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    キョートサプライズ第13話(1/2)・典子の卒業記念誘拐

    1.シーン#13
    真っ暗な画面の中に高感度カメラで撮影した粒子の荒い映像が浮かび上がった。
    囚われの少女。
    拘束服を着せられた上から、さらにベルトで柱に固定されている。
    頭部も固定されていて、首を振ることもできない。
    モノトーンに近い画面の中で、顔面と脚部の肌色の部分だけがわずかに目立っていた。
    ときおり首や腰を動かしてもがこうとするが、自分に逃れる術がないことを思い知らされるだけのようだった。
    「ん・・、くっ・・」
    小さな声が漏れる。
    荒い映像の中で表情ははっきりわからない。
    真っ暗な部屋の中で彼女は一人放置されていた。
    無人のカメラが少女の姿を撮り続けている。
    自分がいつまでこの状態で置かれるのか、彼女自身は知らなかった。
    ただ、これで終わりでないことは分かっている。
    それを望んだのは彼女自身であり、こうなるようシナリオを書いたのも彼女だったから。

    2.その朝
    野村典子はワンルームマンションの部屋を出て、ドアを閉めた。
    数日間留守になるはずだった。
    衣装はうす茶色のセーターとデニムの超ミニ。その上に紺のパーカーを羽織っている。
    足元は白いソックスにスニーカー。
    普段はジーンズだからミニスカート姿を同じマンションの人に見られたら恥ずかしいと思ったが、幸い誰にも出会わずに済んだ。
    道路に出て颯爽と歩き出す。
    生足はKSで慣れているとはいえ、3月初旬の寒風が素足を撫でると身が引き締まる。
    それがいつあるのか、分からない。
    シナリオでは『人通りの絶えたその瞬間、クロロフォルムの匂いを感じた』となっている。
    あんまりにぎやかな場所ではやりにくいよね。
    駅に出て切符を買う。
    各駅停車に乗り、いくつ目かの駅で降りる。
    降りたのは彼女一人だった。
    改札を出て振り返る。誰もいない。
    大丈夫かな。
    しばらく立ち止まって、考え直す。
    私が気ぃ使うことやないよね。
    大きく深呼吸。さ、行こっ。
    人通りのない住宅地の中へ歩き出す。
    狭い碁盤目の道路。彼女は適当に右へ左へと進む。
    たまに行きかう人影を見るとどきりとした。
    四つ角で塀の影に隠れて前後を見る。
    ああ、やっぱり私すごい不自然。あかんなぁ。
    ・・1時間以上も歩き続けて疲れてしまった。
    私、何やってんのかなぁ。
    駅まで戻ってくると、線路の反対側にマクドナルドが見えた。
    あそこで落ち着こう。
    腕時計を見て決めた。ちょっと早いけどお昼にしよ。
    暖かい店内は空いていた。適当にセットを頼んで窓際に座った。
    ふぅ。コーヒー美味しい~。
    ゆっくり時間をかけて食事をする。
    携帯電話を開いてメールを確認する。1件も入ってない。
    あいつ、頑張れの一言くらい送ってくれてもいいのに。
    しばらくして席を立ちトイレを済ませる。
    いずれ苦しむはずだけど、少しでも先の方がいい。
    自動ドアを出るとき、つい左右を見回す。
    やはり誰もいない。
    ふう。私まだ緊張してるなぁ。
    自分の胸をぽんぽんと叩いて苦笑いした。
    河原町にでも出ようと思った。
    人通りなんて気を使ったげるのやめよ。私の責任やないもん。
    ふんふんっと。
    改札を抜けて、ちょっとリズムにのりながら階段を上がる。
    昼下がりの、各駅停車しか止まらない私鉄の小駅のホームは無人だった。
    次の電車は?
    振り返って時刻表を見上げると、そこに背の高いサングラスの男性がいた。
    抱きつかれた、と思った瞬間、口と鼻をガーゼのようなもので覆われる。
    抵抗する暇もなかった。
    かすかに匂うクロロフォルム。
    こんなとこで?!
    考えがまとまる間もなく、意識が遠のいた。

    3.シーン#07
    京都市内の私鉄の終点駅。
    到着した電車から大きなスーツケースを持った男が降りる。
    いかにも重そうなスーツケースを転がして男は改札口を出て行く。

    4.覚醒
    気がつくと暗闇だった。
    全身を締め付けられる感覚。
    やられた。
    あいつ、鮮やかやったなぁ。ちょっとは抵抗してみせるつもりやったのに。
    頭が少し重い。う~、クロロが残ってる。
    無理に動くのは禁物。しばらくじっとして頭が冴えるのを待つ。
    ふう・・、ふう・・。
    深呼吸。
    は~、もう大丈夫かな。
    それにしても本当に何も見えない。シナリオの通り。
    身体を揺すって、拘束状態を確認する。
    何かな、これは。
    左右に柔らかい壁のようなものがあって、そこに頭がはめ込まれているようだった。
    拘束服の上からベルトで固定。足も動かせない。
    もしかしてこれ、救急医療用のストレッチャー?
    それを垂直に立てて、柱に固定されてるのか。
    靴下はまだ履いてるな。
    肩を左右に動かしてみる。
    さすがに章、びくともせえへんね。
    分かってはいたが、とても脱出できるものではないと思った。
    ・・ならば、もう私に自由はない。
    今のところ口は封じられていないので、助けを求めることはできる。
    でも今回『会話』は一切禁止だ。
    仮に私が何か叫んでも、すべて無視されるだろう。
    今、猿轡を施されていないのは、・・強いていえば私の喘ぎ声を楽しむためだ。
    私が切なくなっていく様子をじっくり見るためためだ。
    そう、私は観察されている。
    真っ暗な中で、カメラが私を捉えているはず。
    カメラの向こう側では、大勢の人が私の堕ちていく姿を見ている。
    「はぁ、・・」
    小さな声がこぼれる。
    身体の中心でじわりと被虐感を味わう。
    太ももを強くこすり合わせるように力を入れた。
    今は、ゆっくり、静かに、みじめな世界に浸って行こう。

    囚われの典子

    5.典子の卒業
    「典ちゃんっ、引退するんだって?」
    Club-LB のFBである岡崎真奈美が事務所に駆け込んできた。
    「あの、引退はしませんけど」後輩FBの野村典子が困ったように答える。
    「次のKSを支えるのは典ちゃんしかいないと思ってたのにぃ」
    「彼女、短大を卒業するので、今までみたいには来れないだけよ」一緒に座って話していた Club-LB 代表の島洋子が説明した。
    「へえ、卒業? あれだけここに入り浸って、よく卒業できたねぇ」
    「まあ要領だけはいいものですから」
    「卒業したら花嫁修業でもするの?」
    「いえ、京都で勤めますから、時々ここに来てFBもやります」
    「そうか、そりゃよかったよ。で、勤めるって、どこか聞いてもいいかな?」
    「はい、一応、京ポラです」
    「ひえぇ、大企業じゃん!」
    「まあ、おかげさまで」
    「おかげさまでって。あんたどんなコネ使って入ったのよ」
    「コネって、普通に就職活動して面接受けて採用されただけですけど」
    「信じられないよ~」
    のけぞる真由美を横に洋子がにこにこして言った。
    「それにしてもさすがに我らが典子ちゃんよね。自分の身の上はちゃんと自分で世話できるんだから」
    「洋子さん。そりゃ万年ヘボ劇団員のあたしへのあてつけですか?」
    「おほほ。そんなことはないわよ。うちは女の子のプライベートには一切干渉しませんから」
    「くやしい~!!」大仰なポーズで悔しがる真奈美。
    「ところで真奈美ちゃん、典子ちゃんの卒業記念って訳じゃないけど、クラブで新しいことやろうって話してたの」
    洋子が真顔で言った。

    6.犯人の男性
    何時間放置されただろうか。
    突然光がさした。
    眩しさに思わず目をぎゅっとつぶる。
    すっかり闇の中に慣れてしまって、まぶたを閉じても目が痛い。
    無意識にこわばらせた身体に何かが触れた。・・男性の手!
    彼女は目を開けられない。
    その手は首筋を撫でている。
    「ひ」
    おぞましさと快感が入り混じる。
    この手は私を貶める男の手。この手からは決して逃れられない。
    私の体を縛めるベルトは、その象徴に過ぎない。
    彼女の頬を男の手が挟み、強い力で押し上げられた。
    「んん!」
    顔を背けようとしたが、頭部を固定されているので逃げようがない。
    「あぁっっ」
    ついに目を開けると、視野の隅にサングラスの男性の顔が見えた。
    ・・章っ。
    見知った男を間近に見た次の瞬間、鼻先に湿ったガーゼを押し当てられた。
    あぁっ、またクロロフォルム?!
    その瞬間、再び意識が遠のいて世界が暗転した。
    男性は気を失った彼女の首筋に指を触れて脈を確認する。
    数分間様子を伺い、ようやくストレッチャーの拘束を解いた。
    その場に崩れ落ちる彼女をそっと横抱きに持ち上げ部屋を出ていった。

    7.準備
    「クロロフォルムですか?」
    黒川章が面食らっている。
    「そうよ。使ったことある?」洋子が楽しそうに聞いた。
    「んなもの、ありませんよ」
    黒川は Club-LB の緊縛士件運転手だった。ここで働いていてクロロフォルムを使ったことなど、もちろんない。
    「よねえ。あれは知識と経験なしで使うと命に関わるわ」
    洋子はにっこり笑った。
    「・・だから、十分経験してね」
    「長谷川さんに教わるんですか?」
    「違うわ。彼だってクロロなんて使えないわよ。・・教えるのは私の元ダンナよ」
    「はぁ?」
    ・・
    蛸薬師のバー。
    カウンターに典子と黒川が並んで座っている。
    「・・それが小木さんっていう喫茶店のマスターなんだ」
    「あ、知ってる。その人、洋子さんの離婚した前のご主人」
    「うん。以前は麻酔医で、クラブにも関わりのある人なんだって」
    「そういえば、以前KSのパーティで挨拶してたな。私、真上で聞いたの思い出した」
    「まうえ?」
    「くす玉の中」
    「ああ、そうか」
    「で、どんな訓練?」
    「すごく実践的。ビンの扱い方から浸したハンカチの作り方。それに、押さえ方」
    「押さえ方?」
    「女性の口を、こう・・」
    黒川は典子の顔面に自分の右手を被せるようにする。
    「そのまま3秒数えて、女性の首の力が抜けていたら止める。抵抗されたらもう3秒・・」
    「まあ、それ、お医者さんのやることやないよ」
    「うん。もう完全に変質者」
    二人は笑いあった。
    「じゃあ、実験台になる女性もいるの?」
    「うん」
    「誰、それ」
    「それが洋子さん」
    「へ、洋子さん」
    「危険だから他の女の子は駄目、なんて言って」
    「元看護婦だから詳しいのかな」
    「多分。でも、あの人も楽しんでるな」
    「あはは。やろうね」
    「小木さんが教えてくれるときも、見本が必要だとか言って、本当にクロロで気絶するところまでやるんだぜ」
    「あきれた」
    「一度意識を失うと1時間はそのままなのに」
    「ねえ、目覚めるときって気分悪いの?」
    「うん。うまくやらないとね。吸わせ過ぎると後遺症が残ったり生命に関わる。・・本当はそんなヤバイのはしたくないんだけど」
    「ガンバレ!」
    「気安く言うなあ」
    「だって、章がマスターしてくれないと困るもん」
    「典子、何か知ってるのか?」
    「まだ内緒」
    「そうか、典子も絡んでるな」
    「えへへ」
    黒川は苦笑いしてグラスを空けた。
    「あのね、一つだけ教えてあげる」
    「ん?」
    「その企画でね、章がクロロフォルムで気絶させる女の子って、私なの」

    8.シーン#21
    アスファルトの地面。
    そこに拘束服の少女がうつ伏せに寝かされた。
    「た、助け・・。お・・お願い」弱々しい声がこぼれる。
    2回目はクロロフォルムの量が少なかったのか、彼女は意識を取り戻しているようだった。
    サングラスの男性は構わず少女の背中を足で靴のまま押さえつけて、縄束を取り出す。
    そのまま少女の足首を縛った。
    それから腰の下にかけて、10センチ間隔で丁寧に縄を巻いて縛った。
    少女の足がハムのようにくびれて締まる。
    続いてその身体をくるりと回して仰向けにすると、幅広のテープをジッと引き出して目の上から貼り付けた。
    「ん、あぁ・・」
    うめき声をあげた口に右手を突っ込む。
    「ひっ、やぁ~っ!」
    左右に首を振って避けようとするところを、左手で鼻をつまんで押さえ込んだ。
    少女はなおも抵抗するが、やがて肺の中の酸素が尽きる。
    「ふんわぁぁっ」
    新しい空気を求めて開いた口にタオルが押し込まれた。
    「んなぁあぁっ!!!」
    口の中いっぱいに押し込まれて、もはや吐き出すこともできない。
    動きが鈍くなった少女の前髪を掴んで顔を反らせた。
    「んん・・」
    口の上から細く絞った布を巻いて首の後ろで括る。
    その布の上からベルトで口を割るように巻き、更に大きな布で顔の下半分を覆った。
    少女は鼻孔でしか息ができなくなり、もがきながら苦しげに短い呼吸を激しく繰り返した。
    心拍数の跳ね上がった心臓がさらに酸素を求めて苦しむ。
    ずうは、ずうは・・。
    そのまま何十秒か、何分かが過ぎる。
    やがて彼女の全身から力が抜けて、おとなしくなった。
    男性はようやく少女から手を離す。
    慎重に拘束状態を確認した後、男性は少女の頭に全頭マスクを被せた。
    マスクの三角形の穴から出た彼女の鼻に2本のシリコンチューブを挿す。
    「ん~っっ」
    わずかに抵抗されるが、かまわず4~5センチ押し込み、上からテープを貼って固定した。
    透明なチューブには小さな箱がついており、更に箱の反対側には赤色と青色の長い2本のチューブが生えている。
    この箱の中には逆止弁が二つ設けられていて、青いチューブから赤いチューブに向かってだけ空気が流れるようになっている。
    これで少女は青い方から吸った息を、赤い方にはき出すことになる。
    チューブが長いのでそれなりに辛い呼吸になるが、吸気と排気が分離されるので常に酸素濃度の高い空気を吸うことができる。
    男性は赤い方の端を自分の頬にあてて空気の流れを確認して小さく頷いた。
    赤青2本のチューブを少女の身体の前に沿って下ろし、要所要所をテープで固定しながら爪先の部分まで通した。
    次に大きな灰色の麻袋を出して開き、少女の頭の方から被せて行く。
    身体全体が袋の中に入ると、袋の口の紐がちょうど土踏まずの位置にかかるように引き絞って縛った。
    身体の左右で袋が余っている部分を折り込んで、更にその上から縄で縛り上げる。
    首の位置から足首まで計7箇所に縄を巻いて、ようやく男性は手を休めた。
    袋の口からかろうじて見えるソックスの爪先はときどきぴくぴくと動き、この中に生きた人間が入っていることを示している。
    男性は自分の額を右腕でこすり、それから深呼吸した。
    麻袋を荷物のよう肩に担いで立ち上がると、カメラがそれに合わせてパンする。
    そこはどうやら地下駐車場のようだった。
    男性は後方に停まっている幌付き2トントラックまで進んで、肩の荷物を荷台に載せた。
    荷台に上がり、ゴムロープを手に荷物を動かないように拘束する。
    やがて荷台の幌が閉められ、トラックは走り去った。

    9.シナリオ
    「何よぉ、これはぁ」
    KS/Club-LB の企画演出担当の三浦みずほがフロッピーディスクを手に持っていた。
    フロッピーのラベルには細い字で『FB誘拐』と記されている。
    「次の企画よ」
    フロッピーを持ってきた洋子が前で笑っている。
    「誘拐なんていくらでもやってるじゃない」
    「うん、でもちょっと違うのよ」
    「何が違うの?」
    「シチュエーションじゃなくって、本当に誘拐して48時間監禁拘束。それをストリーミングで生中継」
    「まる2日も? そんだけの時間続けられる? スタッフも女の子も」
    「撮影スタッフは内部じゃ無理ね。それと男手がもう少し要るかな。ま、外で探すわ」
    「女の子は?」
    「本人の責任でやってもらいましょ」
    「本人って?」
    「実はこれ書いたのはナツキちゃんなのよ」
    「典子ちゃんが?」
    「そう。もちろん自分で演るつもりで。あの子なら何されても耐え抜くでしょうね」
    「洋子は読んだのよね、これ」
    「過激よ。・・でもただの妄想じゃないわ。ちゃんと考えてる、と思った」
    「なら、やるのね」
    「お願いがあるの」
    「ん?」
    「それ、シナリオの体裁だけど詳細には書いてないの。みずほの方で具体的に落として」
    「わかったわ。で、いつするの?」
    「そうね、3月のFってところかな」
    「卒業記念誘拐ね」
    「じゃ、頼むね」
    そう言って立ち去ろうとした洋子が振り返った。
    「・・忘れるところだったわ。あとひとつ」
    「何?」
    「犯人役は黒川君」
    「長谷川やないの?」
    「うん。被害者の強い希望。長谷川君よりも冷酷になれるからって」
    「なるほど、了解」

    10.シーン#24
    暗闇の中を走る2トントラック。
    幌の中に取り付けられたカメラが荷台を写していた。
    そこにはねずみ色の麻袋に包まれた荷物が積まれていて、多数のゴムロープで動かないように固定されている。
    真ん中でわずかに「く」の字に折れ曲がっていて、こちら側には靴下を履いた人間の爪先のようなものが見え隠れしている。
    ときおり画面が上下に激しく揺れる。
    それにあわせて荷物も荷台の上で跳ねているようだ。
    いくらゴムロープで押さえつけていても、トラックの振動が大きいので、ある程度はしかたないのだろう。
    トラックは行き交う車もまばらな深夜の田舎道を、速度を落とすことなく走り続けている。

    11.荷物の中
    拘束輸送されるのは慣れてるけど、ここまで徹底的なのは珍しいよ。
    何か袋に押し込まれてその上から縄が掛かっているのかな。
    鼻に空気管入れられたときはさすがに怖かったけど、どうやら今はこれが私の命をつないでいるみたい。
    息苦しさはそれほどじゃないな。S形くす玉の方がきついくらい。
    身体中固定されて動かせないのに、爪先だけはなぜか自由に動かせるみたいだ。
    ぴくぴく。ぴくぴく。
    硬い荷台に当たって上腕の部分が痛くなってきた。寝返りしたいけど、それは叶わぬ願いね。
    典子は少し前からある感覚に気付いていた。
    それは感覚、というより現実の現象だった。
    最後にトイレに行ったの、お昼前だったね。
    被虐の中に浸っている間は生理的欲求はある程度ごまかせる。
    ただ、それでいつまで耐えられるか自信はなかった。
    ・・それにしても。
    このトラック、どれだけ走ってるのよ?
    彼女の体感がもう2時間は走っていると教えるが、主観の時間ほどあてにならないものはない。
    この企画では女の子に時間を知る手段は与えられない。
    闇の中、目隠しの中、すべての情報を途絶されて過ごさねばならないのだ。
    ・・トラックの振動が大きくなった。
    山道に入ったのかな?
    ガタン! 少し浮き上がって下に叩きつけられた。
    痛ぁい! 10センチは浮いたんやないかなぁ。
    舌噛まないように気ぃ付けないと・・、あ、そうか、タオルで口の中いっぱいやから舌も噛みようがないね。
    再び自分が厳重な拘束を受けていることを意識した。
    あいつ、すごいリキ入ってる。
    まあ、私が書いたシナリオなんやけど。
    黒川がベルトを一本ずつ丁寧に締め上げた感覚を思い出す。
    彼は私を厳しく残酷に、そして優しく扱ってくれている。へへん。
    私は彼に誘拐された可哀相な女の子。
    私の運命は彼だけが握っている。
    ああ、なんかオナニーしたい。
    もし両手が腰の前にあったら、下着の上からでも、ううん、スカートの上からでもやっちゃいたい気分。
    私、ときどき自分でも信じられないくらいエッチだ。
    う~ん。
    よし、この際せっかくやから、もがくぞぉ。
    「ん~っ」
    その声が細長い呼吸管を通して外に聞こえるのかどうかはわからない。でも、精一杯うめき声を出す。
    両手は身体の前で交わった状態で固定されていて微動だにしない。
    なら、全身を芋虫みたいにぶるぶる動かして這ってみせる!
    「ん~っ!!」
    わずかに動くだけで、ものすごい抵抗を感じた。
    もう一回。
    「ん~っ、ん~っ!!」
    何よ、これ。この外でまだスポンジか何かで押さえつけてるの?
    少し動こうとしただけで、身体中から汗が噴き出しているようだ。
    暑い!
    案の定、無駄やったかなぁ?
    でも、この惨めさと空しさは、ちょっと好き。
    とりあえず、爪先を動かしてごまかそう。
    ぴくぴく。ぴくぴく。
    ・・
    ああ、もうだいぶ限界。
    普段の生活だったら、もうトイレに駆け込み。
    EAだったら、あと半時間でアウト。
    FBだったら、1時間ってとこかな。
    私、今FBやね。なら、あと1時間で私壊れる。
    ぴくぴく。ぴくぴく。
    あ、章ぁ~。まだぁ?

    続き




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    キョートサプライズ第13話(2/2)・典子の卒業記念誘拐

    12.シーン#27
    東の空が白み始めている。
    そこは、市街地に面した高台にある雑木林だった。
    狭いスペースにトラックがバックで進入して来て止まった。
    待ち構えていた人々が荷台の幌を開け。3人がかりで荷物を下ろして林の中に運び込んで行く。
    どうやらハンディカメラの映像らしく、揺れながらその後からついて行く様子が映し出される。
    2~30メートルほど入り込んだ場所には、ライトが設置されていて地面を照らしていた。
    そこには直径2メートル、深さ1メートルほどの穴が掘られている。
    3本の柱が穴をまたぐように櫓(やぐら)に組まれていて、その接合部に小さな滑車が取り付けられていた。
    運び込んだ荷物の中央にロープを掛けて、滑車で穴の底から約2メートルの高さに吊るす。
    縄でぐるぐる巻きに縛られたねずみ色の麻袋が、ライトの光の中でゆらゆらと揺れていた。
    袋の口の部分からわずかに少女の白いソックスの先が見えている。その爪先はびくびくと動いていた。
    穴の中に降り立ったサングラスの男性がソックスの部分を触って少し首をかしげ、それから麻袋を左腕に抱きかかえるように持つと少女の腹の部分を右手で強く揉みながら押さえた。
    やがてソックスの先から透明な液体が滴り始めて、しばらくの間、地面にこぼれ続けた。
    男性は流れる液体が完全に止まるまで少女の腹を揉み続け、それからタオルでソックスの部分を丁寧に拭った。
    合図をして滑車のロープを緩めて麻袋を下ろし、穴の底に横たえる。
    ソックスの脇から出たチューブに2本のホースを接続して延長した。
    男性は麻袋の脇に膝をついて屈んでその上から何かを伝えるように手を当て、そして穴の外に出た。
    ざっ、ざっ。
    周囲からシャベルで土がかけられる。
    麻袋は次第に土に埋もれて見えなくなった。
    さらに土を加えて穴を完全に埋めると、ローラーを引いて押し固めて平らにした。
    少女が埋没された場所には2本のホースが生えているだけになり、そこに赤い旗を立てた。
    機材を片付けて人々が撤収した後、残された赤い旗だけが昇り始めた太陽の光に照らされていた。

    13.生き埋めの典子/30分後
    足の間が尿で濡れて気持ち悪い。
    極限状態のところでお腹押すんやもんなぁ。
    まあ、これで楽になったけどね。典子は心の中で少し笑った。
    どうやら、自分は地面に埋められたようだ。もはや爪先も動かせなくなった。
    身体はむしろ快適だと思った。あらゆる方向から自分を押さえつける圧力の中にふわりと浮かんでいるような感覚は悪くない。
    シナリオには『絶望的に完全拘束されて生き埋め』と書いたっけ。
    確かに、もう理想的なまでに絶望的。
    このまま誰も助けてくれなかったら、私、確実に死ぬな。
    でも、でも。
    最後に章がささやいてくれた。「生き延びるんだぞ」って。
    『ガンバレ』やなくて『生き延びろ』。
    ああ、章って、どうしてこんなに私の心を揺さぶる言い方するんやろ。
    もう私、絶対に助かると信じて待つからね。
    いつになるか分からないけど、死なないで待ち続けるからね。

    14.会員サイト
    Club-LB の会員サイトではFBナツキの誘拐を休みなく中継していた。
    犯人の男性が彼女を街で尾行するシーン。
    クロロフォルムで眠らせてスーツケースに詰めて連れ去るシーン。
    アジトで監禁された彼女が喘ぐシーン。
    麻袋に完全拘束してトラックで輸送するシーン。
    地面に掘った穴に埋めるシーン。
    そして、今、画面には春風にそよぐ赤い旗が映し出されている。
    その映像はもう数時間にわたって変化がなかった。

    15.生き埋めの典子/3時間後
    眠っていたようだった。
    気がつくと、全身動かせず目も開かないので一瞬パニックになりかけたが、すぐに思い出した。
    私、生き埋めやった。
    いったい、何時間過ぎたんかな。
    典子は、この後、自分がどう扱われるのか知らない。
    二日経ったら助けてもらえる、と思うけど。
    ううん、それ以上かかっても構わないな。
    何も飲まず食わずで、どれくらい生きられるかな。
    いつかこのまま骸(むくろ)になって掘り出されたら即身仏みたいになってたりして。
    全身拘束された即身仏って、ちょっと素敵。
    ・・「生きのびるんだぞ」
    あ、章、ごめん。私、死んだらあかんのやった。

    16.会員サイト
    サイトの画面に「ナツキ誘拐をお楽しみの皆様へ」というメッセージが表示された。
     ~ ナツキ誘拐をお楽しみの皆様へ ~
    FBナツキは今この瞬間も京都のどこかで生きたまま埋められています。
    その場所を探し出して彼女を掘り出して下さい。
    4時間おきにヒントを掲載します。
    最初の発見者には、景品としてナツキ自身を無料でご進呈!

    ヒント1
    [ヒント1 寺の庫裏(くり)の写真。大きな切妻破風に白い壁]

    17.生き埋めの典子/6時間後
    今の私って何だろう。
    このまま時間が経ったら、いつか骨だけになって、その骨もやがて土に還るんやね。
    骨がなくなるまで何年かかるのかな。
    女の子を自然の土に還す方法。
    誰にも知られずに、世の中から消えて無くなる方法。
    土に変わった私って綺麗かな。
    ああ、やっぱり私、逝きたいと思ってるの?
    違う、その過程に憧れただけ。
    私、きっと掘り出されて開放される。章を信じてるから、生き延びる。
    ・・でも、でも。
    もう、自分で逃れることはできない。
    私の生死。それはもう私以外の人のもの。
    それを思うだけで、感じてしまう私って。
    子宮がじんじんして、体中が熱くなる私って。

    18.会員サイト
    Club-LB の会員サイトに2番目のヒントが掲載された。

    ヒント2
    [ヒント2 神社の写真。吊るされた提灯には星印の紋章]

    19.ある会員の会話
    「これはすぐに分かるで。晴明神社やな」
    「そやな。最初のは今出川の相国寺やったな」
    「相国寺と晴明神社か。何か共通点はないかいな」
    「仕事中に何やってるんや」
    「あ、院長。すんません。もう当直明けたんで勘弁して下さい」
    「お互いクラブの会員やから大目に見るが、病院のPCでアダルトはあかんぞ。・・それはナツキちゃんのイベントやな。昨日はわしも見てた」
    「ナツキはどこかで穴の中に埋められて、それで、その場所を見つけて下さいっていうヒントがこれですわ」
    「え、ほんまか。島さんも無茶しよるなぁ。それでナツキちゃんは今もまだ生き埋めか」
    「そうです」
    「そりゃ大変やな。なら頑張って見つけたらんとなぁ」
    「安倍晴明と相国寺で、何か思いつきませんか」
    「安倍晴明なぁ。わしはああいう幻術師みたいな男は好かん。だいたい信太(しのだ)の狐の子やぞ、こいつは」
    「実在の人物ですよ。そんな訳ないやないですか」
    「・・狐の子といえば、相国寺にも狐がおらへんかったか」
    「あ、そうか。宋旦狐(そうたんきつね)や」
    「狐がヒントの答えかな。なら生き埋めの場所は伏見稲荷か」
    「伏見稲荷だけが稲荷さんとちゃうで。だいたい京都に稲荷神社がいくつあると思うんや」
    「うーん、三っつ目のヒントが出えへんと無理か」
    「それはないな。分かる人にはわかるようにせんと、ヒントを分けて出す意味がない」
    「そやな。他に狐のつく場所はなかったかな。あないな木の多い、寂しそうな場所・・」
    「・・・」
    やがて3人は同時に言った。
    「狐坂(きつねざか)や」

    20.生き埋めの典子/9時間後
    私、まだ生きてる。
    呼吸してる、たぶん。
    地面の中で、息してるだけの、存在、だけど。
    ぼうっとして、考えるのが、しんどくなってきた。

    21.救出
    左京区松ヶ崎から宝ヶ池に抜ける道路は、雑木林の中でほぼ180度のヘアピンカーブを描いて山を登ってゆく。
    その坂道は狐坂と呼ばれ、急カーブを曲がりきれずに事故を起こす車が多いことから、幽霊が出るという噂もあった。
    しかし、よく晴れた午後の陽が明るい今は、不気味な雰囲気は微塵も感じられず、さわやかな春の風がそよいでいた。
    雑木林の中に最初の会員が現れたのは、Club-LB のサイトに2番目のヒントが掲載されてからわずか40分後だった。
    「ここや!」「あったぞ」
    やがて典子を生めた場所を示す赤い旗が見つかり、穴掘りが始まった。
    その間にも次々と人々が集まってきて、シャベルや土運びの手押し一輪車まで持ち込まれて、にぎやかになっていく。
    やがて土の中から縄でがんじがらめに縛られた麻袋が掘り出され、中から意識をなくした典子が現れた。
    そのとき、回りを取り囲んで拍手した人数は30人を超えていた。
    典子が誘拐されてから30時間後。生き埋めにされてから約10時間が過ぎていた。

    22.会員サイト
    FBナツキは、本日16時に会員の方々に救出されました。
    駆けつけて下さった皆様、ありがとうございました。
    最初にナツキを発見した会員様への景品に関しましては、同時到着の会員様多数のため、協議の結果、ナツキの合同緊縛鑑賞会を別途開催することとなりました。
    なお、3番目のヒントで予定していたのは、次の写真でした。

    ヒント3
    [ヒント3 五山送り火のひとつ、松ヶ崎山の『妙法』]

    23.合同緊縛鑑賞会
    山間に桜の花がちらほらと咲き出している。
    もう1週間も経てば満開になるだろう。
    洛北にある山荘のテラスで黒川が荷物を解いていた。それを人々が囲んで眺めている。
    ここは Club-LB 会員の一人が持つ別荘である。
    典子の救出に関わった会員のために、緊縛鑑賞会が開催されるところであった。
    テラスの床に横たえられた典子は目を閉じたまま動かない。
    「クロロフォルムで昏睡させてあります。・・どうぞ近づいてご覧下さい」
    彼女は誘拐されたときと同じ格好、うす茶色のセーターとデニムのミニスカート姿だった。
    黒川は縄束を出して、典子を意識のないまま高手小手に縛った。
    さっそく会員達がカメラを構える。
    典子は床に転がされたまま、何度かポーズを変えて縛り直された。
    「では、柱縛りにして立てます」
    倒した一本柱の上に典子を乗せ、両手を頭上にさし上げたポーズで縛り付けた。
    その柱を数人がかりでテラスに設けられた固定用の穴に差し込んで立てる。
    典子は首を垂れて磔状態になった。
    少しの間その姿を写真撮影してから、黒川が典子の首を起こして垂れないように額の部分に縄を固定した。
    「すみません、気道を確保しておかないと危険なので。・・もう少ししたら意識が戻ると思いますから、このまま放置します」
    黒川は腕時計を見ながら説明する。
    典子はそのまま20分ほど飾られ、その間に黒川は何度か典子の頬を叩いて状態を確認した。
    やがて「大丈夫です。そろそろ覚醒してもらいましょう」と言って、バケツに水を汲んできた。
    「黒川くん、もしかして水をかけるんか」別荘の持ち主である藤本という病院院長が聞いた。
    「はい、ナツキにはそれが似つかわしいと思いますから」
    そう言って黒川はバケツを構える。「みなさん、水がかかないよう離れて下さい」
    ばしゃ。
    典子の顔面を狙って水を掛けた。
    「ひ」
    ずぶ濡れになった典子が身を震わせた。
    「もう一回かけましょう。どなたかやってみたい方はおられますか?」
    数人が手を上げ、それぞれ水を入れたバケツを持って構えた。
    ばしゃ。
    一斉に水をかけられて、典子は苦しそうな表情でむせる。
    「け、けほ・・」
    黒川は近づいて様子を確認する。
    「念のため、あと一回かけます」
    再び水を汲んだ
    「黒川くん、もうそれくらいで・・」
    「大丈夫です」
    ばしゃ。
    「ああぁ~っ」
    典子が泣きそうな表情で叫んだ。
    ・・
    典子は柱から下ろされて、人々の前で濡れた服を脱がされ、裸にされて身体を拭かれた。
    「あ・・、ナツキでございます。・・本日は、どうぞ、よろしく、お願いします」
    バスタオルに包まった状態で、膝をついて人々に挨拶した。
    黒川が再び縄を手にし、典子はバスタオルだけを胸から下に巻いた姿で縛られ、逆海老の状態でテラスの軒から吊るされた。

    24.仲間の応援
    エンジンの音がして、人々が見下ろすとトラックが一台到着するところだった。
    トラックには『三瀬寺運送』とロゴが入っている。
    「毎度~っ。お荷物のお届けです」運転台から降りてきた男性が叫んだ。
    「八木さん?」
    黒川がその姿を見てつぶやいた。
    ・・
    荷物を運んできた運転手は運送会社のジャンパーを羽織っていて、胸の名札には『八木』と書かれていた。
    「えっと、島洋子様からのお荷物です。メッセージがありまして『つまらないものですが、皆様に感謝を込めてクラブからの差し入れです。お楽しみ下さい』とのことです」
    届いた荷物は大きなトランクが三つ。
    一つ目のトランクには、ジーンズとTシャツ姿の大柄な小嶋佳織が無理に身体を小さくして押し込まれたようにして入っていた。
    二つ目のトランクには、ミニスカートとブラウス姿の鈴木純生が両手で胸を押さえるようにして入っていた。
    三つ目のトランクには、ショートパンツを履いて水着のブラをつけただけの辻井美香が丸くなって入っていた。
    3人とも Club-LB のFBで、典子の仲間だった。
    ~ 典の記念やからね。ここは僕らが協力しないと。
    ~ 卒業おめでとうございます。私も緊縛モデルお手伝いします。
    ~ 典子、頑張ってるね。あたしもセクシーに縛られてあげるよっ。
    「カオリ、ジュンちゃんっ、カスミぃ~!」典子が縛られたまま空中から呼んだ。
    みんな、来てくれたんやっ。
    「ナツキちゃん、嬉しそうやな」
    「はいっ」
    そう言われて典子は笑顔で答え、すぐに神妙な顔になった。
    あかん。私、今、笑っていい身分やなかった。
    佳織・純生・美香の3人はそれぞれ高手小手に縛られて縄で繋がれ、会員の前に並んで立たされた。
    「この子らは島さんの好意か」
    喜ぶ会員達。
    「しかし、FBが4体もいて、黒川君ひとりで大丈夫か」
    「何とか頑張ります」黒川が答える。
    「あの、俺・・、いえ私が手伝います」横から八木が言った。
    「そうか、八木さん。真奈美さんと練習して・・。ならお願いします」黒川は合点がいったように答えた。
    佳織・純生・美香への加虐が始まった。
    佳織はあぐらを組んだ足首が顔面に触れるほどに屈曲させられて縛られ、床に転がされて苦しさに顔をゆがめている。
    純生はスカートを剥ぎ取られ、ブラウスの胸は巨乳を強調するように絞られ、両手を高く吊られて恥ずかしげに震えている。
    美香は大きく開脚した片足をほぼ垂直に高く吊られ、反対の足先だけが床にかろうじてついた状態で、不安定に揺れていた。
    そして典子はその間、ずっと逆海老に吊られたまま放置されていた。
    典子を中心に、FB4体の緊縛作品が配置される。
    「これは美しい」
    「さすがに豪華やなぁ」
    皆は関心してその情景に見入った。
    「どうですかな、これでまた水をかけては」
    「おお、それは是非」
    「黒川君、構わないかね」
    「はい、もちろん。・・この4体のFBは、皆様のものですから」
    ばしゃ。
    会員達がバケツの水を一斉に浴びせかけた。
    4人の髪の毛から水がぽたぽたと滴る。
    佳織が少しむせながら顔をあげると、ちょうど見下ろしていた典子と目があった。
    典子は少し微笑んでウインクをした。佳織も少し笑って答えた。
    「では、しばらくこのまま飾ることにして、乾杯といきましょう」
    「そういえば、黒川くん。ナツキちゃんには後で罰を与えなあかんで」藤本が言った。
    「この娘は仲間が縛られている間、ニコニコ笑って喜んどったからなぁ」
    「おやそうでしたか。・・ではこの後、駿河問いの拷問にかけましょう」黒川が神妙に答える。
    「あぁ、申し訳ございません! どんな責めでも受けますから、今は、・・今だけは許して下さい」
    典子はそう答えて、そして我慢できないように再び笑みを浮かべた。
    みんなが、自分のために来てくれて、一緒に縛られてる!
    なんて素敵なんだろう。
    洋子さんも、みんなも、ついでに章のことも、大好きです。
    私、これからも、KSにいるんやろうな。ずっと、ずっと・・。

    25.クラブ『DON』・・最後のオールキャスト!
    「お待たせしました~。主賓の登場で~す」
    皆が拍手する中、長谷川とみずほが並んで現れた。
    長谷川はKSの指導者であり緊縛師でもある。
    二人はこの日結婚式をあげ、これからKS関係者が集まって披露宴の二次会が始まろうとしていた。
    フロアの天井には銀色の球体が二個吊られている。おなじみの人間くす玉である。
    「二人のために用意した特製のくす玉よ。さ、割ってちょうだい」洋子が長谷川とみずほをくす玉の下に立たせた。
    「はい、3、2、1。オープン!」
    二人がくす玉から下がったヒモを引いた。
    くす玉が割れて中から高校生EAの市川綾乃と河井美紀がこぼれるように落ちてきた。
    「長谷川さんっ」
    「みずほさんっ」
    「ご結婚、おめでとうございます!!」
    二人は青と赤の水着姿で、手足を拘束されたまま、空中に吊られていた。
    リボンで縛られた手に、綾乃は花束、美紀は『 Happy Wedding !!』と書いた幕を持っている。
    「あんた達、縛られたままくす玉に入ってたの?」みずほが驚いたように聞いた。
    「はいっ。洋子さんにお願いして縛ってもらいました」綾乃が答えた。
    「あきれた」みずほは長谷川と顔を見合わせて笑った。
    「長谷川さんがご結婚って聞いて、その日は泣き明かしました。でも長谷川さんにはみずほさんと幸せになって欲しいから、あたし達にできる精一杯のお祝いをしようって、二人で相談して決めました」美紀が言った。
    「あの、くす玉から女の子が縛られて出てきたら楽しいかな、って考えたんですけど、・・変ですか? やっぱり」綾乃が聞いた。
    「綾乃ちゃんと美紀ちゃんを少し降ろしてくれる。手が届く高さまで」みずほが頼むと、ウインチが動いて二人は目の高さに降りてきた。
    みずほは綾乃に近づき、花束を受けとった。
    そして綾乃の頭を抱きしめて彼女の頬にキスをした。続いて美紀の頬にもキスをする。
    「ぜんぜん変じゃないわよ。綾乃ちゃんも、美紀ちゃんも、素敵よ。・・あたし達のために、本当にありがと!」
    「二人とも、立派だよ。ちょっと過激で驚いたが」長谷川もそう言って美紀の頭と顎を指で撫でた。
    「長谷川さん、やっぱり大好き♥」
    美紀は首を回して、縛られたまま猫のように身体をくねらせた。
    「さ、新婚ほやほやのカップルと、頑張ったこの子たちのために、乾杯しましょ!」洋子が呼びかけた。

    アヤミキコンビ緊縛くす玉

    ・・
    典子・佳織・美香・純生のテーブル。
    「緊縛くす玉かぁ。やられたなぁ。洋子さん、教えてくれへんねんもんなぁ」典子が悔しがっている。
    「へ? あれ、典が考えてプロモートしてあげたんじゃなかったの?」「私もそう思ってた」
    佳織と純生が聞いた。
    「あれはあの子らが自分で考えたのよ。・・いいなぁ、私もやりたいなぁ。可愛いくてセクシーで、ちょっぴり可哀想で。イベントでやったらお客さんびっくりするよねぇ」
    「へへへ。まだFBでもない、女子高生に先を越されましたね。くす玉の女王ナツキちゃんも、これで終わりかもね」美香がおもしろそうに言った。
    「ふんっだ」典子は笑いながらすねるふりをする。
    「綾乃ちゃんも美紀ちゃんも、成長したよねぇ」純生。
    「もう1年になるんだね、二人がKSに来て」佳織。
    「1年かぁ。いろいろあったよねぇ。典子は黒川とできちゃったし、佳織は失恋するし、じゅんちゃんの彼氏も発覚するし」美香が続ける。
    「僕の失恋はよけいだって」
    「そうそう、佳織がめでたくオンナになったことも!」
    「わ、・・ここでそんなコト!」佳織はあわてながら美香の肩を突く。
    「佳織ちゃん、顔赤い」
    「ねぇねぇ、純生の彼氏ってどんな人?」典子が聞いた。
    「それがね、Jリーグの選手なのよ」美香が説明する。
    「えへへ」純生が頭をかく。
    「へぇ、僕らの知ってる人?」佳織も聞く。
    「マッキー久住。ラッセルの」
    「えへへ」
    典子と佳織は顔を見合わせ、そしてぷっと吹いた。
    「それはあり得へんよぉ~」「ネタにするなら、もっとありそうな話にしないと」
    「あ~ん、本当だってばぁ~っ」
    「まぁ、普通は信じてもらえへんわなぁ」美香がつぶやいた。
    「美香のことかって聞いたよぉ。家に12歳の美少女を囲ってメイドの格好させてるって」純生が切り返した。
    「ええっ?」佳織が驚いた。
    「いや、あれは囲ってるんやなくて。・・典子っ、あんたでしょ。しゃべったの!」
    「私はうそは言ってないよ。ただ、この間まで小学生やった女の子がいて、一緒にお風呂入って抱き合ってるって」
    「ええ~~っ!!」
    「それは誤解っ、誤解やから。まあ、妙に、なつかれてるのは確かだけど」
    「美香やったら、それくらい、やってそうって思うな」
    「・・あっ!」突然、典子が何かを思い出したように叫んだ。
    どうしたの? 皆が典子の顔を見る。
    「私達全員、1年前から変わったことがあったやないの」
    え? 何だっけ。
    「ほら、これ」
    典子は両手を背中に回して縛られたふりをした。
    「あぁ、そうやっ」
    「1年前なんて、クラブのことも何も知らなかったのに」
    「それが今は、信じられないようなことも、してるもんねえ」
    「・・ね、FBになったこと、悔やんでる?」典子が聞いた。
    4人は微笑みながらお互いの顔を見合って、それからそろって首を横に振った。
    「ああ、よかった。みんな同じで。私だけやったらどうしよぉって思った」典子がそう言うと皆が声をあげて笑った。
    「典が一番変態なのは確かだけどね」
    「え~、どぉしてぇ?」
    「いつも、すごい妄想抱いてるやん、典子」
    「そうそう。恋人に誘拐されて生き埋めにされたいなんて、よほどのドMでないと考えない」
    「ひどいっ。・・でも、それは認める」再び皆が笑った。
    ・・
    洋子・真奈美・恵・妙子・公恵のテーブル。
    「あやつらは何をきゃいきゃいと騒いどるんだ?」洋子が典子たちのテーブルを見て、眉をひそめながら言う。
    「仲がよくって、いいですね」公恵。
    「こっちは、ひっそりと酒飲んでるだけだからね~」真奈美。
    「そういえば、あんた、八木くんをずいぶん仕込んだようね? 黒川くんが感心してたわよ」洋子が真奈美に言った。
    「八木が何をやったの?」真奈美がビールを飲みながら聞く。
    「それがね、典ちゃんのイベントで美香ちゃんをあっという間に縛り上げて吊ったんだって」
    「へ~っ!?」恵、妙子と公恵が同時に驚いた。
    「え、ははは・・。そういえば、あいつ、そんなこと言ってたなぁ」
    「もしかして、縛り方を教えたの? あの奥手の八木さんに」公恵が聞いた。
    「いや、まぁ、その、ほんの少しだけ縛ってもらったら、えらくテクニックを身につけたみたいで」真奈美。
    「いやがるのを無理に縛らせてるんじゃないでしょうね」洋子。
    「そんな、失礼な。あたしゃ、おとなしい青年にひどいことはしてません」真奈美。
    「怪しい」洋子。
    「うん」恵。
    「そうですね」妙子。
    「ひ~」
    「すっかり、見透かされてますね~」公恵。
    「典ちゃんのイベントといえば、あの狐坂のヒント、洋子さんが考えたそうですね?」恵が聞いた。
    「そうよ。なかなかのヒントだったでしょ」
    「ご本人は超難問のつもりで出したのに、あっと言う間に解かれちゃったんだよね」真奈美が突っ込む。
    「クラブの会員さんって、結構インテリの人が多いですからね」公恵。
    「へへ、主宰者が自分とこの会員を舐めてかかりましたね」真奈美。
    「ま、偉そうに!」洋子。
    「そういうことは、今度は私に相談して下さいな。すごい問題考えてあげますよ」妙子も珍しく突っ込んだ。
    「もう、妙ちゃんまで・・。これは飲まなきゃ、やってられないわね」そう言って洋子はビールのグラスを一気に空ける。
    「ふぃ~。松田さ~んっ、ウイスキー水割りお願いねっ。この際、水と氷抜きで」
    「うわ、それは駄目~っ」皆が洋子を押さえた。洋子の酒癖の悪さは全員が知っている。
    ・・
    みずほ・長谷川が座る主賓席。
    「あの連中はあそこで何やってるのよ。主役をほったらかしにして」みずほが文句を言った。
    「だいたい、普通は二人の馴れ初めとか質問攻めにするもんでしょ? せっかく準備してきたのに」
    そう言うみずほの手にはぎっしりと書かれたメモ帳が握られている。
    「まぁ、まぁ、楽しくやってるみたいだから、いいじゃないか」長谷川が言った。
    「それより、そろそろあの子らを下ろしたげた方がよくないか」
    長谷川が指さす頭上には、綾乃と美紀がまだ縛られたまま吊られていた。
    二人はとろんとした顔で、ゆらゆら揺れている。
    「この二人、高校を出る前にFBになるんじゃないか」
    「あら、いけない。・・ねぇっ、ちょっと洋子!」みずほが慌てて呼ぶが、洋子はソファにふんぞり返ったまま動こうとしない。
    「しょうがないなぁ」
    長谷川はにが笑いしながら立ち上がって、別のソファで飲んでいた三井、黒川、粟倉を呼び4人で綾乃と美紀を解放した。
    ・・
    カウンター。
    「本当にいいチームですな」カウンターの反対側でバーテンダーの松田が言った。
    「そうやな。いい娘ばかりが集まってるな。これも島さんの人徳かな」カウンターに座った藤本も言う。
    みずほと長谷川のテーブルでは、元気になった綾乃と美紀が水着のままで、何か歌いながら踊り始めた。
    美紀が長谷川の首根っこに抱きついて、みずほと綾乃に引き剥がされている。
    「それにしても、君がクロロフォルムの使い方を教えたとは思わんかったよ」藤本が隣を見て言った。
    「まあ、洋子の頼みを断りきれなくて。それにあの黒川くんなら、大丈夫と思いまして」そう答えたのは、小木だった。
    小木は洋子の元・夫で、今は喫茶店のオーナーマスターである。
    「あの高校生の二人は君の店でアルバイトをしてたそうやな」
    「ええ。最初と最終回だけ登場して言うのも何なんですが、これからもうちのバイトの女の子を洋子に取られそうな気がしますよ」
    ・・
    「そしたら、KSの総力をあげてゲーム大会やるでぇ~」洋子が立ち上がって叫んだ。
    「はぁい、男女ペアの対抗でやりますから、そちらの男性陣も来て下さ~い」典子が呼びかける。
    「典ちゃん考案の罰ゲームも用意してるでぇ」洋子が嬉しそうに言う。
    「過激にセクシーなのをいろいろ準備してますから、殿方はお楽しみにして下さいね。・・あ、もちろん罰ゲームを受けるのは ♥女の子だけ♥ だからね。みんな覚悟してね!」典子がそう言ってウインクした。
    きゃあ。歓声が響いた。
    ドキドキしちゃいますよぉ。
    あはは、セクハラやぁ。
    こういうセクハラは、ちょっと好き。
    これもEAの務めやから、あたし達、頑張りますっ。
    いっそ罰ゲームだけやりましょっか。
    いつものKSと変わらんやない、それ(笑)
    宴はまだまだこれからだった。



    ~登場人物紹介~
    野村典子: 20才。EA/FB、本話主人公。SNはナツキ。この春、短大を卒業し社会人に。
    小嶋佳織: 20才。EA/FB、SNはカオリ。典子の仲間。身長175センチの長身。
    辻井美香: 20才。EA/FB、SNはカスミ。典子の仲間。露出空きで女の子好き。
    鈴木純生: 20才。EA/FB、SNはジュンコ。典子の仲間。巨乳で天然。
    岡崎真奈美: 25才。EA/FBのリーダー。SNはマナミ。
    市川綾乃: 17才。EA、SNはアヤカ。4月から高校生3年生。
    河井美紀: 17才。EA、SNはヒカリ。4月から高校生3年生。
    佐久間恵: 27才。EA/FBの先輩。SNはミサト。
    石原妙子: 24才。EA/FBの先輩。SNはシノブ。
    堀公恵: 29才。KS/Club-LB で事務をしてるパートの主婦。
    黒川章: 21才。Club-LB 緊縛師。典子の恋人。
    長谷川行雄: Club-LB 緊縛師。本話でみずほと結婚した。
    三浦みずほ: KS/Club-LB 企画演出担当。長谷川との仲は秘密にしているつもりだったらしいが、皆が知っていた。
    島洋子: KS/Club-LB 代表。
    八木一馬: 27才。運送会社運転手。真奈美との関係は続いている模様。
    藤本慎太郎: Club-LB の会員。藤本病院院長。
    松田慎也: Club-LB の会員でクラブ『DON』のオーナーバーテンダー。
    小木真一: 喫茶店オーナー。元麻酔医で洋子の元・夫。


    後書きに先立ち、お断りをふたつ。

    その1) クロロフォルムについて
    クロロフォルムはテレビドラマの誘拐シーンなどによく登場しますが、人間を瞬間的に気絶させることは実際には不可能です。
    また現在では医療の麻酔用としても使用されていません。イメージが一人歩きしている薬品といえます。
    数年前に本話を書いたときは、作者の私もそのイメージでクロロフォルムを使いました。
    ブログへの掲載にあたって少し調べたら上記の事実が分かりました。
    修正も考えましたが「一瞬で女性の意識を奪う美しさ」を実現できる薬品はなかなか見当たらず、ファンタジーだからと割り切ってクロロフォルムのまま進めることにしました。
    本話を読んで、実際にクロロフォルムを使って女の子を誘拐しよう(!)という方がおられても落胆されるでしょうから、ご了解をお願いします。

    その2) 狐坂について
    狐坂は京都に実在します。私もかつては個人的によく通って親しんだ道のひとつでした。
    しかしこのお話を書いた頃と異なり、今ではヘアピンカーブの上に高架橋が建設されてすっかり雰囲気が変わってしまったようです。
    また昔の時代でも、狐坂の周囲は木々に覆われた斜面であり、本話のようにトラックを乗り入れて穴を掘れるような場所はまずなかったのではないかと思います。
    本話を読んで、実際に狐坂に行って女の子を埋めてみよう(!)という方がおられても落胆されるでしょうから、ご了解をお願いします。

    以上、お断り終わり:P。

    本話は、典子が自ら望んで誘拐されて生き埋めにされるお話です。
    明るく社交的な典子ですが、実はKSでも1、2の被虐性を誇っていて、内に秘めた妄想は過激です。
    今回は30時間で救出されましたが、彼女自身はもっと長い時間囚われていたかったのでしょうね。

    さて、キョートサプライズはこれで13話。テレビ放送でいう1クールに達しました。
    長年にわたって書き溜めたストーリーも尽きました。
    キョートサプライズはひとまず第1シリーズ最終回とし、しばらくお休みさせていただきます。
    第1話から読んで下さった皆様には心から感謝申し上げます。
    本当にありがとうございました。

    作者の手元には、今までの話の中でネタをふっていながら出せていないエピソードをはじめ、中途半端に書いたまま放置しているお話もいくつかあります。
    今後はそれらもまとめつつ、新しいキョートサプライズの物語をゆっくり考えていこうと思います。
    完成したものは不定期に掲載しますので、いつの日になるか分かりませんが、どうぞお楽しみにお待ち下さい。




    キョートサプライズ第12話(1/3)・水色の思い出

    1.プロローグ ~純生の部屋へようこそ~
    「どうぞ、今日は誰もいないから」
    「お邪魔しまーす」
    辻井美香がきょろきょろしながら、鈴木純生の後について部屋に上がった。
    「ここが純生の部屋かあ。・・あれ?」
    「ん?」
    「あれ油絵よね。もしかして純生?」
    美香が壁に掛かった絵を指差した。
    8号サイズほどのキャンバスの中で、ピンクのセーターを着た少女が微笑んでいる。
    「うん。高校のときの自画像」
    「え、あんたが描いたの?」
    「何よその目は」
    「いや、人は見かけによらんなあと」
    「失礼ねぇ。これでも美術部やったんよ」
    「へえ、そうなんかぁ~。可愛く描けてるよ。・・ね、他に作品ないの?」
    「そうやね~」
    クローゼットの扉を開けると、ダンボール箱にキャンパスボードや丸めた画用紙などが大量に入っていた。
    「すごいなぁ。どれくらいあるの?」
    「百枚以上はあるな」
    「見てもいい?」
    「うん。どうぞ。・・今、お茶入れてくるわ」
    そう言って純生は出て行った。
    「へ~、あたしのHPにもイラスト描いてもらおかなぁ」
    美香は絵を手にとって見始めた。
    ・・
    純生がティーカップを乗せたお盆を持って部屋に戻ってくると、美香が猫撫で声で話しかけた。
    「じゅんちゃ~ん♥」
    「何よ」
    「これは何かな~?」
    美香がスケッチブックを広げて見せる。
    それはセーラー服の少女を真横から描いた鉛筆絵だった。
    少女は小さな腰掛に座り、どこかうなだれた様子で両手を腰の後ろで合わせている。
    その手首と足首には太い紐のようなものが巻きついていた。
    明らかに少女は手足を縛られている。
    「ひゃっ」
    純生は慌てて絵を奪おうとするが美香はひらりと避ける。
    「あんた、こんな絵も描いてたんか?」
    「そ、それはあかん~!」
    「さあ、白状しい」
    「それは、私が描いたんやないんよぉ」
    「そうなの? じゃあ、誰が?」
    「その、中3のときに付き合ってた男の子。・・ほら、そこに『鈴木へ』って書いてあるでしょ?」
    「なぁに~?」
    美香はもう一度絵を覗き込んだ。
    「なら、もしかして、この絵は純生?」
    純生は真っ赤になってこくりと頷く。
    「純生、中坊んときからこんなことしてたの?」

    純生緊縛スケッチ


    2.小学生時代 ~性の目覚めってやつかな~
    「ザ・レンジャー見たいっ」
    「今日はお姉ちゃんが見る番でしょっ」
    「いややぁ~!」
    「洋太!」
    「すーちゃん、お姉ちゃんなんやから、見せてあげたら?」
    台所から母親が声をかける。
    「あかんの! 毎週交代で見る約束したんやから」
    ぐずる弟を横に、純生はアニメの画面から目を離さない。
    「しょうがないねぇ。洋太。こっちのおもちゃで遊びなさい」
    母親がやってきて弟を連れて行く。
    ふう。これでやっと邪魔されんと見れるわ。洋太って、ガキなんやからぁ。
    安心してテレビを見る純生の目が突然見開かれた。
    画面の中では、主人公の魔女っ子が悪人に捕まって後ろ手に縛られているところだった。
    え~? メムちゃん、かわいそう!
    彼女は口にテープを貼られてもがいている。
    悪人達はさらに頭の上から大きな袋を被せ、その上からロープをぐるぐる巻いてどこかに運び出そうとしていた。
    小学3年生の純生は画面を凝視したまま動かなかった。
    部屋の反対側でおもちゃを出そうとしていた弟が、何?というふうに純生の背中を見上げる。

    3.3年2組教室 ~窓から空がよく見えたの~
    中学校の教室の窓から、細かく刻まれたような雲が見えた。
    あれ、いわし雲ってゆうたなあ。純生はぼうっと考える。
    机の上には教科書とノート。ノートの余白には小さい頃好きだったアニメの魔女っ子が落書きされている。
    鉛筆で薄く描かれた女の子の絵は、背中で手を組んで何故か泣いているような表情をしていた。
    「・・鈴木?、おいこら、鈴木っ」
    「あ、はい!」
    慌てて筆箱をノートに上に置いて立ち上がる。
    「本文を最初から読んで」
    「え?」
    「すーちゃん、35ページ!」前の席の坂口芳江が小声で教えてくれた。よっちゃん、感謝!
    机に放り出したままの教科書のページを急いで開いて立ち上がった。
    「え~、はるは、あけぼの、ようよう、しろくなりゆく・・」
    教科書を持って読み上げる。芳江があっちゃあ~という顔をして頭を抱えた。
    クラス中の生徒が顔を上げて純生を見た。
    黒板の前に立つ教師の目がテンになっている。
    あれ、何か違ったかな?
    「鈴木ぃ、もしかして前の授業からぼうっとしてたんか?」
    黒板には、英語のセンテンスが板書されていた。
    ありゃ、間違えたみたい・・。
    「何の夢みてたか知らんけど、頼むから、俺の授業では英語の教科書を出しといてくれぃ~」
    教師の心底あきれたような言い方に教室中が爆笑に包まれた。
    ・・
    「すーちゃん、今日はぼけすぎやわ」
    「うん。分かってる。ごめん」
    「ぼーっとしてるから、すぐに純トロなんて言われるんやで」
    「私、そんなにぼうっとしてたかなぁ」
    「してたしてた。あんた何考えてたのよ?」
    「何って言われても、う~ん、・・雲が綺麗だなって」
    芳江はぷっと吹き出した。
    「もうええわ。・・それより今日はクロッキーやろ? あたしモデルあたらへんかな」
    「なんで? モデルやってたら描けないよ」
    「描かんでええから楽やないの」
    「よっちゃん、それは駄目」
    純生と芳江はじゃれあうようにしながら廊下を歩いて行く。
    二人ともスケッチブックや画材を入れた鞄を片手に提げている。
    純生の鞄から小さなノートがこぼれて床に落ちたが、二人は気付かずに歩み去った。

    4.美術部 ~女の子だけのクラブだったよ~
    「はい、集合!」
    白衣を着た三田静子が美術室に入ってきて手を叩いた。
    静子は美術教師で美術部の指導顧問でもあった。
    女子生徒ばかり、6人ほどの美術部員は静子の回りに集まる。
    「今日はクロッキー画だね。・・1時間で5枚は描くこと」
    「え~っ」
    「見たまま感じたまま描けばいいのよ。後で一番いいと思うのを提出してくれたらいいから」
    静子は27~8歳くらいだろうか。大きな眼鏡を掛けてちょっと美人で、純生の憧れの先生の一人だった。
    「モデルは、・・じゃ、鈴木さん!」
    「私ですか?」
    「そうよ。はい、ここに座って。後の人は適当に回りを囲んで」
    静子は丸椅子に純生を座らせた。
    「ふむ、そうねぇ・・」
    後ろに立った静子は純生の肩までのばした髪を軽く持ち上げた。
    「ちょっと、綺麗にしたげる」小脇に抱えていたポーチを開け、ブラシとヘアピンを出す。
    え? え?
    あっという間に純生の髪はアップにされてしまった。
    「はい、背筋を伸ばして、手は膝の上で軽く組み合わせて」
    静子は純生にポーズを取らせると手を叩いた。
    「じゃ、始め!」
    ・・
    純生はじっと座ったままどきどきしていた。鏡がないので自分の髪がどうなっているのか分からない。
    ふと斜め向かいの芳江と目が合った。
    芳江はスケッチブックにペンを走らせながら、純生に向かってウインクをした。
    『すーちゃん、きれい!』声を出さずに口でそう言ってくれたようだった。
    「はい、そろそろ2枚目に行って。場所適当に変わって」
    静子の指導で生徒達はクロッキー画を描いていく。

    5.落し物の届け主 ~ノートを落としたなんて全然気づいてなかった~
    「失礼します。鈴木さんいますか?」
    美術室の戸が開いて、男子生徒が顔をのぞかせた。白いシャツと青いジャージ姿。
    「君は?」静子が振り返って聞く。
    「これ、3階の踊り場で落ちてたもんやから」
    男子生徒は一冊のノートを見せる。
    「何?」
    静子がノートを受け取り、表紙に書かれた名前を読み上げた。
    「美術部、S.SUZUKI・・」
    純生がはじかれるように立ち上がった。「あ、それ、私の!」
    「動くな~!」回りの生徒達が口を尖らせた。
    「あーん、ごめんなさい!」
    純生は謝りながら扉の方に駆け出し、椅子を一つ蹴飛ばした。
    「痛っ、たっ」足をこすりながら静子のところに行き、ノートを奪うように受け取る。
    「あ、このノート、私のです。どおもありがとう!」
    「あの、足打ったみたいやけど?」
    「え? あはは。私、トロくって・・、でも大丈夫です!」
    男子生徒はくすりと笑った。
    「そっか? じゃあ、これで」と言って去っていった。
    「ねえ、今のバレー部の久住くんやね!」芳江が純生に言う。
    静子もにやにや笑いながら言った。
    「5組の久住誠君だっけ。バレーボール部のキャプテンだよね。・・鈴木さん、後でもう一回お礼言ったら? チャンスだよ」
    きゃあっ。女子生徒達が歓声を上げた。
    ・・
    純生は喜んでいられる状態ではなかった。
    ノートの中身は純生が描いたイラストだった。久住君、まさか中見てへんよね?
    もし全部見られてたら・・。ああ、どうしよぉ~!
    芳江と別れ、純生は校門の外で久住誠を待つ。
    男子を待つなんて、生まれて初めてだ。
    生徒達が幾組も純生の前を通り過ぎて行く。
    15分程して、男子4~5人のグループの中に誠の姿を見つけた。
    あ~ん、久住君一人だけじゃない。でも、そんなことは言ってられない。
    「あ、あの!」
    「?」
    「あの、鈴木です。さっきはノートを拾ってもらってありがとうございました」
    「ああ、いいよ」誠はそう言って純生をまじまじと見た。
    「え? 私何か変?」
    「いや、さっきと頭の形が違うかな、と」
    「あ、さっきは先生にアップにしてもらってたから・・」
    純生の髪は元のセミロングに戻っていた。
    髪形を覚えててくれてたの? 純生はなぜか少し嬉しくなった。
    あかん、それよりノート!
    「久住君、」
    「何?」
    「あの、その・・、さっきの、ノー」
    「え? 俺と付き合いたいんか?」
    他の男子が笑った。「久住、モテるからな~」「こいつはスケベやでぇ」
    「そ、そんなんと違うから!」
    純生は赤くなってくるりと振り返り、その場から走り去った。

    6.自縛 ~秘密の時間~
    一直線に走り続けて玄関に飛び込んだ。
    そのまま2階に上がり、部屋のベッドに倒れこむ。
    何やねんっ、あいつ!
    息が荒い。大きく深呼吸して動悸が収まるまで待つ。
    は~あ。
    俺と付き合いたいんか? 誠の声が純生の頭の中に響く。
    久住君。
    よく陽に焼けていて背が高い久住君。
    純生は足元に投げ出した鞄に手を伸ばして、ノートを取り出した。
    ページを開いて見つめる。
    描きためたアニメやオリジナル美少女のイラストが現れる。
    その中には、涙を浮かべたり悲しげな表情の少女のイラストもあった。
    そんな彼女達はたいてい縄や手錠で自由を奪われた姿だった。
    純生はベッドの目覚まし時計を見る。・・4時。
    今、家には純生しかいない。洋太は塾のはずだし、ママがパートから帰ってくるのは5時半だ。
    ノートのお気に入りのページを開いて枕元に置いた。
    それは純生の通う中学校の制服を着た女の子が後ろ手に縛られた絵だった。
    寝転んだまま制服のスカートを脱ぐ。
    ショーツの上に右手を置き、指先に力を加えた。
    あ。
    軽い快感が下腹部に走る。
    身体を返して頭上に手を伸ばして学習机の引き出しを開け、束ねた紐を取り出した。
    裁縫箱袋を作った余りで縫った長さ1メートルほどの赤い布の紐。
    タオルを膝にあて、その上から紐を1回巻き、更に膝の間に通し割り縄にして縛った。
    タオルを使うのは前に素足を直接縛って肌に痕が残り隠すのに苦労したからだった。
    純生は再び仰向けになって下半身に力を入れる。
    両足が締めつけられる感触が心地よい。
    そのまま横向きになって身体を丸め、右手を下着の中にゆっくり入れた。
    ノートの絵をちらちら見ながら、純生は自分が縛られたシチュエーションを想像する。
    ・・学校の帰りに誘拐された純生は縛られて暗い部屋に転がされている。
    助けを求める声は誰もいない部屋に空しく響くばかり。
    もう何時間、こうやって置かれているのだろう。
    私、いったいどうなるんだろう。知らない男の人のおもちゃにされるのだろうか。
    コツコツと廊下を近づいて来る足音がする。
    ドアの鍵を開ける音。カチャ。
    ああ!!
    ・・純生は右手を動かし続けた。
    「はぁ・・」
    小さな声がこぼれる。

    7.体育祭 ~トロくても体力だけは自信あったよ~
    純生は学校で誠を見かけても、普通にふるまうように努めた。
    誠も特に純生を意識しているような様子はなかった。
    しばらくの間、美術部の女生徒達は久住誠の名前を出して純生をからかったりしたが、やがて興味をなくして話題から消えた。
    そして月が変わり、体育祭の季節になった。
    ・・
    紅白2チームに分かれた各クラスの応援団が応援合戦を繰り広げている。
    午前中は曇が出ていたが、お昼休みを過ぎてすっかりいい天気になったようだった。
    純生は赤い鉢巻をぎゅっと巻いて深呼吸する。
    「絶対トップで帰ってくるんやで。すーちゃんマラソン得意なんやから」芳江が純生の背中をどんと叩いた。
    「そんなん分からへんよぉ。私そんなに早くないって」
    口ではそう言いながらも、紺のブルマをはいた自分の膝をとんとん叩く。
    うん、調子悪くない。
    スポーツはそれほど得意ではなかったが、ひたすら走ったり泳いだりすることは嫌いではなかった。
    ぱん!
    目の前で号砲とともに男子がスタートした。
    各クラス3名ずつ、18名の選手が声援を受けて校庭から走り去っていった。
    次は女子のスタートだ。選手達がスタートラインに並ぶ。
    「よぉ~い・・」ぱん!
    体育祭午後一番の種目、マラソンが始まった。
    ・・
    純生は先頭を走っていた。
    頬に当たる風が心地よい。
    通学路から公園の中を抜けて堤防に駆け上がる。このまま1キロちょっと走って折り返しだ。
    堤防に出たときにちらりと後ろを見ると、他の女子選手の姿は見えなくなっていた。
    早くも純生の独走状態だった。
    そのかわり、先にスタートした男子が見えた。そのまま最後尾の男子選手を捕らえる。
    「え?」
    驚きの声が聞こえたようだった。
    純生は一人、また一人と男子を追い抜いて行く。
    やがて4人で固まって走っている男子の横にきた。
    彼らは明らかに純生に対抗心を燃やしたようだった。
    純生に合わせてスピードを上げてきた。純生は気にせずに同じ速さで走り続ける。
    「鈴木、か?」
    その声にちらりと横を見ると、誠が走っていた。
    くじゅう、くん!
    純生のスピードが少しあがったようだった。誠もそれに合わせて速度を上げる。
    「お、お、・・」
    他の男子たちがゆっくり遅れていく。
    純生と誠は並んで走り、そのまま他の男子選手を抜いていく。
    4~500メートルも走り続けただろうか、やがて体育の教師が両手を広げるようにして立っている場所に来た。
    「はい、女子はここで折り返し~」
    純生は黙ってくるりと向きを変え、反対向きに走っていく。
    誠は一瞬立ち止まるようにして、逆方向に走っていく純生の後ろ姿を呆然と見た。
    「男子はあと1キロ、このまま進む!」どんと尻を叩かれて慌てて走り出した。
    ・・
    純生が校門から走りこんできた。男女合わせてトップの帰着だった。
    歓声の中、トラックを一周してテープを切る。
    膝に手をついて一息。
    ふう~。面白かった!
    「すーちゃん! 新記録新記録っ」
    走り寄ってくる芳江を横目に、純生は並んで走っていた誠の姿をぼんやり思い出していた。

    8.デートの誘い ~え、私?~
    「お~い、鈴木ぃ」
    クラブを終えて帰宅の途中、通学路で純生は後ろから呼びかけられた。
    振り返ると、誠が自転車で近寄ってくるところだった。
    久住君!
    「鈴木、この間は速かったなぁ」
    「え? そうかな」
    「うん、俺、横に並んで走ったやろ、あの後脇腹が痛ぉなって後半はへろへろやったんやで」
    誠は純生の横に並び自転車を押して歩きながら言った。
    「大丈夫やったの?」
    「うん、6着やった。3番以内に入る自信あったんやけど、途中で無茶してこの始末やな」誠はそう言って純生を横から見た。
    「お前、何で陸上部に入らへんかったんや」
    「私が?」
    「うん」
    「いや、私、マラソン以外はどんくさくて。・・リレーのバトンは落とすし、ハードルは蹴飛ばすし」
    「そうか。でもこの間は格好よかったと思うな」
    え?
    男子から面と向かって褒められたのは初めてだった。頬が熱くなったように感じた。
    「鈴木、ほっぺた赤いぞ」
    「何言うてんのよ!」
    「赤くなりついでにも一つええかな?」
    「何」
    「デートせえへんか? 日曜日、映画見に行こう」
    純生の顔全体が真っ赤になった。

    9.日曜日 ~どっきどきの初デート~
    「ママ、スカートの後ろ、おかしくない?」
    「大丈夫よ」
    「ねえ、どっちの靴が可愛いかなぁ」
    「どっちも可愛いよ。好きなほうにしなさい」
    「だって、ねえ、ママ。よく見てよぉ」
    「すーちゃん、そろそろ時間でしょ。デートに遅刻は禁物やないの?」
    「え? きゃっ、もう11時半っ」
    純生は玄関と2階の自分の部屋の間をばたばたと往復した。
    「姉ちゃん、舞い上がってんな~」弟の洋太がおもしろそうに言う。
    「またドジやって嫌われないようにねっ」
    「しないよ、そんなこと!」
    「あ、靴下に穴開いてる、姉ちゃん」
    「きゃ、え、どこ、どこ?」
    純生はぴょんぴょん跳ねて右足と左足の裏を交互に見ようとした。
    と、そのまますべって尻餅をつく。ず~ん。家が揺れた。
    「どうしたの? 地震かと思た」母親が台所から顔を出す。
    「もう、こらヨタ! 穴なんて開いてへんやないの!」
    尻をさすりながら純生が洋太を追いかけた。
    ・・
    駅前の雑踏の中に純生が立ち、きょろきょろと周囲を見回している。
    やがて誠がやってきたのに気付くと、純生の顔がぱっと輝いた。
    「遅れたかな?」
    「ううん、時間通り」
    「映画、何見たい?」
    「私は何でも」
    「なら、椎野陽子のやつにしよか」
    「あ、『へんてこりんな大誘拐』?」
    「うん。かまへんか?」
    「いいよ。私もシーノ好きやし」
    それは人気アイドルの主演映画で、大金持ちの令嬢でじゃじゃ馬の主人公がちょっと間抜けな犯人に誘拐されて恋に落ちる話だった。

    続き




    キョートサプライズ第12話(2/3)・水色の思い出

    10.映画 ~彼に秘密を知られたとき~
    誠は並んで座った純生の顔を横目でちらちら見ていた。
    じっとスクリーンを見る純生は、ストーリーに合わせて笑ったり泣いたりしていた。
    ・・
    「鈴木、一生懸命映画見てたなぁ」
    「え、久住君は見なかったの?」
    「俺は鈴木の顔ばっかり見てた」
    「え」
    純生の顔がまた赤くなった。
    「うそ。ちゃんと映画も見てたよ」
    「もう」
    二人は公園のベンチで並んで座ってしゃべっている。
    「喉、渇いたな。・・コーラでも買うてくるわ。鈴木は何がいい?」
    「一緒でいい」
    「わかった。その間これでも見てて」
    誠は映画館で買ったパンフレットを純生の膝に置いていった。
    純生はそれを手にとって無造作にぱらぱらとページをめくる。と、あるページで手が止まった。
    それは見開きの大きな写真で、後ろ手に縛られたシーノが相手役の男性にお姫様抱っこされていた。
    思わず息をのみ、それからあわてて周りを見渡した。公園は静かで、誰もいなかった。
    純生はごくりとつばを飲み込んで、パンフレットの写真に見入る。
    写真を見るかぎりシーノは本当に縄で縛られているようだ。どこかうっとりとした表情が色っぽい。
    純生はパンフレットの先頭からゆっくりページをめくって同じような写真を探した。
    椅子に縛り付けられてナイフを突きつけられている小さな写真。
    車の中で手錠と猿轡をされて座っている小さな写真。
    なんだ、これだけ。映画の中ではいっぱい縛られてたんだけどな。
    「ちょっと残念、なんてね」
    もう一度さっきの見開きの写真を開く。
    突然、首筋に冷たい感触が走った。
    「きゃっ!」
    誠が缶コーラを純生の首に押しつけていた。
    「もう久住君、びっくりするやんかぁ~っ」
    「何が残念やの?」
    「え?、あっ」純生は慌てて写真を両手で隠そうとしたが、誠にパンフレットを取り上げてしまう。
    「このシーノ、ちょっとエッチな顔してるな~」
    「もう、久住君たら」
    「鈴木もこんな風にされたいんか?」
    「え」
    心臓が飛び出しそうだった。頭を上げて振り向き、誠の顔を見る。
    誠はいたって真面目な表情で純生を見下ろしていた。
    「あ、あの私、べ別にそんなつもりでそそれを見てたんと」
    「しどろもどろやで」
    「いやあ、参ったな~」純生は苦笑いして手の甲で額を拭く。
    「まあ、落ち着いてこれ飲み」
    「あ、ありがと」
    手渡されたコーラの栓を開けごくりと飲む。その間に誠は純生の隣に座った。
    「その、変なつもりで言ってるんとちゃうんやけど・・」
    誠が前を向いたままゆっくり話した。
    「前に俺、鈴木のノートを学校で拾ったやろ? そのときにちょっと中が見えたんや」
    「え?」
    あれを見られた?
    「女の描く絵は何でこんなに似たような絵ばっかりなんやって思ったけど、ちょっと違う絵もあったやろ?」
    ああ・・。
    「その、女の子が縛られたりしてる絵」
    もう駄目だよ。純生はすっかりうなだれる。
    「それで、そのことはすっかり忘れてたんやけど、さっきの映画で鈴木を見てて思い出したんや」
    「私を見て?」
    「うん。シーノがさらわれるのをじっと見てる鈴木を見て、それであの絵とおんなじやって」
    「・・」
    「今、俺がコーラ買ってきたときもこの写真をじっと見てたし」
    「久住君、もういい」
    「ん?」
    「もういい。私、帰るから」純生は鞄を抱えて立ち上がろうとした。
    「な、鈴木、もうちょっと聞いてえや」
    誠が純生の腕を掴んで再びベンチに座らせる。
    「離してよぉ、お願い」
    純生の目から涙がこぼれていた。
    「なあ、鈴木を困らせるつもりで言うたんやないんや。・・悪かった。ごめん!」
    誠は純生の前に膝をついて頭を下げる。純生は下を向いて黙っている。
    「な、俺はぜんぜんお前のこと悪うに思ってないから。なっ」
    「黙っていてくれる」
    「え?」
    「誰にも言わないでくれる? 私が変な趣味の女の子やってこと」
    「そんなんお前がいやがること言わへんよ。だいいち、変な趣味やなんて思てへんし」
    「ほんと?」
    「ああ、本当」
    「約束してくれる?」
    「する!」
    「なら、指きり」
    「指きり?」
    「うん指きり」純生は黙って右手を誠に向かって突き出した。
    「よし」誠はその手に自分の小指を絡ませ
    「ゆ~びきり、げんまん、う~そついたら、はぁりせんぼんのぉ~ますっ」と大げさに歌って右手を大きく振った。
    「どうや、信用してくれた?」
    「・・うん」
    「はぁ~、よかったぁ」
    誠は再び純生の横にどしんと腰を降ろした。
    しばらく黙って純生の顔を見る。純生はうつむいたままだった。
    「じゃあ、俺もちょっと恥ずかしいこと言うわ」
    「・・」
    「そのパンフレット見てる鈴木を見て、俺どきんとした」
    「?」
    「何かお前、綺麗やった」
    「え?」
    「それで、お前が見てる写真が見えて、もっかいどきんとした」
    「久住君・・」
    「その写真、アイドルの映画やけど刺激的やし、それ見てる鈴木が綺麗なん、俺にはもっと刺激的やった」
    誠は純生の顔をのぞきこむようにして笑った。
    「鈴木って、ちょっと変わってるって評判やったけど・・」
    「ふん。どうせ私は純トロですよぉ~っだ」純生はようやく笑った。
    「・・そやけど俺からしたらぜんぜんそんなことない。お前、可愛いよ」
    誠は純生の頬を指で軽くつついた。
    「こら、可愛い女の子に軽々しく触るなぁ」
    二人は顔を見合わせて笑い合った。
    「な、鈴木?」
    「何?」
    「これからも付き合ってくれへんか?」
    「そうやねぇ~」
    純生は立ち上がってそのまま数歩歩くふりをした。
    「おいおい、ここへきてノー?」
    「・・いいよ」純生はそう言って振り返る。「こちらこそ、よろしくお願いします!」
    誠に向かってぺこりと頭を下げた。
    よっしというそぶりをして誠も立ち上がった。
    「・・マクドでも行こか。俺、腹減ったわ」
    「うん、私も」
    二人は並んで歩き出す。公園の出口まで来たところで誠が純生を見た。
    「鈴木ぃ?」
    「何?」
    「あの絵・・、お前の描いた絵、また見せてくれへん?」
    「何言ってるんよ」
    「あかんか? この間はあんまり見れへんかったから、もっかい、きちんと見たいんやけど」
    純生はしばらく黙って、それから誠に笑いかけた。
    「・・いいよ。久住君になら見せてあげる」

    11.自縛ふたたび ~いろいろ工夫してたんやから~
    夜中。純生の自室。
    純生がパジャマ姿で映画のパンフレットを見ている。
    犯人に捕まって後ろ手に縛られたシーノ。
    よし。
    机の引き出しから紐を出し、ぴんと伸ばしてお腹に当てた。
    そのまま紐の両端を背中に回し手首にからげる。
    う~ん。肘がぶらぶらしてる。今までこれで満足できてたんだけど。
    今度は紐の一端を左手に握り、反対の端を二の腕の上を通るようにして身体の前に回す。
    そしてそのまま右手の上を・・。
    あかん、右手で右手を縛るなんてでけへんよなぁ。
    純生は紐を放り出した。
    ベッドに寝転がってまたパンフレットに見入る。
    シーノは胸の上下に縄を掛けられている。
    背中に回った縄は複雑に結ばれて、手首をまとめて吊るすように縛っていた。
    そうか、後ろに回った縄が直接手首にかかるんと違うのか。
    少女マンガやテレビの緊縛シーンではよく分からなかった縛り方だった。
    紐をもう一度手にし、胸から後ろに回す。あかん、ぜんぜん短い。
    よおし。
    純生は部屋を出て階段を降り、廊下の戸棚を開けた。
    確か、この箱の中に・・。あ、これ。
    荷造り用のビニール紐の玉を取り出した。
    「すーちゃん? 何してるの?」
    突然母親に背後から声をかけられて心臓が止まりそうになる。
    「あ、いや、あのこれ、これね。・・ちょっと本を束ねようかと思おて・・」
    「そうなん? もう遅いから早く寝なさいよ」
    「あ、は~いっ」
    明るく返事をして階段を駆け上がった。
    びっくりしたぁ~。
    ベッドに座り込んで両手で胸を押さえる。
    心臓が激しく鳴っている。
    大きく深呼吸。
    落ち着け純生、落ち着いて・・。
    ふう。
    ビニール紐を2メートルくらい繰り出して鋏で切る。これで長いぞ。
    手首を前で合わせて、口に咥えたビニール紐を巻きつけてみた。
    布の紐とはぜんぜん違う強さ。
    重なり合ったビニール紐通しが滑らないので、何重かに巻くだけで手首が締まって緩まない。
    これいい!
    しばらく締めつけられる感覚を楽しんでから、解く。
    手首にはくっきりと紐の跡が残った。
    いけない。またやっちゃった~。
    しかし純生はそれほど気にせずに、別の縛り方を考える。
    10センチくらいの輪を作って結ぶ。
    えへ、投げ縄。
    左手を輪に入れて紐を引くと、きゅっと締まった。やったね。成功!
    輪を緩めて外し、今度は大きな輪に広げて頭からかぶり、胸まで通した。
    肘を曲げて紐が落ちないように支えながら、輪を小さくしていく。
    やがて両腕と胴体がまとめてぎゅっと締め付けられるように、ビニール紐の輪が締まった。
    純生の身体がぶるると震えた。
    あぁ、気持ちいい・・。
    胸の鼓動が再び高くなっている。
    純生は太ももに力を入れて両足をこすり合わせる。
    ・・足も縛ろ。
    ビニール紐を外して、パジャマのズボンを脱いだ。
    タオルを膝に巻いてその上から赤い布紐で膝を縛る。
    そしてもう一度、ビニール紐で上半身を締めつける。
    純生の息が荒くなっていく。

    12.発覚 ~不思議と誰かに見られるのよね~
    「ねえ、すーちゃん、昨日誰かと映画見に行った?」
    芳江に言われて純生は目を白黒させた。
    「え、何のこと?」
    「うちの妹がね、駅前の映画館から男子と出てくるすーちゃんを見たって」
    「い、いや、・・そんなことしてへんよ」
    芳江は純生をじっと見る。
    「すーちゃんがそんな風になったら、絶対に秘密があるんやな」
    「何よ。よっちゃんかて、嘘ついたら顔に出るやんか」
    「そおか。やっぱり嘘ついてるんやな」
    純生は口をぱくぱくさせて情けない顔になった。
    「お願い! 誰にも言わんといてぇっっ」
    「それは、すーちゃん次第やな」芳江はにたりと笑った。
    「誰にも言わへんから、誰とデートしたか、白状しい!」
    「ほんと? ほんとに誰にも言わへん?」
    「うん、親友やもん信用して」
    「それやったら」
    そして当然のことながら、その翌日にはクラスの女子全員が純生と誠のデートの事実を知ることになった。

    13.2回目のデート ~二人で海岸を歩いたの~
    誠と純生が向かい合って座っている。テーブルにはコーラとミルクティー。
    海岸沿いの喫茶店はがらがらだった。
    「乾いたか? 服」誠が純生に聞いた。
    「ん~、もうちょっと・・」
    純生がブラウスの胸の脇を両手でつまみながら答える。
    「だいたい、子供みたいに波打ち際ではしゃぐから波かぶるんやで」
    「そやかて誰もいない海なんて初めで、嬉しくて」
    映画を見た次の週、二人はまたデートしていた。
    さすがに町内は避けて大阪まで出て待ち合わせ、それから神戸の水族館にやってきた。
    水族館に隣接する海岸を散歩していて純生の服が濡れたので、喫茶店に入って乾くのを待っているのだった。
    「それより、帰りも梅田で分かれて帰るからね」
    「ええ? やっぱり一緒に帰ったらあかんのか?」
    「何言ってるのよ。皆に冷やかされてるのに」
    「ええやないか。俺は気にしてないから」
    「私が気にするのっ」
    「そうかな? 俺は公認のカップルって憧れてるんやけど」
    「もう」
    「鈴木かて、いやそうな顔もせんと来てくれたやろ」
    「ほらあ、いやそうな顔してるでしょぉ?」
    純生はしかめ面を誠に向けて言った。二人はしばらくにらみ合って、それから笑い出した。
    窓際の席は日の光が差し込んで暖かい。
    いいお天気!
    濡れて冷たかったブラウスももうだいぶ乾いたようだ。
    もう大丈夫かな・・?
    純生がふと前を見ると、誠がテーブルに肘をついてこっちを見ていた。
    「なあに?」
    「いや、・・お前、胸大きいなあ」
    ブラウスの脇を持ち上げていた純生の両手がさっと移動して胸を隠す。
    「えっち!」
    「別に冷やかしてるんと違うで。そおやって前開けてぱたぱたしてから見えてしまうんや」
    見下ろすといつのまにかブラウスのボタンが3つも外れてブラの端がのぞいていた。
    左右の手でそれぞれのバストを押さえたので、谷間がくっきりとできている。
    「あ、ごめん」顔を赤らめながら、あわててボタンを止めた。
    「鈴木って何カップなん?」
    「・・で、でーかっぷ」
    「それって、普通より大きいんか?」
    「ん、たぶん」
    「女って、大きいのんが自慢なんやろ?」
    「そんなことないよ。体育で着替えるときなんか、結構からかわれるし」
    「女子の間でか?」
    「そう、いきなり後ろから揉まれたり」
    「ふ~ん、すごいなぁ」
    「久住君、恥ずかしいから、そんなに胸ばっか見んといてぇよぉ」
    「あ、悪い悪い。俺、別にそんなつもりや・・」
    今度は誠が慌てて視線をそらせた。
    「・・やっぱり男の子って、興味あるの? 女の子の胸に」
    「興味ない、ことはないけど。・・でも、鈴木が嫌がるんやったらもう絶対にこの話はせえへんから」
    「ごめん」
    「いいよ」
    「・・あれ、何で私が謝るの?」
    「ん? 何でかな」
    斜め上を見ながら頭を掻く誠を見て純生はくすっと笑った。
    ・・帰りの電車は混んでいた。
    どうにか並んで座った二人の横顔を夕陽が赤く染めている。
    「・・そしたら文化祭までクラブ活動するんか」
    「うん。3年はそれで引退」
    「文科系はええなぁ。俺らはもう引退させられて、毎日暇でしゃあないわ」
    「5組のクラス発表は?」
    「えぇと、合唱。俺、どうせぼうっと立ってるだけやし練習もサボってるし。・・鈴木んとこは?」
    「うちは展示。郷土の歴史がテーマ」
    「きょおどのれきし、ねぇ。何か難しそおやな」久住は大げさに眉をひそめて言った。
    「美術部は作品展示やろ? 鈴木はやっぱり絵を出すん?」
    「うん。今悩んでる。なかなか描けなくて」
    「お前、絵がうまいのに、あかんのか?」
    「うん、いっぱい描いてるんやけど、気に入ったのができないのよね」
    「ふ~ん」
    二人は少し黙った。
    やがて沈黙の時間が耐えられないように純生が聞いた。
    「ねえ、受験勉強、してる?」
    「してへんなぁ。ははは」
    「笑っててどうするんよ。・・聞いていいかな? 公立志望?」
    「うん。鈴木は?」
    「私も一応」
    「その、できたら・・」
    「何?」
    「一緒の高校やったらいいなあ」
    「誰が久住君なんかと一緒の高校に行きますか」
    純生はわざと怖い顔をした。
    「いやか?」
    「・・ううん。同じ学校、だったら嬉しい、かな」
    純生の左手と誠の右手が自然と握り合った。
    ・・
    別れ際に誠は背中のリュックから紙袋の包みを出した。
    「これ、友達んとこでゲットしたんや」
    「え、何?」
    「そいつの兄貴のだったらしいけど、俺にくれたんや。俺はもういいから、鈴木にやろと思て」
    「何? 本?」
    「うん。・・言うとくけどそれ、絶対に外で開けたらあかんで。家に帰ってから一人で見ること。家族にも秘密やで」
    「どうして?」
    「それは内緒」誠はいたずらっぽく笑った。
    「そやけど、多分鈴木、喜ぶと思う」
    「そうなん? ありがと!」純生は包みを受け取って笑った。
    「なら、これで。俺、先に行くわ」
    「うん。今日はありがとう」
    「おお! またな」
    誠はそう言うと、雑踏の中を去っていった。
    純生は誠の姿が見えなくなるまで待って、それから包みを自分のバッグに入れて、歩き出した。

    14.プレゼントの中身 ~その夜は一睡もできなかった~
    「!!」
    純生は部屋で誠がくれた本を両手に持って真っ赤になっていた。
    『オールカラー緊縛写真集 美少女縄奴隷』
    よれよれの表紙、半分千切れた背表紙。ページのそこかしこに何かを拭き取ったような跡。
    純生はぜんぜん気付かなかったが、それは明らかに十分に使用済の写真集だった。
    ええっ、何よぉ、これぇ!
    ・・
    (X_X)(@_@)(X_X)(@_@)!!
    ・・
    朝食時、母親が聞いた。
    「すーちゃん、具合悪いんじゃない?」
    「んー、大丈夫」
    トーストをかじりながら純生は答える。
    「目が赤いよ。・・夕べちゃんと眠れたの?」
    「寝たよ」
    「姉ちゃん、彼氏ができてはしゃぎすぎたんとちゃう?」
    弟が茶化す。
    「うるさい! ヨタ!」
    純生は牛乳を一気に飲んで席を立った。
    「私は普通ですよぉだ。それよりあんたも早よせえへんと学校遅れるよ!」
    食卓の弟に向かってあっかんべえをしてから階段を駆け上がった。・・数秒後。
    どどどど。
    突然の音と振動に母親と弟が廊下に飛び出してきた。
    「すーちゃん、どうしたの?」
    「ひぃ~」
    階段の下で純生が腰をさすっていた。
    「もう、落ち着かないんやから。しっかりしなさい」
    「分かってるよぉ、ママ。ごめんなさい~。・・痛!!」
    立ち上がろうとした純生が左足のくるぶしを押さえる。
    「あんた、足ひねったでしょっ。洋太、手拭濡らしてきて」
    捻挫の足は腫れ上がり、純生は学校を4日休むことになった。

    15.誠の見舞い ~初めて、弟以外の男の子が部屋に入ったの~
    翌日の夕方。
    「す、う、ちゃんっ」母親が入ってきてベッドで寝ていた純生に声をかけた。
    「う~ん、何? 今何時?」
    「5時よ。のんびり寝てなんかいられなくなったわよぉ~」
    「何よ、ママ。変な声だして」
    「お見舞いよ」
    「?」
    「久住君っていう男の子」
    「え!」
    「自分のせいで風邪引かせましたかって。礼儀正しくて素敵な彼氏やないの」
    「来てるの? え、あ、・・いやぁ~っ、私パジャマやん!」
    純生は慌てて布団を跳ね飛ばしベッドから降りようとして、左足に体重をかけようとしてその場にうずくまる。
    「つぅ~」
    「ほらほら。落ち着いて、そこに座って。怪我人なんだから寝間着のままでいいの」
    母親は純生をベッドの上に座らせ毛布を膝の上に掛けなおす。
    「ほれ、髪の毛だけとかしときなさい。今上がってもらうから」
    そう言ってヘアブラシと手鏡を純生に持たせると、母親は部屋を出ていった。
    「え、待ってよママ~」
    久住君が来てくれた?
    どうしよぉ~。純生は慌てて左右を見回す。
    あ、そだ頭! 慌てて髪にブラシをあてる。
    部屋のドアをノックする音がした。
    どきん。
    「あの、俺やけど、入ってもいいかな」
    「あ、はい! どおぞ!」
    誠が入ってきた。学校の帰りらしく制服姿だった。
    「その、鈴木が学校休んだって聞いて、俺のせいかなと」
    「大丈夫よ。心配せんでいいから」
    「そやけど、お前この間、結構波に濡れたし・・」
    「そんなんと違うよ。いつものドジで、階段で足滑らしただけ」純生は笑って、湿布を巻いた左足を布団から出して見せた。
    「そうか。そやけど何で階段から落ちたん?」
    「う~ん、それは・・」
    誠からプレゼントされた写真集で一睡もできなかったから、とは言えなかった。
    「まあ、そこに座ってよ」
    誠は純生の勉強机の椅子に座った。
    「・・もしかして、あの本のせいか?」
    「いやあの、その、・・げほっ、げほっ」純生は気管に唾液が入ってむせた。
    誠が手をのばして純生の背中をさする。
    「大丈夫か?」
    「あ、ありがと」
    「入りますよ」母親の声がして、二人は急いで居住まいを正す。
    「はい、どうぞ」
    にこにこ顔の母親が紅茶とクッキーを置いて出て行った。
    ・・
    二人はしばらく下を向いて沈黙する。
    「あ、あの、その、・・本、ありがとう」純生がうつむいたまま言った。
    「ああ、あれ、鈴木の絵の役にたちそうか?」
    「あ、ノートの絵?」
    「うん」
    「あ、あぁ、うん」
    「お前、顔赤いぞ。ほんまに熱あるんとちゃうか?」
    「違うよ。・・大丈夫」
    「そうか」
    「そうやね。あの写真参考にしてノートの絵も描けるんやね。・・今、気が付いた」純生は誠に顔を向ける。
    「久住君やから正直に言うね。・・実はね、私、あれ見ながら、ずっと一晩中起きてた」
    「寝られへんかったんか?」
    「うん。あんな写真見るの初めてで、びっくりした」
    「女にはちょっと過激すぎたかな、あの写真集。・・悪かったな。ごめん」
    「謝らんでもいいよ。・・でも、でも本当にすごいって思ったもん。女の人を、まるでモノみたいに」
    純生の顔がいよいよ赤くなる。
    誠は何も言わずに純生の横顔を見ている。
    「男子って、あんな写真いつも見てるの?」
    「いつもやないよ。ほんと言うと俺も初めて見た」
    「見て、どきどきした?」
    「おお。もうびんびんに、っとごめん」
    「?」
    「でもあれ見てて、お前の顔が浮かんだんや。鈴木、シーノが縛られた写真、一生懸命見てたやろ?」
    「・・うん」
    「俺、そやから、あれもお前が喜んでくれるかな、と」
    「そう。ありがとう。・・でも」
    「ん?」
    「普通の女の子にあんなえっちな写真見せたら、ふられるよきっと」純生はそう言って笑った。
    「そうか。ならその本、持って帰ろか?」
    「え? 何で?」
    「いや、その鈴木がいややったら、俺、持って帰って捨てるから」
    「いいよ。そんなことしなくても」
    「そやけどそれ、ゴミ箱に出したら、お前の母さんは腰抜かすで」
    「あはは。そおやね。・・でも、大丈夫」
    「かまへんのか?」
    「久住君がくれた本やから、机の中に隠して鍵かけて大事にする。それに、ときどきノートの絵を描くのにも使うから」
    「そうか、よかったわ」誠は純生の部屋に来て初めてにっこり笑ってくれた。
    純生も笑う。気持ちが楽になったような気がした。
    「・・そぉや。ね、そこの一番上の引き出しに写真集が入ってるから出してくれる」
    「ああ」誠は写真集を出して純生に渡す。純生は写真集のページをめくった。
    「ね、これね、えっちな写真ばっかりやないのよ。・・ほら、これ見て。この桜の写真」
    純生が指差すページは、夜桜の下に白い着物の女性が逆さに吊られている情景だった。
    「ああ、それ」
    「女の人の回りに花びらが舞ってるでしょ。地面にも落ちた花がいっぱい。こんな中で縛られて、すごく綺麗で、私、うっとりしたもん」
    「鈴木もそうされたい?」
    「え」
    「鈴木もそんなふうに縛られたいか?」
    「いや、あ、私は、私なんて、このひとみたいに美人やないし・・」
    調子に乗って喋っていた純生は急に口ごもる。
    「お前、また真っ赤やで」
    「久住君のいじわる」
    「まあ、いいわ。鈴木が元気なんで本当に安心したわ」
    誠はお盆のクッキーを一枚食べて笑った。
    純生がまだむすっとしているのを見て、もう一枚取って純生の口の前に差し出す。
    「はい、あ~ん」
    つられて開けてしまった口にクッキーを放り込まれ、純生は目を白黒させた。
    「帰るわ」誠はそう言って立ち上がった。
    「うぐうぐ」
    「文化祭で鈴木の絵、見に行くから」
    腰を屈めて正面から純生の頭に両手を乗せ、自分の顔を近づけた。
    どきん! 目の前に誠の顔が近づいてきて純生の呼吸が止まる。
    「足が治ったら、次は遊園地行こ」
    純生は目をまんまるに見開いて、何も言えずに首だけをこくこくとふった。
    「じゃあ。それ、ちゃんと隠しとくんやで」誠は笑いながらそう言って部屋を出て行った。
    「あら、もうお帰り?」
    階下から母親の声が聞こえた。
    「お邪魔しました。早く鈴木さんの捻挫が治るように祈ってます」
    純生は慌てて口の中のクッキーを飲み込んで、大きな深呼吸をした。
    自分の胸を両手で押さえる。そこは4000メートル走りきった後みたいにどきどき鳴っていた。
    はあ、はあ、キスされるかと思ったよぉ~。
    そして自分の唇を指でさわる。
    久住君とファーストキス?
    ちょっと、したかったかな。

    16.純生の作品 ~思い切って描いてみた~
    学校は文化祭の準備が進んでいた。
    左足首をギブスで包み松葉杖を持った純生が美術室で美術教師の三田静子と向かい合って座っている。
    「じゃあ、これを出品するのね?」
    それは純生が休んでいる間に自宅で描いた水彩画だった。
    夜桜の前に着物の女性がたたずんでいる。
    長い髪は乱れた様子で、着物もはだけて片方の肩が見えていた。白い顔に赤い口紅だけが目立っている。
    「中学生の絵にしては色っぽいわねぇ。ポスターか何か見て描いたの?」
    「はい。その、本、に綺麗って思った写真があったので」
    「そうねぇ。確かに綺麗だし、これにしようか」
    静子はそう言って笑ってくれた。

    続き




    キョートサプライズ第12話(3/3)・水色の思い出

    17.文化祭 ~思い出すだけで恥ずかしいよ~
    「ねぇねぇ、もうすぐ5組の発表!」
    芳江が走り込んできて、クラス展示の店番をしていた純生に言った。
    「え、でも当番が・・」
    「あたしが換わったげるから。ほら、久住君の5組やで」
    芳江は強引に純生を立たせて自分が席に座ってしまった。
    純生はしかたなく松葉杖をついて体育館に向かう。
    ・・
    後方扉の隙間から体育館を覗き込むと、ちょうど5組の発表の幕が開くところだった。
    暗幕で暗くした体育館の中は、ざわざわとした生徒達の声でうるさかった。
    はしゃぐ者、歩き回る者。ときどき教師が叱るが一向に静まる気配はない。
    暗い中に杖をついて入るのは怖かったので、純生は後ろの壁にもたれて立ったまま見ることにした。
    舞台の上では5組の生徒が横3列に整列している。
    久住君は・・、一番後ろの右から4人目!
    男子生徒の中で誠の頭だけが一段抜け出て見えていた。さすがに背が高いな~。
    ピアノが鳴って全員がおじぎする。
    「最初の歌です。『雨の日と日曜日は』」
    音楽が始まった。
    ちゃんと歌っているのかどうか分からないが誠も伴奏に合わせて口をぱくぱくさせているようだ。
    ふふ。久住君、おかしい。純生はくすりと笑った。
    3曲を歌って全員がお辞儀した。
    これで終りやね。
    「はいはいっ、皆さん、お待たせしましたぁ。ここで特別コーナー!!」
    突然、大きな飾り蝶ネクタイをつけた男子生徒が舞台に上がってマイクを握った。
    何? 何や?
    ざわついていた場内が静まって行く。
    「われらが久住誠君にコ・ク・ハ・クしてもらいましょぉ~」
    パチパチと拍手が起る。
    「おい、何やねん、俺は知らんぞぉ」
    誠が強引に舞台の前に連れ出された。
    「え~と、報道によると久住君は3年2組の鈴木純生さんとお付き合いしている関係だとか、いかがでしょうか」
    おぉ~っ。一斉に大きな拍手と口笛。
    「こら、お前ら、何を聞くんやぁ~っ」
    「まあ、ここは全校生徒の前、素直に白状するのが身のためだと思いますが、どうですか?」
    そぉ~やぁっ。会場から声。再び拍手。
    「はい、お静かに、お静かに」
    場内は本当に静かになった。皆が舞台上の誠と飛び込みの司会者を見ている。
    「え~、最初のデートは駅前の映画館、2回目は須磨海岸ということですが、間違いないでしょうか?」
    「何で知ってるの?」誠が急に真面目な声で聞いたので、場内はまた拍手と口笛で溢れる。
    「はい! 皆さん、お静かに!」
    ・・
    純生は壁に張り付いて固まっていた。
    皆が舞台に注目しているので、ここにもう一方の当事者がいることに気付かれていない。
    ひえ~。どうしよぉ~。
    「・・では、ここで久住君に今後の決意を語ってもらいましょう!」
    「おっし」誠がマイクを持って話し出した。
    「え~、俺はまだ何も悪いことしてません」
    爆笑。
    「お互い手も握り合ってない、ヘアトニックな関係です」
    「それはプラトニックやろ」
    また笑い。
    「だからぁ、そのぉ・・」
    お~い、どぉした~? スケベ~!! 会場から激しい野次。
    「え~い、うるさいっ、黙れ」誠が叫んだ。
    「彼女はぁ、」
    大きく深呼吸。
    「彼女は、とても素直でいい子です」
    わ~っ。会場が沸く。
    「俺は、がさつで大雑把やから釣合ってるかどうかわからんけど、二人でうまくやっていきたい、と思ってます」
    いいぞぉ~!。拍手と声援。
    「特に今は、怪我して歩くのも不自由してるから、俺が助けてやれたらと思う」
    ・・もお、あかん。
    純生はよたよたと外に出た。
    体育館の中から大きな拍手と口笛が続いている。
    「・・バレー部の久住先輩がカッコいい演説してるんやって!」
    2年の女子が4~5人、渡り廊下を体育館に走っていく。
    純生はそれを横目に裏庭のベンチにへなへなと座り込んだ。・・どおしよぉ~っ。

    18.幸せな日々 ~一躍有名人なんやもん~
    文化祭が終わり、3年生は受験体制に入った。
    「いきなり模試なんて、もうイヤや~」
    芳江が弁当を食べながら言った。
    「すーちゃんは幸せやからええけど」
    芳江の正面で弁当を開きながら純生が赤くなっている。
    「あ~あ、あたしも久住君の告白、聞きたかったな~」
    「いや、よっちゃん、そんなすごいもんでもなかったから」
    「何言うてるんよ、すーちゃん。あのお陰で全校公認のカップルになれたんやんか」
    「う」
    「だいたい、毎朝二人で並んで登校してるやん」
    「あれは、彼が勝手に荷物を持つって家に押しかけてきて・・」
    「『彼』? ええなぁ~。彼、やって」
    「もう、いじめないでよぉ~」
    「そやけど、気ぃつけなあかんで」
    芳江は急に真面目な顔になる。
    「久住君、1、2年の女子からラブレター殺到なんでしょ?」
    「らしいけど」
    「すーちゃん、トロトロしてたら別の可愛い女の子に転ぶかもよ、久住君」
    「えぇ! そうなん? 私、どうしたらいい?」
    芳江は純生の顔を正面から見て、そしてため息をついて言った。
    「そんな真顔で心配されたら、冗談も言われへんやん」
    ・・
    放課後。
    「そうか、明日からは杖なしか」
    「うん」
    純生と誠が話しながら裏門を出て帰って行く。
    純生は松葉杖をつき、誠は純生の鞄と自分の鞄を持っていた。
    「文化祭で鈴木の絵見て思ったんやけど、もしかしてあれ、あの夜桜の写真か?」
    「うん。三田先生に何見て描いたのって聞かれて慌てたけどね」
    「そうかぁ」
    「でも、ちゃんと展示、見ててくれたんやね」
    「当たり前やろ。見に行くって約束したやんか」
    「てっきり忘れたと思ってた」
    「お前、それはひどいなぁ」誠はわざと怒ったような声で言う。
    「あ、ごめん。・・怒った?」
    「怒った」
    「あ~ん、私どうしたらいい?」
    「そやな」誠はちょっと考えてから言った。
    「松葉杖がいらんようになっても、ずっと一緒に帰ってくれること」
    「・・」
    「あかんか?」今度は誠が情けない声で聞く。
    「ううん」純生は顔を横に振った。
    「なら、OKか?」
    「うん!」
    よっしゃあ。歩きながらガッツポーズをする誠。その横で笑う純生。
    「・・ええか、せぇの」
    遠くから野太い声がかけられた。
    「やっけるのぉ~!!」
    振り返るとテニスコート越しに校舎3階の窓から男子生徒が3人身を乗り出していた。
    誠のクラス、5組の教室だ。
    「お、ま、え、らあ、ほっとけ~ぃ!」誠が両手を口にあてて叫び返した。
    「すぅみっお、ちゃ~んっ」3人組。
    「きやすう、よぶなぁ~っ」誠。
    コートで素振りしていたテニス部の女子生徒達が笑っている。
    「くじゅう、の、すっけべぇ~っ」3人組。
    「お前らぁ、よっきゅうふまんやろぉ~!!」誠。
    他の教室からも生徒達が顔を出し始めた。
    「あれ?、鈴木?」
    誠は純生が横にいないのに気付いた。
    純生は真っ赤な顔で歩みを止めず、10メートルくらい先まで進んでいた。
    「ふられるなよぉ~」3人組がまた叫んだ。
    「うっるさぁ~い! ・・あ、鈴木ぃ~、待ってくれ~ぃ!」
    誠が学校中に響き渡るような大声で叫びながら純生を追いかける。
    テニス部の女子達はついにラケットを放り出し膝をついて笑いだした。
    純生は松葉杖をつくのを止め、杖を小脇に抱えて歩き出した。
    そのスピードは怪我をしてないときよりも速かった。

    19.みたび、自縛 ~失敗もたくさん~
    ふう。
    純生は問題集を閉じた。
    もう11時かぁ。
    椅子を立ってベッドに座り、鞄からノートを出す。
    足に怪我をしてから、イラストが10ページ以上増えていた。
    その一枚、大きな木の下で縛られた裸の少女の絵をじっと見る。
    純生はイラストから目を離さず、自分の胸をそっと左手で包むようにして揉み始める。
    「はぁ」
    しばらく揉んでから、純生は机の引き出しから誠にもらった写真集を出して開いた。
    そこには純生のイラストと同じ構図の写真があった。
    桜の木の下で、全裸の女性ががんじがらめに縛られて転がされている。
    ノートのイラストとその写真を並べて椅子の上に開き、自分はベッドに横になって右手を下半身にあてた。
    「あ・・」
    小さな息をもらす。
    純生はこの写真集で、映画やドラマのお芝居とは違う、ただ女性を縛ることが目的の世界があることを知った。
    こんなふうに縛られるのって、どんな気持ちかな。
    裸にされて、おっぱいにも、あそこにも縄が食い込んで、動けなくされた姿を写真に撮られる。
    このモデルさん、美人なのに、可哀想。
    何も悪いことをしていないのに、どうしてこんな目にあうんだろう。
    ・・ああ。
    ショーツの中に右手が入り、割れ目をまさぐる。
    純生は緊縛モデルになった気分で自慰を続けた。
    やがて純生はベッドに倒れて脱力する。
    はぁ、はぁ。
    しばらく休んで、起き上がった。上着を脱ぎ、下着も新しいものに替える。
    机からビニール紐と布紐の束を出す。
    ビニール紐は何種類かの長さのものを切ってそろえていた。
    自分の膝を布紐で縛り、さらにその上からビニール紐で割り縄をする。
    さらに投げ縄を2重に結んだ紐を頭からかぶって通して、バストの少し上の位置に止まるようクリップでブラの肩ひもに留める。
    紐が締まるまでの間、下に落ちないようにするために試行錯誤で編み出した方法だった。
    両手を後ろに回し、クリップが外れていないことを確認してから、背中の輪に手首を通す。
    よし。
    両手を下にぐっと下げる。
    クリップが飛んで外れて胸と二の腕を拘束する輪が締まり、それから手首の輪が締まった。
    成功!
    純生はベッドに転がって自縛の感覚を楽しむ。
    あぁ、久住君・・。
    想像の中で自分を縛るのは誠だった。
    誠が身動きのできない純生の前に立っている。誠が手を伸ばして純生の素肌に触れる。
    ああっ。その感触を想像して純生は身震いする。
    久住君、許して。お願い・・。
    右足の、自由に動く膝から下が爪先までぴんと伸びる。
    もう左足も縛って大丈夫かなぁ。
    ・・
    誠にもらった写真集のおかげで自己流ながら純生は自縛に慣れていった。
    毎晩は駄目と自分で決めていたが、今夜はもう2回目の自縛だった。
    今日は誠が家まで送ってくれた。
    皆に、はやしたてられて恥ずかしかったけど、とても嬉しい。
    だからかな?
    ・・
    ん、ああっ。
    純生はベッドの上で無意識に身体をのけ反らせる。
    腕に力が入り、背中の縄がぎゅっと伸びたような気がした。
    枕元の時計をちらりと見る。午前1時。もうこんな時間。
    私、いったいどれだけ縛ってたんだろう。
    もう寝ないと、電気点けたままだとママに怒られる。
    純生はベッドに横たわったまま大きく深呼吸する。
    それからいつものように手首の輪を緩めようとしたが、ビニール紐は固く締まって緩まなかった。
    あれ?
    もう一度手首をゆっくり回して紐を緩めようとするが、まったく動かせない。
    背筋に冷たいものが走った。どうする?
    大声を出してママを呼ぶ?
    ああ、そんなことできない!
    どうしても一人で結び目を解かないと。
    今度は手先を思いきり捻って結び目に指を掛けた。
    しかし親指と人差し指でかろうじて挟めるだけで、固く締まった結び目を解くことはできない。
    ああ、ほどけへん!
    純生はベッドの上で転がりながら腕に力を入れてもがいた。
    ずる。
    何ミリか、手首の輪がさらに締まり、細いビニール紐が肌に食い込むのを感じた。
    もしかして本当にヤバい?
    首を捻って背中を見ると、手首から先が白くなっているような気がした。
    血行が止まってる。
    どうしよう? どうしよう!

    20.夢うつつ ~眠ちゃったみたい~
    そこは美術室だった。
    純生はモデル台の椅子に座っている。
    「じっとしててね」
    三田静子が純生の髪をとかしてアップにしていた。
    先生、私を綺麗にしてくれているんだ。
    純生は両手を膝に置いてじっとする。
    「さあ、できた。・・動いちゃ駄目だよ。ちょっと待っててね」
    「はい」
    何を待つんかな?
    目の前には美術部員の仲間や後輩が画板を手に自分を囲んで座っていた。
    私、またクロッキーのモデル?
    「じゃあ、鈴木さんを縛ってあげて」
    「はい」
    静子に言われて背中に立ったのは、久住君!
    誠の手には縄束が握られていた。
    純生は背筋を伸ばし、両手を背中に回した。そうするのが自然だと思った。
    誠が黙って純生を縛り始める。
    背中で組んだ手首に縄が掛かり、ぎゅっと引き上げられる。
    あぁ・・。快感だった。
    ふと気がつくと、純生はブラとショーツにソックスを履いただけの姿だった。
    あれ? 私、制服着てなかったっけ?
    純生の全身に縄が生き物のように絡みついている。
    そう、あの写真集のモデルのように。
    「すーちゃん、きれい!」芳江が言った。
    恥ずかしさが沸き起こる。顔面が熱い。
    胸の上下に回った縄が純生のバストを絞るように盛り上げていた。
    どうしよう、谷間くっきり。
    「鈴木ぃ、お前胸大きいなぁ」誠があけすけに言った。
    ああ。
    「久住君、そんな言わないで・・」
    身をよじって胸を少しでも隠そうとするが、何もできなかった。
    目の前では美術部の仲間達がスケッチブックに鉛筆を走らせている。
    あらためて自分が縛られていることを実感する。
    私、何もできないんだ。
    逃げ出すことも、抵抗することも、みんなに背中を向けてうずくまることも。
    久住君が解いてくれない限り、もう何の自由もないんだ。
    腕を縛る縄が痛い。
    「ねえ、ちょっと痛いよぉ」
    返事はなかった。
    手首の痛みが増しているような気がした。
    「ねえ久住君、久住君?」
    ・・
    純生は目を開けた。
    自縛のままベッドに横たわっていた。
    あれ? 寝てた?
    目覚まし時計を見る。午前5時。
    手首の痛みを意識する。思い出した。
    私、紐が解けなくて、もがきながらそのまま。
    絶望の感情が戻ってくる。
    何とかせぇへんと!!
    パパかママが見に上がってきて見つかる前に、何とかせぇへんと。
    もしばれたら、あのノートも写真集も見つけられて、それで久住君とも会えなくなるのかな。
    ああ、ああ、解けないよぉ。
    この紐が千切れたら・・、ん?
    あ、そぉか。
    ふと気付いた。千切れないのなら、切ればいい。
    純生はベッドから転がり起きて立ち上がり、後ろ手で机の引き出しを開けた。
    あった。ハサミ!
    ハサミを右手に持ち、取り落とさないように注意しながら、その先端をビニール紐にかける。
    じょき。あれ、切れてない?
    もう一回。
    じょき。上腕と胸を拘束していた紐が切れて落ちた。
    やった! 手首が下がった。
    痛たたた・・。
    紐の痛みに顔をゆがめながら、手首の輪を切ろうとする。
    こと。ハサミが床に落ちた。
    ああん、もうっ。
    その場でしゃがんで後ろ手のままハサミを拾おうとする。
    手が届かない!
    お尻がどしんと床についた。大きな音がした。
    ひやり。下の部屋に響いたかな?
    あ、それよりも!
    純生はハサミを拾う。そのまま手首の輪にハサミの先を差し込む。
    じょき。手首の痛みが消え、床にビニール紐の残骸が落ちた。
    ふう。純生は大きく息をつきながら、手をついて体を起こしベッドに転がった。
    膝を立てて紐を解く。
    助かったあ~。
    紐の跡がくっきり残った手首を揉む。あ痛たた・・。
    ノートと写真集が目に入った。片付けないと。
    「すーちゃん、もう起きたの?」突然ドアの外で母親の声がした。
    心臓が止まるかと思った。
    「あ、ママ、大丈夫。寝ぼけただけぇ~」
    慌てて返事しながらノートと写真集をベッドの下に放り込む。
    「あんた、電気点けたまま寝たんと違う?」
    「ああっ、忘れてた!」
    かちゃりとドアが開いて母親が入ってきた。
    純生は反射的に両手を脇につけて手首を背中に回す。
    「純生!」
    え?
    「暖房つけっぱなしで、そんな格好で、風邪引いたらどうするの!」
    言われて自分の身体を見る。
    純生はブラとショーツだけの姿だった。

    21.美術準備室 ~静かな放課後の時間~
    「失礼します」
    美術準備室の戸を開けて入る。
    「鈴木さん? あら、ちゃんとナイトを従えてるのね」三田静子が純生とその後ろの誠を見て言った。
    純生はもう松葉杖を使っていなかった。
    「あの、作品を取りに来ました」
    美術部の3年生は文化祭が済むと作品や画材類を持って帰る決まりだったが、純生は怪我をしていたので置いたままになっていたのだった。
    「あ、そうね。でも重いわよ。もう足は大丈夫なの?」
    「それは俺が持ちますから」誠が答える。
    「わかったわ。じゃあ、持って帰ってね」静子は椅子から立ち上がる。
    「悪いけど今から出張なのよ。・・終わったら、ここ、鍵かけて職員室に届けておいてくれるかな?」
    「はい、わかりました」
    静子は立ち上がってコートに手を通しながら言った。
    「もうすぐ期末試験だし、長居しないで帰って勉強するのよ」
    「はい」
    「それと、あなた達のことだから大丈夫だと思うけど・・」静子は振り返って誠の背中を叩く。
    「鈴木さんに変なことしちゃ駄目よ」
    そして部屋を出て行った。
    誠はにやっと笑って舌を出している。
    「なら、いろいろ出すから待っててくれる」純生が言う。
    「へ~い」誠が答える。
    「待ってる間、あれ見せてもらってもいいかな」
    「あれって?」
    「ノート」
    「あのノート?」純生の頬が少し赤くなった。
    「持ってるんやろ?」
    「持ってるけど。・・・うん、見せてあげる」
    純生は鞄からノートを出して誠に渡す。
    「その、笑ったり馬鹿にしたりせんといてね」
    「そんなことせえへんよ」
    誠は椅子に座り、黙ってノートのページを繰り始めた。
    「あ、俺のことは置いといて続けて。・・重いもんとか取りにくいもんとかは言うてくれたら手伝うから」
    「うん、わかった」
    純生はノートを見る誠の反応が気になったが、自分の片付けをすることにした。
    ・・
    美術部員の作品は美術準備室の箱の中に入っている。
    純生はたくさんある箱をひとつづつ開けては自分の作品を探して出していった。
    「それ、文化祭の絵やな」
    「あ、久住君。もういいの?」
    「ああ、ありがとう。大事なもん見せてくれて」
    「それで、どうやった? 私のイラスト・・」
    「うん、どれも上手で感心したわ」
    え? それだけ?
    自分の妄想イラストを冷やかされると思っていた純生は、拍子抜けした。
    「全部、鈴木がいいって思って描いた絵なんやろ?」
    「・・うん」
    「なら俺もいいって思う」
    「久住君、今日はなんか優しいなあ」
    「何言うてるねん。俺はいつも優しい男やで」
    二人は笑いあった。
    「後のほうの絵は、あの写真集見て描いたんかな、って思った」
    「どうして?」
    「その、縛り方が本格的になってるから」
    「やっぱり分かる?」
    「よお考えてみたら、鈴木は女やのに、女の縛った絵描くのは、変わってるんかな?」
    「う~ん、分からへんよ。私は綺麗って思って描いてるだけやもん」
    「そうか」
    「さ、片付け続けるわ。・・これとこの箱、蓋してそっちに積んでくれる?」
    「おお」

    22.クロッキー ~差し込む陽の光が印象的だった~
    20分くらいで純生の画材と作品が揃った。
    「これでいいわ。・・これ全部持てる?」
    「大丈夫」
    誠が画用紙の束を脇に抱えようとすると、何枚かが床にこぼれた。
    「ほら、もう落としてるやない」
    「お前、人にモノ持ってもらってる立場やろ」
    「え? あ、そか」
    「これも鈴木が描いた絵?」
    床に落ちた絵を広げて誠が聞いた。
    「え? あ、それはクロッキー」
    「くろっきーって?」
    「ん~、鉛筆で、さっさっさぁ~って描く絵。1枚5分くらいで描くのよ」
    「へぇ~」
    純生はいたずらっぽく笑った。
    「久住君、描いたげようか」
    「え、俺?」
    純生は準備室に隣接する美術室に誠を連れて行く。
    「そこに座って」
    「ええよ。モデルなんて」
    「いいから座って」
    純生は誠を椅子に座らせ、自分も座ってスケッチブックを開いた。
    「じっとしてね」
    ・・
    期末試験を2日後に控えクラブ活動は禁止されているので、放課後の校内は静かだった。
    美術室は午後の陽が差し込んで明るかった。
    椅子に座らされた誠は時折きょろきょろしては「じっとして!」と純生に怒られた。
    「はい、どう?」
    純生が見せたスケッチブックには、座ってこちらを見る誠の姿が描かれていた。
    「へぇ~、うまいもんやなあ」
    「クロッキーはあんまり得意じゃないんやけどね」
    「次は俺が描く」
    「え?」純生は驚いて誠を見る。
    「久住君が?」
    「鈴木がモデルやで」
    誠は純生を椅子に座らせ、純生のスケッチブックを手にした。
    「まあ、やらせてぇや。さっさっさぁ~とはいかんけどね」
    ・・
    誠は時折親指を顔の前に立てて純生を見ながら「ほぉ~」とか「うわ~ぁ」とか言いながら、スケッチブックに鉛筆を走らせていく。
    「ねえ、ちゃんと描いてるの?」
    「まあ、待ってて」
    「もう」
    やがて、誠は立ち上がって「どうかな」と絵を見せた。
    それは純生の丁寧なクロッキーとは違う、やや荒っぽいタッチで描かれた純生の姿だった。
    「うわ、上手~っ。久住君、どこで勉強したの?」
    「勉強なんかしてへんよ。ただ、鈴木を描きたかったんや」
    「すごい~。ちょっと意外やったなぁ」
    「なあ鈴木」
    「何?」
    「その、変なこと頼むかもしれへんけど・・」
    誠は純生から目をそらすように鼻の頭をかきながら言った。
    「その、もう一枚、描かせてもらってええかなぁ」
    「いいよ?」
    「それで今度は、鈴木をキンバクして描きたい」
    「え」

    23.初めての緊縛 ~一生忘れないよ~
    誠は準備室からタオルを洗って干すためのロープを持ってきた。
    椅子に座らせた純生の手を後ろで合わせて、手首を縛る。
    純生はぎゅっと目を閉じている。
    私、久住君に縛られてる!
    「足も、縛っていいかな」
    「うん」
    手首を縛って残ったロープの余りを椅子の下を通してソックスの足首の上から巻いて縛る。
    それはぜんぜんきつくない縛りだったが、純生にとっては生まれて初めて人から受けた緊縛だった。
    「痛ないか?」
    「ううん」
    「なら描くで」
    「うん」
    誠は純生の真横の位置に座ってスケッチを始めた。
    純生はずっと目を閉じたままだった。
    心臓が爆発するかと思うほど高く鳴っている。
    久住君が私を描いてる。縛られた私を描いてる。あ~あ、私いったい。
    「鈴木」
    「あ、はい!」
    「目、開けられへんか?」
    純生はうっすらと目を開け、こわばった笑い顔を誠に向ける。
    「・・だって、恥ずかしいもん」
    「大丈夫やから、安心して」
    「うん」
    「なら、もっと笑って」
    「え」
    そんな余裕ないよぉ。パニックになった頭で考える。
    だって久住君が久住君が私を縛ってモデルに縛って久住君が。
    「鈴木」
    私縛られてる縛られて絵に描かれてる。
    「鈴木!」
    え?
    気がつくと、誠は鉛筆を鼻と口の間に挟んで、右手を頭上で、左手を腰の後ろでひらひらさせていた。
    純生は一瞬きょとんとして、それからぷっと吹き出した。
    「何やってるのよ~」
    「お、やっと笑ったな」
    「あ」
    「はい、リラックス、イナックス、トートォ、ウォシュレット~」
    「もう、しょおもない。ばぁか。あははは」
    純生は両手両足を縛られたまま笑った。
    「・・はい。できたで」
    やがて誠がスケッチブックを純生の前に持って来て見せてくれた。
    「わぁ、素敵! ほんとにこれ私なの?」
    「この絵、ずっと持っててくれるか?」
    「うんっ」
    「ごめんな、急に縛ったりして」
    「ううん。いいよ」
    「鈴木、綺麗やった」
    突然、誠を近くに感じた。
    あ・・。
    屈んだ誠と座って少し上を向いた純生。
    純生の目が閉じた。
    そのまま二人の唇が合わさる。
    純生は後ろ手に縛られたまま誠のキスを受け入れた。
    短いキスの後、誠は純生を両手で抱きしめる。
    純生も自分の頬を誠の胸に押しつけた。
    あぁ、また心臓、破裂するよぉ~。
    長い時間、またはほんの少しの時間、誠に抱かれていたようだった。
    誠は純生の手足のロープを解いた。
    「立てる?」
    「うん。・・ううん、立てない」
    「?」
    「もっかい、ぎゅっと抱っこして」
    誠は笑って純生を抱きしめた。純生も誠に力いっぱい抱きついた。

    24.エピローグ ~これでお終い、それからサプライズ!~
    「・・それで?」美香が聞いた。
    「二人同じ高校に進んだよ。ずっと彼一筋やったな」
    「純愛やねぇ」
    美香はすっかり冷めた紅茶を飲み干した。
    「初体験も彼?」
    「うん。・・高校2年」
    「そっか。よかったね。それで、彼、久住君は今どうしてるの?」
    「え~っと、高校に上がって急にサッカーやりだしたのよね」
    「へぇ、サッカー」
    「それでインターハイに出たりして」
    「イ、インターハイ?」
    「そう。今は金沢のクラブチームでミッドフィルダーやってる」
    「え」
    美香はおそるおそる聞く。
    「も、もしかして、北陸ラッセルのマッキー久住?」
    「あれ、知ってるの?」
    「知ってるも何も、スーパースターやないの!」
    「まあ、最近ちょっと有名になってるみたい」
    「すご~いっ」
    美香は純生の背中をどんと叩いた。
    「そんな人と付き合ってたやなんて、純生、自慢できるじゃない」
    「付き合ってた、じゃなくて、今も付き合ってるんやけど」
    「えええ!」
    「実は彼、今日オフでもうすぐ家に来るのよ。紹介したげるね」
    「あ、ふ、・・ち、ちょっと待って」
    美香は何回か深呼吸し、それから純生に聞いた。
    「ねぇ、もひとつだけ、教えて」
    「何?」
    「あんた、今も彼に縛ってもらってるの」
    「うん。でも最近はお互い忙しくてなかなか。まあ、私も自縛で腕を上げたからとりあえず寂しくはないかな」
    「ひえ~」
    「ねえ、美香、今日はちょっと変やで」
    ピンポーン。
    「来たかな? ちょっと待っててね」
    美香を残して純生は部屋を出て行く。
    まもなく、背の高い男性を連れて戻ってきた。
    「美香、こっち久住誠君。マコト、同僚の辻井美香ちゃんね」
    「あ、どうも。久住です。スミオが世話になってます。よろしく」
    後ろで無造作に束ねた髪、浅黒い肌と精悍な眉。
    テレビで見るマッキー久住がそこにいた。
    ほ、ほんものやぁ~。
    美香はのけぞりながらひっくり返っていた。



    ~登場人物紹介~
    鈴木純生: 20才。思い出の中では15才。本話主人公。KS/Club-LB のEA/FB。
    辻井美香: 20才。同じくEA/FB。
    久住誠: 純生の同級生。バレー部キャプテン。大人になった現在はプロサッカーリーグの選手。
    坂口芳江: 純生の同級生。
    三田静子: 美術教師で美術部顧問。27~8才くらい。

    鈴木純生さんの中学生時代のさわやか?な思い出です。
    中学生が主人公という点で中学生縄師とカブってしまいましたが、あちらは世界観も執筆時期も違いますし、何より作者は本話が大好きなので気にせず掲載することにします:P。

    純生は、度を過ぎた天然が回りを呆れさせながらも、明るい素直な性格で誰からも好かれています。
    人を疑うなんて発想はこの人の中にはありません。
    美香や佳織からよく「あんたねぇ、そんな呑気でこの先苦労するよぉ」と言われていますが、それほど苦労することなく幸せでいるような気もします。

    ところで作者は昔、何げなく立ち読みしたローティーン雑誌の読者欄で女子中学生の投稿ハガキを見て衝撃を受けたことがあります。
    そこには可愛いイラストの余白に細かい文字でぎっしりと、オナニーが大好きなこと、オナニーのテクニック、そして最後に「裸にされて縄で縛られたいな♥」と書かれていました。
    (女の子らしい手書きのハートマークが印象的でした)
    今でこそネットのコミュニティで中学生の描いたR-18絵も見ることができますが、当時はそういう手段はありませんでしたから、普通の14~5才の女の子が自分の性癖をあっけんからんと晒してることが驚きでした。
    それ以来、私はこの世代の少女達の性の感覚に興味を持ってきました。
    どんどん大人になっていく身体と膨れ上がる性への興味。そしてアブノーマルな行為への願望。
    純生のように自分の想いを秘密のノートに表現しているような中学生は案外多いのかもしれません。

    さて、別れと出会いの春です。
    キョートサプライズの物語は次回でひとまずお開きとなります。
    明るく元気な最終回にしたいと思っています。

    ありがとうございました。




    キョートサプライズ第11話(1/3)・彷徨するM女

    1.コンパニオン
    私、柴田優子がコンパニオンのお仕事についたのは18才のときでした。
    高校を出て就職した会社が半年で倒産し、女性雑誌にたくさん載っている求人広告のひとつに応募したのです。
    せっかく一人暮らしに慣れた頃でしたから、家に戻ろうとは思いませんでした。
    勤めは北陸のある温泉地で、コンパニオン派遣事務所が用意したアパートに住みました。
    もちろん両親には内緒で、ホテルの従業員になったと連絡していました。
    コンパニオンといっても華やかなショーやイベントで微笑むモデルさんのような仕事ではありません。
    お酒の席に呼ばれて、お酌をしたりカラオケを一緒に歌ったりする、いわゆる宴会コンパニオンです。
    お触りもOK、お客様と一緒に野球拳をやったり、もっとセクシーなサービスだってします。
    私は高校生のときはおとなしくて目立たないタイプでしたから、こんな仕事ができるか心配でしたが、やってみると自分に合った仕事でした。
    秋から冬の宴会シーズンになると、ほとんど毎晩座敷に呼ばれます。宴会の規模にもよりますが、女の子4~5人くらいで行くのが一番多かったでしょうか。
    私達はみな極端にスカートの短いスーツで座敷に上がります。
    コンパニオンが登場すると居並ぶお客様から歓声や口笛があがります。
    畳に指をついて挨拶している間、獲物を品定めする狼のような目で見られるのを感じたものでした。
    ビールを注いで乾杯、いよいよ宴の始まりです。
    お酌を受けたり会話を楽しむだけでは済むはずがありません。
    最初は女の子の肩に置かれた手が、だんだん腰、膝と移ってきます。
    それでもよほど露骨にひどいことをされない限りは拒みません。お客様に気に入ってもらうことが大事だからです。
    やがて野球拳や王様ゲームなどが始まって、私達はお客様の餌食にされて行きます。
    それでも一次会では、それほど乱れることはありません。この後、延長に入ってからが大変になります。
    お客様によっては、服を脱がそうとしたり、下着の中に手を入れてきたりします。
    二人三人がかりで押さえつけられるようなこともあるので気が抜けません。
    もちろん、ボタンが取れたり衣装を破られたりしたら、事務所を通して話をつけてきっちり弁償してもらいますけどね。
    お客様のエッチ度は特に警察とか消防関係の団体でひどいです。
    ほとんど裸に剥かれて、強姦まがいの行為をされることもあります。
    日常きちんとした態度を求められる分、反動が大きいのでしょうけど、仲間内ではエロ察、エロ防なんて呼んでいたものです。
    延長タイムはいろいろと大変なのですが、その反面玉代も増えるので、コンパニオンは皆延長タイムを勝ち取ろうとします。
    その場の女の子全員が延長になるとは限らず、コンパニオン同士のバトルです。
    一次会が始まったばかりのときから、この人と決めたお客様には特に愛想よくしたりします。
    その意味では、獲物を狙う狼のような目をしているのはコンパニオンの方かもしれません。

    2.女体盛り
    お客様の中には、コンパニオンの女性と性的な関係を期待される方が少なからずおられます。
    実際、それを積極的に受けるコンパニオンもいます。
    最初からそれ目的のお客様の座敷に出て宴席は適当にこなし、ほんの少し余分なサービスをするだけで何万円も収入が増えるのですから、こんなに楽なことはありません。
    でも病気の危険がある上に、表立ったことになると必ずコンパニオン側が悪いことになるので、私達の事務所ではたとえ自由恋愛であってもお客様とのセックスは厳禁でした。
    その代わり、本番以外のセクシーサービスはいろいろありました。
    座敷の後で指名を受けると、個室のお風呂で混浴したり、お口で抜いてあげたりします。
    スーツの下にアンダーウェアを着用しなかったり、両手に手錠を掛けて座敷に上がるメニューもありました。
    エロ察さんやエロ防さんの宴会では絶対にやりませんけどね。
    私はいつも手錠をハンドバックに入れておいて、ハプニング的にお客様に掛けたり自分に掛けさせてあげたりしていました。
    そして、温泉サービスの王道というか、一番人気があって注文も多かったのが女体盛りでした。
    全裸で仰向けに寝た女の子の胸からお股にかけて、お刺身やフルーツなどを乗せてお出しするのです。
    女体盛がお座敷に届けられると、待ちかねたように一斉の何人もの手が伸びてお箸やフォークでつつかれたり、舌で舐められたりします。
    女の子にとっては、絶対に逃げられない状態で、好きなようになぶられるのです。
    死ぬほど恥ずかしくて、死ぬほど快感です。
    実は私は、女体盛りの予約があるといつも立候補していました。
    事務所でもMっ気のある女の子はけっこうやりたがってましたね。
    手当てもいいし、快感の中でただ喘いでいたらいいのだから、当然かもしれません。
    でも女体盛りは、肌にシミがあったり、胸やお腹がぶよぶよだと絶対にさせてもらえません。
    だから、10人くらいから最後は30人以上まで増えた事務所の女の子の中で、女体盛りができるのは半数以下でした。

    3.まな板の上
    実際にやっていた女体盛りをちょっと詳しく書いてみます。
    女体盛りの予約が決まると、その女の子はその日その時間の前に他のお座敷のお仕事は入れません。
    その変わり、お風呂で体を徹底的に綺麗にします。
    あそこの毛はきれいに剃っておく場合と、そのまま残す場合があります。残す場合は余分な部分を剃ってきれいに仕上げます。
    その後、事務所の上司の女性マネージャーから身体を隅々まで検査されます。もし怪我や虫刺されなどが見つかったら別の子に交代させられます。
    OKになると服を着て、汗をかかないように注意して、ホテルの厨房に入ります。
    そこでは専用の大きなまな板台があって、服を脱いでその上に横たわります。
    両手を頭上にあげて、ベルトで手首を台に縛り付けられます。足首も同じように固定されます。
    これで恥ずかしくてももう身体を隠すことができません。
    女の子が不慣れだとおびえたり暴れたりすることがあるので、白布で目隠しをします。
    私は、視界を奪われる被虐感が好きだったので、すっかり慣れてしまってからもお願いして目隠しをつけてもらってました。
    そして無臭アルコールで身体を拭かれ、お料理が乗せられていきます。
    冷たい食材が少しづつ身体を覆っていくのは快感です。おっぱいなどに載せられるとつい声が出ることもありました。
    作業するのはホテルの板前さんやコックさんです。
    この人たちはとても普通に仕事を進めていて、私が声を出してしまってもそれで驚かれることはありませんでした。
    台の上の他のスペースには、大きな笹の葉やと氷(ドライアイスのパックのこともあります)などが並べられます。
    目隠しをしていると私は自分の身体にどのように料理が盛られるのか見えません。
    一度写真を見せてもらいましたが、とっても綺麗に並んでいて感動しました。そのままショーケースに飾って欲しいと思ったくらい。
    準備ができると、すぐに台全体を大きな布で覆って、台車に載せて座敷に運びます。
    暖かい人肌の上に生のお刺身などを載せるので、せいぜい30分くらいの間に召し上がっていただかないといけません。
    座敷に運び込まれると、それだけでお客様から歓声が上がります。
    まず時間の制限だとか、してはいけないこと(肌に指を触れたりあそこにお箸を突っ込んだり)の説明があります。
    それから「よ~い、始め!」の掛け声とともに布が取り払われます。
    目隠しをしていてもカメラのフラッシュが光るのが分かります。
    そしてお箸で身体中にいたずらされます。いったい何本のお箸で触られているのか分からないほどです。
    「すごいな~」「オレ初めてや」会話がすぐ耳元で聞こえます。「ねえちゃん、感じてるやろ?」などと露骨に言われたり・・。
    乳首をお箸で摘ままれたりするとつい喘ぎ声がでることもありますが、「あ、声が出た!」とすぐに騒がれてしまいます。
    時間はあっという間に過ぎて行きます。
    乱れた息で大きく上下する胸の上から再び布をかけられて、すぐにに座敷から下がります。
    あまり長く置いておかれると、食材が悪くなるだけでなく、興奮したお客様に何をされてしまうかわからないからです。
    直接お触り厳禁なのに舐めるふりをしてこっそり指を差し込まれたり、ひどいときはタバコの火を押し付けられたりするんです。

    4.人魚盛り
    そうして2~3年も経ったでしょうか。
    女体盛りが風俗雑誌やテレビにも取り上げられるようになり、ほとんど毎晩どこかのホテルで女体盛りが行われるようになりました。
    どの事務所でも女の子を増やしました。
    一部には長時間お刺身を女の子の上に置いたり、ほとんど除菌もしないなど衛生的に問題のある女体盛りもあったようです。
    ホテル間で女体盛りが過当競争になってくると、今度はホテル側から各事務所に次々と新しい企画が持ち込まれてきました。
    変わり女体盛りです。
    わかめ酒とのセットコース。(わかめ酒というのは、女性が膝を閉じた股間にお酒を注ぐものです)
    アイスクリームや生クリームを載せる女体パフェ。
    二人の女の子を並べる二体盛り。
    果ては伊勢海老と一緒に汁の中に入る、女体スープ。
    毎月のように新しい女体盛りが考案され、名物となって行きました。
    ある日マネージャーが私に「さっちゃん、あなた縄で縛られた経験ある?」と聞きました。
    さっちゃんというのは、私の源氏名が『さなみ』だったのでそう呼ばれていたのです。
    「いいえ」と答えると「ちょっと新しい女体盛りの企画をうちの事務所で受けたいのよ。やってくれない?」と有無を言わず私がすることになってしまいました。
    指定された場所にマネージャーと一緒に行くと、そこはホテルの倉庫のような場所でした。
    そこにはホテルの企画担当の人とサングラスをかけた男性が待っていました。
    サングラスの男性は田代鬼影(きえい)さんといって大阪では有名なSMの人で、女性を縄で縛る仕事をしている人と紹介されました。
    今日はテストだからと、お風呂にも入れさせてもらえないまま私は裸にされました。
    足先から腰にかけて分厚いゴムの袋のようなものを被せられます。よく見るとそれは人魚の下半身でした。
    内側についたチャックを締め上げると、腰の回りに接着剤を塗られて直接貼り付けられてしまいました。
    人体用の接着剤があるなんて、初めて知りました。
    チャックは内側に隠れているし、接着剤を剥がすにはリムーバという薬が必要とのことで、私はそれを自分で脱ぐこともできなくなりました。
    そのお魚の形の下半身は、私の両足をひとつにまとめて締め付けます。
    膝は折り曲げることができますが、足首はほとんど動かすことができませんでした。
    そして私はいつもと逆にお腹を下にしてまな板台に置かれました。
    あれ? と思っているうちに、鬼影さんに両手を掴まれて後ろ手に縛られてしまいました。胸の上下に縄がかかります。
    突然のことに私は驚いて、解いてくれるように頼みましたが、マネージャーに我慢しなさいと言われました。
    猿轡をかけるように口に縄が咥えさせられ、後ろに引かれます。
    上半身に縄が掛かると、今度は足首、つまり人魚の尾ひれの付け根に縄が縛りつけられ、そのまま背中の方にぐいと引かれます。
    「ああ!」私が悲鳴を上げるのにも構わず、鬼影さんは私の下半身を折り曲げて、縄の反対側を背中に結び付けます。
    尾ひれが髪の毛に触れんばかりに大きく身体を反らした逆海老です。
    そのままお腹から胸までを台に押し付けるように縛り付けられてしまいました。
    私はちょうどお城の天守閣の鯱のように台に固定されたのです。
    転倒しないよう台の間に何本か縄が追加されます。
    残酷な人魚盛りの完成です。私は厳しいポーズのままぴくりとも動けなくなりました。
    「これで回りに刺身を並べます」ホテルの企画の人が言いました。
    「どう?」マネージャーが私に聞きますが、私は縄の猿轡のせいであうあうと喘ぐばかりです。
    「身体が柔らかいですね。この人ならこのまま半時間は大丈夫でしょう」鬼影さんがおっしゃいました。

    人魚盛り

    5.破綻
    人魚盛りは温泉場の新しい名物になりました。
    これをできる女の子は私しかいませんでしたから、私は毎晩人魚盛りで引っ張りだこになりました。
    縛りは鬼影さんから特訓を受けた事務所の男性スタッフがします。
    お座敷ではお客様が歓声をあげて人魚盛りの台に群がってこられます。
    下半身のコスチュームはしっかり肌に接着されていて、お箸を刺し込まれたくらいではびくともしません。
    全身を拘束された私は、微動だにできずに最初から最後まで喘ぎ続けています。
    たとえようのない快感です。
    このまま私を食べて欲しい。自分が切り刻まれて刺身にされる妄想まで浮かびました。
    頭の中が真っ白になり、そして気がつくと厨房で解放されてぐったりしていました。
    毎晩こんなことをやっていて、身体が元気でいられる訳がありません。
    二の腕の縄目は消えることがなく、接着剤を塗られる肌は荒れてひりひりしました。
    腰の痛みに悩まされるようになり、食事が食べられなくなってきました。
    ついに私は過労で倒れ、半月ほど入院しました。
    マネージャーや事務所の人、コンパニオンの仲間は最初は何度か見舞いに来てくれたましたが、やがて誰も来なくなり私は寂しく退院しました。
    人魚盛りは体調が完全に回復するまでドクターストップです。
    事務所に出ると、私の知らない別の女の子が人魚盛りの主役になっていました。
    すっかり肌も荒れて人魚盛りはおろか普通の女体盛りもできなくなってしまい、私は普通のコンパニオンとして何とか座敷に上がらせてもらうだけでした。
    私を人魚盛りに引き込んだマネージャーは同情してくれましたが、それ以上は何もしてくれませんでした。
    食中毒事故が起きたのはそのときでした。
    その夜、ホテルでは女体盛りや人魚盛りが五つ以上も出されていたそうです。
    そこで刺身を食べたお客様のほとんどが腹痛や嘔吐で病院に運び込まれたのです。
    食材が悪かったのが原因のようですが、女体盛りが犯人にされました。
    事務所側には何も落ち度はなかったと私は今でも信じています。
    でも私のいた事務所はその地方の全部のホテル・旅館に出入り禁止となり、やがてつぶれてしまいました。
    私は、壊した身体で他の事務所に移ることもできず、しかたなく大阪に帰るしかありませんでした。
    私は実に4年間、北陸の田舎の温泉で働いていたことになります。
    聞くところによると、その温泉場ではどのホテルや旅館でも女体盛りやコンパニオンのセクシーサービスは廃止になって、温泉場全体が次第に寂れていったとのことです。

    6.再会
    大阪に帰っても、何の技術も資格もない私に普通の仕事はありませんでした。
    とりあえずコンパニオン時代の蓄えはありましたし、いよいよ困ったらまた水商売をすればいいと思いました。
    そこでアパートを借りて身体を養生しながら、ある人を探しました。それは、あの田代鬼影さんでした。
    業界では有名な人と聞いていたので、恥ずかしさをしのんでSM雑誌などを買ってみましたが、名前は見つかりません。
    その頃はインターネットなどは知りませんでしたから、私にできることといえば本や雑誌で情報を探ることだけでした。
    アパートでは人魚盛りを思い出しては一人で自分を慰め、外では鬼影さんの姿を追い求める、そんな生活をして3ヶ月が過ぎました。
    私はすっかり元の健康を取り戻しましたが、鬼影さんにはなかなかめぐり合えませんでした。
    鬼影さんの名前は思わぬところで発見しました。
    それはたまたま病院の帰りにタクシーから見かけたストリップ劇場の看板でした。『鬼才・田代鬼影来る!』
    私は鬼影さんにまた会いたくて一人でそのストリップ劇場に入りました。
    昼間だったせいか客席は空いていましたが、男性ばかりでしたから私は一番後ろの隅の席に座りました。
    ストリップ劇場は温泉場にもあってお客様と入ったこともありますが、正直言ってあまり綺麗なものではありませんでした。
    でもそこで見たストリップはとっても綺麗で可愛かったのです。
    まず踊り子さんの若さが違いました。ダンスのレベルも田舎のストリップ劇場とは大違いです。
    私はつい見とれて、ぱちぱちと拍手してしまいました。
    近くの男性客にじろりとにらまれましたが、舞台の上の踊り子さんはにっこり笑って会釈してくれました。
    そしていよいよ鬼影さんの舞台です。
    鬼影さんは高校の制服を着た女の子を一人連れて登場しました。
    あのサングラス! そう、あのホテルの倉庫で私を縛ったときと同じ、田代鬼影さんその人でした。
    女の子が前に出した両手を縛られていきます。
    白いブラウスに赤いリボン、紺と水色のチェックのミニスカート。とても可愛い制服です。
    本当に高校生のはずはないけど、小柄で幼い感じの女の子でした。観念したような表情が素敵です。
    さらに白いルーズソックスの両足を足首のところで一つに縛られます。
    そして鬼影さんは舞台の上からロープを下ろして少女の手首にかけると、そのまま1メートルほど吊り上げてしまいました。
    頭上にあげた両手首を吊るされて、痛さに耐える少女。
    私は思わず「あ」と声を出してしまいました。
    鬼影さんは目の前に浮かぶ女の子の身体を手でとんとつき、振り子のように揺らします。
    彼女の目がさらにぎゅっと閉じられます。あぁ、可哀想に・・。
    鬼影さんが腰にさしていた黒い紐のようなものを手にします。それは長い鞭でした。
    え、まさか。
    鬼影さんは鞭を振りかざして、宙吊りで揺れる少女の身体を何度も打ち据えました。
    少女はそのたびに小さな悲鳴を上げます。縛られた両足を曲げたり伸ばしたりしてもがきます。
    やがて鬼影さんは少女のブラウスに手をかけてそのまま引き裂きます。スカートにも手をかけて脱がせます。
    ぼろぼろになったブラウスの残骸をまとい、ブラとショーツ、ルーズソックスだけで吊られる少女。
    さらに鬼影さんは鞭を振るいます。鞭打たれるのに合わせて大きく揺れる少女の身体。その素肌にみるみる鞭の痕が残ります。
    私はハンカチを顔にあて、それでも目を話すことができずに舞台を見つめていました。
    少女がぐったりして頭を垂れると、鬼影さんはブラとショーツも脱がしてしまいます。
    小ぶりなおっぱいと控えめなヘア。ビキニの水着の日焼けの痕、そしてその周囲に鞭の痕。
    残酷で、とても綺麗でした。
    鬼影さんが舞台袖に消えた後も、その女の子はしばらくそのまま吊られていて可哀想でした。
    舞台が終わり、私はしばらくその余韻に浸っていました。
    私も縛られたい。頭の中では自分が少女になり替わって宙吊りで鞭打たれるイメージがうずまいていました。
    「ねえちゃん。よかったみたいやな」先ほどにらんだ男性客が声をかけてきました。
    次の踊り子さんのショーが始まろうとしていましたが、私は客席を出て楽屋を尋ねました。
    私が女性だったからでしょうか、鬼影さんのファンだと言うとすぐに楽屋に入れてくれました。
    そこには、鬼影さんと先ほど舞台で縛られた女の子がいました。
    鬼影さんは北陸の温泉場で縛ったコンパニオンのことを覚えて下さっていました。
    「食中毒事件で大変だったようですね」と優しい言葉までかけて下さいました。私は感動して、涙を流してしまいました。
    「どうしましたか?」鬼影さんに聞かれても、私は何も言えませんでした。
    その姿に何かを感じたのでしょう、鬼影さんは後ほど外で会う約束をして下さったのでした。

    続き




    キョートサプライズ第11話(2/3)・彷徨するM女

    7.縄
    待ち合わせの公園には鬼影さん一人で来られました。そしてベンチに並んで座り、私の話を聞いて下さいました。
    「それで、貴女は私に何を望んで会いにこられたのですか?」
    そう聞かれて私は困りました。私はただ、鬼影さんに会いたかっただけで、その後のことは考えていなかったのです。
    「あの、わ、わたし・・、鬼影さんに縛って欲しくって・・」かろじてそう言うのが精一杯でした。
    「仕事だったらどんな人でも縛りますが、自分のためには心に感じた女性しか縛りません」
    鬼影さんは私をじっと見て、そして言われました。
    「あの温泉で貴女を縛ったとき、貴女の身体はとても縄が似合うと思いましたよ」
    「え?」
    「貴女にその覚悟があるのなら、私から逆にお願いしますよ」
    鬼影さんはそういってにっこり笑って下さいました。
    その夜、私はうす暗いホテルの一室で鬼影さんに縛られました。
    ベッドに仰向けに横たわって両手と両足を上下に伸ばしそのままベッドに縛り付けられました。
    そのまま衣服を少しずつ脱がされていきます。
    まるで女体盛りのように、私は一糸まとわぬ姿にされて鬼影さんに間近で観察されたのです。
    宴会の酔客と違って鬼影さんの目にはすこしもいやらしさがありませんでしたが、私はたっぷりと濡れました。
    私が満足できるように、私のための縛りでした。
    3ヶ月間、夢にまで見た鬼影さんに今縛られている!
    縄を解かれた私は嬉しさと興奮で何も言うことができず、「大丈夫ですか?」と聞かれてわずかに首を縦に振るのが精一杯でした。
    鬼影さんはそれだけで私の気持ちが分かって下さったようで、再び縄をプレゼントして下さいました。
    背中に回した両手首を高く捻り上げられて縛られます。顔面には目隠しと猿轡。
    両足を前後に180度近くまで開脚されて、そのまま上半身を後ろに反らされて固定されました。
    身体中の骨がぎしぎしと音を立てるような気がしました。
    鬼影さんは私の身体がとても柔らかいと褒めて下さいました。
    私はもはや言葉を発することができず、ただ鬼影さんのなされることに身をまかせるばかりです。
    鬼影さんは、私を様々に縛られましたが、けっして性的な行為はなさりませんでした。
    ただ、道具を使って私を喜ばせて下さっただけでした。
    私は蜜で濡れたあそこにバイブを挿入されてもがきながら、全身の肌に食い込む縄の痛みを感じ、更にこんこんと蜜を溢れさせたのでした。

    8.影組
    それから、私は鬼影さんを取り巻くM女の一人になりました。
    鬼影さんには、鬼影さんを絶対の存在と慕う女性が何人もいました。
    ストリップ劇場で鬼影さんに鞭打たれていた女の子はその一人だったのです。
    鬼影さんは特定の女性と深い関係にはならず全員平等に接して下さいましたから、女性達の間でも互いに嫉妬したり敵対したりすることはありませんでした。
    今回の私のように、鬼影さんが新しい女性を気に入ったときは、その人を仲間に受け入れました。
    自分一人で鬼影さんを占有しようという女性はいませんでした。またそのような女性は鬼影さん自身が受け入れませんでした。
    仕事やプライベートで、鬼影さんはそのときどきの気分で誰かを縛りました。
    私達は、連絡があればどんな大事な用事でも差し置いて鬼影さんの元に駆けつけました。
    ときには一人だけでなく、二人、三人が同時に縛られることもあります。
    それでも、私達は嬉々として鬼影さんのなさることに服従していました。
    鬼影さんに従うM女達の奇妙な集団。私達はそれを『影組』と呼んでいました。
    私が入って影組は6名になっていました。

    9.撮影旅行
    「柴田さん、お電話ー」
    パート先の職場に電話があり、受話器をとると鬼影さんでした。心がぱっと明るくなりました。
    「ちょっと遠くまで撮影に行くんですが、モデルをしませんか?」
    今となっては一生の思い出になった撮影旅行の誘いでした。
    そのとき私はスーパーのレジ打ちの仕事をしていましたが、すぐに応諾して職場を飛び出しました。
    これでまた首になるなと思いながら。
    その頃私は、いろいろな仕事については首になりの繰り返しでした。
    鬼影さんからの呼び出しは夜昼関係なく入り、その度に無断で仕事を休んでしまうのだから首になって当然です。
    指定の場所に行くと、鬼影さんとあの舞台で鬼影さんに縛られていた女の子が待っていました。
    彼女は愛野マイちゃんといって、まだ19才。影組では一番若い女の子です。
    今回は私とマイちゃんが選ばれたのです。
    私達は黙って鬼影さんに従ってタクシーに乗りました。
    「行き先、聞いてる?」
    私がマイちゃんに聞くと、マイちゃんはにっこり笑って首を横に振りました。
    私もつられて笑います。
    私達にとっても鬼影さんは絶対であり、それだけで十分なのです。行き先などどこでもよいことでした。
    やがてタクシーは空港につき、3人で飛行機に乗りました。飛行機の行き先はミサワというところでした。
    「ミサワってどこ?」マイちゃんが聞きます。
    「東北の方だったと思うけど」私も自身なげに答えます。
    「青森県です」鬼影さんが教えて下さいました。
    三沢空港には、出版社の男性と女性が私達を待っていました。
    男性はカメラマンで浜田さん、女性はメイク兼スタイリストで平井さんとおっしゃいました。
    専門のメイクの人がつく撮影のモデルなんて初めてです。
    私とマイちゃんは何だか嬉しくなり手を取り合って跳ねました。
    5人はワゴンカーに乗って出発します。
    行き先は尻屋岬という海に突き出す半島の先端でした。
    時は4月、大阪では桜が咲こうかという季節なのに、そこはあちらこちらに雪が残る荒涼とした土地でした。
    車を降りると、ごうごうと吹きすさぶ風に身体ごと吹き飛ばされそうになります。
    目の前は灰色に荒れる海です。
    私はジャケットしか着ておらず、マイちゃんにいたっては薄いカーディガンの下はノースリーブといういでたちでした。
    寒さに震えていると、平井さんが私達にコートを着せてくれました。
    撮影が始まります。
    車の中で私達は下着まで脱いで白い着物1枚だけに着替え、平井さんがお化粧をしてくれました。
    履物は渡されず、裸足で外に出されます。身がすくみあがりました。
    そのまま鬼影さんが縄を掛けて下さいます。
    二人、高手小手に縛られて残雪の上に立ちすくむところを浜田さんが撮影して行きます。
    いつまで撮り続けるのかと思うほど時間が立った後、今度は私がそのまま地面に転がされ、マイちゃんがその上に覆いかぶさります。
    鬼影さんは無言で容赦なく縄を掛け続け、私達は身震いしながらそれを受けます。
    ときどき平井さんが使い捨てカイロで私達の足や手を温めてくれる以外は、ずっと寒さの中に放置されました。
    これだけ寒いのに鬼影さんの額には汗が光り、獲物を追う肉食動物のような目で私達を責め続けます。
    私とマイちゃんには鬼影さんがノッているのがよく分かりました。
    たとえ凍え死んでも、この方の作業を止めることなどできません。
    いいえ、鬼影さんのためにここで死ねるのなら、それはむしろ本望です。
    私達の裸足の足は紫色になり、寒さの中縛られて血流を妨げられた両腕も次第に紫色に変わっていきます。
    「田代さん、そろそろ・・」
    浜田さんに言われて鬼影さんはようやく私達の状態に気付いたようでした。
    「ああ、この辺にしておきましょう。二人とも、よく耐えましたね」
    優しい言葉をかけられ、私はにっこり微笑もうとして自分の顔面がすっかりこわばっているのに気付きました。

    10.温泉での撮影
    その夜は近くの温泉の小さな宿に泊まりました。
    お客は私達5人だけでした。
    マイちゃんと一緒に露天風呂に入ると、熱いお湯が痛めつけられた肌に沁みました。
    二人とも手足にくっきりと縄目が刻み込まれています。
    それは私達にとって鬼影さんが与えてくれたご褒美の証なのです。
    「優子ちゃん、太ももの痕が綺麗」
    マイちゃんに言われて「貴女こそ首の周りなんかくっきりよ」と返します。
    しみじみ鬼影さんに手をかけていただく幸せを感じていました。
    とつぜん、後ろでがたがたと音がしたので振り返ると、鬼影さんが服を着たまま入ってこられたところでした。
    「主人の許可を得ました。ここで撮影します」
    浜田さんと平井さんが機材を運び込んできます。
    仕方なく、いいえ、喜んで私とマイちゃんは再び縄を受けることになりました。
    鬼影さんは私達をそれぞれ高手小手に縛り、お湯の中に立たせます。二人とも全裸のままです。
    数分間撮影して、縄を少しアレンジしてまた次の撮影・・。
    1時間も過ぎた頃、浜田さんが人の背丈程もある大きな木の幹を運び込みました。
    白くて、両端は裂けたように折れています。昼間に海岸で拾った流木とのこと。
    私とマイちゃんはその流木を挟んで背中合わせになり、それぞれ背中と膝を縛りつけられました。
    そのまま立っているのが精一杯の体勢です。
    すると鬼影さんが何の躊躇もなく、私達を流木ごとお湯の中に突き落としたのです。
    私とマイちゃんは流木と一緒にお湯の中に沈んで、浮かび上がります。
    わずかに息ができたと思うと、私はすぐに水面下に沈んでしまいました。
    流木を挟んで固定された二人は、水面に浮かぶ流木を中心にくるりと回ったのです。
    マイちゃんより大きくて重い私が水面下に沈むのは当然でした。
    流木の下、私は熱いお湯の中でパニックになりました。
    空気を求めて激しくもがき、鼻と口から何度もお湯を飲みます。わずかに顔面が水面に出ても、すぐにまた沈んでしまいます。
    死ぬ。本気でそう思いました。
    一体どれくらいの時間もがき続けたのでしょう。
    後で聞くと10分近くその状態を撮影したそうですから、結局私は死なずに生き延びたことになります。
    やがてお湯から引き上げられ、流木に縛られたまま床に転がされて私は水を吐きました。
    縄を解いてもらうことなく、わずかの休憩のあと、流木は再びお湯の中に落とされます。
    私だけが溺れそうになるシーンだけでは面白くなかったのでしょうか、今度は、お湯に入った鬼影さんが流木をくるくると回しての撮影です。
    私とマイちゃんは、何回も浮かんだり沈んだりを繰り返してグロッキーになりました。
    「・・この流木、味あるなぁ」
    薄れつつある意識の中、鬼影さんがつぶやいた言葉だけがはっきり聞こえました。

    11.寒中緊縛
    翌日は再び海岸で撮影です。
    昨夜の流木が海岸に据えられ、私一人が流木に縛りつけられました。やはり全裸です。
    両手を頭上にあげて組み、手首、肘、首、胴、膝、足首の順で縄を掛けられます。
    まるで女体盛りをやっているようです。
    ただ、その場所は北の海岸で、私を乗せるお膳はごつごつとした流木でした。
    空は灰色の雲で覆われ、目の前には、強風に押されて打ち寄せる高い波。
    強烈な寒気。でも、背中に当たる流木は不思議と暖かいように感じました。
    ・・ふと気がつくと近くに人の気配がありませんでした。
    慌てて顔をあげて見回すと、視界には誰も見えませんでした。
    ただ荒涼とした風景だけが私を取り囲んでいました。
    置いていかれた?
    ああっ。絶望的な気持ちで何度も周囲を見回します。やはり誰もいないようです。
    あきらめて、頭を流木にのせ、目を閉じます。
    顔面に冷たいものが当たりました。目を開けると雪でした。強風に吹かれて真横に流れる無数の白い点。
    寒さに身体ががたがたと震えているようです。やがて体温を奪われ冷え切って死ぬのは時間の問題でした。
    こんなことが本当にあるのかしら。でも、鬼影さんになら、何をされてもいいから・・。
    私は幸せだったのだろうか、不幸だったのだろうか。
    何か意識が遠くなってきたようでした。
    ・・目が覚めると、私はワゴン車の中で毛布に包まれていました。
    皆さんは何百メートルも離れて私から見えない場所にいて、望遠レンズで私を撮影していたのでした。
    最初から、私が目を閉じて動かなくなるまで放置する計画だったとのこと。
    浜田さんと平井さんは心配したそうですが、鬼影さんが彼女は絶対に大丈夫と保証したのでした。
    私はそれを聞いて、涙を流して泣きました。本当に嬉しかったのです。
    鬼影さんは私のことを分かって下さっている。
    その日はそれ以上私の撮影はありませんでした。
    ・・午後は山の中に入ってマイちゃんをモデルに撮影です。
    木立に囲まれて風は弱いのですが、まだ雪が2メートル以上積もっている場所でした。
    マイちゃんはそこで全裸で縄を掛けられ、雪溜まりの中に投げ込まれました。
    何度も雪の中に沈んで、マイちゃんの若くてつやつやの肌が青く変わっていきます。
    雪面に転がされた彼女にさらにシャベルで雪が掛けられました。
    鬼影さんは周囲を走り回って、マイちゃんの縄や雪の具合をチェックされています。
    ぎらぎらと輝く目。口から泡を飛ばして浜田さんを叱る様子。
    本当に素敵な男性だと思いました。
    午前中、あんなにひどい目にあわされたのに私はまた責められたい気持ちが湧き上がってきます。
    ・・やがてマイちゃんは、雪の中に深く掘られた穴に頭を下にして埋められてしまいました。
    彼女の可愛い素足が2本、雪面からちょこんと生えています。
    その爪先は少し震えているようでした。
    裸で縛られたまま雪の中に埋められたマイちゃん。彼女は今、どんな気持ちだろう?
    やがてマイちゃんを掘り出すと、鬼影さんは何と彼女をそのまま木立の枝に逆さ吊りにしてしまいます。
    マイちゃんは全身の肌が薄紫色に染まり、髪とあそこのヘアに細かい氷が付いてきらきら輝いていました。
    ああ、何て綺麗。
    私はマイちゃんが本当に羨ましくって、仕方ありませんでした。
    「あの・・」
    たまりかねて私は鬼影さんにお願いしました。
    「私も、私も吊るしませんか。・・いいえ、吊るして下さい!」

    12.雪山の逆さ吊り
    私はマイちゃんと抱き合いながら逆さ吊りにされています。
    私の手はマイちゃんの背に、マイちゃんの手は私の背に回されて、それぞれ手首を合わせて縛られていました。
    太陽は西に傾いて、肌を刺す空気の冷たさが増します。
    マイちゃんの全身は冷え切っていました。
    可哀想に。
    私の体温で少しでも温まるように力を入れて彼女をぎゅっと抱きしめます。
    頬を合わせて、背中をゆっくりと撫でてあげます。
    「あぁ・・」
    小さくうめくマイちゃん。
    彼女の乳首が硬くとがって、私のおっぱいを刺激します。
    多分、私の乳首も同じになっているのでしょう。
    私は無意識のうちにマイちゃんの唇に自分の唇を合わせます。
    彼女の身体が少し温まったような気がしました。
    ああ、よかった。
    ・・突然、冷たい衝撃が全身を襲いました。
    鬼影さんがバケツに水を汲んで二人にかけたのです。
    すぐ下の渓流から組んだ水でした。
    雪山から流れる水。
    それは肌をナイフで引き裂かれるような衝撃でした。
    私もマイちゃんも言葉にできない叫び声を上げました。
    ざばっ。
    鬼影さんは何度も渓流まで往復して水を汲んでは、私達に浴びせました。
    マイちゃんの身体が再び氷のように冷たくなりました。
    私は鼻から水が入ってむせ返りました。
    ああ、苦しくて、気持ちいい。
    マイちゃん、生きてる?
    ・・
    気がつくと再び車の中でした。
    私とマイちゃんを鬼影さんが上半身裸で抱いて下さっていました。
    「二人とも、気がつきましたね。・・よかった」
    鬼影さんはにっこりお笑いになりました。
    鬼影さんが自分の体温で、私達を暖めて下さった!
    私とマイちゃんは裸のまま、抱き合って泣いてしまったのです。
    ・・
    そうして2日間の撮影が終わりました。
    私とマイちゃんは寝台列車で大阪へ戻ることになりました。
    鬼影さんは別の仕事の打ち合わせで、浜田さん達と東京へ行かれることになっていました。
    「これ、食べて下さい」
    駅で別れるとき、鬼影さんは駅弁の包みを私達に渡してくれました。
    感激して満足にお礼も言えない私達に鬼影さんは「ご苦労様でした」とだけ言って去って行かれました。
    私とマイちゃんは鬼影さんの姿が見えなくなるまで手を振りました。

    13.夜行列車
    ふと目覚めました。
    青いカーテン、低い天井。枕元に小さな蛍光灯。
    あ、汽車の中。
    でも、振動も音もありませんでした。
    どこかの駅に止まっているのでしょうか?
    それでも私は何の不思議も感じないで、寝台にじっと横たわっていました。
    突然、カーテンの隙間からするりと黒い人影が入ってきました。
    !!
    それは列車に乗る前に別れたはずの鬼影さんでした。
    鬼影さんは乱暴に私の浴衣を脱がすと、覆いかぶさって私の首筋に舌を這わせました。
    ああっ。
    たちまち全身から力が抜けて、私は無抵抗で鬼影さんの侵入を許しました。
    いったいどれくらいの間、私は悶えていたのでしょうか。
    縄を受けるときと同じように激しい時間でした。
    ただ、二人とも何も喋らない沈黙の時間でした。
    気がつくと、私は鬼影さんと並んで座っていました。
    ~ ありがとうございました。鬼影さんがおっしゃいました。
    ~ こちらこそ、こんな女を縛って下さって、とても感謝しています。私は答えました。
    ~ 私はどこまで女を責めたら満足するのか、自分でも分からないのです。
    ~ ああ、どうぞ満足するまで私を責めて下さいませ。
    ~ このままだと、私は女を殺してしまうかもしれない。
    ~ あなたの手でなら私を殺して下さい。
    ~ 殺してはいけないのです。生と死のぎりぎりの狭間で苦痛と快感を味わう女を見たいのです。
    ~ 生と死のぎりぎりにいる私。ああ、何て素敵なんでしょう。
    ~ もっと女を追い詰めないといけないのです。そう、私は終わりのない拷問をしたいのかもしれない。
    鬼影さんは微笑みながら私を見つめて下さいました。今まで見たことのない、不思議な優しさに満ちた微笑みでした。
    ~ 本当にありがとう。
    鬼影さんの声にエコーがかかっているような気がしました。
    ~ 鬼影さん、鬼影さん?
    私は寝台の中で身体を起こしました。
    走り続ける列車の騒音と振動。
    カーテンを開けると、通路側の窓から朝日が差し込んでいました。
    鬼影さんの姿はありませんでした。
    私は浴衣がはだけて下着をつけていませんでした。
    下半身に手をやると、そこには男性の痕跡が残っていました。
    じゃっ。
    寝台の上の段のカーテンが開いて裸のマイちゃんが顔を出しました。
    「優子ちゃん。さっき、鬼影さんが来たよぉ・・」

    14.ニュース
    アパートに帰って何気なくつけたテレビで、そのニュースを知りました。
    私達と別れたその夜、鬼影さんは小さなスナックで酔客同士の喧嘩に巻き込まれ、お腹を刺されて亡くなっていたのです。
    私はその場で座り込んでしばらく動けませんでした。
    『SM緊縛家の哀れな末路』
    事件は週刊誌などで興味本位に扱われ、やがて世の中から忘れ去られました。

    15.失意
    私は何年かぶりで実家に戻りました。
    もう何もする意欲はありませんでした。
    何度か影組の仲間達から電話がありましたが出て行きませんでした。
    あの雪の中で責められた情景を思い出しては毎日一人で自分を慰めて過ごしました。
    抜け殻のようになった私を両親が支えてくれました。
    母親は私が家を出ている間にどういうことをしていたのか、うすうす分かっているようでした。
    しかしそれについては何も言わずに、ただ毎日優しく接してくれました。
    両親と3人で温泉に旅行に行ったり、美術館やクラシックのコンサートに出かけたりしました。
    私はそんな両親に感謝しながら、次第に元気になっていきました。
    そして半年後、私はお見合いをしたのです。

    16.お見合い
    私のような女に似合う男の人などいないと思っていました。
    もしそんな人がいるとすれば、鬼影さんのように凶暴な愛で私を包んでくれる人だけでしょう。
    それでもお見合いに応じたのは、自分を愛してくれる両親の気持ちに答えたかったからでした。
    ホテルのロビーで私は粟倉孝治さんという人に会いました。
    粟倉さんはとても静かで優しそうな人でした。
    一流のメーカーに務めるエンジニアだそうです。
    私の過去のことは何も聞かずに、自分の仕事や夢について語ってくれました。
    技術の仕事のことはちんぷんかんぷんだったけど、一生懸命頑張っているのは分かって素敵だと思いました。
    私みたいに水商売や怪しい緊縛モデルをしてきた女とは無関係な世界の人だとも思いました。
    いい人だけど。
    何回かお会いした後、私は自分の本当の過去をお話しして縁談を断ろうとしました。
    粟倉さんは黙って私の告白を聞いてくれました。
    「何か影のある経験をされたんだろうな、と思っていました」
    彼はそう言い、それから次の週に京都へ行こうとさそってくれました。
    詳しいことは何も説明してくれませんでした。
    ただ、そこでありのままを見て欲しいとだけおっしゃいました。

    続き




    キョートサプライズ第11話(3/3)・彷徨するM女

    17.Club-LB
    京都に来るのは高校生のとき以来です。
    あの頃は若くて、夢があって、テレビの男性アイドルに夢中でした。
    そう、あのときはそのアイドルのコンサートに友達と行ったのです。
    秋晴れの空に東山の紅葉がよく映えていたことを覚えています。
    今、私は再び晩秋の京都に来ています。
    寒々とした曇り空は私の心を映しているようです。
    過ぎ去った年月と変わってしまった自分をしみじみ感じました。
    南禅寺の辺りで湯豆腐の昼食をいただいた後、タクシーに乗って連れられてきたのは殺風景な倉庫街でした。
    「ここは・・?」
    「これが私のいるもう一つの世界です。・・驚かないで、黙って見て下さい」
    粟倉さんはそう言って私を倉庫の中に招き入れました。
    薄暗い中では、数人の男女が作業をしていました。
    木製の大きな水車のようなものを調べているようです。
    反対側に回って、私は声にならない叫び声を上げました。
    そこには、灰色の着物を着た女性が囚われていたのです。
    伸ばした両手と両足、それに胴体の部分をそれぞれ水車の縁に縛り付けられ、弓のように身体を反らして拘束されています。
    女性は泣きもせず、笑いもせず・・、そう、切なげな表情で周囲を見ていました。
    粟倉さんが水車に近づいて行くと、先にいた男性が粟倉さんに声をかけ、粟倉さんも何か技術的な返事をしていました。
    「始めるよ」
    水車の下には金属製の水槽が置いてあり、男性がその中にホースで水を注ぎ始めました。
    やがて水嵩が増して、水車の下半分が水の中に沈みます。
    モーターのスイッチを入れると、水車はゆっくりと回り始めました。
    水車の周囲に縛り付けられた女性は、足先から水面に入っていきます。
    そして反対側で水から出て、水車の周囲をぐるりと回り、手前に来ると再び水中に沈んで行くのでした。
    それは拷問でした。
    女を責めて苦しむ姿を楽しむための拷問でした。
    私の目の前で、彼女はいったい何回水の中を潜ったでしょうか。
    この人は決して泣き叫んだりしません。
    ただじっと目をつぶって、苦しさに耐えているだけでした。
    その姿は、残酷で可哀相で、とても綺麗でした。
    久しぶりに見る本物の責め。
    私は両手を口に当てて、彼女を凝視するだけでした。
    心の中で眠っていた被虐への願望がむくむくと湧き上がるのを感じました。
    どれくらいの時間が経ったでしょうか、ようやく水車から解放された女性は、濡れた着物を脱いで毛布に包まり、ぐったりと横たわりました。
    私は、その場にいた島洋子さんという方に紹介してもらいました。
    島さんは、Club-LB というSMサークルを主宰されているということ。
    水車に縛り付けられていた女性はシノブさんというM女でした。
    シノブさんは新しく完成した拷問装置のテストのために人体実験を受けていたのです。
    そして、驚いたことに、この水車を設計したのは粟倉さんだというのです。
    粟倉さんは会社勤めの傍らこのような器具の開発をプライベートでやっていたのでした。
    もともと趣味で拷問具の研究をしていたのが高じて、拘束具を作るようになったそうです。
    島さんは鬼影さんの事件をご存知でした。
    業界では有名な人だったので驚いたとこと。
    「貴女が望めば Club-LB で縛ってあげることもできます。とても鬼影氏の代わりにはならないけれど」
    そう、確かに鬼影さんの代わりにはならない。
    あの鬼気迫る縛りと情愛の代わりはどこにもない。
    でも、今は島さんの気配りが嬉しい。
    それに、私はシノブさんの拷問を見て感じていました。
    私の身体は、このどうしようもない女の肉体は、再び縄を欲していたのです。
    私は Club-LB で縄を受けることにしました。

    18.被虐再び
    Club-LB ではM女を会員宅に配達するサービスをしていました。
    私は臨時のM女として、週に2回このお仕事を受けたのです。
    たいてい、私は着物姿で縄を受け、目隠しに猿轡を施され、そのまま木箱などに詰められます。
    配達された先方のお宅では、緊縛師がお客様の前で私を様々に縛り上げて責めます。
    島さんには厳しく容赦なく責めて下さいとお願いしていましたから、江戸時代の女囚拷問などの実演が多かったと思います。
    久しぶりに味わう被虐の世界でした。
    私は縄に酔い、責められる痛みに酔い、人前で貶められる境遇に酔いました。
    あるお客様がおっしゃいました。
    「この人は本当のM女やな。どんなに厳しい責めでも呑みこんでしもうて、更なる責めを求めておられる。見ている私らのことは忘れて、別の世界におられるようや」
    そう、私はお客様のことは意識していませんでした。
    ただ厳しく、みじめに、徹底的に貶められることだけを求めていたのです。
    ときには、前回の責めで肌に刻まれた縄跡が消えないまま、新たな縄を受けたこともあります。
    この身体などどうなってもいい、自分の性癖を満たすことで鬼影さんのいない寂しさから逃れたい。
    私はそんな風に思っていたのかもしれません。

    19.シノブ
    その日は二人のM女が責められるお仕事でした。
    私と一緒に縛られたのはシノブさんでした。
    シノブさんはスリムでプロポーションがよくて、とても綺麗な女性でした。
    私とシノブさんはそろって石抱きの刑を受けました。
    石抱きとはぎざぎざのある板の上に正座させられて、更に膝の上に重しの石を載せられる拷問です。
    私達は高手小手に縛られて背中あわせの状態で正座させられます。
    そうするだけで、敷板のぎざぎざが脛に当たって相当な痛みです。
    苦しんでいるうちに、膝の上に重しが追加されていきます。
    「!!~っ」
    悲鳴をあげようにも、口に猿轡を含ませられているので声が出せません。
    声にならない叫び声をあげながら、ただ悶え苦しむしかないのです。
    ああ、でも、私はまだ満足しません。
    私は身体をゆすって首をぶんぶん振ります。
    傍目には、苦しみから逃れるためにもがいているだけに見えるでしょう。
    でも、本当は痛みと苦しみが増すように、わざとやっているのです。
    そのまま石抱きが何十分か続いた後、今度は息つく暇もなく二人揃って逆さ吊りにされました。
    頭の下に水の入った水槽が置かれ、その中にざぶんと頭から胸の辺りまで沈められます。
    呼吸が続かなくなる寸前まで沈められ、それから引き上げられます。
    私達は、何度も何度も水の中に頭から沈められました。
    隣でシノブさんが「げぼ」と口から水を吐いています。
    多分私も吐いているのでしょう。
    私のような女には生と死の境で苦しむ姿が似つかわしいのです。
    意識が薄れ、朦朧としてきます。
    一瞬、鬼影さんの顔が浮かび上がって、消えていきました。
    気がつくと私は縄を解かれてゴザの上に横たわっていました。
    身体中に残る痛みで顔がゆがみます。
    みじめさと寂しさが混じった気持ちでした。
    シノブさんが横に座って、タオルで私の髪を拭いてくれていました。
    私と目が合うとシノブさんは何も言わずにただ微笑んでくれました。
    Club-LB に来て、こんな風に優しくされたのは初めてでした。
    「何も言わなくてもいいわ」
    シノブさんはそれだけ言って、私の頬にそっと触れてくれました。
    私は衝動的にシノブさんにぎゅっと抱きつきました。
    ああ、鬼影さんに抱きしめて欲しい。
    私を鬼のように責めたてて、その後心の底から愛して下さる鬼影さんに抱きしめて欲しい。
    シノブさんは、膝にしがみついて泣く私の背中を、ただ黙って優しく撫でてくれていました。

    20.シノブの申し入れ
    次の週のオフの日、私はシノブさんに誘われて食事に行きました。
    二人とも Club-LB での話には触れずに、好きな食べ物の話やたわいもない雑談で盛り上がりました。
    シノブさんはとても落ち着かれた女性なので年上かと思っていましたが、私と同い年でした。
    私は今まで、同年代の女友達と仲良くしたことがありません。
    女同士でぺちゃくちゃとお喋りをするのは、どちらかと言うと苦手でした。
    でもシノブさんと一緒にお話しする時間はとても楽しくて、私は久しぶりに少女のようにはしゃいでしまいました。
    食事が終わってレストランを出たとき、シノブさんが真面目な顔になって自宅に来て欲しいと言われました。
    それはとても大事なお話のように思えたので、彼女の家にお邪魔することにしたのです。
    シノブさんは西宮のマンションに一人でお住まいでした。
    「ここは住まい兼仕事部屋なんです」
    シノブさんは北見四川というペンネームで小説を書かれているそうです。
    北見四川といえば、私でも知っている新進の女流SM作家です。
    Club-LB で私と一緒に拷問を受けたM女のシノブさん。
    そのシノブさんがそんな有名人だったなんて、私は驚いてしまいました。
    「クラブで私のことを知っているのは、洋子さんと粟倉さん、他少しの人だけ。優子さんも内緒にしてね」
    なぜシノブさんは私にそんな秘密を教えてくれたんですか?
    「これを・・」
    見せられたのはシノブさんが男性と一緒にいる写真でした。
    その男性は、鬼影さんでした。
    「作家デビューしてから出版社の人に紹介されて、鬼影さんには親しくしてもらってたの」
    シノブさんは、鬼影さんに縛っていただいたんですか?
    「ええ、紹介されたその日に。あの人は魔法みたいに私の本性を見抜いたわ」
    そうなのか。シノブさんは鬼影さんを知っている。鬼影さんの縄を知っている。
    「優子さんと鬼影さんの関係は少しだけど聞いているわ。だから、私もあなたと同じ、鬼影さんのドレイ仲間なの」
    シノブさんはそういって笑いました。
    「思うんだけど、優子さんは Club-LB にいても幸せになれないわ」
    え。
    「あなたには主(ぬし)が必要。もう鬼影さんはいないけど、鬼影さんに代わってあなたを大事にしてくれる主が要るわ」
    シノブさんは私の目をまっすぐ見つめて言われました。
    「これは私だけの意見じゃないの。洋子さんや粟倉さんも同じ。クラブには一人のFBに特別な想いを持ってくれるお客様はいないわ」
    私の心の中では鬼影さんがただ一人の主様です。鬼影さん以外の主様なんて、考えられません。
    「そうね。無理に押し付けられることではないわ。ただ、このままクラブにいたら、あなた身体を壊して立ち直れない。それだけ分かってね」
    ・・はい。
    「こんな仕事をしてるから、パートナーを求めている人を紹介してあげることもできるわ。・・もちろん、その人に家庭があるかどうかなんて、関係ないでしょ?」
    少し、少し考えさせて下さい。
    「うん。・・ごめんなさいね。おせっかいだと思ったけど、放っておけなくて。・・優子さん、昔の私に似てるから」
    シノブさんにですか?
    「ええ。昔は、自分に生きる意味なんかない、いつでも殺されて構わないと思って、ただ責められることを目的に縛られていたわ」
    ああ、それは今の私の気持ちと同じかもしれない。
    シノブさんは机の上から万年筆を取って言いました。
    「今の私が何とか一人前に生きられるようになったのは、この万年筆と洋子さんに出会えたお陰」
    マンションの玄関で別れ際、シノブさんが教えてくれました。
    「さっき、鬼影さんに縛られたって言ったでしょ? その後、鬼影さんに言われたの」
    何て?
    「あなたはM女だが心は乾いていませんね。そんな人を縛るのは私でなくても大丈夫ですよ、って」
    鬼影さんがそういうことを言う人だったとは思いませんでした。
    あの頃、鬼影さんを取り巻いていた女性達は、何かに満たされない女だけだったのかもしれません。
    もしかしたら鬼影さんも、そんな女達を放っておけなくて縄を掛けて下さっていたのでしょうか。
    シノブさんは私の手を握って言いました。
    「鬼影さんとの時間は一生の宝物として大事にしまって、それからあなたを愛してくれる新しい主様を見つけて、その人に尽くすの。優子さんの心も潤うわ、きっと!」

    21.決心
    私は Club-LB のお仕事を休んで、しばらく一人で考えることにしました。
    大阪駅から飛び乗った特急電車はほんの2時間ほどで北陸に到着します。
    昔働いた温泉場は、知らないホテルや旅館ばかりになっていました。
    記憶にあるストリップ劇場や大人の玩具店なども消え、猥雑な印象は薄れているようです。
    それともそれは今が昼間だからで、夜になればピンクや紫のネオンが光り出して妖しい雰囲気になっていくのでしょうか。
    初めて鬼影さんに出会ったホテルの倉庫も訪ねてみましたが、建物がすっかりなくなっていて駐車場に変わっていました。
    私はそこに置いてあったベンチに座って、休憩しました。
    もし私がコンパニオンにならず、この温泉場にも来ていなかったら、今頃はどんな人生を歩んでいたでしょうか。
    鬼影さんと出会うこともなく、縄で縛られて快感に喘ぐような女にはなっていなかったかもしれません。
    気がつくと、前の道路を女性が3人連れ立って歩いていました。
    3人ともまだ二十歳前くらいに見える若い女の子です。
    汚れたジャージ姿でおしゃれも何もない姿ですが、髪だけは綺麗で、それぞれ自分の頭に手をやって気にしながら歩いています。
    コンパニオンの美容室帰りです。
    私も事務所の仲間達とそうやって美容室に入ったものです。
    夜な夜な宴会でサービスするコンパニオンが、まだこの温泉場にはいるのです。
    誰かが冗談を言ったらしく、3人の明るい笑い声が聞こえました。
    あの娘たち、ここで頑張っているんだな。・・今は苦労するかもしれないけど、幸せになって欲しいな。
    理由もなくそう思いました。
    それから私も立ち上がって歩き出しました。
    公衆電話を見つけると、テレホンカードを挿してシノブさんの連絡先をダイヤルしました。

    22.旅立ち
    ホテルのパーティ会場で、私は久しぶりにスーツを着て緊張していました。
    近くではシノブさんが着飾った姿で、他のお客と歓談しています。
    「優子ちゃん!」
    突然声を掛けられて振り向くと、Club-LB の島洋子さんと粟倉さんでした。
    「え、どうしてここに?」
    「妙子さ、いやシノブさんが教えてくれたんですよ。優子さんの旅立ちだからって」と粟倉さんが言われました。
    「そんな。まだ何も決まってないのに・・」
    今日は作家北見四川の単行本の出版記念パーティでした。
    よりによって、ここで男性を紹介するとシノブさんが私を呼んだのです。
    こんな目立つ場所でどうしようとするのでしょうか。
    突然会場が薄暗くなって、正面にスポットライトが当りました。
    「・・それでは、縄師水無月氏によるパフォーマンスです。本日、水無月氏には、北見四川の強い希望でお越しいただきました」
    背の高い若い男性が小柄な可愛いモデルと一緒に登場し、シノブさんと握手しています。
    モデルの女の子は女子高生のような衣装を着ていて、いつか鬼影さんがストリップ劇場で縛ったマイちゃんのようでした。
    縄師の男性が縄をふるい始めました。
    場所が場所ですから裸にはせず着衣の緊縛ですが、彼女の半袖の腕やミニスカートの素足にも縄が遠慮なく食い込んでいきます。
    モデルの女の子は観客の前でみるみるうちに縛られて、パイプで組まれた台から逆海老に吊られました。
    その時間はほんの5分ほどでしょうか。
    「さて、会場にお越しの女性の方、水無月氏が縄掛けして差し上げます。ご希望はありますか?」
    「はいは~い」島さんが手を上げかけて粟倉さんに止められました。
    「冗談よ」
    島さんはそう言って笑うと、私の手を取りました。
    え。
    反対の手が粟倉さんに取られます。「これは冗談ではありませんよ」
    私はじたばたする暇もなく、島さんと粟倉さんに左右を押さえられて正面に連れ出されました。
    前ではシノブさんがにこにこ笑っています。
    近くにいくと水無月さんはとても背の高い人でした。
    水無月さんは私に向って軽く会釈すると、縄束を手にされました。
    それから私は後ろ手に縛られ、膝と足首も拘束されてやがて直立できなくなり、斜めに傾いたまま吊られてしまいました。
    「あ・・」
    服の上からの緊縛でしたが、それはしっかりと女体を捕らえて包み込むような縛りでした。
    「優子さん、こんにちは」
    小さな声が私に呼びかけます。
    声の方を見ると、私の上に吊られているモデルの女の子が縛られたままウインクしてくれました。
    「Club-LB のナツキです。頑張りましょうね!」
    ああ、もしかして、これは全部、島さんと粟倉さんとシノブさんが仕込んだこと?
    でも私は怒る気になりませんでした。
    それどころか、こんなハプニングを準備してくれた3人に感謝したいくらいでした。
    私の自由を奪う水無月さんの縄はとても気持ちがよくて、私はただぼうっとその感触を楽しんでいました。
    結局、ナツキさんと私はパーティの間そこに縛られたままでした。
    ・・
    パーティが終わって、シノブさんが改めて水無月さんを紹介してくれました。
    「今、水無月さんは撮影のモデル兼助手を探してらっしゃるの。よかったらしばらくやってみない?」
    「俺は・・」
    水無月さんが言われました。
    「俺は、特にこの女性というものは求めていない。ただ仕事がうまく進めばそれでいい」
    思わずびくっとするほどの、太くて大きな声でした。
    「今日も、北見さんから頼まれたから来ただけだ。座興で一回縛っただけで、あなたと合うかどうかも分からない」
    そう言って、水無月さんは自分の荷物をまとめられました。
    「今日はこれから別の仕事があるんで失礼します。・・どうしても助手をしたければ来て下さい」
    それから足早に部屋を出て行かれました。
    どうしよう?
    私は困った顔をしてシノブさんを見ます。
    「追いかけるのよ! あの人は人当たりは恐いけど、本当は優しくていい人よ」
    さあっ。
    シノブさんは私の背中を押して一緒に廊下まで出ました。
    「あの、私・・」
    「さあ、行きなさい。そして精一杯尽くすのよ。・・大丈夫。鬼影さんに愛されたあなただから、きっと水無月さんにも愛されるわ」
    私はシノブさんを残して走り出しました。
    前をずんずんと歩いていく水無月さんの背中を追いかけて。

    23.2ヶ月後、KS事務所
    「あ~あ、これじゃ駄目だわ」
    ソファにふんぞりかえった島洋子が、原稿用紙の束を手にぼやいている。
    「何それ」KS企画演出担当の三浦みずほが洋子に聞いた。
    「例の柴田優子さんに、妙ちゃんを通して手記を頼んだのよ。女体盛りとか珍しい経験をしてるからクラブの会報に載せようと思って」
    「それが使えないの?」
    「M女とご主人様の情愛物語になっちゃってるのよ、これ。・・うちには向かないわ」
    「へえ、ちょっと見せて」
    みずほが優子の手記をぱらぱらと読んでいると、事務所に石原妙子が入ってきた。
    「こんばんわ」
    「あら、噂をすれば」
    石原妙子はFBシノブ、作家北見四川の本名である。
    「その後、優子さんはどう?」
    「ずっと水無月さんについているみたいですよ。この間、初めてプライベートで縛ってもらったって喜んでました」
    「そう。幸せなのね」
    「多分。でも人の幸せとか不幸なんて、他人が推し量れるものじゃないですから」
    「それはそうねぇ」
    「優子さん、想いが一途な人だし、受け止める男性も大変かも・・。水無月さんはきっと大丈夫だと思いますけど」
    「ええ~っ、粟倉くん、優子さんとお見合いしてたの~?」突然、原稿用紙をめくっていたみずほが大きな声を上げた。
    「そうなのよ。私もそれ読んで初めて知ったわ」洋子も笑って言った。
    「今回妙子ちゃんの次に活躍したけどねぇ。相変わらず影は薄いし、お嫁さんもらうのは当分無理みたいねぇ」
    「そういえば、みずほさんは幸せになるって聞きましたけど」妙子が聞いた。
    「え? 何のこと?」みずほが目を反らして答える。
    「どうも!」野村典子が事務所に入ってきた。
    典子はあのパーティで縛られたFBのナツキである。
    「あら、北見センセイ。久しぶりです」
    「それはやめてよ、典ちゃん」
    「だって、本当に驚きましたから。私、北見センセイの作品の大ファンだったんですよ」
    「他の人には内緒にしてね」
    「それは大丈夫です!」
    「お願いよ。・・ねえそれより、みずほさんのこと聞いてる?」妙子がみずほの話題を典子に振った。
    「え、ご結婚の話のこと?」
    「あわあわ」みずほがまた慌てた。
    「長谷川さんですよね? 披露宴の2次会はKSでやろうって真奈美さん達と話してますけど。・・えっとまだ秘密のつもりでしたっけ?」
    「みんな知ってるの?」みずほが聞く。
    「見てれば気付きますよ。分かってないのは高校生コンビの二人と、後はじゅんちゃんくらいかなぁ」典子は当たり前のように答える。
    「あっちゃぁ」みずほが天井を見上げた。
    「あんたねぇ、もう裸の王様なんだから、いい加減に公表しなさいよ」洋子も突っ込む。
    「2次会はキョートサプライズの総力を上げて盛り上げますからね!」と典子。横で妙子が口に手をあてて笑っている。
    「あ~、優子さんの話が何でこんな展開で終わるのよぉ~」みずほがぼやいた。



    ~登場人物紹介~
    柴田優子: 23才。本話主人公。元宴会コンパニオン。田代鬼影の縄を受けるM女になる。
         鬼影亡き後もその影を慕う。
    田代鬼影(きえい): 50台半ばと思われる。緊縛師。優子とマイの緊縛撮影の後、不慮の事故で死亡する。
    愛野マイ: 19才。鬼影を取り巻くM女の一人。優子と一緒に寒中緊縛の撮影旅行に行く。
    浜田・平井: 緊縛撮影に同行したカメラマンとスタイリスト。
    粟倉孝治: 31才。拷問具製作の技術担当。エンジニアとしてメーカー勤務。優子を Club-LB に連れてきた。
    石原妙子: 23才。Club-LB で最も厳しい責めを受けているFB。SNはシノブ。本業は女流SM作家。
    水無月: 若手緊縛師。優子の新しい主?
    島洋子: Club-LB 代表。

    一生をご主人様のために捧げると誓うM女。
    主の男性と奴隷の女性の間で交わされる情念の世界。
    そんな世界を代表するような薄幸のマゾ女性がKSにやってきたらどうなるでしょうか。
    主人公の手記という形にしたこともあって、今話はKSのシリーズの中でも暗くて重い雰囲気になりました。
    エンディングだけ、KSらしくおちゃらけさせました。

    宴会コンパニオンのモチーフは、かつて現役コンパニオンさんのホームページや掲示板で知った内容です。
    このお話を仕上げるにあたり、久しぶりに6~7年前のブックマークを訪ねたらすべてなくなっていました。
    昔働いた温泉場を久しぶりに訪ねたら、すっかり変わっていて驚いた優子さんのような心境です。
    この物語が書けたことを、この場にてお礼申し上げます。

    さて、次回はじゅんちゃんこと鈴木純生さんの個人編になります。
    明るくてさわやかなキョートサプライズです。ご期待ください。
    ありがとうございました。




    キョートサプライズ第10話(1/3)・佳織2

    1.会談
    京都駅近くのホテルのロビー。
    島洋子が黒いスーツの中年男性と対面して座っている。
    「ですから、二階堂先生は今後正規の会員としては認められない、ということです」
    「二階堂の行為がほめられたものでなかったことはおっしゃる通りです。しかし会員の禁止行為が規約に明示されている訳ではないですし・・」
    男性は眼鏡のふちに指をやる。
    「与党の代議士である二階堂の援助を受けられることは、島さんとしても何かと好都合かと思うのですが」
    「私は Club-LB の代表者として、FBの安全を守る義務と責任がございます」洋子は毅然と言う。
    「規約には、FBの取扱の自由は『紳士淑女たる Club-LB の会員に付託』とあるはずです。・・先日のあれは、決して紳士的とは呼べないものでした」
    「このようなことは申し上げたくないのですが・・」
    「?」
    「少し調べたところ、あのクラブは正式に営業許可を得た事業者ではないようですね」
    「え?」
    「それに、従業員の女性を箱詰めで派遣するなど、人権上もいろいろ問題がありそうだ」
    「橋本さん、何をおっしゃりたいのか分かりませんが、もし私どものクラブのことを表沙汰にされるつもりでしたら、先生のことも世に出ますわよ」
    「・・」
    「二階堂先生ご自身が十分反省なさってそれなりの態度を示していただければ、しかるべき期間を置いて会員に復帰いただくことは決してやぶさかではありません」
    「・・」
    「しかし今日のように秘書の貴方を寄越されて脅しめいた事をおっしゃるのでしたら、今後一切お会いすることもないでしょう!」
    洋子は立ち上がり、ハイヒールの音を響かせて歩み去った。

    2.三条大橋
    京都の遅い紅葉シーズンも終わろうとする頃。
    「佳織~!」
    KSのEAである野村典子は、同じEAの小嶋佳織の姿を見つけて手を振りながら駆け寄った。
    「待った?」
    「ううん、5分ほど」
    「で、どうやったの?」
    「純生と二人で話して聞いてもらったよ」佳織は典子の手を両手で握る。
    「洋子さん、考えとくってっ」
    「そう? やったっ~」
    ・・
    典子が新たにFBとして参加した Club-LB のことは、仲のよい佳織にも秘密だった。
    しかし佳織は典子の変化に気付き、問いただして事実を知ったのだった。
    佳織はクラブに衝撃を受けたが、自分もFBとしての参加を希望した。
    「EAとは違うからね。貶められる気分は素敵だけど、人間としては最低の扱いかも・・」
    典子に言われたが、それでも気持ちは変わらなかった。
    その結果、美香にも相談して純生を誘い、佳織と純生の二人で洋子に直談判したのだった。
    洋子は突然の申し出に驚いたようだったが二人の気持ちを聞いた後、「わかったわ、また連絡するから」と言ってくれた。
    ・・
    典子と佳織が居酒屋に入ると、美香と純生が先に来て待っていた。
    「洋子さん、聞いてくれたんやってね」
    「うん!」
    「誰に聞いたのかって聞かれへんかった?」
    「それは、自分から言っちゃった。えへへ」
    「ごめんね。典子さん達、怒られないかと後で思ったんだけど」
    「いいよいいよ。そん時は皆で拷問でも何でも受けよ」
    「きゃはは。そうよね、FBなんやからね!」
    4人の嬌声が沸き起こる。

    3.洋子からの呼び出し ~純生~
    薄暗い練習場。洋子とみずほ、純生と長谷川がいた。
    みずほはKSの企画演出担当、長谷川はKSの技術担当でクラブの緊縛士でもあった。
    「純生ちゃんはEAとして1年程だし、本当はもっとKSで経験してもらってから意志を確認しようと思ってたわ」
    洋子が言う。
    「でも、こうなった以上、あなたの覚悟が本当ならクラブの仲間として歓迎するわ」
    「はい、ありがとうございます」
    「長谷川くんはクラブの緊縛士でもあるの。KSとは全然違う縛りになるのは、もう分かってるわね?」
    純生の喉がごくりと鳴った。
    「・・はい」
    「それで、早速だけど純生ちゃんの気持ちを確認させてもらうわ」洋子。
    「別に取って食べてしまうじゃないから、心配しないで」みずほ。
    「着てるものを全部脱いでくれるかな? 下着も全部」長谷川。
    純生は一瞬躊躇したが、すぐに着ていたトレーナーに両手をかけて脱いだ。
    スカートのホックを外して、下に落とす。
    ブラウスのボタンを下から一つずつ外して脱ぐ。
    ソックスも脱ぎ捨てる。
    スポーツブラとショーツだけになって純生は、ブラのホックも外しかけて動きが止まる。
    大きく深呼吸した。
    そして背を向けてブラを外す。Eカップの胸が揺れるのが後方からでも分かった。
    左腕で胸を覆いながら、3人の方に向く。そして右手をショーツの脇にかける。
    「はい、そこまで」突然洋子が言った。
    純生はびくっとして動きを止める。
    みずほが純生の肩から毛布を巻くように掛ける。
    「いい覚悟だったわ。純生ちゃん」
    「うん、きっといいFBになれるよ」
    純生はそのまま床に座り込んだ。
    「・・OK、ですか?」
    「ごめんね、試すみたいなことやって」
    「あの、・・長谷川さん」純生の顔が赤くなる。
    「ん?」
    「私、どこかに火がついちゃったみたいです。・・縛って下さい。FBとして」
    長谷川がちらりと洋子とみずほを見る。目で頷く二人。
    「わかった」
    ・・
    純生の肌に縄が食い込んでいた。
    豊満なバストは二組の縄で絞りあげられ、純生の呼吸を肉体的にも精神的にも困難にしていた。
    首から下がる2本の縄は、途中の数箇所で左右から引かれて張力を保ち、ショーツの上から股間を割り込んでいた。
    「ん・・、あぁぁ!」
    純生の口から声が漏れた。

    4.自縛
    外はすっかり暗くなり、暖房のない練習場は冷え込み始めている。
    縄を解かれた純生は毛布に包まって床に座り、ポットから入れた紅茶をすすっていた。
    「あ、あは。・・恥ずかしいです」沈黙に耐えかねて喋り出す。
    「私、あんな声出すなんて、思ってませんでした・・」
    「綺麗だったわ。純生ちゃん」洋子。
    「あとは自分が感じるだけじゃなくて、それでお客様を感じさせるようになってね」
    純生は自分のおでこをぴしゃりと叩く。「あ、そうですよね。じゅんちゃん、今日はちょっと乱れ過ぎちゃいました~」
    「まだ少しハイみたいね」みずほが言う。
    「あ、はい。もう無茶苦茶に。今だったら私、何でもしますよ。・・あ、そうだ」
    純生は背筋を伸ばして身を起こした。毛布がずれてバストが露わになる。
    「私、特技をお見せします・・」
    「?」
    「縄、借ります」座ったまま縄束を持った。
    毛布の下から素足を突き出し、自分の足首に縄を巻きつける。割り縄を入れて、縛る。
    更に脛から膝、太ももまでを順番に縛る。
    「これで、下半身を縛りました」
    「自縛?」みずほが聞く。
    「はい。これでも、結構うまいんですよぉ~」
    純生は毛布を完全にはだけ、別の縄を取る。
    背中からバストの上下に縄を3回ずつ巻き、ぎゅっと絞って後ろで結ぶ。
    背中から首の左右に2本を回し、胸の下の縄に固定する。
    さらに別の縄を手首に巻きつけ、さらに割り縄の形にして口に咥えて引き絞る。
    ぞのまま口に咥えた縄を胸の間の縄に通して、結び目を作る。
    横向きに倒れて縄の一端を口に咥え、そのまま頭を後方に反らす。
    手首の縄が締まり、両手は胸の前で固定された状態になった。
    「完成ですっ。う~ん、っとぉっ。・・はぁ」
    純生は前縛りのまま、身体を起こして床に体育座り状態になる。
    「器用ねぇ」洋子が感心する。「純生ちゃん、いつそんなの練習したの?」
    「実は、中学生の頃からベッドで一人でやってたんです。・・これってお客様にお見せできますか?」
    3人は互いに顔を見合わせて苦笑する。
    「純生ちゃん・・」長谷川が言う。
    「それ、自分で脱出できる?」
    「あ、はい。いつもちゃんとやってますから・・。と、締め過ぎちゃって自分では解けませんね。えへへ」
    「えへへって、純生ちゃん、それだと困るんじゃないの?」
    「あ、あの、その」興奮した頭で純生は考える。
    「あ、そうだ! 絶対に自分で脱出できない自縛をするんですよっ」
    みずほがずっこける。
    「あの、私、思うんですけど・・」純生は喋り続ける。
    「FBさんがですね、あ、FBさんって私のことですけど、・・最初は自分で脱出できる自縛をやって、あ、やんっ」
    勢い込んでバランスをくずし、その場で横向けに倒れる。
    「それでですねっ、一旦解いて、それで、今度は絶対に解けない自縛をやって、え~、それで、今度はお客様に解いていただくんですっ」
    とうとう洋子とみずほが吹き出した。
    「純生ちゃん、面白い~」
    「ありがとうございますっ」
    「いや、内容じゃなくって、純生ちゃんがなんだけど」
    「あ~ん、私、一生懸命なんですよぉ~っ」純生は縛られた両足をばたばたさせる。
    「長谷川くん、解いてあげて」
    洋子に指示されて、長谷川が純生の縄を解いた。
    「や、・・あっ、ひゃん・・」長谷川の指が肌に触れると純生はのけぞって声を出す。
    長谷川は全部の縄を解いてから「ご苦労さん」と彼女の左の乳首をきゅっとつまんだ。
    「んっ、あぁ!!」
    純生は再び大声をあげ、横倒しで動かなくなった。その両手は自分の胸を包み込むように押さえて、そのままゆっくりと揉んでいた。
    「イッたね」洋子が呟く。
    「うん。激しい子・・」みずほも呟く。
    「ところで行雄、あんた最後に何やったのよ」
    「いや、その直前でもたついてるみたいだったから、楽にしてあげようと・・」
    「こら!」

    5.洋子からの呼び出し ~佳織~
    翌日、同じ練習場。
    下着姿の佳織が立ち尽くしていた。洋子とみずほが見守る。
    長谷川が佳織の後ろに立ち、その両手を高手小手に捻って縛っている。
    「あ・・・」小さな声が漏れる。
    胸の前に垂れる縄が股間から後ろに回される。
    佳織は前屈みになってうつむく。
    縄が引き絞られると、佳織の眉間にわずかに皺が寄る。
    洋子の目が何かに気付いたように光る。彼女は長谷川に何かを耳打ちする。
    「わかりました」
    長谷川の責めが変化した。
    彼の指が佳織の素肌を軽く撫でる。
    「あ・・、あん、・・ぁ」再び声が出る佳織。身体をくねらせるようにして喘ぐ。
    長谷川の指は佳織の胸の谷間を泳いで、次第に下半身に移る。
    「ひ・・、あ」
    へその下から股間に指が移動しようとする。
    突然、佳織の両足に力が入り、進入する指を拒もうとした。
    長谷川は黙ってその両膝に手をかけて開かせ、そのまま太ももの内側に進む。
    「・・やぁっ!」
    佳織はぎゅっと目をつぶったまま叫んだ。
    ショーツの中に入ろうとした指が止まり、そして離れていった。
    「?」
    しばらくして佳織は不思議そうに顔を上げた。その目に光るものが見える。
    「長谷川くん、ご苦労様。・・縄をほどいてあげて」洋子に言われ、長谷川は佳織の縛めを解く。
    「佳織ちゃん、落ち着いたら服を着て事務所にいらっしゃい」
    洋子はそう言って練習場を出ていった。
    みずほと長谷川は、仕方ないという表情で片付けを始める。
    佳織は興奮のさめやらない状態のまま、床に転がるように座り込んだ。
    彼女の息はまだ荒かった。

    6.典子のワンルームマンション
    ドアを開ける典子。
    玄関先で佳織が自分より小さな典子に抱きつき、そのまま動かなかった。
    佳織の背中が小刻みに揺れている。
    典子は優しくその背中を撫でながら、佳織を部屋に連れて入る。
    ドアがばたんと閉まった。

    7.予約
    藤本病院の院長、藤本慎太郎から洋子に電話がかかってきた。
    「非常に頼みにくいことなんやけど・・」
    藤本はKSの後援会長で、Club-LB の古い会員でもある。
    「二階堂さんやけどな、わしを通してサービスを申し込んでこられたんや」
    「あ、二階堂先生は、もうクラブの会員ではないんですのよ・・」洋子が答える。
    「それが、申し込んでこられたんは、クラブやのうてKSなんや」
    「まあ」
    「先方のおっしゃるのには、先日のことは申し訳なかった、当分の間クラブの方は遠慮するから、KSを利用したい、と」
    「何を言ってくるかと思えば」洋子は怒り出す。
    「あの人はですね・・」
    「あ、ちょっと待って島さん。わしも何があったかだいたい聞いとる。あの人、ミサトちゃんに、その、乱暴しようとなさったんやろ」
    「そうですよ。たまたま三井くんが早めに行って止めたんだけど、今度は彼がボディガードに叩き出されそうになって」
    「で、彼女の方は無事やったんか?」
    「ええ。ガムテープで全身巻かれたまま転がって逃げたようです。FBが無防備なのはお客様を信じているからなんですよっ」
    「あの人もマミー拘束なんか選ぶから、コトにおよべんかったんやな。・・あ、失敬失敬!」
    「だから、いくら藤本先生でもあの政治家のセンセイはお断りです」
    「その、実は、ここはわしからも島さんに土下座して頼まなあかんことになってしもうたんや」
    「どういうことですか?」
    「あの先生、地域医療の政策に関しては大変な力をお持ちで、うちの病院もいろいろとお世話になってるんや」
    「・・・」
    「今回も、その、わしが断ったらちょっと立場がなくなる羽目に陥るんや」
    「そう脅されたんですか?」
    「・・はっきりと言われた訳ではないんやけども」
    「本当にあきれた! 藤本先生もしっかりして下さいよ。昔は正義感にあふれた立派な外科医だったじゃないですか」
    「今も正義感にあふれた外科医のつもりなんやけどな。・・先方は決してアホなことはせん、そっちから男性を付き添わせてかまわん、と言うてはるから」
    「そういえばあの人、藤本先生の紹介でクラブの会員になられたんでしたね」
    「うん。昔はもっと誠実な感じの代議士やったんやけど。奥さんなくして変わらはったんかなぁ」
    「そんなことはどうでもいいです」
    「島さん、そう言わんと、今回はあんたの仲人もやったわしの顔に免じて飲んでくれへんか」
    「もう」
    藤本には、KSやクラブだけでなく、プライベートでも昔からずいぶん世話になっている。
    「・・わかりました。前向きに考えます」
    「すまん。ありがとう!」
    「はい、はい。・・で、どの女の子を希望されてるんですか?」
    「それはカオリちゃんとナツキちゃんや」

    8.事務所
    典子、佳織、それに黒川が洋子から説明を受けている。
    黒川はもともとKSとクラブの配達運転手のバイトだったが、長谷川について今は緊縛士としても腕を上げている。
    「・・という訳で、明日の夜の出張を頼みたいの。演目はイリュージョンとエスケープで」
    「わかりました」
    「佳織ちゃん、大丈夫?」
    「大丈夫です。頑張りますから」
    「付き添いは黒川くんにお願いするから。・・長谷川くんはこういう話になると腰が引けちゃって、てんで駄目なのよ」
    「はい」
    「彼はね、こう見えても剣道3段なのよ」
    へぇ~、という顔をする佳織。
    とうに知ってますよという顔で笑う典子。
    「あの、それから悪いんだけど女の子は梱包配達になるの。異例だけど、それだけ大物のお客様なのよ」
    「わかりました」佳織が典子の顔を見て言う。典子は佳織ににっこりと笑う。

    9.二階堂亭
    50メートルは続く塀。大きな門。
    黒川の運転するトラックはその門をくぐらずに、裏手の使用人・業者用の門に回る。
    トラックが車寄せに止まると、男性が二人出迎えた。
    荷台から荷物が下ろされ台車で屋敷内に運び込まれる。
    ・・
    棺桶のような箱の中、典子と佳織は重なり合うように入っていた。
    狭い暗闇の中に閉じ込められているが、会話や多少の身動きはできるので楽だった。
    「着いたかな?」佳織が小声で聞く。
    「みたい」典子が答える。
    やがて頭上で鍵を開ける音が響き、蓋が持ち上げられる。光が二人に降りそそいだ。
    まぶしい!
    典子と佳織は思わず目をつぶる。まるでいきなりスポットライトを当てられているみたいな・・。
    「まだ目が慣れてないので、ライトを当てるのは待って下さい」黒川の声がする。
    箱の中に向かって差し出された強力ライトが消された。
    二人は起き上がって周囲を見回す。そこはうす暗い部屋だった。
    ライトを直接見たせいか、目がちかちかしてはっきり見えない。
    床はコンクリート。壁も天井もコンクリートのようだった。ここ、地下室?
    「驚かせて申し訳なかった。どうぞ出てきて下さい」
    男性の声がした。典子と佳織は箱から外に出る。
    初老の男性と若い女性が椅子に座っていた。二人とも和服姿だった。その横にはグレーの背広を着た中年の男性が立っていた。
    このおじさん、テレビで知ってる。誰やったっけ? 典子は考える。
    「二階堂です」あ、そうか。国会議員の二階堂貞夫。
    「・・それと、これは妻の志津」女性が微笑みながら頭を下げる。洋子よりも若そうな美人だった。
    「こっちは秘書の橋本」横の男性が会釈する。
    何気なく部屋の端を見ると、入り口とおぼしき鉄扉の横に黒いスーツにサングラスの男性が二人立っていた。
    ひゃ、何か悪の組織のアジトみたい!
    「本日はありがとうございます。カオリとナツキです」二人は膝をついて挨拶する。
    佳織は黒い皮のジャケットにパンツとブーツ、典子は白いブラウスとピンクのフレアミニスカート。
    「こんな寒々とした部屋で済みませんな。ここにしか設備がないもので・・」
    二階堂が目で指す方を見ると、天井に電動ホイスト(巻き上げ機)と垂れ下がったワイヤとフックが見えた。
    橋本は仕事があるので後はよろしく、と出て行った。
    その間に黒川が道具類を部屋に運び込んで、準備が整った。
    黒川がテレコで音楽をかける。観客2名だけのプライベートショーが始まった。

    10.地下室のショー
    佳織が大きなハンカチを広げて持つ。ハンカチを振るとその中から銀色に光る手錠が現れた。
    典子の両手を後ろに回させて手錠を掛ける。
    佳織がジャケットをはだけて広げ、典子はその陰に隠れてくるりと回転する。
    前に出てくると、典子はいつの間にか前手錠になっていた。
    典子は再び佳織の背に立ち、手錠の両手を差し上げて佳織の首に掛ける。その手を佳織が両手で押さえる。
    そのまま二人でゆっくりと回る。一回転すると手錠は佳織の左手と典子の左手に掛かっていた。
    二人は手錠で繋がった手を持ち上げて見せる。
    佳織がしゃがんで典子のスカートの中から手錠をもう一個取り出す。
    それを典子の左右の足首に掛ける。
    典子は両足を交互に上げて走るような動きで繋がった両足をアピール。
    そして倒れこむように佳織に抱きかかえられ、お姫様抱っこになる。
    その状態で佳織がその場で一回転すると、佳織の右手首に手錠が掛かって典子の左足首とつながっていた。
    自由な右足をぴんと上に伸ばして見せる典子。
    佳織と典子は踊りながら、何度も手錠で互いの手首と足首を連結・解放した。
    最後は、床にうつ伏せになった典子の右手と左足、左手と右足をそれぞれ手錠で繋ぎ、全身を大きく逆海老に反らせたところで終わった。
    ほほぅと感心する二階堂。すごいという顔をしてからにっこり笑う志津。
    ・・
    演目は続いて典子の胴切りになる。
    いわゆる Thin-Box Sawing だ。
    薄い箱の蓋をあけて典子を中に寝かせる。頭と足首が端から出るようにして蓋を閉める。
    箱の前面の扉を開いて典子の胴体が入っていることを見せる。扉から手を出して振ってみせる典子。
    そして箱の中央に銀色のブレードを挿し、箱を二つに分けてしまう。
    典子の上半身と下半身を入れた箱がそれぞれ別の台車で運ばれる。
    その間、典子の顔も足もちゃんと生きて動いている。
    そして佳織は念を押すかのように、それぞれの箱の中心に上から剣を刺して下まで突き抜けさせてしまう。
    剣を抜き箱を連結して上蓋を開き、典子を外に出す。
    箱の前でポーズしてお辞儀する二人。
    広く行われているメジャーなイリュージョンだった。
    しかし二人の観客は初めて見るらしく、箱の薄さと切断されてもにこにこ笑っている典子に大いに驚いてくれたようだった。
    ・・
    「では、最後にエスケープアートです。これはいわゆるマジックではなく、タネはありません」
    典子が説明する横で、佳織がレザーのジャケットを脱ぎ捨て白いタンクトップ姿になる。
    仁王立ちになって目をつぶり深呼吸、乱れた息を整える。
    エスケープアートとは、縄や様々な拘束具で自由を奪われた演者がそこから脱出するパフォーマンスである。
    鍛錬を積んだ者にかかれば多少の拘束は容易に脱出できる。その意味では確かに『タネはない』。
    しかし、縛り方によってはエスケープは著しく困難であるか、不可能になる。
    だから絶対に脱出できる縛り方をする。素人はそれを見抜けない。その意味で『タネがない』は正しくない。
    典子は縄束を手にする。
    「OK」佳織が合図すると典子が佳織に近づく。二階堂と志津が身を乗り出す。
    典子は佳織を後ろ手に縛り、更に上腕と胸の上下に縄を掛ける。
    下半身に移り、膝と足首を順に縛り、それぞれ割り縄を掛ける。黒いアイマスクを出して佳織の顔につける。
    天井のホイストからフックを降ろし、床に座らせた佳織の足首の縄に掛けて吊り上げる。
    モータの音とともに佳織の身体が吊り上がり、やがて完全に逆さ吊りの状態になる。
    「どうぞ近寄って、ご覧になって下さい」
    二階堂と志津が近寄って、ゆらゆら揺れる佳織の縄の状態を見る。
    「しっかり縛られているようですな。これで本当に脱出できるのですか?」
    「成功するか失敗するかは彼女次第です。・・じゃ、初めましょう」
    二階堂と志津が椅子に戻ると、佳織は戦いを開始する。
    両腕を縄から引き抜こうとするかのように、上半身を左右に揺する。
    逆さに吊られた身体全体が大きく振動を始める。
    いくら引っ張っても切れない縄を引きちぎろうとでもするように、歯を食いしばってもがき続ける。
    実際の縄抜けには意味のない大げさなアクションである。
    その目的は、演技の迫力を増すこと、そして観客から縄外しの技を見えにくくすることである。
    振動と同時にワイヤがねじれて、上下逆の佳織の身体はゆっくり回転している。
    「く・・」声が漏れる。
    もがき始めて2~3分も経った頃、佳織の背中からぽろりと縄が一本垂れ下がる。
    「おおっ」二階堂がうめいた。
    佳織は作業を止めない。やがて佳織の上半身にまきついた縄がぼろぼろとすべて抜け落ちた。
    「はぁ、はぁ、・・」
    ゆっくり両手を顔に当ててアイマスクをはずす。そのまま両手をだらりと伸ばして荒い息を続ける。
    寒い地下室の床に佳織の汗が落ちる。
    呼吸を落ち着けると、両手を上に伸ばして前屈する。
    「んんっ・・」何とか天井からのフックを左手で掴み、残った右手で足首の縄を解く。
    突然、佳織の片足がフックから離れ、続いて反対側も離れる。
    すとん。フックを両手で持ってぶらさがるように床に飛び降り、そのまま床に尻をついて膝の縄も解く。
    典子が駆け寄って佳織を支えて立たせる。
    笑顔の典子と、かろうじて立っているという様子の佳織がそろってお辞儀した。
    ちょっとオーバーアクション過ぎたかな。佳織は内心ぺろりと舌を出す。
    二階堂と志津がぱちぱちと拍手をした。
    「いや~、素晴らしかった!」

    11.食事
    「さあ、上の部屋へどうぞ。皆さんにわずかばかりのものを用意しました」
    「いや、気遣いしていただかなくても結構ですから・・」
    黒川が断りかけるが「まあまあ・・」と別室に連れていかれてしまった。
    ・・
    コンクリート張りの地下室と違って、その部屋は明るく暖かだった。
    テーブルには5人分の食事。若い3人には普段口にすることができないご馳走だった。
    「ブルゴーニュの98年ですぞ」
    「どうぞ」
    志津がワインをグラスに注ぐ。
    黒川は運転があるからとアルコールを断ったが、典子と佳織はもともと嫌いではない。
    「え、いいんかなぁ?」と言いながら飲んでしまう。
    食事は美味しく、二階堂は会話が上手だった。
    最後のコーヒーを飲むころには、KSから来た3人は笑いながら、冗談まで飛び出していた。
    「ところで・・」二階堂が言った。
    「さっきのエスケープ、とやらは本当に感動しました。カオリさんは大変な訓練を積んだんでしょうな」
    「いや、まあ・・」手を振って照れる佳織。
    「たまたま腕時計を見たんだが、脱出に4分少しかかりましたな」
    あれ? ・・普通のお客さんは時間なんて気にしないんだけど。このおじさん、細かいなぁ。
    「同じエスケープでも、そのときの調子次第で時間は変わるんです」
    「さっきの調子は如何でした?」
    「そうですね~、・・まあまあ、かなぁ」
    「今度はもっと短い時間で縄抜けに挑戦されてはどうですかな? ・・いや実は、ぜひもう一度拝見したいと思っておりまして」
    一瞬顔を見合わせる3人。同じネタを繰り返すのは禁則だ。でも・・、
    「ご馳走いただいたんだし・・、じゃあ、も一回やりましょうか」佳織。
    「そうね。やらせていただきます」典子。
    「仕方ないか」黒川。
    ・・
    再び地下室に移動する。
    階段を下りる途中で、橋本が現れた。
    「黒川様、恐れ入りますが、車を移動させていただけませんか?」
    「あ、はい。・・あと頼むね」黒川は典子と佳織に目配せして、橋本について行った。

    続き




    キョートサプライズ第10話(2/3)・佳織2

    12.罠
    地下室で二階堂が言った。
    「ひとつ提案なんですが、カオリさんが脱出してナツキさんを助けるといういう趣向はどうですかな」
    「へ?」
    「ナツキさんは囚われの美女で、カオリさんの助けを待っている訳です」
    典子と佳織は顔を見合わせる。
    「面白いかも」典子が言った。今までにそんなパターンでエスケープを演じたことはなかった。
    「うん。やってみようか」
    「でも、黒川くんが戻らないとあたしを縛る人がいないな」典子が言う。
    「それなら、その役は私にさせてもらえませんかな?」
    「え?」
    二人は二階堂を見た。
    「実はこの私も、戯れにこの志津を相手に多少は経験があるんですよ」
    「もう、ここでそんなことを言わなくても」志津が恥ずかしそうに言う。
    「ま、素人に毛が生えた程度の腕ですんで、うまくできるかどうかわかりませんが・・」
    二階堂は頭をかいて笑った。
    「それで、この際、も一つ勝手なお願いをさせてもらえれば、カオリさんの方も私に縛らせてもらえればこの上ない光栄なんですがな」
    このおっちゃん、好きなこと言ってるわ。典子はあきれた。
    「典、どうする?」佳織が小声で聞いてくる。
    「まあ、お世話になってるし、それくらいのサービスならあたしの方は構わないけど」
    「素人の縛りなんて、抜けるのは大して難しくないよ」
    二人はうなずき合って、二階堂の方を向く。
    「OKです。 どうぞやってみて下さい」佳織が言った。
    二階堂は子供が喜ぶような顔になる。「ありがとう! 一度こういう役をしてみたかったんですわ!」
    ・・
    「では、よろしくお願いします」
    椅子に座った典子が手を後ろに回す。
    「え~、ここで手を縛ってもよろしいんですかな?」
    「ええ、どうぞ。・・何でしたら猿轡もOKですよ」
    「それも構わんのですか?」
    典子はリップサービスのつもりだったが、二階堂は本気にしたようだった。
    佳織がにが笑いしている。しょうがないな~。
    「では」いつの間に用意したのか二階堂はガムテープを手にしていた。
    「あ~ん。・・でも、あたし、囚われの美女なんですよね。覚悟しましたから、お好きなようにどうぞっ」
    「猿轡といえば口に詰めモノが必要なんやが・・。志津、ハンカチか何かないかな?」
    「ガーゼを持ってますわ」
    「おお、それがいい」
    二階堂は志津が出した袋を開けて、大きめのガーゼを典子の口に押し込む。
    「ん!」ガーゼなんて、何で持ってるのかな?
    不思議に思いながらも典子は二階堂の好きなようにさせた。
    二階堂は典子の口にガーゼを含ませ、その上からガムテープをぺたりと貼る。
    「では、この縄で・・」
    二階堂はそう言って、典子の手を後ろで組ませて縄を巻く。一回縛って、さらに胸の上下に回す。
    典子は驚いた。手早い!
    でも、もう仕方がない。二階堂の縛りを受け入れるしかなかった。
    「さて、次はカオリさんの方お願いしますよ」二階堂は楽しそうだった。
    「はい、どうぞ」
    佳織は両手を後ろに回す。その手に二階堂が縄を掛けて行く。
    ゆるゆるじゃないの。佳織は内心思った。こんなの30秒で抜けちゃうよ。
    「えっと、この腕は胴体と一緒に縛って、よろしいですかな?」
    「はい、お好きなように縛って下さって結構ですよ」
    「では」
    背中の縄が胸の上に回り、後ろで結ばれる。突然、手首と胸の縄がぴしりと締まった。
    え?
    二階堂は相変わらずにこにこしながら縄を取り回している。
    胸の下にも縄が掛かり、腕と胴の間に割り縄が入る。痛くはなかった。痛くないが動けなかった。
    典子が気配りしながら施す縛りとはまったく違う。二階堂の縄は素人の域ではなかった。
    このおじさん、何者よ?!
    唖然とする佳織を無視して、二階堂は佳織の膝と足首にも縄を掛ける。
    「では、ここに座って下さい」
    床に座らせて、ブーツの部分の縄に天井からのフックを掛ける。
    「上げますよ」
    天井のモーターが低い音をたてて、佳織は逆さに吊り上げられた。
    「あ・・」
    驚きと恐怖で佳織は言葉が出なかった。
    「最後に目隠しでしたな・・、えっと、さっきの目隠しはどうしましたか?」
    二階堂は典子に聞く。
    アイマスクは典子の衣装のポケットに入っているが、典子は猿轡のため何も話せなかった。
    「仕方ないですね。では、ガムテープを使わせてもらいましょう」
    二階堂はガムテープを切って躊躇なく佳織の目の上に貼り付けてしまった。
    ・・
    典子も二階堂の縛りに驚いていた。
    背中の縄が椅子の背もたれにしっかり固定されている。腰を浮かすことができない。
    ためしに両腕を左右に動かそうとしてみる。びくともしなかった。
    佳織ぃ、ちょっとやばくない?

    Kaori and Noriko in Distress !

    13.危機
    典子ぉ~、やばいよぉ~。
    視界を奪われたので、縄の状態を目視することができない。
    佳織は二階堂の縄の掛け方を必死で思い出そうとする。
    縛られた手首から先だけが動く。しかし、佳織の指は空をつかむばかりで縄に触れることはできなかった。
    「二階堂さん、いったい・・」
    「女を縛り続けてもう20年になるが、実に奥の深い世界ですな。自分ではいつまでも素人だと思っとりますよ」
    二階堂が言う。
    「こんな素人の縛りでも抜けられないとなると、最近評判のキョートサプライズさんも大したことはないようですな」
    腕時計を見る。
    「では、始めて下さい。何分で脱出できるか、期待しとりますぞ」
    ・・
    佳織を助けないと!
    そう、章。章は? 典子は目をきょろきょろ動かして回りを見渡す。
    地下室に移動する途中で分かれた黒川はまだ現れない。
    もうずいぶん時間が経っているはずやのに、何してるんよ、あいつは!
    ・・
    佳織はこれと思う方向に手首を曲げて何とか縄に触れようとしていた。手首を締める縄が痛い。
    あ、中指に縄が触れた!
    何とか縄を引き寄せようとする。しかし指先が縄の表面を撫でるだけで、引っ掛けることもできない。
    いつの間にか、吊られた体がゆっくり揺れていた。
    ゆっくりと頭に血が上ってくるのが分かった。
    ・・
    「何をやってるんですか!」
    ようやく入ってきた黒川が叫ぶ。典子に近づこうとするところを黒服の二人が止める。
    「おお、黒川くん」二階堂がのんびり答える。
    「3分過ぎたところだ。二人は君らの事務所の名誉のために頑張っとるところやから、邪魔せん方がいい」
    「何?」
    地下室の中央では、目隠しの佳織が逆さ吊りになってもがいている。
    二階堂の横では、猿轡の典子が椅子に縛りつけられてもがいている。
    「黒川くん? 黒川くん、来たの?」
    佳織が叫んだ。
    「佳織ちゃん、抜けられないのか?」
    「このおじさんの縄、すごく本格的なの。ちょっと手間取ってる!」
    「すぐ下ろさせるから!」
    「ちょっと待って。典は、ナツキはどうなってるの?」
    「ん~っ!」
    「椅子に縛られて猿轡をされてる。こっちも脱出できないみたい」
    「黒川くん、僕、何とかするから、も少し待って!」
    ・・
    佳織は努力を続けていた。
    食い込む縄の痛みを無視して腕を左右に思いきり広げると、左手の親指と中指が縄の端を一本つかむことができた。
    無理にそれを引くと、結び目の輪が解けて一層解けなくなる可能性があると思った。
    ゆっくりゆっくり引き寄せようとしたが、動かなかった。
    力を込めて引く。しかし硬く結ばれた縄はびくともしなかった。
    指先だけでできることの限界を感じる。
    ・・
    「エスケープは抜け方ではない。縛り方で決まるんだ」
    長谷川の言葉が脳裏に浮かぶ。初めてエスケープを教わったときのことだ。
    二階堂の縄は、絶対脱出できない縛り方だろうか。
    もしかしたら駄目かも。一瞬絶望的な気分になった。
    ・・
    「佳織ちゃん、あなた、バージンでしょう?」
    事務所で洋子が言った言葉。「悪いんだけど、いくらこの私でも男性を知らない女の子までFBにすることはできないわ」
    優しくて残酷な言葉。自分だけが処女だというコンプレックス。
    僕がバージンだから駄目だなんて、駄目だなんて。
    ・・
    「気にしないで、なんて今は無理かもしれないけど、それでもいつかきっと佳織にもいいことがあるから」
    典子が言ってくれた言葉。まだしばらくKSで頑張ろうと思った言葉。
    典の小さい胸の中で泣いちゃったな、僕。
    そう、こんなことであきらめないで、頑張るんだ。頑張るんだ・・。
    「ギブアップするならいつでも降ろして差し上げますよ。別に私もお嬢さんたちを苛めて楽しみたい訳じゃない」二階堂が言う。
    うそつけ~っ。典子は内心で思った。十分サドや、あんたはぁ!
    「ただ、素人の私の縄でこのざまだということが評判になったら、上司の島さんは困られるでしょうな」
    「違うの!」佳織は叫んだ。
    「ん?」
    「あんたみたいな変態おやじの執念とか、洋子さんの評判とか、そんなのはどうでもいいの!」
    「佳織ちゃん・・」黒川の声。
    「僕は、僕は、・・自分の力でやりとげたいの!」
    「まったく元気な娘さんですな。じゃあ、いけるとこまで頑張ればいい」
    そう言いながら二階堂は腕時計を見る。
    「もう13分過ぎましたよ。このまま続けてどうなるのか、楽しみですな」
    ・・
    胸が気持ち悪い。さっきの食事とワインだ。
    調子にのってあんなに飲まけりゃよかったよ~。
    胃の中身が上がってきそう。
    ん、んぶ!!
    口の中に少し戻してしまった。それが喉につまってむせる。
    「んぁんぉんぃ(佳織)~っ」典子が猿轡の下から叫ぶ。
    「佳織ちゃんっ」黒川。
    「げ、げほ・・、駄目、まだ来ないで・・、お願い、だからぁ・・」
    口の中の汚物を無理に飲み込もうとする。溢れた液体が頬に垂れて流れるのがわかった。
    みじめさが加速する。
    ・・
    僕の顔、ぐちゃぐちゃだろうな。
    気を抜いたら簡単に意識が飛んでしまいそう。ここで気を失ったら、楽かなぁ。
    ああ、駄目だめ!
    多分、この結び目さえ緩めば、肘の動きが確保できるんだけど。
    何度も結び目の中に指を入れようとして、失敗している。指先の痛みは、とうに感じなくなっている。
    「はぁ、ひぁ、・・」
    呼吸に悲鳴のような音が混じっていたが、佳織はそれに気付いていなかった。
    ただ、指先と縄の感覚に全神経を集中していた。

    14.救い
    佳織ちゃん、もうあきらめて許してもらおう。黒川が言いかけた時、後方から声がした。
    「親父、こんなところで何やってるの」
    背の高い男性が鉄扉にもたれていた。ジャンパーにジーンズ姿。
    「譲か。これは出張アトラクションを楽しんでいるところだ」
    「んなこと言って、どう見ても普通やないでこれは」
    譲と呼ばれた男性は部屋に入ってくる。
    「譲様」黒服の部下が止めようとするが「構わん」と二階堂が許した。
    「また、この前みたいに恥ずかしいことはしないでくれよな。俺、息子としてみっともないんやから」
    「これはそんなんではない。この人達は極限の状態で縄抜けに挑戦しとるんだ」
    譲はジーンズのポケットに手を入れて、佳織のところに歩み寄る。
    「ふ~ん」佳織の腰に手をやって無造作に回す。逆さ吊りの佳織がくるりと回って譲に背を向けた。
    譲は佳織の背中に掛かる縄を観察する。
    ・・
    佳織は何が起こったのか分かっていなかった。
    ゆずるって誰?
    誰かに身体を回されたと思ったら、右手の中に何かを握らされた。
    何?
    突然、顔面のガムテープがびりりと剥がされた。痛!
    目が慣れると、目の前20センチに知らない男性の顔があった。
    「ふ~ん、結構可愛いやないの」
    譲は涙と汚物で汚れた佳織の顎と頬に指を掛けて笑った。
    何? この人。佳織は譲をにらみ返す。
    「親父、目隠し取ったけど、いいだろ?」
    「ああ、今さらそれでどうとなるものでもなかろう」
    「じゃ、頑張れよ」
    譲はそう言って部屋から出ていった。
    「どうするね? まだ無駄な努力を続けるかね?」
    「あたり前、です」
    「ふん、その根性だけは褒めてあげるよ」
    ・・
    佳織は手の中に握らされたものが何か分かった。大学生協のカッターだ!
    大学の売店に行けば150円で買える直径3センチほどの丸くて薄い文房具。
    プラスティックのカバーの中に刃渡り1センチほどの小さなカッターナイフが収納されている。
    前を見ると、上下逆になった光景の中で二階堂と志津が椅子に座って自分を見ている。
    その横には黒川、そして椅子に縛りつけられた猿轡の典子。
    負けるもんか。佳織は二階堂をにらみつけて、再び作業に挑戦する。
    手の中でノブをスライドすると小さな刃が飛び出した。
    ・・
    ポイントは、この結び目の上。ここを、ここさえ切断することができたら。
    両腕に力を入れて目一杯開く。感覚がマヒしたのかもう腕に縄の痛みは感じなかった。
    指先でカッターを持って縄の上でごしごしと引く。
    佳織の身体は、大きく揺れて振り子のように振動する。
    天井から吊るすワイヤがねじれて、彼女の身体はゆっくりと回転し始めた。
    二階堂の側に背中が向くときには、カッターを手の中に隠し、切りかけの縄をごまかすため振り子振動を続ける。
    ああ、目隠しを外してもらえて助かった。
    方向が分かるし、典子の姿が見えるだけで力が沸いた。
    ・・
    佳織、元気になってきたみたい。典子は思った。
    何か生気を取り戻したような。黒川も思った。
    ・・
    永遠に思える時間が過ぎた頃。
    突然手首の上の縄が緩み、両肘の束縛を感じなくなった。
    腕を伸ばしたり曲げたりする。胸の縄がずるっと頭の方に落ちる。
    「おお!」
    「やった!」
    「んっ、ん~!」
    自由になった両腕を抱えこむように手で揉む。その痛みに佳織の顔がゆがむ。
    しかし、これで終わりではない。
    苦痛に耐えながら、佳織は腰を曲げて膝、足首と手を伸ばす。腰が曲がらず、逆に身体が伸びてしまった。もう一度!
    膝の縄に両手を掛ける。腕を曲げて体を引き起こす。右手をブーツの縄に掛ける。その指先が血に染まっていた。
    左手がフックに掛かった。
    フックの根元を両手で握り、体重を手にかけて足を上に伸ばす。足首の縄がフックから外れた!
    佳織は床に落下した。とっさに身体を曲げて上腕と脇腹から床に落ちる。痛ぅっ!!
    「はぁ、はぁ、・・」
    一瞬気が遠くなった。しかしすぐに身を起こして床に肘をつく。両足を曲げて膝と足首の縄を解く。
    あ、いけない。カッターナイフをブーツの中に隠した。
    全身の縄を脱ぐように外し、立ち上がろうとするが腰が立たない。
    そのまま手をついて四つんばいで典子の元に進む。典子の後ろに座り込んで縄を解く。
    典子はすぐに猿轡を自分で引き剥がしガーゼを吐き出す。
    「ああ!」典子は立ち上がって佳織を抱きしめる。その目に涙が光っている。
    「二階堂さん、・・時間は?」佳織が小さな声で聞く。
    「ん、・・51分だ」
    「えへへ、ちょっとかかり過ぎたけど、・・これで、いいでしょ?」佳織はにやっと笑い、典子の腕の中に倒れ込んだ。
    「佳織っ、かおり~ぃ!」
    佳織の顔はぐちょぐちょだった。腕には縄の痕が黒くあざになって残り、両手の指先は血にまみれていた。
    「大したものだ。わしの負けだよ」
    二階堂がぽつりと言った。
    「大人気ないことをして申し訳なかった」

    15.帰路
    「これは、病院に行かれた方がいいです」志津が佳織を見て言った。
    「橋本、救急車を」二階堂。
    「待って下さい」部屋を出ようとする橋本を黒川が止める。
    「救急車なんか呼んだら、ここで何してたか表沙汰になってあんたが困るでしょう」
    「それはそうだが・・」
    黒川は回りを見回し、典子と佳織を運んできた箱を指さして言った。
    「俺が病院に連れて行きます」
    ・・
    佳織を寝かせ、典子が一緒に入った。
    「典子、頼む」「うん」黒川が蓋をする。
    黒川は荷物類をまとめ、二階堂の使用人らと共にトラックに載せる。
    二階堂と志津が深々とお辞儀する中、トラックは二階堂亭から走り去った。
    ・・
    暗闇の中、低い騒音と振動。
    「・・あぁ」佳織が声を出した。
    「佳織、気が付いた?」典子が聞く。
    典子は箱の中で佳織と重なって抱き合うように横たわっている。
    「ここは?」
    「輸送箱の中。黒川くんが病院に向かって走ってる」
    「あは、こんなになっても箱詰めで運ばれるなんて、僕たちってすごいね」
    「うん、そうやね」
    「・・」
    「どうしたの? 佳織」
    「典、お願い」
    「?」
    「こんなこと典にしか頼めない・・」
    「何?」
    「黒川くんを僕に貸して・・」
    「え?」
    「僕を女にしてくれるよう、黒川くんに頼んで」
    「佳織・・」
    「今のままだといつまでもFBになれない。・・僕、でっかいから嫌がられるかな、ねえ、典ぃ?」
    典子は佳織をぎゅっと抱きしめる。佳織の頬に典子の涙が落ちる。
    「佳織、そんなんで佳織は幸せになれないよ・・」自分の頬を佳織の頬にこすりつける。
    「きっと佳織を素敵な女性にしてくれる人が現れるから、ね?」
    「典・・」
    典子に抱かれた佳織は目をつぶり、暗闇の中で小さな嗚咽をもらした。
    ・・
    藤本病院では院長の藤本が佳織を診察した。
    「大丈夫。軽い打撲と切り傷、それに内出血。頑丈な娘さんやな。今夜はここで休んで、明日帰ればいい」
    典子と黒川、それに駆けつけた洋子は胸をなでおろしてほっとした。

    16.大学
    佳織は2日休んで大学に出た。
    休んでいる間は典子がアパートに来て世話を焼いてくれた。
    洋子から電話があり、今回の給金は倍額出すこと、それと二階堂から丁重な侘びがあったと言われたが、佳織にはどうでもいいことだった。
    あのときカッターで切断した縄は黒川が回収したので二階堂には知れていないとのこと。
    ・・
    あ~あ、応用数学休んだのは痛かったなぁ。あの教授、出席重視なのに。
    佳織はぼやきながら学食にいた。
    窓の外を通る背の高い男性をぼんやり眺める。・・ああっ、あの人!
    佳織はカバンを掴んで立ち上がった。
    急いで外に出ると、50メートル程先に目指す男性の姿が見えた。走って追いかける。
    「あの~っ、すみません!」
    「ん?」振り返った男性は、二階堂の息子の譲だった。
    「あんた、誰?」
    「あの僕、私、日曜の夜にお宅でお会いした・・」
    「ああ、地下室で」
    「あの時は助けて下さって、ありがとうございました!」お辞儀をする。
    「いや、気にしないで。あの時はあんたがあまりに不利な状況だったから」
    「これ、お返しします!」生協カッターを差し出す。
    「そんなもの、別にいいのに」
    「でも、これのおかげで助かりましたから」
    譲は笑い出した。
    「おかしいですか?」
    「うん、あんた面白いね。名前は?」
    「あ、僕、小嶋佳織です!」
    「俺は、二階堂譲、ってもう知ってるよね」
    「はい。ここの学生さんですか?」
    「ああ。法学部3回。あんたは?」
    「理学部の2回生です」
    「へえ、同じ大学やったとはねぇ。・・ちょっとお茶でも飲もうか」
    「え、あ、・・はい!」
    ・・
    譲は二階堂の一人息子だった。
    あの夜一緒にいた志津という女性は二階堂の後妻だという。
    「あの人、親父の縄に魅かれて結婚したようなものでね。もう、俺の前でも平気で縛られたりしてるよ」
    「へえ」
    「小嶋さんは、何であんなことしてるの?」
    佳織はKSのこと、自分がKSに入った事情などを説明する。Club-LB のことは話さなかった。
    「イリュージョンかぁ、テレビで見ることはあるけど、本物は見たことないなぁ」
    「今度、お見せしますから、来て下さいね!」
    よく知らない男性にぺらぺらと自分の過去のことまで話すとは、佳織自身にも不思議だった。
    「じゃ、小嶋さん、そのKSってところで充実したアルバイトをやってるんだ」
    「はい、だいたいは」
    「ん? 何かあるの?」
    「いえ、・・もう1年以上やってるんで、いろんなことがありますから」
    「それはそうだろね」
    「あ、今日はありがとうございました。僕、そろそろ講義が・・」
    「ああ、じゃあ」
    「失礼します」

    続き




    キョートサプライズ第10話(3/3)・佳織2

    17.デート
    翌週、講義室から出たところで佳織は譲に呼び止められた。
    「二階堂さん?」
    「ああ、やっと見つけた。ちょっと来てよ」
    「どうしたんですか?」
    「小嶋さん、今日か明日の夜、時間ないかな」
    「明日はKSの仕事があるので、今からでしたら・・」
    「じゃ、デートに誘わせてよ」
    「えっ?」
    「ドライブに行こう」
    「ええ~っっ!!」
    強引に駐車場に連れてこられた。
    「はい、どうぞ・・。どうしたの?」
    助手席のドアを開けた譲が佳織に聞いた。
    「いえ、だって二階堂さんのおうちはお金持ちだから、すごい車に乗ってるかと思ったんで」
    譲の車は黄緑色のアルトだった。
    運転席に座った譲の頭は天井にぶつかりそうだった。
    「これでもバイトして手に入れた愛車なの。中古だけどね。うちの親父は子供には贅沢させない主義だから」
    「そうなんですか」
    「あれで高卒のたたき上げやからな~。苦労しないで手にいれたモノはすぐ無くすが口癖」
    「りっぱなことおっしゃるんですね」
    「ね、小嶋さん。今、エロおやじのくせに、とか思わなかった?」
    「ごめんなさい。・・思いました」
    「あはは」
    ・・
    1時間後、二人は人気のない砂浜に立っていた。
    夕暮れの水面の対岸には、はるかうっすらと白い湖北の山々が望めた。
    「ほい」
    トレーナーだけの佳織に譲が自分のジャケットを羽織らせる。
    「あ、すみません」
    「ここ、夏は人で溢れるんだけどね」
    「綺麗ですね~。・・僕、冬の琵琶湖って始めて来ました」
    「小嶋さん」譲が笑いながら聞いた。
    「はい?」
    「自分のこと僕っていうのはなんで?」
    あ、しまった。
    「あ、いつもは私って言うんですけど、ときどき僕って出てしまうんです」
    「それは、うそやね。俺、あんたが僕っていうのしか聞いたことないよ」
    う~ん。どう答えよう。
    考え込む佳織を見て譲がまた笑う。
    「ねえ、佳織ちゃんって呼んでもいいかな?」
    え・・。まあ、いいか。
    「はい、いいですよ」
    「佳織ちゃんって、人前に出る仕事してるのに、何か純真っていうか初々しいね」
    「そんなことはないつもりなんですけど・・」
    「出かけるときに左右で違う靴とか履いて出たことない?」
    「もう、そんなドジはしませんって。・・ステージでそれをやった子は知ってますけど」
    純生の顔が浮かぶ。僕はあんなにトロクないぞ。
    「俺なんて、車に乗ろうと思って駐車場に来たら自転車の鍵持ってたことあるな」
    「あはは。実は僕も逆方向の電車に乗っちゃって終点まで気がつかなかったことあります」
    「何それ。すごいドジやないの」
    譲は話し易かった。佳織は譲に親近感を覚えた。
    二人は、近くの喫茶店でお茶を飲んで京都に戻り、また会う約束をして別れた。
    ・・
    「佳織ちゃん、やっと明るい顔になってきたようね」事務所で洋子が言った。
    「え、まあ、くよくよしてても仕方ないですから。今の仕事を頑張ります」
    「そう言ってくれると嬉しいわ。さ、12月はパーティが多くてかき入れ時だから、よろしくね!」
    ・・
    街にはクリスマスの飾り付けがあふれていた。
    夕暮れになるとイルミネーションが輝きいっそう華やかさを増す。
    四条河原町の交差点。雑踏の中で、典子と佳織がばったり出会った。
    「あ、佳織ぃ!」「典子!」
    佳織は譲の横にいて、典子は黒川の腕につかまっていた。
    「いつの間に彼氏できたの!」
    「典子こそ、恥ずかしげもなく腕なんか組んで!」
    黒川が気付く。「あの、もしかして、二階堂氏のところで会った・・」
    典子も思い出した。「あ、あの時の救世主さん?」
    譲が頭をかきながら挨拶する。「その節はどうも。二階堂です」
    「そうか、そういうことなのかぁ」典子はにっこり笑った。
    「佳織のこと、よろしくお願いしますね」
    「ねえ、典子。僕たち、まだそんな仲じゃ・・」
    「いいのいーの。二階堂さん、こう見えても佳織は惚れっぽくてすぐに他の男性になびきますからね。注意して下さいね!」
    「それは、それは。いい情報をもらったな」譲が言う。
    「こらぁ、典! 何言ってるのよ!」
    「顔赤いで」「え」典子に言われ、佳織はつい自分の頬を両手で挟む。
    「きゃはは。じゃ、二人とも仲良くね」
    「はいはい、そっちもね」
    二組のカップルは別れて歩いて行く。
    京都の街にもちらちらと雪が舞い始めていた。

    18.祝福
    KSのクリスマス公演が迫り、メンバーはその練習に入った。
    ただでさえくす玉やプレゼントボックスなどの仕事も多い時期なので、連日ほとんど休みのない状態が続いた。
    そんなある日、佳織が練習を休んだ。
    翌日出てきた佳織の変化に、皆が気付いた。
    練習が済んでから洋子が佳織を事務所に呼び出す。
    「佳織ちゃん~」洋子はにこにこしながら言う。
    「あ、昨日は休んですみません。でも、ちゃんと休むって連絡しましたから・・」
    「そんなことはいいの。ね、みずほ」
    「そうね。今日は綺麗よ。佳織ちゃん!」
    「はい? 僕、化粧も変えてないし、いつも通りですけど・・」
    「あのね。女の子が愛されて純潔を捧げたときはね、もうお化粧なんか関係なしに綺麗に輝くものなの」
    「え」
    「佳織ちゃん。おめでとう!」二人がそろって言う。
    「多分、全員、わかったわよ」みずほ。
    佳織の顔が一瞬青くなって、すぐに真っ赤になる。
    「信号機みたいな子ねぇ」
    ドアを開けて典子が飛び込んできた。
    「佳織、おめでとう~!」典子は佳織に抱きついて頬にキスをする。
    「典子!」
    「あの事件以来、典ちゃんが一番あなたのことを心配してたのよ」みずほが言う。
    「今日は佳織が来たときから、お祝いしようって言ってたのよ」典子。
    「典子ぉ、ありがとう!」
    「今日は、あなた達を連れて飲みにいくからね」洋子。
    「そうね~。子羊ちゃんがどんな狼に食べられちゃったのか、根掘り葉掘り聞かないとね~」みずほ。
    「あたし何となく分かりますよ~。その狼さんってずいぶん背の高い人よね?」
    「わ、典ぃ~」
    「はい、みんな、ストップ!」洋子が場を制した。
    「そういう話は後の楽しみに置いといて、・・さて佳織ちゃん」真面目な顔で佳織に向く。
    「あ、はい」
    「一応、聞くわ」
    「?」
    「貴女の前にFBへの扉があるわ。もう一度、ノックしてみる?」
    どきん! 心臓から音がした。
    「あ・・」
    「一度入ったら、もう戻れない世界かもしれないんだけど」
    「僕、それでもいいです。・・いえ、そうしたいです。どうぞ、連れて行って下さい」
    「私も」
    横から典子が言った。
    「私も、・・佳織と一緒に、お願いします」

    19.夜の練習場
    佳織が縛られていた。
    ブラとショーツだけの身体に縄が食い込んでいる。
    その横で典子が同じ下着姿で縛られて転がされている。
    「あぁ・・、、」
    佳織の口からわずかにもれる声には快感の響きがあった。
    やがて股間に食い込んでいた縄が解かれ、ショーツがハサミで切り刻まれた。
    佳織の下半身がむき出しになり、甘酸っぱい芳香が漂った。
    そこから粘性質の液体が溢れている。
    典子が縛られたまま這い寄って顔を近づけ、口を当てて、佳織から染み出る液体を舐め始めた。

    20.クリスマスイベント
    公演会は華やかに行われた。
    クリスマスの衣装を着たEA達によるイリュージョンやゲーム大会に会場はおおいに盛り上がった。
    観客の中には、佳織と典子が招待した二階堂譲の姿もあった。
    ・・
    そして、その翌日。
    クラブ『DON』は前日に続き『本日貸切』の札が出ていた。
    招待された会員客が集まる。皆正装で、女性客のドレスが華やかな雰囲気をかもし出していた。
    「島でございます。Club-LB のクリスマス会にようこそお越し下さいました・・」洋子が挨拶に立つ。
    「本日は4名の新人FBを中心に披露させていただきます」拍手が起こる。
    正面のステージに、二本の柱の上に梁を渡した門のようなオブジェが設置されている。
    その手前にガムテープで封印された大小のダンボール箱が4個置かれている。
    長谷川と黒川が登場し、一礼してから左端のダンボール箱を開ける。
    「カスミです」
    中から黒いビキニをつけた上から縄で高手小手に縛られ、目隠しを施されたFBが現れる。
    ビキニの大きさは極めて小さく、乳首と局部をわずかに覆うだけであった。
    「露出されることへの感度が高いので羞恥責めにかけると絶品です。また放置や野外展示にも向きます」
    長谷川は美香をオブジェの左の柱の前に立たせて縛りつける。そしてその膝と足首に縄を縛り吊り上げて固定する。
    美香は膝と足首で体重を支える形になり、身体を逆海老に反らせて固定される。
    黒川が一番小さな箱を開けて次のFBを引き出す。
    「ナツキです」典子の姿が現れる。
    美香と同じくビキニ姿で、両足首の間に頬を挟んだポーズで小さく折り畳まれて縛られている。
    「身体が柔らかいのでどんなポーズにも固定できます。また被虐性が高く完全拘束に適しています」
    黒川は典子の縄を解き、それからオブジェの右側の柱の前に立たせ、右の膝と足首、背中を縛りつける。
    そして左足首に縄をかけて頭上まで上げ柱に固定する。
    典子は立ったまま180度完全開脚のポーズで固定された。
    長谷川が3番目の箱を開けてFBを引き出す。
    「ジュンコです」純生が登場する。
    同じくビキニ姿の純生は後頭部で両手首を縛られており、胴体には菱目模様の縄が絡みついていた。
    「縄が映える肌をしています。体力があるので厳しい扱いによく耐えます。特技の自縛をお楽しみいただくこともできます」
    長谷川は純生にあぐらを組んで座らせ、そのまま丸くなった姿勢で縛り直した。
    最後の箱は細長く黒川の身長よりも背が高かった。
    箱の手前の面をカッターナイフで縦に切り裂き、長谷川と黒川が左右から開く。
    観客が息を呑む。
    大柄なFBが上下逆に立てられていた。
    「カオリです」
    黒川が彼女の足首の皮枷を解くと、佳織の身体はどさりと床に転倒した。
    細い金属のスタンドで強制的に倒立させられていたらしい。
    「身長175センチの身体は吊りや水責めなどダイナミックな責めに向きます。また痛みにもよく耐えます」
    黒川はオブジェの梁の両端から二本の縄をおろし、佳織の左右の足首にそれぞれ接続する。
    そして長谷川と共に縄を引いて佳織を逆さに吊り上げる。
    佳織は、90度開脚状態になり、左右から斜めに下りてきた縄でそれぞれの足首を吊られている。
    床に転がされていた純生が、ちょうど佳織の大きく開いた両足の間に吊り上げられた。
    「ジュンコとカオリは本日が皆様へのデビューです。大きな拍手をお願いいたします」
    箱の中でも上下逆にされていた佳織の顔は既に真っ赤だった。
    ・・
    Club-LB のクリスマス会、メインイベントは佳織が中心だった。
    エスケープで使う巨大なハムスターの回転かご。その外周に佳織は爪先から手の指の先まで10センチ刻みにベルトを掛けて固定された。
    いかにエスケープの達人でも絶対に脱出不可能と長谷川が観客の前で保証する。
    かごが回転を開始した。
    足元には水槽が置かれていて少しずつ水が注がれていた。
    やがて水かさが増し、佳織の身体は水の中をくぐり始める。
    何度も、何度も、彼女が半ば意識を失うまでそれは続いた。

    21.年越し
    大晦日、佳織は朝からアパートの片付けに忙しくしていた。
    「ねえ譲、ごろごろしてるんだったらお風呂のお掃除でも手伝ってくれないかな~」
    昼前にやってきた譲はこたつに入ってくつろいでいた。
    「佳織ぃ、みかんもうないの?」空になったみかんの籠をふる。
    「あ~っ、実家から送ってもらったみかん! どれだけ食べるのよ~!」
    「ん、俺みかん好物なんよ」
    「そんなこと言ってないで、お風呂洗ってくれないかなぁ」
    「洗ったら今晩一緒にお風呂に入ってくれる?」
    「うん、入ってあげる。だから、ね?」
    譲は跳ね上がった。「ほんと? やるやる!」
    ふぅ。佳織はため息をついた。
    ・・
    夕方、部屋はだいたい綺麗になった。佳織は夕食の支度にかかる。
    「もうすぐできるからね」
    「こうやって、料理してもらったりしてると、何か夫婦になったみたいだな~」
    「あはは、そうだね」
    「ねぇ、俺の願い聞いてくれるかな」
    「何?」
    譲はリュックサックをごそごそ開けて、白いワイシャツを出す。
    「これ俺のなんだけど、ズボン穿かないでこれ着てよ」
    「譲っ、あのね~」
    「駄目? 男のロマンやのにぃ」
    「ああ~、もう! ・・いいわ、やってあげるっ」
    佳織は譲からワイシャツをひったくって洗面台に行く。「のぞかないでよ!」
    そう言いながらもいそいそとトレーナーとTシャツを脱ぐ。ブラも外してワイシャツに手を通す。
    身長185センチの譲のワイシャツはさすがの佳織でもだぶだぶだった。それが不思議と嬉しい。
    袖は長すぎるので手首が出るまで折り込んで巻いた。
    ジーンズと靴下を脱ぎ、ショーツはお気に入りのに穿き替える。
    鏡を見て、全部止めたボタンの上ふたつをわざと外して胸の谷間の見え方をチェックする。
    「じゃん!」譲の前に出てポーズをとった。
    「お~、可愛い!」
    「ほれほれ、ノーブラだよぉっ」ワイシャツの胸元をちらりと見せる。
    「あ~、それそれっ」譲はその場でひっくり返って両足をばたばたさせた。
    笑いながら佳織は料理を用意する。
    ・・
    「はい、豚汁とわかめサラダ。夜中に年越しそばも出したげるからね!」
    向かい合ってこたつに入る。
    「うん、うまい! 佳織って上手やね~」
    「えへへ、お料理は結構得意だよ~。・・きゃっ。こらぁ!」
    譲がこたつの中で足を伸ばして佳織の太ももを撫でたのだった。
    「あはは、これもしたかったんだな」
    「子供みたいなことばっかりしてぇ~」
    笑いながら食事を済ませる。
    ・・
    二人は並んでこたつに入ってクッションにもたれていた。
    テレビの紅白歌合戦をぼんやり眺めている。
    「KSの仕事は、昨日で終わりだったんだね」
    「そんなことないよ。今夜は京都中で年越しパーティやってるんだから」
    「そうか。佳織は行かなくてもいいの?」
    「洋子さんがね、今年は二人で過ごしなさいって免除してくれたの。えへへ」
    「なぁ、佳織」
    「何?」
    「親父から聞いたんやけど、KSには会員制の裏クラブがあるんだって?」
    「!」
    譲にはFBになったことは言っていない。
    「マゾの女性を縛って貸してくれたりするらしいんだけど」
    「うん、そういうのも、あるわ」
    「佳織もそういうこと、やってるの?」
    「もし、僕がそういうこと、やってたら軽蔑する?」
    「・・軽蔑なんてしない」
    「じゃ、どう思うの?」
    「もし佳織がそういうのやってたら自分が会員でなかったことを悔しがると思う」
    「え?」
    「その、逆に軽蔑しないで欲しいんだけど」
    「うん」
    「俺が会員だったら、佳織を借りて縛ってずっと自分の部屋に置いておきたいから」
    「譲・・」
    佳織は譲に向き合った。
    「やっぱりやってた?」
    「ごめん、黙ってて」
    「いいよ。・・でも佳織、この間が初めてだと思ってたのに」
    佳織の顔が赤くなる。
    「うん。あのときが初めてだったの」
    「じゃ」
    「僕がバージンじゃなくなったから、参加が認められたの」
    「!」
    「驚かせた?」
    「俺、そういうことをさせるために佳織を女にしたってことか?」
    「え? そんなつもりじゃ」
    「ショックやな~」
    「あ・・、ご、ごめんなさい!」
    譲の前で頭を下げる佳織。それを見て譲が笑う。
    「落とし前をつけてもらおうかな」
    「え?」
    「俺がプライベートで佳織を縛る。今度、縄持ってくるから縛り方教えてよ」
    一瞬、佳織は真面目な顔で譲を見つめた。そして譲に近づきそっと抱きしめた。
    「ありがとう。僕、譲に分かってもらえないかもしれないって、怖かった・・」
    佳織は立ち上がり、片付けたばかりのダンボール箱をひっくり返す。
    「え~っと、たしかエスケープの練習に使ったのがあったはず・・、あった!」
    箱から縄束を持ち出す。
    「そんなのまであるの」
    「えへへ、たまたま、よ」
    ・・
    佳織はワイシャツ一枚の上から後ろ手に縛られて立たされていた。スカーフの目隠しで視界を奪われている。
    「うちの地下室で初めて会ったときを思い出すなあ」
    譲はこたつに入って佳織を眺めている。
    「譲・・」
    「ん?」
    「縛るの、上手じゃないのよぉ」
    「ん~、親父に似たのかな?」
    「そろそろ目隠し、外して」
    「駄目」
    「ずるいよ、譲だけ僕を見て・・」
    「佳織もそれで感じてるんだろ。それに、男はこうやって女を鑑賞するもんだ」
    譲は佳織に近づき、ワイシャツのボタンをひとつずつ外してゆく。
    「まだ動いたらあかんよ」
    両手を掛けて一気に左右にはだけさせる。
    「だ、だめ・・」
    そのまま佳織のつんと突き出た左の乳首を口に含んだ。
    「あ・・」
    佳織は膝が立たず、譲の前に崩れる。
    譲はゆっくり佳織を抱くように支えてクッションの上に押し倒した。
    ・・
    「あれ、除夜の鐘?」
    「うん、多分・・」
    目隠しは取れていたが佳織は縛られたままだった。
    背中が痛くないようクッションを当てて寝かせ、譲がその上から覆いかぶさって抱きしめている。
    佳織の開いた両足の間に譲の身体があった。
    お気に入りのショーツはこたつの反対側に落ちていた。

    22.異変
    翌朝二人で風呂に入り、それから初詣に出かけた。
    「何をお願いしたの?」佳織が聞く。
    「う~ん、今年は佳織と一緒に仲良くやれるようにって頼んだ」
    「あ、僕も同じ!」
    微笑みあって二人は手を取り合って歩く。
    「いつ帰ってくる?」
    「え~っと、5日の晩。戻ったら電話するから」
    佳織はこの日、和歌山の実家へ遅い帰省をすることになっている。
    「じゃ、元気で」
    「譲も」
    佳織が爪先立ちになって目をつぶる。譲が膝を曲げてキスをする。
    「また縛ってあげる」
    譲が佳織の耳にささやいた。
    「ばか」
    佳織がささやき返す。
    譲は笑いながら手を振って去っていった。
    ・・
    佳織は久しぶりに実家で羽を伸ばした。
    三が日も過ぎた朝、朝刊の一面に踊る活字を見て驚いた。
    『二階堂貞夫代議士逮捕、収賄容疑』
    急いで譲の携帯電話にダイヤルする。しかし『電波の届かないところにいるか電源が入っていません』とのメッセージが返るばかりだった。
    ・・
    翌日。「佳織、電話~。二階堂さんって人から」
    佳織は走ってきて受話器を握る。
    「佳織か?」妙に遠い電話だった。
    「譲、どこにいるのよっ」
    「東京」
    「え、そんなところで何してるの?」
    「もう知ってると思うけど、京都の家はマスコミだらけで入れないんだ」
    「そんな、あなたお父さんとは関係ないじゃない」
    「世間はそう思ってくれないんだ。使用人もみんな帰して、俺は志津さんと一緒に知人のところにいる」
    「携帯は? 携帯電話はどうしたの?」
    「あれも、番号を調べてかけてくる人がたくさんいるから、解約したよ」
    「解約って、じゃ僕、どうやって連絡とったら・・」
    「それは俺の方から連絡するから・・・、あ、もうテレホンカードが終わるんだ。じゃ、また!」
    電話が切れた。
    佳織は受話器を握り締めたまま、その場に座り込んだ。

    23.早春
    京都に戻っても譲からの連絡はなかった。
    思い切って、二階堂の家を調べて訪れた。屋敷に人気はなくベルを押しても何の応答もなかった。
    「君、この家と何の関係?」
    突然背後から声を掛けられた。振り向くと二人組の男性だった。
    「僕ら、朝陽新聞の者なんやけど・・」
    佳織は何も言わずに走り出した。「あ、ちょっと待って」声が追いかけてきたが走り続けた。
    走りながら涙がこぼれた。
    ・・
    「東京へ行くって、それでどうやって彼を探すつもり?」典子が言った。
    「やっぱり駄目、かな・・」
    「東京っていうだけで、他に何の情報もないんやから、どうしようもないよ」
    「典ぃ~、僕、どうしたらいい? どうしたら譲に会える?」
    「あせらないで、連絡を待つしかないよ」
    ・・
    佳織は1月の間泣いて過ごした。
    「いい加減にしっかりしなさい!」と叱っていた洋子も、佳織のあまりの落ち込みについにさじをなげた。
    無理して挑戦したエスケープを失敗した夜、「しばらく休んで落ち着いたら」と言われた。
    ・・
    季節は2月、そして3月へと巡る。
    時間がゆっくりと、確実に佳織の心の傷を癒していく。
    そしてある日、差出人の住所氏名がない手紙が届いた。
    『長いこと連絡できずにすまない。
    親父の刑が確定するまで何ヶ月、何年かかるかわからないので、大学を辞めてこっちで働くことにした。
    身分をあかすと世話になっている人に迷惑が掛かるから、偽名でやっている。何か、逃走中の犯人になった気分だよ。
    いつか京都に戻ったら佳織に会いたいけど、それがいつになるか分からない。
    だから、佳織には佳織を幸せにする別の男を見つけて欲しい。
    佳織のことは忘れない。たった一回、佳織を縛った大晦日の夜のことも。
    佳織の幸福を心から願っています』
    ・・
    明るい日差しがアパートの窓に射し込んでいる。もう早春の気配だった。
    佳織は譲が残したワイシャツを羽織って座り込んでいた。それ以外には何も身につけていない。
    彼が使った縄束を持ち、ときおり頬に当てて考える。
    「佳織、大丈夫?」自分に言い聞かすように喋る。
    「うん、大丈夫。今まで通り一人でやっていける。素敵な人が現れるまで、また頑張れるよ」
    アパートの玄関のベルが鳴った。
    「わ」佳織はあわてて立ち上がる。こんな格好で玄関に出れない。
    ワイシャツのボタンを全部止めて、下着をつけないまま転がっていたショートパンツに足を通す。
    あ、ブラ。間に合わないよ!
    ドアを開けると、典子と美香、純生が立っていた。
    「やっほ~ぃ、元気付けに来てあげたよ~」典子。
    「みんなぁ!」
    「はい、ワイン。昼間っから飲んで盛り上がろうね」純生。
    「佳織ちゃん、それ男物のシャツじゃないの? 色っぽ~い」美香。
    「もしかして彼の置き土産? いいなあ、黒川相手やとそんな格好する気にもなれへんよ」典子。
    「ね、仲間なんだから、何でも喋り合って明るくやっていこうよ!」純生。
    「そうそう。とりあえず、そのシャツ脱がせて裸にむいちゃおう」美香。
    「わ、もしかしてノーブラ!」典子。
    きゃ~っ。逃げ回る佳織を3人が追いかける。
    クッションに押さえつけられて笑っている佳織。
    あぁ、僕には仲間がいたんだ。みんな、ありがとう!
    笑いながら手を振って去っていく譲の姿がちらりとかすめた。・・バイバイ! 譲。
    ・・
    「佳織ちゃんのために皆でいい男の子を探そうって言ってたのよ」洋子がにっこり笑った。
    「仕事に復帰できるのね?」
    「はい。ご迷惑をかけました。また一から頑張りますから、よろしくお願いします!」
    「じゃ、早速だけど、今夜一本お願いするわ」
    「はい!」
    「えっと、内容は女囚拷問ね。真奈美ちゃんが入る予定だったんだけどカゼでダウンされちゃったの。助かったわぁ」
    内心にが笑いする佳織。いきなりFB、しかもハード拷問とは。
    大きく息を吸う。背中が少しぞくぞくした。
    「わかりました! どんな責めでも受けますから、よろしくお願いします!」佳織は元気に言った。



    ~登場人物紹介~
    小嶋佳織: 20才。本話主人公。EA、SNはカオリ。大学2回生。
        得意技はマジックとエスケープ。本話でFBに。
    野村典子: 19才。EA/FB、SNはナツキ。
    辻井美香: 20才。EA/FB、SNはカスミ。
    鈴木純生: 19才。EA、SNはジュンコ。佳織と共にFBになる。
    長谷川行雄: Club-LB 緊縛師。
    黒川章: Club-LB 緊縛師/配達担当。典子の恋人。
    島洋子: KS/Club-LB 代表。
    三浦みずほ: KS/Club-LB 企画担当。
    二階堂譲: 22才。佳織と同じ大学の3回生。父親の罠にはまった佳織を助ける。
    二階堂貞夫: Club-LB 顧客の国会議員。譲の父親。問題を起こしてクラブ会員を除名された。
    藤本慎太郎: KS/Club-LB の顧客。藤本病院院長。

    キョートサプライズのシリーズは作者が何年かにわたって書き溜めてきたものです。
    その中でも本話は、最もノッて一気に書き上げた記憶があります。
    第4話の後書きでも書いたように、作者はキョートサプライズの女性達の中では佳織が一番のお気に入りです。
    今回、彼女の恋は悲恋に終わってしまいましたが、いつか佳織が幸せになるお話も書いてあげたいと思います。

    さて、次回のキョートサプライズは迷えるM女が登場します。
    ありがとうございました。




    キョートサプライズ第9話(1/3)・師走の助っ人

    1.三瀬寺運送事務所
    「お帰りなさい。・・あ、八木くん、社長が来るようにって」
    車を降りて事務所に入ると、事務の女性から声を掛けられた。
    「また違反で捕まったの?」
    「そんなことしてないスよ」
    八木一馬は頭をかきながら社長室に向かう。去年の出来事を思い出す。
    たしかあのときも社長室に呼ばれて・・。
    「失礼します」
    しまりの悪いガラス戸を開けて社長室に入る。
    社長の三瀬寺は背を向けて煙草を咥えていた。
    「おぉ、八木くん」煙の中で社長が振り向く。
    「社長、煙草は控えるはずやったんと違うんですか?」
    「わかってるんやけど、いざ禁煙となるとなかなか踏ん切りがつかんでなぁ」
    二人が着ているのは水色のジャンパーだが、薄汚れて灰色の工員服のように見える。
    「で、何の用ですか?」
    「それやけど、来月だけ例の所で働いてくれへんかな」
    「え、またですか?」
    「そや」
    ああ、やっぱり。
    去年も社長に差し向けられてそこで配達の仕事をしたのだった。
    「いやか?」
    「いえ、そうやないですけど、どうもああいうところで働くのは恥ずかしくて・・」
    「何言うとるんや。手当てはうちよりもええはずやし、近所走り回るだけで楽な仕事やで」
    「それはそうですけど・・」
    だいたい、あの荷物は合法やないぞ。
    「なら、社長命令や。1ヶ月の出向みたいなもんで、頑張ってこい」

    2.KS事務所
    ドアを開けて、居合わせた女性に声を掛ける。
    「あの、三瀬寺運送から来たんですけど・・」
    「あ、ふぁいふぁい!」
    クッキーをほおばった堀公恵が慌てて立ち上がる。
    「まあ、八木さん!」
    「今年もよろしくお願いします。・・お菓子ばっかり食べてたら太りますよ、堀さん」
    「いいのよ。これでも去年よりやせたんよ」
    八木はため息をついて事務所を見回す。
    高く積み上げられたダンボール箱、机からこぼれ落ちそうなファイルの山。ゴミを詰めたビニール袋が四つ、五つ。
    去年と同じだ。これで女性がやってる事務所なんやからな~。
    「え~っと、洋子さんはもうすぐ帰ってくるから待ってて下さいね・・、きゃっ」
    公恵は足元のゴミ箱を蹴飛ばして倒し、こぼれた紙くずと菓子の袋をかき集める。
    「わかりました」八木はソファに座る。
    「仕事は前と同じですか?」
    「ええ、12月は人手が足りないから」
    机の電話が鳴る。
    「はい、KSでございます。・・あ、クラブですか? 少々お待ち下さい」公恵が受話器を顎に挟んだままパソコンを操作する。
    「会員番号をどうぞ・・・。はい、勝川様ですね」
    クラブか。もっと怪しい商売やなぁ・・。八木は Club-LB を知っていた。
    社長の三瀬寺はクラブの会員だった。
    12月のピークシーズンはKS・クラブとも予約があふれ、配達の手が回らなくなる。
    三瀬寺はKS・クラブ代表の島洋子に、臨時の運転手を世話しているのだった。
    『わし、島さんには頼られてるんやで』
    三瀬寺は得意気に言ったが、本当は洋子に気に入ってもらいたくて押し売りサービスしているのではないかと思う。
    「あいにく12月中は一杯でして、1月の後半でしたら空いておりますが・・、そうですか? ではまたよろしくお願いします」
    公恵は電話を切った。
    「ふう。せめてもう2人女の子がいてくれたら、こんなに断らずに済むんだけどね」
    「堀さん、何か女郎屋の女将みたいですね」
    「え、あたし? あはは・・」
    「ただいまっ」
    ドアがばたんと開いて洋子が入ってきた。
    「あ~、あの親父もういい加減にして欲しいわ~」
    そう言いながらファイルの山を尻で押し込んで机に座り、ハイヒールを脱いでタイトスカートの足を組む。
    「あの、洋子さん」公恵が横から声を掛ける。
    「え、何? ・・ひゃっ!」
    洋子は八木に気付いて慌てて立ち上がった。
    さっき公恵が片付けたゴミ箱を蹴り倒し中身をぶちまけ、慌てて紙くずと菓子の袋をかき集める。
    「あ、三瀬寺さんの。・・たしか高木くん」
    「八木です」
    「そうそう、萩くん、今年もよろしくね!」
    「あの、洋子さん」
    「何? 公恵ちゃん」
    「八木さんです」
    「あ、そうだったわね。ごめんごめん」洋子は頭をかいて笑った。

    3.KS倉庫兼作業場
    洋子と一緒に倉庫兼作業場に行く。
    「あら、八木くん」居合わせた小柄な女性が八木を見て言った。
    「久しぶりです。典子さん」
    野村典子は青いミニスカートの衣装で、配達員の黒川真と一緒にいた。
    「来ましたね、八木さん。今年も頼みますよ」黒川が言う。
    「こちらこそ。またよろしく。・・プレゼントボックスですか、それ」
    黒川の足元に箱があった。大仰な南京錠が揺れている。金縁で西洋風の宝箱。
    「うん、今日のお仕事」典子が笑う。
    入り口のドアがばたんと開いて、ブレザーの制服姿の少女が二人駆け込んできた。極端に短いスカートにルーズソックス。
    誰だ? この子らは。
    「お早うございま~っす!」
    「綾乃ちゃん、急いでね。あんまり時間ないよ」典子が声を掛ける。
    「すみませ~ん、学校出るの遅くなって。・・あれ、この人は?」綾乃と呼ばれた少女が八木に気付いた。
    「今月だけ配達のお手伝いをして下さるの。お名前は、野木くん」洋子が説明した。
    「八木です」八木が訂正する。
    「こっち、市川綾乃ちゃんと河井美紀ちゃんね。二人とも高2で、うちの新人さんよ」
    これは驚いた、高校生がいるとは。
    「こんにちは! よろしくお願いしますね!」
    綾乃と美紀が笑いながら挨拶する。
    八木は何故かしどろもどろになって、頷くように会釈するのが精一杯だった。
    「う~っす」ドアが開いて女性メンバーのリーダー格である岡崎真奈美が入ってくる。黒い皮のジャケットにジーンズ姿。
    「おや、八木やないの。あんたまさか、またここで働くつもり?」
    「働きますよ、真奈美さん」
    「まあまあ、真奈美ちゃん、仲良くやってね」洋子がいなす。
    「んでもね、洋子さん。この兄ちゃんはね、いつも行先を間違えるんだよぉ」
    「いつもって、一回だけです。それも急に伝票が変わったから・・」
    「え~い、問答無用!」真奈美は八木に向かって人差し指を突き出す。
    「今度また同じ失敗やらかしたら、コブラツイストかますからね」
    「大丈夫ですよ。安心して下さい」
    「ねえ、臨時の運転手さん、何歳ですかぁ?」美紀が能天気に質問する。
    「え、あ、27ですけど・・」
    「え~、そんな年~っ? 黒川くんよりも若いと思ぉたぁ~」
    悪かったな。年くってて。
    「もう美紀、さっそく手ぇ出そうとしてへん?」
    「なことせえへんって~。あたし長谷川さん一筋やもん」
    「きゃはは。おやじ好き~」
    「はいはい、あんたたち、もういいから早よ着替えといで!」
    「は~い」
    典子に言われて二人は奥に消えた。そこはカーテンで仕切られて更衣室になっていた。
    「ほほほ、かしましいでしょ? じゃあ、後はお願いね」洋子も出て行った。
    「ところで真奈美さん、今日は仕事入ってましたっけ?」典子が真奈美に聞く。
    「うん、急にね。久しぶりのプレゼンターだわ」
    そう言えばこの人はEAよりもFB中心やったなあ。八木は思い出す。
    「そう言えば典ちゃんもFBになったんだよ」真奈美が八木に小声で言う。
    「あは」横で典子が少し顔を赤らめて会釈する。
    「え~っ!!」
    「こらっ、し~っ!!」真奈美がカーテンの方を指さしてから口に人差し指を当てて八木を制する。
    「あ、すみません」
    ・・
    「じゃん!」コスチュームに着替えた綾乃と美紀が更衣室から出てきた。
    サンタ風のコスチューム。白い飾りをあしらった真っ赤なミニスカワンピース。ブーツを履いた生足がまぶしかった。
    はっきり言って可愛い。
    「可愛いからって、手ぇ出すんじゃないよ」真奈美が八木に言う。
    「じゃ、箱を作るから」すっと黙っていた黒川が言った。
    最初に出ていた宝箱タイプの箱に典子と綾乃が入る。
    向かい合って膝を交差させ、その上に黒川が赤い包装紙のプレゼントの箱を載せる。
    ほとんど余裕がない。二人で入るのには狭いような・・。八木がぼんやり考えていると真奈美が教えてくれる。
    「1年前とはぜんぜん違うから驚いて腰ぬかすんじゃないよ。アトラクションも進歩してるからね」
    「そう、みたいですね」
    「それに今ね、この二人は一緒にくす玉に入る訓練もしてんだから」
    くす玉って、たしか人間くす玉。あれに二人で入るのか?
    「えへへ、じゃあ、またね!」典子と綾乃が笑って頭を屈め、その上から黒川が蓋をして南京錠を掛けた。
    「次は美紀ちゃん」
    それも去年はなかったプレゼントボックスだった。1辺70センチ程の立方体。
    各面にはサイコロの目が描かれている。巨大なサイコロ。
    美紀が八木に手を振りながらサイコロの上面から中に入る。
    箱は手前の面が扉になっていて、黒川がそれを開けて見せてくれた。
    のぞきこんだ箱の中は空だった。何かトリックがあるらしい。
    「空っぽの箱から女の子が出現する仕掛けですよ」
    黒川は典子と綾乃の入った宝箱を台車に載せて、外に運び出していった。
    じゃ、俺の担当はこっちのサイコロだな。
    八木がそう思っていると、黒川は続いて美紀の入ったサイコロも台車で運び出してしまう。
    「では、行ってきます」そう言って黒川は出発してしまった。
    「え、っと、俺の仕事は?」八木がつぶやくと「そりゃ、あたしだよ」真奈美がそう言ってウインクした。

    4.真奈美の配達
    八木はトラックを停めて目の前のマンションを見上げた。
    運転室でジャンパーを脱ぎ、赤い上着に着替えて赤い帽子をかぶる。
    恥ずかしい。去年はサンタの格好なんてしなくて済んだのだが。
    運転台から降り、荷物を荷台のリフトで下ろして台車に乗せた。
    それは包装紙とリボンで梱包した長さ120センチほどの細長い箱だった。
    中に人間が入っているので結構な重さだが、普段から嵩だかの重量物を取り扱っている八木は手際よくさばいた。
    マンションの玄関でインタフォンから挨拶すると、目の前のガラスドアが自動的に開いた。
    シャンデリアが点るエントランス。ホテルのような廊下の左右にはいくつものエレベータが並ぶ。
    これはかなりの高級マンションだ。
    エレベータの一つに乗って上がると、踊り場を挟んでドアが一つあるだけだった。
    呼び鈴を押すと若い女性が出てきた。「待ってたのよ。部屋まで運んでちょうだい」
    八木は靴を脱いでよいしょと箱を抱え上げた。
    マンションの中とは思えないような、広い廊下を進んでリビングに入る。
    だいぶ乱れているようだ。
    食べ散らかした料理とケーキの残骸。倒れた酒瓶やグラス。つけっぱなしのテレビ。
    そしてソファや床のじゅうたんの上で密着している幾組かのカップル。
    できるだけ余分なものを見ないように注意しながら、八木は箱を床に立てた。
    「プレゼントのお届けです。こちら、説明書・・」
    「開けて下さる」
    八木は黙ってリボンを解いて包装紙を剥ぎ、ダンボールの箱を開いて取り外す。
    透明なプラスチックの筒の中にクリスマスツリーが立っている。
    足元の植木鉢についたスイッチを入れると、ツリーに色とりどりの電飾が点滅した。
    「うわぁ、綺麗ねぇ!」床に寝転んだ女性が歓声を上げた。
    「プレゼントはこのツリーです」
    「ええ、分かってるわ」最初に迎えてくれた女性がうなづいた。
    「開け方の説明書です。1時間以内に開けて下さい」
    「いいのよ。退屈してたところだからすぐに開けて頂戴」
    「俺・・私が開けてよろしいのですか?」
    「ええ、お願い」
    「じゃあ・・、プレゼントのお受け取りは、牧野純也様」
    「あ、はい。・・でもクリスマスツリーなんて、俺いらんよ」
    「贈り主は、秋田翔子様・・」
    「えへへ、まあ見ててよ」最初に八木を迎えた女性が笑う。
    「では、秋田様、この布でツリーを隠して下さい」八木は女性に大きな紫の布を広げて渡す。
    何だ何だという風に寝転んでいた者達が起き上がる。
    「これでいいの?」
    「はい、ではワン、ツウ、スリーと声を掛けて布をはらって下さい」
    「え、じゃ、ワンツウ、スリ!」女性は布を外すが、ツリーには特に変化がなかった。
    皆が笑う。
    「今のはリハーサルです。もっと落ち着いて、ゆっくりと勿体をつけて。では本番をどうぞ」
    「分かったわ」
    女性は笑って、ゆっくり深呼吸して、それから布をツリーに掛けた。
    「ワン、ツー、スリー!」
    布を外すと透明筒の中で光っていたクリスマスツリーが消え、替わりに真っ赤なボディスーツと編タイツ姿の真奈美が膝立ちで入っていた。
    「え、何?」
    「すごいっ」拍手が起った。
    八木が筒を取り外すと、真奈美は植木鉢から下りて、小さな箱を男性に渡した。
    「秋田翔子様からのプレゼントです。どうぞ!」
    そう言って男性の頬にキスをした。
    「羨ましいぞ~」他の男性から声が掛かる。
    「え、これがプレゼント?」男性が驚いて、贈り主の女性を見る。
    女性は「どう? 開けてみてね」
    男性が箱の包みをあけると、中から銀色のオイルライターが出てきた。
    「あなた、欲しがってたでしょ?」
    「わお、サンキュー!」

    クリスマスツリー?

    ・・
    真奈美が男性全員にキスをして、その後何人かの女性にもキスをしている間に八木は荷物を片付けた。
    マンションを出て、真奈美と二人でトラックに戻る。
    「ふう」運転台に座り、八木は一息つく。
    「どうだった? 久しぶりのKSは?」
    真奈美が笑って聞いた。ボディスーツの上にうすいコートをひっかけているだけだ。
    「あ~、やっぱり俺には向かないすよ」
    とても軽薄な仕事をしているような気がして。
    八木は言葉に出さずにそういって頭の後ろをぼりぼりと掻いた。
    「八木って、ほんと真面目だね」
    「からかわないで下さい」
    「ごめんごめん」
    八木は黙ってトラックをスタートさせた。
    ・・
    「それにしても、あんな小さいところに入ってよく我慢してられますね」
    「あんなの、ぜんぜん平気だよ」
    「1年ぶりに手伝いにきましたけど、相変わらずどきどきしますよ」
    「そう?」
    「俺、運んでる間じゅう、ずっと真奈美さんが大丈夫か考えてましたもん」
    「心配だった?」
    「ちゃんと出てきてくれてよかったです」
    「そう言ってくれて嬉しいね。KSの男どもは今さらそんなことで感激してくれないから」
    「でも、真奈美さんはもっとすごい仕事もしてるんですから・・」
    「それ、あたしがFBもやってるってこと?」
    「ええ、まあ」
    「そうだねぇ。でもね、八木はもう全部知ってるから話すけど、FBの方がEAより楽なところもあるんだよ」
    「そうなんですか?」
    「FBは肉体的には辛いかもしれないけど、Mっ気の強い女の子が自然に乱れるのは全然OKだからね。あたしみたいに単純な女にはある意味簡単だね」
    「ははぁ」
    「その点EAはどんなときにも明るく元気に振舞わないと駄目だから、精神的には厳しいよ。プレゼントの箱を開けて女の子があんあん言ってたりしたら困るでしょ?」
    真奈美はそう言って笑った。
    「・・」
    「ん? どうしたの?」
    「いいえ、何でも」
    「・・あ、分かった!」
    「え?」
    「八木、ちんちん立ててるやろ!」
    トラックが右に大きく揺れた。対向車がクラクションを鳴らしてすれ違って行く。
    真奈美が首をすくめている。
    「す、すみません!」
    「いいよ、それより、安全運転で頼むよ!」

    5.綾乃の配達
    「じゃ、よろしくお願いします!」
    大きな鍋のような器に身体を丸めてぴったり収まった綾乃が言った。
    セパレートの赤いコスチューム。お腹と太ももの素肌が眩しかった。
    八木はどきどきしながら、鍋に丸い板をはめ込み、6本のネジを締めた。
    そのまま全体をひっくり返し、円筒形の檻の上に乗せる。
    綾乃を詰めた丸鍋は、大きな鳥籠の屋根の部分になった。
    スイッチを入れると、綾乃を乗せた板が下に落ちて、鳥篭の中に少女が出現するギミックである。
    ドライバの柄で丸い屋根を2回叩く。
    中から小さくコンコンと音が返ってきた。よし、綾乃ちゃんは大丈夫。
    空の籠の底に、小さなぬいぐるみの熊を両面テープで貼り付ける。
    そして周囲に青い布をカーテンのように吊るし、更に太いリボンを縦に巻いて貼り付けた。
    これで鳥篭は完成。
    黒いビニールシートをかぶせて、荷造りテープをぐるぐる巻く。
    ふう。
    「うん、うまくできてますよ」横で見ていた黒川が親指を立ててくれた。
    「衝撃で板が落ちると大変なので気をつけて行って下さい」
    「OK」
    八木はそう言って、荷物をトラックに載せしっかりロープを掛ける。
    ・・
    渋滞が激しい。約束の時間に10分ばかり遅れそうだ。
    事務所の公恵に携帯電話を入れて、配達先の客に知らせてもらう。
    荷台の荷物に入った綾乃のことを意識する。
    早く届けてあげたい。
    いつもの運送だったら、こんな気持ちにはならないな。
    何となくおかしかった。俺、生きた女子高生を荷造りして配達してるんだぜ?
    渋滞の前の車が走り出したので、八木のトラックも動きだした。
    中年の女性が乗る自転車が直前を横断した。あわててブレーキを踏む。
    2トントラックは大きく前のめりになって急停車した。
    窓から顔を出して自転車を見る。自転車は何事もなかったかのように走り去っていくところだった。
    ホントにおばはんというやつは・・。
    ゆっくりスタートしてから気付いた。荷物!
    慌てて道端にトラックを止め、荷台に上がる。綾乃を入れた荷物は特に異常ないようだった。
    八木は胸をなでおろした。
    ・・
    届け先はホテルの一室だった。
    「ずいぶん大きな荷物ですね」受付で言われてひやりとする。
    「中身は?」
    「えぇっと、人形、ですね」伝票を見るふりをしながら答える。
    「後藤様は7階の701号室です」
    「どうも・・」
    エレベータに乗る。帽子を取ってハンカチで額を拭く。
    台車に乗せた荷物は黒いシートに覆われているが、鳥篭のシルエットがはっきり分かった。
    廊下でビニールシートを取り外し、部屋をノックする。
    黄色い歓声が聞こえた。
    招き入れられた部屋は、パーティドレスを着た若い女性ばかりが10人以上いた。
    OLか、女子大生?
    「これがKSのプレゼントボックス?」
    「楽しみにしてたのよねっ」
    「その中に女の子が入ってるの、すごい~」
    「あの・・」八木は聞いた。
    「後藤真希様は?」
    女性達はくすくすと笑う。
    「そんな人はいないんです」
    「?」
    「プレゼントボックスを頼みたくって、適当につけた名前ですから」
    「ちゃんと受取人は決めてあるから大丈夫!」
    「はい、ゴマキです!」女性の一人が手をあげた。
    「だったら、送り主の加護亜依さんもいないんですね?」八木も笑って言った。
    「そう」
    「まあ、いいでしょ。・・ゴマキさん、中身を開けて下さい」
    「はい!」
    女性は八木の言う通りにリボンを外し、青いカーテンを開けてのぞき込んだ。
    熊のぬいぐるみが置いてあるだけだった。手を差し入れて中の熊のぬいぐるみを取り出す。
    「それは、おまけです。・・では、カーテンを閉めてこの上のボタンを押して」
    女子が鳥篭の頂上のボタンを押すと、音楽が大きな音で鳴り始め、周囲でランプが点滅した。
    小さくどしんと揺れたようだった。
    音楽は長々と鳴り続け、そして止まった。
    「・・はい、カーテンを開けて下さい」
    カーテンを開けると、綾乃が籠の中に膝を抱えて座っていた。
    「きゃあぁ!」
    女性達が喜んで拍手する。
    ゴマキが籠の扉を開いて、綾乃を外に出す。
    「可愛い~」
    「あの、プレゼント・・」
    あっという間に綾乃は女性達に囲まれてしまった。
    プレゼントを渡そうとして、営業スマイルのまま固まっている綾乃が八木には面白かった。

    6.イリュージョン
    「あたし長谷川さんの横!」
    美紀がそう言って長谷川のランクルに勝手に乗ってしまった。
    綾乃もつられて乗り込んだ。
    「仕方ないなぁ」
    典子がそう言って八木のトラックの助手席に座った。
    「仕方ないはないでしょ」八木が文句を言う。
    「美紀ちゃん、長谷川さんと一緒だとはしゃぐのよね」
    典子は笑う。「あの子が勝手に熱をあげてるだけなんだけど」
    たしかに長谷川は別にうれしそうでもなく、黙って運転席に座ってエンジンをかけた。
    土曜日の今日は、ある会社の社員向けの忘年会イベントに典子・綾乃・美紀の3人がミニイリュージョンで出演することになっている。
    会場のホールに着くと、さっそく女性メンバーは楽屋で着替えとメイク、長谷川と八木は機材を搬入する。
    KSでは普段のイベント会場はスーパーや公民館などが中心なので、小さいとはいえ楽屋もあるきちんとしたホールは珍しかった。
    「じゃ、あと頼む」搬入作業の後、長谷川は次の仕事に移動していった。
    八木はセットアップがすめば終了まで幕横で待機していればよい。
    生のイリュージョンを見れるチャンスは滅多にない。ちょっと楽しみだな。
    ・・
    「これ、壊れてるみたい・・」美紀が言い出したのは機材のセットアップ中だった。
    それはサンタクロースの乗るソリで、ソリの上でぺちゃんこだった布袋が膨らんで中から美紀が登場するネタだった。
    袋の中にはゴム風船が何個か入っていて、ボンベからエアを送り込んで膨らむ仕組みになっている。
    ソリに隠れた美紀がレバーを引くとボンベのバルブ(栓)を開閉できるが、そのレバーがふらふらしていて使えない状態だった。
    八木が覗き込んで調べる。レバーとバルブを繋ぐワイヤがどこかで切れているらしい。
    「直接バルブをひねったらエアは出るけど・・」
    「でも、手ぇ届かないよぉ」
    「風船、やめますか?」
    「あかんよ。袋に入るとこ丸見えになるもん」女の子3人が相談している。
    やがて「八木くん・・」と典子が八木を手招きした。いやな予感がした。
    「八木くんに栓を開けてもらうわ」
    「どうやって?」
    「この中に入って」とソリを指された。
    「でもここは美紀ちゃんが入るんじゃないすか?」
    「元々ふたり入れるネタ場だから大丈夫よ。男の人にはちょっと狭いけど我慢してね」
    え?
    ・・
    ソリの台座の中に隠された狭い空間で八木と美紀はじっと息を潜めていた。
    仰向けに横たわった美紀の足の方に頭を向けて八木が覆いかぶさる形で、頭上に伸ばした手にボンベの栓を握っている。
    八木の顔面は美紀の膝の間に挟まったまま、ほとんど身動きする余裕がない。
    美紀は薄いレオタードの生足にブーツを履いているだけだ。
    八木の頬は美紀の太ももの内側に密着している。
    これは・・ちょっとやばい体勢やぞ。
    八木は自分の股間が気になってしかたなかった。それはちょうど彼女の胸の辺りに押し付けられている。
    美紀は平気なのだろうか?
    「大丈夫ですよ。慣れてますから」
    ソリに入るとき美紀は笑って言ってくれたが、俺は初めてなんやぞ。
    ・・
    ステージの幕が開いた。
    サンタ姿の典子が一人でソリを引いて登場する。
    舞台の中央まで進んで額の汗を拭くまね。きょろきょろ辺りを見回す。
    やがて何かを発見したようにうなずき、大きな白布を取り出す。
    ソリを隠すように布を広げる。数秒後、布を外すとソリの御者台に綾乃が座っている。
    茶色いトナカイのコスチューム。頭には角のついた頭巾。
    いつまでも客席に向かって手を振って笑っている綾乃のお尻を綾乃が蹴って立たせる。
    そしてソリの引き綱を持たせ、代わりに自分が御者台に座る。
    綾乃はふてくされながらソリを引いて辺りを一周する。
    やがて典子は後ろを振り返って、ソリの荷台から袋を取り上げてみせる。
    その袋は空っぽだった。
    典子は袋を荷台に置き、おまじないのようなゼスチャーをする。
    ・・
    美紀の太ももが八木の顔をぎゅっと挟んだ。
    合図だ!
    八木は両手の中のボンベのバルブをひねる。しゅっ、というエアの音。
    やがて美紀が八木の下からするすると滑り出していった。
    二つの膝小僧が八木の胸の下を動く感触・・。
    ごつん!
    ブーツの先が八木の顎をひと蹴りし、美紀はネタ場から出ていった。
    は~っ。
    八木は大きく息をついた。美紀の太ももの感触がいつまでも頬に残っていた。
    ・・
    典子の呪文に合わせて、ソリの荷台の袋がだんだん膨れ始めた。
    大きくなった袋がごそごそ動いている。
    典子と綾乃が袋の口を解くと、そこから妖精のような格好の美紀が顔を出して笑った。
    袋から外に出て、3人で手をとってお辞儀する。
    拍手が鳴るのを聞いて八木はほっとする。
    どうやらうまくいったらしい。

    続き




    キョートサプライズ第9話(2/3)・師走の助っ人

    7.美香梱包
    夕方、八木は事務所に戻ってきた。
    あのソリのイリュージョンの後は、すべての演目が無事に成功していた。
    「八木くん、いきなりごめんね。でもあんなアクシデントも楽しいでしょ?」
    典子はそう言って八木の肩を叩いた。
    「もう勘弁して下さいよ、典子さん」
    「あはは。今夜も仕事あるんでしょ。変な失敗したらあかんよ」
    ・・
    夜はプレゼントボックスの配達だった。
    作業場には辻井美香が待っていた。
    「八木くん、久しぶり!」
    八木は美香のコスチュームに目を見張る。
    銀色メッシュの全身タイツにブーツと手袋。タイツの下には何も着ていないみたいだ。
    股間とバストトップだけは銀色の飾りでわずかに覆われているものの、それ以外の箇所は美香の素肌が網目を通して見えている。
    「あの、美香さん、・・ちょっと過激過ぎませんか、その格好」
    「えへへ、セクシーでしょ? 」
    美香は八木の視線をいっこうに気にすることなく、ポーズをとって笑う。
    この日美香が入るのはプレゼント缶だった。
    直径50センチの丸い台の上に膝を抱えて座り、プレゼントを膝の上に置く。
    そして銀色のセルロイド板を巻いて作った高さ90センチほどの筒を周囲に被せる。
    筒の継ぎ目はセロテープで軽く止めただけなので、中から押せば簡単に開いて出ることができる仕組みだった。
    八木は紙吹雪を詰めたポリ袋を手にして、筒の上からのぞき込む。
    「これ、全部入れて構わないんですね?」
    「うん。網タイ着てるから肌にくっつかないのよ」
    「はい、なら・・」
    筒の内側に紙吹雪を注ぐ。美香の身体が紙吹雪に隠れていく。
    「ね、八木くん」
    美香が声を出した。もう首の下まで紙吹雪に埋まっている。
    「どうしましたか?」
    「できあがったら横に倒したり、転がしたりしてもいいよ」
    「え?」
    「逆さは・・、うん、少しくらいだったら、上下逆に置いてもOK!」
    「な、何言ってるんですか」
    「いいからいいから。八木くん、きっとムラムラしてるやろうなって思ってたのよ」
    「美香さん!」
    「じゃ、紙吹雪、入れてねっ」
    八木は黙ってポリ袋を再び傾けた。
    美香の頭が紙吹雪に完全に埋まった。
    「ふう」
    八木は一息ついてから、一端がふさがった円筒形の金属缶を手に持つ。
    それを上から全体に被せ、台のフックを缶の下端に掛けてロックする。
    「大丈夫ですかぁ?」
    缶の上を指で叩いて呼びかける。
    「・・ほ~い」
    中からかすかに美香の声が返った。
    大丈夫なんだろう。あとは飾りつけやな。
    そう考えながら八木はしばらく円筒形の缶をじっと見つめる。
    「・・」
    よし。
    思い切って缶のふちに手をかけて床に倒した。
    やっていいって言ったのはこの娘なんやからな。
    そのまま押してごろごろと転がしてみる。
    缶は中身がぎっしりと詰まっているようで、中で何かが動くような感じはしなかった。
    2メートルほど転がした後、台の底の部分に手をかけて持ち上げる。
    缶の中を内容物が滑っていくのが分かった。
    全体を上下逆に立てておいた。
    「ん・・」
    小さく美香の声が聞こえたような気がした。
    缶の中で膝を抱えた姿勢のまま、天地が逆転していることになる。
    首で体重を支えるから結構苦しいはずだし、自分では何もできないから不安だと思うが、中からは何の物音もしない。
    よし。きっちり1分置いてから、缶を倒して元の方向に戻した。
    全体をおおきなセロファンフィルムでラップし、赤と黄色の大きなリボンをつけた。
    これで完成。
    搬出のために台車に載せようとして、八木は喉がからからに渇いているのに気付いた。
    あの子の挑発に乗って、何をしてるだろう、俺は。

    8.佳織くす玉
    「わぁ~っ」群集の歓声が響いた。
    クリスマスの飾りつけがなされた商店街のアーケード。
    その最上部から吊られた球体が二つに割れて、そこから白い袋を肩にかけたサンタ姿の小嶋佳織が降下している。
    頭上4~5メートル程の位置まで下がるとそこで降下は止まり、佳織は袋からスポンジ製のおもちゃをまき始めた。
    雪ダルマにトナカイ、クリスマスツリー。
    子供達が喜んで拾い集めている。
    ・・
    その2時間半ほど前。
    人通りのない午前7時30分の商店街。
    八木は寒さに凍えながら佳織を詰めたくす玉をトラックから降ろしていた。
    商店街の役員が立ち会っている。
    「・・じゃ、ここに掛けて下さい」
    アーケードの屋根のウインチから下ろしたフックをくす玉に接続して吊り上げる。
    銀色の球体がゆっくり上昇して行く。
    地上12メートル。
    KSのくす玉の歴史の中で最高の高さだった。
    「もう入っておられるんですか?」役員が聞く。
    「はい、ご心配なく。うちは人間くす玉で一番の実績を誇りますから」
    「ほお、そうですか」
    初老の役員は感心したような顔で頷いた。
    一番の実績って、他にやってるところあるんかいな。自分で言っておいて考えた。
    ・・
    更にその30分前。
    「僕がくす玉なんておかしいと思ってるでしょ」
    KSの事務所で赤いサンタコスチュームを着た佳織が笑いながら言った。
    「こういうアトラクションは身長あった方がミバがいいんだからね」
    「それはそうですね。・・でも、本当に入れるんですか?」八木が聞く。
    二人の足元には直径70センチのくす玉が置かれていた。
    「失礼ねぇ。これくらい平気よ。・・50センチはさすがに無理だけど」
    佳織はくす玉の中にお尻を入れて座ってみせた。膝の下にプレゼントの袋を押し込む。
    「はい、蓋して」
    八木はくす玉の半球を佳織の上に被せて押さえるが閉まらない。
    「ん、ちょっと、待って・・」
    半球の下で佳織がもがいていた。身長175センチの佳織が入るには明らかに無理があると思った。
    佳織は座り直して小さくなって、膝の間に頭を深く入れた。
    「も一回お願い」
    「はあ」
    再び半球を被せるが、まだ両肩が突っかかっている。
    「上から押さえて」
    「オープンは10時でしょ? 3時間もそんなで大丈夫ですか」
    「ん・・、いいから・・・押さえて」
    「わかりました」
    八木はくす玉の上から体重を掛けて押さえつけた。
    「ん~、ぎゅ」
    佳織の身体が押し潰されて蓋が閉まった。カチリ。ロックが掛かる音。
    「大丈夫ですか~?」
    「・・・だいじょお、ぶ、です」
    球体の中から小さな声がした。
    佳織はこれからくす玉に詰まったまま運ばれて、商店街のアーケードで空中に飛び出すのだ。
    ・・
    おもちゃをまき終えた佳織はクリスマスソングに合わせて空中で揺れている。
    その額にはうっすらと汗が光っているようだ。
    八木はくす玉のコントローラを手に腕時計を見ている。
    オープンから15分経った。降下ボタンを押す。
    佳織はゆっくり地上に降り立ち、自分でくす玉のハーネスを外した。
    八木はすぐにウインチを巻き上げてハーネスを空中に上げる。
    子供達がわっと駆け寄る中、八木も近づいて佳織の肩にコートを掛けた。
    「ありがと! 西山商店街のクリスマスセール、よろしくね!」
    佳織は明るく笑いながら手を振っている。
    この娘もやるなぁ。
    ・・
    商店街の事務所に入ると、佳織は八木の肩にすがりついた。
    「はあ~。怖かったぁ~。あんなに高いなんて・・」

    9.美紀と純生のパーティ盛り上げ
    事務所に戻る。
    コスチュームの上からウインドブレーカーを羽織った美紀が黒川と待っていた。
    「八木さん、すぐに出ますよ!」
    3人はトラックに乗り込む。荷台には既に機材が載まれていた。
    「え~っと、北区ですね。レストラン貸し切りで結婚式の2次会」
    黒川が伝票を見ながら説明する。
    「あたしも素敵な人と早く結婚したいですぅ。長谷川さ~ん!」
    八木と黒川の間に座った美紀がのんきに言った。
    ・・
    「待ってましたよ!」レストランの駐車場で幹事役の男性が出迎えてくれた。
    「プレゼントを渡したら、その後ビンゴやりますんでよろしく盛り上げて下さいね」
    「はい! まかせて下さい!」
    美紀が答えながらブレーカーを脱ぐ。真っ赤なバニースーツが現れた。
    「ひゃぁ、こりゃ拍手喝采やな」幹事の男性は目を丸くして美紀を見た。
    ・・
    「では、今日のゲストです」
    「こんにちわ~!」
    ドアを開けてバニーガールの美紀が入って行くと会場からは口笛と歓声が上がった。
    「キョートサプライズのヒカルです。よろしくお願いしますね!」
    美紀がステージネームで自己紹介して会場の相手をしている間に八木と黒川は荷物を運び込む。
    八木がちらりと見ると、美紀はモデルのようなポーズで写真を撮られている。
    美紀ちゃんって、こういう場に慣れてるなぁ。
    「今日の主役の二人はどなたですかぁ? あ、こちら、お名前は? 誠さんと知香さん、マッチとチッチですね~、なんて」
    つまらない駄洒落にも笑い声が上がっている。
    OK。黒川が美紀に指で合図し、美紀が目で応じる。
    「今日はお二人にお祝いのプレゼントがありま~す」
    美紀が後方に置いた箱を示す。
    1辺1メートルくらいの四角い箱で、カラフルな包装紙とピンクのリボンで飾られていた。
    「どうぞ、お二人で開けて下さい!」
    美紀は新婚の二人を箱のところに連れ出して、箱を開けさせる。
    リボンと包装紙を外すとダンボールの箱が現れた。
    「おや、中身は何でしょうか? 箱を持ち上げて下さいね」
    美紀の指示に従ってダンボールを持ち上げると、中から箱が現れた。
    カラフルな包装紙と黄色いリボンで飾られていた。
    「おやおや、どうぞお二人で開けて下さいね!」
    それを開けると更に箱が現れる。今度は青いリボン。
    「頑張れよ~!」会場から声が掛かる。
    新婚の二人は苦笑いしながら、箱を開け続けた。
    5回目にようやく1辺50センチほどの白い箱が現れた。
    「いよいよ本物のプレゼントでしょうか? さあ、箱を開けて下さいね!」
    美紀に促されて二人は白い箱に手をかける。
    ポン。
    破裂音がして箱は二つに割れ、白い煙が上がった。
    「ご結婚おめでとうございま~す!」
    煙の中から青いバニースーツ姿の鈴木純生が立ち上がって片手を上げた。
    「はい、こちらはジュンコさんです!」
    美紀が純生のステージネームを紹介する。
    「ジュンコです。よろしくお願いま~す」
    純生は箱の中からプレゼントを出して二人に渡す。
    「はい、お二人の新婚生活に壁掛け時計です。これはここにおられる皆さんからの贈り物です」
    二人は頭をかきながらお辞儀して席に戻った。
    ・・
    「おめでとうございましたっ。・・では、これから皆さんにもプレゼントです!」
    「はい、大ビンゴ大会~!!」
    二人が入り口の横を手で示すと、黒川と八木が準備していた黒幕をさっと開く。
    そこには大きなルーレットのような回転盤があった。
    「え~っと、ルーレットの女の子がくるくる回って数字を出します」
    「ビンゴを揃えて素敵な景品をゲットして下さいね!」
    「では、トップバッターはヒカルちゃん!」
    「えへへ。頑張ります!」
    美紀がルーレットを背にして踏み台に立ち、両手を広げる。
    黒川と八木が美紀の両手両足を回転盤に拘束して踏み台を外した。
    「大丈夫ですね?・・はい、ビンゴカードは一枚ずつ回りましたか?」
    純生はケーブルのついた小さなコントローラを手に持つ。
    「はい、皆さんに一人ずつルーレットを回してもらいましょう。最初は新郎の誠さん!」
    男性が前に出てコントローラを持つ。
    「これがスタートで、これがストップボタンね。・・いいですか? じゃあ、ルーレットスタート!」
    ルーレットのイルミネーションが派手に点滅し、大の字になった美紀がゆっくり時計方向に回り始めた。
    「ややや・・・」
    美紀はびっくりしたような表情をして回っている。
    ルーレットの外周は電光表示板になっていて、赤い数字がランダムに表示されて反時計方向に回転している。
    「あ~ん、そろそろ止めて下さいよぉ~」
    回転する美紀がわざとらしく悲鳴を上げた。
    「あんなこと言ってるけど、止めてあげます?」
    純生がおどけて言って場を笑わせる。
    やがて男性がストップボタンを押してルーレットの回転は次第にゆっくりになり、やがて美紀は頭を真下にして止まった。
    彼女の頭の下で赤い数字が点滅していた。・・『25』。
    「はい、25で~す。カードに25のある人は穴を開けて下さいね~。・・じゃあ、次、ルーレットを回したい人っ」
    ほとんどの客が男女問わず手を上げた。
    ・・
    「じゅんちゃん大丈夫?」
    帰りのトラックで黒川が聞いた。
    「あはは、さすがにちょっと目が回りましたね~」
    純生が頬に両手を当てて答えた。
    ビンゴ大会では美紀が15分ほど回った後純生に交代し、その後純生は最後まで30分以上回り続けたのだった。
    「でも、皆さん喜んで下さってよかったです」
    「大盛況でしたね」八木が相槌を打つ。
    「あたし達、二人とも頑張りましたよねぇ」
    足元から美紀の声がした。
    「・・なのに何であたしだけこんなところで小さくなってるんですか~っ」
    ハンドルを握る八木の横に純生と黒川が座り、美紀は足元の狭い空間にずくまるようにして丸くなっていた。
    「ごめん、帰りは4人だってこと忘れてて」
    黒川が答えた。
    八木は足元にうずくまるバニーガール姿の美紀をちらりと見て、猫みたいだなと思った。
    「こら、頭を上げない! おまわりさんに見つかったらまずいんだから」
    「あ~ん」
    黒川に怒られ、美紀はべそをかいて再び小さくなった。

    10.典子と美香の回収
    「ふわ~っ」
    トラックを降りて八木は背伸びをする。
    早朝から仕事だったので、さすがに疲れていた。
    今日はこれで上がりだから、帰って酒飲んで寝よう。
    「八木く~ん」
    背中から洋子が声を掛けた。猫撫で声。
    またもやいやな予感がした。
    「・・悪いんだけど、今夜もう一本お願い」
    あ~、やっぱり。
    「長谷川くんに別件ができて、替わりに女の子回収に行って欲しいのよ」
    「誰ですか?」
    「え~っと、典ちゃんと美香ちゃん」
    ふう。
    「わかりました。二人の迎えですね」
    「迎えじゃなくって、回収。・・分かるわね?」
    ・・
    洛北の山道は真っ暗になっていた。
    市街地から30分も走ってようやく目的地に着く。
    そこは山の中の一軒家だった。
    軽トラを止めた目の前に明かりがぽつんと見える。
    空の台車を押して玄関に向かう。
    「やあ、ご苦労さん」
    現れたのは初老の男性だった。
    「あそこにまとめてあるから、頼みますよ」
    小さな電球が一つ点るだけのうす暗い部屋。
    木の床の上に黒いスーツケースが二つ揃えて立ててあった。
    八木は黙って台車にスーツケースを載せる。
    「たしか君は、臨時の運転手やったな」
    男性が背後から八木に声を掛けた。
    「はい」
    「KSだけかと思うてたら、こっちの方もやっとったんか」
    「一人で来るのは初めてです」
    「そうか。君はこの荷物の中身を知っとるんか?」
    「一応、どういうものかは聞いてます。・・見たことはないですけど」
    「なら、見てみるか」
    「は?」
    「これを開けて、中を見てみるか」
    男性は台車の上に並べて置かれた2個のスーツケースを指差していた。
    「いえ、それは・・」
    「君がしている仕事がどういうもんなのか、知っておいて損はないやろ」
    「あ、はい・・、で、では」
    鍵を2個渡された。
    「これで開けて見なさい。ただ、見るだけで触らん方がええ。自分では元に戻せんやろうから」
    八木はずっしりと重いスーツケースを一つ台車から下ろして横に倒した。
    鍵をひとつケースの鍵穴に挿す。・・動かない。
    もう一つの鍵でやり直す。カチリ。ロックが開いた。
    火の気のない部屋なのに、額に汗が流れるのを感じた。
    ゆっくり蓋を開けてスーツケースの中身を見る。
    一瞬、ぼろ布が詰めてあるのかと思った。
    それは上半身を麻袋に覆われた女性だった。
    頭の上からおへその辺りまでが袋に入っていて、その上から細い縄をぎりぎり巻いて縛られている。
    下半身は小さなショーツを穿いているだけで、膝を上半身に押し付けるように折りたたみ、さらに全体に容赦なく縄が絡みついて素肌に食い込んでいた。
    スーツケースの中に押し込められて微動だにできない少女。
    蓋を開けてすぐに気付いたのは、匂いだった。
    八木も知らない訳ではない、甘酸い香り。
    それがスーツケースを開けた途端に広がって、八木の鼻をついているのだ。
    ごくり。
    しばらく眺めて八木はスーツケースの蓋を閉め、ようやく深く息をした。
    そういえばこの女の子はどっちなんだろう。
    「それはカスミちゃんやな」
    八木の思考を読んだかのように男性が言った。
    なら、もうひとつのスーツケースが典子さん。
    「あ、あの」
    「ん?」
    「こっちの方も見ていいですか?」
    「もちろん」
    もう一方のスーツケースも下ろして開ける。
    典子も概ね美香と同じだったが、美香より一回り小さくコンパクトに固められていた。
    スーツケースの中で女体が動かないように、周囲の隙間にはスポンジや新聞紙などが詰められている。
    「典、ナツキさん・・?」
    「呼びかけても答へえんよ。口にはスポンジを詰めてあるし、だいいち意識があるかどうかもわからん」
    「・・」
    八木は黙って梱包された典子を見つめる。
    麻袋の背がゆっくりと上下していた。
    身動きひとつできない姿でも、呼吸をしているのだった。
    八木は嬉しくなり、無意識に手を伸ばして典子の太ももに触れた。
    それは思ったよりも硬く、冷たくてどきりとした。
    そう言えば匂いは?
    鼻が慣れたのか、美香のような匂いは感じなかった。
    顔を近づける。
    突然感じた。美香に負けない女の匂い。
    「匂うか。昼間は二人ともよう乱れたからな。・・そんなに犬みたいに嗅いでいたらただの助平男やで」
    慌てて顔を上げた。
    「すみません」
    「はっはっは」
    男性は大きな声で笑い、八木は蓋を閉めた。
    二つのスーツケースに鍵を掛けて台車に戻す。
    急いで運んであげないと、と思ったところで声をかけられた。
    「コーヒーでも入れよか。見たところ落ち着いて運転できる気分やないやろ」
    俺はプロですよ、事故なんかしません、と言いかけて思い直した。
    「すみません。よばれます」
    ・・
    男性は藤本と名乗り、病院を経営していて、自称KSの後援会長だと言った。
    「知っとるか。島さんは昔はウチの病院の看護科におったんやで」
    「そうなんですか」
    この日は、同じクラブ会員のバーテンダーと大学教授の3人で楽しんだのだという。
    「カスミちゃんもナツキちゃんも、FBになってまだ2ヶ月ほどやと思うが・・」
    藤本はコーヒーをすする。
    「・・二人とも本物やな」
    本物のM女ってことか?
    「島さんの言う役務精神に満ちているな」
    「?」
    「自分の役目をわきまえて、心からお客に尽くしてくれるということや」
    「そうですか」
    「八木くんやったな」
    「はい」
    「この娘達を大事に運んで帰るんやで」
    「はい」
    八木は自分の胸を押さえた。
    もう大丈夫だ。
    「落ち着きました。コーヒーご馳走様でした」
    八木は藤本に挨拶して台車を押して外に出る。
    外は寒かった。
    2つのスーツケースを軽トラの荷台に載せる。
    そのままロープを掛けようとしたが止めて、運転室から毛布を2枚出してきた。
    スーツケースにかぶせ、その上からロープを掛けて固定した。
    藤本の別荘に向かってお辞儀をして、それからエンジンをかけた。
    ・・
    「ご苦労さん!」
    事務所に着くと長谷川と黒川が待ち構えていて、すぐにスーツケースを作業場に運んでいった。
    八木は黙って運転台を降りる。
    長い日曜日だった。
    疲れた足どりで事務所に入ると、真奈美がひとりソファで新聞を広げていた。
    「あ、ども」
    「お~っす。お疲れ!」
    真奈美は八木を見て笑った。
    「聞いたよ。藤本のオヤジさんに可愛がってもらったんだって?」
    「え、何で知ってるんすか?」
    「さっき藤本さんが電話してきたよ」
    「参ったなぁ」
    「典ちゃんと美香ちゃんが縛られてるの見て涎垂らしてたんだってね~」
    「よ、涎なんてしてませんって」
    「へへへ。まあ、いいや。・・それより八木にいい知らせがあるんで待ってたんだよ」
    「何ですか?」
    「キミは明日と明後日、温泉付の出張だよ。ラッキーだね!」
    「泊まりでクラブの出前ですか?」
    「そう。FBは誰でしょー」
    「誰だって構いませんよ」
    「いいから、ねえ、誰か当ててみてよ」
    真奈美はにこにこしている。
    「もしかして、真奈美さんですか?」
    「あ・た・り~。どう、嬉しい?」
    「別にいつも通りに仕事するだけです」
    「もう、可愛くないなぁ。・・もっと素直になりなよ。終わったら一緒に温泉入ったげるからさ、もちろん裸で」
    「何アホなこと言ってるんですか」
    「明日は14時集合だからね。遅刻しないでね」
    真奈美はそう言って八木にウインクした。

    続き





    キョートサプライズ第9話(3/3)・師走の助っ人

    11.石膏モールディング
    冬晴れの道を長谷川の車と八木のトラックが走っている。
    トラックの運転席からは前の車のリアウインドウ越しに洋子と真奈美が並んで座っているのがよく見えた。
    洋子さんが同行するのは珍しいな。よほど大事なお客なんだろうか。
    洋子の横で真奈美が手を叩きながら大笑いしている。
    あの人はどうしてあんなにリラックスしてるんだろう。これから厳しい責めを受けるというのに。
    トラックには石膏の袋、鉄板の練り皿、様々なコテの類が詰まれている。まるで左官屋だ。
    それと高さ1メートル、直径50センチほどの円筒形の金属容器。
    八木は真奈美を梱包輸送しなくてよいと分かってほっとしたが、その代わり先方での作業を手伝うことになって気が重かった。
    運転手の仕事の枠を超えてるよ。
    国道24号線から163号線へ。車は次第に南山城の山中に分け入って行く。
    ・・
    その山荘は以前は大きな企業の研修所だったが、今は個人の所有だという。
    地下駐車場の一角で八木は石膏を練っていた。
    20人くらいの男女が興味深そうに作業を見物している。
    今夜は山荘の主人と仲間が集まってプレイを兼ねたパーティが開催される。
    Club-LB への依頼は石膏モールディングだった。
    石膏の柱の中にFBを埋め、生きたオブジェとして飾るのだ。
    モールディングは準備が大変なので通常は「完成品」を配達/回収しているが、今回は拘束時間が長時間にわたることと製作工程も見たいという要望で出張製作になったのだった。
    石膏を練っている横には腰くらいまでの高さの黒い容器が置かれている。モールディング用の型だ。
    やがて真奈美が長谷川に抱かれて容器に中に立たされた。
    彼女は素肌に短ジャンパーを羽織っただけの姿で他には何も身につけていない。
    大きな白布の目隠しとガムテープの猿轡、更に後ろ手錠を掛けられて長谷川に肩を支えられていた。
    下半身には前張りの絆創膏が貼られ、そこから洋子が施術した導尿カテーテルの細いチューブが足元に伸びている。
    真奈美は、観客の遠慮ない視線を浴びながら尿管にカテーテルを挿入されたのだった。
    「では石膏を注入します」
    容器の内壁と真奈美の身体の間に、少ずつ石膏を注いでは棒で突いて気泡を抜いていく。
    石膏液が容器の縁まで満ちると、2分割した木板の蓋を前後からはめる。
    蓋には真奈美の身体に合わせた穴が開いていて、胴体がぴたりと固定された。
    「速乾性の石膏なので2時間ほどで固まります」
    一同にほっとしたような空気が流れた。
    「では上のサロンでごゆっくりお過ごし下さい。型を外すときはまたご案内しますので、ご希望の方はどうぞ」
    ・・
    人々はしばらくの間、石膏型にセットされた真奈美を囲んでいたが、やがて上階に移動していった。
    「八木くん、真奈美ちゃんに付き添ってくれる」
    洋子と長谷川も姿を消した。
    八木はしばらく辺りの片付けをして、それから真奈美をじっと見る。
    真奈美はほとんど身動きもしないでいるが、肩の上下が大きくなっているようだ。
    よく見ると真奈美の額に汗が浮いている。
    急いでタオルを持って真奈美に近づいた。
    「汗を拭きます」
    俺には少し寒いくらいなのに、変だな。
    石膏型を触ると暖かい。これか。
    石膏は固まるときに熱を出すことを思い出した。
    真奈美は鼻だけの呼吸が辛そうだ。
    まずい。口のガムテープを剥がした。
    「はあ、はぁ、・・駄目、勝手に取っちゃ・・」真奈美が苦しそうに言った。
    「でも息が詰まりそうでしたよ」
    「それは、そうだけど・・」
    「ともかく、熱が冷めるまでは駄目です」
    スポーツドリンクのペットボトルを口にあてがって飲ませる。
    胸元を見るとこちらも汗だくだ。どうしようか。
    ええい、八木はジャンパーの内側にタオルを入れて首すじや胸元を拭った。真奈美は何も言わなかった。
    それからトラックの運転席にうちわがあったのを思い出して取って来ると、ばたばたと扇いだ。
    「はぁ~、気持ちいい」真奈美が目隠しのまま言う。
    よかった。八木は扇ぎ続けた。
    やがて型の温度が下がり、真奈美の息も落ち着いた。
    「もういいよ、八木」
    「わかってます」
    八木は新しいガムテープをびりっと切り取った。
    「顎の付けねのところまでしっかり貼るんだよ」
    「はい」
    「それから・・」
    「?」
    「ありがと」
    八木は黙って真奈美の口にテープを貼り、周囲をしっかり押さえて密着させた。
    ・・
    「型を解体します」
    再び集まった観客を前に、石膏型の蓋が取り外された。
    続いて筒状の容器本体側面のボルトをレンチでひとつずつ緩めていく。
    長谷川と二人がかりで石膏型を慎重に分割して左右に外すと、真っ白な柱状のオブジェが現れた。
    「おお~」歓声と拍手が起る。
    「ではきちんと仕上げた姿はパーティの本番にて、ということで。8時になったら2階の食堂にご参集下さい」
    観客がいなくなるとようやく真奈美は拘束を解かれた。真奈美はとろんとした表情をしている。
    長谷川は石膏の表面を紙やすりで磨いている。
    「長谷川くん、私達もそろそろ着替えましょ」
    「そうですね。・・あと頼めるかい」長谷川は八木に聞いた。
    「はい、仕上げておきます」
    「またすぐ来るから」
    地下は再び八木と真奈美だけになった。
    八木はやすり掛けの続きを始めたが、あちこちに蓋の木目や型の分割線が大きく浮き出していて紙やすりではなかなか落ちない。
    工具箱のドライバを使って注意深く削り取って紙やすりをかけて磨いた。
    それから石膏の上面をクロスで磨くと滑らかなテーブルのようになった。
    これでよし、と。あとは?
    よく見ると真奈美のへその下に石膏の飛沫が付着している。
    「けっこう身体に石膏がついてますね。拭きましょうか?」
    「あ・・、うん、お願い」
    ばさ。真奈美は短ジャンを脱いで床に落とした。
    うわっ。
    二つのバストがぷるんと揺れた。
    「えっと、その、お腹のまわりだけのつもりだったんですけど」
    「え、ええっ? やだぁ~っ」真奈美は慌てて両手で胸を隠す。
    この人が恥ずかしがるのを見るのは初めてやなぁ。
    「あたし、その、ぼうっとしてて・・。八木ぃ、ジャンパーひろってよぉ~」
    しゃあないなぁ、でも。この際、真奈美を苛めたくなった。
    「どうせ、本番でも裸なんでしょ? このまま拭きますよ」
    「もう~」
    構わずに濡れナプキンを真奈美の脇腹にあてる。
    「ひゃ」
    目をつぶって横を向いた真奈美の背中がびくっと震える。
    八木は彼女の腹から背中まで、丁寧に拭い上げた。
    間近で見る真奈美の素肌は綺麗だった。
    真奈美の身体はへその下10センチくらいの高さで石膏から生えている。
    ローライズのパンツのようで、けっこう露出がきわどい。
    「そんなにじっと見ないでくれる」
    真奈美が顔をそむけたまま言った。口調が弱々しい。
    「真奈美さん、大丈夫ですか?」
    「うん。・・ううん、大丈夫じゃない、あんまり」
    「どっか痛いんですか? 洋子さんを呼んできます」
    「・・あほ」
    「え?」
    「こっちへ来て」
    真奈美は手を伸ばして八木を引き寄せると、突然覆いかぶさるようにして抱きしめた。
    「ま、まな・・!!」
    押し付けられた真奈美のバストはひんやりとして柔らかかった。
    「八木もぎゅっと抱いて」
    恐る恐る真奈美の背中に手を回す。綺麗にくびれた細い腰だった。
    「ごめん、・・しばらくこのままでいさせて」
    心臓が口から飛び出すかと思った。
    そのまま何十秒か、何分か、どれだけ過ぎたのか分からなかった。
    「あら、もうスイッチが入ったの?」
    後ろで洋子の呑気な声がした。
    八木は慌てて真奈美から離れようとする。真奈美はなかなか離してくれない。
    「う、ひゃ、・・まな、みさん!」
    ようやく真奈美を引き剥がして振り返った。
    「よ、洋子さん!?」
    浅葱色の着物姿の洋子が立っている。その後ろにはスーツにネクタイの長谷川。
    「うん、綺麗よ、色ぽくて」
    洋子はにっこり笑って真奈美の頬を撫でた。
    真奈美は胸を手で隠しながら、ぺろりと舌を出した。
    洋子が真奈美の髪と化粧を手直しする。
    八木は何も言うことができずに、背中を向けて両手を膝についた。まだ心臓が落ち着かない。
    「まあ、よくあることだ」
    長谷川がぽつりと言った。

    12.山荘のパーティ
    パーティの会場の片隅に、スポットライトに照らされて彫像モールディングが設置されていた。
    ギリシャ彫刻のようなデザインの白い柱、そこから一糸まとわない女性の上半身が生えている。
    女性は左右の腕で裸の胸を抱くようにしてぎゅっと目をつぶり、人々の視線に耐えていた。
    生きた人間のオブジェ。それは文句なしに美しかった。
    「島さん、さすがに Club-LB の商品ですねぇ」
    「石膏に埋めるところから拝見できて眼福でした」
    「あたしもあんな綺麗に飾って欲しいなぁ」
    「今度は私も借りたくなってきましたよ」
    「ほほほ・・」賞賛を受けて笑う洋子の声。
    「是非、よろしくお願いしますわ」
    その声が聞こえているのかいないのか、真奈美は身動きひとつせずにうなだれている。
    地下で身支度を整えた真奈美は、大きな白布を掛けてリボンで飾り、食堂に搬入された。
    そして全員で除幕式をしてから、そのまま飾られているのだった。
    ・・
    八木はゲストルームのベッドに寝転がっていた。
    食事もきちんと出してもらっているが、従業員の身でありパーティに出席する訳にはいかない。
    携帯電話で呼ばれたら手伝いにいくことになっている。
    ごろりと寝返りを打ってぼんやりテレビを見ている。
    自分は真奈美さんにからかわれたんだろうか。それとも。
    頬に真奈美の柔らかいバストと硬い乳首の感触が残っていた。
    ・・
    会場では長谷川が女性達に囲まれていた。
    「長谷川さんは、マジシャンなんですよね」
    「ええ、まあ。現役じゃないですけど」
    「ホントですか? 何か見せて下さ~い」
    長谷川は洋子に目をやる。
    「いいよ。やってあげたら?」洋子に言われてその気になる。
    「では、少しだけ・・」
    テーブルのフォークを一本取りあげ、左手に持ってひらひらさせる。
    右手で隠して、もう一度見せると、左手のフォークが2本になっていた。
    「わぁ~」拍手が起る。
    それにつられて他の客も集まってきた。
    「もっと、見せて下さ~い」
    「いや、もうこれだけで勘弁して下さいよ」
    「いけぇ、もっとすごいのやっちゃえ~」洋子まで無責任にヤジを飛ばしている。
    「じゃあ、あと一つだけ、今夜の集まりにふさわしいものを」
    長谷川は鞄から赤いリボンの束を出す。真奈美を包むのに使った残りだった。
    「これで縛られてもいい女性はいらっしゃいますか」
    何人かが手を上げた。
    その中から二人を選んで立たせ、リボンで手早く後ろ手に縛った。
    それぞれ、縛った手首からリボンを2メートルほど伸ばしてハサミで切る。
    「ちょっと縛ってさしあげましたが、これはただのサービスです」笑いが起る。
    「この女性のパートナーの方はいらっしゃいますか?」
    手を上げた男性二人に、それぞれの相手のリボンの端を持たせた。
    「これは男性の女性を大事に思う気持ちのテストです。絶対にリボンを離さないで下さいね」男性に告げる。
    「ではお二人の女性には、これから私の言う通りに歩いて下さい」女性に告げた。
    「お互いに反対の場所に移って下さい」
    「あなたはしゃがんで、このリボンをくぐって」
    「ここを跨いで、それから元の場所に戻って」
    後ろ手に縛られた二人の女性が長谷川の指示でひょこひょこと動く。
    2組の男女を結ぶリボンがだんだん絡み合っていった。
    「はい、それで結構です」
    長谷川は絡んだリボンを引き絞って結び目のようにしてしまう。
    「一度も手を離してませんよね」男性に確認する。
    「ではそれが本当か、これから確かめてみましょう。私が合図したらリボンを引いて下さい」
    そう言って、男性に構えさせる。
    「いっち、にい、さん、はい!」
    男性がリボンを引くと、結び目がすっと消えてリボンがぴんと伸びた。
    そしてその先は先ほど繋がっていた女性とは違う女性のに繋がっているのだった。
    「え?」「あれ?」驚く男性たち。
    「ありがとうごさいました。・・あ、リボンはプレゼントです。すぐ解いてあげるか、縛ったままにしておくかは、お好きに」
    両手を広げてお辞儀した。
    拍手が起った。
    洋子も喜んで拍手をしている。
    「ふう」
    仕事で来たパーティなのに、つい調子に乗ってしまったなぁ。
    ・・
    2時間後、八木が呼ばれてやってくると廊下で長谷川が一人待っていた。
    「洋子さんは?」
    長谷川は苦笑いしながら会場の一角を指さした。
    そこでは人々が輪になって座り、その中で男性が女性を縛りながら何かを説明していた。
    やっぱりSMパーティなんやなぁ。八木は思った。
    と、座っている人々の中にいた着物姿の女性が振り返って腰を上げようとして尻餅をつき、支えられて立ち上がり、こちらにやってきた。
    洋子だった。
    彼女は縄で後ろ手に縛られていた。浅葱色の着物の襟がはだけて肩が半分出ている。
    「えへへ、久しぶりに縛ってもらっちゃった♥」
    縛られたままぴょんぴょん跳ねる。
    「という訳で、真奈美ちゃんのことお願いね」
    そのまま回れ右しようとしてよろめき、長谷川に支えられて戻っていった。
    八木も苦笑いするしかなかった。
    ・・
    パーティが始まったときからずっと展示されていた真奈美は、今度は白いドレスで着衣緊縛された。
    真奈美は無言でうなだれていた。
    長谷川も真奈美をまるで意志のない人形であるかのように扱う。
    八木も会場の中で彼女に話しかけることはできず、黙って長谷川の作業を手伝った。
    やがて縄掛けが完成し、再びスポットライトが点けられた。
    石膏柱は長いスカートにほとんど隠れ、足元に少しだけ見えている。
    真奈美を縛る縄は前から見ると上腕に少し掛かっているだけで、彼女が自分で腕を後ろに組んでいるようにも見えた。
    しかし後方から見ると、捻り上げられた両腕に縄が絡みついて、二つの手首を高い位置で縛って固め上げているのだ。
    八木はそんな真奈美を見て、綺麗だと思った。

    13.雪の中の彫像
    真夜中。
    八木が会場に来ると、人数は半分くらいに減っていた。
    「あとの連中は個室でお楽しみ中さ」長谷川がそう言って笑った。
    パーティはどうやらこのまま流れ解散になるようだった。
    やっと終わりか。
    この後は真奈美を地下に運んで石膏モールドの解体だ。
    「雪や!」
    誰かが小さく叫んだ。
    窓の外を見ると暗闇の中に白い雪が舞っていた。
    この山の中だ。
    朝になって道が凍結しなければいいけど。
    八木がぼんやり考えているうちに、人が集まり始めていた。
    着物姿の洋子も呼ばれて来たようだった。さすがにもう縛られてはいない。
    洋子は石膏柱の真奈美に近づいて何か話しかけている。
    真奈美は縛られてじっと目を閉じたままだったが、何か頷いたようだった。
    洋子が振り向いてOKという風に指で合図した。
    おお~っ。人々が喜んだ。
    何だ?
    長谷川が近づいてきて八木に言った。
    「パーティはもう少し継続だ。真奈美ちゃんを外に出すぞ」
    ・・
    食堂のガラス戸を開けて広いベランダに出る。
    雪は降り続き、広いベランダにうっすらと積もっていた。
    八木は寒気にぶるると震えた。摂氏2~3度くらいか。
    ガラス戸の段差は台車のキャスターが越せないので、男性6人がかりで真奈美を運び出した。
    そのままベランダの中央に真奈美の顔面を外に向けて置く。
    長谷川が真奈美の緊縛を変更した。
    縄を解いてドレスを脱がせる。裸にした真奈美を再び高手小手に縛る。
    そして彼女の口に大量の布片を押し込み、その上から白布で猿轡を施した。
    その間に八木は室内からスポットライトを持ち出して周りに置いた。
    ケーブルを引き回してスイッチを入れる。
    闇の中に石膏柱と真奈美の肌が浮かび上がった。
    ほぉお~。
    人々は寒さに震えながら、真奈美を囲んで鑑賞する。
    雪の中に置かれた石膏固めの美女。
    猿轡の顔面はやや上方に向けられていて、苦しげな表情。
    髪に雪が次第に付着してゆく。
    「かわいそう・・」女性客がつぶやいた。
    「まさに残酷美やな」その横で男性が言った。
    ときどきカメラのフラッシュが光る。
    ごお。
    一瞬、強い風が吹いて雪が真横に飛んだ。
    「おお寒っ」
    何人かが慌てて食堂の中に戻っていく。
    真奈美は身動きもしない、したくてもできない状態でそのまま放置されている。
    その裸身が細かく震えているのに八木は気付いた。
    「八木くん、下から赤い道具箱を持ってきてくれるか。それから毛布も」
    長谷川が八木に近づいてきて指示した。
    「気力で耐えてる。・・もう長くは持たない」
    八木は地下駐車場に急ぐ。
    箱を抱えると、帰りは階段を走って上がった。
    ベランダの人数は更に減っていた。
    人々は食堂の中からガラス越しに外を見ていた。
    「大丈夫ですか?」まだ外にいた長谷川と洋子に聞く。
    「大丈夫よ。あの子、自分の限界は心得ているから」洋子が答えた。
    「限界ですか?」
    「ええ、そのときになったら、きっと綺麗に落ちるわ」
    「?」
    雪が降る中に裸で放り出されて、もう何分経ったのだろうか?
    無意識に腕時計を見て、八木は時間を計っていなかったことに気付いた。
    暗闇の中に浮かび上がる真奈美の姿。
    その顔が空を見上げた。
    と、上半身がゆらゆらと揺れて、再びまっすぐに直った。
    「いかんっ」
    長谷川がダッシュしようとして、雪に足を滑らせた。
    八木は一人で真奈美に駆け寄った。
    真奈美の身体が斜め後ろに傾いたかと思うと、八木に向かって倒れてきた。
    ずん。
    石膏の柱ごと倒れた真奈美を八木はかろうじて受け止めた。
    「真奈美さん!」
    彼女の身体は氷のように冷たかった。
    石膏が二つに割れて、隙間から真奈美の足が白く見えた。
    ・・
    真奈美の救出は早かった。
    人々が外に飛び出してきて作業を手伝ってくれた。
    男性陣が真奈美の下半身が埋まった石膏をタガネで割って解体した。
    その間に洋子や他の女性達が真奈美の身体をマッサージした。
    真奈美は暖かい部屋に運び込まれて、意識を取り戻した。

    14.融合?
    山荘の露天風呂には、わざわざボーリングして掘ったという温泉の湯が溢れていた。
    明け方まで片付けと掃除に追われた八木は、ようやくこの風呂に入って一息つくことができた。
    結局、一睡もしていない。
    洋子と長谷川は仕事があると暗いうちに京都に戻っていった。
    「今日は帰ったらお休みにしてあげるわ。真奈美ちゃんを送ってあげてね」
    そういい残して去っていった洋子。
    あの人たちも寝てないのに、タフやなぁ。
    真奈美さんはお昼まで休んでるだろうから、それから様子を見に行こうか。
    露天風呂には八木一人だった。
    うっすらと積もった雪が周囲の景色を白く変えていた。
    この雪も陽に照らされてすぐに消えるんやろうな。
    疲れ果てた体に湯が心地よかった。
    目を閉じていると、とろとろと眠気が襲ってくる。
    ばちゃ!
    突然顔にお湯をかけられた。
    「よおっ」
    「真奈美さん!」目の前に真奈美がいた。裸の身体を隠そうともしていない。
    彼女は湯に入って八木の隣に座った。
    「ふわぁ。気持ちいい~・・。ねぇ八木ぃ、目ぇ反らさないで、こっち見ていいんだからね」
    「寝てなくてもいいんですか?」
    「もう大丈夫だよ。それに一緒に温泉に入るって約束したじゃない」
    「そんな約束はした覚えが」
    「洋子さんたち帰っちゃったんだって? 功労者を差し置いて」
    「はい。今日はゆっくり休めって」
    「そうなの? なら、ゆっくりさせてもらおかな~」
    真奈美は寄ってきて、八木の左側に密着すると、左手を八木の胸に乗せ、頭を八木の肩にあずけた。
    うわ!!
    「いいでしょ。肩くらい貸してよ」
    真奈美はそのまま目を閉じたようだ。
    八木は動けなくなった。
    彼女のやや浅黒い肌、腕に押し付けられたバスト、湯の中で揺れる股間の茂み・・。
    湯の中でそっとタオルを自分の腰に置いた。
    「ありがとうね、いろいろと気遣ってくれて」
    真奈美が目をつぶったまま言った。
    「あたしのこと、八木が一番心配してくれてたの、よく分かったよ」
    「みんな、心配してましたよ」
    「そんなことないよ。長谷川さんはああいうときは鬼だし、洋子さんだって客受けするなら何だってさせる人だから」
    「そうですか」
    「うん、そう、絶対。・・だから、八木が一番優しいよ」
    「・・」
    「ねえ、八木はこっちに来る気、ない?」
    「こっち、ってクラブのことですか?」
    「うん。そっちの仕事は続けて、アルバイトでもいいからさ」
    「・・」
    「緊縛の方法とか、いろいろ長谷川さんが教えてくれるよ」
    「・・それは、できないです」
    「なんで? 八木はいろいろ器用だし、絶対素質あると思うけどなぁ」
    「俺は女性を縛ったり、そういうことはできないっすよ」
    「本当にそう思ってるの?」
    「まあ、その興味がない訳では、ないです、けど」
    「けど?」
    「そういうことを、人前で、する、とかは、ちょっと」
    「そうか、それは分からないでもないかなぁ・・。そだ」
    突然真奈美は頭をあげて八木を見た。
    どきり。ほんの10センの距離で真奈美が自分を見つめていた。
    「ならさ、プライベートであたしを縛らない?」
    「えええっ?」
    「これでも、いろいろテクは持ってんだよ。個人指導したげるからさ、どうかな、あたしを練習台に」
    真奈美の顔がさらに近づく。
    ああ、駄目だ。もう。
    八木の腰のものが大きく立ち上がった。
    「真奈美さん」
    「ん?」
    「また俺をからかおうとしてるんじゃないっすね?」
    「もう、あんまり疑り深いと嫌われるぞ」
    「俺、もう我慢しませんよ?」
    「うん、いいよ・・」
    八木は真奈美の背中に腕を回し、覆いかぶさるように抱きしめた。
    そのまま抱き合って深いキス。
    やがて真奈美の全身から力が抜けた。
    八木は彼女の首筋からバストに唇を滑らせる。
    「あぁ・・」
    こりこりと勃起した乳首を口に含むと、真奈美が小さな声を上げた。
    とても可愛いと思った。
    右手の中指を真奈美の下腹部にそっと挿し入れる。湯の中でそこは更に熱く感じた。
    真奈美はびくっと動いたようだったが、目を閉じ口を小さく開けたままじっとしている。
    湯煙の中で見る真奈美の身体は美しかった。
    真奈美の首、真奈美の胸、真奈美の腹、真奈美の腰、真奈美の足・・。
    できるだけ優しく触り、刺激を与える。
    そして気付いた。
    真奈美は湯の中に半ば浮かんで漂いながら、寝息をたてていた。

    15.帰路
    「ね、許して、お願い!」
    助手席で真奈美が拝むように手を合わせている。
    「あたし、乳首が弱くって・・」
    弱いんだったら、逆に普通は寝ないだろ。
    「疲れてたんだから、仕方ないっすよ」
    「ああん、八木、怒ってるぅ」
    「怒ってないっすよ」
    「本当?」
    「はい」
    「ホントに本当に怒ってない?」
    「しつこいと嫌われますよ」
    「えへへへ。ごめんね~」
    真奈美は八木の肩に頭を乗せてきた。
    「うわ」
    トラックが左右に揺れた。
    「あ、ご免なさ~い」
    真奈美は口ではそう言ったが、もたげた頭をのけようとはしなかった。
    何だよ、急にべたべたと。
    「そだ」
    「はい?」
    「洋子さんが、パーティで縛られちゃったこと、事務所には内緒にしてくれだって」
    「あー、分かりました」
    「それから」
    「はい」
    「今朝言ってた個人指導、いつしよっか」
    「え」
    個人指導って、あの。
    「いや、あの、正月になったら、かな」
    「正月かぁ。クラブの仕事とかいろいろ入ってるしなぁ」
    「なら、無理せずに、また・・」
    「うんにゃ、八木のためだもん。何とか時間を作るよ」
    そう言って真奈美は頭を離して八木を見た。
    「大丈夫、八木は素質があるし、絶対上手になるよ」
    「いや何もそこまで」
    「う~ん、よし。目標は2週間で吊りができること」
    「はぁ?」吊りっすか。
    「心配しないでいいからね。こう見えてあたし案外軽いんだよ。きれいに逆海老で吊られたげるからさ~。えへへ、楽しみ~」
    この人、こんなにはしゃぐタイプだったっけ?
    「こら八木」真奈美は急に真面目な顔になった。
    「文句ある?」
    俺、しばらくこの人から逃げられないかも。
    八木は苦笑いして、運転しながら左手で真由美の肩を抱いた。



    ~登場人物紹介~
    八木一馬: 27才。本話主人公。本職は運送会社運転手。社長の画策?で手伝いに来た。
    岡崎真奈美: 24才。EA/FB、SNはマナミ。FB/EAのリーダー格。意外なツンデレ属性。
    野村典子: 19才。EA/FB、SNはナツキ。
    辻井美香: 20才。EA/FB、SNはカスミ。
    市川綾乃: 17才。EA、SNはアヤカ。
    河井美紀: 17才。EA、SNはヒカリ。
    小嶋佳織: 20才。EA、SNはカオリ。
    鈴木純生: 19才。EA、SNはジュンコ。
    長谷川行雄: Club-LB 緊縛師。過去はプロのマジシャン。
    黒川章: Club-LB 配達担当。
    島洋子: KS/Club-LB 代表。元看護婦なのか?
    堀公恵: KS/Club-LB で事務員・電話番を務める主婦。
    藤本慎太郎: Club-LB の顧客。藤本病院院長。

    12月はKSが一番忙しい季節です。
    女性達はクリスマスデコレーションに飾られた京都の街を駆け巡ります。
    時にはプレゼントボックスの中に入って、時にはFBとして拘束されたままお届けされたりします。
    どんなに厳しいお仕事でも、皆、明るく元気に頑張っています。

    本話は第7話と同様に、短いエピソードの集まりになっています。
    ちょっとフェチ色の強すぎるシーンもありますが、どきどきしている八木くんの目で見た描写ということで、お許し下さい。

    八木くんはこの先、真奈美さんとうまくやっていけるのでしょうか。
    尻に敷かれるのは明らかですが。
    本当は、新米緊縛師として真奈美を縛り上げるところまで描く構想もありましたが、作者の力不足のためそこまで筆が(キーボードが)進みませんでした。

    各話にひとつは載せているイラスト、今回はアニメGIFです。
    JPEGをそのままコマにしたら汚くなってしまいました。難しいものです。
    おまけとして、拘束はありませんがクリスマスイラストをつけておきます。
    どこにあるかは、すぐに分かりますよね?
     (09.11.29 やっぱり拘束した方がこのサイトらしいので差し替えました。差替前→ _

    さて、次回のキョートサプライズはもうひとつの12月の物語、主人公は佳織です。
    ありがとうごさいました。




    キョートサプライズ第8話(1/3)・コスプレ少女の家出

    1.きりはらかすみホームページ
    そのページのトップには虎縞のビキニをつけてジャンプしている女性の写真が大きく掲載されていた。

    ♥ ここはコスプレイヤーきりはらかすみのページです ♥
    コスプレ写真満載でお届けします!

    <自己紹介>
    身長153、B78W61H80、体重はトップシークレットなのだ
    誕生日: 5月20日おうし座
    居住地: 京都
    職業: フリーター(職業コスプレイヤーと名乗れるようになりたい!)
    副業: 某イベント会社でアトラクション・ステージ出演などやってます
    趣味: コスプレ(主に露出系)、可愛い女の子、メイド、女奴隷^^>;
    特技: 洋裁(コスチュームはすべて自作です)、可愛い女の子にすぐキスすること

    <ご案内・7月10日>
    8月5日のコスジョイ撮影会出演が決まりました。
    キャラは秘密。ただいま衣装作りに励んでいます。
    参加希望の方はコスジョイのページから申し込んで下さいね!

    2.撮影会
    「おはようございま~す」
    大阪都島のスタジオに辻井美香が現れた。
    「お、かすみちゃん。今日はよろしく頼むね」コスジョイ店長の花山が声をかけた。
    美香はにっこり笑って更衣室に向かう。手には衣装を入れた大きな紙袋を持っている。
    コスプレショップ『コスジョイ』主催の撮影会は年に3~4回開催され、毎回4名程度の女性コスプレイヤーが出演した。
    撮影会は3部構成になっていて、参加者はそれぞれ好きな部でコスプレイヤーの写真を撮影できる仕組みになっている。
    美香はコスプレネーム(CN)を『きりはらかすみ』と名乗り、マニアの間では有名な露出系のコスプレイヤーである。
    ただしコミケなどの有名イベントに参加することはなく、コスジョイのような業者が主催するイベントを中心に活躍していた。
    高校生のときカメコくずれのストーカーに追いかけられてからは、誰が来るかわからない一般イベントに顔を出す気はなくなっている。
    その点、業者のイベントは参加者の身元が明らかなので安心だった。
    オープンなイベントでは難しい、極端に肌が出るコスチュームを着れるのも都合がよかった。
    この日美香が身につけたのは、ある対戦ゲームの女性キャラクターの衣装である。
    Tバックショーツひとつを穿いただけの上に、赤い和服をはおる。
    脇の刳りから横乳と、後ろはお尻と太ももが大きく露出するデザインだった。
    ・・
    第1部の撮影が始まる。
    集まったカメラマンは約30人。男性だけでなく、女性もちらほら混じっている。
    モデルの女性はみなセクシーな衣装で被写体になっているが、特に猥雑な雰囲気もなく和やかに撮影が進行して行く。
    美香も、微笑みながら胸やお尻を強調するようなポーズを繰り返す。
    小さい頃からアニメやドラマのヒロインを演じることが好きだった。
    高校のときにコスプレの世界を知り、人前で肌を見せることの快感に目覚めた。
    卒業してからはコスプレで生きることを決意して進学も就職もせず、家を出てバイトしながらコスプレをする生活をしてきた。
    眩しいライトが自分を照らす。素肌に感じるライトの熱。カメラのレンズとその向こう側にあるたくさんの人々の視線。
    コスプレをしながら、人前に立つエンタテーメントの世界で働きたい。それが将来の夢だった。
    ・・
    撮影が終わると、コスチュームをつけたままティータイムになる。
    「きりはらさん、今日も衣装自作なんですか?」
    「はい。ぴったりに合わせてるから、ほら、横チラしないでしょ?」
    美香はそう言って、肘を上げて脇からわざと横乳を強調してみせる。
    「おお~」カメラマン達が喜ぶ。
    「ねえ、脇は両面テープで貼ってるん?」別のコスプレイヤーが聞いた。
    「ううん。ほら、指入るよ」そう言って、その女の子の指をとって脇に差し込ませる。
    「あ、ほんまや~。すごい~っ」彼女は美香の胸元を触って喜ぶ。
    「きゃぁ!」二人は床に転げてじゃれ合う。
    「おいおい、こんなところでサービスしなくていいから・・」主催者の花山が慌てて二人を止めた。
    ・・
    第2部は水着撮影である。
    マイクロビキニをつけた4人がポーズを取る。
    にこやかに微笑んだり、妖しい表情で誘惑したり、女性たちはグラビアモデルの気分で撮影を楽しむ。
    「あと、1ポーズです」時計を見ながら花山が声を掛けた。
    じゃあ。
    コスプレイヤー達はお互いに悪戯っぽく笑いあって、背をむけて一斉にビキニのトップスを外す。
    「わぁ~っ」
    それぞれ胸を手で押さえて正面に向き直った姿に、カメラマン達の熱気が最高潮に達する。
    美香は片腕で乳首を隠しながらその場に膝をつき、見上げるようなポーズを取った。
    ・・
    再び休憩の後、第3部はソフトSMだった。
    4人のコスプレイヤーが黒や紺のメイド服で登場する。全員が首輪と手錠をつけていた。
    カメラのシャッター音が鳴り始める。
    手錠を掛けられたモデル達は、椅子に座ったり床に倒れたりしてポーズをとる。
    美香は長袖、ロングスカートの黒いワンピースメイド服。
    手錠の両手を天井から吊られ、別の少女と背中合わせで立つ。
    両側では別のモデルが後ろ手錠で、首輪に鎖をつけて引かれていた。
    額から汗が滴り落ちるが、気にならなかった。すっかり被虐メイドの心境になっている。
    気がつくと、アイマスクをつけてマットの上に押し倒されていた。
    美香の上に別のメイドが覆いかぶさっている。
    目隠しをされたメイド同士が、そっとキスを交わし合った。

    美香コスプレ

    ・・
    撮影会が終了すると美香は打ち上げの誘いを断り、一人で梅田に出てウインドショッピングを楽しんだ。
    それほどお金に余裕のある生活ではなかった。
    コスジョイなどのイベントの出演料はわずかである。
    安アパートの生活を続けるために、美香はコンビニとキョートサプライズ(KS)でEAとして働いていた。
    久しぶりにコスしたなぁ。気分が上気している。
    今日の写真をもらったらホームページに貼ろう。3ヶ月ぶりの画像更新♪
    電車に乗ってアパートに戻り、着替えてすぐ銭湯に行った。
    部屋のユニットバスではシャワーを浴びるだけで、お湯に入る風呂は銭湯に行く習慣だった。
    これがあたしのささやかな贅沢。
    美香は湯の中で手足を伸ばす。ふぅ~。
    このままでいいんかな~、あたし。
    二十歳になった今、コスプレの夢を追い続けることに不安はあった。
    近くの鏡に自分が写っていた。湯船を出て鏡の前に座る。
    早い時間で他に誰もいないのをいいことに、両手を頭の後ろに回していろいろなポーズを取る。
    鏡の中に小柄な女の子が裸で映っていた。
    大きくはないが形のいい胸、適度にくびれた腰、もちょっと細くてもと思うけどばーんと張った太もも。
    美香は自分の身体を嫌いではなかった。
    もう少しやってみよう。美香は思い直す。
    いざとなったら洋子さんに頼んで、KSの仕事を増やしてもらおっと。
    頭から湯をざぶりとかぶる。
    美香は1時間以上も入浴してから銭湯を出た。

    3.ストーカー?
    誰かがついてきているような気がした。
    とっさに近くのコンビニに入り、ガラス越しに後方をうかがう。
    カーキ色の帽子をかぶった人影が慌てて背を向けたのが見えた。どうしようっ。
    美香は自分の服を見下ろす。ピンクのチューブトップにローライズのカットジーンズ。
    おへその上下10センチずつが見えていた。
    ちょっと刺激的過ぎたかな~。
    街で露出の大きい格好をしていて、男達から声を掛けられたり冷やかされたりするのは慣れていた。
    でも、痴漢は困る。
    美香はしばらく立ち読みして時間をつぶした。道路を見るともう誰もいないようだった。
    急いで店を飛び出してアパートに早足で向かう。
    もう少し、あの角を曲がったらアパートやから・・。
    角を曲がると、すぐ目の前に帽子の人物が待ち構えていた。
    やば! 美香は慌てて向きを変えて走り出す。
    「あ」後ろで声がする。追いかけてくる足音。
    スピードを上げる。しかし、かかとの高いミュールでは速く走れない。
    後ろから美香の肩に手が掛かる。恐怖。
    あ~! 美香は声が出せなかった。その場に立ちすくんでしまう。
    「きりはらさん。きりはらかすみさんですよね!」
    その人物は女の声で喋った。
    ・・
    アパートで美香が両足を投げ出して座り込んでいた。
    その横で帽子を脱いだ少女が正座している。
    「もう、あたし心臓が止まるかと思ったよ」美香。
    「すみませんでした!」少女が謝る。
    「で、あなた誰?」
    「あの私、倉橋奈緒美っていいます」
    「いくつ?」
    「じゅ、17です」
    「ほんと?」彼女にはどこか幼い雰囲気があった。
    「本当です。高校3年です!」
    「ま、いいけど。どうしてあたしを待ってたの?」
    「私、きりはらさんのファンなんです」
    「ありがと。でも何でここにいるんよ」
    「あの、怒らないで欲しいんですけど、コスジョイからついて来ました」
    「・・怒るで」
    「あぁ、ごめんなさい!」
    ふう~。女の子のストーカーかぁ。参ったな。
    コスプレ初心者の奈緒美はネットできりはらかすみを知り、コスジョイの撮影会に参加したという。
    「うん、あそこは女のカメコも多いけど」
    「きりはらさんの写真、いっぱい撮らせてもらいました。とっても素敵でした」
    「もしかして、最後までいたの?」
    「はい!」
    第3部での自分の姿を思い出して、一瞬顔が赤くなった。
    「で、あたしに何の用?」
    「きりはらさんに私のコスを見て欲しいんですけど・・」
    奈緒美は紙袋からごそごそ衣装を出した。
    有名な喫茶店のウェイトレスのコスチュームだった。
    ピンクのミニスカートのワンピースは胸元が開いていて、その下の白いバフスリーブのブラウスが可愛い。
    「あの、着てみていいですか?」
    奈緒美が着替えた。
    この子、背はあたしより高いけど、おっぱいも腰もずんどうだね。
    白いカチューシャが奈緒美のセミロングの黒髪によく似合っていた。
    美香は奈緒美の後ろに回って衣装を見る。仕上げがちょっと荒っぽいかな。
    「これあなたの自作?」
    「はい。ブラウスは既製服なんですけど」
    「ふ~ん、一生懸命作ったのはわかるよ」
    「あ、ありがとうございます」
    「そのまま立ってて」「?」
    美香は部屋の隅から裁縫箱を持ってきた。
    スカートの腰の部分を絞ってマチ針を当てる。
    「脱いでくれる?」
    もたもたする少女から衣装を脱がした。
    糸切り鋏を何箇所か当ててからミシンに向かう。カタカタ・・。
    ちらりと横を見ると、ブラウスだけを着た少女が美香の手元をじっと見ている。
    「はい。も一回着てみて」
    奈緒美は衣装を着て驚く。「まあっ」
    タックが修正されて、奈緒美のボデイラインにぴったり合っていた。
    「まあ、すごいっ」
    「へへん。奈緒美ちゃんも可愛いで」
    奈緒美が頬をほのかに赤らめた。
    「ありがとうございます!」奈緒美は美香に抱きついてきた。
    「こらこらっ。離れぇ~」美香は慌てて奈緒美を引き剥がす。
    ・・
    「美味しいです!」奈緒美がスパゲティを頬張って喜んでいる。
    「食べたら、帰るんやで」
    「はい!」
    奈緒美は美香が適当に用意した夕食を食べて帰っていった。

    4.居候
    それから美香はKSの仕事に忙しかった。
    夏休み中は各地でイベントが多く、毎日のように出張アトラクションに飛び回った。
    奈緒美を思い出すことはなかった。
    そして9月。
    ・・
    アパートに帰ってくると、ドアに前に少女が座り込んでいた。
    「あんたっ」
    少女は立ち上がってぺこりとお辞儀をする。
    Tシャツとジーパン姿。足元にはリュックサックが転がっていた。
    「え~っと」
    「倉橋奈緒美です」
    ・・
    「黙って家を出てきたぁ?」
    「すみません。すみません!」
    「でもどうして」
    「パパとママにコスプレは受験の邪魔だからやめなさいって言われて・・」
    「それは、・・その通りやねぇ」
    自分が高校生だった頃を思い出す。
    夜中まで衣装の製作、毎週イベントに出かけて勉強の害にならない訳がない。
    「ご両親が心配してるから、早く帰らなきゃ」
    「家には帰りません。・・お願いですから、私を置いてもらえませんか」
    そんなこと言ったって。
    「奈緒美ちゃん、あんた家どこ?」
    「それは、・・遠くです」
    「いい加減にしなさい!」
    奈緒美はじっと美香を見つめる。その目から涙がこぼれる。
    「私・・、私、行くところがないんです・・」
    涙はぼろぼろと流れ、やがて奈緒美は美香の膝に顔を伏せて泣き出す。
    あ~あ。何でこうなるんよぉ。
    美香は天井を仰いで嘆息した。
    ・・
    その夜は奈緒美をアパートに泊めてやった。
    翌朝、美香は奈緒美に言い聞かせる。
    「いい? ちゃんと帰って、お母さんに謝るのよ」
    「・・はい」
    「鍵はこの郵便受けの裏側でいいから」
    「はい。分かりました」
    「じゃ、あたしは仕事に行くからね。バイバイ!」
    手を振って出ていく美香を奈緒美はじっと見ていた。
    ・・
    昼間、美香はコンビニ店員のバイトである。
    大きな声を出したり、いろいろな人と触れ合うのは好きだから、サービス関係の仕事が自分に合っていた。
    「いらっしゃいませ~!」
    美香の声が店内に響き渡る。
    そして夜はKSの仕事。この日はプレゼントガールをした。
    大きなぬいぐるみと一緒にプレゼントボックスに梱包され、荷物として配達される。
    頭上の蓋が開くと勢いよく立ち上がった。
    「お誕生日おめでとうございま~すっ」
    美香はビキニの腰にパレオを巻き、大きな花の髪飾りをつけていた。
    目の前の少女に花のレイをかけてやり、ぬいぐるみの包みを渡す。
    「お友達の皆さんからのプレゼントをど~ぞ!」
    狭い箱の中に2時間詰められていたが、お客様には精一杯の笑顔で接する。
    にこやかに微笑む美香の胸の谷間に汗が流れていた。
    ・・
    夜、部屋に帰ると鍵が掛かっていなかった。
    まさか。
    灯りをつけると、奈緒美が毛布に包まって眠っていた。
    「奈緒美ちゃん!」
    「あ、お帰りなさい」
    奈緒美が起き上がる。いつかのウェイトレスのコスチュームを着ていた。
    「お帰りなさいやないよ。奈緒美ちゃん帰らなかったの?」
    「ごめんなさい」
    「・・」
    「あの、私、きりはらさんが留守の間お部屋のお掃除しました。それから晩ご飯も用意しました」
    テーブルにお皿が並んでいた。普段の美香の食事の3倍の量があった。
    「今、暖め直しますからね!」
    奈緒美は台所に立って、カチカチとガスの火を着ける。
    「奈緒美ちゃん、これ、どうしたの?」
    「クリームシチュー嫌いでしたか? ルーが戸棚にあったんでお好きかと思ったんですけど」
    「え?」
    美香は慌てて冷蔵庫を開ける。買い貯めしてあった食材が半分に減っていた。
    「あ~っ、一週間分の食料が~!!」

    5.居候2日目
    結局、奈緒美はアパートに居ついてしまった。
    美香は奈緒美に衣装を一着作ってあげる替わりに、それができたら家に帰ることを約束させた。
    家の電話番号を奈緒美から聞き出し、電話して心配ないことを知らせた。
    その夜は奈緒美が作った料理をヤケ食いした。美味しかった。
    「表札見たんですけど、本名は辻井美香さんっていうんですね。でもやっぱり私にはきりはらかすみさんだから、これからもきりはらさんって呼ばせて下さいね」
    奈緒美はその横で調子よく喋っていた。
    ・・
    翌日はバイトを休んで、新しい衣装を作ることにした。
    「何が欲しいの?」
    「あの、メイド服がいいです」
    それは大変だ。
    「ちょっと材料がないな。買いにいかないと」
    お金もないんやけど。
    「あの、もしかしてお金が要りますか?」
    「まあ、いくらかはね」
    「私、お金だったら持ってますから・・」
    そう言って奈緒美は鞄から封筒を出した。「これ、使って下さい!」
    「え、いいのかな・・」
    そう言いながらも受け取って中を覗く。
    封筒の中には千円札が3枚入っていた。美香は涙が出そうになった。
    「ありがと。メイド服に使わせてもらうわ」
    奈緒美はにっこり笑った。
    「じゃ、採寸しよか。・・奈緒美ちゃん身長はどれくい?」
    「159センチです」
    「いいなぁ。あたしなんてチビやからうらやましいよ」
    「そうですか? 小さいほうが可愛くていいですよ」
    おしゃべりしながら採寸して、ざっくり型紙を引く。
    「なら、買出しに行こか」
    「はい!」
    おかずの材料も買おとかんと。
    あ~あ、生地や何やらで1万てとこ、食料で5千円くらいかなぁ。
    美香は内心ぼやいていた。
    ・・
    ミシンを使う美香をよそに、奈緒美は台所に立っている。
    「ねえ、かすみさん。お茶碗やらお湯呑みやら2つづつあるのはどうしてですか?」
    やなこと聞くな~。
    「それはね、一緒に住んでた相棒が使ってたの」
    「もしかして、その人、男の人ですか?」
    「そう」
    「うわ、同棲ですか? すごい~っ」
    奈緒美は重大な発見をしたかのように喜んでいる。
    「その人は今も一緒じゃないんですか?」
    「う~ん、別れた」
    「まあ! どうして別れたんですか?」
    この子は人の心の傷に堂々と・・。でもこの少女にはどこか憎めない純真さがあって、怒る気になられかった。
    「彼が浮気したの」
    「もしかして修羅場だったんですか?」
    「うん、ものすごく荒れた」
    「すごい~」
    「奈緒美ちゃん、彼氏は?」
    「いないです」
    「あら、高3にもなってボーイフレンド位いるんやないの?」
    「男の子には興味ないです」
    「あらそ」

    続き




    キョートサプライズ第8話(2/3)・コスプレ少女の家出

    6.ご奉仕
    夜。
    「仮縫いできたよ」 シャワーから出てきた奈緒美に言う。
    「きゃ。着ていいですか?」
    「もちろん」
    はしゃぎながらメイド服を着る奈緒美。
    「素敵~っ!!」
    濃緑色の半袖メイド服だった。膝上のスカートは左右にスリットが入っていてバニエがのぞく。
    「あと、肩に付け襟とエプロンを作るからね」
    美香は手早く全体をチェックする。うん、直しはちょっとで済みそう。
    「きりはらさん、私、嬉しいです~っ」奈緒美は美香に抱きついてきた。
    「はいはい。仮縫いが解けたらどうするん~」
    どうにか奈緒美を引き剥がす。この子、すぐに女友達に抱きつくタイプやな。
    「ねえ、奈緒美ちゃん。その服着てどうしたいの?」
    「え? そうですね。・・きりはらさんと一緒に写真を撮って欲しいです」
    「それくらいやったら、すぐにしたげるよ」
    「・・」 もじもじする奈緒美。
    「どうしたの?」
    「あの、また無理お願いしてもいいですか?」
    「何?」
    「あの、前のコスジョイで、きりはらさんがしてたみたいなこと、したいなぁ~、なんて」
    奈緒美は頭をかいて笑う。
    「あたしがしてたこと?」
    「えっ・・と、その・・」
    「何よ。・・・あ」
    思い出した。手錠に目隠し。
    「あれって、奈緒美ちゃん・・」
    「あの、私、メイドって何をおいてもご主人様に尽くすものだと思うんです・・」
    奈緒美は身を乗り出すようにして喋り始めた。
    「私の今のご主人様はきりはらさんだと思ってるんですけど。ご主人様の命じることだったら絶対に従うのがメイドなんです。ご奉仕なんですっ」
    奈緒美は両手を握りしめた。
    「だから、あたしはご主人様からどんな罰でも受けないといけないと思うんです」
    「・・奈緒美ちゃんは、メイドが好きなの?」
    「それはもう」
    「それとも、手錠と目隠しでお仕置きされるのが好きなの?」
    「あ、あ、あ、」
    奈緒美の顔が真っ赤になった。
    「私、そ、そんないやらしい意味で、言ってません。メイドの義務だから、その、どんな扱いでも受ける、って・・」
    この子可愛い! 美香は奈緒美を苛めたくなる。
    「ね、ご主人様に手錠をつけられて、罰を受けるのってどんな気持ちだと思う?」
    「え」
    「いいよ。やってみよか」
    美香は濃緑色の布の残りを手に取る。長さ1メートル。ちょうどやな。
    それを細く裂いて、奈緒美に目隠しをする。
    「あ、・・」
    「ご主人様のすることには抵抗したらあかんよ」
    奈緒美の手を後ろに回し、残りの布で手首を軽く縛った。
    「やっ・・」
    「さて、奈緒美ちゃん、どう?」
    「あぁ・・、私、ご主人様に罰を受けてるんですか?」
    「そう。どんな気持ちかな?」
    後ろから奈緒美の腰を抱きしめる。本当にあたしってこういうの好きやな。
    「もう・・、もう、分かりません・・」
    奈緒美はその場に膝をついて座り込んだ。上体の力が抜けて床に倒れそうになる。
    「あら、大丈夫?」
    慌てて手首の縛めと目隠しをとって上げた。
    この子、頭でっかちだけどぜんぜん経験はないな。多分、男の子も知らない。
    奈緒美は美香にもたれて、半分目を閉じる。
    「きりはらさん、・・いじわるですよぉ」
    「えへへ、ごめんね」
    「・・でも、すごい衝撃でした」
    「さ、今夜はこれで終わるから、寝巻きに着替えよ」
    「はい」
    奈緒美はメイド服を脱いで、パジャマに着替えた。
    ・・
    布団に並んで横になる。
    「さっきの話やけど・・」美香が言った。
    「はい?」
    「どうしてもやりたかったら、コスジョイの人に頼んで写真撮ってもらおか」
    「メイド服ですか?」
    「うん。手錠付で」
    「・・」
    「やっぱり怖い?」
    「きりはらさんと一緒に撮ってもらえるのなら、大丈夫です」
    「あたしもやるの?」
    「駄目ですか?」
    美香は笑った。「いいよ。付き合ったげる」
    「嬉しい!」奈緒美は布団の上を転がって美香に抱きつく。
    「うゎ」自分より身体の大きな奈緒美にのしかかられると身動きができない。
    「ありがとうございます!」
    「その替わり、約束通り、写真撮れたら家に帰って学校にも行くんやで」美香はどうにか奈緒美の下から逃れて言った。
    「はい! わかりました!」

    7.居候3日目
    この日は朝からKSの仕事だった。
    「・・そこで、マジックをするんですか?」
    「うん。小さい事務所やから裏方仕事でも何でもするんやけどね」
    「私、見に行ってもいいですか?」
    「それはいいけど、自分で来るんやで」
    「はい! 1時に洛東ショッピングセンターですね!」
    奈緒美に見送られてアパートを出る。
    「入ってらっしゃい! 晩ご飯はハンバーグにしますからね!」
    美香は嫁をもらったような気分で手を振りながら出て行った。
    ・・
    ショッピングセンターの中庭の小さなステージを買い物客が囲んでいる。
    ステージの中央に電話ボックスのような箱があった。
    背の高い女性マジシャンがアシスタントの女性を連れてくる。
    そのアシスタントはセパレートのボディスーツを着て、サングラスをかけていた。
    真奈美は客席からアシスタントを注視していた。きりはらさんかな?
    マジシャンは箱の扉を開けてアシスタントをその中に立たせ、彼女の身体をベルトで縛り付けた。
    扉を閉めて、別のアシスタントと一緒に箱の上下を逆さまにしてしまう。
    ひっくり返った箱の扉をあけると、アシスタントは箱と一緒に上下逆になって縛られていた。
    アシスタントのサングラスが額の方にずれかけてるのをマジシャンが直して鼻の頭にセロテープで貼り付ける。
    マジシャンは扉を閉めて、3つ数えてから再び扉を開ける。
    すると、アシスタントの女性は縛られたまま、頭が上に戻っていた。
    女性は箱から出してもらい、サングラスを取ってお辞儀する。美香だった。
    やっぱりきりはらさん! 奈緒美は喜んでぱちぱち拍手した。
    イリュージョンは終わりではなかった。
    マジシャンが美香の衣装に手をかけて剥ぎ取る。瞬時に美香は白いマイクロビキニ姿に変身する。
    小さな透明な箱が出てきて、美香が膝をついて中に入る。蓋がされて鍵が掛けられる。
    箱には小さな穴がたくさん開いていて、マジシャンがその穴に細長い剣を刺して箱に突き通し始めた。
    危ないっ。奈緒美は両手を握り締める。
    美香は狭い箱の中で、お腹を上げたり、両足を開いたりして次々と刺される剣を避けている。
    剣が8本刺された頃には、美香は箱の中を縦横に突き抜ける剣に絡め取られていた。
    足の間や脇の下、首や胴の横などあらゆる隙間を剣が通っていて、美香はほとんど動けなくなった。
    続いてマジシャンはスプレー缶を取り出して箱に吹きつけ始めた。
    透明な箱はみるみる白くなり、美香の姿を覆い隠してしまう。
    その後、マジシャンは新しい剣を振りかざす。箱にはまだ剣の通っていない穴が残っていた。
    え?
    剣は容赦なく箱に突き刺さり反対側に抜ける。
    こうして更に8本の剣が刺されて、白い箱はハリネズミのようになった。
    きりはらさんは大丈夫なの? 奈緒美ははらはらしながら箱を見つめる。
    やがてマジシャンはすべての剣を抜き取り、蓋の鍵を開けた。
    丸いお尻がにょきにょきと現れ、美香が箱から降り立った。
    白いビキニが真っ赤に変わっていた。
    マジシャンと手をつないで手を振る美香。
    かっこいい! 奈緒美は興奮して拍手を続けていた。
    ・・
    その夜、美香は奈緒美の作ったハンバーグを食べる。
    料理上手やなこの子。掃除や洗濯もかいがいしくやってくれるし。
    奈緒美が来て、ちらかっていた部屋は小奇麗に片付いていた。洗濯物もきっちり畳まれていた。
    「奈緒美ちゃんて、家事が上手やね」
    「いつも家でやってますから・・」流し台に向かいながら奈緒美が返事する。
    こんな子が本当にお嫁さんに来たらいいな。・・美香は自分が何を考えているのかに気付いて、つい笑ってしまう。
    いくらあたしが女の子好きやからって、ねぇ。
    「きりはらさん、何かおかしいですか?」
    エプロンを外しながら、奈緒美がテーブルの反対側に座った。
    「ううん。何でもないよ」
    「今日、きりはらさん、かっこよかったです。私、感動しました」
    「そう? よかった」
    「なんか、私もやってみたくなりました」
    「イリュージョンを? ・・そうね。奈緒美ちゃんが上の学校に入ったらね」
    「やっぱり、駄目ですかぁ」
    奈緒美ちゃん、絶対、勉強そっちのけでのめり込みそうやもん。
    「ねえ、きりはらさんは、どうしてKSに入ったんですか?」
    「あたし? う~ん、たまたまインターネットでKSのホームページを見つけたんよね」
    「インターネットですか」
    「華やかで、楽しそうで、ちょっとセクシーで、それで団員募集に応募したわけ」
    「私にもそのホームページ教えてくれません?」
    「うん。名刺あるから。・・・ほい」
    「うわ、きりはらさんの名刺~っ。・・KSでもかすみさんっていうんですね」
    奈緒美は名刺を見ながらはしゃいでいる。
    「あ、そうそう。撮影の話、コスジョイの花山さんに電話してOKもらっといたよ。あさっての月曜」
    「きゃあ、ありがとうございます!」
    奈緒美は美香に抱きついた。
    美香は奈緒美の肩を両手でそっと押さえる。
    あたし、この子に抱きつかれるのがだんだん嬉しくなってる。

    8.居候4日目
    次の日、美香は再びKSで仕事。
    奈緒美はまた見物に行きたがったが、他県の遠い会場なので言い聞かせて留守番させた。
    美香はこの日のイベントで一緒だった野村典子に頼みごとをする。
    典子は美香と同じKSのメンバーだった。
    「典子。縛る方も上手だったよね」
    「ん?」
    「明日オフでしょ。ちょっと付き合って欲しいんだけど」
    「何考えてるの?」
    「実は、アパートに女の子が一人居候してるんやけど・・」
    「美香、あんた本当に女の子にまで手を出してるんか!」
    「う、高校生にまでそんなことせいへんわい」
    「高校生なの?」
    「ちょっと訳があって家を飛び出した子なんやけど・・」
    美香は事情を説明した。
    「ふ~ん、そのスタジオに一緒に行ったらいいのね?」
    「感謝!」
    「・・でも、その子本当に高校3年かどうか怪しいね」
    「うん、わかってる」
    「美香、調子に乗って変なことしたらあかんよ。女の子相手でも犯罪やからね」
    「ん、もうっ(笑)」
    ・・
    奈緒美は勝手に美香のノートパソコンを開いてKSのホームページを見ていた。
    少女くす玉、ルーレットやプレゼントボックスなどの画像をいつまでも眺めてはため息をついていた。
    ・・
    その夜、メイド服が完成した。「できたよ。着てみて」
    「ねえ。私、お風呂に入っていいですか?」
    「ああ、奈緒美ちゃんシャワーまだやったね」
    「シャワーじゃなくってお風呂に入りたいんですけど・・」
    「?」
    「このメイド服、身体を綺麗にして着たいんです」
    「わかったわよ。わがまま娘さん。沸かしてあげる」
    自分はどちらかといえば気が短い方だと思う。でも奈緒美のわがままには不思議と腹が立たない。
    「あの、私、きりはらさんと一緒に入りたい・・」
    あん?
    「今夜が最後なんでしょ?」
    明日はコスジョイで写真を撮って、それで奈緒美は家に帰ることになっていた。
    美香を見つめる奈緒美の目。この目は何というんやろ。
    仲良しの友達を見つめる目? 愛玩するペットを見る目? いや、これは恋人を見る目かも。
    どきんとした。
    「いいよ。一緒に入ろうか」
    ・・
    狭いユニットバスに二人で入った。
    ボディシャンプーをスポンジに含ませて互いの身体をこすり合う。
    湯船の中で美香の膝に奈緒美が座り、向かい合って湯を掛け合う。
    裸になった奈緒美は可愛かった。
    身長は美香より高いのに、その身体はスリムで胸もお尻も、腰のくびれも小さい。
    下腹部の茂みも美香よりずっと薄かった。
    未成熟で中性的なイメージ。張りがあってやや硬い肌。
    美香は、湯気の中ではしゃぐ奈緒美を何度か抱き締めそうになって、思い留まった。

    9.一線
    風呂を出て奈緒美はメイド服を着た。
    「よう似合ってるわ。奈緒美ちゃん」
    「ねっ、きりはらさん。私のこと呼び捨てにして下さい!」
    やれやれ。
    「奈緒美」
    「はい、ご主人様」
    「え」
    「駄目ですよ、ちゃんとご主人様になって命令して下さい」
    「何を命令してもいいの?」
    「はい、何なりと」
    「じゃ、膝をついて挨拶しなさい」
    美香はすぐに正座して指をついた。
    「深雪と申します。どうぞよろしくお願いいたします。ご主人様」
    「ミユキって?」
    「私が考えたコスネームです。深いと空から降るユキです。・・変ですか?」
    「ううん。いい名前やわ」
    「ありがとうございます。ご主人様」奈緒美は膝をついて美香を見上げながらにっこり笑った。
    可愛いかった。美香の中で何かがはじけそうだった。
    「えっ、と・・」
    「何なりとお申し付け下さい。・・ご主人様?」
    ああ、行っちゃえ、もう。
    「じゃ、・・服を脱ぎなさい、深雪」
    奈緒美は少しためらったが、すぐに立ち上がってメイド服のボタンを外した。
    メイド服を脱いで下着姿になる。スポーツブラとショーツだけの姿で美香に背を向ける。
    「下着も外しなさい。深雪」
    「・・」
    奈緒美は背中に手を回してブラのホックを外す。そしてブラを床に落とした。
    「こちらを向きなさい」
    「あぁ・・」
    奈緒美は胸を両手で隠して美香の方を向く。
    「ご主人様、・・今夜も、深雪に、罰を、・・下さるのですか?」
    奈緒美はとぎれとぎれに言う。伏せぎみの顔が真っ赤だった。
    どっきん。
    美香の心臓が大きく鳴った。ついに奈緒美をそのまま抱き締めた。
    「私、ご主人様が・・大好きです」
    「あたしも好きやで、奈緒美ちゃ・・、やない深雪ちゃん」
    「深雪と呼んで下さい」
    「なら、深雪。・・手を降ろして」
    奈緒美は目をつぶって両手を胸から外した。
    その背中を撫でながら、首筋にキスをする。1回、2回・・。
    奈緒美がぶるると震えたようだった。
    風呂から出たばかりの奈緒美の肌は石鹸の香りがした。
    美香は床に膝をついて奈緒美の身体を間近で見つめる。
    未熟な果実のような乳房の先端にそっと舌を当てる。
    そこはわずかに硬かった。
    「ん・・」
    奈緒美が身をよじる。
    そのまま両手を彼女の脇腹にあてて下へたどる。
    ・・女の子とヤルのは高3のとき以来やな。
    美香は男性より女性との経験の方が早かった。あの頃は、可愛い女の子がいたらずいぶん声をかけたものだった。
    「あぁ、・・」奈緒美がまた声を出した。
    そのままショーツの横に指を入れようとして、奈緒美が目をぎゅっとつぶっているのに気付く。
    もはや自分では動けないようだった。
    『美香、調子に乗って変なことしたらあかんよ・・』典子の言葉が脳裏に響く。
    これは・・、やっぱり、あかんかな?
    こんなに素直で、いい子に。・・でも、こんなに可愛いのに、もったいない。
    あぁあぁあああ~っ。もおぉ。
    美香は奈緒美の腰から指を離した。
    立ち上がって、彼女の頭を左手で抱えるように抱きしめ、右手で背中を撫でてあげる。
    「心配しないでいいよ。乱暴なことはせえへんから・・」耳元でささやいた。
    「あっ、あぁ~、」奈緒美の口から嗚咽が漏れているようだった。
    「あん、きりはらさん、ひっく・・。ご、ごめんなさい~」
    奈緒美はそのまま美香に抱きつき、泣き出した。
    美香は奈緒美の裸の背中をさすってあげる。
    華奢で折れそうで、綺麗な背中だった。

    続き




    キョートサプライズ第8話(3/3)・コスプレ少女の家出

    10.撮影
    美香と奈緒美は大阪駅で典子と待ち合わせた。
    「こんにちは!」
    典子はTシャツとジーンズのラフな姿で現れた。
    「KSのナツキです。今日はお手伝いさせてもらいますね」
    「あの、倉橋奈緒美です。よろしくお願いします」
    美香は撮影の演出係にナツキを頼んだと奈緒美に説明していた。
    3人でコスジョイのスタジオに入ると、店長の花山がカメラマンとメイク係を連れて待っていた。
    「彼女は深雪ちゃん。高校3年生です」
    「花山です。かすみちゃんが連れてくる女の子やったら確かやからね。今日はよろしく頼みますよ」
    「それから、こっちは手伝いに来てもらったナツキさん・・」
    「どうも。緊縛士のナツキです」典子が真面目な顔をして答える。
    花山達と奈緒美が「え?」という顔をする。
    「今日は、ソフトSMっぽくするので、ちょっと専門家を連れてきました・・」美香が取り繕う。
    「そうですか。こちら、カメラの安田とメイクの安藤です」
    「よろしくお願いします」
    美香と奈緒美はメイド服に着替える。
    美香は8月の撮影会と同じ黒のメイド服。長袖でスカートの丈はくるぶしまである。
    そして奈緒美は昨夜できたての濃緑色の半袖メイド服である。
    安藤が二人にメイクを施す。
    「こんなに濃いお化粧初めてです」奈緒美が恥ずかしそうに言った。
    ・・
    全員でスタジオに入った。
    最初は二人で並んで立ったり座ったりのポーズから始まる。
    奈緒美は緊張した顔でカメラの前に立っている。
    心臓が高鳴っている。
    ライトに照らされて汗が額を流れると、すぐに安藤がコットンで拭ってくれる。
    「はい、見詰め合って」
    「はい、じゃ二人でふざけっこしよかっ」
    緊張をほぐそうとするかのようにカメラの安田が声を掛ける。
    美香はすっかりリラックスして安田の指示に応じている。
    奈緒美もとまどいながら一生懸命に振舞っている。
    「深雪ちゃん、まだ固いね。・・ならスカートめくりや!」
    ひゃっほ。美香が喜んで奈緒美のスカートを下着がはっきり見えるほどめくりあげる。
    「きゃあっ」
    奈緒美は大きな声を出してスカートを押さえる。
    「深雪ちゃん、まけずにやりかえそぉ~」
    奈緒美は美香のスカートに手を伸ばす。美香がすかさず逃げる。
    奈緒美はそれを追いかけて、美香の腰を押さえる。
    あ~れぇ~。美香は大げさに悲鳴を上げる振りをする。そのスカートを奈緒美がまくり上げる。
    黒いストッキングの上にガーターベルトと赤いTバックのショーツが見えた。
    「それがメイドの下着~?」
    花山が大きな声を出して笑った。
    美香も、奈緒美も笑っていた。
    ・・
    少し休憩して、拘束ポーズに移る。
    美香の左手と奈緒美の右手に手錠が掛けられる。
    二人は一本の手錠で繋がれ、ソファに座って肩を寄せ合った。
    安田が黙ってシャッターを押し続ける。
    美香が奈緒美の膝に手を置く。
    静かに微笑み合う。
    手錠が2本になり、二人はそれぞれ両手を前で拘束された。
    「はぁ~」奈緒美は小さく深呼吸する。
    信じられないような気分だった。こんな格好で写真を撮られるなんて。
    胸の鼓動が再び増す。
    重なり合うよう横たわって互いに頬を寄せた。
    美香が頬にキスしてくれる。ひゃ。奈緒美は嬉しくて美香に自分の頬をこすり合わせる。
    奈緒美の手錠が後ろに回った。拘束感が増す。
    美香が後ろから前手錠の両手を奈緒美の腰にかけて引き寄せる。そのままぎゅっと抱きしめられる。
    奈緒美は身体を捻って美香を見ようとする。少しもがくとスカートがめくれ上がる。
    あ、スカート。すると美香が手を伸ばして、右の太ももだけが大きく出るようスカートを整えてくれる。
    感謝の気持ちで美香にもたれる。
    すると美香の手が奈緒美の胸を押さえた。あぁ!
    優しく、ゆっくり胸を揉みしだかれて奈緒美はとろんとなる。
    彼女は周囲を忘れた。
    「はいOK! 休憩しよか」花山の声にはっと我に帰った。

    11.緊縛
    「深雪ちゃん、コスプレの経験は?」花山が聞いた。
    「いえ、まだ初心者なんですけど」
    「なりきり方がすごかったね」カメラの安田が言った。メイクの安藤も頷いている。
    「かすみちゃんの手ほどきのおかげかな?」花山がそう言って笑った。
    美香は黙って笑っている。
    「あの、私、きりはらさんに従っただけなので」
    「されるがまま、って感じやったな」
    「そうですか?・・」
    「でも、いい演技やったよ。これやったら、うちから出版してもいいな」
    「え、写真集ですか?」美香が目の色を変えて聞いた。
    花山が笑って頷く。
    「やった! 深雪ちゃん、がんばろ!」美香は奈緒美の手を持ってぶんぶん振る。
    憧れの写真集や!
    奈緒美は何のことかよく分からなかったが、美香が喜んでいるので嬉しかった。
    ・・
    「じゃ、次の撮影の前にお化粧直しますね」安藤が二人のメイクを直し始める。
    「えっと、今度はあたしの方で進行させてもらってもいいですか?」美香が聞いた。
    「かすみちゃんにいいアイディアがあるんやったら、かまへんよ」
    「だったら、ちょっと激しくなるかもしれないんで、メイクは薄目にして下さい」
    「?」
    美香は典子に目で合図する。今まで隅で見学していた典子が紙袋を手にして立ち上がった。
    「深雪ちゃんはまた手錠」
    美香は奈緒美の両手に前手錠を掛ける。
    「かすみさんには、縄」典子がそう言うと美香は微笑みながら両手を背中に回した。
    典子は美香の胸元のフリルの形がこわれないように注意して縄を掛ける。
    みるみるうちに美香は高手小手に縛られた。
    花山達は唖然として典子を見ている。彼女は何者?
    「何か本格的・・」安藤がつぶやいた。
    典子は縄をかけた美香をソファに押し倒し、奈緒美に言う。
    「今度は深雪ちゃんがこの人をいじめるの」
    奈緒美は驚いていた。縄で縛るなんて!
    その美香が奈緒美を見て、小さな声で言った。「どうぞ、かすみに罰を与えて下さい・・」
    奈緒美は導かれるように美香に近づく。横たわった美香の横に膝をつき、手錠の両手を美香の胸の縄にそっと触れる。
    目の前で縛られた美香。縄掛けされた黒いメイド。
    「きりはらさん、綺麗、です」
    奈緒美はそのまま美香の口に顔を寄せてそっとキスをする。
    手錠の両手を美香の頭の後ろに回して、美香の首を抱きしめた。
    「ん・・ぁ」美香がわずかに喘ぐ。
    そのまま美香の頭を膝に載せ、髪を撫でる。
    縛られた美香の腕と手首が見える。
    手を伸ばして美香の指に触れると、ぎゅっと握り返された。
    「きりはらさん・・」
    奈緒美は振り返って典子を見た。
    「あの・・」
    「はい?」
    「私も、縄で、縛って欲しいんですけど」
    安田がカメラのファインダーから目を離して奈緒美を見た。
    安藤が化粧道具を並べた机から振り返った。
    ・・
    奈緒美の胸の上下に縄が掛かって行く。
    自分の腕がまったく動かせない。
    圧倒的な拘束感。手錠とはまったく違っていた。
    「痛くない?」典子が聞く。
    「・・」
    「深雪ちゃん?」
    「・・あ、はい?」
    「縄、痛くない?」
    「大丈夫、だと思います」
    奈緒美はそう言って椅子から立ち上がった。その場で身体を左右に揺すってみせる。
    「あは、ぜんぜん動けません。すごいですね」
    「深雪ちゃん縛りは初めてだし、長い時間は駄目やからね」
    「はい・・」
    典子は苦笑いしながら、ソファの美香の横に来て小声で言う。
    「ちょっとイッてるよ。彼女」
    「うん、様子を見て適当に解放してあげて」
    典子は頷いて、わざと大きな声で言う。
    「では、かすみには目隠しして、もっと縄を掛けます」
    「え? きりはらさん?」
    心配して振り返る奈緒美をよそに、典子は美香にアイマスクをかけてしまう。
    そしてロングスカートの上から美香の膝と足首を縄でぐるぐる巻いて縛り上げてしまった。
    安田が再びカメラを構え始めた。
    美香はソファから転げ落ちて、芋虫のように奈緒美の方に進んでいこうとする。
    「きりはらさん?」
    奈緒美が近寄ってひざまずこうとしてよろける。
    全身を縛り上げられた黒メイドの美香は、床の上でもがくようにしている。
    「きりはらさんっ、・・きりはらさん!」
    自分も縛られているのに必死で呼びかける奈緒美。
    「深雪ちゃん、助けて・・」
    小さな声で呼びかける美香。
    「あ、きりはらさん!」
    奈緒美は自分の口で美香のアイマスクを取ろうとするが、うまくできない。
    続いて美香の背中の縄を口でくわえて解こうとする。
    膝がすべって美香の胴の上に転げる。
    「あぁっ」
    「き、きりはらさんっ」
    「深雪ちゃん・・」
    二人は床に転がってもがき続けた。
    安田がそれを夢中で撮影する。
    やがて二人は折り重なるように倒れたまま動かなくなった。
    「はい、OK! これで終わろう」花山が時計を見て言った。
    「許してくれるって、深雪ちゃん。深雪ちゃん?」
    典子が奈緒美を引き起こして、手早く縄を解く。
    「きりはらさん!」
    奈緒美は身を起こすとすぐに美香の縄に指をかけて引っ張ろうとする。
    「あ、駄目駄目。縄が締まって解けなくなるよ」
    奈緒美の手を引き離し、典子は自分で美香の縄を解く。
    美香の身体が自由になると待ち構えていたように奈緒美がとびついた。
    「あ~ん、きりはらさ~ん・・」
    美香は床に正座して、膝の上で泣く奈緒美の背中をいつまでも優しくさすっていた。

    12.別れ
    美香と奈緒美は大阪駅で典子と別れた。
    「ナツキさんって、優しい人ですね」
    「うん。でも縄を持ったら怖いやろ?」
    「はい。・・でも、すごく気を使って縛ってくれましたよ」
    「奈緒美ちゃん、分かるの?」
    「だって、全然痛くなかったですもん」
    奈緒美は両手を美香の前に差し出した。その腕と手首にはくっきり縄の痕が残っていた。
    「ああ~っ、あかん!!」
    「どうしたんですか?」
    「今から奈緒美ちゃんのお母さんに会うのに、その縄目はまずいよぉっ」
    「そういえば、そうですね・・」
    奈緒美はしばらく手首を撫でていたが、にっこり笑った。
    「長袖を着たらいいんですよ!」
    「んなこと言ったって、長袖なんて持ってへんやん」
    「ありますよぉ。ここに」奈緒美は美香の鞄を指差す。
    「え? ・・・ああ~っ、あたしのメイド服?」
    「はい!」奈緒美はにっこり笑った。
    「あの、あの、こんな格好したら変やない?」
    「だって、きりはらさん、私が縄で縛られて写真撮られたなんて、ママに知れてもいいんですか?」
    この子は、幼いんだか、知恵が回るんだか・・。
    「分かったよ。このメイド服貸したげるからそこのトイレで着替えといで」
    「あの・・」
    奈緒美がいたずらっぽく笑った。
    「どうせなら、・・これももらえると嬉しいなぁって」
    「う~、もう! あたしの負けやわ。これも記念にあげる!」
    「うわぁ、ありがとうございます!」
    う~、メートル2千円もしたベロアのメイド服なのに。
    奈緒美は黒メイド服に着替えた。
    幸い、奈緒美の身体はスリムなので美香の衣装でも着こなすことができ、細かい部分は美香が安全ピンで調整した。
    くるぶし丈のロングスカートは奈緒美には脛の真ん中程度の長さになった。
    手首の縄目は、メイド服の袖を無理に引き伸ばしたら何とか隠すことができた。
    ・・
    夕方、北摂の私鉄駅。
    二人は駅前で奈緒美の家族を待っている。
    「写真集ができたら、私にも印税ってもらえるんでしょうか?」
    「印税かどうか知らないけど、奈緒美ちゃんにも当然もらえるよ。・・だって二人の写真集やもん」
    奈緒美はにっこりと美香に笑いかけた。
    「帰ったらちゃんと謝って、勉強に励むんやで」
    「はい」
    「それで上の学校に進んだら、またコスプレでも何でも遊んであげる」
    「はい!」
    美香はふと心配になる。この子、本当は何歳なんやろか。
    「ねえ、奈緒美ちゃん。あなた本当はいくつ・・」
    「来た!」
    視線を上げると、道路の反対側から夫婦と思しき二人連れがやってきた。
    「奈緒美!」「ママ!」
    奈緒美は母親に抱きつく。
    「この子は、心配させて、本当に・・」「ごめんなさい!」
    母親は泣いていた。奈緒美の目も光っているようだ。
    父親が美香を見て会釈した。
    「倉橋です。この度はうちの娘が大変ご迷惑をかけまして・・」
    「いえ、奈緒美ちゃんがお家に帰ってくれる気になって、本当によかったです」
    「普段は両親とも仕事で家を空けておりまして、あの子には構ってやれない生活だったもので、私どもも反省しております」
    母親と揃って頭を下げた。
    「日を改めまして、お詫びとお礼に伺わせてもらいたく・・」
    「あ、それはもう結構ですから。もう、奈緒美ちゃんが安心して家で過ごせるようになればいいんですし」
    こんなきっちりしたご両親にアパートに来られても困るよ~。
    「そうですか? あの子は大人びたところもありますが何分まだ6年生ですから、これからはもう少し一緒に過ごせるように・・」
    え?
    「あの、ちょっと」
    「はい?」
    「話の腰を折って悪いんですけど、奈緒美ちゃんおいくつなんですか?」
    「はあ、12才です。今度中学受験で、親からずいぶん煩く言われたのも良くなかったようで・・」
    美香はその先を聞いていなかった。
    じゅ、じゅうにさい。
    奈緒美が母親に抱きついたまま、美香の方を向いてぺろりと舌を出したように見えた。
    ・・
    「で、写真集はどうしたんよ」典子が聞いた。
    「断ったよぉ。いくら何でも小学生の緊縛写真集はないでしょお?」
    あぁ、印税が・・。
    「だから言ったでしょ? 本当に高校生かどうか怪しいって」
    「わかってるよ。・・でも典子、あんたもスタジオであの子見て小学生やと思おた?」
    「それは・・・、中学生くらいかな、と」
    「やろぉ~?」
    「高校生にしては幼いなって思ったけど、小学生やったら、ものすごく早熟やない?」
    「うん、一緒にお風呂入ったけど、あの子身体はもう大人やで」
    「美香」
    「ん?」
    「あんた、まさか小学生相手に一線越えたりしてへんやろな」
    「そ、それは・・」
    「美香!」
    美香の頭の中を奈緒美と過ごした日々が通り過ぎる。
    「大丈夫。・・うん、大丈夫!」
    危ない夜もあったけど。
    「よかった・・。一線越えなくて」
    「あんた、やっぱり危ないとこまで行ったんか!」

    13.きりはらかすみホームページ
    <ご案内・10月29日>
    ながらく更新をさぼってすみませんでした。
    隠しページにメイド写真をアップします。
    一緒に写っている女の子は、顔は出せませんが、短い間の親友でした。
    それからプライベートの方でちょっと忙しくなって、コスプレ活動をしばらくお休みします。
    応援してくださる皆さんには申し訳ありませんが、きっと復活しますからそれまで楽しみにお待ち下さいね!

    14.紅葉
    目の前に夕陽が沈みつつあった。
    ここ一週間の冷え込みで洛北の山々は一気に紅く染まっていた。
    夕陽の赤い光に紅葉が金色に輝いて見える。
    綺麗やな~。美香は今の自分の境遇を忘れて風景に見とれていた。
    そこは市街地から車で30分も来た山中で、周囲には森と小川しかない一軒家の別荘だった。
    谷を見下ろすテラス、さらにその上高さ2メートルの十字架。
    美香はそこに一糸まとわない姿で固定されて、夕陽と対峙していた。
    ぴんと伸ばした四肢と背筋は、自分の意志でいっさい動かすことはできない。
    磔に架けられてもう1時間近くも経っている。夜までこのまま放置されるようだ。
    肌を冷たい風が撫でる。寒さに耐え切る自信はあった。
    テラスには暖かそうなジャンバーやコートを着た人々がいて、自分を見上げている。
    今、あたし一人だけ屋外で裸にされて、飾られてる。
    背中がぞくぞくした。
    ・・
    KSには Club-LB という会員制の裏クラブがあった。
    そこではFB(Female Body)と呼ばれるM女性の派遣や緊縛サービスなどが提供されている。
    いわゆるSMクラブとは異なり、女性の拘束シーンの鑑賞に重きを置いたクラブだった。
    提供される女性はほとんどがKSのEAで、普段は明るく元気に振舞う彼女達が被虐感あふれる姿に貶められる姿は会員の熱烈な支持を受けていた。
    KSで1年半活躍した美香は適正ありと判断されて Club-LB への参加を誘われたのだった。
    ・・
    美香は木箱に詰められてここに配達され、そして磔にされている。
    さっきまでは性感に満たされて乳首も張っていたが、今は少し萎えた気分だった。
    とはいえ、もはや十字架から下りることはできない。
    下ろしてもらうよう頼むこともできない。口の中一杯に詰め布を押し込まれて、その上から猿轡をされている。
    自分の身体を見下ろす。二つのバストが目に入った。
    大きくないけど、形のいいおっぱい。乳首がもう少し上を向いてたら最高なんやけどな。
    突然、奈緒美のことを思い出した。美香のアパートで一緒に風呂に入った12才の少女。
    細い体、小さなおっぱい。
    あの子、あたしがこんな仕事してるって知ったら「私も磔に架けて下さい」なんて言いそうやな。
    あの撮影の後、花山から「出版できなくて残念です」というメッセージと共に写真とネガが送られてきた。
    メイド姿の二人があやしく絡み合っていた。いい写真だと思った。
    奈緒美に送ってやろうかと思ったが、住所を知らなかった。
    だいいち、あんなものを見たら奈緒美はまた勉強が手につかなくなるだろう。
    奈緒美ちゃん、あたし今こんなことしながら頑張ってるよ。奈緒美ちゃんもガンバ!
    ・・
    真っ赤な夕陽が山の端に隠れると、周囲は薄闇に包まれる。
    気温がぐんと下がったようだ。
    美香は西の空を見る。
    ひときわ明るい星。その周囲で輝く星も増えてきた。
    突然まぶしい光を浴びて目が眩んだ。美香を照らすライトが点灯されたのだった。
    あたしは、ライトアップされて、まだ飾られ続けるのだ。
    美香の乳首が再び張り始めた。

    15.サクラサク
    アパートに帰ってくると、ドアに前に少女が座り込んでいた。
    「あんたは・・、奈緒美ちゃん!」
    少女は立ち上がってぺこりとお辞儀をする。
    紺色のワンピース。手には赤いジャンパー。肩でくくった髪。
    去年の夏より確実に大人になっていた。
    ・・
    「太教の付属に通ったの? すごいやない! おめでとう!」
    「えへへ。それで、春休みだし、ママの許しをもらって来ました」
    「そう。合格祝いをしたげんとね。今日は空いてるからケーキでも買いに行こか!」
    「はい! でも、その前に、ちょっと・・」
    「なに?」
    奈緒美はごそごそとカバンを開ける。
    「これ、お返しします」美香の黒メイド服だった。
    「あ、もう奈緒美ちゃんにあげたんよ」
    「いえ、ちょっと短くなって。胸のあたりも少しきついかな、って・・」
    もう小さい?
    奈緒美は立ち上がって黒メイド服を胸に当てて見せる。スカートの裾が膝の下に近くなっていた。
    「奈緒美ちゃん、身長は・・」
    「163です。去年会ったときは、159でした」
    この子、まだまだ伸びるな。170センチ、もしかしたら175?
    「じゃあ、緑のメイド服も・・」
    「そっちはまだ着れるんですけど、できたら直したいな、と」
    「わかった! このかすみさんが直して届けてあげるわ!」
    「あの、・・」
    「何?」
    「よかったら、これから直しませんか?」
    「え?」
    「その、私、明後日イベントに着ていきたいんです」
    「・・ねぇ、奈緒美ちゃん。あなたそれを頼みに来たの?」
    「はい!」奈緒美はにっこりした。
    「私、きりはらさんの家に泊まるってちゃんとママに言ってきました。今夜と明日一杯で直せると思うんですけど」
    あたしの都合はどうするつもりなのよ。
    「またきりはらさんと一緒にお風呂に入れると思うと嬉しくって、もうわくわくしながら来ました」
    奈緒美は美香の迷惑顔など気づかないように喋り続ける。
    「それで、できたら、あの、ナツキさんも一緒にお泊りしてくれたら嬉しいな、と思うんです」
    あ~、あかん。この天真爛漫さ、図々しさ。・・これに勝てないのよ。
    「それで、前みたいに、してもらえたらいいなって。あの、前みたいにっていうのは、その縄で、・・きゃっ、言っちゃった!」
    縄を掛けられて喘ぐ奈緒美の姿が美香の脳裏に浮かぶ。
    あ~っ。本当にあたし、この子相手に一線を越さずにいられるか自信ないよぉ。



    ~登場人物紹介~
    辻井美香: 20才。本話主人公。EA/FBをしながらコスプレの夢を追っている。
          KSではカスミ、コスプレではきりはらかすみを名乗る。
    倉橋奈緒美: 美香の部屋に転がり込んだ家出少女。多分いいお家の一人娘。
    野村典子: 19才。KS仲間ナツキ。

    初めて洋子さんが登場しない物語になりました。
    派手好きで奔放に見える美香ですが、実はしっかりと慎ましやかに頑張っています。奈緒美という自分勝手なペット?を得て、美香がこれからも堅実にやっていけるかどうかは不明です。

    コスプレ緊縛は、キャラクターに扮した女性がそのキャラを演じたまま縛られます。
    その女性は縄とキャラの両方に縛られる訳で、これは普通の着衣緊縛にない魅力です。
    そういう意味で、スチュワーデスやナースなどの服を着ただけの縛りは「キャラクター」を感じられないので作者にとってはイマイチです。
    最近は、普通のアマチュアのコスプレイヤーさんがいろいろなキャラのコスで同人緊縛写真集を出したりするので、よい時代になったものだと思います。

    さて次回のキョートサプライズは、12月のピークシーズンに忙しいKSの女性達を描きます。
    ありがとうございました。




    キョートサプライズ第7話(1/2)・ほろ酔いFB連譚

    1.KS事務所
    「クラブは向こう4ヶ月、予約で一杯です」堀公恵が言った。
    公恵はKSと Club-LB の経理事務兼電話番で、EA/FBの派遣スケジュールも担当していた。
    「恵ちゃんは、もう3か月休みなしです」
    「儲かってるのねぇ」企画担当の三浦みずほがつぶやく。
    「出勤間隔を詰めるか、FBを増やすか、どっちか必要ですよ」公恵。
    「今まで通りの順番待ちでお客様に了解してもらって。女の子の体が一番大事だからね」
    Club-LB 主宰の島洋子がそう指示し、それからつぶやいた。
    「増員が必要か・・」

    2.ミサト
    南区の小さな町工場。
    そこは Club-LB の会員が経営する鉄工所で、ミサトファンクラブの撮影会が開催されていた。
    Club-LB のFBでただ一人、ミサトこと佐久間恵にはファンクラブが存在する。
    集まった会員は男性5名、女性2名。
    暗い工場の中に1トントラックがバックで入ってきた。
    運転席から Club-LB の緊縛師である三井裕隆が下りてきて荷台のシートを剥がす。人々が覗き込んだ。
    荷台には木製のパレット(フォークリフト用の荷物板)があり、黒い筒状の荷物が載せられてパレットごと透明なシートで包まれていた。
    黒い筒は長さ2メートルくらい、直径は5~60センチほどだろうか。
    フォークリフトが近づき、フォーク(爪)を差し込んでパレットを持ち上げた。
    人々はブザー音を鳴らしながら移動するフォークリフトの後についてぞろぞろと歩いていく。
    建屋の一角に何もない空間があり、そこだけライトで照らされて明るくなっていた。
    搬入が済むと、三井が挨拶してカッターナイフを手にする。
    「では、解体します」
    三井は会員達がカメラを構える中で、全体を覆うラップシートをカッターでざくざくと裂いた。
    続いて荷物をパレットに固定するロープを解く。
    その荷物は全体を黒いシートで包み、その上からガムテープをぐるぐる巻いて梱包されていた。
    三井はパレットの荷物を足で蹴って落とし、床に転がした。
    再びカッターナイフを使ってガムテープを切断して黒いシートを引き剥がす。
    その下からは、10本ほどの縄を巻いて縛ったベージュ色の麻袋が現れた。
    「いったい何重に固めたるんや・・」会員の一人がつぶやく。
    三井は黙って縄を一本ずつ解いて行く。その額に汗が光る。
    ようやく麻袋の開口部を開き、反対側に回って袋の一端をよいしょと持ち上げる。
    「ほぉ」会員の間から声が出る。
    コンクリートの上に転がり出たのは、同じような麻袋。ただその長さは半分ほどで、袋の口からは少女の足がにょっきりと生えていた。
    白いソックスを履いた2本の足。それが膝の上下と足首に縄が掛かって固定されている。
    太ももの付け根から上は麻袋に包まれ、その麻袋はさらに多くの縄でがんじがらめに縛られている。
    「ミサトです」三井は少女の太ももをぴちゃぴちゃ叩きながら紹介した。
    三井は続いて上半身の麻袋の縄を外そうとするが、結び目が硬く締まっていて簡単に解くことができなかった。
    しばらく悪戦苦闘した末に、大型のカッターで縄を切断して袋を除去した。
    会員の目の前に佐久間恵の全身がようやく現れた。
    恵は青いブレザーの制服姿で後ろ手に縛られ、ガムテープの目隠しと猿轡を施されていた。
    三井は恵の目を覆うガムテープをぴりりと勢いよく剥がす。
    「あ、痛っ」女性会員が小さい声を出した。
    意志の強そうな目が現れて、まぶしそうに瞬きしながら周囲を見上げる。

    町工場の撮影会

    「では吊るします」
    頭上からウインチが下ろされ、フックが恵の背中の縄に連結される。
    恵はゆっくりと吊り上がり、拘束された両足の爪先がかろうじて床に触れる程度の高さでゆらゆらと揺れた。
    そのポーズは撮影の進行に合わせて少しずつ変化させられていくのだった。
    ・・
    休憩時間。恵はようやく縄を解かれた。
    しかし椅子に座った恵の両手はすかさず後ろに回されて手錠を掛けられてしまう。
    たとえ休憩時間でも、彼女に決して自由を与えないのがミサトファンクラブの暗黙の規則だった。
    全員が恵を囲んで座り込み、おしゃべりタイムになる。
    「ミサトさん、本当にあんなに梱包されてここまで運んでこられたんですか?」
    「ええ、事務所で縛られて後はずっと、・・・1時間くらい?」恵が横を見ると、そこで三井が頷く。
    「あんな風に袋詰めするときの注意点か何かありますか?」
    「呼吸の確保ですね。特に今回は4重の梱包になりますから、実は猿轡の下にこんなものを咥えさせてたんですよ」
    三井が手にするのは長さ1メートルくらいの透明なチューブだった。
    「これを麻袋の外まで引き出してたんです。この上から更にラップするんで、注意しないと今頃こんなふうに呑気に笑ってられないです」
    「ミサトさん、実際にどうでした?」
    「とても呑気に縛られてるところじゃなかったですよぉ(笑)」
    ・・
    撮影会第2部では、恵は制服を脱がされ、ブラとショーツだけの下着姿で再び縛られる。
    撮影は吊りが主体で、恵は1時間以上にわたって床に下ろされることはなかった。
    空中で喘ぐ恵の下で、三井が女性会員を縛り始めた。

    3.祇園 『T's Bar』
    [洋子]じゃ、乾杯!
    [みずほ、公恵、恵]かんぱ~い。
    [みずほ]久しぶりに肉食べたよぉ。
    [公恵]祇園のバーって、初めてです!
    [洋子]で、恵ちゃん。三井君とはうまくいってるのかな?
    [恵]はい、おかげ様で。
    [洋子]おかげ様って、別にあたしらは何もしてないよ~だ。
    [みずほ]こら、いきなり絡まない!(笑)(恵に)もう付き合って長いよね。
    [恵]はい、もう4年目になるかなぁ。
    [洋子]あやつは女に手が早いから気をつけるんだよ。
    [恵]あはは、それはわかってますって。
    [みずほ]この間の仕事でも、彼、恵ちゃんを差し置いて他の女の子に手を出してなかった?
    [恵]ええ、女性会員さんを縛ってましたね。
    [公恵]え、そんなことまでするんですか?
    [恵]まあ、全員の了解の中、和気あいあいとした雰囲気のもとでというか。
    [洋子]それ以上の狼藉はなかったの?
    [恵]その女性会員さん、最後はあたしと一緒に吊られてましたよ(笑)
    [公恵]それでその人、大丈夫やったの?
    [恵]もう大喜びされてましたよ。あたしと連縛させてもらえたとか言って。
    [洋子]ねえ、それ何ていうお客さん。
    [恵]たしか山城様と川畑様です。いつも一緒に来られる。
    [洋子]あ、あのレズカップルか。
    [みずほ]こら、お客様のことをそんな風に言ったらいかんでしょぉ?
    [洋子]お酒の席でくらい許してよお。
    [みずほ]もう。・・それにしても恵ちゃん、ホント働きずめにさせてごめんなさいね。
    [恵]いいんですよ。いつも楽しくやってますから。
    [みずほ]でも、そろそろFBを増やすんでしょ? 洋子。
    [洋子]そうねぇ。
    [公恵]半年先まで指名予約で待ってるお客さんもいるんですよ。
    [みずほ]今の子で候補としたら、典ちゃん、美香ちゃんに佳織ちゃんと純ちゃんね。
    [洋子]佳織ちゃんと純生ちゃんは駄目よ。EAの経験だってまだまだこれからだし。
    [みずほ]典ちゃんは大丈夫だわ。あの子の適性は洋子もわかってるんでしょ?
    [洋子]うん。考えるから。ね。
    [恵]あの、お替り頼んでもいいですか?
    [みずほ]もう飲んじゃったの? あんたそれストレートでしょ?
    [洋子]いいじゃないの、もっと飲みましょ。ねえ、私もブランデーお替り!
    [公恵]みなさん、強いんですねぇ。
    [みずほ]強いのは構わないけど、迷惑かけないで飲んでね。洋子。
    [洋子]かけないわよ。私はいつも綺麗に飲んでるでしょ。
    [恵](小声で)そうだっけ?
    [洋子]誰か何か言った? ほら、公恵ちゃんもミモザなんて飲んでないで、もっとしゃきっとしたのにしなさいよ。
    [公恵]いえ、その私はあんまり強くないんんで・・。
    [みずほ]みんな、それぞれ好きなのを楽しめばいいの!
    [洋子](新しいブランデーをぐびっと飲んで)あ~あ、やっとお客さん増えてきたら今度は女の子の心配かぁ~。
    [みずほ]みんな洋子が頼みなんやから、頑張ってね。(洋子に自分のギムレットを飲み干され)あ~、こらぁっ。
    [洋子]ジュースね。これ。(みずほに)ほら、あんたかって飲めるんやから、付き合え!(自分のブランデーをみずほのグラスに入れる)
    [みずほ]わぁ~っ。
    [公恵]洋子さん、酒癖、悪い・・。

    4.シノブ
    東山の斜面沿いにある大邸宅。
    日が沈んで闇に覆われた広い庭園の一角がライトで明るく照らされている。
    地面にはゴザが敷かれ、ロープ、タライ、バケツなどが無造作に置かれていた。
    庭に面した座敷の縁側には、中年の男女4人が庭に向かって座っている。
    庭では Club-LB の緊縛士、長谷川行雄が木箱の横に立っていた。
    長谷川は一辺70センチほどのサイコロ形の木箱の蓋を、釘抜きを使ってこじ開ける。
    蓋を外すと箱の中は藁屑で一杯だった。
    藁屑の中に腕を差し入れ、中に埋もれていた女性を引き出した。
    Club-LB のFB、シノブこと石原妙子が灰色の囚人服を纏って高手小手に縛られていた。
    長谷川は妙子にまとわりついた藁屑をはたき落とし、背中の縄をつかんで観客からよく見えるように顔を向けさせる。
    「シノブといいます。今夜は女囚縛りをご披露します」
    妙子の足首を縄で縛り、ゴザに正座させてから足首の縄を背中の縄に固定した。
    そうして長谷川はバケツにタライの水を汲み、妙子の正面から浴びせかける。
    「あ」縁側にいる女性が口に手を当てた。
    妙子は顔をそむけて耐えるが、何杯も水をかけられて全身がずぶぬれになった。前髪からぽたぽたと水が垂れる。
    しばらくそのまま放置してから、次の体勢に移る。
    妙子を横に押し倒して、両膝を折らせて太ももと合わせて縛り、背中との間に縄を渡す。
    そして頭上から垂れるロープを繋いだ。
    頭上に目をやると、ロープは木の枝に設置した滑車にかかっているようだった。
    長谷川はもう一本垂れるロープに体重をかけてぐいと引く。滑車が回り、妙子の身体がゆっくり持ち上がる。
    空中で妙子の身体は逆海老に反り返る。
    長谷川はその腹に部分に更に縄を縛り、下にブリキバケツを吊るした。
    柄杓で水を汲んでバケツに注ぐ。
    「皆様、よろしければ、水を注いで下さい」
    男性2人が縁側から出てきて、一人ずつ柄杓で水を入れた。
    残った女性も促されて庭に下り、「ごめんなさいっ」と謝って柄杓を手に取った。
    バケツの重量が増すのに合わせて、妙子の身体の反りが次第に大きくなっていく。
    「くっ・・」妙子の口から小さな声がこぼれる。
    バケツの縄が繋がった部分を中心に、妙子の胸と腰が直角に近い角度で折れ曲がった。
    長谷川はバケツから溢れるまで水を追加する。
    「いわゆる駿河問いの完成です。ごゆっくりご鑑賞下さい」
    長谷川が一礼すると、観客がパチパチと拍手した。
    「長谷川さん、こちらでお茶でもどうぞ」
    全員が縁側に腰掛けて一服する。
    庭では逆海老に吊られた妙子の身体が、ライトに照らされる中ゆっくりと回転していた。
    ・・
    1時間後、妙子は木馬責めに掛けられていた。
    木馬の先端の角度は約60度。
    またがる両足を精一杯伸ばしても、地面には爪先も触れることができない。
    胸元と背中から縄がそれぞれ斜め上の木の枝に伸びて引いている。
    妙子は上体を前後に倒して痛みをやわらげることもできず、その体重は常に股間の一点で支えられていた。
    ときおり長谷川が妙子の身体を少し持ち上げては手を離し、苦痛が継続するようにした。
    「~っ!!」声にならない悲鳴がこぼれる。
    頬には汗とも涙ともつかないものが流れ、股間からも透明な液体がゆっくりとこぼれて木馬を濡らしていった。
    縁側の観客は誰一人立ち上がることもできず、庭先で実演される拷問を凝視し続けていた。

    5.先斗町 『梅はら』
    [みずほ]妙子さんと一緒は久しぶりよね。
    [洋子]そうねぇ。いつも付き合い悪いんだから。
    [妙子]別にそういうつもりじゃないんですけど・・。
    [みずほ]まあ、いいやないの。今日はせっかく公恵ちゃんがいいお店に連れて来てくれたんだから。
    [公恵]前に主人と来たことがあって、また行こうって言ってたんです。
    [洋子]確かに、この湯葉巻きのあんかけは絶品だわ。
    [妙子]ほんと、美味しいです。
    [みずほ]妙子さん、いつもきつい仕事ばかりみたいやけど、身体は平気なの?
    [妙子]あ、大丈夫です。自分でも嫌いじゃないし。
    [公恵]妙子さん、指名が多いんですよ。それも拷問系とか完全密封系とか、そんなのばっかり。
    [恵]いいなぁ~(笑)。
    [洋子]仕事が済んで戻ってきた時ね、すごい色っぽい顔なのよ彼女。いつもどきっとさせられるわ。
    [妙子]自分でも、もう普通の気持ちじゃないですね。その後1週間は満ち足りた気持ちで過ごせるというか。
    [恵](妙子に)ねえ。あ、もう限界って思うことない?
    [妙子]それはもう始終(笑)。でも長谷川さん、それを超えて追い詰めることはされないので・・。
    [みずほ]長谷川君がうまいのよ。彼、女の子のそのあたりが分かるのよね。不思議と。
    [洋子]彼って、あなた、長谷川君のこととなると詳しいわねぇ。
    [みずほ]あはは、そうですか? それより、冷酒、頼もうかな~っと。
    [洋子]あ、私も冷酒~。
    [公恵]ねえ、前から聞きたかったんやけど、縄の痕とか肌に残るんでしょ?
    [妙子]残りますね。何日か。
    [恵]胸やお腹はしかたないとして、手足にもくっきり出るもんね。
    [みずほ]恵ちゃんはOLやから、いろいろ大変でしょ。
    [恵]うん。会社ではスカート履かないでパンツだし、夏でもカーディガン着てるもん。みんな、きっとあたしのこと寒がりだと思ってるな。
    [公恵]ひょっとして、痕が消えてもそうしてるの?
    [恵]そう。いきなり薄着になったら変だから。本当はノースリーブとか着てたいんだけどね。
    [公恵]わあ、本当に大変。・・妙子さんは、大丈夫なの?
    [妙子]ええ、うまくやってますよ。
    [恵]そういえば妙ちゃんって、本業は何してるの?
    [妙子]あ、まあ、それは。
    [みずほ]おっと、プライベートの詮索はNGよん。
    [恵]あ、ごめんなさい。
    [妙子]いえ(にっこり)
    [公恵]ところで、この間話してた増員の件、どうします?
    [みずほ]来週、典ちゃんと美香ちゃんに話してみる予定。決めるのは本人だからね。駄目だったらその時は外部募集、かな。
    [妙子]典子ちゃんと美香ちゃんなら、人気出ますよきっと。
    [恵]彼女たち、可愛いもんね~。その分、過激系は妙子とあたしで引き受けますからね(笑)
    [洋子]う~、私もやる。
    [みずほ・恵・妙子]ええ~っ!!
    [みずほ]あなた、わがままは去年でやめたはずでしょ?
    [洋子]去年とは違うの! 今は人手不足なんやから、わがままなんかで言うてるのと違うの!
    [みずほ]あ~あ、一人で冷酒そんなに空けて。
    [恵]去年もお酒に酔った勢いでやったような。
    [洋子](にっこり笑って)恵ちゃん、酔ってなんかいーひんからね。(公恵に)指名のついてない予約で手頃なの、一つぽんとお願い。
    [公恵]あの、まさか洋子さん、ご自分で出るつもり。
    [洋子]大丈夫。きっちり勤めますよ。昔とった篠塚やない、杵柄や。きゃはは。
    [みずほ]古う~。公恵ちゃん、相手にしないでね。
    [洋子](冷酒をぐびっと空けながら)うちの言うとおりにし! 担当は長谷川君にするんやで。
    [公恵]洋子さん、関西弁・・。
    [みずほ]普段は気取ってるけど、これで生粋の浪速女やからな~。
    [洋子]うちかて、すっきりしたいんやぁっ。

    6.謎のFB
    長谷川が衣装ケースの蓋を開けると、中から女性の声が小さく聞こえた。
    さらに白いプラスティックの内蓋を開ける。
    発泡スチロールを人間の形に抜いた中に黒いレザーに覆われたこけしのようなものがはまり込んでいた。
    それは、全頭マスクと、首から下全体を覆う袋状のボディケースに収まったFBだった。
    長谷川はFBを型から抜き出そうとするが、衣装ケースごと持ち上がってしまう。
    箱の底に手をかけて90度回して置く。
    客の男性も手伝って、二人でFBを引き出した。
    それは床に転がされると「んひゅっ」と声を上げた。
    ボディケースは踵から背中にかけて細い紐を編んで締め上げられている。
    両腕があるはずの部分からウェストにかけては、コルセットを装着しているかのように大きくくびれていた。
    全頭マスクは首の後ろに南京錠が掛かっていて、鍵がないと取り外すことができなくなっている。
    ようやく“もがく”自由を得たそれは、マスクの下からくもぐった声を張り上げながら芋虫のように這おうとした。
    長谷川がその腰を足で踏んで押さえ、顎の下の部分を手で抱える。
    口元のネジを緩めると空気の抜けるような音がした。
    長谷川はそのままプラグ状の部品を手前に引き出して見せる。
    「口腔内バルーンです」
    プラグの先には空気の抜けたゴム袋がぶら下がっていた。唾液で濡れて光っている。
    長谷川の足の下でそれは激しくもがいた。
    プラグの抜けた穴は開口具になっていて、そこから大きな喘ぎ声がこぼれる。
    「ん、ふぉっ、・・あ、あっ、あん!」
    あまりの騒がしさに長谷川は苦笑する。
    客の男性が怪訝な顔をした。
    「あの、長谷川さん。この女性は誰ですか?」
    「これは飛び入りの志願者なんですよ」
    「そうですか。何か聞いたことのある声のように思ぉたんですが」
    「誰と思われましたか?」
    「その、島さんの声に似ているなと。・・いや、それはあらへんわなぁ」
    「似たような声に聞こえることはあるものですよ。それにしても賑やかですねぇ」
    長谷川はプラグを開口具に差し込んでネジを締め上げ、手前のレバーを引いてキコキコと往復させた。
    喘ぎ声は止まなかったが、音がこもった感じになって大分静かになった。
    「ほお、空気ポンプですか?」
    「はい。これをつけると呼吸が辛いんで外しておいてあげようと思ったんですが、ちょっと騒がしすぎますから」
    長谷川はそう言って立ち上がり、足で蹴って転がす。
    「ちょっと事情があって頭は出せないんですが、当クラブのちゃんとしたFBですからご安心を」
    「はあ、わかりました」
    「ご依頼は逆さ吊りでしたね」
    「あ、はい。そこのフックから・・」
    「わかりました。ではさっそく吊るしましょう」
    長谷川はボディケースの爪先に出た金属の輪にロープを通して逆さに掛ける。
    それはしばらく激しくもがいて振り子のように揺れ続けた。
    「少し頭に血が上れば落ち着くと思います」
    しばらく放置していると、それは次第に静かになって動かなくなり、声も止んだ。
    「気絶したんですか?」
    「大丈夫ですよ。そろそろ頃合ですかね」
    長谷川はそれを逆さに吊るしたまま、背中の編み上げ紐を解いて行く。
    尻から踵の後ろまで紐を解き、その下に隠れていたジッパーを開いて行く。
    ずるりとボディケースが開いて下に落ち、中からレザーの全身スーツを纏ったFBの姿が現れた。
    両腕は背中でアームザックに包まれ、その上から細いベルトを6本、胸の上下と腹、腰、太もも、膝に巻いて締め上げられている。
    足首は犬の首輪のような太目の皮製のベルトで拘束され、そこから爪先に延びるハーネスの先に金属の輪がついて全体を吊るしていた。
    「これは素晴らしい・・」男性会員は感心する。
    長谷川はマスクの開口具からもう一度プラグを引き抜いた。
    今度は小さな喘ぎ声が漏れるだけになっていた。
    「もう大丈夫です。このまま限界まで放置していただいて」
    「大したもんですね。ところで限界かどうかはどうやったら分かります?」
    「それは簡単なんですよ」
    長谷川はFBをくるりと回して背中を向けさせる。
    「ここから胸の部分を強く押さえて下さい。痛がっても構いませんから」
    「え? こうですか?」
    男性会員が膝をついて後方から両手でFBのバストを強く抱きしめた。
    「あ、あああああ! ん、ん、あぁん!!」
    突然大きな声が漏れてFBは逆さ吊りのまま身体をよじるようにもがいた。
    長谷川は慌てて開口具にプラグを装着し、FBを静かにさせた。
    「こんな風に反応しなくなったら、下ろして下さい。ボディスーツのベルトはそのままで結構です」
    「わ、わかりました」
    「半時間ほど寝かせて、その後もう一回くらいは吊るしても大丈夫ですよ」
    そしてそのFBはその通りに扱われた。

    7.マナミ
    ホテルのパーティルーム。
    Club-LB の緊縛士、黒川章が台車に乗せて運び込んだ布袋を床にどさりと落とす。
    その布袋は人間一人を入れて運べる大きさで、もがくように動いている。
    口の部分を縛った縄を解き、袋の底を持ってはたくように中身を出した。
    男物のワイシャツを着て縛られた女性がごろりと床の上に転がり出る。
    FBのマナミこと、岡崎真奈美だった。
    真奈美は皮のボールギャグをされているが、目は開いていて、鼻で大きく息をしながら肩を揺らしている。
    両手は背中でほとんど拝み手に近い形に縛り上げられ、同じ縄が腰、膝、脛、足首まで達して全身の自由を奪っている。
    ワイシャツの白と、その下から伸びる素足の浅黒い肌のコントラストが美しい。
    彼女はワイシャツの下はショーツ以外身につけていない。
    ワイシャツのボタンは下ふたつほど以外全部外れていて、胸の谷間からお腹までくっきりと見えている。
    黒川は真奈美の前髪を掴んで、客に顔がよく見えるようにぐいと引き上げた。
    真奈美は黒川と客を睨み着けるように見る。口元のギャグから涎が流れている。
    「マナミです。袋に詰めて1時間ほど経ちますが、まだ元気です」
    そしてポケットから赤い携帯電話を取り出して真奈美の目の前に置く。
    「彼女の携帯電話です。これを取って助けを呼ぼうとしますから、渡さないで下さい」
    黒川は電話から遠ざけるように真奈美の身体を靴のまま足で蹴って転がす。
    「お貸し出しの時間は2時間ですから、それまでお楽しみ下さい。ではまた参ります」
    言い残して黒川は去っていった。
    テーブルには酒瓶やつまみの類が並んでいる。会員達がグラスを手に周囲から彼女を見下ろしていた。
    真奈美はもがきながら身体を尺取虫のように動かして、携帯電話に近づこうとする。
    ときおり我慢できないようにその場で転がって、仰向けになったり横向けになったりしてもがく。
    呼吸する息に混じって喘ぎ声がこぼれる。そのセクシーさ。
    ワイシャツのボタンが引きちぎれた。
    めくれ上がったすその下から、わき腹や太ももが大きく露出する。
    時おり片方の乳首がちらちらと顔を出す。
    真奈美は理解している。自分がパーティの余興の品として供されていることを。
    そして、自分が決して携帯電話を手にすることはできないことも。
    目前まで近寄ったらそれは取り上げられて、離れた場所に置き直される。
    よしんば携帯電話にたどり着いたとしても、手足の自由がない彼女がそれを使うことはできない。
    彼女はすべてを理解している。みじめさに浸りながら、全身もがき続けなければならないことを。
    それがお客様のためにつくすべき彼女の役務(やくむ)なのだ。

    続き




    キョートサプライズ第7話(2/2)・ほろ酔いFB連譚

    8.円町 『居酒屋キスケ』
    [真奈美]え~、京懐石行ったの~?
    [みずほ]だってあなた、事務所に来なかったやない。
    [真奈美]だってあの日は用事が・・。いいなぁ。あたしも湯葉巻き食べたかったなぁ~。
    [洋子]飛竜頭(ひりょうず)の炊き合わせも美味しかったわねぇ。
    [恵・妙子](にっこり笑って)はい。
    [真奈美]いじわる(笑)
    [みずほ]まあまあ。ここだって美味しいよ。ほら、揚げ出し豆腐(笑)
    [真奈美]だいたい、この店何なんですか。みずほさんのお勧めっていうけど、そこらじゅう変なヒヨコのぬいぐるみばっかり。
    [みずほ]あれはヒヨコじゃないの! 子鬼なの! ほら頭にちゃんと角あるでしょ?
    [洋子](ジョッキをあおって)ふぃ~。みずほの趣味なんてこんなもんよね。
    [みずほ]ふん、すみませんねぇ。変なもんが好きで。
    [真奈美]そういえば、洋子さんもわがまま通したって聞きましたよ。
    [洋子]えへへ~。リフレッシュさせてもらいました。
    [みずほ]長谷川君がごまかすのに苦労したって言ってたわよ。
    [洋子]何言ってるの。お客様、私の姿に感動して泣いてたわよ。
    [公恵]私はちょっと見たかったですね。
    [洋子](公恵の手を握り)でしょ、でしょおっ。洋子さんも若い子には負けてへんねんやから。
    [みずほ]まあ、何とか人前には出せるレベルだったらしいわ(笑)
    [洋子]あんたもいっぺん箱詰めで配達したろか?
    [みずほ]真奈美ちゃん、いつも頑張ってくれてるのに、こんな上司でごめんね~(笑)
    [恵]この間は、全身あざだらけになって2時間頑張ったんだってね。
    [真奈美]あはは。もう血と汗と涙の結晶よん。
    [妙子]真奈美さん、アクション演技系は最高ですものね。
    [洋子]そう言えばあなた、まだ劇団にいるの?
    [真奈美]はい、将来の女優目指して頑張ってますよぉ。
    [みずほ]そろそろ諦めてうちの専属になりなさいよ。
    [真奈美]いちおう30才までは夢を追っかけたいんで。その後はストリッパーでも何でもやって余生を送ります(笑)
    [洋子]30過ぎてストリッパーになられたんじゃ、たまらないわよ。
    [真奈美]へん、鍛えてますからね。洋子さんなんてもう裸で勝負できないでしょうが。
    [洋子]言ったねぇ。なら一発勝負するかぁ?
    [真奈美]おお! 受けましょ~(上着を脱いでもろ肌を出す仕草)
    [みずほ]何の勝負するのよ、もう。真奈美ちゃんも酔っ払いの相手しないで。
    [恵]ねえ、真奈美の劇団でも裸になるの?
    [真奈美]うん、そういう人もいるよ。あたしはまだそういう風には扱われてない。でも、もうすぐそうなるかも。
    [洋子]裏では、とうにカテーテル挿されておしっこ取られたりしてるんやけどね~。
    [真奈美](赤くなって)洋子さん! こんなところで何言うんですか、もう!(笑)
    [洋子]イヤなの?
    [真奈美]え~っと、・・スキ♥(爆笑)
    [公恵]ところで、典子ちゃんと美香ちゃんに話したそうですけど?
    [洋子]話したわよ。二人とも、頑張ります、だって。
    [みずほ]あたしも立ち会ったんだけどね、典ちゃんなんて「KSだけで商売になっているとは思ってませんでした」なんて言うのよ。
    [公恵]さすが、賢い。
    [洋子]美香ちゃんもさばけててねぇ。「わくわくします!」だって。
    [真奈美・恵・妙子]ふ~ん。
    [みずほ]典ちゃんはともかく、美香ちゃんは初仕事で泣くんやないかなぁ。
    [真奈美]ちょっと鍛えとかないと駄目でしょうね。
    [洋子]まあ、最初のお客様はよぉく考えるわ。それから真奈美ちゃん、二人に心構えをよく聞かせておいてあげてね。
    [真奈美]ほぉい。
    [公恵]二人がどうなるか、私、ちょっと楽しみ!
    [みずほ]公ちゃん、ちょっと怖いよ(笑)
    [洋子]まあ、若い二人にエールを送るために、当人不在で乾杯しよ!
    [全員]はいはい、かんぱ~い。
    [みずほ]洋子、あんたの手にあるの、とっくりじゃないのっ。
    [洋子]いいやないの。・・あ、それから今日はカラオケ行くからねぇ。全員参加やで~。
    [公恵]結局洋子さんのペースですね。

    9.ナツキ
    赤いリボンのついたブラウス、チェックの超ミニスカート。生足にルーズソックス。セミロングの黒髪ウィッグ。
    典型的な女子高生。
    「ちょっと、恥ずかしいですね」ナツキこと、野村典子が言った。
    「可愛いわよ」洋子が言った。
    「あの、あたしこの後どうしたらいいんでしょうか?」
    「後は彼に従うのよ」
    「黒川くん?!」典子は入ってきた黒川を見て驚く。「どうして・・」
    「黙って」話そうとする典子を制して黒川は背中に立った。
    「!」
    背後から口に白い布が押し込まれた。
    ・・猿轡!
    詰め布の上からかませ布、覆い布を施される。そして目隠し。
    典子は立ちすくんだまま何もできない。
    自分より後輩だと思っていた黒川に拘束されるのはショックだった。
    腕を後ろにとられて高手小手に縛られる。
    そして両膝と足首もそろえて縛られた。
    黒川は無言のまま典子を抱き上げ、ジュラルミンのケースに押し込んだ。
    視界を奪われた典子には、蓋がばたんと閉まって鍵を掛ける音だけが聞こえた。
    自分がEAではなくFBとして、ただ縛られた肉体を鑑賞されるために出荷される事実をかみしめる。
    それにしてもあいつ、いつの間にこんなに女の子縛るの上手になったんやろう?
    ・・
    さほど長くはかからずにトラックが止まり、典子の入ったケースは降ろされた。
    がたがたという振動、そしてかちゃりという開錠音。
    頭上の蓋が開き、脇の下に手が入って立たされる。どうやら畳の上に立たされたみたいだ。
    目隠しを外したいと思いながら、背中で縛られた両手をぎゅっと握る。
    「新人のナツキです」すぐ横で黒川の声。
    「よく来てくれましたね。よろしく頼みますよ」やや甲高い男性の声がする。
    典子はとりあえず声のした方に会釈した。
    「では、準備します」
    目隠しが外された。
    典子が目をしばたたかせている間に猿轡も外されて詰め布が引き出される。
    自分の唾液でびしょびしょになった布を黒川が手にするのは何だかイヤだった。
    彼の方が上の立場みたいやないの。
    あ、いけない・・。今は自分が下なんだ。
    典子は手足の拘束は解かれずそのまま背もたれの付いた木製の椅子に縛りつけられた。
    その部屋はどうやら書斎で、男性が一人、部屋の反対側の大きな机に背を向けて座り何か書き物をしていた。
    黒川は足元に床置きライトを持ってきて点灯し、典子の全身を照らすように調整する。
    「目隠しと猿轡はどうしますか?」黒川が聞く。
    「その人の顔を見たいので、今日のところは結構です」
    「わかりました。ではこれで準備完了です」
    男性は初めて椅子を回して典子の方を向いた。かけていた眼鏡を外して典子をしげしげと見る。
    少したれ目の、初老の男性。もの静かな雰囲気。
    典子は恥ずかしくなって、つい視線を外してしまう。
    「可愛いですねぇ。・・これでお願いします」
    「1時間半でよろしいですか?」「ふむ」「では」
    そう言って黒川は部屋を出て行った。
    男性はふたたび向きを変えて机に向かった。
    「私はね、こうやって論文を書くんですよ。ときどき貴女を見ますから、そのときはこっちを向いて下さい」
    「はい」典子はこの部屋に来て初めて声を出した。
    「いい返事だねぇ」
    ・・
    典子は椅子に縛られたまま放置されていた。
    ライトが少しまぶしいが、大して困ることもない。
    そっと周囲を見回す。壁いっぱいの本棚に溢れる学術書。机にはノートパソコンと積み上げられた書類。
    このお客様って、学者さん?
    横には大きな壁掛け時計があって時間が分かる。黒川が戻るまであと1時間だ。
    「う~ん」男性がうなりながら頭に手をやり、突然振り返る。どき。
    メガネを置いて立ち上がり、こちらに歩んでくる。
    目の前10センチまで顔を寄せてきた。どきどき。
    人差し指と中指で典子の顎を少し持ち上げ、正面からじっと見る。ああ、目をそらすこともできない。
    やがて男性は黙って離れ、机に戻り、またペンを握る。どきん、どきん。
    それから黒川が戻ってくるまで、男性が典子の方を振り向くことはなかった。
    ・・
    右足首が頭より高い位置まで持ち上げられ、そのまま鴨居に吊られた。
    左足はかろうじて踵が床につく状態。
    さらに背中にも縄を結ばれて吊られ、身体が斜めに反り返るのを感じた。
    「これでよろしいですか?」「うむ」「ではまた90分後に」
    今回はやや厳しい体勢だった。
    典子はしばらく不安定な状態で揺れていたが、やがて背中の縄にいくらか体重をかけて前傾し、床についた左足が動かないように注意すれば、体勢が安定するとわかった。
    90分くらい耐えられる。そう思った。
    ・・
    まだ男性は典子を見ない。
    ああ、私、何でこんな目にあってるのかなぁ。
    「はぁ」ため息に声が混じる。
    おっと。黙って男性の仕事の邪魔にならないように我慢する。
    それにしても黒川の縄、ぜんぜん緩まないな。
    事務所で縛られてから、ずっとそのままだぞ?
    典子は高く吊り上げられた右足を意識する。
    太ももの内側にひんやりとした空気の流れを感じる。
    ただでさえ短いスカートは完全にめくれ上がっているはずだ。
    今あの人が振り返ったら、太ももの根元どころかパンツまではっきり見えるよぉ。
    空中を漂うよう感覚は不快ではなかった。心地よい被虐感。
    次にあの人が歩み寄ってくるときは、やはり足を触られのだろうか。
    典子は男性が自分の肌に触れる瞬間を想像する。
    私は一切それを拒めない。
    太ももの内側。女の子の一番柔らかい部分。そこに男性の手が触れる。
    あぁ。想像だけで感じちゃうな。
    「ぁ・・」、「はぁ・・」、ふと典子は自分の呼吸に声が乗っていることに気付いた。
    いけない。典子は一人で顔を赤くする。
    聞こえただろうか。男性は黙々と仕事を続けている。
    床についた左足の脛と右の太ももの付け根が鈍く痺れ始めていた。
    ・・
    黒川が戻る。結局、男性は最後まで机に向かったままだった。
    典子は拘束を解かれ、隣室で少し休ませてもらう。足の痺れはすぐに収まった。
    「では、これで失礼させていただきます」黒川が挨拶する。
    「はい。ありがとう。おかげで仕事がはかどりましたよ」
    「あの・・」典子が男性に聞く。
    「あまり私を見て下さいませんでしたが、何か至らないことがあったでしょうか?」
    「こら勝手に・・」黒川が止めようとするが、「いいんですよ」と男性がさえぎった。
    「私はね、そこに貴女がいてくれるだけで十分なんですよ。特に後半はね、貴女がいい声で鳴いて下さったからもう絶好調でしたよ」
    ぼっ。典子は自分の顔に火がついたのかと思った。
    こら~、そんな顔であたしを見るなよ~、黒川~っ。
    「はいはい。文句を言わないで、じっとして」黒川が小声で注意した。
    うー。
    男性の見ている前で典子は再び縛られた。そして猿轡と目隠し。
    最後に目隠しをされるとき、典子は男性がにっこりと笑いかけてくれたように感じた。
    帰りのトラックの荷台の上、ジュラルミンケースの中で典子は男性の言葉を何度も思い出していた。
    「・・貴女がいい声で鳴いて下さったから」
    あ~ん、どうしてこんなに胸がばくばく鳴るんよぉ。

    10.カスミ
    カスミこと、辻井美香はFBとしての初仕事の内容を知らされないまま、スーツケースに詰められていた。
    白いマイクロビキニ。口には猿轡。両手は後ろ手錠。
    がたんという音と振動。スーツケースが開き、外に引き出される。
    まぶしいライト、その向こうに並ぶテーブル、カウンター。覚えのある光景。
    猿轡を外して、口から詰め布を引き出された。少しむせる。
    そして手錠を外され、その場に立ちすくむ。横にいるのは・・、長谷川さん!
    ここは『DON』やないの。KSでよく使わせてもらう会員制クラブだ。
    「カスミちゃん、FB昇格おめでとう!」聞き覚えのある、大きな声
    「降格かもしれませんな、ははは」こちらもよく知っている声だ。
    手前のソファに男性が二人座っていた。
    「藤本さん! 松田さん?!」
    KSの後援会長ともいえる藤本慎太郎とDONのオーナーバーテンダーである松田慎也だった。
    「今日はカスミちゃんにわしらの酒の肴になってもらおと思おて、島さんに頼んだんや」
    「ちょうど定休日なものですから、ここでゆっくり鑑賞させてもらいますよ」
    「こちら新人FBのカスミです。・・ご挨拶して」長谷川が言う。
    いまさら挨拶って言われてもな~。
    照れていると「挨拶しなさい」もう一度言われた。
    しかたなくその場に膝をつき、「カスミです。今後ともどうぞよろしくお願いします」と両手をついた。
    「うん、うん、頑張りいや」藤本が拍手する。
    「では」長谷川が天井から垂れる鎖に手を伸ばす。
    美香は突然、自分一人だけが裸同然の水着姿であることが恥ずかしくなった。
    あ~、露出なんかいつも平気なのに、どうして・・?
    無意識に身体の前を手で隠そうとすると長谷川にその手を取られてねじり上げられる。
    「あ、ちょっと待って・・」そう言いかけるが無視されてしまった。
    いつもステージでは気を使ってくれるのに。
    何よぉ。その気持ちが表情に出る。
    「カスミちゃん、あんたは今EAやないんや。もう自分の思うようにできる自由はないんやで」
    あ。
    あたし、FBだった・・。
    長谷川は黙って美香を縛り続けている。
    抵抗する気持ちは消え、両目を閉じて長谷川の縄さばきに従順に協力する。
    「いい顔になりましたな」松田の声。
    ・・
    長谷川は美香の両手にタオルをかませてその上から縄で縛り、天井から鎖に繋いだ。
    両膝も合わせて縛られる。その状態で鎖をじゃらじゃらと引き上げる。「ん・・」
    両手が頭上に伸び、身体がぴんと伸びた。
    やがて裸足の爪先だけが床に立っている状態になる。
    「できましたか。なら、乾杯して楽しませてもらいましょ」
    「長谷川君も、どうぞ」
    「あ、かたじけない。では、ゆっくりさせてもらいます」
    美香は一人スポットライトの中に残される。
    グラスの合わさる音。
    美香は男性達の視線が自分に突き刺さるのを感じる。
    自分の身体を強く意識する。あたし、今、男の人に見られてる。
    縛られた手も、バストのふくらみも、腰のくびれも、ちょっと太い足も、みんな差し出して楽しんでもらっている。
    下半身がじゅわ、となる。
    ・・
    美香は2時間近くそのまま放置された。
    その間、男性達は酒を飲んで盛り上がった。
    中でも松田がバーテンとしての長い経験から語るエピソードは面白おかしく、美香までが縛られた身体をよじらせて笑いころげる程だった。
    「そろそろオブジェは限界でないかな」突然藤本が言った。
    「ああ、そのようですな」松田。
    急に3人に注目されて、美香ははっとする。
    とうに爪先立ちはできない状態だった。
    両手を吊るす鎖にほとんどの体重をかけてぶらりと垂れ下がっていた。
    身体中の筋肉がだるく、縛られた両手もタオルをかませているとはいえ痺れきっていた。
    「おしゃべりは切り上げて、彼女の身体を堪能しましょうか。・・長谷川さん、よろしいでっしゃろ?」藤本が言う。
    え?
    「もちろん、これはFBですから、皆さんのご自由に扱って下さい」長谷川が答える。
    あぁ・・。
    「では、久しぶりに私が腕前を披露しましょうか」
    松田がそう言って立ち上がり、胸ポケットから出したハンカチで手を拭きながら近づいてくる。
    美香の息が止まった。・・恐怖感!
    骨っぽい指が鎖骨に触れ、それから首、顎に上がり、最後に頬を挟んだ。
    美香の目が見開かれる。
    一瞬の後、松田は反対の手の指を美香の肘にあて、そのまま脇の下、胸、腹、腰とたどった。
    「!!!!」
    初めて味わう快感だった。美香は突然激しいエクスタシーの中にいた。
    手首の縄が緩み、美香の身体は床に崩れ落ちる。
    松田は美香を抱えて両手と膝の縄を解く。
    「イッてしまったようです。ちょっと効きすぎましたかな」
    「さすが松田君のテクニックやなぁ」
    「恐縮です」
    「あぁ、はぁ・・」美香は喘ぐばかりで何も話すことができなかった。
    「ソファに寝かせましょう」
    長谷川が美香をソファに運んで寝かし、毛布を掛ける。
    美香は意識を失った。
    ・・
    気がつくと、額に冷たいおしぼりが置いてあった。
    3人の男性が美香を囲んでいる。
    藤本が腕をとって脈を診ていた。「大丈夫、問題ない」
    「起きれる?」長谷川が聞く。
    「ん・・っ」起きようとする。長谷川が支えてソファに座らせてくれた。
    「これを。・・熱いから気をつけて」松田が紅茶のカップを渡した。
    美紀は毛布に包まったまま、それををすする。かすかにブランデーの香りがした。
    「おいしい・・」
    長谷川が頭をかいた。「美香ちゃん、ちょっと苛めすぎたかもしれない。ごめん」
    美香は少し紅茶の香りを楽しんでから「あの、あたしこそごめんなさい」と答えた。
    「あたし生意気でFB失格でした。あのとき、みじめで怖かったけど・・、すごく感じました」
    「そうか、よかった」
    「・・あたしFBとして頑張りますから、」
    「うん」
    「あの・・、長谷川さん」
    「ん?」
    美香は毛布を脱ぎ、ソファーに座りなおし膝に手を揃えて置いた。
    「あ、あたしもう、何も拒みませんから・・、お客様が喜んでくださるよう、厳しく縛って下さい」
    頭を膝に押し付けるように下げた。あっけにとられたような長谷川。
    「さすがわしが見込んだカスミちゃんや、えらい!」そう言って藤本が拍手した。
    「今度はうちの別荘で縛って飾らせてもらうで」
    「はいっ、よろしくお願いしますっ」
    「どうやら本物のFBらしくなってくれましたな」松田が言う。
    「作戦成功、か」長谷川がつぶやいた。
    えぇ?
    「長谷川さん」美香が聞く。「作戦って何なんですか?」
    「あ、いや・・、しまった」
    「だいたい想像つくけど、誰が考えた作戦ですか?」
    美香はビキニ姿のまま長谷川に詰め寄って馬乗りになる。「わ」
    「皆さんも、白状して下さい!」藤本と松田もあたふたしている。
    「いや、言うよ」美紀の下で長谷川がうめく。
    「し、島さんのシナリオなんだ」
    「やっぱし!」美香は大げさな振りで怒る。
    「もう、洋子さん、ひどいわ! あたし本当に怖かったのに」
    「カスミちゃん、」藤本が言った。
    「?」
    「島さんは、あんたがFBになるということを、何かとても軽く考えてるんやないかと心配してくれてはったんやで」
    「・・」
    「このクラブは選ばれた立派な会員さんばっかりやけど、それでもFBの女の子は何されてもそれを受け入れて、つくさなあかんのや」
    「・・」
    「そやからカスミちゃんにも、その心構えを持って欲しいと心から願って下さったんや」
    「はい・・」
    「カスミちゃんも十分わかってくれてるとは思うんやけどな。今一回、よお考えてくれたらどうやろかな」
    「はい。ありがとうございます」
    美香の目にわずかに涙が光る。それを手でこすって笑った。
    「いやや。何で泣いちゃうんでしょうね、あたし・・」
    「美香、いやカスミちゃん・・」長谷川がうめくように言う。
    「はい?」
    「よく理解してくれたところで、そろそろ降りてくれないかな」美香の尻の下に長谷川の顔面があった。
    「あっ、ごめんなさい!」あわてて立ち上がる美香。
    「役得やな」藤本。
    「それから、知ってのとおり更衣室の奥にシャワーがあるから身体を洗ってきなさい」
    「シャワー、ですか?」
    「その、特に下半身を綺麗に」
    「え?・・・あ~!!!」美香は自分の足の間をのぞいて真っ赤になる。
    ビキニのボトムから溢れた粘性質の液体が、太ももの内側に広がって光っていた。
    長谷川の顔面も濡れているようだった。
    事態に気付いた松田がおしぼりを持ってきて長谷川に渡す。
    「あ、これはどうも」長谷川は顔をごしごしと拭く。
    「役得やな」
    「もう、いやぁ!」
    美香は更衣室に走り去っていった。
    ・・
    「どうも、お騒がせしました」
    美香はバスタオルを身体に巻いた格好で戻ってきた。何かを決心したような表情だった。頬が赤らんでいる。
    「カスミちゃん、ひょっとしてその下」藤本が聞く。
    「だって、水着汚れましたから」美香はにっこり笑い、バスタオルをはらりと落とした。
    「長谷川さん!」
    「わ」
    美香は全裸で長谷川に抱きつく。
    「こら、そんな格好でひっつくな~っ」
    「あたしもう十分覚悟してますから。長谷川さん! もう一回縛って下さい!」

    11.修学院 『天下一珍』
    [洋子]は~い、みんなグラス持った? 乾杯!
    [全員]かんぱぁい・・。
    [洋子]今日は、ナツキちゃんとカスミちゃんのお祝いだからねぇ。どんどん食べてね。
    [美香]どんどん食べてって、ここラーメン屋さんなんですけど(笑)
    [洋子]何言ってるの。ちゃんとビールだってあるし、餃子とから揚げも頼んだでしょぉ?
    [みずほ]早い話が、もうお財布がさびしいのね~。先月から飲み続けやし。
    [典子]あの、皆さんお祝いしてくださって嬉しいです。
    [真奈美]うん、頑張りなよ。EAよりずっと厳しいけど。
    [恵]あたしは、自然に振舞ってたらいいから、FBの方が好き。
    [妙子]まあ、実は私も(笑)
    [洋子]あなた達は、自然に振舞うだけでお客様の心を捉えるからよ。FBの道はちょっとやそっとで身につかないからね~。
    [公恵]デビューおめでとうね。これでお客様、喜ぶわね。
    [美香]お客さん、多いんですか。
    [公恵]うん。あなた達、年末まで毎週休みなしね。
    [妙子]これから一杯いじめられて(笑)、可愛くなってね。
    [典子・美香](顔を見合わせて)はい、頑張りま~す。
    [みずほ]美香ちゃん、藤本院長からコメントもらってます。『次は紅葉の頃、北山の別荘で磔に架けて差し上げます』だって。
    [洋子・真奈美・恵・妙子・典子]うわぁ~、いいなあ~。
    [美香]ありがとうございます!
    [みずほ](洋子に)あんたまで羨ましがってどうする(笑)
    [洋子]さあ、ラーメン頼も! ここは美味しいからね。
    [公恵]なんか、濃ゆそうですね。
    [洋子]そらテンイチやもん。あ、みんなスープはコッテリのニンニク入りにするのよぉっ。アッサリなんて頼んだらあかんよ~。それから薬味は辛子味噌ね。
    [典子]洋子さん、詳しいですね。
    [みずほ]何か、若い頃は通い詰めたらしいよ。
    [洋子]何言っとる! 今も若いぞ。
    [真奈美]あの辛子味噌っての、入れすぎたらトイレで痛いから気をつけてね。
    [公恵]そうなの?
    [真奈美]経験者は語る(笑)
    (突然、遥かなホルンの音が店内に響いた。のどかな羊の鳴き声に続いてランララ~と音楽が始まる)
    [美香]ハイジ~っ。 誰の着メロですか?
    [洋子]ほいほ~い(放り出してあったハンドバッグに駆け寄り携帯電話を出す。1オクターブも高い声で)はい。島でございます♥
    [典子]何かコケますねぇ(笑)
    [洋子]あ、これは。いつもご贔屓にありがとうございます。・・あ、いえいえ、そんな。・・はい、光栄でございます。はい、失礼いたします。
    [全員]・・(洋子を見つめる)
    [洋子]典子ちゃん、柳井教授から。あなたのこと、とっても気に入ったって。これからも来て下さいって。
    [全員]やった~。パチパチパチ・・。
    [真奈美]典ちゃん、柳井さんのとこはね、今まで恵が行ってたんだよ。
    [恵]あの人、女の子を見てくれないでしょ?
    [典子]はい。もう、あたし全然駄目なのかと、心配だったんです。
    [恵]あれでこっそり写真とか撮ってたりするから、気の抜けた顔したら駄目よ(笑)
    [典子]え、そうなんですか~(笑)
    (ラーメンが出される)
    [美香]これ、きっつい~。
    [真奈美]そうでしょ? 初めての女の子にコッテリは無茶だっつうの。
    [洋子]何言ってるのぉ。これからは女もスタミナつけて頑張る時代やでぇ!
    [典子]まあ、スタミナだけはたっぷりありそうですね(笑)
    [美香]先輩方は平気なんですか?
    [恵]もう、慣れました。
    [真奈美]うん、あたしも。
    [妙子]私は結構、好きなんだけど。
    [公恵]意外と美味しい!
    [美香]そういえば、みずほさんは?
    [洋子]あら、ほんと。みずほはどうしたの?
    [恵]みずほさんは、先ほど脱走しました(笑)
    [洋子]あのやろ~。この間のカラオケも途中でブッチしたくせに~っ。覚えとれぇ~!(笑)
    [公恵]ねえ、これ食べたら、匂うんやない?
    [真奈美]匂うよ。二日くらい、結構。
    [典子・美香]ええ~!
    [真奈美]んだから、あたしら、明日フリーにしてるもん。
    [恵・妙子]ねっ。(うなずく)
    [公恵]仕方ないな~。旦那にギョーザ買って帰って食べさせるわ(笑)
    [典子]ねえ美香ちゃん、あたし明日デート、どうしよぉ~!
    [真奈美]デートって相手は誰よ。
    [典子]あ。
    [美香]こんなところで無用心な発言。墓穴を掘ったみたいね、典子(笑)
    [典子]し、しまったぁ(笑)
    [洋子]ふふふ。当ててあげようか。・・その相手は、黒川章やぁ!(笑)
    [典子]ぎっくう! 何で知ってるんですかぁ(笑)
    [美香]え~、黒川くん? これはいろいろ聞き出さんとあかんようやな~(笑)
    [真奈美]事務所に戻って、縛り上げて拷問しようか(笑)
    [公恵]きゃ、・・でもちょっと見たい(笑)
    [典子]え~ん、勘弁して下さ~い。・・でもちょっとドキドキ(笑)
    (女ばかりの宴会は果てしなく続くのであった)



    ~登場人物紹介~
    佐久間恵: 26才。FB、SNはミサト。OL。10代にも見える幼顔。
    石原妙子: 23才。FB、SNはシノブ。私生活は謎。
    岡崎真奈美: 24才。FB、SNはマナミ。FB/EAのリーダー格。アングラ劇団員。
    野村典子: 19才。本話でめでたくFBに。SNはナツキ。短大生。
    辻井美香: 20才。同じくFBに。SNはカスミ。フリーター。
    三井裕隆:29才。Club-LB 緊縛師。恵の恋人。
    長谷川行雄: 31才。Club-LB 緊縛師。
    黒川章: 21才。Club-LB 緊縛師。
    堀公恵: 29才。KS/Club-LBの事務員・電話番。勤め先の正体は家族に内緒の主婦。
    島洋子: KS/Club-LB 代表。普段はスーツ姿がきまる美女なんだけどね。
    三浦みずほ: KS/Club-LB 企画演出担当。
    藤本慎太郎・松田慎也・柳井淳: Club-LB の顧客。

    第2話に引き続いて、KSの裏ビジネスである Club-LB のお話です。
    実はKSは Club-LB の稼ぎで何とかしのいでいます。
    そして Club-LB を支えているのが、恵・妙子・真奈美たちFBなのです。
    彼女達は表ではEAとして華やかなステージを演じていますが、裏ではFBとしてお客様の前で縛られて被虐の世界に浸ります。
    本話の主人公は、登場する(洋子さんを含む)FBの女性全員です。
    皆さんはどのFBがお気に召されたでしょうか。

    なお登場するお店はすべて架空のものであり、実在のお店とは、万一似た名前のものがあったとしても、一切関係がありません。:P

    次回のキョートサプライズはEA個人編の3人目、美香さんが主人公です。
    ありがとうございました。




    キョートサプライズ第6話(1/3)・進めパワードスーツ

    1.あるネットの掲示板
    > 研究室で実験中の外装補助服の着用者を探してます。
     中の人間の動きに合わせて動く動力服です。
     身長155センチ以下、年齢18~30才くらい。
     京都の大学です。
     興味ある人はメール下さい!
    > これってパワードスーツなの?
    > めざすはパワードスーツなんですけど、まだ二足歩行も満足にできませんワラ
    > 身長 155 とはちょっと小柄ですね。
    > 強度の関係で・・。
     実際のところ普通のオトコは無理かも。
     可愛い女の子が着てくれるのを待ってます!

    2.KS事務所
    10月のある日。
    「綾乃ちゃん、美紀ちゃん、ちょっと外でアルバイトしない?」
    KS主宰の島洋子が市川綾乃と河井美紀に声をかけた。
    「身長155以下だったよね。二人とも」
    「はい、そうですけど・・?」
    「知り合いから頼まれたのよ。今度の土曜と11月の3連休」
    「何をするんですか?」
    「よく分からないわ。何かの機械のテストだって」
    二人は不安そうに顔を見合す。
    「危険はないそうよ。いろいろやってみるのもあなた達の経験になるかなと思うんだどな」
    二人は視線を交わしてうなずき合ってから答える。「はい。やります」
    洋子はにっこりする。
    「よかった。ちょっと協力してあげたい相手なのよ」

    3.洛北大
    中本靖が綾乃と美紀を案内してくる。
    KSをネットで知ってモデル2名の派遣を依頼してきたのが中本だった。
    山本和義、鈴原晃一、庄内昭子の三人が研究室で迎える。
    彼らが大学院生の中本の指導で外装補助服を開発している。
    「アヤカです」
    「ヒカルです。よろしくお願いします!」にっこり笑ってお辞儀。
    「あなたたち、いくつなの?」昭子が聞く。
    「二人とも17才、高校2年です」美紀が答える。
    「へえ、高2。僕が高校んときにこんな可愛い女の子がいたら、すぐアプローチしたで」
    鈴原がおどけた声でいい、皆が笑う。
    「でも本当に可愛いんで、俺も会って驚いたよ」中本も言う。
    「で、これからの予定やけど・・」山本が話す。
    「あの、あたし達まだお仕事の中身知らないんですけど」
    「そうなんか。なら・・庄内、見せてあげようか?」
    「そうね。動かそうか」
    「そしたら鈴原、先に行ってるから説明しといて」
    山本はそう言って昭子と姿を消した。
    「あいつはすぐに逃げてしまうな~」鈴原がぼやきながら説明してくれる。
    ここ洛北大学工学部機械工学科制御情報講座では、ロボット制御の技術を応用して人間の作業をサポートする補助服を研究している。
    着用した人間の体の動きを検知して、それを動力で強化する装置だ。
    「パワードスーツって聞いたことある?・・ないよねぇ」
    理科系が弱い綾乃と美紀にはちんぷんかんぷんだ。
    「まあいいか。百聞は一見にしかず。ラボに行こう」

    4.PS-3号
    実験室の重い鉄の扉をあけて入る。
    何に使うのか分からない機械がたくさん並んでいる。
    「どうぞこっちへ」
    テーブルの上に何台ものパソコンとその前に腰掛けた山本。
    「これがPS-3」
    薄緑色の機械を背負ってジャージ姿の昭子が立っていた。
    よく見ると昭子は機械を背負っているのではなく、機械と一緒に繋がって立っているようだった。
    彼女の両手・両足にそれぞれ枷のように金属の棒が接続されている。
    「動かすわよ」
    昭子はそう言って両手をゆっくり前に差し出す。
    しゅう。空気の音と軽いモーター音。金属棒が回る。
    「アヤカちゃん、こっちに来てくれる」
    中本が綾乃を昭子の前に正面向きに立たせる。
    しゅう。綾乃の両脇の下に昭子の手と金属の腕が入ってくる。
    「きゃ」
    「そのままじっとしててね」
    昭子の腕はゆっくり上がる。
    「え?」
    綾乃はそのまま20センチ程持ち上げられた。
    「100キロくらいは持ち上げられるよ」鈴原。
    しゅう。ゆっくり下ろす。綾乃の足が床につく。
    綾乃を離すと、昭子は腕や足を自由に動かして見せてくれた。
    「上半身は大体どんな動きにも対応可能やな」
    「へえ~。歩いたりもできるんですか」
    「ゆっくりならね」
    ケーブルを引きずりながら、一歩一歩踏みしめるように歩いてくれる。
    「転ぶと危険なんで、重心移動を伴う歩行はこれくらいの速さが上限なんや」
    「でも学際の本番では、展示台に載せて固定するから心配ないわ」
    「実物を見て、どう?」中本が聞く。
    「すご~いと思います。それで、この機械を作って何をするんですかぁ?」
    綾乃の能天気な質問に学生達はほんの少しコケそうになる。
    「まあ、将来はこれで重いものを運んだり、寝たきりの人の介護をしたりする訳」
    「へ~、そうなんですか」
    「そういえば、あたし達の仕事って?」美紀が聞いた。
    「うん、これを着てというか、これをつけてもらって、学祭でデモして欲しいの」
    少し沈黙。
    「あたし達にできますか?」
    「簡単簡単。難しいことはしなくてもいいから」
    「さっそく試してもらお」
    中本はアメフトのプロテクタのような器具を出してきた。
    「とっちか志願してくれる」
    「じゃあ、あたし」美紀が手を上げた。
    中本と鈴原が二人ががりで美紀に器具を装着する。
    その器具は、肩を覆う部分から右手に沿って金属の棒が生えていた。
    金属棒は、肩と肘の部分が自在関節で分かれて、着用者の腕の動きに追従できるようになっている。
    PS-3の右腕の部分だけを切り取ったようなデザインだった。
    鈴原が金属棒を美紀の上腕と前腕にベルトで固定した。
    「これはコントローラーなんや。・・山本、スレーブモードで」
    「ほい」山本がむっつり答えてパソコンを操作する。
    「ヒカルちゃん、腕を動かしてみて」
    「?」美紀は右手を前に出した。
    しゅう。昭子の右手が前に出た。
    「わあ、面白い」
    美紀は右手を前後左右に振る。
    しゅう。一瞬遅れて昭子の右手も同じように動く。その速度は美紀の手の速さと変わらない。
    「どう?」
    「よく分かりました」美紀がはしゃいで言う。
    「これと同じ動きをするんですね」
    「PS-3は着用した本人が動かすだけじゃなくって、こうやって外からコントロールできるの」昭子が説明する。
    「じゃあ、あたし達の仕事って・・」
    「自分で動かすのは少しだけ。後はスレーブモードのモデルをしてもらうこと」山本が答えた。

    5.体験
    綾乃がPS-3を着用した。
    腕を動かしてみる。機械の腕はゆっくりと追従する。
    「へえ~」
    「いろいろやってみて」
    綾乃は手足を動かす。PS-3はゆっくりと動いた。
    「ロボットになったみたい~」
    「じゃ、スレーブモードに切り替えるよ。ヒカルちゃん動いてみて」
    しゅう。「わあ」綾乃の腕が動く。
    コントローラーを着用した美紀が面白がって綾乃をコントロールする。
    「逆らわないで従ってね」昭子が注意する。
    PS-3は美紀の動きに素早く追従する。さっきの動きがうそのようにきびきびしている。
    自分の身体が勝手に動く感覚。何だか面白い!
    「じゃパソコンから直接制御します」山本が操作する。
    しゅう。PS-3と綾乃は中腰になった。
    「起立」しゅう。立ち上がる。
    「礼」しゅう。そのままお辞儀する。
    「着席」しゅう。再び中腰になって静止する。
    綾乃は中腰のまま破顔している。
    「次は再生・・」
    しゅう。綾乃は直立する。鳴り始める音楽。これは・・。
    『腕を前から上にあげてぇ、はいっ』
    綾乃はラジオ体操第一を始めた。
    「きゃっ、きゃあっ」綾乃ははしゃぎまくりである。
    「山本君、ちょっとこれ・・」昭子が聞く。
    「前に庄内が面白がって踊ったのをキャプチャしといたんや」
    「いいないいな、あたしもやりたい~」美紀が騒ぐ。
    「ちょっと待ってね。・・アヤカちゃん、どう? 大丈夫?」中本が聞く。
    「はい、大丈夫です! 楽しい!」
    「じゃ、ヒカルちゃんと交替ね」

    6.コスチューム
    「じゃあ、仕事はそのパワードスーツみたいなのを着るモデルなのね?」KS事務所で洋子が聞いた。
    「はい。着るというより、はめ込まれるみたいな感じですけど」と綾乃。
    「それで学園祭は、11月1日からよね?」
    「ええ、それで前の日の夕方にまた行かせて下さい。 もう一回調整したいって」
    「もちろんOKよ。ところであなた達、何を着ていくつもり?」
    「別にジャージでもいいって。でもお金をもらって行くのにそれは気の毒だからテニスのスコートつけようかっていってるんです」
    洋子はごそごそと包みを取り出す。
    「じゃあ、これを着てみて」
    「用意してくれてたんですか?」
    「ええ、いくら何でもスコートじゃ気の毒だわ」
    衣装を取り出す。
    銀色の宇宙服のようなボデイスーツ。青と赤の太いライン。
    足元はやはり銀色のブーツ。
    「ちょっとSFちっくでしょ。ウルトラ警備隊、なんて」
    「何ですか、それ?」二人には分からなかったようだ。
    洋子は気を取り直し「はい、着て着て」と二人に衣装を着せて鏡の前に立たせる。
    「わあ、かっこいい!」美紀。
    「えっと、ちょっと大胆すぎませんか?」綾乃。
    ボディスーツの下半身は腰骨の位置まで切れ上がっていて、彼女たちの太ももを強調している。
    「ちゃんとはみパンしない下着をつけてあげたでしょ?」
    確かに、ハイレグ・Tバックのショーツを穿いている。
    「そういう問題じゃなくってぇ」綾乃はあわてて否定する。
    「素敵、とは思うんですけど、これで生足はエロすぎないですかぁ?」美紀も聞く。
    「色の濃いストッキングを着たらどうでしょう」綾乃。
    洋子はドアを少し開けて隣の事務所に顔を突き出す。「あ、長谷川君、ちょっと」
    「もしかして長谷川さん、来てるの?」美紀が急に慌てて髪を直す。
    「え? いややぁ、こんな格好でぇ」綾乃もあせる。
    長谷川が黙って入ってきた。
    「ねえ、この子たちのコスチュームだけど、どうかな?」
    「そうですね。元気な感じでいいんじゃないでしょうか」
    「足はこのままでいい? 何か恥ずかしいみたいなんだけど」
    長谷川は何かを理解したように笑った。
    「あぁ、そういうことですか。・・うん、素足の方が可愛いと思うな」
    「この方が可愛いですか?」美紀が長谷川を見上げるように聞く。
    「うん。君ら、若いからどんどん素肌を見せた方が絶対に魅力的だよ」
    美紀は綾乃に向かって目で頷いた。それから洋子の方を向く。
    「はい、頑張ります!」
    おいお~い、綾乃は内心あきれる。長谷川さんの言うことやったらストリップだってやるなこの子は。
    洋子はにやにや笑っていた。

    7.前日
    「こんにちは~」
    綾乃と美紀が研究室に現れる。
    「お~っ、来た~」拍手が起こる。
    「可愛いやんか~。ヒューヒュイ~」
    「ごめんね。変なのが多くて」昭子があやまる。
    「こいつら、女子高生モデルと聞いたらこんなに野次馬しにきよって」鈴原。
    男ばかり10人近くが研究室にいて盛り上がっている。アルコールも入っているようだ。
    「じゃあ早速行こう。機械は展示室に設置してあるから」中本が立ち上がる。
    「お前らは来るな!」鈴原がついてこようとした野次馬を追い返す。
    中本、鈴原、昭子と女子高生2人は揃って廊下を歩いていく。
    学内は学園祭の準備で、ごった返している。
    「大学の文化祭って楽しそうですね」美紀がはしゃぐ。
    「学園祭だっつうの」綾乃。
    「あたし達も模擬店行けますか?」
    「休憩時間に行ったらええわ」
    ある講義室に入る。机が撤去された部屋は幕で仕切られ、いろいろな機械や資料類が展示されている。
    そしてその一角がPS-3の展示スペースになっていて山本がパソコンを操作していた。
    「衣装持ってきてくれたんやね。本番と同じ状態で調整したいんで、着替えてくれるかな」
    「この後ろが休憩用のスペース、でこっちが更衣室やからどーぞ」
    二人はもじもじする。やはり少々恥ずかしい。
    「どうしたの?」
    「綾、もう覚悟し」美紀が小声で言う。
    「分かりました。着替えます」
    やがて二人はウインドブレーカーを着て出てくる。ブレーカーの下から膝小僧と銀色のブーツが見えている。
    PS-3は前回と違う状態になっていた。
    床に置いた鉄板から2本の柱が立ち上がり、PS-3を腰の両側で支えている。
    足先は床から10センチ程浮いている。
    「これで転ぶ心配がないからどんな姿勢でもOK」
    「それと、これを見て」山本が大事なおもちゃを自慢するように「人形」を見せてくれる。
    身長30センチくらいの人形が台の上にやはり2本の柱で支えられている。
    PS-3をそのまま小さくしたような構造で、電線が何本もパソコンに繋がっている。
    手先は球形。頭も球形でドラえもんの顔が描いてあった。
    8頭身の不気味なドラえもん。
    「これで自由に調整できるから」
    モデルの二人がその意味を分かりかねるうちに「そしたらPS-3を着用して下さい」と言われた。
    「最初はアヤカちゃんからね」
    「はい」綾乃がブレーカーを脱いで美紀に渡す。少し紅潮した顔。
    「まあ」昭子が呟く。
    山本がパソコンから顔を上げて固まる。鈴原もぽかんと口を開けている。
    「え、と、その、いつもそんな服なの?」中本が聞く。
    「これは展示のイメージに合わせて用意してきたんですけど・・、変でしたか?」美紀が聞く。
    「やっぱりプロのモデルは違うなぁ。僕らそんなのは思いもつかんかった。・・でも何か格好いいで」鈴原が言った。
    「そんなに足出して平気なの? 少し派手過ぎる気もするけど、硬い雰囲気が柔らかくなっていいわね」と昭子。
    中本と鈴原が綾乃をPS-3に固定する。
    腰に太いベルト、手足には枷のようなリングを固定する。
    「あと危険防止にこれ。本番ではかぶらなくていいから」バイクのジェットヘルメットをかぶらされた。

    8.調整
    「レコード開始」しゅう。PS-3の手足が伸びて綾乃は直立する。
    「腕の前後回転から」山本が言う。鈴原が綾乃の横に立ち、その左右の手を持つ。
    「ゆっくり回すからね。痛かったら言って」
    「はい」
    綾乃の両手を前に出させ、そのまま上に上げる。バンザイのポーズ。
    逆回りで前に回し、下へ。そのまま後ろへ。
    「柔らかいね~」
    ほぼ水平に90度以上。
    「んっ」
    これ以上回らない位置で鈴原は手を戻す。
    「痛かった?」「いいえ、大丈夫です」
    「じゃあ、次は右手のねじり」
    この調子で、綾乃は両手の回転・ねじり、胸と腰の屈伸・回転などをさせられた。
    まるでストレッチやわ。KSの訓練みたい。
    「これって何をやってるんですか?」美紀が昭子に聞く。
    「アヤカちゃんの関節の動きを記録しているの。身体の柔らかさは個人差があるから」
    「・・じゃあ、最後に股関節ね」山本が告げる。
    「えっと、アヤカゃんは180度の開脚って大丈夫?」鈴原が聞く。
    「ええ、前後だったら」
    「大丈夫なんやね。山本、前後開脚」
    しゅう。とつぜんPS-3の両足が前後に開く。
    「ひゃ」
    腰の位置で支えられたまま、PS-3と綾乃は空中で足を開いていく。
    ほぼ水平まで開いて止まる。
    「この子、ほんまに柔らかいわ」鈴原は感心する。
    「さすがにプロのモデルやな。デモのしがいがあるな」山本も言う。「左右の開脚いくね」
    「開脚のテストは機械からしかでけへんのや。限界と思うたら早めに言うんやで」鈴原がささやく。
    「あ、はい。頑張ります・・」
    しゅう。前後に開いた足は一旦直立状態に戻り、続いてゆっくり左右に開いていく。
    綾乃が眉をよせる。「あ、もう・・」
    山本はすかさず止める。「145度、すごいわ」
    開脚を少し戻す。「これで、ずっと耐えられる?」
    「はい、大丈夫です」
    PS-3の外骨格構造なので、着用者の身体はほぼ露出している。
    アクチェータ類が集中する背中にだけ大きな箱を背負った形だ。
    綾乃の左右開脚した生足も綺麗に眺めることができる。
    「アヤ、頑張ってねっ」美紀が声を掛ける。
    やがて山本は制御を解放する。
    PS-3がゆっくり脱力し、綾乃は自由に手足を動かせるようになる。
    「お疲れ様~」
    「いえ山本さんも」
    「どう、少し休む?」昭子が聞く。
    「いいえ、全然大丈夫ですよ!」
    「じゃ、これでコントロールしてみるね」山本が人形を指差す。
    「本番ではこれをよく使うと思うから」といってパソコンのキーボードをちょんと叩く。

    パワードスーツデモ

    9.人形
    しゅう。再び綾乃は直立する。
    山本は立ち上がって、テーブルの人形に手をやる。
    人形はちょうど今のPS-3と同じく、気をつけの姿勢だった。
    そのまま人形に両手を左右に引いて開く。「よっと」
    綾乃の両手が左右に開く。「わぁ」
    そのまま人形の両手を上に。綾乃もバンザイのポーズになる。人形の動きに1秒も遅れていない。
    「ランニング」左右の手を前後に振らせ、両足を走っているようなポーズにする。
    綾乃も空中でランニングのポーズになる。
    「うわ~、すごい!」美紀が喜ぶ。
    山本は人形の両腕を真後ろにぐるりと回す。しかし綾乃の腕は斜め後ろくらいで止まる。
    「さっきアヤカちゃんの関節の範囲を記録したから、それ以上動かへんよう制御してるんや」
    「でも限界の姿勢ばかりやと身体がもたんから無茶したらあかんよ」中本が注意する。
    「はい、分かってます・・」
    山本はそう言いつつ、綾乃を直立させ、続いて両手をバーベルをさし上げるような形にする。
    ガッツポーズやね、綾乃は思う。
    と「これがデモの見せ場」山本は人形を前に倒す。人形は両腰の支え位置を中心にくるりと回る。
    モータの音。「ひゃ」綾乃もそのまま前に倒れて回る。
    「彼の提案なの。PS-3はうまく歩けないから、こうやって空中に浮かそうって」昭子が説明する。
    綾乃はガッツポーズの状態のままうつ伏せで浮かんでいた。
    「鉄人28号が空を飛ぶポーズやね」鈴原が喜ぶ。
    何のことじゃ。綾乃は少しあきれる。でも、やっぱり楽しい!
    「あの、逆立ちもできますか?」綾乃が聞く。
    「できるよ。大丈夫?」
    「はい、やって下さい」
    綾乃はくるりと頭を下に直立する。「くっ」
    背中のアクチェータボックスがこちらを向く。その上には綾乃のお尻と太ももが上に伸びている。
    「そのままポーズを変えたりして」
    両手両足が開いて綾乃は逆立ちのまま大の字になる。
    「山本君、あんまり遊ばないでそろそろ戻してあげて」昭子が叱る。
    「あ、ごめん。つい夢中になってしもて」山本は謝りながら綾乃を正常な姿勢に戻す。
    「これでテスト完了。下ろしてあげるね」
    「次、あたしですね!」美紀が待ちかねたように言う。「わくわくです~」

    10.昭子
    綾乃は椅子に座る。「ふう~っ」
    美紀が固定されるのを横目に、昭子が横に座って話し掛ける。
    「きつかった?」
    「あれくらい大丈夫です。結構鍛えてるんですよ!・・でも面白かった!」
    綾乃は昭子を見る。度のきつそうな眼鏡をかけていて、髪を後ろで束ね、少し汚れたジーンズとトレーナー姿。
    「庄内さん、男の人ばっかりの中で研究してらっしゃるんですね。あたし理数系の科目は駄目だから尊敬しますよぉ」
    「まあ、卒研は3人の共同だから何とかなるかな。院に上がったら一人になるから大変だろうけど」
    「大学院に行かれるんですか?」
    「ええ、中本さんの研究を引き継ぐの。まあ、好きでやってるから、苦労するのも仕方ないけどね」
    その中本は美紀のストレッチならぬ限界測定を手伝っている。美紀のきゃあきゃあ騒ぐ声。
    美紀は陽性やからな~。
    「ねえ、あたし、展示のときはもっと明るくしてた方がいいですよね」
    「ん?」
    「もっとにこやかにって、事務所でいつも注意されるんですよ」
    「そうねぇ、モデルだったらそうなのかな~。でもアヤカちゃん、うちのデモの間は別に無理しなくていいと思うよ」
    「そうですか?」
    「うん、ちょっとこわばって笑ってても、アヤカちゃん、可愛いし」
    「もう。ああやって操り人形みたいにされたら、どきどきしてしまうんですよ」
    「操り人形か。うまく言うなぁ。私なんてもう半年もテスターしてるんだよ」
    「そうですか。研究のためだったら、どきどきなんてしないですよね」
    「まあ、すっかり慣れちゃったからね。・・でも」
    昭子は急に綾乃の耳元に口を寄せる。
    「男どもに操られるのも、悪い気分じゃないわね!」
    そう言ってから、笑って綾乃の肩をぽんと叩いて立ち上がり、美紀の方に行く。
    綾乃も笑って立ち上がる。
    「ねえ、その人形、後で操作させてもらっていいですか?」
    「うん? もちろん。本番ではお客さんに使ってもらうんやから」鈴原が答える。
    「やったぁ、ヒカルをいろいろ動かして遊ぼうっと!」
    「こら、アヤカっ」美紀が怒鳴って返す。

    続き




    キョートサプライズ第6話(2/3)・進めパワードスーツ

    11.学園祭初日
    制御情報講座の展示は盛況だった。
    女子高生が機械操作のモデルをしているという情報はあっという間に学内に広まった。
    PS-3の第1回デモは観客が廊下まで溢れ、予定の15分間が30分かかった。
    「あはは、目が回りました~」最初にモデルを務めた美紀が椅子に座り込む。
    誰もが人形コントローラを触りたがり、しかもそのほぼ全員が美紀を上下逆に回したのだった。
    「女の子がもたない」昭子が訴えた。
    「11時のデモは中止しよう」中本が宣言して、段取りを決め直す。
    15分でデモを終わるため、2種類のコントローラーは抽選で人数を絞って使わせる。
    抽選は休み時間のうちに済ませておく。「競争率高そ」鈴原がつぶやく。
    「あの、それでもあのお客さん全部は入れないですよね」
    綾乃が廊下側の窓を指差す。廊下にはデモを待つ客があふれている。
    「1時間に3回公演にしたらどうですか?」
    「うん、あたし達それでもいいですから」美紀も賛成する。
    「それは、ちょっときつすぎるで・・」中本が躊躇する。
    「私が入る。こんなに可愛くなくて悪いけど」昭子が言った。
    「説明員の穴は男で埋めてね」
    「庄内さん、大丈夫ですかぁ?」綾乃が心配する。
    学生達は知らないが、綾乃と美紀はEAとしてでそれなりのトレーニングをしている。
    素人やないもん。人間くす玉もできるんだから。でも庄内さんは・・。
    「私、あれを着ることに関しては君たちよりはるかにベテランなのだよ~」昭子はおどけて言った。
    「お客さんが少ないときはあなた達だけでお願い。山本君、私のフィジカルデータある?」
    「ある。でも展示台の改造前のデータだから、下半身の分がない」
    「うん。それは今夜測定するから手伝ってね。今はアヤカちゃんかヒカルちゃんのデータをコピーしてでっち上げてよ」
    「あ、そうか」
    「限界値を半分にしたら私でも耐えられるでしょ」
    「そしたら、それで行くか?」中本が確認する。
    「データの準備は?」
    「1時間あったら何とか」
    「じゃあ、悪いけど、庄内の準備ができるまでは君らで頑張ってくれる?」中本。
    「はい」二人そろって答える。
    「私、ちょっとアパートに帰って着替えとお化粧してくる。1時間で戻るから」
    「ん? 珍しい」山本がぼそっと言う。
    「こんな汚いトレーナーのままで実演するわけいかないでしょ!」昭子はそう言って姿を消す。
    「その汚いトレーナーで説明やってたの誰や」山本がぼやく。

    12.綾乃のデモ
    デモを再開する。今度は綾乃がモデル。
    中本と鈴原が説明員。
    幕の裏では山本が昭子のためのデータを手作業で作成している。
    「これが制御情報講座の自信作、PS-3です」
    PS-3を着た綾乃がにっこり笑って会釈する。
    「あ、写真は撮影タイムでお願いします。それからモデルさんに手を触れないようお願いします」
    鈴原が観客を笑わせる。
    「・・というように、着用者の動作はこのセンサースイッチで受けて外装服は動作します」
    綾乃がPS-3の腕をゆっくり動かしてみせる。
    「そこのショルダーバックの人、お手伝いを頼めますか?」
    PS-3の前に木箱を置いて客を座らせる。やや大柄な男性だ。
    「すみませんが体重は?」
    「72キロくらいです」
    「おや、見かけより軽い」笑い。
    「これは100キロくらいまで大丈夫なんですけどね」綾乃に目で合図する。
    しゅう。綾乃が上半身を屈ませてPS-3の両腕を前に差し出す。
    鈴原が木箱の左右に結んだロープをPS-3の腕のフックに掛ける。
    「ちょっとここにつかまってて下さい」
    空気音とモータ音。男性の座った箱が30センチほど持ち上げられる。拍手。
    「ありがとうございました」
    綾乃は腕を下ろす。
    ・・
    ここまで5分。順調。パソコンの前で中本は時計をチェックする。
    「では次にPS-3のコントロールを体験してもらいましょう。」鈴原は続ける。
    「といってもこの機械はちょっと小さくて彼女くらい小柄じゃないと着れないんですね。と、いうわけでこの装置の登場です」
    着用形のコントローラをつけた別の男性が力こぶのポーズを作っておどける。抽選で選ばれた体験希望者だ。
    「着用者本人が動かす場合は制御の関係でまだ先程のようにゆっくりした動きしかできません。しかし外からコントロールするとPS-3の本当の運動能力が分かります」
    「ではスレーブモードにします」中本がパソコンを操作する。
    しゅう。綾乃が直立する。
    「どうぞいろいろ動いてみて下さい」
    男性が右手を横に伸ばす。すかさず綾乃の右手も水平に伸びる。
    「ほ~」感心する観客。
    腕をぐるぐる回す。綾乃の腕も回る。反応が早い。
    「彼女が真似をしてるんではないんですよ」
    鈴原は綾乃にアイマスクをつけて眼を覆った。
    「これで何も見えません。どうぞまた動いて下さい」
    再び男性がいろいろなポーズを取るが、綾乃は全く同じポーズで追従する。
    「ありがとうございました」大きな拍手。
    「もう切断したから、動きまへんよ」中本がまだ動きつづける男性に告げる。笑い。
    「では、もっと簡単に全身をコントロールしてみましょう」
    鈴原はテーブルのドラえもん人形を示す。
    「大変希望者が多くて、これも抽選させていただきました」
    選ばれた男性が人形を持つ。「はい、自由に遊べる時間は1分間」
    男性が人形の手を操ると綾乃の手も同じ動きをする。
    「手だけやなくて足や胴体も動かしてみて下さい」
    男性がその通りにすると綾乃の全身が動いて人形に追従する。
    「すごいですね~」喜ぶ男性。
    「そのまま人形の頭を前に押してみて」
    大きなPS-3と中の綾乃が人形と同じポーズのまま前にゆっくり回転して倒れる。
    「お~」拍手がまき起こる。
    「はい。そろそろお時間です。人形を元に立たせてあげて下さい」
    しゅう。綾乃が元の通りに直立する。
    「じゃあ、もうお一人。さっきのくじで当たった人」
    次は小学校5~6年生くらいの少年だった。
    鈴原がちょっと心配する。「あんまり無茶苦茶したらあかんよ」
    「はい。気をつけます。それよりあの目隠し外したげませんか」少年が答える。
    綾乃はアイマスクをつけたままだった。
    「あ、ごめん」
    「何か可哀想やし、僕もお姉ちゃんの顔が見えなくて面白ないし」
    観客が笑う。鈴原も苦笑いしながら綾乃のアイマスクを取る。
    「ごめん。大丈夫?」小声で聞く。
    「平気平気」綾乃は笑顔で答える。
    鈴原は前に戻って「じゃ、キミには特別に90秒あげよ~」
    「ありがとう!」
    少年は人形の両手と両足を動かす。綾乃の手足も動く。
    右手を頭上に左手をお腹の前に、そして右足を前に、シェーのポーズ。綾乃もすかさずシェーをする。
    そのまま人形全体を倒して逆さにする。綾乃もシェーをしたまま回転して逆立ちする。
    両足を左右に大きく開く。綾乃もそのまま両足を開く。
    綺麗に開脚した姿に観客が感心して拍手と喚声を送る。
    この男の子過激~。綾乃は思う。あたし、まるで子供に与えられたおもちゃ、やね。
    拍手と喚声が遠くなる。
    天地が反転して頭に血が上る感覚、ストラップに逆さまにかかる体重。
    胸の鼓動。
    頭上で強制的に開脚させられた両足を意識する。生足の太ももに刺さる観客の視線。
    身体の中心がきゅんとなる感覚。あ、あたし感じてる。
    綾乃は観客に背を向けて逆立ちのまま、顔を赤らめた。
    ・・ゆっくり回る自分に気付く。
    綾乃は両足を閉じて、頭を上にしつつある。
    少年が見える。眼をきらきらさせて人形をいじっている。
    「もう時間?」鈴原に聞くと、少年は鈴原と綾乃に向かって「ありがとうございました」と礼をした。
    綾乃は少年に声をかける。「面白かった?」
    「うん。ロボットがあるって聞いて来たら違ったのでつまらないと思ったけど、面白かったです」
    「良かったね~」綾乃がにっこり笑う。
    「では、最後に記念写真の時間です。1分間だけ自由にどうぞ!」
    いっせいに光るストロボ。

    13.昭子のデモ
    展示室に戻ってきた昭子は見違える程、には変身していなかった。
    「あ、お帰りなさい」休憩スペースにいた綾乃が声を掛けた。
    白いセーターにカーディガン、紺のスラックス姿の昭子が入ってきた。
    髪はいつも通りうしろで束ねたままで、化粧も薄い。
    眼鏡をコンタクトに替えているので、知的な雰囲気が消えて、かえって幼い印象になっていた。
    あんまりお洒落なんかしない人なんだろな。綾乃は思う。
    「普段はお化粧しないもんだから。ま1時間じゃ、こんなもん」昭子は笑う。
    「ノースリーブにしちゃった」綾乃に小声で言う。
    可愛い人! 綾乃は昭子が好きになった。
    「あの、もし迷惑でなかったら、お化粧、少しだけ手直ししましょうか?」
    「え?」
    「目元をほんの少しくっきりさせたら素敵になると思いますけど。あたし、そういうの得意ですよ」
    「あ、じゃあ、お願いしよかなぁ」
    綾乃は自分の化粧道具を持ってきて向かい合って座る。
    「こっち向いて目をつぶって下さい」
    アイラインと口紅を手早く直す。
    決して美人じゃないけど、知的で可愛いってイメージやね。
    「うん、OKです!」鏡を見せた。
    「え、これ私」昭子は驚く。
    「庄内さん、戻ったよね。次のモデル・・」ちょうど鈴原が美紀と入ってくる。
    「うわ、庄内が口紅してるぅ!」
    「うるさい! 私も恥ずかしいんだから!」
    「庄内さん、綺麗です」美紀が昭子の顔を覗いて言った。
    「ありがと。アヤカちゃんがお化粧してくれたのよ」
    「そうか、この子はそういうの魔法使いみたいにやっちゃうからね~」
    「私のデータはセットアップできた?」
    「山本がやったよ」
    「じゃ、行ってくるね」そう言って昭子はカーディガンを脱ぎ、表に出て行った。
    「あいつ、何か雰囲気違ったぞ」鈴原が呟いた。「気のせいかな。妙に女っぽかった」
    デモのモデルを務めた昭子は、綾乃と美紀ほどではないものの、観客に好評だった。
    特に、PS-3の中から技術的な解説をすることは昭子にしかできなかった。
    PS-3の説明だけでなく、一般的な制御工学やロボットの話題まで登場した。
    それでいて、ドラえもん人形を急に倒されて回転するときの「きゃぁ」という悲鳴は美紀に負けず可愛いかった。
    廊下にはデモの予定表が張り出され、昭子の回だけ「アカデミック編」と朱書きされた。

    14.初日宴会
    18時半に展示室が閉じられる。
    「お疲れ様でした~」
    「ねえ、晩御飯おごるから食べない?」
    鈴原が綾乃と美紀に声をかける。二人はまだコスチュームにブレーカーを羽織ったままだ。
    二人はお互い見合って頷き合う。
    「じゃあ、ご馳走になります!」どっか連れてってくれるのかな?
    「その前に、その衣装で写真撮らせてよ」
    「こら~、鈴原ぁ、抜け駆けするな~」
    「はい、皆さんでどうぞ!」女子高生モデル二人はブレーカーを脱いで研究室の学生達と記念写真を撮る。
    ・・
    綾乃と美紀が私服に着替えた頃「お待たせ~」ビニール袋の包みが運び込まれた。
    ニンニクと胡麻油の香り。
    「王将の餃子やん」美紀がちょっとむくれた顔で呟く。
    「わはは。貧乏学生の友やからね~。餃子、嫌い?」鈴原が笑う。
    「いーえ、大好きですよ~」二人も笑った。
    「お~い、こっちこっち」
    展示室の幕の後ろは展示品のちょっとした修理をしたり説明員が休憩するためのスペースということになっている。
    しかし実際には床にカーペットが敷かれ、学生達がごろごろ転がったりダベったりする溜まり場である。
    皆が車座に座ると「はい、ビールビール!」缶ビールが配られる。
    「あの、あたし達は・・」という綾乃に「あ、そうか」ウーロン茶がペットボトルごと渡された。
    「ごめん~」遅れて入ってきた昭子が綾乃の横にお尻を押し込んだ。
    眼鏡にジーパン、トレーナー姿に戻っている。
    「アヤカちゃん、今日は本当にありがとうね」
    「いいえ、いいんですよ」
    「ビールちょうだ~い」昭子は缶ビールを手にしてプシっと開ける。
    「はい、カンパイっ」綾乃と美紀がウーロン茶の紙コップを差し出す。
    「あ、かんぱーいっ」ぐびりと飲む。「ふゎ~!」
    綾乃と美紀がくすくす笑う。
    「ん? どうしたの?」
    「だって庄内さん、何か豪快なんですもん」
    「そう? 男ばっかの中で過ごしてるからかな~」
    「はいはい。そこ女ばっかでかたまらないで。はい、今日はご苦労さんでした~」
    男子学生たちが寄って来てカンパイを迫る。
    「ねぇねぇ、高校どこなん~?」
    たちまち綾乃と美紀は男性たちに囲まれて、話の中心になってしまった。
    しゃあないな~。昭子は笑って横でビールを飲む。
    それにしても今日は頑張ったわ。めずらしく興奮した感じ。ビールが美味しい。
    「やぁ~、ご苦労さんご苦労さん・・」突然、ワイシャツにネクタイ姿の男性が入ってきた。
    目じりが少し垂れ下がったおじさんである。
    「機械もうまく動いたようでよかったよ~」妙に甲高い声だ。
    「あれは柳井さん。ここの講座の指導教授」鈴原が美紀と綾乃に教える。
    「そっちモデルさん。ご苦労さん~。高校生なの? やあ、まだ2日あるんでよろしく願むよぉ~」
    柳井はしばらく雑談してから出て行った。
    「何か軽い感じのおじさん!」美紀が言う。
    「あれでも一応、この分野では有名な先生なんやで」中本が言う。
    「誰かに似てると思わんかった?」
    綾乃が答える。「う~ん、萩本欽一」
    笑い声が一斉にまき起こった。

    15.女性3人の輪
    宴も進むと学生達は次第に小さいグループに分かれ、やがて部屋を出て行く者も出てくる。
    綾乃と美紀はようやく男子学生達から解放され、昭子と3人になることができた。
    「ねえ、こんな年上のお姉さんが頼むのは情けないんだけど」
    昭子は何本目かの缶ビールを手にしている。
    「アヤカちゃん、あのお化粧教えてもらえないかな~。自分でできるようにしなくっちゃ」
    「あ、それは喜んで。明日の朝でいいですか」
    「ありがと~」
    「庄内さん、今日はちょっとセクシーで素敵でしたよ~」美紀が言う。
    「え~、そんなこと言われたの初めて」昭子は頭をかく。
    「ううん、あたしも思った。デモからここに戻ってくるとき、何か色っぽかったもん」
    「あははっ。ちょっと新鮮な気分だったかな。人前でノースリーブなんて久しぶりに着たしなぁ~」
    「ううん、ノースリーブも素敵でしたけど、それだけやないです。ねっ」綾乃と美紀は頷き合う。
    「ええ~、そうかなぁ?」
    「あの、もしかして、庄内さん、あの機械でいろいろ操作されて、どきどきしちゃったんじゃないですか?」
    綾乃が言った。
    「それは感じちゃった、と言うんやで」美紀が訂正する。
    もうすっかり女子高生二人のペースである。
    「でもあたし、あれはいつも着用していて慣れてるから」
    「え~、だって庄内さん、夕べは、男の人に操られるのも悪い気分やないって」
    昭子は飲みかけたビールでむせそうになる。「え、もう、綾乃ちゃん、それをここで言わんでもぉ~」
    「でも結局このデモって、台に飾られた女の子はおもちゃみたいなもので、お客様がいろいろ動かして遊べますよ、っていう内容ですよね」
    綾乃がそう言うと昭子は急に真顔になって黙った。眼鏡を中指で少し上げて考え込む。
    綾乃はしまったと思う。
    あ~っ、KSにいるときと同じノリで喋っちゃった。庄内さんって一般人やった~っ。
    「そうだっ、あたし達、生贄の美少女トリオですね。きゃはは」美紀が気付いたのか茶化してくれる。
    「・・そうか、考えてみればそうよね。確かに、女の子をおもちゃにして遊ぶデモよねぇ」
    綾乃は昭子が普通に話し出したのでほっとする。
    「私ね、ああやって制御されるのは当たり前って思ってたのね。今までずっとそうだったから」
    「でもデモは違ったんですね」
    「うん。いつもの仲間じゃない、ぜんぜん知らない人にコントロールされるのは、とても刺激的だった」
    昭子はだんだん饒舌になった。
    「うん、私、実験室だったら、その意味も目的も全部わかって制御されてる。でも、ここは違うの。ここでは、お客さんの思いどおりに動かされることだけが目的で」
    一息ついて「私、それであんな気分に、え~っと・・」
    「弄ばれるのに感じちゃった」綾乃が引き継いだ。
    「うん、そう! ・・アヤカちゃん、すごい言い方知ってるのねぇ」
    「あ、いや、それはその」
    「ふ~、デモの度に何でこんな気持ちになってたのか分かったわ。・・あ~恥ずかしい!」
    昭子は急に綾乃と美紀の手をとって、
    「ごめんね~。私何も気付かないで客寄せになるからって、あなた達にそんな仕事させちゃったぁ」
    綾乃が言った。「庄内さん、あたし達ね、そういうお仕事のつもりで来たんですよ」
    「え?」
    「お客様に楽しんでいただくのが一番なんです、あたし達」
    「あたし達もそれで結構楽しんでますし、ね」美紀。
    「それで頑張る女の子、可愛くてセクシーで素敵やと思いません?」
    「まあね、あなた達は可愛いくって素敵だけど」
    「庄内さんかって、素敵ですよぉ」
    「そうそう。わざわざノースリーブに着替えてお客様の前に出るなんて、とっても可愛い!」
    昭子は頭をかいて笑った。
    「何か、五つも年下の女の子に励まされたみたい。本当にありがとうね!」
    「いえいえ、庄内さんもあたし達と同じところがあるって分かって嬉しいです」
    「同じところって?」
    「あは、あの、その弄ばれてトキメイテしまうとこです」
    「そう? きゃはは」
    えへへ、洋子さんに言われてるのと同じこと言っちゃった。綾乃は心の中で舌を出す。
    展示室の溜まり場にはもはや女性3人と、離れてマージャンをしているグループしかいなかった。

    16.昭子のデータ収集
    「あなた達そろそろ帰らないと」時計を見ながら昭子が言った。
    「あ、そうですね。じゃ、そろそろ」
    「ねぇ、中本さん、中本さんは?」昭子はマージャンの学生に聞く。
    「大分前に出ていったわ」
    「もう、駅まで車で送ってあげる約束なのに」
    「あ、大丈夫です。事務所からタクシーチケットもらってますから」
    「そう、じゃあ車を呼ぶわ」
    昭子は自分の携帯でタクシーを呼んで、二人を大学の正門まで送る。
    「じゃ、また明日」「お休みなさ~い」
    タクシーが去ると昭子はフェンスにもたれ、ため息をつく。「ふ~」
    あの子たちって何者なんだろう。無邪気で可愛いけど、妙に大人びたところもある。
    それに比べてまだまだ私はネンネだな~。
    酔った身体に夜風が心地よかった。
    明日もまた生贄だね。も少し肌を見せてもいいかな。一瞬、胸が高鳴る。
    「あ、いけない」思い出した。
    慌てて展示室に戻る。「ねえ、山本は?」
    「あれ、あいつはどうしたかな~」
    「実験室やないの」
    実験室に急ぐ。山本がパソコンを触っていた。
    「いたいた、このおたくぅ」
    「庄内、酔っ払ってない?」
    「なものすぐ覚めるわよ。それより私のフィジカルデータを測定してよ」
    「鈴原を連れてきてよ。一人やと難しい」
    それもそうだ。研究室に向かう。ここでも学生達が宴会をしている。
    「ねえ、鈴原は?」
    「あいつ彼女が来たんで帰ったで」え~? やばい!
    「じゃ、じゃあ中本さんは?」
    「院部屋で寝てはったと思うけど」
    隣の大学院生室に入る。ソファーで中本が寝ていた。ふぅ~。見つけた。
    「中本さん、中本さん」起こす。
    「う~ん」ぼりぼり頭をかく。「ん? 庄内さん、どうした?」
    「あの、すみませんけど山本と一緒に私のデモ用のフィジカルデータを採りたいんですけど」
    「あ、そうか」
    実験室から山本を連れ出して3人で展示室のPS-3に向かう。ジャージに着替える。
    足を固定してもらう。急に綾乃の顔が浮かんでどきどきする。「はぁ~」
    「どーしたの? ため息ついて」中本が真顔で聞く。
    そうよね、この人達にとってはいつもの作業と変わらないよね。
    「ううん、大丈夫。始めて下さい」
    山本がパソコンを操作する。しゅう。PS-3が直立する。
    「じゃ、前後の開脚。右足前から」
    PS-3の両足が昭子の足とともに開脚していく。「いたたた・・」
    「固いな~。アヤカちゃんの半分やで、ほんまに」
    「悪かったわね~。どんどんやってよ」
    目的のはっきりした作業。まあ冷静とはいえないが、心も身体も普通だと思った。
    「あそうだ、その前にこのまま前倒させて倒立してくれる」
    全体が前に回転して昭子は、開脚ポーズのまま逆立ちになる。
    「ん」頭に血が上ってくるのを感じる。「そのまま両足をまっすぐに」
    両足が閉じて昭子は上下逆のまま直立する。
    自分の身体を意識する。固定された手足は全く動かせない。
    うん、少しどきどきする。私は操り人形だ。
    真面目な顔で考える。中本と山本は昭子が何かチェックしていると思ってそのまま待っている。
    ・・ああ、私、やっぱりデモの方が感じる。知らない人たちに操られる方が。
    「元に戻して」天地が元に戻った。「ありがと。続きお願い」
    作業は15分ほどで終わった。
    「これで大丈夫。実は昼間のデータは適当に作ったんで、庄内の股関節が脱臼でもせんか心配やったんや」
    「えぇっ、そうだったのぉ?」三人で笑う。
    PS-3から下ろしてもらう。と、足に力が入らずその場に尻もちをついた。
    「おいおい、大丈夫か?」
    「え、はい。大丈夫ぅ・・」
    立ち上がろうとしてまたふらついた。
    「あれ」
    「危ない!」中本がすかさず脇を支えてくれた。
    「庄内。お前、酒飲んでこんなことしたから、下半身が立たへんのや」
    カーペットに仰向けに寝かされた。
    山本は実験室に戻り、中本と二人になる。
    「すみません・・」
    「いいよ」
    昭子は右手を額に乗せる。
    あれっぽっちのビールで回る私じゃないのに・・。
    やっぱり、あの娘たちの言ったことが気になって?
    「・・あの、モデルの女の子たちのことなんですけど」
    「ん?」
    「中本さん、ネットで申し込んだそうですけど、どこかのモデルクラブに頼んだんですか?」
    「ああ、それはちょっと説明し難いかも・・」
    「もしかして、法律に触れるようなところじゃないでしょうね?」
    「そんなことないって。ただ庄内さんが思っているようなモデルクラブとはちょっと違うんで」
    「教えてくれません?」
    「しゃあないなぁ。キョートサプライズっていうんや。URLは検索できるから」
    「すみません」
    「いいよ。あ、これ他には口外せんといてな。それから学内からアクセスしたらあかんよ」
    「了解です」
    ・・
    その夜、昭子はアパートでKSのホームページを捜し当て、明け方近くまでパソコンから離れられなかった。

    17.2日目
    「おはようございま~す」綾乃と美紀が元気に入ってくる。
    「おはよう。今日もよろしくね」昭子が迎える。
    少し眠い。夜更かしが過ぎた。
    衣装は結局昨日と同じ。夏物をあれこれ引っ張りだしてみたが、露出の大きいものを選ぶことはできなかった。
    ノースリーブだけでも私には冒険なのよね。
    10時に展示室を開く。
    今日は日曜日。最も見物客の多い日だ。
    制御情報講座の展示はこの日も人気だった。
    美紀・綾乃・昭子のローテーションでデモのモデルを担当する。もはやすっかり手馴れた手順だ。
    昭子はPS-3に固定されて操られることが快感であることをはっきり意識した。
    観客から自分がどう見えているかとても気になった。
    デモの最中、私服に着替えた綾乃が観客に混じって見ているのに気付いた。
    溜まり場に戻ったときに綾乃に聞く。
    「ねぇねぇ、私、どうだった!?」
    「とても自然に色っぽくて、素敵でしたよ」
    ・・
    綾乃と美紀も楽しんでいた。
    二人にとっては明らかに楽な仕事だし、学生達や観客との交流も面白かった。
    休憩時間に外に出ると、あちこちから声を掛けられる。
    学内の学生で制御情報講座デモの女子高生モデルを知らない者はいなかった。
    自分の順番の直前、美紀がようやく部屋に戻ってくる。
    デモのコスチュームにウインドヴレーカーを羽織ったまま、手に包みを持っている。
    「あんた、その格好で外に出たの?」綾乃が聞く。
    「うん、ちょっと強引に誘われたんで着替えられなくって」笑って美紀が答える。
    「外で写真でも撮りたいって言われたの?」
    「ピンポン」
    学生達に囲まれて得意げにポーズをとっている美紀の姿が綾乃の脳裏に浮かんだ。
    「電話番号とか聞かれたけど、教えたりしてへんから安心して。あ、これ模擬店でくれたから食べてね!」
    「美紀ちゃ~ん!」外から男の声。
    「はぁ~い♥」
    美紀はいつもより半オクターブほど高い声で返事をすると、たこ焼きの舟を綾乃に押し付けて出て行った。
    入れ替わりにデモを終えた昭子が入ってくる。
    彼女ももはやカーディガンを羽織っておらず、ノースリーブのままだ。
    綾乃を見ると、左手を腰にあて右手を頭の後ろに回し、おどけてポーズした。
    女性って、一度見られる喜びを覚えるとああなっちゃうのかなぁ。綾乃はぼんやり考える。
    「あれ、それ何? 美味しそう~」
    「相方がもらってきたみたいで・・」
    「ま、ヒカルちゃん、もう男の子に貢がせてるの?」二人で笑う。
    昭子はKSのホームページの内容を思い出す。
    女の子が飛び出すくす玉に人間ルーレット。刺激的な内容だった。
    画像に綾乃か美紀が写っていないか探したが見つからなかった。
    それにしても・・。目の前の綾乃と美紀はごく普通の女子高生だ。とてもあんな仕事をしているとは信じられない。
    聞いてみたい。しかし中本から口止めされているし、実際に自分から話を持ち出す勇気もなかった。

    続き




    キョートサプライズ第6話(3/3)・進めパワードスーツ

    18.洋子とみずほの来訪
    男性客がドラえもん人形を触ると、綾乃はくるりと回って逆立ちになった。
    「きゃぁっ」意識して可愛い悲鳴を上げる。
    その瞬間、視界の隅に見慣れた顔があったような気がした。
    え? まさか。
    逆立ちの間は、観客にお尻を向けているので客の顔を見ることができない。
    さっきの悲鳴を聞かれたかなぁ。わざとらしいって怒られそう。
    上下逆の状態で、両足をぱかぱか開いたり閉じたしながら綾乃は悩む。
    やがて元の姿勢に戻される。あ、やっぱり洋子さん、それにみずほさん!
    三浦みずほはKSの企画演出を受け持つ女性で、洋子とともに綾乃と美紀には怖い存在だった。
    デモが終わると綾乃は洋子とみずほに会釈して、幕裏の溜まり場に戻る。
    「ヒカル~ぅ、洋子さん来てる」
    「げ」
    「あのわざとらしい悲鳴は何?」
    洋子とみずほが遠慮なく入ってきた。「ひゃっ」綾乃と美紀が中腰になりかけのまま固まる。
    「あの~?」その場にいた鈴原が遠慮がちに聞く。何や、このおばはんは? えらい美人やけど。
    「この子たちの会社の上司です。ちゃんとやってるかどうか伺いに来ました」
    洋子はにこやかに鈴原に言う。
    「はい。これ差し入れ」紙袋を渡す。
    「頑張ってるようで安心しましたわ。ねえ、みずほさん」
    「はい。ユニークな展示ですねえ。けっこう刺激されましたよ」
    二人はそう言って悠々と出て行く。
    残された綾乃と美紀は目を白黒させている。
    「何か迫力あるボスやね~」鈴原が言う。
    紙袋の中はドリンク強壮剤と模擬店で買ったらしい焼きそばの包みだった。

    19.トラブル
    それは美紀のデモの最中に起こった。
    観客がドラえもん人形の両足を開くと、美紀は開脚状態になり、突然そのまま後ろに回って倒立した。
    「あ~んっ」美紀は観客の操作と思って、そのまま悲鳴を上げて逆立ちになる。
    ん? ・・何か変?
    「元に戻して」「戻らんです」中本と鈴原の声。
    「バグや~」客の声も聞こえる。
    前が見えず、状況がつかめない美紀。両足は左右に全開の状態。
    時間が過ぎる。そろそろ太ももの付け根が痛い。
    「リセットして」「駄目かな」「じゃリブート」美紀は問題が起こったらしいとようやく気付いた。
    「ごめんね、もうちょっと我慢して」開脚のまま上下逆になった美紀に中本が謝りにきた。
    「あ、はいっ」つい条件反射でにこやかに返事したが、厳しいポーズと頭に上る血が苦しい。
    パソコンの電源を入れ直してシステムを再起動するまで2分近く要した。
    やっと美紀の身体は元に戻る。
    「お客様、ごめんなさいねっ」つい美紀は観客に謝ってしまう。顔が紅潮している。
    「ようあることやからね~」人形を操作していた男性は笑ってくれた。
    デモは急きょ中止となり、山本が飛んできて調査に入る。
    再起動でPS-3は正しく動いたから、ソフトの不具合は明らかだった。
    「ごめん、悪いけどそのまま協力して」PS-3に固定されたままの美紀に山本が言う。
    「ヒカルちゃん、大丈夫?」昭子が聞く。
    「はい、大丈夫です」
    「・・さっきは直立のままやったよね?」「そう」「こういう風に左右開脚にしただけで・・」
    突然美紀の身体が回転する。「きゃあ」今度は本当に悲鳴を上げる。
    「戻る?」「戻らん」「しゃあない、再起動」
    美紀は再び全開脚の逆立ちを数分間強いられる。
    「こら、可哀想じゃないのっ」昭子が怒る。「そんな実験なら私が代わるから・・」
    「もうわかった。この回転制御に問題があるな」山本が言う。
    「問題の原因は分かるん?」中本。
    「それはログをナメてみないと」
    「デモはどうします?」鈴原。
    「とりあえず、バージョン5.1だったら回転の機能自体がないから大丈夫なはずです」
    「そうしようか。念のためそこのアクチュエータのケーブルを物理的に遮断して」
    「分かりました」
    30分中断してデモは再開された。
    前後への回転・倒立機能がなくなり、女性モデル3人には負担の少ないデモとなった。

    20.対策とテスト
    2日目の展示が終了して、昭子が綾乃と美紀に謝りにくる。
    「今日はごめんね。これから原因調査なの。明日の朝までに直さないと」
    「分かりました。頑張って下さいね」女子高生2人はそのまま帰っていった。
    山本、鈴原、昭子の3人で2日間のログを調査する。
    数時間後、山本が不具合の原因を発見した。
    「ここの宣言とデータのマッピングが合っていなくて、ある回数以上左右開脚してそのまま回転するとエリアが壊れます」
    「再起動しても再発した理由は」中本が質問する。
    「テーブル自体が破壊されるんで、何度でも再現します」
    「なるほど。直せる?」
    「原因がわかったので、すぐ修正できます」
    「だったら明日は大丈夫なんか?」
    「大丈夫です」
    「確認テストも間に合う?」
    「はい。リグレッションはきちんと行わないと。あの子たちに危険があったらあきませんから」
    「ねえ、ちょっと。あの子たちって私は含まれないの?」
    「いけね」4人で笑う。
    「なあ」中本が聞いた。「テストはシミュレーションでやれるのか?」
    「あ」山本も気付く。「テストプロはバージョン5.1までしか対応してない」
    「ということは?」中本。
    「回転系は実機テストになります。項目は自動的に作れますけど」
    「ねえ、山本」昭子が聞く。「それ私にテスターやれってこと?」
    「あはは、そう」
    あ~ん、そういうことか~。昭子は心の中でぼやく。
    「しかたない。やりましょ」
    ・・
    22時、修正プログラムが完成した。
    「ご苦労さん、ほい、夜食」中本が牛丼を買ってくる。
    「ご馳走様で~す」喜ぶ学生3人。
    「庄内はあんまり食べない方が」山本が言った。
    「何でよ。・・あ、そうか」昭子も気付く。
    これから回転系のテストをするということは、昭子の身体は集中的に倒立させられるのだ。
    お腹にモノを入れない方がいい。
    「もう~。天を仰ぎたい気持ちぃ。今度おごってよ~」
    「テスト自体は僕らで確実にやるし、庄内は何もしなくていいから」
    私ゃ何もせんでただPS-3にくっつけられて回ってろってか?
    それじゃモルモットだよ~。大丈夫かな?
    背中をひやりとしたものが流れる。同時に、こみ上げるようなものを感じる。何? この感じ。
    過去にPS-3のテスターはさんざん務めてきた昭子だが、逆立ちにされるテストは始めてだった。
    人体実験。そんな言葉が頭に浮かんでどきりとする。私、これから人体実験の被験者なんだよね~。
    ・・
    22時半、4人は展示室に集まる。
    鈴原と中本がジャージ姿の昭子をPS-3に固定する。
    山本がシステムを起動した。昭子がごくりと唾を飲む。
    しゅう。昭子の両足が左右に開き、そのまま後方に回転した。
    もはや昭子は何もコントロールしていない。
    PS-3が昭子の身体をコントロールしていた。
    ・・
    午前1時、テストが完了した。
    何度か休憩をはさんで昭子は100回以上倒立を繰り返した。
    頭がぼうっとする。股関節も痛い。
    「あ~っ、これで明日またバグ出したら承知しないよ~」昭子はへたりこみながら山本に言う。
    「もう大丈夫。それにしても悪かったよ。こんな目に合わせてしもて」
    「大変やったね」中本も言葉をかける。
    「明日、遅刻しても許せ~」
    ・・
    中本がアパートまで車で送ってくれた。
    昭子はシャワーを浴びて布団に倒れ込む。
    その夜、昭子は自分がKSの人間ルーレットに縛り付けられて回転する夢を見た。

    21.3日目
    昭子は朝から元気がなかった。う~今日も眠い。
    コンタクトはつける気がせず、眼鏡姿で出てきた。
    「庄内さん、疲れ残ってるね~」中本が心配する。
    「少し抜けてアヤカちゃんとヒカルちゃんに頑張ってもらおうか」
    「それじゃアカデミック編を楽しみにして来るお客さんに申し訳ないわ」
    「でも」
    「お客に無茶させないよう、司会が注意してくれたらいいから」
    強引に中本を説き伏せ、昭子はわざと明るく振舞う。
    綾乃と美紀が現れた。「おはようございま~すっ」今日も元気だ。
    二人ともミニスカートに素足の太ももがまぶしい。
    うん、この子たちは若くて元気! 昭子は自分もエネルギーをもらったような気がする。
    「もう機械はちゃんと直ったから、大丈夫よ」
    「はい。今日が最終日ですね。頑張りましょぉ」
    10時に展示室を開ける。
    今日も観客が多い。洛北大学学園祭の展示で制御情報講座は観客動員数トップが確実となった。
    デモが始まる。美紀がモデル。山本と鈴原、中本も表に出ている。
    そのとき溜まり場に控えているのは、綾乃と昭子だけだった。
    「庄内さん、夕べは大変だったんじゃないですか?」綾乃が聞いた。
    「そうね、バグはすぐに見つけたけど、手直ししてからの確認テストに時間かかっちゃった」
    昭子は笑う。「私、テストで120回も逆立ちさせられたのよ」
    「ま」
    「中本さんと山本で操作するんだけど、もう私なんて人体実験される犠牲者みたいなもん」
    「大変ですね~。・・庄内さん、それでどうでした?」
    「どうって、さすがに疲れたけど・・」
    「あの、そうじゃなくって」綾乃は真顔だった。
    「?」
    「どんな気持ちでしたか? 技術者やなく、女の子として」
    どきん。
    「アヤカちゃんだから正直に言うわね。・・イヤじゃなかった」
    昨夜の時間を思い出しながら、ゆっくり話す。
    「最初は自分でも機械の状態をチェックしてたりしてたんだけど、そのうちどうでもよくなってくるの」
    「自分の意思と無関係に開脚させられたり、そのまま上下逆にされたり、それが延々と続くのよね」
    「そんな扱いを、何か陶然としたというか、ぼうっとした状態で受け入れてた、と思う」
    綾乃がにっこりする。「庄内さん、楽しめたんですね。よかった!」
    「いや、楽しんだなんていうと、私何か変な女みたいじゃない」
    「ううん、全然変じゃないです。普通の女の子やったら、みんなそうなりますよ」
    この子には驚かされるばかりだ。いったいどんな経験をしてきたんだろ?
    「私ね、実はキョートサプライズのホームページを見たの」
    「あら、知ってたんですか?」綾乃は少し舌を出した。
    「ううん、私が中本さんから無理に聞き出したのよ」
    「そうですか」
    「アヤカちゃんやヒカルちゃんもあんなことしてるの?」
    「あたし達、まだ新米なんですよ。でも、人間くす玉なんかは務めてますよ」
    「くす玉って、中から女の子が出てくるやつね」
    「はい。女の子が入ったくす玉を、そのまま荷物みたいに配達したりするんですよ」
    「え」
    「ちょっとスゴイでしょ? でも、お客様に楽しんでいただくために、みんな頑張ってるんですよ」
    「それってどんな気持ち、っていうか、女の子にとっては平気なの?」
    「大切な人へのプレゼントになったような気持ち。どきどき、わくわくです。身体の方はちょっと変になったりするけど」
    綾乃は明るく笑う。その笑い方は特別でも何でもなく、普通の女子高生の笑いだった。
    昭子は何故かほっとした。
    「アヤカちゃん、・・」
    「はい?」
    「私、アヤカちゃんとヒカルちゃんに会えてよかったと思うわ。自分の知らない世界で頑張ってる女の子だもの」
    幕の反対から美紀のわざとらしい悲鳴が聞こえてくる。「きゃぁ~」
    「でないと、私、自分でこんな気持ちになったこと、きっと恥ずかしいことだって考えたと思う」
    昭子は頭をかく。
    「いや、またずいぶん年上のお姉さんがえらいこと言っちゃったな~。忘れてねっ」
    「どう答えたらいいのかわからないけど、庄内さんが喜んでくれたみたいで、よかったです!」

    22.学祭終了
    16時、少し早めに展示は終了した。
    「皆さんお疲れさんでした!」拍手が起こる。
    「打ち上げは6時半からお多福で。それまでにここは撤収すること」
    「ほ~い」
    綾乃と美紀に中本が声をかける。「お二人も来てね。もちろん無料ご招待!」
    「はいっ。喜んで」
    学生全員で展示物、機械類を研究室と実験室に運ぶ。
    夕暮れの学内はあいかわらずにぎやかだった。
    最後の営業にはげむ模擬店、営業終了後そのまま酒盛りに突入した模擬店。
    展示物ともがらくたともつかない物品を運ぶ集団が行きかう。
    綾乃と美紀が着替えて研究室のソファで学生たちと雑談していると、柳井教授が顔をのぞかせた。
    「や~、無事終わってご苦労さん」振り返らずに声を聞くだけで教授と分かる。
    「PS-3も直ってよかったねぇ~。庄内さん、頑張ったみたいだね~。いや~ご苦労さんご苦労さん」
    綾乃と美紀は目を合わせ一生懸命笑いをこらえている。
    「で、懇親会なんだけど僕は別件があって欠席するよ~。あんまり羽目を外し過ぎないようにね~。ほぉっほぉっ・・」
    柳井は不思議な笑い方をしながら出て行った。
    残された学生たちは一斉に笑う。
    「あれでも卒論の評点は辛いから、あんまりばかにしたらあかんよ~」中本が学生たちに話している。
    「ごめん~」昭子がようやく研究室に入ってきた。いつもの眼鏡にトレーナー姿だ。
    「では、皆さん、移動しましょう!」幹事役の学生が呼びかける。

    23.居酒屋お多福
    大学近くの居酒屋は学園祭打ち上げの学生で一杯だった。
    綾乃と美紀はここでも人気者で、研究室の学生だけでなく居合わせた他のグループにもちやほやされた。
    今や制御情報講座のデモを知らない者はいないのだ。
    「ねえねえ、あの服、無理に着せられたん?」
    「いえ、そうじゃないです。あたし達が持ち込んだんで・・」
    「あれ、よかったですかぁ?」綾乃が答えていると美紀が割り込んできた。
    「おお、セクシーやった!」「見とれたで~」
    「わぁ~、ありがとうございますっ」
    「ああいう格好、恥ずかしくないもん?」
    「皆さんが楽しんでいただけるなら、平気です~」
    あたしゃ恥ずかしいわい。綾乃は心の中で突っ込む。
    「偉い! お~飲め飲め」
    「はい、いただきます~」
    「あぁ~っ、あんた、いつのまにぃ~」
    美紀はビールのグラスを持っていた。
    「大丈夫、無理せえへんって~、きゃははは」
    ・・
    約1時間後、昭子が腕時計を見る。
    「あなた達、そろそろ」
    「あ、はい。そうですね・・」
    「え~抜けるの~?」学生達。
    「未成年を遅くまで引き止められないでしょ~」昭子。
    「あの、3日間お世話になりました~」綾乃。
    「本当に楽しかったです。ありがとうございましたぁ~」美紀。
    「お~、また遊びに来てや~」
    「私はこの子たち送って、そのままフケるからね」昭子。
    「おぉ~、好きにせい~」
    「ちょっとは引き止めんかぁ」

    24.東山ホテル ラウンジバー『プレアデス』
    柳井教授と島洋子が並んで座っている。
    「そうでししたか。モデルクラブに頼んだにしては随分安いんで驚いてたんですよ」
    「柳井先生にはいつもお世話になっていますから」洋子が笑って答える。
    「いや、僕の知らないうちに大学院生が勝手に頼んだことで、こちらこそお世話になってしまいました」
    「いいんですのよ。まだ新人のEAですし、あの子たちにもいい経験になりました」
    「学生達にも評判が良かったようです。島さんのところの女の子なら当然と納得しましたよ」
    「恐縮ですわ」
    「それにしても、ずいぶん可愛い娘さん達でしたな。EA専門ですかな?」
    「まだ高校生なんですよ。クラブのことは何も知りません。・・この先どうなるかはわかりませんけけど」
    「そうか、じゃあ僕はそれまで楽しみに待たせてもらうことにしましょう」
    二人はブランデーのグラスを口に運ぶ。
    「ところで島さんはまだ小木君と元に戻る気はないんですか?」
    「もう、その話は何度聞かれても同じですよ。私も彼もそれぞれ忙しいし・・。それより先生こそご再婚なさらないんですか?」
    「こういう趣味を持ってしまうと、一人暮らしの自由が捨てられなくってねぇ。死んだ家内には申し訳ないが」
    「まあ、それは何か私どもにも責任があるようで聞きずてならないですねぇ」洋子は笑う。
    「あ、いやいや。そういうことになるかな」柳井も笑う。
    「わかりました。では先生にはこれからもうちのクラブをご贔屓にしていただきましょう」
    「そうしましょう。では改めて、乾杯、といことで・・」

    25.同じ頃、制御情報講座実験室
    しゅう。「きゃん!」綾乃が大げさな悲鳴をあげて左右開脚のまま後方に回転した。
    「まだまだ苛めちゃうもんね~」美紀がドラえもん人形を操作する。
    綾乃と美紀は昼間のデモのコスチュームに着替えている。
    「あんなり大っきな声出したら外に聞こえるよ~」昭子がパソコンの前から声を掛ける。
    「あ、ごめんなさ~い。あたし達、こんなことしててばれたら大変ですよね」綾乃。
    「ここは大丈夫ですか?」美紀。
    「今夜はうちの研究室のメンバーは誰も来ないわよ。連中朝まで宴会やってるから」昭子は笑う。
    「だからこうやって3人で楽しもうって来たんだけどね~」
    昭子もノースリーブのセーター姿だ。
    「はい。これデジカメっていうのよ。何度でも取り直しできるからね」
    「わ~い」美紀が喜んで受け取る。
    「綾の逆さ開脚、撮ったろ~っと」
    「わ~ん」両手を左右に伸ばし、両足は左右180度開脚で逆さ磔の状態になった綾乃が情けない声を上げる。
    フラッシュが光る。
    「一緒に撮ったげよっか」
    「あ、お願いしま~す」美紀は綾乃の横に立って、ポーズをとる。カメラを構える昭子。
    「ねえねえ、次、私の番、お願いね。これの使い方はもう分かったでしょ」昭子はパソコンを指差す。
    「はい。大丈夫です」美紀が答える。「庄内さんも、思いっきりおもちゃにして苛めてあげますから」
    「あはは、お願いするわ」
    「はいっ♥ ねえ、ねえ、庄内さん、も少しセクシーな衣装にしません?」
    「え、でも何も持ってないよ」
    「あたし達の衣装着たらどうですか?」
    「え~、それ。さすがにそんなに足出すのは恥ずかしいわよ~。それにサイズとか合わないと・・」
    「あ、それは大丈夫」綾乃が逆さまのままで言った。
    「庄内さん、あたし達とあまり身長変わらないし、これで、けっこうフリーサイズなんですよ」
    「ちゃんと余分の下着もありますよ。Tバックですよぉ~」美紀もけしかける。
    「じゃあ、じゃあ、・・着ちゃおかな~」
    「きゃあ~っ」黄色い声が実験室に響いた。



    ~登場人物紹介~
    庄内昭子: 22才。本話主人公。洛北大学機械工学科制御情報講座4回生。
          介護用パワードスーツが卒論テーマ。来年は大学院に進学予定。
    市川綾乃: 17才。EA。SNはアヤカ。学園祭デモのモデル。
          昭子に何やら妖しい影響を与えてしまう。
    河井美紀: 17才。EA。SNはヒカリ。同じくデモのモデル。
    鈴原晃一: 22才。制御情報講座4回生。昭子の共同研究者。
    山本和義: 23才。制御情報講座4回生。同じく昭子の共同研究者。
    中本靖: 25才。大学院修士2回生。デモのモデルをKSに依頼した。
    柳井淳: 55才。洛北大学制御情報講座教授。
    島洋子: KS代表。

    本話はパワードスーツ(PS)がテーマです。
    マニアックすぎて皆様がついてきてくれるか少々心配ですが、突っ走ります(笑)。
    『PS-3』はパワードスーツの名前です。ゲーム機ではありません。
    それから一緒につけたPSのイラストも、私がイメージだけで適当に描いたものですから、技術的な突っ込みは無しでお願いします。:P

    一般的にPSの機能は、
     ① 着用者の動きをセンスして信号化
     ② その信号をアクチュエータに伝えて実際の動きにフィードバックする
    から成ります。
    ここで②で自機のリアルタイムの信号ではなく、過去にメモリした信号を与えれば過去の動きを再現することができます。さらに、他のPSや入力装置で生成した信号を与えれば、そのPSを外部から制御することもできます。
    このような特性は、作業ミスの防止や着用者のトレーニングに役立つことでしょう。

    私がネットの記事で介護用PSを研究している大学があることを知ったのは、もう8年以上も前でした。その記事の中には、PS体験着用の素人さんを外部コンピュータで制御するシーンも掲載されていて、当時の私は大変萌えたものです。
    可愛い女の子にPSを着せて自在にコントロールしたい!
    これが、このお話を書いた出発点でした。

    それにしても、相変わらず古さ全開ですね。
    綾乃と美紀はケータイを持っていないし、デジカメもまだ一般的でない。
    欽ちゃんがあちこちのテレビ番組で活躍していた。
    そんな時代のことです。

    さて、次回のKSは久しぶりに Club-LB が中心になります。
    ありがとうございました。




    キョートサプライズ第5話(1/2)・球体空間

    1.綾乃
    「あぁ」綾乃が小さくうめいた。
    あぐらを組んだ足首と太ももにベルトが掛かり、ほとんど胸に密着している。
    綾乃は小さく折り畳まれた状態で、テーブルの上に伏せているのだった。
    「起こすよ」黒川が言って綾乃の肩を持って彼女の身体を引いた。
    「ん」
    綾乃はお尻で支えられる形で引き起こされた。
    正面から典子が綾乃の状態をチェックする。
    「どうかな? 綾乃ちゃん」
    「・・大丈夫、です」
    眉を寄せながら答える綾乃。
    「ここまでは誰でもできるからね。この先が肝心・・」
    練習場にはKSのEAである野村典子と市川綾乃、それに技術担当の黒川がいた。
    典子と綾乃は上下セパレートのレオタード姿。
    続けるかというふうに黒川が典子を見る。典子が頷いた。
    頭上から二つに開いたくす玉が下ろされる。
    典子は綾乃のハーネスの金具にくす玉のワイヤを接続した。
    「上げて」典子が合図すると、くす玉と一緒に綾乃の身体が上昇した。
    「く・・」綾乃の声が漏れる。
    くす玉の直下で、あぐら座りのポーズのまま固められた少女の身体が揺れている。
    「続けるよ?」
    「・・はいっ。続けて下さい・・っ」綾乃が目をぎゅっとつぶって答える。
    「偉いね、綾乃ちゃん」
    黒川がくす玉を綾乃に被せて閉じる。上部の穴から手を入れ、ベルトを外して引き出した。
    典子がテーブルの上に立って穴の中をのぞきむ。
    「ほっぺたを膝の内側につける気持ちで、息は短いのを繰り返すように」
    50センチサイズのくす玉に詰められると、普通の会話や呼吸は難しくなる。
    「いいみたいね」典子は脇の黒川に言って笑う。
    「蓋して」
    黒川が上部の穴に丸い蓋をはめ込む。
    典子はくす玉の球殻に口を近づけ、中の綾乃に聞こえるように言う。
    「密封したよ。気分はどう?」
    「ん~ん、んんっ(きついです。でも素敵)」
    「うん、うまく行ってるね」
    「分かるの?」黒川が聞いた。
    「くす玉のプロやからね。この中に詰められた女の子の気持ちはよく分かるの」典子は再び笑った。
    ・・
    綾乃の小形くす玉の訓練が始まっていた。
    S型くす玉は直径50センチ。このサイズになるとEAが自ら中に入ることは困難になる。
    補助者に介助してもらって身体を小さく折り曲げ、それからくす玉に収める段取りになる。
    この日、綾乃は初めて屈曲ベルトを掛けられてくす玉に詰められたのだった。
    ・・
    くす玉を天井まで吊り上げて、5分ほど置く。
    「開けるよ!」リモコンのスイッチを操作する。
    くす玉が左右に開き、中から綾乃の身体が膨らむように現れて吊り下がった。
    「できましたぁ~」空中で喜ぶ綾乃。
    典子はリモコンで綾乃を床に下ろす。
    「やったね! ・・次から、時間を延ばしていくからね」
    「はい、お願いします」
    ・・
    「典子さん、S型は典子さんが最初にやったって聞いたんですけど」
    典子と綾乃は練習場の床にぺたりと座ってペットボトルのお茶を飲んでいた。
    黒川は仕事で出て行ったので、二人きりだった。
    「うん。そのころは直径60センチが一番小さくって、洋子さんに50センチを作って下さい、絶対入ってみせますって頼んだのよ」
    「すごいですね。自信あったんですか?」
    「全然(笑)。でも絶対に小さいくす玉をやりたかったから」
    典子は笑った。
    「初めて入ったときのことは忘れへんな・・」

    2.球体空間
    直径50センチの空間に少女は密封されていた。
    小さく折り畳まれた肉体はここでは何の役にもたたず、一緒に収められたテープや紙吹雪などとともに、この空間を埋める充填物でしかなかった。
    薄ぼんやりとした明るさの中、視界の片隅に垂れ幕と紙吹雪の一部が見える。あとは一面、柔らかい、肌色。
    私、太ももの内側に顔をうずめてるんだ。
    限界まで屈んでいる状態。身体のどの部位も動かすことができない。わずかに動くのは指先くらいだろうか。
    呼吸も楽ではなかった。少しずつ、浅い息を繰り返す。
    痛いとか、辛いとかは感じなかった。
    とても不思議な感覚。でもこれが当たり前の状態のような気もする。
    強いていえば、生身の女の子をこんなにコンパクトに収納してしまえることが不思議だ。

    S型くす玉

    ・・
    「じゃあ詰めようか、典子ちゃん」
    典子はあわててもう一度鏡にうつる自分の姿に目をやる。
    小柄な女の子がコスチュームをつけて所在なげにたたずんでいる。
    濃いお化粧。そして黒い皮と金色の金具で構成されたタイトなコスチューム。
    このコスチュームは局部とバストの一部を覆うだけで、あとは着用者を吊るす機能に特化している。
    かろうじて左足の膝に巻いた赤いリボンが可愛らしさを演出していた。
    我ながら、人前でこんなに肌を露出する決心をよくしたものだと思う。
    半年前までは、ビキニの水着だってつけたことがなかったのに。
    でもこれは彼女自身が望んだことなのだ。
    このコスチュームをつけてくす玉に入るために訓練を積んできたのだ。
    そしてその瞬間(とき)、私はこの姿で観客の頭上に出現するのだ。
    胸の鼓動が高鳴る。
    「はい、お願いします」
    屈曲ベルトを巻きつけられると、彼女の肢体はみるみる折り畳まれた。
    気がつくとくす玉の下に吊り上げられている。全身を締め付けられる感覚。
    くす玉の球殻が自分の周囲にぴったりと覆い被さってくる。カチリとロックが掛かる。
    頭上の小窓から手が入って細かい調整を受ける。
    そしてするするとベルトが抜き取られ、小窓が閉じる。
    一瞬、息苦しさ、そして子宮に浮かぶ胎児のイメージ。
    ふう。すべては球体の中に封印された。
    私は、これで製品の一部になったのだ。

    3.遭遇
    それは、日曜の朝練の差し入れに行った帰りだった。
    典子は高校の制服姿で自転車に乗っていた。
    通りかかった国道でパチンコ屋の新装開店に出くわした。
    正面の張り出しの屋根に飾られた銀色のくす玉が割られるところだった。
    「!」
    一瞬息を呑んだ。
    くす玉から真っ赤なコスチュームのチアガールが出てきたのだった。
    『祝・新装開店』の垂れ幕、色とりどりのテープ。
    それらを背にチアガールがポンポンを持って空中に浮かんで笑っている。
    開店を待つ行列から「おぉ~」という声とぱちぱち鳴る拍手が聞こえた。
    ・・
    典子はそのまま自転車で通り過ぎ、100メートル程離れたところで止まって振り返った。
    賑やかな音楽が流れてくる。行列はどんどんパチンコ屋の中に吸い込まれていく。
    チアガールは人々の頭上でポンポンを振っている。
    やがて行列が消えて誰もいなくなったが、チアガールは吊られたままで残っていた。
    典子は今朝行きがけに見た光景を思い出した。
    パチンコ屋の玄関先に止まったトラックから伸びるクレーン。
    クレーンの先には銀色のボールが下がっていた。
    あれはくす玉を取り付けているところだったんだ。
    もしかして、あのとき、あの中にはもう。
    ・・
    典子はしばらく考えていたが、やがて意を決して自転車を押しながら近づいて行った。
    チアガールの女性は典子に気付き、頭上から明るい声をかけてくれた。
    「いらっしゃいませ!って、キミ、まだパチンコは駄目みたいだねー」
    「あの」
    「はい?」
    「ずっと、そこにいるんですか?」
    「あたし? ・・うん、11時まで呼び込みなのよ。でもここ、誰も通らないねぇ」
    田舎の国道である。車は通るが通行人はいない。
    「この辺、あんまり人は通らないです。もう終わってもいいんじゃないですか」
    「あたしもそうしたいけど、仕事だからね。それにほら、宙吊りにされてて、どうしようもないし」
    そう言って、女性は手足をばたばたさせて、笑った。
    気のよさそうな人やな。聞いてもいいかな?
    「私、くす玉が開くとき見てましたけど、中から人が出てきてびっくりしました」
    「あはは、そうでしょ」
    「変なこと聞くんですけど」
    「?」
    「いつからその中に入ってたんですか」
    「・・キミ、お名前は?」
    「あ、私、野村典子です」
    「典子ちゃん。もしかして人間くす玉に興味持った?」
    「はい。何だかとても気になって」
    女性はにっこり笑った。
    「そっか!・・あたしのことはマナミって呼んでね」
    誰もいないのを幸い、二人は会話を続けた。
    「実は私、今朝そのくす玉を取り付けているの、見たんです」
    「そうか、見られちゃったのね」
    「あれ、7時前でした。・・もしかしてマナミさん、そのときから入ってたんですか」
    「あはは、ピンポ~ン!」
    やっぱり。
    この人はずっとくす玉に入ってたんだ。私が学校にいた間も、ずっと、ずーっと。
    「あの、また変なこと聞きますけど、呆れないでくださいね」
    「うん、大丈夫だよ」
    「くす玉の中にいるのって、どんな感じですか?」
    「ん~、どんなって聞かれるても困るけど、ご想像の通り、狭くって、こう、丸くなってるしかないわ」
    マナミは肘を前で合わせて身をすくめてみせた。
    「一度入ったら中からは開けられないし、もう忍耐というか、待つしかないわね。閉所恐怖症だと絶対無理」
    「うわぁ」典子は少しの間、目をつぶった。
    「典子ちゃん?」
    「つまり、くす玉の中で女の人は小っちゃくなったままで、自分でできることも何もなくって、ただ開けてもらうのを待つだけ・・、なんですよね?」
    「まあ、そういうことね」
    「・・素敵! お話を聞いてるだけでどきどきします」
    女性はほっとしたように笑った。
    「よかった。こんな田舎に来て人間くす玉を理解してくれる女の子に会ったんだから、今日は大成功!」
    「私もできますか?」
    「え?」
    「私にもできますか。その、人間くす玉」
    「・・そう、ね。多分できると思うけど。あなたまだ高校生だから」
    「もう3年生です」
    「なら、就職するか、勉強して上の学校に進んだら、って、なに学校の先生みたいなこと言ってるんだ、あたしゃ」
    「あの、進路でしたらもう短大が推薦で決まってますから」
    「・・ねえ、典子ちゃん、あなた、本気でやってみたいの?」
    「はい」
    「仕方ないな~。うちはオフィス・シマっていう事務所だけど、どうしてもやりたいのなら11時半頃ここに来てくれるかな。その頃には自由の身になってるはずだし」
    「ありがとうございます、マナミさん。また来ますっ」
    典子はそう言うなり自転車にまたがった。
    マナミは走り去って行く女子高生を空中から眺める。
    あ~あ、パチンコ屋でいい男がいたらと思ってたのに、女子高生をひっかけちゃったよ。
    それにしても、おもしろい子。
    小柄だし、くす玉に詰めるにはぴったりだね。
    でもいくら何でも高校生じゃねぇ。洋子さんだって許さないよ。

    4.球体空間2
    ふと気が付くと、空間全体が揺れていた。
    ゴトン!
    投げ出されたようなショックに続き、ごそごそと物音。
    やがて球体の中は闇に閉ざされ、視界が失われた。
    トン・トン・トン。
    これは、蓋に釘を打ってるんだ。
    典子は事態を理解する。
    くす玉は木箱に梱包されるのだ。くす玉がすっぽり収まる大きさの木箱。
    箱とくす玉の間の隙間は発砲スチロールのかけらで埋める。
    蓋板を釘で打ち付けて固定し、封印の蝋が垂らされる。
    じゅ! 焼鏝で "KS" の型印。
    そのまま外国へ船積みされそうな荷物だ。
    中に生きた女の子が入ってるなんて、想像もつかない荷物。
    箱にはちゃんと荷札が張り付けられる。
    『転倒・逆積可』と書いたラベルもぺたぺた貼られるはずだ。
    ひどいね~。ぼんやり考える。本当に逆さに置かれたらどうするのよぉ。
    発砲スチロールのクッションを充填しているから、たとえ箱を逆さにしてもくす玉が転がることはない。
    でも中の女の子は、私は、そのまま上下逆になってしまう。
    まあ、とはいえ今でもどっちが上だかよく分からない状態やからな~。
    今は私、荷物なんだから、それくらいの扱いは当たり前か。
    もしかして私、そうして欲しいのかも。ううん、『かも』やない、そうして欲しかったんだ。
    少し動悸が強くなったようだ。
    ところで私はどこへ行くのだろうか。
    自分がどこへ届けられるのか、いつ着くのか、知らされていない。
    10分で着くかもしれないし、3時間かかるかもしれない。
    はっきりしているのは、今や自分には何の自由もないということ。
    閉ざされた狭い球体空間の中では、見ることも話すことも動くことも、もちろん外に出ることもできない。
    許されていることは二つだけ。呼吸をすること、そして後はただ待ち続けることだけだ。

    5.押しかけ
    典子はマナミから聞いた連絡先に電話した。
    「くす玉を見て、もうやりたくて仕方なくなって、それでお願いしたいんです」
    後で考えたら強引で迷惑な電話だった。
    それでも応対してくれた島という女性はやさしく、短大に進んだらもう一度連絡しなさいと言ってくれた。
    ・・
    典子は諦めなかった。
    自分の気持ちを手紙に書いて送った。1度ならず2度、3度と。
    騙すように両親に承諾書を書かせた。
    学校の制服のまま、事務所に押しかけて洋子に会った。
    洋子はついに折れて笑った。
    「典子ちゃんの執念には負けたわ」

    6.球体空間3
    少女くす玉は華やかだ。
    小さなくす玉から女の子が飛び出して、パーティやイベントを盛り上げる。
    それは華麗で美しく、まるで打ち上げ花火が弾ける瞬間のよう。
    その一瞬のために花火職人が丹精込めて花火玉を作るように、くす玉も心を込めて準備する。
    小さな球体の中に工夫を凝らして女の子を仕込み、丁寧に仕上げてお客様にお届けする。
    女の子。その一瞬のために用意される女の子。
    生きた人間が入るには狭すぎる空間。身動きもできず、自分では決して脱出できない空間。
    そんな中に密封されて、いつとも知れないその瞬間をいつまでも待ち続ける。
    破裂しそうな胸の鼓動を押さえて出番を待ち続ける。
    それが女の子の扱い、女の子の役目。それをわきまえた女の子。
    できるだけ小さく、できるだけ長く、健気に頑張る女の子。
    ああ、そんな女の子が理想だ。
    私はなれるかな。

    7.訓練
    高校3年生の11月、典子はオフィス・シマのメンバーになった。
    ステージネームはその頃好きだった作家の名前を取ってナツキとした。
    当時のメンバーはマナミこと岡崎真奈美、ミサトこと佐久間恵、そしてシノブこと石原妙子の3人だった。
    そしてスタッフに代表の島洋子、企画の三浦みずほ、技術担当の長谷川行雄と三井裕隆がいた。
    男性は長谷川と三井だけ、それ以外は女性ばかりの、小さな、元気な事務所だった。
    ・・
    そのころの訓練はなぜか「調教」と呼ばれていた。
    体操部にいた典子は身体が柔らかかったので、真奈美が入っていた70センチのくす玉には余裕で入れた。
    初めてのくす玉体験は、KSの練習場で10分間だった。
    プラスティック製のくす玉は外の光が透けてうっすらと明るく、典子は膝を抱えるように座って、うっとりと過ごした。
    しかし照明を消されるとくす玉の中は闇に覆われ、典子は周囲の空間が迫ってくるような感覚に息がつまりそうになった。
    悔しくて、長谷川に頼んでイリュージョンに使う箱に入れてもらった。
    鍵のついた蓋があり、蓋をすると箱の中は完全に真っ暗になった。
    毎週土曜と日曜日、典子は事務所にやってきては箱に入って何時間か過ごした。
    それが平気になると、今後は箱の隙間に木のブロックやクッションを詰めて空間を狭くする。
    そしてまた閉じ込められる。
    みずほ「あの頃の典子ちゃん、いつも事務所に来て箱に鍵をかけてくれる人を頼んでたよね」
    真奈美「あんなに真面目に自分から調教を受けてたのは後にも先にも典ちゃんだけだよ」
    1ヵ月後、練習場に来た洋子が驚いた。
    まるで人形を収納するかのように、人間の形に抜けた空間。
    そこに先月来たばかりの女子高生がぴたりと隙間なく身動きできない状態で収まっていた。
    典子はそのまま蓋をして鍵をかけられて6時間耐え抜いた。

    8.球体空間4
    ふと自分の身体を意識する。
    腰がだるい。
    もちろん腰を伸ばすこともさすることもできない。小さく折り畳まれたままだ。
    4時間は大丈夫なはずなのに。
    「身体を意識したら駄目です。自分のすべてを突き放して他人みたいに考えるのがコツなんです」
    洋子さんが驚いてたな。「あなた、誰から教わったの?」って。
    誰に教わったのでもない。自分で気付いたコツだった。
    しかし、自分の身体を一度意識してしまうと、なかなか頭から消えない。
    どうしたんやろ。初くす玉で緊張しすぎたのかな。
    それでも頑張って思考を切り替える。
    ・・
    私が理想とするのは、こんな女性(ひと)。
    どんな小さなくす玉にも収まる女性。
    当然、身体は柔らかくて被虐性も高い。とてつもないマゾヒスト。
    「もっと強く押し込んで下さい。まだ小さくなるはずですから」なんて言うはずだ、きっと。
    そしてどんなに厳しいくす玉でも、オープンしたらとびきりの笑顔で弾ける。
    その落差。
    よかれと思ったら、どんなに厳しい扱いでも進んで受け、意識を失うまで耐え続ける。
    このひと、自分を責めることに関してはきっとすごいサディストだ。
    ・・
    叩き込まれたのは、精神で感じること。
    厳しい扱いを受けるのはもちろん女の子の役務(やくむ)だ。
    でもその快感にのめり込んではいけない。肉体で乱れることが目的ではない。
    その扱いをくぐり抜けてなお明るく元気にサービスすることが役目なのだ。
    それを精神の高い次元でじんじん感じることが理想だ。
    そういえば今、ここで詰められている女の子。あなたは役目を果たしてるの?
    キミの役目は極限まで小さく詰められて、そのまま無限の時間を耐え抜くこと。
    お腹の左右、まだ隙間があるよね。紙吹雪をもっと増やせるはず。
    足の方もまだ余裕がある。もう2センチは引き寄せられるはず。
    女の子の身体はしなやかで柔らかいんやから。
    もっと雑巾みたいに絞っていい。
    ・・
    胸の中がうずうずする。
    ああ、思いっきり息を吸いたいっ。
    一瞬、息苦しさの極限を感じた。広い場所に出て自分を解放したい衝動にかられる。
    恐怖感。
    あっ、駄目っ。あかんあかんあかん・・・。
    肺に酸素が十分届くように、細く長い息をゆっくり繰り返す。
    ふ~ぅ、ふ~ぅ・・・。頭を真っ白にする。
    落ち着いてきたようだ。
    いかんなぁ、パニックになるなんて。
    最高に綺麗な状態でお客さまの前に出ないといけないのに。
    そのために私は今、この空間で生き延びないといけないのに。

    9.デビュー
    もうくす玉はいつだってやらせてあげると洋子が言ってくれたが、典子はそれを遠慮した。
    ベストのくす玉をやりたかった。
    駄目モトで直径50センチのくす玉を作れないか頼んだ。
    「もう、そこまでこだわる子とは思わなかったわ」洋子は苦笑いして、それでも手配してくれた。
    ・・
    くす玉以外の仕事は積極的に挑戦した。
    EAとしてのデビューは、クリスマスパーティのプレゼントボックスだった。
    赤いサンタの衣装で、銀色の缶に入って届けられる。
    缶は直径55センチ、高さ90センチ。底に敷いた円板に筒を被せるような構造だった。
    典子が底板に膝を抱えて座る。膝の上にプレゼントの箱を載せる。
    周囲に銀色のセルロイド板を丸く巻いて立てる。
    この板は中から押せば簡単に開いて、女の子が容易に立ち上がることができる。
    さらに全体に被せるように缶の筒を載せ、フックを掛けて底板を固定する。
    ・・
    1時間後、リボンをかけて、カラーセロファンでラッピングした缶がパーティ会場に届いた。
    幸運な受け取り主が中身を開く。
    ロックを外して缶を持ち上げる。中は銀色の筒のようだ。
    突然その筒が割れて、ミニスカサンタが立ち上がった。
    「メリークリスマス! プレゼントをどうぞっ」
    そう言って笑った彼女の頬は、興奮と暑さと恥じらいで赤く染まっていた。

    10.球体空間5
    静かだ。
    私は今、どこにいるのだろう。
    誰もいない倉庫の片隅にぽつんと置かれていたりしたら、素敵だな。
    届いたくす玉は、すぐに使わずにしばらくそのまま放置する。なんて贅沢。
    でも、もし私だったら、気になって5分毎に様子を見にきてしまいそう。
    それどころか、我慢できずにその場で開けて中を見てしまうかもしれない。
    小型くす玉は一度開けてしまうと、もう元には戻せない。
    そんな風にされた女の子は、空中に舞うことを夢見ていた女の子は、悲しみに狂って死ぬんだろうな。
    ・・
    くす玉の中で過ぎる時間の速さは、外の世界の時間の速さとは違う。
    詰められた女の子が狂おしい時間を過ごす間、外ではほんの2~3分くらいしか過ぎない。
    待ち焦がれるオープンの瞬間、それはくす玉の中では何日も何週間も未来のことだ。
    くす玉を受け取るのはそれをすべて分かっている人だ。
    くす玉の入った木箱の横で、そして会場に設置したくす玉の下で、その人はゆったり煙草をくゆらしながら急がない。
    「まあまあ、もうちょっとこの時間を楽しみましょう」
    わざと中の女の子に聞こえるように言う。
    いじわるで優しい人。
    ・・
    こうやって詰められる私の限界ってどれくらいかな。12時間?、24時間?
    私、もしかしてこのまま永久に放置されることを望んでる?
    それもいいかな。
    でも、やっぱり私は信じて待ち続ける。
    たとえ何日経っていたとしても、オープンの瞬間、私は明るく元気に空中に飛び出すだろう。
    そのとき、私がまだ無事でいたら。
    この空間の中で、まだ生きながらえていることができたら。
    ・・
    こんなに小さくなってじっと過ごせるなんて、私ってすごい女の子やな。
    でも長谷川さんが言ってた。短時間だったらどんな女の子でも小っちゃくすることは簡単だって。
    そう、可愛い女の子をたくさん用意しよう。
    どの子にも原色のセクシーな水着を着せて、透明なガラスのくす玉に詰める。
    それを全部吊るして飾ったらきっと壮観。
    いろんな女の子の肢体がぎゅうぎゅうに詰まった透明なボールがゆっくり振れる。
    色とりどりの水着と肌色。華やかなオブジェ。
    長くは駄目やね。でも誰も意識を失ったりしない程度の時間は楽しもう。
    そしてその後、せぇの、で一斉にくす玉を開こう。
    こぼれ落ちる女の子たち。広がる香り、吊られて揺れるいろいろな女の子。
    元気な女の子、ぐったりした女の子、理不尽な扱いに怒る子、感じて乱れる子。
    ちょっと可哀想で魅力的なシーン。
    ああ、私って鬼畜やな。

    続き




    キョートサプライズ第5話(2/2)・球体空間

    11.完成
    50センチのくす玉が完成した。
    届いたくす玉を前に、みずほ、長谷川と相談する。
    紙吹雪は肌に触れて付着しないように、ビニール袋で区切ってくす玉に入れる。
    垂れ幕もくす玉から直接吊るすスペースがないので、短い芯棒に巻いた幕を手に持つことにした。
    そして最後に典子自身の詰め方。
    典子は小柄で身体が柔軟だったが、それでも小さくなってくす玉にうまく収まるのは工夫が必要だった。
    どうやって入ろうか?
    「典子ちゃん、ちょっと試してもいいかな?」
    ふと、長谷川が言った。
    「ここにあぐらで座って、両手を前で合わせて」
    「はい」
    長谷川は典子をテーブルに座らせ、縄束を持ってきて両足に縄を掛けた。
    その縄を後ろ回して絞り、背中で縛った。
    「え?」
    あぐらに組んだ両足が首の方に引き寄せられて固定された。
    長谷川は黙って典子の太ももにも縄をかけて背中に引いて縛る。
    典子はさらにコンパクトになった。
    両手も膝の間で合わせているので、まったく身動きできない。
    「あ・・」
    何も喋れなかった。
    突然縛られた驚きと、縄に締め付けられる信じられないような快感。
    何だろう、この感じ。
    「ねぇ、彼女、とろんとなってるみたいだけど・・」みずほが言った。
    「この際、ちょっと我慢してもらおう」
    長谷川は典子をそのままくす玉の半球に入れ、反対側の半球を被せる。
    カチリ。簡単に閉じることができた。
    両手で押さえて揺する。中身が動く様子はない。
    「ちょっと回すよ」声をかけてから、ごろごろと動かしてみる。
    典子の身体はぴったりと収まっていっしょに回っているようだった。
    「いいんじゃない?」みずほが言った。
    「でも、これでは典ちゃん困ってるでしょね」
    みずほと長谷川は笑いながらくす玉を開く。
    典子はぎゅっと目を閉じて喘ぎながら耐えていた。
    その目元には涙と口元には涎が光って流れていた。
    「あらあら・・」二人は急いで典子を出して縛めを解放する。
    ・・
    10分後、典子はようやく普通に話せるようになった。
    「長谷川さん、さっきのは・・?」
    「ごめん、もしかして縛られるの、初めてだった?」
    「はい」
    「ごめんなさい。典子ちゃん、あの、ちょっと勘違いしてたの」みずほが謝った。
    「?」
    「その、あなたの被虐性が高いから、実際にもう経験済みかな、と」
    「私、そんなに経験豊富やないですよ・・。そういう世界があるのは知ってましたけど」
    典子はそう言ってから笑った。
    「でも、すごかったです。ぐるりと回されたときは、もう本当にどうなるものかと・・。あれが50センチのくす玉なんですね」」
    「どうかな、耐えられそう?」
    「大丈夫です。これに入れるなら、どれだけ縛られても耐えてみせます。ありがとうございました!」
    ぺこりと長谷川に頭を下げた。
    「まあ、お礼を言われても困るんだけど」
    「それにしても、長谷川さん、どうしてあんなに上手に女の子を縛れるんですか?」
    「あわわ」
    みずほが慌てて割って入った。
    「それより、典ちゃん、縛られてたらくす玉が開いたときに困るでしょ」
    「あ、そういえばそうですね」
    「それで相談してたんだけど、太いベルトのようなもので身体を折ってくす玉に入ったらどうかと思うの」
    ・・
    長谷川が新品のくす玉に電動鋸で丸い穴を開けている。
    その横でみずほが縫ってきた布のベルトを洋子が点検している。
    「できたよ」「こっちもOK」
    あらかじめ吊るしてオープンしたくす玉の下にテーブルを置く。
    典子がテーブルに座り、前と同じに足をあぐらに組む。
    長谷川がその足にベルトを巻き、典子の両足を首の方に引き寄せる。
    背中にフックをかけて吊り上げる。典子は小さく折り畳まれたまま引き上げられる。
    「どう?」みずほが典子に聞いた。
    「ん・・、大丈夫・・です」
    くす玉の直下で典子を吊るし、くす玉を閉じる。カチリ。
    長谷川がくす玉に開けた穴から手を入れて、典子のベルトを外す。
    「できた」
    「じゃ、開いてみよう」
    長谷がくす玉を天井まで上げる。
    「下がって」そう言ってリモコンのスイッチを入れる。
    ばっ!! くす玉が開いた。
    典子が弾けるように飛び出して宙吊りになり、そしてゆっくり床に降り立った。
    「きゃ~、できた!」
    みずほと典子、それに洋子までが跳ねていた。

    12.球体空間6
    闇の中で浮かんだインスピレーション。
    私は果実だ。
    ・・
    固く閉ざされた小さな殻の中で、私は瞬間(とき)を待っている。
    殻が割れる瞬間を。
    まぶしい光の中に飛び出す瞬間を。
    私は果実。貴方に捧げられる果実。
    殻を割るのは貴方。
    どうぞお好きなときに割ってください。
    でも急いでは駄目。
    まだまだ果実は固くて青いから。
    急いで殻を割ると、緊張にこわばった果実がぎこちなくこぼれ落ちるから。
    果実が甘くなるのを待ってね。
    おいしく柔らかくなるのを待ってね。
    殻の中の果実が、その瞬間を想ってだんだん熟れるから。
    小さな殻の中に封じ込められて、待ち続けることしか許されない果実がだんだん熟れるから。
    果実自身が望んでいなくても、自然と果実は熟れるから。
    たっぷり時間を与えて下さい。
    殻の中でもどかしさに気が狂うような時間を果実に与えてください。
    そして熟し過ぎてぐずぐずになる前に殻を割ってください。
    ほどよく割った殻からは、みずみずしく甘美な果実がはじけて貴方を魅了するでしょう。
    ・・ただし、果実の状態は貴方にはわからない。
    小さな殻の中に果実が入っていることしか、わからない。
    石榴(ざくろ)の実はその瞬間ひとりで開くけど、この果実は貴方が割るまで開かない。
    だからお願い。
    貴方も殻の中を想ってください。
    殻の中の果実が貴方を想うように、貴方も殻の中の果実のことを想ってください。
    果実がだんだん熟していく時間を一緒に感じ、楽しんでください。
    果実はそれを信じて熟れるのだから。

    13.派遣決定
    「典子ちゃん、くす玉の仕事が決まったわよ。土曜日の夜」洋子からの連絡が入った。
    やった~。勇んで練習場に出向く。
    「典子ちゃんが高校生だってことは内緒よ」洋子はそう言ってウインクした。
    「大丈夫です」典子もウインクする。
    「お届け先のこと、聞きたい?」
    「あ、それは、知らない方がいいんですよね」
    「わきまえてるのね。・・なら、教えてあげない。どきどきしながら、その瞬間を待ってちょうだい」
    「はい」
    「それから衣装もできたわ。あなたの希望通り、できるだけ露出を多くしたわよ」
    洋子が見せてくれたコスチュームは、衣服というより皮と金具の塊だった。
    「わぁ。エッチですねっ」
    「今回衣装のご指定はないし、ミニスカサンタとかもっと他のコスチュームでもいいのよ」
    典子は少し考えて答える。
    「やっぱりこれにします。私お客様へのプレゼントですから」
    そして洋子に向かって笑った。
    「でも、少し恥ずかしいから、このリボンをつけさせて下さい」
    大きな赤いリボンを鞄から出す。
    洋子はにっこり笑ってくれた。
    ・・
    今までは、くす玉の下で吊られるためには、ハーネスと呼ぶベルトを身体に着ける必要があった。
    ハーネスが目立たないように、真奈美がパチンコ屋でくす玉から飛び出したときは、チアガールの衣装の下にハーネスを巻いていた。
    今回典子が頼んだ衣装は、衣装そのものがハーネスを兼ねていて、背中の金具に直接ワイヤを接続できるものだった。
    肌の露出が大きい分、くす玉の中で身体を小さく折り曲げるのにも制約が少なかった。
    ・・
    コスチュームをつけた典子は顔を赤らめていた。望んで着たとはいえ、さすがに恥ずかしかった。
    「まあ、セクシーで可愛い!」洋子が言ってくれた。
    「うん。お届けされる女の子はこうでなくっちゃね!」
    「そうですか? ありがとうございます!」
    典子はほっとして笑った。
    「じゃあ詰めようか、典子ちゃん」奥から長谷川が呼んだ。

    14.球体空間7
    木箱の蓋をこじるような音がする。釘抜きで蓋を開けているようだった。
    ごとごと。球体を触る音。ゆらり。空間全体が揺れた。
    吊り上げられた!
    くす玉の中が明るくなった。暗闇に慣れた目を思わずぎゅっと閉じる。
    私、まばたきする自由はあったんやね。何となくおかしい。
    気持ちが晴れ晴れとするようだ。もうすぐ出番?
    「・・なら、本当にこの中に女の子が入ってるの?」
    すぐ横で男女の会話が聞こえた。典子は思わず聞き耳をたてる。
    「うん、『ナツキ』って書いてある。よっちゃん、入れる?」
    「絶対無理~」
    「どんなふうに入っているんかなぁ」
    「もしもぉし! ナツキさぁ~ん、元気ですかぁ?」
    くす玉を叩く音。急に呼びかけられてびっくりする。
    「あかんって」
    「だって聞こえてるんでしょ?」
    「聞こえてるはずやけど、返事はないと思うな」
    「なんで?」
    「そういう決まりやから。それにしたくてもできないのかも。ぎゅうぎゅうに詰まってて」
    「そう。何か可哀想ね」
    可哀想って言われちゃった。あはは、うれしいね。
    「13時梱包か。結構経ってる」
    今は何時なの?
    「じゃあ、セットアップするよ。もうすぐお客さん来るし」
    「お願いしまーす」
    モーターの音。すうっと浮上する感触。
    下の方から声がする。
    「あと1時間このままなんやね。大丈夫かなぁ」
    「この人はそういう仕事やから平気やって。それにもう3時間も過ぎてるんやで」
    「そっか~」
    「それにしても雨が降らなくてよかったね」
    「うん、あたしこんな薄いドレスなんやもん」
    ガーデンパーティ?
    声が遠ざかる。
    いきなり4時間のお務めか~。頑張るぞおっ。
    気合を入れなおす。
    と、明かりが消えて、空間に闇が戻ってきた。
    オープニングの瞬間はスポットライトを当ててくれるのかな。
    緊張が高まる。
    ・・
    ざわざわとした雰囲気。もうだいぶお客様が集まっているようだ。
    臨戦態勢。頭は冴え、小さく折り畳まれた身体中にアドレナリンが行き渡る。
    心臓が破裂しそう。
    まだ身動きできない自分の身体がもどかしい。
    しかし我ながら4時間よく頑張ったなぁ。えらいよぉナツキちゃん!
    「今夜は当家のクリスマスパーティにようこそお越し下さいました」
    挨拶が始まった。何かお金持ちのお家のパーティみたいだ。
    ・・
    突然明るいライトの光に包まれた。この中にいても眩しい。
    「では、皆の挨拶でパーティを始めましょう」
    背中に電気が走ったようだった。ごくりとつばを飲み込む。
    いよいよだ。いよいよだ。
    「では、お祝いの言葉を・・、メリークリスマス!」
    「メリークリスマスっ!」
    目の前に光の線が走り、その直後典子はすべての拘束から解き放たれて落下した。
    長時間屈曲してた肢体が大きく伸びるのを感じながら、典子はまばゆい光の中に飛び出した。
    私はプレゼント。お客様へのプレゼント。
    どうぞ私のすべてを楽しんで下さい。
    空中を舞いながら考えた。

    15.綾乃2
    「その後、どうなったんですか?」綾乃が聞いた。
    「まる1時間吊るされた。ほとんど裸で、12月の屋外に」典子が笑って言った。
    「そんなときでも風邪なんか引かないんですよね、EAは」
    「その場では平気やったけど、夜中に熱出して2日寝込んだよ」
    「まあ」
    「何やってたか親にばれて怒られるし、洋子さんが謝りにくるし、大変やったんよ」
    「あはは」
    「でもね、最後は理解してもらったし、今はいい思い出」
    「よかったですね」
    「次の春に私が短大に上がったら、オフィス・シマは株式会社キョートサプライズになったの」
    「・・ねえ、典子さん」綾乃は思いついたように言った。
    「そのときのコスチュームは、もうつけてないんですか?」
    「あれっきりやね。さすがに露出が激しくて、お客さんも引くみたいで・・」
    「あは、ちょっと残念。あたしも着てみたかったりして」
    「綾乃ちゃん、つけてみる?」
    「え、あるんですか?」
    「うん、多分」
    典子は立ち上がり、練習場の片隅に積み上げられたダンボール箱の一つを無造作に下ろす。
    まさか。
    「ほら、あった」
    「何でそんなにすぐに見つかるんですか」
    「勘よ。ベルトで寸法調整できるから、綾乃ちゃんのボディでも大丈夫よ」
    典子が手にしたそれは、本当に皮のベルトと金具だけで構成されていた。
    「はい、脱いで」
    ・・
    練習場にみずほと長谷川、そして洋子が入ってきた。
    「いやぁ、見ないで下さぁい」綾乃が悲鳴をあげる。
    「まあ」
    「おっ」
    「あら、懐かしい」
    そこには身体の一部をわずかに覆う以外は、着用者を拘束することが目的であるかのようなボンデージをまとった綾乃が立っていた。
    綾乃は後ろ手錠をされて、典子に両肩を押さえられてもじもじしている。
    「えへへ。抵抗したので、ちょっと手錠を使いました」典子が言った。
    「典子さんにも、Sの気があったんですか~」綾乃が情けない声で言った。

    16.綾乃3
    ある大学の学生サークルのイベント会場に荷物が届けられた。
    貼付されたラベルには『EA1体入 名称:アヤカ 、梱包:13時、使用期限:17時』と記されていた。
    木箱の中から直径50センチの銀色の球体が吊り上げられる。
    ・・
    2時間後、観客で埋まった会場の熱気が増した。
    司会者の合図とともに、ステージ上のくす玉が割れ、中から綾乃が飛び出した。
    その身体には典子が初めてつけたボンデージタイプのコスチュームをつけていた。
    上気した顔には笑みがあふれる。
    うぉ~という歓声の中、綾乃は満面の笑みで空中を舞った。

    17.二体詰め1
    その年の12月。
    直径60センチの球体に典子と綾乃が密封されている。
    二体詰め。典子と綾乃が考えた新しいくす玉だった。
    S型くす玉よりは大振りだが、それでも普通は一人で入るサイズに二人で詰められる。
    連日のようにくす玉の中でのポーズと姿勢を研究して実験を繰り返した。
    ワイヤを巻く油圧ドラムやくす玉を吊るすフックなども改良してもらった。
    そしてこの日初めて観客の前に飛び出す。
    ・・
    二人を吊るすハーネス、わずかに二人の身体を覆う衣装、そして二人の肉体そのものが狭い空間を埋め尽くしていた。
    密着し四肢を絡み合わせて体積を最小にする。指の先まで自由に動かせる余地はなかった。
    綾乃の柔らかい身体から感じる圧力が彼女の呼吸に合わせてゆっくり変化する。
    典子は綾乃を意識する。
    綾乃の息がだんだん速くなっていた。
    典子には分かる。綾乃は切なくなったのだ。
    綾乃ちゃん、まだまだ、まだまだやで。頑張って・・。
    右の手に触れる綾乃の脇腹にそっと力をかけてあげる。
    自分の腰に当たる綾乃の手からやや荒っぽく圧力が返ってくる。
    この空間では会話は不可能だ。うなり声程度なら出せなくもないが、それですら楽でない行為なのだ。
    お互いに無言で抱え合っている状態。
    だから二人は、密着した素肌を通じて互いを意識し、気遣った。
    相手の呼吸の状態、腕や腹、太ももの筋肉の力の入れ具合、心臓の鼓動、すべてを感じて、無言で励まし合う。
    突然、綾乃が深呼吸した。逃げ場のない典子の身体は強く圧迫されて息が止まる。
    「ん・・」
    小さなうめき声とともに綾乃の身体にきゅっと力が入り、押さえつけられた典子に苦痛が走る。
    あぁ、綾乃ちゃんっ。・・駄目!
    二体詰めでは、どちらかがパニックになったらそれはもう一人の危機になる。
    綾乃の呼吸と自分の呼吸が合うように細心の注意を払いながら、右手から綾乃に意思を送り込む。
    落ち着いて、落ち着いてっ、綾乃ちゃん・・。
    やがて綾乃の身体から力が抜けて、呼吸のペースがゆっくりになった。
    典子と綾乃の呼吸が同期する。綾乃が息を吸うタイミングに合わせて典子が吐く。綾乃が吐くと典子が吸う。
    限られた空間の中でお互いに最も負担の少ない呼吸法だ。
    はあ~、よかった・・。
    典子は綾乃の肌をやさしく押す。
    ごめんなさい・・。
    綾乃が押し返してくる。
    ・・
    あ~ん、乱れちゃったぁ~っ。ごめんなさい、典子さん!
    綾乃は典子を意識する。
    典子の小柄な身体は綾乃と上下反対の向きで、綾乃に抱きしめられている。
    オープン後にそれぞれのワイヤが絡まないように試行錯誤の結果、典子の身体は綾乃と反対の向きに詰められた。
    頭が完全に真下を向いている訳ではないが、綾乃にはそんな体勢で長時間耐える典子が信じられなかった。
    厳しくて辛いことなのに、典子さん、まるで自分から望んでやっているみたい。
    あたしも、本当はもっとそういう扱いを受けたいよ。あぁ。
    きゅん。
    一瞬、綾乃の胸が高まって、両方の太ももにぎゅっと力を入れてしまった。
    「く」典子が小さなうめき声を上げた。
    あ、いけないっ。
    典子の手が苦しそうに綾乃を押してくる。
    あ~、またやった。ごめんなさ~い!
    綾乃は典子の身体をそっと押さえ返した。
    ・・
    「そんなになって、くす玉の中で感じちゃったりしない?」ある日、真奈美が二人に聞いた。
    典子と綾乃は視線を交し合ってから笑った。
    「えへへ。・・少しだけ」綾乃が答えた。
    「くす玉の中の綾乃ちゃん、可愛いのよ」典子が言う。
    「典子さん、変なこと言わないで下さいよぉ」
    「あはは。でもね、もし綾乃ちゃんがくす玉の中で本当に壊れたとしたら、そのときは私も一緒に壊れて死ぬんやらね」
    「?」綾乃。
    しばらく黙ってから、真奈美が言った。
    「素敵なアトラクションだね」
    「でしょ」典子。
    「???」綾乃。

    18.二体詰め2
    東山の豪邸。
    そこは2年前に典子が初めてくす玉から飛び出した、その場所だった。
    パーティに招待された多数の観客がテラスに出て庭の巨大なクリスマスツリーを見ている。
    夕闇が迫り、ツリーのイルミネーションがまさに点灯されようとしていた。
    「・・では、メリークリスマス!」
    「メリークリスマスっ!」
    クリスマスツリーが明るく輝くと同時に、その横に吊られていた銀色の球体が割れ、中から二人の少女が飛び出した。
    二人は白い飾りがついた真っ赤なビキニ姿で、手前の綾乃が上、後方の典子が下の位置で浮かんでいる。
    ビキニのコスチュームは身体に強く固定されて、トップとボトムそれぞれ背中にハーネスが目立たないように伸びている。
    二人を見上げる観客が驚いている。あんなところに、いつからくす玉が吊ってあったのだろう?
    空中でポーズを取りながら、典子は上を見上げる。そこでは綾乃が同じように典子を見下ろしていた。
    球体空間の中で身も心も共にした二人。
    典子には綾乃の思いが自分のことのように理解できた。綾乃にも典子の思いが伝わっているだろう。
    拍手と歓声を浴びながら、二人はにっこり微笑みを交わし合う。
    この寒気の中でも、二人の額には汗が光り、露出した素肌からうっすらと湯気が立ち上っている。
    やがて人々はパーティの部屋に戻り、ライトアップされたクリスマスツリーと宙吊りの少女達が庭に残された。
    室内からガラス越しに楽しむ、可愛いクリスマスビキニの生きたインテリア。
    真冬の夜空の下、いつまで飾られるのか二人は知らない。
    しかし二人は、ほのかな性感とここちよい達成感に満たされながら、いつまでも楽しそうに空中で舞っていた。

    19.さらに、それから
    「典子さん、本当はもっと小さいくす玉に入りたいんやないですか?」綾乃が聞いた。
    「えへへ、」典子が答える。
    「次は45センチかな」
    「45センチって、これくらいですよぉ」綾乃は両手を広げて示してみせる。
    「う~ん。・・昔読んだ本なんだけどね、小さな鉄の玉が勝手にスロープを登ったり、自在に転がるイリュージョンがあるの」
    「ふんふん」
    「そのタネはね、身体が柔らかくって肩とか膝の関節を自由に外せる人が中に入って動かしていたんだって」
    典子は綾乃の手を取って言う。「ね、その人が女性だったら素敵~、って思わない?」
    「典子さんっ、まさか自分でも関節外してくす玉に入りたいんですか?!」
    「うんっ♥」
    「そ、それは、危険ですよぉ」
    「わかってる」典子は寂しそうに笑った。
    「この年になってからは無理なのよね。私、どうして子供のときに関節外しをマスターしなかったのか残念でしかたないの」
    「典子さん、無茶苦茶言ってますよ」
    「綾乃ちゃんは若いから、まだまだチャンスがあると思うんやけど」
    「ぎっくう、ってもう冗談はいい加減にして下さいよぉ」
    「あはは」「もう」
    典子は真面目な顔になった。
    「でもね、いつかきっとやってみせるよ。これは冗談じゃなく」
    綾乃は典子を見て微笑む。
    「あたし、典子さんを尊敬してますから。だから、きっと典子さん、もっと小さいくす玉やれると思います」
    「ありがと。綾乃ちゃん」
    典子は綾乃の頬を両手で挟んだ。
    「そのときは一緒に頑張りましょうね」
    「ひぇ~ん、だから勘弁して下さ~いって」



    ~登場人物紹介~
    野村典子: 18才(高校生当時)~20才(現在)。本話主人公。EA。SNはナツキ。
          人間くす玉に入りたくてKSに押しかける。
    市川綾乃: 17才。典子の後輩EA。SNはアヤカ。
    島洋子: KS代表。
    三浦みずほ: KS企画演出担当。
    岡崎真奈美: 22才(当時)~24才(現在)。EA。SNはマナミ。
          パチンコ屋の新装開店でくす玉から登場して高校生の典子と出会った。
    長谷川行雄: KSの指導者。何故か女の子を縄で縛るのが上手。

    第4話よりさらに1年前の物語です。
    典子は、明るく社交的、頭の回転が速くて何事にも要領がよく、行動力も抜群の優等生です。
    しかし、その内面に持つ精神的な被虐性は洋子も舌を巻くほどのレベルで、彼女はやがてKSでなくてはならない存在になって行きます。

    キョートサプライズの構想ができるよりもずっと前から、私の中では女性を詰めたくす玉への想いがありました。
    実は、本話で「球体空間*」と名付けた各章は、私が書き連ねてきたくす玉に関するいろいろな文章をまとめ直したものです。
    これらの想いや妄想は、くす玉に詰められた典子が次々と抱いたことにしたので、結果的に彼女は大変なマゾヒストのようになってしまいました。
    もう少しノーマルな女の子にしてあげてもよかったかな、と作者として少々申し訳なく思っています。

    直径50センチの人間くす玉が実現可能かどうかはわかりません。
    仮にできたとしても、長時間コンパクトに折り畳まれていた女性が突然空中に放り出されて正常でいられるのか、疑問です。
    二体詰めにいたっては、正にファンタジーの世界だけのものでしょうね。
    それでもいつかは本当に美女が飛び出す人間くす玉をこの目で見たいものだと願っています。




    キョートサプライズ第4話(1/3)・佳織

    1.プロローグ
    生まれたときから家の中にはマジックがあふれていた。
    シルクハットとステッキ、絹のハンカチ、トランプ、大きなリング。鳩だってちゃんと飼っていた。
    それらに囲まれて父さんは暇さえあればマジックの練習をしていた。
    父さんは市役所に勤める公務員だったけど、あまり仕事は熱心じゃなかったと思う。
    地元では有名なアマチュアマジシャンの父さん。その父さんとマジックサークルで知り合って結婚した母さん。
    そんな一家だから、僕は3才からマジックの技を覚えさせられた。
    小学校3年生でコンクールに優勝して「天才マジック少女」なんて新聞の地方面に載ったこともある。
    今と比べてずっと素直だったから、マジックをすることに何の疑問もなかった。
    そういえばイリュージョンを初めて見たのも小学校3年生、父さんに連れられて行った何かの発表会だった。
    舞台の袖に大きな箱が置いてあって、台の中に女の人が隠れるところを見た。
    「あれ何?」
    僕の問いに父さんは「あれはイリュージョン」と馬鹿にしたように答えたのを覚えている。
    確かにそれは子供向けの紹介本にも載っているような、稚拙な美女の胴切りだった。
    しかしそれが舞台の上で演じられる様は、父さんのマジックとは全然違う胸の高まりがあった。
    上の箱に横たわる女性と、下の台の中に隠れている女性。とりわけ台の中の女性の役目にとてもどきどきした。
    今から振り返ればそれは性的興奮だったと思う。
    中学生になって無闇に背が伸びバスケットに熱中し始めると、マジックの練習が苦痛になってくる。
    毎晩父さんとマジックを練習し、発表会では母さんが作ってくれたドレスを着て演技をする。
    あの頃のサークルでは技術が尊重されて、エンタテーメントとしてのマジックはあまり顧みられなかった。
    あの人は鳩を10羽出した、私は12羽出すといった競争は僕には全然面白くなかった。
    どうせならイリュージョンをやりたいと父さんに言ったこともあるけど、あれは色モノと取り合ってもらえなかった。
    僕は練習を怠けるようになり、ある日、発表会をサボって同級生の友達と遊びに行った。
    その夜父さんと喧嘩し、とりなす母さんとも喧嘩した。
    両親と和解するには時間がかかったけど、それから僕はマジックを強要されなくなった。
    高校生になって、僕も男の子が気になり出す。友人に言わすと僕は惚れっぽくて、奥手らしい。
    高校2年の夏、友人とグループで行った海で出合った男の子は僕より背が高くて優しかった。
    たちまち僕は舞い上がり、何回かデートして、ファーストキスをして、それから彼の家で押し倒されかけた。
    彼のお腹を蹴飛ばして飛び出し、家に走って帰って泣いた。
    卒業するまでに3人の男の子と付き合ったけど僕はバージンのままだった。
    3年生になると僕の身長は175センチに達し、ある大学からバスケットで特待生の誘いを受けた。
    両親は喜んだが、僕が選んだのは理系の大学への道。
    生まれて初めて本気で勉強し、一浪の末に京都の国立大学の理学部へ進学した。
    家を出て京都での一人暮らしが始まる。
    両親には大学の学費だけでなく学生アパートの家賃や食費など出してもらっていたから、余分な出費はできるだけ避けるつもりだった。
    だから大学でもお金のかかるサークルなどには入らず、アルバイトをしようと思っていた。

    2.スーパーよねくら駐車場
    5月の日曜日、買い物に寄った食品スーパーの駐車場に看板が立っていた。
    『キョートサプライズ・イリュージョンショー 午後1時・3時』
    時計を見ると12時50分。僕は見物していくことにした。
    さほど広くない駐車場の奥に小さなステージが特設されている。
    電柱に針金で取り付けたスピーカーから流れる音楽は音が割れていて半ば雑音だった。
    客席にはパイプ椅子が並べられ、その間を子供達が走り回っている。
    ステージの奥にはイリュージョンの道具類が置かれていた。
    イリュージョンはしたことがなかったけれど、父さんの部屋のマジック雑誌などである程度は知っていた。
    ステージの周りには出演者らしい女性が二人。
    それぞれ赤と黄色のストライプのブラウスをおへその上で結んでいる。
    下は共に青いデニムのショートパンツとブーツ姿。
    「前から順番に座って下さ~い。あ、僕、ステージには上がらないでくれる~?」
    ほとんど会場整理係だ。
    父さんのサークルの発表会でも客席に小さな子供がいると大変だったなと思い出す。
    僕は何だか楽しくなって一番後ろの空席に座った。
    1時を少し過ぎて、一人の女性がインカムをつけてステージに立った。
    胸につけた名札に「まなみ」と書かれている。
    「お待たせしました~。KSのイリュージョンショーにようこそ。ごゆっくりお楽しみ下さい!」
    会場にいるのはほとんど家族連れの買い物客だ。
    もう一人の女性がガラスの箱を押してくる。彼女は「かすみ」さんだった。
    箱は、中に人間一人がお尻をついて何とか入れる程度の大きさ。
    まなみさんが箱の正面の蓋を開けて中に人形を置く。人形はまなみさん達と同じコスチュームを着ていた。
    蓋を閉めて鍵を掛ける。上から大きな紫色の布を掛ける。
    「ワン、ツー、スリー。・・はい!」
    布を取るとガラス箱の中は白い煙が渦巻いていた。その中にうずくまる人影が見える。
    蓋が開かれると、白煙とともに青いブラウスの女性が立ち上がり、ぱちぱちと鳴る拍手の中ポーズを取る。
    彼女は「なつき」さんだ。
    どこかで見たような普通のイリュージョンだ。ネタは多分箱の底だろう。
    でも久しぶりに見たマジックは楽しかった。僕も拍手をする。
    それにしても、僕がここに来てからなつきさんの姿は見なかった。
    ずっと箱の中に隠れて待っていたのかな?
    ここはオープンなステージで幕なんてないし、もしかしてショーが始まる前からずっと箱に入ってた?
    少し胸が高まるような気がした。・・まあいいや、今はステージを楽しまもう。
    次の演目は、かすみさんが演者になるセクシーなコメディマジックだった。
    かすみさんはステージの柱に後ろ手に縛り付けられる。
    会場から一人の男性を上げて目隠しをして横に立たせ、大きなカーテンで周囲を囲ってしまう。
    「これで密室で~す。だからって女の子に悪いことしちゃ駄目ですよ?」まなみさんが笑いを取る。
    すると中から大仰な「あれ~」という悲鳴がする。
    カーテンを開くとかすみさんは縛られたまま黄色いビキニ姿になっていて、横で目隠しの男性は彼女の衣装を両手に持っている。
    「もう、悪いことしちゃ駄目って言ったでしょ」まなみさんに言われて、事態がわからない男性の姿に客席から笑いが起こる。
    続いて男性の着ているジャケットの前ボタンを外し、再びカーテンで囲む。
    「ではよろしいですか? ワン、ツー、スリー!」
    カーテンが開くと、今度はかすみさんは縛られたまま、ビキニの上から男性のジャケットを着ていた。男性はシャツ姿。
    かすみさんは縄を解かれてジャケットを脱ぎ、男性に返す。「ありがとうございました。はい、スーパーよねくらさんの金券で~す!」
    男性は頭を掻きながら客席に戻る。会場から拍手。
    僕も笑いながら拍手する。
    かすみさんは本当は縛られてなんかいないんだろう。でも楽しい演出だ。
    次に、背の低い箱が出てきて、かすみさんがビキニ姿のまま箱に入る。
    箱の蓋を閉じて、まなみさんとなつきさんが大きな剣を一本ずつ刺してゆく。
    10本以上の剣を刺された後、箱からかすみさんの片手が出て振られた。
    そして剣を全部抜いて、掛け声を掛けると、箱の周囲の板がすべて開いてぺちゃんこにつぶれる。
    中には誰も入っていない。今度は本当に大きな拍手がする。
    かすみさんが消えてステージはまなみさんとなつきさんだけだ。
    「では、クライマックスはKSオリジナルの大魔術です!」
    大きな箱が出される。高さ2メートル弱、幅と奥行きは5~60センチくらい。
    なつきさんがブーツを脱いで箱の正面から中に入ると、まなみさんが扉を閉める。
    扉には中の女性の体のラインが描かれていて、その顔の部分を開くと楕円形の穴になつきさんの顔がのぞく。
    向かって右横の下側と正面左下にも小穴があって、そこから手先と足先が出てぴくぴく動いている。
    まなみさんが銀色の板を正面真中に水平によいしょと押し込む。もう同じ場所にもう一枚。
    そして向かって左側に立ち、箱の上に手をかけて引いた。
    すると板を刺した高さの左端を支点にして、箱の上半分が横に折れて倒れてしまう。
    傾いた上半分の箱の中に見えるなつきさんは微笑んでいる。
    下半分の箱から出ている手先と足先もぴくぴく動いている。
    まなみさんは上半分をそのまま回転させて、左下にばたんと置いてしまう。
    高さが半分になった二つの箱が並んだ状態になる。
    左の箱でなつきさんの顔は上下逆になって、目をくるくる回している。
    右の箱からは指先と爪先が出てぴくぴく動いている。二人の女性を使ったマジックかな?
    まなみさんは今度は右側に回って、下半分の箱を持ち上げる。
    さっきと同じ位置を中心として箱は回転し、やがて転倒した上半分の箱の上に上下逆に乗った形になる。
    もちろん、その間下半分の箱から出た指先と爪先はぴくぴく動いたままだ。
    二つの箱が上下逆になって再び繋がると、まなみさんは指先と爪先をひっこめさせ、そして顔面の蓋も閉じる。
    真中に刺さった銀色の板2枚を引き抜く。
    そして掛け声とともに正面の扉を開く。
    中ではなつきさんが頭を下に両手を伸ばして逆立ちしていた。会場から大きな拍手。
    まなみさんは扉を閉めて、もう一度掛け声。
    扉を開くとなつきさんは頭を上にして普通に立っていた。
    箱の前に出てまなみさんと二人でポーズ。再び拍手。僕も感心して拍手を続けた。
    初めて見たイリュージョンだった。ここのオリジナルって言ってたけど、面白かった。

    3.スーパーよねくら・ショーの合間
    他の観客とともに僕も席を立って、会場を離れる。
    スーパーの中に買い物に入ろうとして、突然、さっきのイリュージョンで消えてしまったかすみさんのことを思い出した。
    ネタ的には絶対箱の中に入ったままだ。だから次のショーまでの間に出てくるはず。
    僕は会場に引き返した。
    駐車場はもう誰もいなくて、なつきさんが客席のパイプ椅子を整理していた。
    ステージの上ではまなみさんがイリュージョンの道具を移動させている。
    二人で片付けしているようだ。
    なつきさんと目が合う。
    「さっき客席にいらっしゃいましたよね」なつきさんから声をかけてくれた。
    「あ、はい。とても面白かったです。・・また、見させてもらっていいですか?」
    「もちろん! 次は3時からですから、待っていて下さいね」なつきさんはにっこり笑う。
    「また同じ内容のもあるけど、許してね」
    「あ、いえ、」何で僕はしどろもどろになっているんだろ。
    すぐ近くで見るなつきさんは小柄でスレンダーで、背は僕の胸くらいまでしかなかった。
    なつきさんは会釈をして片付けに戻った。
    僕も再び背中を向け、少し離れてから振り返る。
    ステージの横でなつきさんとまなみさんがスポーツドリンクを飲みながら談笑していた。
    かすみさんが消えた箱は元通りに組み立てられた状態でなっている。
    少しどきどきしながら、急いで買い物を済ませて会場に戻り2回目のショーを待った。

    4.スーパーよねくら・第2回公演
    第2回目のショーはなつきさんの司会で始まった。
    1回目でかすみさんが消えた箱が登場し、中にまなみさんが入る。
    なつきさんが剣を刺す。まなみさんの手が現れてひらひら振られる。さっきと同じだ。
    そして剣を抜いて、箱がつぶれて開く。
    中からまなみさんとかすみさんの二人が立ち上がってポーズをとる。大きな拍手。
    かすみさんは最初のコスチュームに戻っている。う~ん、やっぱりずっと箱の中に入っていたの?
    箱を眺めて考えていると、次の演目が始まった。
    銀色の柱が今度は2本登場する。
    それぞれ上端に手枷がついていて、まなみさんとかすみさんが両手を万歳の形で拘束された。
    なつきさんが、直径60センチくらいのリングを上から通して柱に一定間隔で取り付けて行く。
    二人の女性は、それぞれ12本のリングの中に両手を上に伸ばして閉じ込められた形になる。
    なつきさんが二人の回りを歩いて一周しながら大きなカーテンで隠した。
    そのまま歩いて一周してからカーテンを開く。
    すると、まなみさんとかすみさんはリングの中で拘束されたまま、お互いに入れ替わっていた。
    なつきさんは再び一周してカーテンを閉め、そしてもう一度カーテンを開ける。
    今度は二人は、リングの中で逆立ちになっていた。さっきまで手首を固定していた手枷には足首がはまり込んでいる。
    リングを一本ずつ外してもらって、まなみさんとかすみさんが解放されて、再びポーズをとる。
    会場とともに僕も拍手。
    イリュージョンの経験がない僕にはマジックとしての難易度が高いのかどうかはわからなかった。
    でもお客を楽しませる演出。父さんのサークルでは決してない、わくわくする楽しさ。
    僕もちょっとやってみたいな。
    次の演目では会場から誰か選ぶようだ。
    「女性の方、・・そこの背の高い貴女、どうぞいらして下さい~」
    なつきさんが手招きするのは・・、僕だった!
    一瞬、僕もやりたいと思った気持ちを読まれたのかと思った。
    かすみさんがやって来て手を引かれ、ステージに上げられてしまう。
    「お名前は?」
    「あ、小嶋佳織です」
    「佳織さんですか。ずいぶん身長がおありですね~。うらやましいなぁ」
    なつきさんが下から見上げながら言う。僕はしかたなく笑うだけ。
    「では、今からやるイリュージョンに協力して下さいね!」
    引き出されてきたのは、大きな耐火金庫。横に立つのはまなみさんだった。
    「何でもない普通の金庫です。どうぞ調べて下さい」
    僕は金庫の中にネタを隠す蓋や扉がないか調べた。僕にマジックの経験があることをこの人達は知らない。
    しかし、そのつもりで見ても特に仕掛けのある金庫には見えなかった。
    「では彼女が中に入ります。貴女は横で何もないことを見ていて下さいね」
    まなみさんが、耐火金庫の扉を開けて、お尻から中に入る。
    大きい金庫といっても、人が入るには狭い。まなみさんは身体を丸め両足を小さく折り畳んで中に入り、指先を振る。
    なつきさんがそのまま金庫の扉を閉めて、ダイヤル錠をくるくる回した。
    「さあ、これで絶対に脱出できません」
    かすみさんがカーテンを持ってくる。
    「ここに立っていて下さいね」そう言って、なつきさんは僕と金庫のまわりをカーテンで覆ってしまった。
    音楽が変わる。「では、何が起こるかお楽しみ~」
    何が起こるんだろう? 僕は金庫を見下ろす。
    すると何と金庫全体を上に持ち上げて、まなみさんが出てきた。
    あまりに単純でチェックしても分からないはずだ。
    この金庫には底がない。正確には底板の上に金庫の形状をした覆いをかぶせたものだった。
    まなみさんは微笑みながら人差し指を口の前で立て、それから僕の右手を引いた。
    「さあ、ここに座って。小さくなって」まなみさんが小声で言う。
    「え?」問答無用だった。
    僕は底板の上に体育座りさらせれ、その上から金庫をかぶせられてしまった。
    狭い! 後頭部がぎゅっと押し付けられる。膝の間に顔を押し込んで暗闇の中で我慢する。

    マナミ入り金庫

    佳織入り金庫

    「はい~」外ではなつきさんの声と拍手が聞こえる。
    客席から上げた女性とまなみさんが入れ替わるイリュージョンだ。
    かりかりと錠前を回す音がして、目の前の扉が開いた。
    再び拍手が聞こえる。
    「はい。では出てきて下さ~い」
    僕は腰を浮かして出ようとするが、金庫の中は天井が極端に低くてうまく動けない。
    どうやって固定したのか、金庫は底板にしっかり固定されて持ち上がることはなかった。
    じたばたしていると、まなみさんが足を持って引っ張ってくれた。
    外に引き出されてばたんと尻餅をつく。恥ずかしい~。
    ジーンズだからいいけど、もしスカートだったら丸出しになるところだ。
    「佳織さんに拍手~。・・ではこれ、スーパーの金券ね!」
    僕は客席に戻る。周りの家族連れが小さく拍手してくれた。
    ぼりぼり頭を掻きながら椅子に座る。
    今になって心臓が破裂しそうだった。何も心の準備ができていないうちの出来事だった。
    はあ~。もうちょっと格好よく金庫から登場したかったな。
    ステージ上では最後のプログラムが演じられていた。
    最初のときと同じ、上下二つに割れて回る箱の中で、なつきさんが逆立ちして笑っていた。
    ・・
    アパートに帰ってポケットをまさぐると『スーパーよねくら、金五百円』と書かれた紙切れがくしゃくしゃになって出てきた。
    あぁっ、これ使うの忘れてたよ~。

    5.再会
    それから2週間、平穏な学生生活が続いた。
    アルバイトは探してはいたが思うような仕事に出会えず、講義の後は図書館や本屋で時間を過ごすことが多かった。
    ある雨の日の夕方、四条通りの書店で立ち読みしていた僕の横で「あら」と声がした。
    横を見ると小柄な女性が会釈している。誰だっけ、と、すぐに思い出した。
    「貴女はイリュージョンの」僕は言った。
    「ええ。あの時は急にごめんなさいね」
    「いいえ。・・えっと、なつきさん、でしたよね?」
    「それは芸名で、本名は野村典子です。あの、お一人?」
    「そうですけど」
    「よかったら、一緒にお茶しません?」
    ・・
    アーケードの屋根越しに通りを見下ろす喫茶店の2階、窓ガラスには雨が流れている。
    京都に来て、学校以外の人と一緒に過ごすのは初めてだった。
    テーブルには『キョートサプライズEA ナツキ』と書かれた名刺が置かれている。
    「え、小嶋さんって京都大学!?」
    「いや、あの、一浪してるし、そんなに大したことないですから」
    「そんなことないですよぉ。あたしなんてありきたりの短大やから」
    「学生なんですか」
    「ええ、これでもぴかぴかの一年生」
    「なら同じですね」
    「身長は全然違うけどね」
    二人で笑い合う。
    浪人してるから僕の方が年上になるけど、典子さんは落ち着いていて、何となく頼れる雰囲気があった。
    「あの、あのときどうして、僕、私を選んだんですか?」
    「ん~、それは、興味を持って見てくれていたし、きっと断らないで出てきてくれると思ったから」
    「そうですか」
    「で、どうでした? あたし達のショー」
    「とても面白かったです。イリュージョンを間近で見たのは初めてだったけど、どきどきしました」
    「よかった。実はあれ、まだ2回目の営業やったの。うちはできて間がないから」
    「もうばりばりのプロに見えましたよ。ネタもよくできてたし」
    典子さんの目が少し光った。
    「小嶋さん、もしかしてマジックに詳しい?」
    「え、分かります?」
    「普通はネタなんて言葉使わないから」
    「あ、そうか~。実は父が趣味でマジックやってるんです。イリュージョンはしませんけど」
    「ああ」典子さんは納得したようだった。
    突然あのときの光景を思い出した。ガラス箱から煙とともに出現した典子さん。
    「あの、種を聞くのはルール違反なんですけど、聞いていいですか」
    「はい?」
    「あのとき最初にガラスの箱から出てきましたでしょ」
    「うん」
    「野村さん、いつからネタに入ってたんです?」
    典子さんは少し沈黙してから言った。
    「鋭いなぁ。まあいいか。・・実はね、あのステージをセットアップしたときから」
    「え?」
    「もっと本当のことを言うと、朝、事務所の倉庫からトラックで出発したときにはもう入ってたの」
    「・・それって、どれくらい前ですか?」
    「3時間くらい前かな。・・あ、驚かせてしまった?」
    「驚きました。そんなの普通のステージでは考えられないですよ」
    「うん、でもうちでは普通なんよね。あの会場、隠れて準備する幕も楽屋もなかったでしょ?」
    「それはそうだけど・・。でも3時間もネタに入って過ごせるものですか?」
    「狭い空間に長時間詰められるのは訓練してるから」
    なぜか彼女の言い方にどきりとした。僕はコーヒーをごくりと飲む。
    「じゃあ・・、剣をたくさん刺す箱のイリュージョンで、女の人が消えましたけど・・」
    「うんうん」野村さんは楽しそうに笑っている。
    「2回目のショーで同じ人が出てきましたけど、もしかして休憩の間もずっと箱の中でしたか?」
    「大当たり!」
    「もう凄すぎて何も言えませんよぉ」
    「あはは。でもそこまで見破ったのは、お客さんの中で、きっと小嶋さんだけやね」
    「それはそうかも・・。でも、さすがにプロですね。趣味の素人じゃできないことです」
    「この先どっかのスーパーでまたあたし達見かけて、同じネタやってても黙っててね」
    「それはもう分かってます。それにしても女の子3人だけであんなに楽しいショーをやれるなんて、それだけでもすごいですよ」
    「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいな」典子さんはまたにっこり笑ってくれた。
    ・・
    喫茶店の前。
    「その名刺に事務所のホームページのURL載せてるから、ヒマなときにでも見て下さいね」
    「はい」
    「それから、小嶋さん、さっき女の子3人って言ったでしょ?」
    「ええ」
    「本当は4人で演ってたのよ」
    「え?」
    「じゃあね!」
    典子さんは手を振って歩いていった。
    残された僕はしばらく考え込んでしまった。4人も出てくる演目があっただろうか。
    その夜、アパートの布団の中で気がついた。最後の上下2分割の人体切断。
    上半身は典子さん、下半身は誰だったんだろう。

    6.KSホームページ
    僕は生まれて初めてインターネット喫茶に入った。
    パソコンは欲しかったが、お金がないから買えなかった。
    本屋で買ってきた入門書を手に、典子さんの名刺のURLを入力する。
    『キョートサプライズ(KS)のページへようこそ!』と書かれた画面が開く。
    『15才未満のお子様の閲覧は禁止します』との文字に少しどきりとする。
    僕は大学生だから大丈夫。そう納得しながら『Enter』を押す。
    画面が切り替わって、女性の全身の写真が現れる。これは、典子さん!
    典子さんは銀色のレオタードのような衣装を着て黒いバックの前でポーズをとって笑っている。
    よく見ると、彼女はワイヤで吊られて空中に浮かんでいる。
    頭上には二つに割れた銀色の球体があって、まるでくす玉みたいだ。
    と思ったら『美女のくす玉』の文字が目に入る。
    『解説』のアイコンをクリックすると別のウインドウでくす玉の解説が開いた。
    キョートサプライズから届いたくす玉を吊るしてリモコンで開くと中から美女が飛び出すという、
    くす玉は直径50センチから90センチの大きさで、設置してからオープンまで2~3時間は大丈夫だという。
    直径50センチなんて、よほど身体が柔らかくないと駄目だろうな。
    それにしても、女の子を仕込んだくす玉が届くの?
    僕の中で何かがぞくぞくする。
    次のページは『プレゼントボックス』だった。
    これは、プレゼントを持った女の子が出てくる箱だ。
    バニーガールとかミニスカのサンタとか、いろんな女の子が箱から立ち上がっている写真があった。
    この色黒のバニーのお姉さん、僕を金庫に押し込んだ、まなみさんだ。
    そして次のページはイリュージョンだった。
    詳しい説明はなかったけれど、小さな写真の中にはあの人体上下切断の写真もあった。
    他にも、いくつかのセクシーゲーム、イベントのモデル、コンパニオン派遣などが紹介されている。
    ふう。ついため息をついてしまう。
    華やかな世界だと思った。僕の知らない世界。
    目を離すことができない。黙って次々とページを開いていく。
    そして『メンバー募集』の文字が目に入った。

    続き




    キョートサプライズ第4話(2/3)・佳織

    7.申込
    何度かインターネット喫茶に足を運んでKSのページを見た。
    追加のお金を払っていくつかのページを印刷し、アパートで眺めて考えた。
    夏休みになって実家に帰省し、そして9月の前期試験が済んだ次の日、とうとう僕はKSに電話をかけた。
    ホームページの募集を見たことを告げると、すぐに事務所に来るように言われた。
    ・・
    住宅に囲まれたビルの2階。
    思ったより狭い部屋で女性4人と男性1人が僕を迎えてくれた。
    KS代表者の島洋子さん、企画演出の三浦みずほさん。男性は技術担当の長谷川行雄さん。
    そして後の2人はあのイリュージョンショーに出ていたまなみさんこと岡崎真奈美さんと野村典子さんだった。
    「小嶋さんが来てくれるかもしれないって、実は期待してたの!」
    典子さんが喜んでくれる。
    「貴女は何をしたいと思って応募してくれたのかしら?」洋子さんが僕を見て聞く。
    「はい。できたら・・」ちらりと典子さんを見る。
    「・・イリュージョンをやりたいんです」
    「まあ、なら貴女の背丈を生かすネタをしなくっちゃね・・」
    「女でこの身長は、やっぱり駄目でしょうか」恐る恐る僕は聞く。
    「そんなことないわよ」洋子さんは笑う。「して欲しいことは沢山あるもの」
    「うちは弱小事務所だから、何でもしてもらいますわよ」みずほさんも笑いながら言う。
    「ネットで見て来たんだったら、EAのお仕事は知ってるわね?」
    「はい」
    「あれは宣伝のページだから、実際にはもっと厳しいと覚悟してね。・・くす玉とか、やれる?」
    「はい。それもやってみたい、です。僕が入れるくす玉があれば」
    「ほほほ、そうね。最初はいろいろ演ってもらって、適性を見ましょう」
    「佳織、ちゃん、って呼ぶね」真奈美さんが言った。
    「歌とかダンスとか、何でもいいんだけど、得意なことはある?」
    ごくり。来た! 膝の上の手をぎゅっと握る。
    「はい、あの僕、じゃなくて私、昔マジックをやってまして」
    「まあ! じゃ、何か見せてもらえるかしら?」洋子さんが聞く。
    「はい、では・・」夕べひさしぶりに練習した小ネタだ。
    鞄からボールペンを出して右手に持つ。
    それを指揮者のように振る。左手に何もないのを示してからその手をグーに握る。
    そしてその上からボールペンで叩こうとすると、ペンが消えている。
    あれ、という顔をして左を向いて右耳を指すとボールペンが引っかかっている。
    そして左手を開くと、小さなウサギのぬいぐるみが出てくる。
    「次は・・」
    ウサギのぬいぐるみを白いハンカチに包んで、左手の甲に乗せる。
    右手でポケットからニンジンのぬいぐるみを出して、ハンカチの前で振る。
    するとウサギが本当に跳ねるようにハンカチがぴくぴく動き出す。
    最後にハンカチが本当に跳ね上がって落ちてくるのを右手でキャッチする。
    ハンカチに開いて何も入っていないのを見せてお辞儀する。
    「まあ、こんな感じです」
    「きゃあ、すごい~!」その場にいた女性は皆喜んでくれた。
    「あの、つかぬことを聞くけど」今まで黙っていた長谷川さんが口を開く。
    「君、和歌山の小嶋幸三さんと関係あるかなぁ?」
    「はい。父ですけど」
    「ああ、やっぱり。僕、幸三さんと昔付き合いがあったんですよ」
    「え?」
    「多分、中学生くらいだった君も見た覚えがあるよ」
    昔の光景を思い出す。父さんのサークルの定期発表会。
    公民館の広間で僕は白いドレスを着てスライハンドのマジックを演じている。
    たまに父さんと親交のあったプロマジシャンも来て、コーチや批評をしてくれた。
    僕は長谷川さんの顔を見る。スマートでハンサムで憧れていた若いマジシャン・・。
    「あの、もしかしてアイ・長谷川さんですか?」
    「あはは、昔の芸名やけどね」
    「長谷川さん、貴方、何かあると思ってたけど、やっぱりただの警備員じゃなかったのねぇ」
    典子さんがあきれたような顔をして言う。
    洋子さんとみずほさんはにこにこ笑っている。
    「けいびいん?」
    「そう。今、マジシャンは廃業して、本職は警備会社勤め」長谷川さんはそう言って笑う。
    「彼にはKSでいろいろ指導をしてもらってるのよ」と洋子さん。
    「・・で、思うんだけど、小嶋さん、エスケープアートに挑戦しない?」長谷川さんが言った。
    「あ、それ賛成。 彼女くらいの背があったら見栄えがするし」みずほさんが賛成する。
    「格好いい! あたしもいいと思います!」典子さんと真奈美さんが続く。
    僕はきょとんとしている。エスケープアートって何だろ?
    「佳織ちゃん、やってみる?」洋子さんが聞く。
    「あ、はい。頑張ります」
    「じゃあ、長谷川君、佳織ちゃんのコーチお願いね」
    ・・
    僕は何かわからないうちに翌週から長谷川さんに鍛えられることになった。
    インターネット喫茶で「エスケープアート」を調べてみる。
    縄抜け、手錠外し、脱出。これってフーディーニの世界だ。
    マジックやイリュージョンとは違う、特殊な技術だと思っていた。
    それにネットで見る女性エスケープアーティストはみな美人で素敵だった。
    僕にできるだろうか?

    8.初縄
    KSの練習場は事務所の隣の建物で倉庫のような場所だった。
    長谷川さんとみずほさん、それと典子さんが来ている。
    長谷川さんによると、エスケープアートは最初に拘束されるときで成否が決まる。
    だから、拘束する側と拘束される側の息がぴったり合うことが絶対条件だそうだ。
    そして僕は、典子さんとペアを組むことになったのだった。
    「縛られたこと、ある?」長谷川さんが聞く。
    「ありません」
    「だろうね。じゃ、まず簡単に縛るから体験してみてね」
    「はい」
    長谷川さんは鞄から縄を出す。柔らかそうな縄だった。
    「手を後ろに組んで」
    僕は緊張して両手を背で組む。
    「そのままじっとしてね」
    長谷川さんが僕の背中で作業を始める。
    手首に縄が巻きつき、それが胸の上下を巡って何周かし、さらに上腕にも絡んで・・。
    魔法にかかったようだった。
    エスケープアートに挑戦する以上、縛られる経験は当然必要だと思っていた。
    想像していたのは、恥ずかしさと縄の痛さ。
    でも生まれて初めて受けた緊縛には痛さなんて全然なかった。
    恥ずかしさはあったけど、皆が真面目な顔をしているので僕もできるだけ普通にしていた。
    身体を締め付ける縄は不思議と心地よかった。
    どき、どき、どき・・。自分の胸の音がすぐ耳元で聞こえるようだった。
    「はい。後ろを向いて」
    突然言われて少し慌て、振り向こうとしてよろめく。
    長谷川さんが両肩を支えてくれる。「あ、ごめんなさいっ・・」
    謝りかけて顔を上げると、正面の壁に大きな鏡がついていて、僕の全身が映っていた。
    僕は自分のことを、スポーツで鍛えてがっしりとした、色気も何もない大女だと思っていた。
    でもそこに映っていたのは、強さなど微塵も感じられない、か弱い女の子だった。
    やや乱れた前髪と潤んだ目、ベージュのブラウスの胸に食い込む縄。
    あぁ。
    本当に久しぶりに、僕は自分のことを可愛い、と思った。
    「・・佳織ちゃん?」
    「あ、・・はいっ」
    「気持ちいいでしょ?」みずほさんだった。
    「・・はい。ちょっと意外ですけど・・」僕は深呼吸する。胸の高まりで息が詰まりそうだった。
    「長谷川君の縄って、どの女の子にも気持ちいいみたいなのよねぇ」
    そう言ってみずほさんは笑う。典子さんも微笑む。
    「そこに腰を降ろして、足を伸ばして」長谷川さんが平然と言う。
    僕はそのままぺたりとお尻をつき、足を揃えて伸ばす。
    長谷川さんは黙って、僕のジーンズの膝と足首も縛った。
    「動ける?」
    「いいえ」
    「じゃ、もうちょっと本格的な縄掛けを典ちゃんで実演するから、そのまま見ていてね」
    典子さんが長谷川さんの前に立つ。Tシャツとローライズのジーンズ姿。
    長谷川さんは縄束を手に取った。
    「絶対に脱出できないきっちりした縛りをするよ」

    9.典子緊縛
    典子さんの受ける縛りは僕よりずっと厳しかった。
    背中で縛られた両手首の位置はほとんど肩甲骨の上。
    そのままうつ伏せに寝かせ、片足ずつ膝で折って、足首と太ももをまとめて縛る。
    左右の足の結び目から縄を延ばし背中に結び、その真ん中をまとめて、縄の輪っかを追加する。
    「この輪が大体重心位置にくるようにする」
    そう言いながら長谷川さんは天井から滑車を降ろし、フックを輪にかける。
    よいしょと声をかけながらロープを引く。
    小柄な典子さんの身体は逆海老にしなり、たちまち1メートルくらいまで吊り上げられる。
    「どう?」長谷川さんが聞く。
    「はい、OKです」典子さんは宙に浮いたまま答える。
    何てことをするんだろう。
    僕の胸の鼓動は最高の状態。無意識の間に両足に力を入れて、互いに押し付けていた。
    長谷川さんは、背中の輪を中心に典子さんの身体をゆっくり回している。
    滑車のロープが十分ねじれたら、今度は典子さんの膝を持って後ろに下がり、そのまま手を離した。
    典子さんの身体はロープのねじれが戻るのに合わせてくるくる回転しながら、振り子のように大きく揺れた。
    ぎぃ、ぎぃ・・。天井からのロープがしなる音が聞こえそうだ。
    典子さんが平然としているのが不思議だった。
    僕なんて、もう何かに我慢できないような状態なのに・・。
    「エスケープアートでは、最終的にはこれに近い状態から脱出して欲しいと考えてる」
    あぁ。僕は気が遠くなりかけた。
    長谷川さんの言葉のせいだけじゃない、身体が本当にくらくらする感じだった。
    ぎゅっと目をつぶる。典子さんが揺れるのに合わせて、自分まで揺れているようだ。
    「佳織ちゃん?」僕の様子に気づいたみずほさんの声がする。
    「おっと・・」長谷川さんが慌てて寄ってきて支えてくれる。
    「あ、大丈夫です・・」そう言うが、全然大丈夫でないことは自分で分かった。
    「少し横になって休んで」
    僕は縄を解かれ、床にマットレスを敷いて寝かせてもらう。
    仰向けになって、胸を押さえたまま目を閉じた。
    ・・
    「あたしに小嶋さんを引き上げられるかなぁ」典子さんの声がする。
    「そうだね、ちょっと体格差がありすぎるねぇ」
    「ねえ、長谷川君」みずほさんの声。
    「ルーレットみたいに回転する仕掛で縛ってエスケープしたらどうかな」
    「なるほど。それはいいかな。緊迫感がアップするね」
    「あたしもそれ、素敵やと思います」
    「粟倉君にデザイン頼んでみるわ」
    相談が続いている。どうやらエスケープアートの内容が決まったようだった。
    「縛られたまま、ゆっくり回転したら、絵的にも綺麗ですよね」典子さん。
    「でもすぐばれるネタは使っちゃ駄目よ」
    「それはそうだね。小嶋さんにはちゃんとトレーニングしてもらうから」
    僕は目を開けてゆっくり起き上がる。まだ胸のどきどきは続いているけど、もう大丈夫だと思った。
    「あ、小嶋さん」典子さんが気付いてくれる。
    「すみません、もう大丈夫ですから・・」そう言いながら起き上がって典子さんの方を見た。
    典子さんは先ほどと変わらず、ぎちぎちに縛られたまま吊るされていた。
    「の、典子さん、平気なんですか?」
    僕はもう一度よろめきそうになりながら聞く。
    「ノンちゃんはこういうのに慣れてるのよ」みずほさんが笑いながら言う。
    「アトラクションのアイディアを考えるときとか、よく実験台になってくれてるの」
    そう言いながら典子さんの顎に人差し指と中指をかけて上に押し上げる。
    「ん・・」典子さんの頭が反り上がると身体全体がいっそう逆海老にしなる。
    爪先が後頭部につきそうだった。
    「元体操部だから、とっても柔らかいし」
    みずほさんが指を外すと典子さんの身体は元に戻る。でもまたすぐに指を掛けて顎を持ち上げる。
    「あぁん」典子さんの身体がまたぎゅっと反る。
    本当に柔らかい!
    「みずほさん、人が無抵抗やからっておもちゃにしないで下さいっ」
    そういう典子さんは普段とまったく変わらない話し方だった。
    「あ、小嶋さん、本当に大丈夫やから心配せんといてね」典子さんが僕に向かってにっこり微笑む。
    「あの、典子さん・・」僕は聞く。
    「はい?」
    「典子さんって、そんな目にあってどんな気持ちなんですか?」
    典子さんは縛られたまま少し困ったような表情をして、それから答えてくれた。
    「・・正直に言うとね、あたしも結構感じてるよ」そしていたずらっぽく笑う。
    「さっきの小嶋さんみたいに」
    顔面がかーっと熱くなり、火がついたようだった。
    「あ、いや、僕、そんな・・」僕はしどろもどろになる。
    「いいのよ。普通の女の子はそれで当たり前なんだから」横でみずほさんも頷いている。
    「あたしが落ち着いてられるのは、多少は慣れてるのと、訓練してるから」
    「訓練、ですか」
    「うん」
    「僕も、訓練すれば大丈夫になれるでしょうか?」
    「大丈夫よ」みずほさんが横から励ましてくれた。

    10.トレーニング
    それから数週間、僕は典子さんと一緒に長谷川さんからトレーニングを受けた。
    最初は両手を前で合わせて手首を縛るだけの練習。
    エスケープアートでは最初の縄の掛け方次第ですべてが決まることが分かった。
    配慮された指一本の隙間があれば、手首の拘束は自分で外すことが可能だ。
    全身に縄を掛けられていても、基本的には肘から先を解放できれば脱出できる。
    典子さんは頭の回転がとても速くて器用だった。
    今までは縛られる方しか経験しなかったそうだけど、縛る側でも一流になれそうだった。
    脱出可能な縛りと絶対に脱出できない縛り。観客から気づかれずにそれぞれ使い分けられることが重要だ。
    僕も縛り方を理解するため、典子さんを縛らせてもらう。
    長谷川さんによると、典子さんは小柄で相当無理なポーズでも平気なので縛りの練習台にはぴったりだとのこと。
    ・・
    KSでEAをするためには、エスケープ以外のトレーニングも必要だった。
    イリュージョンで女性が隠れる空間、いわゆるネタ場は15センチ程の深さの溝だった。
    その中に典子さんと真奈美さんの二人が隙間なく入ってくれたときはすごいと思った。
    驚いたことに僕でも大抵のネタには入ることができた。
    特に厳しく鍛えられたのは長時間狭い空間の中で過ごすことだった。
    KSではどの女の子も皆5~6時間は平気で耐えられるとのこと。
    僕は最初は30分も持たずに音を上げた。悔しくって、道具の木箱を借りてアパートにもって帰りその中で過ごす練習を毎晩やった。
    ・・
    トレーニングを重ねるうちに、他の女性メンバーとも仲を深めていく。
    岡崎真奈美さんは練習は厳しいけどオフでは優しい、姉御肌のリーダー格。
    辻井美香さんはあの「かすみ」さん。派手でちょっと遊んでいる感じの人。だけど、衣装を自分で手作りしちゃうすごい人。
    佐久間恵さんは色白で童顔。高校生でも通りそうだけど、本当は何歳なのか謎だ。
    石原妙子さんはもの静かで、大人びた人。
    ・・
    典子さんとはプライベートでも仲良くなった。
    それぞれの学校のこと、好きな音楽やテレビのこと、いろいろ話をしてそれぞれの部屋にも泊まったりした。
    互いに、典子、香織と呼び合う仲になっていた。
    彼女は少女くす玉を初めて知ったときに、やもたてもいられなくなってKSに入ったという。
    「くす玉なんてどこで知ったの?」
    「パチンコ屋さんの新装開店に出くわしたの。そこで真奈美さんがポンと飛び出して」
    「それでトキめいちゃったの?」
    「うん!」
    典子は少し考えて、それから言った。
    「でもね、入ってから分かった」
    「何を?」
    「こんなにエッチやってこと」
    二人は顔を見合わせて笑った。
    「そういえば、僕も、KSのページを見たとき、15才未満禁止だったんでドキッとしたな」
    「香織は真面目やもんね」
    「典子も真面目に見えるよ、外見は」
    「え、外見だけなの?」
    ・・
    「ステージネームはどうする?」洋子さんが聞いた。
    「別に本名と同じでいいです」
    「そう、じゃ、カオリで登録するわよ」
    ・・
    僕専用のエスケープアートの大道具が届いた。
    銀色に輝くステンレスのパイプで構成されたそれは、巨大なハムスターの回し車のように見えた。
    回し車の直径は2.2メートル、幅50センチ。
    その回転軸は裏側で支えられて、モーターで1分間に10回の速さでゆっくり回転する。
    朝倉さんという男性が装置を組み立てて調整する。この人はKSの大道具を設計、手配してくれるエンジニアだそうだ。
    「片もちの車軸だけど100キロやそこらの荷重なら全然平気ですから。ただし、これを倒して水平で回さないで下さい」
    「うちで一番お金のかかった道具よ」洋子さんが笑って教えてくれる。
    「あの、これから縛ってもらっていいですか?」僕は恐る恐る聞いた。
    「もちろんOKよ」
    僕はこの回し車、もといルーレットに縛り付けられて、回してもらった。
    僕が回転するのに合わせて、僕の視界の中で僕を見守る人たちの姿もゆっくり回転する。
    回転しながら手足に力を入れてみる。ぜんぜん動かせなかった。
    脱出のための配慮がない純粋な縛りをお願いしたから、僕には何の自由もなくただ回っているだけだ。
    まず最初は、何もできない無力な状態を体験したかったのだ。
    僕はこれから訓練して脱出できるようにならなければならない。
    ここは僕の戦場だ。僕はここで戦って自由を得て見せるのだ。

    続き




    キョートサプライズ第4話(3/3)・佳織

    11.大学
    11月の最初の連休。学園祭で華やぐ大学。そこで僕は父さんと母さんを案内している。
    広いキャンパスを歩き回ってベンチに座る。
    「大きい学校ねぇ」
    「うん、さすがに立派なもんやな」父さんと母さんは喜んでくれていた。
    「でしょ? 僕もこれだけ隅々まで回ったんは初めて」
    「で、香織のその、アルバイト先は近いんか?」父さんが突然聞く。
    「まあ、すぐ近所って訳じゃないけどね・・。それより今夜は河原町の方だから、よろしくね」
    「それは母さんと行くけど、イリュージョン専門なんやなぁ?」
    「うん、でも絶対面白いから、大丈夫!」
    夜までの間、昔行った洛北の寺社を再訪するという両親と別れて、僕は会場へ向かった。

    12.公演準備
    KSのイリュージョン公演会場は繁華街のはずれにある高級クラブだった。
    もう大学生とはいえ、普通だったら僕なんかが近寄ることもできない場所だった。
    店の前に来ると、二人の男性が大道具をトラックから降ろしているところだった。
    一人は長谷川さん、もう一人は短い髪を茶色に染めた、ちょっと軽い感じの人だった。
    「こんにちは、ご苦労様です!」
    「ちょうどいい、手伝って」
    通り過ぎようとしたところを長谷川さんに止められて手伝わされてしまった。
    「その下を持って・・、ほいっ」
    茶髪の男性と一緒に台車で荷物を運び込む。
    「これは丁寧に運んでくれる」長谷川さんは木箱の一つに手をかけて言う。
    「?」
    「生ものだから」
    箱には『くす玉・取扱注意』のラベル。
    「!」
    二人で木箱を下ろして台車に乗せる。
    「ふう、やっぱり身体がでかいと頼りになるわ」
    「ふん、よかったですね、私が男の子みたいで」
    「え? 君、女の子だったの」茶髪の男性が大仰にわざとらしく驚いてみせる。
    「長谷川さ~ん、この人誰なんですかぁ?」
    「ごめんごめん、僕、三井です。長谷川さんの弟子でときどき手伝ってます」
    「俺は弟子をとった覚えはないぞ」
    長谷川さんの弟子って、マジシャンの弟子だろうか。
    それとも女の子を縛る方の弟子? 少しどきっとした。
    ・・
    店内ではメンバーが準備に忙しそうにしていた。
    「香織ちゃん、くす玉の方お願いね」カウンターの奥から洋子さんが叫ぶ。
    トレーナーともんぺのような服の上に汚れた割烹着を着ている。ほとんどおばさんだ。
    心の中でくすっと笑ってくす玉の準備を手伝う。
    木箱の蓋を外し、発砲スチロール片を袋にすくい出す。
    天井からワイヤを下ろしてフックを掛ける。
    きらきら光るくす玉が目の高さに浮かび上がる。こんな小さな球の中に女の子が入っているのだ。
    直径50センチのS型くす玉。このサイズができるのは・・。
    「典子、頑張ってね」小さく声を掛ける。もちろん返事はない。
    彼女は限界までコンパクトに折り畳まれて指一本動かせない状態。
    長谷川さんと三井さんは淡々と点検とテストを続ける。
    小型くす玉は開封すると現場ではもう組み立てられないから、注意が必要だ。
    外観に問題ないことをチェック。安全ロックが掛かっていることを確認してオープンのテスト。
    リモコンを操作すると「カチッ」と音がしてオートロックが外れる。大丈夫。
    オートロックをセットし直し、安全ロックを外す。
    リモコンでワイヤを上昇させる。くす玉がうす暗い天井に吊り上げられていく。
    くす玉に入って30分、開演までさらに2時間。典子はあの中で時を過ごすのだ。
    「ほいっ、壁の飾りつけ手伝ってね!」
    ぼうっとくす玉を見ていたら、真奈美さんに背中を叩かれた。
    いけない。ぺろっと舌を出して準備を手伝う。
    ・・
    「会場はOKね」みずほさんが言う。
    フロアにはパイプ椅子が揃えられ、大道具はステージの横に並べられている。
    「皆さんご苦労様!」洋子さんの声がした。
    そちらを見ると、白いスーツにお化粧も決めた洋子さんが立っていた。
    後ろでまとめてアップにした髪には、大きなパールのバレッタが光る。
    さっきとは大違いだった。
    「香織ちゃん、さっきとは大違いって思ったでしょ」
    洋子さんに言われて、全員が笑う。この人は超能力者だろうか。
    「じゃあ、次は女の子のセットアップ」みずほさんが指示する。
    「妙ちゃん」長谷川さんが奥から声を掛ける。
    「はい」妙子さんが歩み出る。
    彼女は人体切断回転箱のネタ係だった。
    そう、僕が始めてスーパーの駐車場で見たあのイリュージョン。
    あのときも、切断される女性の下半身を務めたのは妙子さんだった。
    長谷川さんが箱の台にあたる部分を開ける。台の中には長さ160センチ、幅40センチ、深さ15センチのネタ場がある。
    上下に分かれる箱はこの台の上に載り、ネタ場から箱の下半分に移動が可能だ。
    妙子さんは首から下を覆う黒いタイツを着ていて、さらにタイツと同じ素材の全頭マスクをかぶっている。
    タイツは左の手先と右の足先だけが開いているだけで、マスクには目鼻も開いてないから、ちょっと不気味だ。
    妙子さんが台に入ってネタ場に横たわると。長谷川さんがその上から蓋をかぶせて、さらに箱を載せて固定する。
    箱を取り外さないと台の蓋は開けられないし、箱の正面扉は外から鍵が掛けられている。
    今日、妙子さんはこのイリュージョンが唯一の仕事だ。
    ここは幕のないオープンステージなので、ネタ役の女性は最初のお客様が来場するまでに箱に入り、最後のお客様が帰ってから出してもらえることになる。
    入っている時間は4時間近くになるだろう。
    厳しいけれど、それがKSのポリシーなのだ。

    13.開演
    それほど広くない店内はお客様で一杯だった。
    手の空いている女性メンバーが飲み物をサービスする。
    父さんと母さんが後ろの方に座っていた。
    「いらっしゃいませ!」
    「お、香織」
    「楽しんでね」僕は二人にグラスを渡す。
    父さんは少し恥ずかしそうに受け取って笑ってくれた。
    ・・
    やがて会場が暗くなる。
    「本日はキョートサプライズのライブにお越し下さいましてありがとうございます」
    ステージに立つみすほさんがスポットライトに照らされる。
    「今回は特にイリュージョンを中心にやって参ります。短い時間ですがどうぞお楽しみ下さい!」
    音楽が鳴り、スポットライトが入り乱れる。
    やがて天井の一点にライトが集中し、輝く球体が照らし出される。
    音楽が小さくなったその瞬間、くす玉が割れて開く。
    舞い落ちる紙吹雪とテープ。その中から飛び出して空中に浮かぶ少女。
    「おぉ~」会場から歓声。次いで拍手。
    長い吹流しのような飾りをつけて舞うのはもちろん典子だ。
    音楽が再び大きくなり、ステージが明るくなる。
    女性メンバーが3人(その一人は僕)、それぞれ金属枠や透明パネルなどを持って集まる。
    それらを組み合わせて固定し、透明な箱を組み立てる。
    箱はキャスターのついた4本足が付き、その底は床面から50センチほど浮いている。
    大きな白布が箱にふわりと掛けられる。そのままステージ上をくるくると回す。
    音楽が止みまり布がさっと引かれると、箱の中には洋子さんがしゃがんで入っていた。
    周囲のロックを解いて箱を分解する。
    立ち上がって拍手に答える洋子さん。
    ・・
    今度の公演では洋子さんを出現させる。そう企画したのはみずほさんだった。
    高さ約30センチのミニステージ、その中には女の子が3人は入ることができるネタ場が作り込んである。
    洋子さんはその中に1時間前から入っていて、白布で覆われた瞬間、床と箱の隠し扉を通って箱の中に移動したのだった。
    「え~、洋子さんが引き受けてくれるんですかぁ?」
    美人で颯爽としているが、普段は怖い上司の洋子さんだ。
    いくらKSのポリシーとはいえ、洋子さんにそれを頼むのには抵抗があった。
    「大丈夫よ」みずほさんと真奈美さんだけがそう言って皆の前で洋子さんに相談した。
    「おもしろそうね。やりましょ」
    「いいんですか?」
    「もちろん。お客様に喜んでいただけるなら、何をしてもらっても構わないわよ」
    洋子さんはにこにこと応諾してしてくれたのだった。
    ・・
    ステージで手を振る洋子さんの上で典子が垂れ幕を垂らした。
    『もう一回、拍手っ』
    垂れ幕の字に笑い声と拍手が沸き起こる。

    14.第一部
    洋子さんの挨拶が終わると、空中に吊るされていたくす玉と典子が下ろされる。
    ステージでは美香さんの『ツイスト』、その次に真奈美さんと恵さんの『ダンボール剣刺し』が演じられる。
    この間に僕と典子は楽屋代わりの更衣室で衣装を着替える。
    ・・
    美香さんの演技が始まっているようだ。
    箱の上から出た美香さんの首を万力のようなもので挟んでくるくる回すイリュージョンだ。
    目を白黒させたり、足をばたばたさせたりコミカルな演技で客先から笑い声が聞こえる。
    典子は腰を曲げたり伸ばしたりしている。
    「大丈夫?」僕は典子に聞く。
    「大丈夫よ。しばらく固まってたから、少し慣らしてるだけ・・」
    やがて、ショートパンツにブラウスをおへその前で結んだ美香さんが更衣室に戻ってきた。
    「お疲れ様っ」
    声を掛けて典子と一緒に会場に出る。
    僕の衣装はノースリーブの青色チャイナ、典子は赤色チャイナだ。
    ステージでは長谷川さんがガムテープで閉じたダンボール箱に無造作に剣を一本ずつ突き通していた。
    このイリュージョンにはいわゆるタネがない。
    箱の中の女性は、本当に中で剣をよけながら頑張っている。
    しかもKSではオリジナルのバリエーションを加えている。
    女性を入れたダンボール箱を観客に何回か転がしてもらうこと、そして箱に穴を開け女性の手を出させガムテープで固定してしまうことだ。
    これで箱に詰められた二人にとって、このイリュージョンの難度は格段に高くなる。
    剣を刺す長谷川さんとの息が完全に合わないと、成功はおぼつかないどころか、大怪我の危険もある。
    長谷川さんは全部で14本の剣を刺し終えた。
    ダンボール箱の側面から生えた手はぴくぴくと動いている。
    しばらく置いてから長谷川さんはサーベルをすべて抜き、手首のガムテープを解く。
    そしてもう一度先ほどの男性客に頼んで、箱の向きを元に戻した。
    蓋をシールしたガムテープの部分にカッターナイフを入れて蓋を開く。
    真っ赤なビキニに衣装チェンジした真奈美さんと恵さんが立ち上がり、長谷川さんに手を取られて箱から出る。
    拍手と歓声の中、ポーズを決めてお辞儀する3人。
    ぼうっと見つめていたところへ、典子に背中を叩かれてはっとした。
    「さあ、行こ!」

    15.スーツケースのメタモ
    MCのみずほさんに紹介されて僕と典子がステージに立つ。
    「いらっしゃいませ~、ナツキです」
    「カオリで~す。今度は私達二人でマジックします!」
    「さっきのは怖かったよねぇ~」
    「うん、はらはらしちゃいました。」
    「私達のは怖くないから、安心して見て下さいねっ」
    二人で道具を運んでくる。
    スーツケースとパイプの足で支える丸いカーテン。
    「この中に美女が入りま~す」
    「ちょっと、美女って?」
    お互い黙って自分を指差す。しばし沈黙。
    にやっと笑って、じゃんけんをする。
    典子がグー、僕がチョキ。ガッツポーズをする典子。ちぇっとする僕。
    「じゃあ、ナツキちゃんを閉じ込めちゃいます!」そう言いながら僕は客席から中身が見えるようにスーツケースを開く。
    典子は靴を脱ぎ、スーツケースの中に丸くなって入る。
    「ではバイバイっ」僕はスーツケースの蓋を閉めて鍵を掛ける。
    スーツケースを立てて、ステージ中央のカーテンの手前に押して行き、再び寝かせて置く。
    靴を脱いでスーツケースの上に立ち、そのままカーテンを周囲に引いて僕の顔だけが見えるようにする。
    「では、何が起こるか! いって見ましょう」
    ドラムロール。僕はカーテンの中に頭を下げて隠れ、すぐに再び顔を出す。
    カーテンを開くと、僕の衣装は赤いチャイナ服に変わっている。寸足らずで、僕の膝上までしかない。
    「やっぱり小さい~」ちらりと裾を持ち上げてひらひらさせる。
    カーテンを開き、スーツケースから降りてその蓋を開く。
    箱の中に寝ていた典子が起き上がる。「もう終わり?」「はい、立って立って」
    典子を立たせると彼女はだぶだぶの青いチャイナ服を着ている。
    裾をだらっと流している。「長いよ~」歩きにくそうに典子は膝をばたつかせる。
    「しかたないなあ~」と言って僕は典子の服の裾を下にぐいと引く。
    青いチャイナ服が腰の下で裂けて、ミニスカートになる。
    「やぁ~ん」わざとらしい悲鳴を上げる典子。
    客席から笑い声と指笛がなる。
    「じゃあ、も一回挑戦するからまたここに入りなさい!」「またぁ?」
    有無を言わせず僕は再び典子をスーツケースに押し込んで蓋をする。
    スーツケースの上に立ち、カーテンを周囲に引く。
    「さあ、今度はどうなるでしょう~?」
    ドラムロール。頭を下げて隠れる。そのまま客席から見えない時間が少し長い。
    「はい!」カーテンから典子が顔を出す。
    拍手の中、カーテンを開くと銀色のレオタード姿の典子が出てきてポーズ。
    典子はカーテンを片付けてスーツケースの蓋を観客に向かって開く。
    しかしその中は空っぽで、青と赤のチャイナ服だけが入っていた。
    音楽が変わり、典子はスーツケースを片付け、ガラス箱を押してくる。
    それはとんがった先を下向きになるように支えられた四角錐の箱だった。
    ガラス箱が空であることを示してから、大きな紫の布を箱にかぶせて覆う。
    音楽が止まり、布を取り去る。
    僕はガラス箱の中で小さくなって手を振った。
    典子が箱の鍵を解いて蓋を開ける。僕は立ち上がって箱の外に出る。
    典子と同じ、派手なレオタードが恥ずかしい。
    二人でお辞儀して拍手を浴びる。

    16.第二部
    10分間の休憩のあと、イリュージョンを再開する。
    美香さんの新作『シルエットプレス』が演じられる。
    透明な筒に美香さんが入ってから、周囲に模造紙を巻いて貼り、後方からライトで照らして中をシルエットで見せる仕掛けだ。
    上から大きなピストンを押し込んで、中の美香さんのシルエットがだんだん押しつぶされる様子を見せる。
    ピストンが最後まで押し込まれると赤い液体が溢れてこぼれる。ちょっとダークなイリュージョン。
    僕が次の演目の準備を終えてステージ脇に行くと、ちょうど美香さんが別の箱から出てきて拍手と歓声を浴びるところだった。
    次の演目、それは僕の本命、エスケープアートだ。

    17.エスケープアート
    ステージには銀色の大きな回し車が設置されている。
    僕は身体にぴったりフィットした黒い皮製の衣装で、その横に立っている。
    胸元やお腹が大きく露出したボンデージ風のコスチュームだ。
    典子が縄を持って横に立った。互いに目を合わせ、深呼吸して気持ちを一つにする。
    「エスケープアートとは全身を拘束された状態から脱出するパフォーマンスです。かのフーディーニがいろいろな脱出を演じたのは有名で・・」
    みずほさんのMCが続く中、典子が緊縛作業を開始した。
    後ろで合わせた両手の手首を縛り、さらに手首、肘、上腕を胴体に巻いた縄で固定する。
    口にガーゼを詰めてその上からガムテープを2重に貼り付ける。そして皮製の目隠し。
    その状態で回し車の前に置かれた台に立たされ、合わせた両膝と足首をそれぞれ縛られる。
    一本の棒のようになった僕の身体の首、胸、腰、膝、足首に新たに縄が巻かれ、そのまま回転車に縛り付けられる。
    僕が脱出に成功するかどうかは、典子の縄掛け次第だ。
    今、典子は僕のために真剣勝負をしている。僕は典子を100%信頼して身を任せる。
    ・・やがて、典子は僕の耳元に小声でささやいて離れていった。「OK、ファイト!」
    回し車ががくんと回り始めた。
    さあ、これからは僕の真剣勝負だ。
    「はたして彼女は無事にエスケープできるでしょうか。回転スタートです」
    僕はすぐに背中の手首に意識を集中させる。
    ・・
    1分間で10回転。6秒で1回転。3秒おきに上下が逆になる。
    視界が奪われているので、それは自分の頭に血が上ることでしか分からない。
    今回、目隠しと猿轡は僕が提案してつけてもらったものだ。
    理由のひとつは目隠しで余分な景色が見えない方が集中し易いこと。
    もうひとつの理由はエンターテイメントとしてその方がお客様に楽しんでもらえるから。
    実は、目隠しと猿轡は両手が自由になれば簡単に取れるので、エスケープアートの難易度にはあまり関係がない。
    このエスケープアートは見た目の派手さ程には難しくないのだ。手首さえ緩めば後は順番に解けばいい。
    そう、手首さえ解けば。
    ・・
    僕の顔、真っ赤かも。
    ふと思った。頭に上る血がきつくなってきた。
    突然、BGMの音楽と観客のざわめきが耳に入ってきた。お客様はプロペラのように回転する僕をじっと見つめていはずだ。
    ふう。どれくらい経ったのかな。
    今までの練習で分かっている僕の限界は2~30分だ。2~30分、200~300回転。
    いけない。集中が途切れてる!
    あわてて手首を意識する。その縄はわずかに緩んだきりで、ほとんど進展していない。
    やばいかな?
    ・・
    ぐりっと縄が動いた。チャンス!
    慎重に隙間を広げる。限界まで手首をひねる。あ~、もう少し。
    あせっちゃ駄目だ。この緩みを締めてしまったら終わりになる。
    ここは時間無制限の一本勝負。慎重に、確実に。
    ・・
    手首が離れた。
    右手の肘から先が自由になる。腕を横に出して手首をぶらぶら振ってみる。
    ああ、気持ちいいっ。
    あとは、典子が絶妙の位置に作ってくれた結び目を順にたどればいい。
    首の縄を外し、目隠しと猿轡をむしりとる。
    まぶしいライトの光と新鮮な酸素! ぼうっとしていた頭がすっきりする。
    上半身が自由になると、転げ落ちないように回し車の枠を左手でグリップしながら下半身に右手を伸ばす。
    回転のタイミングを見計らい、足が下になるときに縄を解いた。同時に、左手を離す。
    どしん。足から床に飛び降りた。
    が、下半身に力がはいらず前に崩れて、床に膝をついてしまった。あ~、みっともない。
    とりあえず、そのまま天井を見上げて胸いっぱいに深呼吸。
    ライトが眩しいな。
    ・・ふと、自分が拍手と歓声と口笛の嵐の中にいることに気づいた。
    典子が走ってきて抱きしめてくれる。
    「頑張ったねっ。おめでとう~!」
    典子に支えられて立ち上がり、客席に手を振った。

    18.エンディング
    それから僕は更衣室で少し水を飲んだ後、横になってぐうぐう寝ていたそうだ。
    最後のイリュージョンとしてあの切断回転箱とゲーム大会があったはずだけど、知らない間に終わっていた。
    気づいて会場に戻ると、洋子さんの終わりの挨拶が済んでお客様が帰りかけていた。
    お店の出口のところに立っていたら、ちょうど両親が出てきたのに出くわした。
    一緒にそのまま階段を上がって店の前に出て初めて会話する。
    「香織、よくやったな」
    「格好よかったわよ」
    「僕、父さんと母さんが見てるの、すっかり忘れてたみたい」
    「それでいいんや。・・まあ、イリュージョンも悪くはないな」
    「でもね、あなたが最初に片手の縄を外したとき父さんたら、やった!って叫んだのよ」
    「母さん、よけいなことは言わんでいい」
    「僕、しばらくここで頑張ってみるから」
    「ああ、佳織のやりたいと思うことを頑張りなさい。学校の勉強も手抜きしないようにな」
    「うん、ありがとう」
    「それから・・」
    「?」
    「その、いらぬお世話かもしれんが、あまり若い娘が肌を出しすぎるのは関心せんな」
    はっと気づいた。僕はへそ出しで胸の谷間も大きく開いた衣装のままだった。
    行きかう人がじろじろ見ながら通り過ぎて行く。
    「あ、いけない」
    「いいじゃない。セクシーで素敵よ」母さんが言ってくれた。
    「香織がそんな格好するなんて、母さん夢にも思わなかったけどね」

    19.エピローグ
    KSに参加して1年が過ぎた。
    僕はイリュージョンとエスケープアートが中心だが、他のアトラクションでも頑張っている。
    驚いたのは僕には無理と思っていた人間くす玉で、身長の大きい方が見栄えがするからと僕を指名してくださるお客様がいること。
    典子にそう言ったら悔しがっていたな。
    KSはメンバーも増えて、高校生の後輩までできた。
    最近は、僕や典子、美香さんの世代が中心になってアトラクションをこなすようになってきた。
    真奈美さんや妙子さん、恵さんは忙しいのかだんだん出演が減ってきているようだ。
    そういえば、典子も僕の知らないバイト?を始めたみたいだ。
    そのうち教えてあげるって言われたから、いずれ分かるんだろうけど。
    典子とは親友として、戦友?として、相変わらず仲良くやっている。
    最近彼女が急に色っぽくなって僕はあせっている。
    配達バイトの男の子とつき合っているみたいだから、そのせいかな。
    KSでは長谷川さんが女性メンバーの一番人気だ。
    長谷川さんは特定の女の子と深い関係になるのは意識して避けているみたいだけど。
    僕はというと、実はあの茶髪の三井さんに憧れたんだけど、何も告白しないうちに恵さんが彼女だと知って失恋してしまった。
    典子は僕のことを可愛い女だって言ってくれるけど、世の男性はなかなかそう思ってくれないようだ。
    これでもくす玉の中では小さな?胸を押さえてどきどきしながらオープンの瞬間に備えているんだけどね。
    ま、いつか僕を分かってくれる男性が現れると信じて頑張っていこうと思う。



    ~登場人物紹介~
    小嶋佳織: 19才。本話主人公。EA。SNはカオリ。
          大学進学で京都に来てKSと出会う。エスケープアートに挑戦する。
    野村典子: 18才。EA。SNはナツキ。佳織の親友となる。
    島洋子: KS代表。
    三浦みずほ: KS企画演出担当。
    岡崎真奈美: 23才。EA。SNはマナミ。KSのリーダー的存在。
    長谷川行雄: KSの指導者。何故か女の子を縄で縛るのが上手。

    第1~3話の約1年前の話になります。
    佳織は一浪で大学に入り京都に出てきました。
    真面目な性格のせいか人と積極的に交わるのが得意でなく、友人も多くありません。
    作者は、キョートサプライズに登場する女性の中で佳織が一番好きです。
    彼女は典子やKSのメンバーと接し、やがて恋をして、クラブのFBにまでなりますが、それはまだまだ先の物語。

    本話ではエスケープアートが出てきます。
    実は私はエスケープアートにそれほど詳くありません。
    ただ、脱出の成否は縛る段階で決まるという設定を使いたくてこのようなストーリーになりました。
    典子は佳織が脱出するためのぎりぎりの道筋を残しながら、佳織の身体に縄を掛ける。
    そして佳織は施された脱出のパズルを全力で解いて行く。
    お互いを100%信頼しないと成功がおぼつかない共同作業・・。
    そんなふうに考えると、エスケープアートも"萌え"ですよね。

    ありがとうございました。




    キョートサプライズ第3話(1/3)・アヤミキコンビ奮闘記

    1.柔軟訓練
    「典子さ~ん、クッキー食べません?」
    「あ、食べる食べるぅ」
    典子は綾乃が買ってきたクッキーとジュースを手にする。
    練習場には典子と綾乃、美紀の3人だけだった。
    練習場といっても機材置き場の倉庫の一角にゴムマットを敷いただけのスペースである。
    「典子さんって、結構甘いもの食べますよね」美紀が言う。
    「う、あんたがいつも誘惑するんやろが」
    「でも、そんなに細くてうらやましいですよ」と綾乃。
    3人ともレオタードにソックス、運動靴姿である。
    「これでも小学生のときは太ってたんよ」
    「ホントですか~? どうしてそんなにスマートになれたんですか?」
    「ん~、中、高と体操してからかなぁ」
    「そうですか。あたしも体操部に入ったらよかったな~」
    綾乃と美紀がKSのパーティで初めて見た人間くす玉に入っていたのが典子だった。
    彼女は小柄で身体が柔らかく、KSのEAで50センチのくす玉に入れる数少ない一人であった。
    綾乃と美紀はヨガの達人のようなポーズを平気でとれる典子に驚くばかりだった。
    「60センチくらいのくす玉だったら大抵の女の子は入れるよ。少しくらいぽっちゃりしててもね」
    「そうですか?」
    「また今度あんた達も詰めてあげるからね」
    「・・はい。よろしくお願いします」
    典子はお菓子の箱を片付けて立ち上がる。
    「さ、もう一回前後開脚やで」
    「はい」
    典子は左足を前に右足を後ろに180度開脚して、そのまま前にぴたりと平たく倒れる。
    綾乃と美紀も同じ姿勢をとる。
    綾乃はまだ何とか開脚しているが、美紀はかなり苦しそうだ。
    「硬いね~」典子が美紀の後ろに回り、肩を上から押す。
    わずかに浮いていた美紀のお尻が床につく。
    「ひゃ、も少しゆっくりぃ~」美紀が悲鳴を上げる。
    「駄目~」典子は力を入れて美紀の背中を押す。「うぎゃん」のけぞって逃げる美紀。
    「こら~あかんやんかぁ~」

    2.先輩たち
    洋子は二人にコーチをつけた。
    野村典子と鈴木純生(すみお)、それにEAリーダー格の岡崎真奈美。
    「こちらは野村典子ちゃんと鈴木純生ちゃんよ。ステージネームはナツキちゃんとジュンコちゃん。もう知ってるわね」
    「はい!」二人は元気よく答える。「よろしくお願いします」
    「典ちゃんと純生ちゃんも、この子たちをしっかり鍛えてあげてね。ちゃんと時給出すから」
    「新人さんの教育なんてあたしに務まるか自信ないんですど」純生が少しとまどった表情で言う。
    「大丈夫、じゅんちゃんがいつもやってる通りにしてあげたらいいと思うよ」典子が言った。
    「あの、じゅんちゃんって?」美紀が聞く。
    「純生って『じゅんなま』って書くから、それでじゅんちゃんって呼ばれてるのよ」
    そう教える真奈美の横で、典子はにやにや笑っている。
    「何やの、その笑いは」純生がちょっと怒ってふくれる。
    「まあ、まあ」洋子がさえぎった。「綾乃ちゃんと美紀ちゃんは、しばらく見習いということになるわ」
    「はい」
    「ひと月ほど一緒に頑張ってちょうだい。ときどき、様子を教えてね」
    洋子はそう言って去っていった。

    3.体力訓練
    「センパ~イ・・、この道で、いいんですか?」美紀が先を行く純生に声をかけた。
    「あれ? 間違った?」純生がきょろきょろする。
    「多分、さっきの信号を曲がるんと違いますか」と綾乃
    3人はジャージ姿である。
    練習場から30分も走ってくると、閑静な住宅街だった。
    「調子に乗ってこんなところまで来るからですよぉ」
    綾乃は膝に手をやって前かがみになる。息が荒い。
    美紀も肩で息をしながら、額の汗を手でぬぐう。
    純生は平気な顔で「なら、戻りましょか」と言ってUターンしかける。
    「あの~、ちょっと休憩しませんかぁ?」綾乃が言う。
    「綾乃ちゃん、体力ないねぇ」
    「純生さんが凄いんですよぉ」
    「なら、あそこの公園まで行って休憩しよか」
    純生は100mほど先に見える公園を指差して、すたすた走っていく。
    「ひぇ~」
    綾乃と美紀は悲鳴を上げながら、へたへたとついて行った。
    純生の練習は徹底した基礎体力訓練だった。
    ランニングに腹筋、腕立て、懸垂・・。
    「毎日1時間くらいは続けてね」
    「あたし、別に筋肉つけたくはないんやけど~」美紀がなさけない声で答える。
    「ん~、多分大丈夫よ。ほら、私なんかぜんぜんスマートでしょ?」
    「え?、ん~、ああは・・、そうですかね~」
    「何、いいたいことある?」
    「いや、胸は大きくて素敵です・・」純生につっこまれて美紀の返事がおかしくなっている。
    公園で3人は並んで芝生に腰を下ろす。
    「あは、気持ちいいねぇ」純生は靴とソックスを脱いで裸足になり、仰向けに寝転んだ。
    「ほんと!」綾乃と美紀も真似をする。
    しばらく寝転んで二人はようやく落ち着いてきた。
    「ねえ、先輩は、ルーレットはどれくらいの時間、平気なんですかぁ」美紀が聞いた。
    「う~ん、測ったことないけど30分?、ううん2時間くらいかなぁ。まあだいたいやけどね」
    「30分と2時間は、全然違いますけど・・」
    「まあ、細かいことは気にしないで」純生は右手をひらひらさせて笑った。
    「先輩やったら、何か、ふわふわ笑いながら1日中でも回ってそうな気がしますね」
    「あはは、1日中回ってたら目が回っちゃうよ~」
    「あたりまえでしょ~。今のは冗談ですっ」
    「そうなの?」
    「ふぅ、この人が何でじゅんちゃんって呼ばれてるか分かったような気がするわ」美紀がつぶやく。
    「あの、ルーレットで回されて、そのまま止めてもらえないことって、本当にあるんですか?」今度は綾乃が聞いた。
    「まあ、無茶されることはめったにないけど・・、たまにはね」
    「ずっと回りっぱなしやと、やっぱり気絶したりするんですよね?」
    「うん、落ちるっていうんだけど、限界超えたら仕方ないねぇ」
    「なら、もう必死ですね。何とかお願いして止めてもらわないと」
    「止ぉ~めぇ~てぇ~っ、て大声で叫んだりして」大げさな言い回しで美紀が突っ込む。
    「そんなことしたらあかんよ。お客様が不快に思うから駄目」
    「そうか。じゃあ、先輩はそんなときどうするんですか?」
    「明るく、にこやかにしてるよ。ときどき、え~ん、なんて可愛い悲鳴を上げると受けるかな」
    「ははぁ、それで、その後どうするんですか?」
    「その後? 別に変わらないよ。最後まで」
    「最後まで?」綾乃と美紀は頭を起こして純生を見る。
    「うん、最後まで。・・それで、落ちるときは出来るだけ綺麗に落ちるの」
    「!」美紀は開いたままの口を押さえる。綾乃は胸を押さえる。
    「綾乃ちゃんも、お客様に喜んでもらえるよう綺麗に落ちてね。ヨダレなんか流したらあかんよ」
    にっこり笑った純生を見る二人の目はテンになっていた。
    「さあてっと」純生は立ち上がってゆっくりストレッチを始める。
    美紀が綾乃に小声で言う。「あの人、今朝10キロのダンベル両手に持って振り回してたよ」
    「なら、戻るよ~」純生は走り出した。
    「あ、センパイ! 靴くつぅ~」綾乃は純生の靴とソックスを持って、裸足のまま走り出した純生を追いかけていく。

    4.礼儀訓練
    「はい、背筋を伸ばして」真奈美の声に綾乃と美紀は精一杯背筋を伸ばす。
    「挨拶っ」
    「ようこそ、KSへ!」ぺこりとお辞儀。
    二人はかかとが10センチはあるハイヒールを履かされていた。
    「声が小さいよぉ。もう一回」
    「ようこそ! KSへ!!」
    「お辞儀するときは、両手を前に!」
    「・・すみません」
    「じゃ、もう一回」
    「ようこそ! KSへ!!」
    「まぁ、いいか。・・それじゃ、休憩っ」
    「ふぃ~~」
    その場に座り込む二人。慣れないハイヒールが痛い。
    真奈美の訓練は挨拶を始めとする礼儀・マナーだった。
    「挨拶とお辞儀の練習なんてしたことないでしょ」
    「ないです~」と綾乃。
    「こんなことで鍛えられるとは思ってませんでしたぁ」美紀。
    「あたり前よ。お客様に挨拶ひとつできないEAは通用しないからね。自然に微笑みながら挨拶できるようになるまで続けるからね」
    「はぁ~い」
    「それとその後、そのヒールでよろけなくなるまで歩いてもらうよ~」
    「ひぇ~」
    二人ともこのハイヒールではかろうじて立つだけで精一杯だった。
    「まあ、これで普通に歩けるようになったらデビューできるかな?」
    真奈美はそう言っていたずらっぽく笑う。
    「む、がんばります!」美紀が叫ぶ。
    「あたしも!」綾乃が続く。
    綾乃は真奈美を見る。浅黒い素肌が格好いいと思った。
    「真奈美さん、EAでは真奈美さんが一番古いって洋子さんに聞いたんですけど・・」
    「あたし? うん、ここがKSになる前からいるからね。EAなんて言葉、なかったなぁ」
    「その頃からくす玉に入ったりイリュージョンで真っ二つにされたりしてたんですか?」
    真奈美はちょっと考えて、いたずらっぽく笑う。
    「そうね~、もっと無茶なこともやってたよ」
    「へえ、どんなのですか?」
    「逆さ吊りにされて火あぶり、なんてね」
    「えぇ~っ!!」「過激~っ」綾乃と美紀が叫ぶ。
    「大丈夫なんですか?」
    「あはは。何とか大丈夫だったみたいだよ」
    「どんなマジックですか?」「写真とか見たい~」
    「まあ、そのうちね。今は目の前のトレーニングをこなせるように頑張って」
    「・・はい」

    5.月曜日、学校
    綾乃と美紀が学校の廊下で出会う。
    「おはよっ」綾乃が美紀に声をかけた。
    「美紀ぃ~、ちゃんと柔軟やってる?」
    「やってる。自分の身体の硬さがいやになるわ。・・綾も朝トレやってきた?」
    「うん。今朝も2キロ走ってきたんやからぁ」綾乃が答える。
    「それだけやってたらすぐ体力つくよ。あたしはあかんかな~」美紀は腰を揉むようなしぐさをして笑った。
    「・・綾はくす玉やりたんでしょ?」
    「うん、最初のインパクトが大きかったもん。・・あたしら、何をさせてもらえるんかなぁ」
    「コンパニオンみたいなことから始めるんかな。ボディコンのワンピとか着て」
    「そうかもね。・・美紀はバニーガールもやりたいんでしょ」
    「えへへ、色っぽいバニーさん、やりたい。でもルーレットもしたい。純生さんみたいに小っちゃいビキニでくるくる回りたい」
    美紀は早口で続ける。
    「プレゼントボックスもしたい。ぎちぎちに箱詰めされてかっこいい男の人のとこへお届けされたい」
    「もう、何でもいいんやんか」
    「何でもいい。はやく本当のお仕事したいよぉっ」
    美紀は正面から綾乃に抱きつく。
    「ひゃぁ、わかったから離れ~」

    6.入門2月目、練習場
    「大分慣れたようね。真面目に訓練も受けてるようだし」綾乃と美紀に洋子が言った。
    「はい。・・自分ではまだまだですけど」綾乃。
    「まだまだなのはは当たり前よ。美紀ちゃんは?」
    「頑張ってます。早くいろいろさせて欲しいです」美紀。
    「うん、それでそろそろ少しずつ挑戦してもらおうかな、と思うの」
    「はいっ」
    「少しずつ、いろいろね」そう言って洋子はにやっと笑う。
    「あなた達の適性も知っとかないといけないし」
    「?」
    練習場には二人と洋子の他に、みずほと真奈美、それに男性が一人いた。
    「えっと、こちら、初めて会うよね。長谷川行雄くん」
    KSで男性に会うのは初めてだった。
    「今度からみずほさんと長谷川くんもいろいろ指導してくれるわ」
    「頑張ってね」真奈美が言う。
    「はい。よろしくお願いします」綾乃と美紀。
    「ねぇ」美紀が綾乃にささやく。
    「長谷川さんって、ちょっとイイね♥」
    「こら、何を話してるの?」
    「いいえ、何でもありません!」
    「じゃあね、次の土日から別々に指導を受けてもらうから」みずほが言う。
    「はい。わかりました」
    何はともあれ、やっと次に進める。二人に期待の気持ちが高まる。

    7.綾乃閉所訓練
    土曜日、一人練習場に来た綾乃をみずほが迎えた。
    「今日は、プレゼントボックスとかくす玉とか、狭い空間で過ごす訓練をするわ」
    うわぁ。綾乃の胸が高鳴った。とうとう来たぁ!
    くす玉の中で何時間も待ち続ける自分をどれだけ想像しただろう。
    「まずはこの中に入って、できるだけ長く耐えてくれる」
    示されたのは、イリュージョンで使えそうな箱。ドラキュラの棺桶みたいと綾乃は思った。
    「これはEAの訓練に使う箱よ。仰向けに寝るだけだから身体に負担はないわ。ただ、狭いだけ」
    「あの、皆さんは、この中でどれくらいの時間平気なんですか?」
    「そうね~。体調とかにもよるだろうけど、どの子も6時間は平気ね」
    6時間?! 綾乃は驚いて硬直する。
    「あ、綾乃ちゃん、最初はできるところまででいいのよ」
    「・・はい」
    「じゃあ、さっそくやってみましょ。・・その前に、お手洗いを済ましてきて」
    あわててトイレに走る綾乃。
    きっと、大丈夫よね。6時間は無理でも3時間は頑張ってみせるから。
    戻ってきた綾乃は、箱の中に仰向けに寝かされた。
    箱の底はクッションになっていて柔らかい。身体の左右はほとんど余裕がない。
    「限界だと思ったら、声を出してね」
    蓋をされる。横たわった綾乃の目前に蓋が迫り、真っ暗になった。
    がちゃがちゃと音がする。鍵を掛けられたようだ。
    ふう。綾乃は頭を少し動かす。ごち。おでこが蓋に当たる。
    あれ? こんなに浅い箱だったっけ?
    この蓋は箱の中に入り込むようになっていて、綾乃がいる空間は高さ20センチしかなかった。
    綾乃は身体のあちこちを動かしてみて、箱の中が思いの他狭いことに気付く。ほとんど余裕がない。
    ふう~。とりあえず目をつぶる。
    あたし、箱詰めのプレゼント、身動きできないプレゼント・・。
    そう考えると身体の奥が暖かくなるような気持ちがする。うん、素敵。
    無意識に胸を押さえようとして、手が上がらないことに気付く。
    ん~。何とか自分の胸に沿って右手をねじり上げようとするができない。
    突然、周りの空間が狭くなっているような気がして、どきりとする。
    先ほどまでの快感は一瞬で消え去った。・・狭い!!
    額に何か冷たいものが流れたような気がする。
    また手をもぞもぞ動かすが、顔面に手を持ってくることはできない。
    慌てて首をあげて、蓋に自分の顔面を擦りつける。
    ・・
    はぁはぁはぁ・・。
    どれくらい過ぎたのかな? ちょっと自信なくなってきた。
    ぎゅっと目を閉じて、耐え続けた。
    箱の周囲でごとごとと物音がする。開けてくれるんかな。綾乃は蓋が開く瞬間を想像する。
    視界がほのかに明るくなる。目の前数センチにある蓋の裏板がはっきり見えた。
    「綾乃ちゃん、どう?」
    みずほの声が足元から聞こえた。その方向から光が射している。
    首はほとんど下に向けられないので、視線だけを一生懸命下に向ける。でも、見えるのは蓋の裏だけ。
    「綾乃ちゃん?」
    理解できた。棺桶の足の方だけが開いたのだ。
    「あ、大丈夫です・・、何とか」
    「そう。じゃあ、頑張ってね」
    え、それだけ?
    ごとごと音がして、綾乃は再び闇の中に戻った。え~ん、もうちょっと優しく言葉をかけてよぉ。
    それにしても、本当に狭いんだ。
    わずかに明るくなったおかげで、綾乃はかえって自分の閉じ込められた空間の狭さを認識した。
    爪先はおろか、自分の胸元を見ることすらできなかったのだ。
    あたしの回りの空間、何センチもない。
    ・・
    綾乃はかろうじて耐えていた。
    空気は大丈夫かなぁ。急に呼吸が苦しくなったような気がする。
    つい頭をもたげてしまう。ごちん。痛! おでこを強打してしまう。
    首を横に向ける。その方が少しでも空間が広いような気がする。
    ・・
    あ、マジでもうそろそろ限界。
    幾度もためらった末に、恐るおそる声を出した。
    「あのぉ、みずほさん?」
    返事がない。
    「あの~、すみませ~んっ」
    少し大きな声を出す。狭い空間に自分の声が大きく響いてどきっとする。
    しかしその後は何の物音もない。え~?
    あたしもう2時間我慢してるよぉ。
    「もう駄目でぇ~す。出して下さぁ~い」大きな声で叫ぶ。「すみませ~んっ」何度も。
    もしかして、あたしこのままここに閉じ込められるの?
    いやぁっ。
    悲鳴を上げてしまったようだ。がちゃがちゃ音がして蓋が開いた。
    眩しさに綾乃は両手で顔を覆う。
    「綾乃ちゃん、綾乃ちゃん?」
    手が肩にかかり、そのまま身を起こされた。
    「はい、しっかりして」
    「あ、あたし・・」思わず目尻を押さえる。
    「頑張ったわね。初めてにしては上々かな」
    はぁ~。外の空気が美味しい~。
    「あの、じ、時間は?」
    「ん~、ちょうど15分ってとこね」
    それだけ!? 綾乃は愕然とする。

    ただいま訓練中

    8.美紀被縛訓練
    同じころ、美紀は長谷川、真奈美と一緒にホテルの一室にいた。
    「今日は黙ってされるままになってね」真奈美が言った。
    「はい。・・何をするんですか?」
    「被縛訓練」
    「ヒバク訓練?」
    「縄で縛られる練習よ」
    「え」
    真奈美は美紀を椅子に座らせ、両手を後ろに組ませた。
    その手首に長谷川が縄を巻く。
    「あ」美紀はそのまま縛られてしまった。
    「どう、平気?」
    「はい、一応・・」
    「じゃあ、も少し縄を掛けるからね」
    胸の上下に縄が掛けられ、両肘が動かせなくなった。
    「長谷川さんはね、KSのイリュージョンとかの指導もしてくれてるし、こういう風に女の子を縛ったりするのも上手なの」
    美紀は一瞬息が止まる。目の前の長谷川がとても怖く見え、それから魅力的に見えた。
    ミニスカートの膝と足首が縛られた。
    続いて、足首と背中が椅子に固定され、立ち上がることもできなくなった。
    「縛られるのは初めて?」
    「初めてです」
    「どんな気分?」
    「どきどき、してます。・・すごく」
    「それでいいよ。まずは縛られることに慣れてね」
    その間に長谷川が大きな姿見の鏡を運んできて、美紀の前に置く。
    「これで全身よく見えるよね」
    「あの、真奈美さん」
    「ん?」
    「どうして、こんな練習をするんですか?」
    「う~ん、そうね」
    真奈美は少し考えて言う。
    「あのね美紀ちゃん、EAがアトラクションやゲームで縛られちゃうのはもう分かってるよね」
    「はい」
    「そんなとき、EAはお客様からどう見えると思う?」
    「・・それは、可愛くて、可哀想です」いつか洋子に言われたことを思い出して、そのまま言う。
    「そう、可愛いけど無邪気すぎるのは駄目だし、可哀想だけど残酷すぎるのも駄目」
    「・・」
    「ポイントはね、お客様に共感してもらえることなの。被虐性が高いのは結構なんだけど、それで女の子が自分だけで感じちゃったら駄目」
    「ヒギャクセーって?」
    「縛られたり苛められたりすることにエクスタシーを感じちゃうこと」
    美紀の顔が赤くなる。
    「あの、あたし、、」
    「何? 美紀ちゃん」
    「これでも結構、感じてるんですけど。・・いやぁ、恥ずかしっ」
    「いいのよ。それで普通だから」
    「あたし、どうしたらいいんですか?」
    「今日はね、しばらくこのまま自分の姿を眺めて、精一杯感じていいよ」
    真奈美は微笑む。
    「それで、すこしでも綺麗に見えるように努めてみてちょうだい。それが今日の訓練よ」
    「あ、あの、あたしいつまで・・・」
    美紀の言葉を最後まで聞かずに、真奈美は長谷川を促して背を向ける。
    「後で解いてあげるからね」
    二人はそのまま部屋を出て行ってしまった。
    美紀は顔を真っ赤にしたまま、鏡の前でもじもじしている。
    こんなに縛られて綺麗に感じる、なんて、無理やぁ~。

    続き




    キョートサプライズ第3話(2/3)・アヤミキコンビ奮闘記

    9.それぞれの夜
    その夜、綾乃と美紀は会ったり電話したりすることは禁止された。
    「明日何があるかわかっちゃ、お互い訓練にならないからね」
    ・・
    綾乃はベッドに寝転んで掛布団を頭から被る。そのまま両手を脇に揃えてじっとする。
    あ~、不覚ぅ。泣いてしもたもんなぁ。みずほさん、何も言わなかったけど。
    あの後、30分で蓋を開けてもらう約束で箱詰めに再挑戦した。
    今度は少し落ち着いて耐えることができた。それでも精神的には辛かった。
    少女くす玉をやりたいと思っていた自分の甘さを痛感した。
    あたしにはあの中で6時間はぜんぜん無理だ。
    でも、次は1時間、絶対に耐えて見せるから。
    綾乃は布団の中で箱詰めにされた自分のイメージトレーニングを続ける。
    ・・
    美紀は椅子に座って考えている。
    両手を後ろに回し、そのままじっとする。身体を締め付けた縄の感触を思い出す。
    胸や下腹をぎゅっと押さえる。ああ、今でも感じてるみたい。
    30分放置されて真奈美と長谷川が戻ってきたとき、美紀は肩で息をしていた。
    鏡に映る自分は、とてもだらしない表情をしていて、正視できたものではなかった。
    思い出すだけで恥ずかしかった。
    美紀が拘束から解放されると、今度は真奈美が長谷川に縛られた。
    真奈美は美紀よりはるかにたくさんの縄でがんじがらめに縛られた。
    少しうなだれた姿勢、流し目で周囲を見る。
    もどかしそうに、ゆっくりと全身でもがきながら、ときどき大きな呼吸をして震える。
    しかしそれ以上には乱れない。真奈美はそのまま1時間以上にわたって縛られ続けた。
    同性から見ても、セクシーで綺麗だった。演技だとしたら真奈美はすごい女優だと思った。
    EAの仕事って、なめてたかしら?
    再び、縛られた感覚がよみがえる。太ももの間をぎゅっと押さえた。「はぁ・・」
    あたし、どうしようもないなぁ。

    10.綾乃緊縛訓練
    美紀が縛られたのと同じホテルで、綾乃が縄を掛けられていた。
    両手を後ろに回された途端、綾乃の声は途切れ途切れになってしまった。
    「あの、あたし・・、ちょっと・・」
    「いいよ。自然と慣れてくるから」真奈美が平気な顔をして言う。
    こんなんで慣れるなんて、無理やぁ。綾乃は目をぎゅっと閉じて心の中で呟く。
    その間にも長谷川は縄を掛け続け、みるみる綾乃を縛り上げてしまった。
    「はい、目を開けて」
    綾乃が目を開けると、大きな鏡があった。
    「あ・・・」
    全身に縄をまとった自分の姿。
    息が止まりそうな感覚。胸を押さえようとして両手の自由を奪われていることを認識する。
    心臓が破裂しそうだった。
    鏡を見るまでもなく、自分の顔が真っ赤になっているのが分かる。
    「どう?」真奈美が聞く。
    「・・あの、ちょっと変になってしまいそう、です」
    「長谷川さんの縛りは気持ちいいでしょ?」
    「あ、気持ちいい、なんて、そんな・・」
    「いいのよ。あたしだっていつも感じちゃうから」
    綾乃はびくっとする。真奈美さんもいつも縛られてるの・・?
    「EAはね、こういう姿もお客様に楽しんでいただくのよ」
    「あぁ・・」
    「だから、鏡に映る自分を見てね、できるだけ綺麗に見えるように頑張ってね」
    そう言うと、真奈美と長谷川は部屋を出て行ってしまった。
    「あ、真奈美さ・・」
    綾乃は消え入るような声を出すが、そのまま取り残されてしまった。
    この姿を綺麗に見られる練習なんて。
    そう想像するだけで、身体の中心が熱くなった。
    やるせない気持ちを慰めるように、両足の太ももをぎゅっと押し付け合う。
    身体を締め付ける縄が心地よかった。このままとろんと溶けてしまいそうな感じ。
    あっ、あかんあかん、平常心平常心。ぎゅっと目をつぶって深呼吸する。
    EAは縛られて当たり前当たり前・・。どんな役でも明るく元気に、綺麗に・・。よしっ。
    目を開けて正面の鏡を見る。まるで誘拐されたように縛られて置かれた女子高生が写っていた。
    あ~ん、やっぱり駄目~。

    11.美紀閉所訓練
    蓋を閉じられて10分で美紀は音を上げた。
    「大丈夫?、・・みたいね」箱から出てきた美紀にみずほが言った。
    美紀は無言で座り込む。その頬にうっすら涙の跡が見える。
    「悔しいなあ」
    「美紀ちゃん、箱の中で何を考えた?」
    「ん~、狭い~っとか思ってたらわけがわからなくなって・・」
    「少し休憩して落ち着いたら、もう一回挑戦してみる?」
    「はい、やりたいです。・・でも、」
    「自信ない?」
    「ないです。またパニくってしまいそうで」
    「コツを教えたげましょうか」
    「コツ、なんてあるんですか?」
    「ええ、できるだけ自分を突き放して第三者的に見てみるの」
    「?」
    「美紀ちゃんはどこか別のところから、箱に閉じ込められた女の子を観察してるの」
    「・・」
    「それで、この子はどれくらい平気かな、とか、まだまだ甘いわよ、とか自分じゃないみたいに考えるのよ」
    美紀は目をつぶってみる。両手で自分を抱くようにして、胸をぎゅっと押さえる。
    この身体、おっぱい、お腹。この女の子。・・苛めてみる?
    ふう~・・。目を開ける。
    「もう一回、お願いします」
    「わかったわ」
    2回目の箱詰めで美紀は40分間耐えた。

    12.KSメンバー
    綾乃と美紀は訓練を続け、EAのスキルを身につけていった。
    そして7月のある日、二人はKSの全員に初めて引き合わせてもらうことができた。
    KSのビジネスはEAの派遣がメインなので、全員が一箇所に集まることはめったにない。
    この日は洋子から特別に集合がかかったのだった。
    岡崎真奈美、野村典子、そして鈴木純生は綾乃と美紀のよく知る先輩だった。
    小嶋佳織は身長175センチの長身であのイベントでマジシャン役を務めた女性だった。
    SN(ステージネーム)は本名と同じカオリ。得意技はマジックとエスケープだという。
    「エスケープって?」美紀が綾乃に小声で聞く。
    「知らない」綾乃も小声で答える。
    辻井美香はイベントのときに純生とコンビで登場した女性だった。SNはカスミ。
    「二人とも高校生? 可愛い!」綾乃と美紀はいきなり抱きつかれてしまう。
    「美香ちゃんは露出狂だからね、感化されたら駄目だよ」真奈美がそう言って場を笑わす。
    「ひどい~っ。そんなこと言われたら本当に脱いじゃいますよぉ」
    言うなり、着ていたTシャツの前に両手をかけてまくり上げる。
    「こら」真奈美が飛びついて止めさせた。
    石原妙子は静かに笑う大人っぽい美人だった。SNはシノブ。
    あの真奈美が切断されたイリュージョンで、本当に切られていたのは彼女だという。
    「ダミーボディっていうの」
    真奈美と体型がほぼ同じで、その上典子以上に身体が柔らかくどこにでも隠れられるので、よく真奈美のダミーを務めるのだった。
    佐久間恵は綾乃や美紀と同じ高校生で通りそうな色白の美少女だった。SNはミサト。
    「恵さん、綺麗やね~」高校生二人は喜ぶ。
    「恵ちゃんは幼く見えるけど、本当はね・・」真奈美が何か言いかけるが、そこへ恵がすかさず口を挟む。
    「もう高校生じゃないけど、よろしくお願いしますね」
    堀公恵は、EAではなく、KSの経理事務と電話番を頼んでいる女性だった。
    「私がみんなのスケジュールを見てるから、まかせてね」
    そして、男性が3人同席していた。
    イリュージョン演技と指導の長谷川、技術担当の粟倉孝治、そしてアルバイトの黒川章だった。
    粟倉はイリュージョンなどの機材の製作手配を担当しており、黒川は運転手とのことだった。
    「遅れてすみません・・」茶髪の男性が入ってきた。
    「三井さん!」綾乃と美紀が驚く。
    喫茶オレンジで厨房をやっている三井は、たまに長谷川とイリュージョンなどの演技をするという。
    「三井さん、そんな仕事もしてたんですか」
    「まあ、君達をKSに紹介することになっちゃったんだけどね」三井が言う。
    「三井君、初めてじゃないでしょ?」洋子がからかった。
    「どういうことですか?」綾乃が聞く。
    「いや、実はオレンジでバイトしててKSに入ったあなた達の先輩がもう一人いるのよ」洋子。
    「え、誰ですか?」
    「えへへ」一人の女性メンバーが手を上げる。
    「純生さん?!」
    「あはは」三井が頭をかきながら笑った。
    ・・洋子が最後に言った。
    「では、二人にもいよいよお仕事に入ってもらいます」
    「ありがとうございます! 頑張ります!」綾乃と美紀は張り切って答えた。
    「あなた達のステージネームは、アヤカとヒカルでいいのね?」
    「はい」
    「当面は見習いのままよ。夏休みはお祭りやイベントが多いし、派遣もあるから、いろいろ経験してみてね」
    「わかりました!」

    13.美紀初仕事
    小さな神社の横に建つ公民館。背後には見渡す限りの田んぼが広がっている。
    入り口には『田野畑老人会・納涼会』の看板。
    2階の広間の小さな舞台で佳織と典子がミニマジックショーをやっている。
    男装の佳織がマジシャン、ピンクのフリルのドレスが典子でアシスタント役。
    典子を箱に入れて消したり出現させたり、袋に入った典子の衣装が変わったり。
    合間に佳織がマジックでハンカチを飛ばしたりしている。
    広間の隅には包装紙で包んでリボンをかけた箱があり、その中に美紀が膝を抱えて座っていた。
    オレンジ色のワンピースに白いソックス。頭には赤いリボン。我ながらブリブリの格好やな~。
    美紀はマジックの後登場してお土産を配る役である。
    老人は集まるのが早いからと、美紀は納涼会が始まる1時間前に箱に入れられ、それからもう3時間過ぎている。
    冷房の効いた広間で、箱の中の居心地は悪くなかった。
    佳織さんたち、おじーちゃんに受けてるみたい。
    それにしても、退屈やなぁ~。ふわ~。あ、あくびが・・・。
    ・・
    「ありがとうございました~。え~、では、皆さんにお土産を配りま~す」
    典子と佳織はそう言いながら箱の脇に移動して箱のリボンを解く。
    「では、プレゼンターはヒカルちゃんで~す!」
    何も起こらない。
    ん? 典子は佳織に目配せする。佳織は観客の方を向いて微笑んだまま、箱を2回蹴った。
    箱が不自然に揺れ、包装紙を突き破って美紀が立ち上がる。「はい! こんにちわ~っ」
    そのまま箱から出ようと片足を上げる。
    どてん。美紀は、老人達の前で箱ごと横にコケた。
    うつぶせに倒れたワンピースのスカートがめくれ上がり、白いパンツが丸見えになっていた。
    ・・
    帰りの車中。
    「美紀ちゃん、あんた寝てたでしょ」
    「すみません、今朝5時起きやったんですぅ」
    「あのね。寝てたりしたら命に関わるときもあるんやからね」
    「甘やかさないで、次はもっと小さい箱にぎゅうぎゅうに詰めとこうよ、典子」
    「あ~ん、ごめんなさいです~」

    14.綾乃初仕事
    綾乃は黄色いふわふわのコスチュームをまとっていた。ひよこのイメージ。
    肩紐がなく胸の上でゴムで止まっているだけなので、気を抜くとずるっと脱げそうで怖かった。
    綾乃はプラスティックの卵の中にうずくまっている。
    綾乃の初仕事は保育園の発表会だった。卵から出て園児らにプレゼントを渡すことになっている。
    外に出るには中から殻を押せば、白パテで埋められた割れ目がはがれて分離するようになっている。
    ・・朝、卵に入るときは保育士たちが興味しんしんで見物にきた。
    「いやぁ、こんな小さい中に入らはるの?」「大変ですねぇ」
    「はい、でも大丈夫ですから」
    割れ目をカモフラージュする作業は5分で済み、準備してくれた黒川はすぐに帰ってしまった。
    それから1時間半、台車に載せられて隣室で待機している。
    かすかに子供の声が聞こえる。歓声、泣き声、お遊戯の音楽。
    お腹の下に置いたプレゼントの袋が邪魔だ。
    汗が頬からぽたりと垂れる。暑いけど、こんなの他のEAの仕事と比べたら大したことない。我慢がまん。
    ・・「お待たせしました~」女性の声がして、がたがたと運ばれた。
    周囲が明るくなった。会場に移動したのだ。
    「センセー、コレ卵?。食ベルノ~?」
    「これは食べないの。ひよこさんが生まれるまで待とぉな」
    「ハヨ、生マレヘンカナ~」
    外からぱんぱん叩かれる音、ごりごリ引っ掻く音。このガキンチョ~。
    ・・
    「じゃあ、ひよこさん、生まれてねって呼ぼおね~」
    「ヒ~ヨコサン、ヒ~ヨコサン、生マレテネ~」
    綾乃は両手を突き出してお尻をぐっと持ち上げる。
    卵は簡単に割れた。その間から立ち上がる。
    「は~い、こんにちは~。僕、生まれたばかりのひよこで~す!」可愛い声で返事する。
    「わ~」園児たちがよろこんで拍手している。
    小さなクレヨンの入った袋を配る。
    「ありがとぉ~、ばいばい~」
    園児らに手を振って会場から出る。
    ・・
    「お疲れ様でした」やさしそうなおばさんという感じの園長先生がタオルが差し出してくれる。
    「あ、どうもありがとうございます」
    「あんな狭い中で長いこと待ってもらって大変でしたね」
    「いえ」にっこりする。
    「あの、その衣装なんですけどね」
    ん?
    「結構ぎりぎりなんで心配してたんですよ」
    胸元を見ると、衣装がずり下がっている。
    谷間がくっきりで、あと1センチも下がるとアウトだった。
    「ひゃあっ」
    あわてて両手で胸を押さえる。

    15.夏祭りゲーム
    小学校の校庭で開催される地元の夏祭り。
    中央には小さなステージと櫓が組まれ、その回りに屋台、バザーなどのコーナーが並んでいる。
    その一角に『海賊危機一髪! 一回100円』と書かれた看板があり、美香、純生と綾乃、美紀がいた。
    綾乃と美紀はデニムのショートパンツに横縞Tシャツを脇腹でくくっておへそを出し、頭にバンダナを巻いた海賊スタイル。
    美香と純生はミニスカートに黄色いTシャツ姿だった。
    台の上に大きな樽の形をした装置。その下には水の入ったガラスの水槽。
    樽の長さは1メートルほどで、樽の中に座った美紀の腰から下を隠していた。
    美紀は片眼帯をかけていて、背中に回した両手首を白いマジックテープで縛られている。
    強く引けば簡単に外れるるような簡単な拘束だ。
    樽の横には椅子があり、そこには首から『NEXT』と記された札を下げた綾乃が座っていた。綾乃の両手もマジックテープが巻きついている。
    「順番に並んで下さ~い」美香と純生が声をからしている。結構人気があるらしく順番待ちの列が延びている。
    次の挑戦者は男の子二人組。台に上る。
    「じゃあ、樽を回してね」
    樽は4つのリングを重ねたような構造になっていて、それぞれ回転できるようになっている。
    男の子は取っ手を持ってリングをぐるぐるに回す。
    「はい、じゃ、剣10本。頑張ってね!」美香は男の子におもちゃの短剣を渡す。
    リングの周囲には剣を刺すための細い穴がいくつも開いていて、男の子は適当な穴に剣を刺していく。
    「いっ~ぽん、にぃ~ほん・・」剣が一本づつ刺されるたびに美香、純生と観客がはやし立てる。
    「はい、あと一本!」
    最後の一本が刺された瞬間、ぶ~っ、というブザー音がなり、樽の周囲に電球が灯いた。
    「きゃぁ~っ」美紀が悲鳴を上げながら両目をぎゅっとつぶる。
    次の瞬間、樽から美紀の姿が消えた。座っていた板が二つに割れて下の水槽に落ちたのだ。
    派手に波が立ち、周囲にしぶきが飛ぶ。
    喜ぶ男の子。観客からもやんやの歓声。綾乃も後ろ手のままぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。
    「はい、おめでとう! 景品選んでね」美香がプレゼントを渡す間に、純生が美紀を助けに台から下りる。
    美紀は水の中で立ち上がろうとして転び、もう一度しぶきを上げる。純生は美紀を立たせて外に連れ出す。
    「も~ぉっ、あの子らプロやきっと。さっきもやられたもん」美紀がぼやく。
    台の上では綾乃が樽に座り、片眼帯をつけてもらう。次は綾乃が犠牲者だ。
    「は~い、海賊チェンジです。次のお客さんどうぞ~」
    次の客が剣を刺す間に美紀が台を上がって椅子に座り、『NEXT』の札を下げる。
    ・・
    綾乃と美紀が合わせて2~30回は水に落ちたと思うころ、ようやく終了時間になった。
    「5時からイリュージョンショーやりますんで、よろしく~っ!」
    客が去ってから、4人は「お疲れさま!」と右手をぱちんと合わせる。
    綾乃と美紀は全身ずぶ濡れ、美香と純生もしぶきを浴びて濡れている。
    「美紀、すぐ水に落ちるんやもん。順番早く回りすぎっ」綾乃が文句を言う。
    「あんたかってすぐ落ちたやん。パンツぜんぜん乾かへんで困ったわ」美紀。
    「どう? 初めて人前で縛られてお仕事した感想は?」美香が聞いた。
    「もう、どっきどきでした」
    「うん、ちょっと本当に処刑されるみたいな気分やった」
    「イヤやった?」
    二人はそろって首を振った。
    「ううん、楽しかった!」
    「最後の方はもう、早く落とされたい、とか思ったりして」
    美紀と綾乃はお互いを見つめ合い、それから同時にきゃははと笑った。
    「ところで純生さん、ずっと気になってたんですけど・・」美紀が言う。
    「はい?」純生がにっこり笑って聞く。
    「純生さん、何でノーブラなんですか?」
    「え、皆は違うん?って、してるよね・・」純生は他の3人がTシャツの下にブラをつけていることに初めて気付いたようだった。
    「もしかしてニプレスもしてないんですか」
    「・・だって、今日はシャツの下は何もつけたら駄目って」
    「センパイ、誰かに言われたんですか?」
    「うん、あぁ~、美香、こら~!」
    美香が笑いながら、立ち上がる。
    「じゅんちゃん、ばっちり透けてるで」そう言って逃げて走って行く。
    「え?・・あ~ぁっ!!」
    純生が自分の胸を抑えながら美香を追って走って行く。
    「今まで気付いてなかったんかなぁ」綾乃が笑う。
    「あれでゆさゆさ揺れるんやもん、純生さんの横でやりにくぅてしょうなかったわ」美紀も笑う。
    ・・
    ステージでは大道具の運び込みに三井と黒川が忙しくしていた。
    「お疲れ様で~す」「あ、ご苦労さん!」
    KSのミニイリュージョンショーは夏祭りのメインイベントのひとつだった。
    開演まで30分。4人は教室の控え室で着替えとメイクをする。
    綾乃と美紀のコスチュームはレースクィーン風の超ミニボディコンにブーツ。綾乃が黄色で、美紀がピンク色を着ている。
    美香と純生は同じくレースクィ-ン風レオタードとハイヒール。
    「綾、どう?」
    「いいよ」
    人手の少ないKSではメイクは自分するのが基本である。
    「純生さん、ちょっとアイシャドウ、アンバランスですよ」
    「え、そう?」
    「ちょっと待って下さい」綾乃は自分の化粧ポーチから道具を出して純生の顔を直す。
    「あ、ありがとう・・」
    「ふ~ん、綾乃ちゃんお化粧上手なんやね」美香が感心する。
    「美香さんは、ばっちり決まってるやないですか~」
    「いや、綾乃ちゃん手が早いもん。すごいよ」

    16.夏祭りイリュージョン
    ミニイリュージョンショーが始まる。
    4人がステージに立つと、酒の入った男性客から歓声と口笛が起こる。
    やだな。綾乃は美紀と並んで立ちながら頬を赤らめている。
    4人とも生足だ。綾乃は観客の視線が全部自分の足に刺さっているような気がする。
    他の3人はまったく気にする様子もなく、にこやかに手を振っている。
    最初の演目は『キューブ&ガラス箱』。
    小さなサイコロ形の箱(キューブ)に美香を入れて鍵を掛ける。
    キューブには小さな窓がついていて、中で美香が手を振っているのが見える。
    そのキューブを綾乃と美紀が持ち上げて、別のガラス箱に入れる。
    ガラス箱は横に長い直方体で、キューブがちょうど2個入る大きさになっている。
    キューブを1個入れたので、キューブの隣に空っぽの空間が空いている。
    全体を布で覆い、2回転。
    布をどけると、美香がガラス箱の中でキューブの横の空っぽだった空間に移動していることがわかる。
    キューブの中は空になっている。
    もう一度布で覆い、2回転。
    布をどけると、キューブが消え、真奈美と美香が重なり合うように横たわっていた。
    ガラス箱の蓋をあけて二人が立ち上がり、ポーズする。
    真奈美は、黒いボディスーツと網タイツハイヒールにジャケットを羽織っている。
    その額に汗が光る。真奈美はガラス箱の底のネタ場に2時間前から仕込まれていたのだ。
    「ふ~、暑ぢ~」真奈美が綾乃に向かってにやっと笑う。
    次が綾乃と美紀の初イリュージョンだった。
    二つの電話ボックス型の箱が登場し、それぞれ二人が入って扉を閉める。
    美香と純生が、箱の上半分に正面から六角形の筒を、下半分に側面から丸い筒を刺す。
    それぞれの筒の直径はほとんど箱の幅と同じだ。突き刺した筒の中が反対側まで抜けていることを見せる。
    さらに、箱の上下の中央に鉄板のブレードを差し込んで、上下を分割する。
    美香と純生は箱の上半分を取り外して床に置き、それからそれぞれ逆の箱に乗せてしまう。
    そしてブレードを取り除き、箱に突き刺さった筒を外す。
    扉を開けると、綾乃と美紀が登場するが、そのコスチュームの下半身の色が入れ替わっている。
    お辞儀をして脇に下がり、やった、とウインクを交わし合った。
    そして真奈美の一本剣になる。
    高さ1メートル程の剣を上向きに台に立て、その剣先に真奈美が右の脇を乗せてポーズする。
    美香と純生が真奈美の身体を横向きに持ち上げる。
    真奈美は一本の剣先に体重を乗せて横向きに空中に浮いた形となる。
    その両足がゆっくりと開き、様々なポーズをとる。
    上着のジャケットは横に垂れ、ハイレグの網タイツに包まれた太ももが根元まであらわになる。
    綾乃が歩み寄って真奈美の左ハイヒールのかかとに直径1メートルの輪を掛ける。
    真奈美はその輪を足で持ち上げ、足の甲にかけ、そして膝、腰と滑らせて左手にとる。
    そして身体全体に輪を通して、自分が宙に浮いていることを示す。
    やがて、剣の根元を手で押して、自分の身体を剣の上で回転させる。
    妖しい微笑みをうかべ、セクシーに両足を踊らせながら、ゆっくり回転する真奈美。
    綾乃と美紀はそれをうっとり見つめる。
    このイリュージョンはオリジナルではなく、アメリカの女性マジシャンが演じたものだった。
    真奈美はこれを気にいって、練習を重ねてきたのだった。
    最後に美香と純生が真奈美の身体を剣から持ち上げて立たせ、演技が終了する。
    最後の演目はダンボールの剣刺しだった。
    さほど大きくないダンボール箱に美香と純生が抱き合って入る。真奈美がその上から蓋を閉じてガムテープをぴしぴしと貼る。
    会場から男性客を2人ステージに上げ、ダンボール箱をごろごろと何度も倒して転がしてもらう。
    よれよれになったダンボールの一面に真奈美がカッターナイフで十文字に切り込みを入れる。
    その中から手が二本、にょきっと生えて、ひらひらと揺らされる。
    真奈美はその手を握手させ、手首にまとめてガムテープを巻いて固定してしまう。
    そして、その状態で剣を一本づつ、反対側に突き抜けるまで刺していく。
    横で立っている綾乃と美紀には緊張感がひしひしと伝わってくる。
    真奈美の刺す剣は、美香と純生の両足や腕の間などを通りぬけている。3人はネタなしの真剣演技をしているのだ。
    剣が一本刺される度に、固定された手がわなわなと動く。
    観客は息を呑んで見守っている。
    合計14本の剣を刺され、箱はハリネズミのような状態になる。
    やがて真奈美は箱から剣をすべて引き抜く。
    もう一度先ほどの男性客に頼み、箱を元の向きに戻す。
    蓋のガムテープを剥がすと、レオタードから真っ赤なビキニ姿に変わった美香と純生が立ち上がる。
    美香の右手と純生の左手はガムテープで連結されたままだ。
    巻き起こる拍手と歓声。
    大きく肩で息をしながら二人はポーズをとってお辞儀する。
    「あたし達もこんなイリュージョンできるかな」綾乃と美紀はささやき合う。
    ・・
    ステージから道具を引きおろした頃には、空が夕焼けに染まっていた。
    夏祭り会場ではこれから盆踊りが始まるようだ。

    続き




    キョートサプライズ第3話(3/3)・アヤミキコンビ奮闘記

    17.くす玉
    京阪神からの海水浴客で賑わう海岸。
    ここでもイベントが開催されている。
    「ミス北の浜コンテスト!」特設ステージで司会者が喋っていた。
    この人ラジオで聞いたことある。何ていったかな。綾乃はぼんやり思う。
    う~、そんなことはどおでもええ! あじい~っ。彼女は汗だくだった。
    綾乃と美紀はビーチハウスの軒下に吊られた2個のくす玉の中で、オープンの瞬間を待っているのだった。
    ・・
    初めてのくす玉の仕事にたまたま二人枠の引き合いがあり、洋子は綾乃と美紀を派遣してくれたのだった。
    京都を早朝に出発、長谷川が運転手兼任で同行してくれてる。
    「KSで詰めてお届けされないんですか・・?」
    「あはは。まだ無理よ」みずほに軽くいなされ、現場でくす玉に入ることになった。
    美紀は長谷川が一緒なので大喜びだ。
    「長谷川さんがくす玉に詰めてくれるんですか?」
    「そう」
    「やったぁ!」
    「こら美紀、落ち着きなさいっ」綾乃がたしなめる。
    会場についてくす玉の準備をする。直径70センチのM型くす玉。
    綾乃と美紀の衣装はビキニの水着。
    「美紀ぃ、実はあたしビキニ初めて・・」
    「本当? 可愛いよ。・・ね、あたしはどう?」
    「うん、美紀も似合ってるよ」
    「ボトムの横、紐で結ぶタイプだったらよかったのにぃ」ポーズをとりながらつぶやく美紀。
    「あんた、美香さんに似てきたね」綾乃が冷たく言う。
    肌に日焼け止めローションをたっぷり塗ったところで、長谷川が二人の身体にハーネスを巻きにきた。
    二つのくす玉が開いて置かれる。
    「入って」「はい」
    二人は恐る恐るくす玉の中に座り込む。背中にワイヤを2本繋がれる。
    「具合は?」
    「あ、大丈夫です」
    「オープンまでは20分くらい、だそうだ」
    「え、ずいぶん短いんですねぇ」
    「この場所でなめたらあかんよ。・・じゃ、頑張って」
    あっという間に蓋をされてしまった。
    かちゃり。あ、鍵掛けられちゃった。
    ・・
    振動と物音。「せ~の!」男性の掛け声。
    くす玉全体がゆらりと揺れ、そして止まった。設置されたようだ。
    綾乃は自分の周囲を手で触って確認する。小さな丸い空間。
    とうとう詰められちゃったな。初めてのくす玉。
    もう自分では出られないから、オープンしてもらうしかないから、それまで待つしかないから、だからあたし・・。
    身体の中心がじんわりとする。あたし、もうすぐこの格好で飛び出すんだ。
    あぁ・・。
    しかし、綾乃の恍惚の時間は長く続かなかった。
    くす玉内の温度がぐんぐん上昇する。
    直射日光は避けて設置したとはいえ、浜辺の太陽は強烈だった。
    もう感じているどころではなかった。まるでサウナやないのぉ。二人はそれぞれ熱さに喘いでいた。
    わずかに身についた布片であるブラを引っ張ってぱたぱたあおぐ。
    外は音楽と司会者の声。
    誰かの長い挨拶。
    あ~、まだぁ?
    ・・
    外の音楽が途切れたようだ。
    はっとする。
    突然、くす玉が割れ、綾乃は眩しい光の中に放り出された。
    一瞬の無重力。全身に感じる涼しい風。
    そしてハーネスで吊られてがくんと止まった。
    目が慣れると、真正面に青い海と水平線が見えた。その上には青い空と入道雲。
    あ・・、気持ちいい!、綾乃は両手を広げる。
    わぁ~、という声が耳に入る。何げなく視線を下げた。
    た、高い! 綾乃は3メートル以上の高さに吊られていた。
    そしてそこには何百人かの群集が自分を見ていた。
    綾乃は突然自分がビキニ姿で人々の頭上に浮いていることを意識する。顔が真っ赤になった。
    慌てて横を見ると、少し離れて空中に浮かんだ美紀が満面の笑みで手を振っていた。
    あ、いけない! 綾乃もあわてて微笑みながらポーズを取る。
    「くす玉から飛び出したのはアヤカちゃんとヒカルちゃん。二人とも現役の高校生です!」
    「うぉ~っ」
    カメラを手にした集団が歓声を上げる。
    綾乃と美紀はくす玉の下に10分以上吊られ続けて、カメコ達の絶好の被写体になった。
    その後、二人は下ろしてもらってミスコンのゲスト審査員を務める。
    最後には優勝者にトロフィーと景品を渡す役。記念写真撮影会、司会者のインタビュー・・。
    二人は最後までビキニ姿のまま、笑みを絶やさずに活躍した。
    ・・
    帰りの車中。
    綾乃と美紀は興奮してはしゃいでいたが、やがて疲れて重なり合うように眠ってしまった。
    長谷川はルームミラーでそれを見て苦笑いしていたが、ふと何かに気付いたような表情で考え込んだ。

    18.グリーン電化・鶴山店
    郊外にオープンした巨大な家電廉売店。その駐車場に特設の福引コーナーには客の列ができていた。
    直径2メートルの円板に純生が大の字に固定されてくるくる回っている。
    真っ赤なバニーガールのようなコスチューム。手足には銀色の手袋とブーツ。
    「はい、4等賞~。ありがとうございました!」
    同じコスチュームの綾乃と美紀が客に洗剤を渡している。
    3人は新装開店セールの福引ガールとして派遣されてきたのだった。
    ・・
    開店から30分、回り続けた純生が美紀と交代する。
    ルーレットは初めて。よぉ~し、頑張るぞぉ~っ。
    美紀は四肢を円板に固定される。笑顔を絶やさないように努める。
    最初の客がボタンを押す。
    ごとん。美紀の身体がゆっくり傾き始める。それに合わせて視界に写る光景も回り始めた。
    上下逆になると頭に血が上るのが分かる。
    大丈夫かな? ・・うん、大丈夫!
    気がつくと真横の状態で止まっていた。
    「5等賞で~す!」純生の声。え? 純生さん、休憩しないの?
    と、思う間もなく美紀はまた回り始めた。ひゃ~、もう2回目!
    ・・
    いったい、何回目かな。もう数える努力は放棄していた。
    それにしてもすごい数のお客さん。
    家族連れ、カップル、老人、子供。
    いろいろな客が嬉々としてスイッチを押して美紀を回す。
    その度に美紀はくるくる回り、装置のソフトウェアが決める適当な目の位置に止まる。
    回転する美紀を皆が期待に輝く目で見つめる。
    あたしは、無抵抗で、何もできなくて、ただ回されているだけなのに。ああ、いいな。
    ・・は、いけないっ、笑顔笑顔。
    つい、とろんとなりそうだったが、笑顔を作り直した。
    死んでも笑顔でいること。純生の厳命だ。
    意識の中にうっすらガスのようなものがかかってきたような気がする。
    ・・
    「頑張ったね!」気がつくと純生が笑っていた。「交代よ」
    店内の騒音が耳に飛び込んでくる。
    「あ、はい」
    「この椅子に座って」
    美紀は円板から下り、その場に立とうとする。
    「あ~っ、あかんっ」
    美紀はバランスをくずして倒れかけた。と、その脇を純生が持って支えてくれた。
    「すみません」
    「まだ立つのは無理やから」
    強引に横の椅子に座らせた。
    「そのまま、にこにこしてるのよ!」小声でささやいて台にあがっていった。
    美紀はあわてて満面笑みになる。
    台上では綾乃がルーレットに括り付けられているようだが、どうでもよかった。
    ひゃぁ、あたし、人間ルーレットやっちゃったぁ!!
    ・・
    「特賞が出ました~! 賞品はDVDプレイヤーです!」
    綾乃は上下逆の状態で、純生が景品の箱を客に渡すのを眺める。
    綾乃も、どれくらい時間が経ったかもう分からなかった。
    不思議な感覚だった。自分の身体が自分のものでないみたい。
    気を抜くとすぐにぼんやりした表情になってしまいそうだった。笑顔を続けるって結構厳しい~。
    ・・
    抽選券を手にした客の列は途切れることがなかった。
    美紀と綾乃は15分づつ、純生は30分づつルーレットで回転し、それを3サイクル担当した。
    「ご苦労さん~」典子がやってきた。
    「美紀ちゃんと綾乃ちゃんは交代やで」
    「え、純生さんは?」
    「私は大丈夫。二人は3時まで休憩してね」
    ルーレットに大の字になった純生が答える。
    「そんな、純生さんがやるんやったら、あたし達も続けます!」
    「あんた達はもう十分頑張ったよ。後はこのナツキさんとじゅんちゃんにまかせなさい」
    二人は典子に言われて引き下がる。確かにこれ以上のルーレットはもう無理だと思った。
    ・・
    その日、純生は途中1時間休憩した以外はずっとルーレットの仕事を続けた。
    純生のタフさと根性に綾乃と美紀は舌を巻く思いだった。
    「まだまだあかんっ」その夜、美紀はベッドの上で叫んだ。
    「あたし、もっと身体鍛える! 何時間でも回って笑ってられるように、身体鍛えるっ~!」

    19.KS事務所
    「あなた達、いい色になったわね~」みずほが言った。
    「もう外のお仕事ばっかりなんですもん。こんなになりましたよぉ」
    美紀がジーンズの脇を少し下げて見せる。小麦色の素肌に白い跡がくっきり浮かび上がっていた。
    「あたしも、人前でビキニとか、平気になってしもたかも」綾乃がそう言って笑う。
    長谷川が黙って入ってきた。
    「あ、長谷川さん♥ ・・・きゃぁっ」
    長谷川を見て一瞬喜んだ美紀が、慌ててジーンズをたくし上げる。
    「もう! 黙って入ってこないで下さいよぉ」
    「ちょっと前から思ってるんだけど・・」長谷川は美紀を相手にせずに言う。
    「何?」
    みずほは苦笑いしながら聞く。長谷川の指摘はいつも的確で無視できない。
    「美紀ちゃん、身長いくつ?」
    「え、153センチですけど・・?」
    「そう。彼女、美香ちゃんのダミーボディができるね、多分」
    「え、本当?」
    ・・
    練習場に洋子とみずほ、長谷川、綾乃と美紀、そして美香がいた。
    美香と美紀はマイクロビキニをつけて並んで立っていた。
    「よく気付いてくれたわ、長谷川くん」洋子。
    「さっそくデータを取るわよ」みずほ。
    「じゃ、よろしく」長谷川は黙って部屋を出ていった。
    「あの、どういうことですか?」美紀が聞く。
    「美紀ちゃんがね、あたしと同じ体形ってこと」美香が言う。
    「ダミーボディのイリュージョンができるの。嬉しい!」そう言って美紀に抱きつく。
    「ひゃ」慌てる美紀。
    「二人とも、ブラ取って」みずほが言う。
    「はい」美香。
    「え?」美紀。
    「ほくろの位置とか全部調べるからね~。長谷川くんが気をきかせて席を外してくれたんだから、美紀ちゃん、脱ぎなさい」
    「ほい、脱がしたげるね!」美香がいきなり美紀のブラの紐を解く。
    「きゃ」
    「こら、美紀!」
    裸の胸を両手で押さえて逃げる美紀を、綾乃と美香が取り押さえる。
    「下も脱がすからね~!」

    20.丹西市民まつり・イベントステージ
    剣を刺された小箱の中に典子が消える演目が済むと、次は美香と美紀が初めてお互いのダミーを務めるイリュージョンである。
    ステージにはマジシャンの佳織とアシスタントの綾乃が立つ。
    佳織は黒いタキシードに網タイツ姿、綾乃も黒いレオタードに編タイツ。
    綾乃が小ぶりな電話ボックスのような箱を押してくる。
    佳織は箱の周囲を見せ、続いて正面の扉をあけて中に何もないことを見せる。
    美紀が登場する。
    赤いショートパンツと胸の大きく開いた赤いブラ。頭にはピエロのような赤いウイッグ。
    美紀は箱の中に立ち、肘が天井に当たるように、両手を頭の後ろに回す。
    佳織はベルトで美紀の首、腰、両膝、足首、両腕の8箇所を箱の背板に縛りつける。
    箱の中で磔のようになった美紀を観客に示して、扉を閉め鍵を掛ける。
    次に佳織と綾乃が二人で箱を左右から持って横倒しにする。さらに反対側を持ち上げて箱を上下逆に置いてしまう。
    逆さになった箱の扉を開けると、箱と一緒に上下逆になってしまった美紀の姿。
    少し困ったような表情。腹や足をぴんと伸ばし、突っ張った両肘と頭で体重を支えて耐えている。
    箱の中を観客に十分見せたあと、佳織はしゃがんで美紀に何かを尋ねるようなふりをして首をかしげる。
    かろうじて少し動く首を一生懸命横に振る美紀。これじゃ困るの!
    わかったというように両手を広げ、佳織は扉をもう一度閉め鍵を掛ける。
    ワン、ツー、スリー!
    扉を鍵で開くと、彼女は箱の中で縛られたまま、元の(頭が上の)状態に戻っていた。
    狭い箱の中で縛られたまま一瞬のうちに逆転する少女!
    まき起こる拍手。箱から出て佳織と綾乃に手を取られてポーズをとる。
    ・・「大成功よ、大成功!」
    ショーが済んで、美香が佳織の手を取って喜んでいる。
    途中で逆転して出現したのは美香であった。
    この日演じたのは、ネタとしては古典的なイリュージョンである。
    オリジナルでは双子の女性を使う、という以外は。
    美香は美紀と二人でいるところを絶対に見られないように、はるばるKSから、箱の中に縛り付けられたまま運ばれてきたのだった。
    美香と美紀は身長や体形が同じというだけでなく、目鼻立ちにも大きな違いがなかった。
    だから、化粧と髪型次第で同じ女性に扮することができる。
    今までこの種のイリュージョンは真奈美と妙子が演じてきた。
    しかし二人は顔立ちが違うので完全に入れ替わることはできず、目隠しや猿轡で目鼻を隠し、一度逆転した美女がまた元に戻る、というネタで演じてきた。
    これからは、美香と美紀によって双子の美女のようなネタも可能になったのだ。
    道具とネタは資金とアイディア次第。しかし、瓜二つの女性となると簡単に確保できるものではない。
    KSはイリュージョンを演じていく上で、二度と得られない絶好の素材(女性)を手に入れたのだった。

    21.祝福
    夜になって、イリュージョンの道具がKSの練習場に戻ってくる。
    箱の扉を開ける。中には何もない。背板の小さな欠き取りに指をかけてぐいと引く。
    どんでん返しのようにくるりと回る背板、その裏側に美紀が縛りつけられていた。
    ショーの後は、今度は美紀が箱の中に隠されたまま帰ってきたのだ。
    「みっきぃ!」
    拘束を解かれて起き上がった美紀に綾乃が抱きつく。
    「あはは、大丈夫やって」美紀が笑う。
    「よかったよぉ! 全然おんなじ女の子に見えたもん」
    「綾が上手にメイクしてくれたからやって」
    「お疲れ様~」洋子とみずほがやって来た。
    「うまくいったみたいね!」
    「よかったね」佳織。
    「あたしもどっきどっきやったんよ~。美紀ちゃんよくやったね」美香。
    「どう? 自信はついてきた?」洋子が綾乃と美紀に聞く。
    「はい! ・・いいえ、まだまだです。あははっ」美紀。
    「そう、まだまだです。もっと頑張ります!」綾乃。
    「綾乃ちゃん、美紀ちゃん、もう来なくていいわよ」洋子が言った。
    「ええっ?」
    「見習いとしてはね」そう言ってウインクする。
    「明日からは一人前のEAよ。頑張ってね」
    「わぁ!」
    「やったね! おめでとうっ」全員が祝福する。
    「あのぉ・・」
    「なぁに? 綾乃ちゃん」
    「典子さんは?」
    「あ、いけない」佳織が小箱に駆け寄って鍵を開ける。
    「ん~っ!」後ろ手錠で口にガムテープを貼られた典子が現れる。
    「まあ、何で猿轡までしてるの?」洋子が聞く。
    「いや、ついアドリブで・・。典子もやっていいって言うから」頭をかく佳織。
    「あぢぃ~。・・でも、気持ちよかった!」拘束を解かれた典子がおどけて言った。佳織が笑って典子のお尻を叩く。
    「さ、お祝いにぱぁ~っと行きましょ!」洋子が両手を広げて言った。
    「洋子、この子たち高校生やからね」みずほ。
    「分かってるわよ。ね、あなた達、ジュースで楽しく酔えるわよね?」洋子はウインクしながら言った。
    綾乃と美紀は一瞬お互いを見詰め合い、そして笑って答えた。
    「はい、もちろん!」
    ・・
    そこは誰もいない練習場だった。
    ドアの開く音がして灯りが点る。綾乃が入ってきて、テーブルの方に走り寄る。
    テーブルには赤いチョーカーが置かれていた。皮のベルトに『KS』のロゴが入っている。
    綾乃はそれを自分の首に巻いて正面の鏡を見つめる。
    そこには白いブラウスに赤いミニスカート、ルーズソックスの少女が首輪をつけて立っていた。
    少女は思いを込めて、両手を背中で組み、少し苦しげな表情をする。
    「綾ぁ~っ」美紀の声がした。
    「皆待ってるよぉ~。忘れ物は見つかったの~?」
    綾乃は返事をする。
    「見つかった~っ。すぐ行くから~」
    そしてもう一度鏡を見てチョーカーを外して手に持ち、練習場の灯りを消して走り去っていった。



    ~登場人物紹介~
    市川綾乃: 16才。本話主人公。EA見習い。SN(ステージネーム)はアヤカ。
          すぐにどきどきする胸を押さえながら奮闘中。
    河井美紀: 17才。本話主人公。EA見習い。SNはヒカリ。
          一見マセているが中身は純真。長谷川にお熱。
    島洋子: KS代表。
    三浦みずほ: KS企画演出担当。
    野村典子: 19才。EA。SNはナツキ。50センチのくす玉に入れる数少ないひとり。
    鈴木純生: 19才。EA。SNはジュンコ。巨乳で天然。体力はピカイチ。
    辻井美香: 20才。EA。SNはカスミ。露出好きで女の子好き。
    小嶋佳織: 20才。EA。SNはカオリ。身長175センチの長身。マジックが得意。
    岡崎真奈美: 24才。EA。SNはマナミ。KSのリーダー的存在。
    長谷川行雄: KSの指導者。何故か女の子を縄で縛るのが上手。

    綾乃と美紀の修行編です。
    福引の特賞がDVDプレイヤーだったりしますが、女子高生が皆ルーズソックスをはいていた時代の話ということで、よろしくお願いします。

    登場するイリュージョンには、実在のものと作者のオリジナル(思いつき)の両方があります。
    どれも仕掛け(タネ)を十分検証した訳ではありません。
    多分どれも実現可能だろうと思っていますが、こういうものはあれこれ想像するのが楽しいので、お話の進行上必要でない限り、これからも仕掛けを明らかにすることはしません。

    私は子供の頃よりテレビのマジック番組が好きで、勿論お目当ては美女が出演するイリュージョンでした。イリュージョンがないまま番組が終わると大いに不満を覚えたものです。
    イリュージョンの中でも萌えたのは、美女が拘束されたり箱や水槽に閉じ込められる場面、それからもう一つ、美女が何もない箱や袋から出現する場面でした。
    前者は当然として、出現系のイリュージョンに魅力を感じたのは何故でしょうか。
    それは、出現する美女役の女性が本番のずっと前からネタの中に仕込まれて待機していたことを想像するからです。
    それに対して消失系のイリュージョンは、出番が終わったらすぐに箱などから出してもらうところを想像してしまって、萌え度もいまいちでした。
    ですから私のSSでは、出現系のイリュージョンでは、本番の何時間も前に女の子をネタの中に閉じ込めます。消失系の場合でも、すぐには解放してあげません:P。

    さて、次回のキョートサプライズは先輩EAの個人編です。
    ありがとうございました。




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