スポンサーサイト

    上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
    新しい記事を書く事で広告が消せます。

    キョートサプライズ セカンド・第11話(1/4) 典子の人体実験

    1.覚醒
    気がつくと、黒川典子(くろかわのりこ)は暖かい波の中でまどろんでいた。
    ・・ざぁ、・・ざぁ。
    緩やかな波が寄せては引いている。
    お母さんの羊水に浮ぶ胎児って、こんな感じかと思った。

    ふと、その波の源を意識する。
    それは自分の下半身にあった。
    性器の中に何かすっぽり収まっていて、そこから全身に心地よい波動が伝わっていた。
    何だろう? これは。
    典子はぼんやり考える。
    男性のモノではなかった。アキラのだったらもっと太くて長いぞ。

    つんつん、つんつん。
    突然、それは典子の中で動いた。
    ・・あ。
    一瞬の違和感。そしてすぐに快感に変わる。
    キモチ、いい!

    ちりちり、ちりちり。
    刺激がさらに変化した。
    うわぁ~っ。たまらないっ。
    無意識に首を振ろうとしたら、できなかった。
    あれ?

    典子は小さな球体の中に押し込められていた。
    身体を丸くして、あぐらに組んだ両足の間に顔面を押しつけた状態。
    後頭部を圧迫しているのは、後ろの壁? それとも天井?
    腕も脚も小さく折り畳んだまま動かせない。
    息が詰まりそうな、ぎゅうぎゅうの閉塞感。
    何? これ!?
    まるで、S型くす玉の中にいるみたい。

    次第に意識が明瞭になる。
    典子は思い出した。
    ・・ここ、本当にくす玉の中や。
    私、ずっと眠ってた。

    2.監視
    『検体覚醒』
    典子の脳波をモニタしていたAIプログラムのメッセージが点滅していた。
    「覚醒まで11時間半かかりました。手間取りましたね」黒川章(くろかわあきら)が時計を見ながら言った。
    「やっぱり典ちゃんの体重だと薬が効き過ぎるみたいね。次はもう少し減らさないと」島洋子(しまようこ)が真剣な表情で言った。
    二人は並んでスクリーンの前に座っている。
    黒川はキョートサプライズ(KS)の技術担当マネージャー。
    そして洋子はKSの創始者で社長である。

    彼らの側には銀色の球体が吊り下げられていた。
    KSで最小、直径50センチのS型人間くす玉である。
    その中には、KS企画担当マネージャーで黒川の妻の黒川典子が入っている。
    典子を眠らせてから、11時間30分が過ぎていた。
    装置の覚醒機能がなかなか効かず、典子を目覚めさせるのに手間取ったのだった。

    「薬の量のことなら、あれは長く効くなら増やしてくれと言いますよ。どれだけ危険と言われてもね」
    「そうね。・・もともと、まる24時間昏睡させられないか、なんて言ってたものね」
    洋子はそう言ってあきれたように笑う。
    「さすが、ウチで一番のM女だわ」

    3.洋子の引退宣言
    「そろそろ飽きたから社長を辞めます。後任は典ちゃんに任せるわ」
    洋子が引退を発表したのは、昨年の末のことだった。
    長年KSを率いてきた洋子だが、あえて慰留する者もおらず社長交代はあっさり認められた。
    一度言い出したら聞かない性格は皆が理解しているところであった。
    典子の社長就任は10月1日と決まった。

    「やりたい事があったら今のうちにしときなさい」
    洋子は典子を呼んで言った。
    「社長になったら、好きなことは何もできなくなるから」

    ・・え? 洋子さん、ずいぶん好きな事してたやないですか。
    そう思ったけれども典子は口に出して言わなかった。
    その代わり、「なら、ひとつ、くす玉で無茶をやらせて下さい」と答えた。

    4.人間くす玉
    人間くす玉は、運動会や発表会、パーティなどで人気のアトラクションである。
    くす玉を割ると、カラフルなテープや紙吹雪などと共に女の子が飛び出して、空中で元気いっぱいに踊ってくれるのだ。
    KSでは、EAと呼ぶよく訓練した女性メンバーをくす玉にセットして提供している。
    現場には、女の子入りの完成品として届けられるので、面倒な手間をかけることなくそのまま高所に設置するだけでよい。
    必要なときにリモコン操作でくす玉を開けば、いつでも華やかな人間くす玉を楽しむことができる。

    12年前、高校生のとき、典子はパチンコ屋の新装開店でくす玉の現場に遭遇して衝撃を受けた。
    ・・高く吊られたくす玉が割れ、中からチアガールの女性が飛び出して浮かんだこと。
    ・・くす玉の中は狭く、身を丸くして小さくなっていたこと。
    ・・建物の軒下にくす玉を取り付けたときから、その状態で何時間も入っていたこと。
    ・・女性には、自分でくす玉を開けて出る術はないこと。
    どれも驚きだった。
    驚くと同時に、感動した。
    世の中にはこんなことをしている女性がいると感動した。

    典子はKSに電話し、手紙を書き、ついには事務所に押しかけてくす玉に入りたいと訴えた。
    根負けした洋子が認めて、典子はKSで最初の高校生EAになった。
    当時使われていた70センチのくす玉に我慢できず、直径50センチのくす玉を頼んで製作してもらった。

    典子にとって、人間くす玉は限りなく小さいことが理想だった。
    輸送や設置の取り扱いは楽になるし、観客へのインパクトも大きい。
    もちろん、詰められる側にとって小さなくす玉は楽ではない。
    50センチとなると、よほど小柄な女の子でも身動きはおろか深呼吸することすら簡単ではないのだ。
    肉体だけでなく、精神面でも過酷だ、
    究極の閉所感にさいなまれながら、一分一秒が無限に思える時間を耐えなければならない。
    もしかしたらパニックになって、気が狂ってしまうかもしれない。

    それでも典子は小型くす玉をやりたかった。
    小さく小さく折り畳まれて、人が入れるとは思えないサイズに詰められたい。
    ただの詰めモノとなって無限の時間を過ごしたい。
    そして、いざくす玉が割れるときは、それまでの辛さや苦しさを全く感じさせない最高の笑顔で飛び出したい。
    ほんの少し顔を赤らめて、二つに割れたくす玉の下にいつまでも吊られていたい。

    典子にとって理想のくす玉。
    それは、見えないところで女の子が苦しさに耐えて、お客様に驚きと喜びを感じてもらうもの。
    苦しみが大きければ大きいほど、驚きと喜びも大きくなる。
    だからとことん苦しみぬいて、最高のくす玉を見てもらいたい。
    後になって思えば、それは被虐への願望だった。
    生まれながらに抱いてきたM女の想いだった。

    典子は訓練と工夫を重ねて50センチのくす玉を成功させた。
    KSの事務所で封印されてから、お客様の元に輸送されて、設置、オープンまで約4時間を耐え抜いた。
    初めてくす玉から飛び出して人々の頭上に浮かんだ瞬間。
    その感動は一生忘れないものになった。

    それから典子は数え切れないくらいくす玉に詰められてきた。そして数え切れないくらい仲間や後輩をくす玉に詰めてきた。
    今では人間くす玉に憧れてKSに参加する女の子も増え、10年前は典子にしかできなかったS型くす球を多くのEAが務められるようになっていた。
    くす玉の大きさも、新人の訓練や、二人のEAが入る二体詰めを除けば、S型の出荷が大半を占めるまでになったのである。

    典子にはまだ夢があった。
    さらに小型のくす玉と、超長時間のくす玉である。
    超小型のくす玉、たとえば40センチのくす玉は、典子や他のEAでは不可能だった。
    関節を外してばらばらにでもしない限り、本人の骨格よりも小さなスペースに収まることはできないのである。
    身長120センチくらいのEAがいてくれたら、と思う。
    小さな女の子が小さなくす玉から出現しても驚きは小さいけれど、衣装や小道具で女の子を大きく見せることは可能だ。
    しかし、120といえば小学校低学年の平均身長である。現実にそんなに幼女をくす玉に詰める訳にはいかない。
    だから典子は、いつか小さな女の子がEAに応募してくれるのを待っている。
    高校生以上で、身長120センチで、そして自ら超小型くす玉の詰めモノになりたいと志願してくれる女の子を。

    超長時間のくす玉とは、4時間よりもはるかに長い時間放置できる人間くす玉だ。
    現在の上限時間4時間は、運動会でいえば開会前に設置して午前中のプログラムで開くのがやっとである。
    女の子を入れたまま夕方まで設置しておくことができたら、閉会式でくす玉を割ることができる。
    連続12時間、できれば24時間耐えられるくす玉をやりたい。

    超長時間のくす玉の実現を阻む問題は、女の子の精神にある。
    限界まで小さく折り畳まれる肉体も過酷だが、その状態で何時間も耐えられるかどうかは精神の問題なのだ。
    究極の閉所感にさいなまれながら、一分一秒が無限に思える時間を耐えなければならない。
    ほんのわずかでもパニックになったら、再び落ち着くのは簡単でない。
    強靭な精神と被虐性。そんな女の子をどうやって見つけるか、または育てるか。
    女の子の素質だけに頼らない、超長時間の小型人間くす玉。
    典子は何年も前からアイディアを抱いてきた。
    ただ少々過激なので、反対されると思って躊躇してきたのである。

    「やりたい事があるなら今のうちにしときなさい。社長になったら好きなことは何もできなくなるから」
    洋子に言われて、決心した。
    ・・これはチャンスやね。やろう!
    「なら、ひとつ、くす玉で無茶をやらせて下さい」
    典子は答えた。

    5.アメとムチ
    くす玉の内壁には低反発のクッション材を追加して床ずれ防止を図っていた。
    効果の程は分からないけれど、ないよりはましだろう。
    ・・それよりも、このエッチな機械。
    典子の意識は自分の胎内で仕事をしている小さな装置に向く。
    きゅうん、きゅる、きゅる。
    小さいけど、振動と低周波パルスのハイブリッドで刺激してくれる優れモノ。
    幾通りものパターンをプログラミングできて、外部から自在にコントロールできる。
    一番敏感な場所で動いてるのに、ぜんぜんきつくなかった。
    ソフトな波動はとても気持ちがいい。

    おかげで目覚めはすっきり。懸念していた頭痛もなかった。
    無理な姿勢で長時間いたのに、身体のどこも痛くないし、筋肉もこわばっていない。
    これなら、ぜんぜん大丈夫。
    アキラ、洋子さん。モニタしてくれてありがとう!
    この先も私を上手にコントロールしてね。

    ・・私をコントロールしてね。
    自分で思ったことなのに、どきんとした。
    どういう意味?
    分かってるくせに。
    私、身体だけやない、精神もコントロールされる。

    はぁ~。
    典子は、細く、長く、呼吸した。
    直径50センチの中に固められていると、深呼吸することすら簡単ではないのだ。

    ぶん、ぶんっ。ぶぶぶ、ぶぶぶぅんっ。
    装置の振動が大きくなった。
    ええ~っ。いきなり来る!?
    激しくうねるような振動。同時に低周波のパルスがちりちりと広がった。
    あ、ああっ、あああぁあ!!
    一瞬で思考が飛び去る。
    全身の筋肉に力が入った。
    しかし、四方八方から圧迫されて、どこも動かせなかった。
    あぐらに組んだ両足の間に顔面を沈め、小さく丸くなったままで、少しずつ高く登って行く。

    その状態が何分間も続いたのか、ほんの何十秒かで終わったのか分からなかった。
    気がつくと股間の装置は静かになっていた。
    え、終わり?
    イかせてくれないの?
    胸が苦しかった。心臓が激しく鳴っている。
    ・・さ、酸素。
    はふ、はふ、はふ。
    どうにか、胸の中に空気を吸い込む。

    アキラ~。ひどいよぉ。
    弄ぶだけ弄んで、ご褒美はくれないんだから。
    さっき、優れモノと認めた装置は、実は凶悪な責め具でもあった。
    覚悟はしていたが実際に使われるとさすがに強烈だった。
    いつどんな風に責められるか。それは私をモニタしているアキラと洋子さん次第だ。
    私は、何をされても受け入れるしかない。
    強烈な被虐感。

    きゅうん、きゅる、きゅる。
    再び装置が動き始めた。
    今度は、柔らかくて暖かい波動。
    温いお湯の中に半身浴でいるような感覚が広がった。
    ・・き、気持ちいい!
    潮が引くように興奮が冷めて行く。

    アメとムチ。
    痛感した。本当にすごい、この機械。
    知り尽くしたと思っていたS型くす玉が、まったく初めての世界に変わったようだった。

    ・・自分は、コントロールされる。
    ただ、くす玉の中で長く生きながらえるために、コントロールされる。
    表面上は落ち着いた身体と心の奥底で、うずうずする感情が燃えていた。
    私はどうしようもないマゾだ。

    6.長時間くす玉準備
    「薬で眠らせるっ? 無茶よ!」
    典子のアイディアを聞いて洋子が叫んだ。
    病院で看護婦長まで務めたことのある洋子には、睡眠剤や麻酔の危険性は肌身に染みていた。

    「だからお願いするんです。専門知識のある洋子さんに」
    「もう」洋子は笑った。
    「典ちゃん、こういうときは絶対に譲らないんだから」
    「すみません」
    「謝ることなわいわ。昔、似たことがあったわね」
    「クロロ、ですね」
    「そうそう。あのときも無茶だって言ったのに」

    大学を卒業するときの企画だった。
    典子は白昼、クロロフォルムを嗅がされて誘拐されたのである。
    意識を失ったまま全身を緊縛、さらにその後、袋詰めにされて地面に生き埋めにされる設定を考案したのは典子自身だった。

    洋子は、かつて麻酔医だった元・夫の協力も得て、依存性の少ない睡眠薬を準備してくれた。
    さらに、別に企画中だったリモコン制御のバイブを応用して、昏睡状態からの覚醒とその後の性感コントロールも検討してくれた。

    「典ちゃん。あなた睡眠薬を使ったことは」
    「ありません。生まれてこの方ずっと快食快眠、ついでに快便でしたから」
    「まぁ、快便。羨ましいわ。あの辛さを知らないなんて」
    「便秘には水分と食物繊維ですよ。お酒のアテに油っぽいものばかり食べないで。特に歳をとると・・」
    「ああん、歳の話はしないでっ。・・でも、やっぱりあの残便感は歳のせいかしら」
    「洋子さん、そろそろ睡眠薬の話に」
    「そうだったわ。・・この薬の半減期は10時間くらい。これは目が覚めるまでの時間よ」
    「分かりました」
    「その後は、この器具を使ってコントロールしてあげる。トータルの目標時間は」
    「24時間です」
    「本気なの?」
    「私、こういうとき冗談言ったことありましたっけ」

    7.監視・その2
    洋子が画面をタッチして『Vibration/Pulse』のスライドバーをくいっと上昇させた。

    「ほら見てっ。心拍数がこんなに上昇してる!」洋子は楽しそうだった。
    「いきなり、そんなに加速して大丈夫ですか?」黒川が聞いた。
    「これくらいのこと耐えられなきゃ、24時間なんて無理よ」
    「それはそうですけど、普通はもっと徐々に」
    「だって典ちゃんたらいつも落ち着いてて、すぐにあたしのこと叱るのよぉ? ヨーコさん、社長がそんなコトしたらあきません!って。ちょっとくらい苛めてもいいでしょぉ?」
    黒川は苦笑いするしかない。
    まぁ、まだ始まったばかりだし、確かにこれくらい耐えてもらわないと話にならないな。

    「ほら、見てっ。もう大洪水!」
    「そんなセンサーまでついてるんですか」
    「典ちゃん、きっとエロエロになって気が狂いそうになってるわ! あの子、ベッドでも、そうなるの?」
    「そうですね、ああ見えて案外・・って、ウチの夫婦生活のことはほっといて下さい」

    洋子が面白がって振動とパルスを上げ下げしている。
    吊り下がった銀色のくす玉が揺れてるように見えた。
    典子が暴れているのだろうか。
    いや、まったく身動きない状態にして詰めているのだから、動けるはずはない。
    黒川は思い直す。
    きっと気のせいだろう。

    続き




    スポンサーサイト
    [PR]

    [PR]

    キョートサプライズ セカンド・第11話(2/4) 典子の人体実験

    8.出張EA
    京阪神から車で1時間あまりの山中にあるカントリークラブ。
    その駐車場で、EAの桃園千佳(ものぞのちか)と鈴木純生(すずきすみお)が軽トラックから荷物を外していた。
    千佳は高校1年生。今年KSに入ったばかりの新人EAである。
    そして純生は最年長のEAリーダーで、千佳のトレーナーだった。
    二人はゴルフコンペの表彰式に出演するため、このゴルフ場にやってきたのである。

    荷物は高さ80センチほどの巨大な透明アクリルの優勝カップだった。
    それを同じく高さ80センチのワゴンに乗せて固定する。
    「できました!」千佳が報告した。
    純生は頷いて、時計を確認する。
    「あと90分ね」
    早朝から開催されているコンペは間もなく終了し、クラブハウスで表彰式の予定である。
    それまでにこの巨大優勝カップを運び込んでおく必要があった。

    「よしっ。じゃあ、着替えよっか」
    「はい!」
    純生は軽トラの運転席から紙袋を出して、中からビキニの上下を出した。
    派手な金色のマイクロビキニである。

    千佳はそのビキニを黙って見た。
    EAになって露出の大きな衣装は当然と覚悟しているし、実際に足やお腹を見せるコスチュームはステージでもう何度も経験している。
    でも、こんなに小さな衣装は初めてだった。
    お尻は完全にTバック。ブラもきりきりに小さくって、少しずれるだけで乳首が見えてしまいそう。
    これ、よほどセクシーな人じゃないと似合わない。
    あたしの胸、純生さんみたいに大きくないのに。

    純生は千佳の顔を見て、それから手にしたビキニを見て微笑んだ。
    「大丈夫。きっと千佳ちゃんに似合うわ」
    「そうでしょうか」
    「綺麗に、色っぽく見えるコツがあるのよ」
    「そんなんあるんですか?」
    「心の持ち方ひとつよ。・・知りたい?」
    「はいっ。教えて下さいっ」

    純生はもう一度微笑む。
    「それはね。あなたが恥ずかしいって思うこと」
    「恥ずかしいですっ。最初から」
    「ううん、考えてみて。千佳ちゃん、こんな格好で皆の前に出るのよ。男の人はきっと喜ぶわ。えっちなことを言って冷やかすお客様もいらっしゃるでしょうね」
    ・・ううっ。千佳はその状況を想像する。
    「きっと隅々まで見られるわ。おっぱいも、おへそも、お尻も。だって優勝景品なんだもの。千佳ちゃんのカラダは」
    ・・そ、そうや。あたし、今日はプレゼントになるお仕事。
    「まだ演技なんて無理だからね。すべてを素直にお見せして喜んでいただくの。プレゼントになった千佳ちゃんの覚悟と恥じらい、すべてをね」
    ・・あ、あたしの恥じらい? 心臓をきゅんと押さえられたような気がした。
    「うふふ。いい表情になってきたわね」
    純生は千佳の頬を指で突いた。
    「いつだって恥じらいに頬を染めた女の子は最高に可愛いわ。少しなら、涙こぼしたってもいいからね」
    「な、涙なんか、絶対に出しません!」

    千佳は軽トラの運転台で衣装を着替えた。
    金色のマイクロビキニを着け、顔を赤らめて出てきたところを、純生が髪とメイクを整えた。

    「・・じゃあ、行きますっ」
    「よぉし、頑張れ!」

    純生はカップを乗せたワゴンの端面にある隠し扉を開け、千佳が中に入るのを手伝った。
    そして隠し扉に鍵を掛け、ワゴンに掛けた赤い布をめくって点検した。
    ワゴンの下半分は中が抜けたテーブル上になっていて、反対側を見通すことができる。
    内部に潜んでいるはずの千佳の姿はどこにも見えなかった。
    よし、OK!
    赤い布を戻し、さらにカップとワゴン全体を大きな白布で覆った。

    ・・次は私の衣装。
    純生はもう一つ紙袋を取って、中から赤いバニースーツと網タイツを出した。
    軽トラの中で着替えようとドアに手を掛けて、それから周囲を見回した。
    お昼前の駐車場は静かで他に誰もいなかった。

    純生はにやっと笑った。
    その場で勢いよくシャツとパンツを脱ぎ、靴も脱いで、一糸まとわない全裸になった。
    う~ん、キモチいい!!
    両手を伸ばし、爪先立ちで深呼吸。
    それから網タイツとバニースーツを着用した。
    ハイヒールを履き、タイとカフスも着け、ウサギの耳だけは紙袋に入れて小脇に挟んだ。

    それから純生は、ワゴンをごろごろ押してクラブハウスに入っていった。

    9.教授の孫娘
    典子はくす玉の中で思い出した。
    そういえば、今日は千佳ちゃんの初ビキニだったっけ。
    行ってあげたらよかったかな?
    ま、純生が着いてくれてるから心配ないけれど。

    千佳は異色のEAである。
    彼女は、Club-LB 会員の大学教授の孫娘だった。
    Club-LB はFBと呼ばれる被虐女性の緊縛や拷問を楽しむための、KSの会員制裏クラブである。
    一年前、中学生だった千佳は祖父の書斎で、FBの緊縛を除き見した。
    心の中に被虐への想いが芽生え、それが夜も眠れない程に育った。
    千佳は典子に相談し、そして生まれて初めて被縛の体験をしたのである。

    高校に進学し、千佳はKSに参加した。
    「まだ男の人を知りませんけど、いずれ大人になったら、FBのお仕事もやりたいです!」
    最初の挨拶でそう言って皆を驚かせた。
    普通、EAを志願してくる少女は、裏クラブのことは知らない。
    EAを務める中でクラブの存在に気付いて参加を希望し、そして適正を認められた者だけがFBになれるのである。
    新人EAの千佳は、高校1年生にして、将来はFBになると本気で決めているのだ。

    柔道初段のスポーツ少女で、きちんと礼儀を躾けられたしっかり者の女の子。
    とても素直で純粋で、そして羨ましいくらいの被虐性を抱いている。
    初めて緊縛された後、典子の胸の中で泣いた千佳の姿を典子は今も鮮明に覚えている。
    あんなにいい子、他におらへんよ。
    この先、ずっと千佳のことを気にかけてあげなければと思う。
    あの子が誰かにバージンを捧げて、素敵な女性になって、そしてぞくぞくするような緊縛を見せてくれるまで。
    私にはその責任がある。

    実は典子がFBになって最初の仕事は、千佳のお祖父さんの教授の書斎だった。
    いつも教授は書斎の片隅で緊縛したFBを飾らせると、それを弄ぶことなく、じっと見ることすらほとんどなく、ただ机に向かって黙々と仕事をするのが習慣だった。
    FBはただ放置されるだけ。
    なのに、いったい自分を含めて何人のFBが、その切なさに我慢できず股間から蜜を溢れさせ、喘ぎ声と泣き声をこぼしたことだろう。

    間口が狭くて奥に深い、京町屋のご自宅。
    うす暗い畳の書斎。コチコチ鳴る古い柱時計。
    そこで鴨居から吊るされた自分。空中で180度開脚していたこともあったっけ。
    見えるのは机に向かった教授の背中だけ。
    自分はそこで囚われている。
    いつまでも、いつまでも。

    あぁ、思い出してきた。
    あそこがじゅるってしそう。
    こんなくす玉に詰められてるのに、他の被虐を思い出して濡れるなんて。

    ぶぶぶぶんっ!!
    しばらくおとなしかった股間の装置が動き始めた。
    同時にちりちりとした低周波のパルス。
    ・・あああっ、ここで来る!?
    せっかくノスタルジックにえっちな気分になってるのに~っ。

    ぶん、ぶん、ぶん、ぶん、ぶん!!
    典子はたちまち装置の虜になった。
    京町屋の情景が消えて、代わりに振動とパルスだけが典子のすべてになった。
    ・・私、人じゃなくなる。
    この機械に支配されるだけの、動物になる。
    一瞬の後、その思考は飛び去って、すぐに股間の感覚だけになった。

    10.ゴルフコンペ表彰式
    真っ赤なバニーガールが両手を振りながらレストランに入ってきた。
    男性ばかりの観衆から口笛と拍手が響く。
    もうアルコールが入っているのか、下品にはやし立てる人もいるようだ。
    そんな声には構わず、バニーガールは微笑みながら膝を曲げてポーズをとった。
    カメラやスマホを構えた観客の輪ができる。

    ようやく皆が落ち着いて静かになったところで、ゴルフコンペの成績が発表された。
    賞を取って前に呼ばれた人にバニーガールが景品を手渡す。
    いちいち一人ずつ一緒に記念写真を撮るものだから時間がかかって大変である。

    そして、ついに優勝者の発表。
    壁際で白い布で覆われていたワゴンをバニーガールが中央に押してきた。
    白布を外すと、それは巨大な透明優勝カップだった。
    ・・オレ、こんなん要らんよ。
    優勝者の男性が苦笑している。

    バニーは白布で再び全体を覆って、ワゴンをくるく回した。
    白布がもこもこと動いた。
    ・・何?
    バニーに請われ、男性が白布を外した。
    すると、金のマイクロビキニを着けた少女がカップの中に屈んでいた。

    おおお~っ
    ひゅ~!!
    エロいぞ~!!
    一斉に歓声と口笛、はやし声が巻き起こる。

    ビキニの少女は、ぼんやりした表情をしていた。
    その目だけがうるうるしているようだった。
    バニーガールに手を取られてカップから出てくると、それ以上動くことができずにその場に立ち尽くした。
    誰でもすぐに分かるほど真赤な顔をしていた。

    バニーが,しっかりしなさい、とでも言うように少女の尻をぴしゃりと叩いた。
    少女ははっとして笑顔になった。
    優勝者の男性に歩み寄って、手に持った本物の優勝カップを優勝者の男性に渡した。
    そして男性の肩に両手を乗せて顔を近づけると、踵を上げて男性の頬にキスをした。
    うわ~っ!!! ぱちぱちぱち。
    再び一斉に大きな拍手と歓声が起こった。

    11.千佳と純生・帰路
    「ぷっ、あはははは」
    帰りの車の中。運転席の純生が大声で笑っている。
    「そんなに笑わないで下さいよぉ」
    助手席で千佳が情けない声で言った。
    「だって、巴投げよ、トモエ投げ! セクシービキニで巴投げなんて、聞いたことないわ」

    事件は写真撮影の最中に起こった。
    ほとんどの客が二人と記念写真を撮りたがった。
    千佳と純生は愛想よくモデルに応じた。
    肩を抱かれるのは当然、腰に手をまわされたり、露骨に尻を撫でられたりもするけれど、笑顔で我慢する。
    と、千佳の背中をすりすり撫でていた男性の手がブラの紐を解いてしまったのである。

    きゃっ!!
    ブラは床に落ち、千佳は悲鳴を上げながら両手で胸を押さえる。
    油断してたぁ~っ。
    図にのった男性はにやにや笑いながら千佳に抱きつこうとする。
    次の瞬間、怒りに燃えた千佳が男性の襟を掴んだかと思うと、身を沈め片足で男性の腰を蹴り上げた。
    「でぇえい!!」
    皆の目に、千佳の小ぶりな乳房と、宙を飛ぶ男性の姿が見えた。

    「さすがに柔道初段ねぇ。おっぱい見えてるの忘れて投げたでしょ」
    「・・夢中でしたもん」

    表彰式の会場は騒然となった。
    その男性は起き上がると、青い顔で謝る千佳と純生に向って上機嫌で言ったのである。
    「姉ちゃん、もっかい投げてくれへんか」

    それから千佳の前には投げられたい客が20人以上並ぶことになった。
    千佳はビキニ姿で一人ずつ巴投げをかけた。
    投げられた後、どの男性も陶然とした表情で「よかったわ~」と感激するのであった。

    「・・ま、面白いモノ見せてもらったから、その前にダメダメだったことは大目に見てあげるわ」
    「う」
    「えっちな気持ちになっちゃったんでしょ? ネタの中で」
    はっきり言われて、千佳は顔を赤らめる。

    「あたしはプレゼント、あたしはプレゼントって思っているうちに、すごく恥ずかしくなって、どきどきしてしまいました」
    「羞恥と性的興奮って、人によっては紙一重だものね。・・ごめんね、恥じらいの気持ちなんて言って」
    「あたしこそすみません。何でも過剰に反応してしまって」
    「いいのよ。感受性が豊かなのは千佳ちゃんの魅力だもの。女の子がいっぱいいっぱい感じるのは素敵なことよ」
    「そうなんですか?」
    「そうねぇ」純生は少し考えてから言った。
    「これからは、千佳ちゃんが感じる気持ちを何でも半分だけ、お客様に伝わるように心がけたらどうかな」
    「何でも半分だけ、ですか」
    「そう。嬉しいことも、恥ずかしいことも。・・もしエッチな気分になってどうしようもなくなったら、それも半分だけ伝えるの」
    「あたしの中にあるモノ、嬉しいことも、恥ずかしいことも。・・ああ」
    千佳は自分の胸を押さえて大きく息をついた。
    「上手にできるかどうか分かりませんけど、頑張ってみます」

    12.純生の結婚
    車内はしばらく静かになった。
    純生は黙ってハンドルを握り、千佳は自分の胸を押さえたままで何かを考えている。
    突然、千佳が聞いた。
    「純生さん、引退するって本当ですか?」
    「・・誰に聞いたの?」
    「事務所で、典子さんが話しているのを聞いて」
    「そうか。もう歳だからね。10月に結婚するし、いい機会だと思って」
    「え~っ。結婚するんですかっ? 誰と!?」

    結婚と聞いて、千佳は身を乗り出した。
    「残念ながら一般の人。去年、お見合いしたのよね」
    「素敵な人ですか!?」
    「いいオトコだよ。千佳ちゃん、会いたい?」
    「はいっ、会いたいです」
    「あははは。彼が千佳ちゃんに惚れたら困るから、結婚してからね」
    「え~っ」
    千佳はちょっと不満気な顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。

    「その人、KSのこととか、クラブのこととか、知ってるんですか」
    「んー、クラブのことは知らないわ。それより、高校1年のあんたがクラブを知ってることの方が問題なんやけど」
    「それは、もう仕方ないじゃないですか」
    千佳が将来FBを志願していることは、もう皆が知っている。

    「・・そうだっ」
    千佳が手を打って言った。
    「純生さん、あたしがFBになったら、お家に呼んで下さい」
    「え?」
    「あたし、ダンボールの中で縛られて、瀬戸さんと一緒に行きますから」
    「・・それって、千佳ちゃんを瀬戸が緊縛するってこと?」
    「はいっ。それであたし、純生さんのお家のリビングで、逆さ吊りにされるんです」
    瀬戸とは、KSとクラブでEA/FBを縛っている若手の緊縛士である。
    「すごい妄想ねぇ」
    「妄想じゃありません」
    そうか、この子はいつでも本気なんだ。
    こんなに素直でいい子が、本気で被虐の道を歩みたいと望んでいるんだ。

    「分かった。約束するわ」
    純生は答えた。
    「千佳ちゃんがFBになったら、一番にウチに届けてもらって、可哀想なくらいにがんじがらめに縛ってあげる」
    「はいっ」千佳は嬉しそうに応える。

    ・・本当にいい子だわ。
    純生は思った。
    こんなにいい子、からかいたくなるじゃない。

    「そういえば千佳ちゃんも、誰かとお付き合いしてるんでしょ?」
    「え!? そ、そんな人、いません」
    急に言われて千佳は大げさに慌てる。
    「案外、私も知ってる人だったりして」
    「違います!! KSの人なんかじゃ」
    「苗字のイニシャルは、S、かな?」
    「そ、そんな。あたしたち、付き合ってなんて・・」

    純生はげらげら笑い出した。
    ちょっとカマかけただけなのに、もう自分から告白しているようなものね。

    「優しい人なんでしょ」
    「え?」
    「その男の人、いつでも千佳ちゃんの気持ちをよく判ってくれて、優しくしてくれる人なんでしょ?」
    「あ、え~っと」
    千佳はいろいろなことを思い出すように考えて、それから答えた。
    「はいっ。優しいですっ」

    13.監視・その3
    洋子の携帯電話が鳴った。
    「はい。・・え? うふふ。分かったわ」

    電話を切って、隣の黒川に言った。
    「千佳ちゃん、ビキニを脱がされてお客様を投げ飛ばしたんだって」
    「えっ、またですか」
    「本当に面白い子。将来大物になるわ。・・いい? あの子のこと、大事にするのよ」
    「前に典子も同じようなこと言ってましたよ」
    「え? また典ちゃんに先を越されたの? きぃ~っ!!」
    「何、しょうもないことで悔しがってるんですか」
    「いいでしょっ。また苛めちゃるわ!」

    洋子はすかさず画面を操作した。
    しばらく落ち着いていた典子の心拍と血圧、体温が反応して急激に上昇する。
    「まだまだ元気みたいねぇ」

    洋子はバイブと低周波パルスのオフとオンを10秒おきに繰り返す。
    それに合わせてモニタの数字も上昇と下降を繰り返した。
    「うふふ。苦しんでる苦しんでる」
    「・・」黒川は洋子のすることに何も言わなかった。
    「あ、典ちゃんはこれくらいで死んだりしないからね」
    「・・」
    「怒らないの?」
    「別に。アイツが望んでしていることですから」

    黒川は黙って目の前のくす玉を見る。
    ぎゅうぎゅうに詰められた状態で苦しんでいる典子の姿が透けて見えたような気がした。
    その姿は、何故か幸せそうに感じられた。

    続き




    キョートサプライズ セカンド・第11話(3/4) 典子の人体実験

    14.麗華拷問
    個人の邸宅にある日本庭園。
    少し離れた小池の畔で緋毛氈(ひもうせん)を敷いて座った人々が見える。
    皆さん、お酒を楽しみながらこちらをご覧になっているようだ。

    張麗華(ちょうれいか)は麻の女囚服を着せられて、楢(ナラ)の巨木の枝から逆さ吊りになっていた。
    目いっぱい捻り上げられた両腕と、息が詰まるほどに締め上げられた胸縄。
    頭の下には風呂桶ほどの大きさの木桶が置かれていて、そこになみなみと湛えられた水と、水面に浮かぶ大きな氷の塊が見えた。
    こちらのお客様、わざわざこんな立派な木桶と氷をご準備して下さったのか。
    ・・私めのために、ありがとうございます。
    以前だったら儀礼的に使っていた言葉に、この頃本当に感謝の気持ちがこもるようになった。
    身も心もFBになったのだと思う。
    ・・精一杯務めさせていただきます。どうぞお楽しみ下さいませ。

    麗華を吊るす縄は、麗華の足首から枝の滑車にかかり、さたのその先を斜めに下ろして楢の木の幹に縛りつけられている。
    緊縛担当の瀬戸宗弘(せとむねひろ)が縄の長さを調整していた。
    幹に縛った縄を緩めると、麗華は垂直に降下して頭から木桶の中に沈むことになる。

    瀬戸は作業を終えると、観客に向かって一礼する。
    「では、始めます」
    木桶の冷水を柄杓(ひしゃく)に汲むと、麗華の正面に立った。
    紺の作務衣(さむえ)がよく似合っていて、男らしい。
    この間まで先輩の黒川さんについて右往左往したのに、すっかり一人前の縄師ね。

    瀬戸が麗華の目を見た。麗華は小さく頷いて目を閉じる。
    心の準備はできている。
    被虐を受け入れる心の準備。
    ・・さあ、綺麗に、残酷に、苦しもう。

    ざぁっ。
    顔面に柄杓の冷水が浴びせられた。
    一瞬、心臓が凍りつきそうになる。
    「はぁっ!!」

    突然落下した。
    ざぶん。
    麗華は頭から氷水の中に落ち、1メートルほど沈んで止まった。
    ぐ!
    麗華は悲鳴を上げなかった。
    上げたくても、空気がないからできなかった。
    どうやら腰から上半分だけが沈んでいるようだ。
    精一杯身を反らせてみたけれど、鼻か口を水面から出すのは無理だった。
    なら仕方ない。
    あたしの命は瀬戸くん次第。

    麗華はそのまま放置される。
    氷温に近い冷水が切れるように痛かった。
    息ができない。
    息ができない。
    肺の中にわずかに残った空気を吐き出した。
    息ができない。
    息ができない。
    酸素が尽きる。

    足首を絞める縄に力がかかって、麗華は空中に引き上げられた。
    濡れた髪から、冷水が滴り落ちる。
    大急ぎで酸素を肺に供給する。
    許してもらえる呼吸はせいぜい3回だと思った。
    はぁ。
    はぁ。
    はぁ。

    ざぶん。
    きっちり3回の呼吸で落とされた。

    息ができない。
    息ができない。
    息ができない。
    麗華は水中で身をよじり、腰をがくがく震わせてもがいた。
    演技ではなかった。
    本気で苦しかった。

    引き上げられた。
    風景がゆっくり回っている。縄が捩れて回転しているのだ。
    さ、酸素を。
    はぁ~。
    はぁ~。

    ざぶん!
    息を吸う途中で落とされた。
    2回だけ!?
    瀬戸くん、鬼。

    あたしが余裕だと思った?
    そんなこと全然ない。
    もう、ぎりぎりなんだぞ。

    麗華は繰り返し水中に落とされては引き上げられた。
    何度か気管に水が入って激しくむせた。
    体力が失われる。

    苦しい。
    そろそろ、逝っていいかな。
    あぁ、ダメ。
    もっと、細く、長く、苦しまないと。
    とことん、惨めで、残酷でないと。
    ああ、あたし、じんじん感じてる。

    じんじん、じんじん、じん・・。
    麗華の反応が次第に弱々しくなり、やがてまったく動かなくなった。

    瀬戸は麗華の眼球をチェックして完全に意識を無くしたことを確認すると、逆さ吊りの縄を引き上げて、楢の枝のすぐ下の高い位置に固定した。
    意識を失った美女の逆さ吊り緊縛オブジェ。
    盛夏は過ぎたとはいえ気温30度を超える中、白い肌は薄く紫色に染まり、すぶ濡れの女囚服と髪から雫がポタポタと落ちていた。
    麗華はそのまま放置され、観客は間近まで寄って、その姿を楽しんだ。

    15.瞳と有咲のイリュージョン
    市民公園のイベントステージ。
    女性マジシャンが薄いテーブルの上に立ち、背を向けて羽織っていた黒いマントを広げた。
    次の瞬間、マントの陰から銀色のレオタードを着けた美女が現れてポーズをとった。
    客席から拍手と歓声が返る。

    ・・元気?
    ・・元気っ。でも、暑い!
    マジシャン役の加山涼(かやまりょう)と美女役の丸尾瞳(まるおひとみ)は笑顔で視線を交し合う。
    瞳の額に汗が光っていた。
    このレオタード、薄くて動きやすいれど通気性がよくない。肌色のストッキングも最悪だよー。
    涼さんは涼しそうでいいなぁ。

    涼がマントの下に着ているものは、丈の短い真っ黒なビスチェとTバックのショーツ、そして片側の足にだけ網タイツ。
    ビスチェの胸元からこぼれそうなおっぱいだけでも美味しいのに、その上、おへそや太もも、後ろを向いてマントをめくればTバックのお尻まで大サービスの衣装なのだ。
    ほぉら、客席のパパさんたち。みんな鼻の下だらんと長くしてる。
    瞳はほんの少し悔しい。

    あたしも、せめて生足だったらなぁ。
    こんなに暑い思いをしなくてすむし、男の人の鼻の下だってもう少しは伸ばしてあげられるのに。
    ま、色気で涼さんに勝つのは無理だけどね。
    それに、ストッキングはどうしても外せないんだし。

    ・・さ、踊るよ!
    ・・はいっ。
    二人は手をとり合ってテーブルから飛び降りると、音楽に合わせて踊った。
    ずっと狭いところに入ってたから身体を動かせるのが嬉しい。

    瞳はショーが始まる前から2時間もテーブルの中に潜んでいたのだ。
    このテーブルは正面から見ると数センチくらいの薄さにしか見えないが、中央部は厚みがあって人が入れるネタ場がある。
    厚みといっても15センチだから、ぴたりと収まってまったく余裕はない。
    でも、その狭さが素敵なんだと思う。

    瞳は大学1年生。
    高校2年でKSに参加し、大学生になってFBに認められたばかりである。
    まだ若造だけど、EAとしてそれなりに経験を積んで一人前になったつもり。
    S型くす玉にも5時間は耐えられるし、緊縛や拘束だって大丈夫。
    FBの麗華や涼が受けているような過酷な責めにはまだ自信がないけど、精一杯がんばろうと思っている。

    直径2メートルもある大きな円板が引き出されてきた。
    手足を広げて大の字になった女性のシルエットが描かれている。
    人間ルーレットのようだけど、これもイリュージョンの大道具なのだ。

    マジシャンの涼は、瞳の両手をつかんで円板の前に引き立てた。
    そのまま客席に背を向けて立たせると、自分のマントの陰で瞳を円板に拘束した。
    涼が離れると、瞳の手首、足首と腰に金属の枷が掛かっていた。
    後ろ向けに固定された瞳は、顔だけをこちらに向け、腕と足を動かしてもがいている。

    円板がゆっくり回り始めた。
    同時に背中を向けて張り付けられた美女も回転する。
    1回転。2回転。

    ええ~!?
    驚きの声が上がった。
    円板が回転しながら二つに分離したのだ。
    二つの半円形になった円板は美女の腰枷の位置で上下に分かれた。
    腰枷自体も上下二つに分離し、それぞれの半円とともに、その間隔が次第に開いて行く。

    美女の手首は上の半円、足首は下の半円に固定されたままだから、二つの円板を胴体で連結する形態になった。
    そのまま回転を続けながら、半円の間隔だけが少しずつ開いて行く。
    細い身体がぴんと張って伸びる。
    苦悶の表情で激しくもがく美女。

    きゃーっ。
    客席から悲鳴が起こるのと同時に、美女の胴がちぎれた。
    銀色のレオタードはゴムのように伸びて裂け、その下からちぎれた内臓が垂れた。
    それでもなお、二つに分かれた上半身と下半身はびくびくと震え続けているのだった。

    このイリュージョンは、もちろん二人で演じている。
    下半身を務めているのは、瞳と同年齢でKS同期のFB、凪元有咲(なぎもとありさ)である。
    有咲は円板の下半分に最初から仕込まれていて、上半身役の瞳が円板に取り付けられるのと同時に下半身を出したのである。
    瞳がストッキングを穿いていたのも、このイリュージョンのためである。
    二人で一人の女性を演じるとき、観客が最も違和感を感じるのは、身長でも体形でもなく、肌の色の差異だ。
    だから、二人は同じ色のストッキングを穿いて足の色を揃えたのである。

    瞳は血糊の袋を噛んで口から血を流し、息絶えた美女を演じている。
    円板はまだ回転しているから、ぐるぐる景色が回っていた。
    ・・よぉし、大成功っ。よくがんばったね!
    有咲も汗だくやろうな。お疲れ様~!!

    有咲もショーが始まる前から円板のネタの中に入っているのだ。
    瞳と違って下半身だけの出演だから、外に出ることもない。
    苦しい体勢のままで、最初から最後まで閉じ込められたままなのである。
    でも、そんな有咲の役目を、瞳はちょっといいなと思う。

    KSのイリュージョンはこんなネタが多い。
    ネタの美女に厳しいものばかりといってもよかった。
    でも、それを嫌がるEAはいない。
    むしろ、辛くて過激なネタほど目を輝かせるEAばかりだ。

    マゾの人ばっかりやからねー。
    息絶えたはずの美女の口元に笑みが浮かんだ。
    ・・やっぱり、KSっていいなっ。

    ふと、切断された下半身がまだ動いているのが目に入った。
    びくびく、びくびく。断末魔の苦しみを表現している。
    おーい、有咲っ。いつまでもがいてんの。
    あたしら、もう死んだんやでー!!

    16.高みへ
    ・・典子さん、典子さん。起きて下さい~。
    誰かに呼ばれたような気がして、典子は目を覚ました。
    一瞬、混乱。そしてすぐに意識が整った、
    どうやらほんの短時間、眠っていたらしい。

    今の声、麗華ちゃんかな。
    瞳ちゃんの声にも聞こえたな。
    麗華も瞳も、ここにいるはずはない。
    二人ともお仕事中のはずだ。

    麗華ちゃんは、この頃ものすごく綺麗になったね。
    美人で、被虐性は文句なし。
    後輩をまとめるリーダーシップもあるし、じゅんちゃんの後を継ぐのは麗華ちゃんね。
    瞳ちゃんはとうとうFB。
    有咲ちゃんと二人、若さと元気が取柄でがんばってたのにね。
    あの子たちも "女" になって行く。
    今まで、自分は何人の女の子を引き返せない道に引き込んだのだろう。

    そういえば、覚醒してから何時間経ったのかな。
    50センチの空間に折り畳まれたままの自分の肉体を意識する。
    まだまだ大丈夫だと思ってたけど、眠てしまうとは。
    私、耐性が落ちたのかな。
    考えてみたら、この頃責めてもらってない。
    社長になってもたまには拷問してもらわないと、女としてあかんようになるなぁ。

    典子はかつてFBとして毎日のように責められていたことを思い出す。
    今は麗華ちゃんの看板になった女囚責め。
    自分も、お客様の前で逆さに吊るされ、頭から水の中に落とされていた。
    何度も水を飲んで、朦朧となって、ぼろぼろになって、それでも子宮がきゅんきゅん鳴るくらいに感じてた。
    責めてくれたのは、アキラだった。
    私、アキラにすべてを預けてた。
    何度も死ぬって思った。
    死ぬって思ったけど、ぎりぎりのところで救われるって信じてた。

    どき、どき。
    また感じ始めたよ。
    じゅんと濡れるのが分かった。
    想像するだけでこんなになるやなんて、この変態。ドM。
    私、自分のことが大好きだ。

    ・・ぶん、ぶん、ぶん!
    あぁっ、やっぱり来た。
    典子が濡れるのを待ち構えていたように、股間の装置が暴れ始めた。
    は、激しいっ!!

    アキラと洋子さん、自分の一番弱いタイミングを狙ってやってるやろ~!
    もう~っ、でも。
    思考が飛ぶ瞬間、考えた。
    アキラのこと、洋子さんも、・・大好き!

    17.監視・その4
    薬で昏睡させた典子の覚醒を確認してから7時間以上過ぎていた。
    それから典子は、膣に埋め込んだ装置の刺激を受けて興奮と鎮静の間を何度も行き来している。
    どれだけ激しい刺激を与えられたとしても、絶頂に達する寸前でそれは停止して、典子を落胆させるのだった。

    洋子に言わせると、それが典子の精神を維持させているのだという。
    被虐性の高い女性にとっては、弄ばれることが喜びなのだ。
    きっと典子は、自分の絶頂がコントロールされていることを理解している、
    まだ終わりでない。まだまだ頑張れる。
    典子はそれを分かっている。

    「とはいえ、そろそろ限界、みたいね」
    洋子がスクリーンを見ながらつぶやいた。
    「終わりですか? まだ元気に見えますけれど?」黒川が聞いた。

    装置はそれまでと変わらず稼動していて、モニタの数値も活発に反応している。
    それは、小さな球体に詰められた女体がただ性感の虜になって喘いでいることを示していた。
    黒川は女性は本当に強いと感心する。
    男が同じ目にあっていたら、とうの昔に死んでしまうのではないか。

    「うん、反応が遅くなっているのよ。典ちゃんがこんなに鈍いはすはないもの」
    「これで鈍いんですか」
    「鈍いわ」
    洋子は少し考えていたが、やがて装置の強度を上げた。
    「エンディングにしましょう」

    続き




    キョートサプライズ セカンド・第11話(4/4) 典子の人体実験

    18.絶頂
    ぶぶぶーん。ぶん、ぶん、ぶん!
    じり、じり、じり!
    振動と低周波パルスが激しくなった。
    それまでよりもずっと強い刺激だった。

    何も考えられなかった。
    あ・・、あ・・、あ・・、あ・・。
    典子は声にならない声を上げた。
    全身の筋肉が収縮を繰り返して、くす玉を内側から圧迫した。

    あっ・・、あ・・、あう・・。
    がっ。はぁ、・・はんっ!

    快感の嵐だった。
    典子はみるみる登り続け、そして頂を越えた。
    真っ白になった。

    19.監視・その5
    『検体失神』
    スクリーンにメッセージが点滅している。
    「イキましたね」
    「うふふ。よく頑張ったから、ご褒美よ」
    洋子は笑いながら、装置の動作モードを変更する。

    これから、典子を正常に戻さなければならない。
    くす玉がオープンするときに自分自身の意思で宙を舞えるようにしてあげるのだ。

    20.麗華・帰路
    「?」
    麗華が目を開けた。
    身を起こして周囲を見た。
    すっかり拘束は解かれていて、着ているものも囚人服ではなく下着の上に柔らかいガウンだった。
    無意識に右手を頬に当てて。腕に無残な縄痕が刻まれていることに気づく。

    「起きましたか?」
    瀬戸が運転席からこちらを見て言った。
    麗華は乗用車の後部座席に横になっていたのだった。
    「今日はちょっと厳しかったですね。仕事の上とはいえ、すみませんでした」
    「いえ」
    謝る瀬戸に笑顔で答えて、麗華はまだきょろきょろと周囲を見回している。

    「どうしました?」
    「典子さんに声をかけられたような気がして」
    「あの人は、今日はくす玉のテスト中だと聞いてますけど」
    「事務所に寄ってもらえますか。会いたくなりました。典子さんに。・・ものすごく」
    麗華はそう言って微笑んだ。
    とても妖艶な笑顔だった。

    21.幸福感
    ・・ざぁ、・・ざぁ。
    気がつくと、典子は再び暖かい波の中にいた。

    幸福感に満ちていた。
    そして心が解き放たれた自由感。
    直径50センチの球体の中で身動きできないのは何も変わらないけれど、何も不自由だとは思わなかった。
    まるで無重力の空間に浮かび、くす玉の外側まで俯瞰しているような気がした。
    すぐ横に並んで座ってるアキラと洋子さん。
    長い時間、モニタしてくれてありがとう!

    思いはこの部屋を飛び出して、さらに広がる。
    初めてマイクロビキニの衣装を着けて顔を赤らめた千佳ちゃん。
    トレーナーのじゅんちゃん。
    どんな拷問にも耐えてくれる麗華ちゃん、涼ちゃん。
    新しい道に進んだ瞳ちゃん、有咲ちゃん。
    他にも、EA・FBとして頑張ってくれている仲間たち。
    気遣いしながら女の子を縛ってくれる緊縛担当のみなさん。

    心からお礼の言葉です。
    ほんとうにありがとう。
    私、社長になってもがんばるからね!

    22.オープン
    薄暗い練習場が明るくなった。
    銀色のくす玉がライトに照らされてきらきら輝く。

    そのくす玉が二つに割れ、中で身を縮めていた女性が弾けるように飛び出した。
    紙吹雪とテープが舞う中、くす玉の真下に浮かび、両手を広げて満面の笑顔でポーズをとった。
    これは儀式である。
    お客様にアキラと洋子さんしかいなくても、人間くす玉の女の子が演じるべき大切な儀式なのだ。

    パチパチパチパチ!!
    拍手が起こった。
    「みんな!?」
    典子が空中で驚いた。
    そこには、KSのEA/FBたちが集まっていたのである。
    「みんな、勝手に集合しちゃったのよね~」
    洋子が一緒に拍手をしながら言った。

    「典子さん、素敵です!」千佳が叫んだ。
    「のっりこさーんっ、カッコいい!!」瞳と有咲も揃って声援を送る。
    「・・あ、ありがとーっ」

    「またドMに走ったのね~っ」純生も叫び、皆が笑った。
    「えへへ、許せ」
    「しょがないなぁ。・・で、幸せだったの?」
    「うん!」
    典子はにっこり笑った。
    皆も笑っていた。
    全員が判っていた。
    皆の前に吊られている次期社長の企画担当マネージャーは、KSで一番のM女であることを。

    典子は薬で眠らされ、そしてくす玉に詰められ、ここに設置された。
    約20時間前のことだった。
    目標の24時間には届かなかったけれど、人間くす玉の最長時間記録だった。

    「ええっ? 睡眠薬?」
    事情を知らなかったEAたちが、超長時間版の仕組みを聞いて驚いている。
    「典子さん、ずっと眠らせれてたんですか!?」
    「そうよ、覚醒するまで11時間、それから後はずっと機械で強制的に興奮させられてたの」
    洋子が説明した。
    「すごい!!」
    「いいなぁ~」
    「早くやりたい~」
    「いつからお客様の前で使うんですか~」
    EAたちの目が妖しく光る。
    誰もが同じだった。
    KSの女たちはあらゆる被虐を決して拒まないのだ。

    「みんな、期待してるとこ、悪いんだけど、」
    典子が言いにくそうに言った。
    「薬を使うくす玉は止めようと思うの」
    え、止める?
    皆が一斉に典子を見た。

    典子は真顔になって言った。
    「薬で眠らされるのは被虐性をそそられるわ。機械でコントロールされて生きながらえるのも。・・ぞくぞくする。きっと、皆も同じ、よね?」
    一人ひとりの顔を見るようにして話した。
    「でも、思ったの。やっぱりこれは、私の思うくす玉じゃない。くす玉は女の子が自分の意志で頑張るからくす玉なんだって」
    「典ちゃんは、そう言うんじゃないかと思ってたわ」
    洋子が言った。
    「以前から言ってたものね。くす玉はEAの心意気だって」
    「すみません。私からお願いして、ここまで進めてもらったのに」
    「気にしないで。・・でも」
    洋子はにやっと笑う。
    「いい睡眠薬が見つかったことだし、この装置もよくできてるし、FBちゃんを苛めるにはぴったりよねっ」

    きゃあん!
    女性たちが歓声を上げる。
    「薬で眠らされて、生贄の儀式ってどうですか?」
    「あら、面白そうね」
    「お客様にコントロールをお任せしたらどうかしら。上り詰めるのも、寸止めするのも思いのまま」
    「死んじゃうよ~」
    「きゃははっ。殺されてみたい! なんて」
    一気に盛り上がった。

    23.ハプニング
    「ねっ、瀬戸さん、あたしにもできると思います? 瀬戸さん、・・あれ、瀬戸さんは?」
    千佳が部屋の中を見回しながら聞いた。
    さっきまで一緒にいたはずの瀬戸がいない。
    「瀬戸くんなら、さっき慌てて出て行ったな」黒川が言った。
    「え、どうしてですか?」
    「んー、典子のシャツの下が見えたんじゃないかな」
    「おほほ。彼、まだウブねー。赤い顔してたわ」洋子が笑う。
    「?」
    千佳は宙吊りの典子を下から見上げ、すぐに顔を両手で覆った。
    「きゃ、やだ!」
    叫びながら走って出て行った。

    「どしたの?」典子が聞いた。
    「千佳ちゃん、今、初めて気ついたみたいねー」純生が言った。
    「へ?」
    「典子のその格好だよ~」
    典子は初めて自分の身体を見下ろす。

    テストだから本番の衣装はつけてない。
    ベルトとハーネスの下には、着慣れたタンクトップとショーツ。
    色気のない格好でごめんねー。
    ・・えぇっ?

    典子はタンクトップだけで、ショーツを穿いていなかった。
    そういえば、何かすーすーすると思ってたら。
    「えええ~!!」
    気付かなったー!
    典子の顔がみるみる赤くなった。

    「あたしらは気にしないけどねー」
    純生がにやにや笑いながら言った。他のEAたちも笑っている。

    「ア、アキラ!!」
    「俺じゃないぞ」
    「なら、よーこさん!?」
    「いやぁ、装置を挿れた後、穿かしてあげるの面倒で。くす玉の中じゃ、どーせパンツなんて意味ないでしょ?」
    「だ、だからと言って、ノーパンは!!」
    典子が顔を真っ赤にして空中で暴れる。
    普段落ち着き払っているだけに、珍しい姿である。

    ぼとん。
    典子の股間からねずみ色の塊が落下した。
    「お」
    黒川が床に落ちた装置を拾う。
    「やぁーっ、それ触らないで!!」
    「何ですか、それ?」EAたちが集まってくる。
    「これかい? リモコンで動く低周波パルス機能付のバイブ。典子に合わせてるから小さめだけど、強力だぞ」
    「そんな、説明しないでーっ」

    ええ~?
    「これでコントロールしてたんですかぁっ」
    皆が興味津々の表情になった。
    「これが典子さんのサイズ!?」「小さくないですよぉ」「うん、大っきい!」「あたし、無理ぃー!」
    「こらぁっ、あんたたちぃ。そこでサイズを比べるなぁ!」
    「きゃ、まだ暖かいっ」「もしかして、濡れてる?」
    「いい香りっ」
    「え、本当?」「うん、典子さんの匂い!」
    「匂いをかぐなぁ~!!」

    24.写真撮影
    大阪市内のスタジオにEAたちが集まっていた。
    KSの新しいカレンダーとポスターの撮影である。
    広い床の上に銀色のリングが置かれていた。
    直径180センチもある丈夫なステンレス製のリングである。

    7体連縛

    「・・じゃあ、最初は詩織ちゃんから」
    「はいっ」
    名前を呼ばれたEAが緊縛され、縄でリングに固定されて行く。
    緊縛をメインで担当しているのは黒川。それを瀬戸がサブで手伝っていた。

    「・・次、弥生ちゃん」
    「はい」
    黒川が手に持つプランシートには、EAたちの拘束の構図と段取りが記されていた。
    一人ずつプランの通りに緊縛して、先に縛ったEAの上に折り重なるように固定する。
    誰かの顔が隠れたり、あるいは後ろ手に縛られた肘などが別の者の乳房などを強く突いたりしないよう、体勢を確認し、必要に応じて拘束を追加する。

    「大変ねぇ」
    作業を見ていた洋子が、隣に立つ典子に聞いた。
    「何で、こんなややこしい形で縛るの?」
    「一度やりたかったんです。こういう、女の子をごちゃっと絡ませて縛った構図。・・面白いと思いません?」
    「面白いけど、全員縛るだけで2時間くらいかかるんじゃないかしら?」
    「かかるでしょうねー」

    「・・ふぅ」
    黒川が額を拭った。
    麗華と涼を緊縛し、これでようやく4人済んだところである。
    ここまで縛るのに、1時間かかっていた。
    「次は、瞳ちゃん」
    「はいっ。・・黒川さん、すごい汗。少し休んだらどうですか?」
    「君らががんばってるのに、俺が休んでられないさ」
    「なら、せめて冷房を強くしたら」
    「風邪ひくよ?」

    瞳は黙って自分の身体を見下ろす。
    裸同然の紐ビキニしか着けていなかった。
    緊縛撮影はこれから何時間もかかるはずである。
    一旦縛られたら寒いと訴えることもできなくなるのだ。
    「ごめんなさいっ。あ、あたし、高手小手でしたっけ」
    隣で瀬戸が笑った。
    瞳はあっかんべーを返しながら、自分で両手を後ろに回す。
    すかさず黒川がその手首を掴んで、縄を巻きつけて行く。
    「あ」
    瞳の口から小さな声がこぼれた。

    「いい子ね」
    瞳を見て洋子が言った。
    「いい子ですよ。みんな、とっても」典子がすかさず応えた。

    「ところで、洋子さん。社長を辞めて、この先どうするんですか?」
    「しばらく自分探しの旅に出るわ」
    「まさか! 天下の洋子さんがそんなはずないでしょ? どこに行くんです?」
    「典ちゃんにはお見通しか。・・東京に行くわ」
    「東京ですか?」
    「KSよりもずっと小さなモデル事務所だけどね。面倒見て欲しいって頼まれて」
    「そうですか。・・で、喫茶店はどうするんです?」
    「喫茶店って」
    「『オレンジ』ですよ。小木さんの。行くんでしょ? 一緒に」
    「分かる?」
    「分かりますよー。再婚するんじゃないですか?」

    小木とは、洋子が看護婦時代に一度結婚して分かれた相手である。
    麻酔医をしていたが、洋子がKSを始めるときに病院を辞め、喫茶店のオーナーマスターになった。
    洋子は笑って自分の額を軽く叩く。
    「ホントに典ちゃんには何にも隠せないわねぇ。お店は人に任せて、一緒に東京に行くわ」
    「おめでとうございますっ」
    「誰にも言わないで籍だけ入れるつもりだから、まだ内緒にしてね」
    「はい。じゃあ、東京で新居が決まったら、そのときは知らせて下さい。皆で新幹線に乗って押しかけますよ」
    「わかったわ!」

    「よし、次は有咲ちゃんだ。君は逆海老で吊るからきついぞ」
    「えへへっ。覚悟してます!」

    黒川は有咲と、最後に千佳を縛って固定した。
    ようやく全員の緊縛が完了である。
    170センチのステンレスリングの中に7人の女性が折り重なって収まっていた。
    全員が露出の大きなビキニ姿で、様々なポーズで緊縛されていた。
    黒川と瀬戸が縄の状態をチェックする。
    この後、縄に体重が掛かったときに、事故があってはならないのだ。

    「上げてくれるか」黒川が瀬戸に言った。
    「はい。・・じゃあ、皆さん、立てますよー」
    「はーい!!」女性たちが一斉に返事する。

    瀬戸が操作盤のスイッチを操作した。
    ワイヤが巻き上げられ、床に寝かされていたリングがゆっくりと起き上がる。
    「うわぁいっ」「きゃん」
    何人かが嬉しそうに声を上げた。
    「少しでも異常を感じたら、すぐに言って下さいよー」
    「はーい」

    やがてステンレスリングは、内側に女性7名を縛りつけたままで垂直に立ち上がった。
    下端が床に触れた状態で、引き上げを一旦停止。
    再び縄の状態をチェックする。

    瀬戸が千佳の傍に来て小さな声で聞いた。
    「痛くない?」
    「ぜんぜん平気!」
    千佳も他のEAと一緒に緊縛されていた。
    「うわ、瀬戸さん、千佳ちゃんには優しい」「いいな、ウチらも優しくして欲しかったなぁ」
    瞳と千佳が大げさに言った。女性たちが一斉に笑う。
    「瀬戸くん、私たち、こんなに固まって縛られてるんだから、小声で言っても全部聞こえるわよ」涼が言った。
    「まぁ、いいじゃない。千佳ちゃん、幸せなんだし」
    「うふふ、あたしらも幸せやない?」
    「そうね。みんな一蓮托生で縛られて」
    「一蓮托生なんて、このまま皆で死ぬみたいやないですか?」
    「あら、それも素敵」
    「麗華さん、それ完全にドMの発言」

    「・・ところで、さっき言われたモデル事務所ですけど」
    典子が洋子に向かって聞いた。
    「はい?」
    「やっぱり女の子が縛られるんですか? そこも」
    洋子は黙って典子を見た。
    しばらく見てから、笑い出した。
    「ピンポーン! おほほほ」
    「あははは」

    やがて巨大なステンレスリングは、床を離れて高く吊り上げれた。
    リングの中には、縄に絡めとられた女性たちがいた。
    自由に動くことのできない、囚われの見世物。
    でも、誰一人嫌そうな顔はしていなかった。
    心地よい被虐感に見たされて、自然に微笑みを浮かべていた。

    ・・社長を継いだ典子の下、新しいKSが出発するのは、2週間後のことだった。

    KSポスター



    ~登場人物紹介~
    黒川典子: 30才。KS企画担当マネージャー。洋子から次期社長を指名された。
    桃園千佳: 15才。高校1年生の新人EA。将来はFBを志望。
    鈴木純生: 30才。ベテランEA/FBでリーダー。典子からはじゅんちゃんと呼ばれている。近く結婚予定。
    張麗華: 23才。EA/FB。純生卒業後のEAリーダー候補。
    加山涼: 24才。EA/FB。
    丸尾瞳: 19才。大学1年生。今年FBになったばかり。
    凪元有咲: 18才。大学1年生。今年FBになったばかり。
    黒川章: 31才。KS技術担当マネージャーで典子の夫。
    瀬戸宗弘: 22才。KS緊縛士。千佳とつきあっているらしい。
    島洋子: KS社長。社長退任を発表。

    ついにKSシリーズの最終回です。
    第2部を初めてから2年。第1部から数えると作者にもよく分からないww連載でした。
    長期間にわたりお読み下さった皆様、そして作者の趣味の犠牲になってくれたKSの女性たちに深く感謝します。

    最終話では、やり残していたネタをできるだけやりました。
    薬で眠らせる長時間くす玉、FB観点の拷問、そして、最後の巨大リングの7人緊縛。
    リングの連縛は、千佳ちゃん、瞳ちゃん、有咲ちゃん、麗華さん、涼さん、そして今までのお話に登場した寺原詩織さんと千代田弥生ちゃんです。
    イラストは時間をかけて描きましたが、出来は問わないで下さいね~。
    そして、イリュージョンはとある方に教えていただいた次の動画を参考にしています。
    http://www.youtube.com/watch?v=xYxA9ZyqB4M

    何はともあれ、キョートサプライズはこれで大団円です。
    第3部はありません^^。
    今後の作品で、KSの誰かがちらりと顔を出したとしても、それは別のお話です。

    最後に、今回もぎりぎり1ヶ月かかっての更新となりました。
    私は引き続き物理的および精神的に余裕のない生活を送っています。
    KS最終回までは続けるつもりでがんばりましたが、この先また去年のように休載宣言するかもしれません。
    休む場合は、黙って休むことはせず、必ずここでご報告します。
    そうでない限り、仮にブログに広告が表示されたとしても、作者は作品を準備中であるとご理解下さい。

    ありがとうございました。




    キョートサプライズ セカンド・特別編2(1/5) セピア色のフォトグラフ

    ~ ご案内 ~
    本特別編では 『第8話・3年4組緊縛お化け屋敷』 に登場した高校生たちの10年後を描いています。
    第8話をご存知なくてもストーリーは追えるようにしていますが、楽しみは劣ります。
    第8話を未読の皆様には、そちらを先にお読みいただくよう、強くお勧めします。


    1.同窓会
    「では皆さん! 再会を祝して、乾杯~っ!!」
    「カンパーイ!」
    貸切の居酒屋に洛上高校3年4組の懐かしい顔ぶれが揃っていた。
    卒業してちょうど10年だから、みんな28才。
    一人ひとりが10年分の歳月を纏っていた。

    「真由ちゃん、変わってへんねぇ~」
    「ほのちゃん!!」
    江口真由の横に富沢ほのかがやってきた。
    ビールのグラスを手に並んで座る。
    「ほのちゃんは、変わったねー」
    「まぁ、高校んときと比べたらね」

    高校生の頃のほのかは、無造作に束ねた髪に大きな眼鏡をかけたオタク少女っぽい雰囲気だった。
    それが今では、眼鏡だけは同じながら、派手目の化粧と茶髪のソバージュで大変身である。

    「漫画、読んでるよ。高校で同じクラスやった人って回りに自慢してるもん」
    「ありがと~」
    ほのかは、段々幾絵というペンエームで4コマ漫画週刊誌の連載を持つ漫画家だった。
    高校では漫研の部長で、個人でもネットでイラストを発表していたが、数年前に夢が叶ってプロデビューしたのである。
    今はセクシーな女子大生を主人公にしたコメディで人気を集め、去年は特集号が発行された程だった。

    「真由ちゃんはどうしてるの?」
    「普通に勤めてる。毎日同じ生活の繰り返し。・・ほのちゃんがうらやましい」
    「あたしには、定職につけてる人がうらやましいよー」
    「えー!?」
    「連載なんていつ切られるか分からないし、ボーナスも有給休暇もあらへんねんで」
    「そっかー」
    「それはそうとして、真由ちゃん。津田とはうまくいってるの?」
    「う」
    「あ、ごめんっ。聞かない方がよかった?」
    「いいよ。・・すっと付き合ってたけど、この頃、疎遠になった。もう分かれるかも」
    「え~!!」
    「あ、そんな大っきい声あげんといてよぉ」
    「ごめん」

    津田昂輝は高校時代、真由と同じ陸上部で、3年のときはクラスメートだった。
    卒業するときには、学校中の公認カップルになっていたのだが・・。

    幹事役が立って言った。
    「では皆さーんっ。そろそろ一人ずつ近況を報告してもらいましょう!」
    「おーっ」「やろうやろうっ」
    「最初は志賀夫妻やね!」
    「おぉ~っ、一番の幸せモノぉ」「聡美ちゃーん!」
    「・・あ、どうも」

    志賀雄二と聡美の夫婦が立ち上がって挨拶を始めた。
    二人は高校を卒業してから付き合い始め、わずか2年で学生結婚。
    今は会社員と専業主婦で、4才と1才の子供がいる仲良し夫婦である。
    聡美は旧姓・渡辺で、3年4組ではクラス副委員長をしていた。

    「えーっ? 志賀くんと渡辺さん、結婚したんかぁ」ほのかが驚いている。
    「知らなかった?」
    「真由ちゃんは知ってたん?」
    「披露宴行ったから」
    ・・そのときは昂輝も一緒にいて、次はお前らやって言われたな。
    余計なことを思い出して、落ち込む真由である。

    2.アルバムの写真
    近況報告が一巡すると「写真を回覧しまーす」と言って一冊のアルバムが回ってきた。
    おおぉ~!
    最初にアルバムを開いた男子が歓声を上げた。
    「うわぁ」「きゃあ~っ」
    隣から覗き込んだ数人も声を上げる。
    何だ何だと皆が寄ってきて、大きな輪になった。
    「こ、これは!」「やぁ~だぁ~っ」「うっはぁ!」

    それは、文化祭のときのクラスの写真だった。
    皆が揃って撮った写真と、個別に撮ったたくさんのスナップ写真。
    10年前の自分達が写っていた。
    「・・俺ら、すごいことしてたんやな」
    誰かが言った。
    皆が、うん、と頷いた。

    3年4組はクラス展示で『お化け屋敷』をやった。
    それは、洛上高の歴史に残る型破りなお化け屋敷だった。
    登場するお化けはすべて女子生徒が演じた。
    さらにそのお化けは、ほぼ全員が縄で縛られたり、拘束具に固定されたりしているのである。
    彼女たちの緊縛は、男子生徒の中から担当者を決めて行った。
    本職の縄師にわざわざ来てもらって教わった本格的な緊縛だった。
    リアルに、時には残酷なまでに緊縛された女子高生お化けが暗闇の中で待ち受けていた。
    たかが高校生のお化け屋敷とバカにして来た大人の客が腰を抜かして立てなくなる程の怖さだった。

    アルバムの写真は、ほとんどがお化けに扮した女子生徒たちだった。
    他の一般女子や裏方の男子生徒たちも写っている。
    お化けの女子は、当たり前のように後ろ手に縛られていた。
    十字架に磔になったり、ギロチン台に首を通されている女子もいた。
    皆が笑っていた。
    縛られたまま、お化け同士でじゃれあったり、絡みあったりしている。
    普通に制服で縛られて喜んでいる女生徒までいた。お化けでもないのに緊縛してもらったらしい。

    「これ幹事が撮った写真かぁ?」
    「オレもデジカメのデータ、持ってるで」「あたしのケータイにも。まだメモリカードあるよ」
    「うちにも」「僕もある」
    「・・なら、いっぺん持ち寄ろか」
    「おお、ええやん」
    すぐに、皆が自分のカメラや携帯電話などで撮った当時の画像を集めることに決まった。
    「集めてネットに公開しようか」
    「公開はやめてぇ。あたし、縛られてる写真ばっかり~」
    「そうか。これ、女子高生の緊縛写真集やもんな」
    「そんな色っぽいもんやないって」
    「ま、失礼ねー」「ははは」「きゃはは」
    場が一気ににぎやかになった。

    「やぁ~っ。それ見ないでー!!」
    女子たちが集まった一角で、志賀聡美が声を上げた。
    「きゃぁんっ、色っぽーい♥」
    アルバムを必死に隠そうとする聡美は逆に後ろから羽交い絞めにされてしまう。
    「聡美ちゃん、本当の緊縛モデルみたいやんっ」
    写真には白いドレスを着た聡美が首を吊られて浮かんでいた。
    聡美は『首吊り娘』という役で、高手小手に縛られた上、首に縄を掛けられて、高い柱から宙吊りにされたのである。
    苦しげな、聞きようによっては悩ましげな声を上げながら揺れる首吊り娘は、登場するお化けの中でも一、二と評されたのであった。

    「聡美ちゃんの緊縛、志賀くんの担当やったね!」
    「そぉやったっ。志賀ぁ、今でも嫁さん縛ってるんかぁ?」
    横から男子が割り込んで、志賀を冷やかす。
    「さぁ、どうでしょうかねぇ~。その辺は皆さんのご想像に・・」
    「雄くんっ。そんな言い方したら誤解されるでしょ~!!」
    のんびり答える志賀を、聡美がますます恥ずかしそうに遮ったので、皆がどっと笑った。

    あたしの写真!
    真由も自分の写真を見つけていた。
    後ろ手に縛られた女子高生ゾンビ。
    セーラー服をぼろぼろに破いて、下から素肌を見せている。よくこんな格好をしたものだと思う。
    それでも自分は嬉しそうに笑っている。
    あの頃は何をするのも楽しかった。
    隣に男子生徒がいて、偉そうに自分の頭を片手で押さえている。
    津田である。自分の緊縛担当は津田だった。
    練習のために何度も縛られた。陸上部の部室で二人きりで縛らせてあげたこともある。
    甘い思い出に胸が締め付けられた。

    3.曽爾夫妻
    がらっと戸が開いて、男性と女性が入ってきた。
    「遅くなりまして」
    「おおっ、曽爾!」
    「きゃーっ、篠田先生!」
    それは3年4組のクラス委員長だった曽爾則之(そにのりゆき)と、担任の篠田智佐子だった。

    「欠席かと思てたぞぉ」「いや、申し訳ない」「今何やってるんやー?」
    「先生、教師、辞めたんやって?」「うん。だからもう先生って呼ぶのは止めてね」「今何してるんですかー?」
    一斉に質問が飛び始めたところで、幹事が仕切った。
    「はいはい! さっそく曽爾くんと先生にも近況報告してもらいましょう!」
    おー、ぱちぱち。

    曽爾が立って挨拶した。
    「どうも、曽爾則之です。大学を出て2年勤めた後、今は学習塾の講師をやってます。愛する妻と一緒に頑張ってます」
    「曽爾ぃ、嫁さんもらったんかぁ」「お子さんはー?」「いや、子供はまだ」
    「曽爾くんって真面目な感じやし塾の先生に合ってるわー」
    次に智佐子が挨拶する。
    「皆さん元気そうで嬉しいです。今は写真を撮って生活の足しにしてます。それと私も結婚しまして、」
    「えー!! 先生、何で黙って結婚するん!」「あたしらがお祝いしたげるのにー!!」
    「ごめんなさい。あまり騒がれたくなかったので、式は身内だけで挙げました」
    「なら、苗字変わったんですかー?」
    「はい」
    智佐子は隣に立っている曽爾と視線を交わし、笑いながら言った。
    「・・今の名前は曽爾智佐子です」
    「ええええ~!!」
    全員が驚きの声を上げた。

    曽爾は高校を卒業すると同時に、智佐子に結婚を前提とする交際を申し込んだのだった。
    智佐子はそれを受け、曽爾が大学を卒業すると同時に退職、結婚した。

    「ちょっと待てっ。結婚を前提とした交際って、もしかしたら卒業する前から付き合ってたのー?」
    「大丈夫。担任の生徒とそんな関係は持ちません。お付き合いを始めたのは、この人が卒業してからよ」智佐子が笑いながら説明した。
    「先生、どうして曽爾くんを選んだんですかぁ?」
    「やっぱり、文化祭で縛られたからー?」「先生、すごくきつく縛られてたよねー」
    次々と質問が飛んだ。
    そうだった。皆が思い出した。
    智佐子も縛られたのだ。智佐子はお化けではなく囚われのお姫様の役だった。
    縛ったのはクラス委員長の曽爾だった。
    徹底的に厳しい緊縛だった。
    あのときの智佐子の喘ぎ声、もがき方は皆が覚えていた。
    曽爾は、他の誰にもまかせずに自分だけで智佐子を世話していた。
    もしかして、あのときから、二人は特別な関係だったのか?

    曽爾はしばらく皆の質問を笑って受け流していたが、やがて智佐子に向かって、言ってもいいかな? と確認してから話し始めた。
    「実は、高校を卒業してから始めたことがありまして、それは緊縛の勉強です」
    「ええ?」
    「3の4の仲間だからお話ししますけど、今は個人で緊縛の研究会をやってます。いずれプロになりたいと思っています」
    「プロって、縄師のプロか?」
    「はい」
    うわ~ぁ!!

    4.曽爾の緊縛実演
    それから、同窓会は曽爾の緊縛実演会に変わった。
    「は~いっ。あたしらモデルやりますっ」
    ほのかが手を上げて立候補した。
    その手は真由の手も一緒に掴んで上げていた。
    え、え、ええ~っ?
    「いいでしょ? せっかく縛ってもらえるんやから楽しもうよっ」
    ほのかは慌てる真由にそう言って笑ったのだった。

    曽爾は鞄から麻縄の束を出すと、解いて床に広げた。
    「じゃあ、まず富沢さんから」
    「はい、お願いしますっ」
    皆が見守る中、曽爾が縛り始めた。
    背中で組ませた手首から肘、上腕。そして胸の上。
    「速いなぁ」
    誰かがつぶやく。
    曽爾は高校生のときから上手に縛っていたが、10年経ってさらに驚くべき腕前になっていた。
    ものの数分でほのかを高手小手に縛り上げた。
    「はぁ~・・」
    ほのかがため息をつく。

    「次は江口さん」
    あ、あたしの番っ。
    何も考える暇がなかった。気がつけば真由も縛られていた。
    背中に回した腕がかっちり固定されて動かない。
    手首にほんの少し力を入れると、上腕と胸の上下が、きゅっ、と締め付けられた。
    「あ」
    思わず声が出た。快感だった。

    「たまらないよねっ」
    並んで縛られたほのかが真由の耳元でささやいた。
    うんっ。
    真由も頷いて同意する。
    久しぶりやな、この感じ。
    ・・津田昂輝に縛られた感覚がよみがえった。
    高校を卒業してから、津田はずっと真由を縛ってくれた。
    あいつも、結構上手に縛ってくれたっけ。

    気がつくと、隣に智佐子が縛られていた。
    智佐子は右の肘を頭の後ろに、左の肘を背中に固定されて、それぞれの指先を突き合せた形で縛られていた。
    鉄砲縛りという縛り方である。
    腕も肘も指先も、まったく動かせない厳しい緊縛だった。
    最初はにぎやかに騒ぎながら見物していたギャラリーも、今は静かになって驚きの顔で見ていた。
    自分たちの担任教師だった女性が、当たり前のように緊縛されているのだ。
    その上、縛っているのは凄腕縄師の同級生。
    それは10年前の文化祭のときと同じく、ちょっと衝撃的な光景だった。

    「はい、できあがり」
    まるで簡単な粘土細工でも作ったかのように、曽爾は『作品』をぽんと叩いて振り向いた。
    「・・他に、縛られたい人はいますか?」
    「あの、私も」「あたしもお願い」
    何人かの女性が遠慮がちに手を上げた。その数が5人、6人と増えて行く。
    曽爾はにこやかに笑いながら、希望者全員をさらさらと緊縛した。

    5.色あせた写真
    その夜。
    真由は眠る前に机の引き出しから1枚の写真を出した。
    縄で縛られた女子高生ゾンビと男子生徒が揃って笑っている。
    同窓会で回覧されたのと同じ写真だった。
    ただ、この写真はずいぶん色あせていた。
    その上、二人の間を分かつように切り離されていて、セロハンテープで繋ぎ合わされていた。

    セピア色のフォトグラフ

    写真を手にベッドに転がる。
    ・・江口さん、うちの研究会に参加しない?
    同窓会の後で、曽爾に言われた言葉がよみがえった。
    研究会とは曽爾が主宰している緊縛研究会のことである。
    「今日、縛って感じたけれど、江口さん、すごく縄と相性がよかったんだ。もしかして、誰かに縛られているのかな」

    写真をおでこに乗せて考え込む。
    ・・昂輝、あたし、あんた以外の人から縛られるよ。
    いいの?

    続き




    キョートサプライズ セカンド・特別編2(2/5) セピア色のフォトグラフ

    6.19才/真由の部屋
    高校を卒業して、真由と津田はそれぞれ専門学校と大学に進学した。
    どちらも大阪の学校だったので、週末だけでなく平日も会って二人で過ごした。
    カラオケや映画、週末にはボーリングやアウトドアスポーツ。夏は海、冬はスキー。
    毎日が楽しかった。

    あれは津田が真由の部屋に来たときのことだった。
    二人ともベッドの上で、裸だった。
    「そぉや、これ」
    津田は手を伸ばして自分のカバンを取ると、1枚の写真を出して渡した。
    そこには、縄で縛られた女子高生ゾンビの真由と、真由の頭に手を乗せた津田が写っていた。
    「わぁ~、これ撮ったとき、覚えてる!」
    「卒業式のとき、新井から2枚もろたけど、真由の分を渡すの忘れてた」
    「忘れんといてよぉ」
    「でもこれ、ええ顔してるやろ?」
    「うん。面白かったね、このときは」
    洛上高の文化祭。
    ついこの間のようで、ずいぶん昔のような気もした。

    「そういえば昂輝、あのとき一番下手やったね、縛るの」
    「あのなぁ、気にしてることを」
    「ごめんごめん。でも、あたし、嫌やなかったよ。昂輝に縛ってもらうの」
    お化けになって、縛られるなんて、もう二度とできる経験じゃないし。
    「今もか?」
    「へ」
    「今も、縛られるの、嫌やないか?」
    津田はカバンから赤い綿ロープを出した。
    「それ、あのときの」
    文化祭の練習で津田が真由を縛ったロープだった。
    「写真見つけたとき、これも見つけた」
    「縛りたいの? あたしを」
    「うん」
    「・・しょうがないなぁ。なら昂輝のために、ちょとだけ縛られてあげよかな?」

    しようがない。
    口ではそういいながら、真由は胸が高鳴るのを感じた。
    このところ、えっちするのも慣れっこになって、新しい刺激が欲しかったところである。

    「じゃあ、手を後ろに回して」
    「ちょっとっ。裸はイヤ」
    「え、何で」
    「何ででもイヤなのっ。裸で縛られて、昂輝にじろじろ見られるんは」
    「なら、服、着てええから」

    真由はベッドから出て、裸のままでタンスを開ける。
    えへへ。昂輝に、しっばられるぅ~♪
    下着、何つけよっかなぁ。
    ・・そぉや、アレにしよっ。

    タンスを閉め、隣のクローゼットから陸上部時代に使っていたスポーツバックを出した。
    中から小さく折り畳んだあずき色のコスチュームを出して見せた。
    「これ着るね!」
    それは真由が陸上部で着ていたセパレートのユニフォームだった。
    上は胸の下までの丈のノースリーブ。下は股上の浅いブルマー型のレーシングショーツ。
    おへその下15センチくらいまで露出する極端なローライズである。
    文化祭の練習のとき、真由はこのユニフォームを着けて縛らせてあげたこともあるのだ。

    ・・

    「どう?」真由はユニフォームを着てみせた。
    「久しぶりに見たら、エロいなぁ。その格好」
    「こら昂輝! 何、興奮してるんっ。あんたも服着なさい!」
    真由が津田の股間を見て叫んだ。
    津田はしかたないという顔でシャツとズボンを身に着ける。

    「これでええか。・・こっちへおいで」
    「うん♥」
    津田はベッドに腰かけて、膝の上に真由を座らせた。
    後ろから抱きしめて、ゆっくり胸を揉みしだく。
    「あぁ・・ん」
    「何となく思おてたけど、これ着たら、よぉ分かるな」
    「何?」
    「最近、太ったんとちゃうか」
    「そんなことないよ」
    「食い込んでるで」
    「ええ!?」
    真由は慌てて自分の身体を見下ろす。
    「あああっ!!」
    確かに、ぴっちりしたユニフォームが肌に食い込んでいた。
    「どうしてっ? 体重はキープしてるのにぃ!!」
    「油断したな」
    「ああ~んっ。食い込みを撫で回すなぁ!」
    「体重が増えてへんのやったら、心配せんでええ。多少脂肪がつくのは自然なことや。生活が変わったんやから」
    「んでも」
    「筋肉ムキムキより、これくらいむっちりした方が女らしゅうて好きやな、俺は」
    「そうなん?」
    「柔らこうて、触り心地がええねん」
    「もう」
    「・・縛るで」

    ベッドに座り直すと、後ろ手に縛られた。
    津田は、慎重にゆっくり真由を縛った。
    文化祭のときと同じように、高手小手に縛られた。
    「覚えてるもんやな。どうかな?」
    「うん、上手。ホントに1年ぶり? 他の女の子を縛ってたとか」
    「ある訳ないやろ。毎日会うてるのに」
    「そやったね」
    真由はそう言って笑う。
    久しぶりに受ける緊縛は気持ちがよかった。
    自分の身体を見下せば、薄いユニフォームで覆われた胸がこんもり盛り上がっている。
    乳房を上下で締めるロープのせいだ。
    背中で組んだ腕に力を入れてみる。
    がっちりと固定された腕は、ほとんど動かなかった。

    ・・あぁ、いいな。あたし、昂輝に縛られてる。
    お化け屋敷の緊縛とはちょっと違う。あれは、みんなのためにしたことだった。
    今、あたしは昂輝だけのために縛られてる。
    自分は彼だけのモノだ。彼の思いのままだ。
    ほのぼのした喜びを感じた。
    太って恥ずかしい、なんて気持ちは、どこかに消えてしまった。
    あたし、やっぱりマゾなんかなぁ。

    「すごく幸せそうな顔してるで」
    「ねぇ、やっぱり縛られるとき、女の子は辛そうにしてた方がいい?」
    「別に構へんで。嬉しいんやったら」
    「ごめん」
    「謝ることちゃうやろ」
    「そやね、ごめん。・・って、あたしまた謝った」

    文化祭から1年。
    真由は再び津田に縛られた。
    やがて二人で過ごす時間の何割かは緊縛になり、その割合は次第に増えていった。

    7.22才/ディナー
    「何にしよっかな~。このサーロインステーキ、美味しそう!」
    真由はメニューを開いて、はしゃいでいた。
    テーブルの向かい側には津田が座っている。
    「おいおい。俺の給料、お前が思うてるほど高うないんやで」
    「んでも、初任給でおごってもらう約束でしょお?」

    津田は大学を卒業して、中堅のメーカー企業に就職したばかりである。
    真由は2年前から働いていて、その間は、お金のない津田のためにデート代を持ってあげたりもしたのだった。

    「乾杯っ」
    ワイングラスを当てた。
    「いよいよ昂輝も社会人やねー」
    「社会人って、学生とどう違うんや」
    「んー、・・経済的に自立すること?」
    「なら、いつでも結婚できるな」
    「え」
    真由は津田の顔を見る。津田は笑っていた。
    「そ、そやね」
    急に胸がドキドキした。
    「・・ま、まあ、昂輝は社会人になったばかりやし、あたしも社会人としてはほんの2年先輩なだけやし」
    何言ってるんや、あたしは。
    「い、いずれ、そうなるかな、と思うけど」
    「真由」
    津田が言った。落ち着いた声だった。
    「は、はいっ」
    「俺は、自分の相手はお前しかおらんと思うてる」
    「・・」
    「今はまだぺーぺーやからあかんけど、この先、その時が来たら、ちゃんと申し込むから。それだけ分かって欲しい」
    「うん。・・ありがと」

    それから二人は食事をした。
    真由の胸のドキドキは収まらなかった。
    たわいもない日常の話や冗談を言い合っている間にも、津田の「お前しかおらん」の言葉が頭の中に繰り返して流れた。
    ねぇ、あれは思いつきで言ったの? それとも最初から言おうって決めてたの?
    「このパン、いけるな」
    「うん、美味しいね」
    津田が手を伸ばしてパンを取り、そのまま口に運んだ。
    「あ、それ」「え」
    真由の皿のパンだった。
    「いけね」
    カシャーン。音をたててフォークが床に落ちた。
    「ごめんっ。何か変やな、俺」
    どうやら、おかしくなっているのは真由だけではないらしい。
    うふふふ。
    フォークを拾う津田を見ながら、真由は心の中で少し笑った。

    レストランを出て、二人は夜の街を散歩した。
    津田の「将来プロポーズするぞ」宣言のせいか、この日はちょっと違う雰囲気だった。
    いつもなら軽く腕を絡ませる程度なのに、今は津田の手が真由の腰にかかって強く引き寄せていた。
    真由も津田の腰に手を当てて、胸に頭をもたげていた。
    いくら密着しても足りなかった。
    もっと、ぎゅうっと押さえて欲しい。
    真由はそれ以外に何も考えずに、津田が進む方向に合わせて歩いた。
    津田の足がホテルに向いた。真由も黙ってついて行った。

    ・・

    二の腕にロープが食い込んだ。
    それが背中で引き絞られると、後ろで合わさった手首がきゅっと吊り上がった。
    「あっ・・」
    気持ちいい。乳首が尖って固くなった。
    すかさずその乳首をきゅっと摘まれる。
    身体中に電流が走った。
    「はぁんっ!!」
    「もっと声出して」
    「あ、あほっ」
    「ほい、仰向けになって。・・こっちの膝、立てて」
    左の太ももをぴちぴち叩かれた。
    素直に従うと、膝を立てた左足の太ももと脛をまとめてロープでぐるぐる巻きにされた。
    反対の足も同じように縛られる。
    そうしてから、左右の膝を脇腹につくまで折り畳まれ、それぞれ短いロープで背中の結び目に繋がれた。
    真由はベッドの上で仰向けに押しつぶされたカエルみたいな格好になった。
    「はぁ・・ん」
    もう、動けない。

    津田は最初からロープを出した。
    真由にだけシャワーを浴びさせると、自分は服を着たままで真由を縛り始めたのだった。
    この日はちょっと違う雰囲気だった。
    いつもなら優しくキスから始まるのに、今の津田はいきなり緊縛した。
    荒々しくて、強引だった。
    でも真由は津田のする通りにまかせた。そうするのが自然だった。

    「こんな格好した真由も可愛いもんやなぁ」
    津田が言った。
    少し離れた位置、自分の下半身の方から腕を組んで見下ろしている。
    「は、恥ずかしい。・・そんな見んといて」
    きちんと服を着た津田。生まれたままの姿でお尻の穴まで突き上げている真由。
    この、恥ずかしさ。惨めさ。
    でも自分で分かっていた。
    こんな格好を強要されているのに、自分のあそこはぐずぐずになっていることを。

    「こんなに感じているくせに、恥ずかしいんか?」
    津田は人差し指と中指を揃えて差し込んだ。
    「あ、あああぁ」
    壷の中から粘液が溢れてこぼれた。
    「洪水やな」
    「そ、そんな言い方、・・はうっ!!!」
    真由は全身を仰け反らせた。
    津田の指が真由の小さな芽を撫でたのだった。
    「ああぁっ!! はぁあんっ!! あぁああ!!」
    二度、三度と声を上げる。津田は指を止めてくれない。
    「うん、ええ声や」
    全身が熱かった。もう我慢できへんよぉ。
    「はぁ、はぁ、・・ぃ」
    「え? 何か言うた?」
    「い、入れ・・」
    「聞こえへんなぁ」
    「いじわるっ。・・もう、苛めないで。入れて。昂輝の、お願い」

    肩の下と腰の下にクッションをあてがってもらった。
    「ええか?」
    「ん」
    真由はぎゅっと目を閉じる。
    がざがさとズボンを下す気配。
    と、両足を折って上に向けた股間に男性の体重が乗った。
    「はんっ!!」
    同時に、真由の中に津田のモノが差し込まれた。
    それは十分に太く、長く、一番奥まで貫かれた。
    「ああぁっ! ・・あん! ・・あん!」
    折り畳まれた両足の筋肉にぎゅっと力が入り、ぴんと伸びた足の指先が空を掻いた。
    あらん限りの力を込めてもがくから、ハムみたいに括れた太ももにいっそうロープが食い込んでいる。
    多分、何日か消えない痛みと痕が残るだろう。
    でもそれでも構わないと思った。
    今は、あらゆる自由を奪われて、弄ばれたい。
    真由は、喘げるだけ喘ぎ、もがけるだけもがき続けた。

    8.24才/単身赴任
    半年ぶりに会った津田は、少しやつれていた。
    津田は今年からブラジルに単身赴任していた。
    慣れない国で、治安も良くないため、いろいろ苦労があるのだろう。
    そう始終帰ってくる訳にもいかず、会えるのは年に2~3回がせいぜいみたいだった。
    真由の方から会いに行くのも容易ではなく、その上、危険だから勝手に来るなと釘を刺されていた。

    「苦労してるの?」
    「んー、仕事はおもしろいで。やりがいもあるし」
    「そうか。・・まあ、お疲れ様。休暇1週間でしょ? あたしも休み取るから」
    「ごめん。二日しか自由にならへんねん。後は仕事になって」
    「え~っ?」

    わずか二日の休暇。
    二人は淡路島までドライブし、海沿いのホテルに泊まった。
    観光をするつもりはなかった。
    最初から最後までずっとベッドで過ごすつもりだった。
    だが・・。

    「悪い。ちょっとだけ寝させてくれる」
    「いいよ。疲れてるもんね」
    そして津田は一人ベッドで眠り続けたのだった。
    真由は熟睡する津田の横で、津田の顔を見ながら過ごすことになった。
    半年ぶりなのに。
    ずっと会いたかったのに。

    津田の手を握った。津田は目を覚まさない。
    津田の顔にキスをした。津田は目を覚まさない。
    津田の胸に抱きついた。身体を撫でた。股間を押さえた。
    何をしても津田は目を覚まさなかった。

    いつ起きるんだよー。
    えっちしたくてたまらないんだぞー。
    早くあたしを縛ってよぉ。ぎちぎちに縛ってよぉー!

    津田に縛られる自分を想像した。
    後ろ手に縛られて、両足も縛られて、少しも動けなくて、抵抗できなくて。
    そうしてあたしは彼の思いのままになる。
    乳首を摘まれ、おへそを舐められ、あそこを苛められ。

    あぁ、もうあかん。
    真由はショーツを下ろした。自分の指を挿し入れる。
    その中は、もう十分に濡れていた。
    ゆっくり指を進めて、尿口の上にある突起に軽く触れる。
    びくん!
    そこはそうされるのを待っていたかのように、快感を真由に伝えてきた。

    反対の手をブラの中に入れて乳房を揉んだ。
    もう一方の手の、中指の腹でクリトリスを撫でた。
    津田に責められる自分を思い浮かべる。
    息も苦しいほどに全身を縄で締め上げられて。
    恥ずかしい場所をすべて見られて、弄ばれて。
    彼が与えてくれる快感に、あたしは声をあげ全身を震わせて応えて。

    あ、あぁ、あ・・・。

    気がつくと、真由は半裸で津田の隣に寝ていた。
    時刻は真夜中だった。
    津田は何も気付かずに眠っている。
    涙が一筋流れた。
    真由はそのまま朝まで津田の傍で過ごした。
    性欲がちろちろと燃え残っていたけれど、自分の指で処理して我慢した。

    津田は17時間眠り続け、お昼前になってようやく起きた。
    「ごめん!」
    真由の前で土下座してから、一度だけセックスしてくれた。
    それはとても軽めで、緊縛されることはなかった。

    9.26才/誘い
    津田から駐在が1年延期になったと連絡が入った。
    2年の約束で行ったはずでしょ。断ってくれたらいいのに。

    津田はとても忙しそうだった。
    こちらからいろいろ心配してメールを送っても、返信は何回かに一回になった。
    たまに返ってくるメールは、誰かと何かの交渉をした、何かが売れた、何かで叱られた、そんな内容ばかりだった。
    この年は帰国も1回だけ。
    慌しく二人で食事をしただけで終わった。

    「・・江口さん。いっぺん飲みに行きませんか」
    職場の事務所で、後輩の男性に声を掛けられた。
    「え、あたし? 誘うんやったらもっと若い子にしたら?」
    「いや、江口さんボクと二つ違うだけでしょ」
    「お主、どこであたしの歳を」
    「いやいや、ええやないですか。江口さんフリーって聞きましたし」
    あたし、フリーやないけど。
    でも、次に昂輝と会えるの、いつになるか分かないし。
    まあ飲みに行くくらいやったら。
    「なら行く? あんたのオゴリで」
    「はいっ。では6時15分に、下の通用口で」

    うふふふ。若い男の子とデート♥
    その日、夕方までの間、真由はちょっと浮かれて過ごした。
    飲んだあと、ホテルに誘われたりして。
    まさかね。
    でも、彼の目。あたしのこと本気で。
    津田とのセックスが途絶えている分、妄想も過剰になる。
    仕事が終わり、事務所の階段を下りる間も浮かれたままだった。
    通用口の外にあの後輩社員が立っているのが見えた。

    そのとき、スマホにメッセージ着信のチャイムが鳴った。
    画面を開くと津田からのメールだった。
    10日ぶりのメールだった。
    『おはよ。そっちは夜か。今日はクレーム対応頑張るわ』
    何と素っ気無いメールだろう。
    こちらから書いて送ったことには何ひとつ答えていない。
    まあ、アイツらしいか。真由はくすりと笑う。
    そして突然思い出した。
    『俺は、自分の相手はお前しかおらんと思うてる』
    津田の言葉。

    通用口の外で後輩社員が真由に気付き、手を振るのが見えた。
    真由はその彼の前に行くと、頭を下げた。
    「実はあたし、決まった人がいるの。ごめんなさい!」
    そう言うと、くるりと反対を向いて歩いていった。

    10.27才/音信不通
    津田からのメールはますます少なくなった。
    応答がない津田に対して、真由からのメールも自然と減ってしまう。
    何事もなく元気にしてくれてるのなら、と安心しているしかなかった。

    真由が安心していることはもう一つあった。
    はっきりした期日は知らなかったが、津田の赴任期間がまもなく終わるのだ。
    いったいいつ帰国するのか、それくらい連絡して欲しいとは思うけれど。
    まあアイツのことだから、明日帰るわ、なんてメールが急に来るんだろう。

    ・・

    赴任からまる3年を過ぎても、津田からの連絡はなかった。
    こちらからのメールへの返答も途絶えた。
    思いきってブラジルへ電話をかけたが、何か英語かポルトガル語?のメッセージが返るだけで、津田に繋がることはなかった。
    津田の実家にも聞いた。
    学生時代には何度も訪ねてお世話になったお母さんは「まだブラジルにいますよ」と教えてくれた。
    でもいつ帰ってくるのかは、家族にも分からないようだった。

    これだけ心配してるんやから、連絡くらいせぇ、ちゅうねん。
    真由は自分の部屋で一人でぷりぷり怒った。
    ふと思い出して、引き出しの奥から写真を出した。
    縄で縛られた女子高生ゾンビの真由。横で笑う津田。
    引き出しの中にあったのに、その写真はずいぶん色あせて、黄ばんでいた。
    セピア色の高校時代。
    彼のことが大好きだった。
    ・・あれ? 涙。
    真由はいつか泣いていた。
    写真を見ながらえんえん泣いた。

    幸せそうな二人が無償に憎らしくなった。
    引き出しからハサミを出して、写真に当てた。
    そのまま、まっすぐ二人の間にハサミを入れた。

    切り離した写真をゴミ箱に入れようとして、気がついた。
    何てことをしたんだろう。
    写真を合わせてテープで繋いだ。
    ごめんね。ごめんね。
    写真に向かって謝りながら、もう一度泣いた。

    続き




    キョートサプライズ セカンド・特別編2(3/5) セピア色のフォトグラフ

    11.緊縛研究会
    真由は曽爾の緊縛研究会にやってきた。
    いきなりの参加は怖かったから、この日は見学のつもりで来たのである。
    会場は京都市内にある2階建ての事務所ビルだった。
    『株式会社キョートサプライズ』
    入口の看板を見て首をかしげる。
    どこかで聞いたような気がしたが、思い出せなかった。
    曽爾と智佐子が笑って迎えてくれた。
    「専用の練習場はないから、ここの部屋を毎月借りてるんだ」

    『ワークルーム』と呼ばれる部屋に男女メンバーが集まっていた。
    その数は見学の真由を除いて9名。
    メンバーの中には志賀雄二と聡美の夫婦もいた。
    ずっと以前から参加していたという。
    ・・やっぱり!
    同窓会のときの志賀の態度を思い出して、真由は納得がいった。

    「こちら、江口真由さんです」
    曽爾に紹介され、真由は皆に挨拶した。
    「江口です。今日は見学で来ました。よろしくお願いします」
    「今まで見学だけで終わった人はいないのよ」
    智佐子がすまして言うと、皆が笑った。
    「そうそう。江口さんもきっと縛られたいって思うはずですよ」
    志賀も言う。隣で聡美も笑って頷いている。
    ・・ひ、否定できない。
    自分は緊縛されることに期待して来たのだ。
    ここで縛ってもらったら。津田以外の男性に縛ってもらったら。
    そうしたら、津田への思いに囚われて何もできないでいる自分を変えられるかもしれない。

    12.緊縛実技
    研究会が始まった。
    二つのグループに分かれ、それぞれモデルの女性を決めて縛ってゆく。
    曽爾は緊縛技術の指導、そして智佐子はカメラを持って記録担当である。

    モデルの一人は聡美だった。
    真由は、聡美がさっと上着を脱いでブラとショーツだけの下着姿になったことに驚く。
    ブラは谷間を強調するハーフカップ。ショーツもTバックで露出の大きいデザインだった。
    高校時代、大人しくて上品だったあの聡美ちゃんが、こんなに堂々と身体を見せるなんて。
    聡美を縛るのは、研究会メンバーの若い男性だった。
    まだ初心者のようで、曽爾が一緒について教えている。
    その回りで、志賀を含め他のメンバーが熱心に見ているのだった。
    聡美は高手小手に縛られた状態でうつぶせに寝かされ、さらに腰から下を縛られた。
    曽爾が最初の部分だけ縄さばきを示し、男性がその続きを縛って仕上げたのである。
    それは、まるで縄で編んだ網のようだった。その網が女体を捕らえて包み込んでいる。
    美しい、と真由は思った。
    こういうのを緊縛アートって言うんかな?
    やがて男性が立ち上がってぺこりとお辞儀した。皆が拍手をした。
    聡美は、男性の『作品』になったのだ。
    志賀が立ち上がって、新しい縄束を持つと、男性と聡美にいいか?という風に聞いた。
    二人が頷くと、志賀は聡美の口に縄を噛ませ、そのまま猿轡のように頭の後ろで括った。
    さらに顔面に縄を巻きつけて、目も鼻も覆ってしまった。
    顔面拘束である。
    これで聡美は見ることも喋ることもできない。
    可哀想。真由は思った。
    その一方で、羨ましいとも思った。

    もう一方のグループでは、上級者らしい男性が小柄な女性を縛っていた。
    この女性は研究会メンバーでは最年少で、20才になったばかりとのことだった。
    彼女は白いエプロンのついた紺色のメイド服を着ていた。
    頭に白いヘッドドレス。マイクロミニスカートの足には紺のニーソックス。
    緊縛の研究会に、こんなコスプレみたいな格好の女の子がいるとは思わなかった。
    でも、彼女にはキュートなメイド服が似合っていた。
    縛り手の男性が上から下がった縄を引くと、全身を縛られた彼女が空中に浮かび上がった。
    見上げると天井には金属のフレームがあって、そこに滑車が取り付けられていた。
    メイド服の彼女は滑車から吊られたのである。
    手も足もぎっちり拘束されていて、身動きひとつできない。
    そのまま逆海老になり、頭を下に向けてゆっくり揺れるだけである。
    苦しいだろうと思った。
    でも彼女はうっとりとした表情をしている。
    真由はまだ吊られた経験はなかった、
    でも目の前で吊られている彼女が何を感じているのかは分かるような気がした。
    自分も吊られたい、あんな風に感じてみたい、と思った。

    休憩時間になって、真由は皆と話をした。
    緊縛研究会は、緊縛技術の研究と研鑽を謳う同好会である。
    参加メンバーは、本日欠席している人を含めて12名。
    男性が5名、女性が7名。女性の方が多いのだ。
    縛り手には男性も女性もいるけれど、緊縛されるのは必ず女性である。
    主宰の曽爾は男性が縛られても構わないと言っているが、男女どちらのメンバーもそれを望む者がいないという。
    真由もうんうんと頷いた。
    自分が縛られるなら相手は男性でも女性でもいいけれど、見るなら同性の緊縛を見たい。
    その方が綺麗だし、何より共感することができる。
    自分も縛られたつもりになって、感じられる。
    さっき見せられた二人の緊縛を思い出した。

    「じゃ、縛りましょか。 江口さん」
    曽爾が言い出して、口から心臓が飛び出そうになる。
    「・・あ、あたし。その、今日は見学で」
    「縛って欲しくてたまらない、って顔に書いてあるよ」
    「き、着るもの、持って、ない、から」
    「そのままで大丈夫」
    「いきなりは、こ、心の準備、が」
    「もうすっかり準備できてるでしょ?」
    あかん、断れない。
    それに曽爾の言う通りだった。
    あたし、もう縛られるつもりになってる。誘ってもらって、喜んでる。
    真由は深呼吸して応えた。
    「やります。・・どうぞ縛って下さい」

    真由と曽爾の回りに皆が輪になって座った。
    「・・吊るされたい?」
    「吊るされたい、です」
    「じゃあ、手を後ろに回して」
    曽爾は麻縄の束を丁寧に解くと、真由を縛り始めた。

    13.津田のメール
    その夜、真由は部屋でまんじりともせずに過ごした。
    曽爾の緊縛は、優しくて細かい気配りが溢れていた。
    女性に苦痛を感じさせないように、そして女性からあらゆる自由を奪い去るように工夫された縄だった。
    吊り上げられた瞬間から、真由には自分がどう扱われているのか何も分からなくなった。
    ふわふわした浮遊感の中で、ただ自分の心臓と子宮がきゅんきゅん鳴っていることだけが理解できた。
    ふと意識が戻ると、いつの間にか縄から解放されて床に寝ていた。
    動けるはずなのに、動けなかった。
    どろりとした快感が、真由を捕らえて離さなかった。
    縄酔いだと教えてもらった。

    スマホを出して画面を見る。
    撮影した写真を智佐子が送ってくれたのだった。
    画面の中に、紺のチュニックにワイン色のレギンズを穿いた真由が、横吊りになって宙に浮んでいた。
    両腕は背中で固定され、二本の足はそれぞれ膝で折られ、太ももで縛られている。
    自分を吊り下げる縄は背中やお腹、腰から太もも、膝に掛かっていて、天井の滑車から下がった金属のフックに繋がっていた。
    あたしはこんな風に縛られていたのか。

    ・・あたし、とうとう昂輝以外の男の人から縛られた。
    少し迷ったけれど、津田に知らせることにした。
    『洛上高で一緒だった曽爾くんが緊縛研究会をやってて、誘われてます。
    見学に行って、一度だけ縛ってもらいました。続けても、いいかな?』
    メールに写真を添付する。
    ピ。送信した。
    彼は見てくれるだろうか。
    自分の緊縛写真を。初めて津田以外の男性に縛られた緊縛を。

    ・・ああ。また、たまらなくなってきた。
    真由は下着を下ろすと、ベッドに横たわり股間に指を挿し入れた。
    くちゅ、くちゅ。
    すっかり濡れていて、音が聞こえそうだった。
    くちゅ、くちゅ。
    想像の中で、真由は縄に捕らわれていた。
    手足を縛られて、何もできない。
    何もできないまま吊り上げられて、振り子のようにゆらゆら揺れている。
    「あぁ」
    声が出た。
    「はぁ・・ん」
    我慢できない。
    クリトリスを摘む指に力が入った。
    「ああぁ・・んっ」

    その瞬間だった。
    スマホからメッセージ受信のサウンドが流れた。このサウンドは、昂輝!!
    跳ね上がってスマホを掴む。
    その指が自分の愛液にまみれているのに気付いて、慌ててティッシュで拭いた。
    津田からのメールはとても短かった。
    『メールできなくてゴメン。写真、綺麗やった』

    こちらから送信してから、ほんの5分ほどの間の返信だった。
    あいつ、あたしがオナニーしてる間に、写真を見てくれんのか。
    どきどきした。綺麗って言ってくれた。
    あたしの縛られた写真、綺麗って言ってくれた!!

    真由はぶるぶる身を震わせた。
    頭の中で津田の姿がぐるぐる回っていた。
    あぁ・・、昂輝に抱かれたい。縛られたい。
    無茶苦茶にされたいよ。
    ベッドに倒れこんで、再びオナニーをした。
    津田が真由を縛る。曽爾が真由を縛る。二つのイメージが交互に浮かんでは消えた。
    一度小さくイッて、物足りなくてまたイッた。
    何度も、何度も、自分を慰め続けた。

    朝になって津田にメールを送った。
    ・・恥ずかしい写真を送って悪かったこと。
    ・・返事をもらえて嬉しいこと。
    ・・同窓会と曽爾の緊縛研究会のこと。
    ・・研究会では縛られるだけで、それ以上の個人的な関係は誰とも持っていないこと。
    ・・帰国の予定はどうなったの?
    いっぱい書いて送った。
    津田からの返信は、なかった。

    14.参加
    真由は緊縛研究会の正式なメンバーになって、毎月参加するようになった。
    いつも明るくて和気あいあいとした雰囲気だった。

    男性メンバーには緊縛歴10年のベテランから最近勉強を始めたばかりの初心者までいた。
    どの人も女性に対してとても紳士的だった。
    緊縛の最中は女を容赦なくモノのように縛り上げたとしても、縄を解いた後はとても優しく気遣ってくれた。
    女性の中には、そんな男性に惹かれて結婚までした人もいるという。

    そして女性メンバーは、それぞれ縛られるための衣装を用意していた。
    わざわざ着替えなければならないルールはないけれど、日常とは違う格好になるのが嬉しいのである。
    前回の見学で、聡美が着けていたTバックの下着がそうだった。
    聡美に聞いたら、家では子供もいるし、あんな下着は恥ずかしくてとても着れないと笑っていた。
    あれは聡美にとって、縛られるときだけの特別な衣装なのだ。
    真由も、自分の服を選ぼうと思った。
    身体の動きを妨げず、縛り手さんが縛りやすい服装。そして皆に喜んでもらえるセクシーで可愛い服装。
    いろいろなショップも巡って悩んだあげく、選んだのはタンスに入ってた水色の浴衣だった。
    津田と一緒に何度か夏祭りに行ったときに着たものである。

    15.智佐子の聡美緊縛
    縛り手とモデルの回りをギャラリーが囲んでいた。
    縛り手は女性。そしてギャラリーも真由を含めて女性ばかりだった。
    緊縛研究会には女性の縛り手が何人かいる。
    智佐子はその一人で、彼女は夫の曽爾の指南を受けて相当な緊縛術をマスターしていた。

    モデルは聡美である。
    この日はこげ茶色のキャミソールにショーツ。
    ショーツは相変わらずTバックだし、キャミソールにはうっすら乳首が透けている。
    「色っぽぉい」
    誰かがとつぶやいた。
    女ばかりだからそれで喜ぶ者はいないけど、聡美の覚悟は皆に伝わったのだった。

    智佐子が聡美の後ろに立った。
    微笑みながら手を回して乳房を揉む。
    「あ、」
    聡美が小さな声を上げた。
    ここ緊縛研究会において縛り手が男性である場合、縄も掛けないうちの性的な愛撫は、決して褒められることではない。
    主宰者である曽爾のストイックな緊縛への思いが、下品な行為を許さないのである。
    しかし縛り手が女性である場合は自由だった。
    縛り手と受け手がディープキスをしたり、性器に指を入れる行為すら黙認されているのである。

    智佐子は執拗に聡美の胸を揉んだ。
    やがて聡美の膝が揺れ始める。
    「あら、もう膝が立たないの? まだ縛ってもいないのに」
    「そ、そんな。・・ひどい、です、先生」
    「あら。ずいぶん昔のことよ、先生だなんて」
    「で、でも、先生。・・あぁん!!」
    智佐子が聡美の乳首を摘んだのである。

    崩れ降ちそうになる聡美の脇を支え、そのまま床に正座させた。
    それから縄束を解き、両手を後ろに回させた。
    「はぁ・・っ」
    聡美の腕に麻縄が食い込む。
    「そんなに先生って呼びたいのなら、昔のことを思い出しましょうか。副委員長の渡辺さん?」
    智佐子は笑いながら聡美を縛り上げて行く。

    え? 先生って何? 渡辺って、志賀さんの旧姓?
    智佐子の前歴を知らない者たちが、ささやき合っている。

    「渡辺さん。高校生なのに、縛られてクラスの天井から吊られてたわねぇ。真っ赤な顔になって、はぁはぁ喘ぎながら」
    「いやぁっ、先生。・・そ、そんな言い方」
    「あなた、いつ自分がマゾって、気付いたの?」
    「あ・・、そ、そのときです」
    「そのとき、あなたを縛ったのは?」
    「はぁ・・ん! し、志賀です。夫、です」
    「そう、志賀くん」

    皆が一斉に部屋の反対側を見た。
    そこでは、聡美の夫の志賀が見られていることに気付かず、別のモデルを縛っていた。
    智佐子は聡美の左の膝に縄を縛りつけ、その反対側を頭上の金輪に通した。

    「嬉しいわ。担任した生徒が幸せになってくれて」
    「ああっ!!!」

    金輪から下がった縄を自分の腕に巻き、そのまま軽くジャンプして体重を掛けた。
    聡美の身体はふわりと浮かび、頭を斜め下に向けて宙吊りになった。
    うわぁ~。
    ギャラリーから一斉に声が上がる。
    智佐子は引き下げた縄を聡美の背中に繋いで、そのまま空中に固定した。

    真由は智佐子のパフォーマンスに驚いていた。
    女でもこんなことができるのか。
    吊り上げられた聡美は決して小柄な方ではない。
    それをあんなに軽々と。
    ・・先生、すごい。
    高校時代、真面目でどちらかというと堅物だった、国語教師の智佐子を思い出した。
    あの先生がこんなに変わるなんて。

    16.智佐子の真由緊縛
    「智佐子さん、ノってますね~」
    ギャラリーから声が掛かった。
    「そうかも。・・もう一人、犠牲になってもらおうかな」
    きゃあ~!! 女性たちが歓声を上げる。
    智佐子が笑いながら、その中の一人を見た。
    真由だった。
    ・・ああ、やっぱり。
    真由は立ち上がる。
    先生が自分を選んでくれた。恥ずかしくて、少し嬉しかった。

    先に縛った聡美を吊るしたまま、浴衣姿の真由の緊縛が始まった。
    後ろ手に組んだ腕を麻縄で縛られる。
    「江口さんは、幸せになった?」
    え?
    真由は少し固まる。振り返って智佐子の顔を見る勇気はなかった。
    「津田くんだっけ。・・あなたのお相手は」
    「あ、はい」
    「仲よかったわねぇ。まだお付き合いしてるの?」
    「はい。・・でも」
    「でも?」
    「仕事でブラジルに行ってて」
    「あら、超遠距離恋愛?」
    「そ、そんないいモノやないです。もうしばらく会えてなくて、連絡もなくて」
    「会えなくなって長いの?」
    「・・2年」
    「私、もしかしてヤなこと聞いちゃったかな」
    「いえ」
    智佐子の両手が後ろから伸びて、ぎゅっと抱きしめられた。
    「・・ごめんね、江口さん」
    耳元で囁かれた。
    「ほんの短い間だけど、辛いことは忘れさせてあげるわ」

    浴衣の上から麻縄が食い込んでいた。
    両腕は背中で固められて動かなかった。
    両足も膝と足首で縛られて動かせない。
    「はぁ・・」
    浴衣の裾が捲くられて、太ももが根本まで露わにされる。
    その間に智佐子の指が差し込まれた。
    「やぁ、そ・・、せんせ」
    下着の間から侵入された。そのまま柔らかくまさぐられる。
    女の仕組みを知っている女の指。
    「あぁ・・ん」
    「もう準備ばっちりねぇ」
    胸元にも指が入ってきた。乳首を摘まれた。
    「はん!!」
    上と下。交互に責められる。
    真由は身を捩じらせてもがいた。

    ぐいんっ。
    自分の身体が持ち上げられたと思うと、世界が上下逆になった。
    吊り上げられたのだ。
    十分に刺激された乳首と性器がじんじん熱かった。
    真由はそのまま空中でがくがく震えた。
    何をする自由もなかった。
    ただ、自分を締め上げる縄の感覚だけがあった。
    あ、
    あぁっ、
    あああっ!!
    ・・真由は初めて、緊縛だけで絶頂を迎えた。

    目を開けると、真由は縛られて吊られたままだった。
    まだ性感が消えずに残っている。
    相変わらず何の自由もなかったけれど、それがとても嬉しかった。
    すぐ隣に聡美が吊られていた。
    彼女も縛られたままでイッたらしく、とろんとした顔をしていた。
    お互い相手に気付いて微笑み合った。

    17.発表会への参加
    ある日の研究会で曽爾から発表があった。
    キョートサプライズ(KS)の公演会で緊縛を発表することになったという。
    KSは緊縛研究会が毎月の集会の部屋を借りているイベント会社である。
    イベント企画と女性コンパニオンの派遣が主な事業だが、年に数回マジックイリュージョンなどの公演もしている。
    曽爾はその公演会に呼ばれて、緊縛ショーをすることになったのだ。

    「・・18才以上限定の大人向けイベントです。大人向けといっても、女性の裸で惑わすような演出はしません。我々はあくまで緊縛を実演します。それで、」
    曽爾はメンバーの前で説明した。
    「この中から女性三名、モデルとして一緒に出演して欲しい。勝手ながら独断で決めさせてもらいました」
    曽爾は真由の顔を見た。その目が笑っている。
    「まず智佐子。大和田新菜(にいな)さん、それから江口真由さん」
    ええ~!?
    「よろしくお願いします。・・他の方も都合がつく限り、どうぞ見に来て下さい」

    大和田新菜は、真由が見学にきたときメイド服で縛られていた20才の女の子である。
    小柄で軽い上に身体が柔らかいので、研究会ではいつも厳しいポーズで吊られていた。
    新菜ちゃんなら、真由にも納得だった。
    可愛いし、堂々としてるし、舞台で縛られるのに向いてる。
    でも、何であたし?
    他にもっと綺麗な人が何人もいるのに。

    次の週、女性3人はショーの衣装を合わせた。
    智佐子と新菜はノースリーブのチャイナドレス。片側に入ったスリットが腰まで割れている。
    色は智佐子が赤、新菜は紺。
    そして真由の衣装は、何と白いビキニだった。
    トップスはホルターネックに小さな襟がついていて可愛いと思ったけれど、ボトムは極小サイズでお尻の部分は紐が通るだけ。Tバックどころではない。
    「こ、こんなの、着れませんっ」
    真由はあてがわれたビキニを手に持って訴えた。
    女の裸で惑わさないって言ってたでしょぉ?
    こんなん、縛られるより恥ずかしいやん!!

    「抗弁は却下します」
    智佐子が言った。
    「うちのダンナが言ったように私たちは緊縛を表現するのが目的よ。でもやっぱり最低限の演出は必要でしょ? 覚悟して頑張ってちょうだい」
    「そんなぁ」
    「それに、あなたには大切な役目があるから。江口さん」
    「役目?」
    「あ・・、まあ、それはともかく、できるだけセクシーでいて欲しいの」
    「でも」
    「でももへちまもありません」
    ぴしゃりと言われた。まるで教師時代のようだった。
    「水分とお野菜をたくさん採って、お通じと肌ツヤを良くしておくのよ。・・それから」
    楽しそうに言った。
    「下のお手入れも忘れずにね!」
    「?」

    その夜、真由は自分の部屋で、ビキニを着けて鏡で確認した。
    うぅ。ダイエットしなきゃ。
    それにしても、このパンツ。やっぱり小さすぎる。
    ・・完全にはみ出してるやんか。
    真由は決してアンダーヘアが多い方ではないが、それでもこの極小サイズの布地には覆いきれなかった。
    智佐子に言われた『下のお手入れ』の意味を理解した。
    エチケット剃刀で回りを剃った。
    ビキニを穿いて、鏡の前でいろいろポーズをとって確認する。
    あかん。ちょっと剃ったくらいやったら、盛り上がって横から見える。
    思い切って全部剃り落とした。
    幼女のようにつるつるになった部分を撫でていると、変な気分になってきた。
    我慢できなくなって、そのままオナニーをした。

    続き




    キョートサプライズ セカンド・特別編2(4/5) セピア色のフォトグラフ

    18.その朝
    真由は10日間で体重を3キロ落とした。
    体重計の上でガッツポーズをする。
    リバウンドが怖いけれど、まずはショーを乗り切ればいい。
    栄養にも気を遣って、毎日排便を心掛けた。ほら、肌の色もツヤも十分でしょ?
    緊縛、ど~んと来いっ。
    真由は一人でおどけてくすくす笑った。
    いよいよ今日、緊縛ショーに出演するのだ。

    引き出しを開けて、写真を出した。
    文化祭の緊縛ゾンビ。その隣に津田。
    一度切り離して、テープで張った、セピア色の写真。
    ・・昂輝、あたしを守ってね。
    真由はその写真をバッグに入れ、部屋を出て行った。

    19.KS公演会
    公演会の会場は、京都市内の繁華街の外れにあるクラブだった。
    半地下にあるフロアは、古びてあちこち黒光りしていた。
    築35年になるというそのクラブは、まもなく取り壊される予定だった。

    曽爾と真由たちが揃って会場に入ると、バニーガールが席に案内してくれた。
    場内にはバニーが何人もいて、飲み物などのサービスをしていた。
    どの子も見たところ20才前後。その美しさとセクシーさに目を奪われる。
    こんなに若くて可愛い子がいるのに、私がビキニなんて。
    真由は自分と比べて再び落ち込みかける。
    と、智佐子にどんと背中を叩かれた。
    「私たちは自分のすることを堂々とすればいいの。楽しみましょ」

    まもなく会場が暗くなって、ダンスとイリュージョンのショーが始まった。
    真由はテレビなどでイリュージョンは知っていたけれど、直接見るのは初めてだった。
    何もない箱から女性が登場したり、その女性の胴体を二つに切断したり、さらには鞄の中に隠れた女性が跡形もなく消えてしまったり。
    目の前で演じられるイリュージョンは迫力があった。
    それにテレビなら映像でごまかされているような感じもしたけれど、実際に見ると、どうしてこんなことができるのか不思議で仕方なかった。

    「えええ? どうなってるの?」
    真由が叫んだのは、女の子を閉じ込めたダンボール箱に、金属のサーベルを突き刺すイリュージョンだった。
    サーベルが何十本も突き通された箱の中から、女の子が手を出して振ったのである。
    「あの箱、本当に人が入ってんですか!?」
    「本当に入ってるよ」曽爾が笑いながら教えてくれた。
    「あれは、女性が命がけで頑張るイリュージョンなんだ」
    ええ!!
    真由は箱の中の女の子がどうなっているの想像する。
    まさか、本当に突き刺されて、それでも頑張って手を振ってるの???
    やがてサーベルが抜き取られてて、箱から女の子が再び現れた。
    箱に入る前はミニスカートの衣装だったのに、今は生足のレオタード姿に変わっていた。
    「よかったぁ」真由は思わずつぶやいた。
    「何がよかったの?」曽爾が聞いた。
    「ほら。あの人の足。どこにも刺さった痕がないから」
    「ぷっ」
    「何がおかしいんですか」
    「いや、江口さんみたいなお客さんばかりなら、演じる方もやりがいがあるだろうなって」
    「ああ~っ、もしかしてバカにしてます?」

    曽爾はタネを教えてくれた。
    ダンボールの剣刺しに特別な仕掛けはなくて、中の女性は突き刺される剣を巧みに避けているである。
    「・・剣を刺すマジシャンと呼吸を合わさないと駄目なんだ。間違えると本当に怪我をするからね」
    そうかー。
    でも、すごいなぁ。確かに命がけ。

    「曽爾さん、どうしてそんなに詳しいの? イリュージョンのこと」
    「ああ、僕,KSで緊縛を教えてもらったから、その間にイリュージョンのことも覚えたんだ」
    「そうやったんですか」
    「僕ら、文化祭のときもKSには世話になってるんだよ。ほら、江口さんも覚えてないかな? あの縄師さん、KSから来てくれたんだよ」
    そうやったっ、ようやく思い出した。
    あのとき、キョートサプライズって名前、聞いていた。
    真由は納得する。
    そうかそうか。だから緊縛でイリュージョン。
    ・・あれ?

    「ねぇ、イリュージョンと緊縛って、関係あるんですか?」
    「あるんだ、KSでは」
    「??」
    「そのうち出てくるんじゃないかな」

    20.エスケープ
    次の演目が始まった。
    二人組の女性が登場した。一人は白いスーツ。もう一人は黒いビキニ。
    ビキニの女性は肌が白く、胸も大きくて、なかなかのナイスバディである。
    白いスーツの女性が縄でビキニの女性を縛り始めた。

    高手小手!
    真由はすぐに分かった。
    ああ、あんなにきつく。肌に食い込んで・・。
    巨乳が縄で締められていっそう盛り上がった。
    ビキニの女性は腕、膝、足首を縛られ、そのまま足首にフックを掛けて天井から逆さ吊りにされた。
    そして背中を押されて、振り子のように揺らされた。
    本格的な緊縛だった。
    さっき、曽爾が、KSではイリュージョンと緊縛は関係すると言ったのはこのことだろうか。

    スーツの女性は退場して、観客の前には揺れ続ける逆さ吊りの女性だけ。
    彼女を吊るすロープが長いのだろうか。
    その振動は大きく、ゆっくりだった。

    5分過ぎた。
    ステージは何も変化がない。ビキニの女性が吊られているだけである。
    客席も静かだった。皆、静かにステージを見ている。
    いったい・・。
    不思議だったけれど、真由も黙って見上げた。
    あの人、まるで生贄にされる処女。
    ああ~っ、何考えてるんや、あたし。

    さらに5分過ぎた。
    逆さ吊りの女性の身体がぶるぶる震えた。
    おお~。客席から声が上がる。
    女性の腕を縛る縄が緩んで、床に落ちたのだ。
    ビキニの女性はロープエスケープを演じたのである。
    エスケープはイリュージョンではないが、熟達した演者によるパフォーマンスなのだ。
    上半身が自由になった彼女は、手を伸ばして自分で膝と足首の縄を解いた。
    スーツの女性が彼女が床に降り立つのを助ける。
    大きな拍手。
    真由も感激してぱちぱちと拍手をした。

    「・・そろそろ準備しましょか。出番よ」
    智佐子が声をかけた。
    ステージに見とれていた真由ははっとする。
    いよいよ、なのね。

    21.緊縛ステージ
    智佐子、新菜、真由の3人は更衣室で着替えさせてもらった。
    智佐子と新菜は赤と紺のチャイナドレス。
    そして真由は白いビキニ。その上にガウンを羽織る。

    ステージの脇に行くと曽爾が挨拶をしていた。
    招待していただいたお礼。曽爾とKSの関わり。出演者の紹介。
    そして。
    智佐子が真由の背に手を当てた。
    真由は頷き、二人でステージに歩み出た。

    ガウンが剥ぎ取られ、真由の身体が露わになった。
    一瞬、全身に浴びる視線をちくちくと感じた。
    でも、それ以上のことは何も考えなかった。
    智佐子が真由の腕を後ろに捻り上げる。
    その後、真由の意識は智佐子が振るう縄だけになった。

    きゅ、きゅ。
    縄が締まるたび、結び目がひとつ増えるたび、真由の身体と心は拘束されて行く。
    全身のあらゆる箇所に縄が絡みつき、締め上げていた。
    この被虐感。
    許されているのは、ただ喘ぐこと、苦しむこと。

    ふわり。
    爪先が床を離れて浮かびあがった。
    2メートルほどの高さに竹竿が渡されていて、真由はその下に横吊りにされたのである。
    胸、腹、腰、太もも、脛。
    智佐子はわざと柔らかい箇所を狙って縄を掛けている。
    その方が肌に縄が食い込んで美しいから。女体を苦しめて綺麗だから。
    「あぁ~・・・っ!」
    無意識に声が出た。
    智佐子はその口に白布を丸めて押し込み、上から縄で猿轡をして真由が叫べないようにした。

    観客は智佐子の緊縛の手早さに驚いた。
    曽爾の手ほどきで勉強した智佐子は、もう立派な一人前の女性縄師になっていた。

    22.三連縛オブジェ
    曽爾が新菜を縛り始めた。
    背中で手のひらを合わせさせて、その手首を縛り、上の方に吊り上げて固定した。
    後ろ合掌縛りである。指先はほとんど首の高さまで来ている。
    身体の柔らかい新菜だから可能な緊縛だった。
    床にうつ伏せに寝かせ、膝と足首を縛って逆海老にさせて、ホッグタイの形にした。
    チャイナドレスのスリットが割れ太もものつけ根まで大きく露出している。
    真由を縛り終えた智佐子も手伝って、新菜の口に縄を噛ませ、足首まで引いて首を反らせた。

    ふぅ!
    曽爾と智佐子は互いに微笑み合うと、手を取って並び、客席に向って頭を下げた。
    一斉に起こる拍手。

    ショーはこれで終わりでななかった。
    曽爾が新しい縄束を出した。
    そして智佐子を縛り始めたのである。

    まず智佐子の手首を前で合わせて縛り、それを頭上に吊り上げて直立させた。
    そうしておいて、肘から二の腕、脇、胸から腹まで、5センチ刻みで丁寧に縄を巻いて縛っていった。
    下半身はチャイナドレスの裾を股の間に挟ませてスリット側の足が完全に露出するようにしてから、やはり5センチ刻みに縄を巻いて固定した。
    二の腕の位置の縄は顔面まで覆って縛っているから、彼女の表情を見ることもできなくなっている。

    曽爾は智佐子の手首を吊る縄を緩めて、ぐいと横に引いた。
    智佐子の身体は一本の棒のようになってゆっくり倒れる。
    完全に倒れて床に転倒する前に曽爾が両手で受けて支えた。
    そのまま横抱きに立ち上がってお辞儀をする。
    再び拍手。

    真由を横吊りにした竹竿の下に行くと、千沙子の手首と足首に縄を縛って、それぞれの反対側を竹竿の両端に繋いだ。
    智佐子は手首と足首だけで吊られ、横吊りの真由の下で、さらに弓なりになって浮かんでいる。
    相当に苦しい体勢のはずだ。
    曽爾はそんな智佐子の前に立つと、腰によじ登って跨ってしまった。
    きゃあっ・・。客席の女性が何人か悲鳴を上げた。
    智佐子の腰が大きく沈み込んだ。苦しさが激痛に変わったはずである。
    もちろん彼女に逃れる術はない。ただ首をわずかに振ってもがくだけだった。
    手首と足首は耐えられるのだろうか?
    つい先ほど真由を見事に縛った智佐子が、今度は無残に縛られ苦しんでいる。
    凄腕の縄師としての智佐子。ハードな責めを受ける被縛モデルとしての智佐子。
    観客はその両方の姿を見せつけられたのだった。

    やがて曽爾は智佐子の腰から降りて、何か合図をした。
    真由と智佐子を吊るす竹竿がさらに1メートルほど上昇した。
    それを確認すると、曽爾は次に床に転がしたままにしていた新菜の元に行った。
    背中の縄を両手で握って持ち上げる。
    小柄な新菜の身体が逆海老になって浮かび上がった。
    それを智佐子の下に運び、智佐子の腰に繋いでぶら下げた。
    「んんん!!」
    智佐子がうめいた。
    彼女には再び激痛が走ったはずである。
    曽爾は逆海老になった新菜の身体を回して、彼女を吊るす縄を捩れさせた。
    手を話すと、縄の捩れが戻るのに合わせ、新菜が逆向きにコマのように回転する。
    回転が止まるまでしばらく放置した。

    その後、曽爾は真由の身体と智佐子の身体を新しい縄で繋ぎ合わせた。
    その位置は、真由の胸、腹、腰、太ももの4箇所である。
    智佐子の身体は弓なりに撓ったままだが、不安定だった体勢が安定した。
    彼女の手首と足首だけにかかっていた新菜の体重がようやく分散されたことになる。

    曽爾が深く頭を下げた。
    女体三体を使った緊縛オブジェの完成である。
    一番上の竹竿から、一番下で逆海老に反った新菜の腹までは約2メートルになる大掛かりな作品だった。
    一斉に大きな拍手が起こった。

    23.展示
    休憩時間になった。
    緊縛オブジェはそのまま展示され、写真撮影は禁止されたものの、自由に近づいて見れるようにされた。

    真由は陶然としていた。
    あたし、緊縛されて飾られてる。
    猿轡をされた顔、後ろ手に捻られた腕、縄が食い込んだ太もも、小っちゃなビキニで少し覆っただけのあそこ。
    全部見られてる。何もかも見られてる。

    曽爾が真由と智佐子の間を縄で繋いだので、真由には智佐子とその下の新菜の体重がかかっていた。
    わずかに痛みを感じる。
    これは智佐子さんと新菜ちゃんを支える痛み。
    でも下の二人と比べたら自分の苦痛など大したことはないと思った。

    智佐子は自分をこんなに緊縛して、そして今度は曽爾に緊縛されて自分の下に吊られているのだ。
    すごい人やな。
    昔、自分の担任だった人。今は緊縛する人で、緊縛される人。
    顔面を縄で覆われているので、智佐子の表情は分からない。
    ただ、彼女の息遣いだけが伝わってくる。
    辛そうで、気持ちよさそうだった。

    あたしも、感じてる。もう、エロエロに感じまくってる。
    ああ、智佐子さん、素敵。新菜ちゃんも素敵。
    みんな、ものすごく綺麗で可哀想。
    女に生まれて、良かったな。

    24.曽爾のイリュージョン
    横にいた曽爾がフロアの入口の方へ走っていった。
    誰かが入ってきたようだった。
    スーツを着た男性が曽爾と握手している。
    ・・あれ?
    あの背格好。あの横顔。
    ・・もしかして、昂輝?
    昂輝!

    客席の照明が暗くなった。休憩時間が終わったのだ。
    ああっ。見えへん!!
    昂輝!!

    曽爾がステージに戻ってきた。
    「・・では、彼女たちを解放します」
    一番に下に吊られている新菜が、床に下ろされた。
    続いて、智佐子。
    どちらも縄をたくさん使っているので、時間がかかるようだった。
    真由も、ただ自分の解放を待つしかない。
    ねぇ、昂輝っ。客席にいるの?

    新菜と智佐子は完全に解放された。
    互いに肩を支え合ってふらつきながらも、、客席に向ってお辞儀をした。
    真由は竹竿の下に横吊りになったままである。
    曽爾はステージの裾から、大きなテーブルを押してきて、真由の真下に置いた。
    ベッドのように細長いテーブルで、上に棺桶のような木箱が載っている。

    曽爾が話し始めた。
    「さぁて、私はイリュージョニストではありませんけど、KSで勉強したトリックを披露したいと思います」
    観客が喜んで拍手をする。
    いったい何を言ってるの? 真由には訳が分からない。
    自分は相変わらず竹竿の下に吊られたままなのだ。
    「・・ここに緊縛されている彼女を消します」
    ええ!!??

    竹竿がゆっくり降下した。
    真由も下がって曽爾が押してきたテーブルの木箱の10センチほど上に静止した。
    曽爾は大きなアーミーナイフを出すと、竹竿から真由を吊るす縄を一本ずつ切り始めた。
    縄が一本切れるたび、真由の身体は少しずつ落ち込んで行く。
    脛、腹、腰、太もも。最後に胸。
    真由は箱の中に落ちた。
    落下の距離はわずかだし、箱の底は柔らかいクッションのようになっていて、少しも痛くなかった。

    ただ、縄を解いてもらうのではなく、ナイフで切られて落ちたのは、ちょっとショックだった。
    まるでお肉の塊みたいやんっ。
    こんな扱いされたら、もう、あたし、ますますエロエロになるやんか~!!

    曽爾はテーブルの後ろに立つと、木箱を斜めに持ち上げて観客に中を見せた。
    木箱の中には、がんじがらめに縛られ、猿轡をされた真由が入っていた。
    その目は、困惑と不安でいっぱいである。

    曽爾は木製の蓋を持ってきて箱に被せた。
    蓋の周囲をカンヌキで固定し、南京錠を掛けた。
    「一人で全部やるのは大変・・」
    軽口を叩きながら、箱の四隅についているフックにそれぞれ縄を繋いだ。
    その縄の反対側を頭上に渡されたままの竹竿に縛り付けた。

    合図をすると竹竿が再び上昇し、それに合わせて木箱も浮かび上がった。
    曽爾はテーブルを押してステージ脇に片付けた。
    空中に浮ぶ木箱の後ろに立つ。
    木箱はゆらゆらと揺れていた。
    「さあて、生まれて初めてのイリュージョン、成功するでしょうか」
    木箱の底に手を当ててゆっくりカウントする。
    「ワン、ツー、スリー!!」

    箱の底が割れて開いた。
    底に敷かれていたクッションがばさりと落下する。
    しかし、一緒に入っていたはずの真由は落ちてこなかった。
    曽爾は箱の中に両手を差し上げて、中が空であることをアピールする。
    わ~!!
    客席から大きな拍手が起こった。

    ・・さぁて、この先はお二人次第。
    曽爾は頭を下げながら、つぶやいた。

    続き




    キョートサプライズ セカンド・特別編2(5/5) セピア色のフォトグラフ

    25.再会
    木箱の外でがさがさと音がした。
    カチャカチャと鍵を開ける音。
    箱と蓋の隙間から光が差し込んだ。
    ・・眩しい!
    思わず目を閉じる。

    どれくらいの時間、閉じ込められていたのだろうか。
    真っ暗な箱な中で完全拘束。
    何も見えない、聞こえない。何の自由もない。
    最初は恍惚となった。
    ふわふわしたクッションのおかげで、背中で固定された腕も痛くなかった。
    誘拐されたみたいなシチュエーション。
    この、ぞくぞくする被虐感。

    やがて暑さと閉塞感にさいなまれる。
    口の詰め布と猿轡のせいで、十分な呼吸もままならない。
    いったい、いつになったら出してもらえるのか。
    あかん、もう限界!!
    そう思ったところで、箱の蓋が開いたのだった。

    「すごい格好やな」
    !!!
    「んんんっ!!(昂輝っ!!)」
    「もしかして、今、俺の名前呼んだ?」
    「ん~!!!」

    目の前に津田がいた。真由を見下ろして笑っている。
    最後に会ったときより、ずっと日に焼けて逞しくなっていた。
    「んんんっ、んんんっ!!(昂輝っ、昂輝っ!!)」
    津田は真由を木箱から出して、縄と猿轡を解いてくれた。
    「ああああああっ!!!」
    真由は大声で泣きながら津田に抱きついた。
    泣くだけ泣いてから、二人はキスをした。

    ・・いつ帰ってきたの?
    ・・今日。ホンマはお前のショー、最初から見るつもりやったけど、飛行機が遅れて。
    ・・何でショーのこと知ってるの。
    ・・緊縛研究会に行ったって、知らせてくれたやろ。何してるのか曽爾に尋ねたんや。そしたら、発表会で真由を縛ってくれる、ゆうことになって。
    ・・曽爾くんも共犯やったのか。
    ・・アイツよりも、アイツのヨメはんの方が心配してくれてたらしいで、俺らのこと。
    ・・篠田先生が?
    ・・お前、先生の前で俺のこと、ぼやいたやろ。真由のこと大事にせえ、ゆうてメールで怒られた。
    ・・そうか。なら、このイリュージョンも、最初から昂輝と会わせてくれるため?
    ・・そうや。お前をここまで運ぶの、大変やってんで。トラックで来たけど、渋滞で。
    ・・ここは?
    ・・キョートサプライズっていうビル。この部屋、誰ものぞいたりせえへんから、何しても構へんでって。
    ・・あほ。

    真由は笑った。
    コイツ、逞しくなっても、中身は変わってない。

    ・・それにしてもお前、変わったなぁ。
    ・・そうかな? あたしはあたしのままやで。
    ・・そやかて、お前がそんな格好するやてなぁ。興奮するわ。そんなパンツ穿いて、その縄の痕も。
    ・・わぁ~っ、そんなスケベな顔して見るなぁ。

    真由はわめきながら、津田の目から逃れようとする。
    確かに、今、自分はすごい状態だった。
    極小のビキニパンツ。全身に刻み込まれた縄目。
    津田が喜ぶのは当然だった。

    「な、せっかくやし写真撮らせて」津田は自分のスマホを出して構えた。
    「きゃ、あほ! あかん~っ」強引にポーズをとらされて写真に撮られてしまった。
    「むふふふふ」
    津田はスマホの画面を見ながらご満悦である。
    そこには、真っ赤な顔をして、片手を頭の後ろに、もう一方の手を腰にあてた真由のビキニ画像が表示されていた。
    「すぐに消すんやで!!」
    「まぁまぁ。・・そや」
    津田は胸のポケットから写真を出した。
    「これ、お前の鞄からこぼれたんやけど、真由、こんなん持ち歩いてるんか」

    あ、それ。
    真ん中をテープで繋ぎ合せた写真だった。
    一度破いて、テープで貼った、セピア色の写真。

    「何で貼り合わせてんねん」
    「昂輝のこと、キライになったから」
    「ええっ!!」
    「ウソ。キライになんかなってないよ。・・それはちょっとした事故で切れただけ」
    「そうなんか?」

    二人は黙って写真を見た。
    やがて津田がぽつりと言った。

    「ええ顔で笑ってるなぁ」
    「うん」
    「これからも、笑いながらやっていきたいな」
    「うん!」

    26.指輪、そして縄
    津田はポケットから小さな箱を出した。
    「渡すモンがある」
    「?」
    「俺ら、もうすぐ29や」

    そうか。この間28かと思たら、もう29才か。
    あの同窓会から、もう1年。
    真由は津田に渡された箱を開けた。
    それは指輪だった。

    「長いこと待ってもろたな。俺の相手はお前しかおらんって言うてから」
    「・・」
    「結婚してくれるか」
    「・・・」
    「わぁっ、お前っ。どないしたんや!?」
    真由の目に、涙がぼろぼろ流れ出したのである。
    「お、お前、ずっと縛られてて、具合悪うなったんとちゃうか!?」
    「うるさい! 昂輝っ。ちょっとくらい乙女の気持ちを理解せぇ~っ」

    やがて、二人はもう一度抱き合って、キスをした。
    さっきよりも、ずっと深くて長いキスだった。

    「あのね、変なこと言うけど、軽蔑しないでね」
    「せぇへんよ」
    「あたし、また昂輝に縛られたいって、ずっと望んでた」
    「へ?」
    「もし昂輝の奥さんになれたら、いつも息もできないくらいに緊縛して欲しいって思ってた」
    「お前、」
    「あ~、軽蔑してるぅっ。マゾ女が恥ずかしいの我慢して告白してるのにぃ~!!」
    「ごめん、ちょっと驚いただけや。軽蔑なんて絶対にしてへん」
    「ホント?」
    「ホンマや。・・なら俺も告白する」
    「?」
    「もし、真由と一緒になったら、ずっと緊縛したいって思ってた」
    「昂輝!」
    「そやから心配せんでもええ。俺はマゾの真由のこと、大事に縛る」
    「嘘やないね? どんなに忙しくても、ちゃんと毎日よ?」
    「ま、毎日か? ・・分かったっ。約束する」
    「緊縛の勉強もちゃんとして、もっともっと上手になってね」
    「よっしゃ! 曽爾に習って、俺も縄師と呼ばれる男になるっ」
    「それから、えーっと、どんなに許してって言っても、3回までは縄を解かないで、あたしを十分苦しめること!」
    「お、おおっ」
    「それから、それから・・」

    やがて二人は同時に笑い出した。
    おかしくて仕方なかった。
    ようやく笑い止むと、同じタイミングで言った。
    「縛ってくれる?」「縛らせてくれる?」
    二人は協力して床に落ちた縄を拾って、言った通りのことをした。

    Be Happy !!



    ~登場人物紹介~
    江口真由: 28才 OL。本話主人公。津田との超遠距離恋愛に悩む。
    津田昂輝: 28才 真由の恋人。海外赴任中。
    志賀雄二: 28才 会社員。妻の聡美と共に曽爾の緊縛研究会メンバー。
    志賀聡美: 28才 専業主婦。元クラス副委員長。雄二とラブラブ夫婦。
    富沢ほのか: 28才 漫画家。
    曽爾(そに)則之: 28才 学習塾講師。元クラス委員長。プロ縄師を目指す。緊縛研究会主宰。
    曽爾智佐子: 33才 曽爾の妻。元3年4組クラス担任教諭。
    大和田新菜(にいな): 20才。 緊縛研究会最年少メンバー。

    大変長らくお待たせしました。
    久しぶりのキョートサプライズです。
    シリーズで最も未来のお話、そしてKSの現メンバーが誰も登場しないKSですww。
    特別編としましたので、従来の『第0話特別編』は『特別編1』に名目を変更しました。

    今回は難産でした。
    3年4組の生徒達に思い入れがありすぎるせいか、盛り込みたいエピソードが多すぎて、一時収集がつかなくなりました。
    思い切ってばっさり整理しましたが、それでも当ブログ初の5ページ分のボリューム。
    最後までお読みいただいた皆様には感謝申し上げます。

    第8話で活躍した凪元有咲ちゃんと丸尾瞳ちゃんはどうなったのか、と心配になった方もおられるかもしれません。
    全体量の関係で彼女たちの出番はなくなりましたが、二人は元気です。
    同窓会にもちゃんと出席していて、女子グループの中で、けらけら笑っていたはずです。
    KSのEAを続けているのかどうかは、分かりませんけどね。

    ここで、タイトルになり挿絵にも描いた、真由ちゃんと津田くんの写真の元ネタについて記します。
     ”一度破いて、テープで貼った、セピア色の写真”
    松田聖◯さん(伏字の意味なしww)が好きな方なら、これだけで分かりますね。
    このエピソードは彼女の名曲をモチーフにしています。
    80年代、彼女がメジャーになったとき、歌はあまり上手でない(失礼^^)ながら、楽曲の良さ、特にシングルのB面曲やアルバム曲に佳曲が多いことに驚きました。
    これはそんな曲の一つで、確かドラマの挿入歌か何かでした。
    後年、自分でSS/小説を書くようになったとき、この曲をイメージしたお話を書きたいと思うようになりました。
    同窓会のシーンから始まって、参加者の過去を振り返るストーリー。そして、二人の写真を破いて、再びテープで貼り合わせるエピソード。
    しかし、思うことが何でもできるほど、世の中も自分の才能も甘くありません。
    このアイディアは、自分の中で長年抱いたまま、塩漬けになっていたのでした。

    緊縛お化け屋敷を書いたとき、3年4組の彼らと別れるのは惜しい気がして、彼らなら同窓会をやれるではないかと考えました。
    そうして、いつか続編を書くときのために、お話の最後で曽爾くんに緊縛の勉強をしてもらうことにしたのでした。
    こうして本話で長年の構想をようやく実現することができました。
    本話のタイトルにした『セピア色のフォトグラフ』も元々はそのまま『蒼い~』で行くつもりでしたが、検索などにかかるものよろしくないかと直前に変更したのでした。

    実はお話のプロットを作るとき、この曲の歌詞に合わせて、二人を別れさせようかとも思いました。
    そして、いつかどこかの街角でばったり再会して「変わらないね」って言わせる。
    さぞかし甘酸っぱいシーンになったでしょうね。
    ハッピーエンドにしてしまったことを唯一悔む理由です。

    ・・長々と語ってしまいましたね。
    この曲は、YouTube などでもアップされているようですから、ご存知ない方は一度検索して聴いてみて下さい。
    ちなみに作曲者も、おおっと驚く方ですヨ。

    さて次回のキョートサプライズはかねてご案内の通り、最終回となります。
    できるだけ遅れないよう、頑張りたいと思います・・。
    ありがとうございました。




    キョートサプライズ セカンド・第10話(1/3) 魅惑のミュージックビデオ

    1.顔合わせ
    3月のある日。
    撮影スタジオ併設の狭い会議室で、プロデューサーの烏丸(からすま)がメンバーを紹介している。
    「こちら "Shimmer" の畔(ほとり)ちゃん、音々(ねね)ちゃん、想乃(その)ちゃん」
    「おはようございます!」
    畔、音々、想乃が揃って元気に挨拶した。
    "Shimmer" は、アイドルグループを卒業した3人が集まって結成したボーカルグループである。
    抜群の歌唱力とダンス力を活かして、大人向けのポップでちょっとセクシーな楽曲を売りに、テレビよりもインターネット、ライブを中心に活動している。
    ちなみにグループ名の Shimmer は、両側を "(ダブルクォート)で囲んで "Shimmer" と表すのが正式である。

    「彼女は YAYOI ちゃん。今回のMVのモデルを務めてもらいます」
    ベージュのトレーナーにジーンズの少女が立ち上がってぺこりとお辞儀をした。
    着ていたダッフルコートをたたんで両手に持っている。
    ここへは付き添いもなく一人だけで来たらしい。
    化粧は薄め。質素で可愛い。
    まるで地方から出てきたばかりの都会慣れしない高校生のようである。
    緊縛モデルと聞いて、畔たちがイメージしていたのとはずいぶん違う雰囲気だった。

    「最後に縄師の水無月さん」
    大柄な男性が会釈した。
    冬なのに半袖のTシャツとデニムのベスト。ぎらぎら光る金縁のサングラスはいかにも普通でない業界の人だ。

    「あのぉ、おいくつか聞いてもいいですか?」
    リーダーの畔が聞いた。
    「ああ、俺は36です」水無月が返事する。
    「いえ、その、モデルさんの方」
    ・・あたりまえでしょ。誰がおじさんの歳なんて聞くのよ。
    女性たちの顔が語っている。
    「19才です」少女が答えた。
    え? あたし達より六つも年下!?
    皆が驚いた。

    この日は "Shimmer" 12曲目のシングル『ポゼッション』のMV(Music Video)収録だった。
    一緒に暮らす女性からの愛情を拒み続ける男性の歌である。
    このMVでは、"Shimmer" の3人が歌う背景に、緊縛された少女が登場する。
    緊縛とはいっても、女性が見ても綺麗な着衣の緊縛イメージで、少女の顔すらはっきり見せないことになっている。

    今どき、どんなプロモーションでも『セクシー』を前面に出すことは珍しくはない。
    畔たち自身、アイドル時代には露出の大きい衣装やビキニの水着は当たり前だったし、"Shimmer" になった今もそれは変わらない。
    緊縛だって、女性向けファッション雑誌に緊縛写真が掲載される時代だ。
    だから自分たちのMVに緊縛シーンが出ても、それで話題になれるなら、どんどん出して構わないと思っている。
    YAYOI はプロデューサーが探してきた無名のモデルだった。
    前日からスタジオ入りして、単独のシーンはもう撮影を済ませているという。
    多忙な畔たちは、今日1日で歌と踊りのシーンをすべて収録する予定である。

    3人は YAYOI を見て、それから互いに視線を交わして微笑みあう。
    ・・ちょっと楽しみね。
    緊縛がメジャーになったといえ、本当に人間が縛られる現場は初めてである。
    これから自分たちの前でモデルが緊縛されると思うと胸が高鳴った。
    それが年下の可愛い少女であればなおさら。

    2.緊縛撮影
    メイクを終えた YAYOI は白いキャミソールドレスに金髪のウィッグをかぶっている。
    その腕を背中で組ませて、水無月が麻縄で縛り始めた。
    畔たちは興味深々で見物したが、水無月の緊縛はとても速くて何をどうしているのか全然分からなかった。
    ただ、少女の身体に縄が生き物のように絡みついて行く。
    背中で交差した手首の先で、手のひらが不自然に反り返っていた。
    よく見ると左右の親指まで縄で縛られていて、手のひらを動けなくしているのだ。

    YAYOI はモデル慣れしているのか、落ち着いて縄を受けていた。
    スタジオには黒ホリゾントの背景セットの手前に木製の椅子が置いてあって、そこに後ろ手に縛った YAYOI を座らせた。
    椅子の背もたれに背中の縄を連結し、足首も椅子の足に縛り付けた。
    最後にスタッフが YAYOI に白布の目隠しを施した。
    彼女の顔はMVの全編に渡り目隠しで分からなくされるのだ。
    頭上からスポットライトを当てると、薄暗闇の中に真っ白なドレスで目隠しの少女の姿が浮かび上がった。
    彼女は背筋をぴんと伸ばしって座ったまま、身じろぎひとつしない。
    まるで人形のようだった。
    ・・うわぁ、綺麗。
    うん、色っぽいっ。
    畔たちは視線を交し合う。
    アイドル時代に人前で自分の意見をはっきり言うことが許されなかった経験からか、3人は視線だけで思いを伝え合う習慣がついていた。
    3人の間なら、大抵のことは言葉に出さなくても伝わるのだった。

    「"Shimmer" さん、スタンバイお願いしまーすっ」
    畔たち3人は、椅子に縛られた YAYOI の手前の立ち位置についた。
    コスチュームの色は曲のイメージに合わせて黒。
    畔はタイトミニとハイヒール、音々はショートパンツとブーツ、そして想乃がフレアミニとパンプスを履いているのはデビュー以来変わらない "Shimmer" のお約束である。
    新曲は2週間前にレコーディングして、CDーROMのサンプル版が完成していた。
    それをスピーカーで流し、口パクで歌いながらダンスのフォーメーションを確認する。
    口パクといっても気を抜くと音楽と口が合わなくなるから、収録では実際に声を出して歌う。
    椅子緊縛のシーンは、コンテの上ではイントロから最初のサビまでの区間だが、編集時の変更を配慮して曲の最後まで撮影する方針になっていた。
    これは他の緊縛シーンでも同じで、つまりすべての緊縛パターンに対して必ず1曲全部を収録するのだ。

    「シーン03、OK!」
    4回目のテイクでようやくディレクタ-のOKが出た。
    1回撮影する度に映像をチェックするから、テイクを4回繰り返すだけで40分近くかかっている。
    この後はダンスのバリエーションを変えて行くだけなので、リテイクの回数も少なくなるだろう。
    「15分休憩しまーすっ」
    ほっとして振り返ると、水無月が YAYOI の目隠しと背もたれの縄を解いていた。
    水無月が何かを話しかけ、YAYOI が小さく頷いている。
    彼女はほぼ1時間にわたって目隠し緊縛されていたことになる。
    YAYOI が水無月に肩を抱かれて立ち上がった。上半身は緊縛されたままである。
    親指まで縛られて動かせない両手首が見えた。
    ・・解いてもらえないの?
    畔たちが怪訝な顔をしていると、近くのスタッフが教えてくれた。
    「一度縛ったら、できるだけ解かないでおくんだ。元通りに縛り直すのは面倒だからね」

    3.洗面所にて
    「おーい、誰か女の子」水無月が叫んだ。
    「この子をトイレに行かせてくれんかぁ~?」
    ・・そうか。
    縛られたままじゃ、お手洗いは。
    見回すと、衣装係やメイク担当など撮影中はたくさんいた女性スタッフが誰もいなくなっていた。
    畔たちは互いに顔を見合わせる。
    ・・誰が行く?
    んじゃ、ここはリーダーの私。
    OK。
    「は~い! 私、行きますっ」
    畔が手を上げて名乗り出た。

    「そんなこと "Shimmer" さんに頼めません! あたし、男の人でもいいですから」
    「男に付き添わせるなんて、私が許さないからね。・・さあさあ、行きましょ」
    畔はまだ何か言おうとする YAYOI の背中を押してスタジオを出た。
    廊下を進んで女子トイレに入る。
    先に立って個室の扉を開けた。
    「さ、入んなさい。向こう見たままで脱がせてあげるから」
    「すみません」
    YAYOI は畔の脇をすり抜けて個室に入る。
    「はい。下ろすよ」
    顔をそむけながら、手探りでスカートに手を入れ下着を下ろした。
    「あとは一人で大丈夫ね」
    「あの、お願いしたいんですけど」YAYOI が言った。
    「スカートをずっと持っていてもらえますか。汚すといけませんから」

    洗面台で手を洗ったのは当然ながら畔だけだった。
    目の前の鏡を見ると、そこには顔を赤らめた畔と、こっちを見ている YAYOI が映っていた。
    彼女の両腕は背中で捻り上げるように縛られていて、その縄はまったく緩みそうにない。
    「あの、お手数をおかけしました」
    「いえ。いいのよ」
    畔は、YAYOI が用を足す間、ずっとスカートを持ってあげたのだった。
    できるだけ目をそらせたけれど、それでも放尿の音ははっきり聞こえた。
    その後トイレットペーパーで拭いてあげたのも畔である。
    下腹部の繁みから後ろにかけて、はっきり見えてしまった。

    ・・はぁーっ。
    私が恥ずかしがってどうするのよ!
    「あたし、おしっこのお世話してもらったの、幼稚園に入ったとき以来です」
    「私だって、姪っ子のオシメ替えて以来よ」
    「あの、こんなこと言ったら失礼かもしれないんですけど」
    「はい?」
    「お世話してくれる畔さん、恥ずかしそうで、ちょっと可愛らしかったです」
    「な・・」

    4.緊縛、そして逆さ吊り
    次の撮影は、縛られた少女が床に転がってもがくシーンだった。
    畔たちは、横たわった YAYOI の回りに立って歌うことになる。
    ディレクターがもがき方を説明しようとすると、YAYOI は「こんな感じでいいですか」と自分からやってみせた。
    身を震わせながら小さな喘ぎ声まで出してもがく姿は真に迫っていた。
    控えめな動きなのに、少女の苦しさとみじめさが誰の目にもよく伝わってきた。
    演技指導は不要だった。
    ・・この子、ただのモデルじゃない。
    畔たちは視線を交し合う。
    この演技力、落ち着き具合。どこかの劇団の子かしら?

    もがきシーンの収録はわずか2回のテイクで完了した。
    YAYOI の動きは素晴らしく、それに合わせて "Shimmer" の歌とダンスもほぼ完璧にできたのだった。

    「調子いいねっ。このまま次のシーンに進んじゃおうか」
    「はい!」
    畔、音々、想乃は揃って返事する。
    「こっちも大丈夫」
    YAYOI の脇に膝をついた水無月が報告した。

    水無月は新しい縄束を出すと、それで YAYOI の膝と足首を括った。
    スカートの上から腰の回りを縛り、後ろでまとめる。
    天井からロープに繋がったフックが降ろされて、膝と足首の縄を掛けた。
    「よっしゃOK。上げて」
    YAYOI の身体が上下逆になって吊り上がった。
    その頭は床から2メートルほどの距離に浮いている。
    膝丈のスカートは、腰に巻いた隠し縄のおかげで、めくれ上がってしまうことはなく、きわどい位置で下着を隠していた。

    逆さ吊り

    ・・大丈夫?
    畔たちは不安気に見上げる。
    「この程度の吊り、心配しなくていい」
    水無月が余った縄をまとめながら言った。
    確かに YAYOI はまったく苦痛を訴えていない。
    目隠しをされているので表情は分からないが、逆さ吊りにされても特に辛そうな様子はなかった。
    「これで、どれくらいの時間大丈夫ですか?」ディレクターが水無月に聞いた。
    「そうだな。この子ならまず1時間以上は耐えるけど、後の撮影もあるからここは20分。できればリテイクなしで撮って欲しいもんだ」
    「了解。・・君たち、いいね?」
    「はい!」
    畔たちは揃って返事した。
    ・・一発撮り、やってあげようじゃない。
    うん、YAYOI ちゃんのためにもねっ。
    よぉし!!

    スタッフが YAYOI の身体を押さえて揺れを止めた。縄の捩れをなくし正面を向いて静止させる。
    その手前に3人が一列に並んぶ。
    真剣な表情。小さく深呼吸した。
    「3、2、1、キュー!」
    音楽がスタートした。
    畔たちの足が一斉にステップを踏み始めた。
    揃ってその場でターンする。腰をくねらせながら両手で髪をかき上げる。
    真剣だった。あっという間に最後まで歌いきった。
    「カット!」
    スタッフがすぐにモニタの回りに集まって映像をチェックする。

    ・・ふう!
    どうかしら?
    きっとOKよっ。
    3人はその場で立ったまま視線を交し合う。
    1回分を撮っても、モニタチェックが済むまで完了にはならないのだ。
    畔は後ろを振り返った。
    そこには YAYOI が逆さに吊られたまま、微動だにしないでいた。
    ・・さすがだな。
    もうちょっとだから、頑張ってね。
    「はい、OK!」
    やったっ。
    3人はその場でハイタッチし合う。

    5.休憩
    すぐに水無月が YAYOI を下ろした。
    畔、音々、想乃も駆け寄って回りを取り囲む。
    YAYOI は縛られたまま、最初の椅子に座らされた。
    スタッフが目隠しを外す。
    「・・あぁ」
    YAYOI は目をゆっくり開けながら、小さな声を上げた。
    とても色っぽい声だった。頬が紅潮している。
    「YAYOI ちゃん!」「大丈夫っ?」「どうもない?」
    畔と音々と想乃が同時に聞いた。
    YAYOI はぐるりと3人を見回してから、にっこり笑った。
    「はい」
    はっきりと答えた。
    ・・すごいプロだよ、この子!
    うん、あたしら以上のプロだ。
    ほんとっ。
    3人は視線を交して頷き合った。

    畔たちが再び驚いたことに、YAYOI は全身を縛られたままで自由にされなかった。
    もう一度、逆さ吊りの撮影をするという。
    「ただし60分休憩してからね」水無月が言った。
    「あたし、今すぐ吊られたって平気ですけど」YAYOI が不満気に言う。
    「駄目だ。自分を追い込んじゃいけない」
    「・・はい」
    「その代わり、君をこのまま一人きりにしてあげる。・・しっかり気持ちを作るんだ。それなら得意だろう?」
    「はい。それなら」
    YAYOI はようやく答えながら微笑んだ。

    水無月の申し出を受け、ディレクターが1時間の休憩を宣言した。
    畔たちもスタジオから出て、控え室で休息する。
    部屋には自分達だけだから、3人は思うことを声に出して喋り合う。
    「あの子ね、トイレで私のこと可愛いって言ったのよ」
    「ええ~!!」
    「本当に変わった子よねぇ」
    「・・それにしても、さっき YAYOI ちゃんと水無月さんの会話って、変だと思わなかった?」
    「あ、思った」
    「あたしもー」
    「あの子、緊縛されて放置されてるんだよー?」
    「うんうん」
    「なのに、それなら得意とか言って」
    「ということは」
    「まさか、あの子」
    「まさか」
    「やっぱり」
    「ドM」
    「うわぁ!」「きゃあっ」「きゃはは」
    その後は、たわいない雑談で時間を過ごした。
    今も縛られたままでいる YAYOI を思うと胸がどきどきしたけれど、誰もそれを口に出さなかった。

    続き




    キョートサプライズ セカンド・第10話(2/3) 魅惑のミュージックビデオ

    6.YAYOI
    20分前。
    やはり気になって早めにスタジオに戻った。
    誰もいないスタジオは補助灯だけが点いていて薄暗かった。
    その中に YAYOI がいた。
    身動きの自由はないから休憩前とまったく同じ姿勢でぽつりと置かれていた。

    畔たちが近づくと YAYOI がこちらを見た。
    その目に大粒の涙がこぼれている。
    「YAYOI ちゃん!」
    「どうしたの?」「大丈夫?!」
    音々がポーチからハンカチを出して目元を拭ってあげる。
    ・・可哀想に。
    3人は黙って視線を交し合った。
    見ようと思わなくても彼女を縛る縄が目に入ってしまう。
    むき出しの腕に縄が食い込んでいた。
    親指まで縛る縄と捻り上げられた手首も痛々しい。
    縄を解いてあげたかったけれど、そんなことをしたら叱られるし、自分たちに解けるようにも見えなかった。

    「すみません、ちょっと高まってしまいました」
    3人が黙っていると YAYOI が言った。
    「すごく、嬉しい気持ちになって」
    「!!」
    「皆さん休憩されてるときに、あたしだけ縛られて。・・胸がいっぱいになって、たまらなくなって」
    ・・この子、やっぱり。
    うん、やっぱり。
    3人は再び視線を交わし合う。
    「あのね・・」意を決して畔が聞いた。
    「YAYOI ちゃんって、その、縛られたりするのが好き・・?」
    「はい。あたし、マゾですから」YAYOI はあっさり言った。
    「ご存知なかったですか?」
    「あ、いや。もしかしたら、そうかな、とは思ってたけど」
    「すみません。あたし、皆さん最初から知ってるかと」
    「あ、あはは」
    苦笑いするしかなかった。
    「あたし、こんなビデオのお仕事は初めてで不安だったんです。でも皆さん大事にして下さるし、こんなに綺麗に縛ってもらえるし、もう大丈夫って思ってるんです」
    「よ、よかったわね」
    「はい。水無月さんもあたしのこと、よく分かって下さってるみたいで」
    ・・確かに、水無月さんの気の使いよう。
    YAYOI ちゃん、本当に大事に縛られてる。
    畔は思った。
    自分は決してマゾではないつもりだけど、それでも縛られている YAYOI が羨ましいとすら感じるのだ。
    「うちの事務所、昔から水無月さんにはお世話になってるみたいで。心配しないで行ってきなさいって典子さんにも言われて」
    ここまで話して、YAYOI はようやく気がついたように回りを見た。
    「・・すみません。何だかあたしばかりべらべら喋って」
    「気にしないで。YAYOI ちゃんの話、面白いわ」
    「ありがとうございます。あたし、この後も頑張ります」
    「うん。お互いにね」
    「また吊られちゃうみたいだけど」想乃がすまなそうに言った。
    「いいんです」
    YAYOI は3人の顔を一人ずつ見ながら言った。
    「あたし、そういう扱いを受けるために来ました。生きてさえ帰れるなら、何をされても構いません」
    どきん。
    畔と、音々と、想乃の心臓が同時に鳴った。

    7.逆さ吊りの振り子
    YAYOI は再び目隠しをされて、上下逆に吊られた。
    全体を振り子のように揺らせて、デジタルメトロノームで振動の周期をチェックしながらロープの長さを調整した。
    サンプルCDを流して音楽のテンポと振り子の周期が近いことを確認した。
    さらに再生速度を調整し、音楽と振り子の揺れを完全に同期させた。
    畔たちはその速度で歌うことになる。
    後の編集で再び映像の速度を調整して音楽を乗せるという。

    先ほどの逆さ吊りシーンと同じポジションに3人が立った。
    スタッフが YAYOI の身体を横に大きく引いて構え、そして離した。
    タイミングを合わせて音楽がスタートし、畔たちがステップを踏み始める。
    音楽のスピードがいつもより早めなので違和感があった。
    それでも YAYOI を少しでも早く解放してあげるために、皆が頑張った。

    踊りながら後ろ向きになったとき、畔は YAYOI をちらりと見上げる。
    逆さに吊られた YAYOI が自分に向って揺れてきた。
    迫ってきたと思うと、反対側に遠ざかって行く。
    ・・サンドバッグだ。
    ボクシングのサンドバッグのイメージが浮かんだ。
    激しく打たれて揺れ続るサンドバッグを想像し、それから何に例えるんだろうと YAYOI に申し訳なく思った。

    収録はテイク5まで繰り返してもOKが出なかった。
    ほんの少し速度が変わっただけなのに、ステップのタイミングが合わないのだ。
    その上、最も映像を使いたい最後のサビのダンスで合わないから、安易に妥協することはできない。
    畔たちは唇を噛む。
    ・・YAYOI ちゃんが苦しいのに。
    振り返って見ると、水無月が YAYOI の顔にタオルを当てていた。
    目隠しをしていても顔面が赤くなっているのが分かった。
    彼女はずっと上下逆に吊られたままなのだ。
    その上振り子になって揺れて、頭に血が昇らないはずがない。
    「YAYOI ちゃん、ふがいなくてごめんなさい!」
    思わず謝罪の言葉が出た。
    YAYOI が小さな声で何かを言った。
    水無月が耳を近づけて頷き、畔たちを呼んだ。
    「"Shimmer" の3人と話したいそうだ」

    3人は YAYOI の下に走り寄る。
    「YAYOI ちゃん?」
    「・・皆さん」
    YAYOI が小さな声で言った。
    「さっき、生きて帰れるなら、何されてもいいって言いましたけど、・・訂正します」
    「へ?」
    「あ、あたし、このまま死んだっていい。だから、どうか、頑張って下さい」

    畔たちは元のポジションに戻ると円陣を組んだ。
    頭を寄せて互いに視線を交わす。
    ・・『まわるまわる』から『ゆれるゆれる』の間ね。
    そう、そこさえ気をつけたら大丈夫。
    これで決めようっ。
    よぉし!!
    畔が振り返って叫んだ。
    「お願いします!」

    再び YAYOI が振り子になって揺れ、3人は歌い始めた。
    イントロからAメロへ。サビから間奏へ。
    「回ってるぞっ」スタッフの一人が叫んだ。
    揺れる YAYOI の身体がコマのように回っていた。
    ロープが捩れてしまったらしい。
    「止めろっ」
    「いや、このまま続ける!」
    ディレクターが継続を指示した。
    今度の "Shimmer" のダンスは出来が違った。
    絶対に合わせる!
    表情に決意が表れていた。
    最後のサビに差し掛かっても、ステップが乱れることはなかった。
    後ろで YAYOI が大きく揺れていた。
    畔たちは気付かなかったけれど、目隠しされた彼女の口は少し開いていた。
    その口元から頬に涎が流れて光っていた。

    「シーン21、OK!」
    ディレクターが叫ぶと同時に、畔、音々、想乃は YAYOI の下に走って行く。
    「YAYOI ちゃん!」「YAYOI ちゃん!」
    いくら声を掛けても、YAYOI は何も反応しなかった。

    床に降ろされ、全身の縄からすべて解放されてから、YAYOI は意識を戻した。
    彼女は2時間近く連続して逆さ吊りになっていたことになる。
    いつ気絶したのか本人にも分からないという。
    「大したもんだよ。それでも少しも動かなかったんだから」
    ディレクターがしみじみと言って、皆が納得した。

    8.解散
    収録はこれで完了である。
    皆で一本締めをして解散になった。
    MVはこれから編集作業を行い、新曲の発売開始に合わせて公開されることになる。

    「YAYOI ちゃん!」
    畔たちが YAYOI に声を掛けた。
    「今から皆で打ち上げなの。一緒に行きましょ!」
    「すみません。今なら最終に間に合うので」
    「え? 最終電車ならまだまだ大丈夫でしょ」
    「いえ、新幹線の最終です。明日、大学に出るので、今日中に京都に帰らないと」
    「京都!?」
    「はい。せっかく誘って下さったのにすみません。じゃあ失礼します!」」
    YAYOI は小走りでスタジオを出て行ってしまった。
    残された3人は互いに視線を交わし合う。
    ・・京都の大学生?
    あの子、いったい何者なの?

    それからしばらく YAYOI の正体が畔たちの話題になった。
    不思議な女の子だった。
    縛られても下品でなくて綺麗で、同じ女から見てもどきどきする感じがあった。
    マネージャーに聞いたところ、YAYOI はプロデューサーの烏丸が地方テレビ局に勤めていたころの知人を通じて来てもらったという。
    「烏丸さんって、テレビ局にいたんですか」
    「そう、京都のMMテレビ。もう10何年も昔のことらしいけどね」
    ・・京都。
    YAYOI ちゃんのいる街。
    「詳しい事情は教えてもらえないんだ。いろいろあったらしいよ」

    "Shimmer" の新曲MVは過激らしい。
    芸能雑誌やインターネット上で囁かれ始めた噂は、もちろん事務所がリークしたものである。
    噂は噂を呼び、ついには3人がヌードになるという情報まで流れ、本人がブログで否定するはめになった。
    こうして世間の注目がピークになって、新曲『ポゼッション』が発売された。

    9.『ポゼッション』MV
    荒れたモノクロ画像。赤外線カメラで暗闇を撮ったイメージ。
    大きな木箱が運び込まれた。
    蓋を開けて横倒しになる箱。そして中から転がり出た白いドレスの少女。
    少女は縄で後ろ手に縛られていて、白布で目隠しをされていた。
    画面に『POSSESSION』のタイトルが流れる。

    [イントロ]

    コンクリート張りの地下室。
    カメラがパンして、木製の椅子に縛り付けられた少女を映す。
    捻り上げられた手首のアップ。そして揃えて縛られた足首のアップ。

    しなやかだね キミの身体
    かたくなだね ボクの心
    暖かいね キミの涙
    凍りつくね ボクの吐息


    "Shimmer" が歌いながら踊る。
    その後方には椅子に縛り付けられた目隠しの少女。
    まるで人形のように動かない。
    と、少女の肩と顔の下半分がアップになり、その顎を男の手が掴んでぐいと持ち上げた。

    求め続ける この時間
    キミの気持ちが少しでも ボクに伝わればいいね
    いつかきっと キミを受け入れる
    そんなときが くると思うから


    歌い続ける "Shimmer" と少女の緊縛イメージが交互にフラッシュする。
    横倒しにした木箱から転がり出る少女。
    高手小手に縛られ、縄を引かれて歩く少女。
    椅子に縛り付けられた少女。
    床に転がった少女。その片方の足首を男の手が握って持ち上げる。

    しなやかだね キミの身体
    かたくなだね ボクの心
    暖かいね キミの涙
    凍りつくね ボクの吐息


    頭を下に吊り上げられた少女。
    その姿が前後左右から映し出される。
    逆さ吊りになった少女の手前で一列に並んで歌う "Shimmer"。
    畔、音々、想乃が順番にアップになる。
    再び、一列に並んだ3人とバックに吊られた少女。
    カメラは少女の足首の縄に一気にズームインする。

    [間奏]

    逆さ吊りで振り子のように揺れる少女。その手前で踊る "Shimmer"。
    振り子の揺れは音楽と完全に同期していた。
    床を這ってもがく少女と、その横で踊る "Shimmer"。
    椅子に縛り付けられた少女。
    逆さに吊り上げられる少女。
    吊縄が捻れて回転する少女。
    カメラに向かって迫ったり離れたりしながら揺れ続ける。

    拒み続ける この時間
    ボクの心が少しでも 柔らかくなればいいね


    歌う "Shimmer"。
    後方に少女の姿がぼやけて写っている。
    椅子に縛り付けられた少女。もがきながら這う少女。そして逆さ吊りの少女。

    明日はきっと キミを受け入れる
    ただ所有物 それまでキミは


    3人は自分達が拘束されているようなポーズをとる。
    両手を上げ、頭の上で手首を合わせる畔。
    十字架に架けられたように両手を左右に広げ、首をうなだれる音々。
    そして後ろを向いて、背中で腕を組む想乃。
    畔、音々、想乃の顔が大写しで交互にフラッシュする。
    それぞれ、片方の瞳から大粒の涙をこぼす "Shimmer"。
    音楽が止まって無音になる。一瞬の後、再び鳴り始める。

    包み込むね キミの想い
    突き放すね ボクの言葉

    まわるまわるまわる
    ゆれるゆれるゆれる
    おちるおちるおちる


    コマのように回りながら揺れ続ける少女。
    その下で歌い続ける "Shimmer"。

    愛情のない POSSESSION

    少女の姿が次第にぼやける。

    (アウトロ)

    斜め横吊りになった少女。
    少女の目隠しが解けて落ちる。
    カメラは床に落ちる目隠しを追い、少女の顔を映さない。
    画面は黒くなって、エンドロールが流れる。
    スタッフの名前と "Shimmer" のロゴ。
    最後に『POSSESSION』のタイトル。
    緊縛された少女の名前はどこにも表示されなかった。


    POSSESSION MV

    10.評判
    ネットの動画サイトに公開されたMVは初日だけで10万PVを越えた。
    『ポゼッション』はヒットチャートを駆け上がり、"Shimmer" の元には取材や出演依頼が殺到した。
    テレビへの露出は最小限にして『◯ステ』や『◯SIC JAPAN』などのメジャーな音楽番組への出演も断ったから、かえって話題となりますます注目を集めた。

    「私たちも知らないんです。あのモデルさんのことは」
    音楽雑誌のインタビューで、畔は答えた。
    「一般の大学生、とは聞いてますが、歳も名前も」
    実は年齢は分かっているし、YAYOI という芸名も知っているが、あえて何も知らない戦略で押し通すことになっていた。
    彼女の本名や、京都で何をしているのか、実際の詳しいことはまったく分からないままでであるが。

    ・・またあの子に会いたい。
    3人とも同じ想いだった。
    MVのお礼も言ってないのだ。
    YAYOI に会って、ゆっくり話をしたい。
    どうして緊縛モデルをしてるいのか、聞いてみたい。
    それにできれば、縛られるのはどんな気持ちなのか、聞いてみたい。

    11.京都の夜
    まもなく初夏を迎える頃。
    2日続きのライブが京都であった初日の夜。
    終演後に楽屋に戻ると、珍しい客が待っていた。
    「よおっ。元気かい?」
    「きゃあっ」「水無月さん~!!」
    水無月と会うのも、あのMVの撮影以来である。
    「どうしたんですか!?」
    「いや、会いたいだろうと思ってさ」
    「水無月さんに? やだぁ」
    「そんなにはっきり言うな。落ち込むじゃねぇか」
    「ふふふ」「ごめんなさい。冗談です」
    「いいよ。君らが会いたいだろうって思ったのは、あの子の方さ」
    ・・え、あの子?
    畔たちは視線を交わし合う。
    「前も思ったけど、君ら、テレパシーで話せるみたいだな」
    「分かります?」
    「まあな。・・それで、どうだい? せっかくの京都の夜だ。大人しか入れない場所だけど、あの子に会いに行くかい?」
    「あの子って、YAYOI ちゃんですよね!?」
    水無月は笑っている。

    「マネージャー! いいですか!?」
    息せききって聞いたマネージャーも笑って許してくれた。
    プロデューサーも了解しているという。
    「ただし、"Shimmer" ってばれないようにして行くんだよ」
    「はいっ」

    続き





    キョートサプライズ セカンド・第10話(3/3) 魅惑のミュージックビデオ

    12.Club-LB
    河原町通りの繁華街のはずれ。
    その高級クラブの入口には『本日貸切』の看板が出ていた。
    水無月と畔たちが着くと、バニーガールがいて席に案内してくれた。
    フロアに並ぶ20ほどのテーブル席は先客で埋まっていた。どうやら畔たちが最後に入った客らしい。
    ライブで地方に行ったときなど、バニーガールがお酒を運んでくるような場所に連れてもらうことは珍しくない。
    でも、このお店はそんな今までの場所とはどこか雰囲気が違った。
    ・・何だろう?
    畔は周囲を見回して気がついた。
    女性客が多いのだ。
    たいていのテーブルは男女のカップルかグループ。男性だけのテーブルは少なく、代わりに女性だけのテーブルがある。
    披露宴かパーティにでも来たみたいなお洒落なドレス姿の女性も目立った。

    やがて畔たちのテーブルに白いスーツを着た小柄な女性がやってきた。
    髪をアップにしてお化粧は濃い目。
    スーツの胸にはピンクのコサージュ。スリットの入ったタイトスカート。そして薔薇の柄が入った網タイツ。
    その人が床に膝をついて挨拶する。
    「水無月さま、ご無沙汰しています」
    「よぉ、典子ちゃんっ。お客さんを連れてきたぜ」
    「存じております。"Shimmer" の皆様ですね」
    女性は Club-LB のマネージャーで、黒川典子と名乗った。
    「もうお顔を隠さなくても結構ですよ。こんな場所でサングラスじゃ見難いでしょう?」
    「ここは会員制で客筋はいいんだよ。たとえアメリカの大統領が来たってじろじろ見る客はいないさ」
    典子と水無月に言われて3人はサングラスを外した。
    「あの、Club-LB って、このお店のことですか?」音々が質問した。
    「ここは場所を借りているだけですわ。私達はお客様にショーをしますの」
    ・・ショー?
    「あの子も出るぜ」
    YAYOI ちゃん!!
    3人は YAYOI のことを同時に思い出した。
    「あの、YAYOI ちゃんは?」
    「もうすぐ登場しますわ。ここではトウコっていう名前なんですよ」典子が言った。
    「今夜の緊縛士は旦那さんかい?」水無月が聞く。
    「瀬戸くんですわ」
    「あの若いのか。大丈夫なの?」
    「おほほほ、それはご覧になって確かめて下さいませ。・・では、どうぞごゆっくり」
    典子はそう言って離れていった。

    ・・見た? 今の人、すごいピンヒール。
    うんっ。SMの女王様だったりして。
    畔たちは黙って視線を交わす。
    「ああ見えても、あの人はものすごいマゾなんだぜ」
    3人の様子を察して水無月が言った。
    「えーっ、本当ですか?」
    「じゃ、もしかして水無月さんあの人も、」
    「緊縛したぜ。初めて縛ったときは、あの子もチャキチャキの学生だったねぇ」
    ・・すごい!
    いったい何年前のことよー。
    「その子がもうすぐKSの社長になるっていうんだからねぇ」
    水無月は感慨深げにつぶやいた。
    ・・KSって何?
    3人が首をかしげているうちに、照明が暗くなった。

    13.イリュージョン
    フロアの奥にあるステージが明るくなり、タキシードを着た男性が登場して頭を下げた。
    背後に掛けられた紫の布を外すと、ガラスの水槽が置かれていた。
    水槽は長さ2メートル弱、高さと奥行きが50センチ弱。
    中には透明な水がいっぱいに入っている。
    男性はポケットから鍵を出すと水槽の蓋を開け、中の水を手にとってすくってみせた。
    再び蓋をして、水槽全体に鎖を巻きつける。
    紫の布を手に持つと、そのまま水槽の上に立った。

    ・・これ、イリュージョンだよね?!
    うん。あたし結構好きだよ。
    想乃が畔と音々に視線で伝えてきた。
    普通だったら、水の中に美女が入って、一瞬でマジシャンと交換するんだけどね。
    あぁ、テレビで見たことあるっ。でも美女なんていないじゃない?
    そうだよねぇ。

    男性は笑いながら紫布を広げて水槽を隠した。
    そして数秒後、布を外して水槽を見せた。
    おお~! 客席から声が上がる。
    空っぽだった水槽の中に人影があった。
    白いキャミソールドレスの少女が、白布で目隠しをされて、その上全身を麻縄で縛られて、水中に浮かんでいた。
    金髪のウィッグこそつけていないが、その衣装はあのMVで着ていたものとそっくりだった。

    「YAYOI ちゃん!!」
    3人は声を上げた。
    数秒前まで誰も入っていなかった。人が飛び込む音もしなかった。
    だいたい、最初からいっぱいに水が入っていたのに、それがこぼれた跡もない。
    でも、今は YAYOI ちゃんが入ってる! おまけにぎちぎちに縛られてる!
    「水無月さんっ。・・あれ! あれ!」
    「ああ、あの子だな」
    「ど、どーなってるんですか?!」
    「マジックのことまでは俺にも分からんよ。ほれ、拍手拍手」
    一斉に拍手が沸いていた。3人も慌てて拍手を送る。

    男性は水槽から飛び降りて、水中の少女を指差すと、何やら合図をした。
    水槽の中に水色の照明が点いて、少女を明るく照らした。
    その色は青、紫、赤、黄色とゆっくり変化して、少女の白いドレスを同じ色に染める。
    ・・うわぁ~。
    ほぇ~、綺麗っ。
    3人は水中の様子に見とれる。
    「すぐに綺麗なんて言ってられなくなるぞ」水無月が言った。
    「?」
    まもなく気がついた。
    少女は水中に閉じ込められたままだった。
    男性は横に立ったまま、水槽の蓋を開けるそぶりもしない。
    少女の口がへの字になった。
    身体を屈め、首を左右に振った。
    鼻からこぽこぽと泡を吐く。
    首を捻って水面の空気を吸おうとするが、水槽の中に余分な空気はほとんどなかった。
    空しく蓋の裏にキスをするばかりである。

    ・・何、いったい?
    畔が想乃を見た。想乃が音々を見た。音々はちょっと迷ってから水無月を見た。
    ・・YAYOI ちゃん、息できない!

    やがて少女は苦し気にもがき始めた。
    がんじがらめの縄を引きちぎらんとばかりに、全身に力を入れて暴れる。
    「あれじゃあ、胸の中の空気もすぐになくなるな」
    水無月がのんびりつぶやいた。そして畔たちの視線に気づくと弁解するように言った。
    「縛ったのは俺じゃないぞ」
    「あんなに苦しそうにしてるのに! 死んじゃいますよぉっ」
    「心配するな。ここじゃ苦しむのもあの子の仕事だ」
    「え?」

    もがき続けた少女の動きが止まった。
    緊縛された身体が水中にゆっくり漂う。
    ぽかんと開いた口から、小さな泡がこぼれた。

    ようやく男性は水槽の鎖を緩め、鍵を解いて蓋を開けた。
    タキシードが濡れるのも厭わず両手を差し入れると、水の中から少女をすくい上げた。
    少女はぐったりと動かない。
    ステージに少女を横たえ、膝をついて少女の頭を抱き上げた。
    白い目隠しを外す。
    目を閉じた YAYOI の顔が現れた。

    ・・やっぱり YAYOI ちゃん!!
    動かないよ。
    まさか、死んじゃったの?

    男性が YAYOI の頬を軽く叩いた。
    鼻に手を近づけて呼吸を確かめる。
    もう一度頬を叩く。
    少女の顔が小さく震えた。
    「あぁっ」
    目を閉じたまま声を出した。
    男性が彼女の上半身を起してやると、YAYOI は目をあけて周囲を眩しそうに見渡した。

    男性は立ち上がると、YAYOI の背中の縄を掴んで一緒に立たせた。
    倒れそうになる身体を後ろから抱いて支えながら、客席に向かって言った。
    「新人FBのトウコです。皆様どうぞ可愛がってやって下さい」
    大きな拍手が起こった。
    トウコと紹介された YAYOI も朦朧とした表情のまま少し笑って会釈した。

    ・・あぁ!!
    生きてたっ。
    私、心臓が止まるかと思ったぁ~。
    畔たちも互いに喜び合う。

    水無月は何も言わず、にやにや笑っている。
    落ち着いてよく見てれば気付いたはずだ。
    目を覚ますとき、あの子は少しでもむせたか? 口から水を吐いたか?
    肺に少しでも水が入れば大変なことになる。あんな簡単に蘇生するはずがない。
    ・・あの子は、自分から安全に溺れたのさ。
    FBは客の前で苦しむのが仕事だ。
    よくできたFBなら、綺麗に落ちて、綺麗に目覚めることができる。
    あの子はもう十分合格だろう。

    14.交わす想い
    ステージに立つ男性とトウコの上から、ロープに繋がったフックが降下してきた。
    男性はトウコの膝と背中に手早く縄を加えると、フックに掛けて右手を上げた。
    トウコはずぶ濡れのまま、さらにはがんじがらめに縛った縄もまったく解かれることなく、横吊りになって空中に浮かび上がった。
    黒髪から水滴がぽたぽたと垂れている。
    あのMVで最後に吊られた姿とよく似ていた。

    はぁ~っ。
    畔は深呼吸をしながらトウコを見上げた。
    両手で自分の胸を押さえる。どきどきして息が止まりそうだった。
    音々と想乃もトウコを見ていた。
    互いに視線を交わして、同じ気持ちでいることを確認する。
    「15分休憩します」
    ステージの男性が宣言した。
    「トウコはこのまま飾りますから、ご自由にご覧下さい」

    ・・緊縛放置? また?
    可哀想に。
    何言ってるのよ。羨ましいくせに?
    あんたこそ。
    えへへ、ちょっと。

    「では、これから順にお席に参りますから、緊縛ご希望のお客様はお申し出下さい」
    男性がそう言ってテーブルを回り始めた。
    すぐに手があがり、男性がその脇に屈んで話している。
    「どうだい? 君たちは」
    水無月が言った。
    「何ですか? あれ」
    「緊縛サービスさ。希望の客・・一応、女だけだが、望むように縛ってくれるのさ」
    「ええっ?」
    確かに男性は手をあげた女性客を後ろ手に縛り始めていた。
    その女性はうっとりした顔で目を閉じている。

    「この後は、自分も緊縛されてショーの続きを見るって趣向だよ」
    一人の客が縛られると、それを見ていた他の女性たちが自分も自分もと手をあげる。
    男性は順番に希望を聞いては、一人ずつ丁寧に縄で縛って行く。
    全員を縛るにはかなり時間がかかりそうだ。
    「・・何人縛ると思ってるんだ。手際が悪いっ。段取りも悪いっ」
    水無月はそれを見ながら一人でぶつぶつ言っている。

    畔、音々、想乃は視線を交わし合う。
    ・・ね、どうする?
    決まってるよね。
    うん!
    「すみませーん!」一斉に手をあげて、男性を呼んだ。
    ステージの上に吊られたトウコがこちらを見て、驚いたような顔をする。

    まもなく男性がやってきた。
    「これは、トウコと縁のあるお客様ですね。ご希望の縛り方はありますか?」
    「彼女と同じ気持ちにしてもらえますか」畔がトウコを指して頼んだ。
    「あたしも」「えへへ、右に同じ」
    「分かりました。では、十分に無力感を味わえる緊縛を」
    「うわぁ♥」

    生まれて初めて受けた緊縛は、少しも痛くなかった。
    まったく動けないのに、夢のように気持ちがよかった。
    それどころか、身体を締め付ける縄を感じれば感じるほど、自分の自由を他人に預けていることを意識するばするほど、快感が倍増した。
    YAYOI ちゃん、ものすごく辛い目にあってると思ってたのに、こんなに素敵な気持ちでいたの・・?

    男性は3人を縛り終えると、水無月に向かって頭を下げた。
    「まだまだ未熟者ですが」
    水無月は笑ってその背中を叩いた。
    「そんなことはないさ。君の縄は女をこんな顔にさせるんだ。・・ま、頑張れ、瀬戸くん!」

    3人はもう男たちの会話など聞いていない。
    ・・畔ぃ、とろけそう。
    あたし、もう解いて欲しくないって思ってるぅ。
    本当、すごいエクスタシー。
    もはや視線を交わす必要すらない。
    互いの吐息を聞くだけで感じ合うことができた。

    そのとき、3人はステージのトウコに目があった。
    トウコは緊縛された3人を見ながら微笑んでいた。
    ・・ようこそ! あたし達、仲間ですねっ。
    畔、音々、想乃もトウコに笑みを返した。
    ・・ありがとう! こんな気持ちを教えてくれて。
    互いの想いが通じ合う。
    それは、甘く切なくて、ほんの少しだけ哀しい想いだった。
    生まれて初めて感じるのに、とても懐かしくて、幼い頃から知っていたような想いだった。



    ~登場人物紹介~

    畔(ほとり):25才。女性3人のヴォーカルグループ "Shimmer" のリーダー。
    音々(ねね)、想乃(その):共に25才。"Shimmer" のメンバー。
    YAYOI :19才。新曲MVの緊縛モデル。KS/Club-LB の新人FB。SN(ステージネーム)はトウコ。
    水無月:36才。KSと縁の深いプロの縄師。
    黒川典子:30才。KS/Club-LB のマネージャー。
    瀬戸:22才。KS/Club-LB の緊縛士。

    お待たせいたしました。
    キョートサプライズセカンドの第10話をお届けします。

    国内外アーティストのMVやPVに手錠・鎖・檻などの拘束系アイテムが使われることはそれほど珍しくありません。
    最近では緊縛シーンが出てくることもあり、先日も某バンドのMVに一鬼◯こ氏がプロデュースしたという綺麗な緊縛イメージが登場して見入ってしまいました。(もちろん女性モデルの緊縛ですよ、念のため)
    こういう映像が、ネットの動画サイトで、しかも成人制限も何もなしで見れるのですから、『緊縛』という表現手段がいかに一般的になったか実感させられますね。
    この傾向が女性アーティストや美少女アイドルのMVにまで広がってくれれば素晴らしいのですが、さすがにそれはまだまだ夢物語でしょう。
    という訳で今回、アイドル出身の女性グループのMVに緊縛少女を登場させることにしました。
    顔の知れていないモデルをということで依頼されたのは、もちろん我らがKS。
    新人FBのトウコが、モデル名 YAYOI として派遣されました。
    完成映像はソフトで綺麗、でも実際の撮影は過酷で可哀想、というのを目指して書きましたがどうでしょうか?

    本シリーズをお読みの皆様にはお分かりと思いますが、YAYOI は第2話と4話に登場した千代田弥生ちゃんです。
    第4話ではまだ高校生、缶詰配達される途中で失敗して泣いてしまった弥生ちゃん。
    今は大学生となり、自らFBの道を選びました。
    なお、本話では弥生ちゃん以外にも懐かしい人に登場してもらいました。
    作者の自己満足のようなものなのでいちいち挙げませんが、分かる人には以前の登場シーンを思い出してもらえれば嬉しく思います。

    イリュージョンは、以前どこかの後書きで触れた、水槽の中に出現するアシスタントのバリエーションです。
    私のオリジナルはそのまま水中に閉じ込めてガチで窒息させてしまうところ、それらを全身緊縛状態で演じさせることです。
    水中イリュージョンの訓練を積み、窒息パフォーマンスができる身体能力と度胸があり、さらに緊縛を受け入れる被虐性を兼ね備えた女性・・。
    現実のイリュージョンではあり得ないですね(笑)

    最後に、お知らせします。
    第1部、第2部と長く続いたキョートサプライズはあと2回で終了する予定です。
    あと2回といっても、現在の連載ペースではまだ何ヶ月もかかりそうですが^^。
    最終回までどうぞよろしくお願いいたします。




    キョートサプライズ セカンド・第9話(1/3) 星降る夜のプレゼント

    [Part.1 北見四川・出版記念イベント]

    1.作家・北見四川ブログより
    『Love Suspension』の発売日が決まりました。
    出版社さんの計らいで、記念イベントとショーを開催します。
    ショーは2部構成で、第1部ではキョートサプライズさんの協力による素敵なイリュージョン&緊縛ショー、そして第2部ではB-Shopさんによるボディサスペンションの実演をお楽しみいただきます。
    第1部のシナリオと演出には北見四川も参加させていただきました!
    お時間のある皆様は是非お越し下さい。
    大阪・溝川ホール 12月**日18時開場
    さ・ら・に!!
    このブログだけの告知です!
    緊縛に興味のある女子の皆様。緊縛モデルとしてショーに出演しませんか?
    ・SM/緊縛関係のお仕事未経験の18才以上の女性。(高校生は不可)
    ・着衣での緊縛です。縛り方は当日縄師が実際に縛って決めます。
    ・受付は明日の深夜0時まで。応募 shisen@xxxx.jp まで。

    [追記]
    上記募集をしたところ、何と30人以上の方から出演希望のメールをいただきました!
    全員は無理なので、北見四川の趣味と偏見で審査の上、ご連絡させていただきます。

    2.溝川ホール・ロビー
    「みっきぃ~!!」「アヤ~!!」
    市川綾乃と村島(旧姓・河井)美紀がハグし合っている。
    「ホントによく来てくれたね~」
    「うん、お義母さん来てくれて子供見てもらえてるし」
    綾乃と美紀は高校時代の同級生で、かつてKSで一緒にEA/FBをした仲だった。
    綾乃はEA/FBの現役は引退したものの、今でもKSで事務の仕事をしている。
    そして美紀は、5年前に短大を卒業してすぐに結婚、出産。
    今は名古屋で子育てに励む主婦である。
    綾乃と会うのも結婚式以来だった。

    ロビーにKSのメンバーが集まっていた。
    ほとんどが古くからの顔ぶれである。
    「美紀ちゃん、お母さんなんだって?」鈴木純生(すみお)が聞いた。
    純生は現役のEA/FBで最年長のリーダーである。
    「はい。4才の女の子ですけど」
    「この中で唯一の子持ちなんやね」黒川典子が言う。
    典子はKS叩き上げの企画担当マネージャーである。
    「綾乃ちゃんと美紀ちゃんが初めてKSに来たのって、いつだっけ」岡崎真奈美が言った。
    真奈美も元EA/FBで、現在は婚約者が副社長を務める運送会社を影の副社長として切り盛りしている。
    「えぇ~っと。10年前?」綾乃が美紀を顔を見合わせて言う。
    「うわぁ。あたしゃ33だったよ」長谷川みずほが言った。
    みずほは元企画担当で、今はKSを離れて演劇関係の舞台技術や演出の仕事をしている。
    「みずほっ。歳の話は禁止!」島洋子が釘を刺した。
    洋子は、今も昔も変わらないKSの代表者である。
    「なら、洋子さんの歳はもう、よん・・」
    「わぁ~っ」真奈美が言いかけたところに洋子が割り込んだ。
    「おのれ、触れてはならないことを」
    「へっへっへぇ。さすがの洋子さんも歳はとるからねー」
    「んにゃろぉ~!」
    真奈美に向かって大げさに腕まくりしかかった洋子を典子が止める。
    「よーこさん! こんなとこで大人気ないっ。麗華ちゃんが驚いてるでしょ~? ねぇ、麗華ちゃん」
    「いえ、前にもよく似たのを見ましたから」張麗華が落ち着いて答えた。
    麗華は、この中で最も若手の現役EA/FBである。
    「真奈美さん、KSができたときから洋子さんと一緒だって聞きました。何でも言い合える仲だって」
    「よく知ってるんやね~」「教えてくれたの、典子さんですよ?」
    「そうだっけ」「それで、もう一人特別な人が・・」
    「妙子さん!」
    綾乃がロビーの奥を指差して叫んだ。そちらから石原妙子が歩いてくる。
    妙子も元EA/FBで、今は作家・北見四川(きたみしせん)として活躍している。
    「皆さん、今日は忙しい中ありがとう!」
    「いえいえ~」「北見先生の舞台を楽しみにしてきたんやから」
    「もう、この仲間で先生は言わないでよー」
    「・・お久しぶりです。妙子さん」「え? 美紀ちゃん!?」「はいっ」「うわ~、久しぶりぃ」
    「彼女、四つの娘さんがいるんだって!」「ほんとー?」「きゃ~!!」
    女性達は皆楽しそうに笑っている。
    この顔ぶれでお喋りするのは、いったい何年ぶりのことだろう?

    この日は北見四川の書き下ろし新作の出版記念イベントが大阪市内の小劇場で開催されることになっていた。
    そして同時に行われるイベントショーにKSが協力することになっていたのである。

    離れた場所で黒川章と長谷川行雄、そして瀬戸宗弘がベンチに並んで座っていた。
    女性陣がはしゃいでいるのを黙ってぼうっと見ている。
    ちなみに、黒川は典子の夫、そして長谷川はみずほの夫である。
    「・・何かにぎやかですね」黒川がぽつりと言った。
    「・・女は群れるのが好きだからな」長谷川もぽつりと答える。
    「・・」瀬戸は何も言わない。ずいぶん緊張した顔をしていた。
    「みずほさん、元気そうですね」
    「うん、朝からえらく張り切ってたな」
    「典子も今日はやたら元気で。北見先生に会える、なんて」
    「そんなに久しぶりなの?」
    「いえ、先月も会ってたと思います」
    「・・そう」「・・はい」
    黒川は隣に座る瀬戸の顔を見た。
    「瀬戸くん、もう落ち着いた?」
    「あ、はい。何とか」
    「今日は大抜擢だからね。期待してるよ」
    「止めて下さいよ。そんな風に言われたら、自分、また・・」
    瀬戸は自分の胸を押さえながら、かすれた声で答える。
    この日の緊縛パフォーマンスには、瀬戸が出演することになっていたのだ。
    朝からずっと緊張して食事も喉を通らない有様だった。
    黒川と長谷川はやれやれという風に苦笑いする。
    瀬戸はもっと大舞台に立たせて、度胸と経験を身につけさせることが必要なのだ。

    麗華が小走りにやってきた。
    「瀬戸さん! リハーサルが始まるって」
    「あ、はい」瀬戸が立ち上がる。
    「長谷川さんと章さんも来ないと駄目ですよ~」
    黒川と長谷川も仕方ないなと笑って立ち上がり、麗華と瀬戸の後について行った。

    3.開演
    幕前にスポットライトがあたり、司会者に紹介されて拍手の中、妙子が登場した。
    薄紫色のスーツにタイトスカート。
    踵の高いピンヒール、胸にバラの花、細い眼鏡をかけ、アップにした髪につけたバレッタには大きな真珠が輝いている。
    人気女流SM作家・北見四川の姿がそこにあった。

    本人の挨拶に続いて来賓関係者の挨拶が続く。
    その中で、数年前にテレビドラマ・映画化された北見四川原作の『中学生縄師』が新たに舞台化されることも発表された。
    会場は再び大きな拍手に包まれる。

    「妙ちゃん、本当に立派になったねぇ」客席で拍手をしながら洋子が感慨深げに言った。
    「覚えてます? 初めて会ったときのこと」真奈美が隣で言う。
    「忘れる訳ないわ」
    洋子と真奈美と妙子、そして長谷川。
    彼らが出会ったのは、真奈美が20才、妙子が19才のときだった。
    真奈美はこのとき、半ば命がけのイリュージョンをやったのだ。
    そして、この四人の出会いが後のキョートサプライズの設立に繋がるのである。
    「・・いいなぁ。夢を実現できて」
    「真奈美ちゃんだって、幸せじゃないの?」
    「え? あ・・、そうかな」
    「私達はこれからも走って行くのよ。夢なんて、届いたと思ったら、その先にするりと逃げるモンでいいのよ」
    「洋子さんの夢は?」
    「私? ん~、毎晩美味しいお酒を飲めるようになることかな」
    「何それ。んじゃあ、ずっと昔から叶ってるやないですか」

    やがて舞台挨拶は終わり、短い休憩の後、いよいよ北見四川・シナリオ演出のイベントショー第1部が始まる。

    4.イリュージョン
    幕が上がった。
    うす暗いステージの左右両側に、細い金属のパイプ(ポール)が垂直に立っている。
    後方は天井から床まで全面に張られた赤い幕。
    中央には巨大なアートフラワー(造花)のアレンジメントが、人間の背ほどもあるガラスの花瓶に飾られていた。
    スポットライトが花瓶を照らす。
    その陰から女性が歩み出てきた。
    長いマントを羽織り、頭には魔法使いのような三角形の帽子をかぶっている。
    女性はステージの手前で一回転すると、妖しく微笑みながらマントを脱ぎ捨てた。
    つやつや光る真っ赤なエナメルのボディスーツが現れた。
    足元は膝の上まで覆うニーハイスタイルのロングブーツピンヒール。
    ボディスーツの大きく開いた胸元と切れ上がったハイレグから見せる白い肌が艶かしい。
    鞭を持てばそのままSMの女王様になれそうなスタイルの美女は、張麗華だった。
    ただし彼女が手にするのは、女王様の鞭ではなく、自分の背よりも長い魔法の杖である。
    麗華は女魔道士なのだ。

    ステージが明るくなった。
    男性助手が出てきて、花瓶の台を手前に引き出して一回転させて見せる。
    続いてステージ脇から脚立を持ってきて花瓶の脇に置いた。
    自分で脚立に昇って、造花を花瓶から取り除いた。
    透明な花瓶の中には薄く色のついた水がいっぱいに入っていて、その水面が波立っているのがよく見えた。

    麗華は魔法の杖を持って花瓶の回りをくるりと巡った。
    そして花瓶の手前で仁王立ちになると、杖を高く掲げて何かの呪文を唱えるような仕草をする。
    場内に雷の音が轟いた。
    ステージが真っ暗になり、稲光のような閃光が何度か瞬いた。
    雷鳴と稲光は10秒ほども続いただろうか。
    やがて雷が止み、ステージがゆっくりと明るくなった。

    透明瓶の水の中の美女

    花瓶の中に何かが入っていた。
    色黒と色白の美女が水中で抱き合って笑っていた。
    一人の肌は特に濃い褐色で、それぞれの肌色の明暗がよいコントラストになっていた。
    水中から差し上げられた手がひらひらと動く。
    会場から一斉に拍手が起こる。
    彼女達はどうやって花瓶の中に登場したのだろうか。それとも息もできない水の中にずっと潜んでいたのだろうか。
    麗華が杖で花瓶の口を軽く叩くと、美女達は一人ずつ、肩をすぼめ、狭い口から身をくねらせて出てきた。
    まず褐色の肌の美女。続いてもう一人の美女。
    男性助手が手を取って、彼女達が脚立に降り立つのを手伝う。

    二人は極小の黒いビキニをつけていた。
    大きく盛り上がった乳房とその谷間。きゅっとくびれた腰によく張ったお尻と大腿部。
    どちらもプロポーション抜群の美女である。
    客席の男性客だけでなく女性客も彼女達のボディに見とれる。
    二人は花瓶の中から出てきて、ずぶ濡れだった。
    自分で髪を軽く絞ってから、猫のように伸びをしてポーズをとった。
    ビキニのお尻から針金の尻尾が生えて揺れている。
    その尻尾の先端は黒い三角形になっていた。
    二人は、いや二体はサキュバス(女の悪魔)なのだ。

    5.女魔道士とサキュバス
    男性助手が花瓶と脚立を引き下げると激しいエレキギターの音が響いた。
    音楽と同時にステージの照明が薄紫色に変わる。
    サキュバスの美女が踊り始めた。
    腰を振りながら、自分で巨乳を持ち上げる。
    片足をほとんど垂直に上げてI字バランスしたかと思うと、高くジャンプ。
    床に伏せて前後180度開脚。
    バレーでもなく、ジャズダンスでもない、独特のダンスだった。

    その間に女魔道士はステージから客席に降りて来た。
    通路を巡って、女性客にばかり近づき、遠慮なく顎や胸を触った。
    やがて一人の女性の手を取って立たせた。
    その女性はしばらく恥ずかしがって遠慮していたが、喜んだ周囲から背中を押されて通路に出てきた。
    拍手が起こる。
    女魔道士はそのまま女性を連れてステージに上がった。

    ステージに上げられたのは美紀だった。
    濃緑色のワンピースの下に濃いベージュのストッキング。耳元に銀色のイヤリングが光っている。
    その耳元に女魔道士の麗華が何かをささやく。
    美紀は一瞬驚いた顔をして、それから覚悟したようにゆっくり首を縦に振った。
    麗華がにやっと笑う。

    音楽がさらに激しくなった。
    ステージの照明は明暗を繰り返し、床に並んだ回転ライトの光が目を惑わす。
    二体のサキュバスは両脇のポールにすがりつき、ふわりと身を浮かび上がらせる。
    それぞれ片膝をパイプに絡ませて回転した。
    ポールダンスである。
    彼女達はポールダンスからストリップ、イリュージョン、緊縛モデルまでこなすプロのダンサーだった。
    KSのショーにもしばしば登場していて、この日のイベントでも洋子の依頼で快く出演してくれたのであった。

    ステージの中央では美紀とその後ろに麗華が立っていた。
    頭上から2本のロープで水平に吊るした竹竿が降下してきた。
    その竹竿に藤の蔓で編んだ籠がかかっている。
    麗華は手を伸ばしてその籠を持ち中身を床にぶちまけた。
    それは大量の縄束だった。
    おぉ・・。
    客席から小さなざわめきが響く。
    期待に満ちたざわめきだった。
    麗華が縄束をひとつ拾い上げると、美紀は目を閉じて両手を背中に回した。

    6.美紀の緊縛
    美紀を縛る。
    それを決めたのは妙子だった。
    客席から女性を一名、事前の承諾なしで舞台に上げ、そのまま縛るのは最初からの演出プランだった。
    誰を選ぶのか、それはイベントの主(ぬし)であり演出担当である妙子に一任されていた。
    妙子は最初の舞台挨拶のときに客席を見回して、そして緊縛の生贄に美紀を選んだのである。
    いきなりの誘われても断らない女性、人前でも縛られることに悦びを感じる女性。
    それは、この日の会場で美紀が一番だと妙子の勘が教えてくれたのだった。

    ステージの両脇ではサキュバス達によるポールダンスが続いている。
    そして中央では女魔道士の麗華と、麗華に縛られている美紀。
    美紀はずっと目を閉じていた。
    わずかに眉間にしわを寄せて、縄の刺激に耐える。
    その美紀の胸の周囲を縛る縄を、麗華が背中でぎゅっと引き絞った。
    思わず口を半開きにして、天井を見上げるる美紀。

    そのとき、後方の赤い幕が音もなく床に落ちた。
    おお~っ!!
    客席から今度は大きな声が響いた。
    誰もがその数を数えた。
    いち、に、さん、・・・なな、はち、きゅう!
    そこには九人もの女性がずらりと横吊りにされていた。
    ステージに長い梁(はり)が水平に吊られ、そこから五人の女性。
    さらにその下にもう一本の梁が吊られて、そこから四人の女性。
    女性達のポーズと縛り方は一様ではなかった。
    上半身の縛り方だけでも、両手を背中で縛る後ろ手縛り、手首を高い位置で縛る高手小手、頭の後ろで縛る後頭両手縛り、さらには片方の手を肩の上、反対の手を背中から縛る鉄砲縛り。
    下半身も足を伸ばして閉脚で縛るだけでなく、膝で折ったり、さらに膝で折った足を開脚させたり様々なポーズで縛られていた。
    そうして縛り上げた女性の上半身や腰、太股や足首などに縄を掛けて、水平または頭を斜め下に向けた横吊りで梁から吊るしているのである。
    目隠しや猿轡をされている女性もいた。

    この女性達は、北見四川ブログの緊縛モデル募集に応募した四川のファンである。
    イベントショーが始まる前に、KSから来た黒川、長谷川と瀬戸が分担して緊縛し、幕の後方に吊るされていたのだった。
    衣装は彼女達が自分で選んで持ってきたものなので、ワンピース、ミニスカート、ショートパンツ、着物、など様々だった。
    中にはセーラー服で縛られている女性までいる。
    目隠しや猿轡も、本人の希望で施されたものである。
    ほとんどの女性が緊縛初体験だったが、女性一人ひとりの体格や身体の柔らかさなどに応じて無理のない緊縛を施し、さらに多めの縄で体重を分散して梁に吊るされてにした。
    このため、吊るされてからもう1時間近く過ぎているのにも関わらず、どの女性も苦痛を感じることなく、うっとりとした表情をしていた。
    中には感情が高まって涙を流したり、声を出して喘いでいる女性もいた。
    綺麗・・。いいなぁ・・。
    客席の女性達は一様に羨望の眼差しで彼女達を見る。
    北見四川が考案した舞台演出。それは、自分のファンを縄で縛り、ずらりと並べて飾ることだった。

    ステージではその間にも麗華が美紀を縛っていた。
    やがて美紀も、頭上に渡された竹竿から縄で横吊りにされる。
    ワンピースのスカートが太ももの根本近くまでずり上がっていた。
    美紀はそれを気にして腰をくねるように動かすが、それでどうとなるものではなかった。
    すると麗華は、ずり上がったスカートを一層たくし上げてしまった。
    股間まで露出したパンストの下に、黒っぽいショーツが透けて見えた。
    パンストの下にショーツが透けて見える。
    「ああっ・・」
    美紀が思わず上げた声。
    それはただ恥ずかしいだけではなく、被虐の中で興奮していることを示す声だった。

    麗華が両手を広げると、竹竿に吊られた美紀がそのまま宙高く浮上した。
    後方にはオブジェのごとく並べて吊られた女性達。
    左右にはポールにまとわりついて踊り続けるセクシーな二体のサキュバス。
    激しく鳴り続ける音楽。明るさと暗さを繰り返すライト。
    ステージの雰囲気は最高潮に達していた。
    そのとき。

    7.瀬戸、登場
    音楽が止み、会場が真っ暗になった。
    客席の後方にスポットライトが当たり、そこから一人の男性が通路を走ってきた。
    青いシャツと黄色いズボン。頭にヘルメットのようなヘッドバンド。足元はブーツカバー。
    そして腰のベルトにはサーベル。
    どこかのRPGで見たような勇者の格好である。
    勇者はそのままステージに上がると、目の前の女魔道士に向かって人差し指を突きつけた。
    お前を成敗する。その指が語っていた。

    この男性は瀬戸宗弘である。
    北見四川に指示された演出とはいえ、こんな格好で舞台に登場するのは恥ずかしかった。
    恥ずかしかったが、黒川や長谷川、洋子まで自分を推薦してくれたのだから出ない訳にはいかない。
    リハーサルの時には四川から何度も「照れないで!」と叱られていた。
    とりあえず、恥ずかしがらずに役に集中するしかない。

    女魔道士はにやっと笑って、右手を上げた。
    麗華は恥ずかしがらずにど堂々としている。
    いつの間にかポールから降りていた二体のサキュバスが交互に勇者に襲いかかった。
    アクロバチックに前転、側転、そしてバク転をしながら勇者に迫っては離れる。
    その見事な動きに客席から拍手と歓声が起こる。

    左右から同時にジャンプしてきたサキュバスに向って、勇者の両手から白い蜘蛛の糸のようなものが広がった。
    ペーパーストリーマー(投げテープ)、歌舞伎弾などと呼ばれる小道具である。
    二体のサキュバスは床に倒れて、大げさに苦しむ演技をする。
    勇者は床に散らばった縄束を取り上げると、一体のサキュバスに跨ってその両手と両足を縛り上げた。
    そのスピードは、先ほど麗華が美紀を縛ったスピードよりはるかに早かった。
    片方を縛るともう一方も縛る。
    二体のサキュバスの肌に縄が食い込んでいた。
    最小限の縄で動きを封じる、捕縄術と呼ばれる早縄の技術である。

    勇者は縄で縛られてもがくサキュバス達を足で蹴って床に転がすと、次に女魔道士に向った。
    逃げようとする女魔道士の手を捕らえると、その手を背中に捻り上げた。
    いよいよ勇者、瀬戸による女魔道士、麗華の緊縛である。
    瀬戸は麗華を後ろ手に縛ると、床にうつ伏せに寝かして足首も縛った。
    右手を上げて合図をすると、天井から鎖で吊られた金属のフックが降りてくる。
    そのフックに縄を繋ぎ、麗華の手首と足首に繋ぐ。
    再び合図をすると、フックが上昇を始めた。
    背中と足首の2点だけで支持された麗華の身体が反り返った。
    その腰は90度以上の角度で逆海老に折れている。
    「あぁ・・ぁ!!」
    女魔道士が上げた悲鳴は、演技ではなく本当に苦しいことを示していた。
    そのまま3メートルほどの高さまで吊り上げる。

    男性助手が大きな木製の箱を台車に乗せて運んできた。
    瀬戸は助手と協力して、床に転がしていサキュバスを抱え上げた。
    縄で縛ったまま、一体ずつ投げ込むようにして箱に入れた。
    蓋をして、周囲を釘で打ちつける。

    瀬戸は空中に浮かぶ麗華の真下に木箱を移動させ、その上に立った。
    縄を投げて麗華の腰に掛け、垂れ下がった縄尻を両手で握った。
    大きく深呼吸。
    そのまま足を浮かせて、ぶら下った。
    「あぁあああ!!」
    客席のほとんどの女性が麗華と同時に叫んだ。
    瀬戸の体重は逆海老になった麗華の腰と、全体を支える麗華の手首足首にかかった。
    麗華の身体は信じられないような角度に折れ曲がり、客席の何人かは彼女の背骨が折れたと思った。
    瀬戸と麗華の身体はそのままゆっくり回転する。
    その直後、瀬戸は両手を離して箱に飛び降りた。
    すると、瀬戸が降りた木箱はそのままぺちゃんこに潰れてしまったのだった。

    頭上では残酷な逆海老に縛られた女魔道士の麗華が、空中でコマのように回転している。
    その下には潰れた箱の残骸の上に立つ勇者の姿の瀬戸。
    客席は一瞬、沈黙し、その後大きな拍手と歓声が起こったのだった。
    箱の中に入っていたはずの二体のセクシーな美女はどこへ行ったのだろうか?

    8.ショーの終わり
    ショーはこの後、黒川と長谷川も出てきて、緊縛されていた女性達を解放して終わった。
    全員を解放するのに10分以上も要したが、解放されるとき一人ひとりが様々な反応を示すので、見ていて誰も退屈しなかった。

    手前で横吊りにされていた美紀は、呆然とした様子で開放された。
    KSを引退してから、緊縛されたのは初めてのことだった。
    きょろきょろ回りを見回して、我慢できないように溜息をつき、綾乃に肩を抱かれて客席に戻った。

    逆海老に吊られた麗華は泣いていた。
    FB/EAとして相当な経験のある彼女だったが、こんな舞台で主役を務めたのは初めてだった。
    逆海老の腰に瀬戸がぶら下った演出は、その後のサキュバス消滅のイリュージョンを一層衝撃的に見せるため、麗華から申し出たことだった。
    稽古やリハーサルでは形だけを何度も確認し、そして本番では落ちる(意識を失う)ことも覚悟してのガチの拷問だった。
    縄を解かれた後、瀬戸の胸の中でぼろぼろ泣き続ける麗華に客席から拍手が贈られる。
    一緒に責められた気持ちになって泣いている女性客もいた。

    そして次々と解放されるバックで吊られていた女性達。
    その中に、白いブラウスと薄紫色のタイトスカートで、目隠しをされた女性がいた。
    彼女は解放されて、少し足元をふらつかせたものの、舞台の正面に立つと客席に向って深々とお辞儀をした。
    ええ~!!
    皆が驚いた。
    アップにしていた髪を解いていたのですぐに分からなかったが、それは、このショーのシナリオと演出を担当した作家・北見四川その人だった。
    彼女は、自らも緊縛のオブジェとして吊られていたのである。

    続き




    キョートサプライズ セカンド・第9話(2/3) 星降る夜のプレゼント

    [Part.2 宴の後]

    9.帰宅
    美紀は名古屋の自宅に帰ってきた。
    まだ胸がどきどきしている。
    まさか、縛られるなんて!
    KSを引退してから緊縛を受けたのは初めてだった。
    ・・FBをしていた時代、自分の身体は自分のものではなかった。
    縛られ、責められて、その代わりに被虐の悦びを感じていた。
    苦しみと官能の中で喘ぐ姿をお客様に楽しんでもらう。それは女にしかできない役務。
    しばらく忘れていた思いが蘇ってくるようだった。

    夫は自分がKSでFBをしていたことは、もちろん知っている。
    彼は自分を理解してくれている。
    でも、夫自身にはその趣味はなかった。
    結婚してから6年、娘のこころが生まれ、穏やかで幸せな毎日だった。
    幸せはこれからも続くと信じている。
    だから、この思いは忘れないといけない。
    いつまでも、被虐の興奮に浸ってはいられない。

    ・・でも、今は。
    あたし、縛られた。人前で縛られて、吊られた。
    ぜんぜん、イヤじゃなかった・・!
    今だけ、許してもらおう。
    今夜だけ、トイレでオナニー、させてもらおう。
    それから、彼に優しく抱いてもらおう。

    「お帰りなさいっ。ママ!!」
    玄関を開けると、こころが飛んできた。
    「まだ起きてたの? こころ」
    「うん!」
    「パパは?」
    「お仕事だって。電話かかって出ていった」
    そうか。また会社から休日呼び出しか。
    「こころちゃん、ママが帰ってくるまで寝ないって、頑張ってたのよ。もう眠くてしかたないはずなのに」
    義母がやってきて笑って言った。
    「しょうがないねぇ。この子ったら」
    美紀は娘を抱き上げた。そのまま布団に運ぶ。

    「さ、もう寝ようね。明日起きられなくなるよー」
    「ね、これ何?」
    「ん?」
    娘は自分の手首を指差していた。
    そこには、くっきりと縄の痕が刻まれていた。
    !!!
    「こ、これはね、ちょっと輪ゴム巻いてたからかなー?」
    「そぉなの? すごくたくさん巻いてたんだね」
    「えへへ、そーなのぉ」
    あぁ。
    ・・実はね、ママ、たくさんの人の前で縛られたの。
    ・・ものすごく恥ずかしくて、ドキドキしちゃった。
    心の中でつぶやいた。
    どき、どき。
    本当に心臓が割れそうだった。
    ああ。

    10.打ち上げ
    「カンパーイ!!」
    居酒屋は女性達で盛り上がっていた。
    ぐびぐびぐび。ぷはーっ。
    ジョッキを飲み干した洋子が向かい側に座った女性に言った。
    「ナルミちゃん。あんたらもいい加減KSの専属になりなよ~」
    「がははは」
    ナルミと呼ばれた女性も豪快にジョッキを空けてから答えた。
    「へっへっへ~。ウチらは引く手あまたなんやで~、ね、セリカ」
    「そうそう。それにナルミは休みが不規則だから決まったとこに専属は難しいよねぇ」
    セリカと呼ばれた女性も答えた。
    彼女達はショーでセクシーなサキュバスを演じたダンサーである。
    「へぇ、あんた達、普段は何やってるの?」
    「セリカは歯科衛生士、ウチは会計士やねん」
    「ええ? 会計士って公認会計士ですか? すごい!」洋子の隣に座った典子が驚いて言った。
    「がはは。驚いたか」
    「二人とも、ダンスのコーチとかされてるんかと思ってました」
    「スクールの講師なんかでメシは食われへんもん」
    「そうそう。好きなことするには、しっかりした副業が必要」
    「・・公認会計士に歯科衛生士が副業って、この人ら、何なのよ」みずほが小声で言う。

    「どや! キョートサプライズさんもウチとこの事務所と契約せえへん? お安くするよう所長に計らうで」
    ナルミが洋子に向かって言った。
    「イヤよ。ナルミちゃんなんかにこっちの弱みを握られたくないわ」
    「がははは」
    「KSさんは大丈夫だよ。アタシら、いろんなとこで踊るけど、KSさんはいつ行っても皆明るくて元気だもん」セリカが言った。
    「そや。特に若い子が頑張ってる組織は健全やねんで。・・そぉいうたら今日も、ええ子がいたやんか」
    「いい子って、麗華ちゃんと瀬戸くんのこと?」
    「そうそう。あの男の子、上手に縛ったわねー。アタシ、乳首立っちゃったもん」
    「おおぉ、ウチなんか、子宮がきゅんきゅん音たてて感じたで~っ」
    「・・ちょっと、あんたら、あけすけに言いすぎ」洋子が二人に言った。
    「店員さんが困ってるでしょ~」
    テーブルの脇で、料理を運んできた女の子が真っ赤な顔をして立っていた。
    「あっ、悪いわるい!」
    「きゃはは」「ほほほ」

    「そういや、麗華ちゃんと瀬戸くんはどこ行ったのよ?」洋子が典子に聞いた。
    「ああ、一緒に帰りましたよ。二人で打ち上げでもするのかしら」
    「ええ~? 瀬戸めぇ、あやついつの間に、ウチの綺麗ドコロを」
    「何言ってるんですか。プライベートは自由でしょ」
    「すみませーん! あさりバターとししゃも。それと燗酒を3本」
    「あれぇ? 美紀ちゃんもいない~」
    「もう、美紀は2部の前にちゃんと挨拶して帰りましたでしょ?」綾乃が洋子に言った。
    「お子さんが待ってるんだって。ご主人もお仕事で忙しいみたいだし」
    「大変だね~、家庭のお母さんは」真奈美が言った。
    「真奈美さんはまだ家庭に入らなんですか?」綾乃が真奈美に聞く。
    「へっへ。あたしにゃ主婦は無理。子供は欲しいけどね」
    「ねぇねぇ、なら妙子しゃんがおらへんのも、帰っちゃったの?」
    「妙子さんは、出版社の人とお付き合いがあるって、この店には来てません!」
    「すみませーん! 熱燗3本やなくて5本で」
    「うー、皆みんな、この洋子さんを差し置いて好きにするんやから~」
    「お、悪酔いしはじめたよ。うちの社長」
    「変わっとらんの~」
    「この人にもフックかけて吊るしたらよかったのに」
    「ほんまほんま」
    「すごかったねぇ。サスペンション」みずほが言った。
    「あたしゃ、ああいうの駄目だと思ってたけど、最後まで凝視してしもたわ」
    「ああ、私も」「うんうん」
    「すごく綺麗やった」

    話題になっているサスペンションとは、ショーの第2部で行われたボディサスペンションの実演のことである。
    これは四川の新作小説が、ボディピアスや身体改造をする人々をテーマにしているために、専門家を招いて行われたのだった。
    ボディサスペンションとは、人間の皮膚に多くのフックを刺し通して吊り上げる、極めて嗜虐的なパフォーマンスである。
    苦手な人には見ないことを勧める旨の案内があったが、女性を含めて退席する客はほとんどいなかった。
    「ボデサスって、最初に刺して吊り上げるまでと、最後に外すときが痛いんだって」
    「あー、分かるぅ」
    「あの子、ぜんぜん平気そうな顔をしていたけどね」
    パフォーマンスでは、うつ伏せに寝た少女の背中と足の後ろに釣り針のようなフックを多数突き刺し、それぞれに細い紐を通して金属の枠に繋ぎ、その枠ごと高く吊り上げたのだった。
    少女は全身にタトゥを施していて、頬や乳首、へその周囲にピアスを通していた。
    フックを突き通すときも吊られている間もいたって無表情だったけれど、最後にフックを外すときに流れた血を自分で指にとって、陶然とした顔をしていたのが印象的だった。

    「ね、典ならされてみたいんやないの、ボディサスペンション」純生が典子に聞いた。
    「え、私? ・・そやね。一回だけ、吊られてみたいかな」
    「うふふ」
    「ねぇ、ナルミさんとセリカさんは、どうですか? ああいうパフォーマンス」
    「ウチら? 痕が残るんは困るけど、それ以外の仕事やったら何でもするで」「そうそう」
    「さすが、プロ」
    「あんたらかて、プロやんか」「おたくの社長さんも、ものすごいMだったって聞いてますけど~?」
    「洋子さん、洋子さんっ」「・・れ? あたし?」
    洋子は徳利の日本酒を自分でビールのジョッキに入れて飲んでいた。
    「洋子さんは、ボディサスペンション、どうですか?」典子は洋子の耳元に口を寄せて大声で聞いた。
    「ボディペインティング?」
    「こいつ、わざとボケとるんか?」みずほと真奈美がそろって突っ込む。
    「ボディペインティングやありませんっ。洋子さんも見たでしょ? 女の子が背中に針刺して吊られるパフォーマンス」
    「え? あれっ? ・・イヤよー。痛い目に合うのは嫌い。想像するだけでオゾオゾってなるやなぁい」
    「へ」
    「可愛い女の子が痛い思いをするのを見るなら好きだけどー」
    「はぁ、もう好き勝手に言ってますね~」

    11.星空の下
    「寒~っ」
    店の外に出ると、都会の夜空に星がよく見えていた。
    「キレイ~!!」
    「大阪の市内でも、こんなに光って見えるもんなんやね」
    「今日はお月さんが出てないし」
    皆でぽかんと空を見上げる。
    「あ、流れ星」「え、どこどこ?」
    「見えなかったじゃないの。次は流れる前に言いなさい」「洋子さん、それは無理」
    「知ってます? クリスマスの夜の流星群」
    「いて座流星群でしょ。寝ないで見なきゃ」
    「私らは無理ね。一年で一番忙しい日だし」
    「そっかぁ。あいかわらず儲けてるのね~」
    クリスマスのシーズンはイベントやパーティが多いので、KSのEA/FB達はフル稼働で働くのである。
    ・・流星群かぁ。忙しくても何とか見たいなぁ。
    空を見上げる綾乃の脳裏に、突然、美紀の姿が浮かんだ。
    横吊りにされた美紀。可愛かったな。
    いきなり引っ張り出されて、びっくりしたよね。今度、お礼しなくちゃね。

    12.電話
    こころを寝かしつけたところで、夫から電話があった。
    一度帰宅して、すぐにインドネシアのジャカルタへ出張するという。
    美紀の夫は、中国や東南アジア向けの製品を輸出する会社に勤めていて、このような急な出張は珍しくなかった。
    仕方ないなぁ。
    タンスから夫の夏物の着替えを出してくる。日本は冬でもあっちは常夏なのだ。
    用意をしながら大きな溜息をついた。
    パーティ、どうしよう? こころ、寂しがるよねぇ。
    そのとき、再び電話が鳴った。
    「・・みっきぃっ。今日はありがと~!」
    綾乃の声だった。
    「アヤ~!!」
    自分で声が若返るのが分かった。滅多に会えなくても、綾乃は高校時代からの親友なのだ。
    「ううん、ぜんぜん平気っ。・・手首に縄目が残ってて、娘にこれ何って聞かれて、焦った焦った」
    まだ、あの感覚は残ってる。うずうず、どきどきする感覚。
    「縛られるなんて、KS辞めて依頼。夫はそういうこと、しない人だし。アヤこそ縛ってくれる人はまだいないの~? きゃはは」
    屈託のない笑い。
    「え? あ、うん。彼、忙しいみたい。クリスマスも出張で帰ってこれないかもって。うん。仕方ないから娘と二人でケーキ食べるわ」
    ええ~! 電話の向こうで綾乃が驚いている。
    「ま、いつも家族揃ってられる訳じゃないのは分かってるし。娘はちょっと寂しいだろうけどね。・・え? プレゼント!?」
    綾乃からの突然の提案。
    「いや、駄目ってことじゃないけど、クリスマスでしょ? KSのハイシーズンじゃない。そんなことする余裕は」
    また、あの感覚が強くなってきた。
    どき、どき、どき。
    綾乃と電話で喋りながら、心臓の鼓動が高まってくるのが分かった。

    続き




    キョートサプライズ セカンド・第9話(3/3) 星降る夜のプレゼント

    [Part.3 クリスマスの夜]

    13.真奈美
    クリスマスの夜。
    真奈美は婚約者の八木一馬と二人で過ごしていた。
    「・・久しぶりだね」「そうかな」
    まだ結婚していないとはいっても、真奈美は八木の住まいで同居しているから、実際には夫婦と変わらない。
    運送会社の副社長兼トラック運転手の八木はいつも帰宅が遅いので、縄を掛けてもらうのは久しぶりだった。
    ・・ぎぃ。
    「あ、撓ったっ。・・ね、聞こえた? 縄の音」
    「聞こえましたよ。でも、そんなことでいちいち騒がないで、おとなしく縛られてなさい」
    「あ、ゴメン」
    真奈美は上下逆のままで神妙な顔をする。
    足首に集中する体重は痛かったけれど、耐えられないほどのものでもない。
    縛り終わった八木が腰に手をあててそっと押してくれた。

    逆さ吊りになった真奈美の身体が振り子のように揺れた。
    頭に血が昇ってくる感覚が心地いい。
    ・・ぎぃ。・・ぎぃ。
    また縄の音がする。いい音だなと思った。
    「ね、」
    「何?」
    「いつも忙しいのに、ありがと」
    「こちらこそ、めったに縛ってあげられなくて済まないと思ってます」
    「いいよ。その代わり今夜はいっぱい縛ってくれる」
    「もう縛ってるでしょ。しかも逆さ吊り」
    「まだまだ物足りないよ。あたしの何もかも、ぎちぎちに。・・息もできないくらいに」
    「息ができないと、死んじゃうと思うけど」
    「んー。それは困るかなぁ。とりあえず2~3時間くらいなら、殺されても構わないんだけど」
    「それはちょっと無理」「そう? えへへ」
    「真奈美を殺してあげられなくて、残念だな」
    「わたしも」
    八木は笑って、逆さ吊りの真奈美の頭を両手で押さえると、キスをした。
    真奈美も微笑んで婚約者のキスを受け入れる。

    14.ボディピアススタジオ『B-SHOP』
    レザーを敷き詰めたベッドに石原妙子がうつ伏せになっていた。
    身に着けているのは小さなショーツ1枚きりである。
    「本当に構わないんですね? 先生」
    脇に立った大柄な男性が聞いた。男性の耳と唇には大きなピアスリングが光っていた。
    「傷は治りますが、痕は残りますよ」
    「はい。理解しています」
    「今までいろんな取材を受けましたが、ボディサスペンションを真似事でなく本当に受けたいと希望したのは北見先生が初めてですよ」
    「自分で経験しないと、分からない世界だと思いますから」
    このショップは、妙子が作品を書く際に取材したところである。
    男性はこのスタジオの店長で、先日のイベントでモデルの少女にフックを掛けて吊り上げた人でもあった。
    「続編でもサスペンションを書くんですか?」
    「まだ、分かりません。・・でも、もっと深く、知りたいと思いました」
    「そうですか」
    この世界の経験が長い男性は妙子を見て、思う。
    SMを願望で書くだけの作家じゃないな。
    これは、本当の "被虐" を知っている目だ。
    いろいろな被虐を経験していて、さらにこれからも、貪欲にあらゆる被虐を求める目だ。
    ・・なら、身にしみて知ってもらって構わないだろう。
    男性はフックを一本手に持って、妙子に見せた。
    「まず、これをあなたの肩に刺します」
    妙子はしばらく黙ってフックを見つめた。
    「・・太いですね。思ってたより、ずっと」
    「止めますか」
    「いいえ、やって下さい。それから、この後も一本ずつ私に見せてから突き通して下さい」
    妙子の目がいっそう妖しく輝いた。
    「分かりました」
    男性はそう言って、妙子の背中の肌を摘むように持つと、無造作にフックを突き通した。
    「はぁう!」妙子が声を上げた。
    「・・次はこのフックです。反対の肩に刺します」
    「はい、お願いします。・・・はぁ!!!」

    妙子の息遣いが次第に荒々しく変わって行く。
    うつ伏せの背中と太ももにフックを掛けて吊り上げるスタイルは、そのポーズからスーパーマンスタイルなどと呼ばれる。
    やがて妙子もスーパーマンのように宙に浮かび上がった。
    「・・く、・・・はぁ」
    苦痛と快楽の入り混じった世界。
    小さく喘ぐ妙子。
    それは、もはや作家・北見四川ではなく、一人のM女の姿だった。

    「・・そういえば、今夜は流星群が見れるってニュースで言ってたなぁ」
    男性がのんびりと世間話でもするように言った、
    「どうです? 先生。後で一緒に見ませんか?」
    「こ、こんなときに、そんなことを言うんですか」
    「まあ、クリスマスの夜にこんな酔狂な客の相手をしてるんだ。構わないでしょう」
    「ふ・・。そうですね。言われてみれば」
    「さ、少し揺らしましょうか。・・もう、痛みも気にならないでしょう?」
    「ええ、お願いします。揺らして下さい。風に吹かれる木の葉のように」

    15.京都市内マンション
    はぁ・・。
    深く、長く息をついたのは洋子である。
    「まだまだ柔らかいね」小木真一が言った。
    洋子の手のひらは背中でぴたりと合わさっていた。
    縄は手首だけでなく指の一本一本にまで巻きついて、まるで背中で拝んでいるようなポーズを強要している。
    後ろ合掌縛りだった。
    「昔と変わらない?」
    「多分ね。加齢と共に関節の稼動範囲は狭くなるもんだけど」
    「こら。医者でもないくせに『加齢』なんて言葉使うな。歳とるのはウチだけやないんやでぇ~」
    「あの、一応、元・医者なんですけど」
    「うるさーい。歳の話は禁止」
    「はい、はい。・・じゃあ、僕ら、結婚したの何年前でしたっけ」
    「んなこと、忘れたわ」
    小木は元麻酔医で、かつての洋子の夫である。
    離婚したとはいえ、今でも時折こうして一緒に過ごしている。

    「・・この部屋はいつまでも昔のままねぇ。いい加減、模様替えくらいしなさいよ」
    洋子は小木の寝室を見回して言う。
    ここは、かつての夫婦の寝室でもあるのだ。
    「そうだねぇ。洋子が一緒に模様替えしてくれるなら、ね」
    「どういう意味よ」
    「さあね。・・電気、消すよ」
    「ん」
    小木が部屋の明かりを消した。
    縛ったままの洋子を抱きしめて、ベッドに倒れ込んだ。

    「あ、そーだっ」「どうした」突然身を起こした洋子を小木が怪訝な顔で見る。
    「今夜っ、流星群!」「そんなのあったけ」
    「あるの!」
    洋子はベッドから飛び出すと居間の方に走っていった。
    小木は苦笑いしながらシャツを羽織る。
    「開けてぇ、真一ぃ~ん」
    居間に行くと、洋子が後ろ合掌縛りのままでベランダに出るガラス戸の鍵を開けようとしていた。
    アホなことを。
    「開けたげるから、これ着なさい」
    小木は自分の毛糸のセーターを洋子の頭から着せた。
    あ、縛ったままだけど。ま、いいか。

    鍵を開けて二人でベランダに出た。
    「・・で、どっちの空?」
    「知らない」
    「あのねぇ」
    「そのうち出るわよ」
    仕方ないので、そのまま洋子と並んで適当な方角を見上げる。
    この夜も、雲のない空にはたくさんの星がきらめいていた。
    「洋子、寒くない?」
    「大丈夫」
    「・・」
    「・・」
    「・・ね、さっきの話だけど」
    「?」
    「部屋の模様替え」
    「あぁ」
    「そろそろ、戻ってこないかい?」
    「え?」
    「洋子が戻って、また一緒に住めるようにしないかい?」
    「そうねぇ」
    「・・」
    「もう!!」洋子が突然叫んだ。
    「へ」
    「ぜんぜん見えないじゃないっ。新聞じゃ、1時間に50回は流れるって書いてあったわよ」
    なら1分に1回も流れないってことじゃないか。小木は思ったが口には出さなかった。
    その代わりに洋子を後ろから抱きしめた。
    背中で縛られた腕が小木の胸に当たる。
    「あぁっ」洋子が小さく声を出した。
    「う、動けないわよ」
    「もともと動けないだろ。縛られてるんだから」
    「・・もっと」
    「何」
    「もっと強く、押さえて。ぎゅっと」
    小木は力を入れて洋子を抱きしめた。
    「はぁ・・ん!」
    きらり。
    流星がひとつ流れたが、二人はそれに気がつかなかった。

    16.美紀の家のクリスマスパーティ
    夜になって、かなり冷え込んでいた。
    名古屋市内の住宅地の道路を幌付の軽トラックが走ってきて、とある家の前に停まった。
    運転席から降りた女性が荷台から荷物を降ろして台車に乗せる。
    台車を押しかけて、それから思い出したように運転席に戻り、茶色い頭巾を頭に被った。
    その頭巾にはトナカイの角がついていた。

    ピンポーン。
    「はーい!」
    小さな女の子が走ってきて玄関を開けてくれた。
    「いらっしゃいませー!」
    「まぁ!」台車を押してきた鈴木純生が目を細くして聞いた。
    「あなたが、こころちゃん?」
    「はいっ。むらしま、こころですっ」
    「よくお名前言えました~」
    奥から腰にエプロンをつけた美紀がやってきた。
    「純生さん、遠いところ済みません」
    「いーのよ! さ、こころちゃんへプレゼントを持ってきましたよ~っ」
    「うわぁ、大きい!」
    それは円筒形の箱だった。
    銀紙で包んで、その上から赤いリボンで飾られている。

    純生はその箱にベルトを掛けると、ひょいとお腹に乗せて持ち上げた。
    手馴れた扱いである。
    そのまま美紀に案内されて居間に箱を運んだ。
    ・・え~っと、こっちが正面。
    向きに注意してテレビの隣に置く。
    箱の背後にある蓋のロック鍵を解除する。これで、いつでもオープン可能である。
    「ママ、開けてもい~い?」
    「まだよ。お皿運ぶから手伝って」
    「はぁい」

    台所から料理を運んでテーブルに並べた。
    今、こころのパパは外国でお仕事中だから、お料理は、こころとママと、それからお客様と合わせて四人分。
    「・・あれ? 三人だよ?」
    「あと一人はサンタさん」
    「サンタさん!?」
    「そろそろ呼ぼうっか?」
    「うん!!」
    美紀とこころ、純生の三人でサンタを呼んだ。
    サンタさーん!!
    プレゼントの箱がごとんと揺れた。赤いリボンがひとりでにするすると解け、上面の蓋が二つに割れて開いた。
    丸い箱には白い発泡スチロール片がいっぱいに入っていた。
    と、そのスチロール片が周囲に溢れて、中から真っ赤なミニスカサンタのコスチュームを着た市川綾乃が立ち上がった。
    「メリークリスマス!! こころちゃん!」
    「うわ~っ!
    彩乃は、はるばる京都からプレゼントボックスに入って運ばれてきたのである。
    外の寒さも何のその。ずっと発泡スチロール片の中に埋もれていた綾乃の首筋には汗が光っていた。
    「はぁい、プレゼント!!」
    「ありがとうっ」

    箱から出てきたサンタにプレゼントをもらい、ご飯を食べて皆でゲームをして、こころか寝ついたのは夜もずいぶん遅い時間だった。
    「うはぁ、やっと寝てくれたねぇ」
    「お疲れさまでした~っ」
    「ね、ここ流星見れるかな?」綾乃が聞いた。
    「あ、今日だっけ、流星群」「そう。見よぉって思ってたの」
    「なら上のベランダに行く?」
    皆で二階のベランダに出て、満天の星を見上げた。
    「うわーっ。よく見えるわ」「ここ、丘の上だからね」
    「あ、流れた!」「私も見えたっ」「また!」
    「すごいねー。ほんとに流星群だぁ」
    三人はそのまま黙って、次々と流れる流星群を見続ける。

    「・・こころがあんなにはしゃいだの、久しぶりだわ」やがて美紀が言った。
    「ありがとう! 純生さん、アヤ!」
    「いいのよ。美紀とこころちゃんのためだもん」
    「アヤはまだEAやってるの?」
    「ううん。今日は他の子が忙しいから、何年かぶりで詰められた」
    「そっか」美紀は楽しそうに綾乃の顔を見る。
    「何よ」
    「ね、やっぱり京都で梱包して、そのまま来たんでしょ?」
    「当たり前でしょ。あたしら、KSやもん」
    「ドキドキした?」
    「え」
    「正直に言いなさい。ときめいた?」
    綾乃の顔がにわかに赤くなった。
    「あれだけスチロールを充てんしてたら身動きもできなかったでしょ? 中から絶対に開けられなくて、みじめでしょ?」
    「み、みきぃ、いったい何を言うのよー」
    「あはは」純生が笑った。
    「実はね、綾乃ちゃんったら、すごく心配してたのよ。名古屋まで何時間かかりますか! えぇっ、3時間? あたし平気でいられるかしらっ、なんて」
    「純生さんっ、それ内緒」
    「うふふ」「あはは」「えへへ」

    きらきらと輝いて流れる星の下、三人の女性達はしばらく楽しそうに笑う。

    「いいな。あたし、ちょっとアヤが羨ましい」美紀が言った。
    「なら美紀も入る? プレゼントボックス」綾乃が言った。
    「そうね。詰めるだけなら簡単にできるよ」純生も言った。
    「え、・・いいの?」
    「もちろん!」

    やがて、美紀をプレゼントボックスに詰めるために、三人は部屋の中に入っていった。



    ~登場人物紹介~
    石原妙子:33才。KSの元EA/FB。今は女流SM作家・北見四川(きたみしせん)として活躍している。
    岡崎真奈美:34才。KSの元EA/FB。今は運送会社に勤める婚約者の仕事を手伝っている。
    長谷川みずほ(旧姓・三浦):43才。KSの元企画担当者。
    市川綾乃:26才。元EA/FBで、今はKSの事務を担当している。
    鈴木純生(すみお):29才。現役最年長でEA/FBのリーダー。
    黒川典子:29才。元EA/FBで、今は企画担当マネージャー。
    島洋子:昔も今もKS代表者。
    張麗華:22才。現役のEA/FB。北見四川の出版記念イベントのショーで主役を務める。
    瀬戸宗弘:22才。KSの若手緊縛担当。同じくショーに出演する。
    黒川章:30才。KSの技術担当マネージャー。典子の夫。
    長谷川行雄:41才。KSの緊縛技術担当。みずほの夫。
    八木一馬:36才。真奈美の婚約者。運送会社の副社長兼トラック運転手。緊縛の腕は真奈美に仕込まれた。
    小木真一:洋子の離婚した夫で元麻酔医。今は喫茶店オーナー。
    ナルミ:28才。洋子が懇意にするポールダンサー。
    セリカ:27才。同上。
    村島美紀(旧姓・河井):27才。元EA/FB。現在は仕事で忙しい夫を持つ専業主婦。
    村島こころ:4才。美紀の一人娘。


    クリスマスのお話なのに、クリスマスも終わろうとする夜のアップになりました。
    少々遅刻ですがお許し下さい。
    今回は、作家・北見四川の出版記念イベントと、それに続くクリスマスの出来事をまとめたお話です。
    第1部のメンバーで再登場していなかった女性達を総さらえしました。
    それと、KSのショーに一度トップレスで登場してくれたポールダンサーさんにも再登場してもらいました。

    ショーでは私の好みの加減でM女性達を苛めさせてもらいました。
    以前にも中学生縄師で記者会見緊縛をしたことがありますが、こういうイベント絡みの緊縛は大好きです。
    今回は有◯剛氏がなさっているような芝居仕立てのショーとして、最後は主役の女魔道士を含めて女性全員が縛られる構成にしました。
    演出担当の女性が自ら縛られる演出も、有◯氏のショーに影響を受けたものです。
    ショーの第2部ではボディサスペンションを登場させました。
    こんなサイトを運営していながら、私は痛々しいのが苦手なので、サスペンションの実際はほとんど描写していません。
    しかしサスペンションに臨む女性の心理には多いに興味があるので、北見四川こと妙子さんが今後進む方向として示すことにしました。

    クリスマスの夜の流星群はもちろんフィクションです。
    本当は美紀の家のベランダで夜空を見上げる綾乃達に雪を降らせてあげたいなと書きかけたのですが、それをすると流星が見えないことに気付いて止めたのは秘密ですww。

    さて、KS第2部は第0話から1年半かけてようやく10本目。
    超スローペースですね。
    そろそろシリーズの終わり方も考えつつ、お話を繋いで行きたいと思います。

    ありがとうございました。




    キョートサプライズ セカンド・第8話(1/4) 3年4組緊縛お化け屋敷

    1.洛上高校3年4組教室
    クラス委員長の曽爾則之(そにのりゆき)が議決をとった。
    「賛成26、反対9。ではお化け屋敷のキャストは全員女子、ということで決定します」
    やったぁ! え~? いややぁ~、もうっ。
    教室の中に一斉に歓声と不満の声が溢れる。
    「静粛に~っ」「静かにして下さーい!」
    曽爾と副委員長の渡辺聡美が呼びかけるが黙る者はいない。
    ばんっ!!
    「はい、黙りなさい!!」
    担任の篠田智佐子が立ち上がると、大きな声で机を叩いて教室を静かにさせた。
    「みんなで議論して決めたんだから、もう文句は言わない! 反対してた人達もちゃんと決定に従うこと」
    おぉ~。小さなどよめきが起こった。
    多数決をする前までは、智佐子本人が、女の子だけのお化けは客寄せ狙いが露骨過ぎるのでないかと発言していたのである。
    「高校生活最後の文化祭を全員で楽しく盛り上げましょうっ」

    智佐子は昨年度新卒で赴任してきた2年目の新任教諭だった。
    担任を持つのは今年が初めてだから、何としても文化祭を成功させたかった。
    なかなかまとまらなかったクラス展示がようやく決まったからには、生徒達には早く結束して準備を進めて欲しい。
    智佐子自身の意見を主張しているときではないのである。

    「では、次の議題。・・キャストの方針が決まったので、お化けのデザインは富沢さんにお願いします。よろしいですか?」
    ぱちぱちぱち。これは全員が賛成した。
    大きな眼鏡をかけた富沢ほのかが立って挨拶する。
    「どうもぉっ。なら女の子のお化けを来週までに考えてきまっす。期待しててね~」
    彼女は漫研の部員で、高校生ながらインターネットのイラストSNSで人気を集めるCG作家でもあるのだった。

    「配役とスタッフは来週のLHで決めます。・・あと、何か、意見はありますか?」
    「はい」
    一番後ろの席に座っていた男子生徒が手を上げた。
    「津田くん、どうぞ」
    「せっかく高校最後の文化祭やし、先生にも出てもらわれへんか?」
    「えっと、それは、篠田先生にもお化けになってもらう、ということですか?」
    曽爾が聞いた。その目がきらりと光ったように見えた。
    「そうです」
    「えっ、私?」智佐子が驚いた。
    おお、ええぞーっ。面白~い! ええやんか先生も女やねんし~。
    クラス中が一気に盛り上がった。
    女だけのお化けに反対していた女子達も喜んで拍手をしている。
    「富沢~っ、先生の分も描いてきて~」
    「まかせて~っ。すごくセクシーなお化け描いてくるわ~!」
    わぁ~っ。ぱちぱちぱち・・。
    「ちょ、ちょっと」
    智佐子は慌てたが、もうどうしようもなかった。

    こうして、洛上高校3年4組のお化け屋敷プロジェクトはスタートしたのである。

    2.KS事務所
    仕事が済んで帰ろうとしたところで、瀬戸宗弘は凪元有咲(なぎもとありさ)と丸尾瞳に声を掛けられた。
    「瀬戸さ~ん♥」
    「ちょっとお話ししましょ♥」
    瀬戸はKSで梱包/配達のアルバイトをしている大学生である。
    ここで働くようになってようやく1年。KSでは有咲と瞳の方が先輩だった。
    そのせいか、瀬戸はこの女子高生コンビによくからかわれる。
    確かに最初の頃は失敗も多くて迷惑もかけたけれど、今はもう一人前だ。
    4才も年上なんだし、いい加減その小馬鹿にしたような馴れ馴れしい態度は止めて欲しいよ。
    「何ですか」
    「えへへ♥」「こっちこっち♥」
    「??」
    二人に両手を引かれて、1階の倉庫に連れ込まれた。
    こいつらが語尾にハートをつけて話しかけてくるときは、大抵ろくなことがない。
    「ここなら誰もいませんから」
    「うふふ。ウチら、瀬戸さんやったら襲われても抵抗しません♥」
    「あのね、大人をからかうのもいい加減に」
    「はいっ。これ」
    渡されたのは『ハロウィン・ホラーハウス 企画書』と記されたホチキス綴りの資料だった。

    瀬戸は訳が分からないままにページをめくった。

    20XX年10月、平和だった学園に異変が起こった。
    地下に封印されていた魔王サタンが突如蘇り、手下の魔物達が学園を襲い始めたのだ。
    魔物に襲われた生徒は生ける屍(しかばね)ゾンビとなって他の生徒を襲い、そして襲われた生徒もまたゾンビになってゆく。
    学園はゾンビが闊歩するホラーゾーンとなった!
    あなたはゾンビの攻撃を避けながら、学園のどこかに捕らえられているミカエル姫を見つけて、魔王封印のためのカードを手に入れなければならない。
    3年4組が贈るお化け屋敷『ハロウィン・ホラーハウス』。
    西棟3階 入場無料。


    「何すか、これ」
    そこに書かれた文章を読んでから二人に聞いた。
    「だからぁ、お化け屋敷するんです。文化祭で」
    「ウチはお化けで、瞳は衣装の担当」
    「この子、ゾンビになるですよぉ。怖くないでしょ」
    「何言(ゆ)うてるん。絶対にびびらせてみせるから。きゃはは」
    「もう、有咲ぁ。笑ってたら瀬戸さんに分からへんでしょ」
    あの、笑わなくても全然分からないんですけど。
    「あ、スミマセン。それで、キャラデザの子が描いてきたお化けが、どれも色っぽくて」
    「みんな拘束されてて、縄で縛られてたりするんです」
    「それやったら、本当に縛ろってことになって」
    「あ、先生にはちゃんと許可もらったから大丈夫ですよー」
    「そやけど篠田先生、よお分からへんでOKって言うたな絶対」
    「うん、そう思う。きっとびっくりするね。あたしら本格的に緊縛するつもりやもん」
    「あのド真面目な先生、縛られてどんな顔するかやろ」
    「うふふ」「きゃはは」
    二人はその場で笑いこけている。
    瀬戸だけが困った顔で頭の上に大きな「?」マークを立てていた。

    何度も聞き直してようやく瀬戸が理解したのは次の通りだった。

    有咲と瞳は高校の同じクラスで、そのクラスでは文化祭の出し物でお化け屋敷をする。
    登場するお化けは、どれも縄で緊縛されている設定である。
    ダブルキャストで交代しながら縛られることにしたが、縛り方が分からない。
    だから自分に縛り方を教えて欲しい。

    「ウチらKSで縛られてるから分からなくもないけど、人に教えるなんて無理やし」
    「そもそもKSでバイトしてるのも秘密だし、普通の高校生が縛れるなんて変でしょ?」
    「それで、知り合いに縄師の人がいるって言ったら、みんな大喜びで」
    「その人に教えてもらえって」

    何でそういうことを勝手に決めるの。
    だいたい、知り合いに縄師がいる高校生も普通やないでしょ。

    「そういうことでしたら、洋子さんか典子さんに言って・・」瀬戸は溜息をつきながら言う。
    「ああ~、それダメ」「うん、ダメダメ」
    「なんで?」
    「洋子さんがタダで受けてくれるはずないでしょ?」
    まあ、確かに。
    「ウチら、お金ないし」
    「だから瀬戸さん、お願い♥」「洋子さんと典子さんには内緒で、ね♥」
    「しかたないなぁ。・・あっ」
    と、いうことは。
    「もしかして、自分もタダで教えろってことっすか?」
    「うん!!」「んなこと、当たり前やんねぇ~」
    うう~っ、自分、どこまでこの子らに舐められるんやろか。
    「そおやっ、大事なこと言い忘れてたっ」瞳が叫んだ。
    「お化けの役はね、全部クラスの女の子がするんですよー」
    え?
    「そうそうっ。練習んとき、可愛い子ぎょうさん連れて来るからね」
    「どう? 瀬戸さん。本物の女子高生、堂々と縛れますよー」
    ええええ~!?
    「ちょっと瞳ぃ。ウチらかって女子高生やんか」
    「あ、そっか。・・瀬戸さん、嬉しくないですかー?」
    いや、嬉しいけど。キミら以外の女子高生やったら。
    「そぉや、こんなんは? ・・どの娘も、キンバク処女でっせぇ」
    「あ、それいいっ。・・どや? 生まれて初めて縄を受ける女子高生や。どないな反応するか、見たないかー」
    「何それ、おっさんやん。きゃはは」「あんたこそ。きゃはは」
    「そしたらウチらは何やの」「んー、キンバク開発済み?」「ぷ、きゃはは」

    ふう。瀬戸はもう一度溜息をついた。
    女子高生コンビは目の前にいる瀬戸を忘れたように勝手に盛り上がっていた。

    3.最初の緊縛練習
    洛上高校のグランドに隣接する体育系クラブ棟。
    その中にある男子陸上部の部屋に、生徒達と瀬戸が集まっていた。
    集まった生徒は、クラス委員長の曽爾則之と副委員長の渡辺聡美、縛り担当の津田昂輝、新井大輔、志賀雄二、そしてゾンビ役の凪元有咲と江口真由の7人である。
    「せっかく来てもらったのに、変な場所ですみません。お化け屋敷のことは校内で秘密なので」曽爾が瀬戸にそう言って謝った。
    「ホントにきちゃない部屋でごめんなさい」真由も言った。
    「きちゃないは余計やろ」隣で津田が文句を言う。
    「なら、汚いやなくて、臭い」
    確かに部室の中は陸上の道具やユニフォームなどが散乱している上に、汗臭い匂いが充満していた。
    「お前なぁ、そんなん言うんやったら、そっちの部屋使こたらええやないか」
    「何で女子陸の部屋に男子を入れてあげなあかんのよっ」
    「まぁまぁ」皆が二人をなだめる。
    津田は男子陸上部、真由は隣の女子陸上部の所属である。
    二人とも3年生だから部活は引退しているが、この日はわざわざ部室の鍵を借りてきてくれたのだった。
    つまらないことですぐに口喧嘩する仲だが、お互いにまんざらでもない様子で、当の二人を除き周囲からカップルと認められていた。

    聡美が説明した。
    「キャストは、ゾンビが2種類、磔魔女、ギロチンメイド、首吊り娘とお姫様。魔女とメイド以外は縄で縛ります」
    「分かりました」瀬戸は答えた。
    有咲と瞳からもらった企画書にはキャラクターのデザインも載っていたから、およそのイメージは分かっていた。
    どうせお化け屋敷の暗闇の中だ。凝った縛りはしなくていいだろう。
    それよりも、無理なく安全に、である。
    「えっと、今日ここにいる出演者は・・」
    「はぁいっ。ゾンビ子でーす」真由が手を上げた。
    「ウチもゾンビっ」有咲も手を上げる。
    「二人ですね。じゃあ・・」
    瀬戸が言いかけると、聡美が恥ずかしそうに手を上げた。
    「・・あの、わたしも首吊り娘で出ます」
    「女子は全部で12人が交代で出るんです」曽爾が説明する。
    それは大変だ。
    縛り役は、かなり効率よく縛れるようにならないないと。

    瀬戸は練習用の綿ロープを出した。
    「まず見本で自分が縛ります。誰かモデルしてくれますか。あ、モデルっていうのは練習で縛られる人のことです」
    それなら、当然ウチね。
    有咲が志願しようとしたら、先に真由が手を上げた。
    「あたし、やります」
    「お、江口が1番か。もしかしてドM?」津田がさっそくからかう。
    「あほっ。あんたらのためでしょーが。感謝しなさい」
    「へーい」
    「これは真面目な練習なのよ。津田くん達には間違いなく縛れるようになってくれないと困るの」聡美も言った。

    真由は制服のブレザーを脱いでブラウスとスカート姿になった。
    その後ろに縄束を持った瀬戸が立つ。
    他の生徒が興味深々の目で回りを囲んだ。
    「手を後ろで組んで下さい」「はい」
    背中で組ませた真由の手首に縄を数回巻きつけた。
    「意識して緩めに巻きます。柔らかい縄ですけれど、絶対にきつく縛らないように」
    巻いた縄を手首の上で結んで緩まないようにする。
    「このまま胸の上に回します・・」
    上腕と胸の上にくるりと巻いて背中の縄に掛け、さらに2回回して縛る。
    「うわ、速っ」瀬戸の作業を見て津田がつぶやいた。
    「すごいな」新井と志賀も同意する。
    別の縄を追加して胸の下に巻く。
    「縄の張りはこれくらい。指を入れて確かめて下さい」
    男子達は順番に真由の縄を触って確認する。それは思ったよりもずっと緩かった。
    「次に絞り縄を掛けます。目立たないけれど、大事な縄です」
    瀬戸は喋りながら縄を右の脇の下を通し、前に出すと胸下の縄に掛けて、再び脇の間から背中に回す。
    「反対側も」
    同様に左の脇の下にも通し、左右の絞り縄を引いて絞った。
    胸縄が締まり、ブラウスのバストがきゅんと持ち上がった。
    「あ・・」真由が小さな声を上げた。
    瀬戸は背中の余分な縄をまとめるようにして縛った。
    「はい、後ろ手縛りの完成です」
    腕時計を見る。意識してゆっくり縛って3分半。
    あとは縛り手の腕次第。
    でも無理に速く縛らせるのはやめた方がいい。

    「ねぇ。痛くない?」聡美が真由に聞く。
    「どこも痛ないよ。・・ただ」真由が首を捻って自分の背中を見て答えた。
    「あたし、全然動かれへん!」
    「僕らにも見せてよ」
    津田が真由の腕のロープに指を掛けて確認する。
    先ほどは緩めだったロープが、しっかりと真由の身体を締めていた。
    「すげぇ」「ぜんぜん緩まないね」
    新井と志賀も感心して言った。

    「では、皆さんも縛って下さい」
    真由の緊縛を見本に、新井と志賀が有咲と聡美を縛り始めた。
    「凪元さん、きつkない?」
    新井が有咲に聞いた。
    「あ、大丈夫だいじょーぶっ」
    「そう? 痛かったらすぐに言ってね」
    おっ、新井。優しいやんか。有咲は心の中でつぶやいた。
    ホントはもっときつく縛ってほしいけどね。えへへ。
    縛られながら、隣の志賀と聡美のペアを見る。
    新井と比べて志賀は余裕がない。
    志賀は聡美を縛りながら縄の取り回し方が解らずに瀬戸に質問を繰り返していた。
    聡美は顔を伏せてじっとしている。
    志賀が背中の縄を引き絞ると、縛られた手首が持ち上がり、聡美は目を閉じて震えた。
    ・・渡辺さん、赤くなって、感じてる。
    ほんの少し縛られただけで、あんなに表情が変わるなんて。渡辺さん、可愛い。
    志賀が聡美の胸の上下に縄を巻いた。ブラウスの下から胸が盛り上がる。
    おぉ~渡辺さん、おっぱい大きっ。
    気ぃ付かんかったなぁ、ウチのクラス委員があんな巨乳やったなんて。
    ご本人は自分の胸なんて意識する余裕もないみたいやけど。
    それにしても、志賀! あんた作業が荒っぽすぎるで。自分が縛る女の子のこと、もっと気をつかえ~っ。

    「はぁ~」緊縛の見本になっている真由が深呼吸をした。
    自分の縛られ具合を確かめるように、背中の腕をもぞもぞ動かしている。
    「江口、しんどいか?」傍にいた津田が小声で聞いた。
    「大丈夫。ちょっと不思議な気分になっただけ」
    「どんな気分?」
    「すごいなーって」
    「何が?」
    「あたし達、プロの縄師さんに縛り方教わってるんやで。大人の世界やなあって」
    「そおやな」
    「ほら、渡辺さんなんて、すごく色っぽい顔」
    「え? そうか?」
    「もう、分からへんの? 津田。そんなんやったら女の子にもてへんよ」
    「悪かったな、もてへん男で。・・でも、江口のことは色っぽいって思ったで」
    「え? あたし?」
    「江口、さっき、ちょっと声だしたやろ。あれ、お前には珍しく色っぽかった」
    「・・」
    「何、赤い顔してんねん」
    「あほ!」
    真由は慌てて言い返した。
    確かにあのとき、絞り縄を掛けられて思わず声を出した。
    自分の身体がきゅっと締められる感覚。まるで魔法をかけられたみたいに気持ちがよかった。
    本当は今も気持ちいい。
    でもそれを津田に教えるのは恥ずかしかった。
    初めて縛られて気持ちいいなんて、本当にドMみたいやないの。

    有咲と聡美の緊縛が完成し、瀬戸が江口の縄を解いた。
    「じゃ、次は凪元さんの緊縛を見本にして、津田くんが江口さんを縛る練習」曽爾が指示した。
    「休憩せんへんでも、ええか?」津田が真由に聞いた。
    「平気平気。ぜんぜんしんどくなかったもん。・・それより津田、ちゃんと教わるんやで」
    「よぉ~っし」
    津田が腕をぐるぐる回した。

    この日、津田・新井・志賀は、それぞれ真由・有咲・聡美を3回ずつ縛って練習した。
    瀬戸は引き続き緊縛のコーチに来ることを約束したが、3人に対してはOKを出すまで自分達だけで絶対に縛らないように命じた。

    続き




    キョートサプライズ セカンド・第8話(2/4) 3年4組緊縛お化け屋敷

    4.二人だけの練習
    次の日の放課後。
    陸上部の部室に津田と真由が入ってきた。
    「勝手に練習するなって言われてるんやないの?」真由が津田に言う。
    「大丈夫やって」「んでも」
    「俺、他の奴より縛るの遅いやろ。迷惑かけたないねん。・・練習、付き合ってくれる」
    「・・うん。津田のためやったら」
    津田は紙袋からビニールロープを出した。
    先日の練習で使った綿ロープは瀬戸が持って帰ってしまったので、自分で買ってきたのだ。
    「ブレザー、ちょっと脱いでくれるか」
    「うん。いいって言うまで、ちょっと向こう向いてて」
    津田が後ろを向けると、真由は制服のブレザーを脱いでテーブルに置いた。
    衣擦れの音が続く。ブレザー脱ぐだけやのに長いな?
    「江口、何してるんや? ・・わ!」
    津田が振り向くと、真由は上半身裸になって胸を押さえていた。
    「こらっ。こっち向くなって言ったでしょっ!」
    「ごめん!!」
    津田は慌てて真由に背中を向ける。
    「お前、いったい・・」
    「ええから、待ってなさいっ。またこっち見たらコロス!!」
    「お、おお」
    津田は真由に背中を向けて固まった。
    ・・いったい何をしとるんや。
    ちらりと見えた真由の胸元が頭の中にちらつく。
    それは両手で押さえられてふっくらと盛り上がっていた。

    「いいよ、こっち向いて」
    津田は再び振り向いて真由を見る。
    真由は陸上部のユニフォームに着替えていた。
    セパレートのユニフォームは、トップスは胸の下までを覆う丈の短いノースリーブ、ボトムはビキニの水着のようなローライズのパンツだった。
    「ブラウスで縛ったらシワついてくしゃくしゃになるでしょ。これやったらいくらでも大丈夫やから」
    「そ、そうやな」
    このユニフォームなら練習や大会のときに見慣れていた。
    んでも二人だけのときに、わざわざこんな格好にならんでも。
    だいだい、見慣れた格好やのに何でこないに生々しいんや。
    間近で見る真由の腹、へそ、腰のくびれ。つい手をのばして触りたくなりそうだった。
    何気なく胸を見ると、薄いぴっちりしたユニフォームからぽっちりが二つ突き出している。
    うわ江口。お前なんで男の前でそんな無神経・・。
    視線を反らせて天井を見た。
    「どーしたのよ?」
    真由が怪訝な顔で自分の胸を見た。
    「あっ、ニプレス忘れ・・っ」
    慌てて両手で胸を覆って、背中を向ける。
    「ちょっと待ってっ」そのままポーチを開けて探した。
    「ああ~っ、持ってない~!!」
    真由はしばらく自分の頭をかきむしった後、津田の方に向き直って両手を脇に下ろした。
    「えぇーい、津田だけ、許す!」
    「え」
    「ユニフォームの上からやったら、あたしの乳首、見てもいいっ!」
    「ええ?!」
    「何か言って冷やかしたら、コロスからね」
    「わ、わかった・・」

    真由が背中で手首を合わせた。
    その手首に津田がロープを巻く。
    「痛ないか」
    「大丈夫」
    津田の顔が赤くなっている。真由の顔も赤くなっていた。
    二人でする緊縛の練習は、皆でする練習とはどこか違った。
    「・・こっちやったか?」
    「そ、そうやね」
    「胸に巻くで」
    「う、うん。どぉぞ」
    胸の上に回したロープは乳房ににゅわんと食い込んだ。
    「あ、あぁん!」
    「な、何や。これ」
    「ん、・・くぅっ」
    「江口、大丈夫か」
    「う、うん。・・ブラつけてないから、食い込むんやね」
    「そ、そうなんか。・・平気か?」
    「ちょっと痛いけど、・・平気」
    「止めよか?」
    「あかんよ。ここで止めたら、練習にならへん、でしょ」
    「そ、そやな。なら、続けるで」
    「うん」

    胸の下にロープを回すと、上下を締められた乳房が盛り上がった。
    乳首が一層くっきりと突き出している。
    津田は真由の胸をできるだけ見ないように意識した。
    「こらぁ、そんなに目を反らすなっ」真由が津田の顔を見て言う、
    「でも」
    「かえって恥ずかしいでしょ! 普通に見て、いい、から」
    「あ、分かった」
    真由の顔はさらに赤くなっていた。津田の顔もさらに赤くなっている。

    「次は、・・えっと、絞り縄」
    「そ、そやね。絞り縄」
    脇の下にロープを回す津田の手が、真由の横乳に触れる。
    「あぁ・・ん」
    真由がびくっと身を震わす。
    「あ、悪いっ」
    「いいよ。・・続けて」
    「おお!」
    脇に通したロープを一気に引いた。
    「きゃっ! 熱いっ」
    「ご、ごめん!」
    ビニールロープを肌に触れたまま通したので、そこが熱くなったのである。
    「どもないか!?」
    「うん。でも、もう少し優しく縛ってね」
    「わかった。・・気をつける」

    津田はビニールロープが真由の肌にできるだけ擦れないように注意して縛った。
    「よぉし。これでどーやろ」
    「上手に縛れてるよ」
    真由が津田を見上げて笑った。
    「ほらほら。あたし、もう津田の思いのまま」
    後ろ手に縛られた腕が動かないことを見せる。
    津田は真由の言い方にどきっとした。
    俺の思いのままか。何でもできるのか。

    「どう? 自信ついた?」
    「まだまだや。でも、昨日よりはマシかな」
    「・・えっと」
    真由が赤い顔のままで言った。
    「こんな練習でよかったら、いつでもつきあったげる」
    「ホンマか?」
    「うん。・・二人だけで、するんやったら」
    「二人だけって?」
    「あ、いや。・・その、違うっ。誤解せんといて。こんな練習、誰かに見られたら恥ずかしいって意味やから」
    「あぁ、そやな」
    「あたし、別に津田と二人だけでいたいとか、そんなこと。あたしと津田の仲やから、手伝ってあげよと・・」
    「ごめん!!」
    がば。津田は一声謝ってから、真由を後ろから抱きしめた。
    「きゃ」
    「俺、江口が好きや」
    「!!」
    「ちょっとの間、江口のこと、俺の思いのままにさせてくれる」
    「え? ・・あ」
    真由は、さっき自分が津田の思いのままと言ったことを思い出した。
    「・・うん、いいよ」
    真由は抵抗しなかった。
    こわばらせていた筋肉の力を抜いて、津田に身をまかせた。
    津田の手が左右の乳房をそっと押さえた。そのままゆっくり揉み込まれた。
    「はあっ、ん」
    思わず身震いした。
    あぁ、男の子の手。大きな手。
    それはとても力強く、そして優しかった。
    ・・いいよ。あたし、津田の思いのままで。

    5.トラブル
    「あれ?」
    「どうしたん?」
    津田は真由を縛るビニールロープを解こうとして、変な声を出した。
    「ちょっと固い」
    「え」
    「心配せんでええ。ちゃんと解くから」
    「うん」

    津田は5分ほどがんばったが、固く締まった結び目を解くことができなかった。
    「もうちょっと待って」
    「うん。・・でも、腕、しびれてきた」
    「え」
    津田はそのとき初めて、真由の腕が薄く紫色になっていることに気付いた。
    血が止まってる? 締めすぎたのか。
    「ごめん。縄を切る」
    その辺りを探すが、ハサミやナイフなどは見つからない。
    「悪い。俺、ハサミとってくる。無理に自分で抜けようとしたらあかんで」
    「うん。・・多分、丸尾ちゃんが教室にいると思う」
    そうか、丸尾さんは凪元さんと縄師を紹介してくれたんやったな。あの子やったら。
    「わかった。すぐに戻るから」

    津田は陸上部室から飛び出した。
    少し走ってから、誰かに部室に入られたらまずいと気付き、引き返してドアに鍵を掛けた。
    それから校舎に向かって全力で走った。

    「・・丸尾さん、いてる?」
    3階の教室に飛び込んで聞いた。
    そこには何人かの生徒がいたが、丸尾瞳はいなかった。
    「丸尾さんやったら、家庭科室にいるんと違うかな」

    くそぉ!
    津田は隣の校舎の4階まで階段を2段飛ばしで駆け上がる。
    廊下の突き当たりにある家庭科室は真っ暗だった。
    ドアに飛びついたが、鍵が掛かっていて開かない。
    くそぉ!
    ドアをどんどん叩く。

    「どうしたの? 騒がしい」
    隣の準備室から家庭科の先生が出てきた。
    「さ、3年4組の丸尾、丸尾さんは来ませんでしたか?」
    「丸尾さん? あの子達なら、ミシンを使いに来てたけど、もう帰ったわよ」
    「いつ?」
    「10分ほど前かしら」
    「失礼します」

    くそぉ!
    津田は再びダッシュで校庭に駆け下りた。
    そや、携帯。
    一瞬考えたが、津田は瞳の携帯番号を知らなかった。
    仮に知っていたとしても、今、津田の携帯電話はカバンの中で、そのカバンは陸上部室に置いてあった。

    正門か、裏門か。
    少し迷って、正門から飛び出した。
    夕暮れの街をバス通りの方に向かって走る。
    真由の顔が浮んだ。
    もし真由に何かあったら。

    300メートルほど先に四人連れの女子が見えた。
    いた!
    津田はさらに全力で走った。ほとんど息をしなかった、

    「津田くん?」
    四人はお化け屋敷の衣装担当だった。
    そのうちの一人、丸尾瞳に声を掛ける。
    「はぁ、はぁ、はぁ。・・ま、丸尾さん、悪いけど、来て」
    「どうしたの?」
    「ちょっと。はぁ、はぁ、縛りの練習で」
    瞳はすぐにピンときたようだった。
    「どこ?」
    「陸上部」
    瞳は紙袋から裁縫箱を出して抱えた。
    「ごめん、これ持って帰って」
    紙袋を他の女子に預けると、自分はすぐに学校に向かって走り出した。
    津田もその後からついて走る。

    部室の鍵を開けて入ると、中はすっかり暗くなっていた。
    電気を点けると、そこには陸上部のユニフォームで縛られた真由が座っていた。
    「江口さん!」
    瞳は真由に駆け寄って、真由を縛るロープを調べた。
    「こんなビニールの紐で!」

    裁縫箱から布切りハサミを出してロープを切ってゆく。
    あちこち固く締まったビニールロープは簡単には切断できずに、少しずつ切り離していくしかなかった。
    真由を完全に解放するまで10以上かかった。

    「つ。痛・・」
    真由は自分の腕を押さえて小さな声を上げた。
    肌には縄の痕がくっきりと刻まれている。
    瞳がその腕をゆっくり擦った。
    「くぅ~」
    再び真由が声を出した。

    「申し訳ない!」
    津田が真由と瞳の前で土下座した。
    「勝手に練習するなって言われてたのに、俺、焦ってしもて」
    「あのね、津田くん。こんな、」
    両手を腰に当てて説教しようとする瞳を、真由が止めた。
    「いいよ。丸尾ちゃん」
    「でも江口さん」
    「津田は、丸尾ちゃんを探しに走り回ってくれたんでしょ」
    「・・」
    「もう二人で練習はできへんね。・・でも、津田が言ってくれたこと、あたし忘れへから」
    「江口、」

    おいおい、あんたら。そこで何を見つめ合ってるんや。
    瞳は二人の様子を見て、何も言えなくなった。
    あたしがおらんかったら、あんたらここでチュウするやろ。
    まるで助けに来たあたしの方がオジャマ虫みたいやんか。

    6.再び、KS事務所
    「瀬戸さ~ん♥」
    「えへへ~♥」
    物陰に隠れていた有咲と瞳が通りかかった瀬戸に声を掛けた。
    またっすか。
    「今度は何ですか? 緊縛のコーチはちゃんとやってますよ」
    「あのね、ハーネス借りたいんです」
    ハーネス?
    「首吊り娘のことなんですけど」
    首吊り娘? あぁ、あの副委員長の女の子がする役だな。
    「初めは黒い台の上に立って吊られてるみたいに見せるって相談してたんやけど」
    「やってみたら、やっぱり立ってるのが丸分かりで」
    「それで、思いついたのが、くす玉」
    「ほら、あれやったら本当に吊るせるでしょ?」

    それで自分に何をして欲しいんですか?
    「一緒に倉庫に行って、くす玉用のハーネスを出して欲しいんですぅ」
    「ワイヤを巻き取る機械も出せたら、いいかなって」
    事務所の持ち物でしょ? 無断で持ち出しはダメですよ。
    「えー、そやかて、お金ないって、前に言うたでしょ?」
    「ちゃんと返しますから」
    社長にばれたらどーするんすか。
    「そのときは瀬戸さんに一緒に謝ってもらって」

    あのねぇ。
    いつから自分は、この子らに体よく使われるようになったんだろうか。
    しかたない。
    ここまで来て、有咲と瞳の頼みを拒もうとは思っていなかった。
    高校最後の文化祭なんだから、盛り上げてあげようと思った。

    三人は倉庫に入った。
    人間くす玉用のハーネスは、奥のダンボールの中だ。
    ハーネスにはいろいろな種類があるが、ここでは一番無難なベルトタイプのものがいいだろう。
    ダンボールを下ろして、有咲達にハーネスのサイズを調べさせる。
    そうしておいて、瀬戸自身は、ワイヤを巻くウインチを探した。
    確か、予備のウインチがこっちの工具箱の横に・・。

    「誰だ? そこで何してるの」
    倉庫の入口で男性の声がした。
    瀬戸と女子高生コンビは声の方に顔を向けた。

    ・・

    会議室に、島洋子、黒川典子、黒川章、そして瀬戸と有咲、瞳の6人がいた。
    「文化祭でお化け屋敷? 面白そうじゃない!」
    洋子が嬉しそうに言った。洋子は株式会社キョートサプライズの社長である。
    「でも、無断で設備を持ち出すのは」
    企画担当のマネージャー典子が言いかける。
    「そうね。無断はダメよねぇ。だからこれからは、ちゃんと断って持ち出しなさい」
    「いいんですか?」典子が驚いたように聞く。
    「いいわよぉ。自分達で何とかしようとしたんでしょ? 偉いわ~」
    洋子は有咲と瞳に向いて言った。

    「・・でもね、あんた達。こと緊縛に関しては勝手に判断しちゃダメ。万一事故でもあったらどうするつもり?」
    「ごめんなさい」有咲と瞳が謝った。
    「瀬戸くんは、縛り手としては一人前だけど、教え手としてはそうじゃないわ」
    瀬戸はびくっとして洋子を見た。
    洋子の言うことはもっともだと思った。自分はまだ人を指導できる腕じゃない。
    「そういうことだから、これからは黒川くんに行ってもらうわね」
    「えっ、俺ですか?」
    黒川章が驚いて洋子に聞いた。
    章は技術担当マネージャーで、典子の夫である。倉庫で探し物をしている瀬戸達を咎めたのは章だった。
    「そうよ。しっかり指導してきてちょうだい、黒川くん」
    「でも、今は忙しくて、そんな暇は」
    「暇は作るものよ。・・頼んだわ、黒川くん」
    「はあ」
    「瀬戸くんも、この際だから、教え方勉強してきてね」
    「え、自分も行って構わないんですか?」瀬戸が洋子に聞いた。
    「何言ってるの。瀬戸くん、指導を頼まれたのは、あんたでしょ?」
    洋子は瀬戸に向かって言った。
    「最後まで責任持って、やりなさい」

    「・・あの」
    有咲と瞳が恐る恐る洋子に言った。
    「お金のことなんですけど」
    「お金?」
    「あたし達、縛り方を教えてもらったり、道具を借りたりするお金はなくて、」
    「お金? ・・そんなもの要らないわよ」
    「いいんですか?」
    「そうねぇ、でも、やっぱりタダって訳にはいかないかなぁ」
    洋子は腕を組んで考えるふりをする。
    「お願いします!」有咲と瞳が頭を下げた。
    「どうしようかなぁ~」
    「次のお仕事、バイト代なしでいいですから!」
    「え~? 天下の洋子さんが高校生にタダ働きさせるなんて、そんなことできないわよぉ」
    「じゃあ、じゃあ。えぇっと・・、」

    「ねぇ、あんたら」
    有咲と瞳が困っていると、典子が助け舟を出した。
    「高校の文化祭って誰でも行けるの?」
    「いいえ、正門で入場チケットを見せないと入れません」
    「なら、もしかして、その入場チケットがあれば、許してくれるかも・・ね」
    「典ちゃんっ。まるで私がお化け屋敷に行きたがってるみたいじゃないの」洋子がほっぺたを膨らませて言う。
    「違うんですか?」
    「あの、文化祭のチケットでしたら、皆さんに来てもらうつもりで用意してますけど?」
    瞳がカバンから文化祭の入場チケットを出して見せた。
    「あら! 招待してくれるの? お化け屋敷に」洋子は急に相好を崩した。
    「お化け屋敷やない。文化祭のチケ・・」有咲が小声で言いかけたが、瞳がその口を押さえる。
    「はい! どうぞ、あたし達のお化け屋敷に来て下さい」

    「せっかく呼んでくれるのに、行かないのは失礼よねぇ。・・ね、典ちゃん?」
    「そうですね」
    「ほほほ。あなた達、KSはお化け屋敷に全面協力するから、頑張りなさいね」
    「はい。・・あの、お金は?」
    「構わないわよ。同じKSの仲間じゃない。・・ほほほ」
    やったあ。
    両手を握り合う有咲と瞳。

    「・・やっぱり、お化け屋敷に行きたかっただけか」章がぽつりと言った。
    「みたいっすね」瀬戸も同意する。

    続き




    キョートサプライズ セカンド・第8話(3/4) 3年4組緊縛お化け屋敷

    7.拡大緊縛練習
    文化祭が1週間後に迫った土曜日。
    KS事務所2階の練習場に3年4組の男女生徒が20人近く集まっていた。
    この日は、瞳たちが作ったコスチュームの衣装合わせ、そして章と瀬戸が緊縛指導を行う最後の練習だった。
    キャスト全員と関係する担当の生徒も集まるので、もはや陸上部室には入れず、KSで場所を提供することにしたのである。

    「瀬戸さん、ど~お?」
    女子高生ゾンビの衣装で後ろ手に縛られた有咲が、瀬戸の前でくるりと回って見せた。
    「その縄は誰が縛ったんですか?」
    「津田くん」
    ああ、あの陸上部の彼か。
    見回すと、その津田は別の女子生徒を真剣な表情で縛っているところだった。
    前は荒っぽい縄だったけれど、今日はずいぶん落ち着いたようだ。
    これなら合格点を上げてもいいかな。
    「うん。いいじゃないですか」
    「ねぇ、緊縛よりも服の方、見てくれません?」
    服?
    それはあちこちに裂け目を入れて破いた上から、墨汁と血糊で汚したセーラー服だった。
    「学校の制服ですか? それ」
    「制服やったら、こんなボロボロにできへんでしょ」
    「これはね、ド◯キで買ったパーティ用」瞳が横から言った。
    「ねっ、ゾンビに見えます?」
    「そんなにヘラヘラ笑ってたら見えませんよ」
    「そっか。なら・・」
    有咲は笑うのを止め、歯を剥いて怖そうな顔をした。
    「どう、怖いでしょ」
    「うーん・・」瀬戸は腕組みをして考え込むふりをする。
    「もうっ。本番では絶対に怖がらせて見せる!」
    「本番のときは、ちゃんとメークしてカツラもかぶるから、全然違いますよ~」
    瞳が笑いながら言った。

    ・・

    練習場の中央。
    角材を組んで作った門形の吊り台から、首吊り娘役の渡辺聡美が吊るされていた。
    「い、痛くありません」
    かすれるような声で報告する聡美の顔は既に真っ赤だった。
    その横では、章が聡美の身体に取り付けたハーネスの具合をチェックしている。
    ハーネスは人間くす玉の訓練で使う一番太いベルトタイプを着用しているが、首吊娘のドレスの下にうまく隠れていた。
    「いいでしょう。じゃ、次は縛って吊るしましょう」
    ・・あぁ、また縛られる!
    聡美は何も言えないうちに床に下ろされた。
    すかさず章がハーネスからワイヤーを取り外す。
    「志賀くんでしたっけ。彼女を縛って下さい」
    「はい」
    章に呼ばれて、聡美の緊縛担当である志賀が縄を持った。
    直立の姿勢で硬直している聡美に声をかけた。
    「大丈夫。固くならないで、渡辺さん」
    「あ、・・はい」
    聡美はようやく自分の腕を背中で組んだ。その聡美に志賀が縄を掛け始める。

    「へぇ、上手いもんだな」章が志賀の手つきを見て感心した。
    最初の頃はおぼつかなかった縄の扱いも、今はすっかり手馴れたものになっていた。
    「瀬戸さんに教わったおかげです」志賀がちょっと得意気に説明する。
    へぇ、やるじゃないか。瀬戸くん。
    章は練習場の反対側にいる瀬戸をちらりと見て思った。

    平然と縛り続ける志賀に対して、縛られている聡美の心中は穏やかでない。
    身体に縄が巻きつくたびに、結び目が一つずつ締まるたびに、胸の鼓動は増し、心は平静から遠ざって行く。
    いったいどうしてこんな気持ちになるんだろう。
    最初の練習で縛られた夜、聡美は眠れずに過ごし、そしてようやく理解した。

    自分は、縛られて、自由を奪われることに興奮したのだ。
    自由を奪われて、無力になる。もうどれだけ弄ばれたって、抵抗できない。
    わたしの一切。ええっと、前に読んだことがある。何ていったっけ。
    国語辞典で調べた。そうだ、生殺与奪。
    『生かすも殺すも、与えることも奪うことも、思うままになること』
    あぁ、辞書なのに、こんなに刺激的な説明。
    わたしはクラスの男の子に縛られて、生殺与奪の一切を委ねる・・!
    その夜、聡美は布団の中で、きゅんきゅんする胸を押さえ、まんじりともせず過ごした。

    もちろん、理屈では分かっている。
    男の子達はわたしの生殺与奪なんて考えてもいない。
    ただ、クラスで決まった役目だから縛っているだけだ。
    勝手に妄想してトロトロになっているのは、わたしの方。
    わたし、どうしようもない変態のマゾだ。

    あれから練習で縛られる度に、心臓が壊れそうなほどに興奮した。
    最初のうちはどこか具合でも悪いのかと心配してくれたクラスメート達も、今はもう何も言わなくなった。
    それどころか緊縛担当の志賀にいたっては、毎回「大丈夫やから」とか「心配せんで」とか、自分を落ちつかせるように声をかけてくれるようになった。
    もしかして、クラスの全員に自分がマゾだと知れ渡ったのだろうか。
    それを思うと恥ずかしくて身を隠したくなる。
    こんな女がクラス委員なんてしてていいのだろうか。

    聡美は有咲に相談した。まさに清水の舞台から飛び降りる思いだった。
    自分が縛られて感じる気持ちを正直に告白した。
    すると有咲はあっけらかんと言ったのだった。
    「そんなん普通やん」
    「普通なの?」
    「誰かてマゾの気はあるし、縛られてドキドキするよ。ウチかて同じやもん」
    「凪元さんも?」
    「うん。それでえっちな気分になったりもするよ。・・渡辺さん、初めて縛られた日、オナニーせえへんかった?」
    「え」
    オナニーは、していた。
    トロトロになってオナニーをした。
    「ああっ、ごめんっ。あけすけに言いすぎるんがウチの悪いとこやねんな」
    「あ、いえ」
    有咲は笑って言った。
    「渡辺さん、いつも静かで、あんまり冗談も言わへんし、ウチらちょっと近づきにくかったけど・・」
    え、わたし、近づきにくかった?
    「今はそうは思わへんよ。渡辺さん、ウチらと同じ、普通の女子やわ」
    「・・」
    「お化けやる子、どの子も多かれ少なかれ縛られて感じてるから、気にせんでもいいと思うよ」
    「わ、わかった」
    「ウチのクラスはみんな優しいし、絶対に誰も渡辺さんのこと馬鹿にしてへんから」
    そうか、そうなのか。
    聡美は有咲に話して、少しだけ気が楽になった。
    ・・でも。

    「なら、上げます。・・渡辺さん、頑張って」
    志賀が言うなり、頭上のウインチが小さな音を立てた。
    ハーネスにぐいと力がかかって引き上げられる。
    あぁ、吊られた・・!
    後ろ手に縛られた手は少しも動かせない。
    足も床から離れて、いくら動かしても空を蹴るだけである。
    もう、何もできない・・。

    「首吊りの縄はどうするんですか?」章が聞いているのが分かった。
    「あ、それは、こうやって・・」
    志賀は脚立の上に立って聡美の首にダミーの縄の輪を掛け、縄の反対側を上の木の梁にピンで固定した。
    「よし、揺らせてくれる」
    「おっしゃ」
    操演担当の男子生徒が、聡美の首の位置に繋いだワイヤを引いた。
    宙に浮ぶ聡美の身体が左右にゆっくり揺れる。

    ああ・・。
    わたし、なされるがまま。

    「彼女、真っ赤になってるけど、あれでお化けに見えるの?」
    「白塗りでメークするから、本番ではどれだけ赤面しても構わないそうです」
    「なるほどね」

    あああああ・・・。
    もはや何も考えられない状態のまま、聡美は振り子のように揺れ続けた。

    ・・

    同じ練習場の反対側。
    「これでどうですか?」
    縛り終えた曽爾則之が聞いた。瀬戸は曽爾の縄をチェックする。
    「いいでしょう。もう一人で縛っても大丈夫ですよ」
    この生徒は一番スジがいい。
    瀬戸は、わずかの練習で縛れるようになった曽爾に感心していた。

    もともと、お化け屋敷の緊縛は、津田・新井・志賀の三人で担当することになっていた。
    しかし実際にキャストのシフトを検討する段階になると、三人だけでは難しいことが分かってきた。
    お化け屋敷は1時間に1回10分間休憩し、この休憩の間にお化け役の女生徒が交代して縛られるスケジュールである。
    実際に交代作業をテストすると、時間ぎりぎりに完了するのがやっとで、ほとんど余裕がなかった。
    休憩時間を長くすれば緊縛作業の余裕は確保できるが、時間当たりに入場できるお客の数が大幅に減ってしまう。
    そこで緊縛の担当者を四人に増員して、縛られていた女子の縄を解く作業と交代の女子を縛る作業を並行して行うことにした。
    追加の緊縛担当に立候補したのが、クラス委員長の曽爾だった。

    「曽爾くん、上手~」
    椅子に座って縛られた女生徒が言った。
    お化けのキャラクターデザインを描いた富沢ほのかである。
    彼女自身もゾンビに扮して出演するが、縛られる役ではない。
    この日は曽爾が練習するにあたり、自分も緊縛体験をしたいとモデルを申し出たのだった。

    「初めて縛られたんだよね? 上手かどうか分かるの」曽爾がほのかに聞いた。
    「分かるよ。こんなに縛られてるのに全然痛くないもん。・・上手な縄師が掛ける縄は女の子に優しいんやで。瀬戸さん、そうですよね?」
    「まあ、そう言いますね」
    何でそんなこと知ってるのだ、この子は。
    瀬戸はそう思いながらも、ほのかに同意する。
    確かに曽爾の縄はモデルにほとんと負担をかけていない。
    大したものだと思った。
    理屈だけではなかなか分からない縛りの感覚を、曽爾はたった一日で身につけたようだった。

    「もう一回だけ、縛らせてくれる」
    縄を解いた後で、曽爾がほのかに頼んだ。
    「もちろん。あたし、曽爾くんの練習台なんやから、遠慮しないで縛って♥」
    「ありがとう。・・じゃあ、さっそく」

    ほのかは椅子に座って両手を後ろに回した。
    その手首が合わせて縛られる。上腕と胸の上下に縄が巻きつき、後ろで括られたかと思うと、背中の手首がくいと持ち上げられた。
    「んっ」自然と声が漏れる。
    絞り縄が施されて、胸縄がきゅんと締まった。
    背中で吊り上がった手首と締めつけられる縄の感覚。
    ああ、気持ちいい。
    これやったら、いくらでも縛られるよ。

    ・・高手小手か。
    瀬戸も感心していた。
    『高手小手縛り』に厳密な定義はないが、一般には後ろ手に縛った手首を肘より高い位置に固定する緊縛である。
    身体の硬い女性を高手小手で縛ると肘の関節を痛める可能性があるので、今まで瀬戸は生徒達に、手首を無理に高い位置で縛らないようにと指導していた。
    しかし、今、目の前で曽爾が縛った高手小手は、ほのかの腕を美しく自然に吊り上げている。
    ほのかの関節が柔らかいこともあるが、何より曽爾の緊縛に無理のないことが、綺麗な高手小手を作り上げているのだ。
    洋子さんなら彼をKSにスカウトしたがるだろうな、と思った。

    「あの、足も縛っていい?」上半身を縛り終えてから、曽爾が聞いた。
    あれ? 足まで縛ったキャラなんて、いたったけ?
    ほのかが考えていると、曽爾が言った。
    「足縛るのは僕の趣味」
    おーい、委員長~っ。あんたねぇ。
    ほのかは心の中でツッコミを入れてから、笑って答えた。
    「好きなだけ縛ってちょーだい!」

    合わせた足首に縄が巻かれて、さらに直角に割り縄が掛けられた。
    同様に脛、膝、太ももも縛られた。
    新しい縄を椅子の前脚の間に渡し、その縄に足首を固定して動けなくされた。
    「んー。やっぱりこっち側も・・。立てなくするには・・」
    曽爾は何かぶつぶつ言いながら後方に回り、別の縄でほのかの背中を椅子の背もたれにつけて固く縛った。

    うわぁ、すごいっ。全然、動かれへん!!
    感動するなぁ。
    あたし、モノになってるぅ!

    「ごめんね、ちょっとやりすぎたかな。・・すぐに解くから」
    曽爾がそう言ってほのかの縄を解こうとした。
    「ちょ・・、待ってっ。曽爾くん!」
    ほのかが叫んだ。
    「その前に写真っ。・・あたしのカバンにデジカメ、入ってるから、」
    「デジカメ?」
    「そ、それで、あたしの正面と横と、あと後ろもっ、バストアップと全身、4~5枚ずつ撮ってっ」
    「富沢さんを?」
    「資料にするのっ。こんなチャンスめったにない!」

    曽爾はカバンを開けて、中からコンパクトデジカメを取り出した。
    「このカメラ?」
    「うん、お願い!」
    カシャ、カシャ。
    ストロボの閃光が部屋を照らし、全員がこちらを見た。

    「あぁ~っ、ほのちゃん、写真撮ってるぅ!!」
    「いいないいな~。あたしも、撮ってほしい~!!」
    「きゃぁ! あたしも撮ってぇ」「ウチも~!!」
    緊縛されている女子達が一斉に騒ぎ出した。
    「いいよぉ!! あたしのカメラ、どんどん使って~♥」ほのかが縛られたままで叫ぶ。
    緊縛担当の男子達は、女子全員の緊縛写真を撮ってまわるはめになった。

    8.担任・篠田智佐子
    文化祭本番の二日前。グランドに面した校舎の4階。
    図書室に隣接する司書室に3年4組担任の篠田智佐子と、クラス委員の渡辺聡美、衣装担当の丸尾瞳がいた。
    智佐子は国語の教諭だが、兼務で図書の担当をしているので国語科準備室とは別に司書室にも机を持っていて、普段はこちらで執務をしていた。
    司書室には智佐子だけで他に誰もいないのを幸い、智佐子が着る衣装の試着に来ているのである。

    「ごめんね、ぜんぜん手伝えなくて。それにこんな衣装まで作ってもらって」
    「いいんですよー。結構楽しんでやってますし」スカートの裾を合わせながら瞳が言った。
    「よかった。ちょうどですね」
    「先生、よく似合ってます」聡美も言う。
    「これ、本当にあなた達が作ったの? すごいねぇ」
    智佐子は自分の背中を見下ろしながら言う。
    「でも、ちょっと露出が大き過ぎない? 何だか恥ずかしいなぁ」
    生徒が作って持ってきた衣装は、胸元から伸びる左右のストラップを首の後ろで結ぶホルターネックで、腰の近くまで背中が大きく開いたドレスだった。
    「先生も若いんやから、これくらい肌を見せないとダメですよー」
    「そうかなぁ」
    「文化祭の前の晩からブラはつけないで下さいね。跡つきますから」
    「はい」

    瞳が入口の方に向いて叫んだ。
    「準備できましたよぉ~」
    扉を開けて入ってきたのは、クラス委員長の曽爾である。
    「どうも。緊縛担当です」
    「え、何の担当?」
    「先生。そのドレス、よく似合ってますよ。綺麗です」
    曽爾はお世辞を言いながら、手にした紙袋から金色の縄を出した。
    「これはキョートサプライズさんで借りてきた、金色の綿ロープ」
    「曽爾くん。いったい何をするの」
    「先生。お化けの緊縛のこと、忘れたんですか?」瞳が言った。
    「それは知ってるけど」
    「だから、この縄で今から先生を縛ります」曽爾がすまして言った。
    え?
    「練習できるのは今日だけですから、そのつもりでお願いします」
    えええ?
    「手首を後ろに回して下さい」
    え、え、えええええ!!!
    智佐子はみるみるうちに緊縛されて行くのであった。

    続き




    キョートサプライズ セカンド・第8話(4/4) 3年4組緊縛お化け屋敷

    9.文化祭
    瞳の案内でチケットを見せて正門から中に入った。
    立ち並ぶ立看板や教室の窓に張られたポスター類は、さすがに文化際の雰囲気を盛り上げていた。
    「ねぇ、屋台で焼きそばとか売ってないの?」洋子が聞いた。
    「屋台はないです。今日は学食でお弁当を売ってますけど」瞳が答える。
    「じゃ、ビールもそこで買えるー?」
    「んなもん、高校の文化祭で飲めるはずでないでしょおが」典子が突っ込んだ。
    「何よぉ、融通利かないわねぇ」
    「洋子さん、今日はお化け屋敷を見にきたんですよ」

    前を行く女性三人の後に男性二人がついて歩いていた。
    章と瀬戸である。
    ・・はぁ。
    瀬戸は溜息をついた。気が重い。
    自分が教えた生徒の緊縛は、もちろん見たかった。
    しかしその思いもかすむほどに瀬戸はお化け屋敷が苦手なのであった。
    子供の頃から肝試しや怪談、ホラー映画に心霊現象、そういったものに弱かった。
    「瀬戸くん、顔色がよくないみたいだけど」章が瀬戸に聞いた。
    「いえ、大丈夫っす」
    まあ、どうせ高校生の遊びだ。大して怖くはないだろう。
    出演する女の子だって、もう全員を知ってるんだし。

    『ハロウィン・ホラーハウス』と書かれた看板の前まで来ると、そこは大行列になっていた。
    入場までは1時間待ちだという。
    教室の入口にいた曽爾がこちらを見つけてやってきた。
    「ご覧の人気です。瀬戸さんのおかげですよ」
    話している間に教室の中から「きゃあっ」という悲鳴が聞こえ、瀬戸を震え上がらせた。

    曽爾は瀬戸たちを優先的に入場させてくれた。
    このお化け屋敷は二人ひと組で入り、どこかに置かれているカードを取ってくるルールである。
    まず、典子と瀬戸、続いて洋子と章が、それぞれペアで入ることになった。

    入口は二重の暗幕になっていた。
    外側の暗幕を開けてもらって、瀬戸は典子と並んで中に入った。
    「では無事に生還してくださいねぇ~」
    背後で暗幕が閉まると、隣の典子が瀬戸の左腕を掴んだ。
    え?
    「えへへ。これくらいは、楽しまないとね!」
    ぎゅっと、しがみつかれてしまった。
    これでは逃げられないではないか。
    「エスコートしてね、瀬戸くん♥」
    「は、はい」

    意を決して奥の暗幕をくぐった。
    中はほとんど真っ暗で、どちらに進んでいいのか分からない。
    「えっと・・」
    二人で立ちすくむ。
    目が慣れてくると、正面に左向きの矢印が見えた。
    「こっちみたいですね」
    矢印に従って歩き出した。

    ゾンビやで~

    数歩も進まないうちに、前の方に屈んでいた人影が立ち上がるのが見えた。
    うわ、来るなぁ。あっち行け。
    「・・うぅ」
    それはうめき声を上げながら、よろよろと近寄って来る。
    「・・ぁあ」
    背後でも声がしたので振り返ると、すぐ後ろにもう一体いた。
    「・・あ、・・・あぁ!」
    二体ともぼろぼろのセーラー服を着ていて、縄で後ろ手に縛られている。
    長い髪が顔にかかっていて、わずかに見える口元には赤い血が流れていた。

    瀬戸は黙って歩きだした。
    典子を左腕にしがみつかせたまま足早に進む。ぐんぐん進む。
    ぐんぐん進んで、正面の壁に衝突した。
    「瀬戸くんっ・・」
    典子の声が遠のいた。

    鼻がむずむずした。
    目を開けると、典子と、女子高生ゾンビが二体、並んで自分を見下ろしていた。
    むずむずしたのは、ゾンビの前髪が自分の鼻の下に触れているせいだった。
    う!!
    瀬戸は床に倒れたままで後ずさりする。
    「え、瀬戸さん?」右側のゾンビが小さな声で言った。江口真由の声だった。
    「ぷ、・・ぷぷっ」左側のゾンビがこらえきれずに笑い出した。凪元有咲の声だった。
    二体のゾンビは、後ろ手に縛られたまま、その場にしゃがみ込んで笑い出した。
    有咲がバランスを崩して後ろに転がり、そのまま起き上がれずに足を突き上げてバタバタした。
    暗闇の中に白いパンツがくっきり見えた。
    「やぁ~んっ。もぉ、瀬戸さんのえっちぃ」
    何で自分が叱られるのだ。

    瀬戸は憮然とした顔で立ち上がった。
    「うっかりぶつかりました。・・もう、大丈夫です」
    典子の手を取って通路を先に進んだ。

    角を曲がると、右側にスポットライトが点き、両手を広げて十字架に掛けられた魔女が浮かび上がった。
    と、ぎぃ~っという音がして、十字架がこちらに倒れ掛かってきた。
    魔女が磔になったまま迫ってくる。その目がくわっと開いて瀬戸をにらんだ。
    心臓が止まるかと思った。

    慌てて後ろに下がると、今度は左側が明るくなった。
    そこにはギロチン台があって、ぼろぼろのメイド服を着た少女が首をはめ込まれてもがいていた。
    少女が首を回して瀬戸を見た。
    「助けて!!」
    少女が叫んだそのとき。
    がっしゃん!!
    大きな音がしてギロチンの刃が落ち、少女の首が飛んだ。

    灯りが消えて、周囲は再び暗くなった。
    目まいがしそうだった。
    膝に両手を当てて、倒れないように踏ん張る。
    「大丈夫? 瀬戸くん」典子が小声で聞いた。
    「あ、大丈夫、です」
    本当は、ぜんぜん大丈夫ではないのだが。

    前の壁に直径50センチほどの丸い穴が開いていて、矢印がその穴を示していた。
    穴の反対側が薄明るく見えた。
    どうやら、この中をトンネルのように抜けるらしい。
    「こ、ここを通るんですよ」
    手をついて穴に入った。
    狭いトンネルの中はつるつるして滑らかだった。
    向こう側までは1.5メートルほどだろうか。
    ・・案外、長いな。
    そう思った瞬間、目の前が明るくなり、下についた両手の先、ほんの2~30センチの至近距離にゾンビ女子高生が出現して歯をむいた。
    そこは透明なアクリルパイプの中だったのである。
    パイプは外から銀のスプレーを吹いてハーフミラー状にし、その直下にゾンビの入った棺桶を置いたのだ。
    棺桶の中の照明を点けると、仰向けになったゾンビの姿が四つんばいになった客の真下に浮かび上がる仕掛けである。
    ゾンビ役は富沢ほのかだった。ほのかは観客を驚かせるのが楽しくて仕方ないという顔で笑っていた。

    「わ」
    瀬戸は声を出して頭を上げ、トンネルの天井に後頭部を打った。
    痛、た、た、た。
    頭を手で押さえながら匍匐(ほふく)前進し、反対側に出て床に座り込んだ。
    はぁ、はぁ。
    息が苦しい。

    「瀬戸くん」
    後から這って出てきた典子が聞いた。
    「ひょっとして、瀬戸くん、お化け屋敷が怖いんじゃ」
    「いえ、そんなことありませんっ。・・ひぇ、」
    典子の肩越しにそれを見て、瀬戸は再び悲鳴を上げた。
    そこには、だらりと吊られた少女が揺れていた。
    青白い顔。後ろ手に縛られた腕も、長いスカートから垂れた素足も青白い。
    ぎぃ、ぎぃ。
    これは、首吊の縄が軋む音?
    「・・あ、・・あぁ」
    とても色っぽい喘ぎ声だった。
    しかしこの状況で瀬戸には、処刑された少女の断末魔の声に聞こえるのであった。

    「瀬戸くん、立って」
    瀬戸は典子に手を引かれて、吊られた少女の脇をへっぴり腰で通り抜けた。
    「す、すみません」
    「頑張って。もうすぐ出口だから」
    情けない。
    早く出口に着いて欲しかった。

    角を回ると、今度は椅子に座って縛られた女性がいた。
    大きく背中が露出した、豪華なドレスを着ていた。
    高手小手で縛られた手首の位置は高く、両足も爪先まで固く縛られ、さらに口元を猿轡で覆われている。
    「んっ、・・んんん!!」
    女性は眉の間にしわを寄せて、ぎしぎしと全身でもがいていた。
    「すごい、これ・・」
    典子がとつぶやく。
    確かにすごかった。他の緊縛とは違う厳しさである。
    本当に高校生が縛ったの?
    驚く典子の横で、瀬戸はぜんぜん違うことを考えていた。
    ・・よかった。この人はあんまり怖くない。
    もし、瀬戸が落ち着いて見ていれば気付いたはずである。
    ぎちぎちに縛られているこの女性は、今までの女子生徒とは違う大人で、全員集合の緊縛練習のときには、いなかった女性だということに。

    「あった!」
    典子がテーブルの上に置かれたカードを見つけて取った。
    その奥に進んで暗幕をくぐると、急に明るくなって教室から廊下に出た。
    あ、終わった。
    「お帰りなさ~いっ。・・怖かったですか?」
    瞳が走り寄ってきて聞いた。
    典子がにやにや笑いながら瀬戸の顔を見る。
    瀬戸はむすっと前を見たまま何も言わない。
    「あれ? どうしましたか?」瞳が聞いた。
    「うふふ。瀬戸くんの名誉のために内緒」典子が言った。

    そのとき、教室の中から大きな声が聞こえた。
    「うんぎゃぁ~!!」
    え? 何!?
    廊下にいた高校生達が一斉に教室の方を見た。
    「やだ、やらぁ!! ・・きゃあっ、ひぎゃぁ~!!!」
    ただの悲鳴とは思えない、異様な叫び声である。
    ・・どうした?
    曽爾と何人かの生徒が心配して中に入っていった。

    「えっと、あれ、洋子さんよね」典子が小さな声で言った。
    「の、ようですね」瀬戸も言った。
    「先に行こうか」
    「行きましょう」
    「あたしも、行きます」瞳が同意した。

    アキラ、許して!
    黒川さん、スミマセン!
    章さん、ごめんなさい!
    三人は、一人で洋子の世話をしているはずの章に心の中で謝って、その場から逃げるように去っていくのであった。

    10.智佐子撹乱
    お化け屋敷で最後に登場するキャスト、ミカエル姫。
    そのミカエル姫役の智佐子は、がんじがらめに縛られていた。
    背中で捻り上げられた腕、きっちり合わせて固縛された足。口腔内いっぱいに押し込められた詰め布と口全体を覆う猿轡。
    このたまらない屈辱感と無力感。
    確かに緊縛については認めた。
    でも、こんな思いをするとは考えてもいなかった。

    驚いたのは、平然と自分を縛った曽爾である。
    これほど厳しく縛られているのに、少しも痛くないのだ。
    痛くないのに、何の自由もないのだ。
    いつも落ち着いていて、真面目で、成績も優秀な、クラス委員長の曽爾くん。
    なぜ、こんなことができるのだろう。

    不思議なことはもう一つあった。
    お化け屋敷では、自分だけでなく他に女子生徒が何人も縛られたり、十字架に架けられたりしていた。
    副委員長の渡辺さんなんて、縄で縛られて、その上吊られていた。
    なのに、どの子も、そんな扱いを受けて当たり前と思っているようだった。
    辛くないのだろうか。悔しくないのだろうか。
    それどころか、女の子達は緊縛されることを喜んでいるようにすら見えたのである。

    休憩時間になると、曽爾が来て智佐子の縄を解いてくれた。
    曽爾は痛いところがないか気を遣い、トイレや食事、飲み物などの世話をしてくれた。
    他の男子生徒も、同じようにそれぞれ担当の女子生徒の縄を解いていた。
    違うのは、休憩の後で女子生徒は交代して別の女子生徒が縛られるのに対し、智佐子に限っては次に縛られるのはやはり智佐子であることだった。
    なぜ自分だけ、こんな目にあうんだろうか。
    理不尽だったけれど、自分は担任だからと納得してそれを受け入れた。

    こうして智佐子は、二日にわたる文化祭の間じゅう縛られて過ごすことになった。
    「もがいて下さい。できるだけ激しく」
    曽爾に言われて、智佐子は観客が前を通る度にもがいて、無力な囚われのお姫様を演じた。
    いくらもがいて助けを求めても、それで誰かが助けてくれる訳ではない。
    観客はもがき続ける自分を見て驚いたり喜んだりするだけだ。

    「これ、篠田先生や!!」
    他のクラスの生徒達が来て自分を指差している。
    もう何人の生徒に知られただろうか。
    一度誰かに見られると、すぐに別の誰に伝わって見に来るので、もう全校じゅうに自分のことが知れ渡ったかもしれない。
    ついには、校長と教頭までやって来て「大したものですなあ、篠田先生」と言われたりもした。
    最初の頃は恥ずかしさと惨めさに耐えかねたけれど、今はずいぶん慣れてきた気がする。

    前にクラスで多数決をしたとき、女だけのお化けは客寄せ狙いが過ぎると生徒に言った。
    今、自分は客寄せになっている。
    まさに女だけにできる客寄せだと思った。
    こんな屈辱的な扱いも、女だから受けるのだろうか。
    惨めな思いも、女だから感じるのだろうか。
    ・・こんなにぞくぞくするのも、私が女だからだろうか?

    いつか、惨めな気持ちでいることに慣れてくる。
    下げずまれ、好奇の眼で見られることが当たり前になる。
    心が麻痺しているのではない。ただ、その状態を受け入れただけと思った。
    「・・いい顔になりましたね」
    曽爾が言った。
    え?
    私、何をしたっけ。
    ただ、お客の前で、惨めな姿を晒してもがいているだけなのに。
    ・・ぞく、ぞく、ぞく。

    ああ、この気持ち。・・被虐感。
    私は、被虐感に浸りながら興奮している。とても性的な興奮。
    智佐子は自分の性癖を認識した。
    もしかして女の子達も、被虐感を感じて喜んでいるのかしら。

    智佐子は、休憩時間になっても、特に必要がない限り縄を解かれることを求めなくなった。
    「ありがとう。でもこのままでいい」
    そう答えると、曽爾は目を妖しく光らせて、自分を緊縛したままで放置してくれた。
    他の女生徒がみんな自由を与えられる中で、自分だけが惨めな奴隷でいる。
    そう考えるだけで、興奮が増すのだった。
    もし曽爾くんがいなかったら、私はこの気持ちを知らないままだったのかもしれない。

    11.後夜祭
    グランドに集められた、展示の資材や看板類に火が点けられた。
    明るく燃える炎の回りにフォークダンスの輪ができる。
    文化祭の締めくくり、洛上高伝統の後夜祭である。

    津田が真由の手を取った。
    真由が笑って津田に応え、腰に回された手をぴしゃりと叩く。
    あほ! 他の子もいるのに、何するのっ。
    その後ろでは、志賀と聡美が並んで踊っていた。
    さりげなく志賀が聡美に身を寄せ、二人はパートナーを交代するまで密着して踊った。
    新井も、ほのかも、有咲も瞳も、フォークダンスの輪の中で仲良くステップを踏んでいる。

    3年4組のお化け屋敷は校内トップの入場者数を達成して大成功だった。
    女子生徒の緊縛という過激な展示を行ったが、一人ひとりはごく普通の高校生である。
    みんな、自分の役目を精一杯頑張った。
    お互いに信頼できる仲間だと実感していた。
    クラスの結束は以前とは比べものにならないくらいに高まっていた。

    ・・

    智佐子は目を覚ました。
    まだ緊縛されているような気がした。
    見世物にされた、囚われのお姫様。

    「先生、起きましたか」
    近くに座っていた生徒から声をかけられた。
    「曽爾くん?」
    「よくお休みだったので僕がここに運んできました」、

    智佐子は身を起こした。
    そこは司書室で、智佐子はソファに寝かされていたのだった。
    身体にかかっていた毛布が落ちる。
    自分の肩がむき出しになっているのに気付き、ミカエル姫の衣装を着たままだと知った。
    暗い司書室には他に誰もいなかった。

    「実はお詫びすることがあります」
    曽爾が言った。
    「僕は先生を縛りたくて緊縛担当に立候補しました」
    「え?」
    「先生も出演するって決まってから、先生を一番厳しく縛ろうってキャラデザの富沢さんに提案したのも僕です。・・僕は、」
    曽爾は大きく息を継いだ。
    「僕は、先生を縛れたら、どんなに素敵かとずっと思ってました」
    !!
    智佐子は無意識に毛布で胸元を隠した。
    この子、普通じゃない。普通じゃない、けど・・。
    「こんなことをして、本当に申し訳ないと思ってます。でも、先生ご自身がそれを悦んでくれた。惨めさを味わう中で、嬉しいと表現して下さった」
    「それが分かったの?」
    「はい。先生を見ていて理解しました。苦しんでいる先生はとても綺麗でした」

    あぁ、この子は。いいえ、この男性(ひと)は。

    「僕は先生が来られてから、ずっと先生が好きでした。・・今度のことで、もっと好きになりました」
    曽爾が話を続ける。
    「先生の生徒でいる間は無理ですが、来年僕が大学に行ったらお付き合いして欲しいと思っています。その、僕のことが、嫌い、でなければですが」
    「あなたには、私が普通じゃないって分かったはずよ。こんな女を好きにならなくても、他にいい子はたくさんいるのに」
    「いいえ、先生は変じゃありません。4組のみんなと同じです。江口さんは津田に縛られて喜んでいるし、渡辺さんもドMです。凪元さんも、富沢さんも、他の女子もみんな縛られるのが好きです。・・それで、僕も先生の緊縛を見て興奮する男です。だから」
    喋っていた曽爾が急に黙った。
    智佐子が曽爾の口に人差し指を当てたのである。
    「ありがとう、もう十分よ」
    「・・」
    「私もあなたのことが好きです。生徒、ではなく男性として」
    「先生!」
    「慌てないで。今は好きだけど来年まで好きかどうかわからないわ。だから、あなたが大学生になったとき、堂々と交際を申し込みに来てくれるかな」
    「はいっ」
    曽爾はぺこりと頭を下げた。

    「お願いついでに、もう一つ、お願いがあります」曽爾が頭をかきながら言った。
    「何?」
    「今、ここで、あなたを抱きしめてもいいですか」
    智佐子は笑った。
    「曽爾くん、本当に真面目なのね。・・そういうことは、黙ってするものよ」

    曽爾は両手を智佐子の背中に回して抱いた。
    大きく露出した智佐子の背中はすべすべして綺麗だった。
    智佐子も曽爾の背に手をかけて応える。

    フォークダンスの音楽がBGMのように聞こえた。
    グランドで燃える炎が4階の司書室の天井を照らして揺れている。

    ・・あぁ、縄の痕。
    智佐子は自分の手首と二の腕に残る痕を見て思った。
    それは、素肌に赤く、残酷に刻まれた緊縛の残滓だった。
    でもこれは私が彼に縛られた証。
    ふと、曽爾が自分を見下ろしているのに気がついた。
    智佐子は目を閉じた。
    二人はゆっくり顔を近づけて、キスをした。

    12.みたび、KS事務所
    文化祭が終わった次の週末。
    有咲と瞳が賞状を持ってきて、洋子に渡した。
    「『どえら~く大声だったで賞』? 何よそれ」
    「洋子さんの悲鳴があんまりすごかったから、贈呈することになったんです」
    「失礼しちゃうわねぇ。・・あんたら、そこで何笑ってるのっ」
    横で典子と瀬戸がくすくす笑っていた。
    典子の隣には章もいたが、章は笑っていない。あまり楽しくない記憶があるらしい。
    「ま、くれるモンはもらわないと悪いわね」
    洋子も笑って賞状を受け取った。

    「・・それから、クラスの曽爾くんに頼まれたんですけど」
    有咲と瞳が話を続けた
    「高校を卒業したら、改めて緊縛を習いたいって」
    「曽爾って、たった一日で縛れるようになったクラス委員だね」章が思い出したように言った。
    「そうですー。章さん、よく覚えてましたねー」
    「珍しい苗字だからね。・・まだ習いたいって、プロの縄師にでもなるつもりかな」
    「まさかぁ。曽爾くんって、国立大学志望ですよー」
    「へぇ、すごい」
    「わかった、きっと縛りたい彼女がいるのね」典子が楽しそうに言う。
    えー? 曽爾くんに彼女なんていたやろか?
    瞳と有咲は顔を見合わせて不思議がった。

    「そうね」洋子がぽんと手を打った。
    「その男の子の教育、瀬戸くんにやってもらおうかしら」
    え? 自分が?
    「あの、この間は、自分は人に教えるには一人前やないって・・」瀬戸は恐る恐る洋子に聞く。
    「うふふ」
    洋子は笑って典子と章を見た。
    典子と章も笑いながら頷く。
    「あのときの緊縛、すごく良かったわよ」
    「?」
    「ゾンビちゃん達の縄はぜんぜん緩んでなかったし、首吊りの女の子はハーネスの上から自然に縛れてたわ。最後のお姫様なんて、あれだけもがいてどこも鬱血してないし、すごく迫力があったわよ」
    洋子さん、あんな大きな悲鳴を上げながら、チェックしてたんですか?
    「一番よかったのはね、女の子がどの子も気持ちよさそうだったこと。ものすごく思いやって縛ったって分かったわ。・・あんた達もそう思わなかった?」
    洋子はそう言って、有咲と瞳に聞いた。
    「はいっ、ウチも気持ちよかったです」
    「男の子達、みんなすごく丁寧に縛ってたよね」「そうそう」
    「縛られて嫌だった女の子は一人もいないと思います」「別の意味で狂いそうになった子はいるけどね」「有咲、ここでそれ言っちゃダメ」「きゃはは」
    「ホントに瀬戸さんが教えてくれたおかげです」「うん! 瀬戸さん、すごい!!」

    そうか。みんな褒めてくれてるのか。
    自分が教えて、よかったのか。
    瀬戸はちょっと晴れがましい気分になった。

    「分かりました。その生徒、自分が教えます」
    「任せるわ! でもコーチ代取らないのなら、瀬戸くんも無給よ」
    瀬戸は苦笑する。
    もう無給でも何でもよかった。

    「ところであんた達、」典子が有咲と瞳に向って言った。
    「国立志望の曽爾くんはすごいけど、あんた達の進路はどうするの? そろそろはっきりしなさい」
    「あ、やば」「とばっちりやぁ!」
    「フリーターになります、なんて言ったら許さないわよ。キョートサプライズはぶらぶら遊んでる子に用はないからね!」
    「はいっ」「頑張ります!」
    「あ、ウチ、用事思い出した!」「あたしも!」
    二人は急にばたばたと自分の荷物を持つと、部屋を飛び出して行った。
    「失礼しますー!」「サヨナラー!!」

    残された四人はしばらく唖然としてから、ぷっと吹き出す。
    「逃げたね」「もう、あの子達ったら」
    「いいじゃないの、自分の道は自分で見つけるモノよ」
    「あはは」「ほほほ」

    「・・よぉーし!」
    突然、章が立ち上がって叫んだ。
    「瀬戸くん、久しぶりに稽古するか」
    「は? 何の稽古」
    「緊縛に決まってるだろう。君にも弟子ができるんだから、もっと腕を上げないと」
    あの、自分はもう一人前なんじゃ。
    「そうね! 瀬戸くんはもっと頑張らないとダメね」
    えぇ? 洋子さんまで、そんな。
    「よし、練習場へ行こう。典子、モデル頼む」
    「了解! ・・瀬戸くん、うちのダンナ、今日は燃えてるみたいやから、そのつもりでね」
    「何を言うか。俺は後輩のために稽古をつけてやるだけだぞ。典子こそ、覚悟しろよ」
    「はい、覚悟しますっ。アキラ以外に縛ってもらうの、久しぶりぃ~♥」
    「喜んでるだろ?」
    「そんなことないわよ~。・・行きましょ、瀬戸くん」
    「頑張ってねー」

    手を振る洋子を残し、瀬戸はわけのわからないまま典子と章に引っ張られて行くのであった。



    ~登場人物紹介~
    ★洛上高校3年4組メンバー
    凪元有咲(なぎもとありさ): 17才。KSのEA。ゾンビ役。
    丸尾瞳: 18才。KSのEA。衣装担当。
    津田昂輝: 17才。男子陸上部。緊縛担当。
    江口真由: 17才。女子陸上部。津田と相愛。ゾンビ役。
    曽爾則之(そにのりゆき): 18才。クラス委員長。緊縛担当。
    渡辺聡美: 17才。クラス副委員長。首吊娘役。
    富沢ほのか: 18才:お化けのキャラクタデザイン担当。トンネルゾンビ役。
    新井大輔、志賀雄二: 緊縛担当。
    篠田智佐子: 23才。クラス担任。教師になって2年目。ミカエル姫役。

    ★KSメンバー
    瀬戸宗弘: 21才。若手緊縛士。有咲と瞳に頼まれて3年4組の緊縛をコーチする。
    黒川典子: 29才。KS企画担当マネージャー。
    黒川章: 30才。KS技術担当マネージャー。ベテラン緊縛士で典子の夫。
    島洋子: KS代表。


    3年4組緊縛お化け屋敷。
    このタイトルだけで文化祭だと分かった皆様は『いつか感じたキモチ』のベテラン読者様です。
    今年もシーズン恒例、学園祭文化祭企画をやります。
    (これで5回目。我ながらよく続くものです)

    今回はKSの女子高生メンバーが通う、ごく普通の公立共学校の文化祭。そのクラス展示のお化け屋敷が舞台です。
    このお化け屋敷に登場するのは、作り物ではなく、すべて女子生徒が生身で演じる女のお化けです。
    その上、どのお化けもリアルに緊縛/拘束されており、お化け役の女子は緊縛担当の男子に縛ってもらってから、がんばってお客を驚かせるのです。
    当然のことながら、すべての女性はMっ気十分。(私の小説ですから^^)
    縛られることに羞恥は感じても、拒否することはありません。
    それどころか興味深々、ノリノリで縛られてくれる女の子がほとんどなのです。

    こんな夢のような設定ww の下、生まれて初めての緊縛にドキドキする女子生徒、初々しいカップル、担任女教師など、好みのエピソードを盛り込みました。
    盛り込み過ぎて、全体のボリュームがかなり大きくなりました。
    本当はお化けの設定を含めまだまだネタがあるのですが、一度に更新できるボリュームはこれで限界。
    多少の燃え(萌え)残りは気にしないで、お楽しみいただければ幸いです。

    ここで、いつものご注意を。
    3年4組の曽爾くん達はあっという間に縛れるようになってしまいましたが、それはお話の中のことです。
    現実の世界は甘くありません。
    緊縛初心者の方は、決して焦ることなく、パートナーの安全を最優先にして、ゆっくり、確実に、緊縛技術を勉強して下さい。

    さて、今回一番楽しかったのはお化けの設定を考えることでした。
    本編内では書ききれなかった設定もあるので、以下に改めて説明します。
    できれば富沢ほのかちゃんが描いたキャラデザ風に絵を描いて紹介したいところですが、そんな余力はないで文章だけでご容赦;

    ・ゾンビJK
    セーラー服を着た女子高生ゾンビ。後ろ手に緊縛されている。
    お化け屋敷の入り口付近に二体いて、入場者を追いかけてくる。
    ときどき調子に乗りすぎて転ぶことがあり、両手が使えないので起き上がるのに苦労する。
    お化け屋敷内は写真撮影禁止だが、ゾンビJKだけはうまく頼めば一緒に記念写真を取らせてくれる。
    (そんな設定はなかったけれど、ゾンビ役の女生徒が勝手に始め、裏メニュー?として定着した)

    ・磔魔女
    十字架に磔になった魔女。
    十字架の柱は足元にヒンジ(蝶番)がついていて、手前に約45度くらいの角度まで傾けることができる。
    入場者が近づくと操演担当の男子が、磔の魔女ごと十字架を倒して驚かせる。
    なお、富沢ほのかの初稿設定では、十字架ではなく一本柱で上下逆に縛りつけられた美女の死体だった。
    これでは死体役の女子が耐えられないと議論になり、自分がやってもいいと言う女生徒もいたものの、「何かったら責任取れない」という委員長の判断で十字架の魔女に変更された。

    ・ギロチンメイド
    ギロチン台に首を固定されたメイド。
    メイドのコスチュームは、ロングスカート・長袖の清楚なタイプをぼろぼろに破いたもの。
    ギロチン台には、刃が落ちるとメイドの首が隠れるギミックがついている。
    操演担当者は、メイドが助けを求めるタイミングに合わせてギロチンの刃を落とし、その後ダミーの首を床に転がす。
    膝をつき首を突き出した姿勢で展示時間(50分)を過ごすので、ミカエル姫を除く一般女生徒の役では最も過酷。

    ・トンネルゾンビ
    アクリルパイプのトンネルの中に出現する女子高生ゾンビ。
    操演担当者がライトを点灯させると、本編で解説したようにハーフミラーの原理でゾンビの姿が浮かび上がる。
    アクリルパイプの下にセットする棺桶は、幅40センチ、高さ25センチほどで、側面の蓋を開けてゾンビを押し込む構造になっている。
    ゾンビ役は、緊縛などはないものの、ほとんど身動できず暗闇の中で過ごすことになる。
    配役を決めるにあたり、実際に棺桶に閉じ込められて平気だった女子生徒が選ばれた。

    ・首吊娘
    門形に組んだ首吊台から吊られた少女。
    教室天井高さの制限から、床から足を50センチほど浮かせた高さで吊られる。首吊の輪はダミー。
    人間くす玉用のハーネスとワイヤを使い、その上から縄で緊縛される。
    ハーネスが見えないように、ゆったりとしたロングドレスを着用している。
    通路の中央に吊るされ、さらに操演担当者が振り子のように揺らせるので、入場者はその脇をすり抜けて通らなければならない。

    ・ミカエル姫
    お化けではなく、学園のお姫様が囚われている設定。
    出口の手前で椅子に着座で緊縛されている。
    緊縛担当者の趣味で、最も厳しい縄掛けを全身に施されてもがいている。
    ミカエル姫役は、生徒ではなく担任の女性教師が交代要員なしで務めた。

    これ以外にボツになったネタもありまして、もう使わないだろうから羅列すると、
    ・心臓打ち抜きバンパイヤ(木の杭で胸を打たれ、そのまま壁に磔になった女吸血鬼)
    ・水中腐乱女子高生(女子高生の腐乱死体が水槽から這い出てきて、観客を追いかける)
    ・生き埋め女子高生(生き埋めになった女子高生が泥の中から這い出てきて、以下同じ)
    ・さ迷う欠損美少女(両方の腕と片足の膝から先がない少女がうろうろしている)
    ・さ迷う首なし美女(首のない美女がうろうろしている。タネ? さぁ?)
    ・獄門台(獄門台に並ぶ女の子の生首。観客は台の下をくぐり、首にも触れる。タネ? さぁ?)
    などがありました。

    本当にこういうアイディアは底が尽きません。
    全部やるには文化祭の規模では無理で、それこそ映画やテレビ、テーマパークのアトラクションなどでないとできないでしょうね。
    でもそういった環境では、女性達の「楽しんでやってる」感が薄れ「仕事でやってる」感になってしまうので、難しいところです。
    もともと、キョートサプライズを書いたのは、プロレベルの過酷な拘束/緊縛を普通の女性達が明るく楽しくやっている状況を描きたかった、が理由の一つにあるんですね。

    ・・後書きだけでもずいぶん長くなってしまいました。
    ちまちまと楽しみ過ぎたために、今回も更新が遅くなったことをお詫びします。
    次回も遅くなると思いますww。
    どうぞ気長にお待ち下さい。
    ありがとうございました。




    キョートサプライズ セカンド・第7話(1/3) 箱入り配達彼女

    1.ラブホの個室
    僕の目の前にダンボール箱がある。
    長さ90センチ、幅と高さが50センチくらい。
    箱を届けに来た配達員は無口で愛想が悪かった。
    僕が挨拶しても返事もせず、受け取りのハンコを確認するとすぐに帰ってしまった。
    僕が初めてだから、馬鹿にされたのだろうか?
    あまりいい気はしなかったけれど、振り返ってダンボールを見たら、そんなことはどうでもよくなった。
    とうとう手に入れた!
    収入が不安定な僕にとって、このサービスは決して安くない。
    僕は一大決心をして申し込んだのだ。
    ・・さて、どうしようか。
    おっとその前に。
    僕は部屋のドアの鍵を確認して、それからケータイの電源を切った。
    これで安心だ。
    僕は箱をじっと見下ろした。

    それから30分。ダンボール箱はそのままだった。
    僕はソファに座って箱を眺めている。
    急いで開ける必要はない。これは僕のものなんだ。
    箱をじっくり見る。
    ダンボール箱の側面には僕宛の送り状。そしてわざわざ『転倒・逆置可』と書いたラベル。
    上面を手で押さえる。ダンボールにしては硬かった。
    箱の角に沿って感触を確認する。内部に木か金属かの補強が入っているのだろう。
    底の一辺に手をかけて持ち上げた。ずっしりと重い感覚。
    そのまま箱を斜めに傾けたけれど、中身が滑って動く感覚はなかった。
    内部を想像してどきどきする。
    どれだけみっちり詰まってるんだろうか。

    『転倒可』だよな。『逆積可』だよな。
    逆さにしたって構わないんだ。
    僕は箱を横に倒した。それはへしゃげることもなく、横置きになった。
    さらに箱を回して倒す。
    箱は最初に置いたときから、上下が逆になった。
    ああ、たったこれだけで僕は心臓の鼓動が跳ね上がった。
    僕は冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出してごくごくと飲み、それからソファに勢いよく座り込んだ。
    ズボンの前がはじけそうだ。
    別の考えが浮かんだ。
    僕は箱の端面、つまり直方体の箱の左右の正方形を片側ずつ持ち上げて重さを確かめた。
    うん。こっちが軽くて、あっちが重い。
    重い方に手をかけて、箱を垂直に立てた。
    !!
    箱の "中身" が驚いた。実際には何も聞こえないけど、そう感じた。
    ふふふ。これで "頭" が下になった。
    "それ" が箱の中で沈む様子を想像した。
    苦しいかな?
    僕はソファに座りなおして、箱を見ながらズボンの前を開けた。

    ソファに転がって脱力した。
    目を閉じて、それからまた目をあける。箱は消えてしまわないで、そこにあった。
    箱を開けるのも、このまま放置するのも僕の自由なんだ。
    箱の "中身" を強く意識する。
    僕が蓋を開けてあげない限り、"それ" は頭が下の体勢のまま、いつまでもそのままだ。
    "それ" は解放されるときを、ただじっと待っているんだ。
    僕が両手を上げてほんの少し伸びをする何秒かの間も、"それ" にとっては何時間にも思えるだろうか。
    僕はいろいろ妄想するだけで満足し、このまま最後まで箱を開けなくても構わないと思った。

    2.開封
    2時間が過ぎた。
    ずっとこのまま放置したいけど、ラブホのフリータイムは無限ではない。
    さすがに中身を見ないで終わるつもりはなかった。
    ようやく立ち上がって、箱を倒して元の状態に戻した。
    "それ" がほっとした、と感じた。
    箱の蓋の合わせ目には幅の広い透明なテープが貼られている。
    テープは剥がしにくかったけれど、ナイフやハサミは持ってないから手で剥がした。
    蓋を開ける。
    暖かい空気、そしてほんの少し生々しい匂いを感じた。汗かな? それとも。
    箱の内側は白い発泡スチロール片がいっぱいに詰まっていた。
    右手を中に差し入れると、指先はすぐに固いものに突き当たった。
    ごくり。
    発泡スチロールをかき寄せる。
    白い布に覆われたモノが現れた。
    手のひらをそっと押し当てる。
    それはゆっくり上下していた。ああ、呼吸している!
    僕は大急ぎで発泡スチロールをかき出した。
    箱の中には白い包帯に巻かれたミイラのようなモノが詰まっていた。
    もうはっきり分かる。これは人間の女性だ。
    包帯でぐるぐる巻きになった女性が箱の中に入っているのだ。
    それは箱の中にきっちり収まっていて、わずかな隙間にスチロール片が詰め込まれている。
    上から見下ろすと、丸めた背中からお尻にかけての部分だけが見えた。
    頭は底に向かって押し込まれているので、どうなっているのか分からない。
    よし、外に出すぞ。
    くびれたウエストの両側に腕が入りそうだ。
    僕は箱を跨いで立ち、両手を差し込んで抱えた。
    「ん・・」
    包帯の中でそれが声を出した。小鳥のような可愛い声だった。
    思い切って持ち上げた。
    それは案外軽かったけれど、ダンボール箱ごと持ち上がってしまった。
    両足で箱を挟んで押さえようとしたら体勢を保てない。
    一旦あきらめて下に下ろす。これは2人がかりでないと無理だな。
    仕方ない。
    少し考えてから、僕は箱を横に倒した。
    底の部分を持ち上げて全体をゆさゆさ揺すった。
    何度か繰り返すうちに、中身が滑り出てきて姿を現した。

    3.梱包少女
    やったぞ。
    それは頭の上から爪先まで白い包帯で覆われていて、まさにミイラだった。
    包帯は弾力性のあるものをきつく巻いているようだった。包帯留めの金具であちこちを固定されている。
    顔面の口の位置から短いチューブが生えていた。
    両手は前で組んでいるのがシルエットでわかる。
    両足は一本にまとめられ、膝を胸の方に引き寄せて丸くなっていた姿勢のまま、横倒しに転がっている。
    それを仰向けにして、試しに足首の部分を引いて伸ばしてみた。
    小さく折り曲がった体は少し伸びてたが手を離すとすぐに元に戻ってしまった。まるで固いバネだ。
    じっと見ていると、それは息をするのに合わせてゆっくり動いていた。
    僕は口から生えた呼吸管に顔を近づける。
    「ぁぁ・・、ひゅぅ・・、ひぃ・・」
    ああ、素晴らしい。
    それは小さな声で鳴いていた。
    包帯に包まれて拘束されながら、喘ぎ声を漏らしている。
    本当に眺めているだけで飽きない。

    ふと気が付くと時計は3時を回っていた。
    ああ、もう2時間しか残ってない。
    包帯を剥がすのはもったいなかったけど、そうしないと先に進まない。
    頭の方から剥がすか、足の方から剥がすか。
    少し考えて、頭から手を付けることにした。
    僕が申し込んだのはダンボールの重梱包だ。この包帯の下の彼女が素顔のはずはないじゃないか。
    つむじのあたりの包帯を解いてゆく。
    ゆるくウェーブのかかった黒髪が見えてきた。
    セミロングの髪が少し乱れている。
    汗の匂いが広がった。いい香りだと思った。
    やがて、彼女の首が僕の目の前に姿を見せた。
    へへ、やっぱりね。皮の目隠しと猿轡をしっかりと施されている。
    額の髪の生え際に汗が光っていたので、ウェットティッシュで吹くと「ん、あぁ・・」と気持ちよさような声を出した。
    その声がまた堪らず、僕は彼女の首筋や耳の後ろを何度も拭いて声を出させてしまった。
    猿轡の口の部分には丸い蓋が付いていて、その中心から透明なチューブが生えていた。
    これは、どうやら口枷に栓をねじ込むタイプらしい。
    口栓を外すと唾液がとろりと流れ出た。
    ペンライトで口腔内を照らして覗き込んだ。
    ふと思いついて、冷蔵庫の製氷庫から氷をひとつ持ってきた。
    それを口の中に放り込む。
    「ん! おぉっっ!」
    激しく首を振ってもがいたが、構わず口栓を装着して静かになるまで楽しんだ。
    さて、では首から下の包帯を剥ごう。

    僕は女の子の服は分からないから『カジュアル』とだけ書いて申し込んでいた。
    どんな衣装を着ているんだろう?
    大量の包帯を解いて現れたのは、白と黒のボーダー柄のトレーナーとデニムのミニスカートだった。
    そのままソファーに転がして再び観察する。
    生足に黒っぽいソックス。至近距離で見る太ももが生々しい。
    スカートの下から白い下着が見えていた。
    普通の男だったら手を出すかもしれなけれど、僕はそんな下品なことはしない。
    スカートの裾を下に引っ張って下着を隠した。
    うん、これでいい。何て可愛いんだろう。
    僕は正面に座って再び自慰をした。
    目の前には本物の緊縛少女。
    目隠しと猿轡の顔を少し横に向けて、大きく呼吸する胸、そしてときどき動くミニスカートの脚。
    ああ、最高に贅沢なオナニーのおかずだ。

    少し休憩して、また彼女に少しだけ自由を追加してあげることにした。
    彼女は手足を縛られていたが、腕の方はちょっと変わった縛り方だった。
    体の前で組んだ腕の、肘から手首をまとめて縛られている。
    腕の縄は胴体にかかっていない。
    なるほど、こうすると箱の中で丸くなるのに都合がいいのか。
    下半身は普通に足首と膝を合わせて縛られていた。
    僕は彼女の後ろにあぐらをかき、彼女の身を起こして膝に乗せた。
    そしてゆっくりと上半身の縄を緩めて行く。
    拘束を解かれた両手がだらりと身体の左右に落ちた。
    手首に縄の跡が刻まれている。
    僕はその両手を取って、後方に回した。
    ポケットから手錠を出す。
    安物の玩具だけど、金属製でそれなりに丈夫なのを買ったから役に立つはずだ。
    そのまま背中で手錠を掛けた。
    「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」
    初めて普通に話しかけると、手錠の輪を手首に少し食い込むくらいまでかちゃかちゃと締めた。
    「ん」
    彼女は小さな声を上げたが、その後はそのままじっとしている。
    うなだれるように首を少し垂れているのがたまらない。
    僕は彼女を背中の方から抱きしめた。
    手の中に彼女の胸が収まった。
    トレーナーの上からでも、それは大きくて柔らかかった。
    その胸をそっと押さえた。
    「んぁ・・んっ」
    再び小さな声が響く。
    それはとても可愛い声で、僕は少し冷静さをなくしてしまった。
    トレーナーの中に手を差し込んで、さらにブラの中まで侵入した。
    「んあぁん!」
    もがく彼女の身体を押さえ、柔らかい乳房を強く揉み込んだ。
    「んっ、・・おぁ、・・ぁ」
    彼女は本気で逃げようとはしなかったけれど、首を仰け反らせて喘ぐ姿に、僕はようやく痛がっていると理解した。
    女の子に痛い思いをさせるのは本意じゃない。すぐに手を離してブラとトレーナーを元に戻した。
    「ごめん」
    かすれるような声で僕は謝った。

    気がつけば喉がからからだった。
    僕は彼女から離れて立ち上がり、ミネラルウォーターを一息に飲み干した。
    そういえば、彼女は大丈夫かな?
    僕の部屋に届いてから氷を一個与えただけだ。
    「水、飲む?」
    彼女は床に転がったまま何の反応もしない。

    「おい?」
    慌てて彼女の頬を軽く叩く。
    「お・・、おぉ・・」
    小さな声が返ってきてほっとした。
    驚かさないでくれよな。こういうプレイは初めてなんだから。
    「喉、渇いた?」
    「ん、・・・ぁあ・・」
    何を言ってるのかよくわからない。
    思い切って猿轡を外すことにした。
    首の後ろのベルトを外した。そして口枷をゆっくり前に引き出す。
    「お・・、おぇ」
    想像よりずっと太くて長い口腔管がずるずると出てきた。
    彼女はそのまま、はぁはぁと息をしている。
    冷蔵庫から新しいミネラルウォーターのボトルを取ってきて口にあてがうと、ごくごくと飲んだ。
    「あ、あぁっ、・・ごほ、ごほっ」
    「慌てないで、ゆっくりでいいから」
    「ありがと、ござ、ます」
    小さな声で答えた。やっぱり可愛い声だと思った。

    4.由梨絵ちゃん
    僕は目隠し・後ろ手錠で座った彼女の横に並んで座り、背中をゆっくりさすってあげた。
    自分で女の子を縛ったことはないし、これ以上苛めようとも思わなかった。
    このまま隣でじっとしていてくれるだけでいい。
    「・・あ、あの」
    彼女が目隠しの顔をこちらに向けて話した。
    「もう喋れるようになった?」
    「はい。・・本当は、自分からお話しするのは禁止なんですけど」
    「構わないよ。あ、トイレ?」
    「いえ、そうじゃないんです」
    「?」
    「お客様、もしかして初めてでいらっしゃいますか?」
    「うん。実はそうなんだ。初めての女の子が君みたいな可愛い子でよかったよ」
    「うわぁ、うれしいっ。私、ユリです」
    「ユリちゃん」
    「はい。あの、よろしければお客様は、何とおっしゃいますか?」
    「僕? 僕は佐藤っていうんだ。日本で一番多い苗字」
    「私は臼井(ウスイ)なんですよ。お餅をつく臼です。珍しいでしょ?」
    「へえ、ウスイユリちゃん」
    「ユリは芸名で、本名は由梨絵です」
    「そうか、臼井由梨絵ちゃんか」
    「はい!」
    「・・そんなに簡単に本当の名前を言っちゃって構わないの?」
    「あっ、いけない! どうしよおっ。・・お客様、誰にも言わないで下さい!」
    彼女は後ろ手錠の身体を揺すらせて跳ねた。
    さっきまで苦しそうだったのに、もう元気になっていた。
    「あはは、いいよ。内緒にするから」
    「絶対に秘密ですよ? ウソついたら針千本飲ませますよぉ」
    「うん、ウソつかない」
    「よかったぁ」
    本当に安心したみたいだった。変わった子だ。
    「えっと、由梨絵ちゃんは何歳なの?」
    「21ですっ」
    「大学生?」
    「専門学校です、声優専門の。・・私、アニメの声優志願なんです」
    相変わらず自分のことをべらべらと喋り続ける。
    「へぇ、声優か。だったら何か声優っぽいことやってみてよ」
    「いいですよっ。じゃあ、・・ああっ、ご主人様ぁ♥ ダメですぅ、そんなとこぉ。・・あんっ、ア、アタシ、・・もう、イっちゃうぅ♥~」
    それは彼女の地声とは違う、べたべたと甘ったるい声だった。
    「・・」
    「あの、もしかして引きました?」
    「少しだけ」
    「やぁだぁっ。喜んでもらえると思ってやったのにぃ」
    「・・・」
    「?」
    「・・ぷ、あははは」「うふふふ」
    二人揃って笑った。いい子だと思った。
    僕は由梨絵ちゃんの肩に手を乗せた。
    彼女はもたれかかってきて、僕の肩に頭を乗せてくれた。
    どきんとした。
    「お客様、優しい方ですね」
    「そうでもないよ」
    「あの、これから、どうされますか?」
    「どうって、このままじっとしててくれたらいいよ。これ以上何もしないから」
    「ええ!? そんな、ダメですっ。もったいないっ」
    「?」
    「せっかく女の子を自由にできるんですよ? 無抵抗なんですよっ。もう、目一杯楽しんでいただかないと、もったいなくって、もったいないオバケが出ちゃいますよぉ」
    「でもこれだけで十分楽しんでるし、これ以上どうしたらいいか分からないし」
    「そうですか。・・なら、もがきましょか?」
    「え」
    「私、縛られたままで、もがきましょうか?」
    女の子のもがきは Club-LB サイトのストリーミングで見ていた。
    全身を拘束されて絶望的な状況。必死にもがいて救いを求める少女。
    それは、見たい。
    「できるの?」
    由梨絵ちゃんは黙ってごろりと回転して、ソファから床に転がった。
    「えっと、ガムテープ、箱の中に入ってませんか」
    確かにダンボールに新品のガムテープが入っていた。
    「入ってるけど」
    「じゃあ、それを口の上に貼って下さい」
    「いいの?」
    「だって、囚われの美少女に猿轡がないなんて、何とかのないコーヒーみたいなもんでしょ?」
    「どこで覚えたの、その言い方」
    「あ、含み布」
    「含み布?」
    「ガムテープ貼っただけだと案外喋れちゃうんです。口の中にハンカチとか詰めて、絶対に喋れないようにして下さい」
    「ハンカチか。持ってないなぁ」
    「もう、男の人って。・・なら、私のパンツを脱がせて詰めてもらっても、いいですけど」
    どき!
    「あのね。いくら何でも、女の子が自分からそんなこと言ったらアカンでしょ」
    「あはは、そうかな。・・私、ものすごいこと、言っちゃいました?」
    「そう言ってくれたのは嬉しいけどね」
    よし、これにしよう。
    僕は彼女の足の縄を解くと、ソックスを脱がせてもう一度縄を結んだ。
    「ソックスかぁ」由梨絵ちゃんが感心したように言った。
    「いいでしょ? もしかして足の匂いで臭いかな?」
    「臭くなんかありませんよぉだっ」
    尖らせた彼女の口に指を入れて開かせると、ソックスを丸めて押し込んだ。
    「あぁん!・・んぐっ」
    それから僕はガムテープをびりりと切り、彼女の口から頬にかけてべたりと貼った。
    布テープだな。簡単には剥がれないぞ。
    「じゃあ、もがいてくれるかい。・・僕を目一杯楽しませてよ」
    由梨絵ちゃんはしばらくじっとしてしていたが、やがて首を左右に振り始めた。
    「ん、んんっ、・・ん、ん!」
    床の上を転がりながら、激しくもがいた。
    海老のように丸くなったり、逆アーチになって身体を反らしたり。
    スカートがおおきくめくれ上がって、パンツどころかおへそまで丸見えになった。
    「んんん・・!!」
    手首に食い込む手錠が痛々しい。
    ときたま動きを止めて肩で深呼吸すると、首をぶんぶん振って、それからまた身体をくねらせた。
    「ん~っ、んっ!、んっ!、んんん~っっ」
    すごい。
    熱演だった。
    僕はソファに座ったまま、唖然としてそれを眺めた。
    目の前にいるのは、本当に誘拐されて監禁された美少女だった。死にもの狂いで助けを求める美少女だった。

    気がつくと、彼女は床でぐったりと動かなくなっていた。
    なぜか僕の方が息を荒くして、そしてズボンの前を押さえていた。
    はっと我に返ると、僕は立ち上がって彼女の拘束を解いた。
    手錠、足の縄、ガムテープ、詰め布のソックス。そして目隠し。
    「ユリちゃんっ。由梨絵ちゃん!」
    彼女はゆっくりと目を開く。
    素顔の由梨絵ちゃんは、真っ赤な顔をしていてとても可愛いかった。
    「あ・・、楽しんでいただけました?」
    「うん、すごくよかった」
    「えへへ。頑張りましたよぉ」
    僕は我慢できなくなって、彼女を力いっぱい抱きしめた。
    「あぁっ・・ん」
    由梨絵ちゃんは小さく震えて声を出した。
    とても色っぽい声だった。

    5.返却
    それから、あっという間に終了の時間になった。
    待ち構えていたようにドアのチャイムが鳴って、あの配達員がやってきた。
    由梨絵ちゃんは、てきぱきと縄で縛られてしまった。
    プロの緊縛とはこんなものだと言わんばかりの手際のよさだった。
    「お客様、」
    彼女が最後に言った。
    「今日はありがとうございました。・・よろしかったら、またお呼び下さいね♥ ・・うぐぅ」
    彼女の口に猿轡の口腔管が押し込まれたのだった。
    それでも彼女は明るくウインクをし、そしてその上から配達員が目隠しをした。
    彼女は最初に届いたダンボール箱の中に押し込まれた。
    隙間に包帯と発泡スチロール。
    そして最後に蓋をしてガムテープが貼られた。
    由梨絵ちゃんは元の通りの荷物になって運ばれていった。

    誰もいない部屋で、僕はしばらく気が抜けたように座っていた。
    両手に彼女を抱きしめた感触が残っていた。
    ・・よぉし。
    僕は決めた。
    次は由梨絵ちゃんを指名で借りるぞ!

    続き




    キョートサプライズ セカンド・第7話(2/3) 箱入り配達彼女

    6.2回目の貸し出し
    次に由梨絵ちゃんを借りれたのは3ヶ月も後だった。
    本当はすぐに借りたかったけれど、お金が足りなかった。
    僕は食事を減らし、アルバイトの時間を増やした。
    お金が貯まるまでの間は、由梨絵ちゃんのことを思い出しては毎晩自慰をした。

    由梨絵ちゃんをまた見たい。
    由梨絵ちゃんの喘ぎ声をまた聞きたい。
    僕の中で、様々に拘束された由梨絵ちゃんのイメージが浮んでは消えた。
    でも僕は自分では縛れない。
    緊縛士に来てもらって目の前で由梨絵ちゃんを縛ってもらうこともできるけれど、それはさらに料金がかかる。
    また拘束された状態で届けてもらうしかなかった。
    どうせなら前よりもずっと絶望的に拘束して送り届けてもらうのがいい。
    それで僕の手で由梨絵ちゃんを解放してあげるんだ。
    僕はそう考えて Club-LB のサイトでFB配達サービスのメニューをあれこれ調べた。

    7.着ぐるみの木箱
    前と同じラブホの、前と同じ部屋。
    届いた荷物は、表に化粧版を張った木箱だった。
    つるつるした表面を撫でて感心する。まるで高価な美術品や骨董品でも入っているような高級感。
    木箱は前回のダンボールと比べたらかなり大きかった。
    長さ1.5メートル、高さ1メートル、奥行きは70センチ、というところか。
    この中で由梨絵ちゃんはどうなっているんだろうか。

    木箱を開けようとして、道具を忘れたことに気がついた。
    そうだ、ドライバーセットが要るんだった!
    サイトで申し込んだときに、必要工具の一覧が表示されていたのを思い出した。
    僕は慌てて街に飛び出した。
    ドライバーくらいアパートに持っているけれど、ここから取りに戻れば往復2時間かかる。
    どこかホームセンターがないだろうか。コンビニにもあるかもしれない。
    『LA◯SON』
    あった! 僕は店の中に飛び込んでドライバーを探す。
    欠品だった。小さなマイクロドライバーしかない。
    再び外に飛び出して、コンビニかホームセンターを探す。
    焦りと痛恨。
    あの中には由梨絵ちゃんが入っているのに。僕が開けてあげるのを待っているのに。
    僕はいつしか走り出していた。
    真夏の太陽が照りつける歩道を、僕は何百メートルも走った。

    ラブホの部屋に駆け戻って来たのは、1時間近く後のことだった。
    そこにはあの箱がそのまま置かれていた。
    僕は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して一気に飲んだ。
    箱に片手をかけて、しばらく激しく息をついた。
    くそ、ずいぶん時間を無駄にしてしまった。

    箱は手前の大きな面が蓋になっていた。
    厚みのある木の板がネジで固定されている。
    周囲に16本あるネジを一つずつドライバーで外して行く。
    ネジはまるで接着剤で固定したかのように固く締め込まれていた。
    たちまち腕が痛くなってきた。
    いったん引いた汗が再び吹き出してくる。
    アパートのドライバーなら、ラチェット付きなのに。
    工具を忘れたことを再び悔んだけれど、今さら仕方なかった。
    僕は黙々とネジを外し続けた。
    ようやく全部のネジを外すと、両手を蓋にかけて手前に引いた。
    蓋は固くて、隙間にドライバーを差し込んでこじるようにしてようやく開けることができた。
    外した蓋を部屋の隅に立てかけてから、僕は箱の中を見た。

    これは・・!
    そこには、こげ茶色のレザーで覆われた造形物が、その外形に沿ってくりぬかれた発泡スチロールの中にぴったり収まっていた。
    大型犬ほどのサイズの四足の動物。
    四つんばいになった人間が入っていると思えば、ちょうどの大きさだった。
    首には真っ赤な犬の首輪が巻きついていて、その上にはレザーで作られた犬の首を被っている。
    まるで着ぐるみだ。
    この着ぐるみの中に由梨絵ちゃんが入っているのだろうか。
    僕はごくりと唾を飲み込んで、着ぐるみを眺める。
    着ぐるみの四肢は、人間が四つんばいになっているにしては異常に短かった。
    そうか。
    手足を肘と膝で折って半分の長さにしているのか。
    すぐに分かった。ネットで見たことがある。
    由梨絵ちゃんがこの中に入っているとしたら、彼女は手足を折り畳んだ姿勢で詰まっているんだ。
    「由梨絵ちゃん」
    恐る恐る呼びかけてみる。返事はなかった。
    「由梨絵ちゃんっ!」
    もう一度声をかけて、犬の頭に耳を寄せた。
    「ん、・・・んっ」
    深い穴の底から伝わるような声が聞こえた。この声は、由梨絵ちゃんだ。
    間違いない。この中には由梨絵ちゃんが入っている!

    僕が依頼したのは『ぎちぎち皮拘束・厳重梱包コース』だった。
    それが、こんな異様な形で届けられるとは。
    胸の鼓動が速くなった。
    それは、さっき炎天下を全力で走ったせいではなかった。
    僕はこれから彼女を少しずつ解放してあげるのだ。
    わくわくと驚きの連続する作業。
    いいぞ。また目一杯楽しんでやる。

    8.人間イヌ
    まず最初にすることは、着ぐるみの由梨絵ちゃんを箱から出してあげることだ。
    由梨絵ちゃんは分厚いレザーに覆われていて、さらに発泡スチロールの枠の中にはまり込んでいる。
    着ぐるみの前脚と後脚の先の部分は発泡スチロールの切り欠きに余裕があって、僕は彼女の前後の脚の端を持つことができた。
    そのまま、ずぼっと手前に引き出す。

    それは床に置くと、自分で動き出した。
    前脚と後脚でちゃんと立ち、周囲をきょろきょろと見回した。
    お尻には皮のボディには不似合いなもこもこした尻尾が生えていて、どういう仕組みなのか、パタパタと左右に振れていた。
    「由梨絵ちゃん」
    声をかけると頭がこちらを向いた。
    前脚と後脚を少しづつ動かして歩いてきた。ちまちました玩具のような動きだった。
    そのまま歩き続けて、僕に衝突して止まった。
    前が見えてないのか?
    僕は犬の首を抱き抱えて観察する。犬の首には目も口も開いていなかった。
    着ぐるみは全体がごわごわしたレザーでできていて、中の人間の身体はどこにも露出していなかった。
    どうしたら彼女を出してあげられるんだろうか。
    着ぐるみの背中を調べると、背骨の線に沿って折り込まれたレザーの中にジッパーが隠れていて、お尻から首まで伸びていた。
    ジッパーのスライダーのつまみは首輪の下にあるようだ。
    首輪のバックルはごく普通の尾錠を止めるタイプだった。これなら外せるぞ。
    僕はバックルのピンを外して、首輪を緩めた。
    犬の首がすっぽりと抜け、その下からラバー製の黒い全頭マスクで覆われた人間の顔が現れた。

    のっぺらぼうの全頭マスクには、左右の目の位置に丸いカバーが貼り付いていた。
    カバーをつまんで引くとマジックテープが剥がれ、その下から二つの目が現れて僕を見つめた。
    「由梨絵ちゃん!」
    「んっ、・・んんん!」
    「喋れないの?」
    「んんっ」
    マスクの上から口の部分を触ると、何か固いものを噛まされているようだった。
    「猿轡?」
    「ん」
    猿轡を外すには、全頭マスクを脱がしてあげないといけない。
    マスクは頭の上から首の後ろまで皮のベルトで編み込まれていて、ベルトの端には小さな南京錠がついていた。
    その上、背中のジッパーのつまみも、首の後ろの同じ位置に南京錠で固定されていた。
    ああ、これでは南京錠を外さない限り、マスクも着ぐるみも脱がせてあげるのは無理だ。
    「由梨絵ちゃんっ。鍵はどこにあるの?」
    「ん、・・・んんっ」
    「え?」
    「んんっ、・・んんん!!」
    「分からないよっ」
    由梨絵ちゃんは自分の目を左右にぐりぐり動かしていた。
    「ん~!!!」
    箱の方を一生懸命見ている。
    「箱?」
    「んっ」
    発泡スチロールの枠から由梨絵ちゃんを取り出したあとに、まるめたリード(首輪につなぐヒモ)と白い封筒がはさんであった。
    これか!
    封筒を出して開けた。
    中には便箋が1枚入っていて、手書きの丸まっちい文字でメッセージが綴られていた。

    佐藤様♥
    ご指名 ありがとうございます。
    とってもうれしいです!
    ぎちぎち拘束の厳重梱包ということで、ユリは人間イヌになってお届けされます。
    きっと満足にお話しすることもできないと思いますから、このお手紙をつけてもらうことにしました。

    人間イヌスーツは、着るのも脱ぐのも、ものすごく大変です。
    お一人で無理に脱がせようとすると、きっと途中で時間切れになってしまいます。
    だから、わたしからお願いして、スーツを脱がせる鍵はつけません。
    ごめんなさい。
    今日、ユリは最後まで人間イヌのままです。

    でも佐藤様はこんな重拘束の女の子もお好きでしたよね。
    人間イヌのユリを使って、いっぱい遊んでください。
    どれだけオモチャにされても構いません。
    もしかしたら泣いたり叫んだりしますけど、そんなダメイヌは甘やかさないで、厳しくしつけてくださいませ♥
    ユリ
     
    追伸:
    イヌスーツには脳波のセンサーがついていて、わたしのキモチに合わせて尻尾が動くそうです。
    どんなふうに動くのか、いろいろ試して楽しんでくださいね♥


    読み終えると、僕は黙って足元を見た。
    そこには一匹の人間イヌがいて、尻尾をパタパタ振りながら僕を見上げていた。
    その眼がキラキラ光っている。
    僕はそのとき、レザーでぎちぎちに包まれた人間イヌのことをこの上なく可愛いと思ったのだった。

    9.弄ぶ
    「おいで」
    僕は部屋の端に行って手招きした。
    「んっ」
    人間イヌはひと声うめくと、こちらに向かって歩いてきた。
    「もっと速く歩いて」
    「んんっ」
    人間イヌの歩みが少しだけ速くなった。
    このイヌスーツは、前脚も後脚も歩幅がほんの10センチほどしかない。
    それでも一生懸命歩いているのがいじらしい。
    よぉし。
    外した首輪をもう一度首に巻いて、そこにリードを繋いだ。
    彼女の瞳が潤んだように見えた。
    パタパタ動く尻尾が速くなった。
    「ついておいで」
    「んんっ」
    リードを引くと、それは僕について歩いた。
    部屋の端から端まで歩くと、向きを変えて反対に歩いた。
    人間イヌは従順についてきた。
    少しでも歩みが遅くなるとリードを強く引いた。
    何往復目かのターンのとき、とうとうそれは足をもつれさせて倒れた。

    「由梨絵ちゃんっ」
    それは横倒しになったまま、四本の脚をばたばたさせてもがいていた。
    「んんっ。・・・んんんっ」
    一度倒れると自分では起きられないのか。
    僕は駆け寄って、元通りに立たせてあげる。
    「ごめん。無理させたかな」
    「ん~ん」
    人間イヌは甘えるような声を出して、僕の足に身をすりよせてきた。
    大丈夫。まるでそう言っているようだった。
    僕はその場に座り込んで彼女を膝の上に抱き上げた。
    突き出した前脚と後脚が邪魔だったから、くるりと仰向けに回して後ろから抱きしめた。
    人間イヌスーツのお腹は、背中と比べたら柔らかくて暖かかった。
    「ん~ん・・♥」
    彼女のうめき声が甘くなった。
    斜め上に突き出た四本の脚がゆっくり宙をかくように動いている。
    お腹を撫でると、その脚がぶるぶぶる震えた。
    「んん~ん!!」
    こんな分厚いレザーの上からでも刺激されているのか。

    そうだ、尻尾。
    彼女が感じたら尻尾はどう動くんだろう。
    僕は身を起こして、彼女を仰向けのまま回して上下逆にすると、全頭マスクの頭を自分の両足に挟んで抱きしめた。
    「んっ、・・んんん~っ!!」
    頭を下にされた彼女がもがいている。
    ちょっと可哀相だけど、僕は人間イヌの彼女を玩具にして遊んでも構わない。彼女自身が許してくれたんだ。
    僕の目の前、数センチのところに彼女のお尻があって、もこもこした尻尾が何度も僕の顔を叩いた。
    まるでハタキで叩かれているみたいだった。
    そのまま左右の後脚の間を指で押さえた。
    「んっ、んんっ、んんん~んんっ!!!」
    柔らかい尻尾がぴんと伸びて硬くなった。
    すごいな。こんな動きもできるのか。
    がくがくと彼女の全身が揺れた。
    さらに強く押さえて何度も揉み込んだ。
    「ん! ん! ん!ん!」
    僕の指と、彼女の声と、尻尾の動きが綺麗に同期している。
    僕は反対の手で胸を押さえた。
    イヌスーツの上からでも、なだらかな盛り上がりは分かった。
    その辺りを強く、ゆっくり揉んでみる。
    「んん~んっ、んんんっ! んん~んっ、んんんっ!!」
    ぴんと伸びた尻尾が柔らかくなって数回揺れた、と思うと、再び硬くなって激しく振られた。
    人間イヌを弄ぶのは楽しかった。
    僕は夢中になって、彼女を抱きしめ、転がし、触り続けた。

    気がつくと、彼女の声は途切れとぎれになっていた。
    四本の足はほとんど動かなくなっていて、尻尾だけがゆっくり触れ続けている。
    「・・ん♥、・・・・んん♥」
    ものすごく色っぽいうめき声だった。

    10.顔射
    ああ、もう爆発しそうだ。
    僕の股間はばんばんに張っていて我慢できなくなっていた。
    ズボンの前を押さえていると「ん」という声がした。
    彼女が僕を見ていた。
    涙で濡れた目が僕を見ていた。

    人間イヌ 由梨絵ちゃん

    「由梨絵ちゃん?」
    「ん~っ」
    え? もしかして?
    「んんっ」
    ・・我慢しないで。
    僕は彼女の言っていることを理解した。
    「でも、それはしちゃいけないんじゃ」
    「んっ」
    ・・あなたになら、いい。
    僕は彼女を床に転がして跨り、その顔の前に自分のモノを出した。
    彼女は大きく目を見開いてそれを見ると、ゆっくり頷いてから、目を閉じた。
    揺れていた尻尾がきゅんと丸くなって縮こまった。
    その尻尾は、彼女のぎゅっと閉じた目の上に僕が放出すると、再びぴんと伸びて硬くなった。

    僕は生まれて初めて、女の子に顔射するという行為を経験した。

    続き




    キョートサプライズ セカンド・第7話(3/3) 箱入り配達彼女

    11.発覚
    それから1ヶ月。
    僕はまた由梨絵ちゃんを借りるために、アルバイトに精を出している。
    次は、さらにもっと厳しい拘束にしてあげよう。
    Club-LB のサイトでいろいろ調べて、妄想にふけるのが楽しい。

    考えてみれば、初めて Club-LB で由梨絵ちゃんを借りてから僕の生活は一変していた。
    それまでは夜と昼が逆転した生活だったけど、今は毎日早起きをして仕事に出かける。
    死んだ親父からは、いつまでもフリーターなどせずに人生の目標を持って働けと言われていた。
    今はちゃんと目標がある。
    由梨絵ちゃんだ。
    これからも由梨絵ちゃんのいいお客になって、できたら彼女と個人的にお付き合いしたい。
    かなわない望みかもしれないけれど、それで頑張るのは悪くないなと思っている。

    そんなある日の朝。
    アパートの呼び鈴が鳴った。またN◯Kか。
    ドアを少しだけ開けて言った。
    「うちはテレビはありません。新聞もお断り」
    そこまで言って、僕は目を見張った。
    ドアの外には、知らない女性と、そして由梨絵ちゃんが立っていた。

    「Club-LB の黒川典子と申します」
    その女性は由梨絵ちゃんよりも背が低くて、30才くらいに見えた。
    「佐藤清太郎様のご子息の佐藤俊樹様ですね?」
    あぁ、ばれたか。
    住所で発覚しないようにラブホを使って由梨絵ちゃんを借りたけれど、ここへ来たということは、何もかも知られてしまったのだろう。
    「そうです」
    「ユリから報告された佐藤清太郎様の姿がどうもこちらの覚えと違っておりまして、調べさせていただいたところ清太郎氏は去年ご逝去されたとか」
    「肺ガンでした。親父は死ぬまで煙草を止めませんでしたから」
    「そうですか。・・それでお父様のアカウントを使って?」

    発端は、親父の使っていたパソコンを僕がもらったことだった。
    僕はそれをすぐにソ◯マップで売ってしまったけれど、売る前にハードディスクをあさっていたら、あの隠しフォルダを見つけたのだった。
    そこには膨大なアダルト画像(ほとんど緊縛写真だった)と、複数の有料アダルトサイトのアカウントとパスワードがエクセルのシートにまとめられていた。
    親父め。人生の目標なんて偉そうなことを言ってたくせに。
    大企業の重役で、いつも苦虫を噛み潰したような顔でいた親父を思い出して、僕は少し笑い、それから自分のパソコンにそのフォルダをコピーした。
    そしてエクセルにあったアカウントとパスワードを片端から試して、使えるアカウントを僕のものにしてしまった。
    親父のクレジットカードや銀行口座は停止されたはずだから、じきにアカウントも使えなくなるだろう。
    それまで、ほんの少しだけ楽しめたらいい。
    そう思ってのことだった。

    こうして僕は親父が会員になっていたアダルトサイトに出入りするようになった。
    そんな中に Club-LB があった。
    ここは、ネットで検索しても見つからない、招待制の秘密クラブだった。
    年会費などは不要で、FBと呼ぶ被虐女性を使うときだけ費用を支払えばよいシステムだった。
    サイトアクセスのためのワンタイムパスワード生成ソフトなども入っていたから、それでログインして見るだけなら、なりすましがばれる心配はなかった。
    僕は何ヶ月もの間 Club-LB のサイトを見続けて、そして我慢できなくなった。
    サービスを申し込み、そして送られてきた口座番号に親父の名前で料金を振り込んだ。

    「僕は除名ですか?」
    そう聞くと、黒川さんは口に手を当てて笑った。
    「ほほほ。除名したくても、最初から会員でない人は除名できませんでしょ?」
    ああ、それもそうだな。
    「ただし、お父様のIDは停止させていただきます。・・あなたが将来、当クラブに招待されたときには心から歓迎いたしますわ」
    「あの、僕がクラブの秘密をネットで公開しないという保証はないのでは」
    「それはきっと大丈夫」
    黒川さんは由梨絵ちゃんと顔を見合わせて微笑んだ。
    「俊樹さん、あなた、Club-LB のファンになって下さいましたでしょ?」
    「・・佐藤様。ちょっと残念ですけど、贔屓にしてくださって嬉しかったです。これを」
    由梨絵ちゃんがそう言って、小さな包みを差し出した。
    「私、デビューしたんです。『さくら のあ』って名前です。よかったら見て下さい」
    彼女はそう言うなり、僕に近づいて頬にキスをした。
    「いつかまた、私を使って楽しんで下さいね♥」
    その瞬間、甘い香りがして僕はぽわっとなってしまった。

    二人が帰ってから、僕は由梨絵ちゃんがくれた包みを開けた。
    中身はDVD-Rだった。
    手書きの丸まっちい文字で『佐藤様へ♥ 由梨絵』と書かれていた。
    DVDをパソコンで見ると、それは深夜に放映されているセクシー学園アニメの録画だった。
    女の子のパンチラと胸ゆれが意味なく続くだけで、たいして面白くもないアニメだった。
    適当に飛ばしながら最後まで見て、エンディングのタイトルバックでおおっと思った。
    CVに『さくら のあ』の名前があったのだ。
    もう一度先頭に戻って、彼女の登場シーンを探した。
    由梨絵ちゃんが演じているのは、露出過多のメイド服を着ていて、すぐに裸にされたり縛られたりする巨乳の女の子だった。
    「やぁあん♥ そんなとこ・・。あぁあっ、あ、あたし、・・もう、ダメぇ~ん♥」
    やたら鼻に抜ける声で滑稽だったけれど、間違いなく由梨絵ちゃんの声だった。
    僕の脳裏に、床に転がされて喘いでいた由梨絵ちゃんの姿が浮んだ。
    これからもずっと由梨絵ちゃんを応援しようと思った。
    僕は彼女がキスしてくれた頬を押さえて、何だか幸せな気分になっていた。

    12.KSに戻る車中
    ハンドルを握る典子に助手席の由梨絵が話しかけた。
    「さっきの典子さん、なんだか洋子さんみたいでしたよ」
    「え、わたしが?」典子が驚いて聞く。
    「はい。最近どんどん洋子さん化してるって評判でしたけど、本当って思いましたー」
    「ひぇ~。ショックやなぁ」
    「いいじゃないですか。おかげであのお客様も、聞き分けよくしてくれたんだし」
    「そう言われても複雑な気分。・・そういえば由梨絵ちゃん。あの人に特別な気持ちでもあるの? もしかして、好き、とか」
    「いいえ、全然。あの人は普通のお客様です」
    「なら、キスとかプレゼントとか、ちょっとやり過ぎやないかなぁ」
    「キスくらい減るものじゃないし、プレゼントにお金もかかってませんよ?」
    「でも、あの人、きっと舞い上がってると思うな」
    「それでいいんです。あのね、銀座の一流のママは、何年も来ないお客様にだって、その人の誕生日にはプレゼントを用意するんですよ?」
    「そぉなの?」
    「もう典子さん、何年この仕事してるんですか。お客様を逃がさないようにするのはサービス業の基本じゃないですかぁ」
    「おっしゃる通りです。ごめんなさい」
    「分かればよろしい!」
    由梨絵はそう言って笑った。
    ・・由梨絵ちゃん、あんたホステスやったらナンバーワンになれるで。
    典子はそう思ったが黙っていた。
    由梨絵の言うことは、もっともだった。
    ちょっとしたプレゼントとキスで、由梨絵はあの客を繋ぎとめたのだ。
    それにしても・・。
    あの人、彼女がいるって感じでもなかったし、この先ずっと由梨絵ちゃんを思って過ごすんやろうなぁ。
    Club-LB の会員なんて、簡単になれるはずないのに。
    典子はあの男性のことを少しだけ気の毒に思うのだった。



    ~登場人物紹介~
    僕(佐藤俊樹): 24才。本話主人公。大学を出てフリーターをしている。
    臼井由梨絵: 21才。プロ意識が高いFB。SNはユリ。深夜アニメの声優でデビューした。
    黒川典子: 29才。Club-LB マネージャー。由梨絵の上司。

    KSの会員制裏クラブ Club-LB でサービスを依頼したフリーター君、そして箱詰めで届いたFBのユリこと臼井由梨絵ちゃんのお話です。

    Club-LB ではFBの扱いについて『その肉体と精神が正常に保全されることを唯一の条件として、一切の権限が紳士淑女たる Club-LB 会員に付託される』(第1部より再掲)とだけ定められています。
    危険行為の禁止とか性行為の範囲とかの細かい決まりはなくて、大人である貴方がいいと判断したことは何をしたって構いません、ということですね。
    こんなクラブですから会員になるには厳しい審査があります。
    他の会員の推薦や招待を受けて認められた場合にだけ参加することができ、自然、それなりの社会的地位と年齢を重ねた人だけが集まります。
    フリーターの若造なんて、とんでもないのです。
    彼がどうやって Club-LB にもぐりこんだのか、その辺りはお話を読んでいただくとして、今回はそんな経験不十分な若い男性が目の前に届いた箱入り女の子の荷物をドキドキしながら開封する様子をお楽しみいただければと思います。

    人間イヌのネタは、ネットで見かけるブ◯スーツの二番煎じです。
    ブ◯スーツの素晴らしさ・過激さと比べたら、こっちの人間イヌスーツは玩具のようなものですが、参考にさせていただいたこと、お礼を兼ねて報告させていただきます。
    (2013.8.18追記:ブ◯スーツをオリジナル考案された方について更科様より情報をいただきました。下記コメント「重要な追記」をご覧下さい。ありがとうございました >更科様)
    それから由梨絵ちゃんは人間イヌスーツの中に何時間も閉じ込められて、おしっことか暑さ対策とかどうするんだ等の心配があると思います。
    実はその辺りの設定は多少考えたのですが、お話の中で冗長になるので出すのをあっさり止めました。
    彼女がおしっこをしないのも、脱水症で倒れないのも、ファンタジーとして突っ込まないようにww。
    イラストも適当に描いたら、肝心の尻尾がイヌでなくキツネみたいになってしまいました。
    こいつは何時までたっても絵はヘタだなと笑ってお許し下さい。

    さて、今年の夏は例年にまして暑い日々が続いています。
    最高気温40度なんてニュースが普通になるとは、昔は想像もできませんでした。
    KSの女の子たちならどんな熱射の中で箱詰めにされたって耐えますが、私たち普通の人間はそうはいきません。
    皆様、暑さの中、無理をなさらず体調にお気をつけてお過ごし下さいませ。

    ありがとうございました。




    キョートサプライズ セカンド・第6話(1/3) 佳織、帰国する

    1.隣席の男性
    日本に向かう機内。
    離陸してから2回目の食事は、きんぴらを挟んだライスバーガーだった。
    隣に座った男性が目をむいている。
    これはどうやって食べるのかという顔をしてフォークでバーガーをつついた。
    国際線の機内食に何ちゅうモンを出すのよ。
    小嶋佳織はそう思いながら、男性に教えてあげことにする。
    "これはライスバーガーです。中に入っているのは野菜ですよ"
    そう英語で話しかけた。
    "これは野菜なんですか?"
    "ゴボウという日本の野菜を醤油で炒めたものです。この袋の海苔をトッピングして食べて下さい"
    "オー、ありがとう!"
    男性は佳織に言われた通りに刻み海苔をかけると、バーガーを手に持ってかじり、不思議な顔をした。
    それを見て微笑みながら、佳織もライスバーガーを食べた。
    男性も佳織を見て笑った。
    "うん、美味しいな"
    "よかった!"

    食事の後、男性は佳織に話しかけてきた。
    "ありがとう。さっき教えていただいたお礼に、ちょっとご覧下さい"
    "?"
    男性はポケットから白いハンカチを出すと、広げてみせた。
    あら。この手つき。もしかして・・?
    男性はハンカチを左手の上にかぶせた。そして一息おいてハンカチを外して見せる。
    男性の左手には赤い造花の花があった。
    "これをあなたに"
    懐かしい想いがした。僕も以前はこんなマジックをしてたな。
    "ありがとうございます! あなたはマジシャンなんですか?"
    "まあ、似たようなものです。あなたは日本人ですか?"
    "はい。住まいはサンノゼですけれど"
    "私の血も四分の一は日本人なんですよ。仕事で日本に行くところです"
    "そうですか。東洋系の人かなとは思ってましたけど"

    着陸するまでの間、二人は当たり障りのない会話を続けた。
    男性は身長175センチの佳織よりも長身だった。
    茶色の瞳に黒髪、年齢は35~6才くらいに見えた。
    落ち着いた話し方で、優しそうな笑顔が魅力的だった。

    "お話できて楽しかったです"
    "ええ、こちらこそ"
    「サヨナラ!」
    空港で男性は手を振って去っていった。

    2.KS事務所
    事務所の練習場にやってきた佳織を昔の仲間と現役のEA達が迎えた。
    「佳織ぃ~!」
    「元気そうじゃない!」
    「髪の毛切ったの? あのポニーテール可愛いかったのにぃ」
    「もう可愛いなんて歳でもないでしょ」
    黒川典子と鈴木純生(すみお)が佳織に抱きついた。
    典子と純生は佳織がKSにいた頃の同期の仲間だった。
    今では典子はマネージャー、純生は最年長のEAリーダーである。
    「何年ぶりの帰国なん?」
    「典子の結婚式以来だから、3年ぶりかな」
    「そんなになるのかー」
    「それで典子、赤ちゃんはまだ?」
    「佳織こそ、いい人はまだ?」
    「ふふふ」「あはは」
    佳織は大学を卒業してシリコンバレー企業の研究所に入り、アメリカで5年間一人暮らしをしている。
    今回は、ようやく取得した長期休暇での帰国だった。
    「いつまで日本にいられるの?」
    「7月いっぱい」
    「そっか! なら、こっちにいる間は遊びにきてね」
    「ありがとう。・・皆さん、よろしくね」
    「よろしくお願いします!」EA達が揃って頭を下げた。
    彼女達のほとんどは現役時代の佳織を見たことがない。
    ただKSで初めてエスケープアートをやった女性として、佳織の名前は皆が知っていた。
    「今日はね、佳織が来るからエスケープの練習を見てもらおうと思って準備してたの」典子が言った。
    「へぇ、今でもエスケープをやってるんだ」
    「ううん。佳織が卒業してから途絶えてた。・・じゃあ準備してくれる」
    「はい! よろしくご指導お願いします、先輩っ」
    現役EAの加山涼と張麗華が立ち上がった。
    エスケープアートとは、厳重に拘束された演者が観客の前で脱出して見せる技である。
    マジックとは違う、タネのないガチの脱出パフォーマンスだった。
    約ニヶ月前から涼と麗華は、典子の指導で緊縛とエスケープの練習をしてきた。
    緊縛は麗華、脱出は涼の担当である。
    「指導なんて無理だよ。もう何もできないんだから」
    「まあ、いいやない。見るだけでいいから」
    典子に頼まれて、佳織も断ることはできなかった。
    「そうだね。ただの観客として楽しませてもらうよ」

    3.涼のエスケープ
    皆が輪になって座り、その真ん中で涼と麗華のエスケープの試演が始まった。
    涼がトレーニングウェアを脱いだ。下には露出の大きな白いマイクロビキニを着けていた。
    綺麗な身体! 佳織は涼を見て感心する。
    佳織と比べたら小柄だが、張りのあるバストときめの細かい肌が魅力的だった。
    涼は白いブーツを履き、両手を背中で組んだ。
    麗華がその腕と胸のまわりを縛り、さらに左足を膝で折らせて縛った。
    右足首にも縄を巻くと、天井から下ろした縄に繋いだ。
    そのまま右足だけで涼を吊り上げる。
    片足吊りでエスケープ?
    「きっついよぉ♥」
    佳織が驚いていると、典子がそう言って笑った。
    麗華は縄の状態を確認しながら、上下逆になった涼の身体を指で辿った。
    足首、太ももの内側、腰、腹、そして胸の谷間。
    「はぁ・・っ」
    涼が全身を震わせて小さな声を上げた。
    その顔にアイマスクで目隠しをすると、麗華は涼の背中をとんと押した。
    「OK。・・行こうっ、リョウちゃん!」
    涼の身体が振り子のように大きく揺れた。

    ああ、この感じ。懐かしいな。
    佳織の脳裏に昔の自分の姿が浮かんだ。
    かつて、佳織は典子に縛られて縄抜けをしたのだった。
    少しだけ動かせる指先で縄の結び目を辿り、そこにある小さな隙間を開く。
    一見無造作に施された緊縛には、縛り手が施した脱出のための糸口が隠されてる。
    縛り手と抜け手だけに分かる小さな抜け道。
    今、涼はその抜け道を手探りで辿っているのだ。

    片足吊りエスケープ

    涼は振り子のように揺れながら、同時に回転していた。
    くるくる回ってやがて止まり、縄の捩れが戻るのに合わせて今度は逆向きに回った。
    このような動きは観客に作業を見えにくくするのに効果的だ。
    だが同時に、演者の肉体的負担も大きい。
    佳織は涼のアイマスクで覆われた顔の色が少し赤みががっているのに気づいた。
    彼女は頭に昇る血に耐えながら、一人で戦っているのだ。
    それはかつて佳織が戦ったのと同じだった。

    がんばって!
    心の中で応援する。
    あの頃と違うとしたら、佳織はたいていレザーや厚めのデニムの衣装で緊縛されていたが、涼はマイクロビキニだけで縛られていた。
    肌に縄を直接掛けた状態でもがけば、その擦れは皮膚にダメージを与える。
    その上片足だけに体重を掛けて吊られ、もう一方の足は小さく折り畳まれて動かせない。
    自分のときより確実に厳しくなっているのだ。
    佳織の中にぞくぞくした気持ちが流れた。それは久しぶりに感じる気持ちだった。
    縛られた涼のことを羨ましいと思った。
    がんばれっ。もう少し!

    手首の縄が外れた。
    すかさず腕をこじって胸の上下に巻きついた縄を緩める。
    ばさ。上半身の縄が床に落ちた。
    涼はアイマスクをもぎ取ると、次に手を伸ばして左足を縛る縄を解いた。
    そして腰を曲げ両手を精一杯伸ばして右の足首の縄を外した。
    すとんと床に立った。

    ぱちぱちぱち。
    皆が拍手をする中、麗華が走り寄って涼の身体を支えた。
    涼は肩で荒い息をしながら笑う。その肩を麗華が抱いてキスをした。
    そこにいる誰もそれを不自然とは思わなかった。
    「実は、ノーミスでエスケープできたのは、今のが初めてなの」典子が言った。
    「すごいじゃない。もう立派にショーができるよ」
    「そうやね、次の公演でやってみよっか」
    涼と麗華は嬉しそうに笑った。
    涼の身体には縄の痕がくっきり残っていた。柔らかい肌に刻まれた緊縛の残滓だった。
    それは無惨で、そして美しかった。

    4.5年ぶりの挑戦
    深夜。
    練習場のドアが開いて典子と佳織が入ってきた。
    「だから無理だってばぁ」佳織が抗弁している。
    「まあまあ、誰も見てないんやし」
    典子は練習場の奥の装置にかけた布を外してみせた。
    「どう? 懐かしいでしょ」
    「これ・・」
    それは10年前、19才だった佳織が初めてエスケープをやったときの装置だった。
    ハムスターの回し車を大きくしたような直径2メートルの金属の籠。
    軸にはモーターがついていて、回し車の本体とそこに固定された女体をルーレットのように回転させる。
    「まだあったの」
    そう言って佳織は懐かしそうに金属枠を撫でた。
    「うん。久しぶりに倉庫から出してきたの。・・ちゃんと動くよ」
    ごくり。佳織は思わず唾を飲み込む。
    「ね、佳織。昼間のエスケープを見てどう思った?」
    「う~ん。厳しい緊縛だったと思うけど」
    「あの子達、二人ともFBなの」
    そうか、悦んでたのか。
    佳織は理解した。
    あのビキニの子、それであんなに色っぽかったんだ。

    女性の拘束シーンを楽しむKSの裏クラブ。そこで働く女性がFBだ、
    EAの中でも特に被虐性が高いと認められた女性だけが誘われる仕事である。
    かつて典子も佳織もFBだった。自分の中にあるマゾの本性は理解していた。
    「あのとき涼ちゃんを見る佳織の目を見て、今夜は佳織を縛ってあげようって思ったの」
    「典・・」
    「昔と同じ仕掛けで縛ってあげる。佳織はできるところまで、がんばればいい」
    ぞくり。
    昼間と同じ感情を感じた。
    「僕が着れるウェアはある?」
    「もちろん」

    佳織はレザーのボンデージコスチュームに着替えた。
    普段は恥ずかしくてとても着れないスチュームだったけれど、ここでなら平気だった。
    その衣装で回し車の前に立ち、両手を左右に広げて典子を見た。
    典子が縄束を持ってにっこり笑った。

    「あ、・・ふぅ」
    「佳織、体形変わってないね。羨ましい」
    「ジムで鍛えてるから」
    「どんな気持ち?」
    「すごく、懐かしい。・・本当に」
    佳織は回し車に縛りつけられた。
    大の字に伸ばした手足はほとんど動かすことができない。
    ただ、かつてと同じく、手首だけは少しだけ動かす余地があった。ここが糸口なのだ。
    佳織はかつての手順を思い出そうと努める。
    ここを解いたら、肘の部分を緩めて。それから、肩までを自由にする。
    「行けそう?」
    「大丈夫。回してくれる」
    「OK」

    鈍いモーター音がして、回し車がゆっくりと回転した。
    佳織も大の字のままで回る。
    目の前に立つ典子がゆっくりと回転して見えた。
    ・・ああ、この感覚。
    佳織は右手をゆっくりと抉った。
    手首の縄の隙間を最大に生かすように。指先が結び目に届くように。
    昔の記憶を思い出しながら、佳織は少しずつ糸口を辿っていった。

    15分後。
    典子はモーターを止めた。大の字の佳織が回転を止めた。
    くっ。
    悔しさが溢れた。
    どの縄も、まったく解くことができなかった。
    佳織はなす術もなく、ただ回り続けるしかなかった。
    「縄、解こうか」典子が聞いた。
    「まだ、いい」
    「いいの?」
    「このままにしておいてくれる。この感じをしばらく味わっていたいから」
    「そうか」
    「僕、変かな?」
    「そんなことない。佳織やったら、きっとそう言うと思ってた」
    「ありがとう」
    「・・ね、向こうで縛ってくれる人は」
    「いない。典子が羨ましいな。毎日縛ってくれる人と一緒になれて」
    「毎日ってことはないけどね」
    「いいよ。満たされてるって顔に書いてある」
    典子は黙って微笑んだ。お互いのことは誰よりも分かり合えている二人だった。
    「時間はどうする?」
    「本当は朝までって言いたいところだけど、30分だけ」
    「灯りは?」
    「消してくれる。暗い方が惨めだから」
    「そうね。じゃ、放置してあげる」
    典子が練習場を出て行き、照明が消えた

    はぁ~っ。
    闇の中で佳織は深く息をついた。
    ぎちぎちの拘束。モノになった感覚。
    僕は今、何もできない。
    典子が戻ってきて助けてくれるのを待つしかないんだ。
    無力感、そして被虐感。
    こんなキモチは何年ぶりだろう。
    ほんの少し哀しくて、幸せだった。
    自分はそれが嬉しい女なんだと思った。

    続き




    キョートサプライズ セカンド・第6話(2/3) 佳織、帰国する

    5.イリュージョン・メーカー
    佳織はその夜は典子のマンションに泊まり、翌日和歌山の実家に帰った。
    親元でしばらく羽を伸ばすつもりだったが、帰宅した佳織を待っていたのは両親と親戚からの「お見合いしなさい」攻撃だった。
    結局三日ほどで逃げ出して、再び京都にやってくることになった。

    KS事務所に来ると、ちょうど大型のトラックが駐車場から出て行くところだった。
    「あら? 佳織さん、和歌山に帰ったんじゃ」事務室から市川綾乃が声をかけてきた。
    「あはは、聞かないで。・・あれは何を運んだの?」
    「ショーで使う道具を購入したんですよ。イリュージョンの新作とかありますよ~」
    「へぇ」
    「1階の倉庫に入ってますよ」

    教えられた部屋には梱包を解いた荷物が並んでいた。
    これは、ガラスびん?
    中に人間が入れるほど大きなワインボトルが立てて置かれていた。
    この中にアシスタントが入るのかな。中に入ることができれば、だけれど。
    その隣は、十字架だね。
    それは高さ2メートルほどの、細かい金属の装飾が施された十字架だった。
    イリュージョンよりも、クラブのショーでFBを縛り付けて飾ったらよさそうに思えた。
    佳織は、いくつも並ぶ道具を見て回った。

    「ハロー!!」
    後ろから声を掛けられた。
    振り向くと、背の高い外国人の男性とその横に島洋子と長谷川行雄が立っていた。
    島洋子は株式会社キョートサプライズの社長、そして長谷川は技術担当の指導者である。
    あっ!
    一瞬驚いて、それから英語で言い直した。
    "飛行機の中で一緒でしたね"
    "はい。ここであなたと再開できるとは思ってませんでした"
    男性はにこやかに微笑むと佳織の手を取って言った。
    「まぁ、知り合いだったの?」
    洋子が興味深々という顔で聞いた。

    男性はリチャード・フジタという日系アメリカ人だった。
    昔はステージマジシャンで、今はイリュージョン・メーカーをしていると自己紹介した。
    "イリュージョン・メーカーって?"
    "イリュージョンの道具を企画製作しています"
    "なるほど。見たことのないイリュージョンばかりみたいですね。この十字架なんかすごく綺麗"
    "ありがとうございます。でもそれはイリュージョンじゃないんですよ"
    どういうこと?
    リチャードはにやっと笑った。
    "それは趣味で作っている、トーチャー・ギアです"
    torture gear って、・・拷問器具?
    「うふふ。ミスタ・フジタはね、そっちの道具も作ってるのよ。いくつか一緒に買うことにしたの」
    洋子が言った。
    「佳織ちゃん。久しぶりに帰国したんだから、ちょっと拷問されてみない?」
    「遠慮します。って、ちょっとドキドキしながら答えたりして」
    「うふふ」「ははは」
    "何を笑ってるんですか?" リチャードが聞いた。
    「えっと、シー、ワズ、オールドメンバー、オブ、キョートサプライズ!」洋子が適当な英語で答える。
    "ほう、それは本当ですか?"
    "そうです。彼女は昔ここでマジックやイリュージョンをやってたんですよ" 長谷川が説明した。
    「もう、長谷川さん」佳織が止めたが、長谷川は話を続けた。
    "すごい根性の持ち主で、エスケープアートもしていたんですから"
    "エスケープですか、それはすごい!"
    "あ、今は何もできないんですよ。期待しちゃダメ!"
    "是非、ミズ・コジマのプレイを見たいものですね"
    "だからダメなんですってば"
    「スライハンドの簡単なやつ位なら、できるんじゃないかい?」長谷川が言った。
    あのねぇ。そう簡単にできないからスライハンドなんだよ?
    でもそこまで言われると、ちょっとやってみたくなる。
    何ができるかしら。
    「じゃあ、ええっと、長谷川さん、煙草を1本下さい」
    「ごめん、煙草は止めたんだ」「え~っ?」
    "タバコでしたら私が持ってますよ" リチャードが煙草の箱を出してくれた。
    「失敗しても笑わないで下さいね」
    渡米した最初の年にラボのクリスマスパーティで見せたネタだ。
    煙草を右手の人差し指と中指の間に挟んでみせた。
    それをくるりと回して中指と薬指の間に移動させる。さらに薬指と小指の間に移り、続いて元の人差し指へ。
    手のひらを返してみせると、そこには何もなかった。
    と、左手の指の間に煙草が現れた。
    同じように指の間を煙草が移動して消える。
    両手を広げて何もないことを示した。
    その手を何度かひらひらさせると、右手の中に煙草が出現した。
    ボールの替りに煙草を使ったマニピュレーション。
    「やるじゃないの、佳織ちゃん!」
    皆が手を叩いて褒めてくれた。
    「自分でもハラハラしながら演ったんですから」佳織も頭をかきながら笑う。
    "カオリさん、ワンダフル!"
    リチャードがそう言って握手を求めた。
    佳織を見るリチャードの目は明らかに変わっていた。

    6.好感
    その夜、佳織はリチャードに食事に誘われた。
    リチャードはしばらく日本に滞在して、いろいろな芸能事務所やマジシャンに商品のプロモートをするという。
    "私のイリュージョンはアメリカでは何十セットも売れているんですよ。それを日本でも拡大したいと思ってます"
    "そうですか。成功したらいいですね"
    "はい。でも、今は別の成功を勝ち取りましたよ"
    "それは?"
    "こんな美しい女性と、再会できたことです"
    えっと、どう答えようか。
    アメリカで生活していると、男性から臆面もなくおせじや褒め言葉を言われることは珍しくなかった。
    とりあえず、軽く笑って済ませることにする。
    "ありがとうございます。でも、フジタさん。仕事に来てそんな軽口を叩いてると奥様に叱られません?"
    "私は一人です。妻はいません"
    "あら、そうですか"
    "失礼ですが、あなたにボーイフレンドは?"
    えっと、えっと。どう返事しよう。
    佳織はテーブルの上に置いた両手を見たまま固まってしまった。
    ちらりと目を上げると、リチャードが微笑みながらこちらを見ていた。
    誠実そうな、まなざしだと思った。
    "僕も一人です"
    "そうか!"
    リチャードは大げさに両手を叩いて喜んだ。
    "それなら、堂々とデートできますね!" 
    "そうですね"
    "私のことはリックと呼んで下さい。それから、あなたをカオリさんと呼んでもいいですか?"
    "ええ、どうぞ"
    それから、リチャードは自分のマジシャン時代のことや仕事の夢を語った。
    自分のことは喋ったが、佳織のことは無理には何も聞かなかった。
    ・・いい人だな。
    佳織の中で心が動いた。
    その想いは次第に大きくなっていった。

    7.ボトルイリュージョン
    KS事務所で新しいイリュージョンの練習があった。
    佳織が遅れて練習場に来たとき、リチャードが皆の前でボトルイリュージョンの説明を始めたところだった。

    1メートルくらいの木製の台に、巨大なワインボトルが横向きに寝かせて置かれている。
    ボトルの中には薄いピンクの液体がほぼ一杯に入っていた。
    口にはコルク栓を模した蓋がはまっていて、ボトルを横にしても中の液体がこぼれないようになっていた。
    栓の内側には小さなライトが点いていて、何もない水中を明るく照らしていた。
    "中身は薄く着色しただけの水道水です。ロゼ・ワインといったところですね"
    リチャードが説明し、それを長谷川が日本語に訳して伝えた。
    "さて、ここで美女の登場です"
    リチャードはEAの寺原詩織の肩に手を置いて紹介した。
    詩織は黒い競泳水着と潜水用のゴーグルを着用していた。
    "ゆっくり進めますから、落ち着いてやって下さいね"
    「はい!」詩織は元気に返事する。
    リチャードはボトルの前に大きな衝立(ついたて)を立てた。そして詩織の手を取って衝立の反対側に隠れた。
    ばしゃ。しばらくして水音がした。
    リチャードが一人で前に出てきて、衝立を外した。
    ボトルの中に詩織が笑いながら浮かんでいた。
    口元からぽこぽこと泡が出て浮かび上がる。ゴーグルの中の目がウインクをした。
    彼女はどうやってボトルの中に移動したのだろうか。
    コルク栓の部分は狭くてとても人間が通れる広さはなかった。

    "・・このイリュージョンの難点は重量です。ボトルと水、そしてアシスタントの体重を合わせて約400ポンドになります"
    リチャードはボトルを載せた木の台を指差す。
    "台にはキャスターがついているのでボトルを載せたまま押して運ぶことができますが、ステージの床にはそれに耐えられる強度が必要です。・・おっと、”
    話しながらにやっと笑った。
    "私があまり熱心に説明していると美女が苦しくなりますね"
    ・・わざと引き伸ばしているくせに。でもEAだったらこれくらい平気だよ。
    佳織は考える。
    確かに、水中で息を止めて耐えている詩織の顔から笑みは消えていたが、それ以上に苦しそうな様子もなかった。

    "さあ、これからが本当のマジックですよ"
    リチャードはそう言って、ボトルをもう一度衝立で隠し、自分も衝立の反対側に隠れた。
    ・・アシスタントと人体交換?
    佳織がそう思っていると、すぐにリチャードが出てきて衝立を外した。
    「え?」「まぁ」「あら!」
    イリュージョンに慣れたKSの女性達が声を上げた。
    佳織も驚いてボトルを見つめる。
    ボトルの中には赤いビキニの女性が入っていた。ゴーグルを自分で外して手を振った。
    それはEAの臼井由梨絵だった。
    リチャードが衝立の陰に隠れたのは、ほんの数秒だった。
    その間に、どうやって詩織が消えて由梨絵が出現したのだろうか。

    その後、リチャードは三たび衝立でボトルを隠し、その陰からぐっしょり濡れた由梨絵を連れ出してきた。
    衝立を外してボトルを見せる。
    ボトルの中にはピンクの液体が波打っているだけで、他には何も入っていなかった。
    「グレート!」洋子が叫んで大げさに拍手をした。
    佳織や他のメンバーもぱちぱちと拍手をした。

    "ではタネ明かしです。どうぞ近くに来て後ろから見て下さい"
    「あぁ」「なるほど」
    皆はボトルの反対側を見て納得した。
    ボトルの中の空間は、中央に設けた仕切り板で前後に分かれていた。
    そして、後ろの空間に呼吸用のチューブを咥えた詩織が入っていたのである。
    仕切り板は半透明のアクリル製で、ボトル口から照らす照明を工夫することで裏側の物体や仕切り板自体が正面から見えないようになっていた。
    さらに、この仕切り板はボトルの中心軸で180度回転し、中の女性を前後に移動させることができた。
    リチャードはコルク栓の中に隠されたレバーを指差した。
    "カオリさん、回してみますか"
    佳織はリチャードに促されてレバーを操作した。
    それは意外に重く、力いっぱい押して、ようやく回すことができた。
    正面から見たボトルの中に詩織の姿が現れる。
    "水の抵抗とアシスタントの重量があるので、回すのは結構大変です。もし女性だけで演じるのなら二人がかりで回すことをお勧めします"

    佳織は詩織と由梨絵が入れ替わった仕掛けを理解した。
    由梨絵は最初から仕切り板の反対側に仕込まれていたのだ。
    詩織が仕切り板の手前に入った後、衝立で隠してレバーを動かせば、仕切り板が回転して詩織と由梨絵が入れ替わるのである。
    つまり、このイリュージョンはまず女性をボトルの中に隠しておく必要がある。
    水中に閉じ込められて、あの呼吸用チューブだけを命綱にして待ち続けるのか。
    KS向きのイリュージョンだな、と思った。

    "・・では最後に出入りのギミックです"
    リチャードがボトルを載せた台を操作すると、その台はボトルの底面を上に向けて斜めに傾けることができた。
    そうしておいて、ボトルの底の部分を持って半回転させると底面がそっくり外れた。
    ボトルは底を上に45度くらいの角度で傾いているので、中の水はこぼれない。
    "開け閉めはごく簡単です。十分練習すれば15秒で出入り可能です。・・では、そろそろ美女を助け出してあげましょう"
    リチャードはボトルの中に手を入れ、半ば逆立ちになった詩織の足首を掴んで引き上げた。

    その後、由梨絵と詩織を交互にボトルに詰めて皆で練習をした。
    自分もボトルに入ってみたいと水着に着替えたEAもいて、終始きゃいきゃいとにぎやかな練習だった。

    8.宴会
    練習の後、皆で居酒屋に繰り出した。
    「佳織。あんた、フジタさんのこと、どう思ってるの?」典子がジョッキのビールをぐびりと飲んで聞いた。
    「どうって。素敵な人だと思うけど」
    「あの人、あんたのこと他の女の子とは違う目で見てるよ」
    「そうかなぁ」
    「佳織は昔から男性に迫られたら弱いもん。気をつけるんやで」
    「え」
    佳織は隣のテーブルのリチャードを見る。
    そのリチャードには、EA達が群がってお酌をしていた。
    僕、彼のこと・・。
    「ああ、もう手遅れかな?」
    「もう、典っ」「あはは」
    佳織もぐびりとビールを飲んだ。火照った喉に流れるビールが美味しかった。

    「ねぇ、あのボトルって、イリュージョンだけに使うのはもったいないと思わなかった?」洋子が言い出した。
    「うんっ。思いました思いました!」純生が同調する。
    「何人くらい詰められるかしらねぇ」
    「あ、もしかして洋子さん、同じこと考えてるうぅ!」「きゃあ、じゅんちゃんも?」
    「もう、すぐにそういう方向に持ってくんやから~」典子が突っ込んだ。
    「でもねぇ、あんなに綺麗なボトルなのに」「ねぇ」
    「まぁ、私も本物のワインみたいなラベル貼ったらいいかな、とは思ったけど」
    「あら素敵、なんて書くの?」
    「えっと、『ボトルガール』とか?」「やっぱり!」「きゃはは」
    あ~あ、みんな何年経っても変わらないなぁ。
    佳織は内心呆れながら一緒に笑った。

    "私のイリュージョンの話ですか?"
    リチャードがやってきて佳織の隣に座った。
    "どうもウチの社長とマネージャーは、あのボトルを違う目的で使いたいようです" 長谷川が答えた。
    "違う目的ですか"
    "あのボトルは、中の仕切り板を外したら何人くらいの女性が入れますかね"
    "そうですね。4~5人は入れるでしょう"
    「4~5人は詰められるって」長谷川が日本語で伝えた。
    「きゃあっ」「あはは、ぎゅう詰め」
    「やろうやろう」女性達は盛り上がる。
    「でもさ、ラベル貼っちゃったら、中身が見えにくくなるね」「それくらいでいいのよ。全裸で入ってるんだから」
    「ええ? 裸って決まってるんですか?」「あら、違った?」「きゃはは」
    「拘束する?」「ああ、手錠とか、いいかも」「水中で手錠? いいなぁ」
    「典子、あんた、詰められる側のつもりで言ってるでしょ」「え~?、純生は違うの?」「あはは」

    "皆さん、何の話をされてるんですか?" リチャードが佳織に質問した。
    "どうやら、あなたのボトルでエンケースメントをやりたいみたいね"
    "エンケースメント!"
    "ええ。女の子を裸で飾るとか、手錠を掛けて詰められたい、とか言ってるわ。うふふ"
    "それはショーのお話ですか? それともジョークを交えた女性の願望ですか?"
    いけない。この人は何でも真面目に聞いてくるんだった。
    "そういう質問は日本ではヤボって言うのよ、リック。・・でも"
    注意深く考えながら説明する。
    "キョートサプライズのショーにはセクシーな演目もあって、そこでは女性が小さな箱にパッケージされたり、縛られたりすることも、あるわ"
    "そうなんですか。それは見てみたいな"
    "ええ。日本にいる間に、是非"
    "あの、ヤボな質問を繰り返して申し訳ありませんが"
    "はい?"
    "こちらの女性には、マゾヒスティックな嗜好の人が多いのですか?"
    "・・うん。そういうタイプの女性も多いかな"
    "カオリさんは?"
    "え、僕?"
    "カオリさんも、同じタイプですか?"
    "あ、その・・"
    "すみません。無作法な質問でした"
    "いえ"
    佳織はほっとして答える。頬が熱かった。

    "カオリさん、"
    解散した後、リチャードが話しかけてきた。
    "今夜もお誘いしてよろしいでしょうか?"
    "あら、これからですか?"
    "はい。私の滞在先で一緒に過ごしませんか。神戸ですが"
    え、それって。
    佳織はリチャードを見る。リチャードの目は真面目だった。
    ああ、僕は。
    "・・はい" 佳織は答えた。

    続き





    キョートサプライズ セカンド・第6話(3/3) 佳織、帰国する

    9.山荘
    六甲の中腹に建つ豪華な山荘。
    "ここは知人に借りた別荘です。邪魔する者はいませんから、ゆっくり過ごしましょう"
    リチャードが言ったが、佳織はそれに喘ぎ声で応えた。
    「あぁ・・ん」
    佳織は寝室のベッドで、ショーツ1枚きりの姿で高手小手に縛られていた。
    "美しい、実に美しい" リチャードは縄束を手に目を細めて言う。
    "やはりカオリさんは、男に縛られてエクスタシーを感じるマゾヒストでしたね"
    "そんな、はっきり言わないで・・"
    "いえいえ、何度でも言わせて下さい。あなたは私が今まで縛ったM女性の中で最も魅力的だ"
    "リック、あなた、いったい"
    "サンフランシスコのシバリ・サークルで勉強しました。今は日本式緊縛の講師もしています。女性を拘束するのなら、やはり日本のシバリがベストですね"
    佳織の首筋をリチャードの舌が這った。
    "ひぁ・・っ"
    "カオリさんの望まないことはしません"
    "・・はあっ"
    "それとも、やはりノー・ロープで普通のセックスがいいですか?"
    "リック、・・あぁっ、・・あなた、こんなに意地悪だったなんて"
    "ご希望は?"
    "あぁ、・・縛ったままで、・・お願い"
    リチャードはにやっと笑った。
    "お望みのままに"
    リチャードの手が腰のショーツにかかった。
    佳織は、目を閉じてリチャードのするままに任せた。

    二人でシャワーを浴びた後、リチャードが言った。
    "私と結婚して下さい。カオリさん"
    "え、まだ知り合って一週間しか経たないに"
    "時間は重要ではありません。二人の結びつきの強さこそが大事なんです"
    "そんな、僕、急には決められません"
    "カオリさんは、私が嫌いですか?"
    "いいえ! そんなことはありませんっ"
    "・・分かりました"
    リチャードは少し間を置いて答えた。
    "ゆっくり考えて下さい。急がせるつもりはありません"
    そう言いながら、床に散らかった麻縄を集めた。
    それを丁寧に束ねて、ベッドに並べる。
    "ただし、あなたが結論を出すまで、帰しません"
    そう言って、縄束のひとつを再び取り上げた。

    10.翌日、KS事務所
    「今日は佳織と一緒やないんですか?」典子がリチャードに聞いた。
    「カオリサン? ホワイ、ウィズミー?」
    「あれ? ここんとこ、二人で仲良くしてると思ってたんやけどなぁ」
    腕組をして考え込んだ典子に洋子が聞いた。
    「佳織ちゃん、今日は来てないの?」
    「はい、お休みみたい。・・久しぶりの日本だから、どこか遊びに行ったのかもしれませんね」

    11.その頃、山荘
    寝室は空調が効いているので寒くも暑くもなかった。
    佳織は下着姿で、防水シートを敷いたベッドに仰向けに拘束されていた。
    大きく開脚した左右の足首に皮の枷がついていて、鎖でベッドの両端に繋がれている。
    両手は前手錠を掛けられただけなので、上半身を起すことは可能で、それでサイドテーブルの水差しから水を飲むこともできた。
    何度か脱出しようとしたが、南京錠で固定された足枷は外すことができなかった。
    手錠も、手首に血が滲むまでもがいたけれど、外すことはできなかった。

    不思議と腹は立たなかった。
    リチャードは最後まで優しかった。
    佳織を拘束してからも、佳織を気遣い、何度も振り返りながら部屋を出ていった。
    彼が戻るのは夜になるだろう。
    早急なプロポーズに応える気はなかった。応えられるとは思えなかった。
    二人とも、まだお互いを知らな過ぎる。
    でも、こうして自分を囲いたい彼の気持ちには応えてあげてもいいと思った。
    応えてあげたいと思った。

    変かな、僕。
    じっと天井を見て溜息をつく。
    両手を上に上げて、自分の身体を見下ろした。
    それほど大きくもない胸。筋肉はあるけど、ずんどうで丈夫なだけの身体。
    もっとふんわり柔らかい身体だったら、喜んでもらえるのにな。
    でも多少のことでは壊れないと思う。拷問されるのには向いてる、僕の身体。
    リックが帰ったら、もっとハードに責めてくれるかな。
    ・・ああ~っ、何考えてるんだよ、僕は!

    12.願望
    暗くなってから寝室のドアが開き、灯りが点いた
    "カオリさん?!"
    リチャードが佳織を見て叫んだ。
    佳織はベッドに拘束されたまま、ぶるぶる震えていた。
    "あ、あぁっ。リック、解いてっ"
    リチャードが走り寄る。慌てて佳織の身体を手でまさぐった。
    "どうしましたか?"
    "トイレに行かせて、・・お願い"
    "排泄してないのか! シートを敷いたのに"
    "だって、こんな綺麗なお部屋、汚せない"
    リチャードは急いでポケットから鍵を出すと、佳織の手錠と足枷を外した。
    そのまま佳織を抱き上げてバスルームに走った。
    「はぁっ、あぁ~っ!!」
    我慢しきれない声とともに、佳織はリチャードに抱かれたまま股間から大量の液体をこぼした。
    "あぁ、ごめんなさいっ。・・あなたのズボンを汚してしまった"
    "気にしないで"
    リチャードはバスルームで佳織の下着を脱がせると、自分の服が濡れるのも構わずシャワーの湯をかけた。
    "済みませんでした。一日中拘束するなんて、ひどいことを"
    "いいえ。・・僕、放置されて思い知りました"
    "何をですか?"
    "自分がいかにマゾかということを。いかに卑しい女だということを"
    "卑下することではありません"
    "僕、まだ、あなたと結婚できるかどうか分かりません"
    "・・"
    "でも、あなたには縛られるのは、嬉しかった"
    "カオリさん・・"
    "お願いがあるの。リック"
    佳織はリチャードを見て言った
    "僕をもっと責めて欲しい。手加減しないで、責めて、責めて、責めて欲しい。あなたの、気が済むまで"

    13.佳織被虐
    佳織の身体に縄が巻きつき、締め上げていた。
    「んっ、・・あああぁ!!」
    がくがくと首が揺れて、涙と涎が飛び散る。
    股間に割り込んだ縄をリチャードがぐいと引いた。
    「ひぃっ、はぁん!」
    大きな声を出して、全身をびくりと仰け反らせる。
    その身をリチャードが後ろから抱いた。
    左右の乳房を両手で同時に揉みしだく。
    「あぁ、あぁっ、あぁああん!!」

    2時間後、佳織はベランダで吊られていた。
    手首と足首を後ろで合わせてひと括りにし、そこを軒から縄で吊り下げられている。
    駿河問いの体勢である。
    厳しい逆海老に反り返った身体が痛々しいが、佳織は辛いとは訴えなかった。
    ただぎゅっと目を閉じ唇を咬みながら、手足にかかる自分自身の体重に耐えていた。
    眼下には1000万ドルの夜景と呼ばれる神戸の街の灯りが広がっている。
    ときおり風が吹いて佳織の身体は大きく揺れた。
    まるで何百メートルも下の街まで吹き飛ばされるかと思うほどに、大きく揺れながらくるくる回った。

    さらに2時間後、サウナルームの前にリチャードがいた。
    ガラスドアから中を覗き込んでそわそわしていたが、やがて腕時計を確認すると中に入ってずぶ濡れの女体を担ぎ出してきた。
    それは小さく折り畳まれて、ぎちぎちに緊縛された佳織だった。
    汗と涙でぐちょぐちょになった顔面に、濡れた前髪が張り付いて雫がぽたぽたと垂れていた。
    そのまま床に転がすと、したたり落ちる汗がたちまち水溜りを作って広がった。
    はぁ、・・はぁ、・・はぁ。
    佳織は荒い息をしながらも、ぐったりと動かない。
    股間には大量に溜まったとろとろの蜜が、汗と混じり合って泉のように溢れていた。
    佳織は摂氏98度のドライサウナの中に30分以上も放置されたのだった。
    リチャードは佳織の緊縛を解こうとしたが、ぐっしょり濡れて締まった縄は簡単には緩みそうになかった。
    あきらめて縄を掛けたままバスルームに運び、シャワーの冷水をかけた。
    ひぃっ!!
    汗まみれの女体ががくがくと跳ねた。

    "これ以上は危険です。もう止めましょう"
    佳織はリチャードを見上げ、にやっと笑いながら首を横に振った。
    "駄目、もっと、・・僕を、壊れるまで、責めて"
    そう言って意識を失った。

    14.脱出
    目が覚めると佳織は全裸でベッドに寝ていた。
    無意識に頭に手をやろうとして、後ろ手に緊縛されたままであることに気づいた。
    あれ? ・・でもちょっと違う。
    汗まみれだった身体はさっぱりしていて、髪も乾かされていた。
    自分を縛る縄も新しくなっていた。
    リックが僕を綺麗に洗ってくれたのか。
    佳織は、被虐の嵐の中で暴走した自分を心配そうに見ていたリチャードを思い出した。
    恥ずかしさと申し訳なさで顔が熱くなった。

    ・・そうだ、リックは?
    「リック?、リ~ック!」
    何度か叫んでみたが、返事はなかった。
    リチャードはどこへいるのだろうか?

    少し動くと身体を起こすことができた。
    どうやら自分は鎖と錠前で拘束されているのではなく、縄で縛られているだけのようだった。
    ベッドに拘束もされていないから、這ってなら部屋の中を移動できるだろう。
    自分を縛る縄を観察する。
    あれ?
    背中で縛られた手の指の届く範囲に結び目があった。
    肩をすぼめて上半身を縛る縄の具合を調べる。
    抜けられる!
    これはいったいどういうことだろう。
    リチャードがこんな縛り方をするはずはなかった。

    見回すと、サイドテーブルに自分のパンツスーツとブラウスがきちんと畳まれているのが分かった。
    その上には綺麗に洗って乾かした下着。
    そして自分のバッグと携帯電話。
    もしかして、これはリチャードのメッセージだろうか。
    彼は僕に抜けてみろと言ってるのか。
    もし僕が脱出できたら、そのとき僕は彼の元から解放されるということか。
    そうか。
    ・・なら、僕はどうしたい? 僕の望みは何?

    佳織は目を閉じて考えた。
    心の中には、まだ被虐の願望が小さな炭火のように燃えていた。
    嬲られると思うだけで、とろけそうになる女の想いがあった。
    このまま責められていたい。ずっと囲われていたい。
    ・・ねぇ、それが僕の望みなの?
    それで本当にいいの?

    やがて佳織は決断した。
    うおぉぉぉ~っ!!!
    心の中で雄叫びを上げながら、猛然と挑戦を開始した。
    ・・思い出すんだっ。昔やったことを。
    手首をこじるように動かす。
    リチャードの縛り方を思い浮かべながら、背中の結び目を探る。
    ほんの少しの指掛かりが見つかればいいのだ。それが脱出への糸口なのだ。
    指が何もない空をまさぐった。あぁっ、分からない!
    もどかしさが込み上がる。
    佳織はベッドの上でごろごろ転がりながら、縄目を辿ろうとした。
    駄目っ。焦ってはダメだ!
    冷静さをなくしたらどんな簡単なエスケープもできなくなる。昔、勉強したじゃないか。
    逆さ吊りのエスケープをする涼の姿がよぎった。
    いつの間にか指先だけに意識を集中していた。
    届けっ、届いてっ。あと5ミリだけ!!
    昔の感覚が蘇りかけていた。
    もう少し。あぁ、もうちょっと・・。
    縄の結び目の輪に人差し指が掛かった。
    注意深く引き寄せて、親指も掛けることができた。
    やったっ!!

    両手が自由になると、他の縄は順に解くことができた。
    すべての縄から脱出すると、佳織はベッドから降り立った。
    サイドテーブルの服を着て、バッグと携帯電話を持った。
    山荘じゅうを調べて歩いたが、リチャードの姿を見つけることはできなかった。
    佳織は玄関を出た。
    最後に振り向いて深くお辞儀をすると、一人で坂道を下っていった。
    もう明け方が近い時刻だった。

    リチャードは去ってゆく佳織を庭から見ていた。
    "さすがです。カオリさん"
    そうつぶやくと、煙草に火を点けて空を見上げた。
    ・・You can fly away, my little bird,

    15.公演会場の準備
    1週間後、京都市内の繁華街にあるクラブでKSの定期公演が開かれようとしていた。
    フロアはいつものテーブルとソファを片付け、パイプ椅子をずらりと並べて多数の観客が座れるようにしている。
    今回の目玉は、涼と麗華のエスケープ、そしてリチャードから購入したイリュージョンの新作である。
    皆が準備に忙しくしているところに佳織が現れた。
    「佳織ぃ、今までどこに行ってたのよー」
    「ごめん、また実家へ戻ってた」
    そう言って典子に謝ってから、佳織は自分を見ているリチャードに気がついた。
    二人でフロアの隅に行き、他の者に聞こえないよう小声で話した。

    "ごめんなさい。勝手に帰って"
    "私こそお詫びします。カオリさんにはひどいことをしました"
    "あのとき、わざと僕が脱出できるように縛ったの?"
    "はい。ああしないとカオリさんは納得して帰ってくれないと思いました"
    "もし僕が脱出できなかったら、まだあそこに閉じ込めていたの?"
    "いいえ。どちらにしても帰ってもらうつもりでした。あなたへのプロポーズは撤回します。私の佳織さんへの気持ちに嘘はありませんが、もう迷惑はかけません"
    "ねぇ、リック。実は僕、両親の家に帰ってたんだ・・"

    そのとき、フロアの反対側で騒ぎが起こった。
    そこには十字架が置かれていた。
    イリュージョンの道具と一緒に購入したリチャードの拷問器具だった。
    リチャードが走っていった。佳織もついて行く。
    "どうしましたか!?"
    「手が取れちゃいましたぁ」
    「はぁ?」

    洋子はリチャードの十字架が気に入り、会場にディスプレイとして持ち込んだ。
    そこに生身の女性を磔にしようとしたが、一般向けの公演でそんなことは止めてくれと典子に言われた。
    そこでマネキンに魔女の衣装を着せて飾ることにした。
    すぐに人間でないと分かる、目鼻のない木製の等身大人形である。
    ただ今の騒ぎは、そのマネキンを十字架に取り付けようとしたら、手首が抜け落ちてしまったのだった。
    「これは、ここで修理するのは無理だね」
    人形を調べた長谷川が報告する。
    手首と腕を繋ぐ金属の芯棒がぽっきり折れていた。
    「仕方ないわね。でも人形なしで十字架だけ飾るなんてできないわねぇ」洋子がなぜか嬉しそうに言った。
    「洋子さん、まさか自分が代わりになるなんて許しませんよ」典子が先手を打って止める。
    「え~、どうしてぇ?」
    「社長が磔になってるなんて知れたら大騒ぎになるでしょーが!」
    「じゃぁ、どうするのよ?」
    人形の代役を務めることができる女性などいなかった。この公演で役目のない暇なEAはいないのだ。
    「まあ、人形を架けなくても、十字架だけ飾れば、」
    典子がそう言いかけたとき、佳織が手を上げた。
    「僕にさせてくれないかな。その人形の役」
    え? 皆が佳織を見た。
    「佳織、さっきの洋子さんの発言は冗談やで?」典子が言った。
    「分かってる。・・でも、こんなに綺麗な十字架、何もしないのはもったいないよ」
    「4時間ぶっ通しの磔よ。佳織、もう現役やないんやから」
    「大丈夫。僕のことは、典が一番よく知ってるはずだよ」
    典子は佳織を見て少し考えた。
    「・・分かった。佳織を信じる」
    人形の代役は佳織に決まった。

    佳織の衣装合わせをメイク担当の綾乃が手伝った。
    壊れたマネキン人形は身長が170センチあり、しかも普通の人間よりも小顔にできていたので、佳織は人形の衣装をそのまま着ることができた。
    「それから、衣装の下にこれを着て下さい」
    綾乃が茶色のタイツを差し出した。
    「全身タイツ?」
    「典子さんの指示です。・・無機質な人形を演じて欲しいって」
    そうか。僕はモノになるんだな。
    「それに、」
    綾乃はくすりと笑った。
    「きっと佳織さんはものすごくドMな表情になる、そしたらお客様がステージより佳織さんの方ばかり見て困るから、顔を隠すんだって」
    「・・典め」

    16.KS定期公演
    KSの定期公演が始まった。
    夏休み中の家族連れを含むたくさんの観客がやってきた。
    逆さ吊りの緊縛から脱出する涼を手に汗を握って応援した。
    ワインボトルの水中で入れ替わる二人の美女に大きな拍手を送った。

    ステージに反対側には2メートルほどの高さの十字架が展示されていた。
    細かい金属の装飾が施された、アンティックな雰囲気の十字架だった。
    十字架には、魔女の格好をした等身大の人形が取り付けられていた。
    まるで本物の人間と同じように、両手を広げて手枷と足枷で固定されていた。
    大きな三角の帽子と金色の毛糸で作った長い髪の毛。そしてその下には茶色いのっぺらぼうの顔があった。
    開場したときから終演して最後の客が帰るまで、それはずっとスポットライトに照らされてディスプレイされていた。
    よく観察すれば、その魔女人形はときおり首を振ったり、手足を動かしたりするのが分かったはずだった。
    でも、その動きはほんのわずかだったし、何よりどの客もステージの方に見入っていたので、気づいた者は誰もいなかった。

    ただ一人、一番後ろの席に座った東洋系アメリカ人の男性だけが、ステージよりもその魔女人形の方をずっと見ていた。

    17.終演
    "カオリさんっ!!"
    リチャードが十字架から魔女人形を解放すると、その人形はリチャードに腕の中に崩れ落ちた。
    リチャードは急いで魔女のコスチュームを脱がせ、全身タイツの頭部を開いた。
    汗にまみれた佳織の顔が現れた。
    "どうしてカオリさんがこんなモデルを"
    "だって、リックの作品だから。・・綺麗に飾ってあげないと可哀想"
    "あなたが、そこまでする必要はもうないのですよ"
    "リック、あのね、"
    佳織が言った。
    "僕、両親の家に帰ってたんだ"
    "ああ、昼間もそんなことを言ってましたね"
    "報告したんだ。・・僕には大切な友人がいるって"
    "え?"
    "その友人は、知り合ってまだ少しだけど、とても尊敬できる男性で、もしかしたら、その人と人生を一緒に歩むかもしれない、って"
    佳織はリチャードをじっと見つめた。
    "リック、あなたのことです。・・I love you, forever."
    キョートサプライズのメンバー全員が取り囲む中で二人はキスをした。

    18.1年後、KS事務所
    純生が事務室にやってきた。
    「佳織から写真が送られてきたって!?」
    「うん。ほら!」典子がパソコンの画面を見せた。
    そこには佳織とリチャードの写真が表示されていた。
    椅子に座る佳織とその後ろに立つリチャード。佳織の膝には白いベビー服に包まれた女の子の赤ちゃんがいた。
    幸せそうな家族の写真だった。
    「うわぁっ。可愛い!!」
    「皆のアドレスにも転送するからねっ、今まで佳織と関わった人、みんなに」
    「えっ、へっ、へっ、へぇ」
    「何やの。その気色(きしょく)悪い笑い方は」
    「典子、追い越されたね。一番奥手だった佳織に」
    「あ、そういうこと?」
    「あたし達のトップで結婚したくせに。・・そろそろ真剣に子作りしないと、あたしと美香も追い越すぞぉ」
    「どおいう意味よ。・・あぁっ、まさか、」
    典子は立ち上がって純生に詰め寄った。
    「まさか、あんたらも・・」
    「へっへっへぇ。まだ秘密ぅ」
    「もったいつけないで、白状しなさいっ」
    「だから、まだ内緒だってぇ。・・じゃね!」
    「こらぁ!! 逃げるなぁ」



    ~登場人物紹介~
    小嶋佳織 29才、本話主人公。一人称は「僕」。KSの元EA/FB。今はアメリカに住んでいる。
    黒川典子 29才、KSのマネージャー。佳織の同期。
    鈴木純生(すみお) 29才、EA/FBのリーダー。佳織の同期。
    リチャード・フジタ 36才、イリュージョン・メーカーをしている日系アメリカ人。
    加山涼 22才、EA/FB。
    張麗華 22才、EA/FB。
    寺原詩織 20才、EA/FB。
    臼井由梨絵 21才 、EA/FB。
    市川綾乃 26才、KSの事務担当。元EA/FB。
    長谷川行雄 KSの指導者
    島洋子 KS代表

    佳織さんの登場です。
    あれから8年が過ぎ、彼女はアメリカで一人がんばっています。
    おそらく恋愛は何度も経験しましたが、決まった相手と結びつくには至ってません。
    以前、彼女が主役のお話を書いたときはちょっと可哀想な目に合わせたので、再登場するときはきっとハッピーエンドにしてあげようと決めていました。
    第1部の佳織をご記憶の皆様には、最後の家族写真で一緒に喜んでいただければ幸いです。

    冒頭のきんぴらライスバーガーの機内食は実話です。
    私は日本発の機内でこれを食べて、J◯Lの経費削減もここまできたのかと嘆息した覚えがあります。
    (実際に経費削減が目的かどうか、知りませんが・・)
    隣席でアメリカ人の親子が本当に目を白黒させながら食べていました。

    本話では新しいネタをいくつかやりました。
    ワインボトルの中に浮かぶ美女、サウナの中に緊縛放置、そして全タイコスプレで等身大人形風の磔。
    単独では一つのお話になりにくいものばかりなので、なかなか発表できずに長年抱えていたネタでした。
    私の中にはまだいくつか小ネタがあります。
    モチベーションのあるうちに、早くどこかで描かなかければと焦っています。
    なおボトルのイリュージョンはタネ明かしをしていますが、これは、閉所(しかも水中)に女の子を閉じ込めることに萌えた作者のファンタジーです。決してマジックの実現性を狙って考えたものではありません。
    拙サイトの小説をお読み下さっている皆様ならご理解いただけているとは思いますが、一応念のため。

    ありがとうございました。

    PS:
    今回、『準備中(近日公開)』の案内から実際の公開まで、都合により大変時間がかかったことをお詫び申し上げます。





    キョートサプライズ セカンド・第5話(1/3) 教授の孫娘

    1.事件
    「毎度~っ」
    和風の玄関に若い男性が荷物を運んできた。
    「先生っ。柳井センセー!」
    「はい」
    出てきたのは、ブレザーの制服を着た14~5才くらいの少女だった。
    ショートカットの頭を片側で括って赤いぽっちりの髪留めをしている。
    「柳井先生は?」
    「おじいちゃんは出かけてます」
    「留守ですか? 困ったな」
    「配達でしたら預かりますけど」
    「いや、これは、柳井先生に直接渡さないといけないんで」
    「いったい何ですか? 大きな籠」
    それは蓋のついた四角い籐の籠だった。
    「いや、それはちょっと」
    「・・あなた、本当に宅配の人?」
    「いや、ちょっと違うんですけど、これをお届けに」
    「まさか爆弾、とかやないでしょうね」
    「爆弾なんて、そんなこと」
    「挙動不審やわ。・・これ、中を確認します」
    「ああっ、勝手に開けられたら困ります!」
    少女は籠を開けようとした。
    しかし籠の蓋には小さな南京錠が掛かっていて開けることができない。
    むんっ。
    南京錠を握ると、力を込めて蓋の留め金ごと引きちぎってしまった。
    「わ、壊さないでっ」
    少女は構わず蓋を開けて中を覗く。
    「きゃあっ、何これ!」
    籠の中には赤いワンピースの女性が座っていた。
    女性は縄で後ろ手に縛られていて、さらに白布で猿轡を掛けられていた。
    前髪が乱れて顔面にかかっている。
    その髪の下から大きな目が少女を見上げて、不思議そうにまばたきした。
    「誘拐!?」
    「違いますよぉっ」
    「そこを動かないで! 今、警察に電話します」
    「そんなぁ、止めて下さいっ」
    ポケットから携帯電話を出した少女の手を男性が掴もうとした。
    むっ!!
    少女はすかさず男性の手首を掴んだ。そのまま引き付けると数歩下がって身を沈める。
    制服のスカートから白いソックスを履いた足が伸びて男性の腰を蹴った。
    「でぇえい!!」
    絵に描いたような見事な巴投げが決まった。
    男性は2メートル近く宙を飛んで廊下に転がり、目を回して動かなくなった。
    「おや、来てたのかい。千佳」
    「あ、お帰りなさい、おじいちゃん。今、誘拐犯があたしに襲い掛かって」
    「え? おい、瀬戸くん! 大丈夫か、瀬戸くん!!」
    「知り合いなの?」
    ・・
    翌日、KS事務所で代表の島洋子が聞いた。
    「それで、どうなったの?」
    「瀬戸君、本当に気絶しちゃったみたいです。その女の子、柳井教授のお孫さんで柔道初段なんだって」
    KSマネージャーの黒川典子が答える。
    「災難だったわねぇ。まぁ、約束の時間に煙草を買いに出た先生も先生だけど」
    「教授も普段はお一人で悠々自適だから、お孫さんが一人で来るなんて思ってもいなかったんでしょうね」
    「で、どう説明したの? その勇敢なお嬢さんには」
    「出張イリュージョンだって」
    「?」
    「イリュージョンマジックが大好きで、出張してイリュージョンを見せてくれるサービスを頼んだ、籠はネタの大道具でアシスタントの美女が隠れてたって」
    「・・ぷっ」
    「笑わないで下さい。本当にそう説明したんですよ」
    「それで、彼女は納得してくれたの?」
    「らしいです」
    「ぷ、・・きゃははは」
    「ま、私も初めて聞いたときは笑いましたけどね」
    「あはは。その子に会いたいなぁ」
    「会えますよ。来週」
    「会えるの?」
    「教授、疑いを晴らすために、次の公演にお孫さんを連れてくるそうです」
    「そうか。楽しみだわ」
    「変なちょっかい出したらあきませんよ」

    2.イリュージョンショー
    河原町の繁華街のはずれにある高級クラブ。
    半地下のフロアに並ぶボックス席の一つで、桃園千佳(ももぞのちか)は居心地の悪さを味わっていた。
    フロアを歩き回るバニーガール。煙草の煙とお酒の匂い。回りは大人の客ばかり。
    ここは明らかに中学3年生の自分が来る場所ではなかった。
    たった一人で座っていると他の客からの視線を感じる。
    このお店には祖父の柳井淳(やないあつし)に連れられて来たが、その柳井は千佳の知らない男性に挨拶されて、今はその男性の席で歓談していた。
    大学の名誉教授という祖父の立場からすれば仕方ないと理解しているが、それでも自分をこんなところに一人で放り出さなくても、と少し恨めしく思った。

    あの日、祖父の家に怪しい男性が運んできた籠。
    あれがマジックの大道具だという柳井の説明を千佳は信じていなかった。
    あからさまにとってつけた嘘だと思った。
    籠の中で縛られていた女の人。どう見ても普通やない。
    ・・でも、あの目。
    籠の中から千佳を見上げた女性の目。
    あれは、誘拐の被害者などではない、あの状況をすっかり受け入れた目だと思った。
    まるで縛られるのが自分の役目、とでも思っているような。
    千佳はあの女性の姿を思い出す度に、胸の中にうずうずとした不思議な感覚を覚えるのだった。
    あの人はいったい何者なのか。
    それでおじいちゃんは何をするつもりだったのか。
    おばあちゃんがなくなったのはもう10年以上昔のことだった。小学校にも上がっていなかった千佳はよく覚えていない。
    それからおじいちゃんは、あの家にずっと一人で暮らしている。
    今まで母さんに頼まれて夕食のおかずを届けたりしていたけれど、秘密があるなんて思ってもいなかった。
    その秘密を知りたい。
    今夜、それを暴いてみせるんやから。

    「あら、グラスが空ね。お替り持って来ましょうか?」
    千佳の前にバニーガールが膝をついて聞いた。
    髪をアップにした、胸の大きなバニーだった。
    香水のいい匂いがした。
    「オレンジジュースでいい?」
    「はい、お願いします」
    バニーガールはにっこり笑って、新しいドリンクを運んできてくれた。
    「ありがとうございますっ」
    「いいえ。・・こういう場所は初めて?」
    「はい。どうも落ち着けなくって、こんな所は」
    そう言ってから「こんな所」なんて見下してるみたいにとられると思い、慌ててつけ足す。
    「あ、その、素敵なお店でバニーさんもすごく綺麗やけど、その、私みたいな子供がいてもいいんかなって」
    「うふふ」バニーガールは楽しそうに笑った。
    バニースーツから盛り上がった胸が目の前で揺れる。
    胸の下に『リョウ』と書かれた名札が読めた。
    「大丈夫よ、今日は中学生以上OKだもの。あなた中学生でしょ?」
    「はい、中3です」
    「なら、堂々と楽しんでいいのよ。・・もうすぐショーが始るから」
    「ありがとうございます。リョウさん」
    名前を呼ばれてバニーガールは少し驚いた顔をしたが、すぐに自分の名札を見て笑顔に戻った。
    「じゃあね。千佳ちゃん」
    手を振って離れて行った。
    千佳も笑って手を振り返す。
    ・・感じのいいバニーさん。美人やし、おっぱい大きいし。
    そこで気がついた。
    あの人、どうしてあたしの名前知ってるんやろ。

    「いやぁ悪い悪い。さっきの彼は卒業生でね」
    柳井が席に戻ってきたのは、フロアが暗くなってショーが始る直前だった。

    3.ポールダンサー・バニッシュ
    正面のステージに背の高い女性が二人登場して、音楽に合わせて踊り始めた。
    褐色の肌に黒いマイクロビキニの水着をつけ、10センチ以上はありそうなハイヒールを履いていた。
    ローションを塗っているのだろうか。素肌がライトに照らされて輝いている。
    二人はステージの左右に立つ銀色の棒に片膝を掛けると、そのまま棒の回りをくるくると回った。
    ポールダンス!
    千佳は思わず身を乗り出した。
    女性達はポールに身をまかせたまま上下逆になり、艶かしく腰を振っている。
    上に向かって伸びる脚線が綺麗だった。
    はぁ、すごい。
    千佳は口をぽかんと開けてダンスを見ている。
    このお姉さん達、きっとプロのダンサー。
    柔道をする千佳には何となく分かった。
    腹筋は割れてるし、上腕の筋肉も本物。
    格好いい。それにすごく色っぽい。

    やがて音楽が小さくなり、タキシードにシルクハットをかぶった女性マジシャンが歩み出てきた。
    タキシードの下は黒いハイレグのレオタードで、黒い網タイツとハイヒールがセクシーだった。
    マジシャンに続いて赤いバニーガールが出てきた。
    千佳はすぐに分かった。さっき千佳にドリンクを運んでくれたバニーガールだった。
    リョウさん!
    リョウは客席の千佳に気付くと、笑いながら小さく手を振ってくれた。
    彼女は大きな紫色の布を2枚持っていて、1枚をマジシャンに渡した。
    マジシャンとバニーは左右に分かれて立ち、それぞれ踊り続けるダンサー達の前に紫布を広げた。
    ダンサーの姿が紫布の陰に隠れる。
    やがて紫布の後ろから同時にダンサーの両手が上に伸びて、黒い布片を広げて見せた。
    それは黒いビキニのブラだった。
    二人の手がブラを前に投げると、マジシャンとバニーが紫布を外した。
    ええっ?
    驚く千佳を他所に、客席から拍手が起こる。
    ダンサー達は腰を振りながら、両手で裸の胸を隠して笑っていた。
    音楽が再び大きく鳴り響き、ポールダンスが再開される。
    二人のダンサーは片方の手で胸を隠し、もう一方の手でポールを握って回転した。
    やがてその手もポールを離れ、ダンサー達は太ももでポールを挟んだだけで仰向けに反り返って回転を続けた。
    おおーっ。どよめきが起こる。
    二人は回りながら両手を大きく左右に広げたのだ。
    綺麗なバストがはっきり見えた。乳首がつんと尖っている。
    よく鍛えられたボディが反り返って、くるくると回り続けた。
    え? え? え?
    千佳はダンサーと一緒に目が回りそうな気分だった。
    これでホンマに中学生OK???
    やがて回転が止まり、ポールから飛び降りたダンサー達が裸の胸を隠しもせずポースを取ると、客席から再び大きな拍手と喝采が起こった。

    音楽が止まり、控えていたマジシャンとバニーがさっきと同じように紫布をダンサー達の前にかかげた。
    すると再び紫布の後ろからダンサーの両手が出て、黒い布片を広げて見せた。
    「あ、あ・・」千佳の口から声が漏れた。
    隣に座る祖父がほほほっと笑ったような気がした。
    その黒い布片は彼女達が穿いていたビキニのボトムだった。
    それが前に投げ捨てられると、同時にマジシャンとバニーが紫布をさっと外した。

    客席は一瞬静かになり、そして驚きの声と拍手が起こった。
    そこには銀色のポールがそびえているだけで、二人のダンサーは影もなく消えていたのだ。
    床に落ちたビキニを拾い上げ、深々と頭を下げるマジシャンとバニー。

    4.ミニ・キューブ
    音楽が再び流れ始める。今度はゆったりとした曲だった。
    バニーガールのリョウが四角い箱を押してきた。
    マジシャンは箱の正面の扉を開け、リョウを中に入らせる。
    箱の中は膝をついて屈んでようやく入れる程度の広さだった。
    リョウの頭についたウサギの耳が入口で突き当たるので、マジシャンがそれを折って箱の中に押し込んだ。
    扉を閉め、箱をぐるりと一回転させて客に見せる。
    次にマジシャンは断面が六角形の筒を手にもって掲げた。
    ・・このマジック、見たことある。
    千佳はテレビで見たイリュージョンを思い出した。
    箱の正面と側面からそれぞれ六角形の筒を差し込んで反対側まで突き通すのである。
    マジシャンは反対側から筒の中に手を入れて、本当に箱を突き抜けていることを示す。
    筒の直径は箱の幅とほとんど同じなので、そんな太さの筒を突き通したら箱の中にいる女性が逃れる場所はなくなってしまう。
    その上、箱にはさらに金属のサーベルを何本も突き刺すのだ。

    目の前で演じられているイリュージョンはテレビで見たものとほとんど同じだった。
    サーベルは箱に突き刺さり、さらに筒の中まで突き刺さっていた。
    そして、箱の上面の小蓋を開けると、そこから女性の手のひらが差し出されてにぎにぎと動いた。
    中に人が入っていられるとはとても思えないのに、その上で動くのは明らかに人の手。
    不思議なイリュージョンだった。
    千佳も他の客と同じようにぱちぱちと拍手を送る。

    本当に驚いたのはその後だった。
    マジシャンがサーベルと筒を抜いて、最後に箱の正面の扉を開けた。
    箱の中には女性が三人入っていた。
    一人だけでも余裕のない空間の中に、三人が身を縮めてぎゅうぎゅうに密着して収まっていた。
    こんな状態でいったいどうやってあんなに太い筒とサーベルを突き刺せたのだろう?
    だいいち、最初に箱に入ったのは一人だけなのに、後の二人はどこから出てきたのか?
    マジシャンに手を取られて、最初の女性が箱から出てきた。
    それはバニーガールのリョウで、彼女のコスチュームは真っ白なマイクロビキニに変わっていた。
    頭につけたウサギの耳だけがそのままである。
    いったいどこで着替えたのだろう?
    そして続いて出てきた二人は、あのポールダンサー達だった。
    ダンサー達は黒いマイクロビキニを着けていて、リョウの両側でセクシーにポーズをとって笑った。
    千佳は彼女達の胸に元の通りにブラがついていることに、なぜかほっとした。

    5.休憩時間
    フロアが明るくなった。
    ショーは休憩になり、第2部は30分後と案内された。
    はぁ~・・。
    千佳はボックス席のソファからずり落ちそうなほどに身体を伸ばして深呼吸した。
    「千佳、行儀が悪い」
    「そんなん言うてもぉ~」
    柳井に向かって返事する。こんなショーやとは思ってへんかったもん。
    イリュージョンは確かにすごいけど。
    裸になるなんて。おっぱい出すやなんて。
    「ほぉっ、ほぉっ、ほぉっ」
    柳井が笑った。これはおじいちゃんが機嫌のいいときの笑い方。
    「これはきっと誰かさんを驚かせるため島さんの演出だな」
    島さんって?
    「ここのフィクサーだよ」
    フィクサー?
    「誰がフィクサーですって?」
    後ろで声がした。
    振り返ると白いタイトスカートの女性が両手を腰にあてて笑っていた。
    うわぁ、美人。千佳は思った。
    ここのお店、綺麗な人ばっかり。

    「この人はキョートサプライズの社長をされている島洋子さん」隣に座った洋子を祖父が紹介してくれた。
    「こっちは孫の桃園千佳」
    「うふふ、あなたがうちの男の子を投げ飛ばしたヤワラちゃんね。どんな豪傑かと思ったら素敵なお嬢さんじゃない」
    洋子に言われて千佳の顔が赤くなる。
    「あ、あのときは、勢いで。えっと、すみませんでしたっ」
    「いいのよ、あれはこちらが悪かったんだもの。それで、ウチのショーを見て千佳ちゃんの誤解は解けた?」
    そうやった。あたし、本当にイリュージョンなのかって疑って来たんやった。
    「ああ、その、すごいショーやと思いました。・・ちょっと大人の人向きかなって思いましたけど」
    本当はまだウソやないかって思ってる。でも、あんなショーを見せられて、今はスゴイとしか言われへんよ。
    「そうね。アダルト向けのプログラムだもの」
    「え? 中学生OKやないんですか」
    「ホントは18禁なの。高校生以下入場禁止よ」
    え~っ!!
    「いや、スマンな。千佳には全部見せた方がいいと思って、島さんにお願いしたんだ」
    「あのあのあたし、帰ります。こんなとこにいたら父さんに叱られる」
    「ほぉっ、ほぉっ、ほぉっ。今日は特別だよ。お父さんとお母さんには何も言わないから、心配せんでいい」
    「うふふっ。あなただって興味はあるでしょ? ポールダンスのときは目を輝かせて見てたじゃない」
    そりゃ、あんなん初めてやもん。見とれるよぉ。
    お姉さん達のおっぱいを思い浮かべた。
    あのドキドキした感覚が蘇る。
    「素直ねぇ。赤くなって、可愛い」
    う~っ!!
    「島さん、あんまりからかわんで下さい。本当に素直な子なんですよ」
    もう、おじいちゃんまでっ。

    それから洋子は、洋子の会社とイリュージョンショーについて教えてくれた。
    キョートサプライズ(KS)は、EAと呼ぶ女性コンパニオンを派遣してイベントやショーを開催する会社である。
    イリュージョンショーは特に人気があって、アダルト向けだけなく地域のイベントなどでファミリー向きもやっている。
    EAには女子高校生のアルバイトもいるという。
    「どう? 千佳ちゃんもやってみたい?」
    「え、あたしがですか?」
    「そうよ。華やかでしょ」
    「そうですね。まあ、ちょっと素敵ですね」
    「なら、決まりね! 実は、今日だけアシスタントを募集中なの」
    はあ?
    「ほぉっ、ほぉっ、ほぉっ」柳井が大笑いした。
    「少々強引ですが決まりかな」
    「おじいちゃん!」
    さっきのはアイソのつもりで言ったのっ。
    「まあ、いいじゃない。何でも経験よ」
    「でも、あたし、何もできません」
    「大丈夫。すごく簡単なお手伝いだから、心配しないで」
    よくわからないうちに、千佳はイリュージョンショーのアシスタントをすることになっていた。
    「それじゃさっそくだけど、楽屋に来てくれる? 衣装を合わさなきゃ」
    「え、衣装? 私、あんなの着れません~っ」
    さっきバニーからビキニに変身したリョウの姿がちらつく。
    「おとなしい衣装よ。千佳ちゃんもきっと気に入るわ」
    あ~ん。
    千佳は洋子に半ば強引に手を引かれて連れていかれた。
    後ろで祖父が楽しそうに手を振っているのが見えた。

    続き




    キョートサプライズ セカンド・第5話(2/3) 教授の孫娘

    6.スパイク・バスケット
    フロアが暗くなって、イリュージョンショーの第2部が始まった。
    ステージに女性マジシャンとアシスタント二人が並んでお辞儀をした。
    マジシャンはさっきと同じ、ハイレグレオタードにタキシードと網タイツ姿。
    そしてアシスタントのコスチュームは、派手な柄のだぶだぶTシャツにショートパンツだった。
    シャツの長い裾はお腹の上で括ってへそ出しスタイルである。
    ・・どこが、おとなしい衣装やの!
    千佳はむき出しになった自分のお腹が気になって仕方なかった。
    心配していたバニーガールやビキニではなかったものの、まさかおへそを見せるなんて。
    クラスメートの中には露出の大きな服を好んで着たり、水着だってビキニしか着けない子がいるのは知っている。
    でも自分はお洒落にそれほど興味はなかったし、学校の制服以外ではいつも柔道着かジャージ、出かけるときはジーンズ専門だ。
    人前でこんな格好をしたことはなかった。
    ステージに立っていると、客席の全員が自分のおへそを見ている気がする。
    フロアのテーブル席には柳井と洋子が座って拍手しているのが見えた。
    もぉっ。そんな嬉しそうな目で見んといてよ、おじいちゃんっ。
    千佳は無意識にお腹を手で隠し、隣のリョウの陰に隠れようとする。
    自信を持って、千佳ちゃん。
    リョウは励ますように千佳の背中に片手を当ててくれた。
    「さあ、始めましょう」
    マジシャンのレイカが声をかけた。
    楽屋で少し会話したレイカは、凛々しい印象とは違って優しい雰囲気の人だった。
    千佳には自分の指示する通りに手伝ってくれればいいからと言ってくれて、少し安心できた。
    そうやった。マジックのお手伝いしないと。
    千佳は恥ずかしさを頭の中から無理に追い払うと、レイカに向かって「はい」と言った。

    アシスタントと言っても千佳はイリュージョンの進行を知っている訳ではない。
    ただレイカの指示に従ってその都度作業を手伝うだけだった。
    今、千佳はリョウと一緒に大きな装置を運んできた。
    それは人間が寝転べるほどの広さのテーブルだった、
    テーブルの四隅に高さ1.5メートルほどの柱が立っていて、ベッドと同じ広さの天井板を支えている。
    そしてその天井には、たくさんの鋭く尖ったスパイクが下向きに突き出していた。
    レイカが小さな蓋のない木箱を持ってきて、客席に向けて中を見せた。
    箱の中にはおが屑のようなものがいっぱいに詰まっていた。
    その箱を装置のテーブルの上に置く。箱の真上には無数のスパイク。
    「少し離れて」
    リョウに言われて千佳は1メートルほど下がって立った。
    レイカが手に持ったリモコンのスイッチを押した。
    がっしゃーん!!
    天井板が落下して木箱を押し潰した。
    箱はぺちゃんこになり、おが屑が周囲に舞った。
    予想はしていたが、その迫力に千佳は驚く。
    その後、レイカがハンドルを回して天井版を元の高さまで吊り上げた。
    木箱の破片を取り除き、ホウキでテーブルの上を掃除する。
    「危険だからホウキだけ差し出して掃いてね。手とか頭とか絶対に出しちゃダメ」
    そう言われて千佳のホウキを持つ手が少し震えた。

    さて、これからが本番。
    レイカがどこからか縄の束を取り出して解き、両手でしごいてみせた。
    おお~。
    驚きと期待の混じった声が起こる。

    千佳には意味が分からない。
    この縄を使って何をすの?

    リョウが正面に歩み出て、両手を自分の背中に回した。
    レイカはその手首を合わせて縄で縛る。
    続けてリョウの二の腕と胸の上下に縄を巻き、縛った手首を吊り上げて固定した。
    そして腕の下に割り縄を通して、脇を締めた。
    レイカの大きめのバストがさらに盛り上がった。

    「レイカさん、上達しましたな」客席で柳井がステージを見ながらのんびりと言った。
    「ええ。典ちゃんについてずいぶん練習しましたから」洋子が応える。
    「あれだけ手早くできれば、大したものです」
    「先生に認めていただければ光栄ですわ」
    「それに、リョウさんの方も美しい。・・いい表情です」
    「うふふ。あの二人を一緒にいかがですか?」
    「よろしいのですかな? キョートサプライズの花形を一度に二人も」柳井は初めてステージから目を話して洋子を見た。
    「先日のご無礼のお詫びにサービスさせていただきますわ」
    「それは恐縮ですなぁ。しかし、私にはレイカさんに緊縛の技術を披露していただく必要はありませんが」
    「もちろん、わきまえておりますわ」
    「ほぉっ、ほぉっ」

    千佳はステージでレイカの縛り方を見て驚いていた。
    それはとても本格的な緊縛に見えた。
    かつてテレビの刑事ドラマで人質の少女が縛られるシーンを見て、あんなの簡単に脱けられるのにと思ったことがある。
    テレビの緊縛はそれほどまでに緩くて甘い縛り方だったのだ。
    しかし目の前でリョウが受けている緊縛はいい加減なものではなかった。
    それは、ただ両手を合わせて縛るだけでなく、肩から手首までをすべて拘束する緊縛だった。
    自分でも絶対に脱出できないと思った。
    驚いたのはそれだけではなかった。
    リョウの胸に絡み付いた縄が、まるで大きなバストを搾り出すかのように取り回されているのだ。
    Tシャツの柔らかい生地の下に縛られたバストの形がはっきり分かった。
    ただ自由を奪うことが目的なら、こんなことをする必要ない。
    ・・女性の縛り方。こんな縛り方があるんか。
    胸の大きな人が縛られてたら、男性はやっぱり嬉しいのかな。
    ごくり。千佳は唾を飲み込む。

    リョウが顔を上に向けた。
    はぁ~。
    目を閉じ、口を半分だけ開けて、深い溜息のように深呼吸をしている。
    リョウさんっ。もしかして、苦しいの?
    確かにこれだけ胸を締めつけられたら息も苦しいだろう。
    女性は胸式呼吸が多いし、あたしはお腹で呼吸するよう鍛えてるけど、ってそんなこと言うてる場合やないっ、レイカさんに伝えないとっ。

    そのとき、リョウが千佳を見て微笑んだ。
    とても色っぽくて満ち足りた表情だった。
    平気なの? もしかして気持ちいいの?
    かえって見ている千佳の胸の方が苦しくなりそうだった。
    きっとこれはリョウさんの演技や。仕事やから平気に決まってる。
    そう思って自分を納得させた。

    「千佳ちゃん、困ってるようですわね」洋子が楽しそうに言った。
    「島さん。あの子をEAに引き込もうなどとお考えではありますまいな」
    「まぁ、それも楽しいかしら。・・先生は許して下さいます?」
    「ほぉっ、ほぉっ、ほぉっ。孫は今どきの中学生には珍しいオボコです。自分からEAになりたいなどとは決して言いますまい」
    「うふふ。そうかもしれませんね」

    レイカはリョウを縛り終えると、白い布をリョウの口に噛ませ、さらに別の白布を上に被せて猿轡にした。
    「千佳ちゃん、あそこの籠を持ってきてくれる」
    「はい」
    千佳はステージ袖から籐の籠を運んできた。
    この籠は。千佳はすぐに気付いた。
    それは、あのとき怪しい男性が祖父に届けようとしたのと同じ籐の籠だった。
    籠の中で縛られていた女性。
    まさか。
    レイカが籠をテーブルに置いて蓋を開けた。
    リョウは自分でテーブルに上がり、スパイクに頭を当てないよう身を低くして籠に入った。
    「これで鍵を掛けてちょうだい」
    レイカに南京錠を手渡されて、千佳は籠を覗き込む。
    籠の中には縄で縛られたリョウが座っていて、白布で猿轡をされた顔を千佳に向けた。
    あのときの女性の姿が二重写しのように蘇った。
    少し乱れた前髪。自分を見上げる大きな目。
    まさか。
    「鍵を掛けて、千佳ちゃん」
    レイカにもう一度言われた。
    「あ、はい!」
    慌てて籠の蓋を閉め、南京錠を掛けた。
    どきん、どきん、どきん。
    心臓が破裂しそうに鳴っている。
    あのとき、おじいちゃんの家の玄関に届いた人は。

    千佳はテーブルの手前に透明なアクリルのパネルを立てて置いた。
    テーブルの右と左にも置いた。
    なぜこんなパネルを置くのか、よく分からなかったけれど、レイカに指示される通りに置いた。
    パネルごしにテーブルとその上の籠、そして籠の上に無数のスパイクが見えた。
    鳴り響くドラムロール。
    もしかして、リョウさんの上にあれを。
    ようやくそう考えた途端に、レイカがリモコンのボタンを押した。
    がっしゃーん!!
    天井板が落下した。
    無数のスパイクが籠に突き刺さり、そして押し潰した。
    千佳は籠から赤い液体が噴出するのを見た。
    それは自分に向かって飛んできて目の前で広がった。
    「きゃあ!」
    千佳は自分でも恥ずかしいくらいの悲鳴を出して、その場に尻もちをついた。

    レイカが駆け寄ってきて肩を抱いてくれた。
    「大丈夫よ。心配しないで!」
    客席からは盛大な拍手と、アシスタントらしからぬ悲鳴をあげた千佳への笑い声が聞こえた。
    目の前に赤い液体が広がったように見えたのは透明パネルのおかげである。
    籠から周囲に飛び散った液体は、透明パネルに遮られてどろどろと流れ落ちたのだった。
    それが本物の血でないことはすぐに分かった。この匂い、トマトジュースやん。
    千佳はレイカに手を取られて立ち上がった。
    顔面が熱かった。

    ステージの装置を引き下げ、その後にレイカがかかげた大きな紫布の陰から緊縛されたリョウが無事に生還した。
    縄を解いてもらい、猿轡を外したリョウはにっこり笑ってお辞儀をした。
    リョウの腕にくっきりと残る縄の痕を見て、千佳の胸が再びどきんと鳴った。

    7.書斎の緊縛
    ショーの次の日の夜。
    柳井教授の家の前にトラックが停まり、荷物を下した。
    今回配達されたのはダンボール箱が2個である。
    それらはすぐに書斎に運び込まれた。

    「先日はみっともない姿をお見せしまして」
    瀬戸宗弘が頭をかきながら挨拶する。
    「ほぉっ、ほぉっ。それはもう気にしないで頑張って下さい」
    「はいっ」
    瀬戸はキョートサプライズの裏クラブ Club-LB の新人緊縛士である。
    ずっと先輩の仕事を手伝ってきたが、ようやく先月から一人で縛らせてもらえるようになっていた。
    女子中学生に巴投げをくらうという失態を演じたのは、その矢先のことだった。
    今夜こそ教授の前でいいところを見せなくてはならない。

    ダンボール箱のひとつを開封した。
    中には、昨夜のイリュージョンショーの女性マジシャンが入っていた。
    丈の短いタキシードとハイレグレオタードに網タイツの衣装のまま、がんじがらめに緊縛されていた。
    もうひとつのダンボールも開封する。
    そこには、同じくイリュージョンショーのアシスタントが入っていた。
    白いマイクロビキニ姿で、がんじがらめに緊縛されている。
    ダンボール箱を倒して、中の女性を床に転がした。
    二人の顔が柳井に向くように並べると、両手で同時に前髪を掴んでぐいと引き上げた。
    華やかなイリュージョンショーで活躍した美女達が苦しげな表情で柳井を見上げる。
    「本日のFBはレイカとリョウです」
    「はい。よろしく頼みますよ」
    瀬戸が二人の名前を紹介すると、柳井はにっこり笑って応えた。

    コチ、コチ、コチ。
    みし、みし。
    静かな書斎に柱時計の音と縄の軋む音だけが響いている。
    女体がふたつ、鴨居の下で揺れていた。
    レイカは手首と足首を後ろでまとめて縛られて、逆海老に反り返った駿河問いの姿勢で吊られていた。
    その隣でリョウが高手小手に縛られ、頭を下に右側の足だけで吊られていた。
    少し離れた場所に瀬戸が座っていた。
    そして柳井は、リョウとレイカに背を向けて書き物をしていた。
    誰も喋らなかった。
    二体のFBは厳しい緊縛にただじっと耐えていた。
    リョウの拘束されていない左足だけが、空中でゆっくり砂をかくように動いていて苦しさを表現していた。

    30分ほど経過して瀬戸が立ち上がった。
    「ポーズを変えます」
    リョウとレイカの縄を緩めて一旦床に下した。
    柳井が椅子に座ったまま振り返って、リョウとレイカを見た。
    「大丈夫です」
    瀬戸が報告すると柳井は頷き、そして再び机に向かった。
    今度は向かい合ったリョウとレイカの両手を互いの背中に回し、抱き合った状態で上半身をまとめて縛った。
    そして大きく開脚させた左右の足首をそれぞれ鴨居に連結して再び逆さ吊りにした。
    はぁ・・。
    二人は強く抱き合い、そのまま深くキスをした。

    8.のぞき見
    書斎の廊下に面した襖(ふすま)が音もなく動き、2センチほど開いた隙間から少女の目がのぞいた。
    ジャージ姿の千佳が廊下に膝をついて、書斎の中を見ていた。
    千佳は、昨夜ショーの帰り際に祖父が洋子に向かって「明日よろしく」と言ったのを聞き逃さなかったのだ。
    きっと何かあると思ってやって来たら、家の前であの男性がダンボール箱を運び込むのを見た。
    すぐに裏に回り鍵の掛かっていない勝手口から中に入った。
    足音を立てずに書斎の前まで来て、のぞき込んでいたのである。
    狭い隙間からのぞく書斎の中では、机に向かって座っている祖父の背中が見えた。
    そしてその横には床に膝をついて何かの作業をしている男性の姿。
    実際に何をしているのか、男性の手元までは見えなかった。
    襖の隙間を広げたい衝動にかられるが、これ以上開くと気づかれてしまう。
    本当にイリュージョンをしているのだろうか。
    きっとあのダンボール箱には女の人が入っていたのに違いないのだ。
    「あぁ、・・ん」
    艶かしい声が聞こえた。
    !!
    思わず動かした手が襖にぶつかった。

    がたん。
    小さな音がした。
    瀬戸がそちらに顔を向けた。ほんの少し襖が開いていた。
    あれ? ちゃんと閉めなかったか。
    瀬戸は立ち上がり、一度襖を開けて、誰もいない廊下を見回した。
    襖をきちんと閉めて、元の位置に戻った。
    柳井は机に向かったまま、振り向くこともしなかった。

    「・・くぅっ」「はぁ・・」
    リョウとレイカが切なげに鳴き始めていた。
    どちらもよく調教されたFBだが、生身のM女である。無限に耐えられる訳ではない。
    リョウが感じる苦しみはレイカに伝わり、再びレイカからリョウに伝わる。
    レイカが感じる快感はリョウに伝わり、再びリョウからレイカに伝わる。
    二体のFBの間で、苦痛と快感が伝播し合い、増幅し合う。
    瀬戸は注意して二人を観察する。
    FBを連縛すれば、早い遅いの個体差はあるものの、いずれ必ずこのような状態になる。
    二体は感じ合い、高まり合い、それは急激に膨張して、やがてピークを迎える。
    緊縛士にできることは、お客様の嗜好に合わせて、その過程をコントロールすることである。
    瀬戸は先輩の緊縛士から、柳井教授の好みは激しく反応するFBよりも小鳥のように鳴き続けるFBだと教わっていた。
    それならリョウとレイカには、細く長くこの状態を続けてもらうことだ。
    どちらかが急激に高まりそうになったら、可哀想だけど、すぐに縄を緩めて引き戻すなどの手が有効だ。

    千佳は庭にいた。
    瀬戸が襖を開ける前に外に出たのだった。
    書斎の窓の白いカーテンの端が10センチほどめくれて、そこから中が見えた。
    千佳は中腰で近づいて中を覗く。その目が大きく見開かれた。
    そこにはリョウとレイカが空中に浮かんでいた。抱き合うように縛られて鴨居から逆さ吊りになっていた。
    リョウさんっ、レイカさんもっ。
    昨夜のショーでレイカに縛られたリョウを思いした。
    やっぱりこれもイリュージョン?
    ううん、違う!! 絶対に違う。
    二人は本当に縛られていて何をする自由もないのだ。
    そのとき椅子に座った祖父が振り返った。
    いつもと変わらない優しい表情の祖父が、まるで美術品を鑑賞するような目でリョウとレイカを見上げている。
    おじいちゃん、何をしてるの?
    二人を助けてあげないの?
    ねぇ、もしかして、リョウさんとレイカさんをそんな風に縛って飾ってるの?
    いったい、どうして?!

    胸が苦しくなって、息が止まりそうになった。
    おじいちゃん。おじいちゃんは女の人を縛ったり吊るしたりするのが、好きなの?
    いつもそんな風にして、お仕事してるの?
    リョウさん、レイカさんっ。きっと痛いよね。辛いよね。
    そんな姿を見られて惨めやね?
    それやのに、二人とも、いったいどうしてそんなに色っぽい顔をしてるの!?
    どうしてそんなに切なそうな声を出してるの?
    ・・もしかして、気持ちいいの?
    いったい、どうして?!

    あぁ。
    あたし、あたし・・。
    千佳はジャージの上から両足の間を押さえた。そこは我慢できないくらいに熱くなっていた。
    右手を差し入れて、その上から左手で押さえた。
    自分の中に中指と人差し指が侵入した。
    小さな蕾に触れると、いつもの自慰よりはるかに大きな衝撃が全身を貫いた。
    あああっっ!!
    ふらふらと地面に膝をついた。
    はぁ、はぁ。
    目の前には、逆さ吊りで喘ぎ続けるリョウとレイカの姿が見える。
    なんで縛られるの?
    何も悪いことしてないのに、なんでそんな目にあうの?
    あ、・・あぁんっ。
    女やから?
    リョウさんとレイカさんは、女やから、縛られるの?
    あぁ、あたし、あたし・・。
    暗がりの中。
    そこで千佳は膝をついて自慰を続けた。
    今まで経験したことのない、刺激的な時間だった。

    続き




    キョートサプライズ セカンド・第5話(3/3) 教授の孫娘

    9.高まる想い
    それから、千佳の生活は落ち着きがなくなった。
    家でも、学校でも、縛られたリョウとレイカの姿がちらついて、何も手につかなかった。
    柔道場で稽古をしている間だけは、それを少し忘れることができた。
    それでも家に帰って部屋で一人になった瞬間から再び胸がうずうずするのだった。
    夜、見る夢はいつも緊縛された女性だった。
    緊縛された女性は、ときにイリュージョンの狭い箱に入ったトップレスのダンサーになり、へそ出しシャツで縛られたアシスタントになった。
    そして気がつくと千佳自身が縄で縛られているのだった。
    千佳は制服のままで緊縛され白布で猿轡をされ、そして籠に詰められた。
    籠の蓋が閉まる瞬間、見上げるとそこにはあの男性が自分を見ていた。
    ばたんと蓋が閉まって真っ暗な中に閉ざされる。自分はこれからどこか遠くへ売られて行くのだろうか。

    朝、目覚めるととてもエッチな気分になっている自分を意識した。
    何でもいいから固い物を両足の間に押しつけたかった。
    「でやぁっ」
    自分に活を入れてベッドから起きる。
    ジャージに着替えて腰に帯を巻くと、裸足のままで外に出て、庭の杭に巻いたゴムチューブを引いた。
    中学1年生のとき父親にこの杭を打ち込んでもらってから、千佳は毎日チューブを引いて一人打ち込みをしてきた。
    できるだけ何も考えないようにして打ち込みを半時間ほど続けた。
    はぁ、はぁ。
    シャワーで汗を流して制服に着替えた。
    よしっ、もう大丈夫。
    もうすぐ母さんが朝ごはんを呼びにくるだろう。
    千佳は姿見鏡の前に立つと、小首をかしげ、両手を背中で組んで笑って見せた。
    と、鏡に写る自分が、制服で緊縛された少女に見えた。
    どきん!
    千佳は、縛られているつもりで両手を背中の高い位置で組み直し、そのまま全身の筋肉に力を込めた。
    あぁ・・!!
    ぞくぞくする、このキモチ。
    しばらくそのまま過ごして、床に座り込んだ。
    あかんよぉ。こんなことしてたら。

    その夜、千佳は祖父に電話をかけて、キョートサプライズの人に会えないかと頼んだ。

    10.面会
    待ち合わせの駅前には二人の女性がやってきた。
    一人は小柄で、笑顔を絶やさない明るい感じの女性だった。
    もう一人は眼鏡をかけていて、無口な感じの人だった。
    「桃園千佳さん? キョートサプライズの黒川典子です」
    小柄な方の女性が頭を下げた。典子はKSのマネージャーだという。
    「柳井教授のお孫さんなんですって? 本当、お爺様にちょっと似てるかしら」
    「おじいちゃんのこと、よく知ってはるんですか?」
    「そうね。昔から、・・もう10年以上昔から知ってるかな」
    典子はそう言って笑った。何か秘密がありそうな笑い方だった。
    「そうそう、この間のショーではいろいろ驚かせたみたいで、ごめんなさいね」
    「いえ、いいんです。・・その、ダンサーの人が胸を出したのは、びっくりしましたけど」
    「あははは」
    典子が急に大声で笑ったので、千佳はちょっと驚く。
    「あれはね、ウチの島があなたのために仕組んだのよ。わざわざプロのダンサーに来てもらって」
    「そうやったんですか」
    「洋子さんたら、おっぱい作戦なんて呼んでたわ。ほんとにイタズラ好きの社長でしょうがないんだから」
    そうか、あのポールダンスのお姉さんはキョートサプライズの人やないんか。なら・・。
    「あの・・」
    「はい?」
    「なら、リョウさんとレイカさんも外の人やったんですか?」
    「ううん。リョウちゃんとレイカちゃんはKSのメンバーよ。私達の仲間」
    そうか、よかった。
    千佳の顔を見る典子の目が光った。
    「千佳ちゃん、どうしてそんなことを聞くの?」
    「あ、その・・」
    千佳は慌てて考えながら答える。
    祖父の書斎で逆さ吊りに縛られたリョウとレイカの姿が浮かぶ。
    「・・リョウさんとレイカさん、綺麗で優しいし、大好きになったから、また会ってお話ししたいなって、」
    「まぁ、嬉しいっ。私も千佳ちゃんのこと大好きよ!」
    今まで黙っていた眼鏡の女性がそう言って千佳に抱きついてきた。
    「きゃっ、・・あ、あの、あなたは?」
    「あれ、もしかして分かってなかった?」
    女性は眼鏡を外して笑った。
    「私、リョウです」
    え、えええ~!!?

    喫茶店に入り、小さなテーブルを挟んで座った。
    「さて、千佳ちゃんが私達に相談したいことって、何かな?」
    「あ、それは・・」
    面と向かって聞かれると、さすがに話しにくい。
    自分の顔が赤くなるのが分かった。
    「千佳ちゃんのお父様やお母様には相談しにくいことね。多分、お爺様にも」
    「・・本当のことを話します」
    千佳は正直に話し始めた。
    あのイリュージョンショーの次の夜、祖父の家で見たことを。窓の外から覗いて知ったことを。
    笑っていた典子の顔がこわばった。
    リョウの顔が千佳に負けないくらいに赤くなった。
    「そうか」
    短い沈黙のあと、典子が答えた。
    「実はね、私達、千佳ちゃんがKSに入ってイリュージョンをしたいって相談なのかと思ってたの」
    「ああ、それもあるんですけど」
    「・・わかった。こちらも本当のことを白状するわ」
    「ちょ、典子さん、いいんですか?」リョウが心配そうに典子に言ったが、典子は説明を続けた。
    「私達、千佳ちゃんが見たようなサービスもやってるの」
    あぁ、やっぱり。
    「Club-LB っていう、女の子を提供する会員制のクラブなの」
    「て、ていきょう、するんですか」
    「うん。身体を傷つけること、性的な行為はNGだれど、それ以外は何をされても拒まないわ。・・あ、性的な行為って、分かるかな」
    「・・えっち、することですね」
    「そう。セックスとか、挿入を伴うような行為ね」
    ああ、すごい言葉が次々と出てくる。
    耳をふさいで逃げ出したいけど、これはあたしがお願いして聞いたことやから。
    「あの、教えてもらっていいですか」
    「なぁに? 何でも答えるわ」
    「そのクラブには、女の人がたくさんいるんですか」
    「そうね、10人以上いるかな」
    「みなさん、自分から望んで、そういうことをしてはるんですか。・・その、縛られたりすることとか」
    「ええ。事情は人それぞれだけど、皆そうよ」
    「リョウさんも、ですか?」
    リョウも頷いた。
    「そんなことされたら、苦しいですよね? 辛いですよね? それに、すごく恥ずかしいですよねっ? ・・あ、あたし、分からないんです。どうして、あんなことをするのか。あたし、あたし・・」
    話しながら両の目が潤むのがわかった。みるみる涙が溢れ、頬を流れる。
    「あんな目にあってるのに、・・リョウさんもレイカさんも、どうして、綺麗なんですか? 色っぽいんですか?」
    「千佳ちゃん」
    「あたし、あのときリョウさん見て、もう自分でも分からない気持ちになって、それから毎日夢に出てきて、もう、あたし・・」
    典子が席を移動して千佳の隣に座った。
    口をへの字に結び、涙をぼろぼろ流し続ける千佳の耳元に口を寄せて、小さな声で言った。
    「千佳ちゃん、本当に素直でいい子。・・あなたも縛られたくなっちゃったんだ」
    「ひ、ひっく・・、ああ~ぁんっ」
    千佳は典子に抱かれて泣き出した。
    店内の他の客が驚いてこちらを見ていた。

    リョウがにやにやしながら言った。
    「典子さん、そんなことして、もう引き返せませんよ?」
    「分かってるわよ。でも放っておかれへんでしょぉっ。こんないい子をっ」
    典子は千佳の背中をなでながら、ほっぺたを膨らませて言った。

    11.典子の自宅
    次の日曜日。
    「おじゃまします」
    典子の自宅のマンションにやってきた千佳を、典子とリョウ、レイカ、瀬戸宗弘と黒川章、そして洋子が迎えた。
    章は典子の夫で、瀬戸と同じくKSの緊縛士である。
    「いらっしゃいっ。きゃあ、千佳ちゃん! ますます可愛くなったんじゃない?」
    洋子が小踊りしながら言った。
    「洋子さん! 元々こうなったんは誰の悪乗りのせいですか。ちょっとは反省して下さいっ」
    典子が洋子に文句を言う。
    「大体、なんで洋子さんがここにいるんですか。これは私のプライベートでしてることですからね!」
    「わかってるわよぉ。だから謝るわ。・・千佳ちゃん、ごめんなさいっ」
    「あ、いいんです、そんな」千佳は、突然床に土下座した洋子に困って言う。
    「はいはい。分かりましたから、そっちで目立たんようにしといて下さい」
    典子は上司の洋子をキッチンの隅に追い立ててしまった。
    「あぁんっ、典ちゃん冷たくしないでよぉ」

    リビングのソファに千佳と典子が並んで座った。
    その前の床にリョウとレイカが正座し、さらにその後ろに章が立った。
    「本当は事務所の方が設備も揃ってるんやけどね、他のEAもいるし、中学生の千佳ちゃんをお招きする訳にはいかへんのよ」
    典子が言った。
    「だから、ちょっと狭いけれど、ここで我慢してね」
    「はい。あたしの方こそ、いろいろ気を遣ってもらってすみません」
    「偉いわぁっ。大人なのねぇ!」
    キッチンから洋子が叫んだ。
    「はいそこっ、黙ってぇ」
    典子は顔をしかめて洋子に向かって手を振る。まるでハエでも追い払うような振り方だった。
    リョウとレイカがくすくす笑う。
    千佳も笑った。
    KSの人ってみんな仲いいなぁ。

    12.リョウとレイカ緊縛
    「じゃあ、体験緊縛の前にリョウちゃんとレイカちゃんの緊縛をやりましょう」
    きゃぁ。千佳が喜んだ。
    「縛るのはうちの旦那。・・章、お願い」典子の隣にいた章が立ち上がる。
    章はリョウとレイカを連れて壁際に行った。
    リョウとレイカは赤いノースリーブのワンピースを着ていた。
    短いスカートの下は、ストッキングもソックスも履かない素足である。
    それは、以前にリョウが籠詰めで届けられたときの衣装だった。

    章がまずレイカを縛る。
    背中で手首を捻り上げ、拝むように合わさせた。
    そして手首と腕、胸の上下を縛って、上半身全体を固めた。
    同じ緊縛をリョウにも施す。
    千佳は章の仕事がとても早いのに驚いた。
    イリュージョンショーのときにレイカがリョウを縛ったのと同じくらいの時間で、二人とも縛ってしまったように思えた。
    章はさらに、リョウとレイカを向かい合わせに立たせると、向き合った左右の太もも同士をそれぞれ縛り合わせた。
    「踵を上げて、爪先で立って」
    二人の踵が揃って床から離れた。
    「もっと高くっ」
    ふくらはぎの筋肉に力が入り、踵がさらに上がった。
    と、章は二人の向かい合った足首同士をまとめてきつく縛ってしまった。
    互いの足の甲が密着した状態で固定されたので、もはや踵を床に下すことは不可能である。
    二人が縛られたリビングの壁際には、金属のリングが下がっていた。
    新しい縄を出してレイカの手首に繋ぎ、それを壁のリングに通して強く引きながら、反対側をリョウの手首に繋いだ。
    爪先がいっそうぴんと伸び、リョウとレイカは不安定な姿勢でかろうじて耐えている。
    「可哀想なことするのねぇ」典子が言った。
    「ダメかい?」
    「ううん。これでいい」
    典子はリョウとレイカに近づき、手を伸ばして二人の括っていた髪を解いた。
    顔の前に前髪が落ちた。
    「あっ」リョウかレイカのどちらかが声を出した。
    上体がゆらゆらと揺れた。
    壁のリングから伸びる縄がしなり、二人の身体は爪先までぴんと伸びたまま斜めに傾いた。
    「くぅ・・っ」再びリョウかレイカのどちらかが呻いた。

    うわぁっ。
    千佳は心の中で叫んだ。
    「どうかな? 千佳ちゃん」典子が聞いた。
    「綺麗ですっ。ちょっと残酷で素敵。・・あ、お二人、すごく辛いのに、残酷なのがいいなんて、すみませんっ」
    リョウとレイカが縛られたまま少し笑ったみたいだった。
    他の大人達も微笑んでいる。
    あれ? あたし何か変なこと。

    レイカ・リョウ連縛

    「ウチはお客様のためなら、何だって体当たりでするのよ」キッチンから洋子が言った。
    「柳井先生がよくおっしゃるの。KSの女の子が頑張ってくれるのが嬉しい、だから自分の仕事が進むんだって」
    ええ? おじいちゃんが、そんなこと?
    典子も言った。
    「私達はね、望んで縛られてるけど、それは自分のためだけやないの。私達のこんな姿を喜んでくれる人がいて、誰かの力になれるのが幸せなの」
    幸せなの?!
    「あそこにいるウチの偉い人は女性の役務(やくむ)やなんて唱えてたけど、・・まぁ難しい話は置いといてもね、縛られて、苦しんで、それでも綺麗って、女だけの特権でしょ?」
    ああ、どうしてKSの人達は、あたしをこんなキモチにするんだろう。
    あたし。まだ中学生やけど。まだ男の子とつき合うたこともないけれど。
    「なら、あたしも・・」
    千佳はゆっくり言った。
    「あたしも、その特権、使っていいですよね。綺麗に縛って下さいって、言っていいですよね?」
    「ええ、もちろん」
    「ああっ、お願いしますっ。私を緊縛して下さい!」
    本当に、純真で素直な子やなぁ。典子は千佳を見て思った。
    心から満足するまで縛ってあげたい。
    でも、こんないい子の人生を私がここで決めることはできない。
    「千佳ちゃん、もう分かってると思うけれど、あなたが緊縛を体験するのはこの1回だけよ。想いを満たしたら、柔道とか学校のこととか、中学生としてすべきことに集中しなさい」
    「はい」
    「千佳ちゃんが高校生になって、KSに入ってくれたら、そのときはEAのお仕事として緊縛もあるわ」
    「・・もし、Club-LB のお仕事もしたいってお願いしたら?」
    「それはね、千佳ちゃんがいろいろなことを経験して、素敵な大人の女性になってからのお話」
    「分かりました。あたし、大人になるやなんて想像もできないけど、とりあえず女の子は綺麗に縛られる特権があるって分かったから、それを忘れないようにして頑張ります」
    「よろしい!」
    典子は腕組みをして大げさに頷いた。
    千佳もにやっと笑った。

    13.千佳緊縛
    千佳が中学校の制服に着替えた。
    紺のブレザー、膝丈のスカート、白い短ソックス。
    「可愛い~」洋子と典子が喜んで拍手をした。
    緊縛を解かれたリョウとレイカもソファに座って手を叩いている。

    千佳は瀬戸の前に立つと、両手を前に揃えてぺこりと頭を下げた。
    「あのときは、はしたないことをしてごめんなさい! ・・今日はどうぞよろしくお願いします」
    「いえ、こちらこそ、よろしくお願いします」
    瀬戸も頭を下げる。
    千佳は自分を縛る相手として瀬戸を希望したのだった。
    毎晩見る夢の中で女性が縛られるとき、そこにいるのは瀬戸だった。千佳自信が縄を受けるときも、その相手は瀬戸だった。
    千佳にとって瀬戸はあらゆる女性を縛る存在として定着していたのである。
    制服で縛られることを選んだのも他に可愛いスカートの服を持っていないのが表向きの理由だったが、それだけでなく制服で緊縛されることが千佳の強いイメージになっていたためだった。

    瀬戸は千佳を背もたれのない丸椅子に座らせた。
    中学生を縛るのは瀬戸にとっても初めてのことだった。
    目の前の少女は、初々しい恥じらいを感じさせながら、緊張した顔で目を閉じている。
    これが問答無用で自分を投げ飛ばした柔道少女なのか。
    こんな子を縛っても構わないのか。
    助けを求めるように先輩緊縛士の章を見る。
    章は笑っていて、その目は「お前の思うようにやっていい」と言っていた。
    瀬戸は覚悟を決めて縄束を持つ。

    「両手を後ろで組んで下さい」
    「はい」
    素直に背中に回された手首に縄を巻きつける。
    その手が背中から離れて浮かび上がった。
    千佳が縛り易いように、気を遣って自分で手首を浮かせたのである。
    「いいですよ。あなたは何もしなくて」
    「はい、でも」
    千佳は手首を浮かせたままだった。
    誰かに教わった筈はないのに。
    感心しながら縄を掛けてゆく。

    全然痛くない!
    千佳は縛られながら驚いていた。
    もしかして、わざと緩めに縛ってくれてるの?
    その手首がぐいと高い位置に引き上げられた。
    はぁっ。
    ぐんと拘束感が増したが、痛みはなかった。
    いったいどうなっているんだろう。
    見下ろすと、自分の胸の上下を縄が締め付けていた。
    両手を動かそうと力を入れてみるが、腕も手首も数ミリすら動かすことはでいなかった。
    そうか。
    あたし、もう無力なんか。
    あたし、もうこの人の思いのままなんか。
    またたく間に千佳の心は被虐に満ちた。

    瀬戸は千佳の前に回って膝をついた。
    「足も縛りますか?」
    千佳は黙って首を縦に振った。
    顔全体が首筋まで赤くなっていた。
    足首を合わせて縛った。膝の下も合わせて縛った。
    スカートをたくし上げて太ももまで縛ろうとして、千佳の肩が細かく震えているのに気がついた。
    千佳は両目をぎゅっと閉じて、歯を食いしばっていた。
    瀬戸はそれ以上の縄掛けを止めてスカートを元に戻した。
    「できました」
    「は、・・はい」
    声をかけると、消え入りそうな小さな声で返事が返ってきた。
    よく耐えてるけど、もう、いっぱいだな。
    そろそろ突き落としてあげないと可哀想か。
    瀬戸は立ち上がって回りを見回す。
    章だけでなく、洋子も典子も、リョウもレイカも、優しく微笑みながら見ていた。
    よし。
    瀬戸は千佳の耳元でささやいた。
    「頑張らなくていいんですよ」
    「え、えぇ?」
    「あなたの望んだ通り、すっかり縛られてもう助かりません」
    「は、はい・・」
    「今の気持ちをしっかり味わって、素直に表現すればいいんです」
    「あ、・・あぁ、」
    ぎゅっと閉じた目にみるみる涙が溢れた。
    「あぁっ、あぁああんっ」
    千佳は大きな声で泣き出した。

    14.余韻
    縄を解かれた後、すぐに立ち上がった。
    「ありがとうございましたぁ!」
    瀬戸に向かって柔道の礼のように頭を下げると、ハンカチを出して目の下を拭った。
    大丈夫っ。あたしちゃんと立てる。
    頑張れ! 千佳っ。
    自分を励ましながらスカートの裾をぱんぱんと叩いていると、突然誰かに抱きしめられた。
    顔を上げるとそこに典子がいた。
    「千佳ちゃん、綺麗やった。うっとりするくらい綺麗やったよ!!」
    典子さん、あかんよぉ。せっかく我慢してるのに。
    「あっ、ぐ・・、ひっく」
    今、あたしの涙腺、ぐだぐだなんやからっ。
    「ああああ~ん!!」
    千佳は典子の胸に顔をうずめて、もう一度大声で泣いた。

    15.千佳の宣言
    千佳が祖父の家に夕食のおかずを届けにきた。
    「いつも悪いねぇ」
    「いいよ。それより母さんがたまにはこっちに来てご飯食べて下さいって」
    「はいはい、また寄せてもらうよ」
    返事をしながら、柳井は千佳がにこにこ笑っているのに気がついた。
    そういえば、今日は千佳の格好が違う。
    いつもは学校の制服かジャージなのに、今日は柄のTシャツとショートパンツだった。
    シャツの裾を括っていて、さすがにおへそまでは出していないもののショートパンツとの間に細く肌色が見えていた。
    孫娘ののびやかな肢体に目を細める。
    「千佳、その服は、もしかして」
    「えへへ、分かった? これ、KSの島さんにもらったの。あのときの衣装」
    「ほぉっ、ほぉっ。そうかそうか」
    KSの人に会いたいと電話してきたときは何か悩んでいたようだったが、島さんと話してけろりと治ったか。
    身体は大きくなっても、中身はまだ子供・・。
    「今日は、おじいちゃんに報告があります」
    「はいはい、何かな?」
    「あたし、高校に上がったらKSに入れることになりましたっ。父さんと母さんの了解ももらったから」
    何?
    「それは、千佳が自分で決めたことなのかい」
    「うんっ。・・反対なの? KSを教えてくれたのは、おじいちゃんやのに」
    「千佳が望むことには反対しないさ。・・ただ、あそこのショーは、ちょっと、」
    柳井は言いよどむ。
    「ちょっと、何?」
    「その、千佳も見た通り、ちょっと過激なところがあるから」
    「ビキニになること? それとも緊縛されること?」
    「ぶおっ、ふおっ、・・ごほんっ、むほん!!」
    あけすけに言われてむせてしまった。千佳が背中をさすってくれる。
    「大丈夫、おじいちゃん。少しくらい過激でも、絶対に無茶はせえへんから。柔道も続けるし」
    「そ、そうか」
    「・・ねぇ、おじいちゃん。おじいちゃんは、いつまでお仕事続けるの?」
    「そうだね。研究は道楽みたいなもんだし、できるうちは続けるつもりだよ」
    「それやったら、7~8年先でもお仕事してるよね」
    「先のことは分からんが、どうして7~8年なんだい?」
    「父さんと母さんには言わないでくれる」
    「分かった。内緒だ」
    「それくらい経ったら、あたし大人になってると思うから」
    「ん? 千佳が二十歳になるのは、えっと、6年先だろう?」
    「ううん。歳のことやなくて、いろいろなことを経験をしてあたしが大人の女性になること」
    「意味深だねぇ。・・大人になったら、どうするんだい?」
    「おじいちゃんが書斎でお仕事するとき、あたしも力になってあげたいなって」
    「何?」
    「無理に振り返ってくれなくても一生懸命頑張るから。・・典子さんもリョウさんもそうやってお手伝いしたって」
    「え? ・・まさか、ち、千佳!」
    「あたしね、おじいちゃんには、いつまでも元気でいて欲しいの。・・なら、お休みなさい!」
    千佳はそう言って玄関から飛び出していった。
    「いったい何のことだいっ。千佳っ、おおい、千佳~!!」
    柳井教授がうろたえる声を残して、千佳の姿はあっという間に見えなくなってしまった。



    ~登場人物紹介~
    桃園千佳: 14才。中学3年生で柔道初段。柳井教授の近所に済む孫娘。本話主人公。
    柳井淳: 64才。定年退官した大学名誉教授。妻を早くに亡くし、悠々自適の一人住まい。Club-LB 会員。
    リョウ: 22才。EA/FB。本名は加山涼。
    レイカ: 21才。EA/FB。本名は張麗華。
    黒川典子: 29才。KSマネージャー。
    黒川章: 30才。KS/Club-LB の緊縛士。典子の夫。
    瀬戸宗弘:21才。KS/Club-LB の若手緊縛士。
    島洋子: KS代表。
    ポールダンサーのお姉さん達: 洋子がイリュージョンショーに呼んだプロのヌードダンサー。

    約2ヶ月の休載、申し訳ありませんでした。
    キョートサプライズセカンドの第5話をアップします。

    今回の主人公は、中学3年生にしてKSの裏クラブを知ってしまう少女です。
    彼女のおじいちゃんは、第1部・第6話第1部・第7話 に登場した大学教授です。今は退官して、趣味で研究を続けているようです。
    第7話にはFBになったばかりの19才の典子が教授の書斎で縛られるシーンがあります。作者の好きなシーンなので未読の方がおられたら是非お読み下さい。
    美しく緊縛した女性を書斎に飾って執務するのは、私の理想とする生活の一つです。
    そのような女性を前にして指一本触れずに平然としていられるかどうか自信はありませんけれど^^。

    イリュージョンのネタはKSだってアダルト向けをするよ、ということでポールダンスを取り込みました。
    とはいえ、内部のメンバーでは適材がいないので、洋子さんが外からプロのダンサーを呼んだことにしました。
    今回は名無しのダンサーさん達でしたが、ちょっと気に入ったので、もしかしたらどこかで再登場してもらうかもしれません。

    さて拙サイトの今後についてですが、仕事の超多忙時期は何とか越せたものの、創作活動についてはまだ本調子ではありません。
    次作の掲載にまた時間がかかるかもしれないこと、お許し下さい。
    FCブログは1ヶ月間更新がないと広告が表示されるので、それまでには次作を上げたいと思っています。

    ありがとうございました。




    キョートサプライズ セカンド・第4話(1/3) ハッピーバレンタイン

    1.KS事務所受付
    「おはよおございまーっす!」
    凪元有咲(なぎもとありさ)と丸尾瞳が駆け込んできた。
    学校が終わってそのまま来たらしく、通っている高校の制服のままである。
    二人ともKSの高校生EAで、SN(ステージネーム)はそれぞれリサ、ヒトミと名乗っていた。
    「おはようございますっ。バレンタインデーにお仕事ご苦労様~」
    事務の市川綾乃が迎えた。
    「綾乃さん、それ皮肉ですかぁ? ウチらデートする相手もおらへんのかって」
    「そんなつもりやないよ。ほら、あたしだって仕事中だから」
    「ふんだ! あはは」
    有咲と瞳はスネるふりをして、すぐに笑い返す。
    「外、寒いでしょー?」
    「はい。駅前の温度計、摂氏1度ぉー」「明日は積もるかもって」
    「あんた達、その格好で平気なの?」
    綾乃は有咲と瞳を見て目を丸くする。
    二人とも制服のブレザーの下にベストは着ているが、あとは手袋と耳当てをつけただけである。
    膝上20センチのスカートから短ソックスの生足がにょっきり生えていた。
    「せめてタイツくらい穿いたら?」
    「えー? そんなん可愛くないですよぉ」
    「冷え性になるよ?」
    「ウチら、若いですもん」「ねぇ~」
    若いと言われて、綾乃は思い出す。
    ・・あたしも、昔はいつも足出してたな。
    今はパートタイムで事務の仕事をしているが、綾乃もかつてはEA/FBだった。EAになったのは彼女達と同じ高校2年のときで、雪の降る屋外にビキニの水着で出たことだってあるのだ。
    あの頃は、寒いなんて思ったこともなかったっけ。
    「綾乃さんこそ、いつもパンツスタイルでしょ」「たまには綾乃さんの足も見たいよねっ」「ねぇーっ」
    有咲と瞳に言われて苦笑いする。
    二人は、もちろん綾乃の過去など知らない。

    「おはようございます。寒いですねぇっ」
    臼井(うすい)由梨絵がやって来た。
    彼女のSNはユリで、本業は声優志願の専門学校生である。
    「おはようございますっ。由梨絵さんも出勤ですか?」瞳が聞いた。
    「うん。あなた達の後だと思うけど」
    「そっかぁ。頑張りましょおねっ」有咲が言った。
    「そうね。・・洋子さんと典子さんは? 綾乃さん」
    「ちょっと出かけてるの。洋子さんはもうすぐ戻ってくると思うけど」
    綾乃は由梨絵の足元を見ながら返事した。
    由梨絵はデニムのミニスカートにブーツだった。ストッキングを履かない膝小僧が見えている。
    ありゃあ、ユリちゃんも向こうの仲間だったのね。
    『向こう』とはもちろん有咲と瞳のことである。
    いつの間にか自分より八つも年下の女子高生に対抗心を抱いていることに気がついて、綾乃は心の中でもう一度苦笑した。

    「あんた達、もう着替えなさい」綾乃が時計を見て有咲と瞳に言った。
    「あ、はい。今日は誰が荷造りしてくれるんですか?」
    「黒川さんと瀬戸君」
    「ええっ、瀬戸さん? ・・うふふ」「えへへ」
    有咲と瞳は顔を見合わせて笑う。
    「どうしたの?」
    「いえ、何でもありませんっ」「そやけどね」「うん」「きゃははっ」
    いったい何がおかしいんだか。綾乃は不思議に思う。
    自分も、昔はこんなだったかな。いつも訳もなく笑ってて。
    「もう黒川さん達、倉庫でトウコちゃんの梱包にかかってるからね」
    「弥生さんですか?」
    「うん。あんた達と混載で出るから、遅れたらトウコちゃんが可哀想よ」
    「きゃ、急がないとっ」
    「はい、行ってらっしゃいっ」
    有咲と瞳はばたばたと走って行き、綾乃と由梨絵が手を振って見送った。

    2.トウコの梱包
    1階の倉庫。
    瀬戸宗弘(むねひろ)が大きな空き缶を製缶機のテーブルにセットした。
    直径80センチ、高さ40センチほどのスチール缶である。
    瀬戸はEAの梱包緊縛の見習い中の大学生だった。
    指導者の黒川章がチェックする。
    「うん。いいだろう」
    「じゃぁ、トウコさん、入って下さい」瀬戸が振り返って呼びかけた。
    「はい」
    青いハイレグのレオタードとハイヒールの少女が缶の中に入る。
    横向きに丸くなって収まった。
    彼女は本名を千代田弥生といい、EAになって3年目の高校3年生である。
    章は弥生の身体が缶の中にきちんと収まっていることを確認する。
    手の届く位置に小型のLEDライト、非常用の酸素ボンベ。
    そして弥生の首にセンサーを貼り付けた。
    このセンサーは彼女の体温や心拍などをKSの監視サーバーに通知するためのものである。
    ・・こういうの、もう無くても大丈夫だけど。
    弥生は心に思うが口には出さない。
    以前、章に言って「規則だから」と認めてもらえなかったのだ。

    人間缶詰やくす玉などのアトラクションでは、EAの少女は小さなパッケージに梱包されて配達される。
    この時間を耐えてお客様の前に元気に登場するために、EAは自分をコントロールしなければならない。
    興奮、せつささ、恐怖。
    未熟なEAは胸の中に膨らむものに我慢できない。やがて息が詰るような閉空間にパニックを起こして意識を失う。
    センサーによるモニタリングは、EAのそうした状態を監視し、万一の異常時には管理者に通報するために必要だ。
    弥生もそれはよくわかっている。
    ・・でも、あたしは大丈夫。
    今まで失神したことなんて一度もない。
    どんなに厳しい状態で何時間詰められたって、最後まで平静でいられる自信があった。

    長時間の梱包を耐え抜くにはコツがある。
    それは自分を突き放すことである。
    マゾ的な興奮に喘ぐ自分も、身動きひとつできないもどかしさに苦しむ自分も、すべて別の違う女の子と考えて観察することだ。
    突き放すことで、精神が解放される。
    肉体の感覚に囚われずに、自分を客観的にコントロールできるようになる。
    これは、上司の典子さんに教わったコツだった。
    女の子を生きたまま小さな荷物にするコツだ。
    うまくコントロールできたら、お客様の前には、最高に元気で華やかで、そしてセクシーな女の子を登場させることができる。

    「・・OK。ええっと、配達時間は1時間くらい。頑張って」
    「はいっ」弥生は明るく返事した。
    「気をつけてね」洋子が言った。
    あれ? 洋子さんいつの間に。
    KS代表の島洋子が外出から帰ってきて倉庫に顔を出したのだった。
    「トウコちゃん、自分を過信したらダメよ」
    「はい。頑張ります」弥生はとりあえず返事をした。
    洋子さんに向かって、自分は大丈夫だから心配しなくていい、なんて言える訳ないしね。

    章の指導を受けながら、瀬戸が製缶機を操作した。
    上蓋になる円形のプレートを缶詰に乗せ、押さえ板を降ろして巻き締めハンドルを回す。
    缶全体がゆっくり回転し、プレートのエッジが缶の上端と合わさってバイトで折り込まれる。
    ぐるりと1回転した後、さらに回し、強く締め込んだ。
    合わせ目が完全にシールされれば、人間缶詰の完成である。
    章と瀬戸は缶詰を製缶機から降ろし、ラベルと封印のテープを貼った。
    上蓋には一般の食品缶などと同じプルトップがついているので、それを引き上げれば中のEAを簡単に取り出してやることができる。
    ただし、時間をかけて缶切で開缶する方を好む客もいるので、そうした客向けにプルトップのない缶詰も用意されていた。

    3.リサとヒトミの梱包
    有咲と瞳が倉庫にやってきた。
    アメリカのNFLのような、チアリーダーのコスチュームを着ている。
    「瀬戸さん、こんばんわ!」「どうですか? この衣装?」
    二人に挨拶されて、瀬戸は「あ、どうも」とだけ返事をした。
    「ねぇ、色っぽく見えます?」「ほらほら、へそ出し♥」
    有咲と瞳は、笑いながらポーズをとって身体を見せつける。
    「可愛いですよ。二人とも」
    「もっと褒めてほしいな~」「あっ、この缶詰、もしかして弥生さん!?」
    台車に載せられた缶詰に走り寄って、しゃがみ込んだ。
    「こんなに小さいんやぁ」「素敵っ!」
    「弥生さん、彼氏、いたよね」「バレンタインデーに仕事なんかしててええんかなぁ」
    うるさい、ほっとけー。
    缶の中から弥生の声が聞こえ、有咲と瞳は床に膝をついて笑う。
    「おーい、君ら。そろそろこっち来てくれる」
    「はぁーい」
    章に言われて二人はようやく瀬戸の前に並んで立ったのだった。

    ふう。
    瀬戸はタオルで額を拭いながら、ため息をつく。
    この高2コンビは苦手だった。
    どうも自分はこの子達に舐められているような気がする。
    まだ見習いだから偉そうにはできないけれど、これでも緊縛士志望なのだ。
    KSに来て、最初に縛ったのが有咲と瞳だった。
    高校生を緊縛していいのかと驚いたけれど、たとえ高校生でもEAが縛られるのはKSでは当たり前のことだった。
    EAはショーやイベントで、小さな箱に詰められたり、手錠などの拘束を受ける。
    お客様参加のゲームの中で、本当に縄で緊縛されることだって珍しくはない。
    明るく元気に苛められて場を盛り上げるのはEAの大切な役目だ。
    吊らそうな表情や態度、あるいは過剰な性的興奮を見せてお客様を不快にさせてはならない。
    だからEAは定期的に緊縛などの訓練を受けて、自分の肉体と精神の限界を管理されている。
    瀬戸は自分の緊縛の練習を兼ねて、有咲と瞳を縛らされたのだった。

    「やんっ、くすぐった~い!」「むずむずするぅ~」
    初めて瀬戸に縛られた二人は身をよじらせて笑いこけた。その上、自分で縄を解いて抜けてしまった。
    焦ってもう一度縛り直したが、今度は縄が緩いと二人からダメ出しされた。
    ・・それから瀬戸は有咲と瞳を縛らせてもらえない。
    他のEA/FBを緊縛して、自分では上達したはずだと思う。
    でもまだ、この高2コンビを緊縛することができないでいた。

    章がこの日の予定を説明した。
    「えっと、リサちゃんとヒトミちゃんはプレゼントボックス。・・瀬戸君、そこの手錠を掛けてあげて」
    そう言ってテーブルの上の大きな銀色の手錠を示した。
    「あ、あの、黒川さん」
    「何?」
    「その、縄で縛っていいですか?」
    「どうして?」
    「自分、もうこの子らを縛れます」
    「駄目」
    「駄目ですか」
    「お客様が解くのに苦労する」
    「・・」
    「気持ちは分かるけど、君の練習は別にやってくれるかな」
    「・・はい」
    瀬戸はテーブルの手錠を取って、有咲の前に立った。
    「残念でした。気ぃ悪くしないで」
    有咲がそう言って両手を前に出した。
    瀬戸は黙って手錠を掛ける。
    「次はあたし達のこと、ぎちぎちに縛って下さいね♥」
    そう言って瞳が差し出した手首にも手錠をかけた。

    有咲(リサ)と瞳(ヒトミ)

    有咲と瞳がそれぞれサイコロ形の箱に入った。
    膝をそろえて座り込み、身を縮めて頭を膝の間にうずめた。
    「大丈夫?」
    「もちろんっ。まかせて下さい!」
    瀬戸が聞くと二人は明るく笑ってウインクをした。
    章が二人に生体センサーを取り付け、その後瀬戸が羽毛をいっぱいに注ぎこんだ。
    有咲と瞳の姿が羽毛の中に埋もれて消えた。
    上から蓋をして鍵を掛ける。
    お客様が蓋を開けると、羽毛が舞い上がって中からチアリーダーが立ち上がる仕掛けである。
    「これを」
    瀬戸が二人の手錠の鍵と、箱の蓋の鍵を章に渡した。
    「あ、はいはい」
    章は四つの鍵を無造作にズボンのポケットに入れる。
    あぁ、黒川さん、大事な鍵をそんなところに。
    瀬戸は少し心配になる。もし鍵を無くしたら、有咲ちゃんと瞳ちゃんはどうなるのか。

    それから瀬戸と章は、缶詰と二つのプレゼントボックスを倉庫から運び出して、駐車場のトラックに載せた。

    4.ユリとレイカの梱包
    KS2階のワークルームに洋子、FBの張麗華と由梨絵、そして緊縛士の長谷川が集まった。
    麗華と由梨絵は二人で緊縛配達されるのである。
    由梨絵にとってはFBになって最初のお客様の元での被虐だった。
    「ユリちゃん、初めての出張ね。おめでとう!」洋子が言った。
    「ありがとうございます、洋子さん」
    「それって、おめでたいことなんですか? 拷問されに行くのに」
    麗華が突っ込んだ。麗華は由梨絵と同い年だがFBとしてはずっと先輩である。
    「もちろんよ。ユリちゃんが選んだ道だもん、きっと幸せな未来が待ってるわっ」
    「あぁ、期待に沿えるよう、アタシ、ガンバリマス!」
    「ユリちゃんっ」「ヨーコサン!」
    洋子と由梨絵は互いに手を握って見つめ合う。
    由梨絵はいつの間にか、アニメ風の作り声になっていた。
    「悪いけど、そろそろいいかな」長谷川がぼそっと言った。

    長谷川がメイド服を着た麗華と由梨絵を麻縄で縛る。
    両手を背中に捻り上げて、手首と上腕を固定する。
    胸の上下に縄を巻き、盛り上がったバストの周囲をさらに縄で強調する。
    胴から爪先まで縄が生き物のように絡みついて、あらゆる方向に締め上げる。
    いったい何本の縄が使われているのか分からなくなった。
    「はあっ」「あぁ!」
    股間に通した縄を強く引き絞られ、とうとう二人の口から喘ぎ声がこぼれた。

    長谷川の緊縛は厳しいが、辛いとは思わなかった。辛いどころか、快感だった。
    麗華も由梨絵もよく理解している。
    FBである自分達はこのまま荷物になって配達される。
    それはFBがこんな姿で送り届けられることを、お客様に楽しんでもらうためだ。
    自分達が楽しむためではないのだ。
    だから輸送の間、この快感に負けてはならない。
    お客様が荷物を開けるときまで耐え抜いて、一番美しい姿を見せなければならない。

    洋子は二人の表情にその覚悟を読み取って満足する。
    ユリちゃん、あなたなら大丈夫。レイカちゃんに負けない、立派なFBになれるわ。
    でも、いい?
    FBの真価は、その後、お客様の目の前で責めを受けるときだからね。
    満足していただけるよう、綺麗に苦しんできてね。

    二人の緊縛が完成すると、長谷川は輸送のためのジュラルミンケースを開いた。
    麗華と由梨絵は、ひとつのケースの中にまとめて梱包される。
    先に出荷されたトウコと変わらない、極小の空間に彼女達は封印されるのだ。

    続き




    キョートサプライズ セカンド・第4話(2/3) ハッピーバレンタイン

    5.麻里子の梱包
    同じ頃、KS事務所からそれほど離れていないビジネスホテルの会議室。
    KSマネージャーの黒川典子が客を呼んだ。
    「瀬川さま、瀬川麻里子さま。どうぞ~っ」
    隣室で待機していた女性がやってきた。
    白いガウンを羽織って、緊張した表情で立ち尽くしている。
    典子は伝票を見る。『瀬川麻里子、24才、会社員』
    「・・瀬川さまは、リボン緊縛ですね」
    「はい」
    「どうぞ、こちらへ」
    典子が麻里子のガウンを脱がせた。
    ブラとショーツだけの白い身体が現れる。
    「お綺麗ですよ」
    「あ・・、あの」
    「?」
    麻里子が不安気に聞いた。
    「私、本当にちゃんとプレゼントになれるでしょうか?」
    「大丈夫。うまくいきますよ」
    「でも・・」
    「少しだけ怖くなっちゃいましたか?」
    典子は優しく微笑む。
    「麻里子さん、って呼ばせて下さいね。こちらへどうぞ」
    会議室の隅に置かれたダンボール箱のそばに麻里子を連れていった。
    それは小型の冷蔵庫でも入っていそうな大きさで、大きなリボンがかかっていた。
    そのリボンを解き、上面の蓋を開けた。
    「どうぞ、ご覧になって下さい」
    「!」
    中を覗き込んだ麻里子が小さく驚いた。
    そこには裸の女性が縄で手足を縛られて、さらに赤いリボンをあしらわれて入っていたのである。
    それはKSのEA/FBの寺原詩織で、SNをカレンと名乗っていた。
    「こんばんはっ。カレンといいます!」
    詩織は縛られたまま箱の中から麻里子を見上げて挨拶した。
    「今夜は13人のお客様をプレゼントにしてお届けしますけれど、その間、この子はずっとこうして縛られてるんですよ」
    「ど、どうして・・?」
    「それはね、もし麻里子さんみたいに止めちゃいそうな人がいたら、替わりにお届けするため」
    「え」
    「うふふ、ウソです」
    典子も詩織も、それ以上は笑うだけで何も言わなかった。
    「・・もしかして、私を安心させるためですか?」
    麻里子は箱の中の詩織をじっと見る。
    彼女は一糸まとわないで縛られているようだった。
    でも赤いリボンが乳首や腰の周りを上手く覆っていて、少しも下品に見えなかった。
    とてもセクシーで可愛いらしいと思った。
    ・・私もこんな風になれるかな。
    「あの、すみませんでした。もう、大丈夫です。私をプレゼントにして下さい」
    典子に言った。

    『キョートサプライズ・バレンタインプレゼント』は、ラッピングした女性を男性にお届けするバレンタインデー限定のサービスだった。
    お届けされるのはKSのEAではなく、一般応募の女性である。
    典子のアイディアで3年前にこのサービスを初めて以来、毎年の応募者は順調に増えていた。
    このサービスで苦労するのは、女性を梱包する場所と配送を担当する係員である。
    場所については、昨年までは事務所の応接室を使っていたが、人数が増え過ぎると入りきれないし、廊下に溢れた女性が他のEAやFBと鉢合わせする懸念もあった。
    そこで今年は、ついに事務所を出てホテルの会議室を借りることにしたのだった。

    6.ホテルの駐車場
    ホテルの駐車場に駐めた幌付・リフター付の軽トラに荷物が積み込まれている。
    宅配便の制服を着た女性が二人がかりでダンボール箱を運んできた。
    荷台に載せて毛布をかけ、動かないようしっかりゴムロープで固定した。
    このダンボールは底に合板を敷いただけの廉価構造だが、女性一人を収納して運べる程度の強度は十分にあった。
    箱の中には、下着姿の麻里子が手足をリボンで縛られて入っている。
    これから彼女は恋人の元へ送り届けられるのである。

    「気をつけてね」
    見送りに出てきた典子が声をかけた。
    「まかせなさいっ」運転席の鈴木純生(すみお)が力こぶを作るまねをして笑った。
    純生はEAの配達や管理をしているが、自身もFB/EAのジュンコとして活躍しているベテランである。
    「あたしゃ、一緒に行くだけやからね」助手席に座った辻井美香が言う。
    「もう、まだこんなこと言ってる。構わないから、こき使ってね、じゅんちゃん」
    「は~い!」
    「あのね、だからあたしは力仕事はねー」
    まだ何か文句を言う美香を乗せて軽トラは出発していった。

    美香ちゃん、変わらないな。典子は思った。
    美香はKSの元FBで、今はフリーのコスプレモデルをしている。
    ネットのコスプレ系サイトを検索すれば、人気レイヤーきりはらかすみのセクシーなコスプレ写真を見ることができた。

    『バレンタインプレゼント』の売りは、梱包から配達まですべて女性が行うことだった。
    男性に見られることなくラッピングしてもらって、さらに女性の配達員が気配りしながら送り届けてくれる。
    これが "自分がプレゼントになる" という行為に惹かれながらも、実行することまでは二の足を踏んでいたM女性達の背中を押して、応募者が増えている理由だった。
    しかし、KSにとってバレンタインの夜は、本業のEA/FBの派遣でも多忙である。
    女性係員の手が開いているはずもない。
    そこで典子が考えたのは、OBの応援を頼むことだった。
    『バレンタインプレゼント』の配達は、美香のようなKSのOBが手伝ってくれているのだった。

    純生の軽トラが出ていった少し後、今度は4トントラックが入って来た。
    荷台には『三瀬運送』とロゴが描かれている。
    運転台から男女が降りてきた。二人とも運送会社のジャンパーを羽織っている。
    「元気してる~っ? 典ちゃん」
    「大っきなトラックねぇ。町屋の路地とか入れるの?」
    出迎えた典子が聞いた。
    「大丈夫、運転はカズマに任せて。それよか恵は?」
    「いるよー」
    典子と一緒にいた三井恵が手を振った。
    「きゃあ~っ、久しぶり~ぃ」
    トラックから降りてきた岡崎真奈美と恵が両手を握りあって跳ねた。
    「真奈美、まだ岡崎のままなの?」
    「2年ぶりに会っていきなりソレ?」
    「だって八木さん、ずっと待ってくれてるんでしょ? 」
    真奈美の後ろで八木一馬がくしゃみをした。
    典子と恵、続いて真奈美も大笑いした。

    真奈美も恵もOBだった。
    真奈美は、恋人で運送会社の副社長になっている八木一馬の仕事を手伝っている。
    何にでも黙っていられない性格だから、会社の中ではどうやら、陰の副社長、将来の社長夫人などと恐れられているらしい。
    恵は、飲食店のコック兼KS緊縛士でもある三井裕隆と結婚して、専業主婦をしている。
    真奈美は典子から応援を頼まれると、八木に言って会社のトラックを無料で出させたのである。
    トラックの運転は男性の八木が担当するが、お客様と接することはない。
    それ以外のプレゼントの荷下ろしや配達は、すべて真奈美と恵が引き受けたのである。

    7.森下千奈美の梱包
    「よろしくお願いします!」
    よく日焼けした小柄な女性が頭を下げた。
    『森下千奈美、20才、学生』
    千奈美は自分で持ってきたスーツケースでの配達を希望していた。
    下着まで全部脱いで裸になり、胸から腰にかけてアルミホイルを巻く。
    褐色の肌に銀色のアルミが映えた。
    「うふふ。チョコレートに見えます?」
    「そうですね、可愛いですよ。・・でも」典子が心配そうな顔をする。
    「ダメですか?」
    「それでスーツケースに入ったら、破れるかも」
    「え?」
    千奈美はその場で床に横たわり、身体を丸くして小さくなった。
    びりびり。
    背中からお尻にかけてアルミホイルが全部裂けて落ちた。
    「もうっ。彼に破いてもらうつもりなのにぃ~」
    「え・・っと、そうですね。何とかしましょう」
    典子は巻き方を考える。アルミホイルのロールはまだ十分に残っていた。
    「まっすぐ立って、両手を上げてもらえます?」
    左の脇の下にアルミホイルを合わせて軽くセロハンテープで止めた。
    胸の前を覆って、反対側の脇の下でもう一度仮止め。
    それから2回折り込んで、背中に巻いて、また折り込んで・・。
    バストを覆うと、今度は腰の周りにも同じように巻いてミニスカートにした。
    「どうです? お腹が出るの、恥ずかしいですか?」
    「いいえ、平気です」
    「スカートの丈はどうですか? 短すぎません?」
    「これでいいです。彼もあたしも超ミニ大好きですから」
    千奈美は身体をあれこれ動かしてアルミホイルの具合を確認する。
    「すごいっ。動けます!」
    「あ」
    「どうしました?」
    典子はアルミホイルのスカートを指差す。
    「これで身体を丸くしたらスカートの中が見えちゃいますね」
    千奈美は下着をつけていない。
    彼がスーツケースの蓋を開けたときに全部見えてしまうだろう。
    「あ、そうかも」
    「やっぱりもう少し追加して巻きましょう」
    千奈美は少し考えてから言った。
    「・・このままでいいです」
    「いいんですか?」
    「あたし、覚悟して彼のところに行くんです。・・全部あげるつもりだから」
    この人は、まだ彼にあげていなかったのか。典子は意外に思った。
    ずいぶん遊んでいるように見えたのに。

    ダンボール箱と比べてはるかに狭いスーツケースの中に、千奈美が入って丸くなった。
    「大丈夫、ホイル破れてません」
    「よかった!」
    予想した通り、お尻の穴から薄目のアンダーヘアまで、わざわざ覗き込まなくても丸見えになっていた。
    典子はできるだけそちらを直視しないようにして作業を続ける。
    身体がスーツケースの内壁に当たる部分にハンドタオルをあてがい、さらに隙間に小さなスポンジのボールを押し込んだ。
    これで配達の間くらいは痛くないはずだ。
    それから、アルミホイルの残りを50センチほど切り取り、千奈美のお尻の下に当てた。
    これで直接見えることはないだろう。
    「やっぱり刺激が強いです。初めて彼にあげるなら、もう少しだけ、貞淑に」
    あー、貞淑なんて、若い子に通じるかしら。
    「あ、ありがとうございます。・・本当は、ちょっとだけ、恥ずかしかったから」
    そうか!

    全裸になってアルミホイルを身体に巻いたときの元気はどこへ行ったのか、スーツケースに入った千奈美はすっかり黙り込んでいた。
    よく見ると身体が少し震えている。
    「準備OKです。・・お届け先まで20分くらい。彼とうまく結ばれるように祈ってます!」
    「は、はい!」
    「じゃ、蓋閉めますよ。鍵もちゃんと一緒に届けますからね」

    典子はスーツケースの蓋を閉めた。
    最後の瞬間、千奈美の目が潤んでいるのが分かった。
    身体ひとつで贈り物になると決めた覚悟は、生易しいものではなかったのだ。
    この子、スーツケースの中で泣くだろう。
    一度泣いて、それから彼氏が蓋を開けるときには、きっと素敵に色っぽくなっているだろう。

    8.ホテルの駐車場・その2
    「これだけ?」
    4トントラックの荷台にちょこんと積まれたスーツケースを見て八木が聞いた。
    「これだけよ。さあ、プレゼントが壊れないうちに早くお届けしてね!」
    「分かりました」
    八木は運転席にひらりと飛び乗った。
    真奈美と恵も運転台に乗って窓から手を振っている。
    ふぁん。
    短くクラクションを鳴らしてトラックが出て行った。

    ふう。
    残された典子は両手を腰に当てて一息つく。
    これでやっと2人。あとまだ11人かぁ!
    さあ、じゅんちゃんが戻る前に、次の荷物、作るか。
    そのとき、ポケットの中で聞き慣れないアラーム音が鳴った。
    携帯電話を取り出して画面を見る典子の表情が曇った。

    9.伏見・某マンション前
    碁盤目に並ぶ狭い路地。
    かつて酒蔵工場があった場所に立つマンションの前に、純生と美香の軽トラが止まった。
    荷台からダンボール箱を下ろして台車に乗せる。
    「はい、もうすぐですからね!」
    声をかけながら台車を押してマンションに入って行く。
    人が見たらなぜ荷物に話しかけるのか不思議に思うだろう。

    「バレンタインプレゼントのお届けで~す」
    届け先の玄関で出てきた若い男性に荷物を引き渡す。
    「あ、重いですよ。お運びしましょうか?」
    純生がダンボール箱を持ち、美香が反対側から補助した。
    そのまま靴を脱いで上がり込み、ダイニングの奥のリビングにどしりと置いた。
    「はぁいっ。では失礼しまっす! ・・あ、この中身、生モノなんで、早めに開けて下さいね」
    そう言って怪訝な顔の男性を部屋に残したまま外に出た。
    「・・あんたいつも一人であんなの運んでるの?」
    「まあね。要は慣れよ」
    軽トラの運転席に戻る。
    「でもやっぱり力持ちの純生じゃないとできない仕事だね~」
    「何入ってるの。美香かてバイト代出るなら何でもする言うて来たんでしょぉ?」
    「そんな、お金じゃないんだよぉ? 愛するKSのために手伝いに来たんやから」
    「はいはい」

    純生の携帯電話が鳴った。
    「はい、こちらジュンコ。今、瀬川様、配達したとこです。・・え? 分かりました」
    電話を切ると、すぐにトラックをスタートさせた。
    「どうしたの?」美香が聞く。
    「EAの子に問題発生」
    「ま」
    「救援に行くから付き合って」

    続き




    プロフィール

    82475

    Author:82475
    女性の拘束に関わる小説/SSと
    落書きを書いてます。

    更新案内と目次


    自己紹介
    メール送信/コメント投稿について

    カテゴリ
    最新記事
    最新コメント
    ブログ内記事検索
    (コメントの検索はできないみたいです)
    リンク

    ◎pixiv

    pixiv 82475のpixivページ
    R-18/R-18G 閲覧設定していないと見れません。

    ◎検索サイト

    駄文同盟.com
    駄文同盟.com


    ◎このブログへのリンクについて

    リンク、ブックマークは
     http://82475.blog15.fc2.com/
    へお願いします。
    「いつか感じたキモチ」 バナー
    メールフォーム

    名前:
    メールアドレス:
    タイトル:
    本文:

    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。