた両手を解いてほっとしたような顔で微笑んだ。
    「アズナ、もしかして君かい?」
    「ええ、少しだけ、こっそり助けてあげたわ。あそこで失敗したら花嫁さんが可哀相でしょ?」
    「こっそり、って訳にはいかないようだよ」
    「あら」
    台の上から花婿がアズナに向かって両手を振っていた。
    それに気付いた人々もこちらを向いて喜んでいる。
    「行って祝福してあげるかい?」
    『そのようね。・・ごめんなさい、ちょっと行ってきます』
    アズナが広場を横切って歩み寄った。
    「星渡りの巫女だ!!」拍手と歓声が巻き起こる。
    殺到する群集の中をアズナは中央に進み、台に上がった。
    アズナは花婿と花嫁に向かって祝福を捧げ、それから人々に向かっても祝福を捧げた。
    一段と歓声が高まる。
    中断していた女達の歌が再び始まり、男達も踊りだした。
    「え、アズナ?」
    ユーリが驚きの声を上げた。
    アズナは花婿に向かって膝立ちの姿勢になり、花婿は新しい縄を取り出してアズナを縛り始めたのだ。
    今回もジンで指示されているのだろうか。アズナはスムーズに後ろ手に縛られた。
    やがてアズナは台にうつ向きになり、膝を曲げて太ももとすねをまとめて左右それぞれ縛られた。
    猿轡のように口縄をかまされて、その反対側を膝まで繋がれた。
    馬乗りになるように跨った花婿が縄を絞り上げると、アズナの身体は大きく反り返る。
    台の上で全裸で柱に縛りつけられた花嫁とその足元で逆海老に縛られた星渡りの巫女。
    群集の興奮は最高潮に達し、やがて花婿までが台から飛び降りて踊り始めた。
    ユーリはその様子を茫然と見ていた。
    これが結婚式?
    まるで縛った女の展示会じゃないか。

    16.
    「すばらしい結婚式だったわね」
    ユーリの部屋に戻り、さすがにアズナは疲れたように座り込んだ。
    二の腕に縄の痕がうっすら残っている。
    あの後、広場では群集の中から男性が一人ずつ台にあがり、縄を一本ずつ花嫁に巻きつけて縛っていった。
    何百人もの男達から縛られる間に、花嫁は頭の上から爪先まで全身が縄の中に埋もれ、やがてぐるぐる巻いた縄の固まりのようなオブジェと化した。
    その間アズナは傍らでずっと逆海老に縛られて置かれていたのだった。
    男達の列が途絶えてようやくアズナの拘束が解かれ、二人は広場から去ることができたのだった。
    最後にユーリが振り返ったとき、赤い夕陽の中にシルエットで花嫁を縛った柱が浮かび上がっていた。
    「ねえ、あの縛られた花嫁はどうなるんだい?」
    「一晩中、あのままでしょうね。朝になったら男の人たちはみんな酔いつぶれているでしょうけど」
    そう言ってアズナはくすりと笑った。
    「どうしてアズナも縛られたの?」
    「祝福のためよ。結婚式で星渡りの巫女を縛って見せたことは、あの二人の一生の誇りになるわ」
    「もう一つ聞いてもいいかい?」
    「なに?」
    「アクナスの女性にとって、男に縛られることは嬉しいことなのかい?」
    アズナは一瞬不思議そうな顔でユーリを見たが、すぐに笑って答えた。
    「もちろんよ」
    「あんなふうに大勢の人の前で裸にされても?」
    「ええ。もし私が巫女じゃなかったら、あの花嫁さんのように扱われたいって思うでしょうね」
    「僕には退廃的としか思えなかったよ」
    「そのタイハイテキという概念はよく解釈できないけど、ユーリ、あなたもある種の興奮を覚えていたわよね」
    ユーリは赤面する。そう、確かに僕は感じていたよ。性的な興奮を。
    「ユーリにだけ本当のことを言うわ。実を言うと、私もあの広場で縛られているときは身体で感じていたの」
    アズナは自分の下腹部を手で押さえながら笑った。
    「星渡りの巫女が子宮で感じるなんて、決して知られてはいけないことなんでしょうね」
    「アズナ・・」
    「私、ユーリが好きよ。あなたが私を気にして下さるのと同じように」
    アズナは立ち上がり、ユーリに向き合うと突然その胸に抱きついた。
    !!
    ユーリも我慢できずにアズナの腰に手を回して抱きしめる。
    アズナの身体は柔らかかった。
    『ああ、ユーリ。これ以上は駄目・・』
    ユーリの感情を読んでアズナが押しとどめた。
    「私があなたのお世話をできるのは今日が最後なの」
    「え?」
    アズナはユーリから身体を離し、真顔で言った。
    「あなたはもう十分アクナスの言葉が話せるわ。・・私は巫女の務めに戻らないといけません」
    「アズナ」
    「もうすぐシャルテの大神官が来られます」
    「シャルテって?」
    「この星系の中心にある惑星よ。あなたを聴聞するために大神官が渡ってこられるの」
    「別の惑星? 君達は星間移動ができるのかい!?」
    「ええ、星渡りの巫女はそれを助けるの」
    「そうか、ジンの力で」
    「ええ。だからもう会えない」
    「そんな」
    「お願い、もう言わないで」
    アズナはユーリの口に自分の唇をよせた。
    やがてアズナはユーリから離れて言った。
    『どうか心配しないで。あなたを心から思っています。アルとジルがあなたを愛する以上に』
    その目に光っていたのは涙だろうか。

    17.
    ユーリをアクナス市民として認める。
    突然の告知はザカリヤから直接申し渡された。
    ユーリは訳の分からないうちに今までの宿舎から出され、住まいとして町はずれの小屋と当座の生活資金をあてがわれた。
    巫女の浜には近寄ることができなくなった。

    18.
    ザカリヤを従えて小屋に現れた男性は、アズナ以上に肌が白く、上下一体の真っ黒な衣装を着ていた。
    そのいでたちは一般的なアクナス人とはまったく違っていた。
    「余分なことは考えずに余の質問に対してだけ答えよ」
    男性の尊大な話し方にユーリはいささかむっとした。
    その途端、ユーリは直立した姿勢のまま動けなくなった。
    これは?
    『余の力はこのような辺境の惑星の者とは比べ物にならぬ』
    強烈なジンのメッセージがユーリの脳内に響いた。
    思わず頭を押さえようとしたが、左右に垂らした両手を動かすことはできなかった。
    「あ、あなたは?」
    『余はシャルテのトローヤ。お前は余に尊敬の意を持たねばならぬ。いかに下等な異星人だとしても』
    トローヤはそう伝えてじろりとユーリを見る。
    「大神官、この者はアクナスの市民です。そのおつもりで接して下さるよう・・」
    ザカリヤの声がしたが、ユーリはそちらを向くことができなかった。
    『ふん。慌てて取り計らったくせに。・・まあ、よい。』
    トローヤは再びユーリを正面から見た。
    『まずお前の船について聞く。言葉で答えられなければ思い浮かべよ』
    『その船の構成材料は何か?』
    『どうやって星間を移動するのか?』
    ・・
    質問は延々と続いた。
    『お前の惑星で人間の集団が他の人間の集団を殺すのに使う方法は?』
    『武器の種類について示せ』
    『お前はそれを作れるか?』
    ・・
    ユーリはほとんど言葉を発することができなかった。
    トローヤはユーリが質問に対して思い浮かべたイメージを読み取って、次の質問をした。
    どれくらいの時間が過ぎたのかわからなかった。
    気がつくとユーリは床に横たわって荒い息で喘いでいた。
    「これで聴聞を終わる」
    トローヤはそう宣言して部屋を出ていった。
    「そなた、ご苦労であった。よく休まれよ」
    ザカリヤがこわばった声でユーリを労わる。
    ザカリヤの額には大粒の汗が浮かんでいた。

    19.
    ユーリはそれから数日間、起きることができなかった。
    夢の中でトローヤの質問が繰り返され、うなされ続けた。
    ときおり目覚めてもトローヤのジンの声が頭の中に響くような気がした。
    朦朧(もうろう)とする意識の中で誰かが彼の汗を拭いてくれているような気がした。
    「アズナ?、アズナかい?」
    だがその人は何も答えず、ただ両手でユーりの頬をそっと押さえてくれただけのようだった。
    ユーリはすぐに意識を失い、再び悪夢にうなされた。

    続き




    アクナス第1部(3/3)・星渡りの巫女

    20.
    トミヤバールから帆船でまる1日の無人島。
    その島の高台にトローヤ大神官とアズナがいた。
    『このような暑い惑星に何度も来るものではないな』
    アズナに背を向けて海を眺めるトローヤがうんざりした様子で伝えてくる。
    アズナは真っ青な布を頭からかぶり、トローヤの後ろで控えていた。
    やがてトローヤは振り返り、アズナを覆う青布を払いのける。
    アズナの白い裸身が現れる。
    全裸のアズナの首には細かい模様細工のついた豪華な金色の首輪が巻きついていた。
    首輪の継ぎ目は溶接されて一体となっていた。
    『リリナギの間、十分に仕えよ』
    「はい。トオマの望むままに」
    アズナはその場に膝をついて深く頭を下げた。
    「旅立ちまでの間、ごゆっくりお過ごしいただくための用意ができています。・・まずはお食事を」
    『ふむ。しかしその前にお前を調べぬとな』
    突然見えない力がアズナの身体をコントロールした。
    アズナは跳ね上がるようにその場に直立した。
    驚くアズナの目に、脇の木箱の蓋がひとりでに開き、中から古びた縄がまるで蛇のように這い出してくるのが見えた。
    アズナの両手が後ろに回る。まるでアズナが自分の意志でそうしているかのように。
    足元から縄が這い上がり、背中で組んだ両腕に絡み付いてくる。
    「あ・・っ」
    アズナは直立したまま、みるみる後ろ手に縛り上げられてしまった。
    足元がふらつく。あ、倒れる、と思ったその瞬間、爪先が地面から離れるのを感じた。
    アズナの身体は斜めに傾いたまま数十センチ浮上した。
    正面でトローヤが腕組をしながらアズナを見ている。
    『お前は先に仕えた巫女よりも淫乱であるな』
    ミミン?!
    アズナは同期の巫女だった少女を思い出す。
    笑顔が可愛かったミミン。長い髪をいつも背中で編んでいたミミン。
    そう、トローヤ神官の前回の訪問の際にこの人を送ったのはミミンだった。
    『あれは見かけによらず淡白な女であったな。性的興奮を起こしにくい女は精神面から責めることでうまくいく』
    あの星渡りの瞬間、祈っていた巫女達全員に届いたミミンの精神。
    それは開放の喜びと肉体の悦楽、そしてざらざらに乾いた哀しみのような想いだった。
    『知識と経験を豊富に持つ余であるからこそ、どのような巫女でも扱うことができる』
    トローヤはまるで世間話をするかのようにのんびりと伝えてくる。
    アズナは会話で答えることができない。
    『そ、そうでございますか』
    『だがお前は違う。余にはわかるぞ。お前の内面は被虐の精神に満ちておる』
    トローヤはにやりと笑ったようだった。
    『心配せずともよい。この星渡り、お前の力を無駄なく使いきってみせようぞ』
    全身を縛る縄が生き物のようにうねってアズナの身体を締め上げた。
    あぁっ!!
    アズナは声にならない悲鳴を上げた。
    やがてアズナは空中でゆっくり回転して上下逆になった。
    下半身の縄が緩んだかと思うと、両足がぴんと伸びたままほとんど180度に開いた。
    左右の太ももの間、17歳の少女の身体の中心が開いて奥底までトローヤの目の前にさらけ出される。
    海から吹き付ける風が強くなったのか、アズナの耳にはごおっという風の音だけが聞こえた。
    トローヤが腰に挿した金色の短剣を抜いた。
    恐怖、そして身体の中でぞくぞくと燃え始めた感覚。

    21.
    ユーリは部屋の中で目覚めた。
    いったいあれからどれだけ経ったんだろう。
    小屋から出て外を見ると、外は灰色の雲が重く垂れ込めていた。
    アズナは?
    ふと思った。
    ユーリは外に飛び出した。
    チコヤの林の中をさまようように歩く。
    「アズナ!」
    無闇に歩き回って叫んでもアズナに会えるはずはない。それは分かっている。
    しかし無性にアズナに会いたかった。
    彼女の笑顔を見たかった。
    「アズナ、アズナ!」
    ユーリは叫びながら走り出した。
    ・・
    前方に少女達が輪になって座っているのが見えた。
    それはアズナが紹介してくれた星渡りの巫女の仲間だった。
    アズナがいる?
    走って輪に近づき、少女達の顔を見る。
    しかしそこにアズナはいなかった。
    「あんた、誰だい? 巫女の浜に立ち入るなんて!」
    突然ユーリの腕が掴まれた。
    背の高い女性がユーリをこれ以上進ませまいとしている。
    「アズナは?」
    ユーリは大声で女性に聞いた。
    「あんた、もしかして異星からきた人だね? あたしはジュミっていう元巫女だよ」
    「あ、僕はユーリです」
    「アズナは星渡りの務めについたから、もうここにはいないんだよ」
    「え?」
    「今は残った巫女全員で祈っているんだ。だからあんたも邪魔しないで帰っておくれ」
    「アズナはどこにいるんです?」
    「リリナギの場だよ」
    しばらく押し問答したが、どうにもなるものではなかった。
    アズナのいる場所がここから歩いていけるような所でないことは分かった。

    22.
    ユーリ!
    アズナの脳裏に突然ユーリの笑顔が浮かんだ。
    相変わらずアズナは頭を下にして開脚した状態で空中に浮かんでいる。
    両足の間には金色の短剣が刺さっていた。
    その短剣は、誰も手を添えていないのに、ゆっくりと壷の中をかき混ぜるかのような動きをしている。
    鋭い剣先はアズナを傷付けることなく、しかし正常に思考することができなくなるような刺激と快感を与えていた。
    その中に突然浮かんだユーリの顔。
    ああ、駄目!
    私はリリナギに臨む巫女。この身この命をすべてトオマに差し出す巫女。
    『ほう』
    トローヤのつぶやきが流れ込んでくる。
    『お前は巫女の身でありながら想う男がいるのか』
    股間の短剣がぶるぶるとゆれて外に抜け出して、空中でくるくる回転した。
    そして再びその先端をアズナの膣に向けて静止する。
    ひ。
    『しかもそれがあの異星人とは!』
    短剣がすさまじい速度で元の場所に飛び込んだ。
    あうっ!!!
    アズナの股間に赤いものがどくどくと溢れて流れた。
    それは下腹部から臍をたどって胸まで流れる。
    『お前は背徳の感情に興奮している。面白い女に出会えたものだ』
    いいえ、そんなことは、あ、ありません・・!
    『つまらない辺境への出張だと考えていたが、これはひさしぶりに楽しめそうであるな』
    アズナの中から短剣が抜け出してトローヤの手に戻った。
    全身を縛る縄がはらりと解けたかと思うと、アズナは横倒しに地面に倒れて転がった。
    『休息する。食事の支度をせよ』
    「は、・・はい」
    地面に手をついて何とか返事するアズナを背に、トローヤはその場から歩み去った。

    23.
    100人は座れそうな広い部屋の食卓に豪華な料理と酒が並べられている。
    アズナが前日から用意したものだった。
    この無人島には星渡りの巫女であるアズナと、そのトオマであるトローヤ大神官しかいない。
    ここでトオマの飲食の世話をするのも巫女の仕事だった。
    トローヤは一人テーブルについてグラスを傾けている。
    全裸のアズナが新しい皿をワゴンに乗せて運んでくる。
    トローヤの短剣で傷つけられた膣の中にはマクワの実の粉末を塗ったので痛みは止まっていた。
    ただし、その姦淫効果がアズナの股間をじんじんと刺激している。
    「どうぞ、お召し上がり下さいませ」
    『ふむ、これは?』
    「大海鳥の腿肉を焼いてチコヤのソースをかけたものです」
    『それは前に食した。違うものを所望する』
    「はい。・・では、白身の深海魚の揚げ物を」
    『それも、いらぬ』
    「では、何かご要望がおありでしょうか?」
    トローヤはにやりと笑った。
    『そう、巫女の腿肉がよい』
    「?」
    『お前の右足の腿肉を柔らかく焼いて骨付きで出すのだ』
    「・・わかりました。しばらくお待ちいただけますか」
    『うむ』
    アズナは部屋を出て厨房に向かった。
    驚くべき要求だったが、不思議とショックは受けなかった。
    命まで差し出す覚悟なのだから、足の一本くらいは何でもないと思った。
    厨房の横の道具部屋に肉切機があったはず。
    大きな刃がバネ仕掛けで落ちる機械だった。
    これなら海クマリの成獣だってさばけるわ。私の足くらい簡単に。
    アズナは台に乗って右足を刃の下に差し出した。うん、ぴったり。
    ふと、自分の胸を押さえる。
    そこは今までにないほど、高鳴っていた。
    怖いのではない。
    アズナは両足の間をそっと手で押さえた。ここに塗ったマクワのせいでもない。
    ・・私、感じてる。自分の足の肉をトオマに食べていただくことに。
    あぁ。無意識のうちに、股間の指が動いた。
    その刺激は今までになかったほどの快感だった。
    『つくづく、おもしろい女だ』
    突然、大神官の言葉が頭の中を流れた。
    ああっ、申し訳ありません!
    アズナは慌てて台を降り、肉切機を厨房に押して移動させる。
    血止めと痛み止めのためにマクワの粉末を大きな器に用意する。
    お肉を焼くための火を起こして、お皿と香辛料、それからソースは・・。
    よし、これで大丈夫。
    アズナは肉切機の台に上がり、できるだけ太ももの根元で切断されるように右足を精一杯のばした。
    それから深呼吸して、頭上のレバーを引いた。
    ごん。鈍い音がして巨大な刃が落ちた。

    24.
    「あ」
    巫女の浜にいたナミカが振り返って海を見た。
    姉様、どうしたの?
    「どうしたの?」
    スベルカがナミカに聞く。
    「うん、今何かあったみたい」
    「さすが実の姉妹ね。・・でもまだまだこれからよ」
    「そうね」
    「気を抜かないで、しっかり集中しましょう」
    巫女達は再び祈り続ける。
    ごお。
    巫女の浜に海からの強い風が吹きつけ始めていた。

    25.
    アズナは食事をするトローヤの横で、片足に杖をついて立っている。
    マクワの粉で緑色に染まった切断面は痺れたような感覚があったが、耐えられないものではなかった。
    切断した瞬間は気を失いそうな痛みに苦しんだものの、即効性のマクワがよく効いて痛みも失血も最小限で済んだ。
    アズナは右足の膝から下をもう一度機械を使って切断し、腿の部分を血抜きして、じっくりと弱火で焼いた。
    中心まで火が通っているけど、焼き過ぎてはいない。
    肉の上にかけたパオパブのソースも絶妙だ。
    我ながらうまく料理できたと思う。
    『美味である』
    アズナの腿肉を食べながらトローヤが伝えてきた。
    「お、恐れ入ります・・」
    アズナは転倒しないよう気をつけながらトローヤのグラスに両手で酒を注いだ。
    「この後はお湯をお使い下さいませ」
    『うむ』
    風呂にはわざわざ大陸から運ばせた清水が沸かされている。
    トオマと巫女はここで身体を清め、そして祭壇でリリナギの儀式に望むのだ。

    26.
    廊下を歩むトローヤが振り返った。
    アズナが杖をついてひょこひょことついてこようとしている。
    『もうよい。いつ風呂に入れるか知れたものでない』
    「も、申し訳ありませんっ」
    『お前は先に行き自らを飾っておくように』
    「で、でも・・」
    『構わぬ。風呂など一時のくつろぎに過ぎん。お前が薄汚れたままで儀式には一向に差し支えぬ』
    トローヤのメッセージには何の感情もこもっていないようだったが、有無を言わせないものがあった。
    「・・わかりました」
    トローヤを見送り、アズナは祭壇の場に向かった。
    小さな広場に祭壇があった。
    高さ1メートル、直径2メートルほどの小さな台。
    何度か転んで砂まみれになったアズナは、それでも這うようにして台によじ登った。
    ああ、もう片足で立つのは無理だわ。
    トオマには申し訳ないけど、座位の自縛をしよう。
    台の下の箱にはふたつの箱がある。
    ひとつは今朝アズナが摘んで集めたリリナギで自生する花。
    もうひとつは白い縄束が入っていた。
    アズナは縄束を拾い上げて考える。
    右足がないんだけど、どうやって縛ろう?

    27.
    6人の巫女達はアズナの精神を感じ始めた。
    それは痛みと性的な快感の入り混じったものだった。
    始まった。
    リリナギの間、彼女達は精神を共有して祈り続ける。
    星渡りの瞬間に巫女の身体に何が起るのか、知っている者はいない。
    ジュミのように星渡りの務めがないまま巫女の公期を終えた女はたくさんいるが、星渡りをまっとうして帰ってきた巫女はいないからである。
    6人は遠い星渡りの務めを果たそうとするアズナに想いをやりながら、祈り続けていた。

    28.
    惑星中で低気圧が急激に発達していた。
    来るべき暴風雨を避けるため、船は帆を下ろし、農民は耕作を休んで家に帰った。
    街道の往来は途絶え、町の広場にも誰もいなくなった。
    誰もが理解していた。
    星渡りがあるのだ。
    女達のうち比較的ジンの力のある者は、何人かで集まって、または一人でそれぞれ祈り始めていた。
    トオマが無事に渡られるように。
    それを助ける巫女様が立派に務めを果たされるように。
    惑星中の祈りはトミヤバールの巫女の浜にいる少女達に届いていた。
    6人の巫女は輪になってその祈りを受け止め、増幅してリリナギの場に送ろうとしていた。
    まばゆい稲光がその場を照らした。
    雷鳴。
    そしてトミヤバールを雷雨が襲った。

    29.
    祭壇にトローヤ大神官が膝を組んで座り、目を閉じている。
    その膝の上に全裸のアズナが浮いていた。
    彼女の全身に白い縄が絡みついている。
    背中に回した腕は不自然な方向に捻り上げられて、そのまま固定されていた。
    縄は生き物のようにアズナの全身を舐めまわしながらうごめいている。
    切断されていない左足は縄が掛からず、爪先までぴんと伸びて痙攣していた。
    「・・・!!!」
    アズナは声にならない叫びを上げる。
    額の玉光石がうっすらと光っていた。
    空中に伸びた左足の付け根、その場所からはピンク色の液体がとろとろと流れていた。

    30.
    冷たいしぶきが顔にあたってユーリは気付いた。
    激しい風と波。
    彼の知る穏やかな海岸はどこにもなかった。
    今は夜か?
    そうだ、アズナは?
    「アズナ!!」起き上がって叫ぶ。
    ユーリは無闇に走り出した。
    突然目の前に稲光が刺さり、チコヤの木がユーリに向かって倒れてきた。
    思わず腕で顔を隠すが、ユーリはそのまま倒木の下敷きになった。
    浜に打ち寄せた波がその上を通り過ぎる。

    31.
    激しい雷鳴とともに祭壇の周囲に稲妻が突き刺さる。
    「!!」
    アズナの左の乳房が裂けるように千切れて飛んだ。
    燃え上がる炎のように、額の丸石の輝きが増した。
    彼女の肉体には快感の嵐が渦巻いていた。
    身体を傷つけられる度に、じんじんとした刺激がアズナの子宮を襲った。
    アズナの身体は空中で独楽(こま)のように回転する。
    その下でトローヤ大神官は膝を組んだ姿勢のまま動かない。
    その身体は傷ひとつなく、衣服には何の汚れもついていなかった。
    ただ、トローヤの股間には大きな生き物のような影が浮かび上がっていた。
    それは巫女達が練習に使うルミコンの棒よりもはるかに長く、太かった。
    上空の雲が低く、渦を巻き始めた。

    32.
    トローヤの眉にわずかに皺が浮かんだ。
    膝の上に浮かんでいたアズナの回転が止まり、トローヤに向かって静止する。
    アズナの膣がぽっかりと開いてトローヤの股間に向かい合う。
    次の瞬間、トローヤからアズナに白い光の束が飛んだ。
    アズナの全身の関節がきしむ。
    アズナの膣に一度飛び込んだ光はそこから溢れ、彼女の全身を包んでいった。
    「ぁぁあああああっ!!!」
    アズナの快感が周囲のあらゆる空間に同化する。
    額の丸石から青く輝く光の筋が一直線に天に向かって伸びた。
    上空の雲を突き抜けて宇宙空間にまで達するその光の線は、エレナミス星系の本星であるシャルテの方向を正確に指していた。
    祭壇全体がまばゆい光に覆われる。
    ユーリの顔が浮かんで消えた。
    アズナの姿が光の中に溶けるように薄れていく。

    33.
    小さな無人島にあるリリナギの祭壇。
    その祭壇を朝日が照らしている。
    そこには人影はなかった。
    トローヤが座っていた場所には小さな黒石が転がっているだけだった。
    すぐ脇の地面には雷に撃たれて燃えた小箱の残骸が残っていた。
    昨夜あれだけ荒れた海は穏やかで、静かにさざ波だけが打ち寄せていた。

    34.
    まぶしい!
    ユーリは朝日に目をしばたたかせた。
    明るい青空。静かな波。
    生きている。
    渾身の力を込めて、身体の上に倒れたチコヤの木を動かしてどけた。
    砂浜に力なく座り込む。
    「あんた、大丈夫かい?」
    後ろから声を掛けられて振り向くと、巫女の浜で会った背の高い女性だった。
    「あ、アズナは?」
    「アズナは巫女の務めを立派にまっとうしたよ」
    「済んだんですか・・。それで、いつ戻るんでしょうか」
    「戻らないさ」
    「え?」
    「あんた、星渡りの巫女の役目を知らないんだね。星渡りを果たしたら巫女はアルとジルの元に帰るんだよ」
    「な・・」
    ・・
    アクナスの人々は星渡りが成就したことに感謝の祈りを捧げた。
    そして嵐で荒れた町や畑を修復し、再び日常の生活に戻った。

    [第1部完]



    ~登場人物紹介~
    ユーリ・タイガ: 26歳。地球人の宇宙飛行士。宇宙船の事故で惑星アクナスにただ一人不時着した。
    アズナ: 17歳。星渡りの巫女。ユーリにアクナス語を教える。
    ナミカ: 16歳。星渡りの巫女。アズナの妹。
    ザカリヤ・リリタス: アクナス最高神官兼トミヤバール行政神官。アズナとナミカの父親。
    スベルカ、ミーナン、ヤンナ、ハオミ、チカヨ: 星渡りの巫女の仲間。
    ジュミ: 元星渡りの巫女。巫女達の教育係。
    トローヤ: エレミナス星系本星であるシャルテの大神官。ユーリの聴聞のためにアクナスを訪れる。


    今まで発表してきたお話よりは長いけれど長編と呼ぶにはおこがましい小説を "長いめ" カテゴリーで掲載することにします。
    本話のジャンルはSFです。SFのFはファンタジーのつもりです。
    ここまでお読みいただいた方にはご承知ですが、一部にやや過激なシーンがあります。
    あまり血なまぐさい描写は避けていますが、苦手な方には申し訳ありません。

    ここ惑星アクナスは、地球の産業革命前に相当する科学技術の段階ですが、特殊な超能力によって遠距離の通信や航海、さらには星間移動までも実現された世界です。
    異星への移動は星渡りの巫女と呼ばれる少女によって導かれます。
    本話のような異世界モノは背景設定を考えるのが楽しいので、設定集をまとめました。
    設定を読まなくても物語の理解には特に支障ないようにしていますので、興味のある方だけこちらへどうぞ

    本話は第3部まで続ける予定です。
    第2部では、帆船の甲板員になったユーリがアクナスの南半球に航海します。
    お楽しみにお待ち下さい。
    ( 今までと雰囲気も違うので、どれだけの人が楽しみにしてくれているか、心配ですが )

    最後にイラストについてのお断りです。
    今回、さすがに私の能力ではアクナスの世界を絵にすることはあきらめて、冒頭に簡単なタイトルバックを載せるだけにしました。
    もし挿絵を描いて下さる方がいらっしゃればウェルカム(笑)です。

    ありがとうございました。




    アクナス 設定集

    [ご注意]
    ① この設定集には小説のネタバレになる記述があります。
    小説よりも先に設定集を見てしまうと、小説を読む楽しみが損なわれる可能性があります。
    それをご承知の大人な方は、小説・設定集どちらからでもご自由にお読み下さい。

    ② この設定集は、SF的な論理性、整合性よりも作者の妄想と下心を優先して書かれています。
    それは無茶やろという強引な設定があったとしても、そういうものだと思って見て下さい。
    そして、できれば一緒に妄想していただければ嬉しく存じます:P。



    ■ 時代
    恒星間・銀河間を移動する技術が実用化され、地球人が深宇宙へ進出し始めた時代。

    ■ 惑星アクナス
    地球から82万光年離れたエレミナス星系の辺境にある地球型の惑星。
    マナとヨナと呼ばれる二つの衛星を伴っている。
    そこに住む人間は生物学的に地球の人間とほぼ同じである。
    その他の動植物の体系も地球と非常に似通っている。
    総人口その他の緒元は、第1部6章の本文参照。

    ■ ジン
    アクナス(およびエレミナス星系各惑星)の人間はジンと呼ばれる超能力を持っている。
    ジンの力の種類には精神会話・念動力・透視や予知などがある。
    強いジンの力を持つアクナス人は、一般に男性より女性の方に多い。
    ジンの能力を生かして働く人を、神官(男性)・巫女(女性)と呼ぶ。
    特に巫女はその技能の分野によって、星渡りの巫女・海路の巫女など細分化されて呼ばれる。

    ■ アクナスの文化
    海と太陽を治めるアルとジルが絶対神として崇められ、人々の生活に溶け込んでいる。
    (注・・ アルとジルはアクナス独自に信仰される神であり、エレミナス星系全体で信じられてる訳ではない)
    アクナスの女性は男性の所有物とされる。
    結婚した女性はその証である首輪をつけ、正式の場で男性と同席するときは鎖や紐で繋がれる。
    また女性を緊縛できることが、一人前の成人男性の条件とされる。
    結婚式で花婿から美しく緊縛されて披露されることは、アクナスの少女の夢のひとつである。
    (注・・ これらは女性が虐待されているという意味ではない。一般にアクナス人は家族をとても大切にする)

    ■ アクナスの科学技術
    アクナスは地球で言えば中世期の産業革命前の段階であり、機械文明は未発達である。
    女性の首輪を溶接する火薬のような技術がわずかに利用されている。
    また前述のジンの能力によって、遠距離(例えば大陸間)の通信や交通手段(航海士)などが実現されている。
    さらに限られた特権階級のものではあるが、惑星間の通信や移動までもが可能である。
    これらの結果、アクナス人の地理学や天文学上の知識は、中世期の地球のそれをはるかに上回る。

    ■ アクナスの行政組織
    主要な都市に行政神官が配置されている。
    惑星全体の行政の責任は、首都トミヤバールの行政神官が兼任している。
    エレミナス星系全体では本星であるシャルテが各惑星をゆるやかに統治している。
    各惑星には年に一度シャルテの大神官が視察に訪れて、行政神官と協議することが慣例となっている。

    ■ 精神隠蔽(いんぺい)
    中の人間の意識・思考が外部に漏れ出ないようにブロックすること。
    建物や洞窟などにジンの力を込めて隠蔽する場合もある。
    いずれにせよ、精神隠蔽を行うにはジンの高い能力を必要とする。

    ■ 星渡りの巫女
    星間移動を導く巫女。
    毎年、14才の少女が2名選ばれ、17才までの4公期就任する。
    星渡りの巫女に選ばれることは大変な名誉であり、巫女を目指す少女達の憧れである。
    公期の間に星渡りの務めがなかった巫女は一般の市民に戻るが、一部には後輩の巫女の教育係になる者もいる。

    ■ 巫女のビキニ
    星渡りの巫女に限らずすべての巫女がつける、バストの一部と局部を覆うだけの面積の小さい衣装。
    巫女の職種や地域により素材やデザイン、装飾の程度に差異がある。
    ビキニ姿であることは巫女の能力や職務の遂行には無関係であり、実際にビキニの着用が義務付けられている訳でもないが、多くの若い巫女が自然に着用している。
    これは、古来、巫女は全裸で務めをなしたことから由来しており、時代が進んだ現代でも、公衆の場や男性と同席する場合は、その肌をできるだけ露出することが巫女のたしなみとされているためである。
    決してこの物語の作者の趣味などではない。

    ■ 玉光石
    星渡りの巫女が額につける青い石。
    ジンの力を集中/拡大するレンズのような働きをする。

    ■ ルミコン
    ジンの力を一時的に蓄える働きのある金属。
    またこの金属を材料につくった男性器の張形を指す。
    星渡りの巫女の訓練に使用されている。

    ■ トオマ
    星渡りの巫女に導かれて異星に渡る人物。男性に限られる。

    ■ リリナギ
    星渡りの儀式。またはそれを行う場所。
    リリナギにおいて、トオマは形式的に星渡りの巫女の夫となる。
    星渡りに先立ち、巫女はトオマに対して食事・入浴・緊縛などあらゆるサービスを提供する。
    アクナスでは、無人島に専用の施設が建設されている。

    ■ 星渡りの実際
    巫女はトオマと性交することで、胎内にエネルギーを蓄積・増幅する。
    エネルギーのレベルが限界に達すると、そのエネルギーは巫女の生体エネルギーと同化して瞬間移動の経路を開き、トオマを目的地へと移動させる。
    同時に巫女の肉体は崩壊・消散し、その存在を失う。
    なお、星渡りにおいては目的の惑星をトオマと巫女が正しく認識することが重要であり、それを誤ると経路が正しく開かれない。
    (参考・・ トオマが行方不明になる事故は、100年に一度程度の割合で発生している)
    星渡りは、巫女の生命そのものを転化して星間移動に利用する方法といえる。
    トオマ一人の1回の移動のために巫女1人を必要とするため、貴重な星渡りの巫女を浪費して星渡りを頻繁に行うことは困難である。
    通常は、年に一回アクナスを訪問したシャルテの大神官の帰星時に限って星渡りを行っている。
    (参考・・ シャルテ本星においては神官の惑星訪問のために毎年数十名の巫女を育成・消費していると言われる)

    [以上、第1部設定]


    ■ ビオリア
    アクナスの南半球の大陸に位置する惑星第2の都市。
    周辺の穀倉地帯で生産される穀物を集積しアクナス全土へ出荷する港湾都市であるとともに、アクナス最大級の神殿がある宗教都市でもある。
    コーミンの祭や巫女縛りの占いなど独自の行事・風習がある。
    ビオリアを中心とする地方ではジンの力の強い人間が多く生まれることで知られ、特に女性でその割合が高い。
    ビオリア地方出身の優秀な巫女は惑星中で活躍しており、ビオリアの人々の誇りとなっている。

    ■ ビオリアの神殿
    アルとジルを祭るアクナス最大の神殿で、数千人の神官と巫女を有する。
    ビオリアの行政庁を兼ねている。
    女性の地位が相対的に低いアクナスにおいて、ビオリアの行政神官は例外的に女性(巫女)が務めている。

    ■ コーミン
    ビオリアで年に1回、約10日間にわたって行われるこの地方最大の祭。
    その中心はコーミンの巫女を選ぶ宗教儀式であるが、祭の期間はこの地方の休暇になることから次第に歓楽的な要素が強まった。
    コーミンの期間、ビオリアの街は多くの観光客で賑わう。
    繁華街には臨時の土産物屋や見世物小屋などが多数立ち並び、一大観光イベントになっている。
    祭の期間全体で述べ数十万人、最終日のパレードだけで数万人の観光客が集まると言われる。

    ■ 吊られた巫女
    コーミンの儀式を模して、後ろ手に縛って吊るされた巫女の姿がポスターや看板などに描かれることが多く、コーミンの一種のシンボルとなっている。
    近年、ビオリア観光組合が宣伝のため、実際に巫女姿の少女を緊縛吊下したモニュメントを設置するようになって、その姿は一層親しまれるようになった。
    街頭や港の埠頭などに吊られた少女が登場する時期になると、人々は祭が近づいたことを知り、コーミンの気分を高めるのである。
    (注・・ これらの少女は本物の巫女ではなく、すべて宣伝のためのモデルである)

    ■ コーミンの儀式
    コーミンの巫女を選ぶ儀式で、巫女選びの儀式とも呼ばれる。
    コーミンの期間中、毎夜一人ずつ候補の少女が吊られてアルとジルの診断を受ける。
    選ばれた者は朝までそのまま吊られているが、選ばれなかった者は地面に落ちて骨だけになってしまう。
    儀式は非公開で秘密裏に実施されるため、一般の人々はこれ以上の詳細を知らない。

    ■ コーミンの候補者
    10~16歳の少女の中から毎年5~10名が選ばれて儀式に臨む。
    命がけの儀式なので、本人と家族の了解を得た者だけが実際の候補者となるが、辞退する者はほとんどいない。
    この地方にはコーミンの巫女を目指してジンの修行に励む少女も多い。

    ■ コーミンの儀式の実際
    儀式は、ウスバカゲムシと呼ばれる夜行性で肉食の昆虫が群生する大樹に少女を吊るすことで執行される。
    この昆虫はジンの能力を有し、夜間、群れになって獲物を精神攻撃で殺して捕食する習性がある。
    通常は他の昆虫や小動物を捕食する程度の力であるが、数十万匹以上の大群になると人間を攻撃できるレベルになる。
    ウスバカゲムシの攻撃を受けた人間は、精神の安定を損ない、恐怖感や不安感などが極大に達して耐えられなくなると心臓が停止して死亡する。
    候補者の少女は、夕刻、昆虫が活動を開始する前に、大樹の枝から吊るされる。
    夜になるとウスバカゲムシの精神攻撃が始まるが、少女が平静を保っている限りこの昆虫は少女を捕食しないので、これに一晩耐えることができれば少女は生き残ることができる。
    一方、精神を崩して心臓が止まった少女にはウスバカゲムシの大群が一斉に飛び掛り、その身体は昆虫に覆いつくされてしまう。
    死体が骨だけの姿になってしまうまで数分も要しないと言われる。

    ■ コーミンの巫女
    コーミンの儀式で生き残って選ばれた巫女のこと。
    巫女の特定の職業をあらわす呼び名ではなく、一種の資格をあらわす呼び名である。
    コーミンの巫女であることは、きわめて優秀な巫女であることを意味する。
    このためこの地方では、星渡りの巫女であることより、コーミンの巫女であることの方が信頼が高い。
    そのようになった背景の一つとして、トミヤバールで選考される星渡りの巫女に、ビオリア地方の優秀な少女が必ずしも選ばれる訳でないことがあげられる。

    ■ コーミンのパレード
    コーミンの最終日に開催される、選ばれた巫女を披露するためのパレード。
    選ばれた巫女はパレード最後尾のフロートに緊縛されて乗ることが慣例となっている。
    例年、趣向を凝らしたパレードが企画され、人々の楽しみとなっている。
    パレードには斬新に緊縛された美女や巫女も多数登場し、その衣装や縛り方が若い女性達の間でその年の流行になることも多い。
    なお、コーミンのパレードは正装して見物するのがマナーであり、ほとんどの女性は男性に繋がれて拘束された姿になる。

    ■ 巫女縛りの占い
    男性が巫女を縄で縛ることで男性の過去や未来を見通す占いの方法。
    よく訓練を受けた能力の高い巫女のみに可能な占いである。
    男性には緊縛技術と巫女を縛る意志(欲望)が必要である。
    また使用する縄は、よく使い込まれた古い縄が望ましいとされる。
    なお、巫女縛りの占いはビオリア地方独自の占いの方法である。
    他の地方、特に北半球では、怪しげなうさん臭い占いであると捉える面もある。

    ■ 海路の巫女
    主に外洋航路の帆船で、船長に方位と船の進路を示す巫女。
    古代からアクナス人はジンの力で方位を知り海を渡ってきたが、やがてそれは巫女の役目となり、職業としての海路の巫女が誕生した。
    海路の巫女は、方位と進路だけでなく天候や風向きなども示すことができるので、安全な航海のために重要な役目を担っている。
    アクナスでは海路の巫女を利用する航海方法が発達したため、地球のような六分儀を使用した天測航法は存在しない。

    ■ 海路の巫女の位置
    海路の巫女は船の舳先の部分に全身を固定されている。
    これは地球の船のフィギュアヘッド(船首像)とほぼ同じ場所である。[フィギュアヘッド参考画像]
    巫女がこの位置に固定される理由は、船の先端にいることでその能力がもっとも高まると考えられているためである。
    いかなる場合でも(たとえ嵐の中や極寒の海であっても)、船首に生身を晒して船を導くことが海路の巫女の誇りとされる。
    なお、大型の外洋船は海路の巫女なしでの航海は禁止されており、出港にあたっては港湾局による巫女取付の検査が義務付けられている。
    検査が済むと巫女を船体に拘束する枷には封印が貼られ、次の港に入るまで外すことは許されない。

    ■ 海路の巫女の自慰
    航海中の海路の巫女は、しばしば、海面から海虫を吸い上げて自慰にふける場合があり、その行為を俗に『海の精霊とつきあう』などと称する。
    海虫は海面を漂うプランクトンの一種で、かろうじて肉眼で見ることができる程度の微小な節足動物である。
    弱いジンの力があり、巫女のコントロールを受けて海面から浮上して巫女の胎内に侵入する。
    巫女はその行為によって独特なエクスタシーを得ると言われる。
    なお海虫には弱い毒性があるので、自慰を過剰に行うとそれが原因で視神経や脳などに障害が残り、場合によっては死亡する場合もある。
    海路の巫女を長年務めた女性の死因の一つである。

    [以上、第2部設定]

    [第3部に対応する設定項目はありません]




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